説明

断片化ヒドロゲル

断片化多糖類に基づくヒドロゲル組成物とその製造法及び使用が提供される。主題の多糖類に基づくヒドロゲル組成物は多糖類成分を親水性ポリマー及び架橋剤と組み合わせることにより調製される。また主題の組成物を調製するのに用いるキット及び系も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願に係る請求項は、2009年11月9日に提出した米国仮出願第61/259566号の利益を主張するものであり、該仮出願は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、親水性のホモポリマーまたはコポリマーの水膨潤網状組織である。これら網状組織は、様々な技術で形成され得るが、最も普及した合成経路は、二官能性架橋剤および膨潤剤存在下でのビニルモノマーの重合である。生成されるポリマーは、主成分の水による液体的特性および前記架橋反応で形成された前記網状組織に起因する固体的特性の両方を表す。これら固体的特性は、形状変形で明らかなせん断弾性率の形態をとる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4963489号
【特許文献2】米国特許第5080655号
【特許文献3】米国特許第5250020号
【特許文献4】米国特許第5266480号
【特許文献5】米国特許第5278201号
【特許文献6】米国特許第5278204号
【特許文献7】米国特許第5324775号
【特許文献8】米国特許第5443950号
【特許文献9】米国特許第5599916号
【特許文献10】米国特許第5609629号
【特許文献11】米国特許第5618622号
【特許文献12】米国特許第5652347号
【特許文献13】米国特許第5690955号
【特許文献14】米国特許第5725498号
【特許文献15】米国特許第5741223号
【特許文献16】米国特許第5827937号
【特許文献17】米国特許第5836970号
【特許文献18】米国特許第5852024号
【特許文献19】米国特許第5874417号
【特許文献20】米国特許第5874500号
【特許文献21】米国特許第6071301号
【特許文献22】米国特許第6344272号
【特許文献23】米国特許第6418934号
【特許文献24】米国特許第6428811号
【特許文献25】米国特許第6444797号
【特許文献26】米国特許第6530994号
【特許文献27】米国特許第6551610号
【特許文献28】米国特許第6566406号
【特許文献29】米国特許第6602952号
【特許文献30】米国特許第6645517号
【特許文献31】米国特許第7166574号
【特許文献32】米国特許第7303757号
【特許文献33】米国特許第7414028号
【特許文献34】米国特許第7482427号
【特許文献35】米国特許第7528105号
【特許文献36】米国特許第7670592号
【特許文献37】米国特許出願公開第2006/0241777号
【特許文献38】米国特許出願公開第2007/0196454号
【特許文献39】米国特許出願公開第2007/0231366号
【特許文献40】国際公開第2009/028965号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Braunova et. al. Collect.Czech.Chem.Commun. 2004,69:1643−1656
【非特許文献2】Carlson, R.P. et. al. Journal of Polymer Science, Polymer Edition. 2008,19(8):1035−1046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒドロゲルは、医療装置に使用される際に生体適合性を提供し、血栓、痂疲および炎症を誘発する傾向が少ないことが示されている。残念ながら、ヒドロゲルの生体医学装置用途は、従来のヒドロゲルの形態的および機械的特質による限界のため妨げられている。多くの医療装置は、装置の生体適合性を改善するためにヒドロゲルを使用するが、多くのヒドロゲルは被覆を施すために使用できるのみである。多くのヒドロゲルは、非膨潤ポリマー系と比較して、低せん断弾性率、低降状応力および低強度を欠点とする。低機械物性は、ヒドロゲルの膨潤性状および膨潤剤の非ストレス耐性からもたらされる。従来の生体内硬化ヒドロゲルは、特定の組織、間隙および管腔に流入適合し得るという利益を提供する。しかしながら、これらの物質は、ひとたび硬化するとその能力をしばしば失い、前記列挙した欠点を呈する。完全に硬化したヒドロゲルはより扱い易いが、形状充填、前記生体内硬化系の整合特性を欠く。
【0006】
生体内硬化ヒドロゲルの生体適合性および整合特性は望ましい一方、生体内硬化ヒドロゲルの適用法は厄介であることが特記される。二つ以上の反応性成分を、この種類の装置の出荷と貯蔵中に相互に隔離しておき、安定に保つという制約は、使用者に大きな負担を課す。前記反応性成分は、典型的には、装置キット中のいかなる再生液からも隔離して保存される。使用者は、使用時に多くの容器を集め、前記物質を再構成し、前記物質の適用前に前記再構成物を伝達系に移すことを要する。場合によっては、この工程はヒドロゲル材料物質の失活を防ぐために所定の制限時間内で完了させなければならない。
【0007】
このように、改善された治療結果を提供する生体内生体適合性ヒドロゲルを形成することができる新規組成物を開発することへの継続した必要性がある。
断片化ヒドロゲル組成物およびその生成法ならびにその使用法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
表題ヒドロゲル組成物は、ポリマー成分と架橋剤を組み合わせること、および続く断片化ヒドロゲル組成物製造のための断片化処理により調製する。表題組成物の調整に使用するためのキットおよびシステムも提供する。
【0009】
これらおよび他の本発明の目的、利点および特徴は、下記のより詳しい開示の詳細を読むことにより、当業者に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、典型的な多糖類ベースのマトリクスを示す。
【図2】図2は、PEGスクシンイミジルコハク酸の化学構造を示す。
【図3】図3は、PEGスクシンイミジルグルタレートの化学構造を示す。
【図4】図4は、PEG−PEG−キトサンヒドロゲルの典型的な組成物を示す。
【図5】図5は、断片化ヒドロゲルの入ったバイアルを示す。
【図6】図6は、断片化ヒドロゲルの再水和化のための典型的なシリンジの構成を示す。
【図7】図7は、再水和化ヒドロゲルの典型的組成物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、添付の図面と組み合わせて読むとき、下記の詳細な説明から最もよく理解されるであろう。慣例により、図面の種々の特徴は、原寸に比例していないことが強調される。逆に、種々の特徴の寸法は、明確性のために任意に拡大または減少されている。
【0012】
本発明が記載される前に、本発明は特定の記載実施例に制限されないことが理解されるべきである。なぜならそれらは言うまでもなく変化し得るからである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるのであるから、本明細書で用いる用語は、特定の実施例を記載する目的のためだけのものであり、限定することを意図していないことも理解されるべきである。
【0013】
数値の範囲が示される場合は、その範囲の上限値と下限値の間の各中間値は、文脈上他に明確に表さない限り、下限の単位の10分の1まで具体的に開示もされることを理解すべきである。表示範囲内のいかなる表示値または中間値とその表示範囲内のいかなる他の表示値または中間値の間のより小さな各範囲は、本発明の範囲に含まれる。これらのより小さい範囲の上限値と下限値は、前記範囲内に独立に含まれ得、または除外され得、前記のより小さい範囲内に限界値のいずれか、いずれでもない、または両方が含まれる各範囲も本発明の範囲に含まれ、前記表示範囲のいかなる具体的除外制限の対象ともなる。前記表示範囲が前記限界値のひとつまたは両方を含む場合、これら含まれた限界値のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0014】
他に断らない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野の当業者が共通に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するのと同様または同等のいかなる方法および材料も本発明の実施または試験に使用することができるが、いくつかの有望で好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書に記載した全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれ、前記文献の引用に関連して前記方法および/または材料を開示し記載する。本開示は、矛盾のある範囲において、組み込まれた文献の任意の開示に取って代わることが理解されるべきである。
【0015】
文脈上明確に示さない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数形“a”、“an”及び“the”は複数形対象を含むことに留意されたい。従って、例えば、“a compound”への言及は、複数のこのような化合物を含み、そして“the polymer”への言及は、一つまたは複数のポリマーおよび当業者等に周知のその相当物を含む。
【0016】
本明細書で考察される文献は、本出願の出願日前の開示のためのみに提供される。本明細書は、本発明が先の発明により、そのような文献よりも前の発明日を与えられないことを自認するものと解釈されるべきではない。さらに、記載された出版日は、現実の出版日と異なり得、独立に確認する必要があり得る。
【0017】
序論
一般に、本発明は、多糖類および2以上の追加成分から製造されたヒドロゲルを含む。表題ヒドロゲル組成物は、湿環境(例えば、血管)および乾環境の両環境において組織に結合することができ、本組成物の組織への接着は生理的に許容されるものであると特徴づけられる。前記表題組成物のさらなる特徴は、良好な忍容性と、いかなる炎症反応であろうと実質的に炎症反応を引き起こさないということにある。前記表題組成物は、下記の任意の組み合わせのような多岐にわたる望ましい品質を提供することができる:
止血性、接着性、血管再生、生体適合性、抗菌性、静菌性および/または抗真菌性、組織改変及び/または組織工学、再生、および/または細胞播種の足場の提供、酵素的または加水分解経路、膨潤、操作された滞留時間、操作された粘性、温度またはエネルギー活性化、画像療法(X−ray、CT、MRI、US、PET、CTA等)での可視化を可能にするための試薬を包含すること、操作された親水性または疎水性、空隙または空間充填、表面被覆、エネルギー吸収能、発泡剤の包含、可視化剤の包含、薬剤伝達の足場として機能する能力、音響伝送媒体および改変された硬度計としての品質である。十分に水和した断片化ヒドロゲルは、液体溶液と同様の流動性を有するが、一度使用のために充填されると当該物質は完全に硬化し、更なる架橋反応を受けることはない。このように、本発明の断片化ヒドロゲルは、生体内硬化ヒドロゲル製剤の流動的、整合的特徴と完全硬化ヒドロゲル製剤の扱いおよび使用のし易さを組み合わせる手段を提供する。
