説明

斜板式圧縮機及び斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法

【課題】斜板式圧縮機において、斜板とシューの耐摩耗性と摺動性を向上させた斜板式圧縮機及び斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法を提供する。
【解決手段】可変容量斜板式圧縮機は、クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、シャフトが挿通される開口部を有すると共にクランク室に配されてシャフトの回転に同期して回転する斜板22と、斜板22の周縁に係留され、斜板22の回転に伴いハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、斜板22の両側面とピストンの係合部との間に配設され、斜板22及びピストンの両者と摺接するシュー24とを有している。斜板22は、鉄系材料であり、斜板22のシュー24との摺接面34は、ガス軟窒化処理が施された後、形成された硬化層36を残しつつ窒化化合物層を除去する除去処理が施され、さらに固体潤滑剤の皮膜が形成する皮膜処理37が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板の回転により往復運動するピストン及び斜板の両者に摺接するシューを含む斜板式圧縮機において、特に、斜板とシューの耐摩耗性と摺動性を向上させた斜板式圧縮機及び斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用エアコンディショナの冷媒圧縮機等として広く利用されている斜板式圧縮機は、(a)クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、(b)前記シャフトが挿通される開口部を有すると共に前記クランク室に配されて前記シャフトの回転に同期して回転する斜板と、(c)前記斜板の周縁に係留され、前記斜板の回転に伴い前記ハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、(d)前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを含んで構成される。
【0003】
このような斜板式圧縮機においては、斜板が高速回転かつ高加重させられることから、斜板とシューとの摺動特性が良好であることが要求される。つまり、両者の摺接をスムーズにするための潤滑性、両者が容易に摩耗しないという耐摩耗性、両者が容易に焼き付かないという耐焼付き性等の種々の特性に優れることが要求される。このため、両者の摺接面には硬化処理が行われたり、また両者のいずれか一方の摺接面には固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理が行われたりしている。
【0004】
斜板の硬化処理としては、焼入れ処理が考えられるが、焼入れの温度が高温になるため斜板に歪が生じるおそれがある。
そこで、焼入れの温度よりも低い温度で硬化処理が可能な軟窒化処理が行われており、具体的には、回転軸に固定され、前記回転軸と一体に回転する回転部材と、前記回転軸に傾斜可能に支持され、リンク機構を介して前記回転部材に連結され、前記回転部材の回転につれて一体に回転する斜板と、前記斜板の摺動面上を相対的に回転するシューを介して前記斜板と連結され、前記斜板の回転につれてシリンダボア内を直線往復運動するピストンとを備え、前記斜板に前記リンク機構の一部を構成する凸部が設けられている可変容量型斜板式圧縮機において、前記斜板及び前記凸部にガス浸硫窒化処理法又は無電解ニッケル−リン−ボロンメッキ処理法による表面処理が施されている可変容量型斜板式圧縮機が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理の具体例としては、回転軸と、その回転軸に傾斜して支持された斜板と、前記回転軸を回転可能かつ軸方向に移動不能に支持するとともに、回転軸から偏心した位置に回転軸にほぼ平行に形成されたシリンダボアを備えたハウジングと、前記シリンダボアに摺動可能に嵌合される頭部と前記斜板の外周部を跨ぐ係合部とを備え、前記斜板の回転により往復運動させられるピストンと、前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを含む斜板式圧縮機であって、前記斜板が、鉄系の材料からなり、少なくとも前記シューと摺接する摺接面に潤滑被膜が形成されたものであり、前記シューのうち少なくとも一部のものが、鉄系の材料からなり、少なくとも前記斜板と摺接する斜板側摺接面に軟窒化処理が施された窒化処理シューである斜板式圧縮機が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−196531号公報
