説明

新規なモノクローナル甲状腺刺激または阻害抗体、その可変領域に相当するペプチド配列、ならびに診断用医薬、予防用医薬および治療用医薬におけるそれらの使用

マウスの遺伝子免疫によって得られる、甲状腺刺激活性(TSAb)、特に完全もしくは相当なアゴニスト活性、もしくは甲状腺阻害活性(TBAb)を有するモノクローナル抗体(mAb)、またはこのようなモノクローナル抗体の断片(F(ab')2、FabもしくはFv)もしくはヒト化型またはこのような断片の一本鎖型(SCA、scFv)であって、ヒトTSHrのエピトープに対してウシTSHと競合し、ヒトTSHrのエピトープに対してグレーブス病患者の血清から得た自己抗体と、および阻害性自己抗体を有する患者から得た血清由来の自己抗体と競合し、ヒトTSHrの最初の281アミノ酸に位置するヒトTSHrの立体構造エピトープと結合し、かつ通常、種々の動物由来のTSFR受容体(TSHr)とも結合する抗体またはその断片。このような抗体の、またはこのような抗体の可変領域に相当するペプチドの種々の使用も記載され、特許請求される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHr)を認識し、刺激活性または阻害活性を有する新規なモノクローナル抗体(mAb)に関し、前記新規mAbの特徴的なアミノ酸配列およびその他の特徴に関し、医薬におけるこのようなmAbまたはその特異的結合断片の種々の使用、ならびにその結合挙動と構造的特徴および配列的特徴とに関する開示された正確な情報を考慮して考え得る関連分野における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHr)は、ルトロピン/絨毛性ゴナドトロピン(LH/CGr)およびホリトロピン(FSHr)受容体とともに、糖タンパク質ホルモン受容体サブファミリー(GPHR)を構成しており、それら自体がロドプシン様Gタンパク質共役受容体(GPCR)という大きなファミリーのメンバーである。GPHRは、ホルモン認識および結合の特異性に関与する大きなN末端細胞外ドメインと七重らせん膜貫通領域とを有し、そのことはすべてのGPCRに共有されている。この「曲がりくねった」部分は、主にGタンパク質Gsへの活性化シグナルの伝達に関与している。細胞外ドメインは、9つのロイシンリッチリピート(LRR)にフランキングしている2つのシステインリッチクラスターから成っている。ブタリボヌクレアーゼ阻害剤の結晶構造に基づいた(1)、TSHrエクトドメインのLRR部分の構造モデルが提案されている。それはそれぞれ馬蹄の凹面および凸面上にある、一連のβ鎖とαへリックスとからなる馬蹄のセグメントの形をとる。現在の知識によれば、GPHRはホルモンのβサブユニットと馬蹄のβ鎖の特定の残基が相互作用した後にそれらのそれぞれのリガンド(TSH、LH/CG、FSH)によって活性化されると考えられている。
【0003】
LH/CGおよびFSH受容体とは対照的に、TSHrはまた、そのエクトドメインに対する自己抗体によっても活性化され得る(1)。これはグレーブス病の患者における甲状腺中毒症および甲状腺肥大の直接原因である(5、6)。ヒトTSHr(hTSHr)およびその他の哺乳類由来のTSHr変異体の完全アミノ酸配列が公開された後、種々の動物において完全なTSHrまたはその部分配列に対する多数の抗体が作製されたが、甲状腺刺激特性を有し、TSHrのアゴニストである抗体は長い間とらえどころのないままであった。
【0004】
作製された抗体のほとんどは、阻害活性を示した。すなわち、バイオアッセイにおいて、TSHrに対するTSHの刺激作用を減少または阻害することができた。その中で、いくつかのものが甲状腺自己免疫疾患、特にグレーブス病の患者の血清中に見られる刺激性自己抗体の強力な競合物質であることがわかった。このような阻害mAb、より詳しくは、ヒトTSHr(hTSHr)のアミノ酸381から384に対応するアミノ酸FDSHを含んでなるエピトープと結合するmAbは、独国特許DE19907094C1および対応するWO00/49050A2/A3に記載され、特許請求されている。前記特許はまた、甲状腺機能亢進症および関連状態の治療のための阻害抗体の使用を特許請求している。
【0005】
何年もの成功しなかった試みの後、ついに、グレーブス病(GD)のネズミモデルが開発され(7〜10)、これにより最近、甲状腺刺激活性を有する(TSAb)制限された数のモノクローナル抗体(mAb)の単離が可能となった(11〜13)。これらのmAbは、ex vivoでナノモル範囲でTSHrを刺激することがわかり、ウシまたはヒトTSHと比較した場合、部分アゴニストとして作用した。最後に、TSAb活性を有する単一のヒトmAbが、グレーブス病の患者の末梢リンパ球から最近作製された(14)。これらの例のいずれにも、mAbによって認識されるエピトープが正確に描写されたものはない。
【0006】
TSAb活性を有するmAbは、TSHrおよびその他のGPHRのエクトドメインとそれらの曲がりくねったドメインの間の活性化シグナルの分子内伝達に関与する機構を証明するための貴重な科学的ツールとなる。しかし、このような抗体は、TSHrのアゴニストである可能性があり、同時に、現在のところ、裸のまたは標識された、または抱合体の形のいずれかのTSHが用いられる診断用医薬および治療用医薬におけるいくつかの使用に対する候補としても考えられる。このような使用の1つが、高分化型甲状腺癌の病歴を有する患者の、甲状腺摘除または放射性ヨウ素での治療後の遺残の存在または残存癌もしくは再発性癌の存在についてのフォローアップにおける、放射性ヨウ素全身スキャン(WBS)を伴うか伴わない血清チログロブリン(Tg)試験のための補助的診断ツールとしての、通常組換えTSHとしてのTSH(例えば、チロゲン(Thyrogen)(登録商標)、注射用甲状腺刺激ホルモンα、Genzyme Therapeutics)の使用に相当する。
【0007】
診断では、甲状腺自己免疫疾患の患者の循環物に存在する病原性自己抗体と、またはこのような自己抗体の特定の集団と競合する適した抗体は、自己抗体の測定のためのアッセイにおける従来の競合物質TSH、より詳しくは、TSHrに対する自己抗体(TRAb)を測定するための圧倒的な数の競合イムノアッセイにおいて現在用いられている標識ウシTSH(bTSH)の可能性ある代替物とすでに考えられていた。競合物質としての、抗体のこのような使用は、例えば、出願人のEP1301767A1(阻害性自己抗体の測定)または特に、このようなアッセイにおける競合物質としてのアフィニティー精製され標識されたポリクローナルヒト抗体の使用を開示するPCT/EP03/12129(WO04/048415)に開示されている。両出願の完全な開示内容は、参照により本出願に組み込まれる。両出願は、競合物質としての抗体の使用は、TSHの使用と比較して、例えば、測定の所望の選択性に関して、またはアッセイキットを長時間保存した後の競合物質のTSHr調製物との特異的結合の安定性に関して特定の大きな利点を提供し得るということを開示している。
【0008】
診断および治療の用途においてTSHの代替物として有用であるには、好ましくは、mAbは、それぞれTSH結合および自己抗体結合に関与するTSHrの部分と適当な親和性で結合しなくてはならない。治療目的またはin vivo診断目的には、好ましくは、このようなmAbのアゴニスト性刺激活性、あるいは阻害活性は、それぞれTSHおよび自己抗体のものと同程度の大きさでなくてはならず、また、生理的条件下で、例えば生理的塩濃度で観察可能でなくてはならない。
【特許文献1】独国特許DE19907094C1
【特許文献2】WO00/49050A2/A3
【特許文献3】EP1301767A1
【特許文献4】PCT/EP03/12129(WO04/048415)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、上記必要条件を満たし、以下の記載を読めば当業者には明らかとなるその他の特性および利点を有するTSHrに対する明確なmAbの新規クラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、その主な態様の1つによれば、請求項1に記載のモノクローナル抗体(mAb)を提供し、これらのモノクローナル抗体(mAb)は、請求項2および4から8によれば甲状腺刺激活性を有することができ(TSAb)、または請求項3および9によれば甲状腺阻害抗体であってよい。それらは、ヒトTSH受容体(hTSHr)に対してマウスを遺伝子免疫し、hTSHrを刺激するかまたは阻害する抗体の存在について陽性のスコアを有するマウスを選択し、選択したマウスの脾臓細胞を用いてハイブリドーマを作製し、甲状腺刺激または阻害活性を有するmAbを産生するハイブリドーマクローンの増殖、試験および選択することによって得ることができる。本発明はまた、このようなモノクローナル抗体の断片(F(ab')2、FabもしくはFv)もしくはヒト化型またはこのような断片の一本鎖型(SCA; scFv)も提供する。
