説明

整髪化粧料

【課題】 整髪力がありながら、べたつきがなく、また、髪が乱れた場合の再整髪性、特に手を水でぬらして毛先をくせづけするのに適した整髪化粧料の提供。
【解決手段】 式(1)及び式(2)で示される化合物と、液状油分とを含む整髪化粧料。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は整髪化粧料、特に毛髪に塗布した際にはくせづけがしやすく整髪力もあり、また、整髪化粧料が乾燥した後も水によって再度のくせづけがしやすい整髪化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
整髪剤の基剤としては、主にポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン-ポリ酢酸ビニル共重合体等の皮膜形成性ポリマー類が用いられている。皮膜形成性ポリマー類は、毛髪間を接着し固めることで強い整髪能を発揮するが、セットされた毛髪が束になり、手やくしが通らない、固くごわつく等、仕上がりが不十分であり、再整髪ができないという欠点があった。そこで、最近では、ミツロウ、ラノリン、キャンデリラワックス等のワックス類が整髪剤の原料として用いられている。
【0003】
しかしながら、ワックス類は常温で固体ないし半固体の油分であり、これを配合した整髪剤を用いる場合、セットされた髪に手やくしが通りやすく、仕上がりは柔らかくごわつかないが、整髪力が皮膜形成性ポリマー類と比較して弱く、また手や髪へのべたつきが強く、経時で髪が重くなる等の欠点があった。
よって、整髪力がありながら、べたつきがなく、また、髪が乱れた場合の再整髪性にも優れるものが望まれている。特に最近は、毛先に動きのあるスタイルが多く、このような毛先の動きを表現するために、手を水でぬらして毛先をくせづけすることが行われるが、再整髪の際に水でぬれた手で行うと、整髪力が十分発揮されず、毛先のくせづけもしにくいという問題点があった。
【0004】
特許文献1には、ポリエーテル変性シリコーンが、水の存在下で、シリコーン系油分をゲル化し、ヘアジェルに使用できることが開示されている。しかし、このヘアジェルは、べたつきがなく、毛髪にさらさら感を与えるが、整髪力や再整髪力はない。
また、特許文献2には、シリコーン化プルランに代表されるシリコーン化多糖化合物を配合した毛髪化粧料が開示されている。しかし、この毛髪化粧料は、スタイリング持続効果、使用感に優れるものの、再整髪、特に水でぬらした手によるくせづけは、うまくできない。
【0005】
一方、特許文献3には、シリコーン化多糖化合物と、ポリエーテル変性シリコーンと、シリコーン系油分と、疎水化粉末と、エチルアルコールと、水とを含むW/O乳化組成物が記載されている。特許文献3は、清涼感と化粧持ちに優れるW/O乳化組成物を提供することを目的とするが、特定のポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物との併用が整髪性に及ぼす影響については検討されていない。
【特許文献1】特開平5−311076号公報
【特許文献2】特開平11−349450号公報
【特許文献3】特開2001−278729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、整髪力がありながら、べたつきがなく、また、髪が乱れた場合の再整髪性、特に手を水でぬらして毛先をくせづけするのにも適した整髪化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定のポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とを併用すると、液状油分を著しくゲル化することが判明した。そして、このゲルを用いると、くせづけがしやすく整髪力もありながら、べたつきがなく、また、水による再整髪も非常にしやすい整髪化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる整髪化粧料は、下記一般式(1)で示されるシリコーン化多糖化合物と、下記一般式(2)で示されるポリエーテル変性シリコーンと、液状油分と、を含むことを特徴とする。
【0008】
【化3】

(一般式(1)中、Gluは多糖化合物の糖残基、Xは2価の結合基、Yは2価脂肪族基を意味し、Rは炭素数1〜8の1価有機基、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜8の1価有機基又は−OSiRで示されるシロキシ基を意味する。ただし、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜8の1価有機基、aは0、1又は2を意味する。また、多糖化合物の構成糖1単位当たりのシリコーン化合物の平均結合数(置換度)は0.5〜2.5である。)
【0009】
【化4】

