説明

新規な放射線抵抗性のコッコミクサ属藻類

本発明は、コッコミクサ属の新規な藻類、特にコッコミクサ・アクチナビオチスとよばれる新規な種の藻類、および水性媒体、特に放射活性媒体からの金属の取り込みのためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な藻類および水性媒体、特に放射活性媒体からの金属の取り込みのためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
放射活性排出物は、原子力発電所から主に生成される。これらは、主に使用済燃料貯蔵プールからの水、除染タンクからの水または原子力プラントの循環冷却システムからの水であり、これらは、放射線による不活性化合物の活性化または放射活性化合物の放出および溶解を原因として最終的に放射活性化合物を含有する。放射活性排出物のその他の供給源は、核医薬品、放射活性物質を用いる研究実験室およびいくつかの非核産業(例えば希土類の抽出)である。
【0003】
放射活性化合物を含有する排出物、特に放射活性化合物を含有する水を精製するために、様々な物理的および化学的方法が用いられる。しかし、これらは、操作および装置の費用が高く、頻繁な維持を必要とし、大容量の放射活性廃棄物を生じる。さらに、それらの適応範囲は往々にして限定されている。例えば、原子力プラントからの水の低い導電率を維持するためにイオン交換樹脂が用いられる。これらには放射活性イオンが負荷されるようになり、飽和した場合には適切な再処理手順を待つ間に貯蔵されるかまたは毒性もしくは非常に反応性の化合物を用いる条件下で貯蔵される。
【0004】
さらに、例えば細菌、真菌、酵母または植物を用いて、毒性生成物(非放射活性または放射活性)が混入した媒体(産業排出物、天然の媒体など)を精製する生物学的方法が存在する。これらの方法は、生存生物を用いて、汚染化合物を濃縮および同化し、かつそれらの毒性を低くする(化学的形態の改変)かまたはそれらを非生存バイオマスおよび生存生物を起源とする誘導体にして汚染物を生物吸着する。生物学的方法は、一般的に、物理的および化学的方法よりも応用分野が広い。これらは、化学的試薬または製品の添加を必要とせず、一般的に、より安価な処理を可能にするので、経済的に興味が持たれている。
【0005】
特に、植物は、良好な土壌または水の浄化装置である。なぜなら、これらは、代謝、タンパク質、酵素、搬入機構、膜チャネル、内部構造などの完全な系を有し、これらにより、必要であれば毒性化合物を固定化し、それらを植物の外部または内部でキレート化し、それらをある程度大量に特異的または非特異的搬入経路により組み込み、それらを細胞内部に抑制し、それらが無害またはより毒性が低くなるようにそれらの種形成を改変し、それらの溶解性を低くし、それらを液胞中に非毒性の形態で貯蔵することなどができるからである。
【0006】
いくつかの微生物が生物吸着により、希釈溶液中の金属イオン、例えばAg、Al、Au、Co、Cd、Cu、Cr、Fe、Hg、Mn、Ni、Pb、Pd、Pt、U、Th、Znなどを濃縮できることが研究により示されている(Whiteら、International Biodeterioration & Biodegradation、35: 17〜40、1995;米国特許第6355172号)。生物吸着は、細胞表面にある頭頂(parietal)化合物の官能基との相互作用による非選択的物理化学的機構により重金属と結合するバイオマスの能力である。例えば、細菌および微生物の混合物を用いて、重金属を非選択的に生物吸着することが提案されている(米国特許第7479220号;PCT出願WO03/011487)。
その他の方法は、死滅バイオマス、または生存生物の培養物を起源とする派生化合物を用いて、金属が混入した媒体の汚染を除去する。用いられるプロセスは、生物学的に不活性な物理化学的機構、例えば、例えば細胞壁に存在する多糖を用いるイオン交換、錯体形成または吸着である。
【0007】
藻類に由来するバイオマス(例えば細胞壁)が、液体の排出物に含まれる金属を精製するために用いられている(米国特許第4769223号;PCT出願WO86/07346;米国特許第5648313号;PCT出願WO2006/081932)。
放射活性化合物で汚染された媒体を処理するために生存生物を用いる方法はほとんどない。実際に、放射活性化合物が混入した水または放射活性源に近いところにある水の場合、放射線耐性または放射線抵抗性であり、さらに混入物の化学的毒性に耐えることができ、産業的プロセスの関係において用いるのに十分な量で興味対象化合物と結合できる生物を用いる必要がある。
【0008】
天然の環境において、放射活性化合物を蓄積する生物は、一般的に、低い放射活性にさらされる。例えば、チェルノブイリでの事故の直後に、水性媒体について、原子炉冷却タンク水の電離放射線の外部線量率は、100μGy/hを超えず、1年間にわたる最大蓄積線量は、1986年に0.01 Gyであった。発電所の周囲30 km領域にあるプリピャチ川の堆積物に堆積された放射性核種を起源とする線量率は、一方、事故の直後にあちこちで0.4 mGy/hまで増加した(KryshevおよびSazykina、Journal of Environmental Radioactivity、28: 91〜103、1995)。
【0009】
