説明

新規なポリリン酸:AMPリン酸転移酵素

【課題】高度に精製されたポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(Polyphosphate:AMP Phosphotransferase)=PAPを提供する。
【解決手段】Acinetobacter johnsoniiのPAPをコードする遺伝子を組換えDNA手法で大量に生産させる方法の開発、およびそれらの利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(Polyphosphate:AMP Phosphotransferase)、当該酵素をコードする遺伝子及びそれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子操作技術の進展により、さまざまな酵素の安価な大量調製が可能となり、従来、微生物菌体を用いた微生物変換あるいは発酵生産もしくは化学合成法により合成されてきた有用な生理活性物質が、酵素反応により安価に製造することが可能となってきている。
【0003】
ところで、リン酸化反応、アミノ化反応などの高エネルギーを必要とする酵素反応には、アデノシン5’−トリリン酸(ATP)がエネルギー供与体あるいはリン酸供与体として必要である。従来の微生物変換あるいは発酵生産においては、ATPは用いた微生物の生体内より供給されるが、酵素法においてはATPを反応系に添加したり、効率的なATPの再生系を開発することが不可欠である。
【0004】
しかしながら、ATPの安価な合成法は現時点で確立されておらず、市販されているATPは極めて高価である。また、ATPの再生系としてはホスホクレアチンとホスホクレアチンキナーゼとの組み合わせ、あるいはアセチルリン酸とアセテートキナーゼとの組み合わせなどが一般的に利用されるが、基質、酵素とも極めて高価であるため、その利用は実験室レベルでの利用に限定され、実用的なものではない。
【0005】
また、ATPが高価であるのに対し、アデノシン5’−モノリン酸(AMP)は比較的安価に製造されうる。現在、ATPは、化学合成法あるいは微生物もしくは酵母菌体を用いてAMPもしくはアデニンから合成されている。そのため、ATPを使用する酵素反応系において、高価なATPを添加するのではなく、安価なAMPからATPを酵素的に生成し、且つ消費されたATPを効率的に再生する方法の開発が切望されていた。
【0006】
実用的なATPの生成・再生系を構築する上で、使用するリン酸供与体も重要であり、安価かつ安定なリン酸供与体としてポリリン酸がその第1候補と考えられている。一方ポリリン酸代謝に関連し、アデノシン系ヌクレオチドにも作用する酵素としては、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(以後「PAP」と略記する)が知られている。
【0007】
PAPは、ポリリン酸をリン酸ドナーとしてAMPをリン酸化してADPを生成する酵素である(非特許文献1)。Zenhderらは、Acinetobacter johnsoniiから該酵素を部分精製し、アデニレートキナーゼと併用することで、AMPとポリリン酸を基質とするATP生成・再生系が機能しうることを報告している(非特許文献2)。また、亀田らは、ATPを消費してAMPを生成する酵素反応系において、Myxococcus xanthus由来のPAPと大腸菌ポリリン酸キナーゼを組み合わせにより、ポリリン酸をリン酸ドナーとしたAMPからのATPの再生系が効率的に機能することを報告している(非特許文献3)。
【非特許文献1】J.Bacteriol.,173,6484−6488(1991)
【非特許文献2】Appl.Environ.Microbiol.,66,2045−2051(2000)
【非特許文献3】J.Biosci.Bioeng.91,557−563(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、Acinetobacter johnsoniiやMyxococcus xanthusの各菌体内におけるPAPの存在量は極めて少なく、また反応に菌体抽出液などの粗精製酵素を使用すると、反応に関与する物質(AMP、ADP、ATP、反応基質及び/又は反応生成物)を分解する酵素の混入も多くなり、結果として反応効率が低下するという問題が指摘されていた。この問題の解決策として、粗精製酵素ではなく、高度に精製されたPAPを使用すればよいが、当該酵素は不安定であるとともに、その精製手順は極めて煩雑であり、到底実用化に耐えられるものではなかった。
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決すべくAcinetobacter johnsoniiのPAPを組換えDNA手法で大量に生産させる上記問題を解決できるのではと考えた。しかしながら、該酵素のアミノ酸配列及び当該酵素の遺伝子に関しては、まったく報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、PAPの活性による遺伝子クローニングのためのスクリーニング系を構築し、そのスクリーニング系を用いることで、PAPをコードする遺伝子をクローニングし、大腸菌において該酵素を大量生産することに成功した。そして、生産された組換えPAPに関して解析を進めたところ、該酵素は非常に高い比活性を有しており、また、アデニレートキナーゼと組み合わせることで、効率的なATP生成・再生系の構築が可能であることを見出した。
