説明

新規なタンパク質配合物

【課題】 本発明は、治療剤、予防剤および/もしくは化粧剤として用いることを意図する、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体ならびに/またはエナメルマトリックスタンパク質などの、新規かつ改良された活性エナメル物質の低濃度配合物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明では、前記活性エナメル物質を高分子マトリックス内に取り込ませ、これは、細胞内殖に適しているか、または細胞閉塞性のどちらかである。高分子マトリックスの分解、酵素作用および/または拡散によって放出されるように、活性エナメル物質を高分子マトリックス内に取り込ませることができる。したがって、本発明には、特に、配合物内の活性エナメル物質の総濃度がより低い新規薬剤配合物および/または化粧配合物が含まれ、前記活性エナメル物質の放出の空間的および/または選択的な調節により、より高い割合の活性エナメル物質が適切な細胞活性時に放出されることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療剤、予防剤および/または化粧剤として用いることを意図する、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質などの、新規かつ改良された活性エナメル物質の低濃度配合物に関する。本発明では、前記活性エナメル物質を高分子マトリックス内に取り込ませ、特に、組織の修復、再生および/または再構築において用いること、生きた石灰化組織の部分間の結合を誘導すること、生きた石灰化組織の小片を他の生組織の小片上の結合部位に結合させること、皮膚または粘膜の創傷の治癒を改善すること、感染症もしくは炎症状態を予防または治療すること、象牙質を形成または再生させること、移植片の生着を促進すること、上皮由来の良性、半悪性または悪性の新生物を治療すること、アポトーシスを誘導すること、あるいは細胞減少手術などの処置および/もしくは外傷後の創腔ならびに/または組織欠陥を埋めることを意図する。
【0002】
本発明では、高分子マトリックスの分解、酵素作用および/または拡散によって放出されるように、活性エナメル物質を高分子マトリックス内に取り込ませることができる。前記高分子マトリックスは、細胞内殖に適しているか、または細胞閉塞性のどちらかである。
【0003】
したがって、本発明には、特に、配合物内の活性エナメル物質の総濃度がより低い新規薬剤配合物および/または化粧配合物が含まれ、前記活性エナメル物質の放出の空間的および/または選択的な調節により、より高い割合の活性エナメル物質が適切な細胞活性時に放出されることが可能となる。
【背景技術】
【0004】
本発明の活性エナメル物質(用語「活性エナメル物質」は、本明細書の文脈中ではエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質について用いる)は、天然ではエナメルマトリックスの近隣に発生する組織中で見つかる因子を、1つだけでなく因子の統合されたカスケードを誘導することができる。これらは発生中の組織の自然環境を模倣し、したがって組織再生、細胞分化および/または成熟の自然刺激を模倣する。
【0005】
エナメルマトリックス中に存在するエナメルマトリックスタンパク質は、エナメルの前駆体として最もよく知られている。エナメルマトリックスタンパク質は、セメント質形成の前に発生中の歯根の先端部の根表面上に堆積される。堆積したエナメルマトリックスがセメント質形成の開始因子である証拠が存在する。ここでも、セメント質の形成自体が歯根膜および歯槽骨の発生に関連している。したがって、本発明以前に本発明者らによって示されているように、エナメルマトリックスタンパク質は、歯中における天然の付着の発生を模倣することによって歯周部再生を促進することができる(Gestrelius S、Lyngstadaas SP、Hammarstrom L.Emdogain−periodontal regeneration based on biomimicry.Clin Oral Invest、4:120〜125(2000))。
【0006】
エナメルマトリックスは、アメロゲニン、エナメリン、タフト(tuft)タンパク質、プロテアーゼ、およびアルブミンなどのいくつかのタンパク質からなる。エナメルマトリックスの主な構成要素であるアメロゲニンは、選択的スプライシングおよび制御された翻訳後分泌プロセッシングによって単一の遺伝子に由来する、疎水性タンパク質のファミリーである。これらは脊椎動物の進化の間ずっと高度に保存されており、検査したすべて
の高等脊椎動物のすべてにわたって高い全体的な配列相同性レベルを実証している(約80%)。実際、ブタおよびヒトのアメロゲニン遺伝子転写物の配列では塩基の4%しか異ならない。したがって、エナメルマトリックスタンパク質は、ブタ起源ではあるが、人体と遭遇した際に「自己」であるとみなされ、アレルギー応答または他の望ましくない反応を始動させることなくヒトにおいて歯の再生を促進することができる。
【0007】
ブタエナメルマトリックスから精製したタンパク質の酸抽出物の形態のエナメルマトリックス誘導体(例えばEMD)は、重篤な歯付着喪失に罹患している患者における、機能的な歯根膜、セメント質および歯槽骨を回復させるための使用が以前に成功している(Hammarstrom他、1997、Journal of Clinical Periodontology、24、658〜668)。
【0008】
さらに、培養歯根膜細胞(PDL)の研究において、EMDが培養中に存在していた場合、これらの細胞の付着速度、成長および代謝が顕著に増加したことが示されている。また、EMDに曝した細胞は、対照と比較した場合に細胞内cAMPシグナル伝達および成長因子のオートクリン産生の増加を示した。対照的に、上皮細胞では、EMDが存在する場合にcAMPシグナル伝達および成長因子の分泌は増加したが、増殖および成長がどちらも阻害された(Lyngstadaas他、2001、Journal of Clinical Periodontology、28、181〜188)。
【0009】
エナメルマトリックスタンパク質およびエナメルマトリックス誘導体(EMD)は、以前に特許文献中に硬組織形成を誘導すること(例えばエナメル形成、米国特許第4,67
2,032号(Slavkin))、硬組織間の結合を支持すること(EP−B−0 3
37 967号およびEP−B−0 263 086号)、皮膚および粘膜などの開放創治癒を促進すること、感染症および炎症性疾患の治療に対して有益効果を有すること(EPO1、1059934号およびEPOII、01201915.4号)、象牙質の再生を誘導すること(WO01/97834号)、移植片の生着を促進すること(WO00/53197号)、新生物の治療においてアポトーシスを誘導すること(WO00/53196号)、ならびに細胞減少手術などの処置および/もしくは外傷後の創腔および/または組織欠陥を埋めることを促進すること(WO02/080994号)が可能であると記載されている。
【0010】
組織の修復または再生には、上述のEMDの医療適用に例示したように、細胞は創傷床内に遊走し、増殖し、分化し、最終的な組織形状を形成しなければならない。多くの場合、複数の細胞集団がこの形態形成応答に参加しなければならない。
【0011】
それにもかかわらず、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質などの活性エナメル物質の上述の効果または使用の任意のものは、比較的高い濃度の活性エナメル物質の配合物について記載されている。典型的な濃度は10〜30mg/mlである。これまで、より低い濃度の活性エナメル物質の配合物で効果を観察することができていない。本発明を特定の理論に限定することを望まないが、これは、これまで用いられてきたすべての薬剤配合物および/または化粧配合物が非制御の様式で活性エナメル物質を放出するように設計されていることが原因である可能性がある。
【0012】
同様に、投与する塩基性線維芽細胞成長因子の用量を低下させることを可能にするために、成長因子を隔離するための固定ヘパリンの使用に基づいた制御送達装置が設計された。例えば、Edelman他(Biomaterials、1991年9月;12(7):619〜26)は、アルギン酸内にヘパリンとコンジュゲートさせたSEPHAROSE(商標)ビーズを用いた。ビーズは、塩基性線維芽細胞成長因子(「bFGF」)とヘ
パリンとの結合および解離に基づいてbFGFをゆっくりと放出するリザーバとして役割を果たした。
【0013】
また、XIIIa因子基質配列および生物活性ペプチド配列を含む二重ドメインペプチドをフィブリンゲル内に架橋結合させることができ、生物活性ペプチドがin vitroでその細胞活性を保持しているということが実証されている(Schense,J.C.他(1999)Bioconj.Chem.、10:75〜81)。
【0014】
さらに、(US2003/0187232号およびUS2003/0166833号)では、共有または非共有方法のどちらかによってヘパリンをマトリックスに結合させてヘパリン−マトリックスを形成することに基づいて、成長因子タンパク質全体をタンパク質または多糖マトリックス内に取り込ませることが示されている。その後、ヘパリンは、ヘパリン結合成長因子をタンパク質マトリックスに非共有結合させた。また、XIIIa因子基質などの架橋結合領域およびネイティブタンパク質配列を含む融合タンパク質も示されている。マトリックスと生物活性因子との間に分解性結合を取り込むことは、長期的な薬物送達に特に有用であると想定された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,672,032号(Slavkin)
【特許文献2】EP−B−0 337 967号
【特許文献3】EP−B−0 263 086号
【特許文献4】EPO1、1059934号
【特許文献5】EPOII、01201915.4号
【特許文献6】WO01/97834号
【特許文献7】WO00/53197号
【特許文献8】WO00/53196号
【特許文献9】WO02/080994号
【特許文献10】US2003/0187232号
【特許文献11】US2003/0166833号
【特許文献12】米国特許第6,331,422号
【特許文献13】米国特許第5,874,500号
【特許文献14】WO00/44808号
【特許文献15】WO03/052091号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Gestrelius S、Lyngstadaas SP、Hammarstrom L.Emdogain−periodontal regeneration based on biomimicry.Clin Oral Invest、4:120〜125(2000)
【非特許文献2】Hammarstrom他、1997、Journal of Clinical Periodontology、24、658〜668
【非特許文献3】Lyngstadaas他、2001、Journal of Clinical Periodontology、28、181〜188
【非特許文献4】Edelman他(Biomaterials、1991年9月;12(7):619〜26)
【非特許文献5】Schense,J.C.他(1999)Bioconj.Chem.、10:75〜81
【非特許文献6】Sambrook,J.他:Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989
【非特許文献7】Ten Cate:Oral Histology、1994
【非特許文献8】Robinson:Eur.J.Oral Science、1998年1月、106 Suppl.、1:282〜91
【非特許文献9】Devereux,J他(1994)
【非特許文献10】Altschul,S.F.他(1990)
【非特許文献11】BLAST Manual、Altschul,S.F.他、Altschul,S.F.他(1990)
【非特許文献12】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第18版、Mack Publishing Company、Easton、1990
【非特許文献13】Sierra,D.H.、Journal of Biomaterials Applications、7:309〜352(1993)
【非特許文献14】Williams他、Journal of Comparative Neurobiology、264:284〜290(1987)
【非特許文献15】Francis他、Blood Cells、19:291〜307、1993
【非特許文献16】Stryer,L.、Biochemistry、W.H.Freeman&Company、NY、1975
【非特許文献17】Aoki,N、Progress in Cardiovascular Disease、21:267〜286、1979
【非特許文献18】Sakata他、Journal of Clinical Investigation、65:290〜297、1980
【非特許文献19】Aoki他、Thrombosis and Haemostasis、39:22〜31、1978
【非特許文献20】Hem他、J.Biomed.Mater.Res.、39:266〜276(1998)
【非特許文献21】TakagiおよびDoolittle(1975)Biochem.、14:5149〜5156
【非特許文献22】TakaiおよびDolittle、1975
【非特許文献23】Smith他、(1995).J.Biol.Chem.、270:6440〜6449
【非特許文献24】Besson他、(1996)Anal.Biochem.、237:216〜223
【非特許文献25】Netzel−Amett他、(1991)J.Biol.Chem.、266:6747〜6755
【非特許文献26】Coombs他、(1998)J.Biol.Chem.、273〜4323〜4328
【非特許文献27】Tyler−Cross,R.他、Protein Science.3:620〜627
【非特許文献28】ZuckerおよびKatz、(1991).Exper.Biol.Med.:693〜702
【非特許文献29】Kailapur他、Adhesion Molecule(1992)J.Neurosci.Res.33:538〜548
【非特許文献30】Haugen他、(1992).J.Neurosci.12:2034〜2042
【非特許文献31】Hata他、J.Biol.Chem.268:8447〜8457
【非特許文献32】Carey、Annual Review of Physiology、53:161〜177、1991
【非特許文献33】Lander、Journal of Trends in Neurological Science、12:189〜195、1989
【非特許文献34】Williams、Neurochemical Research、12:851〜869、1987
【非特許文献35】Martin、Annual Review of Cellular Biology、3:57〜85、1987
【非特許文献36】Graf他、Cell、48:989〜996、1987
【非特許文献37】Kleinman他、Archives of Biochemistry and Biophysics、272:39〜45、1989
【非特許文献38】Massia他、J.of Biol.Chem.、268:8053〜8059、1993
【非特許文献39】Ignatius他、J.of Cell Biology、111:709〜720、1990
【非特許文献40】Tashiro他、J.of Biol.Chem.、264:16174〜16182、1989
【非特許文献41】Liesi他、FEBS Letters、244:141〜148、1989
【非特許文献42】BIORA Scientific Report 9/88
【非特許文献43】Koo他、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本出願は、上述のすべての医療、治療および化粧上の使用に適用可能な活性エナメル物質の新規かつ改良された配合物の有益効果に関し、前記活性エナメル物質を、活性エナメル物質がマトリックスの分解および/または酵素作用および/または拡散によって放出され、したがって配合物中の必要な総用量が有効に低下され、放出の空間的な調節が容易となり、それにより、より高い割合の活性エナメル物質が適切な細胞活性時に放出されることが可能となるように、前述のマトリックスの2つもしくはそれ以上の組合せを含めた、US2003/0187232号およびUS2003/0166833号に示したマトリックスに類似のタンパク質マトリックス、合成マトリックスならびに/または多糖マトリックス内に取り込ませる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、細胞の成長もしくは内殖に適しているか、または細胞閉塞性であることができる高分子マトリックスと、少なくとも1つの活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための低濃度の薬剤配合物、治療配合物および/または化粧配合物を初めて開示しており、配合物中の前記活性エナメル物質の濃度は、約5mgなどの5mg/ml超えない濃度、または4.9mg/ml、4.5mg/ml、4mg/ml、3.5mg
/ml、3mg/ml、2.5mg/ml、2mg/ml、1.5mg/ml、1mg/ml、750μg/ml、500μg/ml、250μg/ml、150μg/ml、100μg/ml、50μg/ml、25μg/ml、20μg/ml、10μg/ml、5μg/ml、もしくは1μg/mlなどの5mg/ml未満の濃度である。
【0019】
本発明は、放出可能に取り込ませたまたは内部に封入した活性エナメル物質を有する天然および/もしくは合成高分子マトリックスを用いた、硬組織および軟組織の修復、再生、または再構築、特に骨および歯の成長のための生成物ならびに方法を提供する。高分子マトリックスは生体適合性かつ/または生分解性である。これらは、移植時にin vitroまたはin vivoで形成することができる。典型的な高分子マトリックスは、マトリックスの孔径次第で、細胞の成長もしくは内殖に適しているか、または細胞閉塞性のどちらかである。活性エナメル物質は、その完全な生物活性を保持したままで、高分子
マトリックス内に取り込ませる、付着させる、および/または封入することができる。さらに、活性エナメル物質は、放出の時点および/もしくは活性エナメル物質が放出される度合の制御を提供する技術を用いて、放出可能に取り込ませる、付着させる、かつ/または封入することができる。そのような配合物は、例えば、徐放性ビヒクルなどの高分子マトリックスを用いて、組織修復に直接または間接的に用いることができる。
【0020】
本発明以前に記載されている活性エナメル物質を含む配合物は、最も一般的には、前記活性エナメル物質の濃度が少なくとも30mg/mlなど、本明細書中で想定している濃度よりも相当に高い濃度で投与する。さらに、5mgのタンパク質/ml未満を含む配合物は、従来のPGAゲル中に配合するEMDについて実施例1に記載したように、実際に現場では不十分であることが確立されている。
【0021】
実施例に文書的に説得力のあるものとして記載したように、本発明者らは、驚くべきことに、高分子マトリックスおよび活性エナメル物質を含む新規低濃度配合物により、活性エナメル物質の必要な濃度を、100μg/ml〜500μg/ml、50μg/ml〜250μg/ml、50μg/ml〜150μg/ml、10μg/ml〜200μg/ml、10μg/ml〜100μg/ml、5μg/ml〜100μg/ml、1μg/ml〜50μg/ml、またはそれ以下などの1μg/ml〜5mg/mlまで下げることが可能になることを実証することができた。
【0022】
本発明に関連する高分子マトリックスは、イオン結合、共有結合、もしくはそれらの組合せによって前駆体分子を高分子ネットワークに架橋結合させることによって、または1つもしくはそれ以上の高分子材料の膨潤によって、または物理的架橋結合によって、例えば、相もしくは溶解度の差異によるエンドブロックの凝集により形成される架橋結合点によって、形成する。本発明の第1の実施形態では、前記マトリックスは、マトリックス内への細胞の成長、内殖および/または遊走を可能にするために十分なポリマー間間隔を有する高分子ネットワークを形成する。典型的には、この特定の実施形態では、架橋結合した高分子マトリックスはゲルを形成する。本発明の第2の実施形態では、前記マトリックスは、マトリックス内への細胞の内殖および/または遊走を塞ぎ、マトリックス内の活性エナメル物質を制限するために十分に狭い、狭い孔径を有する高分子ネットワークを形成する。さらに、さらなる別の実施形態では、前記第2の実施形態は、経時的に分解されて、マトリックス内への細胞の成長、内殖および/または遊走を可能にするために、十分なポリマー間間隔を含むことができる。
【0023】
上述の本発明の2つの具体的な実施形態は、異なるかつ具体的な役割を果たし、したがって、活性エナメル物質の低濃度配合物の意図する使用次第で、二者択一的に好ましい。例えば、細胞閉塞性のマトリックス形態は、使用の意図が、周辺軟組織と保護する領域との相互作用することを防ぎ、それにより例えば創傷の感染症を予防する、生分解性の障壁を提供することである場合に、好ましい場合がある。別の例では、この形態は、移植床の欠損などの有効な骨再生の完全な治癒時間中に障壁機能が求められる場合に特に好ましい。このような実施形態は膜の形態をとることができる。さらに、そのような好ましいマトリックスは、例えば、予定された酵素分解または加水分解の部位を含めることで、将来的に細胞侵襲性となるように設計することができる。他方で、例えば、細胞減少手術の結果生じた軟組織の創傷または創腔を、活性エナメル物質を含む低濃度配合物で埋める場合は、細胞の内殖および/または遊走が前記創傷の治癒に有益であり、したがって、典型的には、細胞の内殖および/または遊走を可能にするために十分に大きい孔径を有するゲル配合物が好ましい。ここでも、典型的なPEGゲルは、最初は必ずしも細胞の内殖および/または遊走を可能にするために十分大きな孔径ではないが、将来的、例えば、浸潤もしくは隣接細胞によって放出された酵素による酵素分解、または加水分解もしくは機械的分解ののちに細胞の内殖および/または遊走を可能にするために十分に大きな孔径を含むよう
に、設計することができる。また、一部の適用では、前記2つの具体的な形態は相互に変化可能であるか、または一緒に用い得る。
【0024】
一実施形態では、高分子マトリックスはタンパク質、好ましくは高分子マトリックスを移植する患者中に天然に存在するタンパク質から形成される。特に好ましい天然高分子マトリックスタンパク質はフィブリンであるが、コラーゲンおよびゼラチンなどの他のタンパク質から形成された高分子マトリックスを用いることもできる。多糖類および糖タンパク質も高分子マトリックスを形成するために用い得る。
【0025】
別の同等に好ましい実施形態では、合成ポリマーを用いて、イオン結合または共有結合または物理的結合によって架橋結合した高分子マトリックスを形成する。
【0026】
高分子マトリックス材料は、天然に存在する酵素または加水分解によって生分解性であることが好ましい。分解速度は、架橋結合の度合および高分子マトリックス中にプロテアーゼ阻害剤を含めることによってさらに操作することができる。分解性部位により、マトリックスからの活性エナメル物質の放出をより具体的にすることができる。例えば、酵素活性に基づいた分解により、活性エナメル物質の放出が、ゲルを通った活性エナメル物質の拡散ではなく、局所タンパク質分解などの細胞工程によって制御されることが可能となる。分解性の部位または結合は、高分子マトリックスを浸潤するまたはそれを取り囲む細胞から放出された酵素によって切断される。これにより、材料内/材料に隣接する細胞の位置に応じて、活性エナメル物質が同一材料内から異なる速度で放出されることが可能となる。
【0027】
細胞特異的タンパク質分解活性は、例えば長期間にわたって起こる用途において、重要である。本明細書中に記載の活性エナメル物質の徐放性は、その放出は細胞工程によって制御されているので、必要な活性エナメル物質の総量を有効に低下させる。活性エナメル物質の保存およびその生体利用度は、最初の爆発放出によって顕著な量の活性エナメル物質の損失を特徴的にもたらす拡散徐放性装置の使用に勝る、細胞特異的タンパク質分解活性を開拓することの明確な利点である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】周辺骨およびセメント質の回復対ゲル中のEMDの濃度を示す図である。
【図2】挿入したゲル中のEMDの濃度の関数としての、ラット頭蓋骨における危険な大きさの骨欠損の治癒を示す図である(n=4〜5)。
【図3】CEJから欠損の先端部までミリメートルで測定したポケットの深度を示す図である。*P<0.05(ボンフェローニ調整ずみ一元配置分散分析試験)
【図4】標準の組織形態計測技術を適用した、管内および管壁に沿った骨密度の定量的な評価を示す図である。