ほとんどの場合、放射活性が混入した物質もしくは排出物の汚染を除去するためおよび/または放射活性化合物を濃縮するために提案された微生物の電離放射線に対する抵抗性は、まだ試されていない。これは、これらが、その主な同位体の活性が低いU (ウラン)およびTh (トリウム)を抽出するために用いられるからである(例えば238Uまたは235Uについて、活性は、10μg/lの238Uまたは235Uを含有する溶液についてそれぞれ0.13または0.8 Bq/lである)。
【0010】
米国特許第4320093号は、水性の排出物中に含まれるウランまたはトリウムを抽出するためのリゾプス(Rhizopus)属の真菌の使用を提案している。英国特許第1472626号は、ウランに予め慣れさせた単細胞性緑藻のX線照射により得られた変異単細胞性緑藻の使用を提案し、英国特許第1507003号は、海水中に天然に存在するウランを濃縮するための様々な微生物、特に真菌クロコウジカビ(Aspergillus niger)およびオシラトリア(Oscillatoria)型の藍藻類の使用を提案している。米国特許第7172691号は、約0〜20 ppmのウラン濃度(これは、238Uおよび235Uについてそれぞれ260および1600 Bq/lの活性を表す)を含有する水性媒体から放射活性混入物、特にウランを濃縮するためのクロレラ(Chlorella)、セネデスムス(Scenedesmus)、オオキスチス(Oocystis)およびクラミドモナス(Chlamydomonas)属の生存光合成藻類の使用を提案している。これに比べて、以下に記載する微細藻類の生存環境を構成する核要素貯蔵プールからの水の活性は、およそ300000 Bq/lである。
【0011】
現在までに記載されているほとんどの放射線抵抗性生物は、原核生物である。デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)の種は、電離放射線に対する抵抗性についての異例な能力を有し、60 Gy/hの照射の下で増殖し、15 kGyの線量で生存する。しかし、この細菌は、元々、金属に対して非常に抵抗性でない。例えば、これは、コバルト(同位体に関係なく)に対して耐性でなく、これは、その増殖を5ppm、すなわちおよそ10-4 mol/lで阻害する(Johnら、Symposium Chemical-biological Interactions In Contaminant Fate, Metal Toxicity In Deinococcus radiodurans、増補予稿集の前刷りVol. 40 No. 2、2000中のp.426〜428)。よって、放射活性媒体中に含まれる金属の浄化装置としてのその使用は、興味対象の金属を蓄積することを可能にする遺伝子を導入するための遺伝子改変を必要とする。つまり、核廃棄現場でのインサイチュバイオレメディエーションの目的のために、有機化合物、金属または放射性核種を解毒化または代謝できる酵素を発現するようにデイノコッカス属の細菌を遺伝子改変することが提案されている(PCT出願WO01/23526)。より最近では、キネオコッカス・ラディオトレランス(Kineococcus radiotolerans)種の細菌が、高い活性の放射活性廃棄物現場から単離および精製されている。これらの細菌は、電離放射線の存在下(その線量率は10 Gy/hより大きい)で有機混入物を分解できると記載されており、生物吸着による放射性核種の非選択的汚染除去のためのそれらの使用が提案されている(米国特許第7,160,715号)。
【0012】
これらは、放射活性が非常に高い媒体を除染するために用いることができるが、これらの2つの微生物は、非独立栄養性であり、よって、生存培養物の形態で用いることができるようにするために、炭素質栄養分の外部提供を必要とするという問題点を有する。さらに、その培養は、独立栄養生成物の培養よりも他の細菌の混入に対する感受性がより高く、このことはさらにあまりリッチでない培養培地を必要とする。
【0013】
放射線耐性独立栄養性生物の単一の形態が記載されている(Farhiら、20: 104216、2008)。これは、緑藻綱の微細藻類であり、これは、6kGyのLD50で電離放射線に対して耐性であるが、一般的に、藻類の電離放射線に対する抵抗性についてのLD50は、30〜1200 Gyの間である(IAEA、1976、Effects of ionizing radiation on aquatic organisms and ecosystems. Technical reports series No. 172、International Atomic Energy Agency、Vienna)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、今回、コッコミクサ(Coccomyxa)属(トレボウクシア藻綱(Trebouxiophyceae): ProscholdおよびLeliaert, Unravelling the algae: the past, present, and future of algal systematics、CRC Press、BrodieおよびLewis編、2007)に属する別の放射線耐性微細藻類を単離し、この藻類がFarhiら(2008、上記)により記載される微細藻類のものよりもさらに大きい電離放射線に対する抵抗性を示すだけでなく、さらに、水性媒体に溶解した放射活性または非放射活性金属イオンを取り込んで濃縮でき、放射活性媒体中で増殖できることを見出した。
【0015】
この藻類は、コッコミクサの新種であり、以下、コッコミクサ・アクチナビオチス(Coccomyxa actinabiotis)という。