(一般式(2)中、xは1〜5、yは5〜50、zは0〜50、mは50〜2000、nは1〜100の整数を示し、R8は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0010】
本発明において、Xが−CONH−基であることが好適である。
また、Gluがプルランのグルコース残基であることが好適である。
また、a=0で、R、R、Rがメチル基であることが好適である。
また、Yが−(CH−で示される基であることが好適である。
また、本発明の整髪化粧料において、シリコーン化多糖化合物とポリエーテル変性シリコーンの合計量に対するポリエーテル変性シリコーンの割合が1〜50質量%であることが好適である。
また、液状油分が低粘度シリコーン油及び/又は軽質イソパラフィンとを含むことが好適である。
また、本発明の整髪化粧料において、前記シリコーン化多糖化合物と、前記ポリエーテル変性シリコーンと、前記液状油分とを含む油相が水相中に分散されたO/W型整髪化粧料が好適である。
【発明の効果】
【0011】
特定のポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物と液状油分からなるゲルを配合することにより、くせづけがしやすく整髪力もありながら、べたつきがなく、また、水による再整髪も非常にしやすい整髪化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において用いられるシリコーン化多糖化合物は、上記一般式(1)で示される。
一般式(1)において、Gluは多糖化合物の糖残基を表すが、このような多糖化合物としては、公知の各種多糖化合物を用いることができ、例えば、セルロース、ヘミセルロース、アラビアガム、トラガントガム、タマリンドガム、ペクチン、デンプン、マンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、クインスシードガム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、デキストラン、プルラン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸の他、これら多糖化合物の誘導体、例えば、カルボキシメチル化、硫酸化、リン酸化、メチル化、エチル化、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの付加、アシル化、カチオン化、低分子量化等を行った多糖化合物誘導体が挙げられる。これらの内、好ましくはエチルセルロース又はプルランであり、特に好ましくはプルランである。なお、本発明において多糖化合物の平均分子量は多糖化合物の種類により異なるが、通常約1,000〜5,000,000が好ましい。
【0013】
これらの多糖化合物はその種類に応じて水酸基、カルボキシル基等の反応性官能基の1種又は2種以上を少なくとも1つ以上含有している。Xで示される2価結合基は、この多糖化合物の有する反応性官能基と、下記一般式(3)で示されるシリコーン化合物とを反応させることにより形成されるA由来の結合基である。
【0014】
【化5】

一般式(3)中、Y、R、R、R、R及びaは前記一般式(1)と同じである。また、Aは多糖化合物の反応性官能基と反応しうる官能基であり、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基等が挙げられる。
なお、このようなシリコーン化合物と多糖化合物との反応には、従来より公知の方法、例えば特開平8−134103号公報に記載の方法を用いることができる。
【0015】
Xを例示すると、カルバモイル基、−CHCH(OH)−、カルボニル基、アミノ基、エーテル基等が挙げられるが、反応性の点から、Aがイソシアネート基(O=C=N−)である前記一般式(3)の化合物と、多糖化合物の水酸基が反応して形成されるカルバモイル基(−CONH−)が好ましい。なお、この場合の多糖化合物の糖残基は、イソシアネート基と反応している水酸基の水素原子を除いた多糖化合物の残り部分を意味する。また、その他の反応の場合にも、多糖化合物の糖残基とはこれに準ずるものを意味する。
【0016】
Yで示される2価の脂肪族基としては、アルキレン基、主鎖中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等を有するアルキレン基、主鎖中にフェニレン基等のアリーレン基を有するアルキレン基、主鎖中にカルボニルオキシ基又はオキシカルボニル基を有するアルキレン基を挙げることができる。これらの2価脂肪族基はヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基等の置換基を有することができ、また、脂肪族基の末端原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子であってもよい。Qを例示すると、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−[CHCH(CH)]−、−(CHO(CH−、−CHCH(OH)−CH−等が挙げられるが、好ましくは−(CH−で示されるプロピレン基である。