【図5】標準の組織形態計測技術を適用した、管内および管壁に沿った骨密度の定量的な評価を示す図である。***P<0.001(ボンフェローニ調整ずみ一元配置分散分析試験)
【図6】ミニブタの歯周部裂開モデル、手術の設定を示す図である。
【図7】よく器質化された歯根膜によって新しいセメントから分離された成熟骨および層状骨の再生の組織学を示す図である。A:Emdogain、B:PEG/Ec。
【図8】PEG/Ecの成熟骨および層状骨の再生の組織学を示す図である。
【図9】PEG−Ecを用いた治療(CMC)後の歯根膜の存在の組織学的な観察を示す図である。
【図10】PEG−Ecを用いた治療(CMC)後の歯根膜の存在の組織学的な観察を示す図である。
【図11】骨回復の定量的測定のミクロX線を示す図である。Emdogain(登録商標)が、PEG−EcまたはPEG−Ekと比較して、統計的に有意に最も高い性能に達した(約4mm)(p<0.005)。
【図12】2種類のPEG−EcまたはPEG−EkとEmdogain(登録商標)とで異なっていた再生された骨構造の形態学の組織学を示す図である。
【図13】犬におけるクラス3歯根分岐部欠損の治療の手術の設定を示す図である。図において、それぞれの矢印は約5mmに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
活性エナメル物質
エナメルマトリックスはエナメルの前駆体であり、任意の関連する天然源、すなわち、歯が発生中の哺乳動物から得られ得る。適切な由来源は、例えば子ウシ、ブタまたは子ヒツジなどの屠殺した動物からの発生中の歯である。別の由来源は、例えば魚の皮膚である。本発明の文脈では、用語「活性エナメル物質」とは、その由来源を区別せずにエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質を包含するために用いる。
【0030】
エナメルマトリックスは、以前に記載されているように発生中の歯から製造することができる(EP−B−0 337 967号およびEP−B−0 263 086号)。エナメルマトリックスを掻爬し、例えば、希酸もしくは希塩基または水/溶媒混合液などの水溶液を用いた抽出、次いでサイズ排除、脱塩または他の精製工程、あるいは次いで凍結乾燥によって、エナメルマトリックス誘導体を製造する。あるいは、熱または溶媒を用いた処理によって酵素を失活させてもよく、この場合は、誘導体を凍結乾燥せずに液状で保管し得る。
【0031】
エナメルマトリックス誘導体またはタンパク質の代替由来源として、当業者に周知の一般に適用可能な合成経路を用いるか、またはDNA技術によって改変した培養真核および/もしくは原核細胞を用いてもよい。したがって、エナメルマトリックスタンパク質は組換えおよび/または合成起源のものであり得る(例えば、Sambrook,J.他:Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989参照)。
【0032】
したがって、本発明の一態様は、高分子マトリックスと化学修飾することができる活性エナメル物質の群から選択された少なくとも1つの組換えもしくは合成タンパク質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物に関する。好ましい実施形態では、前記タンパク質は、前記タンパク質のN末端またはC末端に位置する少なくとも1つのシステイン残基を有する。
【0033】
本発明の文脈では、エナメルマトリックス誘導体は、選択的スプライシングもしくはプロセッシングによって、または天然の長さのタンパク質の酵素切断もしくは化学切断のどちらかによって、またはin vitroもしくはin vivoでのポリペプチドの合成(例えば組換えDNA方法および/もしくは二倍体細胞の培養)によって自然に産生させた、1つもしくは複数のエナメルマトリックスタンパク質またはそのようなタンパク質の部分もしくは断片を含むエナメルマトリックスの誘導体である。エナメルマトリックスタンパク質誘導体には、エナメルマトリックスに関連するポリペプチドまたはタンパク質も含まれる。ポリペプチドまたはタンパク質は、ポリアミン酸もしくは多糖類、またはそれらの組合せなどの適切な生分解性担体分子に結合していてもよい。さらに、用語エナメルマトリックス誘導体は、合成類似物質も包含する。
【0034】
タンパク質とは、ペプチド結合によって一緒に連結されたアミノ酸残基によって構成される生物学的巨大分子である。アミノ酸の直鎖状ポリマーとしてのタンパク質は、ポリペ
プチドとも呼ばれる。典型的には、タンパク質は50〜800個のアミノ酸残基を有しており、したがって、約6,000〜約数十万ダルトンの範囲またはそれ以上の分子量を有
する。小さなタンパク質はペプチドまたはオリゴペプチドと呼ばれる。
【0035】
エナメルマトリックスタンパク質とは、通常はエナメルマトリックス中に存在するタンパク質、すなわち、エナメルの前駆体(Ten Cate:Oral Histology、1994;Robinson:Eur.J.Oral Science、1998年1月、106 Suppl.、1:282〜91)、もしくはタンパク質、ペプチドまたはそのようなタンパク質の切断によって得ることができるそのようなタンパク質の断片である。一般に、そのようなタンパク質は120,000ダルトン未満の分子量を有し、ア
メロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチな非アメロゲニンおよびタフテリン(tuftelin)が含まれる。
【0036】
本発明に従って用いるタンパク質の例は、アメロゲニン、プロリンリッチな非アメロゲニン、タフテリン、タフトタンパク質、血清タンパク質、唾液タンパク質、アメロブラスチン、シースリン、それらの断片および誘導体、ならびにそれらの混合物である。本発明に従って用いる活性エナメル物質を含む製剤は、前述のタンパク質物質も少なくとも2つ含み得る。さらに、本発明に従って用いる他のタンパク質は、市販の商品EMDOGAIN(登録商標)(BIORA AB、スウェーデン)中に見つかる。
【0037】
当分野で周知のエナメルマトリックス誘導体であるEMDOGAIN(登録商標)(BIORA AB、S−205 12 Malmoe、スウェーデン)は、1mlのビヒクル溶液(アルギン酸プロピレングリコール)あたり、30mgの、残留プロテアーゼを失活させるために3時間約80℃で加熱したエナメルマトリックスタンパク質を含み、これらは、タンパク質およびビヒクルを個別に試験する場合を除いて、適用の前に混合する。主なタンパク質ピーク20、14および5kDaの重量比は、それぞれ約80/8/12である。
【0038】
一般に、エナメルマトリックスの主要なタンパク質はアメロゲニンとして知られている。これらはマトリックスタンパク質の約90%w/wを構成する。残りの10%w/wにはプロリンリッチな非アメロゲニン、タフテリン、タフトタンパク質、血清タンパク質および少なくとも1つの唾液タンパク質が含まれるが、例えばエナメルマトリックスと関連して同定されているアメリン(アメロブラスチン、シースリン)などの、他のタンパク質も存在していてよい。さらに、様々なタンパク質をいくつかの異なる大きさ(すなわち異なる分子量)で合成および/または加工し得る。したがって、エナメルマトリックス中の支配的なタンパク質であるアメロゲニンは、いくつかの異なる大きさで存在することが判明しており、これらが一緒になって上記分子凝集体を形成する。これらは、生理的条件下で凝集体を形成する、著しく疎水性の物質である。これらは、他のタンパク質もしくはペプチドを保有するか、またはそれらの担体であり得る。凝集体の大きさは変動し、含まれる平均的な大きさは約10nm〜100μm、100nm〜10μm、または50nm〜1μmであり、多くの場合はより大きく、例えば100nm〜100μm、20nm〜100μm、25nm〜100μm、50nm〜100μm、10〜100nm、10〜25nm、100〜50nm、20〜30nm、20〜50nm、20〜60nm、25〜45nm、25nm〜50nm、25nm〜75nm、50nm〜75nmなどである。一般に、凝集体の大きさは変動することができ、これは、所定の溶液/マトリックス中のタンパク質、ペプチドおよび/または断片の濃度ならびにマトリックス中の他の物質の存在にも依存する。
【0039】
したがって、本発明の今回の好ましい実施形態は、アメロゲニンならびに/またはアメロゲニンの少なくとも断片および/もしくは細断片を含む、薬剤配合物、化粧配合物およ
び/または治療配合物に関する。
【0040】
別の同等に好ましい実施形態は、さらに、プリ−プロアメロゲニンを含む薬剤配合物および/または治療配合物に関する。
【0041】
他のタンパク質/ポリペプチド物質も、本発明に従った使用に適していることが企図される。例には、タンパク質またはプロリンリッチなタンパク質およびポリプロリンなどのタンパク質の断片が含まれる。
【0042】
本発明に従った使用に適していることが企図される物質の他の例は、そのようなタンパク質、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質の凝集体、ならびにエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体およびエナメルマトリックスタンパク質の代謝物である。代謝物は、タンパク質の大きさから短いペプチドの大きさの範囲の、任意の大きさであってよい。
【0043】
本発明に関連するタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/またはそれらの細断片は、実質的に単離または精製した形態であり得る。タンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/またはそれらの細断片は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/もしくはそれらの細断片の意図する目的に干渉せず、混合後も実質的に単離したとみなされる担体または希釈剤と混合し得ることを理解されたい。そのような実質的に精製した形態は、一般に、製剤中にタンパク質、ペプチドおよび/またはその断片を含み、製剤中のタンパク質の90%を超える量、例えば95%、96%、97%、98%もしくは99%が本発明のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/または断片である。
【0044】
さらに、本発明による活性エナメル物質のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/または細断片のアミノ酸配列と少なくとも70%同一である任意のアミノ酸配列、例えば少なくとも72%、75%、77%、80%、82%、85%、87%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるアミノ酸配列も本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0045】
参照アミノ酸配列と少なくとも、例えば95%同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/またはその断片とは、例えばポリペプチドのアミノ酸配列が参照配列と同一であるが、ただし、アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列のアミノ酸100あたり5までの点突然変異を含み得ることを意図する。言い換えれば、参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、参照配列中のアミノ酸の5%までが欠失しているか、もしくは別のアミノ酸で置換されていてもよく、または参照配列中の全アミノ酸の5%までのいくつかのアミノ酸が参照配列中に挿入されていてもよい。参照配列のこのような突然変異は、参照アミノ酸配列のアミノまたはカルボキシ末端位置で起こってもよく、あるいはこれらの末端位置間の任意の場所で参照配列中のアミノ酸にわたって個々に、または参照配列内の1つもしくはそれ以上の連続的な集団で散在していてもよい。
【0046】
本発明では、同一性を決定するためには局所アルゴリズムプログラムが最も適している。局所アルゴリズムプログラム(Smith−Watermanなど)では、1つの配列中の部分配列を第2の配列中の部分配列と比較し、最も高い全体類似度スコアを与える部分配列の組合せおよびそのような部分配列のアラインメントを見つける。可能な場合は、内部ギャップにペナルティを与える。局所アルゴリズムは、単一のドメインを有するか、または単に共通の結合部位を有するだけの2つの複数ドメインタンパク質の比較に良好である。
【0047】
同一性および類似度を決定する方法は、公的に利用可能なプログラムで体系化されている。2つの配列間の同一性および類似度を決定するための好ましいコンピュータプログラム方法には、それだけには限定されないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J他(1994))BLASTP、BLASTN、およびFASTA(Altschul,S.F.他(1990))が含まれる。BLASTXプログラムはNCBIおよび他の供給者から公的に利用可能である(BLAST Manual、Altschul,S.F.他、Altschul,S.F.他(1990))。それぞれの配列解析プログラムは初期設定のスコアマトリックスおよび初期設定ギャップペナルティを有する。一般に、分子生物学者は用いるソフトウェアプログラムによって確立されたデフォルト設定を用いることが期待される。
【0048】
エナメルマトリックスのタンパク質は高分子量部分および低分子量部分に分けることができ、エナメルマトリックスタンパク質の明確に定義された画分は歯周部の欠損(すなわち歯周部の創傷)の治療に関して貴重な特性を有することが判明した。この画分は、一般にアメロゲニンと呼ばれる酢酸で抽出可能なタンパク質を含み、エナメルマトリックスの低分子量部分を構成する(EP−B−0 337 967号およびEP−B−0 263
086号を参照)。
【0049】
エナメルマトリックスの低分子量部分は、歯周部の欠損中の硬組織間の結合を誘導するために適切な活性を有する。しかし、本発明の文脈では、活性タンパク質はエナメルマトリックスの低分子量部分に限定されない。現在、好ましいタンパク質には、約60,00
0ダルトン未満の分子量(SDS−PAGEを用いてin vitroで測定)を有するアメロゲニン、タフテリンなどのエナメルマトリックスタンパク質が含まれるが、60,
000ダルトンを超える分子量を有するタンパク質も、例えば結合組織の成長を促進するための候補として有望な特性を有する。
【0050】
上述のように、本発明に従って用いるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、典型的には、SDS PAGE電気泳動で決定した最大で約120kDa、例えば、最大で100kDa、90kDa、80kDa、70kDaまたは60kDaなどの分子量を有する。
【0051】
本発明に従って用いる活性エナメル物質の製剤は、異なる分子量の活性エナメル物質の混合物も含み得る。
【0052】
したがって、本発明に従って用いる活性エナメル物質は、約40,000までの分子量、例えば約5,000〜約25,000の分子量などを有することが企図される。
【0053】
タンパク質を、例えば沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、調製用電気泳動、ゲル浸透クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーまたはアフィニティークロマトグラフィーによって分離することによって、異なる分子量のアメロゲニンを精製することができる。
【0054】
分子量アメロゲニンの組合せは、支配的な20kDaの化合物から40〜5kDaの多くの異なる分子量を有するアメロゲニン凝集体、支配的な5kDaの化合物まで変動し得る。通常はエナメルマトリックス中に見つかるタフテリンまたはタンパク質分解酵素などの他のエナメルマトリックスタンパク質を加え、アメロゲニン凝集体に保有させることができる。
【0055】
一般に、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体およびエナメルマトリックスタンパク質は疎水性物質である、すなわち、特に高温で水への可溶性が低い。典型的
には、これらのタンパク質は非生理的pH値かつ約4〜20℃などの低温で可溶性であり、一方で、体温(35〜37℃)かつ中性pHで凝集および沈殿する。
【0056】
したがって、特に好ましい実施形態では、本発明に従って用いる活性エナメル物質の低濃度配合物は、少なくとも部分的に凝集している、かつ/またはin vivoでの施用後に凝集体を形成することができる活性エナメル物質を含む。前記凝集体の粒子径は、約200μm〜約10nm、例えば100μm〜10nm、10μm〜100nm、1μm〜20nm、1μm〜10nm、5μm〜10nm、10μm〜1nm、100μm〜10nm、100μm〜1nm、1μm〜1nm、1μm〜5nm、1μm〜15nmなどの範囲内にある。
【0057】
本発明中に関連する高分子マトリックスは前駆体分子を高分子ネットワークに架橋結合させることによって形成するので、前記マトリックスは、活性エナメル物質の凝集体をマトリックス内に拘束することを可能にするために十分に狭いポリマー間間隔を有する高分子ネットワークを形成することができる。本発明の好ましい実施形態では、そのような十分に狭い孔径を有する高分子ネットワークは、中性pHで、かつ/またはin situで、前駆体分子を患者の身体に施用したあとに形成され、したがって活性エナメル物質の凝集および/または沈殿が自動的に引き起こされる。
【0058】
本発明に従って、活性エナメル物質を、例えば抗細菌物質、抗炎症物質、抗ウイルス物質、抗真菌物質などの他の活性薬物物質と一緒に、または局所化学療法、アポトーシス誘導剤、例えばTGFβ、PDGF、IGF、FGF、EGF、ケラチノサイト成長因子またはそのペプチド類似体などの成長因子と組み合わせて用い得る。エナメルマトリックスもしくはその製造物中に内在するか、または加えた酵素、特にプロテアーゼも、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質と組み合わせて用い得る。
【0059】
活性エナメル物質の使用に応じて、組成物は薬剤組成物および/もしくは治療組成物、または化粧組成物であり得る。以下では、用語「薬剤組成物および/または治療組成物」は、化粧組成物、およびいわゆる医薬品と化粧品とのあいまいな部分、すなわち薬用化粧品に属する組成物も包含することを意図する。
【0060】
活性エナメル物質を含む薬剤組成物および/または治療組成物は、薬物送達系として役割を果たす。本発明の文脈では、用語「薬物送達系」とは、投与の際にヒトまたは動物の身体に活性物質を提示する薬剤組成物および/または治療組成物(薬剤配合物および/または治療の配合物または剤形)を意味する。
【0061】
活性エナメル物質および高分子マトリックス以外に、本発明に従って用いる薬剤組成物および/または治療組成物は、もちろん、さらなる製薬上または化粧上許容される賦形剤も含み得る。
【0062】
製薬上または化粧上許容される賦形剤とは、現在、組成物を投与する個体に実質的に無害である物質として定義されている。そのような賦形剤は、通常は国の保健機関によって与えられる要件を満たしている。例えば英国薬局方、米国薬局方および欧州薬局方などの公式の薬局方が、製薬上許容される賦形剤の基準を設定している。
【0063】
本発明に従って用いる組成物中の製薬上許容される賦形剤の選択およびその最適濃度は、一般に予測することができず、最終組成物の実験的評価に基づいて決定しなければならない。しかし、薬剤配合物および/または治療配合物の当業者は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第18版、Mac
k Publishing Company、Easton、1990に指針を見つけることができる。
【0064】
フィブリンマトリックス
フィブリンとは、いくつかの生物医学の適用が報告されている天然材料である。フィブリンは、Hubbell他の米国特許第6,331,422号に細胞内殖マトリックスの材料として記載されている。フィブリンゲルは、多くの組織に結合するその能力および創傷治癒における天然の役割が理由で、以前にシーラントして用いられている。一部の具体的な適用には、血管移植片の付着、心臓弁の付着、骨折および腱の修復での骨の配置におけるシーラントとしての使用が含まれる(Sierra,D.H.、Journal of
Biomaterials Applications、7:309〜352(1993))。さらに、これらのゲルは、薬物送達デバイスとして、および神経の再生用に用いられている(Williams他、Journal of Comparative Neurobiology、264:284〜290(1987))。
【0065】
フィブリノーゲンをフィブリン内に重合させる方法も特徴づけられている。最初に、プロテアーゼが二量体フィブリノーゲン分子を2つの対称的な部位で切断する。トロンビン、レプチラーゼ、およびプロテアーゼIIIを含めた、フィブリノーゲンを切断することができるいくつかの可能なプロテアーゼが存在し、そのそれぞれが異なる部位でタンパク質を切断する(Francis他、Blood Cells、19:291〜307、1993)。フィブリノーゲンが切断されたあと、フィブリノーゲン単量体が一緒になって非共有的に架橋結合したポリマーゲルを形成する自己重合工程が起こる(Sierra、1993)。この自己構築が起こるのは、プロテアーゼ切断が起こったあとに結合部位が露出するからである。これらが露出したあと、分子の中心にあるこれらの結合部位は、ペプチド鎖の末端に存在するフィブリノーゲン鎖の他の部位に結合することができる(Stryer,L.、Biochemistry、W.H.Freeman&Company、NY、1975)。このようにして、ポリマーネットワークが形成される。その後、トロンビンタンパク質分解によってXIII因子から活性化されるトランスグルタミナーゼであるXIIIa因子がポリマーネットワークを共有的に架橋結合し得る。他のトランスグルタミナーゼも存在し、それらもフィブリンネットワークへの共有架橋結合および移植に関与し得る。
【0066】
架橋結合したフィブリンゲルが形成されたあと、続く分解は細かく制御する。フィブリンの分解を制御するにあたって重要な分子の1つは、α2−プラスミン阻害剤である(Aoki,N、Progress in Cardiovascular Disease、21:267〜286、1979)。この分子は、XIIIa因子の作用を介してフィブリンのα鎖に架橋結合することによって作用する(Sakata他、Journal of Clinical Investigation、65:290〜297、1980)。それ自身をゲルに付着させることによって、高濃度の阻害剤をゲルに局在化することができる。その後、阻害剤は、プラスミノーゲンとフィブリンとの結合を妨げ(Aoki他、Thrombosis and Haemostasis、39:22〜31、1978)、プラスミンを失活させることによって(Aoki、1979)作用する。α2−プラスミン阻害剤はグルタミン基質を含む。正確な配列は、NQEQVSPL(配列番号12)と同定されており、最初のグルタミンが架橋結合のための活性アミノ酸である。
【0067】
XIIIa因子基質配列および生物活性ペプチド配列を含む二重ドメインペプチドをフィブリンゲル内に架橋結合させることができ、この生物活性ペプチドがin vitroでその細胞活性を保持しているということが実証されている(Schense,J.C.他(1999)Bioconj.Chem.、10:75〜81)。
【0068】
したがって、本発明の好ましい薬剤配合物および/または治療配合物は、細胞の成長もしくは内殖に適しているか、または細胞閉塞性である高分子マトリックスと、活性エナメル物質の群から選択された少なくとも1つのタンパク質とを含み、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mgを超えず、高分子マトリックスはフィブリンを含む。前記薬剤配合物および/または治療配合物では、本発明による活性エナメル物質をXIIIa因子基質配列などのトランスグルタミナーゼ基質ドメインにカップリングさせることができる。
【0069】
このXIIIa因子基質配列には、例えば、GAKDV、KKKK、またはNQEQVSPLが含まれ得る。活性エナメル物質とトランスグルタミナーゼ基質ドメインとのカップリングは化学合成によって行うことができる。
【0070】
あるいは、トランスグルタミナーゼ基質ドメインは、XIIIa因子以外のトランスグルタミナーゼの基質であることができる。最も好ましいXIIIa因子基質ドメインは、NQEQVSPLのアミノ酸配列を有するが、フィブロネクチンなど、トランスグルタミナーゼが認識する他のタンパク質も、トランスグルタミナーゼ基質ペプチドにカップリングさせることができる。
【0071】
【表1】

