説明

新規な分泌タンパク質とその製造法及び用途

【課題】新規構造を持つ血管新生抑制活性もしくは破骨細胞形成抑制活性を有するポリペプチド、そのペプチドの精製方法を構築して、組換えタンパク質を提供する。また、それによって腱炎、関節リウマチ、変形性関節症、悪性腫瘍等の疾患の治療薬創生に有用な成分を提供する。
【解決手段】新規の可溶性ポリペプチドタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生抑制活性及び/又は破骨細胞活性化による骨吸収の抑制活性を有する可溶性の新規蛋白質とその製造法、該蛋白質を用いた新規な診断薬、治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
「血管新生」とは、体内で新たに血管が作られることである。血管新生には促進物質と阻害物質があり、そのバランスが血管新生を調節している。血管系はヒト成人では全長10kmにおよび、血管内皮細胞の表面積は7000m2、重量は1kgあると言われており、体内のあらゆる部位に分布する人体最大の臓器と考えられる。胎児期や成長過程において血管新生は盛んに起こっているが、成体の場合は、排卵や創傷治癒といった特殊な場合でしか認められない。血管系は生命の維持にとって不可欠であり、上記の血管新生は正常な生体の反応である。
【0003】
一方、上記以外の異常な血管新生は、様々な疾患の原因となっている。その代表的な例が、癌の血管新生である。癌組織における血管新生は、癌の著しい増大、転移能亢進をもたらす。従って、癌細胞に栄養分を供給する血管の新生を阻害すれば、癌は休眠状態(tumor dormancy)に保たれるはずである。Tumor dormancyを提唱したFolkmanらは癌細胞が産生する血管新生阻害因子を同定し、アンジオスタチン及びエンドスタチンと名づけた(非特許文献1、非特許文献2)。これらの血管新生阻害因子がマウスで癌をほぼ完全に退縮させることが明らかになり、その後、血管新生の研究は盛んに進められた。現在、多くの製薬企業が血管新生阻害剤の開発に取り組んでおり、癌を対象に臨床試験が実施されているが、癌を克服するにはいたっておらず、新規な血管新生阻害剤が望まれている。
【0004】
癌以外の疾患、例えば、糖尿病性網膜症、関節リウマチなどでも異常な血管新生が起こっており、その血管新生を阻害することでこれらの疾患を治療できる可能性を示唆するデータが、数多く報告されている。従って、血管新生阻害剤は、癌のみならず、血管新生を伴う他の疾患に対する治療薬となると考えられる。
【0005】
血管系は体内のあらゆる組織に分布しているが、血管網に乏しい組織も存在する。血管網に乏しい組織としては、軟骨、腱、靭帯、眼球などが挙げられる。間葉系組織のうち、骨や筋肉などは血管が豊富で、骨折や筋肉の損傷が生じてもこれを再生する能力を有している。
【0006】
これに対して、同じ間葉系組織である軟骨、腱、靭帯は血管網に乏しい組織であり、損傷や断裂が生じると、再生、自然治癒の非常に困難である。一方、これらの無血管組織に血管が侵入すると組織の破壊を引き起こすことから、これらの組織には内因性の血管新生阻害因子が存在し、周囲からの血管侵入を阻害していると考えられている。
【0007】
Chondromodulin-I(ChM-I)は、軟骨に存在する血管新生阻害因子として、ウシ胎児軟骨から精製された約25kDaの糖タンパク質であり、軟骨への血管侵入を制御していると考えられている(非特許文献3)。
【0008】
また、ChM-Iと相同性を有するII型の膜貫通タンパク質として、ChM1Lが発見されている(非特許文献4、特許文献1)。ChM1Lは腱、靭帯などの強靭結合組織において特異的に発現する遺伝子であり、これらの組織への血管侵入を制御していると考えられる(特許文献2、非特許文献5、非特許文献6)。
【0009】
上述したように、腱や靭帯も、軟骨と並んで血管網に乏しい組織である。腱ならびに靭帯は骨や筋肉を繋ぐ重要な組織であり、その損傷や断裂は、スポーツ選手のみならず一般の人々にとっても身体運動を制限される、深刻な疾患であると考えられる。このように腱や靭帯組織は重要な組織であるが、軟骨と比較すると、これまで基礎、臨床ともに研究があまり進んでいない。その理由としては、細胞などの材料の確保が難しいこともあるが、腱あるいは靭帯特異的に発現するマーカー分子が存在しなかったことが挙げられる。このような背景から、腱や靭帯における損傷あるいは修復の程度を評価することが可能なマーカー分子の存在が望まれてきた。
ChM1Lは腱や靭帯に特異的に発現することから、これらの組織の損傷あるいは修復を評価するマーカー分子として利用できると考えられる。また、ChM1Lの活性を制御することにより、腱や靭帯の損傷を治療できる可能性がある。
【0010】
しかしながら、ChM-Iとその分泌型蛋白質ならびにChM1Lなどの蛋白質を血管新生抑制へと利用するためには、いまだ解決すべき課題も多い。
【0011】
組換えタンパク質を医薬品として開発する際には、活性タンパク質を大量に調製する必要がある。一般的には、微生物、特に大腸菌を用いた発現系が、工業スケールでのタンパク質生産に幅広く利用されている。大腸菌での発現は、高レベルの発現を可能にするベクターの使用と高密度での培養により、非常に高レベルの組換えタンパク質を得ることが可能である点で有利である。
【0012】
しかし、この場合の重要な問題として、大腸菌が組換えタンパク質を含む封入体を形成しやすいことがしばしば指摘される。実際、血管新生阻害剤として臨床試験が実施されているエンドスタチンも、大腸菌で発現させると封入体を形成し、その再生が困難であるため(非特許文献2)、現在でも改良法が検討されている(特許文献3)。
【0013】
ChM-Iは、その血管新生阻害活性を利用して抗癌剤として開発することも検討されたが、ChM-Iを大腸菌で発現させると封入体が形成され、その再生が困難であると報告されている(非特許文献7)。また、宿主細胞としてChinese hamster ovary(CHO)細胞を用いても、ChM-Iは多量体を形成するために再生過程が必要であり、大量の活性タンパク質を得ることが困難であった(非特許文献8)。
【0014】
ChM1Lについても、ChM-Iと同様にChM1Lを大腸菌で発現させると封入体を形成し、再生が困難であることが報告されている(非特許文献9)また、COS7細胞の培養液中にChM1Lを発現させることで、培養液中から活性タンパク質として得ることが可能であるが、その発現量は低く、ChM-Iと同様に多量体を形成しており、大量の活性タンパク質を得ることはできない(特許文献4)。
【0015】
また、細胞膜貫通タンパク質は、その細胞外ドメインが切断されて細胞外に分泌されることがある。例えば、Tumor necrosis factor-α(TNF-α)はII型の膜貫通タンパク質として合成され、膜貫通タンパク質としても機能するが、TNF-α converting enzymeなどのプロテアーゼによって切断され、分泌性のタンパク質としても機能することが知られている。ChM-Iについても、II型の膜タンパク構造を有するが、furinなどのプロテアーゼが認識するサイト(RERR)でプロセシングを受けて、C末側の120アミノ酸が細胞外に分泌されることが知られている(非特許文献3および非特許文献8)。
【0016】
しかし、上記の120アミノ酸残基からなる分泌型ChM-Iは、これを組換え生産しても十分な可溶性を示さず、前述の問題は解消されていない。
【0017】
また、ChM1Lについては、ChM-Iとアミノ酸配列上の相同性を有するものの、ChM-Iのような典型的なプロテアーゼ認識サイトはなく、膜貫通タンパク質として機能すると推定されており、分泌型タンパク質の報告はない(特許文献4:WO00/12708、特許文献5:WO00/29579、特許文献6:WO01/23557、特許文献7:WO01/48203、特許文献8:WO01/53344、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。
【特許文献1】WO01/23557号パンフレット
【特許文献2】WO01/53344号パンフレット
【特許文献3】特表2002-504494号公報
【特許文献4】WO00/12708号パンフレット
【特許文献5】WO00/29579号パンフレット
【特許文献6】WO01/23557号パンフレット
【特許文献7】WO01/48203号パンフレット
【特許文献8】WO01/53344号パンフレット
【非特許文献1】オライリー(O'Reilly)等 セル(Cell)(USA)1994年10月21日発行 79巻 2号 p315〜328
【非特許文献2】オライリー(O'Reilly)等 セル(Cell)(USA)1997年1月24日発行 88巻 2号 p277〜285)
【非特許文献3】開等 ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of biological chemistry)(USA) 1997年12月19日発行 272巻 51号 p32419〜32426
【非特許文献4】山名等 バイオケミカル・アンド・バイフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical and biophysical research communications )(USA) 2001年2月2日発行 280巻 4号 p1101〜1106
【非特許文献5】ブランダウ(Brandau)等 デヴェロップメンタル・ダイナミックス−アン・オフィシャル・パブリケーション・オブ・ザ・アメリカン・アソシエーション・オブ・アナトミスツ(Developmental dynamics : an official publication of the American Association of Anatomists )(USA) 2001年5月発行 221巻 1号 p72〜80
【非特許文献6】宿南等 バイオケミカル・アンド・バイフィジックス・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical and biophysical research communications )(USA) 2001年2月2日発行 280巻 5号 p1323〜1327
【非特許文献7】山川等 日本分子生物学会第25回年会・講演要旨集 2001年11月発行 2P-0206
【非特許文献8】アジザン(Azizan)等 ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of biological chemistry)(USA) 2001年6月29日発行 276巻 26号 p32419〜32426
【非特許文献9】長谷川等 日本分子生物学会第25回年会・講演要旨集 2001年11月発行 2P-0770
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
この様に、天然型のChM-IならびにChM1Lの医薬等への利用は、その大量調製の点で不利であることから、これらとは異なる物質の開発、あるいは少なくとも天然型ChM-IあるいはChM1Lを簡便に調製する方法の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、天然の膜貫通型ChM1Lについて種々検討を加えた結果、これまでに報告のなかったChM1Lの分泌型蛋白質とも言うべき、血管新生抑制活性を有する可溶性のポリペプチド(S-ChM1L)を新たに見いだし、さらにS-ChM1Lならびにその改変体であるポリペプチド(MS-ChM1L)が、血管新性抑制活性に加えて、破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有していることを確認した。
【0020】
すなわち本発明は、1)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号9に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を持つアミノ酸配列からなり、血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有するポリペプチドに関する。また、2)N末端及び/又はC末端にアミノ酸残基がさらに付加されている1)のポリペプチド、3)N末端に付加されたアミノ酸残基がメチオニンから始まるアミノ酸配列からなる2)のポリペプチド、4)該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が、連続した6から8個のヒスチジンタグ配列及び/またはFLAGタグ配列を含むアミノ酸配列からなる2)または3)に記載のポリペプチド、5)該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が、オワンクラゲ由来蛍光タンパク質もしくはその類縁体、または分泌型アルカリフォスファターゼもしくはその類縁体のアミノ酸配列からなる2)または3)のポリペプチド。6)該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が修飾アミノ酸残基を含む1)のポリペプチド、7)N末端に付加されたアミノ酸残基がグルタミンまたはピログルタミンである6)のポリペプチド、8)修飾アミノ酸残基が、アセチル基、ホルミル基、ビオチン基、Boc基、若しくはFmoc基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの修飾基を有することを特徴とする6)のポリペプチドに関する。
【0021】