【0018】
表題の断片化多糖ベースのヒドロゲル組成物は、多糖要素とポリマーおよび架橋剤のような2以上の成分を組み合わせ、または混合して調製される。本組成物は、その後溶液に懸濁され得るポリマーマトリクスの小片を形成するように実質的に断片化される。例示的マトリクスを図1に示す。これらの各前駆成分または組成物について別々に詳細に説明する。
【0019】
組成物
前述のように、本発明の組成物は多糖成分を含む。本発明の使用に適した多糖類の例としてキトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ファミリー、ヘパリン、硫酸ケラタン、グリコーゲン、ブドウ糖、アミラーゼ、アミロペクチン及びそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。前記多糖は、天然物由来または合成的に製造されたものであり得る。多糖類は化学修飾可能な複数の反応基を有する。これらは、水酸基(OH)、カルボキシル基(COOH)およびアセトアミド基(COCH)を含む。多糖を高温度下で塩基性条件に置く塩基性脱アセチル化により、特定の多糖類に、アミン基(NH)の形で更なる官能性を付与することができる。脱アセチル化の程度は、アルカリ性条件の強さ、反応環境の温度、および反応時間による。例えば、脱アセチル化の比率(%)を制御して、単一源のキチンから異なるキトサンを得ることができる。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,874,417号のPrestwichとMarecakにより教示される、未変性のヒアルロン酸をヒドラジンの使用によりアミン基で官能化するような、多糖類に官能性を付与する他の方法が、当該技術分野で周知である。この方法では、当該二糖のカルボキシル基は溶解性カルビジイミド存在下酸性条件で多機能ヒドラジドと連結する。
【0020】
特定の実施例では、多糖はキトサンである。キトサンは、甲殻類の殻およびある種の真菌に見出される天然由来のキチンの脱アセチル化により形成される二糖である。キトサンは止血性および抗菌性を有する生体適合性で親水性のポリマーである。キトサンは天然源由来であり得または合成的に製造され得る。キトサンは、米国特許第5,836,970号、米国特許第5,599,916号および米国特許第6,444,797号に詳述されており、これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0021】
ヒドロゲル材料の多糖以外の成分は、以下のような任意の天然、合成または混成ポリマーである親水性ポリマーを含む:ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アリールアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリールアミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)−コポリ(プロピレンオキシド)、ブロック共重合体、多糖類、カルボヒドレート、オリゴペプチドおよびポリペプチドである。ポリマー鎖は、前記物質のホモ−、コ−、またはターポリマーを直鎖または分岐鎖の形で、および前記物質の誘導体を含み得る。これら物質は前記多糖と対応する前記親水性ポリマー上に存在する化学的活性基の活性による共有結合の形成を介してヒドロゲルに架橋する。本発明で好適に使用される化学的活性基は、容易に用いることのできる求核性または求電子性の残基と共有結合を形成し得るものである。
【0022】
これら例示的物質は、前記親水性ポリマー上に存在する化学的活性基の活性による共有結合の形成を介してヒドロゲルに架橋する。本発明で好適に使用される化学的活性基は、容易に用いることのできる求核性または求電子性の残基と共有結合を形成し得るものである。
【0023】
前記基体上に存在する求核基と反応し得る求電子基としては、カルボキシル基、イソシアネート、チオシアネート、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、グリシジルエーテル、グリシジルエポキシド、ビニルスルホン、マレイミド、オルソピリジルジスルフィド、ヨードアセトアミドおよびカルボジイミドが挙げられるが、これらに限定されない。前記基体上に存在する求電子基と反応し得る求核基としては、無水物類、一級、二級、三級または四級アミン、アミド、ウレタン、尿素、ヒドラジド、スルファヒドリル基またはチオールが挙げられるが、これらに限定されない。反応基の上記リストは、例示的な例として供する;他の求核基および求電子基部分への拡張は、当業者にとって明らかである。
【0024】
一実施例においては、前記ヒドロゲル組成物は、末端求核基を持つ多官能性PEG、末端求電子基を持つ多官能性PEGおよびキトサンを含む3成分ヒドロゲルである。前記重合性成分を適当な緩衝液で再構成および混合すると、これらは反応して粘着性のヒドロゲルを形成する。
【0025】
前記末端求核基を持つ多官能性PEGは、二官能性活性型、三官能性活性型、四官能性活性型または星状枝分かれ活性型ポリマーを含み得る。前記多官能求核性PEGの分子量は、1キロダルトン(kD)から100kDの範囲;5kDから40kDの範囲;または10kDから20kDの範囲内にあり得る。前記多官能求核性PEGの質量は、質量百分率で少なくとも1%;少なくとも5%;少なくとも10%;少なくとも20%;少なくとも40%;少なくとも80%;少なくとも99%で存在する。
【0026】
前記末端求電子基を持つ多官能性PEGは、二官能性活性型、三官能性活性型、四官能性活性型または星状枝分かれ活性型ポリマーを含み得る。前記多官能求電子性PEGの分子量は、1kDから100kDの範囲内;5kDから40kDの範囲内;または10kDから20kDの範囲内にあり得る。前記多官能求電子性PEGの質量は、質量百分率で少なくとも1%;少なくとも5%;少なくとも10%;少なくとも20%;少なくとも40%;少なくとも80%;少なくとも99%で存在する。
【0027】
前記多糖(例えば、キトサン)は、塩またはアミドの形で存在し得る。前記キトサンは、10ダルトンから1kDの範囲内;1kDから10kDの範囲内10kDから100kDの範囲内;100kDから250kDの範囲内;250kDから500kDの範囲内;または500kDから1000kDの範囲内の分子量を有し得る。前記キトサンは、1%から10%の範囲内;10%から20%の範囲内;20%から30%の範囲内;30%から40%の範囲内;40%から50%の範囲内;50%から60%の範囲内;60%から70%の範囲内;70%から80%の範囲内;80%から90%の範囲内;または90%から99%の範囲内の脱アセチル化率を有する。前記キトサンは、硬化ヒドロゲルの質量百分率において、 .01%から .1%の範囲内; .1%から .5%%の範囲内; .5%から1.0%の範囲内;1.0%から5%の範囲内;5%から10%の範囲内;10%から20%の範囲内;20%から40%の範囲内;40%から80%の範囲内;80%から99%の範囲内で存在し得る。特定の実施例では、多糖はキトサンである。更なる実施例においては、その開示が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,888,988号に記載のN,Oカルボキシメチルキトサンまたは国際公開第2009/028965号に記載のジカルボキシル誘導体化キトサンのような、キトサン誘導体も含み得る。例えば、ジカルボキシル誘導体化キトサンは、少なくとも2つの求電子反応基を持つポリエチレングリゴールを介して、少なくとも2つの求核反応基を持つポリエチレングリゴールに架橋し得る。
【0028】
本発明での使用に適し得る生理学的に許容されるポリマーの例は、ジエステルで修飾されてポリマーを生成するポリ(エチレングリコール)であり、前記ポリマーは、骨格に加水分解で分解可能なエステル結合および適合化学基との架橋を可能にする更なる修飾を受け得る末端エステル基を有する。以下の例は、これらの種類のポリマーを含むヒドロゲルが発現可能な加水分解速度の範囲を説明する。
【0029】
Braunovaら(Collect. Czech. Chem. Commun. 2004, 69, 1643−1656)は、ポリ(エチレングリコール)ポリマー内のエステル結合の加水分解速度は、前記エステル結合に接するメチレン基数が増大するほど減少することを示している。例えば、LLLおよび多腕ポリ(エチレングリコール)スクシニミジルコハク酸のコポリマーは、生理学的条件下、水溶性溶液中およそ8日で分解するであろう。図2に示すように、スクシニミジルコハク酸は、加水分解的に感受性が高いエステル結合に隣接する2つのメチル基を有する。
【0030】
比較すると、LLLおよび多腕ポリ(エチレングリコール)スクシニミジルグルタレートのコポリマーは、生理学的条件下、水溶液中およそ50日で分解するであろう。図3に示すように、スクシニミジルグルタレートは、加水分解的に感受性が高いエステル結合に隣接する3つのメチル基を有する。
【0031】
前記エステル結合に隣接するメチル基数が増大するほど、前記エステル結合の加水分解速度は減少する。前記エステル結合の加水分解速度のさらなる減少は、以下の次第に沿って、前記PEGポリマーのメチル基数を増大することにより達成されるはずである:PEGスクシンイミジルアジペート、PEGスクシンイミジルピメレート、PEGスクシンイミジルスベレート、PEGスクシンイミジルアゼレート、PEGスクシンイミジルセバケート等。分解時間を制御するこの方法の他の系への拡張は、当業者に容易にアクセス可能なはずである。
【0032】
合成PEGヒドロゲルの分解時間は、ポリマーの基礎的成分の化学構造を変更することなく改変することもできる。この状況は、上記2つのポリマーの前記分解時間の中間にある分解時間の事象として起こり得る。例えば、4腕、10キロダルトンのPEGサクシンイミジルコハク酸ポリマーおよびトリリジン(SS−LLL)を含むヒドロゲルは、37℃で水溶液にさらすとおよそ7日で分解する。4腕、10キロダルトンのPEGサクシンイミジルグルタレートポリマーおよびトリリジン(SS−LLL)を含むヒドロゲルは、37℃で水溶液にさらすとおよそ50日で分解する。およそ14日の分解時間を持つヒドロゲルを所望する場合には、その分解時間を達成するためにこの例に列挙した前記ポリマーを使用して適用し得る複数の方法が存在する。一つの方法は、前記二つのPEGポリマーの配合により前記反応性求電子基を提供し、前記トリリジンにより前記求核基を提供するものである。前記二つのPEGポリマーの化学両論的配合は、所望の分解時間を提供するのに変更し得る。例えば、必要な求電子基の65%をPEGサクシンイミジルコハク酸により供給し、必要な求電子基の35%をPEGサクシンイミジルグルタレートにより供給するようなPEGポリマーの配合を、37℃で水溶液にさらすとおよそ14日で分解するヒドロゲルを形成するように、トリリジン(1:1の求核基:求電子基の化学両論比を保持したまま)と組み合わせることができる。
【0033】
中間の分解時間を得る2番目の方法は、ヒドロゲルの前駆体ポリマー内で求核基の求電子基に対する化学両論比を変えることであろう。これは、求核基が複数の供与体により供給されているヒドロゲル、求核基が単一の供与体により供給されているヒドロゲル、求電子基が複数の供与体により供給されているヒドロゲル、求電子基が単一の供与体により供給されているヒドロゲル、またはそれらの組み合わせに対して行ない得る。