【特許文献2】特開2003−42061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された可変容量型斜板式圧縮機は、窒化処理が施された場合、斜板の摺接面に窒化化合物層が形成されるためシューよりも斜板の摺接面の硬度が高くなり、摺動によりシューを傷つけるおそれがある。また、窒化処理により硬度が高くされた斜板の摺接面を旋盤により仕上げ加工を行うと、バイトの寿命が短くなるという不都合がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された可変容量斜板式圧縮機の斜板は、摺接面に潤滑被膜が形成されるが、シューとの摺接箇所の潤滑皮膜が削られることによって凹みが生じる。このような凹みが生じた状態で摺動を続けると斜板とシューの両方に傷がつき、結果として滑らかな摺動を阻害する不都合がある。
【0009】
より具体的には、シューの表面上は微細な凹凸がほとんど無い鏡面状態で組み上げられる一方で、斜板の表面上はシューの表面上に比べて粗い状態で組み上げられる。このような両者の表面状態に加えて斜板の硬度がシューよりも高い場合には、斜板がシューの表面を傷つけてしまい、さらに摺動が続けられると、傷つけられたシューの表面が斜板を傷つけて潤滑皮膜が剥がされ、摺動性が悪化し両者の磨耗が進行する。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、斜板式圧縮機において、斜板とシューの耐摩耗性と摺動性を向上させた斜板式圧縮機及び斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の斜板式圧縮機は、クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、前記シャフトが挿通される開口部を有すると共に前記クランク室に配されて前記シャフトの回転に同期して回転する斜板と、前記斜板の周縁に係留され、前記斜板の回転に伴い前記ハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを含む斜板式圧縮機において、前記斜板は鉄系材料からなり、前記斜板の前記シューとの摺接面は、仕上げ加工処理が施され、前記仕上げ加工処理の後に硬化処理としてガス軟窒化処理が施され、前記軟窒化処理の後に前記軟窒化処理により形成された硬化層を残留させて窒化化合物層を除去する除去処理が施され、前記除去処理の後に固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理が施されることを特徴としている。
【0012】
窒化処理により形成された硬化層を残留させて窒化化合物層を除去する除去処理が施されることによって、シューよりも硬度が高い窒化化合物層を除去することでシューが傷つけられることを防止でき、また硬化層が残留することで十分な硬度を確保して耐摩耗性を得ることができる。また、固体潤滑剤の皮膜が摺接面に形成されることによって、斜板とシューの摺動性の向上を図ることが可能となる。
【0013】
また、前記シューは、熱硬化処理が施され、前記斜板の硬度は、前記除去処理により前記シューの硬度よりも低いことを特徴としている。
【0014】
熱硬化処理によりシューの硬度を上昇させ、また、除去処理により斜板の硬度をシューよりも低くすることによって、シューを傷つけることなく両者の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0015】
さらに、前記除去処理は、ショットピーニング処理であることが望ましい。
【0016】
ショットピーニング処理により斜板の摺接面に形成された微細な凹凸に固体潤滑剤が入り込むことで、潤滑皮膜の接着力をアンカー効果により高めることが可能となる。
【0017】
さらにまた、前記固体潤滑剤は、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0018】
斜板の摺接面に形成された硬化層はフッ素樹脂との親和性が高いため、潤滑効果と硬度上昇効果との両方の効果の向上を図ることができる。すなわち、固体潤滑剤の層の一部が剥がされたとき、軟窒化処理によって形成された硬化層が微視的に潤滑層と混在する状態になるため、潤滑効果と耐磨耗効果の両方を得ることができ、斜板とシューの焼付きを防ぐことが可能となる。
【0019】
また、クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、前記シャフトが挿通される開口部を有すると共に前記クランク室に配されて前記シャフトの回転に同期して回転する斜板と、前記斜板の周縁に係留され、前記斜板の回転に伴い前記ハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを有し、前記斜板は鉄系材料から構成されている斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法において、前記斜板の前記シューとの摺接面は、仕上げ加工処理を施す工程と、前記仕上げ加工処理が施された後に軟窒化処理を施す工程と、前記軟窒化処理が施された後に前記軟窒化処理により形成せれた硬化層を残留させて窒化化合物を除去する除去処理を施す工程と、前記除去処理の後に固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理を施す工程とを有することが望ましい。