また、本発明は、9)配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列をもつ核酸分子、10)配列番号3の4〜243番目のヌクレオチド配列を持つ核酸分子、または配列番号3の4〜243番目のヌクレオチド配列の相補配列とストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を持つ核酸分子、11)2)〜6)の何れかに記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を持つ核酸分子、12)9)〜11)の何れかの核酸分子を含むベクター、13)12)のベクターにより形質転換された宿主細胞にも関する。
【0022】
さらに、上記ポリペプチドは、適当な組換え宿主細胞を用いて可溶性ポリペプチドとして調製することができるとともに、調製時に変性剤並びに特定の界面活性剤を共存させることにより、かかる可溶性蛋白質を宿主細胞由来のエンドトキシン等の挟雑物から簡便に精製し得ることを見いだし、本発明を完成した。
【0023】
すなわち本発明は、14)前記13)の形質転換された宿主細胞を培養する工程、および生成されたポリペプチドを回収する工程を有することを特徴とする、前記1)〜8)の何れかに記載のポリペプチドの製造方法、15)タンパク質変性剤の存在下で形質転換された宿主細胞からポリペプチドを含む抽出液を回収することを特徴とする、14)のポリペプチドの製造方法、16)宿主細胞から回収された抽出液をTritonX−114で処理した後に遠心分離処理を行って発熱物質を除去する工程を含む、前記14)または15)の何れかのペプチドの製造方法、17)宿主細胞からポリペプチドを含む抽出液の回収移行のすべての工程において、該ポリペプチドを含む溶液のpHをpH8.0から8.5の範囲に調整することを特徴とする、前記14)〜16)の何れかに記載のポリペプチドの製造方法、18)ヒトChM-I又はヒトChM1Lを発現可能な組換え宿主細胞を用いて組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを製造する方法であって、タンパク質変性剤の存在下で組換え宿主細胞から組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを含む抽出液を回収する工程、及び該抽出液をTritonX−114で処理した後に遠心分離処理を行って発熱物質を除去する工程を含む、組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを製造する方法、19)抽出液を回収する工程以降のすべての工程において、該ポリペプチドを含む溶液のpHをpH8.0から8.5の範囲に調整することを特徴とする、前記18)の製造方法にも関する。
【0024】
また、本発明は、前記1)から8)の何れかに記載のポリペプチドを含む医薬組成物、特に21)血管新生抑制剤及び/または破骨細胞活性化抑制剤である、請求項20に記載の医薬組成物、ならびに腱炎、関節リウマチ、変形性関節症、悪性腫瘍、糖尿病性網膜症、緑内障、乾癬、ケロイド、動脈硬化症などの血管新性あるいは骨吸収に関連するずれかの病態の診断に用いられる診断用組成物を提供する。
【0025】
さらには、前記9)から11)の何れかに記載の核酸分子を含むように遺伝子操作を受けたトランスジェニック非ヒト動物も提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の可溶性蛋白質は、後述するように、血管新生抑制活性に加え、破骨細胞の活性化による骨吸収を抑制する活性も有しており、医薬として用いた場合に、血管新生と破骨細胞の活性化を抑制することで、特に関節リウマチや骨転移性の腫瘍において劇的な治療効果が得られると期待される。
【0027】
また、本発明の可溶性蛋白質は、天然に存するChM1Lの部分配列からなる蛋白質であるために抗原性が低く、組換え細胞を用いた生産において再生工程を必要とせず、大量に調製することが可能である。
【0028】
さらに、本発明の可溶性蛋白質の製造方法は、組換え細胞を用いた製造にあって必要な、宿主細胞由来のエンドトキシンを生体に投与可能なレベルまで除去することを、簡便に行うことができる。またこの方法は、従来、組換え生産の困難であった天然型ChM1Lの精製にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<可溶性ポリペプチドS-ChM1L、MS-ChM1Lもしくはそれをコードする核酸分子>
本発明は、血管新生抑制活性ならびに破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する可溶性ポリペプチドに関する。
【0030】
毛細血管が新たに形成される「血管新生(angiogenesis)」という現象は、(1)血管基底膜とその周囲の細胞外マトリックスのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などによる消化、(2)血管内皮細胞の遊走、(3)血管内皮細胞の増殖、(4)管腔の形成(capillary tube formation)というステップをとることが知られている。本発明に言う血管新生抑制とは、上記のステップの少なくとも何れかに関与して、実質的に血管の新生を抑制する活性を意味する。
【0031】
後述の実施例で示すように、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、上記(1)〜(4)のすべてのステップを阻害する活性を有している。従って、本発明のポリペプチドは、癌、関節リウマチ、乾癬、糖尿病性網膜症などの血管新生を伴う疾患の治療薬として使用できると考えられる。
【0032】
また、驚くべきことに、本発明の可溶性ポリペプチドは、破骨細胞による骨の吸収を抑制する機能も有していることが明らかとなった。本発明に言う骨吸収抑制とは、破骨細胞の活性化により生じる骨の吸収を抑制する活性を言う。
【0033】
一般に、骨代謝は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスにより制御されている。この骨代謝の異常により引き起こされる疾患としては、骨粗鬆症、関節リウマチ、骨パジェット病、高カルシウム血症、歯周骨喪失、腎性骨異栄養症、骨溶解性腫瘍および骨転移性腫瘍などが知られている。従って、本発明の可溶性ポリペプチドは、破骨細胞による骨吸収に関与する上記各疾患に対する治療薬としても、利用することができる。特に、関節リウマチは、血管新生を伴う滑膜細胞の炎症、増殖と共に、破骨細胞による骨・軟骨破壊が問題となる疾患であり、また骨転移性腫瘍は、腫瘍の増大と転移に血管新生が、骨吸収による骨の溶解に破骨細胞が、それぞれ深く関与する疾患であることから、本発明の可溶性ポリペプチドは、既存の薬剤に比して極めて有利である。
【0034】
本発明の可溶性ポリペプチドは、典型的には配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(S-ChM1L)であるが、その両端にさらに1個ないしそれ以上のアミノ酸残基、特にChM1Lとは別のペプチドを構成するアミノ酸残基が付加されたポリペプチド(MS-ChM1L)であってもよい。例えば、配列番号9に示されるアミノ酸配列のN末端にグルタミンあるいはピログルタミンが付加されたポリペプチドも、血管新生抑制活性ならびに骨吸収抑制活性を有している。また、配列番号9に示されるアミノ酸配列のN末端に適当なタグ配列、典型的にはヒスチジンタグやFLAGタグを付加しても、そのようなポリペプチドは依然として血管新生抑制活性ならびに骨吸収抑制活性を有している。さらには、タグ配列に代えて、オワンクラゲ由来蛍光タンパク質や分泌型アルカリフォスファターゼのアミノ酸配列などを付加しても、その様なポリペプチドは依然として所望の機能を保持している。
【0035】
従って、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(S-ChM1L)も、その一端あるいは両端に別の蛋白質のアミノ酸が付加されたポリペプチド(MS-ChM1L)も、本発明の範囲内として理解されるべきである。
【0036】
また、配列番号9に示されるアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸残基が欠失あるいは置換された場合でも、血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有しているポリペプチドは本発明の範囲内であり、これらもMS-ChM1Lとして理解される。
【0037】
例えば、S-ChM1Lの一つ以上のアミノ酸残基を、そのアミノ酸と化学的性状もしくは構造的に類似のアミノ酸残基と置換した形で、可溶性ポリペプチドを取得することができる。このような化学的性状もしくは構造的に類似のアミノ酸への置換、すなわち保存性の高い置換の具体的な態様は、当業者にとって広く知られており、例えば、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)またはAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)などを例示することができる。
【0038】
従って、可溶性ポリペプチドが配列番号9に示されるアミノ酸配列とは異なる配列からなるものであっても、その相違が上記のごとき保存性の高い置換に相当するものであって、かつポリペプチドが血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有していれば、その可溶性ポリペプチドもまた、MS-ChM1Lの一態様である。
【0039】
上記のMS-ChM1Lのアミノ酸配列は、配列番号9に示されたアミノ酸配列に対応する部分のアミノ酸配列において、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の同一性を有するものである。
【0040】
上記の本発明の可溶性ポリペプチドは、化学的合成法あるいは一般的な遺伝子組換え技術を用いて容易に調製できる。
【0041】
遺伝子工学的手法による調製としては、本発明の可溶性ポリペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを、適当な宿主細胞中で発現させ、該ポリペプチドを回収する方法が挙げられる。例えば、典型的には配列番号9に示されるアミノ酸配列に、メチオニンで始まるアミノ酸配列がN末端にさらに付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを調製し、これを適当なベクター上に組換えて宿主細胞を形質転換し、これを発現させればよい。
【0042】
また、安定性、可溶性、精製の効率化、発現効率の向上、製造分子の検出などを目的として、任意のペプチドのアミノ酸配列が付加された配列番号9に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを調製し、これを適当なベクター上に組換えて宿主細胞を形質転換し、これを発現させればよい。
【0043】
例としては、6個以上の連続したヒスチジン残基を有するHisタグ配列もしくはFLAGタグ配列をコードする塩基配列を、含む形で本発明の可溶性ポリペプチドを作成することができる。このような構成を有する可溶性ポリペプチドは、金属キレート担体もしくは抗体を用いて精製が容易となるという利点を有する。
【0044】
また別の例としては、オワンクラゲ由来蛍光タンパク質もしくは分泌型アルカリフォスファターゼを構成するアミノ酸配列を付加させた、いわゆる融合蛋白質の形態で発現させることも可能である。オワンクラゲ由来蛍光タンパク質との融合タンパク質では、その蛍光強度を測定することによって、また分泌型アルカリフォスファターゼとの融合タンパク質では、該酵素とその基質を反応させることによって生じる発色、発光もしくは蛍光の強度を測定することによって、それらの融合タンパク質の存在を容易に検出できる。
【0045】
この場合、これらの本発明である可溶性ポリペプチドとしての融合タンパク質は、典型的には配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(S-ChM1L)をコードする遺伝子配列の5’もしくは3’末端に、オワンクラゲ由来蛍光タンパク質もしくは分泌型アルカリファスファターゼをコードする塩基配列を、それぞれのタンパク質のアミノ酸配列が翻訳される形で結合させ、発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させることによって取得することが可能である。
【0046】
また、任意のアミノ酸配列を融合させた形で発現させた本発明の可溶性タンパク質は、S-Ch1MLに相当するポリペプチドとそれに付加した配列が結合したままの状態、もしくはその付加したアミノ酸配列を除去した形で得ることができる。付加したアミノ酸配列を除去する方法の一例としては、可溶性ポリペプチドを含む配列とそれに付加する配列の間にリジン残基が挿入されるように遺伝子構築を行い、発現させて得たタンパク質をエンドペプチターゼLys-C(EC 3.4.21.50)で処理して、そのリジン残基C末端部分で切断して精製することによって、可溶性ポリペプチド配列を含む部分のポリペプチドを回収することが可能である。
【0047】
上記の操作は、いずれも当業者に一般的に利用されている種々の方法を利用して行うことができ、また、酵素的もしくは化学的にポリペプチドを会合させる方法(ハーマンソン(Hermanson)等 バイオコンジュゲート・テクニックス(Bioconjugate techniques)(USA)1996年発行 Academic Press)などの公知の方法も利用することができる。
【0048】