【0072】
合成マトリックス
身体内に施用する合成マトリックスを形成するための架橋結合反応には、(i)Hem他、J.Biomed.Mater.Res.、39:266〜276(1998)に記載のように、不飽和二重結合を含む2つまたはそれ以上の前駆体間のフリーラジカル重合、(ii)Rhee他の米国特許第5,874,500号に開示されているように、例えばアミン基を含む前駆体とスクシンイミジル基を含む前駆体との間の求核置換反応、(iii)縮合および付加反応、ならびに(iv)強力な求核剤とコンジュゲートした不飽和基または結合(強力な求電子剤など)とのマイケル型付加反応が含まれる。求核基としてチオールまたはアミン基を有する前駆体分子と求電子基としてアクリル基またはビニルスルホン基を含む前駆体分子との間の反応が特に好ましい。求核基として最も好ましいのはチオール基である。マイケル型付加反応はWO00/44808号(Hubbell他)に記載されている。マイケル型付加反応は、敏感な生体物質の存在下においても、生理的条件下で、自己選択的な様式で少なくとも第1および第2の前駆体成分のin situ架橋結合を可能にする。前駆体成分の1つが少なくとも2つの官能性を有し、残りの前駆体
成分のうちの少なくとも1つが2つを超える官能性を有する場合は、この系は自己選択的に反応して架橋結合した三次元生体材料を形成する。
【0073】
したがって、本発明の一態様は、細胞の成長、内殖および/もしくは遊走に適しているか、または細胞閉塞性のどちらかである高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物に関し、前記マトリックスは、強力な求核剤とコンジュゲートした不飽和結合、またはコンジュゲートした不飽和基との間の求核付加反応によって形成される。
【0074】
好ましくは、コンジュゲートした不飽和基またはコンジュゲートした不飽和結合は、アクリレート、ビニルスルホン、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルスルホン、2−もしくは4−ビニルピリジニウム、マレイミド、またはキノンである。
【0075】
求核基は、好ましくはチオール基、アミノ基またはヒドロキシル基である。チオール基は、プロトン化されていないアミン基よりも相当高い反応性を有する。この考察にはpHが重要である。脱プロトン化されたチオールはプロトン化されたチオールよりも相当高い反応性を有する。したがって、2つの前駆体成分を1つの高分子マトリックスへと変換するための、チオールを用いた、アクリレートまたはキノンなどのコンジュゲートした不飽和に関与する付加反応は、多くの場合、約8のpHで最も素早くかつ自己選択的に実施することが最良である。約8のpHでは、有意な数の目的チオールが脱プロトン化されており(したがって反応性がより高くなる)、目的アミンのほとんどがプロトン化されたままである(したがって反応性がより低くなる)。チオールを第1の前駆体分子として用いる場合は、その反応性がアミンよりもチオールに対して選択的であるコンジュゲート構造が非常に望ましい。
【0076】
適切な第1および第2の前駆体分子には、タンパク質、ペプチド、ポリオキシアルキレン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン−コ−アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン−コ−ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン−コ−マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)、およびポリ(酸化エチレン)−コ−d(酸化プロピレン)ブロックコポリマーが含まれる。特に好ましい前駆体分子はポリエチレングリコールである。
【0077】
ポリエチレングリコール(PEG)は、好都合な基礎単位ブロックを提供する。直鎖状(すなわち末端が2つ)もしくは分枝鎖状(すなわち末端が3つ以上)のPEGを容易に購入または合成し、その後、PEGの末端基を官能化してチオールなどの強力な求核剤またはアクリレートもしくはビニルスルホンなどのコンジュゲートした構造のどちらかを導入することができる。わずかに塩基性の環境中でこれらの成分を互いまたは対応する成分のどちらかと混合した場合、第1および第2の前駆体成分の間の反応によってマトリックスが形成される。PEG成分を非PEG成分と反応させることができ、どちらの成分の分子量または親水性も、生じる生体材料の機械的特徴、透過性、および含水量を操作するために制御することができる。
【0078】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態は、細胞の内殖および/もしくは遊走に適しているか、または細胞閉塞性であることができる高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物であり、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mg未満であり、前記マトリックスはポリエチレングリコールを含む。
【0079】
例として、2つまたはそれ以上のシステイン残基を含むペプチドの合成は簡単であり、その後、この成分は容易に求核基との第1の前駆体成分として役割を果たすことができる。例えば、2つの遊離システイン残基を有するペプチドは、生理的pHまたはそれよりわずかに高いpH(例えば8〜9)でPEGトリ−ビニルスルホン(3本のアームを有し、そのアームのそれぞれにビニルスルホンを有するPEG)と混合した場合に容易にマトリックスを形成する。ゲル化はまたより高いpHでさえも良好に進行することができるが、自己選択性を犠牲にする可能性がある。2つの液体前駆体成分、すなわち溶解した前駆体成分を一緒に混合した場合、これらは数秒間から数分間かけて反応して、ネットワークの節を有するPEG鎖のネットワークからなり、連結リンクとしてペプチドを有する弾性ゲルを形成する。ペプチドは、フィブリンマトリックスなどのタンパク質系ネットワーク中で行われるようにネットワークが細胞によって浸潤かつ分解されることができるように、プロテアーゼ基質として選択することができる。好ましくは、ドメイン中の配列は細胞遊走に関与する酵素の基質であるが(例えば、コラゲナーゼ、プラスミン、メタロプロテイナーゼ(MMP)またはエラスターゼなどの酵素の基質として)、適切なドメインはこれらの配列に限定されない。1つの特に有用な配列は、酵素プラスミンの基質である。ゲルの分解特徴は、架橋結合の節として役割を果たすペプチドの詳細を変更することによって操作することができる。コラゲナーゼによっては分解可能であるがプラスミンでは可能でない、またはプラスミンによっては分解可能であるがコラゲナーゼによっては可能でないゲルを作製し得る。さらに、単純にアミノ酸配列を変更して酵素反応のKmもしくはkcat、または両方を変化させることによって、このような酵素に応答してゲルがより速くまたはより遅く分解するようにすることが可能である。したがって、細胞の通常の再構築特徴、例えばプロテアーゼプラスミンに重要な基質部位を示すことによって再構築されることができるという点でバイオミメティックである生体材料を、作製することができる。ペプチドとPEGとのゲル化は自己選択的である。
【0080】
場合により、他の種(例えば組織表面)との化学結合をもたらすために、二官能性薬剤をマトリックス内に取り込ませることができる。マトリックスをPEGビニルスルホンから形成する場合は、プロテアーゼ基質をマトリックス内に取り込ませることが重要である。PEGアクリレートとPEGチオールとの反応から形成したマトリックス以外は、PEGビニルスルホンおよびPEGチオールから形成したマトリックスは加水分解性の結合を含まない。したがって、プロテアーゼ基質を取り込ませることにより、マトリックスが身体内で分解することが可能となる。
【0081】
合成マトリックスは、操作上形成が単純である。2つの液体前駆体を混合する;一方の前駆体は求核基を有する前駆体分子を含み、他方の前駆体分子は求電子基を含む。生理食塩水が溶媒として役割を果たすことができる。反応によって最小限の熱しか発生しない。したがって、ゲル化は、不都合な毒性なしに、組織と直接接触させてin vivoまたはin vitroで実施することができる。したがって、遠位を修飾した(telechelically modified)、またはその側基を修飾したどちらかの、PEG以外のポリマーを用い得る。
【0082】
したがって、本発明は、高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物に関し、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mg未満であり、前記マトリックスは事前に形成するか、または前記マトリックスはin situで形成する。
【0083】
本発明の1つの具体的な態様では、PEGマトリックスの外殻および凝集した活性エナメル物質を含む内核を有するマイクロカプセルを形成する。マイクロカプセルは、PEGおよび活性エナメル物質を含む混合物でのPEGの重合中に、pHをpH5〜pH9.5
の範囲で用いた場合に形成される。マイクロカプセル殻は、活性エナメル物質の凝集体を
封入する重合したPEGによって形成される。活性エナメル物質の凝集体は、重合に用いられるpH5〜pH9.5の範囲のpHによって形成される。活性エナメル物質の凝集体
はPEGマトリックス殻の孔を透過するには大きすぎる。これにより、PEGマトリックス殻が分解されるまで活性エナメル物質はマイクロカプセルから放出されない。
【0084】
ほとんどの治癒指標には、細胞内殖またはマトリックス内への細胞遊走の速度と適応したマトリックスの分解速度との組合せが全体的な治癒応答に重要である。非加水分解性のマトリックスが細胞によって浸潤される潜在性は、主にネットワーク密度の関数である。分岐点もしくは節の間の既存の空間が細胞の大きさに対して小さすぎる場合、またはマトリックス内により多くの空間の作製をもたらすマトリックスの分解の速度が遅すぎる場合は、非常に限定された治癒応答が観察される。天然に見つかる治癒マトリックス、例えば身体中の傷害に対する応答として形成されるフィブリンマトリックスは、細胞が非常に容易に浸潤することができる非常に緩いネットワークからなることが知られている。浸潤は、フィブリンネットワークに組み込まれた一部である細胞接着用のリガンドによって促進される。
【0085】
ポリエテングリコールなどの合成親水性前駆体分子から作製したマトリックスは、高分子ネットワークの形成後に水性環境中で膨潤する。十分に短いゲル化時間(7〜8のpH、36〜38℃の範囲の温度で3〜10分)および身体中におけるマトリックスのin situ形成中の定量的反応を達成するためには、前駆体分子の開始濃度は十分に高くなければならない。そのような条件下では、必要な開始濃度は、マトリックスが水性環境中で分解可能でない場合は細胞の浸潤には密すぎる、マトリックスをもたらす。したがって高分子ネットワークの膨潤は、分岐点間の空間を拡張および拡大するために重要である。
【0086】
前駆体分子の開始濃度には無関係に、4本アームのPEGビニルスルホンおよびSH基を有するペプチドなど、同じ合成前駆体分子から作製したヒドロゲルは、平衡状態において同じ含水量まで膨潤する。これは、前駆体分子の開始濃度が高ければ高いほど、その平衡状態に達した際にヒドロゲルの最終体積が大きくなることを意味する。身体中で利用可能な空間が十分な膨潤を許容するには小さすぎる場合、特に前駆体成分から形成された結合が加水分解可能でない場合は、細胞の浸潤および治癒応答の速度は低下する。その結果、身体に施用するための2つの相反する要件の間の最適値を探さなければならない。良好な細胞の浸潤および続く治癒応答が、分子量が実質的に類似している少なくとも3本のアームを有する三官能性分枝鎖状ポリマーと少なくとも二官能性の分子である第2の前駆体分子との反応から形成した三次元高分子ネットワークで観察されている。第1および第2の前駆体分子の官能基の当量比は0.9〜1.1である。第1の前駆体分子のアームの分子量、第2の前駆体分子の分子量、および分岐点の官能性は、生じる高分子ネットワークの含水量が、水の取込みが完了した後の高分子ネットワークの全重量平衡の質量%〜92質量%となるように選択する。好ましくは、含水量は、水の取込みが完了した後の高分子ネットワークおよび水の全重量の93〜95質量%である。水の取込みの完了は、平衡濃度に達した場合、または生体材料中の利用可能な空間がそれ以上の体積の増加を許容しない場合に、達することができる。したがって、可能な限り低い前駆体成分の開始濃度を選択することが好ましい。これは、すべての膨潤性マトリックスについて当てはまるが、細胞に媒介される分解を受け、高分子ネットワーク中に加水分解性の結合を含まないマトリックスに特に当てはまる。
【0087】
ゲル化時間と低い開始濃度とのバランスは、特に非加水分解性のゲルについては、前駆体分子の構造に基づいて最適化すべきである。具体的には、第1の前駆体分子のアームの分子量、第2の前駆体分子の分子量および分岐の度合、すなわち分岐点の官能性を、相応に調節しなければならない。実際の反応機構はこの相互関係にわずかな影響しか与えない。
【0088】
第1の前駆体分子がそれぞれのアームの末端に官能基を有する3本または4本アームのポリマーであり、第2の前駆体分子が直鎖状の二官能性分子、好ましくは少なくとも2つのシステイン基を含むペプチドである場合は、第1の前駆体分子のアームの分子量および第2の前駆体分子の分子量は、ネットワークの形成後の分岐点間の連結が10〜13kDa(連結が分枝鎖状ではなく直鎖状であるという条件下で)、好ましくは11〜12kDaの範囲の分子量を有するように選択することが好ましい。これにより、第1および第2の前駆体分子の合わせた開始濃度を、溶液中の第1および第2の前駆体分子の全重量の8〜12質量%、好ましくは9〜10質量%の範囲とすることが可能となる(ネットワーク形成前)。第1の前駆体成分の分岐度合を8に増加し、第2の前駆体分子が直鎖状の二官能性分子のままである場合は、分岐点間の連結の分子量を18〜24kDaの分子量まで増加することが好ましい。第2の前駆体分子の分岐度合を直鎖状から3本または4本アームの前駆体成分まで増加する場合は、分子量、すなわち連結の長さを相応に増加する。
【0089】
本発明の好ましい実施形態では、第1の前駆体分子として三官能性の3本アームの15kDaポリマーを含み(すなわちそれぞれのアームが5kDaの分子量を有する)、第2の前駆体分子として0.5〜1.5kDaの範囲、さらにより好ましくは約1kDaの分子量の二官能性の直鎖状分子を含む組成物を選択する。好ましくは、第1および第2の前駆体成分はポリエチレングリコールである。
【0090】
別の好ましい実施形態では、第1の前駆体成分は、官能基としてコンジュゲートした不飽和基または結合、最も好ましくはアクリレートまたはビニルスルホンを含み、第2の前駆体分子の官能基は、求核基、好ましくはチオールまたはアミノ基を含む。
【0091】
本発明のさらに別の好ましい実施形態では、第1の前駆体分子は、それぞれのアームの末端に官能基を有する、4本アームの20kDaのポリマー(それぞれのアームの分子量が5kDa)であり、第2の前駆体分子は、1〜3kDa、好ましくは1.5〜2kDa
の範囲の分子量の二官能性の直鎖状分子である。好ましくは、第1の前駆体分子はビニルスルホン基を有するポリエチレングリコールであり、第2の前駆体分子はシステイン基を有するペプチドである。どちらの好ましい実施形態でも、第1および第2の前駆体分子の合わせた開始濃度の範囲は、第1および第2の前駆体分子ならびに水の全質量の8〜11質量%、好ましくは9〜10質量%(高分子ネットワーク形成前)、10分未満のゲル化時間を達成するためには好ましくは5〜8質量%である。これらの組成物は、pH8.0
、37℃で、混合後約1〜10分、例えば2〜10分、または3〜10分などのゲル化時間を有する。
【0092】
適切な合成ゲルは、例えばWO03/052091号に記載されている。そのような例の1つは、4つのビニルスルホン末端基および配列Gly−Cys−Arg−Asp−(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln)−Asp−Arg−Cys−Glyのジチオールペプチドで官能化した、4本アームの分枝鎖状PEGから形成した酵素分解性ゲルである。WO03/052091号からの別の例は、アクリル化した4本アームのポリエチレングリコール(分子量15,000)を直鎖状ポリエチレングリコールジチオール(分子量3400)と混合することによって形成した加水分解性のゲルであり、これらはマイケル型反応を介して互いに共有結合している。
【0093】
マトリックスが、例えばアクリレートとチオールとの好ましい反応によって形成した加水分解性の結合を含む場合、細胞の浸潤に関するネットワーク密度は最初に特に重要であるが、水性環境では、結合が加水分解されてネットワークが緩み、細胞の浸潤が可能となる。高分子ネットワークの全体的な分岐度合の増加に伴って、連結の分子量、すなわち連結の長さが増加しなければならない。
【0094】
本発明の具体的な実施形態では、活性エナメル物質と細胞閉塞性である高分子マトリックスとを含む低濃度配合物は、水の存在下における少なくとも2つの前駆体の反応によって得る。前記配合物は、例えば当分野で「誘導骨再生」として周知の治療において、移植部位で骨形成を促進するために特に好ましい。本発明では、非骨原性の軟組織細胞が部位に侵入することを阻害する障壁によって骨形成が望まれる部位を周辺組織から分離し、これにより骨髄からの細胞がそれを満たすことが可能となる。そのような膜を形成する本発明による高分子マトリックスは、2つまたはそれ以上前駆体の反応によって得ることができ、前駆体の鎖の隣接する交差点は、10000個未満の原子、例えば5000、1000、900、800、750個未満の原子など、またはさらにより好ましくは670個未満の原子、例えば250〜350個の原子、例えば300個の原子を有する鎖によって結合されている。
【0095】
詳細には、第1の前駆体は、コンジュゲートした不飽和末端基またはコンジュゲートした不飽和末端結合を有する2本もしくはそれ以上の鎖を保有する核を含む。核は、炭素もしくは窒素原子などの単一原子、または酸化エチレン単位などの小分子、糖、ペンタ−エリスリトールなどの多官能性アルコール、ヘキサグリセリンなどのグリセリンもしくはオリゴグリセリンであることができる。鎖は、場合により異種原子、アミド基もしくはエステル基を含む直鎖状ポリマーまたは直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル鎖である。鎖以外に、核は、直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル残基または末端のコンジュゲートした不飽和基もしくは結合を有さないポリマーでさらに置換されていてもよい。本発明の1つの好ましい実施形態では、第1の前駆体は、2〜10本の鎖、最も好ましくは2〜6または4〜8本の鎖を有する。末端のコンジュゲートした不飽和結合は、好ましくは、マレイミド、アクリレート、アクリルアミド、キニーネ、および2−または4−ビニルピリジニウムである。同等に好ましい実施形態では、第1の前駆体は2〜10本の鎖、最も好ましくは3〜8本の鎖、例えば3〜6本の鎖を有する。
【0096】
第2の前駆体は、鎖の末端の最後の20個の原子の任意のものにチオール基がそれぞれ付着した、2本またはそれ以上の鎖を保有する核を含む。例えば、システイン残基を鎖内に取り込ませ得る。好ましくは、チオール基が末端にある。核は、炭素もしくは窒素原子などの単一原子、または酸化エチレン単位などの小分子、糖、ペンタ−エリスリトールなどの多官能性アルコール、ヘキサグリセリンなどのグリセリンもしくはオリゴグリセリンであることができる。鎖は、場合により異種原子、アミド基もしくはエステル基を含む直鎖状ポリマーまたは直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル鎖である。鎖以外に、核は、直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル残基、または末端のコンジュゲートした不飽和基もしくは結合を有さないポリマーでさらに置換されていてもよい。好ましい実施形態では、第2の前駆体は、2〜10本の鎖、最も好ましくは2〜6または4〜8本の鎖を有する。同等に好ましい実施形態では、第2の前駆体は、2〜10本の鎖、最も好ましくは3〜8本の鎖、例えば3〜6本の鎖を有する。
【0097】
第1および第2の前駆体の鎖の合計は、密な三次元ネットワークを得るために、5本以上、例えば6本以上、好ましくは8本以上である。
【0098】
前駆体のそれぞれの核は交差点を形成する。隣接する交差点は、10000個未満の原子、例えば5000、1000、900、800、750個未満の原子、またはさらにより好ましくは670個未満の原子、例えば250〜350個の原子、例えば300個の原子を有する鎖によって結合されており、前記原子とは鎖の主鎖中の原子のことだけを指しており、これは置換基またはH原子を考慮していないことを意味する。好ましくは、2つの隣接する交差点間の原子の数は約330個未満の原子、最も好ましくは30〜120個の原子である。言い換えれば、生じる三次元ネットワークの網目構造は、細胞の寸法(1
〜100μm)よりも、また中性pHで活性エナメル物質によって形成される、例えば10nm〜100μmであることができる凝集体よりも数桁小さく、したがって保持される。
【0099】
したがって、本発明の現在の好ましい実施形態では、ネットワークの網目構造は10nm〜10μmである、すなわち、孔は平均して約1μmよりも小さい、またはそれより大きくない、例えば500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、100nm、75nm、50nm、10nmよりも小さい。好ましい孔径は、10μm〜10nm、例えば10μm〜100nm、10μm〜10nm、1μm〜100nm、500nm〜10nm、500nm〜250nm、50nm〜10nmなどとなるように選択する。
【0100】
活性エナメル物質の高分子マトリックスへの取込み
本発明の別の同等に好ましい実施形態は、特に、高分子マトリックスと共有もしくは非共有結合によって前記マトリックスに連結した活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための低濃度薬剤配合物および/または治療配合物に関する。具体的には、前記活性エナメル物質は、タンパク質、ポリペプチドまたはその細断片であることができる前記活性エナメル物質中の少なくとも1つのシステイン残基と、マトリックスの成分のうち少なくとも1つのコンジュゲートした不飽和基との求核付加反応によって、前記マトリックスに連結することができ、前記少なくとも1つのシステイン残基は前記タンパク質、ポリペプチドまたはその細断片のC末端もしくはN末端のどちらかに位置する。この実施形態は、前記高分子マトリックスが、マトリックス内への細胞の成長、内殖および/または遊走を可能にするために十分なポリマー間間隔を有する高分子ネットワークを形成する場合に、特に好ましい。典型的には、この特定の実施形態では、架橋結合した高分子マトリックスはゲルを形成する。
【0101】
したがって、活性エナメル物質を合成前駆体成分から形成したマトリックス内に取り込ませるためには、活性エナメル物質の融合ペプチド、もしくは取り込ませる任意の他のペプチドを、架橋結合可能な基質ドメインとして少なくとも1つの追加のシステイン基(−SH)を用いて合成するか、またはそれを含むように化学的に変更することができる。その後、遊離システイン基がマイケル型付加反応で前駆体成分のコンジュゲートした不飽和基と反応する。システインのチオール基は、合成ポリマー上のコンジュゲートした不飽和結合と反応して共有結合を形成することができる。
【0102】
したがって、一実施形態では、前記活性エナメル物質を、少なくとも1つの追加のシステイン基(−SH)を含むように化学修飾する。
【0103】
システインは、活性エナメル物質に直接付着しているか、またはリンカー配列を介して付着しているかのどちらかであることができ、これはさらに、活性エナメル物質を例えば実質的にネイティブな形の酵素によってマトリックスから切断できるように、タンパク質分解させる配列などの酵素分解可能なアミノ酸配列、または多糖分解の基質および/もしくはプラスミン分解性配列、またはエステル結合などの非特異的な加水分解によって分解可能な配列を含んでいることができる。
【0104】
分解性結合
一般に、本発明の薬剤配合物および/または治療配合物からの活性エナメル物質の徐放性により、必要な活性エナメル物質の総量が低下する。特に、この効果は、その放出が細胞工程によって制御される場合にさらに最適化される。活性エナメル物質の保存およびその生体利用度は、初期バースト放出によって顕著な量の活性エナメル物質の損失を特徴的にもたらす拡散徐放性デバイスの使用に勝る、細胞特異的タンパク質分解活性を開拓する
ことの明確な利点である。マトリックスに共有結合した活性エナメル物質を用いた骨欠損の強力な治癒の1つの潜在的な説明では、活性エナメル物質を局所的に長時間かけて投与するが(すなわち、単一のパルス用量だけではない)、これを連続的な様式で行うことが重要であると考えられている。これは、マトリックスの酵素切断または加水分解切断のどちらかによるゆっくりとした分解によって達成される。このようにして、その後に分子が持続的な一定期間をかけて起こる偽パルス効果によって送達される。例えば、前駆細胞がマトリックスを浸潤する際、これは活性エナメル物質分子に遭遇し、そこで前骨芽細胞へと分化することができる。しかし、特定のその細胞が結合した活性エナメル物質をマトリックスから解放し続けない場合、これは有効に骨芽細胞へと変換されて骨マトリックスを産生し始める。最後に、活性エナメル物質の治療効果は欠損領域に局在化しており、したがって次いで増幅される。
【0105】
マトリックスを形成している単量体、ポリマー、タンパク質、ポリペプチド、またはそれらの細断片のうちの任意のものを、分解性結合を含めることによって改変することができる。典型的には、これらは、トロンビンによる切断の部位などの酵素切断部位となる。
【0106】
さらに、マトリックスに架橋結合した活性エナメル物質の融合タンパク質またはペプチドキメラは、第1のドメイン中の生物活性タンパク質と第2のドメイン中の付着部位との間に分解性部位を含み得る(例えば、システイン、XIIIa因子基質またはヘパリン結合ドメイン)。これらの分解性部位は、非特異的な加水分解によって分解され得るか(すなわちエステル結合)、または特異的な酵素分解(タンパク質分解もしくは多糖分解)の基質であり得る。
【0107】
分解部位により、一次タンパク質配列にわずかな修飾しか与えずに、またはそれを修飾せずに、活性エナメル物質が放出されることが可能となり、これは、より高い活性エナメル物質の活性をもたらし得る。さらに、分解性部位により、フィブリンゲルなどのマトリックスからの活性エナメル物質のより特異的な放出が可能となる。例えば、酵素活性に基づいて分解により、活性エナメル物質の放出が、何らかの多孔性材料からの活性エナメル物質の拡散によってではなく局在化したタンパク質分解などの細胞工程によって制御されることが可能となる。分解性の部位または結合は、マトリックスを浸潤する細胞から放出された酵素によって切断される。これにより、材料内の細胞の位置に次第で、同一材料内で活性エナメル物質が異なる速度で放出されることが可能となる。長期間にわたって起こるそのような適用には細胞特異的タンパク質分解活性が重要である。
【0108】
タンパク質分解に用いることができる酵素は多数ある。タンパク質分解性部位には、コラゲナーゼ、プラスミン、エラスターゼ、ストロメライシン、またはプラスミノーゲン活性化剤の基質が含まれる。例示的な基質を表2に記載する。P1〜P5は、タンパク質分解が起こる部位からタンパク質のアミノ酸末端に向かって1〜5個のアミノ酸の位置を示す。P1'〜P4'は、タンパク質分解が起こる部位からタンパク質のカルボキシ末端に向かって1〜4個のアミノ酸の位置を示す。
【0109】
【表2】