【0020】
仕上げ加工処理の工程の後に軟窒化処理を施す工程を行うことで斜板の硬度が低い状態で加工することが可能となり、加工性を改善することができる。また、軟窒化処理を行う前に仕上げ加工を行うことで、防窒化処理が不要となるため製造コストを低くすることが可能である。
【0021】
前記除去処理は、ショットピーニング処理であることが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上本発明によれば、斜板のシューとの摺接面に軟窒化処理が施された後、軟窒化処理により形成された硬化層を残留させて窒化化合物を除去する除去処理が施され、この除去処理の後に固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理が施されることによって、斜板とシューの耐摩耗性及び摺動性を向上させることができ、焼きつきを防止することが可能となる。
また、熱硬化処理によりシューの硬度を上昇させると共に斜板の硬度をシューよりも低くすることによって、シューを傷つけることなく両者の耐摩耗性を向上させることができ、部品の交換サイクルを長くすることが可能となる。
さらに、ショットピーニング処理によりアンカー効果を得ることができるため自己潤滑剤が剥がされることが防止可能となる。
さらにまた、自己潤滑剤にフッ素樹脂を用いることによって、窒化化合物の硬化層とフッ素樹脂の親和性の高さを利用して、潤滑と硬度上昇の両方の効果の向上を図ることが可能となる。
また、仕上げ加工処理の後に軟窒化処理を行うことで、加工性を改善することができ、消耗部品の交換サイクルが長くなることにより生産コストを抑制することが可能となる。さらに、防窒化処理などの処理も必要が無くなるため製造コストを下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、斜板式圧縮機の構成を表した構成図である。
【図2】図2は、斜板のシューとの摺接面の拡大図である。
【図3】図3は、斜板式圧縮機の斜板の硬度を表したグラフである。
【図4】図4は、斜板式圧縮機の斜板の製造工程を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の斜板式圧縮機について図面を参照して説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明の可変容量斜板式圧縮機1は、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2のリア側(図中、右側)にバルブプレート3を介して組み付けられたリアヘッド4と、シリンダブロック2のフロント側(図中、左側)を閉塞するように組み付けられたフロントヘッド5とを有して構成されている。これらフロントヘッド5、シリンダブロック2、バルブプレート3、及び、リアヘッド4は、締結ボルト6により軸方向に締結されており、圧縮機全体のハウジング7を構成している。
【0026】
フロントヘッド5とシリンダブロック2とによって画設されるクランク室8には、一端がフロントヘッド5から突出するシャフト9が収容されている。このシャフト9のフロントヘッド5から突出した部分には、ボルト10によって軸方向に取り付けられた中継部材11が固定されており、この中継部材11にフロントヘッド5の端部に回転自在に外嵌され、且つ、車両のエンジンにベルトを介して連結される駆動プーリ12がネジ止めなどの手段によって固定されている。また、このシャフト9の一端側は、フロントヘッド5との間に設けられたシール部材13を介してフロントヘッド5との間が気密よく封じられると共にラジアル軸受14にて回転自在に支持されており、シャフト9の他端側は、シリンダブロック2に収容されたラジアル軸受15にて回転自在に支持されている。
【0027】
シリンダブロック2には、前記ラジアル軸受15が収容される貫通孔16と、この貫通孔16を中心とする円周上に等間隔に配された複数のシリンダボア17とが形成されており、それぞれのシリンダボア17には、ピストン18が往復摺動可能に挿入されている。このピストン18は、シリンダボア17内に挿入される頭部18aと、クランク室に突出する係合部18bとを軸方向に接合して中空に形成されている。
【0028】
