説明

新たな膜電極接合体

触媒膜を製造する方法が記載される。このプロセスは、触媒混合物を製造するために、非プロトン性溶媒を含む触媒の成分を混合するステップと、触媒膜を製造するために、その触媒混合物を膜に付与するステップとを含む。混合するステップにおいて、その成分は、金属分散触媒、アイオノマー、および、分散剤からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーをさらに含む。また、付与するステップにおいて、この触媒膜は、プロトン伝導膜であって、このプロトン伝導膜は、フッ素化物、非フッ素化物、および、部分的フッ素化物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体(「MEA」)に関する。より特定的には、本発明は、熱可塑性MEAをアセンブリするプロセスに関する。このMEAは、高性能を発揮し、燃料電池アプリケーション内の電極と電解質との間の良好な接着性を提供する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の供給に制限がある中で、エネルギーに対するニーズが増すにつれ、環境に優しく、再生可能なエネルギー源に対する需要が高まっている。燃料電池技術は、クリーンなエネルギー生産の将来性ある源であり、増大するエネルギーのニーズに応える筆頭候補である。燃料電池は、動作中も静かで、燃料にも融通性があり(すなわち、多数の燃料源を使用する潜在能力を有し)、コージェネレーション能力を有する(すなわち、電力と、最終的に電気に変換され得る有効な熱とが生産できる)効率的な発電装置である。様々な燃料電池のタイプの中で、プロトン交換膜燃料電池(「PEMFC」)は、最大の可能性を有する。PEMFCは、固定電子機器、携帯電子機器、および、自動車の市場に広がるエネルギー用途に使用され得る。
【0003】
PEMFCの中心に、燃料電池膜(以下、本明細書では「プロトン交換膜」と称する)があり、これは、燃料電池のアノードコンパートメントとカソードとのコンパートメントとを分離する。プロトン交換膜は、燃料電池の性能、効率、および他の主要な動作特性を制御する。その結果、膜は、効率的なガスセパレータで、効率的なイオン伝導性電解質であるべきで、燃料電池のエネルギー需要に応えるために、高いプロトン伝導率を有し、長期の燃料電池動作寿命をサポートする安定な構造を有するべきである。さらに、膜を形成するために使用される材料は、異なる燃料源および様々な動作条件に対応可能なように、物理的にも化学的にも十分に安定であるべきである。
【0004】
現在、燃料電池の膜の多くは、ペルフルオロスルホン酸(「PFSA」)材料から形成される。一般に良く知られているPFSA膜は、Nafion(登録商標)であり、これは、DuPontから市販されている。
【0005】
Nafion(登録商標)あるいはW.L.Goreおよび旭硝子などの会社によって製造される他の同様のペルフルオロ膜材料(特許文献1および特許文献2にそれぞれ記載)は、純粋な水素燃料と使用されたとき、高い酸化安定性と高性能とを示す。残念ながら、これらのペルフルオロ膜材料は、製造に高いコストがかかるので、燃料電池の商業化が制限されている。
【0006】
ペルフルオロアイオノマー材料の製造には、複雑なモノマー反応および重合反応を要する。これらの反応は、時間を要し、危険で、収率が低いことが多い。さらに、これら反応には、コスト制約があり、現在のところ、1m当たり約500ドルものコストがかかる。
【0007】
これらのコストおよび性能制約を克服するために、ポリ(ベンゾイミダゾール)(「PBI」)、フッ化ポリビニリデン(「PVDF」)、スチレン系コポリマー、および芳香族熱可塑性樹脂のような代替材料が、活発に研究されてきた。現在のところ、これら代替材料の中で、最も将来性のある材料は、酸官能基化芳香族熱可塑性樹脂である。
【0008】
ポリ(エーテルエーテルケトン)(「PEEK」)、ポリ(エーテルケトン)(「PEK」)、ポリ(スルホン)(「PSU」)、ポリ(エーテルスルホン)(「PES」)のような芳香族熱可塑性樹脂は、その低コスト、高い機械的強度、および良好なフィルム形成特性のため、燃料電池膜として、将来性ある候補である。スルホン酸基で官能基化すると、これら材料は、許容可能な燃料電池性能と低いメタノールクロスオーバーを示す。
【0009】
しかしながら、このような熱可塑性樹脂材料を加工して高品質のMEAにすることは、電極層が電解質膜に適切に接着しないために難しい。接着が弱いと、燃料電池動作中に、性能能力を発揮しきれない。電極−電解質の接着が弱いと、幾つかの特性にも影響を与え得る。これらの特性には、例えば、高いガラス転移温度(「Tg」)、触媒層内でのアイオノマー非相溶性、および、MEAアセンブリプロセスを含む。