この新種の代表的な純粋培養は、ブダペスト条約に従って、2009年6月23日に、the Culture Collection of Algae and Protozoa (CCAP)、Scottish Association for Marine Science、Dunstaffnage Marine Laboratory、GB-Oban, Argyll, PA37 1QA, UKに、CCAP 216/25の番号の下で寄託した。
【0016】
コッコミクサ・アクチナビオチス種の藻類は、特に、18SリボソームRNA-ITS1-5.8Sリボソーム RNA-ITS2-26SリボソームRNA (開始)に相当するそれらの遺伝子が、配列番号1の配列と少なくとも95%、そして好ましさが増加する順序で、少なくとも96%、97%、98%または99%の同一性を示す配列を含むことを特徴とする。
上記のパーセンテージ同一性は、配列番号1の配列全体からなる比較ウィンドウ上でClustalソフトウェア(Larkinら、Bioinformatics、23、2947〜2948、2007)を用いて配列をアラインメントした後に計算される。
【0017】
コッコミクサ・アクチナビオチス種の藻類は、ITS1-5.8S rRNA-ITS2に相当する領域が、配列番号1の配列の対応する領域と少なくとも90%の同一性を示すことも特徴とすることができる。この閾値は、本発明者らによる観察に基づいて90%と見積もられたが、この観察は、コッコミクサ・アクチナビオチスにおけるこの領域と他のコッコミクサ(Coccomyxae)におけるこの領域との間の最大で81%の同一性と、他のコッコミクサのITS1-5.8S rRNA-ITS2を互いに比較した最大で88%の同一性とを示す(以下の表IIIを参照)。
【0018】
コッコミクサ・アクチナビオチスのリボソームRNA遺伝子の配列は、コッコミクサ属の他の種のものと、18S rRNAに相当する領域中に、およそ500 bpの2つの挿入断片(図2において斜体で示す挿入断片)が存在することにより異なる。これは、その18S rRNA遺伝子の性質(図3)によって、そしてそのITS1およびITS2の性質によっても異なる。
電離放射線に対するその抵抗性のために、コッコミクサ・アクチナビオチスは、放射活性媒体中で増殖でき、このことにより、これは、水性媒体中に溶解している放射活性または非放射活性金属イオンを取り込んで濃縮できることに加えて、金属以外の放射活性化合物(例えば3Hまたは14C)を取り込んで代謝することができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
よって、本発明の主題は、Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Cs、Ni、Fe、アクチニドもしくはランタニドの金属(それらが放射活性であるかまたはそうでないかにかかわらず)、または放射性同位体14Cおよび3Hから選択される少なくとも1種の元素を、上記の金属または放射性同位体が溶解している水性媒体から取り込むためのコッコミクサ属、特に上記で規定するコッコミクサ・アクチナビオチス種の緑藻の使用である。
【0020】
より具体的には、本発明の主題は、Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Cs、Ni、Fe、アクチニドもしくはランタニドの金属または放射性同位体14Cおよび3Hから選択される少なくとも1種の元素を、上記の元素が溶解している水性媒体から取り込むための方法であって、上記の取り込みが、コッコミクサ属の緑藻を、上記の水性媒体中でインキュベートすることにより行われることを特徴とする方法である。
有利には、上記の元素は、Ag、CoおよびアクチニドUから選択される金属である。
【0021】
また、有利には、上記の元素は、14Cである。フランスの原子力発電所からの廃棄物中の14Cの量は、過去数年間に個別に規制されているだけである。しかし、14Cは、原子力発電所から環境中に放出されているトリチウムの次に主な放射活性汚染物である。例えば、トリカスタン原子力発電所(900 MWの4区画)の基本的な(basic)原子力プラントは、2009年に、170 GBqの14Cを大気中におよび15.9 GBqの14Cを液体の排出物中に排出した(EDF Annual Report 2009)。Purex (登録商標)プロセスを用いる再処理工場(例えば AREVA The Hague)は、1GWe原子炉の燃料の全てを再処理するためにおよそ600 GBq/年の14Cを環境中に排出する(Toxicologie nucleaire environnementale et humaine [Environmental and human nuclear toxicology]編、Tec and Doc、Lavoisier、2009)。
【0022】
本発明のある好ましい実施形態によると、上記の水性媒体は、放射活性媒体であり、すなわち上記の藻類が数μGy/h〜1kGy/hの範囲であり得る線量率にさらされる媒体である。この実施形態のある好ましい構成によると、取り込まれる元素は、放射活性同位体の形態または同位体の混合物の形態の上記のものから選択される金属である。
【0023】