前記シャフト9には、クランク室8内において、該シャフト9と一体に回転するスラストフランジ19が固定されている。このスラストフランジ19は、フロントヘッド5に対してスラスト軸受20を介して回転自在に支持されており、このスラストフランジ19には、リンク部材21を介して斜板22が連結されている。斜板22は、シャフト9上に設けられたヒンジボール23を中心に傾動可能に取り付けられているもので、スラストフランジ19の回転に同期して一体に回転するようになっている。そして、斜板22は、その周縁部分が前後に設けられた一対のシュー24を介してピストン18の係合部18bに係留されている。
【0029】
したがって、シャフト9が回転すると、これに伴って斜板22が回転し、この斜板22の回転運動がシュー24を介してピストン18の往復直線運動に変換され、シリンダボア内においてピストン18とバルブプレート3との間に形成される圧縮室の容積が変更されるようになっている。
【0030】
バルブプレート3には、それぞれのシリンダボア17に対応して吸入孔25と吐出孔26とが形成され、また、リアヘッド4には、圧縮室に供給する作動流体を収容する吸入室27と、圧縮室から吐出した作動流体を収容する吐出室28とが画設されている。吸入室27は、リアヘッド4の中央部分に形成されており、蒸発器の出口側に通じる吸入口29に連通すると共にバルブプレート3の吸入孔25を介して圧縮室に連通可能となっている。また、吐出室28は、吸入室27の周囲に連続的に形成されており、図示しない凝縮器の入口側に通じる吐出口に連通すると共にバルブプレート3の吐出孔26を介して圧縮室に連通可能となっている。ここで、吸入孔25は、バルブプレート3のフロント側端面に設けられた吸入弁30によって開閉され、吐出孔26は、バルブプレート3のリア側端面に設けられた吐出弁31によって開閉されるようになっている。
【0031】
シュー24は、図2に示すように、凸球面をなしてピストン18に摺接するピストン側摺接面32と、平面をなして斜板22と摺接する斜板側摺接面33とを有して球冠状に形成されている。そして、一対のシュー24は、ピストン側摺接面32においてピストン18の凹球面に摺動可能に保持され、斜板側摺接面33において斜板22の外周部の両側面である両摺接面34,35に接触し、斜板22の円板部を両側から挟持する。
【0032】
シュー24は、SUJ2等の軸受け鋼を鍛造加工することにより素材を形成し、硬化処理として焼入れ(ズブ焼き)を施したのちに、摺接面を研摩仕上げすることにより製造される。焼き入れにより約850Hvの硬度を有している。
【0033】
斜板22は、両側面の円板部であるシュー24との摺接面34,35には硬化層36が形成され、さらに硬化層36の表面に自己潤滑剤の潤滑皮膜37が形成されている。また、図2において硬化層36及び潤滑皮膜37の厚さは、理解を容易にするために誇大に表示されている。
【0034】
硬化層36は、ガス軟窒化処理によって形成された最表面の窒化化合物層を除去した拡散層で構成されており、具体的には窒素原子が金属結晶格子の原子間に侵入して固溶した層、あるいは窒素を固溶した母相に添加元素の窒化物を分散析出した層によって構成されている。
【0035】
摺接面34,35のガス軟窒化処理は、まず約500〜600℃のアンモニアガス雰囲気中で窒素ガスを拡散させて、最表面に窒化化合物層(約0.01mm)、その下部に硬化層36が形成される。ここで、図3に示すように、窒化化合物層の硬度は約1000Hvでシュー24の斜板側摺接面33よりも高く、高速摺動を行うと斜板側摺接面33を傷つけるおそれがあるため、窒化化合物層のみを取り除いて化合物層直下部の約600Hvの硬化層36が露出するように摺接面34,35が形成されている。これにより、シュー24の斜板側摺接面33よりも硬度を低く抑えながら、耐摩耗性に必要な十分な硬度(Hv550以上)が確保される。
【0036】
また、潤滑皮膜37は、硬化層36との親和性を高くするためフッ素系樹脂の固体潤滑剤により形成されるものが好ましく、フッ素系樹脂としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化樹脂、略号:PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化樹脂、略号:PCTFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリフッ化ビニル(略号:PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(略号:PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(略号:FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)などが挙げられる。
【0037】
斜板22は、FCD600をはじめとする鉄系の鋳造素材を加工して形成され、具体的には図4に示す工程によって製造される。