【0034】
中間の分解時間を得る3番目の方法は、ヒドロゲル内のポリマーの量を変えることである。例えば、所定のヒドロゲルが平衡重量5%の重合性内容物を含む場合、該ヒドロゲルの分解時間は、重合性内容物を平衡重量の5%を超えて増やすことにより延長し得る。同様に、該ヒドロゲルの分解時間は、重合性内容物を平衡重量の5%未満に減らすことにより短縮し得る。
【0035】
非分解性製剤を、生理的条件下で分解しないPEGベースのPEGジアクリレートまたは他の同様のポリマーから製造したポリマー、の様なポリマーを用いて得ることが可能である。
【0036】
本発明の他の形態は、末端求核基を持つ多官能性PEG、アルデヒド成分およびキトサンを含む3成分ヒドロゲルである。前記重合性成分を適当な緩衝液で再構成および混合すると、これらは反応して粘着性のヒドロゲルを形成する。
【0037】
組成物中の求核性PEGおよび多糖(例えば、キトサン)成分は、前述したものである。本明細書に記載する組成物中のアルデヒド成分は、任意の低毒性の生体適合性アルデヒドであり得る。特に、前記アルデヒド成分は、ジアルデヒド、ポリアルデヒドまたはそれらの混合物を含む。前記アルデヒドの例として、グリオキサール、コンドロイチン硫酸アルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタールアルデヒドおよびマレアルデヒドが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施例においては、前記アルデヒド成分はグルタールアルデヒドである。毒性の低い他の適切なアルデヒドとして、天然物質、例えば、デキストランジアルデヒドまたは糖類に由来する多官能性アルデヒド類が挙げられる。前記アルデヒド成分は、炭水化物およびその誘導体の過ヨウ素酸またはオゾン等との酸化開裂により得られるアルデヒド生成物であり得る。前記アルデヒドは、任意に熱で前処理され得る。「生体適合相転化タンパク質様組成物およびそれらの製造法ならびに使用法」(“Biocompatible phase invertable proteinaceous compositions and methods for making and using the same”)については、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Schankereliによる米国特許第7,303,757号を参照されたい。前記アルデヒド成分は、粘性およびモル浸透圧のような性質について分析し得る。粘着性組成物のアルデヒド成分は、それ自体さらに成分および/または下位成分を含み得る。この様に、前記アルデヒド成分は、混合前であれまたは混合後であれ、重量、重量対重量、重量対容量、容量対容量の観点で表し得る。例えば、多糖は、アルデヒド基で誘導体化されたデキストランを介して、少なくとも2つの反応性求核基を持つ多官能性合成ポリマーと架橋し得る。
【0038】
いくつかの実施例においては、前記アルデヒド成分は、約1〜90%のアルデヒド濃度で構成される。いくつかの実施例においては、前記アルデヒド成分は、約1〜75%のアルデヒド濃度からなる。いくつかの実施例においては、前記アルデヒド成分は、約5〜75%のアルデヒド濃度;約10〜75%のアルデヒド濃度;約20〜75%のアルデヒド濃度;約30〜75%のアルデヒド濃度;約40〜75%のアルデヒド濃度;約50〜75%のアルデヒド濃度;または約60〜75%のアルデヒド濃度からなる。
【0039】
本組成物は、少なくとも約1%のアルデヒド濃度;少なくとも約5%のアルデヒド濃度;少なくとも約10%のアルデヒド濃度;少なくとも約20%のアルデヒド濃度;少なくとも約30%のアルデヒド濃度;少なくとも約40%のアルデヒド濃度;少なくとも約50%のアルデヒド濃度;少なくとも約60%のアルデヒド濃度;少なくとも約70%のアルデヒド濃度;少なくとも約80%のアルデヒド濃度;少なくとも約90%のアルデヒド濃度;または少なくとも約99%のアルデヒド濃度を含み得る。いくつかの実施例においては、前記粘着性組成物は、約1〜30%、約25〜75%、約50〜75%または約75〜99%のアルデヒド濃度からなり得る。
【0040】
いくつかの実施例においては、本組成物は、少なくとも約1%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約5%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約8%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約10%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約20%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約30%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約40%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約50%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約60%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約70%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約80%のグルタールアルデヒド濃度;少なくとも約90%のグルタールアルデヒド濃度;または少なくとも約99%のグルタールアルデヒド濃度から。いくつかの実施例においては、本組成物は、約1〜30%;約25〜75%;約50〜75%;または約75〜99%のグルタールアルデヒド濃度を含む。
【0041】
増粘剤を上記本発明の形態に添加し得る。前記増粘剤は、例えば、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、リポソーム、プロリポソーム、グリセロール、デンプン、炭水化物、ポビドン、ポリエチレン・オキシド、ポリビニルアルコールを含む。いくつかの実施例においては、前記増粘剤は、デキストラン、ポリエチレングリコールまたはカルボキシメチルセルロースである。いくつかの実施例においては、本組成物は、少なくとも約1%の増粘剤濃度;少なくとも約5%の増粘剤濃度;少なくとも約10%の増粘剤濃度;少なくとも約20%の増粘剤濃度;少なくとも約30%の増粘剤濃度;少なくとも約40%の増粘剤濃度;少なくとも約50%の増粘剤濃度;少なくとも約60%の増粘剤濃度;少なくとも約70%の増粘剤濃度;少なくとも約80%の増粘剤濃度;または少なくとも約90%の増粘剤濃度を含む。いくつかの実施例においては、本組成物は、少なくとも約0.5%〜10%、少なくとも約0.5%〜25%または少なくとも約0.5%〜50%の増粘剤濃度を含む。いくつかの実施例においては、前記増粘剤は、本組成物の少なくとも約0.5%をなす。前記増粘剤は、本組成物のゲル化時間を変えることができる。
【0042】
本発明の前記態様のいくつかの実施例は、放射線不透過物質をさらに含み得る。放射線不透過物質としては、例えば、酸化ビスマス(Bi)、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸バリウム(BaSO)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(CeO)、酸化テルビウム、酸化イッテルビウム、酸化ネオジム、ジルコニア(ZrO)、ストロンチア(SrO)、酸化スズ(SnO)、放射線不透過ガラス、ケイ酸ガラスが挙げられる。放射線不透過ガラスとしては、例えば、ケイ酸バリウム、シリコアルミノバリウムまたはストロンチウム含有ガラスが挙げられる。ケイ酸ガラスとしては、例えば、バリウムまたはストロンチウム含有ガラスが挙げられる。いくつかの実施例においては、前記放射線不透過物質は、前記粘着性組成物の少なくとも約0.001%の;少なくとも約0.05%の;少なくとも約0.1%の;少なくとも約0.2%の;少なくとも約0.5%の;少なくとも約1%の;少なくとも約2%の;少なくとも約5%の;少なくとも約8%のまたは少なくとも約10%をなす。
【0043】
本明細書に記載する前記ヒドロゲル組成物は、様々な天然由来または合成製造された、水、緩衝液、生理食塩水、中性塩、炭水化物、繊維、その他の生体物質、湿潤剤、抗生剤、保存剤、着色剤、増粘剤、希釈剤、フィブリノーゲン、ポリエチレングリコールのようなポリマーまたはそれらの組み合わせ、のような添加物を、これらに限定されないが、任意に含み得る。ポリマー類は、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ビニルポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロ−エチレン、ポリプロピレンおよび塩化ポリビニル)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、エチレン酢酸ビニル、ポリスルホン、ニトロセルロースおよび同様のコポリマーのような合成ポリマーを含む。ポリマー類は、さらに天然由来または発酵等により生体外で製造され得る生物学的ポリマーを含む。生物学的ポリマーは、制限なく、コラーゲン、エラスチン、シルク、ケラチン、ゼラチン、ポリアミノ酸、多糖(例えば、セルロースおよびデンプン)およびそれらのコポリマーを含む。
【0044】
硬化時に材料の結合に柔軟性を与えるため、柔軟剤を前記ヒドロゲルに含ませることができる。柔軟剤は、天然物由来組成物または合成的に製造されたものであり得る。適切な柔軟剤として、合成および天然ゴム、合成ポリマー、自然の非天然の生体適合性タンパク質(外来性(つまり、非天然)コラーゲン等)、グリコサミノグリカン(GAG)(ヒアルロニンおよびコンドロイチン硫酸)および血液成分(フィブリン、フィブリノーゲン、アルブミンのような成分および他の血液因子)を挙げることができる。
【0045】
本明細書で提供される組成物は、任意に塩および/または緩衝液を含むことができる。塩の例として、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。適切な緩衝液は、例えば、アンモニウム、リン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸塩、炭酸塩、カコジル酸塩、クエン酸塩および、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)およびN−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’(2−エタンスルホン酸)(HEPES)のような他の有機緩衝液を含むことができる。適切な緩衝液は、ヒドロゲル組成物の所望のpH範囲に基づいて選択することができる。
【0046】
