説明

断熱性紙製容器用シートの製造方法

【課題】 本発明は、紙の坪量を高くすることなく、十分な発泡性(発泡量、発泡層の厚さ)が得られ断熱性に優れる断熱紙製容器用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層した断熱紙製容器用シートの製造方法において、該紙基材が2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって表面処理を施されることを特徴とする断熱紙製容器用シートの製造方法とすることにより、十分な発泡性(発泡量、発泡層の厚さ)が得られ断熱性に優れる断熱紙製容器用シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性紙製容器用シートの製造方法に関する。さらに詳細には、自動販売機等に利用されるホットコーヒーなどの充填用の断熱性紙製容器、熱湯を注入するインスタント食品用の断熱性紙製容器、電子レンジによる調理用の容器等に利用される断熱性紙製容器の製造に使用される断熱性紙製容器用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンバーガーショップなどのファーストフード店や列車の車内あるいは自動販売機などでコーヒーあるいはスープなどの温飲料が購入者に供される場合、およびカップ入り即席ラーメンなどでは一般的に断熱容器が使用されている。従来、このような用途に使用される容器としては、発泡ポリスチレン(EPS)製の断熱性を有するものが知られている。これはポリスチレンに発泡剤を加える工程を経た後、この材料をモールド内に注型し、その後、熱と圧力を加えて原料を発泡させ、成型容器を型から取り出すことによって製造される。このようにして得られた断熱性容器は断熱性の点では非常に優れている。しかし、この容器は全体のプラスチックを発泡させていることから嵩があり、ゴミ量が多くなる。そして、使用後にゴミとして焼却処分する際、高熱を発して燃焼するため焼却炉を損傷しやすく、石油資源の節約の観点からも見直しが求められている。また、環境ホルモンとしての人体への悪影響も懸念される、さらに、発泡ポリスチレンの外表面は微小な凹凸が多数存在するので、外表面に模様、文字、記号などを印刷しても鮮明に表現されない、紙カップに比べ肉厚強度が弱く即席麺などの比較的大きな容器の場合輸送中に割れたりするなどの問題があった。
【0003】
この問題に対して、特許文献1には、容器胴部材及び底板部材からなる紙製容器において、容器胴部材の外壁面に低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートし、加熱することにより、基材である紙に含まれている水分の蒸気圧を利用してフィルムを凹凸に発泡させる技術が開示されている。また、特許文献2には、胴部材の一方の壁面に、紙の表面側から低融点の熱可塑性樹脂の発泡内層とこれよりも高い融点を有する熱可塑性樹脂の非発泡外層とからなる2層構造断熱膜が被着されており、発泡内層と紙との層間強度、紙の坪量、発泡層および非発泡外層の膜厚を規定した紙製容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−110439号公報
【特許文献2】特開平05−042929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1あるいは特許文献2に記載の容器は、紙を基材とし、ラミネート層(樹脂層)は石油を原料に作られているもののその厚さは断熱性に必要な最小限に抑えられている。そのため、化石燃料の使用が極力削減されており、全体が発泡ポリスチレンからなる容器に比べて環境負荷が小さく、印刷性にも優れる。しかし、紙基材中に含まれていた水分を加熱蒸発させ、この蒸発水分により熱可塑性樹脂層を発泡させて断熱性を付与する機構であることから、紙中の水分が少ないと発泡が不十分となり、十分に発泡しないと高い断熱性は得られないため、紙基材としては高坪量のものを使用することが好ましい。一方、坪量の高い紙を用いた場合は成型加工適性が劣るといった問題がある。そこで、本発明は、紙の坪量を高くすることなく、十分な発泡性が得られ断熱性に優れる断熱紙製容器用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(2)を提供する。
(1) 紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層した断熱紙製容器用シートの製造方法において、該紙基材が2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって表面処理を施されていることを特徴とする断熱紙製容器用シートの製造方法。