【0017】
前記一般式(1)において、R、R、R、R、R、R及びRに見られる炭素数1〜8の1価有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、3,3,3-トルフロロプロピル基等のフッ化アルキル基等を例示することができる。このような有機基として好ましいものはアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0018】
また、R、R、Rはそれぞれ−OSiRで示されるシロキシ基であってもよい。このようなシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、エチルジメチルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ基等が例示される。また、R、R、R、R、R、R及びRは同一又は異なっていても良い。本発明のシリコーン化多糖化合物においては、a=0で、R、R、及びRがメチル基であることが好ましい。
【0019】
本発明において、特に好ましいシリコーン化多糖化合物は下記一般式(4)で示されるシリコーン化プルランである。
一般式(4):
【化6】

(一般式(4)中、Bは水素原子または−CONH(CHSi[OSi(CH]で示される基であり、その置換度は0.5〜2.5、cは100〜20,000の数である。)
なお、本発明において、シリコーン化多糖化合物の置換度は多糖化合物の構成糖1単位当たりのシリコーン化合物の平均結合数を意味する。例えば、上記シリコーン化プルランの置換度は、下記一般式(5)で示されるプルランの基本単位についた置換基−CONH(CHSi[OSi(CH]の平均数を指す。
【0020】
一般式(5):
【化7】

【0021】
本発明において用いられる前記一般式(2)のポリエーテル変性シリコーンは、ポリオキシアルキレン基としてポリオキシエチレン基(POE)、ポリオキシプロピレン基(POP)を有する直鎖ジメチルポリシロキサンである。
一般式(2)において、yは5〜50の整数である。zは0〜50の整数であり、好ましくは5〜50である。yまたはzが小さすぎるとシリコーン化多糖化合物と併用しても本発明の効果が十分に発揮されないことがある。また、yまたはzが大きすぎる場合には、べとつき感を生じることがある。
ポリオキシアルキレン基の含有量は特に限定されないが、ポリオキシアルキレン基の含有量は20〜70重量%(ただし、20重量%は含まない)であることが望ましい。
【0022】
の炭素数1〜4のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基、n−ブチル基が例示される。
mは50〜2000、好ましくは50〜1000の整数であり、nは1〜100、好ましくは1〜40の整数である。mやnが小さすぎると効果が十分発揮されないことがあり、大きすぎるとべとつき感を生じることがある。
【0023】
上記ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とからなるゲル化剤により液状油分をゲル化したゲルを配合した整髪化粧料は、毛髪に塗布した際にはくせづけがしやすく整髪力(キープ力)が高い。そして、整髪化粧料が乾燥した後でも、水で湿らせることにより容易にくせづけしなおすことができる。このような効果は、ポリエーテル変性シリコーン単独、シリコーン化多糖化合物単独では発揮することができない。
【0024】
上記ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とからなるゲル化剤については、そのゲル化能は、ポリエーテル変性シリコーンあるいはシリコーン化多糖化合物をそれぞれ単独で用いた場合に比して著しく高い。例えば、ポリエーテル変性シリコーン単独あるいはシリコーン化多糖化合物単独では、シリコーン油に15%配合した場合でも流動性のある増粘物となるだけで、その粘度は1000mPa・s前後に過ぎないが、両者を併用すると15%配合では最高で数百万mPa・sにも達し、硬いゲルを形成することができる。このような高いゲル化能は、ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とが油分中で構造体を形成することにより発揮されるものと考えられる。
【0025】
また、ゲルの性状としては、ポリエーテル変性シリコーン比率が高くなるにつれて、柔らかなゲルから、硬いゲル、柔らかなゲルへと変化する。また、ポリエーテル変性シリコーン比率が35質量%以上、特に40質量%以上では曳糸性が現れる。これは、その比率によってポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とが形成する構造体の形態が変化することによるものと考えられる。
ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物との合計量に占めるポリエーテル変性シリコーンの割合(ポリエーテル変性シリコーン比率)は特に限定されず、0.5〜99.5質量%の広い範囲で変化させることができるが、塗布時の整髪性や水での再整髪性、使用感などの点では1〜50質量%、さらには3〜35質量%が好適である。
【0026】
上記ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とは、その相乗効果により、少量で液状油分を著しくゲル化することができるが、ポリエーテル変性シリコーンやシリコーン化多糖化合物は流動パラフィンなどの高粘度炭化水素油などに対する相溶性が低いため、ポリエーテル変性シリコーンやシリコーン化多糖化合物の相溶性が高い低粘度シリコーン油や軽質イソパラフィンを液状油分として含むことが好ましい。相溶性の点で、低粘度シリコーン油と軽質イソパラフィンの合計量が液状油分に占める割合としては、50質量%以上、さらには60質量%以上が好適である。
低粘度シリコーン油としては、粘度が100mm/s(25℃)以下の直鎖状ジメチルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンが挙げられるが、なかでも、ケイ素数2〜7の直鎖状ジメチルポリシロキサン、ケイ素数3〜7の環状ジメチルポリシロキサンが好適に使用できる。
【0027】
上記ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とからなるゲル化剤は、これら低粘度シリコーン油や軽質イソパラフィンに対して高いゲル化能を発揮し、使用感や安定性も良好なゲル組成物を形成することができる。
なお、上記以外の油分も全体として液状油分(25℃で液状)となり、且つ本発明の効果に特に支障のない範囲で配合することができる。例えば、シリコーン油、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、天然油脂、ロウ類など、通常化粧料や皮膚外用剤に使用されるものが挙げられる。極性の全くない直鎖炭化水素系油分などはゲル化剤に対して貧溶媒となるので、配合には注意を要する。
【0028】
ゲルを調製するにあたっては、ポリエーテル変性シリコーンやシリコーン化多糖化合物を低粘度シリコーン油や軽質イソパラフィンにそれぞれ溶解してから混合すると、調製ししやすい。溶解・混合に際しては、必要に応じて加熱してもよい。
ゲルを調製する際、ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物との液状油分中への配合量は、目的に応じて適宜決定すればよく、通常0.1〜50質量%配合可能であるが、3〜30質量%、さらには5〜20質量%が好適である。配合量が少なすぎる場合には十分な効果が発揮されず、多すぎる場合には使用感に影響を及ぼすことがある。
【0029】
このようなゲルは、ゲル化剤に由来するべたつきがない。ワックス類など常温で固体ないし半固体の油分にはべたつきがあるが、本発明の整髪化粧料によれば、ワックス類の一部あるいは全部をゲルに置換することにより、塗布時のくせづけ性やキープ力は同等以上でありながら、べたつきを低減できる。また、ワックス類では水による再整髪性は得られないが、本発明のゲルを用いれば水での再整髪性を付与することができる。
【0030】
本発明の整髪化粧料には、上記した必須成分に加えて、必要により適宜、保湿剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、香料、酸化防止剤、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水等、通常化粧料に用いられる成分を配合することができる。
また、剤形としては油性ゲルの他に、O/W型やW/O型の乳化組成物とすることもでき、特にO/W型乳化組成物が好ましい。乳化型整髪化粧料において、ゲルの配合量は組成物中、通常5〜40質量%配合すればよいが、好ましくは10〜30質量%である。
以下、具体例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合量は特に指定のない限り質量%で示す。なお、本発明で用いた試験方法は、次の通りである。
【0031】
(1)外観観察、ゲル性状
室温での状態について、傾斜法により、流動性がある状態を液体、流動性のない状態をゲルと判定した。ゲルと判定されたものについては手で触ってその性状を調べた。
(2)整髪性
評価用ストランドに0.5gのサンプルを塗布し、コームで10回なじませた後、手で毛先からくせづけし、「くせづけのしやすさ」を評価した。
また、4時間後のキープ力から、「整髪力」を評価した。
その後、さらに、水でぬらした手で再度くせづけを行って「水によるくせづけのしやすさ(水再整髪性)」を評価した。