本組成物の機械的性質を改変するために追加の添加剤が前記配合物中に存在し得る。いくつかの添加剤は、例えば、充填剤、軟化剤および安定化剤を含む。充填剤の例としては、カーボンブラック、金属酸化物、ケイ酸、アクリル樹脂粉末、種々のセラミック粉末が挙げられるが、これらに限定されない。軟化剤の例としては、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブトキシエチルおよび他のエステルが挙げられるが、これらに限定されない。安定化剤の例としては、トリメチルジヒドロキノン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本組成物に含められ得る一つのクラスの添加剤は、ナノ粒子またはナノスケールの構造物である。所定の物理的特徴を有するように工学操作されたナノ粒子の例は、ナノシェルであり、Oldenburgらにより教示される(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,344,272号)。ナノシェルは、非導電性核を取り囲む金属殻から成り、前記核の直径および前記殻の厚みを変えることにより、前記金属の吸光波長を所定のスペクトル領域にすることが可能になる。Westらは、米国特許第6,428,811号および米国特許第6,645,517号において薬物伝達のためのナノシェルの熱感受性ポリマーマトリクスへの組み込みを開示し、さらに米国特許第6,530,994号において、局所温熱療法を介する癌治療にナノシェルを使用することを教示する(上記特許は、参照によりそれら全体が本明細書に取り込まれる)。ナノ粒子または他のナノスケール構造と本発明の組成物との組み合わせは、本組成物に追加機能(すなわち、可変同調型吸収スペクトル)を供給し得る。一例においては、局所温熱誘導のための近赤外光適用前に、近赤外光を吸収するように調整されたナノ粒子を所望の身体位置に固定するために本組成物を採用し得る。前記ナノシェルの前記ヒドロゲルマトリクス内への組み込みは、標的領域からの前記ナノシェルの浸出を防止する。
【0048】
本組成物は、任意に可塑剤も含み得る。前記可塑剤は、表面の湿潤、他にも材料の弾性率の増加、またさらには、材料の混合および利用の補助を含む多数の機能を提供する。例えばオレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸、ジオクチルフタレート、リン脂質およびフォスファチジン酸を含む多数の可塑剤が存在する。可塑剤は、典型的に非水溶性有機物であり、かつ容易に水と混和しないため、時に適切な可塑剤をアルコールと予混合して溶液に伴う表面張力を減らすことにより、それらの水との混和性を改変することが有利となり得る。この目的のために、任意のアルコールを使用し得る。本発明のある代表的実施例においては、オレイン酸が、50%(w/w)溶液を生成するようエタノールと混合され、次いでこの溶液は、配合工程でポリマー物質を可塑化するのに使用される。前記可塑剤の種類と濃度は用途に依存するが、特定の実施例においては、可塑剤の最終濃度は、約2から4%(w/w)を含む、約 .01から10%(w/w)である。他の注目に値する可塑剤として、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルヒドロキシトルエン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
注目に値する充填剤は、強化性充填剤と非強化性充填剤の両方を含む。細断繊維シルク、ポリエステル、PTFE、NYLON、炭素繊維、ポリプロピレン、ポリウレタン、ガラス等の強化性充填剤が含められ得る。繊維は、他の成分について上で説明したように、例えば湿潤性、混合性を増大させる等、所望のように改変することができる。強化性充填剤は、約10から約30%のように、約0から40%で存在し得る。例えば、クレー、マイカ、ヒドロキシアパタイト、硫酸カルシウム、骨細片等の非強化性充填剤も含められ得る。所望の場合には、これらの充填剤は、例えば上記の様に改変もされ得る。非強化性充填剤は、約10から約30%のように、約0から40%で存在し得る。
【0050】
特定の実施例においては、本組成物は発泡剤を含んでもよく、前記発泡剤は、前記架橋組成物と組み合わさされると、例えば散在するガス状気泡を含んだ組成物のような発泡組成物となる。前記架橋組成物と接触する際に、気泡産生を提供して本組成物に所望の特性を付与するような気体生成剤となることができる任意の便宜な発泡剤が存在し得る。例えば、約2から約5%w/wの範囲にある量の重炭酸ナトリウムのような塩が前記基体に存在してもよい。前記基体が、例えば約pH5の酸性の架橋組成物と組み合わされる際に、発泡組成物が産生する。
【0051】
本発明のポリマー網状組織に、生物学的活性剤を組み込むことができる。これら薬剤として、血漿タンパク質、ホルモン、酵素、抗生剤、防腐剤、抗腫瘍剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、成長因子、麻酔剤、ステロイド、細胞懸濁液、細胞毒、細胞増殖阻害剤、バイオミメティクスが挙げられるが、これらに限定されない。生物学的活性剤は、本分野で周知の任意の方法により本発明のヒドロゲルに組み込むことができる。非限定的実施例として、前記ヒドロゲルマトリクスが単剤または多剤の周囲に形成されて該単剤または該多剤を機械的に封入するように、混合前に、該単剤または該多剤を前記成分溶液に添加してもよい。あるいは、該単剤または該多剤は、混合前に一つのまたは全部の前記成分溶液に添加されてもよい。もう一つの例では、該単剤または該多剤は、前記ヒドロゲルの成分と反応して前記ヒドロゲルと共有結合を形成するように修飾または誘導化されてもよい。該単剤または該多剤は、ヒドロゲル構造のつり鎖配置(pendent chain configuration)において、または該構造の完全に一体化した成分としてヒドロゲル構造の骨格に結合し得る。さらに他の例においては、該単剤または該多剤は、ヒドロゲル内に封入またはヒドロゲルに渡り分布した疎水性領域内に懸濁されてもよい。あるいは、該単剤または該多剤は、静電的相互作用、ファンデルワールス相互作用または疎水的相互作用を介してヒドロゲルの骨格に会合されても良い。上記技術の任意の組み合わせも企図される(例えば、正荷電ヒドロゲルマトリクスに物理的に封入される負荷電剤)。封入の正確な方法は、生物学的活性剤の性質により決まる。
【0052】
方法
前記ヒドロゲルは、その各成分に適した方法で製造され得る。例えば、多腕アミン終端PEG、キトサンおよび多腕エステル終端PEGから構成されるヒドロゲルは、水溶性塩基性緩衝液中10%の質量含有率で1:1の官能基のモル比において前記3つのポリマーを組み合わせることにより製造されてもよい。
【0053】
断片化
「断片化」という用語は、単一の重合性材料全体を親材料の物性を保持した細片に破砕することによる工程を指す。これは複数の方法により達成され、該方法は、流動性ポリマー材料の注射器間での混合、刃、ロータ、ハンマー、超音波振動または他の好適技術でのポリマー材料の浸漬、やすり仕上、研磨、グレーティング、並びに円錐および旋回粉砕、ディスク摩擦摩砕、コロイドおよびロール摩砕、スクリーン摩砕および造粒、ハンマーおよびケージ摩砕、ピンおよび汎用摩砕、ジェットまたは流体エネルギー摩砕、衝撃摩砕および破砕、ジョー粉砕、ロール粉砕、ディスク摩砕、および、低温破砕および/または低温摩砕を含む垂直ローリングのような、破砕および/または摩砕工程、を含む。
【0054】
低温摩砕または低温破砕とは、試料を液体窒素で冷却し、微粉砕させて所望の粒径にする工程をいう。試料をおよそ−200℃まで冷却することにより、柔軟な試料をより脆く破砕を受けやすいようにする。低温は、従来の破砕または摩砕工程に存するより高い温度では失われるであろう前記試料の特性も保護する。これは例えば、試料を磁気的活性衝撃子と共に密閉容器に設置することにより達成できる。前記密閉容器は次いで磁気コイルに取り囲まれた液体窒素の試験槽に浸され得る。次いで、試料の温度がおよそ−200℃に達したら、前記コイルを動作させることができ、前記衝撃子が前記容器内を前後に往復して試料を微粉砕する。粒子径は、各研磨セッションの長さの変更および/または複数の破砕セッションを行うことにより制御することができる。試料容器は、適切な低温を保持するために破砕セッション間で冷却されてもよい。
【0055】
低温摩砕または破砕の他の例は、液体窒素を撹拌ボールミルと組み合わせて使用する。この方法においては、対象試料は選択の破砕媒体と共に撹拌ボールミルのドラムに装填される。媒体の種類は破砕処理の所望の結果(粒子表面積、断面比、形状、コンパクト性、分散体安定性、乳白度、流動性等)および試料の物性により異なり得る。破砕媒体の典型的な例として、貫通硬化スチールショッツ(through−hardened steel shot)、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、火打石、アルミナ、窒化シリコン、ムライト、炭化タングステン、セラミック、クロム鋼、ガラス、炭化シリコン、ステンレス鋼および炭素鋼が挙げられる。破砕媒体のサイズも、所定の研磨処理の要件に従って変わり得る。このリストは完全ではなく、追加の破砕媒体を何にするかの情報は、当業者にとり容易に入手可能なはずである。次いで前記ドラムは密封され、ドラムの温度は、ドラムの外面を取り囲む冷却筒を流動する液体窒素により低温に下げられる。前記ドラムの内容物が十分な温度まで冷却したら、ドラムの中心を通るシャフトが回転を始める。前記シャフトに取り付けられたアームとディスクが、試料を所望のサイズ(または代替仕様)に微破砕しながら、試料と媒体を撹拌する。
【0056】
使用し得るもう一つの低温破砕技術は、従来式のボールミルのドラムを冷却するのに液体窒素を用いるものである。この方法においては、前記試料と媒体はドラムに充填され、前記撹拌ボールミルで記載されたように冷却される。十分冷却されたドラム温度に到達したら、前記ドラム自身が回転して、試料断片化に必要なせん断および衝撃力を提供する。低温処理が可能な他の種類の断片化として、円錐および旋回粉砕、ディスク摩擦摩砕、コロイドおよびロール摩砕、スクリーン摩砕および造粒、ハンマーおよびケージ摩砕、ピンおよび汎用摩砕、ジェットまたは流体エネルギー摩砕、衝撃摩砕および破砕、ジョー粉砕、ロール粉砕、ディスク摩砕、および、垂直ローリングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本リストは、全てのポリマーを微細粒子に断片化する可能な方法の全部を包含するものではない。他の方法の適用範囲に、当業者は容易にアクセス可能なはずである。
乾燥
前記ヒドロゲルは、断片化を受ける前またはその後に乾燥され得る。「乾燥」という用語は、ポリマー候補体の水含量を、それにより、当初の値より低い値に減少させる任意の処理を指す。これは、種々の温度および圧力条件下で前記材料を前記ポリマー材料より水含有量が低い環境に置くことにより達成され得るが、そのうちの幾つかを表に列挙する。
【0058】
【表1】

本明細書に列挙するものを超える乾燥技術の適用は、当業者にとって容易に入手可能である。例えば、米国特許出願公開第2007/0231366号は、反応完了前に溶液の温度を反応溶液の凝固点より低下させることにより架橋反応している成分溶液を停止させ、次いで部分的に架橋したヒドロゲルから溶媒を除去して部分的架橋ヒドロゲルを凍結乾燥させること、を含むヒドロゲル乾燥法を教示する。前記部分的架橋ヒドロゲルは、次いで架橋反応を完成させる一連の処理を経る。この方法の液体固体間の相変化への依存度は煩雑であり、前記教示によるヒドロゲルの製造を採用できる製造法に制限を設ける。例えば、液体から固体状態(すなわち、凍結)への溶液の転移のタイミングは、とりわけ金型の物性と材料特性(壁厚、熱伝導率、金型表面の親水性または疎水性)、凍結法(冷却板、冷凍機、液体窒素浸漬等)、および前記架橋速度に大きく依存する。これらの変数にもかかわらず、一貫した処理を維持することは困難であり、前記教示法によるヒドロゲルのスケールアップ生産に障害をもたらす可能性がある。
