説明

新規なキラルセレクター、及びエナンチオマー混合物分離のための固定相

本発明は、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーの分離法におけるキラルセレクターとしての、式(I)[式中、Xが担体材料への共有結合のためのリンカーであれば、n=1〜5、好ましくはn=1又はn=2であり、R1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24(NH)2、(CH22SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、R2=3,5−ジニトロベンゾイル、又はナフチルであり、或いはX=OHであれば、R2=CH2CHR34であり、ここでR3=H又はOHであり、R4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである]のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体の使用、並びにキラル固定相を製造するためのこのセレクターの使用に関する。本発明はさらに、上記キラルセレクターから誘導されるキラル固定相、該固定相の製造方法、並びに物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーを分離するためのキラルセレクターとしての、α位で非置換のβ−アミノ酸の使用、並びにα位で非置換のβ−アミノ酸、及びとりわけその誘導体を中心的なキラルセレクターとして含むキラル固定相(CSP)、前記固定相の合成、及びこの固定相を用いた、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーの分離法に関する。
【0002】
純エナンチオマー物質に対する、及び化学的及び医薬的な適用のための作用物質に対する需要が増大しているため、クロマトグラフィーの分野ではとりわけ、エナンチオマー純度を制御するため、及びラセミ化プロセスの試験のための分析レベルでも、医薬的な品質管理のため、及び薬物動力学的な調査、また、純エナンチオマー化合物の作成のための分取的なレベルでも使用することができる、多数の立体選択性分離技術が発展してきている。
【0003】
エナンチオマーは、アキラルな環境においてジアステレオマーとは異なり、同一の化学的及び物理的特性を有する。従ってクロマトグラフィーによるエナンチオマー分離は、間接的な手法を用いて、すなわち分析物をキラル誘導体化試薬と反応させてジアステレオマー混合物にすることによって(このジアステレオマー混合物はアキラルな相材料のエナンチオマー混合物とは異なり、分離することができる)、又はいわゆる直接的な手法で、移動相又は固定相へ組み込まれるキラルセレクターを使用して行うことができる。ここで分離性能は、非共有結合の相互作用により分析物とセレクターとの間に形成されるジアステレオマー錯体の様々な安定性に基づく。
【0004】
直接法も間接法もすでに、様々なクロマトグラフィー法、及び電気泳動法、例えばガスクロマトグラフィー(GC)、高性能液体クロマトグラフィー(高速液体クロマトグラフィーとも、HPLC)、薄層クロマトグラフィー(DC)、超臨界及び亜臨界液体クロマトグラフィー(SFC)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CE)において、エナンチオマー分離の分野で適用されている(Guebitz und Schmid (Eds.), Methods in Molecular Biology, VoI 243: Chiral Separations: Methods and Protocols, Humana Press Inc: Totowa, NJ: 2004; Guebitz und Schmid, Biopharm. Drug Dispos. 2001 , 22, 291-336)。
【0005】
分析物の誘導体化とは、不所望の副生成物及び分解生成物の形成、並びに(部分的な)ラセミ化につながり得る、少なくとも1つの付加的な反応工程を意味する。これに加えて分析物中に、誘導体化に適した官能基が存在していなければならず、キラルな誘導体化試薬は高いエナンチオマー純度で利用可能でなければならない(Guebitz und Schmid, Biopharm. Drug Dispos. 2001 , 22, 291-336)。このため現在は、非誘導的な直接クロマトグラフィー法又は電気泳動法が好ましいだろう。
【0006】
クロマトグラフィーシステム又は電気泳動システムの移動相へのキラルセレクターの添加は、確かに取り扱いが容易なエナンチオマー分離のための手法ではあるものの、非常にコストが高く、かつあらゆる場合で実用的なものではない。
【0007】
キラルセレクターが共有結合的に、又は吸着的に担体材料に結合されているキラル固定相を使用する直接クロマトグラフィー法は取り扱いが便利であり、キラル相材料の充分な分離性能が前提となるものの、分取的なレベルでも適用可能である。幅広い種類の化合物への適用を可能にするために、キラル固定相の分野では特に、一方でキラル化合物の両方のエナンチオマーの効率的な分離を可能にしながら、他方で充分に柔軟なキラルセレクターが望ましい。
【0008】
直接法の変法がリガンド交換法(LE)であり、その基礎となるのは、金属イオン、キラルセレクター、及び分析物(後者2つが金属イオンに対するリガンドとして働く)との間の三種混合錯体の形成である。ここで効果的な分離に対して責任を担うのは、分析物の(R)若しくは(S)エナンチオマーとの混合錯体の様々な安定性定数である。リガンド交換則は、一連の上記方法で効果的にエナンチオマー分離に使用することができた:古典的なカラムクロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、及びキャピラリー電気クロマトグラフィーにおいては、一方でキャピラリー電気泳動における電解質に対してキラルセレクターを用い、それに加えてキラル固定相を用いるということであり、この際にこれらの場合でキラルセレクターは共有結合的に、又は吸着的に担体材料に結合されていてよい。
【0009】
しかしながらキラル分離は今日まで予測されていないので、キラル固定相と移動相の適切な組み合わせを効果的かつ迅速に発見することは、従前通りクロマトグラフィーの大きな挑戦であり(Subramanian, Practical Approach to Chiral Separations by Liquid Chromatography, Wiley-VCH: Weinheim 1994; Guebitz und Schmid (Eds.), Methods in Molecular Biology, VoI 243: Chiral Separations: Methods and Protocols, Humana Press Inc: Totowa, NJ: 2004; Francotte, GIT Labor-Fachzeitschrift 5/2006, 452-455)、集中的な研究により常に新たな、そして改善された相材料につながっている (Laemmerhofer und Lindner, : Separation Methods in Drug Synthesis and Purification, Valko(Ed.), Elsevier: Amsterdam 2000, 337-437)。Armstrong et al., (Anal. Chem. 2001 , 73, 557A-561 A)によれば、2001年で既に、高性能液体クロマトグラフィー用のものだけでも、様々なセレクターに基づいた100以上のキラル固定相が市販で得られる。あらゆる製造元は、範囲の広い適用ハンドブックを提供しており、そこでは例えば、脂肪族、芳香族、脂環式、又は複素環式のキラルアミン、アルコール、アミノアルコール、又はα−アミノ酸、及びその誘導体のための多様な分離条件が、ほぼ製品に特有のものだけ、リストに挙げられている。これら多数の市販で得られるキラル固定相は、一方では非常に重要な意味を持つこと、そして分離技術に対する大きな関心を裏付けるものではあるが、キラル固定相を用いた直接クロマトグラフィー法と電気泳動法に今日までつきまとっている大きな欠点を表している:構造的に近縁な構成要素の場合ですら、効率的な分離を達成するためには、一連の(高価な)キラル固定相が必要となることがしばしばである。
【0010】
そこで独自の試験、また文献の記載が証明しているように、これまでは例えばβ−アミノ酸とその誘導体のキラルクロマトグラフィーのために多数の固定相が必要であり、これらの固定相がガスクロマトグラフィー(GC)又は液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)に使用される。従来技術からは例えば、セルロースカルバメート相、アミロース誘導体、クラウンエーテル(Berkecz et al., J. Chromatogr. A, 2006, 1125, 138-143 ; Hyun et al., J. Sep. Sci. 2005, 28, 421-427)、リガンド交換相(Hyun et al., J. Sep. Sci. 2003, 26, 1615-1622; Hyun et al., Biomed. Chromatogr. 2003, 17, 292-296)、又はマクロ環式グリコペプチド相(Sztojkov-Ivanov et al., Chromatographia 2006, 64, 89-94; Illisz et al., J. Sep. Sci. 2006, 29, 1305-1321、及びそこで引用された文献; D' Acquarica et al., Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11 , 2375-2385)から公知である。
【0011】
β−アミノ酸は近年、キー成分としてのその特別な薬理学的特性が原因で、多数のペプチド擬似物、及びさらなる生理活性物質に組み込まれてきた(Kuehl et al., Amino Acids 2005, 29, 89-100)。これに関連して、合成構成要素及び目的生成物のエナンチオマー純度を試験するための分析手法に対する需要がますます高まっており、明らかに過剰量の光学鏡像異性体の存在下でエナンチオマーの痕跡を検出するための微量痕跡測定の分野では、特にそうである(Juaristi und Soloshonok, Enantioselective Synthesis of β-Amino Acids, Wiley-VCH: New York 2005)。
【0012】
本発明の課題は、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーの分離のための新規なキラル相の基礎構造に基づいて作成することができる、新規なキラルセレクターを提供することであり、このキラルセレクターは、キラル化合物のエナンチオマーペア、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体をクロマトグラフィー法で、とりわけ高性能液体クロマトグラフィーで効率的かつ可能な限り汎用的に分別することを、分析的及び分取的なレベルで可能にするものである。
【0013】
完全に意想外なことに、α位で非置換のβ−アミノ酸誘導体は、柔軟であり、その上、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体の分離法における高選択性のキラルセレクターであることが判明した。本発明によるセレクターをエナンチオマー分離のために使用することができるさらなる物質群は例えば、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸である。従って本発明の特別な利点は、α位で非置換のβ−アミノ酸誘導体ベースのキラルセレクターを含むキラル相が、意想外なことに多数の物質群のクロマトグラフィー分離のために汎用的に使用可能であるということである。
【0014】
従って本発明の対象は、式(I)
【化1】