【0110】
別の好ましい実施形態では、オリゴ−エステルドメインを第1および第2のドメインの間に挿入することができる。これは、乳酸オリゴマーなどのオリゴ−エステルを用いて達成することができる。
【0111】
非酵素分解基質は、酸または塩基に触媒される機構による加水分解を受ける任意の結合からなることができる。このような基質には、乳酸またはグリコール酸のオリゴマーなどのオリゴ−エステルが含まれることができる。これらの材料の分解速度は、オリゴマーの選択を介して制御することができる。
【0112】
多糖基質
酵素分解はさらに、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、およびコンドロイチナーゼABCなどの酵素の多糖基質で起こることができる。これらの酵素のそれぞれが多糖基質を有する。ヘパリン結合系のすべてにヘパリンが存在するおかげで、ヘパリナーゼの基質はこれらの系に既に組み込まれている。
【0113】
したがって、高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物が同様に想定され、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mg以下であり、前記活性エナメル物質は、少なくとも1つのヘパリン結合断片を介して前記マトリックスに共有結合または非共有結合している。
【0114】
タンパク質分解性基質を、活性エナメル物質キメラまたはヘパリン活性エナメル物質キメラのどちらかのペプチド合成中に加えることができる。ヘパリン結合活性エナメル物質キメラは、プラスミンの配列(例えば表2参照)などのプロテアーゼ基質をXIIIa因子基質とヘパリン結合ドメインとの間に挿入することによって、タンパク質分解配列を含むように改変することができる。高いKmおよび低いkcatを有する基質を用いて、切断を遅延させる一方でプロテアーゼの活性部位を占有することができる。プラスミンのもの以外の切断基質を用いて、活性エナメル物質の放出をマトリックス分解に非依存性にすることができる。
【0115】
同時に、オリゴ−エステルドメインも、ペプチドの合成工程中にXIIIa因子基質などの第2のドメインと活性エナメル物質もしくはヘパリン結合ドメインのどちらかである第1のドメイン、またはキメラのヘパリンドメインとの間に挿入することができる。これは、乳酸オリゴマーなどのオリゴ−エステルを用いて達成することができる。
【0116】
非酵素分解基質は、酸または塩基に触媒される機構による加水分解を受ける任意の結合からなることができる。このような基質には、乳酸またはグリコール酸のオリゴマーなどのオリゴ−エステルが含まれることができる。これらの材料の分解速度は、オリゴマーの選択を介して制御することができる。
【0117】
ヘパリン;ヘパリン結合ペプチド
本発明による高分子マトリックスは、ヘパリンおよび/またはヘパリンに結合するタンパク質に直接もしくは間接的に結合するヘパリン結合断片を含めることによって、さらに改変することができる。後者の場合、タンパク質がヘパリンに結合することができ、その後、これがヘパリン結合部位を含む活性エナメル物質への結合に利用可能となるか、または、活性エナメル物質自体が、特定のヘパリン結合活性エナメル物質によって結合されているヘパリン部分を含むことができる。これらは、以下にさらに詳細に記載するように標準の技術を用いて、マトリックス材料に付着させることができる。
【0118】
したがって、本出願の想定される一実施形態は、細胞の成長もしくは内殖に適している、または細胞閉塞性である高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための低濃度薬剤配合物および/または治療配合物であり、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mg未満であり、前記マトリックスは、少なくとも1つのヘパリンおよび/または少なくとも1つのヘパリン結合断片を含めることによって改変する。
【0119】
好ましい実施形態では、ペプチドキメラおよびヘパリン自体からなる二部系を用いて、ヘパリンを非共有的にフィブリンゲルに付着させる。ペプチドキメラは、2つのドメイン
、すなわちXIIIa因子基質および多糖結合ドメインからなる。ペプチドキメラがフィブリンゲルに架橋結合したのち、これは非共有相互作用によってヘパリン(または他の多糖類)に付着する。
【0120】
多数のタンパク質がヘパリン結合親和性を有することが判明している。例は以下の表3中に見つけることができる。
【0121】
【表3】