また、生体組織由来もしくは遺伝子組換え法によって生産された可溶性ポリペプチドを取得した後に、その構造を修飾することによっても、本発明の可溶性ポリペプチドを得ることができる。生体内のタンパク質やペプチドホルモン等においては、そのN末端がピログルタミン酸に転換された形やアセチル基もしくはホルミル基等で修飾されている形をとることがあり、そのことによってタンパク質やペプチドホルモンの安定性の向上や活性の変化を起こすことが知られている。このことから、必要に応じて本発明の可溶性ポリペプチド分子のN末端を翻訳後に修飾した形態の分子を用いることも可能である。そのような分子を得る方法の一例としては、可溶性ポリペプチド分子を含む配列のN末端をグルタミン残基となるように発現させ、得られたポリペプチドを5〜10%酢酸溶液等酸性条件で処理することによって、N末端がピログルタミンに転換された分子を得ることができる(パーク(Park)等 プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(USA) 1991年3月発行 p22046〜2050)。また別の例としては、N末端にαアミノ基を持つ任意のアミノ酸残基となるように発現させた本発明の可溶性ポリペプチド配列を含むポリペプチドを、Sulfo-NHS-Acetateや無水酢酸で処理することによって、N末端がアセチル化されたペプチドを得ることができる。その他、取得した可溶性ポリペプチド配列を含むポリペプチドを、蛍光物質などの化合物で処理して修飾することも可能である。
【0049】
以上のような方法で取得したChM1Lのアミノ酸置換改変体や、ChM1Lと相同性を持つ分子は、後述する組換えタンパク質の取得法と同様な方法で作成し、実施例5から13に記載の方法で、血管新性抑制活性ならびに骨吸収抑制活性を確認することが可能である。
【0050】
<組換えタンパク質>
本発明の可溶性ポリペプチドの発現及び精製は、典型的には、同ポリペプチドをコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換え体DNAを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、形質転換体を培養することにより行われる。ここで宿主細胞としては、真核性宿主細胞及び原核性宿主細胞のいずれを用いることもできる。
【0051】
真核性宿主細胞には、脊椎動物、酵母及び昆虫細胞等が含まれる。脊椎動物細胞としては、例えばCHO細胞、293T細胞及びCOS7細胞等が挙げられる。
【0052】
脊椎動物の発現ベクターとしては、通常、発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、同下流にポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用できる。該発現ベクターとしては例えば、SV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr(Mol. Cell. Biol., 854, 1981)、pcDNA3.1(+)(Invitrogen社)及びpCAGGS(Gene, 108, 193-200, 1991)等を例示できる。
【0053】
真核細胞中で目的タンパク質を発現させる手段は、それ自体当該分野では多くの系が周知である。例えば酵母中で発現させる系としては特開昭57-159489号公報に記載された「酵母中でのタンパク質の発現」が、昆虫細胞中で発現させる系としては特開昭60-37988号公報に記載された「組換えバキュロウイルス発現ベクターの製法」が、哺乳類動物細胞中で発現させる系としては特開平2―171198号公報に記載された「真核性発現の改良」が、それぞれ挙げられるが、もちろんこれら以外にも多数存在する。
【0054】
本発明の可溶性ポリペプチドをコードする遺伝子は、例えば、大腸菌、枯草菌およびストレプトマイセス等の原核性宿主細胞内でも発現し得る。例えば、上記宿主としての大腸菌はEcherichia coli K12株等がよく用いられ、ベクターとしてはpBR322及びその改良ベクターがよく用いられるが、これらに限定されず公知の各種菌株及びベクターも利用できる。プロモーターとしては、例えば、大腸菌ラクトース(lac)、大腸菌trp等のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記のプロモーターは、いずれも既に特性化されており、当業者が熟知しているものであって、合成的にあるいは、既知のプラスミドから組み立てることができるものである。
【0055】
本発明の可溶性ポリペプチドをコードする遺伝子、これを含む組換えプラスミドまたは組換えウイルスの核酸配列には、多くの修飾や変更の導入が可能である。例えば、遺伝暗号の同義性により、ポリペプチドの暗号領域全体を通して、コードされるアミノ酸を換えずにヌクレオチドの置換を行うことができる。そのような配列は、タンパク質のアミノ酸配列から推定することができ、下記の従来からの合成法により組み立てることができる。そのような合成法は、実質上、イタクラらの方法(Itakura et al, Science 198, 1059, 1977)ならびにクレアらの方法(Crea et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75, 5765, 1978)に従って行うことができる。従って、本発明は特に例示した塩基配列、プラスミドおよびウイルスに限定されるものではない。
【0056】
かくして得られる所望の遺伝子の宿主細胞への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。また、得られる形質転換体は常法に従い培養でき、本発明の可溶性ポリペプチドが生産される。培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、その培養も宿主細胞の成育に適した条件下で実施できる。
【0057】
上記により、形質転換体の細胞内、細胞外あるいは細胞膜上に該タンパク質が生産される。本発明の可溶性ポリペプチドは、所望により、その物理学的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作[日本生化学会編 「生化学データブックII」第1版第1刷、株式会社東京化学同人 1980年6月23日発行 p1175〜1259;Arakawa等 バイオケミストリー(Biochemistry)(USA)1986年12月16日発行25巻25号p8274〜8277 (1986); ラングレイ(Langley)等 ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Europian Journal of Biochemistry)(Germany)1987年3月2日発行 163巻2号 p313〜321等参照]により分離、精製できる。該方法としては、例えば通常の再構成処理、タンパク質沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外ろ過、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合わせ等を例示できる。また、該タンパク質にアフィニティータグを融合したタンパク質を発現させれば、このタグを利用してアフィニティー精製を実施することが可能である。ここで述べるアフィニティータグとは、例えば、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ、シスク(Sisk)等 ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)(USA) 1994年2月発行 68巻2号 p766〜775)及びFLAGタグ(ホップ(Hopp)等 バイオテクノロジー(Biotechnology)1988年発行 6巻 p1204〜1210)が挙げられる。これらのアフィニティータグを融合した本発明の可溶性ポリペプチド(MS-ChM1L)の発現及び検出は、実施例1で述べるように実施することが可能であり、これらのタグを用いてMS-ChM1Lを精製することも実施例3で述べるように実施し得る。本発明の可溶性ポリペプチドの製造方法は、より具体的には実施例3で詳細に述べる。
【0058】
<合成ペプチド>
本発明の可溶性ポリペプチドを取得する方法としては、化学合成的に該ポリペプチドを合成する方法を挙げることができる。
【0059】
この場合、固相合成法や液相合成法など、一般的に用いられるペプチド合成法を利用することができる。ペプチド合成に於ける縮合法やアミノ酸残基の保護、および合成後の保護基の脱離については、公知の方法を利用できる(泉谷等 ペプチド合成の基礎と実験 丸善株式会社 1975年発行、矢島等−日本生化学会編 生化学実験講座1 タンパク質の化学IV 東京化学同人株式会社 1977年発行)。また、可溶性ポリペプチドタンパク質のペプチド配列全体を一度に合成することも可能であるが、該タンパク質の部分的なペプチドを其々合成して、その部分ペプチドを縮合する方法も用いることができる(日本生化学会編 新生化学実験講座 タンパク質IV 合成および発現 東京化学同人株式会社 1991年発行 )。ペプチド合成において用いられるアミノ酸のαアミンは、通常、tBoc基やFmoc基で保護されているが、最終的に得られるペプチドについて、これらの保護基をつけたままもしくは脱保護した形とすることが可能である。また必要に応じて、そのペプチドの脱保護されたアミノ末端を酵素的若しくは化学的にピログルタミン酸やアセチル基もしくはホルミル基などで修飾された形とすることも可能である(ハーマンソン(Hermanson)等 バイオコンジュゲート・テクニックス(Bioconjugate techniques)(USA)Academic Press 1996年発行)。具体的な例としては可溶性ポリペプチドの配列を含むペプチドをN末端にグルタミンを持つ形で合成し、該ペプチドを5から10%酢酸溶液等の希酸による処理で環化させることでピログルタミン酸に変化させることができる(パーク(Park)等 プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(USA) 1991年3月発行 p22046〜2050)。
【0060】
<抗体>
本発明の可溶性ポリペプチドに対する抗体は、骨・関節疾患の診断・治療に用いることができる。例えば、診断においては、抗体を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA法などを利用することができる。
【0061】
上記で用いる抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(ミルスタイン(Milstein) 等 ネイチャー(Nature )(England) 1983年10月6日発行 305巻5934号 p537〜540)であることができる。例えば、本発明の可溶性ポリペプチドに対するポリクローナル抗体は、同ポリペプチドを抗原として感作させた哺乳動物の血清等から回収することができる。同ポリペプチドに対するモノクローナル抗体は、同抗原を感作させた哺乳動物から免疫細胞を取り出して、骨髄腫細胞などと細胞融合させることにより得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から回収することができる。
【0062】
本発明の可溶性ポリペプチドあるいはChM1Lタンパク質の検出には、これらの抗体を適宜標識してやればよい。また、この抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。具体的な検出方法としては、例えばELISA法を挙げることができる。
【0063】
抗原に用いる本発明の可溶性ポリペプチドもしくはその部分ペプチドは、例えば同ペプチドをコードする遺伝子もしくはその一部を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作成し、該形質転換体を培養して組換えタンパク質を発現させ、発現させた組換えタンパク質を培養体または培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、同遺伝子によってコードされるアミノ酸配列あるいはその部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。免疫する動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ、ハムスターなどが用いられる。
【0064】
<診断方法>
本発明の診断方法については、通常、被験者から採取された生体試料を試料とする。生体試料としては、血液試料が望ましい。血液試料とは、全血、あるいは全血から得られた血漿や血清を用いることができる。また本発明における生体試料としては、血液のほか、関節液、バイオプシーにより採取された関節軟骨片、滑膜組織、腱組織、靭帯組織、筋組織、泪液なども用いることができる。これらの生体試料の採取方法は公知である。
【0065】
上記の生体試料からライセートを調製すれば、本発明の可溶性ポリペプチドまたはChM1Lの免疫学的な測定のための試料とすることができる。生体試料のライセートの抽出には、市販のキットを利用すると便利である。また本発明の可溶性ポリペプチドまたはChM1Lが血中や関節液に分泌されていれば、被検者の血液や血清などの体液試料に含まれるそれらの量を測定することが可能である。上記試料は、必要に応じて緩衝液等で希釈して本発明の方法に使用することができる。
【0066】
更に本発明は、血管新性あるいは骨吸収に関連する疾患の診断方法のための試薬を提供する。すなわち本発明は、本発明の可溶性ポリペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、血管新生を伴う疾患及びChM1Lの活性が減弱あるいは亢進した疾患、例えば癌、関節リウマチ及び腱炎の診断用試薬に関する。