【0010】
幾つかの研究グループが、電極−電解質界面での接着が制限される問題を解決しようと試みてきた。McGrathらは、触媒インクが非機能的な基板に最初に付与されるような転写(decal)方法を採用した。次いで、基板は、所定の温度および圧力で、電解質膜表面上に移動される。この手順によって、触媒層は電解質表面に移動される。しかしながら、触媒層と膜との間の接着を効果的にするために、プレス温度は、ポリマーのTgまたはそれより高くなくてはならない。この挑戦課題は、ほとんどの熱可塑性ポリマーに対するTgが、ポリマーが脱スルホン化を開始する温度より高いことである。一部あるいは全体が脱スルホン化すると、電極−電解質界面に関わらず、燃料電池の性能に制約を与える。他の方法は、より高いTgの熱可塑性膜上に接着しようと試みるために、触媒層の中で使用されるアイオノマー材料のTgを下げることに焦点を置いてきた。これは、Tgの差によって、適切な接着が困難となるために、ほんの限られた成果しか得られなかった。
【特許文献1】米国特許第6,287,717号明細書
【特許文献2】米国特許第6,660,818号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
残念なことに、熱可塑性樹脂ベースの材料はその剛直な構造とその結果からなる熱可塑特性のために、ある特定の場合、MEA接着に制約があり、および燃料電池性能が低いことである。したがって、必要とされるのは、コスト効率が良く、高性能で、加工が容易で、接着問題を最低限に抑える改善MEAまたはその改善MEAの製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記を達成するために、本発明は、触媒膜を製造するプロセスを提供する。本プロセスは、(1)触媒混合物を製造するために、非プロトン性溶媒を含む触媒の成分を混合するステップと、触媒膜を製造するために、その触媒混合物を付与するステップとを包含する。
【0013】
別の局面において、本発明は、燃料電池アプリケーション向けの膜電極接合体(「MEA」)を提供する。MEAは、触媒膜を含み、順に、この触媒膜は、カソード触媒層およびアノード触媒層を含む。さらに、触媒膜は、触媒混合物を製造するために、触媒の成分(その成分の一つに、非プロトン性溶媒を含む)を混合すること、および、触媒膜を製造するために、触媒混合物を膜に付与することを含むステップで製造される。
【0014】
本発明のこれらおよび他の特徴が、本発明の詳細の記述の中で、以下の図面とともに、以下により詳細に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、燃料電池のような電気化学機器に使用され得る膜電極接合体(「MEA」)を製造するプロセスを提供する。本発明の進歩性に従って作成されるMEAは、より良好な接着特性を有し、従来のMEAで見出された性能よりも優れた性能を有するMEAの製造を可能とする。このようなMEAを製造する本発明のプロセスの詳細な以下の記述において、多数の特定の詳細が、本発明の好ましい実施形態を十分に例示するために、以下に示される。しかしながら、本発明は、本明細書で紹介される一部の特定な詳細に限定されることなく、実施され得ることは、明らかである。
【0016】
図1は、燃料電池10を示し、その中に本発明の一実施形態に従ったMEA12が組み込まれている。MEA12は、プロトン交換膜46を含み、このプロトン交換膜も、また、図2に示される。しかしながら、本発明のMEAのアプリケーションは、図1に示される燃料電池の構成に限定されないこと、むしろ、例えば、米国特許第5,248,566号および第5,547,777号に記載された従来型燃料電池のアプリケーションにも、また効果的に適用され得ることには留意すべきである。さらに、幾つかの燃料電池は、本発明の膜が少なくとも1つ含まれる燃料電池スタックを形成するために、従来技術によって直列に接続され得る。
【0017】
図1に示すような電気化学電池10は、一般的に、アノード構造およびカソード構造によって側面を挟まれたMEA12を含む。アノード側に、燃料電池10は端板14、ガス流れを容易にするための開口部22を備えたグラファイトブロックあるいはバイポーラー板18、ガスケット26、および、アノードガス拡散層(「GDL」)30を含む。カソード側にも、同様に、燃料電池10は端板16、ガス流れを容易にするための開口部24を備えた黒鉛ブロックあるいはバイポーラー板20、ガスケット28、および、カソードGDL32を含む。
【0018】