【0059】
米国特許出願公開第2007/0231366号教示の前記工程の複雑性を減らす一つの方法は、凍結のように多くのパラメータに影響を受けることなく、もはや架橋を支持しないレベルまで反応成分溶液のpHを変えるというように架橋反応速度を停止または遅らせる方法を使用することである。例えば、N−ヒドロキスクシンイミドと一次アミンの二次求核置換の反応速度は、反応媒体のpHがより塩基性になると速まり、反応媒体のpHがより酸性になると減速する。従って、前記反応媒体のpHが酸性条件に移行するような十分なモル濃度と容量の酸性溶液の添加は、前記求核置換の反応速度を停止または減少させるであろう。反応速度を変更するもうひとつの手段は、前記反応媒体のイオン強度を変更することである。前記ヒドロゲル成分溶液はそこで凍結乾燥のための準備状態となる。この新規方法の利点は、ヒドロゲル成分が液体相(例えば、室温)にある状態で反応速度の変更を行うことができ、鋳型のサイズ、形状、素材に依存することがないことである。前記制約から独立した本方法は、処理工程の複雑性とユーザ依存性を減少させることによりバッチ間の製造ロットの一貫性を向上させ、より大きな金型の使用を容易にすることによりスケールアップ生産に適することとなる。
【0060】
断片化の後、得られるポリマー粒子の集合物は、所定の粒子サイズの分布を達成するのに分別されてもよい。これは、乾燥ポリマー物質を一連のふるいにかけることにより、水溶性ポリマー物質をサイズ排除カラムに通すことにより、または他の一般的に用いられるふるい法により達成してもよい。
【0061】
一例においては、ヒドロゲルは適切な反応溶媒中で製造され、次いで適切な方法を用いて乾燥および断片化される。前記乾燥粒子は、次いで好適な担体または伝達装置に装填されることができる。使用時に、滅菌生理食塩水を前記乾燥物に導入して懸濁ヒドロゲル粒子溶液となるように再水和することができる。第二の例においては、前記ポリマーは適切な反応溶媒中で製造され、所望のサイズに断片化され、そして好適な担体または伝達装置に装填される前に乾燥される。再び、使用時に滅菌生理食塩水が前記乾燥物に導入され得、これを再水和して懸濁ヒドロゲル粒子溶液にする。
【0062】
適切な媒質における再水和
微粒子を適切な緩衝液で再水和する過程によって、得られるスラリーの物理的特性を制御できる。例えば、塩基性の状態で加水分解されやすい断片化されたヒドロゲルは、酸性の水性緩衝液に再水和され、スラリーの機能の寿命を延ばし得る。別の例では、スラリーの稠度は、再溶解された溶液中で乾燥材料の質量分率を調整することによって濃いペーストから薄くて、流動性のある液体に調整され得る。
【0063】
本発明の1つの実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。
【0064】
本発明の第2の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、断片化され、注射器と注射器との間での混合を介して、部分的に水和した状態で保存される。あるいは、ヒドロゲルを適切な水性媒質にいれ、断片化と注射器と注射器との間での混合の前に、特定の時間の間又は特定の規模の膨張が達されるまで、膨張させてもよい。膨張媒質は、増粘剤、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを含んでよいが、これらに限定されない。
【0065】
本発明の第3の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、ステロイド又はステロイド類(例えば、トリアムシノロン、モメタゾンフロ酸エステル一水和物、ヒドロコルチゾンなど)とともに、酸性または中性の緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ステロイド又はステロイド類が入り込んだヒドロゲル網状組織を形成することができる。ステロイドは一般に塩基性又はアルカリ性の溶液に不溶性で、よって、ステロイドを架橋剤を含む中性から酸性の緩衝液へ付加することは、ステロイドがヒドロゲルへ取り込まれる前に、ステロイドが溶液から沈殿することを防止又は軽減するように作用する。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある、ステロイド又はステロイド類の入った粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHで水溶液に入れられる。再水和されたスラリーは、その状態で、ステロイド又はステロイド類を標的となる目的の解剖学的部位に送達するために使用されともよく、そこでは、ステロイドの薬剤放出プロフィールは、ヒドロゲルからのステロイドの拡散、若しくは断片化したヒドロゲルの加水分解又は酵素分解(加水分解及び/又は酵素分解可能な結合で作られたヒドロゲルの場合)のいずれか、若しくはその両方によって決定される。スラリーは、例えば、増粘剤を含む他の溶液と更に混ぜ合わせられてもよく、結果として送達位置からの拡散及び/又は移動に耐えるステロイドが入った微粒子の粘稠溶液が生じる。
【0066】
あるいは、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHでステロイド又はステロイド類を含む水溶液に入れられ、膨張する。再水和されたスラリーは、その状態で、ステロイド又はステロイド類を標的となる目的の解剖学的部位に送達するために使用され、若しくは更に改変されて付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0067】
第4の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、麻酔薬(例えば、リドカイン、ブピバカイン、キシロカインなど)とともに、酸性から中性の緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ステロイド又はステロイド類が入り込んだヒドロゲル網状組織を形成することができる。麻酔薬は典型的に酸性の緩衝液で配合されるので、麻酔薬を架橋剤を含む中性から酸性の緩衝液に添加することは、現在の処方の実務に従っている。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある、ステロイド又はステロイド類の入った粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHで水溶液に入れられる。再水和されたスラリーは、その状態で、麻酔薬を目的のターゲット解剖学的部位に送達するために使用されてもよく、そこでは、麻酔薬の薬剤放出プロフィールは、ヒドロゲルからのステロイドの拡散、若しくは断片化したヒドロゲルの加水分解又は酵素分解(加水分解及び/又は酵素分解可能な結合で作られたヒドロゲルの場合)のいずれか、若しくはその両方によって決定される。スラリーは、例えば、増粘剤を含む他の溶液と更に混ぜ合わせられてもよく、結果として送達位置からの拡散及び/又は移動に耐える麻酔薬が入った微粒子の粘稠溶液が生じる。
【0068】
あるいは、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHで麻酔薬を含む水溶液に入れられる。再水和されたスラリーは、その状態で、麻酔薬を目的のターゲット解剖学的部位に送達するために使用され、若しくは更に改変されて付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、増粘剤、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0069】
第5の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、セファレキシン、セファクロル(cefaclore)など)とともに、酸性から中性の緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ステロイド又はステロイド類が入り込んだヒドロゲル網状組織を形成することができる。抗生物質は典型的に酸性の緩衝液で配合されるので、麻酔薬を架橋剤を含む中性から酸性の緩衝液に添加することは、現在の処方の実務に従っている。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある、ステロイド又はステロイド類の入った粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHで水溶液に入れられる。再水和されたスラリーは、その状態で、抗生物質を目的のターゲット解剖学的部位に送達するために使用されてもよく、そこでは、抗生物質の薬剤放出プロフィールが、ヒドロゲルからの抗生物質の拡散、若しくは断片化したヒドロゲルの加水分解又は酵素分解(加水分解及び/又は酵素分解可能な結合で作られたヒドロゲルの場合)のいずれか、若しくはその両方によって決定される。スラリーは、例えば、増粘剤を含む他の溶液と更に混ぜ合わせられてもよく、結果として送達位置からの拡散及び/又は移動に耐える抗生物質が入った微粒子の粘稠溶液が生じる。
【0070】
あるいは、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、中性又は酸性のpHで抗生物質を含む水溶液に入れられ、膨張する。再水和されたスラリーは、その状態で、抗生物質を目的のターゲット解剖学的部位に送達するために使用され、若しくは更に改変されて付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、増粘剤、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0071】
第6の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで空気乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は、一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離し、多血小板血漿(PRP)のための担体として用いられる。乾燥した微粒子は、PRPの溶液と混合され、PRPをヒドロゲル網状組織の隙間に吸収する。再水和されたスラリーは、その状態で、PRPを、軟組織欠損(例えば、腱、靭帯、ヘルニア、回旋腱板など)、裂傷又は外傷の創傷床(例えば、褥瘡、糖尿病性潰瘍など)、若しくは硬組織欠損(例えば、骨)などのターゲット解剖学的部位に、指定された期間をかけて送達するためにされ得る。カルシウム、トロンビン又はコラーゲンが、PRPからの成長因子の放出を活性化するために再水和されたスラリーに加えられ得る。スラリーは更に改変され、付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、増粘剤、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0072】