水性媒体中の藻類のインキュベーション時間は、特に、まず、問題の元素、および次に、取り込みが行われなければならない水性媒体の性質によって変動できる。これは、一般的に少なくとも1時間であり、数ヶ月、または、ときに数年の範囲にまでなってよい。例えば、Agだけを取り込むことが望まれるならば、その主な部分を取り込むためにおよそ1時間のインキュベーション時間、およびその実質的に全てを取り込むためにおよそ10〜20時間が十分であることがある。その他の金属を取り込むならば、少なくとも3〜5日、有利には少なくとも1週間のより長いインキュベーション時間を用いることできる。別の例として、14Cを取り込むことが望まれるならば、以下の実施例4で提案する最適化条件下で3時間のインキュベーション時間が、その大部分を取り込むために十分である。
構想できる最大のインキュベーション時間は、実際に、水性媒体中での藻類の増殖および生存の能力に主に依存する。
【0024】
光および二酸化炭素(周囲の空気との接触、培養物の撹拌または通気により導入される)の存在下で、コッコミクサ属および特にコッコミクサ・アクチナビオチス種の藻類は、5〜6のpHおよび20〜30℃の温度の弱い鉱水(導電率1〜1.5μS/cm)中で非常に長期間増殖および生存でき、これらは、脱塩水(0.05μS/cmの導電率)中で3〜4週間増殖および生存できる。これらの緑藻は、光合成を行いそれらの有機物質を生成するために光を必要とするので、それらの増殖は、それらを暗所に置くと停止する。
【0025】
よって、本発明に従う方法のある実施形態によると、コッコミクサ・アクチナビオチス種の緑藻の増殖は、上記の藻類を含む水性媒体の照明を制御することにより制御できる。
【0026】
コッコミクサ・アクチナビオチスの藻類は、0.15 mGy/h未満またはそれに等しい照射をそれらが受ける弱い放射活性の媒体中で数年間増殖および生存することもできる。これらは、1Gy/hの照射に対しておよそ1ヶ月まで耐えることができる。これらは、300 Gy/hの照射に対して1日、および100 Gy/hの照射に対しておよそ3日間耐えることもできる。非常に高い放射活性の媒体中で、これらは、1kGy/hの照射に対して20時間まで耐えることができる。これらを、次いで非放射活性媒体に移すならば、これらは、2週間未満でそれらの増殖能力を回復する。記載のために、それ未満では生物学的効果が検出されない低い線量率の範囲の限界は、1mSv/h (すなわちγ放射線について1mGy/h)付近におくことができる。低い線量は、10 mSv/h未満の線量に相当する。1mSv/hより大きい線量率は、危険な生物学的効果を生じる。10〜100 mSvより大きい線量について、統計的に観察可能な効果が出現する。高い線量は、1Gyより大きい照射に相当し、確定的効果が出現し始める値である。
【0027】
本発明に従うプロセスを行うために、藻類は、藻類の凝集を回避するように振とうしながら、取り込みが行われる水性媒体中に懸濁して用いることができる。これらは、上記の水性媒体中に置かれた平滑、多孔性であるかまたはビーズの形態である固体支持体に付着させることもできる。
【0028】
プロセスは、輸送でき、すなわち、藻類を、原子力プラントから離れたチャンバ中の汚染が除去される媒体と接触させるか、またはインサイチュで行うことができる。後者の場合、藻類は、次いで、汚染が除去される媒体中に直接注入される(implantees)。
インサイチュ取り込みまたは除染プロセスの場合、藻類は、それらが操作を妨げない限り、プラント内にあることができる。記載のために、それらの増殖は、照明の強度(暗闇または弱い照明)またはランプの波長の選択(例えば黄緑非化学線性光)により制御できる。水のろ過も、水に懸濁された藻類を取り込むことによりそれらの増殖を制御することを可能にする。それらを除去することが必要であることが示されたならば、藻類の確実な破壊は、金属の放出を伴うことがあるので、金属の濃縮物を含有する排出物を回収しながら、植物を切断することにより優先的に行われなければならない。
【0029】
輸送プロセスの場合、インキュベーションの終わりに、金属を取り込んだ藻類を従来の手段(ろ過、デカンテーション、遠心分離など)により採集する。これらは、次いで、場合によって乾燥および/または燃焼させた後に、それらが含有する金属を前もって抽出することなく、廃棄物として排除できる。
有利には、藻類により取り込まれた金属は、これらの金属を再循環するために回収できる。
【0030】
この回収は、任意の適当な手段により行うことができる。例えば、藻類により取り込まれた金属の少なくとも一部分を非破壊的に回収して、適当であれば、取り込みの後に粘液および細胞表面のレベルにて多く残っている特にAgおよびCrといった金属について、藻類を再利用することができる。この回収は、藻類を、錯体形成または酸性溶液の存在下におくことにより行うことができる。よって、これは、特に、Agなどの金属について、1から2.5まで、好ましくは1.5から2までのpHの酸性媒体中で1〜2日間藻類を処理することにより行うことができる。
その他の金属、例えばCrについて、さらにまた粘液および細胞表面のレベルで結合しているCoなどの金属の部分について、これは、0.1 mol/lのEDTAなどのキレート化剤で1時間から3日間まで、好ましくはおよそ1日間処理することにより行うこともできる。
藻類による取り込みの後に細胞の内部に隔離されるCoなどの金属について、回収は、0.5のpHの酸性媒体中で2〜10日間藻類を処理することにより行うことができるが、細胞のその後の生存性にはいかなる保証もない。
【0031】
金属は、藻類の破壊の後に回収することもできる。この破壊は、例えば、藻類の溶解により行うことができる。これは、藻類の焼却により行うこともできる。
【0032】
本発明に従うプロセスは、採鉱操作または金属を含有する水性排出物、特に放射活性排出物の汚染除去の目的のために、放射活性または非放射活性金属、特に上記のものを、水性媒体から抽出することが望まれる全ての場合に行うことができる。