【0011】
本発明の抗体またはその断片は、以下の特徴のうち少なくとも3つの組合せを特徴とする:
a.ヒトTSHrのエピトープについてウシTSHと競合すること、
b.ヒトTSHrのエピトープについてグレーブス病患者から得た血清由来の自己抗体と、および阻害性自己抗体を有する患者から得た血清由来の自己抗体と競合すること、
c.ヒトTSHrの最初の281アミノ酸に位置するヒトTSHrの立体構造エピトープと結合すること、
d.ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、およびヒツジ起源のTSH受容体(TSHr)と結合すること、および
e.その解離定数Kdが、組換えヒトTSHr調製物で被覆した試験管での飽和実験において測定された場合、約20×10-10から約0.5×10-10Mの範囲であること。
【0012】
刺激性mAb、すなわち、甲状腺刺激活性を有し(mTSAb)、生理的塩濃度の培地において試験した場合にヒトTSHrのアゴニストとして挙動するmAbは、
e.配列番号1もしくは配列番号9の重鎖と、および/または配列番号2もしくは配列番号10の軽鎖と少なくとも90%の相同性をそれぞれ示す重鎖および軽鎖の可変領域を有するか、あるいは
f.ヒト化または一本鎖mAb、あるいは配列番号3、配列番号4もしくは配列番号11および配列番号5の重鎖の相補性決定領域(CDR)ならびに/または配列番号6、配列番号7もしくは配列番号12および配列番号8もしくは配列番号13の軽鎖の相補性決定領域(CDR)を少なくとも含むmAbの断片であるのいずれかであることが好ましい。
【0013】
阻害性mAb、すなわち、甲状腺阻害活性を有し(mTBAb)、ヒトTSHrのアンタゴニストとして挙動するmAbは、
g.配列番号14の重鎖と、および/または配列番号15の軽鎖と少なくとも90%の相同性をそれぞれ示す重鎖および軽鎖の可変領域を有するか、あるいは
h.ヒト化または一本鎖mAb、あるいは配列番号16、配列番号17もしくは配列番号18の重鎖の相補性決定領域(CDR)および/または配列番号19、配列番号20もしくは配列番号21の軽鎖の相補性決定領域(CDR)を少なくとも含むmAbの断片であるのいずれかであることが好ましい。
【0014】
さらに、現在好ましい実施形態、または好ましい特定の抗体を特徴付ける特徴は、請求項4から8に列挙されている。
【0015】
現在好ましく、かつ、想定される使用は、請求項9から18において特許請求されており、以下により詳細に説明する。
【0016】
請求項1および本出願において、語句「ヒトTSH受容体(hTSHr)に対してマウスを遺伝子免疫し、ヒトTSHr(hTSHr)を刺激する(または阻害する)抗体の存在について陽性のスコアを有するマウスを選択し、選択したマウスの脾臓細胞を用いてハイブリドーマを作製することとによって得られる」は、確立された基準に従って、特許請求の範囲または技術教示を前記プロトコールによって、すなわち、マウスの遺伝子免疫によって実際に作製される抗体に制限することを意味しない、プロダクトバイプロセス特徴と考えられなくてはならない。その他の免疫化技術によって得られる抗体が請求項1に、および/または下位クレームに、または以下の説明に列挙されるすべての特徴を示す場合には、それらは請求項1に記載の抗体と考えられなくてはならない。
【0017】
さらに、請求項1および以下の説明において、用語「断片」は請求項1に記載の抗体の特異的に結合する二価の断片または一価の断片を意味するものとする。当業者ならば、このような断片は、例えば、完全抗体(免疫グロブリン)のペプシンでの消化によって得られるF(ab')2断片、完全抗体(免疫グロブリン)のパパインでの消化によって得られるFab断片、および例えば、Fab断片の完全可変領域だけを本質的に含んでなるFv断片のような合成によって作製された断片または遺伝子操作法によって作製された断片であり得るということは承知している。用語「抗体」とは通常、いわゆる、「一本鎖」抗体(SAB)または人工リンカー部分によって結合されている重鎖および軽鎖の可変領域からなる一本鎖Fv断片(scFv)、ならびに天然ネズミ抗体の少なくともFc部分、または定常領域および/もしくは可変鎖のフレームワーク配列の一部もしくはすべてさえもが対応するヒト抗体の対応する部分またはアミノ酸配列で置換されている「ヒト化」抗体も網羅するものとする。このようなヒト化抗体は、治療薬または補助的診断薬としてのヒトにおけるin vivo使用にとって特に好ましい。
【0018】
アミノ酸の配列、すなわちペプチド配列は、本記載を通じて、図5に従って、刺激性mAb IRI-SAb2、IRI-SAb3の可変鎖領域の配列、およびCDR(相補性決定領域)(配列番号1から配列番号13)ならびに阻害抗体1H7の可変鎖領域の配列、およびCDR(相補性決定領域)(配列番号14から配列番号21)が記載されている別紙「配列表」を参照して記載されている。配列表と図5の間で矛盾する場合には、図5に示される配列が正しい配列と考えられなくてはならない。
【0019】
数値が挙げられている場合には、それらは本出願の実験の項において概説される関連手順に従って実施した測定において得られたと考えられなければならない。
【0020】
用語「アゴニスト」または「完全アゴニスト」が用いられる場合には、前記用語は、バイオアッセイにおいてhTSHrを発現する細胞に対してウシTSH(飽和濃度)によって発揮された活性(cAMP生成)のパーセンテージとして表すことができる。「アゴニスト」とは通常、ウシTSHの活性の20%より多く、より通常は40%以上であることを意味し、「完全アゴニスト」とは80%以上であることを意味する。
【0021】
本出願において、出願人はmAbの新規シリーズの作製を記載し、そのうち2種は甲状腺刺激活性を有し、もう1種は強力な阻害抗体である。以下IRI-SAb2と名付けたmAbの1種は、TSHrの完全低ナノモルアゴニストであり、驚くべきことに、そのエピトープは、1H7と名付けた強力な阻害抗体のエピトープと密接に重複していることがわかった。
【0022】
さらに、IRI-SAb2は、マウスにおける静脈注射後、甲状腺機能亢進症を引き起こした。注射した動物から得た甲状腺は、過剰刺激の組織学的徴候に加え、マクロファージの浸潤および濾胞性壊死の徴候を示した。
【0023】
グレーブス病の実験ネズミモデルを用いて、強力な甲状腺刺激活性を有するmAb(TSAb)をはじめとする前記新規シリーズのモノクローナル抗体(mAb)を作製した。TSH受容体(TSHr)を認識する129種のmAbのうち、7種がTSAb活性を示した。これらのうち2種をIRI-SAb2およびIRI-SAb3と名付けたが、これらは特に高い能力(低いナノモル範囲で)および有効性を示した。IRI-SAb2は、生理的塩濃度において試験した場合にもヒトTSHrの完全アゴニストとして挙動した。IRI-SAb2とIRI-SAb3の双方、ならびに1H7は、グレーブス病の患者に由来する自己抗体によって(n=100)、または甲状腺阻害性自己抗体を有する患者に由来する自己抗体によって(n=8)、TSHrから置き換えられたが、対照被験体(n=104)または橋本甲状腺炎の患者に由来する自己抗体によっては(n=20)置き換えられなかった。IRI-SAb2およびIRI-SAb3のエピトープを、TSHrエクトドメインの馬蹄構造の凹面部分のアミノ末端部分に向かってアミノ酸レベルで正確にマッピングした。それらは互いに密接に重複し、驚くべきことに、阻害活性を有するmAb(1H7)のエピトープとも密接に重複する。マウスでは、静脈注射により、両mAbとも甲状腺機能亢進症の生物学的徴候および組織学的徴候を引き起こした。予想外にも、それらは甲状腺において炎症応答も誘発した。その立体構造エピトープが描写されたこれらの新規mAbにより、TSHrの活性化に関与する分子機構の同定が可能となる。
【0024】
以下の本発明では、以下の制限するものではない実施例および図を参照し、より詳細に説明する。
【0025】
本発明のさらなる特徴は、以下の実験および結果についての詳細な説明から得ることができる。
【0026】
1.材料および方法
1.1試薬
3G4(15)およびBA8(16)モノクローナル抗体は別の場所に記載した。mAb IRI-SAb1は比較のためにより詳しく調べたが、これもすでに部分的に特性決定されていた(11)。ウシTSHはSigma (Chemical CO, St Louis, MO)から購入した。PCR、クローニングまたは配列決定に用いたすべてのプライマーはEurogentec (Se-raing, Belgium)によって合成し、配列は要求に応じて入手できる。
【0027】
1.2.用いた動物、サンプリング、ハイブリドーマ作製