【0011】
さらに驚くべき事に、この組換えPAPは、従来報告されていたAcinetobacter johnsonii由来のPAPと異なり、AMPやGMP以外のヌクレオシドモノリン酸であってもポリリン酸をリン酸ドナーとしてリン酸を転移させヌクレオシドジリン酸を生成する活性を有することを見出した。
【0012】
一般に、ヌクレオシドジリン酸は、医薬あるいは化成品として使用されているポリヌクレオチドの酵素合成のための原料として有用であるものの、これを合成することは決して容易なことではない。すなわち、微生物変換法ではジリン酸体でリン酸化反応を停止させることはできないため、現状では化学的リン酸化に頼らざるを得ない。しかしながら、化学的リン酸化では、副反応も同時に進行するため、副産物も生成し、目的のヌクレオシドジリン酸を反応液から単離精製することが極めて煩雑であるという問題があった。そのため、ヌクレオシドモノリン酸の酵素的なリン酸化によるヌクレオシドジリン酸の効率的な合成法の開発が望まれており、酵素合成法に使用する酵素としてはPAPも候補として考えられていた。
【0013】
しかしながら、Zehnderらにより、Acinetobacter johnsonii由来のPAPは、AMPに特異的で、GMPへは若干のリン酸転移が認められ、他のヌクレオチド(CMP、UMP、IMP)へのリン酸転移は全く認められなかったと報告されていることから(Appl.Environ.Microbiol.,66,2045−2051(2000))、ヌクレオシドモノリン酸の酵素的なリン酸化によるヌクレオシドジリン酸の合成にPAPは利用できないと思われていた。
【0014】
本発明者らは、上記新知見を基にさらに研究を重ね、本発明を完成させた。したがって、本発明は、下記の理化学的性質を有するPAP(本発明のPAP)に関するものである。
(A)作用:下記の2つの反応を触媒する。
NMP+PolyP(n)→NDP+PolyP(n-1)
dNMP+PolyP(n)→dNDP+PolyP(n-1)
(式中、NMPはヌクレオシドモノリン酸、NDPはヌクレオシドジリン酸、dNMPはデオキシヌクレオシドモノリン酸、dNDPはデオキシヌクレオシドジリン酸、nはポリリン酸の重合度を示し、100以下の整数である。)
(B)基質特異性:AMP、GMP、IMP、dAMP、dGMPに特異的で、CMP、UMP、dCMP、TMPにも作用する。
(C)分子量:約55〜56Kd(キロダルトン)である。
(D)比活性:酵素蛋白1mg当たり、70単位(ユニット)以上である。
【0015】
また、本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するPAPに関するものである。
【0016】
さらに、本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするPAP遺伝子に関するものである。
【0017】
さらにまた、本発明は、配列番号2に示す塩基配列又は該塩基配列の一若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するPAP遺伝子に関するものである。
【0018】
また、本発明は、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPAP活性を有するポリペプチドをコードするDNA断片に関するものである。
【0019】
さらに、本発明は、ヌクレオシドモノリン酸からヌクレオシドジリン酸を酵素的に製造する方法であって、酵素として上記本発明のPAPを使用し、リン酸ドナーとしてポリリン酸を使用する、ヌクレオシドジリン酸の製造法に関するものである。
【0020】
さらにまた、本発明は、AMPからATPを酵素的に製造する方法であって、酵素として上記本発明のPAPとアデニレートキナーゼの二種の酵素を使用し、リン酸ドナーとしてポリリン酸を使用する、ATPの製造法に関するものである。
【0021】
また、本発明は、AMP、ポリリン酸、PAP及びアデニレートキナーゼから成るATPの生成・再生系において、PAPとして上記本発明のPAPを使用するATPの生成・再生系に関するものである。
【0022】
最後に、本発明は、ATPを消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、生成したAMPを、ポリリン酸、PAP及びアデニレートキナーゼから成るATPの再生する系を利用して再生する際、PAPとして本発明のPAPを使用する、AMPからATPに再生しなから当該酵素反応を行うことを特徴とする当該化合物の製造法に関するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、新規なPAP及びその遺伝子が提供され、従来大量調製が不可能であったPAPを容易に大量に調製することが可能となった。このことから、AMPからの効率的かつ安価にATPを合成又は再生することが可能となり、ATPを消費する酵素反応系と組み合わせることにより、消費されたATPを再生し、効率的に目的とする化合物を合成することも可能となった。
また、本発明のPAPは従来のPAPと異なり、AMP以外の他のヌクレオシド5’−モノリン酸又はデオキシヌクレオシド5’−モノリン酸の合成のリン酸化活性も有しており、各種ヌクレオシド5’−ジリン酸又はデオキシヌクレオシド5’−ジリン酸を酵素的に容易に調製可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)本発明のPAP