すなわち、鋳造により成型された斜板22の素材より最終形状に近づけるための粗加工処理(S101)を行った後、さらに寸法精度を高めるためにシュー24との摺接面34,35に旋盤による仕上げ加工処理(S102)を行う。また、硬化処理としてガス軟窒化処理(S103)を行い、ガス軟窒化処理により形成された窒化化合物のうち摺接面34、35に形成された窒化化合物を取り除く除去処理としてショットピーニング処理(S104)を行う。その後、摺接面34,35に潤滑皮膜37を形成する皮膜処理としてフッ素樹脂コーティング処理(S105)を行う。
【0038】
なお、ステップS104のショットピーニング処理の後にステップS105のフッ素樹脂コーティング処理をすることによって、ショットピーニング処理によって生じた表面の微細な凹凸にフッ素樹脂が入り込むことで、硬化層36が平滑化し潤滑皮膜37との接着力が増大するアンカー効果が得られ、潤滑皮膜37が剥がれることを防止することが可能となる。
また、斜板22の摺動により潤滑皮膜37の一部が剥がれた場合においても、硬化層36と潤滑皮膜37との親和性が高いため、上記の凹凸に入り込んだフッ素樹脂が微視的に硬化層36に混在し潤滑効果と硬度上昇効果との両方の効果の向上を図ることが可能となる。
【0039】
また、ステップS103の軟窒化処理を行う前にステップS102の仕上げ加工処理を行うことで、旋盤に用いられる刃に与えるダメージを軽減して刃の交換サイクルを長くすることが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 斜板式圧縮機
2 シリンダブロック
7 ハウジング
8 クランク室
9 シャフト
17 シリンダボア
18 ピストン
22 斜板
24 シュー
34,35 摺接面(斜板)
36 硬化層
37 潤滑皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、前記シャフトが挿通される開口部を有すると共に前記クランク室に配されて前記シャフトの回転に同期して回転する斜板と、前記斜板の周縁に係留され、前記斜板の回転に伴い前記ハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを含む斜板式圧縮機において、
前記斜板は鉄系材料からなり、
前記斜板の前記シューとの摺接面は、仕上げ加工処理が施され、前記仕上げ加工処理の後にガス軟窒化処理が施され、前記軟窒化処理の後に前記軟窒化処理により形成された硬化層を残留させて窒化化合物層を除去する除去処理が施され、前記除去処理の後に固体潤滑剤の皮膜を前記摺接面に形成する皮膜処理が施されることを特徴とする斜板式圧縮機。
【請求項2】
前記シューは、熱硬化処理が施され、
前記斜板の硬度は、前記除去処理により前記シューの硬度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の斜板式圧縮機。
【請求項3】
前記除去処理は、ショットピーニング処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の斜板式圧縮機。
【請求項4】
前記固体潤滑剤は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の斜板式圧縮機。
【請求項5】
クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持されたシャフトと、前記シャフトが挿通される開口部を有すると共に前記クランク室に配されて前記シャフトの回転に同期して回転する斜板と、前記斜板の周縁に係留され、前記斜板の回転に伴い前記ハウジングに形成されたシリンダボア内を往復摺動するピストンと、前記斜板の両側面と前記ピストンの係合部との間にそれぞれ配設され、前記斜板及び前記ピストンの両者と摺接するシューとを有し、前記斜板は鉄系材料から構成されている斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法において、
前記斜板の前記シューとの摺接面は、仕上げ加工処理を施す工程と、
前記仕上げ加工処理が施された後に軟窒化処理を施す工程と、
前記軟窒化処理が施された後に前記軟窒化処理により形成せれた硬化層を残留させて窒化化合物を除去する除去処理を施す工程と、
前記除去処理の後に固体潤滑剤の皮膜を形成する皮膜処理を施す工程とを有することを特徴とする斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法。
【請求項6】
前記除去処理は、ショットピーニング処理であることを特徴とする請求項5に記載の斜板式圧縮機の斜板の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112291(P2012−112291A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261201(P2010−261201)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオジャパン (282)
【Fターム(参考)】