なお、くせづけについては、毛先に動きのあるスタイルの作りやすさを重視して行った。評価基準は次の通り。
○:良い
△:やや悪い
×:悪い
(3)べたつきのなさ、ごわつきのなさ
使用時のべたつき、使用後の毛髪のごわつきについて次の基準で評価した。
○:べたつき、ごわつきがない。
△:べたつき、ごわつきがややある
×:べたつき、ごわつきがある。
【実施例1】
【0032】
試験例1 ゲル形成と整髪効果
ポリエーテル変性シリコーンのみの場合、シリコーン化多糖化合物のみの場合、ならびに両者を併用した場合について、整髪性を比較した。用いた材料は次の通りである。
【0033】
(i)変性シリコーンA:
一般式(2)において、m=400、n=10、x=3、y=19、z=19、R=H分子量約55,000のもの。
(ii)シリコーン化プルラン:
一般式(4)において置換度約2.0、分子量約690,000のもの。
【0034】
【表1】

【0035】
表1は、変性シリコーンAの比率を0〜100%の間で変えた試料G1〜G10について、相対的に比較した結果である。
シリコーン化多糖化合物のみの場合(G1)には、粘度は低く液状であった。そして、整髪力は高いものの、くせづけのしやすさに劣り、また、一旦整髪料が乾燥した後は水で再びくせづけしようとしてもうまくいかない。
ポリエーテル変性シリコーンのみの場合(G10)にも、粘度は低く液状であった。そして、整髪力やくせづけのしやすさに欠け、水による再整髪もうまくいかない。
これに対して、ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とを併用すると、粘度が相乗的に著しく向上してゲル化した。そして、シリコーン化多糖化合物、ポリエーテル変性シリコーンをそれぞれ単独で用いた場合に比べて、整髪力がありくせづけもしやすく、さらには水による再整髪も非常にしやすいものとすることができた。
従って、ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物とが形成するゲルがくせづけのしやすさや、整髪料が乾燥した後の水再整髪性に寄与しているものと考えられる。
【0036】
さらに、表1のゲルを用いたO/W乳化型ヘアワックスについて検討した。
具体的には、下記処方のO/W乳化型ヘアワックスにおいて、従来のワックス類(ミツロウ、キャンデリラワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバロウなど)を配合した場合と、ワックス類の代わりに表1の試料G1〜G10を配合した場合との整髪性を相対的に比較した。また、使用時のべたつきのなさ、使用後のごわつきのなさについても比較を行った。結果を表2に示す。
O/Wヘアワックス処方:
ワックス類またはG1〜G10 18.0 質量%
界面活性剤 5.3
カルボキシビニルポリマー 0.2
プロピレングリコール 10.0
d−δ−トコフェロール 0.05
パラオキシ安息香酸エステル 0.2
イオン交換水 to 100
なお、界面活性剤は、ステアリン酸が2%、イソステアリン酸が1%、トリエタノールアミンが0.3%、イソステアリン酸ポリオキシエチレン(60)グリセリルが1%、自己乳化型モノステアリン酸グリセリンが1%からなる。
【0037】
【表2】

【0038】
表1のゲルを配合した場合には、従来のワックス類を配合した場合に比べて、整髪性やくせづけのしやすさを同等あるいはそれ以上とすることができ、また、水による再整髪性や、使用時のべたつきのなさといった使用感においてはワックス類に比べて非常に優れたものとすることができる。
また、表2のO/Wワックスは何れも使用時のべたつきや、使用後の被膜感・ごわつき感が少なく、表1のゲル単独の場合に比べても非常に使用感のよいものであった。
以上のことから、ポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物の合計量に対するポリエーテル変性シリコーンの割合(ポリエーテル変性シリコーン比率)は1〜50質量%、さらには3〜35質量%が好適である。
【0039】
試験例2 O/W型整髪化粧料
O/W乳化系はみずみずしい使用感などから毛髪化粧料においても汎用されている剤型であるが、製造の際には通常界面活性剤が使用され、また、水相には防腐性や使用感などから保湿剤が配合される。界面活性剤や保湿剤は比較的多量に配合される不揮発性成分であり、整髪料を毛髪に塗布して揮発性成分が揮発した後の被膜の性質に影響を与えると考えられる。
そこで、前記O/Wヘアワックス処方において、保湿剤(プロピレングリコール)、界面活性剤、ゲルの量を変えて比較した。成分の増減はイオン交換水で調整した。なお、ゲルとしては変性シリコーンAが1.1質量%、シリコーン化プルランが3.9質量%、合成イソパラフィンが95質量%からなるゲル(ポリエーテル変性シリコーン比率22%)を用いた。
【0040】