アノード端板14およびカソード端板16は、それぞれ、リード線31および33によって、外部負荷(external load)50に接続される。外部負荷50は、任意の従来型電子機器あるいは負荷を含み得、それらは、米国特許第5,248,566号、第5,272,017号、第5,547,777号および第6,387,556号に記載され、これらは、あらゆる目的のため、参考として、本明細書に援用される。これら電気的コンポーネントは、当業者に周知の技術によって、密閉され得る。
【0019】
図1に示す燃料電池10において、動作中、燃料源37(例えば、コンテナまたはアンプル)から燃料がアノード12を介して拡散し、酸素源39(例えば、コンテナ、アンプルまたは大気)から酸素がMEAのカソード16を介して拡散する。MEAでの化学反応は、電力を発生し、外部負荷に運ばれる。水素燃料電池では、燃料として水素を、酸化剤として酸素(純酸素または大気中の酸素)を用いる。直接メタノール型燃料電池では、燃料は液体メタノールである。
【0020】
端板14および16は、比較的寸法的に安定な材料から製造される。このような材料は、金属および合金からなる群から選択される1つを含むことが好ましい。バイポーラー板20および22は、典型的には、グラファイト、カーボン、金属および合金からなる群から選択される任意の伝導性で、腐食耐性ある材料から製造される。ガスケット26および28は、典型的には、Teflon(登録商標)、繊維ガラス、シリコーン、ゴム、および、同様の材料からなる群から選択される任意の材料から製造される。GDL30および32は、典型的には、カーボン布またはカーボン紙のような多孔性電極材料から製造される。さらに、GDL30および32は、ガスの移動を容易にするために、何らかの種類の分散型カーボンベースの粉末を含み得る。
【0021】
図2は、MEA12の側断面図を示し、このMEA12は、図1の燃料電池10の中に組み込まれている。この実施形態に示すように、MEA12は、アノード42およびカソード44に挟まれたプロトン交換膜46を含む。アノード側に、MEA12は、GDL30およびアノード触媒層52を含む。カソード側に、MEA12は、同様に、GDL32およびカソード触媒層54を含む。カソード触媒層54、プロトン交換膜46およびアノード触媒層52は、集団となって、触媒膜を形成する。プロトン交換膜46は、ペルフルオロスルホン酸(「PFSA」)ベースの膜(例えば、DuPontによるNafion(登録商標)、旭化成によるAciplex(登録商標)、W.L.GoreによるGore Select(登録商標)および他)を含み得る。これらは、米国特許第3,784,399号、第4,042,496号、第4,330,654号、第5,221,452号および米国特許出願公開第2003/0153700号に記載されている。さらに、熱可塑性樹脂のような材料から製造される非PFSA膜は、それらの低コスト性および性能特性のために良く適している。ポリ(エーテルエーテルケトン)(「PEEK」)、ポリ(エーテルケトン)(「PEK」)、ポリ(スルホンウデル)(poly(sulfone−udel))(「PSU」)およびポリ(エーテルスルホン)(「PES」)を含む従来から利用可能な熱可塑性樹脂、ならびに、ポリアリーレンエーテルケトン、ポリアリーレンスルホン、ポリナフタレンイミドおよびポリベンズイミダゾール(「PBI」)タイプのカスタム製造された熱可塑性樹脂も、また、プロトン交換膜として、使用され得る。しかしながら、プロトン交換膜の好ましい実施形態は、図3に示される一般的構造を有する。
【0022】
図3のポリマー実施形態において、繰り返し単位「a」は、約0.1モル%〜約100モル%の間で変動し、繰り返し単位「b」、「c」および「d」は、いずれも約0%〜約50%の間で変動し得る。U、VおよびWは、スルホン、ケトン、炭素−炭素結合、分岐炭素ベースの構造、アルケン、アルキン、アミドおよびイミドからなる群から選択される官能基である。本発明の代替的な実施形態において、上記で特定したポリマーは、上記に示される芳香環の一部または全部にGおよびG’を含む。GおよびG’は、独立に、スルホン酸、燐酸、カルボン酸、スルホンアミドおよびイミダゾールからなる群から選択される1つであり、U、VまたはWのいずれかオルト位またはメタ位にあり得る。さらに、GおよびG’は、1つ以上の上述の群の化合物を含むフッ素化脂肪族鎖または非フッ素化脂肪族鎖であり得る。整数値「m」および「o」は0〜15の間である。整数「m」は0〜15の範囲であり、整数「o」は1〜15の範囲である。整数「o」がゼロに等しいとき、整数「m」は3、4、5、7、8、9、10、11、12、13、14および15に等しくなり得る。
【0023】