[式中、
キラルセレクターがリンカーXを介して担体材料に結合されれば、
n=1〜5、好ましくはn=1又はn=2であり、
1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24(NH)2、(CH22SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、
2=3,5−ジニトロベンゾイル、又はナフチルであり、
或いはX=OHであれば、
2=CH2CHR34であり、
ここでR3=H又はOHであり、R4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである]
のキラルセレクターの使用である。
【0015】
本発明によれば前記キラルセレクターは主として、炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在し、その一方で側鎖に潜在的に存在する立体中心が主として絶対配置に存在している必要がない。
【0016】
本発明の意味合いにおいて(C1〜C4)アルキル基とは、任意の分岐を有していてよい1〜4個の飽和炭素原子を有する基をいい、好ましいのはメチル基、イソプロピル基、イソブチル基、及びs−ブチル基である。
【0017】
本発明の意味合いにおいて(C6〜C10)アリール基とは、6〜10個の炭素原子を有する芳香族基をいい、好ましいのは、フェニル基、並びにさらなる基又は官能基、とりわけフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、メチル基及び/又はトリフルオロメチル基でモノ置換、オリゴ置換、ポリ置換又はペル置換されていてもよい1−ナフチル基及び2−ナフチル基、並びにヒドロキシ基及び/又はシアノ基である。
【0018】
本発明の意味合いにおいて(C7〜C13)アラルキル基とは好ましくは、メチレン基を介して分子に結合された(C6〜C10)アリール基をいい、さらに好ましいのはフェニルエチル基とジフェニルメチル基である。
【0019】
本発明の意味合いにおいて(C7〜C10)ヘテロアラルキル基とは、メチレン基を介して分子に結合されたピリジル基又はインドリル基をいう。
【0020】
本発明の意味合いにおいてナフチル基とは好ましくは、さらなる置換基に結合されていてよい1−ナフチル又は2−ナフチル基をいう。
【0021】
好ましくは、R1=フェニルであり、特に好ましいのは、R1=フェニルであり、かつn=1、又はn=2である実施態様である。好ましくは、さらにR4=フェニルである。
【0022】
本発明の対象はさらに、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法のための固定相を製造するための、式(I)で表されるキラルセレクターの使用であり、この際、キラルセレクターは担体材料に対して共有結合的に、又は吸着的にシリカゲル基材又はモノリス基材上に結合される。
【0023】
式(I)で表されるキラルセレクター若しくは前記キラルセレクターをベースとするキラル固定相は、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法におけるセレクターとして適している。この際に試料は、エナンチオマー混合物の他にまたさらなる化合物、例えば副生成物及び/又は不純物(これらは後に除去されるべきである)を含んでいてよい。本発明の意味合いにおいてクロマトグラフィー法とは、とりわけ薄層クロマトグラフィー(DC)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)であり、特に好ましいのは高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)である。本発明の意味合いにおいてさらなるクロマトグラフィー法とは、マイクロチップへのマイクロ高性能液体クロマトグラフ(μ−HPLC)及びキャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)(いわゆるラボオンチップ技術)である。本発明の特別な利点は、キラルセレクターにより、多様な条件下で安定的であり、かつ順相形態(NP)でも、有機極性形態(PO)でも、そして逆相形態(RP)でも稼働させることができる固定相の製造が可能になることである。本発明のさらなる利点は、前記キラルセレクターにより、その高選択性に基づいて、エナンチオマーの微量痕跡測定が可能になることである。
【0024】
さらに好ましいのは、いわゆるリガンド交換形態でのクロマトグラフィー法であり、この方法は、移動相が正に帯電した金属イオン、好ましくは二価の金属イオン、とりわけ銅(II)イオンを含むものである(Davankov, J. Chromatogr. 1971 , 60, 280-283)。リガンド交換形態では、式(I)に記載のキラルセレクターの吸着的な結合が好ましく、この際にX=OH、かつR2=CH2CHR34(ここでR3=H又はOHであり、かつR4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである)である。
【0025】
本発明はさらに、担体材料及びキラルセレクターを含む、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離のためのキラル固定相を利用可能にし、この際に前記キラルセレクターは式
【化2】