ステロイド、麻酔薬、抗生物質、及びPRPを本発明の組成物に組み込む例は、任意の薬学的又は生物学的活性剤に広げることができることは、明白であるはずで、その例として、天然又は合成プラズマタンパク質、ホルモン、酵素、防腐性薬品、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症剤、ヒト由来成長因子及びヒト以外に由来する成長因子、麻酔薬、細胞懸濁液、細胞毒素、細胞増殖阻害剤、フィブリン、フィブリノゲン、コラーゲン、及び生体模倣物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
第7の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、適切にpH平衡のとれた緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで真空乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離され、キトサンの中性溶液に再水和され、流動性のあるスラリーを作る。スラリーの粘度は、乾燥微粒子の質量百分率を変更すること、又は再水和している溶液中のキトサンの濃度を変更することによって調整することができる。あるいは、第2の構成要素(例えば、デキストラン)が、増粘剤として、再水和溶液に加えられてもよい。スラリーは更に改変され、付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0074】
第8の実施形態では、多糖類及び合成ポリマーは、中性又は塩基性の緩衝液に溶解される。架橋剤は、水にさらした際に分解する加水分解領域を含み、酸性の緩衝液に溶解される。2つの溶液を混ぜ合わせ、多糖類、合成ポリマー及び架橋剤の間で、ヒドロゲル網状組織を形成することができる。その後、ヒドロゲルは、恒量まで真空乾燥され、凍結粉砕又は凍結破砕に供され、粒径の分布がある粒子の集合体を作る。乾燥した微粒子は一連のフィルターを通してふるいにかけられ、所望の範囲の粒径を分離され、使用前に酸性の溶液に再水和され、架橋剤の加水分解及びヒドロゲルの関連分解を遅らせる又は停止する。スラリーの粘度は、乾燥微粒子の質量百分率を変更すること、又は第2の構成要素(例えばデキストラン)を増粘剤として取り込むことで調整することができる。スラリーは更に改変され、付加的な構成要素、例えば、限定はされないが、放射線不透過性薬剤、防腐剤、染料、低粘稠剤(thinning agent)、柔軟剤、塩及び/又は緩衝剤、充填剤、柔軟化剤、安定剤、ナノ粒子、可塑剤、生物学的活性剤、薬学的活性剤などを取り込み得る。
【0075】
実用性
本明細書で記載される組成物は、下記のように、多くの実用性を兼ね備え得る。例えば、ヒドロゲルは、動脈瘤閉塞の塞栓として使用され得る。組成物は、神経血管瘤及び/又は周辺動脈瘤の遮断若しくは避妊にためのファロピウス管及び/又は精嚢の遮断に使用され得る。本発明組成物の更なる適用は、静脈瘤塞栓、子宮類線維塞栓、過剰血管化腫瘍の塞栓、動静脈奇形の塞栓、髄膜腫塞栓、傍神経節腫腫瘍塞栓、及び転移性腫瘍塞栓においてであり、これらは米国特許7,670,592号に教示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。腫瘍の治療は、ヒドロゲルの構成要素として、化学療法剤を含んでも含まなくてもよい。
【0076】
本組成物は、止血剤として使用され得る。本発明の1つの適用は、扁桃腺摘出後の扁桃腺、咽頭扁桃腺切除後の咽頭扁桃腺、抜歯後、歯のドライソケットの治療、鼻出血の治療、又はその他粘膜表面の破壊損傷の治療などの、損傷、火傷又は断裂した粘膜内壁の、出血の制御が必要とされる管理である。組成物を使用して、肝臓、肺、腎臓、胸部、軟組織、及びリンパ節生検で経験される、生検目的で組織を除去した後の止血制御を提供しうり、これらは、米国特許5,080,655号、5,741,223号、5,725,498号、及び6,071,301号で教示されている。前段落に記載されているすべての特許は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0077】
組成物は、糖尿病性足潰瘍静脈うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍など、高度な損傷管理を必要とする、あらゆるタイプの潰瘍及び裂傷の治療するための薬剤として作用するように使用され得る。これらの材料の目的は、露出した組織を被覆及び保護し、時に最適な治癒を促す湿った環境を提供することであり、米国特許4,963,489号、5,266,480号、及び5,443,950号に教示されている。前段落に記載されているすべての特許は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0078】
本組成物は、一般手術、婦人科手術、及び耳鼻咽喉科手術適用において、癒着バリアとして使用され、術後癒着の発生、広がり、及び重症度を減らし得る。癒着は、体内で通常は分かれている2つの臓器又は表面の間の結合を形成する瘢痕組織の1種である。仮説では、手術に起因して遊離した血液及びプラズマが、組織間でフィブリン鎖を急性に形成することがあり、これらの鎖は、数日内に、持続的な帯状組織に成熟し、正常な臓器機能を妨害したり、他の重篤な臨床的合併症をもたらすことがある。それらは、時に子宮内膜症及び骨盤内炎症性疾患に伴い、腹部、骨盤、又は血脈洞手術の後に高い頻度で形成することが知られており、それは、米国特許5,852,024号、6,551,610号、及び5,652,347号に教示されている。この種の外科的処置を受けた、90%を超える患者が、癒着を形成し得る。本組成物は、内腔が組成物の本体内で維持されるように形成され、継続した空気の流れ(即ち、血脈洞手術後の適用の間)、又は体液の排出を可能にし得る。本組成物は、組織間の分離を維持するためのステントとしても使用され得る。別の例では、本組成物は、篩骨スペーサとして使用され、手術後、篩骨洞への開口部を維持し得る。前段落に記載されているすべての特許は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0079】
本明細書で記載される組成物は、医療用具又は組織への表層コーティングとしてとして使用され、バイオフィルム、及び細菌又は真菌のコロニーの形成を防止し得る。ヒドロゲル網状組織の構成要素として、陽イオン性が強い多糖類(例えば、キトサン)を選択することによって、インプラント及び使い捨て医療用具上に継続的に表面コーティングすることを可能にし、バイオフィルムの堆積を妨害する(カールソン(Carlson),R.P.ら、Anti−biofilm properties of chitosan coated surfaces(キトサンのコーティング表面の抗バイオフィルム特性). Journal of Polymer Science、Polymer版、19(8):l035頁〜1046頁、2008年)。作用の機序は2つの面をもち得る。多糖類の物理的な構造は、細菌細胞壁を破壊するよう機能得るか、多糖類の陽イオンの特質は、陰イオン性に抗生物質に結合するのに活用され得る。あるいは、多糖類以外の構成要素、又は添加物(例えば、銀)が用いられ、類似した抗菌物質、抗菌性、又は抗真菌性特性を提供し得る。感染制御を提供する、コーティングされた表面の重要な適用は、骨髄炎の予防と治療にある。骨髄炎は、発熱性の細菌によって進行する傾向のある骨又は骨髄の感染である。関節置換、骨折内固定、又は根管治療を受けた歯(root canalled teeth)などの医原性の原因によって、骨髄炎の発症がみられ得る。本発明のヒドロゲル組成物は、局所的、継続的な抗生物質治療を可能にし得る。更にその上、組成剤は、細菌又は真菌感染を防止又は軽減するように設計され、長期にわたる全身抗生物質治療に対する必要性を減少又は除去し得、これらは、米国特許5,250,020号、5,618,622号、5,609,629号、及び5,690,955号で教示されている。前段落に記載されているすべての特許は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0080】
本明細書で記載される組成物は、細胞播種及び組織工学の適用に好ましい、制御された微細構造の多孔性及び無孔足場(scaffolds)を形成するために効果的に使用可能である。孔径及び構造を制御する方法としては、以下のようなものが挙げられる:フリーズドライ(凍結乾燥)、塩抽出、過酸化水素などの発泡剤の使用、及び当分野で周知の他の方法。現在興味深いのは、これら多孔性及び無孔足場骨格を使用して、複雑な組織の成長及び修復を可能にする複数の細胞系であり、例えば、組織工学的に作られた膵臓の形成、神経再生、軟骨の再生及び修復、骨の成長及び修復、並びに結合組織及び軟組織の修復(腹部及び鼠径部ヘルニア、骨盤底再建、膣スリング(vaginal slings)、回旋腱板、腱など)のための血管系、上皮組織、島細胞がある。
【0081】
本発明のヒドロゲル組成物は、治療薬又は緩和薬の制御された送達又は投与において使用され得る。組成物は、治療薬又は緩和薬の担体又は貯蔵場所として作用する合成構成要素を含んでもよい。薬剤は、ヒドロゲル基体の構造体に共有結合していてもよく、又は物理的にヒドロゲル基体内に取り込まれていてもよい。治療薬又は緩和薬を放出する速さは、本発明の組成物を変更することによって、制御され得る。現在興味深い標的として、次が挙げられる;腫瘍の治療のためのパクリタキセル、糖尿病治療のためのインスリン、痛みの治療のための鎮痛薬又は麻酔薬、アンフェタミン、抗ヒスタミン剤、プソイドエフェドリン、及びカフェインなどの血圧コントロールのための血管収縮薬、アルファ遮断薬、一酸化窒素誘導剤、及びパパベリン(papavarine)などの血圧調節のための血管拡張薬、スタチン(例えば、ロバスタチン(lovostatin)などのコレステロール降下薬、硫酸プロタミン、トロンビン、フィブリン、及びコラーゲンなどの凝固を制御するための凝血原、ヘパリン、クマジン、グリコプロテイン2−β−3−α、ワルファリン、アブシキシマブ、及び重硫酸クロピドグレルなどの凝固を制御するための抗凝固剤、並びにうつ病、強迫性障害、過食症、拒食症、パニック障害、及び月経前不快性障害の緩和療法を提供するフルオキセチンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤、並びにうつ病の緩和療法のためのフェネルジンなどのモノアミンオキシダーゼ阻害薬品。ヒドロゲル組成物は、組換えヒト骨形態形成タンパク質のほか、バイオサーフェシーズエンジニアリングテクノロジー(BioSurfaces Engineering Technology)によるB2A、F2A、PBA、LAI、VA5、PBA、LAI、VA5、B7A、F9A、F5A、及びF20A、米国特許第7,528,105号で教示される、ヘテロ二量体鎖合成ヘパリン結合性成長因子類似体、米国特許7,482,427号及び7,414,028号に教示される、骨形態形成タンパク質−2の正のモジュレーター、米国特許7,414,028号に教示される成長因子類似体、及び米国特許7,166,574号に教示される合成ヘパリン結合性成長因子類似体などの、この適応に使用可能な生体模倣材料などの、合成骨再生剤及びヒトに基づいた骨再生剤の担体として使用される場合があり、それらの文献はすべて、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる.
