説明

整流子の製造方法

【課題】整流子10の外周に配置される整流子片12の配置精度を向上できる整流子10の製造方法を提供する。
【解決手段】モータ1に用いられる整流子10の製造方法において、略円筒状の整流子片母材15の内部に樹脂をインサート成形することにより、整流子片母材15と円筒状の樹脂胴体11とが一体化された整流子母材10’を形成するステップと、樹脂胴体11の貫通孔11aに沿って整流子片母材15に対してしごき加工を施すステップと、しごき加工を施された整流子片母材15に対して貫通孔11aに沿うスリット加工を施すことにより、整流子片母材15を8つの整流子片12に分割するステップとを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電動機や直流発電機のような回転電機に用いられる整流子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンミテータを製造する方法として、複数の銅製の整流子片を互いに離間するように周方向に等間隔に配置し、その内部に樹脂を射出してインサート成形することによって整流子片と樹脂胴体とを一体化させる方法と、円筒状に形成された銅製の整流子片母材の内部に樹脂材をインサート成形して一体化させた後に、整流子片母材に対して周方向に所定間隔にスリット加工を施して複数の整流子片へと分割することにより、各整流子片が樹脂胴体の外周面に等間隔に配置されるようにした方法(例えば、特許文献1参照)とが知られている。後者は、前者に比べて容易であり、比較的小さな寸法のコンミテータの製造に用いられることが多い。
【0003】
このようにして形成される整流子は、回転子の回転軸に一体的に取り付けられ、その外周面にブラシが当接した状態で回転軸と共に回転するため、各整流子片の摺接面が回転軸を中心とする真円筒面上に配置されることが望まれる。したがって、回転子の製造にあたっては、整流子を回転軸に取り付けた後に、整流子の外周面が回転軸と同軸をなすように複数回に亘って仕上げ処理を行うのが一般的である。
【0004】
また、整流子片と樹脂胴体との結合が堅固になされていないと、整流子片が遠心力によって樹脂胴体から浮き上がる虞があるため、特許文献1に記載の発明では、整流子片が樹脂胴体に確実に保持されるように、内面を切り起こして形成した係止爪に加え、切り起こした溝部に周方向への張り出しを形成する等、様々な対策が採られている。
【特許文献1】特開2000−102225公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、整流子片と樹脂胴体との結合が堅固になされたとしても、整流子の外周面には、整流子片母材の加工精度による歪みに応じて数十〜数百μmの誤差が生じることは避けられない。そして整流子の外周精度が低い場合には、回転軸に取り付ける前に外周切削を施して整流子の外周精度を高める必要があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、外周に複数の整流子片が配置された整流子の外周精度を向上させる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、回転電機に用いられる整流子の製造方法であって、略円筒状の整流子片母材を金型にインサートし、当該整流子片母材の内部に樹脂を射出することにより、当該整流子片母材と略円筒状の樹脂胴体とが一体化した整流子母材を形成するステップと、前記樹脂胴体に形成された貫通孔を案内しながら前記整流子片母材外周面にしごき加工を施すステップと、前記しごき加工を施された整流子片母材に対してスリット加工を施すことにより、当該整流子片母材を複数の整流子片に分割するステップとを備えたものとする。
【0008】
この場合、前記スリット加工が前記貫通孔を基準にしてスリットを形成するようにするとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インサート成形後に整流子片母材外周面にしごき加工を施すことにより、整流子片母材の外周面が樹脂胴体の貫通孔を中心とした真円筒面上に配置され、スリット加工によって複数の整流子片が配置された整流子の外周精度を向上させることができる。これにより、整流子の外周面の精度が低い場合に必要であった複数回に亘る回転子の仕上げ処理を省略し或いはその回数を削減することができる。また、整流子片母材は、しごき加工による塑性変形により、その外周面の硬度が増大するため、後のスリット加工や仕上げ処理の際に発生するバリの量が低減される。
【0010】
また、スリット加工が樹脂胴体の貫通孔を基準にしてスリットを形成することにより、整流子の外周面の精度に加え、整流子片の配置精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る整流子10を適用した電動モータ装置の断面図である。電動モータ装置は、車両に搭載される窓開閉用の駆動装置であって、ブラシ付きDCモータ1(以下、単にモータと記す)とそのヨークを兼ねる有底円筒状のケーシング2に一体的に結合された減速装置3とにより構成されている。