その結果、図1の斜線部の範囲で、くせづけのしやすさ、整髪力、水での再整髪性が最も優れており、また整髪料を毛髪に塗布した際のべたつきがなく使用感にも非常に優れていた。このような範囲に対して、保湿剤や界面活性剤が多くなるほど(図の上や右下にいくほど)、使用感が重くべたつくようになる。一方、ゲル量が多くなるほど(図の左下にいくほど)使用後に硬い被膜感を生じる。
以上のことから、O/W乳化系においては、ゲル、保湿剤、界面活性剤の合計量を100とした場合に、ゲル40〜60質量%、保湿剤20〜40質量%、界面活性剤15〜30質量%の範囲が特に好適であると考えられた。
【0041】
試験例3 ポリエーテル変性シリコーンの構造
さらに、構造の異なるポリエーテル変性シリコーンを用いて検討を行った。用いたポリエーテル変性シリコーンは、次の通り。
(1)変性シリコーンa:
POE・POP基と、セチル基とで変性された直鎖ジメチルポリシロキサン(ABIL EM 90、独Goldschmit社製、分子量約13,000)。
(2)変性シリコーンb:
POE基のみで変性された分岐鎖ジメチルポリシロキサン(KF−6028、信越化学工業社製、分子量約6,500、POE変性率約19質量%)。
(3)変性シリコーンc:
POE鎖架橋ジメチルポリシロキサン(KSG−210、信越化学工業(株)製、分子量10,000以上)
【0042】
【表3】

【0043】
表3は、表1のG5において変性シリコーンAの代わりに変性シリコーンa〜cを用いた場合の外観(ゲル化の有無)と整髪性とを比較した結果である。
表3のように、変性シリコーンAの代わりに変性シリコーンa〜cを用いた場合にはシリコーン化多糖化合物との併用してもゲル化しなかった。そして、その整髪力、くせづけのしやすさ、水による再整髪性は何れも変性シリコーンAに比べて低いものであった。
よって、本発明の効果は、一般式(2)で示される特定のポリエーテル変性シリコーンとシリコーン化多糖化合物との間でのみ特異的に発揮されるものである。
なお、軽質イソパラフィンの代わりにデカメチルシクロペンタシロキサンなどのシリコーン油を用いた場合も同様の結果であった。
【実施例2】
【0044】
処方例1 O/W乳化ワックス
(1)精製水 残余
(2)カルボキシビニルポリマー 0.2
(3)パラオキシ安息香酸エステル 0.2
(4)エデト酸2ナトリウム 0.03
(5)プロピレングリコール 10
(6)ステアリン酸 3
(7)イソステアリン酸POE(60)グリセリル 2
(8)自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 2
(9)イソステアリン酸 1
(10)ポリエーテル変性シリコーン 0.2
(11)シリコーン化多糖化合物 0.6
(12)軽質イソパラフィン 17
(13)ビタミンE 0.1
(14)トリエタノールアミン 0.4
(15)香料 適量
【0045】
<製造方法>
(1)〜(5)を混合して水相を調製した。(10)〜(12)からゲルを調製した。水相にゲルを75〜80℃で混合し、さらにホモミキサーで分散した。この分散液に、(6)〜(9)、(13)及び(15)を80〜85℃で混合溶解したものを添加し、さらに(14)を加えてホモミキサーで乳化し、冷却してO/Wワックスを得た。
【0046】
処方例2 ヘアムース
(1)精製水 残余
(2)グリセリン 8
(3)プロピレングリコール 8
(4)ブチルエチルプロパンジオール 0.5
(5)イソステアリン酸 0.5
(6)POE硬化ひまし油 0.5
(7)POEベヘニルエーテル 5
(8)2−アルキル−N−カルボキシメチル−
N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン 8
(9)フェノキシエタノール 0.5
(10)高重合ジメチルポリシロキサン 0.5
(11)ポリエーテル変性シリコーン 0.2
(12)シリコーン化多糖化合物 0.6
(13)軽質イソパラフィン 17
(14)香料 適量
【0047】
<製造方法>
(1)〜(4)を混合して水相を調製した。(11)〜(13)からゲルを調製した。水相にゲルを75〜80℃で混合し、さらにホモミキサーで分散した。この分散液に、(5)〜(10)、及び(14)を80〜85℃で混合溶解したものを添加し、ホモミキサーで乳化し、冷却してムース原液を得た。この原液50質量部と噴射剤50質量部とを容器に充填して、ムースを得た。
【0048】
処方例3 O/W乳化クリーム
(1)精製水 残余
(2)ジメチルポリシロキサン 3
(3)ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)
メチルポリシロキサン共重合体
[SILWET236−L、日本ユニカー製] 0.1
(4)POEメチルポリシロキサン共重合体
[平均分子量6000、EO付加率20%] 0.2
(5)エタノール 10
(6)プロピレングリコール 5
(7)2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール 0.3