【0033】
上記の金属(Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Cs、Ni、Fe、アクチニドまたはランタニド(それらが放射活性または非放射活性のいずれであっても))を特異的に取り込み、濃縮するそれらの強い能力に加えて、コッコミクサ属、特にコッコミクサ・アクチナビオチス種の藻類は、特に、カチオンと錯体形成する特性を有する多糖類からなるそれらの細胞外粘液を原因として、その他の金属の非特異的取り込みの特性も有する。
【0034】
本発明に従うプロセスは、よって、放射活性もしくは非放射活性金属が混入した水性媒体または土壌(泥炭湿地、沼沢)、より具体的には放射活性媒体、例えば貯蔵プールからの水またはそうでなければ原子力発電所もしくは原子炉の二次冷却循環からの軽水、または環境中に排出される原子力発電所からの排出物の汚染除去および除染のために特に適切である。
【0035】
本発明は、コッコミクサ・アクチナビオチス種の単細胞性緑藻だけでなく、コッコミクサ・アクチナビオチス種の単細胞性緑藻と、好ましくは放射線抵抗性もしくは放射線耐性であり、溶解している金属イオンを濃縮および/または金属以外の放射活性化合物(例えば3Hまたは14C)を取り込んで代謝できる少なくとも1種の微生物、特に細菌、真菌、酵母、別の単細胞性藻類および/または多細胞性植物とを含む微生物混合物を用いても行うことができる。コッコミクサ・アクチナビオチス種の単細胞性緑藻と組み合わせて用いることができる多細胞性植物および微生物は、特に上記のもの、特に放射線抵抗性または放射線耐性であるものである。本発明を放射活性水性媒体に対して用いる場合、微生物混合物のインキュベーション時間は、混合物を構成する微生物の個別の抵抗性に依存する。同様に、培養条件は、混合物を構成する1種以上の微生物の増殖を促進するように調整してよい。
【0036】
本発明は、コッコミクサ・アクチナビオチス種の単離および特徴決定、ならびに放射活性水性媒体を除染するためのその使用も説明する実施例に言及する以下のさらなる記載からより明確に理解される。実施例は、以下の図面により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1Aおよび1Bは、光子顕微鏡観察(Zeiss Axioplan 2双眼顕微鏡、図1Aおよび1Bについてそれぞれ倍率1000および3000)により観察された、本発明による微細藻類の写真を示す。図1Bは、2つの有鞭毛細胞の連結を示す。
【図2】図2は、コッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類の18S rRNA-ITS1-5.8S rRNA-ITS2-26S rRNAリボソームDNA遺伝子(最初の500塩基)の配列を示す。
【図3】図3は、Clustal W2 2.0.12ソフトウェアによる多重配列アラインメントにより行った、微細藻類CCAP216/25の小サブユニットリボソームRNA (18S rRNA)と、データベースに列挙された他のコッコミクサ種のものに相当する配列との比較(配列番号1の配列に特異的な2つの挿入断片を取り除いた後の)を示す。
【図4】図4は、グレイ(Gy)での照射線量の関数としてのコッコミクサ・アクチナビオチスのパーセンテージ死滅率を示す。
【図5】図5は、コッコミクサ・アクチナビオチスによる金属の結合および濃縮を示す。110mAg、60Co、51Cr、65Zn、54Mnおよび124Sbの金属について得られた水中の金属の濃度(atoms/ml)に対する微細藻類に吸着または吸収された金属の濃度(atoms/g湿潤物質(fresh matter))の比として定義される濃縮係数を示す。
【図6】図6〜8は、粘液あり(図7)またはなし(図6および8)でのコッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類による銀 (図6および7)およびコバルト(図8)の金属の結合ならびに組み込みについての動態を示す。パーセンテージでの吸着-吸収された金属の量は、曝露時間(時間)の関数として表す。図6A:110μg/lの銀イオンを含有する溶液;図6B: 5.5 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7A:1.1 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7B:55 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図8A:19μg/lのコバルトイオン;図8B:0.94 mg/lのコバルトイオン;図8C:4.8 mg/lのコバルトイオン。
【図7】図6〜8は、粘液あり(図7)またはなし(図6および8)でのコッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類による銀 (図6および7)およびコバルト(図8)の金属の結合ならびに組み込みについての動態を示す。パーセンテージでの吸着-吸収された金属の量は、曝露時間(時間)の関数として表す。図6A:110μg/lの銀イオンを含有する溶液;図6B: 5.5 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7A:1.1 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7B:55 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図8A:19μg/lのコバルトイオン;図8B:0.94 mg/lのコバルトイオン;図8C:4.8 mg/lのコバルトイオン。
