説明

断熱材製造方法

【課題】所定範囲の環境温度において低い熱伝導率を示す安価な断熱材の製法の提供。
【解決手段】この製法は、3つの工程を有する。第1工程では、25重量%の粉末フェノール樹脂に25重量%のマイカ粉及び50重量%のセピオライトが混練される。この工程において、8重量%のメタノールが注入される。第2工程では、基材19に高周波が照射されることにより、当該基材19が120℃に予熱される。第3工程では、予熱された基材19が金型により成形される。このとき、基材19は170℃に加熱され、20MPaで圧縮される。加熱加圧時間は、12分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境と低温環境とを隔てて低温環境を保全する断熱材の製造方法に関するものである。このような断熱材は、たとえば鉄道車両用制動装置において高温となるブレーキライニング周辺からキャリパに作動する押付装置を隔てる部材に適用される。
【背景技術】
【0002】
たとえば新幹線車両は、制動装置(ブレーキ装置)を備えている。制動装置は、車両の進行と共に回転するブレーキディスクと、これに摺動して車両の運動エネルギーを熱エネルギーに変換することによって制動を行うブレーキライニングとを有する。ブレーキライニングは、キャリパに設けられており、所要の押圧装置を介してブレーキディスクに押しつけられる。この押圧装置は、従来から空油圧変換方式が採用されており、空気圧を油圧に変換してキャリパを作動させるようになっている。この方式では、空気圧を油圧に変換するための増圧シリンダが必要であって構造が複雑になることから、近年では、空気圧のみを利用したブレーキ装置が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−92194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年提案されている空気圧のみを利用したブレーキ装置は、ダイヤフラム型を採用している。この種の装置に圧縮空気が供給されると、ゴム系材料で構成されるダイヤフラムがブレーキライニングを押し出し、当該ブレーキライニングがブレーキディスクと摺動し、制動力が発揮される。この制動のエネルギーの一部は熱に変換されるため、ブレーキライニングは高温(300℃程度の環境温度)となり、当該ブレーキライニングと上記ダイヤフラムとが直接に接触した場合、当該ダイヤフラムが損傷を受けるおそれがある。このため、ダイヤフラムを高温環境から隔てる断熱手段が必要になる。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとになされたものであって、一例として前述のような車両用制動装置における断熱対策に利用可能な断熱材の新たな製造方法を提供するものである。もっとも、従来から種々の断熱材が提案されているが、本発明の目的は、前述の温度環境において十分な断熱効果を発揮する安価な断熱材の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明に係る断熱材製造方法は、フェノール樹脂に15重量%〜30重量%のマイカ粉及び40重量%〜60重量%のセピオライトが混練されることにより基材が生成される第1工程と、高周波が照射されることにより上記基材が120℃〜130℃まで予熱される第2工程と、予熱された上記基材が165℃〜175℃に加熱され、且つ16.5MPa〜24.5MPaで圧縮される第3工程とを含む。
【0007】
この構成によれば、第1工程により生成される基材が断熱効果を発揮する。すなわち、セピオライトは、含水マグネシウム珪酸塩を主成分とする粘土鉱物であり、これに無機充填材としてのマイカ粉が混合されることによって優れた断熱性能が発揮される。また、フェノール樹脂が混練されることにより、当該フェノール樹脂により上記無機充填材としてのマイカ粉が成形(固形化)されるので、金型成形が採用されることによって、基材が所望の形状に比較的簡単に形成され得る。すなわち、上記基材の形状設計の自由度が向上する。第2工程において、基材が高周波により誘導加熱されるので、基材を構成する材料、すなわち、フェノール樹脂、セピオライト及びマイカ粉が内部から均一に予熱される。第3工程において基材が加熱圧縮成形されるが、当該工程は、一般に金型を用いた成形が行われる。そして、上記第2工程にて前述の予熱が行われているので、第3工程では基材の内部まで良好に熱処理がなされ、成形品としての基材の断熱性能が向上する。さらに、第3工程における温度及び圧力が前述の範囲に設定されるから、比較的加熱圧縮作業が簡単であり、安価に加工されるという利点がある。加えて、第3工程は金型による成形が可能であるから、他の機能部品(典型的には取付ステーその他の固定金具等)をインサート部材とするインサート成形が容易である。