(2) 前記紙基材が高濃度叩解したパルプを含有することを特徴とする(1)に記載の断熱紙製容器用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、紙の坪量を高くすることなく、十分な発泡性(発泡量、発泡層の厚さ)が得られ断熱性に優れる断熱紙製容器用シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層した断熱紙製容器用シートの製造方法において、該紙基材が2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって表面処理を施されていることを特徴とする断熱紙製容器用シートの製造方法に関する。
【0009】
本発明において、紙基材が2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって表面処理されることが重要であり、優れた効果が得られる理由は次のように推測される。表面処理がされていない紙基材を用いた断熱性紙製容器用シートを加熱・発泡させた場合、紙基材中の水分が不均一に放出されるため、均一な断熱性を有する断熱性紙製容器を得ることができない。このため、表面に皮膜を形成させた紙基材を用いることで、紙基材中から放出される水分をコントロールする方法が考えられるが、単に紙基材の表面に皮膜を形成させるだけでは、紙基材中の水分が不均一に放出されるため、均一な断熱性を有する断熱性紙製容器を得ることができない、あるいは、紙基材中の水分の放出が不十分となり、十分な断熱性を有する断熱性紙製容器を得ることができない問題がある。
一方、2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって紙基材の表面に皮膜を形成させる処理をした場合、紙基材の大きな空隙がある部分には厚い皮膜が形成され、大きな空隙がない部分には薄い皮膜が形成される。言い換えれば、断熱性紙製容器用シート加熱した際に、紙基材中から水分が放出されやすい部分には厚い皮膜、水分が放出されにくい部分には薄い皮膜が形成されるため、発泡性(発泡量、発泡層の厚さ)に優れ、均一な断熱性が得られる。
【0010】
[紙基材の表面処理]
本発明で紙基材に施される表面処理に使用される表面処理剤は、造膜性を有する水溶性高分子であれば特に限定されるものではなく、澱粉、酸化澱粉、加工澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどを例示することができ、これらを単独、あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。また、必要に応じて、耐水化剤、紙力増強剤、サイズ性などを併用することができる。なお、紙基材の表面処理に使用される表面処理剤の塗工量としては、片面当たり0.1g/m以上、3.0g/m以下程度である。このため、0.1g/m以上、3.0g/m以下程度の低塗工量で紙基材の表面を均一に処理するには、低濃度且つ低粘度の塗工液で表面処理することが必要であり、紙基材中の空隙を潰さずに維持させる必要があるため、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーターを用いることが重要である。
【0011】
[構成]
本発明は紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層することを必須の構成とした断熱紙製容器用シートの製造方法であり、それ以外の構成は特に限定されるものではないが、発泡熱可塑性樹脂層を設けた面とは反対の紙基材の面に非発泡熱可塑性樹脂層を設けることが好ましい。
【0012】
[紙基材]
(パルプ)
本発明において、パルプの原料としては特に限定されるものではなく、針葉樹、広葉樹などを用いた化学パルプ;針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)等、機械パルプ;グラウンドウッドパルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、その他;脱墨パルプ(DIP)、高濃度叩解パルプ等が挙げられ、これらを単独または任意の割合で混合して使用することができるが、これらの中ではL−BKPを使用することで、均一な紙基材が得られるとともに、印刷適性並びにポリエチレンラミネート適性などの点から望ましい。また、NBKPの含有量を全パルプに対して20重量%以下となるようにすることにより、紙基材の均一性、表面性(地合)が良好となる。さらに、発泡性(発泡量、発泡層の厚さ)の点から高濃度叩解パルプを含有させることが望ましい。
【0013】