本発明のMEAのアノード電極コンポーネントおよびカソード電極コンポーネントは、典型的には、ポリマー電解質膜に接着される触媒層52および54を含む。電極が多孔性であることによって、電気化学的に使用可能な速度(usable rate)で、気体反応物質(gaseous reactant)がバルクを介して拡散できるべきである。好ましい触媒は、導電材料から形成され、好ましくは粒状の性質である導電材料から形成され、ポリマーバインダーによって結合される触媒材料を含み得る。触媒材料には、担持または非担持の遷移金属または遷移金属合金を含む。代表的な遷移金属または遷移金属合金には、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Ag、Au、Os、Re、Cu、Ni、Fe、Cr、Mo、Co、W、Mn、Al、Zn、Snからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むが、その中で、より好ましい金属は、Ni、Pd、Ru、Ptであり、最も好ましい金属は、Ptである。好ましい実施形態において、金属粒子の形状の触媒活性金属は、大きなカーボン粒子に付着される。カーボン粒子上に装填される(loaded)金属粒子は、約5%〜約80%(wt/wt%)の範囲であるが、好ましくは、約20%〜約50%(wt/wt%)の範囲である。カーボン粒子は、典型的には、Cabot(Billerica、MA)により入手可能なVulcan XC−72、XC−72RまたはBlack Pearls 2000のような大表面積のカーボンである。触媒層の全装填は、電極、燃料の種類およびMEAの動作条件、ならびに、結果得られる燃料電池に依存する。典型的には、膜上のPtの装填は、約0.1μg/cm〜約1mg/cmの範囲である。
【0024】
燃料電池電極は、結果として得られるMEA中の触媒層の表面領域および反応性を改善するために、少なくとも1つのイオン伝導成分をさらに含み得る。電極層内のイオン伝導材料は、イオン伝導膜とは同じ材料であってもよく、異なっていてもよい。電極内の伝導材料は、イオン伝導膜材料と同様であることが好ましい。現在のところ、最も一般的に使用されるイオン伝導膜材料は、PFSAタイプのものである。
【0025】
また、電極は、少なくとも一部に、疎水性材料を含み得る。好ましい材料は、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)のようなペルフルオロ化タイプである。しかしながら、他の疎水性材料も、また使用され得る。この成分は、典型的には、燃料電池動作中の水の管理に役立てるために追加される。
【0026】
本発明は、本発明の一実施形態に従うプロセスである。この実施形態において、良好な接着特性を有する高性能MEAが、製造される。図3は、本発明のプロセスに従う触媒膜を製造するために、処理される膜構造の実施形態を示す。しかしながら、記載された本発明のプロセスは、図4に示す一般的構造を有する膜を組み込んだMEAを製造するために、用いられることが好ましい。
【0027】
本発明のMEAをアセンブリするプロセスの一実施形態の第一のステップは、非プロトン性溶媒を含む混合物を製造するために、触媒の成分を混合するステップを含む。このステップでの混合は、音波処理、機械的攪拌、高剪断混合、および、均一化の任意の一つまたは組み合わせを含み得る。
【0028】
特定の実施形態において、第一のステップの結果、非プロトン性溶媒を含む調合された(prepared)触媒インクを得る。触媒混合物内の非プロトン性溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミド(「DMAc」)、N−メチル−2−ピロリジノン(「NMP」)、ジメチルスルホキシド(「DMSO」)、ポリビニルピロリドン(「PVP」)、および、N,N−ジメチルホルムアミド(「DMF」)からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。触媒混合物は、非プロトン性溶媒を0.0001重量%〜約90重量%の間で含み得る。非プロトン性溶媒が存在すると、膜材料に触媒混合物を付与する間に、膜表面を効率的に部分溶解することが可能になり、触媒混合物が膜表面に効率的に接着することが可能になると考えられている。この双方は、従来の技術によって、同時には達成されなかった。
【0029】
第一のステップの触媒混合物は、金属分散触媒、アイオノマー溶液および分散剤のような他の材料を含み得る。一実施形態において、触媒混合物は、金属分散触媒を約0.5重量%〜約80重量%の間で含み、アイオノマー溶液を約0.1重量%〜約60重量%の間で含み、分散剤を約0.1重量%〜約99重量%の間で含む。