[式中、n=1〜5、好ましくはn=1又はn=2であり、
1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24(NH)2、(CH22SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、
2=3,5−ジニトロベンゾイル、又はナフチルであり、かつ
Xが担体材料へのキラルセレクターの共有結合のためのリンカーである]
のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体を含む。
【0026】
本発明によれば、前記キラルセレクターは主として炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在する。
【0027】
好ましくは、R1=フェニルであり、特に好ましいのは、R1=フェニルであり、かつn=1、又はn=2である実施態様である。
【0028】
リンカーXは好ましくは、第一級アミノ基を有するアミノアルキルリンカー、特に好ましいのはアミノプロピルリンカーであり、このリンカーを介して前記セレクターがカルボン酸アミドとして担体材料に結合される。この実施態様は、式(IIa)に表されている。
【化3】

【0029】
本発明の意味合いにおいて好ましい担体材料は、シリカゲル基材又はモノリス基材上の材料である。
【0030】
本発明はさらに、式(II)又は式(IIa)のキラルセレクターを含むキラル固定相の製造方法を提供し、この方法は以下の工程:
(ia)α位で非置換のβ−アミノ酸又はこれに相応するβ−アミノ酸エステルを、アセチル化に適した3,5−ジニトロベンゾイル誘導体、好ましくは3,5−ジニトロベンゾイルクロリドによってアセチル化(R2=3,5−ジニトロベンゾイル)する工程、又は
(ib)α位で非置換のN−ナフチル化されたβ−アミノ酸、又はこれに相応するβ−アミノ酸エステル(R2=ナフチル)を合成する工程、
(ii)場合により、エステル官能基を鹸化する工程、
(iii)場合により、α位で非置換のさらなるβ−アミノ酸単位をカップリングする工程、
(iv)場合によりリンカーを介して、キラルセレクターを担体材料に共有結合させる工程、
を含むものである。一般式(II)及び(IIa)の化合物の製造は例えば、相応するβ−アミノ酸若しくは相応するβ−アミノ酸エステルを、アセチル化に適した3,5−ジニトロベンゾイル誘導体、好ましくは3,5−ジニトロベンゾイルクロリドによってアセチル化(R2=3,5−ジニトロベンゾイル)することによって(Pirke et al.によって刊行された、とりわけα−アミノ酸ベースのキラル相の調製方法に倣って)行うことができる。主としてエナンチオマー形態(R2=ナフチル)のα位で非置換のN−ナフチル化されたβ−アミノ酸の、又はこれに相応するβ−アミノ酸エステルの合成は例えば、相応するβ−アミノ酸及びナフトールから出発する古典的なブッヘラー反応の変法により(Pirkle及びPochapskyにより刊行された、高エナンチオマー純度のN−(2−ナフチル)−2−アミノ酸及びN−(2−ナフチル)−2−アミノ酸エステルの製造法(J. Org. Chem. 1986, 51 , 102-105)に倣って)可能である。β−アミノ酸エステルは、β−アミノ酸繰返単位(n>1)を有するセレクターの構築に必要となり、この構築は例えば、溶液中での古典的なペプチド合成の経路で行うことが出来る。その詳細と代替的な合成経路については、ペプチド合成のための関連公知文献で指摘されている(例えば、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, Band 15/1 und 15/2; M. Bodanszky, Principles of Peptide Synthesis, Springer Verlag 1984)。
【0031】
本発明はさらに、式(II)又は(IIa)により表されるキラルセレクター、又は前記キラルセレクターをベースとするキラル固定相を用いた、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離のための方法を提供し、この方法は、
(i)分離すべき物質混合物の溶液を、担体材料及び式(II)又は(IIa)に記載のキラルセレクターを含むキラル固定相と接触させる工程、
(ii)固定相との異なる相互作用に基づき、移動相を用いて物質混合物の個々の成分を分別する工程、
(iii)場合により、移動相を分別収集し、クロマトグラフィー精製した物質をそこから単離する工程、
を含むものである。この方法は加えて、エナンチオマー、好ましくはα−及びβ−アミノ酸のエナンチオマーの微量痕跡測定のために適している。好ましいのは、液体クロマトグラフィー法、とりわけHPLC法である。これらの方法は例えば、順相形態(NP)、極性有機形態(PO)、又は逆相形態(RP)において、金属イオンを添加せずに行うことができる。
【0032】
本発明はさらに、担体材料及びキラルセレクターを含む、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離のためのキラル固定相を利用可能にすることであり、この際に前記キラルセレクターは式
【化4】