本発明の組成物は、特に美容外科及び皮膚科の領域において多様な用途を有する。可鍛性、流動性がある組成物は、注入可能な製剤として調製され得、例えば、皮膚しわ、ひだ、折り目及び唇の矯正、充てん、及び支持など、表面から深層の皮膚の増強に適切であり、これらは、米国特許5,827,937号、5,278,201号及び5,278,204号に教示されている。大容積の注入が、胸、陰茎亀頭、及び体の他の解剖的な部位の増大のために想定され、それは、米国特許6,418,934号に教示されており、記載されているすべての特許は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。豊胸を含む、体形を整える(body sculpting)処置は、整形目的及び再構築目的のために検討される。陰茎亀頭の増大は、早漏の治療に用いられている。歴史的に、早漏に対する薬物治療の主な限界は、薬の中止後、再発することである。本発明の注入可能な組成物を使用した陰茎亀頭増大は、触刺激の神経受容体へのアクセスしやすさ(accessibility)をブロックすることを介して早漏の治療を容易にする。本発明の組成物は、失禁をコントロールするための括約筋増加のための注入可能な充てん剤として、使用されることができるであろう。本願において、材料は、括約筋コントロールが回復され得るように、括約筋組織に直接注入され、組織構造を向上及び増大する。本発明の組成物は、胸部インプラントのための充填剤としても、並びに骨に留置するため及び骨の間などの空洞を埋めるために使用されるものなど、吸収性インプラント用充填剤としても使用され得、それらは、米国特許出願公開2006/0241777号に教示されており、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0082】
本明細書で記載される組成物は、また、空間充てん剤及びエネルギー障壁としても使用され、隣接組織の罹患問題を抑えて、既存のエネルギーに基づいた処置を減じ、現在の用量を減らし得る。本発明のヒドロゲル組成物は、患部以外の組織及び腫瘍標的の間の一時的な緩衝剤として作用する。この方法の利点は2つの面をもつ。製剤の空間を充填する特性は、エネルギーが適用される標的腫瘍から側副の組織を物理的に移動し、更にその上、組成物は、適用された放射線又は他のエネルギーの強度を減弱する添加剤を含むように処方され得る。例えば、組成物は、放射線療法の処置の間、前立腺の放射線障害を少なくするのに用いられ得る。本明細書で記載される、腫瘍を健康な組織から押し退けることは、頭及び首癌、骨盤、胸部、胸部及び軟組織肉腫にも適用できる。放射線療法及び外科的腫瘍除去処置における本組成物の更なる使用は、腫瘍の境界を描くための標示系として使用することである。
【0083】
本発明の組成物は、組織において空洞を埋めるために用いられ得る。可能な使用としては、荷重及び免荷双方の骨の空洞、関節軟骨の空洞又は隙間、生検手順に起因する空洞、及び心臓の中隔欠損症の治療が挙げられる。これらの空洞の治療は、ヒドロゲル組成物に、生物学的活性剤及び生物学的活性化剤を包含させることによって、強化することができる。例えば、組換えヒト骨形態形成タンパク質、又は同種移植ヒト由来骨材料、又は鉱質除去した骨基質、又は合成生体模倣材料が、組成物に組み込まれ、骨空洞の治療において補助し得る。
【0084】
本環境の組成物は、合成滑液又は他のタイプ潤滑剤として使用され得る。高度に親水性である合成ポリマーを組み込むことによって、これらの材料は、腱又は靭帯修復及び胸部外科手術などの分野において用途を見出され得る。外科的修復を受けた断裂された腱の腱鞘への癒着は、罹患した指又は肢の間節可動域を狭め、残る間節可動域を得るのに必要な労力を増やす増加させる。外科的に修復された腱と腱鞘の間の、ヒドロゲル組成物の流動性を持つスラリーの堆積は、摩擦を減らし、罹患した腱がより少ない労力で伸長できるように作用する。胸部外科手術では、癒着は、胸部の治療介入後に形成し得る。本明細書で記載されるヒドロゲルの導入は、肋膜間の癒着の形成を防止又は減少し及び、それ加えて、擦れ合う隣接した組織の動きに潤滑を提供し得る。
【0085】
キット
主題の方法を実施するに際して使用されるキットもまた提供され、そのキットは、典型的に、使用者へ出荷される前に硬化された、ヒドロゲル製剤を含む。容器は、本発明のヒドロゲル組成物の構成要素を、保持又は包囲し得る任意の構造体を指すと理解され、例示的な容器としては、注射器、バイアル、袋、カプセル、カープル、アンプル、カートリッジなどが挙げられる。容器は、付加的な構成要素(例えば、注射器を取り囲むホイルパウチ(foil pouch))を使用すること、若しくは容器自体の材料の性質(例えば、琥珀ガラスバイアル又は不透明な注射器)を選択することを通して、可視光線、紫外線、若しくは赤外線から保護され得る。
【0086】
主題のキットは、(混合構成部品を含んでも含まなくてもよい)送達装置を更に含むことができ、例えば、カテーテル装置(例えば、同一又は異なったサイズ及び形状をもつ1つ以上の内腔や、様々な形状、寸法、及び位置の出口点を有するチューブ)、類似又は異なる直径及び容積の注射器(類)、噴霧構成部品、逆止め弁、ストップコック、Y型コネクタ、空気抜き構成部品(例えば、患者に送達する前に液体溶液から空気の除去を可能にする膜)、強制的な空気の流れを導入するための引き込み口又はチャンバ、長期にわたるヒドロゲル組成物の堆積を可能にする使い捨てカートリッジ、アプリケータ又はスプレッダ、本発明の組成物の送達において機械的な有利点を実現する組立体、前記の構成部品を保護及び含有する筐体又は包装などがある。
【0087】
キットは、更に、他の構成要素を含んでもよく、例えば、乾燥剤またはキットの含水量のコントロールを維持するその他の手段、酸素スクラバー又はキット内の酸素含有量の制御を維持するその他の手段、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素又はアルゴン)、キットが経る最大温度を伝達するインジケーター類、滅菌放射線、酸化エチレン、オートクレーブ条件などへの露出を伝達するインジケーター類、構成要素への損傷を防ぎ、製品の輸送及び保存中に良好な状態に維持するのに必要とされる保持構造又は位置決め構造(例えば、トレイ類又は包装カード)がある。以下の例は非限定的であり、ヒドロゲル組成物をキットとすることの可能性を示すことを意図する。
【0088】
1つの実施形態では、硬化、乾燥、及び断片化したヒドロゲル製剤を収容する容器が供給される。粉末を再水和するのに適切な緩衝液を含む注射器が供給される。注射器は、断片化したヒドロゲルの容器に連結され、緩衝液が容器に導入され、断片化したヒドロゲルが再水和される。再水和されたヒドロゲル製剤が、注射器に引き上げられ、その時点て使用者は、先に記載されている例示的な装置の構成要素のいずれかに注射器をつなげることができる。
【0089】
第2の実施形態では、硬化、乾燥及び断片化したヒドロゲル製剤及び適切な緩衝溶液は双方とも二重室注射器(dual chamber syringe)にて供給される。使用者は、注射器プランジを押し下げること、及び乾燥したヒドロゲル断片と緩衝溶液を混合することによって乾燥したヒドロゲル断片を再水和する。そこで使用者は、先に記載されている例示的な装置の構成要素のいずれかに注射器をつなげることができる。
【0090】
第3実施形態では、硬化、乾燥、及び断片化したヒドロゲル製剤が、再水和された状態で注射器にて供給される。そして、使用者は、先に記載されている例示的装置構成部品のいずれかに注射器をつなげることができる。
【0091】
第4の実施形態では、硬化、乾燥、及び断片化したヒドロゲル製剤は、標的部位に直接適用するために、袋又は容器にて提供される。
前記の構成要素に加えて、主題のキットは、典型的に、キットの構成物を使用して目的の方法を実行するための取り扱い説明書を更に含む。目的の方法を実行するための取り扱い説明書は、一般に適切な記録媒体に記録されている。例えば、取り扱い説明書は紙又はプラスチックなどの基材に印刷され得る。従って、取り扱い説明書は、パッケージ内挿入物としてキット中にあったり、キットの容器又はキットの構成物のラベルにあり得る(即ち、包装又は副包装(subpackaging)に伴う)。他の実施形態では、取り扱い説明書は、例えば、CD―ROM、ディスケットなどの適切なコンピュータで読み込み可能な記憶媒体上の、電子的記憶データファイルとして存在する。更に他の実施形態では、実際の取り扱い説明はキットに存在しないが、例えば、インターネットを経由するなど、遠隔の供給源から取り扱い説明書を得るための手段が提供される。本実施形態の一例は、取り扱い説明書を見ることができるウェブアドレス、及び/又はそこから取り扱い説明書をダウンロードすることができるウェブアドレスを含むキットである。取り扱い説明書と同様に、取り扱い説明書を得るための手段は、適当な基材に記録される。
【0092】
実施例
以下の実施例は、いかにして本発明を作製および使用するかに関する完全な開示および記述を当業者に提供するために提示するものであり、発明者らが、その発明としてみなす範囲を限定するのものでも、あるいは下記の実験が実施されたすべての実験であること、もしくはそれら以外の実験が行われなかったことを発明者らが表すものでもない。数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確実にする努力がなされたが、いくつかの実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。別様に示さない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は℃であり、及び圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0093】
実施例1
アミン活性基をもつ分岐した(multi−armed)のポリエチレングリコールをホウ酸ナトリウム緩衝液中で、キトサンに対してポリエチレングリコールが10:1の割合でキトサンと混ぜ合わせた。ポリエチレングリコールアミンに対してポリエチレングリコールエステルが2:1の割合で、ホウ酸ナトリウム緩衝液に再溶解した、等量のエステル活性基をもつ分岐した(multi−armed)のポリエチレングリコールを、キトサン溶液と混合した。1時間経過後、堅く、透明なヒドロゲルが形成した。(図4)
実施例2
実施例1のサンプルをヒドロゲルの含水量が、環境と(質量測定によって求められる)平衡に達するまで、周囲温度及び周囲圧力下で乾燥した。続いて、サンプルをフリーザ/ミルを利用して、断片化し、細かい破砕粉末を得た。(図5)
実施例3
その後、実施例2の乾燥した粉末を可視化する目的で、青紫の染料を含む食塩水に再水和し、硬化、水和した粒子のスラリーを得た。スラリーは充分に流動可能で、最小の圧力で18Gの針を通して押し出すことができた。
【0094】
実施例4
アミン活性基をもつ分岐した(multi−armed)のポリエチレングリコールをホウ酸ナトリウム緩衝液中で、ポリエチレングリコール対キトサンが4:1の割合でキトサンと混ぜ合わせた。ポリエチレングリコールエステル対ポリエチレングリコールアミンが2:1の割合で、ホウ酸ナトリウム緩衝液に再溶解した、等量のエステル活性基をもつ分岐した(multi−armed)のポリエチレングリコールを、キトサン溶液と混合した。1時間経過後、堅く、透明なヒドロゲルが形成した。サンプルを小さく分け、注射器に入れた。メス−メス(female−female)型ルアーコネクタ及び第2の注射器を、注射器から注射器への混合ができるように、第1の注射器につなげた。(図6)ヒドロゲル製剤を、計10回通し、18Gの針から押し出し可能なスラリーが生じた。(図7)