【0030】
金属分散触媒は、担持または非担持の遷移金属または遷移金属合金からなる群から選択される少なくとも一つのメンバーを含む。最も好ましい担持材料は、カーボンである。遷移金属は、当業者に周知の遷移金属または遷移金属合金であり得る。
【0031】
触媒混合物中のアイオノマー溶液の組成は、イオン伝導膜の最終的な処方(formulation)に依存する。本発明の一実施形態において、アイオノマー溶液は、フッ素化物、非フッ素化物および部分的フッ素化物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。本発明の代替的な実施形態においては、アイオノマーは、芳香族化合物および脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。
【0032】
触媒混合物の中に分散剤が存在するこれらの場合において、分散剤は、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、グリセロール、エチレングリコール、水酸化テトラブチルアンモニウム、ジグライム、酢酸ブチル、シュウ酸ジメチル、アミルアルコール、ポリビニルアルコール、キシレン、クロロホルム、トルエン、m−クレゾールおよび水からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。分散剤を形成する材料の選択は、触媒層および結果として得られるMEAの所望の特性に依存する。
【0033】
他の実施形態において、本発明の第一のステップは、触媒混合物を生成し、この触媒混合物は、誘電率調整剤、孔形成剤、疎水性添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、触媒混合物の様々な成分は、凝集および定着を最低限にする実質的に均質な混合物を達成するために、一緒に混合される。
【0035】
次いで、プロセスの第二のステップは、触媒膜を製造するために、第一のステップで調合された触媒混合物を膜に付与することを含む。付与の技術には、スプレー、塗装、テープ成形、浸漬コーティングおよびスクリーン印刷の任意の一つまたは組み合わせを含み得る。
【0036】
本ステップにおいて、上記膜上の上記触媒混合物中の金属分散触媒の充填は、約0.001〜約5mg/cmの間である。例として、このような充填は、ポリマー電極上に電気触媒を充填することによって達成され得る。
【0037】
触媒混合物を付与した後、オプションの乾燥のステップが実行され得る。このオプションのステップにおいて、膜上にコーティングされた触媒混合物は、炉内にコーティングされた膜を置くことによって乾燥される。これは、触媒混合物中の溶媒のかなりの量が除去されることを確実にするためである。好ましい実施形態において、これは、約25℃〜250℃の間の温度で、約0.1時間〜約35時間の間にわたって、コーティングされた膜を処理することによって達成される。その結果得られる電気触媒層は、約0.5μm〜約100μmの間の厚さ、好ましくは、約0.5μm〜約40μmの間の厚さを有するべきである。0.5μmより薄い触媒層は、典型的には、フィルムの多孔性の性質によって、不均質であり、不規則である。さらに、100μmを超える触媒膜は、浸透性が劣化し、抵抗が増し、触媒としての稼働率が劇的に低下する。
【0038】
別のオプションのステップには、触媒混合物でコーティングされた乾燥膜をコンパクト化することを含む。一例として、触媒膜は、約25℃〜250℃の間の温度で、約25kg/cm〜約200kg/cmの間の圧力で、加熱プレスされる。しかしながら、好ましい実施形態において、このオプションのステップは、約100℃〜175℃の間の温度で、約5秒〜約120分の間の期間にわたって、実行される。
【0039】
さらなる別のオプションのステップは、触媒膜を酸性溶液で処理することを含む。好ましい実施形態において、本発明のこのステップは、MEA内のアイオノマーの酸性サイトをプロトン化することを含む。酸ベースの溶液は、硫酸、硝酸、燐酸、カルボン酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。一例として、MEAは、約0.000001モル/リットル〜約3モル/リットルの間の濃度を有する酸性溶液の中に、約0.1時間〜約5時間の間にわたり、約25℃〜約100℃の温度で置かれる。
【0040】
さらなる別のオプションのステップは、触媒膜を水で処理することを含む。このステップにおいて、MEAは、約0.25時間〜約4時間の間、水中で洗浄および浸漬され得る。これは、非プロトン性溶媒のかなりの部分を除去するためである。残存する痕跡量の非プロトン性溶媒は、結果として得られるMEAの性能と寿命とを制限し得る。