6週齢の雌NMRIマウス[Ico:NMRI(IOPS:Han)]を、すでに記載されたようにヒトTSHrをコードするcDNAを用いて免疫化した(8)。血液サンプルは最初の免疫化の8週間後に得た。すべての測定について、血清を個々に試験した。マウスには、動物の福祉のための地方委員会によって承認された手順に従って取り扱い、飼育した。血清中の、hTSHrを刺激する抗体の存在について陽性のスコアを有するマウス42を選択し、脾臓細胞の骨髄腫NS1/0との融合を先に記載された通り実施した(11、16)。メチル-セルロースHAT培地(ClonCell-HY選択培地、STEMCELL Technologies Inc、Vancouver, Canada)で選択した後、1200個のクローンを液体培地で増殖させた。
【0028】
1.3. ハイブリドーマ製造のために選択したマウス42の血清中の抗体の特性決定
1.3.1.フローサイトメトリー
FACS分析を2μlの血清を用い、hTSHrを発現するCHO細胞[JP19(17)]で先に、記載された通り実施した(16)。結果はAFU(任意の蛍光単位)で表す。
【0029】
1.3.2.TSAbの測定
TSAb活性は、hTSHrを発現するCHO細胞[JP26(17)]を用いて、記載された通り測定した(18)。すべての実験で2連のサンプルをアッセイし、結果はpmoles cAMP/mlとして表す。
【0030】
1.3.3.TSAbまたはTSH結合阻害Ig(TBII)活性を有するmAbのスクリーニング
上清を回収し、3種のアッセイを用いてhTSHrに対する抗体の存在を評価した: 10μlの上清を用いたJP19細胞でのFACS(上記参照)。125I-TSH結合についての競合はDYNOtest(登録商標)TRAK humanコーティングした試験管(B.R.A.H.M.S Aktiengesellschaft, Hennigsdorf)(19)を用い、50μLの上清を用いて実施した。10μlの上清を用いたJP26 CHO細胞(上記参照)を用いるcAMP生成の刺激。3種の試験で陽性のスコアを有するハイブリドーマをクローニングし、増殖させ、mAbのIgイソタイプを決定した(IsoStrip(商標)、Roche, Belgium)
【0031】
1.4.選択したmAbの特性決定
1.4.1.TSAbおよびTBII活性
選択したmAbおよびFab(パパイン消化後に生成した)をセファロース-タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製し(ImmunoPure(商標)Fab調製キット、Pierce, Perbio Science, Belgium)、正常等張培地(上記参照)においてJP26 CHO細胞を用いてcAMP生成を刺激するその能力について調べた。TBII活性測定のために、250μlのバッファーA(20mM Hepes-NaOH、pH7.5、50mM NaCl、1% BSA、10% グリセロール、2mg/mlマウスIgG)に溶解した種々の量の抗体をhTSHrコーティングした試験管に加えた。室温で1時間インキュベーションした後、同バッファーに溶解した50μlの125I-TSH(B.R.A.H.M.S Aktiengesellschaft)を加えた。この試験管を室温で2時間インキュベートし、2mlの洗浄バッファー(8mM Tris-HCl、6OmM NaCl、0.02% Tween-20、pH7.5)で4回洗浄し、結合している放射能をカウントした。
【0032】
1.4.2.Kd測定
0.3mlのバッファーAに溶解した、5ng(約200000RLU)のアクリジニウムエステル標識モノクローナル抗体(20)および種々の量の非標識抗体をTSHrコーティングした試験管に加えた。試験管を室温で24時間インキュベートし、2mlの洗浄バッファーで4回洗浄し、RLUをルミノメーターで測定した。
【0033】
1.4.3.hTSHrコーティングした試験管でのmAbと自己抗体の間の競合
150μlバッファー(100mM Hepes-KOH、pH7.5、20mM EDTA、0.5mM N-エチル-マレイミド、1% BSA、0.5% Triton X100、30μg/ml抗ヒトTSH抗体、2mg/mlマウスIgG)および100μlの患者の血清または標準物質をTSHrコーティングした試験管に加えた。2時間インキュベートした後、50μlの5ngの標識抗体を含有するPBSをトレーサーとして加えた。試験管を4℃で一晩インキュベートし、2mlの洗浄バッファーで4回洗浄し、結合しているRLUをルミノメーターで測定した。結果は以下のように算出した阻害指数(InI)として表した:InI(%)=100-100×(試験血清の計数率/標準ゼロ血清の計数率)。グレーブス病(GD)血清は、国家倫理委員会によって承認された、in vitro診断薬の開発のために募集された血液ドナーから得た。臨床上甲状腺機能低下性であるが高レベルのTBIIを含んでいた自己免疫甲状腺疾患の患者から得た血清はDaphne Khoo博士(Singapore General Hospital)から譲渡された。すべての血液ドナーから書面による同意を得た。
【0034】
1.4.4.データ解析
濃度-作用曲線、飽和曲線、スキャッチャードおよび統計解析(ノンパラメトリックマンホイットニー順位和試験による)を、Prism(登録商標)プログラム(GraphPad Software, Inc.、San Diego, CA, USA)を用いてフィッティングし、コンピュータで計算した。
【0035】
1.5.刺激性mAbを用いたIn vivoアッセイ
PBSに溶解した、100μgの精製mAb(IRI-SAB2、IRI-SAB3、1H7、BA8)を8週齢の雌Balb/cマウスの尾静脈に注射した。血液サンプルを、注射後種々の時点で得た。PBSおよびmAb BA8を対照として用いた。
【0036】
1.6.総T4およびTSHアッセイ
総T4は市販のキット(T4 mAb、ICN pharmaceuticals、New York, USA)を用いて測定した。TSHはこれまでに記載された通りに測定した(21)。
【0037】
1.7.光学顕微鏡および免疫組織化学
精製mAbを用いて注射した4日後、ネンブタール麻酔下での心臓穿刺によってマウスから血を抜いた。甲状腺を採取し、光学顕微鏡および免疫組織化学のために処理した。凍結切片を、先に記載されたように(22)、CDR5RA陽性免疫細胞およびMac-1陽性マクロファージ細胞に特異的なモノクローナル抗体を用いる免疫ペルオキシダーゼ染色に付した。
【0038】
1.8.可変領域遺伝子分析
全RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen Inc.、Valencia, CA, USA)を用いて単離した。ランダムヘキサマーを用いて第1鎖cDNAを合成した後、Kettleboroughらによって記載され(23)、配列決定された縮重プライマーを用いて重鎖および軽鎖Fv領域を増幅した。これらの配列を、IMGT/V-QUEST(http://imgt.cines.fr/textes/vquest/)を用いて入手可能なマウスIg遺伝子の配列と比較した。重鎖および軽鎖のフレームワーク(FR)およびCDR領域について、置換/サイレントR/S突然変異率を算出した。CDR R/S率>2.9(構造が保存される必要がないタンパク質をコードする遺伝子中にランダムに生じる体細胞突然変異について算出した)は、抗原による抗体の成熟を示し、他方、低いFR R/S突然変異率(<2.9)は、保存される必要がある構造要素の負の圧力を反映する(24)。
【0039】
2.結果
2.1.ハイブリドーマ融合のために選択したマウス
20個体の雌NMRIマウスを、これまでに記載された遺伝子免疫のプロトコールに従ってヒトTSHrに対して免疫化した(12)。最初のDNA注射の8週間後にマウスを出血させ、免疫化したマウスから得たすべての血清においてFACSによってTSHrに対する抗体を検出したところ、値は20±2.5AFU〜91±7AFUの範囲であった(対照値:6±0.82AFU)。TBII活性は、免疫化したマウスから得たすべての血清に同様に存在し、値は標識したTSH結合の42〜92%阻害の範囲であった(対照マウス:2±0.5%)。TSAb活性は、5種の血清でしか検出可能でなく、cAMP値は5pmole/mlよりも高かった(対照マウス:0.77±0.15pmole/ml)。3個体のマウスが、対照よりも有意に高い総T4を示した(>4.5μg/dl)。マウス42は4種のアッセイすべてで陽性であり、TBII、TSAbおよび総T4において最高値を示し、これをハイブリドーマ融合のために選択した。
【0040】
2.2. TSAb活性を有するmAbのスクリーニングおよび選択