【0067】
本発明の試薬を構成する抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な標識を結合することができる。あるいは本発明の試薬を構成する抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な支持体に固定化しておくこともできる。また本発明の試薬は、前記抗体の他に、検査や保存に必要な付加的な要素と組み合わせて診断用キットとすることもできる。キットを構成することができる付加的な要素としては、試薬や生体試料を希釈するための緩衝液、陽性対照、陰性対照、標識を測定するための基質等があげられる。これらの要素は必要に応じて予め混合しておくこともできる。また、必要に応じて、保存剤や防腐剤を各要素に加えることができる。またキットは、反応容器、アッセイプロトコルを記載した指示書などを含めることもできる。
【0068】
本発明における疾患の診断とは、例えば以下のような診断が含まれる。血管新生を伴う疾患及びChM1Lの活性が減弱あるいは亢進した疾患、例えば癌、関節リウマチ及び腱炎などにおいて、一般的な検査では、判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えばそれらの疾患の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、腱炎が疑われる症状を示す患者において、ChM1Lタンパク質の発現の上昇もしくは低下は、その症状の原因が腱炎などである可能性が高いことを示している。
【0069】
あるいは、血管新生を伴う疾患及びChM1Lの活性が減弱あるいは亢進した疾患、例えば癌、関節リウマチ及び腱炎が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、それらの疾患に対する治療効果の判定に有用である。より具体的には、腱炎が疑われる症状を示す患者において、ChM1Lタンパク質の発現の上昇もしくは低下は、腱炎がさらに進行もしくは改善している可能性が高いことを示している。
【0070】
さらに、発現レベルの違いに基づいて、血管新生を伴う疾患、及びChM1Lの活性が減弱あるいは亢進した疾患、例えば癌、関節リウマチ及び腱炎などの重症度を判定することもできる。すなわち、ChM1Lタンパク質の発現の程度は、それらの疾患の重症度もしくは軽症度に相関する可能性がある。
【0071】
<医薬品>
血管新生を伴う疾患及びChM1Lの活性が減弱あるいは亢進した疾患、例えば癌、関節リウマチ及び腱炎(乾癬、血管腫、糖尿病性網膜症、角膜損傷若しくは角膜移植時の血管新生など)に対する治療薬は、本発明の可溶性ポリペプチドを有効成分として含み、生理学的に許容される担体、賦活剤、あるいは希釈剤等と混合することによって製造することができる。本発明の治療薬は、症状の改善を目的として、経口あるいは非経口的に投与することができる。
【0072】
経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、関節腔注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。
【0073】
また、眼科治療における投与剤形としては点眼剤、軟膏、有効成分を含有するコンタクトレンズなどが用いられる。さらに、血管内局所においてはステントや血管内栓塞剤に含有若しくは塗布する形でも使用できる。
【0074】
また、投与すべき治療薬の有効成分がタンパク質からなる場合には、それをコードする遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、治療効果を達成することができる。治療効果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子を生体に導入し、発現させることによって、疾患を治療する手法は公知である(金田著 日本薬理雑誌 2001年発行 117巻 p299〜306)。
【0075】
投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、1回につき0.1mgから500mgの範囲で、好ましくは0.5mgから20mgの範囲で投与することができる。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で十分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
【0076】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0077】
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、サンブロック、フリッチ、マニアティス著(Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.)モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル 第2版(Molecular Cloning:a laboratory Manual,2nd Edn.)(USA)Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989年)に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
【0078】
(実施例)
以下の実施例中、COS7細胞とはアフリカミドリザル腎臓由来の細胞でATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)より入手可能な細胞(No.CRL−1651)であり、293T細胞とはヒト胎児腎臓由来の細胞でGeneHunter Co.より入手可能な細胞(Cat.No.Q401)であり、MRC−5細胞とはヒト胎児正常繊維芽細胞由来の細胞で理研バイオリソースセンターより入手可能な細胞(No.RCD0211)であり、B16F10細胞はマウス黒色細胞腫由来の細胞でATCCより入手可能な細胞(No.CRL-6475)であり、Lewis Lung carcinomas(LLC)細胞はマウス肺癌由来細胞でATCCより入手可能な細胞(No.CRL-1642)である。また、実施例中、HUVECs細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞)及びHMVECs(ヒト皮膚微静脈内皮細胞)は、Clontics社より、またNHDFs細胞は三光純薬より、それぞれ入手可能である。
【実施例1】
【0079】
可溶性ポリペプチドタンパク質の検出
<方法> ヒトChM1L(アミノ酸1-317)のC末端にFLAGタグが融合したタンパク質をコードするcDNA(配列番号1)をPCR法により増幅し、pCAGGSベクター(Miwa等 ジーン(Gene)(Netherlands)1991年12月15日発行 108巻2号 p193-200)にクローニングした(pCAGGS-hChM1L-FLAG)。尚、本実施例で述べるFLAGタグ(Sigma社)とは、8アミノ酸からなる親水性のマーカーペプチド(Asp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lys)である。リポフェクトアミンプラス試薬(Life technologies社)を用いて、製品説明書に従い、pCAGGS及びpCAGGS-hChM1L-FLAGをCOS7細胞及び293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトしてから約48時間後に培養上清を回収し、抗FLAG M2アガロース(Sigma社)で免疫沈降を行った。免疫沈降後のサンプルを15%ゲルでSDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)を行い、ニトロセルロース膜にトランスファーした。一次抗体は抗ChM1Lポリクローナル抗体(非特許文献5)、二次抗体はホースラディッシュパーオキシダーゼ(horseradish peroxdase)で標識された抗ウサギIgG抗体(Dako社)を用い、ECLplus試薬(Amersham pharmacia biotech社)により製品説明書に従って発色反応を行った。
【0080】
<結果> 図1に可溶性ポリペプチドのウェスタンブロット法により検出した結果を示す(レーン1:pCAGGS(COS7細胞)、レーン2:pCAGGS-ChM1L-FLAG(COS7細胞)、レーン3:pCAGGS(293T細胞)、レーン4:pCAGGS-ChM1L-FLAG(293T細胞))。pCAGGS-ChM1L-FLAGをトランスフェクトした細胞では、培養液中に約15kDaの可溶性ポリペプチドが存在することが明らかになった。
【実施例2】
【0081】
可溶性ポリペプチドの精製及びN末端アミノ酸配列の解析
<方法> リポフェクトアミンプラス試薬(Life technologies社)を用いて、製品説明書に従い、pCAGGS-hChM1L-FLAGを293T細胞にトランスフェクトし、約48時間後に培養上清を回収した。抗FLAG M2アガロース(Sigma社)を用いて、アフィニティーカラムを作製し、培養上清をカラムにアプライした。25mM トリス塩酸緩衝液、 150mM NaCl(pH7.4)でカラムを洗浄後、0.1M グリシン-HCl(pH3.5)を用いて溶出し、1/20容量の1M Tris-HCl(pH9.5)を用いて溶出液を中和した。溶出液を用いて15%ゲルでSDS-PAGEを行い、Sequi-BlotTM PVDF膜(Bio-Rad社)にトランスファーした後、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した。約15kDaのバンドを切り出し、ピログルタメートアミノペプチダーゼ(pyroglutamate aminopeptidase、Takara社)で処理した後、エドマン分解法でN末端アミノ酸配列を解析した。
【0082】
<結果> 可溶性ポリペプチドの精製過程の各画分でSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果を(A)に示す(レーン1:培養上清、レーン2:カラム素通り画分、レーン3:洗浄画分、レーン4-11:溶出画分)。カラムからの溶出画分には、約15kDaのタンパク質が存在することが明らかとなった。15kDaのバンドを切り出して、エドマン分解法で解析したところ、アミノ酸配列を読み取ることができず、N末端がブロックされていると考えられた。ピログルタメートアミノペプチダーゼで処理した後、N末端アミノ酸配列を解析したところ、ASEEELPという配列であることが判明した。従って、可溶性ポリペプチドは、膜結合型ChM1L(317アミノ酸)の237番目から317番目までの81アミノ酸(配列番号4)で構成されることが判明し、N末端のアミノ酸である237番目のグルタミンはピログルタミン酸に変換されていることが明らかになった(B:ChM1LとChM-Iの切断点の比較を参照)。
【実施例3】
【0083】
MS-ChM1Lの大腸菌での発現と精製
<方法> ヒトChM1Lの237-317番目の部分アミノ酸配列に、N末端にメチオニンを有するHisタグおよびFLAGタグが融合したタンパク質をコードするcDNA(配列番号5)をPCR法により増幅し、pETベクター(Novagen社)にクローニングした(pET-shChM1L)。pET-shChM1Lを大腸菌Origami B (DE3) pLysS(Novagen社)に形質転換した。大腸菌をLB培地中で1晩培養し、その一部を約3時間再培養した後、最終濃度1mMになるようにイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside、IPTG)を添加して組換えタンパク質の発現を誘導後、さらに4時間培養した。培養液を5000×gで遠心して大腸菌をペレット化し、6 M グアニジン、 0.1 M NaH2PO4, 0.01 M トリス塩酸緩衝液 pH 8.0で可溶化後、遠心分離により不溶性画分を除去し、nickel nitrilotriacetic アガロース(Qiagen社)カラムにアプライした。カラムを8 M 尿素、 0.1 M NaH2PO4, 0.01 M トリス塩酸緩衝液 pH 8.0で洗浄し、イミダゾール濃度を徐々に上昇させたバッファーでさらに洗浄した後、200 mMイミダゾール入りのバッファーで組換えタンパク質を溶出した。溶出画分をPD-10カラム(Amersham pharmacia biotech社)にアプライし、25 mM HEPES, 0.15M NaCl, pH8.3にバッファー交換した。組換えタンパク質溶液中のエンドトキシンは、Triton X-114を用いてAidaらの方法(Aida等 ジャーナル・オブ・イミュノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods)(Netherlands) 1990年9月14日発行 132巻2号 p191〜195)を一部改変した以下に示す方法により除去した。組換えタンパク質溶液中に、最終濃度が1%になるようにTriton X-114を加えて、氷上で30分、37℃で10分インキュベートした後、2000×g、25℃で10分間遠心し上清を回収した。この上清に最終濃度が1%となるようにTriton X-114を加えて、上記の操作をもう一度繰り返した。PD-10カラムを1% デオキシコール酸ナトリウムで洗浄してカラム内のエンドトキシンを除去した後、ポジダインフィルター(Pole社)でエンドトキシンを除去した25 mM HEPES, 0.15 M NaCl, pH8.3に置換した後、組換えポリペプチド溶液をアプライして、残存しているTriton X-114を除去した。エンドトキシン濃度は、Limulus amebocyte lysate assay(Biowhittacker社)で測定した。タンパク質濃度は、牛血清アルブミン(BSA)をスタンダードに用いて、BCA protein assay reagent(Pierce社)で測定した。精製した組換えポリペプチドを15%ゲルでSDS-PAGEを行い、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した。