本発明のPAPは、下記の理化学的性質を有するものである(後述の実施例参照)。
(A)作用:下記の2つの反応を触媒する。
NMP+PolyP(n)→ NDP+PolyP(n-1)
dNMP+PolyP(n)→dNDP+PolyP(n-1)
(式中、NMPはヌクレオシドモノリン酸、NDPはヌクレオシドジリン酸、dNMPはデオキシヌクレオシドモノリン酸、dNDPはデオキシヌクレオシドジリン酸、nはポリリン酸の重合度を示し、100以下の整数である。)
(B)基質特異性:AMP、GMP、IMP、dAMP、dGMPに特異的で、CMP、UMP、dCMP、TMPにも作用する。
(C)分子量:約55〜56Kd(キロダルトン)である。
(D)比活性:酵素蛋白1mg当たり、70単位(ユニット)以上である。
(E)至適pH:8.5付近
(F)至適温度:50℃付近
(G)pH安定性:7〜9付近
(H)熱安定性:50℃付近まで安定
ただし、ここで言う1単位(ユニット)とは、37℃で1分間に1μmoleのADPを生成する活性を意味し、以下の条件で測定したものである。
【0025】
<測定条件>
20mM塩化マグネシウム、10mM AMP、及びポリリン酸(無機リン酸として30mM)を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して、37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて反応液中のADPを定量する。
【0026】
本発明のPAPは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。特に、組換えDNA法で調製された組換えPAPは、酵素活性的に実質的に純粋で、AMPのリン酸化に不利なAMP分解活性を保有していない。
【0027】
また、該アミノ酸配列は、上記反応を触媒する活性を維持する限りにおいて、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、修飾又は付加されていてもよい。上記のアミノ酸配列の欠失、置換、修飾又は付加は、出願前周知技術である部位特異的突然変異誘発法(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,4662−5666(1984)、Nucleic Acid Res.10,6487−6500(1982);Nature 316,601−605(1985)など)などにより実施することができる。また、本発明のPAPには、上記反応を触媒する活性を維持する限りにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する酵素も含まれる。
【0028】
本発明のPAPは、Acinetobacter johnsoniiから配列番号1に示すアミノ酸配列を有する酵素をコードする遺伝子、具体的には配列番号2に示す塩基配列からなるPAP遺伝子をクローニングし、これを使用して調製する。たとえば、Acinetobacter johnsonii由来の遺伝子を具体例として挙げて説明すれば、図2及び3は図1に示す制限酵素地図中のSacI及びHpaIで切断されるDNA断片の塩基配列を解析した結果を示したものであり、図2及び3の塩基番号604〜2031番目に示す配列がPAPの構造遺伝子に相当し、上記配列番号2に示す塩基配列と同一のものである。
【0029】
本発明においては、本発明のPAPを生産することができる限りにおいて、配列番号2で示される塩基配列中の1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された遺伝子、又はそれらの遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、さらに配列番号2で示される塩基配列と90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する遺伝子も利用することができる。
【0030】
なお、1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された遺伝子とは、上述のアミノ酸配列と同様に、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法により欠失、置換、修飾又は付加できる程度の数の塩基が欠失、置換、修飾又は付加されることを意味する。また、ストリンジェントな条件下とは、5×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、0.1%w/v N−ラウロイルザルコシン・ナトリウム塩、0.02% w/v SDS、0.5% w/vブロッキング試薬を含む溶液を用い、60℃で20時間程度反応温度条件下でハイブリダイゼーション反応を行なうことを意味する。
【0031】
さらに、本発明では、PAPをコードする遺伝子の上流にさらにSD配列(Shine−Dalgarno Sequence)を含んでなる遺伝子も利用することができ、このような遺伝子を利用することで、酵素の生産量を著しく増加させることができる点で好適である。
【0032】
このような遺伝子のクローニング、クローン化したDNA断片を用いた発現ベクターの調製、発現ベクターを用いたPAPの調製などは、分子生物学の分野に属する技術者にとっては周知の技術であり、具体的には、例えば「Molecular Cloning」(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spring Harbor、New York(1982))に記載の方法に従って行うことができる。