分析した1,200個のハイブリドーマのうち129個が、JP19細胞でのFACSによるスクリーニング後に陽性のスコアを有した。これらのうち30個が、TRAKアッセイにおいてTBIIについて陽性であり、そのうち7個が正常塩培地におけるインキュベーション下でJP26細胞においてcAMP生成を刺激した(方法参照)。cAMP値は9.3±0.2pmole/ml〜188.3±8.7pmole/mlの範囲であった(対照上清:1.49±0.15pmole/ml)。TSAb活性を示す7個の上清のうち2個が、飽和濃度のウシTSH(100mIU/ml、280±21pmole/ml)によって引き起こされる最大刺激の67%(IRI-SAb2、188.3±8.7pmole/ml、すなわち126倍の基礎cAMP値)および20%(IRI-SAb3、56±1.2pmole/ml、すなわち37倍の基礎cAMP値)に達するcAMP生成の刺激を達成した。これら2種のmAbを製造のために選択し、さらなる分析のために精製した。IgGイソタイプはIRI-SAb2についてはIgG2aであり、IRI-SAb3についてはIgG1であった。
【0041】
2.3. IRI-SAb2およびIRI-SAb3の機能的特性決定
2.3.1. IgGのTSAb活性
種々の濃度の精製IRI-SAb2およびIRI-SAb3を、正常塩培地においてインキュベートしたJP26細胞においてcAMP生成を刺激するその能力について試験した。両場合においてcAMP生成の濃度依存的増加が観察され、IRI-SAb2およびIRI-SAb3それぞれについて131倍および105倍の基礎cAMP値という最大刺激であった(図1A)。これらの値はそれぞれ、同じ実験において飽和濃度のウシTSH(100mIU/ml)によって生じた最大刺激の98%および80%に相当した。EC50は、IRI-SAb2およびIRI-SAb3それぞれについて2.75±0.25nMおよび16.5±3.5nMであった。比較すると、これまでに特性決定されたIRI-SAb1(11)(EC50=3.6±0.6nM)によって達成された最大刺激は、ウシTSHで達成される値のわずか10%であった(図1A、挿入図)。これらの結果は、アッセイの条件下ではIRI-SAb2はhTSHrの完全アゴニストとして挙動するということを示す。
【0042】
JP26細胞を30μg/mlの3種のmAbで、またはウシTSH(1mIU/ml)で刺激した後の、細胞内cAMP蓄積の速度論は同様であった。最大値の80%がIRI-SAb1については5分未満に達し、IRI-SAb2、IRI-SAb3およびTSHについては10〜20分後に達した。2時間で達する値の50%を達成するための平均時間は、IRI-SAb2については4±1分、IRI-SAb3については7±1分およびTSHについては5±1分であった(平均±範囲)(示していない)。
【0043】
2.3.2.Fab断片のTSAb活性
3種のmAb Fab断片の、cAMP生成の刺激に対する有効性は、対応する無傷の免疫グロブリンを用いて得られるものと同様であり、IRI-SAb2は再度完全アゴニストとして挙動した(図1B)。EC50値は、無傷のIgGによって示されるもの(IRI-SAb2およびIRI-SAb3それぞれについて1.2±0.5nMおよび74±4nM)と同様の範囲にあった。
【0044】
2.3.3.mAbのTBII活性
種々の濃度の精製IRI-SAb1、IRI-SAb2およびIRI-SAb3を、TSHrコーティングした試験管で125I標識したTSHとともにインキュベートした(図1C)。最初のスクリーニングでTSH結合を阻害するが、TSAb活性は欠くと検出されたmAb 1H7も試験した。IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7はTSH結合について競合し、125I標識したTSHの50%を置き換えるのに必要な濃度はそれぞれ、2±0.5nM(0.3±0.075μg/ml)、3.3±0.2nM(0.5±0.03μg/ml)および2.6±0.2nM(0.4±0.03μg/ml)であった。対照的に、IRI-SAb1はあまり効率的ではなく、10μg/ml(66nM)で、125I標識したTSHを5%未満しか置き換わらなかった。
【0045】
精製抗体を続いてアクリジニウムエステルで標識し、hTSHrコーティングした試験管での飽和実験に用いた。これまでに記載されているmAb IRI-SAb1のKdは、2×10-8Mであった。IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7の結合親和性は、10-10M範囲であったが、二相性飽和曲線が観察された(Kd1:それぞれ、0.7×10-10M、2.8×10-10M、1.2×10-10M、Kd2:それぞれ、12.3×10-10M、19.6×10-10M、13.3×10-10M)。これらのKdはウシTSHのもの(Kd1:0.2×10-10M、Kd2:4.1×10-10M)(25)および最近公開されたTSAb特性を有するヒトモノクローナル抗体のもの(Kd:5×10-10M)(14)と同様であった。TSHrに対してIRI-SAb2、IRI-Sab3および1H7によって示される2種の異なる解離定数は、コーティングされた試験管上のTSHrの不均一な調製物(部分変性した)を反映していると解釈できる。
【0046】
hTSHr調製物との結合の見掛け上変動する親和性を考慮して、本発明の新規抗体の解離定数Kdは、組換えヒトTSHr調製物でコーティングした試験管での飽和実験において測定した場合には、約20×10-10M〜約0.5×10-10Mの範囲にあると言える。
【0047】
2.3.4.TSHrとの結合に対する、グレーブス病の患者から得た血清との競合
アクリジニウムエステルで標識した4種のmAbを、hTSHrコーティングした試験管での結合トレーサーとして用いた(20)。競合は104人の甲状腺機能正常な対照被験者、100人のグレーブス病患者、8人のTSH阻害活性(TBAb)アッセイにおいて陽性をスコアしている患者および20人の橋本病のTBII陰性患者から得た血清を用いてアッセイした。また、これらの血清すべてをTSH-TRAKアッセイにおいても評価した(19)。IRI-SAb1を除くすべてのmAbは、対照被験者または橋本病の患者と比較した場合に、グレーブス病またはTBAb陽性患者に由来する自己抗体によって効率的かつ大きく競合された(図2)。
【0048】
2.4.エピトープの特性決定
2.4.1.IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7
IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7抗体は、FACSによって試験した場合にヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌおよびヒツジ由来のTSHrを認識した(データは示していない)。3種のmAbすべてについて、TSH受容体とLH/CG受容体の間のキメラにより、エクトドメインの最初の281残基に位置するエピトープが示された(データは示していない)。発明者らは次いでこれらの抗体の、TSHrの馬蹄領域の内表面の残基と相互作用する能力を試験した。この表面(図3Aおよび図3B)は、7残基、X1-X2-L-X3-L-X4-X5からなる9つの単位から構成されていることが示されている。X残基の側鎖は溶媒に面し、ホルモンまたは抗体との相互作用に利用可能であると予測される(図3C)。このモデルは、GPHR間の特定のX残基を置換した結果、対応するキメラにおける認識特異性の取替えがもたらされたことを実証することによって確認されている(3)。3種のmAbはX残基の20置換を有するT90キメラを認識せず(図3D)、X残基が8つの位置(LRR1中の3残基、LRR2中の2残基およびLRR7中の3残基)で突然変異されたT56キメラも認識しなかった(図3Bおよび図3D)。次いで、発明者らは、X残基が突然変異されている全部で35種の突然変異体を個々に、または組み合わせて試験した。結果は図4にまとめられている。
【0049】
IRI-SAb2のエピトープはLRRl、2および3に属する一連の9個のX残基を含んでいた(図4A)。興味深いことに、I60(LRR1のX)を除いて、これらの残基のうち、単離において突然変異した場合に抗体による構築物の認識に影響を及ぼすことができるものはなかった。対照的に、3種の3重突然変異体(LRR1のX2、3、4、LRR2のX2、3、5およびLRR3のX2、3、4)はもはやIRI-SAb2によって認識されなかった。LRR4〜6の残基X1、2、3、4、5の「ひとまとめにした」突然変異は、IRI-SAb2のTSHrとの相互作用を損なわなかった。
【0050】
IRI-SAb3のエピトープは、LRR1〜LRR6に属するX残基を含んでいた(図4B)。IRI-SAb2の状況とは異なり、多数の残基が、個々に突然変異した場合に、IRI-SAb3によるTSHrの認識を完全に無効にさせた:I60およびE61(LRR1のX4およびX5)、Y82およびI85(LRR2のX3およびX5)、E107およびR109(LRR3のX3およびX4)、E157(LRR5のX3)およびK183(LRR6のX3)。LRR4においてのみ、相互作用を損なうのに残基X2、3、4の同時置換が必要であった。LRR7、8および9のX1、2、3、4、5残基すべての突然変異は、IRI-SAb3のTSHrとの相互作用を損なわなかった。