【0008】
(2) 上記第1工程において混練されるフェノール樹脂は、粉末であるのが好ましい。また、上記第1工程は、メタノールが上記基材に対して8重量%〜10重量%だけ混合される工程を含むのが好ましい。さらに、上記第1工程では、セピオライト、マイカ粉及びフェノール樹脂が当該順に所定の混練容器に投入されるのが好ましい。
【0009】
これにより、セピオライト、マイカ粉及び粉末フェノール樹脂が一層均一に混練される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイカ粉及びセピオライトにフェノール樹脂が混練され、誘導加熱により内部まで均一に予熱された状態で加熱圧縮成形がなされるので、フェノール樹脂の耐熱範囲において任意の形状の断熱材が簡単且つ安価に製造され得る。しかも、機能部品をインサート部材としてインサート成形が可能であるから、用途に応じて必要な取付金具等が一体的に形成されるので、使用箇所に適合した断熱材が安価に製造され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法に供される混練装置10の模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る高周波発生装置26の模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法に供される成形装置11の模式図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法のフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法により製造された断熱材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、本発明の好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法に供される混練装置10の模式図であって、(a)は一部断面平面図、(b)は一部断面正面図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係る高周波発生装置26を模式的に示す図である。図3は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法に供される成形装置11を模式的に示す図であって、(a)〜(d)の順に工程が進捗する。さらに、図4は、本発明の一実施形態に係る断熱材製造方法のフローチャートである。
【0014】
本実施形態に係る断熱材製造方法によって製造される断熱材は、フェノール樹脂にマイカ及びセピオライトが混練され、これに所定の熱処理が施されることによって構成されている。本実施形態に係る製造方法において、製造工程にて使用されるフェノール樹脂及びマイカは、粉末のものが採用される。もっとも、フェノール樹脂は、粉末以外のものが採用されてもよいことは勿論である。
【0015】
図1が示す混練装置10は、フェノール樹脂、マイカ、セピオライトを均一に混ぜ合わせて基材19(同図(b)参照)を生成することができる。混練装置10は、ケーシング12と、ケーシング12の底部に配置された攪拌羽15とを備えている。ケーシング12は、本体13(請求項に記載された「混練容器」に相当)と蓋14とを備える。なお、同図(a)は蓋14の図示を省略している。攪拌羽15は、回転軸16と、ブレード17、18とを有する。本体13は、原材料(本実施形態では、後述のフェノール樹脂、マイカ、セピオライト)を所定量だけ収容することができる。蓋14は、本体13に取り付けられることにより、本体13内の原材料を密封することができる。図示されていないモータ等により回転軸16が駆動されると、ブレード17、18が回転し、本体13に投入された原材料が混ぜ合わされて基材19が生成される。
【0016】
上記原材料が混ぜ合わされることにより生成された基材19は、予め所定温度まで加熱(予熱)される。この予熱処理に高周波発生装置26が作用される(図2参照)。上記基材19は、所要の容器27に収容され、高周波発生装置26のテーブル28上に載置される。この高周波発生装置26は既知の構造であって、高周波発生回路29を備えている。この高周波発生回路29により発生された高周波が、上記テーブル28上に配置された基材19に照射される。これにより、いわゆる高周波誘導加熱により基材19が加熱される。
【0017】
図3が示す成形装置11は、基材19(同図(b)参照)を加熱圧縮することにより製品としての断熱材20(同図(d)参照)を製造することができる。成形装置11は、メインフレーム21及びメインフレーム21の下部に設けられたサブフレーム22と、メインフレーム21及びサブフレーム22のそれぞれに設置された上金型23及び下金型24と、これらの間に配置された中金型25とを備えている。