[式中、R1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24−(NH)2、(CH22−SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、
3=H又はOHであり、
4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである]
のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体である。
【0033】
本発明によれば前記キラルセレクターは主として、炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在し、その一方で2’位に潜在的に存在する立体中心が主として絶対配置に存在している必要がない。
【0034】
好ましくは、R1=フェニルである。
【0035】
本発明の意味合いにおいてR4は好ましくは、短鎖の置換されたフェニル基、特に好ましくは非置換のフェニル基であるか、又は1〜20個の炭素原子、好ましくは4〜18個の炭素原子、特に好ましくは6〜16個の炭素原子、とりわけ10〜12個の炭素原子を有する、線状若しくは分枝状のアルキル基であり、特に好ましいのはn−デシルである。とりわけ、R1=フェニル、かつR4=n−デシルである実施態様が好ましい。
【0036】
適切な担体材料上への、式(III)に記載のキラルセレクターの施与は、好ましくは吸着的に、逆相材料(Reversed-Phase材料、RP材料)をいわゆる動的被覆(dynamische Belegung)することにより、好ましくはシリカゲル又はモノリス基材上に行う。好ましいRP材料は例えば、RP−2、RP−4、RP−5、RP−6、RP−8、RP−12、及びとりわけRP−18である。
【0037】
本発明はさらに、式(III)に記載のキラルセレクターを含むキラル固定相の製造方法を提供し、この方法は以下の工程:以下の工程を含む、N−アルキル化されたアミノ酸の調製、請求項15から22までのいずれか1項に記載のキラル固定相の製造方法:
(i)N−アルキル化されたアミノ酸を調製する工程、
(ii)N−アルキル化されたアミノ酸を担体材料に吸着結合させる工程、
を含むものである。
【0038】
一般式(III)の化合物の製造は例えば、等モル量の強塩基、例えばナトリウムメチレートを用いて、相応するエポキシド化合物と、その都度のβ−アミノ酸との反応により行うことができる(Busker et al., DE 3 143 726 A1)。このことは、2’−炭素原子に対するラセミ配置につながる。式(III)のキラルセレクターを調製するための代替的な方法は、相応するβ−アミノ酸を、n−アルキルブロミドでN−アルキル化することである(例えばDavankov et al., Chromatographia 1980, 13, 677-685に記載)。
【0039】
好ましいのはさらに、分析的な、半分取的な、又は分取的なレベルにおいて、式(III)で表されたキラルセレクター又は前記キラルセレクターをベースとするキラル固定相を用い、とりわけリガンド交換形態(LE)で、金属イオン、好ましくは二価の金属イオン、特に好ましくは銅(II)イオンが添加される、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法である。このような方法は、
(i)分離すべき物質混合物の溶液を、式(III)に記載のキラルセレクターを含むキラル固定相と接触させる工程、
(ii)キラルセレクターとの異なる相互作用に基づき、二価の遷移金属イオン、好ましくは銅(II)イオンを含む移動相を用いて物質混合物の個々の成分を分別する工程、及び
(iii)分取的、又は半分取的液体クロマトグラフィー適用の場合には、場合により移動相を分別収集し、クロマトグラフィー精製した物質をそこから単離する工程、
を含む。この方法は加えて、エナンチオマー、好ましくはα−及びβ−アミノ酸のエナンチオマーの微量痕跡測定のために適している。
【0040】
本発明の意味合いにおいてクロマトグラフィー分離とは、分析目的のために分離された物質を以後単離することなく、また半分取的な又は分取的な目的のためにクロマトグラフィーシステム(担体材料、移動相)の成分及び試料中に含まれている他の物質から分離された成分を以後分離しても行われる、キラル固定相を用いた、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー混合物、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーの分別をいう。
【0041】
本発明の意味合いにおいて、主として絶対配置にとは、50%超、好ましくは少なくとも90%超、とりわけ少なくとも95%超が光学活性のエナンチオマー形態であり、特に好ましくは純エナンチオマー形態である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1に記載のキラル固定相を用いた、様々なβ−アミノ酸誘導体の光学異性体のクロマトグラフィー分割(chromatographische Aufloesung)である。
【図2】実施例2に記載のキラル固定相を用いた、様々なβ−アミノ酸誘導体の光学異性体のクロマトグラフィー分割である。
【図3】実施例3に記載のキラル固定相を用いた、様々なα−及びβ−アミノ酸、並びにα−ヒドロキシ酸の光学異性体のクロマトグラフィー分割である。
【図4】エナンチオマー純度を測定するため、とりわけ微量痕跡測定の分野での、実施例2に従ったキラル固定相の使用である。
【0043】
上のクロマトグラムが示しているのは、実施例2に記載のキラル固定相を用いた、(R)−及び(S)−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−フェニルプロピオン酸のラセミ体混合物のクロマトグフラフィー分割である。中央にあるのは、前記相を用いた、純粋な(S)−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−フェニルプロピオン酸のクロマトグラムである。下のクロマトグラムが示しているのは、(R)−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−フェニルプロピオン酸を1%増加させた、(S)−3−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−フェニルプロピオン酸の分割である。
【0044】
すでに従来技術で言及されているように、多数のキラルセレクター、及び前記キラルセレクターをベースとする固定相は公知である。従って例えば、高性能液体グラフィーを用いてβ−アミノ酸とその誘導体を分離するために、これまでクラウンエーテル、α−アミノ酸誘導体、又はマクロ環式グリコペプチドをベースとするキラルセレクターが適用されている。表1には、従来技術より公知のエナンチオマーのβ−アミノ酸を分離するための様々なクロマトグラフィー法がまとめられており、本発明の教示により達成することができる結果が対比されている。分離カラムの同定は、通常の方法(例えばMeyer, Praxis der Hochdruckfluessigkeitschromatographie, Wiley-VCH Weinheim 2004に記載の方法)で、キャパシティ係数k1及びk2によって、分離係数α、及び分割Rsにより行う。正確なクロマトグラフ条件は、各オリジナル文献から読み取ることができる。
【0045】
表1:キラル固定相を用いた、一般式H2N−CHR1−CH2−CO2Hのβ−アミノ酸のエナンチオマー混合物のクロマトグラフィー分離
【表1−1】