【0051】
mAb 1H7のエピトープはLRRl〜LRR4に属するX残基を含んでいた(図4C)。個々に突然変異した場合にTSHrの認識を完全に損なった残基は以下の通りであった:T56およびK58(LRR1のX2およびX3)、R80およびY82(LRR2のX2およびX3)、R109(LRR3のX4)。IRI-SAb3についての観察結果と同様に、1H7のTSHrとの相互作用を損なうにはLRR4のX2、3、4残基の同時突然変異が必要であった。LRR5およびLLR6の残基X1、2、3、4、5の組み合わせた突然変異は効果がなかった。
【0052】
2.4.2.IRI-SAb1(比較のために調べた)
種々の種のTSHrでトランスフェクトしたCOS-7細胞からのFACS結果から、IRI-SAb1はヒトTSHrを極めて効率的に認識し、ヒツジ受容体をより低い程度でしか認識しないということが実証された。ラット、ネコまたはイヌ由来TSHrとは結合せず、マウス受容体とも結合しなかった。IRI-SAb1の、ラットとヒトTSH受容体の間の一連のキメラとの結合の最初の分析により、N末端システインクラスター部分と馬蹄構造領域の最初の半分[ロイシンリッチリピート(LRR)1〜5を含有する]とを包含する、位置21(G21、シグナルペプチドの後ろの最初のアミノ酸)と165の間のエクトドメインのセグメントが示された。種々の種のTSHrのアラインメントにより、認識されない種に由来するTSHrでは置換されている(それぞれ、H45およびR91で)、2個の残基、Q45(N末端システインクラスター領域に位置する)およびQ91(LRR領域の第2のβシートと第2のαヘリックスの間のループに位置する)が同定された。これら2種の「ヒト特異的」残基をラットTSHrバックグラウンドに導入すると、キメラの認識が回復した。これらの結果は、Q45およびQ91がIRI-SAb1のエピトープのほぼ確実な部分であるということを示す。最後に、この抗体を、TSHrのLRRのβ鎖のほぼすべてのX2、3、4、5残基がそのLH/CGr対応物と交換されたT90キメラ(3)でFACSによって試験した(詳細については、参照文献(3)および図3C参照)。これらのアミノ酸置換は、IRI-SAb1による認識に影響を及ぼさなかったが、このことは、結合データと一致して(図1C)、この抗体のエピトープはTSHrの馬蹄領域の内表面と重複しないということを示す(図3D)。
【0053】
2.5.IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7の可変領域の配列および構造解析
種々のmAbをコードするV遺伝子のヌクレオチド配列および対応するアミノ酸配列を調べた(図5)。IRI-SAb2とIRI-SAb3の重鎖(93%)および軽鎖(91%)の間にはそれぞれ高い配列同一性が観察される。mAb 1H7は、その重鎖についてはIRI-SAB2またはIRI-SAb3と72〜75%の同一性を、軽鎖については50〜52%の同一性を共有していた(図5)。重鎖CDRの範囲内での置換/サイレント(R/S)突然変異率>2.9は、これらの抗体に対する抗原の陽性選択圧を反映していた(24)。
【0054】
IRI-SAb2およびIRI-SAb3は4種のCDR残基でわずかに異なっている(図5)。kabat番号付けに従い、IRI-SAb2は軽鎖にN53およびR93を有し、IRI-SAb3はS53およびS93有する。重鎖中の2個の残基もまた可変である:IRI-SAb2のF53およびT57ならびにIRI-SAb3のY53およびA57(図5)。軽鎖中の位置53および93の残基ならびに重鎖中の位置53の残基は、予想される抗原結合領域中において分子の表面に位置する。それらはTSHr由来の残基と相互作用し、IRI-SAb2および3の、TSHrを刺激するわずかに異なる能力の原因である可能性がある。
【0055】
2.6.ex vivoおよびin vivoでのマウスにおけるIRI-SAb2およびIRI-SAb3の生物活性
2種の抗体の、マウスTSHrと相互作用する能力を、ネズミ受容体を発現するCHO細胞株(MT3)を用いて試験した(公開されていないデータ)。FACSによってIRI-SAb1はマウスTSHrと結合しなかったが(上記参照)、IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7は、ヒトおよびネズミ受容体を同様に良好に認識した(図6A)。これらの結果は、エピトープに関するデータと一致する。3種の抗体の相互作用において重要であるとわかった残基は、ヒトおよびネズミTSHr間で100%保存されている。
【0056】
次いで、IRI-SAb2およびIRI-SAb3を、正常塩培地においてマウスTSHrを刺激するその能力について試験した(図6B)。cAMP生成の濃度依存的増加が観察され、2種の抗体について22倍の基礎cAMP値という最大刺激であった。これは同様の実験において飽和濃度のウシTSHによって生じた最大刺激の134%に相当するものであった。EC50はIRI-SAb2については1.3±0.66nMであり、IRI-SAb3については3.8±0.48nMであった。
【0057】
次いで、IRI-SAb2およびIRI-SAb3のin vivo刺激活性を、マウスにおけるIgGの静脈注射によって評価した。PBS、mAb BA8(生物活性を欠く)およびmAb 1H7を対照として用いた。注射の2日後(図7A)、総T4レベルは、対照群と比較してIRI-SAb2またはIRI-SAb3を注射したマウスにおいてほぼ2倍であった。IRI-SAb2またはIRI-SAb3を注射した10個体のマウスのうち9個体が、極めて低いTSHレベル、10mIU/L未満を示した。対照的に、対照群におけるTSHレベルは極めて不均一であった:15個体の対照のうち2個体のマウスのみが10mIU/Lより低いTSH値を示した(図7C)。IRI-SAb2またはIRI-SAb3を注射したすべてのマウスにおいて、T4レベルは注射後4日間の間安定に高いままであり(図7B)、TSH値は10mIU/Lより低かった(図7D)。発明者らは続いて、IRI-SAb2を注射したマウスの群においてTSAbに対する短期間応答および長期間応答を調べた(図7B)。注射の8時間後、T4レベルはすでに上昇していた(8.18±0.83μg/dl)。これらのレベルは24時間でわずかに低下し、注射の7日後にはすでに正常化し、これは報告されたマウスIgG2aの血清半減期(6〜8日)と一致している。
【0058】
これらの甲状腺機能亢進性マウスでは、甲状腺形態が対照マウスと比較して相当改変されていた。濾胞性上皮層は、コロイド中に隆起する不規則な頂極を有する肥大性細胞からなることが多かった。多数の壊死甲状腺細胞も検出され、いくつかの濾胞性管腔に脱落しており、これは急性過剰刺激の毒性効果の徴候と考えられる。いくつかの濾胞では、ピクノチック(picnotic)、偏在した核を伴う甲状腺細胞の死滅も観察された。腺のいたるところに広がった浸潤物が観察された。間質におけるこれらの細胞は免疫組織化学的にCD45+免疫細胞と型付けされ、甲状腺細胞とコロイドの内側の間に多数のMac-1+陽性マクロファージが観察された。
【0059】
2.7 ブタペスト条約下での寄託
2種の刺激抗体IRI-SAb2およびIRI-SAb3ならびに阻害抗体1H7を産生するハイブリドーマを、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen. GmbH, Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweigで2004年5月27日に寄託し、それぞれ受託番号(Eingangsnummern) DSM ACC2664、DSM ACC2662およびDSM ACC2663が割り当てられた。国際寄託当局(DSMZ)の国際受領用紙を同封する。
【0060】
考察
1つの注目すべき例外はあるが(14)、確かな甲状腺刺激活性を有するモノクローナル抗体は、グレーブス病のネズミモデルからのみ作製されている(11〜13)。このことは自己に対する寛容が破壊されている動物から得ることに成功したことを意味し、さらにこれによってこれらの実験の低収率を説明できる。甲状腺機能亢進性マウス由来のmAbの機能的スクリーニングは通常、ヒト受容体を発現するトランスフェクトされた細胞を用いて行うので、同定されるmAbはマウスとヒトに共通するエピトープを認識すると期待される。実験的グレーブス病のマウスから単離された一連の刺激性mAbおよび阻害性mAbの中で、TSAb活性を有する3種のモノクローナル(IRI-SAb1、IRI-SAb2、IRI-SAb3)および阻害活性を有する1種(参照文献(11)および本出願)を詳細に研究した。
【0061】
結論:
a.IRI-SAb2はヒトTSHrの完全アゴニストである