【図8】図6〜8は、粘液あり(図7)またはなし(図6および8)でのコッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類による銀 (図6および7)およびコバルト(図8)の金属の結合ならびに組み込みについての動態を示す。パーセンテージでの吸着-吸収された金属の量は、曝露時間(時間)の関数として表す。図6A:110μg/lの銀イオンを含有する溶液;図6B: 5.5 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7A:1.1 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図7B:55 mg/lの銀イオンを含有する溶液;図8A:19μg/lのコバルトイオン;図8B:0.94 mg/lのコバルトイオン;図8C:4.8 mg/lのコバルトイオン。
【図9】図9は、コッコミクサ・アクチナビオチスの培養物による14Cの組み込みを示す。藻類を含有するペレット(三角)および培養上清(菱形)における炭酸水素塩の形での14Cのパーセンテージを、時間の関数として、時間において表す。
【図10】図10は、コッコミクサ・アクチナビオチスの存在下での、時間(日数)の関数としての放射活性要素貯蔵プール中のkBq/lで表した銀-110mの濃度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施例1:コッコミクサ・アクチナビオチスの単離および特徴決定
微細藻類を、核原子炉の使用済燃料貯蔵プールから採集した。このプールに含まれていた水は、pHが5.2〜5.8であり、導電率が1〜1.5μS/cmであり、周囲空気と接触し、溶存放射活性要素を含有する。この温度は、23〜30℃の間であり、平均25℃である。プールにおける放射線活性は、低いものから非常に高くまで、測定点に依存して大きく変動する。ガンマ活性は、使用済燃料要素との接触により、数千Gy/hまで到達できる。
【0039】
緑色有機性物質のフィルムの存在が、このプールの壁および様々な表面で観察された。試料を採取し、顕微鏡で観察した場合に、これらは、これが単細胞性微細緑藻類であることを示した。
【0040】
培養条件
採取した試料を貯蔵し、明所で、5〜6.5のpHおよび23℃の温度にて、ガス交換を可能にする多孔性の栓で閉鎖した滅菌エルレンマイヤーフラスコ中で培養した。
以下の培地を試験した:
-純粋または脱塩水で希釈したBBM培養培地(Boldの基本培地、Sigma)。BBM培地は、緑藻を培養するために従来用いられている;
- BG11培養培地(Rippkaら「The Prokaryotes」vol. 1: 212〜220、1979; Sigma)。この培地は、藍藻を培養するために従来用いられている;
- 弱い鉱水(1〜1.5μS/cmの導電率)または脱塩水(0.05μS/cmの導電率)。
【0041】
BBMおよびBG11培養培地の組成を、以下の表Iに示す。
【表1】

【0042】
BG11およびBBM培地において、微細藻類は、2つの培地中で同様の指数増殖期で増殖する。
弱い鉱水または0.05μS/cmの導電率を有する脱塩水において、微細藻類は、BG11およびBBM培地を用いて得られたものと同様の短い期間での迅速な増殖期で増殖するが、0.05μS/cmの導電率を有する脱塩水において、それらの健康は、おそらく蓄えの枯渇のために3〜4週間後に損なわれる。
【0043】
藻類を、固形寒天BBM培養培地上での培養に付した。よって円形のコロニーが単離され、これを次いで個別に寒天培地上に播種した。この操作を6回繰り返して、単一細胞を起源とする純粋培養を得た。
この培養物の試料(以下、微細藻類CCAP 216/25という)を、ブダペスト条約に従って、2009年6月25日に、the Culture Collection of Algae and Protozoa (CCAP)、Scottish Association for Marine Science、Dunstaffnage Marine Laboratory、GB-Oban, Argyll, PA37 1QA, UKに、番号CCAP 216/25の下で寄託した。
【0044】
形態学的および生化学的特徴
単離された微細藻類は、単細胞性微細藻類である。光子顕微鏡観察および共焦顕微鏡観察により観察された細胞は、核を有し、卵形の形状である。それらの平均長は6.8±0.9μmであり、それらの平均の幅は3.8±0.6μmである。しかし、それらの増殖段階に依存して、9〜10μmまでのより長い平均長、または約5μmのより小さいものを、特に分裂の直後に観察することができる。
これらは、クロロフィルを含有し、光合成部位である葉緑体(おそらく数個)を含有する。タンパク質顆粒であるピレノイドは、葉緑体の一部を占める。これは、なかでも、デンプンの合成に関与する。その他のオルガネラ、特に液胞は、細胞の残りを占める。
【0045】
その栄養細胞の形では、細胞は移動性を有さない。時折、いくつかの個体は、2つの自発運動性鞭毛を有する。これらは、生殖を行う有性細胞もしくは生殖体であるか、または種の伝播を可能にする増殖に関与する遊走子であるかのいずれかである。これらの2つの型の細胞の形成は、初期細胞または母細胞の分裂によりもたらされる。