【0033】
たとえば、Acinetobacter属に属する微生物から精製したPAPのN−末端、C−末端などのアミノ酸配列の一部を既知の方法で決定し、それに相当するオリゴヌクレオチドを合成する。合成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてAcinetobacter属に属する菌体の染色体DNAよりPAPをコードする遺伝子を含有するDNA断片をクローニングすればよい。また、適当な制限酵素で染色体DNAを切断し、得られたDNA断片を用いて常法によりゲノムライブラリーを作成し、作成したゲノムライブラリーの中から、PAP活性を基にスクリーニングすることで、目的とする遺伝子をクローニングすることができる。
【0034】
なお、PAPは高度に精製すると失活する可能性が高いので、PAP活性を利用したスクリーニング系を使用することが望ましい。そして、スクリーニングに利用するPAP活性としては、より高感度に検出可能とするため、PAPとポリリン酸キナーゼ(PPK)を組み合わせたAMPからATPの生成活性を利用するのが好ましい。具体的には、PAPとPPKを用い、放射性同位元素で標識したポリリン酸をリン酸ドナーとして、AMPを基質としてATPを生成させ、放射標識されたATPの生成を検出すればよい。
【0035】
クローン化に用いる宿主は特に限定されないが、操作性及び簡便性から大腸菌を宿主とするのが適当である。
クローン化した遺伝子の高発現系を構築するためには、たとえばマキザム−ギルバートの方法(Methods in Enzymology,65,499(1980))もしくはダイデオキシチェーンターミネーター法(Methods in Enzymology,101,20(1983))などを応用してクローン化したDNA断片の塩基配列を解析して該遺伝子のコーディング領域を特定し、宿主微生物に応じて該遺伝子が微生物菌体中で自発現可能となるように発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)をその上流に連結した組換え発現ベクターを作製する。
【0036】
PAPを異種微生物内で大量に産生させるために使用する発現制御シグナルとしては、人為的制御が可能で、PAPの生産量を飛躍的に上昇させるような強力な転写開始並びに翻訳開始シグナルを用いることが望ましい。このような転写開始シグナルとしては、宿主として大腸菌を用いる場合には、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80,21(1983)、Gene,20,231(1982))、trcプロモーター(J.Biol.Chem.,260,3539(1985))などを例示することができる。
【0037】
ベクターとしては、種々のプラスミドべクター、ファージベクターなどが使用可能であるが、微生物菌体内で複製可能であり、適当な薬剤耐性マーカーと特定の制限酵素切断部位を有し、菌体内のコピー数の高いプラスミドベクターを使用するのが望ましい。具体的に大腸菌を宿主とする場合には、pBR322(Gene,2,95(1975))、pUC18,pUC19(Gene、33,103(1985))などを例示することができる。
【0038】
作製した組換えべクターを用いて微生物を形質転換する。宿主となる微生物としては安全性が高く取扱いやすいものであれば特に限定されない。例えば、大腸菌、酵母などDNA組換え操作に常用されている微生物を使用することができる。その中でも、大腸菌が有利であり、例えば組換えDNA実験に使用されるK12株、C600菌、JM105菌、JM109菌(Gene,33,103−119(1985))などが使用可能である。
【0039】
微生物を形質転換する方法はすでに多くの方法が報告されており、宿主として使用する微生物に応じて適宜選択すればよい。例えば大腸菌を宿主として使用する場合、低温下、塩化カルシウム処理して菌体内にプラスミドを導入する方法(J.Mol.Biol.,53,159(1970))により大腸菌を形質転換することができる。
【0040】
得られた形質転換体は、当該微生物が増殖可能な培地中で増殖させ、さらにクローン化したPAP遺伝子の発現を誘導して菌体内に当該酵素が大量に蓄積するまで培養を行う。形質転換体の培養は、炭素源、窒素源などの当該微生物の増殖に必要な栄養源を含有する培地を用いて常法に従って行えばよい。例えば、大腸菌を宿主として使用する場合、培地として2xYT培地(Methods in Enzymology,100,20(1983))、LB培地、M9CA培地(Molecular Cloning、前述)などの大腸菌の培養に常用されている培地を用い、20〜40℃の培養温度で必要により通気攪拌しながら培養することができる。また、ベクターとしてプラスミドを用いた場合には、培養中におけるプラスミドの脱落を防ぐために適当な抗生物質(プラスミドの薬剤耐性マーカーに応じ、アンピシリン、カナマイシンなど)の薬剤を適当量培養液に加えて培養する。
【0041】
培養中にPAP遺伝子の発現を誘導する必要がある場合には、用いたプロモーターで常用されている方法で該遺伝子の発現を誘導する。例えば、lacプロモーターやtacプロモーターを使用した場合には、培養中期に発現誘導剤であるイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(以下、IPTGと略称する)を適当量添加する。
【0042】