【0084】
<結果> 精製した組換えポリペプチドのSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果を図3に示す(レーン1:非還元化(− 2 メルカプトエタノール)、レーン2:還元化(+ 2 メルカプトエタノール))。精製した組換えポリペプチドのエンドトキシン濃度は5 EU/mL/mg protein未満であり、収量は15-30 mg/L培養であった。上記の方法により、細胞及び生体に投与可能な組換えポリペプチドを大量に取得することが可能になった。
【実施例4】
【0085】
血管内皮細胞の増殖阻害作用の解析
<方法> 細胞増殖の解析はDNA合成(細胞内へのBrdUの取り込み)を指標にして行った。細胞を96穴プレートに3,000個/wellの濃度で培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。各ウェルを洗浄後、様々な濃度のMS-ChM1Lの存在下、10 ng/mL FGF-2(繊維芽細胞増殖因子2)、10ng/mL VEGF(血管内皮増殖因子)、10ng/mL HGF(肝細胞増殖因子)、10% FBS(ウシ胎児血清)で24時間(図4B - 4E)もしくは48時間(図4A)、細胞を刺激した。BrdUは培養の最後の3時間、細胞に取り込ませた。
【0086】
<結果> MS-ChM1Lの各種細胞に対するDNA合成阻害活性を図4に示す。図4のAは、MS-ChM1LがHUVECsの各種刺激によるDNA合成を阻害すること、Bは、MS-ChM1LがHUVECsのFGF-2刺激によるDNA合成を濃度依存的に阻害すること、Cは、MS-ChM1LがHMVECsのDNA合成を阻害すること、Dは、MS-ChM1LがNHDFsのDNA合成を阻害しないこと、Eは、MS-ChM1LがMRC-5のDNA合成を阻害しないことを示す。各値は、平均値±標準偏差を示し、「**」及び「***」は、コントロール(ビークル)値に対する有意差(**はP < 0.01、***はP < 0.001 )を示す。
【0087】
100μg/mLのMS-ChM1Lはヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells:HUVECs、Clonetics社)におけるFGF-2、VEGF、HGF、FBS依存的なDNA合成をほぼ完全に抑制した(図4A)。また、MS-ChM1LによるFGF-2依存的なDNA合成の抑制は濃度依存的に観察された(図4B)。MS-ChM1LによるDNA合成の阻害は他の血管内皮細胞(human dermal micro vascular endothelial cells; HMVECs、Clonetics社)でも見られた(図4C)。しかしながら、ヒト線維芽細胞であるnormal human dermal fibroblasts(NHDFs、三光純薬)、MRC-5 cells(normal lung fibroblasts)では、100μg/mL のMS-ChM1LによるDNA合成の阻害は観察されなかった(図4D及び4E)。これらのことから、MS-ChM1Lは血管内皮細胞特異的にDNA合成を阻害すると考えられた。
【実施例5】
【0088】
血管内皮細胞の管腔形成阻害作用の解析
<方法> 24穴プレートに、Growth factor reduced Matrigel(Becton Dickinson社)を320uL/ウェルで加えて、37℃で30分間インキュベートした。EGM-2培地(Clonetics社)をEBM-2培地(Clonetics社)で1/8に希釈した培地を用いて、50,000 個/mLのHUVECsを含む細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液1mL(50,000個)に100, 25, 12.5 μg/mLの組換えMS-ChM1Lあるいはバッファー(25 mM HEPES, 0.15 M NaCl, pH8.3)を加えて、Growth factor reduced Matrigelでコートした24穴プレートにシーディングし、6時間後に管腔形成を観察して写真を撮影した。
【0089】
<結果> MS-ChM1LがHUVECsの管腔形成を阻害することを図5に示す。Aは、25 mM HEPES, 0.15 M NaCl, pH8.3を、BはMS-ChM1L 100μg/mLを、CはMS-ChM1L 25μg/mLを、DはMS-ChM1L 12.5μg/mLの場合を、スケールバーは 100μmを示す。MS-ChM1Lは、HUVECsの管腔形成を濃度依存的に阻害することが明らかになった。
【実施例6】
【0090】
血管内皮細胞の遊走阻害作用の解析
<方法> 血管内皮細胞の遊走実験は1μg/mLのvitronectin (Sigma社) でフィルターの上層および下層をコートしたポアサイズ8mmのtranswell (Coster社)を用いて行った。すなわち、24穴プレートの各ウェルに0.1%の血清を含む培地、10ng/mLのVEGFを含む培地、もしくは10ng/mLのFGF-2を含む培地を600μLずつ加えた。プレートの各ウェルにフィルターを装着後、24時間血清非存在下で培養したヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells:HUVECs、Clonetics社)を様々な濃度のMS-ChM1Lが存在する培地に懸濁し、50,000個/wellとなるようにフィルターの上層に添加した。37℃、CO2存在下で細胞を4時間インキュベートした後、フィルターを取り外し、メタノールで細胞を固定した。Diff-Quick染色液(Dade Behring社)でフィルターを染色後、綿棒でフィルターの上層の細胞を除去した。フィルターをカッターで切り取り、スライドグラスに封入後、顕微鏡下で遊走細胞数を数えた。遊走細胞数は、1視野あたりの細胞数として求めた。
【0091】
<結果> MS-ChM1LがHUVECsの遊走を阻害することを図6に示す。Aは、MS-ChM1LがHUVECsのVEGFに対する遊走を阻害すること、BはMS-ChM1LがHUVECsのFGF-2に対する遊走を濃度依存的に阻害することを示す。各値は平均値±標準偏差を示し、コントロール(ビークル)値に対する有意差を示す(*はP < 0.05、**はP < 0.01)。遊走実験の結果、MS-ChM1LによりVEGF、FGF-2に対する遊走の阻害が観察された(図6A及び6B)。この遊走阻害は、100μg/mL MS-ChM1Lで最も強く、濃度依存性が見られた。すなわち、MS-ChM1Lは血管内皮細胞の遊走を阻害することが明らかとなった。
【実施例7】
【0092】
血管内皮細胞の接着阻害作用の解析
<方法> 96穴プレートを1μg/mLのfibronectin(Sigma社)、1μg/mLのvitronectin(Sigma社)、1μg/mLのtype I collagen(Sigma社)でコートした。各ウェルを洗浄後、1% BSAを含むPBSでブロッキングを行った。HUVECsを1,000,000個/mLの濃度で血清を含まない培地に懸濁し、calcein AM(Molecular Probes社)で蛍光ラベルした。細胞を洗浄後、100,000個/wellとなるように各ウェルに添加し、100μg/mL の濃度になるようにMS-ChM1Lを添加した。37℃、CO2存在下で細胞を1時間インキュベートした後、各ウェルを洗浄し、蛍光プレートリーダーで蛍光強度を測定した。
【0093】
<結果> 図7にMS-ChM1LがHUVECsのvitronectinに対する接着を阻害することを示す。各値は平均値±標準偏差を、**はコントロール(ビークル)値に対する有意差を示す(**はP < 0.01)。MS-ChM1LによりHUVECsのvitronectinに対する接着阻害が観察された。一方、fibronectin、type I collagenに対する接着には影響は見られなかった。すなわち、MS-ChM1Lはvitronectinに対する細胞の接着を阻害することが明らかとなった。また、本実験は、組換えMS-ChM1Lタンパク質の活性を簡便に調べることができる方法であることが明らかとなった。さらに、vitronectinは、IntegrinαvβIIIと結合することが知られていることから、MS-ChM1LはvitronectinとIntegrinαvβIIIの相互作用を抑制することが明らかになった。また、MS-ChM1LがIntegrinαvβIIIと結合して、その活性を制御することにより血管新生阻害作用を発現しているというメカニズムが推察された。
【実施例8】
【0094】
血管内皮細胞の細胞周期に関する解析
<方法> 細胞周期の解析は、フローサイトメーター(flow cytometer)により細胞のDNA量をモニターすることによって行った。細胞はM期→G1期→S期→G2期→(M期)と規則的に移行していくため、DNA量を調べることによって細胞周期のどの段階にいるのか同定できる。HUVECsを10 cm ディッシュに1,000,000 個/ウェルの濃度で培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。洗浄後、100 μg/mLのMS-ChM1Lの存在下、EGM-2培地で24時間、細胞を刺激した。Triton-X100、RNaseで細胞を処理した後、PI(propidium iodide)で染色を行い、フローサイトメーターにより解析を行った。
【0095】
<結果> EGM-2培地のみで刺激した場合(図8A)と比べて、EGM-2培地およびMS-ChM1Lで刺激した条件では、G1期の細胞数が増加し、S期およびG2/M期の細胞数が減少していた(図8B)。この結果は、G1期の細胞がS期に移行していないことを示している。したがって、HUVECsはMS-ChM1Lの作用により細胞周期のG1期で停止することが示唆された(G1 arrest)。
【実施例9】
【0096】
血管内皮細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)の産生に関する解析
<方法> HUVECsを24穴プレートに培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。洗浄後、100μg/mLのMS-ChM1Lの存在下、未刺激、もしくは10 ng/mL TNF-αで24時間、細胞を刺激した。全 RNAはRNeasy Mini Kit(Qiagen社)およびDNase Iを用いて抽出し、Omniscript RT Kit(Qiagen社)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。リアルタイムPCRは、センスプライマー、アンチセンスプライマーをそれぞれ0.1μM、5μLの2×SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems社)、2μLのcDNAを含む総量10μLの反応液より行った。反応条件としては、1)変性(95℃で15秒間)、2)アニーリングおよび伸長反応(60℃で1分間)のサイクルを行った。各標的遺伝子の発現量の定量化は、GeneAmp 5700 Sequence Detection Systemソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社)を用いて行った。
【0097】
増幅されたPCR産物量の定量は、増幅されたPCR産物(二本鎖DNA)に結合したSYBR Greenの蛍光シグナル強度をPCRサイクル毎に経時的に測定し、サイクル数に対するPCR産物の増幅曲線を作成後、この増幅曲線と任意の閾値(通常、増幅曲線の指数増幅領域の中点付近を選択する)の交わるスレッショールドサイクル(Threshold cycle、Ct)値を算出することにより行った。内部標準である18Sに対する標的 mRNA の相対的な発現量は、計算式2-(targetのCt-18SのCt)より算出した。
【0098】
<結果> MMP-2、MT1-MMP mRNAの発現について解析した。図9にMS-ChM1LのHUVECsにおけるマトリックスメタロプロテアーゼのmRNAの発現に対する影響を示す。AはMS-ChM1LがMMP-2 mRNAの発現を抑制することを、BはMS-ChM1LがMT1-MMP mRNAの発現を抑制することを示す。尚、各値は平均値±標準偏差を、*および**はコントロール(ビークル)値に対する有意差(*は、P < 0.05、**はP < 0.01)を示す。
【0099】
MMP-2、MT1-MMPは、血管内皮細胞をTNF-αで刺激した場合に発現が上昇することが知られている(J. Cell Sci., 2001, Jan.;114(Pt1):131-139, Blood., 2003, March 1;101(5):1810-7,Biochem. J., 1993, Dec. 15;296 (Pt 3):803-9)。本実験条件下では、TNF-αによる発現上昇は認められなかったものの、MS-ChM1LはTNF-αの有無に拘わらずMMP-2とMT1-MMPのmRNAの発現を抑制した。
【0100】