本発明において、高濃度叩解とは、パルプを叩解する際のパルプ濃度が20〜35重量%のであることを意味し、その叩解する方法は限定されるものではなく、通常パルプの叩解で使用されるリファイナーを使用することができるが、バウアー型のダブルディスクリファイナー(DDRという)等の叩解機を用いることで容易に行うことができる。パルプ濃度が20重量%以下である場合には、得られる原紙の加工性が良好とならず、35重量%以上である場合は、パルプスラリーの流動性が低下し、安定した叩解が困難となる。また、カナダ標準ろ水度(以下C.S.F.とする)が120〜280mlの範囲となるまで叩解することが好ましい。120ml以下であると抄紙工程での脱水が遅延し、280ml以上であると得られる紙基材としての紙力が低下する。また、高濃度叩解したパルプの含有量は紙基材を構成する全パルプに対して10〜50重量%であることが好ましく、10〜50重量%であることがより好ましい。高濃度叩解パルプの配合量が10重量%より少ないと、発泡量が不十分であり、十分な断熱性が得られないともに、成型加工適性が低下する。一方、高濃度叩解したパルプの含有量が50重量%より多いと、過発泡による発泡セルの破裂してしまうため十分な断熱性を確保することが困難になるとともに、均一な紙基材が得られなくなるため、安定して発泡させることが困難となる。
【0014】
本発明において、紙の製造方法としては、各種パルプを混合して水で濃度を調整したパルプスラリー、および必要に応じて填料やその他薬品等を添加して調成した紙料を抄紙機のワイヤー上に噴射し、ワイヤーパートで脱水、プレスパートで搾水、ドライヤーパートで乾燥し、上記したサイズプレスによって表面処理を施した後、必要に応じて紙の表面の凹凸を整えるカレンダーを施して抄紙し、仕上がった紙を巻取り所定の巻取寸法に仕上げて完成される。なお、本発明における紙の製造はこれに制限されるものではない。
【0015】
(坪量)
本発明では、紙基材の加熱蒸発水分を利用して熱可塑性樹脂層が発泡する機構であることから、紙基材の坪量が重要であり、坪量は含有される水分の量に影響する。坪量が低すぎる場合は、発泡に必要な水分が少ないため十分に発泡せず、また、容器を手で把持したときに熱さを感じやすい。坪量が高すぎる場合は、水分量が必要以上に多いため、過発泡による発泡セルの破裂、容器の成型加工性が低下などの問題を生じる。
【0016】
本発明では、坪量が100g/m以上、400g/m以下が好適であり、好ましくは200g/m以上、さらに好ましくは250g/m以上、よりさらに好ましくは270g/m以上である。紙中の含水率としては、5〜15重量%が好ましく、6〜10重量%であるとさらに好ましい。水分量は、20〜32g/m程度が適当である。
【0017】
(密度)
本発明において、紙基材の密度は所望に応じて適宜設定すればよく特に限定されることはないが、0.6g/cm以上0.91g/cm以下であることが好ましい。紙基材の密度が低い方が、蒸発水分が通りやすくなるため、発泡性の点からは好ましいが、低すぎると容器に必要な紙力が得られない。一方、紙基材の密度が高すぎると容器として必要な厚さが得られないなどの問題がある。
【0018】
(紙面PH)
紙基材の表面PHとしては6以下となることが望ましい。紙面PHがアルカリ性側では繊維が水を保持しやすい状態になるのに対し、酸性側では水分を放出しやすく発泡性が良好となると考えられる。ただし、特にこれに限定されるのではなく紙の種類は、抄紙PHが酸性領域で抄紙される酸性紙、抄紙PHが疑似中性領域で抄紙される疑似中性紙、抄紙PHが中性領域で抄紙される中性紙、抄紙PHがアルカリ性領域で抄紙されるアルカリ性紙のいずれでもよく、また、酸性領域で抄紙された酸性原紙の表面にアルカリ性薬剤を塗布した中性紙も可能である。
【0019】
(填料、その他薬品等)
本発明で用いられる紙基材は、填料は無配合とすることも配合することも可能である。良好な発泡性を発現するためには無配合とすることが好ましく、不透明度を高める点からは配合することが好ましい。填料を配合する場合、種類は製紙分野で一般に使用されている填料が使用でき、特に限定されるものではない。例えば、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料が単独でまたは適宜2種類以上を組み合わせて使用される。また酸性抄紙では、前記中性抄紙で使用する填料から、酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用される。また、各種の内添サイズ剤を配合してもよく、従来から使用されている各種のノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留まり向上剤、濾水度向上剤、紙力向上剤等の製紙用内添助剤が必要に応じて適宜選択して使用される。さらに、例えば、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダや、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物や、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル等が内添することができる。
【0020】
その他、製紙用助剤として各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド、ポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物及びこれらの誘導体あるいは変性物等の各種化合物を使用できる。さらに、染料、蛍光増白剤、PH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添剤を用途に応じて適宜添加することもできる。