寒天培地上での培養において、細胞は、円盤状凝集物として群になったままである。
【0046】
貯蔵プールから新しく試料採取した細胞と、BBM培地中で1ヶ月培養したものとは、いくつかの違いにより区別される。最初のものは、大きい貯蔵顆粒を有し、ほとんどが互いに塊になり、多糖からなる粘液に保持され、それらの有鞭毛細胞の移動性は低減されている。BBM培地で培養した藻類を放射活性および栄養ストレス条件に戻すと、これらは、貯蔵プールの水から単離したものの形態に戻る。
第2のものは、より色素を有し(明るい緑色)、通常、よく個別化され、それらの有鞭毛細胞は、培養物を定期的に撹拌した場合に、非常に活動的である。
【0047】
それが単離された過酷な媒体中でのこの微細藻類の細胞学的および挙動的な改変は、よって、特定の物理化学的条件(電離放射線の存在、酸化およびイオン化ストレスを含む放射活性金属の存在、鉱物塩の欠如、栄養ストレスの原因)に対する適応であると理解できる。
【0048】
図1Aおよび1Bは、原子炉のプールを起源とする試料をBBM培養培地に導入した1ヶ月後の、光子顕微鏡観察により観察されたこれらの微細藻類の写真を示す。
葉緑体中にあるデンプンは、ルゴール(I2 + IK =ヨウ化水)を用いる染色により明らかにできる。この反応に対する陽性の応答(茶〜紫がかった青色の着色)により、この微細藻類を緑藻(=緑藻植物類)に分類できる。
【0049】
この生物についてのUV-可視吸収スペクトルは、クロロフィルa(663 nmでの吸収ピーク)、クロロフィルb(647 nmでの吸収ピーク)およびカロテン(470 nmでの吸収ピーク)の存在を示す。
これは、よって、単細胞性、真核生物および淡水分類群の緑藻である。これは、植物と密接に関係する原生生物界に属し、よって、原性植物門に属する。これは、緑藻植物類または緑藻の部門にある。なぜなら、これはクロロフィルaおよびbとカロテンとを光合成色素として含有し、その蓄えはデンプンであるからである。
【0050】
リボソームDNA遺伝子の増幅および配列決定
上記のようにして単離した微細藻類AのトータルDNAを、Newmanらの方法(Genetics、126: 875-888、1990)により抽出した。
18S rRNA-ITS1-5.8S rRNA-ITS2-26S rRNA (最初の500塩基)リボソームDNA遺伝子をカバーするゲノムの領域をPCRにより増幅し、配列決定した。
用いたプライマーは、微細藻類rRNA遺伝子を増幅するために従来用いられているEAF3: TCGACAATCTGGTTG ATCCTGCCAG (配列番号2)およびITS055R: CTCCTTGGTC CGTGTTTCAAGACGGG (配列番号3)である。
【0051】
2つの独立した培養物から単離したDNAを用いて得られた増幅生成物は、4kbのものである(すなわち、微細藻類について従来記載されているものよりも1kb長い)。これらの増幅生成物の配列を図2および添付の配列表において配列番号1の番号の下に示す。この配列は、およそ500塩基対の2つの挿入断片を含有し、これらを図2において太字の斜体で示し、これらは、微細藻類CCAP 216/25に特異的である。
【0052】
BLASTNアルゴリズム(AltschulらNucleic Acids Research、25: 3389〜3402、1997)を用いて、データベースにおいて、配列番号1の配列と最大限の同一性を示すリボソームRNA遺伝子の配列について検索した。この検索を行うために、図2において太字の斜体で示すおよそ500塩基対の2つの配列を除いた。この検索により、微細藻類CCAP 216/25に最も近いことを特徴とする種は、コッコミクサ属に属することが明らかになった。配列番号1の配列は、しかし、およそ500塩基対の2つの特異的挿入断片を含有し、これらは、現在までに特徴決定されているコッコミクサ属の藻類において見出されていない。
【0053】
CCAP 216/25微細藻類のリボソーム小サブユニットRNA (18S rRNA)に相当する配列と、データベースに列挙されている他のコッコミクサの種のものに相当する配列との比較(配列番号1の配列の2つの特異的挿入断片を除いた後に行った)を、ClustalW2 2.0.12ソフトウェアによる多重配列アラインメントにより行った。配列アラインメントを図3に示す。以下の表IIは、この配列比較の結果を示す。対で比較した18S rRNAに相当する配列は、配列Aおよび配列Bの縦列に、添付の配列表におけるそれらの番号を参照することにより示す。
【0054】
【表2】

【0055】
この配列比較は、CCAP 216/25株に最も近い種がコッコミクサ・コダティイ(Coccomyxa chodatii) SAG 216-2株(配列番号6)、コッコミクサ・ペルティゲラ(Coccomyxa peltigerae) SAG 216-5株(配列番号5)、コッコミクサ種(Coccomyxa sp.) Flensburg fjord 2 (EU127471)、コッコミクサ・グラロネンシス(Coccomyxa glaronensis) CCALA 306株(AM167525)およびコッコミクサ種CPCC 508株(AM981206)であり、それぞれ98%、97%、97%、96%および96%の配列同一性を有することを示す。コッコミクサ属と比較してCCAP 216/25株について得られたこれらの強い同一性スコアは、コッコミクサの配列を互いに比較した後に得られるものと近く、別の属に属する単細胞性微細藻類(クラミドモナス種(Chlamydomonas sp.) CCMP681) (EF106784)との配列比較について得られたスコアから遠い(図3を参照)。このことは、CCAP 216/25株がコッコミクサ属に属することを示す。