(図9A及びB)。MMP-2とMMP-9は基底膜破壊に深く関わるMMPであり、基底膜の主要成分であるIV型コラーゲンを強く分解する。また、MT1-MMPは細胞膜上で前駆体MMP-2を活性化型のMMPに変換するだけでなく、自ら細胞外マトリックスを分解する。したがって、今回のMS-ChM1Lの作用によりMMP-2、MT1-MMP mRNAの発現が抑制された結果は、血管新生の際の基底膜破壊をMS-ChM1Lが抑制する可能性を示唆している。
【実施例10】
【0101】
FGF-2誘発スポンジ血管新生モデルにおけるインビボ(in vivo)血管新生阻害作用の解析
<方法> MS-ChM1Lのインビボでの血管新生抑制作用を、FGF-2誘発スポンジ血管新生モデル(Br J Pharmacol. 2000, 399, 2-3, 233-237)を用いて検討した。雄性SDラット(7週令)にサーキュラースポンジディスク(Circular sponge disk、厚さ 5 mm ×直径15 mm)を背部側皮下に移植し、翌日から1日1回3日間、ヒト組換えFGF-2(500ng/50μL/site)をスポンジ内に投与して血管新生を誘導した。MS-ChM1L(5μg/50μL/site)は1日1回3日間スポンジ内に投与した。4日目のスポンジ及び周辺組織を摘出し、肉眼観察及び組織学的な検討を実施した。
【0102】
<結果> FGF-2投与によりスポンジ周囲に肉芽組織の形成および肉芽組織中への血管新生が観察され、MS-ChM1Lは本モデルおける肉芽組織の形成および血管新生を顕著に抑制した(図10)。本モデルでは移植初期に活発な炎症が観察され、スポンジ周囲での肉芽組織の増殖および血管新生が観察される。したがって、MS-ChM1Lは増殖性炎症および肉芽組織の増殖、血管新生を抑制することが示唆された。
【実施例11】
【0103】
破骨細胞形成抑制作用の解析(M-CSF依存的な骨髄マクロファージを用いた検討)
<方法> M-CSF(Macrophage colony stimulating factor)依存性の骨髄マクロファージを用いた破骨細胞の形成は、東らの方法(東等 ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biologocal Chemistry)(USA) 2000年2月18日発行 275巻7号 p4858〜4864 )を一部改変して実施した。7-8週令の雄ddYマウス(日本エスエルシー社)の大腿骨及び脛骨より骨髄細胞を取り出し、赤血球をバーストした後、α-MEM, 10% FBS, 100 ng/mL ヒトM-CSF(Pepro-Tech EC Ltd社)を含む培地で培養し、2回継代培養を行い、M-CSF依存的に増殖する骨髄由来のマクロファージを得た。この細胞を48ウェルプレートに10,000個/ウェルで撒きこみ、約6時間後(生着確認後)に、100 ng/mL ヒトM-CSF、50 ng/mL ヒトsRANKL(可溶性RANK ligand, Pepro-Tech EC Ltd社)及びMS-ChM1LあるいはChM-Iを添加した。5日後に酒石酸抵抗性フォスファターゼ(TRAP)染色を行った。
【0104】
<結果> MS-ChM1L及びChM-Iは、成熟破骨細胞のマーカーとして知られているTRAP(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review)を発現する破骨細胞の形成を顕著に抑制した(図11)。
【実施例12】
【0105】
破骨細胞形成抑制作用の解析(骨髄細胞培養系を用いた検討)
<方法> 9-10週令の雄ddYマウス(日本エスエルシー社)の大腿骨及び脛骨より骨髄細胞を取り出し、赤血球をバーストした後、α-MEM, 10% FBSを含む培地に懸濁し、48ウェルプレートに500,000個/ウェルで撒きこみ、24時間後に、破骨細胞の形成を誘導することが知られている1,25(OH)2D3(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review)及びMS-ChM1LあるいはChM-Iを添加した。8日後にTRAP染色を行った。
【0106】
<結果> 図12にMS-ChM1L及びChM-Iが、骨髄細胞からの破骨細胞形成を抑制することを示す。Aは1,25(OH)2D3(10-8 M) + ビークル、Bは1,25(OH)2D3(10-8 M) + MS-ChM1L 10 μg/mL、Cは1,25(OH)2D3 (10-8M) + MS-ChM1L 100 μg/mL、Dは1,25(OH)2D3(10-8 M) + ChM-I 10 μg/mL、Eは1,25(OH)2D3 (10-8M) + ChM-I 25 μg/mLを示す。結果、MS-ChM1L及びChM-Iは、TRAP陽性の破骨細胞の形成を顕著に抑制した(図12)。
【実施例13】
【0107】
破骨細胞形成抑制作用のメカニズム解析
<方法> 実施例11と同様の方法で調製したM-CSF依存性の骨髄マクロファージ細胞を96ウェルプレートに10,000個/ウェルで撒きこみ、約6時間後(生着確認後)に、100 ng/mL ヒトM-CSF、50 ng/mL ヒトsRANKL(可溶性RANK ligand, Pepro-Tech EC Ltd社)及びMS-ChM1Lを添加した。MS-ChM1Lは、Day0-5、Day0-3、Day3-5の3通りの期間で処理した。5日後に酒石酸抵抗性フォスファターゼ(TRAP)染色により破骨細胞を同定し、形成数を検討した。MS-ChM1L処理前、処理後1、3、5日に培地を取り除き、Rneasy Mini Kit(QIAGEN社)、Rnase-Free DNase Set (QIAGEN社)を用いて全 RNAを抽出した。つづいて、Omniscript RT Kit (QIAGEN社)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。リアルタイムPCRは、SYBR-TM Green PCR Master Mix(Applied Biosystems社)及び以下に示すプライマーを用いてABI PRISM-TM 7000(Applied Biosystems社)で実施した。PrimerRodent GAPDH primerはApplied Biosystems社より購入した。
【0108】
なお、測定した各遺伝子は、以下に示す通り、破骨細胞の分化、成熟に密接なかかわりがあることが知られている。
【0109】
カルシトニンリセプター(CTR)は、多核の成熟した破骨細胞のマーカーとして知られている(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review)。M-CSFは破骨細胞前駆細胞の生存に必須のサイトカインであり、その受容体がc-fmsである(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review)。RANKLは破骨細胞形成と活性化に必須のサイトカインであり、その受容体がRANKである(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review)。NFATc1は破骨細胞形成に必須の転写因子であり、NFATc1の機能を阻害すると破骨細胞が形成されないことが知られている(Nature, 2003, May 15;423(6937):337-42, Review, Dev. Cell, 2002, Dec. 3(6):889-901)
CTR
F5'-GTGCTCCTCGGGCTGTAGC
R5'-GAGGATTCCGTGGTTCCTGAT

TRAP
F5'-GATCCCTCTGTGCGACATCA
R5'-CCAGGGAGTCCTCAGATCCA

c-fms
F5'-TGGCATCTGGCTTAAGGTGAA
R5'-GAATCCGCACCAGCTTGCTA

RANK
F5'-ATGAGTACACGGACCGGCC
R5'-GCTGGATTAGGAGCAGTGAACC

NFATc1
F5'-AGGCTGGTCTTCCGAGTTCA
R5'-ACCGCTGGGAACACTCGAT
【0110】
<結果> M-CSF依存性骨髄細胞を用いてM-CSF、RANKLを作用させた破骨細胞形成系において、MS-ChM1Lを10、25、50 μg/mLで添加し5日間培養したところ25、50 μg/mLの用量で破骨細胞形成が著明に抑制された(図13)。また、培養の初期(0〜3日目)にMS-ChM1Lを作用させると、その後MS-ChM1Lを除いて培養しても破骨細胞が形成されないのに対し、培養後期(3〜5日目)にMS-ChM1Lを添加した場合は破骨細胞が形成された。これらの結果から、MS-ChM1Lは破骨細胞分化の初期段階に作用するとその後の分化を抑制し、分化がある程度まで進んだ細胞に対しては破骨細胞形成を抑制しないことが明らかとなった。MS-ChM1Lを処理した場合には、破骨細胞マーカーとして知られているカルシトニンリセプター(CTR)、酒石酸抵抗性ホスファターゼ(TRAP)の発現が抑制されていた。また、破骨細胞の形成に必須の因子であるNFATc1及びRANKの発現も顕著に抑制されていた。一方、破骨細胞前記細胞の生存に必須の因子であるM-CSFの受容体c-fmsの発現には顕著な差異は認められなかった(図14)。
【0111】
これらのことから、MS-ChM1Lは、破骨細胞の生存シグナルを抑制することなく、破骨細胞の形成を抑制することが明らかになった。
【実施例14】
【0112】
MS-ChM1L投与によるB16F10メラノーマの増殖抑制作用の解析
<方法> C57BL6/Jマウス(オス、6週齢)の背部皮下にB16F10細胞を500,000個/匹で移植して、3日後に腫瘍サイズを測定し群分けを行った。群分けを行った後、1日1回、MS-ChM1L(3mg/mL)またはビークル(25mM HEPES, 0.15M NaCl, pH8.3)を50μL/siteで癌細胞周辺の皮下に投与した。癌細胞の大きさを毎日キャリパー(caliper)で測定した(Length×width2×0.52)。インビトロ(in vitro)でのB16F10細胞の増殖解析はDNA合成(細胞内へのBrdUの取り込み)を指標にして行った。細胞を96穴プレートに3,000個/wellの濃度で培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。各ウェルを洗浄後、様々な濃度のMS-ChM1Lの存在下、10% FBSで24時間細胞を刺激した。BrdUは培養の最後の3時間、細胞に取り込ませた。
【0113】
<結果> MS-ChM1LはインビボでB16F10細胞の増殖を抑制した(図15A、C)。一方、インビトロではB16F10細胞の増殖を抑制しなかった(図15B)。これらのことから、MS-ChM1Lは血管新生阻害作用により、インビボにおけるB16F10細胞の増殖を抑制したと考えられた。
【実施例15】
【0114】
MS-ChM1L投与によるB16F10メラノーマの肺転移抑制作用の解析
<方法> C57BL6/Jマウス(オス、6週齢)にB16F10細胞を50,000個/匹で静脈内投与し、1日1回、MS-ChM1L(3mg/mL)またはビークル(25mM HEPES, 0.15M NaCl, pH8.3)を50μL/site(150μg/site)で背部皮下に投与した。移植後、21日目に肺を取り出し、顕微鏡下で転移した細胞のコロニー数を数えた。
【0115】
<結果> MS-ChM1LはB16F10細胞の肺転移を抑制した(図16)。尚、各値は平均値±標準偏差を、***はコントロール(ビークル)値に対する有意差を示す(P < 0.001)。
【実施例16】
【0116】
血管内皮細胞のアポトーシス誘導作用の解析
<方法> アポトーシスの初期において細胞膜構造が変化し, 正常細胞では脂質二重膜の内側に局在するホスファチジルセリンが細胞膜の外側に露出することが知られている。したがって、アポトーシス誘導作用の解析はホスファチジルセリンに アネクチンV(Annexin V)が結合することを利用した手法を用いて行った。具体的には、human dermal micro vascular endothelial cells(HMVECs)を6穴プレートに100,000個/wellの濃度で培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。各ウェルを洗浄後、様々な濃度のMS-ChM1Lの存在下、10 ng/mL FGF-2で細胞を刺激した。48時間後、細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、Annexin V-FITC Apoptosis Detection Kit (BioVision社)で染色後、フローサイトメーターにより解析した。
【0117】
<結果> MS-ChM1LはHMVECsにおけるアポトーシスを濃度依存的に誘導した。これらのことから、MS-ChM1Lは血管内皮細胞にアポトーシスを誘導する作用を持つと考えられた(図17)。尚、各値は平均値±標準偏差を、***はコントロール(ビークル)値に対する有意差を示す(P < 0.001)。
【実施例17】
【0118】
生体組織における可溶性MS-ChM1Lタンパク質の検出
<方法> DBA1/Jマウス(オス、13週齢)からアキレス腱、眼球、腎臓、肝臓を取り出し、液体窒素で凍結した後、乳棒及び乳鉢で粉砕した。粉砕した組織を4M グアニジン、 50mM 酢酸ナトリウムpH5.8及びホモジナイザーで可溶化、超音波処理した後、15,000rpm、10分間遠心分離を行った。遠心後の上清に9倍量の100%エタノールを加え、-80℃で5分間放置した後、15,000rpmで10分間遠心分離を行った。上清を捨て、沈渣を50mM 酢酸ナトリウム pH5.8で懸濁した後、9倍量の100%エタノールを加えてさらに15,000rpmで10分間遠心分離を行った。沈渣を8M 尿素、 20mM トリス pH8.0で可溶化した。タンパク質濃度は、牛血清アルブミンンをスタンダードに用いて、BCA protein assay reagent(Pierce社)で測定した。。サンプルを35μg/laneで10-20%ゲルを用いてSDS-PAGEを行い、ニトロセルロース膜にトランスファーした。一次抗体は抗ChM1Lポリクローナル抗体(非特許文献6)、二次抗体はホースラディッシュパーオキシダーゼで標識された抗ウサギIgG抗体(Dako社)を用い、ECLplus試薬(Amersham pharmacia biotech社)により製品説明書に従って発色反応を行った。