低いナノモル範囲で作用すると考えられているが(25〜28)、TSAb活性を有する自己抗体は、現在用いられているcAMPベースのアッセイにおいて広範囲の有効性を示す。低塩培地でのTSAbアッセイを実施した結果、感度の大幅な増大が引き起こされたという観察結果から、低塩条件を採り入れて標準臨床TSAb試験を実施することとなった(29)。同様に、TSAb活性を有する第1のネズミmAbを低塩培地で主に試験し(13)、ヒトTSHrの完全または部分アゴニストとしてのその機能についてははっきりしなかった。ハムスターモノクローナル抗体は明らかに部分アゴニストであった(12)。IRI-SAb2には、およびより低い程度であるがIRI-SAb3には例外がある。正常塩条件下で試験した場合に、hTSHr発現CHO細胞においてcAMP蓄積を刺激するその能力は、bTSHによって達成される最大刺激の98%および80%に達し、これは希少な患者で見い出された最強のTSAbに匹敵する。この高い有効性と相まって、その効力はTSHの効力に接近する(EC502.75±0.25nMおよび16.5±3.5nM対bTSHの1nM)。IRI-SAb2とIRI-SAb3双方のヒトTSHrとの結合親和性は、グレーブス病患者から精製した自己抗体の結合親和性に匹敵する(25)。相対的に、これまでに特性決定されたIRI-SAb1(図1A)およびmAb MS-1(12)は弱く、部分アゴニストであり、このことはそれらが「トリガー」エピトープを十分に認識しないことを示唆する。また、釣鐘状の濃度作用曲線を示すMS-1とは対照的に(TSHrのダウンレギュレーションを示すと解釈される)(12)、IRI-SAb2およびIRI-SAb3は片対数プロットで古典的なS字状の濃度作用曲線を示し、高mAb濃度でのダウンレギュレーションまたは脱感作を表すものは全くない(図1A)。最近記載されたヒトモノクローナル(14)は、IRI-SAb2の機能的特徴に接近している。しかし、それが正常塩培地においてヒトTSHrの完全アゴニストとして挙動するかどうかは今後実証すべきことである。
【0062】
b.IRI-SAb2およびIRI-SAb3の刺激活性はFab断片において保存されている
GPCRの二量体形成/オリゴマー形成は現在強く注目される対象である。矛盾する示唆はいくつかあるが、GPCRまたはGPHRの二量体形成/オリゴマー形成状態の修飾が活性化プロセス自体に関与しているという強力な証拠はない。IRI-SAb2およびIRI-SAb3のFab断片を用いた発明者らの結果から、一価の抗体は無傷のIgGであるほど活性であるという患者から得たTSAbを用いた初期の結果(1,30)が確認され、これらの抗体の活性化は強制二量体形成または凝集に続発するものであるということが除外される。
【0063】
c. TSAbの立体構造エピトープの分子描写:TSHrを刺激するには2以上の方法がある。
最初の研究から、クローニングしたTSHr cDNAが利用可能になった場合、グレーブス病患者から得たTSAbのエピトープは立体構造であると結論付けた(1,31〜33)。この考えは、刺激活性を有する、本mAb、ならびにこれまでに記載されたmAbを用いて得られた結果と一致している(12,13)。IRI-SAb1はヒトTHSHrとのみ結合し、そのエピトープはエクトドメインのN末端部分に位置していた。このエピトープは、LRR部分のすぐ上流の、エクトドメインの最初のシステインクラスター中に位置するグルタミン残基(Q45)を含む。Q45は高度に立体構造的であると予測され、TSHrの曲がりくねった部分がグリコシルホスファチジルイノシトールアンカーによって置換されている構築物においてTSAbとの相互作用に特に十分に曝される受容体のセグメントに属する。IRI-SAb1のエピトープは、第2のLRRのαヘリックス中の、エクトドメインの馬蹄構造の凸面部分に位置する第2のグルタミン残基(Q91)を含む。この馬蹄の面はTSHと直接接触をするとは予測されておらず(3)、このことはIRI-SAb1にTSH置換活性がないことと一致する(図1C)。これによってTBII活性を持たないいくつかの自己抗体がTSAbとして作用できる可能性が高まる。グレーブス病のTBII陰性患者が記載されているが、TSAbの大部分がTSHrとの結合についてTSHと競合するという考えと一致して、彼らはまれである(19)。この見解と一致して、IRI-SAb1はグレーブス患者から得た自己抗体の大部分で置き換えられない(図2A)。
【0064】
IRI-SAb1とは対照的に、本発明のモノクローナルIRI-SAb2およびIRI-SAb3はヒトTSHrに特異的ではなく、それらが作製されるマウスをはじめとするいくつかの種に由来するTSHrを認識する。また、IRI-SAb1とは対照的に、それらのエピトープは受容体のN末端部分に位置し、それらはLRRのβ鎖に属する数個の残基を含む。そのようなものとして、それらのエピトープは馬蹄構造のアミノ末端部分の凹面(図3および4)、TSHとの特異的相互作用に直接関与していると実証された領域(3)に位置する。IRI-SAb2およびIRI-SAb3のエピトープの単一のアミノ酸レベルでの詳細な比較により、LRR1、2および3のβシートを含む広範囲に及ぶ重複が実証される(図4)。興味深いことに、IRI-SAb3のエピトープはさらにLRR4、5および6の残基まで伸びている(図4)。IRI-SAb2と比較した場合にはIRI-SAb3のより弱い有効性を考慮すると、このことは、アゴニスト活性は相互作用面の伸長に応じてよりも相互作用残基の性質に応じてより変わり得るということを示唆する。このような重複の解釈は幾らか注意して行わなければならないが(それらが推定されるアミノ酸置換が長い範囲の構造の混乱を引き起こし得る)、これらのデータはLRR1〜3のβシートをTSHrエクトドメインの「活性化トリガー」を含んでいると描写する。この観察結果と平行して、エピトープと相互作用すると予測されるIRI-SAb2およびIRI-SAb3のFv領域中の極めて限定された数のアミノ酸置換は(3残基、軽鎖中の2残基および重鎖中の1残基)(図5)、2種のmAbが共通の遺伝子再構成を起源とすることを示す。それは抗体の部分または完全アゴニスト活性間の相違は極めてわずかな構造の相違に応じて変わることを実証する。順に、これらの観察結果はまた、組換え抗体とエクトドメイン構築物の相互部位特異的突然変異誘発によるトリガー領域の活性化相互作用の同定を可能にする。
【0065】
d.強力な刺激性mAbおよび阻害性mAbのエピトープは互いに、およびTSH結合の決定基と重複している
強力な阻害性mAb、1H7のエピトープは、IRI-SAb2およびIRI-SAb3のものと著しく重複している。このエピトープは、5個の残基をそれらの各々と共有している(IRI-SAb2とはT56、K58、R80、Y82、R109、IRI-SAb3とはY82、R109、F130、G132、F134)。この場合も単一のアミノ酸レベルでのこのような重複の解釈は注意して行わなければならない(上記参照)。それにもかかわらず、この観察結果は、刺激抗体と阻害抗体の間の相違は、極めて類似した、すぐ近くのエピトープと関連している可能性があることを強く示す。エクトドメインおよび刺激活性があるまたは刺激活性がない組換えmAb双方の突然変異構築物に関する機能的研究は、活性化トリガーに関わる残基の描写に役立つはずである。驚くことではないが、阻害性mAb 1H7もIRI-SAb2およびIRI-SAb3と同様に、グレーブス病の患者から得た自己抗体で受容体から置き換えられる(図2D)。この観察結果は、「純粋な」阻害活性を有する(すなわち、TSAb活性を示さない)、患者から得た精製自己抗体は、古典的グレーブス病患者から得た自己抗体でTSHrから置き換えられるその能力について精製TSAbと区別することができないということを示す最近の結果と完全に一致している(25)。これらの観察結果とともに、活性化抗体および阻害抗体はエクトドメインのアミノ末端部分およびカルボキシ末端部分に位置するエピトープを認識するという考え(33、概説)に挑む。
【0066】
e.IRI-SAb2および3は、ex vivoおよびin vivoにおいてネズミTSHrの有効な刺激物である
甲状腺中毒症の徴候を示すマウスからのその単離は、IRI-SAb2およびIRI-SAb3は甲状腺機能亢進性状態の原因である(または寄与している)ということを強く示唆した。上記のように、これは自己に対する寛容が破壊されていること、およびこの動物ではいくつかの抗体がネズミTSHrを認識し、活性化できるはずであるということを意味する。IRI-SAb2およびIRI-SAb3は双方とも、ex vivoでマウスTSHrを発現するCHO細胞で試験した場合にこれらの特徴を示す(図6)。予想外にも、このアッセイ系ではIRI-SAb2およびIRI-SAb3は双方ともウシTSHよりも強力なアゴニストであった(図6)。それらはエクトドメインの活性な立体構造をウシTSHよりも効率的に安定化するということが考えられ、ネズミTSHを用いる状況は調査されていない。
【0067】