【表1−2】


【0046】
表1から明らかなように、本発明によるセレクター、及び前記セレクターをベースとする固定相は、従来技術より公知のセレクターよりも分離性能の点で極めて有利であり、分離係数α、及びエナンチオマーRsの分割により、特に半分取的な、及び分取的な適用という観点でも同定することができる。これに加えてこれらは、幅広い適用可能性を示す;ここでは、表2〜4に示す結果を指摘しておく。
【0047】
さらには従来技術から、α−アミノ酸をベースとし、式(II)で表されるセレクターに対して一定の類似性を有するキラルセレクターは公知である(Welch, J. Chromatogr. A 1994, 3-26)。しかしながら、そこに記載されたキラルセレクターは、α位で非置換のβ−アミノ酸誘導体ではない。従来技術において、それどころか多様な情報源に記載されているように、キラル検出に関与する官能基間の距離がより大きくなること、及びセレクターの立体配座柔軟性がより高度になること(これらのことは、本発明によるセレクターの場合には付加的なメチレン基に基づき、α−アミノ酸と比較して、又はα位で置換されたβ−アミノ酸と比較して生じる)は、分離性能に対して否定的に作用するのである(とりわけ、Pirkle und McCune, J. Chromatogr. 1988, 441 , 311 ; Wang et al., Anal. Chem. 2000, 72, 5459-5465; Welch, J. Chromatogr. A 1994, 3-26参照)。
【0048】
実施例
以下の実施例は、本発明をより詳しく説明するものだが、いかなる場合であっても本発明を制限するものではない。
【0049】
実施例1
アミノプロピル官能化されたシリカゲルマトリックス(アミノ相)への(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸の共有結合を用いた、キラル固定相の製造
(1)(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸の合成
(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸((S)−β−フェニルアラニン)16gに、5%の水酸化ナトリウム水溶液80mlを加え、そして生成する溶液を50%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH値を11〜12に調整する。テトラヒドロフラン20mlの添加後、反応混合物を10℃に冷却し、ジニトロベンゾイルクロリド23.1gをテトラヒドロフラン60mlに入れた溶液を60分にわたって添加し、そして反応混合物をさらに60分撹拌する。その後、有機相を蒸留により除去し、残っている水相をメチル−t−ブチルエーテルで二度抽出する。この水相に酢酸エチル200mlを添加し、そして4Nの塩酸を添加することにより、pH値を1〜2に調整する。これらの相を分離し、そしてこの有機相を飽和食塩溶液200mlで洗浄する。45℃、p=150mbarで溶剤を留去した後、残留物をシクロヘキサン300mlに取る。生成物を濾別し、40℃で乾燥させる。生成物のさらなる精製は、分取高性能液体クロマトグラフィーを用いて、逆相材料(例えばKromasil RP-18、粒径10μm)で、アセトニトリル/水/トリフルオロ酢酸の溶剤混合物中で行う。収率:8.0g、HPLC純度 99.8Fl%;元素分析:

【0050】
(2)アミノプロピル官能化されたシリカゲル相(アミノ相)への(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸の結合
(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸4gをテトラヒドロフラン200mlに入れた溶液中に、アミノ相(YMC-GeI Amino NH12S05、粒径5μm)4.1gを懸濁させ、そして撹拌しながらこの反応混合物にN−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)3.2gを加える。室温で8時間後に相材料を濾別し、それぞれ50mlのメタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させる。収率:所望の担体材料4.6g、元素分析:C 10.6%、H 1.2%、N 2.4%;0.4mmol/gの被覆に相応。
【0051】
250×5mmのHPLCカラムの充填は、300barで、バランス密度法(Balanced density-Methode)に従って行う(Meyer, Praxis der Hochdruckfluessigkeits-chromatographie, Wiley-VCH: Weinheim 2004参照)。
【0052】
適用例1
実施例1に従って製造された分離カラムは、HPLC条件下で多数のβ−アミノ酸若しくはβ−アミノ酸誘導体のクロマトグラフィーに適している(表2)。図1が示しているのは、実施例1に従った分離カラムを用いた、様々なβ−アミノ酸誘導体の光学異性体のクロマトグラフィー分割である。
【表2−1】

【表2−2】

【0053】
実施例2
アミノプロピル官能化されたシリカゲルマトリックス(アミノ相)への(S)−3−[(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロパンアミド]−3−フェニルプロピオン酸(3−(3,5−ジニトロベンゾイル)−(S)−β−フェニルアラニル−(S)−β−フェニルアラニン)の共有結合を用いた、キラル固定相の製造
(1)(S)−3−[(S)−3−(3,5−ジニトロベンソイル)−3−フェニルプロパンアミド]−3−フェニルプロピオン酸(3−(3,5−ジニトロベンゾイル)−(S)−β−フェニルアラニル−(S)−β−フェニルアラニン)の合成
a.(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルの合成
(S)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステルヒドロクロリド11.49gを、テトラヒドロフラン100ml中に懸濁させ、そして氷浴中で0〜10℃に冷却する。トリエチルアミン14mlの添加後、撹拌及び冷却しながら30分間にわたり、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド11.52gをテトラヒドロフラン40mlに入れた溶液を添加する。冷却浴を取り去り、反応混合物をさらに120分撹拌し、この際に前記反応混合物は室温まで温まってもよい。この反応混合物を濾過し、そして濾液を乾燥するまで濃縮する(生成画分1)。トリエチルアミンヒドロクロリド及びさらなる生成物から成るフィルターケークを酢酸エチル100mlに取り、そして20分、35℃で温浸する(digerieren)。懸濁液を濾過し、そしてフィルターケーキを捨てる。濾液を40℃で、低減された圧力で乾燥するまで濃縮する(生成画分2)。生成画分を一つにまとめる。収率16.4g;HPLC純度>97Fl%。さらなる精製のために、未精製生成物を室温で2時間、400mlの水に温浸し、引き続き濾過する。湿分収率は15.4g;HPLC純度は99.8Fl%である。この生成物を、さらなる精製無しでさらに反応させる。
【0054】
b.(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸への鹸化
反応aからの(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル15.4gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させ、生成する溶液に水50mlを加える。激しく撹拌しながら、少し濁った反応混合物を45℃に加熱し、そしてpH値を32%の水酸化ナトリウム水溶液で13〜13.5に調整し、反応の推移に対して一定に維持する。反応の終了後(HPLCチェック>99Fl%の反応率)、溶液のpH値を6Nの塩酸の添加により7〜8に調整し、引き続き有機溶剤を低減された圧力下で留去する。この水溶液を水で350mlに希釈し、そして激しく撹拌しながら6Nの塩酸でpH値を1〜2に調整する。沈殿する生成物を吸い取り、水で二度洗浄する。低減された圧力下で40℃での乾燥後、13.67gという収率が測定される。HPLC純度は99.8Fl%である。
【0055】
c.(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)エステル(3−(3,5−ジニトロベンゾイル)−(S)−β−フェニルアラニン(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)エステル)の合成
反応b)からの(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸12gを、テトラヒドロフラン120mlに溶解させ、そしてN−ヒドロキシスクシンイミド3.92gを加える。氷浴での冷却下、0〜5℃で部分量でジシクロヘキシルカルボジイミド7.1gを反応混合物に添加する。完全に添加後、さらに撹拌しながら、溶液が室温に達するまでバッチを氷浴中に置く。反応終了後(HPLCチェック >95Fl%の反応率)、沈殿するジシクロヘキシル尿素を濾別し、そしてテトラヒドロフランで洗浄する。濾液を低減された圧力下で濃縮し、そして残留物を250mlの2−プロパノール中で二時間、還流で温浸する。生成物を吸い取り、2−プロパノールで洗浄し、そして低減された圧力下で50℃で乾燥させる。収率は13.87g;HPLC純度は98.8Fl%である。
【0056】
d.(S)−3−[(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロパンアミド]−3−フェニルプロピオン酸(3−(3,5−ジニトロベンゾイル)−(S)−β−フェニルアラニル−(S)−β−フェニルアラニン)への反応
(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸5.65gを、水70ml中に懸濁させ、この懸濁液のpH値を水酸化ナトリウム溶液の添加により、10.5〜11に調整し、テトラヒドロフラン70mlを添加する。バッチを氷浴中で0〜5℃に冷却し、そして撹拌しながら(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロピオン酸(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)エステル13gを15分間にわたって部分量で添加する。完全に添加した後、水酸化ナトリウム溶液の添加により、反応混合物のpH値を9〜9.5に維持する。ほぼ完全な反応率(HPLCチェック;<0.5 Fl%の出発原料)で一定のpH値に達した後、溶液を水で約800mlに希釈し、4Nの塩酸の添加により、pH値を1.5〜2に調整し、そしてさらに30分間撹拌する。固体を吸い取り、水で洗浄し、そして低減された圧力下で50℃で乾燥させる。乾燥された固体を、テトラヒドロフラン250ml中で40℃で温浸し、懸濁液を冷却し、そして固体(生成画分1)を吸い取る。この母液を40℃の水浴温度で約70〜80mlの体積に凝縮し、生成する懸濁液を室温に冷却し、そして固体(生成画分2)を吸い取る。生成物画分を1つにまとめ、そして低減された圧力下、50℃で乾燥させる。収率は11.1g;HPLC純度は99.5Fl%である;