【0119】
<結果> 腱及び眼球には約40kDaの膜結合型ChM1Lタンパク質が、さらに腱では約14kDaの可溶性MS-ChM1Lタンパク質が存在することが明らかになった(図18)。以上の結果により、可溶性のMS-ChM1Lタンパク質が生理的に存在することが初めて明らかになった。
【実施例18】
【0120】
ChM1L mRNA発現の組織特異性解析
<方法> ChM1L mRNA発現の組織特異性については、マウスの各組織からtotal RNAを抽出後、real-time PCRを行うことによって解析した。すなわち、以下に示す操作により実施した。total RNAはC57/BL6マウスの各組織からISOGEN(ニッポンジーン製)を用いて抽出後、RNeasy Mini Kit(キアゲン製)およびRNase-Free DNase Set(キアゲン製)によりクリーンアップした。cDNAの合成は、Omniscript RT Kit(キアゲン製)、RNaseOUT Recombinant Ribonuclease Inhibitor(インビトロジェン製)、およびRandom Primer(タカラバイオ製)を用いた逆転写反応により行った。Real-time PCRは、mouse ChM1L遺伝子に対するセンスプライマー、アンチセンスプライマー、SYBR Green PCR Master Mix、cDNAを含む反応液を用いて行った。プライマーは、mouse ChM1L mRNAの測定用として(センスプライマー)5’- AAACACTTCTGGCCCGAGGTAT-3’、(アンチセンスプライマー)5’- AGTGTGCTCCATGTCATAGGTTTTC -3’を用いた。また、mouse GAPDH mRNAの測定用のセンスプライマー、アンチセンスプライマーはアプライド バイオシステムズ株式会社から購入したものを用いた。PCR反応は、1)変性(95℃で15秒間)、2)アニーリングおよび伸長反応(60℃で1分間)の条件で40サイクルまで行った。各標的遺伝子の発現量の定量化は、GeneAmp 5700 Sequence Detection Systemソフトウェア(アプライド バイオシステムズ株式会社)を用いて行った。すなわち、増幅されたPCR産物に結合したSYBR Greenの蛍光シグナル強度をPCRサイクル毎に経時的に測定し、サイクル数に対するPCR産物の増幅曲線を作成後、この増幅曲線と任意の閾値(増幅曲線の指数増幅領域の中点付近を選択)の交わるThreshold cycle(Ct)値を算出することにより行った。内部標準であるGAPDHに対するChM1L mRNAの相対的な発現量は、以下に示す計算式によりそれぞれ算出した。
【0121】
ChM1L mRNAの相対的な発現量 = 2(GAPDHのCt?ChM1LのCt)
<結果> ChM1L mRNAの発現はアキレス腱において最も高かった(図19)。目、脳、肺、胸腺、横隔膜、胃、膵臓、筋肉、皮膚、肋骨においてもChM1L mRNAの発現が見られたが、アキレス腱と比べるとはるかに低かった。また、脾臓、心臓、肝臓、腎臓、小腸、脂肪組織においてChM1L mRNAの発現は検出されなかった。これらのことから、ChM1Lは腱特異的に発現していることが示唆された。
【実施例19】
【0122】
マウス腱細胞の単離およびChM1L mRNA発現の細胞特異性解析
<方法> マウスの腱細胞は以下に示す操作により単離した。すなわち、マウスのアキレス腱を皮膚、筋肉、脂肪が混入しないように摘出し、2 mg/mLのコラゲナーゼを含むDMEM/10% FBS中で3時間消化した(37℃、5% CO2)。遠心後、得られた細胞ペレットをDMEM/10% FBSに懸濁し、10 cmシャーレ内で培養した(37℃、5% CO2)。7日後、培養細胞の十分な増殖が観察されたため、継代培養を行い、これをマウス腱細胞とした。
【0123】
ChM1L mRNA発現の細胞特異性については、マウス腱細胞およびマウス由来の細胞株からtotal RNAを抽出後、real-time PCRを行うことによって解析した。すなわち、以下に示す操作により実施した。total RNAはRNeasy Mini Kit(キアゲン製)およびRNase-Free DNase Set(キアゲン製)により抽出した。cDNAの合成は、Omniscript RT Kit(キアゲン製)、RNaseOUT Recombinant Ribonuclease Inhibitor(インビトロジェン製)、およびRandom Primer(タカラバイオ製)を用いた逆転写反応により行った。Real-time PCRは、mouse ChM1L遺伝子に対するセンスプライマー、アンチセンスプライマー、SYBR Green PCR Master Mix、cDNAを含む反応液を用いて行った。プライマーは、mouse ChM1L mRNAの測定用として(センスプライマー)5’- AAACACTTCTGGCCCGAGGTAT-3’、(アンチセンスプライマー)5’- AGTGTGCTCCATGTCATAGGTTTTC -3’を用いた。また、mouse GAPDH mRNAの測定用のセンスプライマー、アンチセンスプライマーはアプライド バイオシステムズ株式会社から購入したものを用いた。PCR反応は、1)変性(95℃で15秒間)、2)アニーリングおよび伸長反応(60℃で1分間)の条件で40サイクルまで行った。各標的遺伝子の発現量の定量化は、GeneAmp 5700 Sequence Detection Systemソフトウェアを用いて行った。すなわち、増幅されたPCR産物に結合したSYBR Greenの蛍光シグナル強度をPCRサイクル毎に経時的に測定し、サイクル数に対するPCR産物の増幅曲線を作成後、この増幅曲線と任意の閾値(増幅曲線の指数増幅領域の中点付近を選択)の交わるThreshold cycle(Ct)値を算出することにより行った。内部標準であるGAPDHに対するChM1L mRNAの相対的な発現量は、以下に示す計算式によりそれぞれ算出した。
【0124】
ChM1L mRNAの相対的な発現量 = 2(GAPDHのCt?ChM1LのCt)
<結果> マウス腱細胞におけるChM1L mRNAの発現は、他の間葉系由来の細胞株と比べてはるかに高かった(図20)。これらのことから、ChM1Lは腱細胞特異的に発現していることが示唆された。
【実施例20】
【0125】
腫瘍血管新生に対するMS-ChM1Lの作用検討
<方法>腫瘍血管新生に対する可溶性MS-ChM1Lの作用については、実施例14で記したB16-F10細胞を移植したマウスから癌組織を摘出後、免疫染色により血管内皮細胞を検出することによって解析した。すなわち、以下に示す操作により実施した。vehicleおよび可溶性MS-ChM1Lを投与したマウスから癌組織を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。これらを定法によりパラフィン包埋後、切片を作成した。血管内皮細胞を検出するために、1次抗体としてrabbit anti-von Willebrand factor (vWF) Ab (CHEMICON製)、 rat anti-mouse CD34 mAb (Hycult Biotechnology製)を用いた。切片をキシレン・アルコール系列で脱パラフィン後、1次抗体、ビオチン標識2次抗体、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを添加した。最後に、3-Amino-9-ethylcarbazole (AEC) (Nichirei製)を加え、ヘマトキシリンで対比染色を行い、典型像について写真撮影を行った。
【0126】
また、vWF Abを用いて染色した切片を顕微鏡下で観察することによって、癌組織中の血管数の定量を行った。すなわち、切片を低倍率で観察し血管数の最も多いエリアを3つ選択後、そのエリアの血管数を高倍率でカウントした。データはカウントした3つのエリアの平均値を算出し、blood vessels/hpf(high power field)として示した。
【0127】
<結果> MS-ChM1L 投与群では、vWF及びCD34陽性の腫瘍内の血管内皮細胞が減少していた。(図21A、B)。これらのことから、MS-ChM1Lは血管新生阻害作用により、in vivoにおける癌細胞の増殖を抑制したと考えられた。
【実施例21】
【0128】
MS-ChM1L投与によるLewis lung carcinomas(LLC)の増殖抑制作用の解析
<方法> C57BL6/Jマウス(オス、6週齢)の背部皮下にLLC細胞(ATCC No. CRL-1642)を500,000個/匹で移植して、3日後に腫瘍サイズを測定し群分けを行った。群分けを行った後、1日1回、recombinant human MS-ChM1L(3mg/mL)またはvehicle(25mM HEPES, 0.15M NaCl, pH8.3)を50μL/siteで癌細胞周辺の皮下に投与した。癌細胞の大きさを毎日caliperで測定した(Length×width2×0.52)。in vitroでのLLC細胞の増殖解析はDNA合成(細胞内へのBrdUの取り込み)を指標にして行った。細胞を96穴プレートに3,000個/wellの濃度で培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。各ウェルを洗浄後、様々な濃度のMS-ChM1Lの存在下、10% FBSで24時間細胞を刺激した。BrdUは培養の最後の3時間、細胞に取り込ませた。
【0129】
<結果> MS-ChM1Lはin vivoでLLC細胞の増殖を抑制した(図22A)。一方、in vitroではLLC細胞の増殖を抑制しなかった(図22B)。これらのことから、MS-ChM1Lは血管新生阻害作用により、in vivoにおけるLLC細胞の増殖を抑制したと考えられた。
【実施例22】
【0130】
カスパーゼを介した血管内皮細胞のアポトーシス誘導作用の解析
<方法> カスパーゼはシステイン残基を活性中心に持つシステインプロテアーゼで、アポトーシスではキーとなるメディエーターであることが知られている。カスパーゼを介したアポトーシス誘導作用の解析はCaspACE FITC-VAD-FMK In Situ Marker(Promega製)を用いて実施した。CaspACE FITC-VAD-FMK In Situ Markerは細胞透過性のFITC標識カスパーゼ阻害剤VAD-FMK(FITC-VAD-FMK)で、細胞の内外を自由に移動でき、活性化カスパーゼに不可逆的に結合することにとり、アポトーシス細胞にのみ留まることが知られている。したがって、カスパーゼを介してアポトーシスを起こしている細胞は、フローサイトメーターによる解析でFITCの蛍光強度が強く観察される。6穴プレートにHUVECsを155,000個/wellの濃度で、MRC-5 cells(理化学研究所バイオリソースセンター No. RCD02111)を100,000個/wellの濃度でそれぞれ培養し、その後、血清非存在下で24時間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。各ウェルを洗浄後、25?g/mLのMS-ChM1Lの存在下、10 ng/mL FGF-2で細胞を刺激した。48時間後、10?MとなるようにFITC-VAD-FMKを添加し、30分間インキュベートした(37℃、CO2存在下)。細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、フローサイトメーターにより解析した。
【0131】
<結果> MS-ChM1LはHUVECsにおけるカスパーゼを介したアポトーシスを誘導した。一方、MRC-5 cellsではカスパーゼを介したアポトーシスが観察されなかった(図23)。これらのことから、MS-ChM1Lは血管内皮細胞特異的にカスパーゼを介したアポトーシスを誘導する作用を持つと考えられた。
【実施例23】
【0132】
ChM-Iタンパク質の大腸菌での発現と精製