このようにして調製した培養物から膜分離あるいは遠心分離処理などにより菌体を回収する。回収した菌体は、菌体それ自体をPAPとして利用することも可能であるが、回収した菌体を適当な緩衝液に懸濁し、超音波処理、フレンチプレス処理などにより物理的に菌体を破砕するか、あるいはリゾチーム処理など酵素的に溶菌させ、菌体残さを遠心分離により除去して無細胞抽出液を調製し、この無細胞抽出液をPAPとして利用する方が好適である。この無細胞抽出液内にはPAPが過剰に存在しているため、特に精製処理を施さなくとも酵素源として利用可能であるが、さらに、熱処理、硫安塩析処理、透析処理、エタノールなどの溶媒処理、各種クロマトグラフィー処理などの酵素精製に通常使用されている処理を単独で、又は数種組み合わせて得られる粗精製物又は精製物をPAPとして利用してもかまわない。
【0043】
(2)本発明のPAPの利用
このようにして調製した本発明のPAPは、ヌクレオシドジリン酸又はデオキシヌクレオシドジリン酸の合成、ATPの合成もしくは再生等に利用可能である。
【0044】
まず、ヌクレオシド5’−ジリン酸(NDP)又はデオキシヌクレオシド5’−ジリン酸(dNDP)の合成に使用するヌクレオシド5’−モノリン酸(NMP)又はデオキシヌクレオシド5’−モノリン酸(dNMP)は、市販のものが使用できる。使用濃度としては、例えば1〜200mM、好ましくは10〜100mMの範囲から適宜設定することができる。
【0045】
また、使用するポリリン酸も市販のものが使用できる。使用濃度としては、無機リン酸に換算して1〜1000mM、好ましくは10〜200mMの範囲から適宜設定することができる。また、ポリリン酸の重合度(n)としては、100以下、好ましくは10〜50程度の重合度のものが好ましい。
【0046】
NDP又はdNDPの合成反応は、pH4〜9の範囲の適当な緩衝液中にNMP又はdNMPとポリリン酸を添加し、さらに0.001ユニット/ml以上、好ましくは0.001〜10ユニット/mlの本発明のPAPを添加し、20℃以上、好ましくは30〜40℃で1〜50時間程、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。
【0047】
生成したNDP又はdNDPの単離精製は、各種クロマトグラフィー処理など公知の方法により行うことができる。
【0048】
次に、ATPの合成は、ポリリン酸の存在下、本発明のPAPとアデニレートキナーゼを併用し、AMPをADP続けてATPに変換することで実施することができる。
反応液に添加するAMPは、市販のものが使用できる。使用濃度としては、例えば1〜200mM、好ましくは10〜100mMの範囲から適宜設定することができる。
【0049】
また、添加するポリリン酸も市販のものが使用できる。使用濃度としては、無機リン酸に換算して1〜1000mM、好ましくは10〜200mMの範囲から適宜設定することができる。また、ポリリン酸の重合度(n)としては、100以下、好ましくは10〜50程度の重合度のものが好ましい。
【0050】
ATPの合成反応は、pH4〜9の範囲の適当な緩衝液中に、AMP及びポリリン酸を添加し、さらに0.001ユニット/ml以上、好ましくは0.001〜10ユニット/mlの本発明のPAP、及び0.01ユニット/ml以上、好ましくは0.01〜100ユニット/ml以上のアデニレートキナーゼを添加し、20℃以上、好ましくは30〜40℃で1〜50時間程、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。
【0051】
生成したATPの単離精製は、各種クロマトグラフィー処理など公知の方法により行うことができる。
【0052】
なお、アデニレートキナーゼ活性の単位(ユニット)は次の方法で測定、算出する。すなわち、10mM 塩化マグネシウム、10mM AMP、及び10mM ATPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させる。HPLCを用いて反応液中のADPを定量し、37℃で1分間に2μmoleのADPを生成する活性を1単位(ユニット)とする。
【0053】
また、AMP、ポリリン酸、本発明のPAP及びアデニレートキナーゼから成るATPの生成・再生系は、微量ATPの存在を検出し、食品工場などで目に見えない微生物を検出して清浄度を検査したり、食肉、鮮魚、野菜など食物の鮮度を測定することに応用できる生物発光によるアデニンヌクレオチドの検査方法に応用可能である(WO01/53513等参照)。
【0054】
さらに、ATPを消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、生成したAMPを、ポリリン酸、本発明のPAP及びアデニレートキナーゼから成るATPの再生する系を利用することで、AMPからATPに再生しながら目的とする化合物の酵素合成反応を効率的に行うことができる。
【0055】
このようなATP再生系と組み合わせ可能な酵素反応系としては、たとえば、ガラクトキナーゼを用いたガラクトース−1−リン酸合成系、UMPキナーゼを用いたUDP合成系、コリンキナーゼを用いたホスホコリン合成系などを例示することができるが、これに限定されず、ATPを消費する酵素反応であれば適用可能である。
【0056】