【0018】
サブフレーム22は、図示されていない油圧シリンダ装置によって図中上下方向にスライドされる。これにより、上金型23及び下金型24が型締め/型開きを行う。中金型25及び下金型24は、上金型23及び下金型24が型締めを行う際にキャビティを形成する。このキャビティは、基材19が加熱圧縮処理された後に形成される断熱材20の形状を規定している。したがって、上金型23、下金型24及び中金型25の形状が変更されることにより、所要の形状の断熱材20が成形され得る。
【0019】
成形装置11はインサート成形が可能である。本実施形態では、上金型23が保持器(不図示)を備えており、所要のインサート部品を保持することができる。このようなインサート部品は、典型的には取付ステーその他の固定金具等である。もっとも、インサート部品はこれに限定されるものではなく、種々の機能部品が採用され得る。本実施形態では、成形品としての断熱材20が所定の部位に取り付けられるためのステー31がインサートされる。
【0020】
次に、図4に基づいて具体的な断熱材20の製造方法が説明される。
【0021】
[第1工程]
【0022】
原材料として、粉末フェノール樹脂、マイカ粉末及びセピオライトが採用され、秤量される(ステップS1)。これら原材料の割合は、セピオライトが50重量%、マイカ粉末が25重量%及び粉末フェノール樹脂が25重量%である。また、セピオライトが52重量%、マイカ粉末が16重量%及び粉末フェノール樹脂が32重量%であってもよい。なお、原材料の割合は、これに限定されるものではなく、セピオライトが40重量%〜60重量%、マイカ粉末が15重量%〜30重量%であれば、他の混合割合が採用されてもよい。
【0023】
秤量された原材料が混練装置10の本体13内に投入され、回転軸16が駆動される。これによりブレード17、18が回転され、原材料が混ぜ合わされて基材19が生成される(ステップS2)。このとき、本実施形態では、本体13内にメタノールが注入される。このメタノールの量は、基材19に対して8重量%である。ただし、注入されるメタノールの量は、8〜10重量%であってもよい。これにより、上記原材料は、きわめて均一に混練される。なお、メタノールが注入されなくても原材料が混ぜ合わされて機材19が生成され得ることは勿論である。
【0024】
[第2工程]
【0025】
基材19が混練された後、当該基材19は、高周波発生装置26により高周波加熱される(ステップS3)。基材19に対して所定の出力で所定時間だけ高周波が照射される。これにより、基材19は、120℃に予熱される。なお、基材19の予熱温度は、120℃〜130℃に設定される。
【0026】
[第3工程]
【0027】
予熱された基材19は、成形装置11に投入される。まず、図3(a)が示すように、基材19が投入される前にサブフレーム22が下方へ移動し、型開きされる。そして、中金型25及び下金型24によって区画されたキャビティ内に、予熱された基材19が収容される(同図(b)参照)。この作業と同時に、上記ステー31が上金型23に装着される。
【0028】
次に、上記油圧シリンダ装置によって下金型24が上昇し、型締めが行われる(同図(c)参照)。型締めと同時に加熱される。この加熱は、図示されていないヒータにより行われる。このとき、基材19に加えられる圧力は20MPaであり、基材19は、170℃に加熱される。加圧加熱時間は、本実施形態では、12分である。これにより、断熱材20が生成される(ステップS4)。ただし、基材19に加えられる圧力、温度、時間は、原材料の組成割合によって変更されるが、温度は、165℃〜175℃、圧力は、16.5MPa〜24.5MPa、時間は、10分〜15分に設定される。
【0029】
その後、油圧シリンダ装置によって下金型24が下方へ移動され、型開きが行われる。成形された断熱材20は、下金型24から取り出される(ステップS5)。成形装置11から取り出された断熱材20は、冷却され、表面等の仕上加工が施されて製品となる。
【0030】
図5は、このようにして製造された断熱材20を示しており、同図(a)は平面図、同図(b)は一部断面正面図、同図(c)は底面図である。
【0031】
この断熱材20は、たとえば鉄道車両用ブレーキ装置、特にダイヤフラムを利用した空気圧式ブレーキ装置に適用され、具体的には、ダイヤフラムとブレーキライニングとの間に介在され、ダイヤフラムを高温環境から隔てる。本実施形態に係る断熱材20の外形形状は楕円であるが、これは、断熱材20が取り付けられるブレーキ装置側の要請である。したがって、断熱材20の形状は、用途に応じて種々変更され得る。また、断熱材20は、ステー31を備えている。このステー31は前述のようにインサートされたものであるから、断熱材20に強固に固定されている。断熱材20の所定位置に位置決め用の孔30が設けられている。この孔30も金型により簡単に設けられる。もっとも、孔30が省略されてもよい。