また、ヒトTSHrの刺激において観察された2種のmAbの有効性の相違は、マウス受容体に関しては観察されない(図1と図6を比較のこと)。
【0068】
これらの観察結果と一致して、IRI-SAb2およびIRI-SAb3を静脈注射されたマウスは、甲状腺機能亢進症の生物学的徴候を示した(図7)。IRI-SAB2注射後の血漿総T4の変化の速度論は、マウスIgG2aイソタイプの公知の半減期と極めて一致しており(34)、急性脱感作の徴候はなかった(図7E)。IRI-SAb2またはIRI-SAb3いずれかの注射の4日後の腺の組織診断は、予期された甲状腺細胞過剰刺激の徴候を示す。しかし、予期しないことに、炎症および毒性の急性徴候も示され、多数の浸潤マクロファージおよび死滅細胞がコロイド腔に脱落していた。この事態は、頂端膜でのH2O2の過剰産生と、それに続く炎症プロセスをはじめとするTSHrの急性刺激の結果として解釈できる。TSAbによる純粋に体液性の刺激の、非免疫化マウスの腺において炎症応答を引き起こす能力は、グレーブス病の病態生理に関連して興味深いものである。一般的な知識によれば、グレーブス病において観察される甲状腺組織の炎症の徴候は、局所抗原によって維持される自己免疫反応の進行の結果である。発明者らの結果は、過剰刺激自体が炎症という事態に重要な寄与をし得るということを示唆する。IRI-SAb2およびIRI-SAb3をナイーブマウスに慢性的に投与する今後の研究によって、腺の過剰刺激がそれ自体で、抗チログロブリンおよび/または抗甲状腺ペルオキシダーゼ自己抗体の生成を伴う自己免疫反応を導くかどうかが示されるであろう。
【0069】
展望:
すでに言及したように、本出願に記載されるモノクローナル抗体は、TSHrの活性化に関与する分子機構を調査するための有望な新規ツールとなる。
【0070】
これらのmAbの可変領域は、TSHとは対照的にクローニングでき、組換え物質として容易に製造できる。抗体のCDR領域と受容体のLRR部分の双方とも部位特異的突然変異誘発によって改変でき、機能アッセイにおいて試験できる。これにより、2種のパートナー中の相互作用残基の同定が可能になるはずであり、これはまた、活性化機構に関連する立体構造変化に関する手がかりを提供し得る。
【0071】
臨床の観点から、生物活性を有するモノクローナル抗体は、種々の分野の医薬でますます用いられるようになっている(35)。IRI-SAb2およびIRI-SAb3(またはそのヒト化誘導体)は、その高い効力および有効性、長い半減期および予想される低い生産費のために、ヒトにおける種々のin vivoプロトコールのための組換えTSHの興味深い代替物と見ることができる。これらとしては、分化型甲状腺癌の患者における、血清チログロブリンの測定およびI131を用いる全身スキャン(36)または治療用量のI131の投与の前の、遺残甲状腺または転移の刺激が挙げられる。したがって、本発明はまた、その態様の1つによれば、治療用医薬または診断用組成物およびin vivo診断のための薬剤を調製するための、ならびにイメージング目的の、非標識型または検出可能マーカーもしくは放射性同位元素で標識した、本発明のmAb、またはその断片もしくはヒト化型もしくは一本鎖型の使用に関する。
【0072】
阻害性mAb 1H7は、DE19907094C1および対応するWO00/49050A2/A3による、甲状腺機能亢進症の治療において使用するための(治療的方法)可能性ある代替物として注目されている。したがって、本発明はまた、甲状腺機能亢進症を治療するための医薬の調製のためのこのような阻害性mAbの使用を網羅する。
【0073】
さらに、ヒトTSHrとの結合に対するその高い親和性のため、IRI-SAb2およびIRI-SAb3、ならびに1H7は、in vitroイムノアッセイにおいてトレーサーとして、あるいはイメージングにおける適用、あるいはあまり分化していない甲状腺癌の非ヨウ素取り込み性転移を特に破壊するために放射標識または細胞傷害性薬剤または毒素との結合として適格となることができる。
【0074】
新規mAbの可変領域またはCDRに相当するペプチドを、免疫原としておよびアフィニティー精製において試験目的で使用できる。
【0075】
(参考文献)





【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】刺激性mAbの、cAMP蓄積およびTSH結合に対する効果を示す図である。AおよびBは、正常等張塩培地においてJP26細胞で測定された、IRI-SAb2、IRI-SAb3の、および比較のためのIRI-SAb1の、IgG(A)またはFab(B)の、細胞内cAMP蓄積に対する濃度作用曲線である。結果はpmole cAMP/mlで表されている。100mIU/ml bTSHを用いてcAMP生成の最大刺激を評価した。すべての測定は2連で実施した。c:市販のアッセイ(DYNO-test(登録商標) TRAK human、B.R.A.H.M. S Aktiengesellschaft, Hennigsdorf, Germany)によって測定された、IRI-SAbI、2および3またはmAb 1H7の種々の濃度のIgGの、コーティングした試験管上での125I-bTSHと固定化されたhTSHrとの結合の阻害に対する効果。結果は結合している125I-bTSHとしてcpmで表されている。すべての測定は3連で行った。
【図2】TSHrとの結合についてのmAbと患者抗体の間の競合を示す図である。全部で232種の血清を、3種の新規mAbの、および比較のためのIRI-TSAb1のTSHrとの結合に対するその阻害効果について試験した。対照:内分泌自己免疫疾患の個人的または家族的病歴を持たない血液ドナーから得た104種の対照血清。グレーブス病:TSAbを含むGDの患者から得た100種の血清。TBAb:自己免疫甲状腺機能低下症のTBAb陽性患者から得た8種の血清。橋本病:TBAbまたはTBIIを含まない自己免疫甲状腺機能低下症の患者から得た20種の血清。A、B、CおよびD:それぞれトレーサーとして用いた、IRI-SAb1、2、3およびmAb 1H7。E:トレーサーとして用いたウシTSH(LUMItest(登録商標)TRAK human、B.R.A.H.M. S Aktiengesellschaft)。結果は抗体またはbTSH結合の阻害パーセンテージとして表した。自己抗体の分布がドットプロットおよび中央値(線)を含む25〜75パーセンタイル(ボックス)、10〜95パーセンタイル(ウィスカー)示すボックスプロットとして示されている。***、P<0.0001(マンホイットニー順位和解析による)。
【図3】IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7エピトープの局在を示す図である。A:TSHrの模式図。7回膜貫通ヘリックスがらせん状のネットとして描かれている。N末端部分の閉環はエクトドメインのLRR部分を表す(残基54〜254)。B:キメラT56における8個の残基が突然変異している、TSHrのLRR部分の模式図。C:単一構造のLRRの模式図。D:COS細胞にトランスフェクトされたhTSHr変異体を用いた、IRI-SAb1、2、3および1H7のエピトープのマッピング。T56は8個の残基が突然変異しているTSHrの変異体であり、(上記の模式図参照)。T90はLHr対応物を含む20個の残基が突然変異しているTSHrの変異体である。COS細胞を、材料および方法に記載の通りに、野生型または突然変異型TSHrでトランスフェクトし、mAbで染色し、FACSによって分析した。
【図4】IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7エピトープ:TSHrエクトドメインの9個のLRRのβ鎖の地図作製を示す図である。ホルモンおよび抗体に面すると推定されるX残基のみが表されている。番号付けはTSHrのシグナルペプチドの最初のアミノ酸から開始されている。抗体によるTSHrの認識に関与する残基を個々に(黒色ボックス中のもの)、または組み合わせて(破線のボックスで囲まれたもの)同定した。A:IRI-SAb2エピトープの地図作製。B:IRI-SAb3エピトープの地図作製。C:1H7エピトープの地図作製。
【図5】IRI-SAb2、IRI-SAb3および1H7の可変領域のアミノ酸配列を示す図である;重鎖由来可変領域(VH)および軽鎖由来可変領域(VL)の配列アラインメント。CDR領域は四角で囲まれている。アミノ酸にはkabat命名法に従って番号が付けられている。黒色ボックス中: IRI-SAb2およびIRI-SAb3 CDR間で異なる4個の残基。
【図6】IRI-SAb2および3がin vitroでマウスTSHrを刺激することを示す図である。A:マウスTSHrを発現するMT3細胞株での4種の抗体を用いたFACS。細胞は各抗体で染色し、上記のように分析した。B:IRI-SAb2および3のIgGの、正常等張塩培地においてMT3細胞で測定された細胞内cAMP蓄積に対する濃度作用曲線。濃度作用曲線はまた、ウシTSHを用いても実施し(データは示していない)、cAMP生成の最大刺激に相当するプラトーが100mIU/ml bTSHで達成されたことが示されている。結果はpmole cAMP/mlで表されている。すべての測定は2連で実施した。