【0041】
MEAのアセンブリは、触媒膜を2つの電極間に挟むことを必然的にともなう。これら電極は、ガス拡散電極であることが好ましい。一実施形態において、本発明で使用されるガス拡散電極は、カーボン紙またはカーボン布をカーボン−PTFEスラリーでコーティングすることによって作成される。このスラリーは、以下に記載のように形成される。Vulcan XC−72R(Cabot Corporationから市販)のような大表面積のカーボン粉末が、水−イソプロピルアルコール混合物(水が約1体積%〜約75体積%)と十分に混合される。このような混合物は、超音波処理および機械的攪拌によって達成される。一度、溶液が実質的に均質になると、溶液を攪拌する間に、DuPontのPTFE T30BのようなTeflon(登録商標)懸濁液が、追加され得る(約10重量%〜約50重量%)。本発明の好ましい一実施形態に従うと、カーボンスラリーは、例えば、汎用のスプレーガンを用いてスプレーすることによって、カーボン紙またはカーボン布の基板上にコーティングされる。他の付与方法には、塗装、テープ成形および印刷を含む。このようなコーティングは、多孔性ボディーを有する基板を製造する。この基板は、真空または不活性ガス中で、約250℃〜約350℃の間の温度で、約0.5時間〜約4時間の期間にわたり、処理される。カーボン充填を約1〜約10mg/cmの間にすることは、最適なガス拡散性能を達成するために好ましい。
【0042】
記載されたMEAアセンブリのプロセスは、従来型熱可塑材ベースのMEAに比較して、良好な電極−電解質接着を示す。図5および図6は、MEAのような電極−電解質の接着の程度を示す。図5に示す比較の目的で使用されるMEAは、従来技術によって製造され、図6に示す比較の目的で使用されるMEAは、上述の本発明のプロセスによって製造される。図5に示されるMEAは、図6に示されるMEAと、触媒混合物の組成が非プロトン性溶媒を一切含まない点を除くと、同じ方法で製造される。これら図の双方によって分かるのは、非プロトン性溶媒を含む混合物を使用することを含む本発明のプロセスから製造された触媒コーティング膜(「CCM」)は、非プロトン性溶媒を含まないMEAに比べ、優れた電極−電解質の接着を示すことである。その結果、触媒混合物中の非プロトン性溶媒の存在は、触媒層とポリマー表面との間の接着の改善に役立つと、考えられる。
【0043】
非プロトン性溶媒を用いて製造されたMEAの燃料電池性能と、それを用いずに製造されたMEAの燃料電池との例が、図7および図8に示される。テストは、約80℃で、100%RHのテスト条件で、純水素および純酸素を用いて行われた。図7から示すように、記載された本発明の方法は、従来の方法より良好な電解質と電極との接着および相互作用のために、より高い触媒作用を与える。より低い電流密度で、電圧損失/低下の減少が見られるように、界面における抵抗も、記載の本発明の方法で製造されたMEAによって、また減少される。MEAに対する活性化分極の損失は、従来プロセスから製造されたMEAにおける損失に比べ、非常に少ない。触媒混合物の処方(formulation)を改善した結果、その結果得られる触媒膜およびMEAは、市販の触媒電極を用いる膜およびMEAに比べ、より小さい界面抵抗を示す。したがって、本発明のアセンブリのプロセスから製造されるMEAにおける電力密度の値は、従来のアセンブリのプロセスから製造されるMEAにおける電力密度より高い。
【0044】
図8は、非プロトン性溶媒を含む触媒混合物と、それを含まない触媒混合物とを用いて製造されたCCMベースのMEAの燃料電池の性能を、約80℃の温度で、水素と大気とを雰囲気圧力で用いて、比較する。本発明のプロセスで触媒コーティング膜を用いて製造されたMEAは、0.3A/cmで、より高いセル電圧を示す。これは、電極−電解質の接着がより良好になったからである。
【0045】
上記の発明は、理解を明確にするために、一部の詳細について記載されてきたが、特定の変更および改変は、添付の請求の範囲内で、実行され得ることが明らかである。したがって、本実施形態は、例示的なものとして考えられるべきで、限定的なものとして考えられるべきではない。また、本発明は、本明細書に述べた詳細に限定されず、本発明は、添付の請求の範囲内で改変され得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従う膜電極接合体(「MEA」)を組み込んだ燃料電池の図を示す。