【0021】
(抄紙)
紙基材の製造において、抄紙機の型式は特に限定は無く、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網式抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)等の公用の抄紙機で抄紙することができる。プレス線圧は通常の操業範囲内で用いられる。また、平滑性を付与し印刷適性を向上させる目的などから、カレンダー処理を行ってもよい。カレンダーは通常の操業範囲内の線圧で用いられるが、本発明では水分の蒸発しやすさ紙が嵩高である方がより望ましく、その場合には、紙の平滑性を維持できる範囲でなるべく低線圧またはバイパスが好ましい。また、通常のカレンダーよりもソフトカレンダーを使用することが好ましい。
【0022】
[発泡熱可塑性樹脂層]
本発明の断熱紙製容器用シートは、前記紙基材上に、紙基材に含有されている水分の加熱蒸発により発泡する熱可塑性樹脂層(発泡熱可塑性樹脂層)を積層して作製される。発泡熱可塑性樹脂層となる熱可塑性樹脂(発泡熱可塑性樹脂)としては、押出しラミネートが可能でかつ発泡可能であれば特に制限されず、結晶性樹脂、非結晶性樹脂のどちらの熱可塑性樹脂も使用することができる。結晶性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、PPS樹脂等を挙げることができる。非結晶性樹脂としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、変性PPE、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。これらの発泡熱可塑性樹脂の融点としては、80〜120℃程度が好ましい。また、これらの発泡熱可塑性樹脂は単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用しても良いが、発泡性の点から単層であることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明では、ラミネート適性、発泡性に優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、大きくは直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンに区分される。密度としては、直鎖状低密度ポリエチレンは888〜910kg/m3、低密度ポリエチレンは910〜925kg/m3、中密度ポリエチレンは925〜940kg/m3、さらに高密度ポリエチレンは940〜970kg/m3程度である。融点としては、直鎖状低密度ポリエチレンは55℃〜120℃、低密度ポリエチレンは105〜120℃、中密度ポリエチレンは120〜125℃、さらに高密度ポリエチレンは125〜135℃程度である。
【0024】
[非発泡熱可塑性樹脂層]
本発明では、発泡効率を高めるために、断熱紙製容器用シートの発泡熱可塑性樹脂層を積層した紙基材の反対面を、発泡熱可塑性樹脂層よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなるとともに加熱処理した際に発泡しない熱可塑性樹脂層(非発泡熱可塑性樹脂層)、あるいはアルミ箔等で被覆することが好ましい。紙基材の片面が未処理であると、加熱処理の際にこの未処理面から紙中の水分が大気中に蒸散してしまい、十分確実に発泡させることが難しくなる。つまり、非発泡熱可塑性樹脂層を積層することにより、紙中の水分を効率良く発泡に寄与させることができる。なお、これらの非発泡熱可塑性樹脂層やアルミ箔などは、断熱紙製容器の内側に存在すると、充填液体等が紙中へ浸透することを防止でき好ましい。同様に、発泡効率を高める目的で、発泡熱可塑性樹脂層の上に、非発泡熱可塑性樹脂層を設けることもできる。発泡熱可塑性樹脂層が胴部材の外壁面側に存在するときは、その表面は凹凸があり平滑ではないため、非発泡熱可塑性樹脂層の存在により、滑らかな手触りと光沢のある外観を得ることができ、容器の防水性もより向上する。
【0025】
これらの非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂は、発泡熱可塑性樹脂層と同一であっても異なっていてもよい。同一の場合は、密度に差を持たせることにより融点に差を生じさせることができる。例えば、両者の熱可塑性樹脂としてポリエチレンを選択する場合、発泡熱可塑性樹脂層は低密度ポリエチレンとし、非発泡熱可塑性樹脂層は中密度または高密度ポリエチレンとする。発泡熱可塑性樹脂層と非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂における融点の差は5℃以上あることが好ましく、非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂の融点としては、加熱の際に融解せず蒸発水分の拡散を防止できればよく特に制限されないが、125℃以上が好ましい。