このようなATP合成系と酵素反応との反応条件は、小規模試験にて適宜決定すればよく、また目的化合物の単離精製も公知の方法により行うことができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。また、実施例におけるDNAの調製、制限酵素による切断、T4DNAリガーゼによるDNA連結、並びに大腸菌の形質転換法は全て「Molecular cloning II」(Sambrookら編、Cold spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York(1989))に従って行った。また、制限酵素、及びAmpliTaqDNAポリメラーゼ、T4DNAリガーゼなどのDNA関連酵素はすべて宝酒造(株)より入手した。さらに、反応液中のヌクレオチド類の定量にはHPLC法により行った。具体的には、分離にはYMC社製のODS−AQ312カラムを用い、溶出液として0.5M リン酸一カリウム溶液を用いた。
【0058】
実施例1;本発明PAPの調製
(1)Acinetobacter johnsonii 210株のPAP遺伝子のクローニング
(1−1)大腸菌ポリリン酸キナーゼ及び放射性標識ポリリン酸の調製
文献(J.Biol.Chem.,268,633−639(1993))に記載された方法で大腸菌ポリリン酸キナーゼを調製した。さらに調製した大腸菌ポリリン酸キナーゼを用いて秋山らの方法(J.Biosci.Bioeng.,91,557−563(2001))に従い放射性標識ポリリン酸を調製した。
【0059】
(1−2)Acinetobacter Johnsoniiゲノムライブラリーの作製とスクリーニング
Acinetobacter johnsonii 210A株をLB培地に植菌し、30℃で一晩振とう培養した。遠心分離により菌体を回収し、染色体DNAを精製した。Acinetobacter johnsonii染色体DNAを制限酵素 Sau3AIで部分分解した後、蔗糖密度勾配遠心により分画し、約7−10Kbの画分を回収した。該DNA断片とBamHIで切断したプラスミドベクターpBlueScript SK(+)(東洋紡より購入)をT4 DNA ligaseにより連結し、該DNA液を用いて大腸菌JM109株(宝酒造より購入)を形質転換した。得られたアンピシリン耐性形質転換体、6000株を単離し、50ずつグループ化した。
【0060】
各グループをLB培地で37℃で一晩培養し、遠心分離により菌体を回収後20mM Tris−HCl(pH8.0)で菌体を洗浄し、同緩衝液で菌体を再縣濁した。菌体縣濁液に等量のBugBuster(宝酒造より購入)を加え、室温で30分放置し溶菌させたのち、3倍容の20mM Tris−HCl(pH8.0)を加えて、菌体抽出液とした。
【0061】
先に調製した放射性標識ポリリン酸(リン酸として0.24mM)を含有する活性検出液(50mM トリス塩酸(pH8.0),40mM(NH42SO4,4mM MgCl2,1mM AMP)20μlに菌体抽出液1μlを加え、37℃で1時間反応させた。該反応液を薄層クロマトグラフィー(展開液:0.75M KH2PO4(pH3.5))にかけ、ホスホイメージアナライザーBASS2000(Fujix製)でADPの生成を検出することで、得られた形質転換体のスクリーニングを行い、6000株中1クローンにPAP活性が検出された。
【0062】
得られたクローンより、Acinetobacter johnsonii 210A株のPAP遺伝子が挿入されたプラスミドpPAP2を得た(図1)。なお、プラスミドpPAP2は、約10kbのAcinetobacter johnsonii 210A株の染色体DNAが挿入されており、プラスミドDNA(pPAP2)の表記で、平成14年(2002)5月21日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央6(郵便番号305−8566))にブタペスト条約に基づく国際寄託がなされ、受託番号としてFERM BP−8047を与えられている。
【0063】
(1−3)Acinetobacter johnsonii 210株のPAP遺伝子の解析
pPAP2の含有する10KbのAcinetobacter johnsonii 210A株のDNAを種々のプラスミドにサブクローニングし、それら形質転換体のPAP化活性を前述の方法で測定した結果、約2.5kbのSacI−HpaI DNA断片にPAP遺伝子が存在することが、確認された(図1)。このDNA断片の塩基配列をダイデオキシチェインターミーネーター法(Science,214,1295(1981))で決定した。その結果、PAP遺伝子は、475アミノ酸から成るポリペプチド(分子量;55.8kd)をコードしていることが判明した(図2及び3)。
【0064】
(2)Acinetobacter johnsonii PAPの調製
プラスミドpPAP2を保持する大腸菌JM109菌をアンピシリンを100μg/ml含有する2xYT培地で28℃で一晩培養した。遠心分離により菌体を回収し、50mM トリス塩酸(pH7.8),1mM EDTAからなる緩衝液に縣濁し、超音波処理後、遠心分離により菌体抽出液を回収した。得られた抽出液中のPAPの活性を測定したところ、PAPは、培養液1ml当たり18.1ユニットの生産量であり、対照(プラスミドを保持していない大腸菌JM109)の約9000倍の活性であった。
【0065】
なお、この生産性は、Acinetobacter JohnsoniiによるPAPの生産性の約150倍に相当する。該抽出液をDEAEトヨパール650M(トーソー)によるイオン交換クロマトグラフィー(溶出液:50mM トリス塩酸(pH7.8),0〜0.5M NaClの濃度勾配)で分画することで、PAPを部分精製し、回収された画分を酵素標品とした。なお、該画分におけるPAPの比活性は、80.5ユニット/mg蛋白質であった。