【0122】
想定される代替実施形態では、活性エナメル物質自体が、表3に例示した物質などのヘパリン結合親和性を有する結合基質に対する親和性を示す。そのような実施形態では、活性エナメル物質が上述のように共有的または非共有的に高分子マトリックス内に結合し、したがって、任意の他の物質とヘパリン結合親和性との非共有相互作用のためのヘパリン様ドメインが提供される。
【0123】
細胞付着部位
細胞は、細胞表面におけるタンパク質−タンパク質、タンパク質−オリゴ糖およびタンパク質−多糖の相互作用を介してその環境と相互作用する。細胞外マトリックスタンパク
質は、細胞に大量の生物活性シグナルを提供する。この密なネットワークが細胞の支援に必要であり、マトリックス中の多くのタンパク質が細胞の接着、拡大、遊走および分化を調節することが示されている(Carey、Annual Review of Physiology、53:161〜177、1991)。とりわけ活性があることが示されている特異的タンパク質の一部には、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲンおよびコラーゲンが含まれる(Lander、Journal of Trends in Neurological Science、12:189〜195、1989)。ラミニンの研究が数多く実施されており、ラミニンが、in
vivoでの神経およびin vitroでの神経細胞の発生および再生(Williams、Neurochemical Research、12:851〜869、1987)、ならびに血管形成にも重要な役割を果たすことが示されている。
【0124】
細胞受容体と直接相互作用して接着、拡大またはシグナル伝達のいずれかを引き起こす特異的配列の一部が同定されている。
【0125】
大きな複数ドメインタンパク質であるラミニンは(Martin、Annual Review of Cellular Biology、3:57〜85、1987)、3本の鎖からなり、いくつかの受容体結合ドメインを有することが示されている。これらの受容体結合ドメインには、ラミニンB1鎖のYIGSR配列(Graf他、Cell、48:989〜996、1987;Kleinman他、Archives of Biochemistry and Biophysics、272:39〜45、1989;およびMassia他、J.of Biol.Chem.、268:8053〜8059、1993)、ラミニンA鎖のLRGDN(Ignatius他、J.of Cell Biology、111:709〜720、1990)およびラミニンB1鎖PDGSR(Kleinman他、1989)が含まれる。いくつかの他の細胞認識配列も同定されている。それらには、ラミニンA鎖のIKVAV(Tashiro他、J.of Biol.Chem.、264:16174〜16182、1989)およびラミニンB2鎖の配列RNIAEIIKDI(Liesi他、FEBS Letters、244:141〜148、1989)が含まれる。
【0126】
さらなる好ましい実施形態では、細胞接着のためのペプチド部位をマトリックス内に、すなわち、細胞表面上の接着促進受容体に結合するペプチドを本発明の生体材料内に取り込ませる。そのような接着促進ペプチドは上述の群から選択することができる。特に好ましいのは、フィブロネクチン由来のRGD配列およびラミニン由来のYIGSR配列である。細胞付着部位の取込みは合成マトリックスの特に好ましい実施形態であるが、天然マトリックスの一部に含めることもできる。取込みは、例えば、単純に、システイン含有細胞付着ペプチドをPEGアクリレート、PEGアクリルアミドまたはPEGビニルスルホンなどのコンジュゲートした不飽和基を含む前駆体分子と、数分間混合し、その後、チオール含有前駆体成分などの求核基を含む残りの前駆体成分と混合することによって行うことができる。細胞付着部位がシステインを含まない場合は、含むように化学合成を行うことができる。この最初の工程中、接着促進ペプチドは、コンジュゲートした不飽和で多重官能化された前駆体の一方の末端内に取り込まれる。残りの複数チオールを系に加えた際、架橋結合したネットワークが形成される。ここでネットワークが製造される方法の別の重要な暗示は、接着シグナルなどのペンダント生物活性リガンドの取込みの効率である。例えば、結合していないリガンド(例えば接着部位)が細胞とマトリックスとの相互作用を阻害する可能性があるので、この工程は定量的でなければならない。そのようなペンダントオリゴペプチドを用いた前駆体の誘導体化は、最初の工程において、複数アームの求電子性前駆体がチオールよりも化学量論的に大過剰であるようにして実施し(最低40倍)、したがって明確に定量的である。望ましくない阻害の予防の他に、この成果は生物学的にさらに顕著である:細胞の挙動はリガンド密度の小さな変化に非常に敏感であり、取
り込ませるリガンドの正確な知識により、細胞−マトリックスの相互作用の設計および理解が助けられる。要約すると、マトリックス内に共有結合した接着部位の濃度は、細胞の浸潤の速度に顕著な影響を与える。例えば、所定のヒドロゲルについて、RGD濃度範囲を、細胞内殖および細胞遊走を最適な様式で支持するマトリックス内に取り込ませることができる。
【0127】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、細胞の成長もしくは内殖に適している高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための低濃度薬剤配合物および/または治療配合物であり、前記活性エナメル物質の濃度は配合物1mlあたり5mg未満であり、前記マトリックスはRGDを含めることによって改変する。例えば、実験セクションの実施例2および4を参照されたい。
【0128】
使用方法
本発明は、放出可能に取り込ませたかつ/もしくは内部に封入した活性エナメル物質を有する天然および/または合成マトリックスを用いて、硬組織ならびに軟組織の修復、再生または再構築、特に骨および歯の成長を行うための、活性エナメル物質の低濃度配合物を提供する。マトリックスは生体適合性かつ/または生分解性であり、移植時にin vitroまたはin vivoで形成されることができる。活性エナメル物質をマトリックス内に取り込ませるかつ/または封入することができ、これはその完全な生物活性を保持している。さらに、概要を上述した通り、どのようにして、いつ、およびどの程度の活性エナメル物質が放出されるかの制御をもたらす技術を用いて、活性エナメル物質を放出可能に取り込ませることができ、これにより、マトリックスを徐放性ビヒクルとして用いてマトリックスを直接または間接的な組織修復に用いることができる。
【0129】
本明細書中に記載の新規低濃度薬剤配合物、化粧配合物および/または治療配合物は、移植前あるいは移植時において、組織の修復、再生、および/もしくは再構築、ならびに/または活性エナメル物質の放出に用いることができる。一部の実施形態では、移植部位においてマトリックスを組織と合わせるために、投与部位で架橋結合を誘導することが望ましい。他の実施形態では、移植前にマトリックスを製造することが好都合である。
【0130】
また、移植前もしくは移植時に、またはさらには移植に続いて、ポリマーを架橋結合させてマトリックスを形成するときまたはそれに続いたときのどちらかに、細胞を薬剤配合物および/または治療配合物に加えることもできる。これは、マトリックスを架橋結合させて細胞の増殖もしくは内殖を促進するために設計された間質間隔を生じさせることに加えて、またはそれの代わりであり得る。
【0131】
ほとんどの場合は、細胞の成長もしくは増殖を促進するために薬剤配合物および/または治療配合物を導入することが望ましいが、一部の潜在的なシナリオでは、活性エナメル物質を用いて細胞増殖の速度を阻害する。具体的な適用は、手術後に接着の形成を阻害すること、および移植の配置後に線維芽細胞の創傷床内への内殖を阻害することである。
【0132】
特定の一態様では、本明細書中に記載の新規かつ改良されたエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質の低濃度配合物は、治療剤、予防剤および/または化粧剤などの医薬品として用いること、特に、組織の修復、再生および/または再構築において用いること、生きた石灰化組織の部分間の結合を誘導すること、生きた石灰化組織の小片を他の生組織の小片上の結合部位に結合させること、皮膚または粘膜の創傷の治癒を改善すること、感染症もしくは炎症状態を予防または治療すること、象牙質を形成または再生させること、移植片の生着を促進すること、上皮由来の良性、やや悪性または悪性の新生物を治療すること、アポトーシスを誘導すること、あるいは細胞減少手術などの処置および/もしくは外傷後の創腔ならびに/または
組織欠陥を埋めることを意図する。
【0133】
第2の態様では、そのような薬剤配合物および/または治療配合物を、骨、軟骨および歯などの石灰化組織を修復するための、軟組織および粘膜などの非石灰化組織を修復するための、炎症および/または感染症に関与する状態を治療するための、象牙質を形成または再生するための、移植片の生着を促進するための、上皮由来の良性、半悪性または悪性の新生物を治療するための、アポトーシスを誘導するための、あるいは細胞減少手術などの処置および/または外傷後の創腔および/または組織欠陥を埋めるための医薬品の製造に用いる。
【0134】
歯周部組織の治癒ならびに再生、特に石灰化組織の再成長のために本明細書中に記載の新規かつ改良されたエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質の低濃度配合物をブタの歯周部裂開モデルに施用することによって(実験セクションの実施例5参照)、驚くべきことに、再生された骨構造の形態学が、標準的な高濃度配合物(PGA中に30mg/ml)中のエナメルマトリックス誘導体を用いた場合に再生された構造と異なることが判明した。したがって、新規配合物は、初めて哺乳動物の身体内において骨成長または骨再成長の誘導などの石灰化組織の誘導新生を可能にすることが、判明した。
【0135】
本発明を特定の科学理論に限定することを望まずに、新しく形成される骨構造は、細胞の内殖および/もしくは遊走に適した高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物内で形成されることが想定される。したがって、この新規マトリックスの体積、形状および位置を用いて、対応する骨発生の体積、形状および位置のモデリングを行うことができ、これにより、そのような配合物中の活性エナメル物質の実際の濃度に無関係に、このようなマトリックスの新規かつ複雑な適用が可能となる。当業者は、エナメルマトリックスの前記濃度は、それぞれの具体的な必要性に最も適するように調節することができることを理解するであろう。
【0136】
細胞の内殖および/もしくは遊走に適した高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む本発明の活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療配合物の、潜在的な新規の医薬ならびに/あるいは歯科の適用は、例えば、歯根分岐部欠損などの大きなもしくは複雑な歯の欠損の治療、または骨格中もしくは哺乳動物の身体の関節中の損失した骨構造の再成長である。さらに、この配合物を、骨の新生もしくは再成長をin
vivo、in situ、または哺乳動物の身体外、および哺乳動物の身体の非末端位置で特定の形状へと誘導することに使用できることも想定されており、そのような新規骨構造は、哺乳動物の身体内への移植に容易に用いることができる。
【0137】
本発明の好ましい実施形態では、概要を上述した新規の医療適用に用いる活性エナメル物質の配合物は、ポリエチレングリコールと配合物1mlあたり5mg未満である濃度の前記活性エナメル物質とを含む。それでもなお、このような新規な医療適用には、もちろん、ポリエチレングリコールまたは細胞の内殖および/もしくは遊走に適した任意の他の高分子マトリックスを含む、活性エナメル物質の配合物の使用も含まれていることができ、活性エナメル物質の濃度は5mg/mlを超え、例えば、10、20もしくは30mg/mlを超える、またはさらに高い濃度などである。
【0138】
本発明による薬剤配合物および/または治療配合物とEMDOGAIN(登録商標)とを含む、両配合物を同時に施用するためのキット、ならびにそのようなコンビナトリアルキットの医薬品としての使用がさらに想定される。
【0139】
本発明の持続放出配合物の利点
高分子マトリックスと活性エナメル物質とを含む本発明の薬剤配合物および/または治療配合物は持続放出配合物として用いることができる。タンパク質/ポリペプチドの生物学的半減期は多くの場合短く、したがって、身体に投与した場合はそれらの生物活性が迅速に失われる。また、一般的な配合物では、本明細書中に記載の持続放出配合物とは対照的に、投与後に最初に放出される大量の物質が原因で最初に物質の活性のバーストがあり、その後、生物活性は経時的に低下する。対照的に、本発明の薬剤配合物および/または治療配合物を用いることによって、放出時間および濃度放出のどちらに関しても活性エナメル物質の放出を制御することができる。また、本発明の薬剤配合物および/または治療配合物を用いることによって、活性エナメル物質の放出は局在化された放出であり、放出は所望の身体部位で制御された様式で起こる。本発明の配合物はまた、均一な量の活性エナメル物質が持続した期間、望ましい場合は数日間および数週間にさえわたって放出されることも可能にする。したがって、創傷治癒方法が改善される。
【0140】
活性エナメル物質が放出される期間および時間単位あたりの放出量は、ポリマーの濃度、ポリマーと活性エナメル物質との架橋結合の度合、配合物中の活性エナメル物質の濃度、酵素切断部位および本明細書中の他の箇所に記載したポリマーネットワークの分解速度に影響を与える他の生物活性のある物質の取込みに関して、薬剤配合物ならびに/または治療配合物の組成を変更することによって調節することができる。したがって、それぞれの具体的な適用について所望に応じて放出プロフィールを調節することができる。
【0141】
さらに、本明細書中に記載の新規配合物の一部は、例えばPGAゲル中の標準的なエナメルマトリックス誘導体の配合物よりも形状安定性が高く、また、これらが細胞の内殖にも適するように設計されている場合は、これらは初めて、石灰化組織を特定の形状、体積および/または局在化への特異的な再成長の誘導に用いることができる。
【0142】
施用方法
一実施形態では、薬剤配合物および/または治療配合物を、身体内のin situもしくは身体上でゲル化させる。別の実施形態では、薬剤配合物および/または治療配合物を身体外で事前に形成し、その後、事前に形成した形状で施用することができる。
【0143】
上述のように、マトリックス材料は合成または天然の前駆体成分から作製することができる。用いる前駆体成分の種類に無関係に、成分の重合もしくはゲル化を可能とする条件下における互いの組合せまたは接触を防ぐために、混合物を身体に施用する前に前駆体成分は分離すべきである。投与前の接触を防止するために、組成物を互いから分離するキットを用い得る。重合を可能にする条件下で混合したのち、組成物は、活性エナメル物質が添加された三次元ネットワークを形成する。前駆体成分およびその濃度次第では、ゲル化は混合後ほぼ瞬時に起こることができる。
【0144】
一実施形態では、マトリックスはフィブリノーゲンから形成される。フィブリノーゲンは、適切な温度およびpHでトロンビンならびにカルシウム源に接触させた場合に、様々な反応カスケードを介したゲル化によりマトリックスを形成する。フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム源の3つの成分は別々に保管すべきである。しかし、3つの成分のうち少なくとも1つを分離しておけば、他の2つの成分を投与前に混合してもよい。フィブリノーゲンは、生理的pH(pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜7.5の範囲)の緩衝溶液中に溶かし(これは安定を増加させるためにさらにアプロチニンを含んでいてよい)、塩化カルシウム緩衝液中のトロンビンの溶液(例えば40〜50mMの濃度範囲)とは別に保管することができる。フィブリノーゲンの緩衝溶液は、追加で150mMの好ましい濃度のNaClを含む50mMの好ましい濃度のヒスチジン緩衝溶液、またはトリス緩衝液生理食塩水(好ましくは33mMの濃度)であることができる。好まし
い実施形態では、活性エナメル物質、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウム源を含むキットを提供する。場合により、キットはXIIIa因子などの架橋結合酵素も含み得る。活性エナメル物質は、活性エナメル物質の生物活性ドメイン、架橋結合酵素の基質ドメインおよび基質ドメインと生物活性ドメインとの分解部位を含む融合タンパク質であることができる。融合タンパク質は、フィブリノーゲンまたはトロンビンの溶液のどちらか中に存在し得る。好ましい実施形態では、フィブリノーゲン溶液が融合タンパク質を含む。
【0145】
溶液は、混合チャンバおよび/もしくは針ならびに/またはスタティックミキサーによって両方のシリンジの内容物を圧迫することで混合を行う、2方向シリンジ装置によって混合することが好ましい。他の同等に好ましい選択肢は、2つの溶液を容器に入れ、内部でそれらを混合し、例えばシリンジに移し、その後に施用することである。最適には、両方の溶液をシリンジ1内のわずかに酸性の緩衝液に溶かし、その後、塩基(および代わりに粘度調整剤)を含むメスルアーを備えたシリンジに取り付け、シリンジ−シリンジの混合によって混合することができる。
【0146】
本発明の好ましい実施形態では、フィブリノーゲンおよびトロンビンはどちらも凍結乾燥した形態で別々に保管する。2つのうちのどちらかが融合タンパク質を含むことができる。使用前にトリスまたはヒスチジン緩衝液をフィブリノーゲンに加え、緩衝液はさらにアプロチニンを含んでいてよい。凍結乾燥したトロンビンを塩化カルシウム溶液に溶かす。次いで、フィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を別々の容器/バイアル/シリンジ体に入れ、2方向シリンジなどの2方向連結装置によって混合する。場合により、容器/バイアル/シリンジ体は2分されており、したがって、シリンジ体の壁に垂直な調節可能な隔壁によって分離されている2つのチャンバを有する。一方のチャンバは凍結乾燥した凍結乾燥したフィブリノーゲンまたはトロンビンを含み、他方のチャンバは適切な緩衝溶液を含む。プランジャーを下に押すと、隔壁が移動し、緩衝液をフィブリノーゲンチャンバ内に放出してフィブリノーゲンを溶かす。フィブリノーゲンおよびトロンビンがどちらも溶解したあと、両方の2分したシリンジ体が2方向連結装置に取り付けられており、連結装置に取り付けられた注入針を介して内容物を圧迫することによって混合する。場合により、連結装置は内容物の混合を向上するためにスタティックミキサーを含む。
【0147】
別の同等に好ましい実施形態では、混合前にフィブリノーゲンを8倍希釈し、トロンビンを20倍希釈する。この比により、約1分のゲル化時間がもたらされる。
【0148】