【0057】
(2)アミノプロピル官能化されたシリカゲル相(アミノ相)への(S)−3−[(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロパンアミド]−3−フェニルプロピオン酸の結合
(S)−3−[(S)−3−(3,5−ジニトロベンゾアミド)−3−フェニルプロパンアミド]−3−フェニルプロピオン酸4.7gをテトラヒドロフラン1lに入れた溶液中に、アミノ相(YMC-GeI Amino NH12S05、粒径5μm)5gを懸濁させ、そして撹拌しながらこの懸濁液にN−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)4gを加える。室温で24時間後に相材料を濾別し、それぞれ100mlのメタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、引き続き乾燥させる。元素分析:C 12.44%、H 1.36%、N 2.76%;0.312mmol/gの被覆に相応。
【0058】
250×5mmのHPLCカラムの充填は、300barで、バランス密度法に従って行う(Meyer, Praxis der Hochdruckfluessigkeitschromatographie, Wiley-VCH: Weinheim 2004参照)。
【0059】
適用例2
実施例2に従って製造された分離カラムもまた、HPLC条件下で多数のβ−アミノ酸若しくはβ−アミノ酸誘導体に適しており、部分的にはモノマーに対して改善された選択性を有する。このことは、ジペプチドセレクターによる様々な分析物の厳密なキラル検出に起因する。
【0060】
表3に結果がまとめられている。図2が示しているのは、実施例2に従った分離カラムを用いた、様々なβ−アミノ酸誘導体の光学異性体のクロマトグラフィー分割である。
【表3−1】

【表3−2】

【0061】
実施例3
(3S)−3−(2−(R,S)−ヒドロキシドデシルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸によるRP担体材料の動的被覆を用いたキラル固定相の製造
(1)(3S)−3−(2−(R,S)−ヒドロキシドデシルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸の合成
メタノール800ml中に、ナトリウムメチレート27.01g、及び(S)−3−アミノ−3−フェニルプロピオン酸82.6gを溶解させる。1,2−エポキシドデカン92gを添加後、室温で20時間、この溶液を撹拌する。引き続き、メタノール性塩酸で溶液のpH値を6に調整し、そして晶出する塩化ナトリウムを濾別する。メタノールの留去後、油状の残留物が残り、これは700mlのアセトンとの撹拌混合の際に結晶化する。無色の結晶が153.4g生じる。

【0062】
(2)RP−18担体材料の動的被覆
(3S)−3−(2−(R,S)−ヒドロキシドデシルアミノ)−3−フェニルプロピオン酸1gを、50mlのメタノールに溶解させ(セレクター溶液)、そして被覆すべき固定相(Kromasil C18、カラム長さ250mm、カラム内径4.6mm)をメタノールですすぐ。引き続き、再循環させながら、セレクター溶液を1mL/分の流れで3時間、カラムを介して圧送する。4mL/分の流速でのメタノールによるすすぎ工程の後、メタノール性の銅(II)アセタール飽和溶液を約30分間、1mL/分の流れで室温でカラムを介して圧送する。この後、分離カラムはクロマトグラフィー使用のために準備ができている。
【0063】
適用例3
実施例3に従って修正された分離カラムはリガンド交換形態で、多数のβ−アミノ酸とその誘導体、並びに多数のα−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸のエナンチオマー分離のために適している。
【0064】
表4に結果がまとめられている。図3が示しているのは、実施例2に従った分離カラムを用いた、様々なβ−アミノ酸の光学異性体のクロマトグラフィー分割である。
【表4−1】

【表4−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーの分離法におけるキラルセレクターとしての、式
【化1】

のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体の使用において、
Xが担体材料への共有結合のためのリンカーであれば、
n=1〜5、好ましくはn=1又はn=2であり、
1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24(NH)2、(CH22SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、
2=3,5−ジニトロベンゾイル、又はナフチルであり、
或いはX=OHであれば、
2=CH2CHR34であり、
ここでR3=H又はOHであり、R4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである
ことを特徴とする、前記β−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項2】
前記キラルセレクターが主として、炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在することを特徴とする、請求項1に記載のβ−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項3】
1=フェニルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のβ−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項4】
4=(C8〜C18)アルキル、好ましくは(C6〜C16)アルキル、とりわけ(C10〜C12)アルキル、及び特に好ましくはR4=n−デシルであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のβ−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項5】
4=フェニルであり、n=1であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のβ−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項6】
物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法のための固定相を製造するための、請求項1から5までのいずれか1項に記載のβ−アミノ酸誘導体の使用において、前記キラルセレクターが担体材料に対して共有結合で、又は吸着的にシリカゲル基材上、又はモノリス基材上に結合されることを特徴とする、前記β−アミノ酸誘導体の使用。
【請求項7】
担体材料及びキラルセレクターを含む、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離のためのキラル固定相において、
前記キラルセレクターが、式
【化2】