【0066】
(3)PAPの諸性質の解析
(3−1)各種NDPの合成(基質特異性の解析)
100mM MgCl2、ポリリン酸(無機リン酸として10mM)、5mM各種NMPまたdNMPを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に種々の濃度でPAPを添加し、37℃で10分間保温した。100℃で1分間の熱処理により反応を停止させ、反応終了液をHPLCにて生成したNDPもしくはdNDPを定量した。AMPのリン酸化におけるPAPの比活性を100%として、各種NMPもしくはdNMPにおける比活性の相対値を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(3−2)pH安定性
各pHに設定した50mM マレイン酸塩あるいは50mMトリス塩酸の各緩衝液中、100mM 塩化マグネシウム存在下で37℃で10分間保温し、残存活性を測定した。残存活性は、50mM トリス緩衝液(pH8.0)、100mM 塩化マグネシウム、5mM AMP、ポリリン酸(無機リン酸として10mM)存在下で37℃で10分間の反応を行い、生成したADPをHPLCで定量することで測定した。
【0069】
その結果、図4に示すように、pH8の酵素活性を100とした場合、本酵素はpH7〜9で80%以上の酵素活性を示すことが判明した。
【0070】
(3−3)至適pH
各pHに設定した50mM マレイン酸塩あるいは50mMトリス塩酸の各緩衝液中、100mM 塩化マグネシウム、ポリリン酸(無機リン酸として10mM)、5mM AMP存在下で37℃で10分間反応を行い、生成したADPをHPLCで定量することで測定した。
その結果、図5に示すように、本酵素の至適pHは8.5付近であった。
【0071】
(3−4)熱安定性
100mM 塩化マグネシウムを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)中でポリリン酸(無機リン酸として10mM)存在、もしくは非存在下で各温度に設定した湯浴中にて10分間保温して、上述の方法で残存活性を測定した。
その結果、図6に示すように、ポリリン酸存在下で、本酵素は50℃付近まで安定であることが判明した。
【0072】
(3−5)至適温度
100mM 塩化マグネシウムを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)中でポリリン酸(無機リン酸として10mM)及び5mM AMP存在下で各温度に設定した湯浴中にて10分間保温し、生成したADPをHPLCで定量することで酵素活性を測定した。
その結果、図7に示すように、本酵素の至適反応温度は50℃付近であることが判明した。
【0073】
実施例2:PAPとアデニレートキナーゼによるATPの合成
(1)大腸菌アデニレートキナーゼの調製
大腸菌アデニレートキナーゼは、文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,14168−14171(2000))記載の方法で調製した。ただし、超音波処理により調製された菌体抽出液を酵素液とし、該酵素液におけるアデニレートキナーゼの比活性は、12.5ユニット/mg蛋白質であった。
【0074】
(2)ATPの合成
20mM MgCl2、ポリリン酸(無機リン酸として30mM)、10mM AMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に、PAPを1.5ユニット/ml、アデニレートキナーゼを0.4ユニット/mlとなるように添加し、37℃で60分保温した。反応終了後反応液中のヌクレオチドをHPLCを用いて定量した。
その結果、図8に示すように、AMPはPAPにより速やかにリン酸化されADPが生成し、さらに共存するアデニレートキナーゼの触媒により生成したADPは速やかにATPとAMPに変換され、このサイクルを繰り返すことで、ATPが蓄積することが確認された。
【0075】
実施例3:PAPとアデニレートキナーゼの組み合わせからなるATP再生系によるガラクトース−1−リン酸の合成
(1)大腸菌ガラクトキナーゼの調製
大腸菌ガラクトキナーゼ遺伝子を含有するプラスミドpDR540(Gene,20,231(1982)、ファルマシア社より入手)を保持する大腸菌JM109菌を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地に植菌し、37℃で振とう培養した。4x108菌/mlに達した時点で、培養液に終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに30℃で5時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離により菌体を回収し、30mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.8)、1mM EDTA)に懸濁した。菌体縣濁液を超音波処理を行い、菌体を破砕し、さらに遠心分離により菌体残さを除去した。回収液をDEAEトヨパール650M(トーソー)によるイオン交換クロマトグラフィー(溶出液:50mM トリス塩酸(pH7.8),0〜0.5M NaClの濃度勾配)で分画することで、ガラクトキナーゼを部分精製し、回収された上清をガラクトキナーゼ酵素液とした。酵素液におけるガラクトキナーゼの比活性は、6.5ユニット/mg蛋白質であった。