さらなる実施形態では、本発明の低濃度配合物中に含まれる高分子マトリックスは、マイケル付加反応を受けることができる合成前駆体成分から形成される。求核性前駆体成分(マルチチオール)は塩基性pHでのみマルチアクセプター成分(コンジュゲートした不飽和基)と反応するので、混合前に別々に保管しなければならない3つの成分は、塩基、求核性成分およびマルチアクセプター成分である。マルチアクセプターおよびマルチチオール成分は、どちらも緩衝液または酸中の溶液として保管することができる。PEG−アクリレートは、通常は乾燥保管する。したがって、代替方法では、どちらのPEGも乾燥保管し、使用前に塩基性緩衝液に溶かすか(実施例2に記載のように)、または、PEG−チオールを酸性緩衝液中で保管し、使用前にPEG−アクリレートと混合し、次いで塩基と混合する(実施例3参照)。どちらの組成物も、細胞付着部位およびさらに活性エナメル物質を含むことができる。したがって、この系の第1の組成物は例えば求核性成分の溶液を含むことができ、系の第2の組成物はマルチアクセプター成分の溶液を含むことができる。2つの組成物のどちらかまたは両方が塩基を含むことができる。別の実施形態では、マルチアクセプターおよびマルチチオールを溶液として第1の組成物に含めることができ、第2の組成物が塩基を含むことができる。連結および混合は、フィブリノーゲンについて事前に記載したものと同じ方法で起こる。2分したシリンジ体は、同様に合成前駆
体成分に適している。フィブリノーゲンおよびトロンビンの代わりに、マルチアクセプターおよびマルチチオール成分を粉砕形態で一方のチャンバに保管し、他方のチャンバが塩基性緩衝液を含む。他の同等に好ましい選択肢は、2つの溶液を容器に入れ、内部でそれらを混合し、例えばシリンジに移し、その後に施用することである。最適には、両方のPEGをシリンジ1内のわずかに酸性の緩衝液に溶かし、その後、塩基(および代わりに粘度調整剤)を含むメスルアーを備えたシリンジに取り付け、シリンジ−シリンジの混合によって混合することができる。
【0149】
定義
本明細書中で一般的に用いる「生体材料」とは、生物学系と作用を及ぼしあって、身体の任意の組織、器官もしくは機能の評価、処置、増強、または置換を、材料に応じて持続的あるいは一時的に行うことを意図する材料をいう。用語「生体材料」および「マトリックス」は本明細書中では同義で用いられ、マトリックスの性質に応じて、水で膨潤させることができるが水に溶解しない、すなわち、特定の一定期間の間身体内に留まって外傷または欠損した軟組織および/もしくは硬組織の特定の支援機能を満たすヒドロゲルを形成することができる、架橋結合した高分子ネットワークを意味する。
【0150】
用語「タンパク質マトリックス」とは、イオン結合、共有結合、もしくはそれらの組合せによるタンパク質前駆体分子と高分子ネットワークとの架橋結合、または1つもしくはそれ以上の高分子材料、すなわちマトリックスを膨潤させて高分子ネットワークを形成することによって形成したマトリックスを意味する。
【0151】
「多糖マトリックス」とは、イオン結合、共有結合、もしくはそれらの組合せによる多糖前駆体分子と高分子ネットワークとの架橋結合、または1つもしくはそれ以上の高分子材料、すなわちマトリックスを膨潤させて高分子ネットワークを形成することによって形成したマトリックスを記載するために用いる。
【0152】
「合成マトリックス」とは、イオン結合、共有結合、もしくはそれらの組合せによる合成前駆体分子と高分子ネットワークとの架橋結合、または1つもしくはそれ以上の高分子材料、すなわちマトリックスを膨潤させて高分子ネットワークを形成することによって形成したマトリックスを意味する。
【0153】
用語「高分子マトリックス」とは、上述のタンパク質、多糖および合成マトリックスのいずれかを含めるために用いる。ポリマー自体は、少なくとも5つの単量体の連合によって形成した大分子である。
【0154】
本明細書中で用いる「エナメルマトリックス」とは、任意の関連する天然源、すなわち、歯が発生中の哺乳動物から得ることができる、エナメルの前駆体を意味する。適切な由来源は、例えば子ウシ、ブタまたは子ヒツジなどの屠殺した動物からの発生中の歯である。別の由来源は、例えば魚の皮膚である。本発明の文脈では、用語「活性エナメル物質」とは、その由来源を区別せずにエナメルマトリックス誘導体および/またはエナメルマトリックスタンパク質を包含するために用いる。用語「エナメルマトリックス」、「エナメルマトリックス誘導体」(EMD)、「エナメルマトリックスタンパク質」などを上述のポリマーマトリックスと混同してはならない。
【0155】
本明細書中で一般的に用いる「強力な求核剤」とは、極性の結合を形成する反応において求電子剤に電子対を提供できる分子をいう。好ましくは、強力な求核剤は生理的pHで水よりも求核性が高い。強力な求核剤の例はチオールおよびアミンである。
【0156】
本明細書中で一般的に用いる「コンジュゲートした不飽和結合」とは、炭素−炭素、炭
素−異種原子もしくは異種原子−異種原子の多重結合を単結合に変化させること、または合成ポリマーもしくはタンパク質などの巨大分子に官能基を連結させることをいう。そのような結合は、付加反応を受けることができる。
【0157】
本明細書中で一般的に用いる「コンジュゲートした不飽和基」とは、炭素−炭素、炭素−異種原子もしくは異種原子−異種原子の多重結合から単結合への変化を含み、付加反応を受けることができる多重結合を有する、分子または分子の領域をいう。コンジュゲートした不飽和基の例には、それだけには限定されないが、ビニルスルホン、アクリレート、アクリルアミド、キノン、およびビニルピリジニウム、例えば2−または4−ビニルピリジニウムならびにイタコネートが含まれる。
【0158】
本明細書中で一般的に用いる「合成前駆体分子」とは、天然に存在しない分子をいう。
本明細書中で一般的に用いる「天然に存在する前駆体成分またはポリマー」とは、天然に見つけることができる分子をいう。
【0159】
本明細書中で一般的に用いる「官能化」とは、官能基または部分の付着をもたらす様式の分子の改変をいう。例えば、分子を強力な求核剤またはコンジュゲートした不飽和にする分子を導入することによって、分子を官能化し得る。好ましくは、分子、例えばPEGを官能化して、チオール、アミン、アクリレート、またはキノンにする。特に、ジスルフィド結合を部分的または完全に還元して遊離チオールを作製することによって、タンパク質も有効に官能化し得る。
【0160】
本明細書中で一般的に用いる「官能性」とは、分子上の反応性部位の数をいう。
本明細書中で一般的に用いる「分岐点の官能性」とは、分子中の1点から伸びるアームの数をいう。
【0161】
本明細書中で一般的に用いる「接着部位または細胞付着部位」とは、分子、例えば細胞表面上の接着促進受容体が結合するペプチド配列をいう。接着部位の例には、それだけには限定されないが、フィブロネクチンからのRGD配列およびラミニンからのYIGSR配列が含まれる。好ましくは、マトリックスに架橋結合可能な基質ドメインを含めることによって接着部位を生体材料内に取り込ませる。
【0162】
本明細書中で一般的に用いる「生物活性」とは、目的タンパク質によって媒介される機能的事象をいう。一部の実施形態では、これには、ポリペプチドと別のポリペプチドとの相互作用を測定することによってアッセイが行われる事象が含まれる。また、これには、目的タンパク質が細胞の成長、分化、死、遊走、接着、他のタンパク質との相互作用、酵素活性、タンパク質リン酸化もしくは脱リン酸化、転写、または翻訳に対して有する効果のアッセイを行うことも含まれる。
【0163】
本明細書中で一般的に用いる「再生」とは、硬組織または軟組織、特に骨もしくは歯組織など、何かの一部分あるいは全体を成長させて元に戻すことを意味する。
【0164】
本明細書中で一般的に用いる「多官能性」とは、1個の分子(すなわち、単量体、オリゴマーおよびポリマー)あたり複数の求電子性ならびに/または求核性の官能基であることをいう。
【0165】
本明細書中で一般的に用いる「自己選択的反応」とは、組成物の第1の前駆体成分が組成物の第2の前駆体成分と、およびその逆も、混合物中または反応部位に存在する他の化合物とよりもはるかに速く反応することを意味する。本明細書中で用いるように、他の生体化合物より、求核剤は優先的に求電子剤に結合し、求電子剤は優先的に強力な求核剤に
結合する。
【0166】
本明細書中で一般的に用いる「架橋結合」とは、共有結合の形成を意味する。しかし、イオン結合、または共有結合および非共有結合の組合せなどの、非共有結合の形成を言う場合もある。
【0167】
「ゲル」とは、水溶液の連続的な相によって有限に膨潤させた、架橋結合したポリマーネットワークの材料である。
【0168】
本明細書中で一般的に用いる「高分子ネットワーク」とは、単量体、オリゴマーまたはポリマーの実質的にすべてがその利用可能な官能基を介した分子間共有結合によって結合して1つの巨大な分子をもたらす方法の生成物を意味する。
【0169】
本明細書中で一般的に用いる「生理的」とは、生きた脊椎動物中で見つけることができる通りの条件を意味する。特に、生理的条件とは、温度、pHなどの人体中の条件をいう。生理的温度とは、特に35℃〜42℃、好ましくは約37℃の温度範囲を意味する。
【0170】
本明細書中で一般的に用いる「架橋結合密度」とは、それぞれの分子の2つの架橋結合間の平均分子量(Mc)をいう。
【0171】
本明細書中で一般的に用いる「当量」とは、物質1gあたりの官能基のmmolをいう。
【0172】
本明細書中で一般的に用いる「膨潤」とは、生体材料による水の取込みによる、体積および質量の増加をいう。用語「水の取込み」および「膨潤」は、本出願を通して同義で用いられている。
【0173】
本明細書中で一般的に用いる「平衡状態」とは、水または緩衝液中の一定条件下で保管した場合に、ヒドロゲルが質量の増加も低下も受けない状態をいう。
【0174】
本発明の文脈では、用語「細胞閉塞性」とは、前記マトリックスによって形成された区画から細胞を閉鎖または遮断することができ、細胞が本質的に前記区画内または外へ横断することができないようにする、高分子マトリックスの特徴を説明するために用いる。例えばこの障壁様の機能は、事実上膜としての形状を有し、前記区画への入出を遮断することを意図する細胞よりも小さな孔径を有する高分子マトリックスによって、容易にすることができる。当然のことながら、孔の正確な寸法は遮断する細胞の大きさに依存する。
【0175】
〔実施例1〕
実験セクション
サルにおける歯支持組織の再生
本研究の目的は、ビヒクルのアルギン酸プロピレングリコールと混合した様々な濃度のエナメルマトリックス誘導体の、歯支持組織の再生に対する効果を評価すること、およびその生物学的安全性を評価することであった。本発明で用いたエナメルマトリックス誘導体は、標準のエナメルマトリックス調節物の低分子量タンパク質画分からなっていた。
【0176】
材料および方法
試験物質:エナメルマトリックス誘導体、バッチPEU801。
由来源;エナメルマトリックスをブタの歯胚から単離し、ホモジナイズし、低分子量タンパク質画分を抽出した。
ビヒクル;アルギン酸プロピレングリコール溶液2.5%w/v、バッチPGA803。
試験物質およびビヒクルの保管;試験物質およびビヒクルは−18℃で保管した。物質およびビヒクルを含む瓶は、使用前に室温と平衡化させた。
【0177】
試験製剤の投与;層流フード下で無菌的に物質をビヒクルに溶かし、サルに個別に用いた。試験物質の最終濃度を実験前に決定し、再構成した溶液1mlあたりのタンパク質のmgとして表した(表4)。
【0178】
動物:3〜4歳の7匹のサル(カニクイザル(Macaca fascicularis))をPrimate Research Center、National Bacteriological Laboratory、スウェーデンSolnaから購入し、動物は実験を通して収容した。それぞれの動物に個別の同定コードを与えた。動物は制御された環境下で個別のケージ内に入れておいた:
温度:18〜22℃
相対湿度:40〜70%
光:午前6時〜午後6時
動物には標準のサル用食餌(R3、Ewos AB、スウェーデンSodertaelje)および水道水を無制限に与えた。食餌には毎日新鮮な果実を補足した。
【0179】
実験の設計:それぞれのサルの歯を試験または対照群に割り当てた。改変ウィドマン技術に従った歯周部手術を行った。皮弁を再配置および縫合する前に、試験製剤を試験歯の根表面に施用した。対照歯には擬似手術を行ったが、任意の試験製剤は与えなかった。工程毎の様式の手順は以下の通りである。
【0180】
1.手術の30分前、試験物質を含むバイアルを製造した。2本の歯のそれぞれの群について、1つの試験物質のバイアルを用いた。試験物質が溶解するために20分間を許容した。溶液を3mlのシリンジでとり、プランジャーまで沈ませた。プランジャーを押すことによってシリンジから空気を丁寧に取り除いた。
2.ペントバルビタールナトリウムを用いて動物に麻酔を行い、手術用に選択した領域に局所麻酔を行って消毒した。歯の口および顔側の全層皮弁(粘膜骨膜弁)を持ち上げた。
3.大きな円形バー(burr)を用いて、滅菌生理食塩水で常に洗浄しながら頬側骨板を取り除いた。この領域を滅菌生理食塩水で十分にすすぎ、暴露した歯根を30秒間、37%のオルトリン酸またはクエン酸(pH1)でエッチングした。最後に滅菌生理食塩水ですすいだ。過剰の液体はスワブで拭き取った。
4.試験製剤をすぐに施用し、骨欠損の最も先端部分から開始して暴露した根表面全体を被覆した。
5.皮弁を再配置し、縫合した。歯周部の包帯剤は用いなかった。
6.対照および実験歯の周辺の局所的な臨床的所見ならびにサルの一般的な挙動を毎日記録した。
【0181】
最終研究;56日(8週間)後、過量のペントバルビタールナトリウムによってサルを屠殺し、対照歯および試験歯を組織学的に評価した。
【0182】
組織学的標本:実験および対照歯ならびに周辺の歯槽骨および軟組織を解剖して取り出し、光学顕微鏡の検査に用いた。標本を10%の冷緩衝ホルマリン中で48時間固定し、5%のギ酸中で脱石灰化し、パラフィン中に包埋し、歯の長軸に平行に、頬−舌の方向に切片を作製した。20μm間隔のレベルで連続切片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。その後、これらを透過した通常光および偏光中で検査した。
【0183】
評価:暴露した根表面上の組織反応を記録し、新しい歯槽骨および新しいセメント質で
被覆された、暴露した根表面の割合で示した距離を測定した(図1参照)。
【0184】
統計的方法:非パラメトリック統計的方法、すなわちウィルコクソンの順位和検定およびマン−ホイットニーU試験を用いて、試験および対照部位間の差異の有意性を評価した。有意性のレベルは以下のように示す:
1.NS 有意ではない
2.* p<0.05
3.** p<0.01
4.*** p<0.001
【0185】
データおよび標本の保管;この研究のすべての生データ、標本、プロトコルおよび最終報告書は、BIORA AB、Krokusvaegen 12、181 31 Lidingoe、スウェーデンのアーカイブに保管されている。
関連参考文献:BIORA Scientific Report 9/88。
【0186】
結果
臨床観察:すべての動物は試験期間の間中健康を保っており、注目すべき有害な副作用はなかった。試験歯および対照歯のどちらの治癒も平穏であった。
一般的な挙動:すべての動物が通常通りの挙動であり、個々の動物間で明らかな差異はなかった。
食物消費:食物および水の消費は通常通りに見受けられ、個々の動物間で明らかな差異はなかった。
【0187】
最終研究:
巨視的検査:全体の外見から、すべての試験歯の周辺の歯肉が健康であったことが明らかとなり、明らかな歯肉炎症はなかった。注目すべき有害な副作用もなかった。すべての対照歯の頬側歯肉が、歯肉縁部がもたれかかった中等度の炎症を示した。
顕微鏡検査;顕微鏡検査および形態計測検査により、試験歯および対照歯の群の間で有意な差異が明らかとなった(表4および5)。
装着した根表面にしっかりと付着した新しいセメント質は、試験歯中で様々な度合まで形成されていた。偏光顕微鏡観察に明らかになったように、セメント質層は、歯周部膜に関連する機能的に方向づけられた歯周部線維を含んでいた。さらに、歯周部膜に付着した歯槽骨は、暴露された実験根表面上に様々な度合で存在していた(表4および5)。接合部上皮は新しく形成されたセメント質層よりも遠くまで増殖しておらず、歯肉炎症は事実上存在していなかった。
対照歯では、新しい歯槽骨も任意の有意な新しいセメント質も、どちらも形成されていなかった。最初に暴露した根表面は、根の約半分まで退縮した長い接合部上皮によって被覆されていた。中等度の歯肉炎症が頬側口腔粘膜中に存在していた。
統計的解析;試験歯および対照歯の群の間の差異は、様々なレベルで有意であることが判明した(表4および5)。
【0188】
考察
本研究の目的は、ビヒクルのアルギン酸プロピレングリコールと混合した様々な濃度のエナメルマトリックス誘導体の、歯支持組織の再生に対する効果を評価すること、およびその生物学的安全性を評価することであった。本研究で用いたモデルは、エナメルマトリックス誘導体の臨床的使用を意図した臨床設定とほぼ同一である。試験製剤を、手術の補助剤として、従来の歯周部手術中に投与した。投与した用量は、体重に基づいて、ヒトでの使用を意図する用量である同等の大きさの単一の施用中にタンパク質7.5mgより、
低いものも高いものもあった。擬似手術が対照として用いられた。
【0189】
歯支持組織(セメント質、歯周部膜および歯槽骨)は、通常は周辺歯周病の治療後に再生しない。その代わりに、暴露した根表面は、根の機能的な付着を提供しない上皮細胞の層によって被覆される。したがって、歯周病によって損失した歯支持組織は従来の方法で再生することができない。これは、対照歯について記録された結果によって確認された。しかし、5.3、10.7および26.7mgのタンパク質/mlの試験製剤で整えた根表
面では、明らかに新しい歯周部付着器官が発生していた。歯根表面の形成に関する最近の研究により、これが、セメント質だけでなく、エナメル様組織の薄い層でも被覆されていることが示された。このエナメル様組織は、セメント質の形成の前に、根の発生中に形成される。これは、セメント質を形成する細胞が成長することができる適切な表面を提供していると考えられる。したがって、セメント質がエナメル様組織上に堆積され、適切な付着器官が発生する。
【0190】
本研究は、削り取った(装着した)根表面を、10mgを超えるエナメルマトリックス誘導体の用量で条件づける(conditioning)ことによって、正常な接着セメント質および関連する歯周部膜(機能的歯根膜)が形成されることを示した。さらに、歯周部膜に関連する歯槽骨が形成されていた。これらの構造は、通常は従来の歯周部手術後に形成されない。そのようではなくて、歯肉からの上皮が暴露した根表面を被覆し、周辺骨レベルは、最良でも同じに保たれる。このことは、本研究の発見に基づいた成功した歯周部再生の新規定義の必要性を強調している。
【0191】
成功した歯周部再生は、装着した根表面にしっかりと付着した新しいセメント質の形成を含まなければならない。セメント質層は、歯周部膜に関連する機能的に方向づけられた歯周部線維を含まなければならない。さらに、新しく形成された歯周部膜に付着した歯槽骨が存在しなければならない。
【0192】
また、新しい付着および関連する歯槽骨の回復が、再配置された口内軟組織によって被覆された根表面レベルにのみ起こることも、明らかである。根表面が冠状方向により高く被覆されていればいる程、周辺骨のより高い増加が可能である。さらに、結果から、PGA中に溶解したエナメルマトリックス誘導体の濃度、すなわち5mgのタンパク質/ml未満は、歯周部再生の成功の誘導には不十分であることを結論づけることができる。しかし、この濃度を超えれば、根表面の十分な被覆が可能であると考えられる。
【0193】
【表4】