【0013】
図示例のモータ1は、ケーシング2内に回転自在に受容された回転子4と、回転子4を外囲するようにケーシング2の対応する内周面に配設された複数の永久磁石7と、回転子4に摺接するブラシ8とを備える一般的な構造のDCモータである。回転子4は、ケーシング2に回転自在に保持された金属製の回転軸5と、回転軸5に同軸かつ一体に設けられたアーマチュア6と、アーマチュア6に隣接して回転軸5に同軸かつ一体に取り付けられた略円筒状の整流子10とから構成される。ブラシ8は、減速装置3を介してケーシング2と一体に設けられ、その先端が整流子10の外周面に摺接している。
【0014】
回転軸5は、ケーシング2から突出する側において、樹脂製の減速装置3内に延在し、減速装置3内に設けられた2つの軸受9a,9bによって軸支されている。また、回転軸5は、減速装置3と相反する側において、ケーシング2に設けられた軸受9cによってその端部が軸支されている。減速装置3側へ突出した回転軸5の中間部分には、ウォーム5aが一体形成されており、ウォーム5aにウォームホイール17がギア結合することにより、減速装置3が構成される。なお、ウォームホイール17の軸が、図示しない窓を開閉するためのレギュレータのリンク機構を駆動するモータ装置の出力軸となっている。
【0015】
図2は実施形態に係る整流子10の斜視図であり、図3は実施形態に係る整流子10の平面図である。図2,3に示すように、整流子10は、回転軸5が挿入される貫通孔11aを備えた円筒状の樹脂胴体11と、樹脂胴体11の外周に周方向に等間隔に配置された8つの整流子片12とから構成される。整流子片12は、全てが同一形状に形成されており、それぞれが、整流子10の外周面をなす断面円弧状の摺接面12aと、整流子10の軸線、すなわち貫通孔11aの軸線A方向の一端から径方向外側へ向けて突出する結束爪12bとを備えている。整流子片12は、互いに隣接する整流子片12との間にスリット13を形成し、それぞれ電気的に独立している。
【0016】
次に、整流子10の製造方法について説明する。図4は整流子10の製造方法を示すフローチャートであり、図5および図6は整流子10の製造方法に関する説明図である。なお、図5は整流子母材10’の斜視図を示し、図6はしごき加工の様子を示す側面図であり、ダイ23を凹部24の中心で破断して示している。
【0017】
先ず、整流子片母材15を図示しない金型にインサートして整流子母材10’を樹脂成形する(ステップ1)。具体的には、円筒状を呈し、軸方向の一端に径方向外側へ向けて突出する結束爪12bを備えた銅製の整流子片母材15を金型にセットする。そして、金型の温度を樹脂胴体11の原料となる熱硬化性樹脂の硬化温度以上に設定した上で、ガラス転移点以上に加熱され、流動性を増した樹脂を整流子片母材15の内側に射出する。所定硬化時間の経過後、硬化した樹脂を金型から取り出すことにより、図5に示すような整流子片母材15と樹脂胴体11とが一体化された整流子母材10’を形成する。なお、整流子片母材15の内周面には、図示しない各種係止爪や係止溝等が形成されており、これにより、整流子片母材15と樹脂胴体11との堅固な結合が実現されている。
【0018】
次に、ステップ1で形成した整流子母材10’に対し、しごき加工装置21を用いてしごき加工を施す(ステップ2)。具体的には、図6に示すように、整流子母材10’の上面形状に対して補完形状をなすパンチ22に整流子母材10’をセットする。パンチ22の下方に配置されたダイ23には、整流子母材10’の外径より若干小さな内径を有する円筒状の凹部24が形成されており、その内周面24aの開口端縁(図中の上縁)には端縁へ向けて拡径する円錐状の傾斜面24bが形成されている。また、凹部24の底面中央部には、整流子母材10’の貫通孔11aに挿入されるガイドポスト25が、凹部24の開口へ向けて(図中の上向きに)凹部24と同軸に突設されている。整流子母材10’がセットされたパンチ22を下方へプレスすることにより、整流子母材10’がガイドポスト25に沿って下方へ移動し、整流子片母材15が傾斜面24bに沿って塑性変形を起こしてその肉厚を減少させる。これにより、整流子母材10’は高精度に貫通孔11aと同軸の円筒形状に形成される。また、パンチ22は前記したような補完形状に限らず、通常のフラット形状でもよい。
【0019】
次に、しごき加工装置21から取り出した整流子母材10’に対し、図示しないスリット加工装置を用いてスリット加工を施す(ステップ3)。具体的には、貫通孔11aが保持された整流子母材10’の外周面に軸線Aに沿うスリット13を等間隔に形成する。本実施形態では、スリット13は円筒状の整流子母材10’に対して径方向外側から軸線Aへ向けて45°おきに8つ形成される。薄肉化された整流子片母材15の厚さよりも深くスリット13が形成されることにより、整流子片母材15が電気的に分離した8つの整流子片12となり、図2,3に示す整流子10が形成される。
【0020】