【0026】
[熱可塑性樹脂層の積層方法]
発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の形成方法は特に制限されず、紙基材上に、押出しラミネート法の他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法を適宜使用して積層すればよいが、紙基材との密着性、発泡性等の点から、押出しラミネート法が好ましい。押出しラミネートは、例えば、巻取から繰り出された紙基材の一表面に、Tダイから熱可塑性樹脂層を溶融樹脂膜の状態で押出し、クーリングロールとこれに対向するニップロールとの間で冷却しつつ圧着する方法である。押出しラミネートにおいて、樹脂の溶融温度、積層速度などの操業条件は、用いる樹脂の種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般に、例えば溶融温度は200〜350℃程度、積層速度は50〜200m/分程度である。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K−6253)のものを用い、線圧は15kgf/cm以上で押圧・圧着を行うことが好ましい。また、発泡熱可塑性樹脂層上に非発泡熱可塑性樹脂層を設ける場合や、発泡熱可塑性樹脂層を複数の熱可塑性樹脂層で形成する場合など、2以上の熱可塑性樹脂層を積層するときは、熱可塑性樹脂層間の密着性や生産効率の点から、複数台の押出機を用いて各熱可塑性樹脂を溶融状態でそれぞれのTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着する方法が適している。このような多層の熱可塑性樹脂層を同時に形成可能な方法は、押出しラミネート法の中で特に共押出しラミネート法と呼ばれる。さらに、熱可塑性樹脂層同士の間に接着性樹脂層を挟んで、樹脂層間の接着性を高めてもよい。なお、いずれの場合でも、必要に応じて紙基材や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。また、発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の各熱可塑性樹脂層の厚さについて、発泡熱可塑性樹脂層は、発泡させたときに所望の断熱性を付与するのに十分な厚さであればよく特に限定されないが、発泡前の厚さとして40〜80μm程度であることが一般的であり、非発泡熱可塑性樹脂層も、蒸発水分の飛散を防止するのに十分な厚さであって、断熱紙製容器の内壁面側に存在する場合は耐液体浸透性を確保きる厚さであれば特に限定されず、20〜50μm程度であることが一般的である。
【0027】
[断熱紙製容器の成型]
本発明において、断熱紙製容器の成型方法は特に限定されるものではないが、断熱紙製容器用シートの胴部材原材料シートと底板部材原料シートを一般的なカップ成型機により成型する方法を例示することができる。まず、断熱紙製容器用シートの巻き取りロールから胴部材原材料シートを繰り出し、所定箇所に必要な印刷を施す。この段階でバーコードなどを印刷することもできる。印刷部分の位置決めなどは常用の手段または手順により行うことができる。
【0028】
次に、それぞれの原材料シートから胴部材用ブランクと底板部材用ブランクを打ち抜き、一般のカップ成型機で容器の形に組み立てる。ここで、発泡熱可塑性樹脂層は、胴部材の外側および内側のどちらか片方あるいは両方に存在すればよく、断熱性、手触り、外観審美性など所望に応じて適宜決定すればよいが、容器内部を発泡面とした場合、飲食の際に発泡樹脂が箸やフォーク等により傷付いて口の中に入り込むおそれがあるため、外壁面側になるように存在することが望ましい。そこで、例えば、胴部材原材料シートの熱可塑性樹脂層が容器外側に向くように、また、底板部材は熱可塑性樹脂層面が容器内側に向くようにして、組み立てる。なお、底板部材原材料シートは、紙基材の少なくとも片面に1以上の熱可塑性樹脂層やアルミ泊等を設けたものが好ましく使用される。これは紙中への液体等の浸透防止のためである。底板部材に用いられる熱可塑性樹脂は、胴部材と同じであっても異なっていてもよく、積層方法も押出しラミネート法の他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法が適宜使用できる。カップ麺など湯を注入後しばらく放置するものは、容器底面からの放熱を防止する上で底部材にも発泡熱可塑性樹脂層を設けることが有効である。特に、屋外での用途や冬場や寒冷地では好ましい。また、蓋材も同様に発泡熱可塑性樹脂層を有するものを使用してもよい。
【0029】
[加熱処理による発泡]