【0194】
表5
対照群と実験群との統計的比較
試験群
試験部位の数:20
【0195】
【表5】

【0196】
【表6】

【0197】
対照群
対照部位の数:8
周辺骨の平均増加:0.0%
セメント質の平均増加:1.1%
【0198】
統計的有意性試験
非パラメトリック統計的方法、マン−ホイットニーU試験を用いて、試験および対照部位間の差異の有意性を評価した。セメント質および周辺骨の両方の回復に関して、試験群と対照群とを比較した場合の有意性のレベルは以下であることが判明した。
【表7】

【0199】
〔実施例2〕
ラットの危険な大きさの頭蓋欠損
ラット頭蓋手術
この動物実験プロトコルは、スイス連邦法に従って(Nr.152/1997号)、チューリッヒ州の獣医学当局によって評価および許可されている。Sprague−Dawleyシロネズミを用いた(84〜92日齢、すべて雌)。これらは、4匹以下の動物の群で収容し、標準の食餌を維持した。
【0200】
Halothan/O2を導入および維持することによって27匹の動物に麻酔した。
手術領域をクリップで挟み、Betadineで無菌的手術の準備を行った。経鼻骨から正中矢状稜までの直線状の切開を行った。軟組織を反転し、骨膜を部位から解剖した(後頭骨、前頭骨、および頭頂骨)。硬膜の穿孔を注意深く回避しながら、歯科用ハンドピース中でトレフィンを用いて8mmの開頭術欠損を作製した。その後、手術領域に生理食塩水を流して骨細片を除去し、事前に形成したゲルを欠損内に配置した。その後、スキンステープラーで軟組織を閉じた。手術後、ブプレノルフィン(0.1mg/kg)の皮下注
射によって鎮痛を提供した。その後、移植後の適切な時期にラットをCO2窒息によって
屠殺した。5mmの連続的な骨を有する開頭術部位を頭蓋骨から回収し、40%のエタノールに入れるか、または固定培地に入れた(4%のパラホルムアルデヒド)。
すべての工程において、手術者は欠損の治療に関して盲検であった。
【0201】
ゲルの製造
EMDを0.10%の酢酸に溶かし、最終ゲルの所望するEMD含有量に応じて様々な
濃度のストック溶液を得た。システイン−RGD、PEG−ジチオール3.4k、および
4本のアームのPEG−アクリレート15kを、0.30Mのトリエタノールアミン/H
Cl緩衝液、pH8.5に溶かした。すべての溶液を混合して、等モル数のアクリル基お
よびチオール基、システイン−RGD8μgおよび0〜250μgのEMDを有する約15質量%のPEGを含む20μlの溶液を得ることによって、PEG−EMDゲルを注型した。溶液を1時間37℃でゲル化させ、その後、ゲルをPBS、pH7.4に移した。
数時間後、これらは100μlの体積および8mmの直径まで膨潤していた。
【0202】
X線撮影
屠殺および周囲5mmの連続的な骨を有する欠損部位の除去後に得られた標本を、歯科用X線撮影ユニットを用いて、超高速歯科用フィルムで画像撮影した(Eastman Kodak Company、米国NY)。その後、X線像のスキャニングを行い、デジタル画像を画像解析プログラムで処理した(Leica(登録商標)Q−Win)。欠損の内部および外部に形成された新しい骨の面積を、異なる配合物の治癒速度と比較した最初の欠損面積の割合として計算した(図2参照)。
【0203】
〔実施例3〕
ブタにおける歯支持組織の再生
目的:
擬似対照歯と比較して、顎における治癒および再生方法に対するエナメルマトリックス誘導体および/または移植材料、PEGゲルを用いた治療の局所効果を臨床的、定量的ならびに組織学的に比較するために、裂開モデルを用いることである。
動物:
ミニブタSus scrofaの成体(>18カ月)、雌。手術前に動物を環境馴化させ、地域の動物施設内で観察した。
【0204】
実験の説明:
1.動物を麻酔下で維持する(筋肉内のKetalar+静脈内のPentotalおよびDormicum)。キシロカイン−アドレナリンを用いた局所麻酔(歯科用)。
2.動物を検査した。
3.必要な場合、ブタの口の周りを剪毛し、その後、皮膚をクロルヘキシジン(登録商標)で洗浄した(60%のEtOH中5mg/ml)。手術領域を写真撮影した。
4.Q1から開始する:浸潤麻酔を頬粘膜ひだに施用した。歯間乳頭および周辺歯肉領域への注入は避けるべきである。
5.炎症の度合を評価し、歯垢および歯石を除去した。
6.第1小臼歯から第1臼歯まで、末端を垂直な解放切開として周辺切開を行った。歯槽骨を暴露するために粘膜骨膜弁を持ち上げた。
7.バーおよび手動装置を用いて、それぞれの歯根から頬側骨を注意深く取り除き、深さ約6mmおよび幅2mmの裂開欠損を作製した。滅菌生理食塩水で常に洗浄しながら、第2小臼歯から第4小臼歯まで、CEJから6mmの距離まで、暴露した根表面から歯根膜およびセメント質を除去した。欠損の先端部(AED)を、切痕で印つけた。それぞれの四半部について合計で6つの欠損を作製した(すなわちそれぞれの顎/動物で12個)。
8.靱帯およびセメント質を取り除いたあと、歯の表面をPrefGel(登録商標)(BIORA、スウェーデン)で2分間処理し、その後、十分な量の滅菌生理食塩水で洗浄した。
9.CEJからAEDの距離を測定し、記録し、そして写真撮影によって文書化した。
10.試験材料(治療リスト参照、擬似=無し)を欠損に施用し、写真撮影によって文書化した。
11.皮弁をすぐに再配置し、vicryl縫合糸で閉じた。皮弁は骨欠損を完全に被覆し、皮弁は徹底的に再配置および修復されており、これを再度写真撮影によって文書化した。
12.第4〜14項に従って、手順をQ2用に繰り返した。
【0205】
治療後:
動物には手術後1週間、軟い食餌を与えた。抗生物質(ストレプトシリン(Streptocillin)、5ミリ単位/日)を手術から2日間投与した。鎮痛剤(ボルタレン、手術後に25mg)。
【0206】
観察:
4、6および8週間目に、動物を鎮静させ、実験的欠損の治癒を検査した。標準のポケットプローブ(ヒトの臨床)を用いて欠損の深さの調査を行い、それぞれの欠損について「ポケットプローブでの深度」をミリメートルで、歯肉退縮の程度(存在する場合)と一緒に記録した。治癒を写真撮影によって文書化した。すべての有害事象を記録した。
【0207】
終止:
実験を終わらせ、8週間の観察ののちに動物を屠殺した:
1.290g/1000mlの強アルコール中の40mlのペントバルビタールナトリウム100mg/mlを、食間に、試験スキームに従って手術後8週間、動物に与えた。
2.完全な根を有する実験歯のみが含まれる区域をそれぞれの実験顎から切り出した。
3.分離された区域は、すぐに大量の(200ml)新しく製造した、冷蔵した(4℃)リン酸緩衝ホルマリン、pH7.4に浸した。容器には、動物番号、四半部番号、手術
者および日付を注意して標識しなければならない。良好な固定を保証するために、ホルマリンを4時間に1回交換した。
4.試料は、可能な限り速くエポキシ中への包埋および粉砕による切片形成のために処理する。処理が可能となるまでは、ホルマリンで固定した試料は冷蔵庫で保管した。
【0208】
キットの製造
すべての材料は無菌的条件下で取り扱った。
【0209】
PEG−チオール/EMD溶液:
4本アームのPEG−チオール2k(Nektar)1.20gを滅菌した0.05%酢酸水溶液20mlに溶かした。この溶液を濾過によって滅菌した。滅菌EMD0.520
gを滅菌した0.05%酢酸水溶液10mlに溶かした。両方の溶液を合わせ、滅菌した
ガラス製シリンジをそれぞれPEG−チオール/EMD溶液300μlで満たした。(シリンジ1個あたり4本アームのPEG−チオール2k12mgおよびEMD5.2mg)
【0210】
活性化剤の溶液:
トリエタノールアミン1.865g(Merck、PhEur)をWFI250mlに
溶かし(0.050M)、HClを用いて溶液のpHをpH8.6に調節した。
【0211】
強い攪拌の下で、Keltone HVCR(ISP)5.0gをトリエタノールアミ
ン/HCl溶液95mlに溶かした。生じた溶液を、メスルアーを備えたプラスチック製シリンジに満たした(678mg)。強い攪拌下で、Cekol 10'000(Nov
iant;S1408)3.0gをトリエタノールアミン/HCl溶液80mlに溶かし
た。生じた溶液を、メスルアーを備えたプラスチック製シリンジに満たした(678mg)。活性化剤のシリンジを個別にピール・バッグ内に入れ、蒸気滅菌した(121℃/15分間)。
【0212】
PEG−アクリレートのバイアル:
4本アームのPEG−アクリレート15k(Nektar)3.6gをWFI35ml
に溶かした。クリーンルーム内で、この溶液の0.70mlのアリコートをバイアルに満
たし、凍結乾燥した。凍結乾燥後、バイアルに窒素を満たして閉じた。(バイアル1個あたり4本アームのPEG−アクリレート15k72mg)
【0213】
PEG/EMDゲルの製造(ゲル1gあたり4.9mgのEMD):
施用の直前に、凍結乾燥したPEG−アクリレートをPEG−チオール/EMD溶液で再構成し、生じた溶液をガラス製シリンジに移して戻し、その後、これを活性化剤のシリンジと連結した。プランジャーを約15回往復移動させることによって両シリンジの内容物を混合した。混合後、生成物を約2分間、完全にゲル化する前に施用することができる。
【0214】
【表8】

【0215】
すべての欠損は、試験物質を施用する前にPrefGel(登録商標)を用いて1分間で処理し、次いで生理食塩水で十分にすすいだ。
【0216】
用いた物質のリスト:
PrefGel ロット1008
Emdogain 30mg/ml ロットETP3102
PGA ロットFoU 2113、1.5mlのバイアル中
EMD9.5mg/バイアル ロット9102
骨セラミック ロットLK 040109
【0217】
結果
表7から明らかに見られるように、GLP41/47中の4.9mg/mlの濃度の活
性エナメル物質誘導体(EMD)は、実験的欠損の治癒に対して、30mg/mlのEmdogainと同等の、またはさらにはより明白な効果を有していた。結果を図3に要約した。また、図3で推論できるように、空、EmdogainおよびKeltoneまたはCelcoゲルのどちらか中の4.9mg/mlの濃度のEMDを比較すると、4週間
後に、EmdogainはKeltoneまたはCelcoのゲルのどちらか中の4.9
mg/mlの濃度のEMDよりも幾分か良好な性能を示したが、6週間後にはこれらは概ね同等の性能を示し、8週間後には、KeltoneまたはCelcoゲルのどちらか中の4.9mg/mlの濃度のEMDの方がより良好な性能を示した。これは、in vi
troでのこの種のゲルについて判明した(37℃、pH7.4)、4週間の分解時間に
非常によく対応していた。PEGゲルが存在している限りは、それが一定の度合まで、骨の欠損の充填を妨害することが予測された。
【0218】
【表9】

【0219】
〔実施例4〕
ウサギ頭蓋円柱状ドリル欠損
この実験の結果は、誘導骨再生に対する新しい生物活性骨の代用品の効果に関する情報を提供するものである。
【0220】
仮説:
活性エナメル物質と最適化された細胞内殖能力を有する新しく発生したマトリックスとを結合させることの効果は、標準の移植手順(正の対照)および自発性治癒(負の対照)と比較して骨組織の再生が増強したことである。
【0221】
材料および方法:
動物
24匹の体重3〜4kのニュージーランドホワイトウサギの成体を本研究で用いた。動物は目的に合うように設計した実験動物用の部屋に保ち、標準の実験用の食餌を与えた。
【0222】
外科的処置および材料:
直線状の切開を24匹のニュージーランドホワイトウサギの前頭部(頭蓋冠)に施し、2つの皮膚弁を持ち上げ、外側に折り返した。同様に、骨膜を切断して折り返し、頭蓋骨の最上部を暴露した。右および左の頭頂骨ならびに前頭骨の領域に、1mmのドリルの深さしか許容しないスリーブを備えたトレフィンドリルを用いて、円形の溝を製造した。この円形内の外部皮質板が絶対に除去されないように注意を払った。チャンバ中の骨髄により良好に接近できるように、5つの小さな円形ドリル欠損を最上部皮質板の円形内に作製した。次いで、一次安定性のために、深さ1mmの糸模様の切痕を有するチタンからなる円柱状の管を溝のそれぞれに配置した。4本の管が、その内部に機械加工の表面を示した。管の測定値は、高さ6mmおよび外径6mmであった。
【0223】
材料の分布は、それぞれの個別の研究に依存していた。しかし、それぞれの研究において、管のうち1本が陰性対照として役割を果たし、空のままにした。残りの3本の材料には、試験材料、および適切な場合は陽性対照も含まれる。陽性対照を用いた場合は、標準の移植材料を用いた。1つの選択肢は、標準のヒト移植手順において現在用いられているウシ由来骨ミネラル塩を使用することである(Bio−Oss(登録商標)、Geist
lich AG、スイスWolhusen)。それぞれの動物において前側および後側にあるシリンダーの数が同じであり、左側および右側にある数が同じであるように、それぞれの動物において材料をシリンダー間で分配した。最後に、全身効果を制御するために、一連の投薬を行った場合は、異なる用量の活性因子を有するどの材料も2つを同一動物中に与えることはせず、一部の対照試料を活性エナメル物質の治療を受けたことのない動物に意図的に与えた。前側および後側の同一の材料が組となるように、個々の動物においてそれぞれの試料を対にした。
【0224】
管は、骨側は開いたままとしたが、被覆する皮膚−骨皮弁の側はチタンの蓋で閉じた。骨膜および皮膚弁を適合させて縫合した。4、8および16週間後、8匹の動物を屠殺した。それぞれの治療のそれぞれの時点における試料の数は8つであった。
【0225】
マトリックスおよび成長因子
基本的に、2つの異なるマトリックスをこの治験で用いた。ヒトフィブリノーゲンに由来するフィブリンマトリックスおよび合成系のPEGゲルは、どちらも高い細胞内殖能力を有するように特異的に改変した。ゲルは、特異的活性エナメル物質を含んでおり、活性エナメル物質がその送達マトリックスと相互作用(共有結合)して、移植後に特異的な放出プロフィールを達成した。あるいは、ゲルを合成リン酸カルシウム顆粒と混合した。用いた顆粒は、ヒトの手術において、移植手順でパテ様の再構築材料を達成するために幅広く使用されている多孔性のリン酸三カルシウム/ヒドロキシアパタイトの混合物からなっていた(比40:60)。
【0226】
EMDは2つの濃度および2種類のゲルとして製造した:
PEG+100μg/mlのEMDおよびPEG+500μg/mlのEMDデータおよびPEG/RGD+500μg/mlのEMD
【0227】
組織学的標本および組織形態計測
脱石灰化しない粉砕した切片の標準の手順に従って標本を加工した。標準の組織形態計測技術を適用して管内および管壁に沿った骨密度を定量的に評価した。
【0228】
統計学
ボンフェローニ調整ずみ一元配置分散分析試験を用いて、試験および対照の差異、ならびに試験または対照に関する経時的差異を検出した。すべての統計的検定における有意性レベルはα=0.05を選択した。
【0229】
結果
図4および5は、PEG/RGD+500μg/mlのEMDが骨の再成長に対して最良の効果を有することを明確に実証している。したがって、活性エナメル物質と最適化された細胞内殖能力を有する新しく発生したマトリックスとを結合させることにより、骨組織の再生が増強される。
【0230】
〔実施例5〕
ミニブタの歯周部裂開モデル
1.導入および理論的根拠
本調査では、2つの新規担体(アルギン酸またはカルボキシメチルセルロースを有するPEG)を用いて製造したエナメルマトリックス誘導体(EMD)を試験した。ミニブタ裂開モデルは、歯周部組織の治癒および再生方法に関してエナメルマトリックス誘導体(EMD)を用いた治療の局所効果の臨床的、定量的ならびに組織学的な比較において、歴史上の記述である。
【0231】
3.目的
追及すべき主な目的は、Emdogain(登録商標)および2つの新規担体(アルギン酸またはカルボキシメチルセルロースを有するPEG)を用いて製造したエナメルマトリックス誘導体(EMD)の、歯周部再生の比較評価からなっていた。
【0232】
4.調査した変数
4.1.一次変数
・一次変数は、歯周部のポケットプローブでの深度の減少の臨床評価からなっていた。
【0233】
4.2.二次変数
・骨欠損の深さの減少、セメントの高さ、歯根膜の存在、骨面積の評価に基づいた記述的組織学および組織形態計測が、二次変数の第1の群を形成していた。
【0234】
石灰化組織の定量的評価に関して言えば、ミクロX線での骨の測定値により、石灰化組織のみが切片上に表示されるので、組織形態計測手法の品質を大いに改善された。このことが、本研究において組織学的切片から得られたミクロX線の組織形態計測を実施した理由である。
【0235】
・炎症のグレード(なし、緩和、中等度、重篤)、退縮の長さおよび幅(セメント質−エナメルの接合部から歯肉の最上部までをmmで測定した)は、二次変数の第2の群に属していた。
【0236】
5.材料および方法
5.1.動物
ミニブタSus scrofaの成体(>18カ月)、雌。手術前に動物を環境馴化させ、地域の動物施設内で観察した。
【0237】
5.2.手術および手術後
5.2.1.手術
動物を全身麻酔下で維持した(筋肉内のKetalar+静脈内のDormicum)。さらに、キシロカイン−アドレナリンを用いた局所麻酔を局所的に行った。
【0238】
この手順の様々な工程は、以下の通りであった。
−動物の検査および記録用紙の1ページ目に記録した。
−ブタの口の周りを剪毛し、その後、皮膚をクロルヘキシジン(登録商標)で洗浄した(60%のEtOH中5mg/ml)。
−Q1から開始:頬粘膜ひだの浸潤麻酔は、歯間乳頭および周辺歯肉領域への注入を回避することによって行った。
炎症の度合を評価し、歯垢および歯石を除去した。
−第1小臼歯から第1臼歯まで、末端を垂直な解放切開として周辺切開を行ったあと、上顎の歯槽骨を暴露するために粘膜骨膜弁を持ち上げた。
−バーおよび手動装置の助けによって、滅菌生理食塩水で常に洗浄しながら、頬側骨板ならびに歯根膜およびセメント質の「窓」を、第2小臼歯から第4小臼歯まで取り除いた。それぞれの歯の根の主軸中に、CEJから5〜6mmの距離まで垂直方向の欠損を作製した。欠損の先端部(AED)を、切痕で印つけた。
欠損の平均最終寸法は、高さ=6mm、幅=2mm、深さ=3mmであった。
−靱帯およびセメント質を取り除いたあと、歯の表面をPrefGelで2分間処理し、その後、十分な量の滅菌生理食塩水で洗浄した。
−CEJからAEDの距離を測定して記録した。
−試験材料(擬似=無し)を欠損内に施用した。
−皮弁を再配置したあと、手術部位をvicryl縫合糸で閉じた。皮弁が骨欠損を完全に被覆し、それが徹底的に再配置および修復されていることを確実にするために特に注意を払った。
−同じ手順を第2の四半部について繰り返した。
図6は典型的な手術創傷を示す。
【0239】
5.2.2.手術後
動物には手術後1週間、軟食を与えた。抗生物質(ストレプトシリン、5ミリ単位/日)を手術から2日間投与し、鎮痛剤(ボルタレン、25mg)を手術後に投与した。
5.3.試験および対照の群
合計10匹の動物をこの研究に含めたが、1匹は試験材料の1つの移植とは関連しない理由により死亡した。
それぞれの上顎骨歯に2つの欠損を製造し、それぞれの動物で6本の歯を用いたので、それぞれの動物における欠損の合計数は12であった。
【0240】
より関連する群では(以下参照)、それぞれの治療の種類について合計48個の欠損を評価した。
【0241】
以下の群を調査した。
5.3.1.試験群
PEG−Ec=PEG(CMCを有する)+EMD(4.9mg/mlの濃度):4匹
の動物
PEG−Ek=PEG(Algを有する)+EMD(4.9mg/mlの濃度):3匹
の動物
5.3.2.正の対照群
Emdogain(登録商標)(市販、EMDの濃度は30mg/ml):1匹の動物5.3.3.負の対照群
【0242】
【表10】