【図7】100μgの精製したIRI-SAb2およびIRI-SAb3で処理した雌マウスから得た血清中の総T4およびTSHを示す図である。PBS、mAb BA8またはmAb 1H7で処理した群を対照として用いた。それぞれ、注射の48時間(AおよびC)および4日(BおよびD)後のT4(μg/dl)およびTSH(mIU/L)。値の分布は、中央値(線)を含むドットプロットとして示されている。**、P<0.01(マンホイットニー順位和解析による)。E.IRI-SAb2またはPBS(対照)で処理したマウスにおける、注射後8時間、24時間および7日後のT4値。度重なる出血のため、最小量の血清を採取し、この実験ではTSH値は評価しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTSH受容体(hTSHr)に対してマウスを遺伝子免疫し、抗体の存在について陽性のスコアを有するマウスを選択し、選択したマウスの脾臓細胞を用いてハイブリドーマを作製し、mAbを産生するハイブリドーマクローンを増殖、試験および選択することによって得られる甲状腺刺激活性(TSAb)または甲状腺阻害活性(TBAb)を有するモノクローナル抗体(mAb)あるいはこのようなモノクローナル抗体の断片(F(ab')2、FabもしくはFv)またはヒト化型またはこのような断片の一本鎖型(SCA; scFv)であって、
前記抗体またはその断片が以下の特徴:
a.ヒトTSHrのエピトープについてウシTSHと競合すること、
b.ヒトTSHrのエピトープについて、グレーブス病患者から得た血清由来の自己抗体、および阻害自己抗体を有する患者から得た血清由来の自己抗体と競合すること、
c.ヒトTSHrのアミノ酸の最初の281アミノ酸に位置するヒトTSHrの立体構造エピトープと結合すること、
d.ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、およびヒツジ起源のTSH受容体(TSHr)と結合すること、および
e.その解離定数Kdが、組換えヒトTSHr調製物でコーティングした試験管での飽和実験において測定した場合、約20×10-10Mから約0.5×10-10Mの範囲であること
のうち少なくとも3つを特徴とすることを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項2】
甲状腺刺激活性を有し(mTSAb)、生理的塩濃度の培地において試験した場合にヒトTSHrのアゴニストとして挙動し、
e.配列番号1もしくは配列番号9の重鎖および/または配列番号2もしくは配列番号10の軽鎖と少なくとも90%の相同性をそれぞれ示す重鎖および軽鎖の可変領域を有するか、あるいは
f.ヒト化または一本鎖mAb、あるいは配列番号3、配列番号4もしくは配列番号11および配列番号5の重鎖の相補性決定領域(CDR)ならびに/または配列番号6、配列番号7もしくは配列番号12および配列番号8もしくは配列番号13の軽鎖の相補性決定領域(CDR)を少なくとも含むmAbの断片であるのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
甲状腺阻害活性(mTBAb)を有し、ヒトTSHrのアンタゴニストとして挙動し、
g.配列番号14の重鎖および/または配列番号15の軽鎖と少なくとも90%の相同性をそれぞれ示す重鎖および軽鎖の可変領域を有するか、あるいは
h.ヒト化または一本鎖mAb、あるいは配列番号16、配列番号17もしくは配列番号18の重鎖の相補性決定領域(CDR)および/または配列番号19、配列番号20もしくは配列番号21の軽鎖の相補性決定領域(CDR)を少なくとも含むmAbの断片であるのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
ヒトTSHrに対して完全アゴニスト活性を示すことを特徴とする、請求項1および2に記載の抗体または断片。
【請求項5】
mAbがIgGイソタイプIgG2Aに属し、配列番号1の重鎖と配列番号2の軽鎖とを含む(IRI-SAb2)、またはそのような抗体に由来する断片であることを特徴とする、請求項1および2に記載の抗体または断片。
【請求項6】
mAbがIgGイソタイプIgG1に属し、配列番号9の重鎖と配列番号10の軽鎖とを含む(IRI-SAb3)、またはそのような抗体に由来する断片であることを特徴とする、請求項1および2に記載の抗体または断片。
【請求項7】
2004年5月27日にブタペスト条約のもとでDSMZ、BraunschweigにそれぞれIRI-SAb2(DSM ACC2664)およびIRI-SAb3(DSM ACC2662)の名称で寄託されたハイブリドーマによって産生される、請求項5および6に記載の抗体。
【請求項8】
2004年5月27日、ブタペスト条約のもと、DSMZ、Braunschweigで1H7(DSM ACC2663)の名称で寄託されたハイブリドーマによって産生される、請求項3に記載の抗体。
【請求項9】
TSH受容体に対する自己抗体(TRAb)を測定するための競合in vitroイムノアッセイまたはin vitroバイオアッセイにおける、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項10】
抗体または断片が、TSHr調製物とのその結合の検出を可能にする標識を有する、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
外科的介入もしくは放射性ヨウ素治療後に甲状腺もしくは遺残甲状腺もしくは甲状腺癌の転移を刺激する医薬を調製するため、またはin vivo造影剤を調製するための、請求項1、2および4から7のいずれか一項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項12】
前記抗体が、TSHrを提示する組織および/または遺残組織および/または細胞をin vivoで選択的に破壊するために放射標識または細胞傷害性物質と結合している、請求項11に記載の抗体または断片の使用。
【請求項13】
前記抗体が、TSHrを提示する組織および/または細胞のin vivoイメージングを可能にする放射性同位元素で標識されているか、または放射性同位元素を有する、請求項11に記載の抗体または断片の使用。
【請求項14】
甲状腺機能亢進症およびグレーブス眼症の治療用医薬を調製するための、請求項3または8に記載の抗体の使用。
【請求項15】
請求項1から8に記載の抗体または断片を特異的に認識する抗体を作製するための、配列番号1から配列番号21の重鎖および/もしくは軽鎖、またはその相補性決定領域に相当するペプチドの使用、あるいはこのような鎖または領域をコードする核酸の使用。
【請求項16】
試験動物を免疫化し、前記動物内で抗体を作製するための免疫源としての、担体タンパク質とともの請求項15に記載のペプチドの使用。
【請求項17】
グレーブス病またはグレーブス眼症の発症を予防する、または寛解させる、または治癒するための医薬を製造するための、請求項15または16に従って得られる抗体またはその断片もしくはヒト化もしくは一本鎖型の使用。
【請求項18】
請求項1から8に記載のmAb、または甲状腺の自己免疫疾患の患者の血清に由来する本質的に同様の結合挙動を示す自己抗体を、精製、単離または分離するためのアフィニティークロマトグラフィー用固相を製造するための、請求項15または16に従って得られる抗体、またはその断片の使用。
【請求項19】
配列番号1から13に記載のペプチド配列からなるか、またはそれらを含むペプチドの、TSHrに対する刺激性自己抗体(TSAb)のアンタゴニストまたは競合物質としての、またはアフィニティークロマトグラフィーにおける使用。
【請求項20】
合成ペプチドまたは組換えペプチドの形の、請求項19に記載のペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−509887(P2008−509887A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518492(P2007−518492)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006500
【国際公開番号】WO2006/002774
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(501154389)ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・アクティエンゲゼルシャフト (29)
【Fターム(参考)】