<方法> ヒトChM-IのN末端にメチオニン、6残基のヒスチジン(Hisタグ)およびFLAGタグが融合したタンパク質をコードするcDNA(配列番号7)をPCR法により増幅し、pETベクター(Novagen社)にクローニングした(pET-shChM-I)。pET-shChM-Iを大腸菌OrigamiB (DE3) pLysS(Novagen社)に形質転換した。大腸菌をLB培地中で1晩培養し、その一部を約3時間再培養した後、最終濃度1mMになるようにIPTGを添加して組換えタンパク質の発現を誘導後、さらに4時間培養した。培養液を5000×gで遠心して大腸菌をペレット化し、6 M グアニジン、0.1 M NaH2PO4, 0.01 M トリス塩酸緩衝液 pH 8.0で可溶化後、遠心分離により不溶性画分を除去し、nickel nitrilotriacetic アガロース(Qiagen社)カラムにアプライした。カラムを8 M 尿素、 0.1 M NaH2PO4, 0.01 M トリス塩酸緩衝液 pH 8.0で洗浄し、イミダゾール濃度を徐々に上昇させたバッファーでさらに洗浄した後、200 mMイミダゾール入りのバッファーで組換えタンパク質を溶出した。溶出画分をPD-10カラム(Amersham pharmacia biotech社)にアプライし、25 mM HEPES, 0.15 MNaCl, pH8.3にバッファー交換した。組換えタンパク質溶液中のエンドトキシンは、Triton X-114を用いてAidaらの方法(Aida等 ジャーナル・オブ・イミュノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods)(Netherlands) 1990年9月14日発行 132巻2号 p191〜195 )を一部改変した以下に示す方法により除去した。組換えタンパク質溶液中に、最終濃度が1%になるようにTriton X-114を加えて、氷上で30分、37℃で10分インキュベートした後、2000×g、25℃で10分間遠心し上清を回収した。この上清に最終濃度が1%となるようにTriton X-114を加えて、上記の操作をもう一度繰り返した。PD-10カラムを1% デオキシコール酸ナトリウムで洗浄してカラム内のエンドトキシンを除去した後、ポジダインフィルター(Pole社)でエンドトキシンを除去した25 mM HEPES, 0.15 M NaCl, pH8.3に置換した後、組換えChM-Iタンパク質溶液をアプライして残存しているTriton X-114を除去した。エンドトキシン濃度は、Limulus amebocyte lysate assay(Biowhittacker社)で測定した。タンパク質濃度は、牛血清アルブミンをスタンダードに用いて、BCA protein assay reagent(Pierce社)で測定した。精製した組換えChM-Iタンパク質を15%ゲルでSDS-PAGEを行い、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した。
【0133】
<結果> 精製した組換えChM-Iタンパク質のSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果を図24に示す(レーン1:非還元化(− 2 メルカプトエタノール)、レーン2:還元化(+ 2 メルカプトエタノール))。精製した組換えChM-Iタンパク質のエンドトキシン濃度は5 EU/mL/mg protein未満であり、収量は10-20 mg/L培養であった。上記のMS-ChM1Lと同じ方法により、組換えChM-Iタンパク質を大量に取得することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】可溶性ポリペプチドをウェスタンブロット法により検出した結果を示す。
【図2】可溶性ポリペプチドの精製過程の各画分でSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果(A)、ChM1LとChM-Iの切断点の比較(B)を示す。
【図3】精製した組換えMS-ChM1Lタンパク質のSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果を示す。
【図4】MS-ChM1Lの各種細胞に対するDNA合成阻害活性を示す。
【図5】MS-ChM1LがHUVECsの管腔形成を阻害することを示す。
【図6】MS-ChM1LがHUVECsの遊走を阻害することを示す。
【図7】MS-ChM1LがHUVECsのビトロネクチン(vitronectin)に対する接着を阻害することを示す。
【図8】MS-ChM1LがHUVECsの細胞周期をG1期で停止させることを示す(A:25 mM HEPES,0.15 M NaCl, pH8.3、B:MS-ChM1L 100μg/mL)。
【図9】MS-ChM1LのHUVECsにおけるマトリックスメタロプロテアーゼのmRNAの発現に対する影響を示す。
【図10】MS-ChM1LがFGF-2誘発肉芽腫形成モデルにおいてインビボで血管新生を阻害することを示す(A:25 mM HEPES, 0.15 M NaCl, pH8.3、B:MS-ChM1L 100μg/mL)。
【図11】MS-ChM1L及びChM-Iが、M-CSF依存性骨髄マクロファージからの破骨細胞の形成を抑制することを示す(A: M-CSF 100 ng/mL、B: M-CSF 100 ng/mL + RANKL 50 ng/mL + ビークル、C: M-CSF 100 ng/mL + RANKL 50 ng/mL + MS-ChM1L 10 μg/mL、D: M-CSF 100 ng/mL + RANKL 50 ng/mL + MS-ChM1L 100 μg/mL、E: M-CSF 100 ng/mL + RANKL 50 ng/mL + ChM-I 10 μg/mL、F: M-CSF 100 ng/mL + RANKL 50 ng/mL + ChM-I 25 μg/mL)。
【図12】MS-ChM1L及びChM-Iが、骨髄細胞からの破骨細胞形成を抑制することを示す(A: 1,25(OH)2D3(10-8 M) + ビークル、B: 1,25(OH)2D3(10-8 M) + MS-ChM1L 10 μg/mL、C: 1,25(OH)2D3 (10-8M) + MS-ChM1L 100 μg/mL、D: 1,25(OH)2D3(10-8 M) + ChM-I 10 μg/mL、E: 1,25(OH)2D3 (10-8M) + ChM-I 25 μg/mL)。
【図13】MS-ChM1Lは破骨細胞前駆細胞分化の初期に直接作用して分化を抑制し、その抑制作用は不可逆的であることを示す。
【図14】破骨細胞マーカー遺伝子の発現解析の結果を示す。
【図15】MS-ChM1L投与によるB16F10メラノーマの増殖抑制作用の解析結果を示す。MS-ChM1L投与によりインビボでB16F10メラノーマの増殖が抑制されることを示す(A,C)。MS-ChM1Lは、インビトロでB16F10メラノーマ細胞の増殖を抑制しないことを示す(B)。
【図16】MS-ChM1LがB16F10メラノーマの肺転移を抑制することを示す。
【図17】MS-ChM1Lが血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することを示す。
【図18】腱組織には可溶性のMS-ChM1Lが存在することを示す。
【図19】ChM1L mRNAは、生体組織の中で腱に特異的に発現していることを示す。
【図20】ChM1L mRNAは、間葉系細胞の中でも腱細胞に特異的に発現していることを示す。
【図21】MS-ChM1Lが腫瘍血管新生を抑制することを示す。
【図22】MS-ChM1L投与によるLLC細胞の増殖抑制作用の解析結果であり、MS-ChM1L投与によりインビボでLLCの増殖が抑制されること、及びMS-ChM1LはインビトロでLLCの増殖を抑制しないことを示す。
【図23】MS-ChM1Lはカスパーゼを介して血管内皮細胞にアポトーシスを誘導することを示す。
【図24】精製した組換えChM-Iタンパク質のSDS-PAGEを実施し、GelCode Bluestain reagent(Pierce社)で染色した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号9に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を持つアミノ酸配列からなり、血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
N末端及び/又はC末端にアミノ酸残基がさらに付加されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
N末端に付加されたアミノ酸残基がメチオニンから始まるアミノ酸配列からなる、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が、連続した6から8個のヒスチジンタグ配列及び/またはFLAGタグ配列を含むアミノ酸配列からなる、請求項2または3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が、オワンクラゲ由来蛍光タンパク質もしくはその類縁体、または分泌型アルカリフォスファターゼもしくはその類縁体のアミノ酸配列からなる、請求項2または3に記載のポリペプチド。
【請求項6】
該N末端及び/又はC末端に付加されたアミノ酸残基が、修飾アミノ酸残基を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
N末端に付加されたアミノ酸残基がグルタミンまたはピログルタミンである、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
修飾アミノ酸残基が、アセチル基、ホルミル基、ビオチン基、Boc基、若しくはFmoc基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの修飾基を有することを特徴とする請求項6記載のポリペプチド。
【請求項9】
配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列をもつ核酸分子。
【請求項10】
配列番号3の4〜243番目のヌクレオチド配列を持つ核酸分子、または配列番号3の4〜243番目のヌクレオチド配列の相補配列とストリジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血管新生抑制活性及び/または骨吸収抑制活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を持つ核酸分子。
【請求項11】
請求項2〜6の何れかに記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を持つ核酸分子。
【請求項12】
請求項9〜11の何れかに記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項13】
請求項12のベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項14】
請求項13の形質転換された宿主細胞を培養する工程、および生成されたポリペプチドを回収する工程を含む、請求項1〜8の何れかに記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項15】
タンパク質変性剤の存在下で形質転換された宿主細胞からポリペプチドを含む抽出液を回収する工程を含む、請求項14に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項16】
宿主細胞から回収された抽出液をTritonX−114で処理した後に遠心分離処理を行って発熱物質を除去する工程を含む、請求項14または15の何れかに記載のペプチドの製造方法。
【請求項17】
宿主細胞からポリペプチドを含む抽出液の回収以降のすべての工程において、該ポリペプチドを含む溶液のpHをpH8.0から8.5の範囲に調整することを特徴とする、請求項14〜16の何れかに記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項18】
ヒトChM-I又はヒトChM1Lを発現可能な組換え宿主細胞を用いて組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを製造する方法であって、タンパク質変性剤の存在下で組換え宿主細胞から組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを含む抽出液を回収する工程、及び該抽出液をTritonX−114で処理した後に遠心分離処理を行って発熱物質を除去する工程を含む、組換えヒトChM-I又は組換えヒトChM1Lを製造する方法。
【請求項19】
抽出液を回収する工程以降のすべての工程において、該ポリペプチドを含む溶液のpHをpH8.0から8.5の範囲に調整することを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項1から8の何れかに記載のポリペプチドを含む医薬組成物。
【請求項21】
血管新生抑制剤及び/または破骨細胞活性化抑制剤である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
腱炎、関節リウマチ、変形性関節症、悪性腫瘍、糖尿病性網膜症、緑内障、乾癬、ケロイド、若しくは動脈硬化症の治療剤である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
請求項1または7の何れかに記載のポリペプチドを認識する抗体またはその断片を少なくとも1種類含む、体液成分中の配列番号9または4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを測定するための診断用組成物。
【請求項24】
腱炎、関節リウマチ、変形性関節症、悪性腫瘍のいずれかの病態の診断に用いる請求項23に記載の診断用組成物。
【請求項25】
糖尿病性網膜症、緑内障、乾癬、ケロイド、動脈硬化症のいずれかの病態の診断に用いられる、請求項23に記載の診断用組成物。
【請求項26】
請求項9から11の何れかに記載の核酸分子を含むように遺伝子操作を受けたトランスジェニック非ヒト動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【国際公開番号】WO2005/037864
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514866(P2005−514866)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015620
【国際出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】