【0243】
5.4.治癒時間
Straumann−Biora(Malmo)で入手可能な以前のデータによると、臨床的状態を評価し、4、6および8週間後に歯周部の測定を行うことは予測されていた。さらに、組織学的な評価(定性的および定量的)を8週間の治癒期間後に実施した。
5.5.終止
290g/1000mlの強アルコール中の40mlのペントバルビタールナトリウム
100mg/mlの注入を、食間に、試験スキームに従って手術後8週間、動物に与えた。
完全な根を有する実験歯のみが含まれる区域を、実験のそれぞれの上顎から切り出した。
5.6.分析方法
5.6.1.歯周部のプロービング
プローブを用いて行った歯周部のプロービングは、手術の日ならびに4、6および8週間後にポケットの深度を評価することを意図していた。これらの測定は、「盲験方法」の標準的な規則に従って行った。検査官は、検査中の動物がどの群に属していたかを知らなかった。
5.6.2.組織学
分離された区域は、すぐに大量の(200ml)新しく製造した、冷蔵した(4℃)リン酸緩衝ホルマリン、pH7.4に浸した。良好な固定を保証するために、ホルマリンを
4時間に1回交換した。
試料をエポキシ中への包埋および粉砕による切片形成(約25μmの厚さ)用に加工した。
試料は、標準的な非脱石灰化製造方法、次いでメチルメタクリレートへの包埋、切片形成(Polycut−S、Reichert−Jung、Leica Microsystems Switzerland)およびトルイジンブルーを用いた染色によって加工した。
組織学切片は、移植した部位内の歯根膜の存在を定義することを意図した定性的および半定量的分析に用いた。
5.6.3.マイクロラジオグラフィー
骨の高さおよび面積を評価するために最終粉砕を試みて(厚さ50μm)光学顕微鏡観察下で定量的に分析する前に、X線発生器を用いて組織学的切片のミクロX線撮影を行った。
【0244】
6.結果
6.1.臨床的歯周部プロービングおよび退縮の測定
ポケットの深度の測定に関連する結果のみをここに要約する。
6.1.1.臨床的な歯周部プロービング
これらの臨床的測定により、それぞれの治療がそれ自体で、ポケットの深度の減少に関して有益であることが実証された。これは、それぞれの群内で、手術日から第8週目まで、第6週および第4週にわたって、進行性のポケットの深度の減少を存在する。それぞれの群内で、これらの異なる時点間において、差異は統計的に有意である。唯一の例外は、Emdogain群の第4週から第8週の定常期の存在である。
一部の例では、差異は、1つの群と別の群との対応する時点を比較する場合にも統計的に有意である。
【0245】
【表11】

【0246】
6.2.組織学(定性的および半定量的分析)
定性的には、Emdogain(登録商標)群は、よく器質化された歯根膜によって新しいセメントから分離された成熟骨および層状骨の再生を示した。
一般に、PEG−EkおよびPEG−Ecの群により、手術中2PEGマトリックスが位置づけられていた位置を保持していると考えられた成熟していない、かつ密な血管新生化した新しい骨の存在が実証された(図7および8参照)。
PEG−Ec(CMC)の場合、歯根膜の存在が、Emdogain(登録商標)群中に見つかるものと同等であることが観察された(図9および10参照)。
【0247】
疑わしい例は、以下の表に含めなかった。
【表12】

歯根膜の存在の評価に関する疑わしい例の量:
擬似=5 PEG−Ek=9
Emdogain=4 PEG−Ec=10
【0248】
6.3.ミクロX線(定量分析)
骨の高さ
すべての群が、少なくとも2mmの有意な骨の増加を経験した。Emdogain(登録商標)が最も高い性能に達し(約4mm)、統計的有意性は2つのEmdogainGeneration2群に匹敵する(p<0.005)。
擬似群は、性能がEmdogain(登録商標)よりも低かったが、PEG−Ecまた
はPEG−Ek群よりも高かった。図11も参照されたい。
骨の面積
4つの群において、その4つの条件に統計的な差異なしに相当量の骨が再生された(約3mm2)。
【0249】
【表13】

【0250】
7.考察
骨の高さに関して、Emdogain(登録商標)の性能は既存かつ既に公開された文献の結果の通りであった。偽群はsEmdogainGeneration2よりも良好な結果を示した。
PEG−Ecは、Emdogain(登録商標)と同等であるが、約2mmと概算を推定することしかできない長さの歯根膜の存在を示した。
再生された骨構造の形態学は、PEG−EcまたはPEG−Ekの2つで異なっていたが(例えば図12参照)、PEG−EcおよびPEG−Ekの使用により、Emdogain(登録商標)によって再生された量と同様の骨量の形成がもたらされたと考えられた。この新しく形成された骨の再生は、EMDを添加した2つのPEGマトリックス内で実際起こったという仮説が立てられている。その場合、移植日のこれらのマトリックスの体積および位置が対応する骨再生の体積ならびに高さに作用することができる。
【0251】
〔実施例6〕
歯周部再生用の新規活性エナメル誘導体配合物(PEG−EMD)の評価。犬におけるクラス3歯根分岐部欠損の実験的研究。
1.技術水準および理論的根拠
本研究は、以下のことが報告されているパイロット研究に続くことを意図する(「Emdogain(登録商標)Generation2の評価:ミニブタの歯周部裂開モデルのパイロット研究」)。
「再生された骨構造の形態学は、Emdogain(登録商標)Generation2およびEmdogain(登録商標)の2種類で異なっていたが、PEG−EcおよびPEG−Ek(どちらもPEG−EMDと呼ばれる)の使用により、Emdogain(登録商標)によって再生された量と同様の骨量の形成がもたらされたと考えられた。
この新しく形成された骨の再生は、EMDを添加した2つのPEGマトリックス内で実際起こったという仮説が立てられている。その場合、移植日のこれらのマトリックスの体積および位置が対応する骨再生の体積および高さに作用することができる」。
【0252】
2.仮説
PEG−EMDは、歯根分岐部(クラス3Hamp)欠損の治療において施用した場合
に、Emdogain(登録商標)の使用によって得られた歯周部再生に劣らない歯周部再生(骨、靱帯)を誘導する。
【0253】
3.目的
3.1.主要目的
本研究の主な目的は、犬モデルにおいて、クラス3歯根分岐部欠損の治療に用いた場合、PEG−EMDがEmdogain(登録商標)よりも定量的により高い骨再生を誘導することを実証することであろう。
3.2.補助目的
第2の目的としては、PEG−EMDを施用したあとの歯根膜の再生は、上述のモデルにおいてEmdogain(登録商標)を用いることによって得られたものに劣らないことを示すことであろう。
【0254】
4.変数
4.1.一次変数
ベースラインと終点との間に、および比較的試験対照(PEG−EMD)群と正の対照(Emdogain(登録商標))群との間に積み上げられた、新しい骨の高さの差異。4.2.二次変数
歯根分岐部の周辺の少なくとも1つの根上の表面を裏打ちする歯根膜の存在。
4.3.三次変数
一緒にすると骨、歯根膜、セメント質および軟組織の構造の完全な説明を与える定性的データ。
【0255】
5.動物モデルおよび管理
5.1.動物モデル
ハウンドドッグ、年齢約16カ月、体重約25kg
P1ならびにM1、P2およびP3の抜歯はそのままである。
3カ月後:P2およびP3に高さ5mmの歯根分岐部欠損を作製(Koo他、2004)。(典型的な手術の設定には図13を参照されたい。図では、それぞれの矢印は5mmに対応している。)
5.2.動物の管理
動物の小屋、外科的処置および経過観察は、以下の実験手術施設でのGLP規則に従って実施する:
BiomatechNAMSA、Chasse sur Rhone(Lyon)、フランス。
【0256】
6.予測される結果および能力の計算
文献では、ベースラインにおけるクラス3歯根分岐内の欠損の平均の高さは4.7mm
(+/−0.2)であることを報告している。4週間後の自発性治癒が、1.8mm(+/−0.3)の骨の高さの増加をもたらすことが予測される。(Koo他、2004)→負
の対照群:ブランクおよびPEG
同様の結果が対照群(Emdogain(登録商標))から、4週間後に予想される。2カ月後および4カ月後、増加は限定されたままであるはずであった、約1.5mm(+
/−0.5)
試験群(PEG−EMD)は、4週間後に2.0mm(+/−0.5)、2カ月後に2.
5mm(+/−0.5)および4カ月後に3.0mm(+/−1.0)の骨増加を示すはず
である。
【0257】
7.材料および方法
7.1.材料
7.1.1.試験材料
PEG−EMD:
72mgの凍結乾燥した4本アームのPEG−アクリレート15kを含むバイアル
12mgの4本アームのPEG−チオール2kの300μl溶液および0.05wt%
の酢酸水溶液中の5.2mgのEMDを含むシリンジ。
680±10mgの0.05Mの水性トリエタノールアミン/HClを含むシリンジ、
Cekol 10'000を3.6質量%含むpH8.5±0.1
PEG中のEMDの最終濃度:4.9mg/ml
7.1.2.正の対照
Emdogain(登録商標)
PGA中のEMDの濃度:30mg/ml
7.1.3.負の対照

PEG
7.1.4.補助材料
補助材料なし
7.2.方法
7.2.1.研究設計およびスケジュール
t0:
P1およびM1の抜歯
t3カ月:歯槽隆起の粉砕、P2およびP3でクラス3歯根分岐部欠損の作製
t4カ月:1カ月の観察時間後に屠殺
t5カ月:2カ月の観察時間後に屠殺
t7カ月:4カ月の観察時間後に屠殺
7.2.2.手術前段階
歯の抜歯、
治癒時間:3カ月
7.2.3.手術段階
動物1匹あたりそれぞれの下顎側面に2つのクラス3歯根分岐部欠損の作製。
歯根分岐部欠損を試験または対照材料で充填。
縫合は重要である
7.2.4.手術後段階
14日間の治癒後に縫合糸を除去。
手術の6週間後に、手術後のプラー久コントロールを行う。
7.2.5.観察および分析
ミクロで計算した断層撮影、組織学および組織形態計測
8.終点および最終手順
動物を手術の1、2および4カ月後に屠殺する。
【0258】
参考文献
1. Altschul, S.F. et al (1990)
2. Aoki, et al., Thrombosis and Haemostasis, 39:22-31, 1978
3. Aoki, N., Progress in Cardiovascular Disease, 21:267-286, 1979
4. Besson et al., (1996) Anal. Biochem. 237:216-223
5. Carey, Annual Review of Physiology, 53:161-177, 1991
6. Coombs et al., (1998) J. Biol. Chem. 273-4323-4328
7. Devereux, J et al (1994)
8. Edelman et al. (Biomaterials 1991 September; 12(7):619-26)
9. EP-B-0 263 086
10. EP-B-0 337 967
11. EP-1059934
12. EP-01201915.4
13. Francis, et al., Blood Cells, 19:291-307, 1993
14. Gestrelius S, Lyngstadaas SP, Hammarstrom L. Emdogain - periodontal regeneration based on biomimicry. Clin Oral Invest 4:120-125 (2000).
15. Graf, et al., Cell, 48:989-996, 1987;
16. Hammarstroem et al.,1997, Journal of Clinical Periodontology 24, 658-668).
17. Hata, et al., J. Biol. Chem. 268: 8447-8457
18. Haugen, et al., (1992). J. Neurosci. 12: 2034-2042
19. Hem et al., J. Biomed. Mater. Res. 39:266-276 (1998)
20. Ignatius, et al., J. of Cell Biology, 111:709-720, 1990
21. Kallapur, et al, Adhesion Molecule (1992) J. Neurosci. Res. 33: 538-548
22. Kleinman, et al., Archives of Biochemistry and Biophysics, 272:39-45, 1989
23. Liesi, et al., FEBS Letters, 244:141-148, 1989
24. Lyngstadaas et al., 2001, Journal of Clinical Periodontology 28, 181-188
25. Lyngstadaas et al., 2000, Journal of Clinical Periodontology 27, 1-8
26. Martin, Annual Review of Cellular Biology, 3:57-85, 1987
27. Massia, et al, J. of Biol. Chem., 268:8053-8059, 1993
28. Netzel-Amett et al., (1991) J. Biol. Chem., 266:6747-6755
29. Sakata, et al., Journal of Clinical Investigation, 65:290-297, 1980
30. Sambrook, J. et al.: Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989.
31. Schense, J. C., et al. (1999) Bioconj. Chem. 10:75-81
32. Sierra, D. H., Journal of Biomaterials Applications, 7:309-352 (1993)
33. Smith et al., (1995). J. Biol. Chem. 270:6440-6449
34. Stryer, L. In Biochemistry, W. H. Freeman & Company, NY, 1975
35. Takagi and Doolittle (1975) Biochem. 14:5149-5156
36. Tashiro, et al., J. of Biol. Chem., 264:16174-16182, 1989
37. Ten Cate: Oral Histology, 1994; Robinson: Eur. J. Oral Science, Jan. 1998, 106 Suppl. 1:282-91
38. Tyler-Cross, R., et. Protein Science. 3: 620-627
39. U.S. Pat. No. 5,874,500
40. U.S. Pat. No. 6,331,422
41. US 2003/0166833
42. US 2003/0187232
43. US Patent No.4,672,032 (Slavkin)
44. Williams, et al., Journal of Comparative Neurobiology, 264:284-290 (1987).
45. Williams, Neurochemical Research, 12:851-869, 1987
46. WO 00/44808
47. WO 00/53196
48. WO 01/97834
49. WO 02/080994
50. Zucker and Katz, (1991). Exper. Biol. Med.: 693-702

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エナメル物質の濃度が配合物1mlあたり約5mg以下である、高分子マトリックスと該活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項2】
活性エナメル物質の濃度が250μg/ml未満である、請求項1に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項3】
活性エナメル物質の濃度が100μg/ml未満である、請求項2に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項4】
活性エナメル物質の濃度が50μg/ml未満、例えば、最大で25μg/ml、20μg/ml、10μg/ml、5μg/ml、または1μg/mlである、請求項1に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項5】
活性エナメル物質の濃度が1μg/ml〜5mg/mlである、請求項1に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項6】
活性エナメル物質の濃度が10μg/ml〜250μg/mlである、請求項1に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項7】
活性エナメル物質の濃度が100μg/ml〜500μg/mlである、請求項1に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項8】
高分子マトリックスと共有結合または非共有結合によって該マトリックスに連結された活性エナメル物質とを含む、活性エナメル物質を投与するための薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項9】
高分子マトリックスが、強力な求核剤とコンジュゲートした不飽和結合、またはコンジュゲートした不飽和基との求核付加反応によって形成される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項10】
マトリックスが細胞の内殖または遊走に適している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項11】
マトリックスが細胞閉塞性である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項12】
マトリックスを事前に形成する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項13】
マトリックスをin situで形成する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項14】
活性エナメル物質がアメロゲニンである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項15】
活性エナメル物質が少なくともアメロゲニンの断片を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項16】
活性エナメル物質が、少なくとも1つのシステイン残基とマトリックスの成分のうち少なくとも1つのコンジュゲートした不飽和基との求核付加反応によって該マトリックスに連結している、請求項1〜15のいずれか1項に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項17】
少なくとも1つのシステイン残基が活性エナメル物質のC末端中に位置する、請求項16に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項18】
少なくとも1つのシステイン残基が活性エナメル物質のN末端に位置する、請求項16に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項19】
活性エナメル物質が化学修飾されている、請求項16〜18のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項20】
システインがリンカー配列によって活性エナメル物質に付着している、請求項16〜18のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項21】
リンカー配列が酵素分解可能なアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項22】
リンカーがタンパク質分解させる配列を含む、請求項20に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項23】
配列がプラスミン分解可能配列である、請求項20に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項24】
リンカー配列が非特異的な加水分解によって分解可能な配列をさらに含む、請求項20〜23のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項25】
配列がエステル結合を含む、請求項24に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項26】
リンカーが多糖分解の基質を含む、請求項20〜25のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項27】
トランスグルタミナーゼ基質ドメインを介して活性エナメル物質を高分子マトリックス内に取り込ませる、請求項1〜15のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項28】
トランスグルタミナーゼドメインがXIIIa因子基質ドメインである、請求項27に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項29】
少なくとも1つのヘパリンおよび/またはヘパリン結合断片を含めることによって高分子マトリックスを改変する、請求項1〜15のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項30】
活性エナメル物質が少なくとも1つのヘパリン結合断片を介して高分子マトリックスに共有結合または非共有結合している、請求項29に記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項31】
高分子マトリックスがポリエチレングリコールを含む、請求項1〜30のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項32】
高分子マトリックスがフィブリンを含む、請求項1〜30のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項33】
医薬品として用いる、請求項1〜32のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物。
【請求項34】
骨、軟骨および歯などの石灰化組織を修復するための医薬品を製造するための、請求項1〜32のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物の使用。
【請求項35】
軟組織および粘膜などの非石灰化組織の組織修復を行うための医薬品を製造するための、請求項1〜32のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物の使用。
【請求項36】
炎症を伴う状態を治療するための医薬品を製造するための、請求項1〜32のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物の使用。
【請求項37】
感染症を伴う状態を治療するための医薬品を製造するための、請求項1〜32のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物の使用。
【請求項38】
30mgのエナメルマトリックスタンパク質および1mlのアルギン酸プロピレングリコールを含み、主なタンパク質ピーク20、14および5kDaの重量比がそれぞれ約80/8/12である薬剤組成物および/または治療用組成物をさらに含む、請求項1〜33のいずれかに記載の薬剤配合物および/または治療用配合物を含む薬剤組成物および/または治療用組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−219492(P2011−219492A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150581(P2011−150581)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【分割の表示】特願2007−545021(P2007−545021)の分割
【原出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(505104836)シュトラウマン・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】STRAUMANN HOLDING AG
【Fターム(参考)】