【0032】
上記セピオライトは、含水マグネシウム珪酸塩を主成分とする粘土鉱物であり、これに無機充填材としてのマイカ粉末が混合されることによって構成される断熱材20は、一定の温度領域(300℃以下)において優れた断熱性能を発揮する。本実施形態に係る断熱材20の物性値は、次のとおりである。
【0033】
熱伝導率 0.78〜1.05W/mk
圧縮強さ 130MPa
硬さ HR100(JIS G 0202 ロックウェル硬さ)
比重 2.1
吸水率 2.3%
シャルピー衝撃値 1.5kJ/m
【0034】
また、上記基材19は、粉末フェノール樹脂が混練されたものであるから、上記マイカ粉末が粉末フェノール樹脂と共に固形化される。つまり、本実施形態のように金型成形により断熱材20が形成される場合に、製品としての断熱材20の形状が比較的簡単に量産される。したがって、断熱材20の外形形状は、金型を変更することによって用途に応じた適切な形状に簡単且つ安価に形成され、設計の自由度が大きくなるという利点がある。
【0035】
特に、基材19が加熱加圧処理される前に高周波により予熱されるので、基材19を構成する粉末フェノール樹脂、セピオライト及びマイカ粉末が均一に混合される。したがって、断熱材20の断熱性能がさらに向上する。加えて、基材19の温度、圧力は、前述の程度であるから、比較的加熱圧縮作業が簡単であり、安価に加工される。
【0036】
断熱材20において上記ステー31等の機能部品は、成形時において所要の位置に簡単に設置され得る。その理由は、前述のようなインサート成形が可能であるからにほかならないが、このような機能部品が簡単に設置される結果、断熱材20への機能部品の後付け作業が不要となり、その結果、断熱材20の製造コストが大幅に削減される。加えて、成形品としての断熱材20は、フェノール樹脂が混練されているから、その後の機械加工等も簡単であるという利点がある。したがって、成形された断熱材20に対して必要な穿孔加工や面取加工も簡単に行うことが可能である。
【0037】
また、上金型23、下金型24及び中金型25を用いた加熱圧縮成形により断熱材20が構成されているので、成形品としての断熱材20の表面粗度がきわめて小さく設定され得る。これにより、断熱材20がダイヤフラムのような傷つきやすい相手方部材に直接接触する場合であっても、当該相手方部材に損傷を与えることがないという利点がある。
【符号の説明】
【0038】
10・・・混練装置
11・・・成形装置
13・・・本体
14・・・蓋
19・・・基材
20・・・断熱材
26・・・高周波発生装置





【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂に15重量%〜30重量%のマイカ粉及び40重量%〜60重量%のセピオライトが混練されることにより基材が生成される第1工程と、
高周波が照射されることにより上記基材が120℃〜130℃まで予熱される第2工程と、
予熱された上記基材が165℃〜175℃に加熱され、且つ16.5MPa〜24.5MPaで圧縮される第3工程とを含む断熱材製造方法。
【請求項2】
上記第1工程において混練されるフェノール樹脂は、粉末である請求項1に記載の断熱材製造方法。
【請求項3】
上記第1工程は、メタノールが上記基材に対して8重量%〜10重量%だけ混合される工程を含む請求項2に記載の断熱材製造工程。
【請求項4】
上記第1工程では、セピオライト、マイカ粉及びフェノール樹脂が当該順に所定の混練容器に投入される請求項1から3のいずれかに記載の断熱材製造方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−40827(P2012−40827A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185975(P2010−185975)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【特許番号】特許第4646339号(P4646339)
【特許公報発行日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000189453)上田ブレーキ株式会社 (4)
【出願人】(309027861)株式会社ユーテック (4)
【出願人】(510227779)株式会社ユーリンク (1)
【Fターム(参考)】