スリット加工の後、整流子10の貫通孔11aに回転軸5を圧入して両者を一体化し(ステップ4)、整流子10がその回転軸5に取り付けられた回転子4に対し、整流子片12の摺接面12aが回転軸5を中心とした円筒面、すなわち貫通孔11aの軸線Aを中心とした円筒面上に配置されるように切削加工を施す(ステップ5)ことにより、整流子10の製造が完了する。
【0021】
このように、整流子10は、整流子母材10’の段階で整流子片母材15がしごき加工を施されることにより、摺接面12aが貫通孔11aを中心にした円筒面上に高精度に配置されることとなる。例えば、インサート成形する前の整流子片母材15に対してしごき加工を施し、その後樹脂と一体化させる方法も考えられるが、この場合、インサート成形時に整流子片母材15の外周精度が低下する虞がある。これに対し、本実施形態の場合、インサート成形後にしごき加工が施されるため、このような虞はない。
【0022】
そして、しごき加工の際に貫通孔11aがガイドポスト25に案内されることにより、換言すれば、貫通孔11aがしごき加工の基準となることにより、例えば、貫通孔11aが樹脂胴体11の軸線からずれていたとしても、整流子片12の摺接面12aは、貫通孔11aを中心にした円筒面上に配置されるため、整流子10を回転軸5に取り付けたときにも回転軸5を中心にした円筒面上に高精度に配置される。これにより、回転子4の仕上げ処理である切削加工の回数を1回で済ますことができた。
【0023】
一方、しごき加工の際に貫通孔11aがガイドポスト25に案内されることにより、貫通孔11aの内周精度が向上する。また、整流子片12が貫通孔11a(ガイドポスト25)を基準にして配置されるため、例え貫通孔11aの内周精度がさほど高くなくても、回転軸5に取り付けられた状態では整流子片12の配置精度が確保される。なお、しごき加工前における貫通孔11aの内径は、ガイドポスト25の外径と同等もしくは若干小径となっている。
【0024】
また、整流子片12は、しごき加工によって塑性変形を起こしてその硬度が増大し、スリット加工や仕上げ処理時のバリの発生が抑制されるため、整流子10の外周精度がより一層向上するだけでなく、整流子10の耐久性も向上する。
【0025】
そして、スリット加工の際に貫通孔11aが保持された状態で整流子母材10’の外周面にスリット13が形成されることにより、換言すれば、貫通孔11aがスリット加工の基準となることにより、整流子10の外周精度のみならず、各整流子片12の配置精度をも向上することができる。
【0026】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、整流子が窓開閉用の電動モータ装置に適用されているが、その適用対象はこれに限定されるものではなく、ブラシ付きDCモータであれば如何なる用途に用いられるものであってもよい。また、整流子の適用対象は電気エネルギを回転運動エネルギに変換するモータに限られず、回転運動エネルギを電気エネルギに変換するDC発電機であってもよい。
【0027】
また上記実施形態では、整流子片母材は銅製であるが、その原料はこれに限られず、電気伝導性を有し且つ可塑性を有する原料であれば如何なる材料であってもよい。他方、樹脂胴体の原料も熱硬化性樹脂に限られず、可塑性樹脂であってもよい。更に、上記変更の他、整流子片の形状や数量等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係る整流子を適用した電動モータ装置の断面図
【図2】実施形態に係る整流子の平面図
【図3】実施形態に係る整流子の側面図
【図4】実施形態に係る整流子の製造方法を示すフローチャート
【図5】実施形態に係る整流子の製造方法の説明図
【図6】実施形態に係る整流子の製造方法の説明図
【符号の説明】
【0029】
1 モータ
4 回転子
5 回転軸
8 ブラシ
10 整流子
10’ 整流子母材
11 樹脂胴体
11a 貫通孔
12 整流子片
12a 摺接面
13 スリット
15 整流子片母材
A 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に用いられる整流子の製造方法であって、
略円筒状の整流子片母材を金型にインサートし、当該整流子片母材の内部に樹脂を射出することにより、当該整流子片母材と略円筒状の樹脂胴体とが一体化した整流子母材を形成するステップと、
前記樹脂胴体に形成された貫通孔を案内しながら前記整流子片母材外周面にしごき加工を施すステップと、
前記しごき加工を施された整流子片母材に対してスリット加工を施すことにより、当該整流子片母材を複数の整流子片に分割するステップと
を備えたことを特徴とする整流子の製造方法。
【請求項2】
前記スリット加工が前記貫通孔を基準にしてスリットを形成することを特徴とする、請求項1に記載の整流子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−22084(P2010−22084A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177923(P2008−177923)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】