成型後の紙製容器は、発泡させるために加熱処理を行う。本発明では、加熱処理により、胴部材の紙基材中に含まれる水分が蒸発して、熱可塑性樹脂層が発泡し発泡熱可塑性樹脂層となる。加熱温度および熱時間は使用する紙基材および熱可塑性樹脂の種類に応じて変化し、使用する熱可塑性樹脂に対する最適な加熱温度と加熱時間の組み合わせは適宜決定することができるが、加熱温度は発泡する熱可塑性樹脂の融点よりもやや高い温度(融点+5〜10℃の範囲)が適し、一般的に、加熱温度約110℃〜約200℃程度、加熱時間約1分間〜約6分間程度である。加熱手段は特に限定されず、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用できる。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で、熱風または電熱などによって加熱すれば、安価に大量生産することができる。
なお、加熱処理時の紙製容器の水分量は、必要とされる発泡量に応じて適宜調整されることが望ましいが、通常、紙基材水分量換算で5〜10重量%程度に調整される。
【0030】
[その他]
本発明では、所望の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、紙製容器の分野で公知の技術を適用することができる。例えば、外面となる胴部材の一部に合成樹脂成分を5wt%〜40wt%含有する塗料を塗布し、部分的に発泡を抑制する技術(特許第3014629号公報)、外壁面となる胴部材の表面に発泡と同調して滑らかな印刷面を形成する同調インキを塗布する技術(特許第3408156号公報)、容器胴部材の開口上縁にフランジ部を設ける技術であって、断面角型に強制加工し内側巻き込み端をフランジ部の上部に重合させて二重構造にする技術(特開2001−354226号公報)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、印刷適性を高めるために、胴部材の外壁面となる最表層に、顔料とバインダーを主成分とするインキ受理層を設けてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明する。なお、特にことわらない限り、部及び%は重量部および重量%を示す。
【0032】
[実施例1]
濾水度がCSF180mlとなるように叩解したL−BKP(高濃度叩解L−BKPという)19部、濾水度がCSF480mlとなるように通常に叩解したL−BKP(低濃度叩解L−BKPという)81部、硫酸バンド2.5%(対全パルプ)、サイズ剤0.5%(対全パルプ)の原料スラリーを用いて、坪量320g/m2の紙を抄造した。次いで、得られた紙基材に表面処理として2ロールサイズプレスコーターを用いてポリビニルアルコールを両面で0.4g/m2になるように塗工・乾燥し、紙基材を得た。
上記で得られた紙基材の片面に、発泡熱可塑性樹脂(融点108℃の低密度ポリエチレン(LDPE))を厚さ70μmとなるように340℃の溶融温度で押出し、この溶融樹脂と原紙とをクーリングロールと硬度70度のニップロールを用いて、線圧15kgf/cmで押圧・圧着した。一方、発泡熱可塑性樹脂層を積層した紙基材の反対面に非発泡熱可塑性樹脂(融点128℃の中密度ポリエチレン(中密度PE))を厚さ40μmとなるように、320℃の溶融温度で押出しラミネートし、断熱紙製容器用シートを得た。
上記の実施例で用いたパルプの濾水度はJIS P 8121 :1955に準拠して測定した。また、断熱紙製容器用シートの評価の評価は下記のように行った。結果を表1に示す。
<発泡厚さ>
断熱紙製容器用シートの水分量を30g/m(紙基材の水分量として約9%)になるように調整し、熱風115℃、6分間加熱処理を施し発泡させた紙製容器の胴部材の一部を切り出し、発泡厚さ(発泡後紙厚から発泡前紙厚を引いた値)を測定した。
【0033】
[実施例2]
表面処理をゲートロールコーターに変更した以外は、実施例1と同様にして断熱紙製容器用シートを得た。
【0034】
[比較例1]
表面処理をカレンダーサイズプレスに変更した以外は、実施例1と同様にして断熱紙製容器用シートを得た。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層した断熱紙製容器用シートの製造方法において、該紙基材が2ロールサイズプレスコーターあるいはゲートロールコーターによって表面処理を施されることを特徴とする断熱紙製容器用シートの製造方法。
【請求項2】
前記紙基材が高濃度叩解したパルプを含有することを特徴とする請求項1に記載の断熱紙製容器用シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−206384(P2012−206384A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73821(P2011−73821)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】