【図2】図2は、図1に示す膜電極接合体の断面図を示す。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に従う好ましいプロトン交換膜の一般的構造である。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態に従う好ましいプロトン交換膜の一般的構造である。
【図5】図5は、従来のMEAアセンブリプロセスを使用するMEAの走査電子顕微鏡(「SEM」)像を示す。
【図6】図6は、本発明のMEAアセンブリプロセスを使用して製造されたMEAのSEM像を示す。
【図7】図7は、本発明のプロセスの実施形態によって製造されたMEAに対する従来のMEAの燃料電池性能を比較するプロットを示す。
【図8】図8は、本発明のプロセスの別の実施形態によって製造された別のMEAに対する従来のMEAの燃料電池性能を比較する別のプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒膜を製造するプロセスであって、
触媒混合物を製造するために、非プロトン性溶媒を含む触媒の成分を混合するステップと、
該触媒膜を製造するために、該触媒混合物を膜に付与するステップと
を包含する、プロセス。
【請求項2】
前記混合するステップにおいて、前記成分は、金属分散触媒、アイオノマー、および、分散剤からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記混合するステップにおいて、前記触媒の前記成分は、前記非プロトン性溶媒を約0.0001重量%〜約90重量%含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記混合するステップにおいて、前記触媒混合物の前記成分は、該混合物の前記成分が、前記金属分散触媒を約0.5重量%〜約80重量%含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記付与するステップにおいて、前記膜は、プロトン伝導膜である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記付与するステップにおいて、前記プロトン伝導膜は、フッ素化物、非フッ素化物、および、部分的フッ素化物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロトン伝導膜は、芳香族ベースのポリマーおよび脂肪族ベースのポリマーからなる群から選択される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記混合するステップにおいて、前記触媒混合物の前記成分は、前記アイオノマーを約0.1重量%〜約60重量%含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記混合するステップにおいて、前記触媒混合物の前記成分は、前記分散剤を約0.1重量%〜約99重量%含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記混合するステップにおいて、前記非プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド(「DMAc」)、N−メチル−2−ピロリジノン(「NMP」)、ジメチルスルホキシド(「DMSO」)、ポリビニルピロリドン(「PVP」)、および、N,N−ジメチルホルムアミド(「DMF」)からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記混合するステップは、実質的に均一化触媒混合物を製造する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記混合するステップにおいて、前記金属分散触媒中の金属は、担持遷移金属および非担持遷移金属からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項13】
前記混合するステップにおいて、前記金属分散触媒は、遷移金属および遷移金属合金からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項14】
前記混合するステップにおいて、前記アイオノマーは、フッ素化物、非フッ素化物、および、部分的フッ素化物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項15】
前記混合するステップにおいて、前記アイオノマーは、芳香族化合物および脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項16】