【0076】
なお、ガラクトキナーゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法で測定、算出したものである。5mM MgCl2、10mM ATP、10mM ガラクトースを含有する100mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して、37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させる。糖分析装置(ダイオネックス社)を用いて反応液中のガラクトース−1−リン酸を定量し、37℃で1分間に1μmoleのガラクトース−1ーリン酸を生成する活性を1単位(ユニット)とする。
【0077】
(2)ガラクトース−1−リン酸の合成
20mM MgCl2、ポリリン酸(無機リン酸として30mM)、5mM AMP及び50mM(d)ガラクトースを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に0.2ユニット/ml PAP及び0.2ユニット/ml アデニレートキナーゼを添加し、さらに0.5ユニット/mlとなるようにガラクトキナーゼを添加し、37℃で8時間保温した。なお、反応中2時間後及び4時間後にポリリン酸を無機リン酸として20mMとなるように添加した。反応終了液を糖分析装置(ダイオネックス社)を用いて分析したところ、37.8mMのガラクトース−1−リン酸の生成が確認された。
【0078】
実施例4:ヌクレオチドジリン酸の合成
(1)各種NDPの合成
100mM MgCl2、ポリリン酸(無機リン酸として30mM)、10mM 各種NMP(AMP,GMP,CMP,UMP,IMP)を含有する50mM トリス塩酸緩衝液に、16ユニット/mlとなるようにPAPを添加し、37℃で30分間保温した。反応液をHPLCにて分析した結果を表2に示す。なお、対照に大腸菌JM109の菌体抽出液を用いた場合、NDPの生成は認められなかった。
【0079】
【表2】

【0080】
(2)IDPの酵素合成
100mM MgCl2、ポリリン酸(無機リン酸として65mM)、40mM IMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液に、16ユニット/mlとなるようにPAPを添加し、37℃で19時間保温した。反応液をHPLCにて分析した結果、21.2mMのIDPの生成が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】取得されたAcinetobacter Johnsonii 210A株のPAP遺伝子を含有する約10KbのDNA断片の制限酵素地図を示す。PAP遺伝子は、SacI−HpaI DNA断片中に含まれる。
【図2】PAP遺伝子を含む2.5kb DNA断片の塩基配列及びPAPのアミノ酸配列を示す(その1)。
【図3】PAP遺伝子を含む2.5kb DNA断片の塩基配列及びPAPのアミノ酸配列を示す(その2)。
【図4】本発明PAPのpH安定性の結果を示す。
【図5】本発明PAPの至適pHの結果を示す。
【図6】本発明PAPの熱安定性の結果を示す。
【図7】本発明PAPの至適温度の結果を示す。
【図8】ポリリン酸をリン酸ドナーとしたPAPとアデニレートキナーゼによるAMPからのADP及びATPの合成を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に示す塩基配列又は該塩基配列の一若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するポリリン酸:AMPリン酸転移酵素遺伝子。
【請求項2】
配列番号2に示す塩基配列と90%以上の相同性を有する請求項1記載の遺伝子。
【請求項3】
AMPからATPを酵素的に製造する方法であって、酵素として請求項1又は2記載の遺伝子を発現させて得られたポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とアデニレートキナーゼの二種の酵素を使用し、リン酸ドナーとしてポリリン酸を使用する、ATPの製造法。
【請求項4】
ATPを消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、生成したAMPを、ポリリン酸、ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素及びアデニレートキナーゼから成るATPの再生系を利用して再生する際、ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素として請求項1又は2記載の遺伝子を発現させて得られた酵素を使用する、AMPからATPに再生しながら当該酵素反応を行うことを特徴とする当該化合物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−50264(P2009−50264A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235855(P2008−235855)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【分割の表示】特願2004−508295(P2004−508295)の分割
【原出願日】平成15年5月28日(2003.5.28)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】