(8)エデト酸3ナトリウム 0.05
(9)キサンタンガム 0.1
(10)酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 0.5
(11)アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
(12)カルボキシビニルポリマー 0.4
(13)高重合ジメチルシロキサン・
メチル(アミノプロピル)シロキサン共重合体 0.5
(14)高重合ジメチルシロキサン 0.5
(15)ポリエーテル変性シリコーン 0.2
(16)シリコーン化多糖化合物 0.6
(17)軽質イソパラフィン 17
(18)香料 適量
【0049】
<製造方法>
(1)、(5)〜(9)及び(12)を混合して水相を調製した。(15)〜(17)からゲルを調製した。水相にゲルを75〜80℃で混合し、さらにホモミキサーで分散した。この分散液に、(2)〜(4)、(10)、(11)、(13)、(14)及び(18)を80〜85℃で混合溶解したものを添加し、ホモミキサーで乳化し、冷却してO/Wヘアクリームを得た。
【0050】
上記処方例1〜3は、ポリエーテル変性シリコーン及びシリコーン化多糖化合物の代わりに、ポリエーテル変性シリコーンのみ、シリコーン化多糖化合物のみ、あるいはこれらをワックス類に置換した整髪料に比べて、整髪性と使用感に優れるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】O/Wヘアワックス処方中の保湿剤、界面活性剤、ゲルの合計量を100%とした場合に、くせづけのしやすさ、整髪力、再整髪性及び使用感が優れる保湿剤−界面活性剤−ゲルの範囲(斜線部)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるシリコーン化多糖化合物と、下記一般式(2)で示されるポリエーテル変性シリコーンと、液状油分と、を含む整髪化粧料。
【化1】

(一般式(1)中、Gluは多糖化合物の糖残基、Xは2価の結合基、Yは2価脂肪族基を意味し、Rは炭素数1〜8の1価有機基、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜8の1価有機基又は−OSiRで示されるシロキシ基を意味する。ただし、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜8の1価有機基、aは0、1又は2を意味する。また、多糖化合物の構成糖1単位当たりのシリコーン化合物の平均結合数(置換度)は0.5〜2.5である。)
【化2】

(一般式(2)中、xは1〜5、yは5〜50、zは0〜50、mは50〜2000、nは1〜100の整数を示し、R8は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の整髪化粧料において、Xが−CONH−基であることを特徴とする整髪化粧料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の整髪化粧料において、Gluがプルランのグルコース残基であることを特徴とする整髪化粧料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の整髪化粧料において、a=0で、R、R、Rがメチル基であることを特徴とする整髪化粧料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の整髪化粧料において、Yが−(CH−で示される基であることを特徴とする整髪化粧料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の整髪化粧料において、シリコーン化多糖化合物とポリエーテル変性シリコーンの合計量に対するポリエーテル変性シリコーンの割合が1〜50質量%であることを特徴とする整髪化粧料。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の整髪化粧料において、液状油分が低粘度シリコーン油及び/又は軽質イソパラフィンとを含むことを特徴とする整髪化粧料。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の整髪化粧料において、前記シリコーン化多糖化合物と、前記ポリエーテル変性シリコーンと、前記液状油分とを含む油相が水相中に分散されたO/W型整髪化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−290837(P2006−290837A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116732(P2005−116732)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】