[式中、
n=1〜5、好ましくはn=1、又はn=2であり、
1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24−(NH)2、(CH22−SCH3、又は(CH23NHC(NH)NH2であり、
2=3,5−ジニトロベンゾイル、又はナフチルであり、
Xは担体材料への共有結合のためのリンカーである]
のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体を含むことを特徴とする、前記キラル固定相。
【請求項8】
前記キラルセレクターが主として、炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在することを特徴とする、請求項7に記載のキラル固定相。
【請求項9】
1=フェニルであることを特徴とする、請求項7又は8に記載のキラル固定相。
【請求項10】
Xがアミノアルキルリンカー、好ましくはアミノプロピルリンカーであり、かつ前記キラルセレクターがカルボン酸アミドとして担体材料に結合されていることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載のキラル固定相。
【請求項11】
前記担体材料が、シリカゲル相又はモノリス相であることを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載のキラル固定相。
【請求項12】
請求項7から11までのいずれか1項に記載のキラル固定相の製造方法であって、以下の工程:
(ia)α位で非置換のβ−アミノ酸又はこれに相応するβ−アミノ酸エステルを、アセチル化に適した3,5−ジニトロベンゾイル誘導体、好ましくは3,5−ジニトロベンゾイルクロリドによってアセチル化(R2=3,5−ジニトロベンゾイル)する工程、又は
(ib)α位で非置換のN−ナフチル化されたβ−アミノ酸、又はこれに相応するβ−アミノ酸エステル(R2=ナフチル)を合成する工程、
(ii)場合により、エステル官能基を鹸化する工程、
(iii)場合により、α位で非置換のさらなるβ−アミノ酸単位をカップリングする工程、
(iv)場合によりリンカーを介して、キラルセレクターを担体材料に共有結合させる工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項13】
物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法であって、以下の工程:
(i)分離すべき物質混合物の溶液を、請求項7から11までのいずれか1項に記載のキラル固定相と接触させる工程、
(ii)固定相との異なる相互作用に基づき、移動相を用いて物質混合物の個々の成分を分別する工程、
(iii)場合により、移動相を分別収集し、クロマトグラフィー精製した物質をそこから単離する工程、
を含む、前記方法。
【請求項14】
エナンチオマー、好ましくはα−及びβ−アミノ酸のエナンチオマーを微量痕跡測定するための、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
液体クロマトグラフィー法、好ましくはHPLC法であることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
担体材料及びキラルセレクターを含む、物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離のためのキラル固定相において、
前記キラルセレクターが、式
【化3】

[式中、
1=(C1〜C4)アルキル、(C6〜C10)アリール、(C7〜C13)アラルキル、(C7〜C10)ヘテロアラルキル、ピリジル、ヒドロキシメチル、CH(OH)CH3、CH2CONH2、CH2COOH、(CH22CONH2、(CH22COOH、(CH24−(NH)2、(CH22−SCH3、又は(CH23NHCNHNH2であり、
3=H又はOHであり、
4=(C1〜C20)アルキル、(C6〜C10)アリール、又は(C7〜C13)アラルキルである]
のα位で非置換のβ−アミノ酸誘導体であることを特徴とする、前記キラル固定相。
【請求項17】
前記キラルセレクターが主として、炭素原子C−3(β−炭素原子)に対して絶対配置に存在し、その一方で2’位に潜在的に存在する立体中心が主として絶対配置に存在している必要がないことを特徴とする、請求項16に記載のキラル固定相。
【請求項18】
1=フェニルであることを特徴とする、請求項16又は17に記載のキラル固定相。
【請求項19】
4=(C4〜C18)アルキル、好ましくは(C6〜C16)アルキル、とりわけ(C10〜C12)アルキル、及び特に好ましくはR4=n−デシルであることを特徴とする、請求項16から18までのいずれか1項に記載のキラル固定相。
【請求項20】
4=フェニルであることを特徴とする、請求項16から18までのいずれか1項に記載のキラル固定相。
【請求項21】
前記キラルセレクターが、担体材料に対して吸着的にシリカゲル基材上、又はモノリス基材上に結合されていることを特徴とする、請求項16から20までのいずれか1項に記載のキラル固定相。
【請求項22】
前記担体材料が逆相材料であることを特徴とする、請求項21に記載のキラル固定相。
【請求項23】
前記担体材料が、RP−2、RP−4、RP−5、RP−6、RP−8、RP−12、及びとりわけRP−18の相を含む群から選択されていることを特徴とする、請求項22に記載のキラル固定相。
【請求項24】
以下の工程:
(i)N−アルキル化されたアミノ酸を調製する工程、
(ii)N−アルキル化されたアミノ酸を担体材料に吸着結合させる工程、
を含む、請求項16から23のいずれか1項に記載のキラル固定相の製造方法。
【請求項25】
物質混合物、好ましくはキラル物質の混合物、特に好ましくはエナンチオマー、とりわけβ−アミノ酸とその誘導体、α−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸を含む群から選択される物質のエナンチオマーのクロマトグラフィー分離法であって、以下の工程:
(i)分離すべき物質混合物の溶液を、請求項16から23までのいずれか1項に記載のキラルセレクターを含むキラル固定相と接触させる工程、
(ii)キラルセレクターとの異なる相互作用に基づき、二価の遷移金属イオン、好ましくは銅(II)イオンを含む移動相を用いて物質混合物の個々の成分を分別する工程、
(iii)場合により、移動相を分別収集し、クロマトグラフィー精製した物質をそこから単離する工程、
を含む、前記方法。
【請求項26】
エナンチオマー、好ましくはα−及びβ−アミノ酸のエナンチオマーを微量痕跡測定するための、請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−516413(P2011−516413A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550111(P2010−550111)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051745
【国際公開番号】WO2009/112325
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】