前記混合するステップにおいて、前記分散剤は、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、グリセロール、エチレングリコール、水酸化テトラブチルアンモニウム、ジグライム、酢酸ブチル、シュウ酸ジメチル、アミルアルコール、ポリビニルアルコール、キシレン、クロロホルム、トルエン、m−クレゾール、および、水からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項17】
前記混合するステップにおいて、前記触媒の前記成分は、誘電率調整剤、孔形成剤、疎水性添加剤からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項18】
前記混合するステップは、音波処理、機械的攪拌、高剪断混合および均一化からなる群から選択される少なくとも1つの技術を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
前記付与するステップは、スプレー、塗装、テープ成形、浸漬コーティングおよびスクリーン印刷からなる群から選択される少なくとも1つの技術を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記付与するステップにおいて、前記触媒混合物中の前記金属分散触媒の充填は、約0.001〜約5mg/cmである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項21】
前記触媒膜を乾燥するステップをさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項22】
前記乾燥は、約25℃〜250℃の間の温度で実行される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項23】
前記乾燥は、約0.1時間〜約35時間の間の時間にわたって実行される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項24】
前記乾燥は、約0.5μm〜約100μmの間の厚さを有する触媒層を生成する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項25】
弾力性ある触媒層を製造するため、前記触媒膜をコンパクト化するステップをさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項26】
前記コンパクト化は、約25℃〜250℃の間の温度で、約25kg/cm〜約200kg/cmの間の圧力で、前記触媒膜を加熱プレスするステップを包含する、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
酸ベースの溶液で、前記触媒膜を処理するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項28】
前記酸ベースの溶液は、硫酸、硝酸、燐酸、カルボン酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記酸ベースの溶液は、約0.000001モル/リットル〜約3モル/リットルの間の濃度を有する、請求項27に記載のプロセス。
【請求項30】
前記膜を水で処理するステップをさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項31】
燃料電池アプリケーション用の膜電極接合体であって、該膜電極接合体は、
触媒膜を備え、
該触媒膜は、
非プロトン性溶媒を含む触媒の成分を混合して、触媒混合物を製造するステップと、
該触媒混合物を膜に付与して、該触媒膜を製造するステップと
を包含する、プロセスによって製造される、膜電極接合体。
【請求項32】
前記触媒膜は、アノードとカソードとの間に挟まれる、請求項31に記載の膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−501221(P2008−501221A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515041(P2007−515041)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/039057
【国際公開番号】WO2005/119817
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(503047607)ホク サイエンティフィック, インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Hoku Scientific, Inc.
【Fターム(参考)】