前述の記載は本発明の原理の単なる例示である。当然のことながら当業者は、本明細書において明記または明示されていないが、本発明の原理を具現化し、その技術的思想および範囲に含まれる様々な構成を設計できる。さらに、本明細書で引用されるすべての例および条件付き表現は、原則として、本発明の原理および当該技術の推進に対して本発明者が寄与した概念について読者の理解を助けることを目的とし、そのような特定的に引用された例および条件に限定されないと解釈される。その上、本明細書において本発明の原理、態様、および実施形態を引用するすべての記述、およびその特定例は、その構造的および機能的相当物を含むことを意図する。更に、そのような相当物は、現在知られている相当物および将来開発される相当物、すなわち構造にかかわらず同一機能を実行する任意の開発された要素をどちらも含むことを意図する。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され説明される典型的な実施形態に限定することを意図しない。むしろ、本発明の範囲および技術的思想は、添付の請求項により具現化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
160ダルトンから80300ダルトンの分子量を有し、少なくとも2つの反応性求核基を含む、多糖類基体又はその誘導体と;
少なくとも2つの求核反応性基を含み、分子量が200ダルトンから100000ダルトンの合成親水性ポリマーと;
架橋剤と
を含む、ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
多糖類基体がキトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサン又はそれらの誘導体である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記合成親水性ポリマー基体が少なくとも2つの求核活性基を有するポリエチレングリコールである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が少なくとも2つの求電子活性基を有するポリエチレングリコールである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記架橋剤がアルデヒドである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記架橋剤がグルタールアルデヒドである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記架橋剤が熱処理されたグルタールアルデヒドである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が増粘剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が発泡剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が生物学的活性剤と薬理学的活性剤の両方又は一方を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が可視化剤放射線不透過性薬剤の両方又は一方を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記多糖類基体がアルカリ性水溶液に可溶性である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記多糖類基体が少なくとも30mMの濃度で水溶液に可溶性である、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
溶液中で請求項1記載のヒドロゲル組成物の成分を混合し;
前記溶液を十分な時間硬化し硬化ヒドロゲル組成物を形成し;
前記硬化ヒドロゲル組成物を断片化し断片化ヒドロゲル組成物を形成する、
ことを含む、断片化ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項15】
断片化が凍結粉砕凍結破砕の両方又は一方を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ヒドロゲル組成物が、完全に硬化または部分的に硬化した後に乾燥される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロゲル組成物が、乾燥後に断片化される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記断片化ヒドロゲル組成物が大きさにより分画される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
特定の範囲の粒径が前記断片化ヒドロゲル微粒子から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記断片化ヒドロゲル組成物を使用前に再水和することを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
請求項1記載のヒドロゲル組成物を創傷の少なくとも一部分上に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲルの位置づけにより創傷部位の出血が軽減される、
患者における創傷部位出血の軽減方法。
【請求項22】
空洞に請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を位置づけることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物が前記空洞内に部分的又は完全に充填される、
組織内空洞を充填する方法。
【請求項23】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を2つ以上の隣接組織の間に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲル組成物の位置づけにより2つ以上の隣接組織の間の癒着及び摩擦が軽減される、
2つ以上の隣接組織の間の癒着及び摩擦を軽減する方法。
【請求項24】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を患者に投与することを含み、前記投与により患者に治療薬又は緩和薬が送達される、患者に治療薬又は緩和薬を送達する方法。
【請求項25】
請求項1記載の前記ヒドロゲル組成物を現存する標的組織に投与することを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記投与により存在する標的組織が増大される、
存在する標的組織を増大する方法。
【請求項26】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を縫合線、吻合又は切開の少なくとも一部分上に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲル組成物の位置づけにより縫合線、吻合又は切開に渡る液体の漏出が軽減される、
縫合線、吻合又は切開に渡る漏出を軽減する方法。
【請求項27】
請求項1記載の前記断片化ヒドロゲル組成物を標的の血管系又は動脈瘤内に堆積させることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物の堆積により前記標的の血管系又は動脈瘤が充填又は閉鎖される、標的の血管系又は動脈瘤を充填又は閉鎖する方法。
【請求項28】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を露出表面組織の少なくとも一部分上に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲル組成物の位置づけにより前記露出表面組織を被覆及び保護する湿潤環境が与えられる、
患者の露出表面組織を被覆及び保護する湿潤環境を与える方法。
【請求項29】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を医療移植片に沈着させることを含む、
断片化ヒドロゲル組成物を医療移植片に適用する方法。
【請求項30】
前記医療移植片の表面が前記ヒドロゲル組成物で被覆される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
医療移植片における陥凹、空洞又は内腔が前記ヒドロゲル組成物で被覆または充填される、請求項29記載の方法。
【請求項32】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を組織の構築又は再生のための足場に形成することを含み、前記組織足場が任意に哺乳動物細胞を更に含む、
組織足場を形成する方法。
【請求項33】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を標的組織と隣接組織の間に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲル組成物の位置づけにより前記標的組織から前記隣接組織へのエネルギーの伝達が軽減される、
標的組織と隣接組織の間のエネルギー障壁を形成する方法。
【請求項34】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物を少なくとも2つの組織の間に位置付けることを含み、前記断片化ヒドロゲル組成物がないときに比べ、前記断片化ヒドロゲル組成物の位置づけにより前記2つの組織の互いへの癒着が与えられる、
2つ以上の組織を互いに癒着させる方法。
【請求項35】
請求項1記載の断片化ヒドロゲル組成物と;
前記断片化ヒドロゲルを標的の領域又は組織に送達させる送達装置と、
を含むキット。
【請求項36】
前記断片化ヒドロゲル組成物が第一の容器に供給され、緩衝液が第二の容器に供給される、請求項35記載のキット。
【請求項37】
前記断片化ヒドロゲル組成物用の前記容器が第一の注射器を含み、前記緩衝液用の前記容器が第二の注射器を含む請求項36記載のキット。
【請求項38】
前記断片化ヒドロゲル組成物用の前記容器がパウチを含み、前記緩衝液用の前記容器が注射器を含む、請求項36記載のキット。
【請求項39】
前記断片化ヒドロゲル組成物と緩衝液が単一の注射器に供給される、請求項35記載のキット。
【請求項40】
前記注射器が二重室注射器であり、前記断片化ヒドロゲル組成物が前記注射器の第一のチャンバに供給され、前記緩衝液が前記注射器の第二のチャンバに供給される、請求項39記載のキット。
【請求項41】
前記断片化ヒドロゲル組成物が容器中に乾燥微粒子として供給される、請求項35記載のキット。
【請求項42】
前記断片化ヒドロゲル組成物が容器中に半分又は完全に水和した微粒子として供給される、請求項35記載のキット。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−509963(P2013−509963A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538049(P2012−538049)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/055716
【国際公開番号】WO2011/057133
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512110798)スポットライト テクノロジー パートナーズ エルエルシー (2)
【氏名又は名称原語表記】SPOTLIGHT TECHNOLOGY PARTNERS LLC
【Fターム(参考)】