【0056】
さらに、CCAP 216/25株のITS領域とその他のコッコミクサのものとの配列の比較も行った。以下の表IIIは、この配列比較の結果を示す。対で比較したITS1-5.8S rRNA-ITS2領域の配列を、縦列IおよびIIに示す。コッコミクサ・アクチナビオチス(CCAP 216/25)株、コッコミクサ・コダティイSAG 216-2株およびコッコミクサ・ペルティゲラSAG 216-5株の配列は、添付の配列表におけるそれらの番号、すなわちそれぞれ配列番号11、12および13を参照して示す。ITS1-5.8S rRNA-ITS2領域の配列がGenBankデータベースにて入手可能な以下の株について、対応するアクセッション番号も表IIIに示す:
- AY293964: コッコミクサ・ペルティゲラ変種バリオロサ(Coccomyxa peltigerae var. variolosae)
- AY293965: コッコミクサ・ソラリネ変種クロシー(Coccomyxa solarinae var. croceae)
- AY293966: コッコミクサ・ソラリネ変種ビスポラ(Coccomyxa solarinae var. bisporae)
- AY293967: コッコミクサ・ソラリネ変種サッカテ(Coccomyxa solarinae var. saccatae)
- AY293968: コッコミクサ・コダティイ
- AY328522: コッコミクサ・ペルティゲラSAG 216-5株
- AY328523: コッコミクサ・スベリプソイデ(Coccomyxa subellipsoidea) SAG 216-13株
- AY328524: コッコミクサ・レイシエ(Coccomyxa rayssiae) SAG 216-8株
- U66945: クラミドモナス・カロサ(Chlamydomonas callosa)
- U66956: ドゥナリエラ・テルティオレクタ(Dunaliella tertiolecta)
- AF376740: パンドリナ・モラム(Pandorina morum)
【0057】
【表3−1】

【0058】
【表3−2】

【0059】
【表3−3】

【0060】
この配列比較は、参照した他のコッコミクサ株と比較したCCAP 216/25株の73%〜81%の配列同一性を示し、これは、参照したコッコミクサのITS領域を互いに比較したものについて得られるスコア(78%〜99%)と同じ程度であり、他の属との比較について得られたものから非常に遠い(約30から50%まで)。
さらに、CCAP 216/25株の18S rRNAに相当する配列が、現在までに参照されている全てのコッコミクサのものと、特にそれがおよそ500塩基対の2つの挿入断片を有することにおいて異なることが見出される。
後者の2点は、これが、現在までに言及されている全てのものとは異なるコッコミクサの種であることを示す。
【0061】
これらの結果は、よって、単離された微細藻類が、コッコミクサ属に属するが、そのDNAは、データバンクに列挙されているコッコミクサの他の種のものとは、特に18S rRNA DNAおよびITS1およびITS2におけるその2つの挿入断片により十分に異なり、このために、これは、新しい種であると考えられることを示し、これを本明細書においてコッコミクサ・アクチナビオチスと命名する。
【0062】
非生物ストレスに対する抵抗性
コッコミクサ・アクチナビオチスは、乾燥、寒さおよび暗闇に対して48時間抵抗性である。
これは、純粋な重水に対しても48時間抵抗性である(50%、80%および100%のD2Oに暗所で24時間および48時間曝露した藻類の呼吸ならびに光合成と、通常培地における24時間後のそれらの回復と、50% D2O中で光に24時間曝露した藻類の呼吸および光合成は、これらの条件下で、重水がこれらの生理的パラメータに対して影響しないことを示す)。
重水に対するこの抵抗性により、コッコミクサ・アクチナビオチス(およびより一般的にコッコミクサ属の藻類)を、重水素化化合物の合成のために用いることを提案できる。
【0063】
コッコミクサ・アクチナビオチスは、アセトン、アルコール、酸および超音波に対しても抵抗性である。
この藻類の電離放射線に対する抵抗性を、照射が漸減している使用済燃料要素に由来する様々な線量のガンマ放射線にそれらを曝露することにより試験した。照射後の死滅率を、生存染色(ニュートラルレッド)により決定した。
【0064】
コッコミクサ・アクチナビオチスは、中程度の照射(150μGy/h)に対して長期間(約10年より長く)抵抗性である。
これは、300 Gy/hの線量率に対して数日間、および3000 Gy/hの線量率に対して数時間の曝露に耐える。
これは、1kGy/hの流動率に対する20時間の曝露にも耐える。
【0065】
図4は、照射の染料の関数としてのコッコミクサ・アクチナビオチスのパーセンテージ死滅率を示す。集団の半数の死滅を引き起こす電離放射線の線量は、10 kGyより大きい(10 kGyにて45%死滅率)。
コッコミクサ・アクチナビオチスは、20 kGyへの曝露に対しても著しく耐える(80%±5%死滅率、すなわち20%±5%の生存)。20 kGyでのこの強い照射の場合、これは、数週間で媒体に再コロニー形成する。4週間で、培養物は、照射前のその最初の光合成活性の3分の1を回復し、2週間で、非照射または弱く照射された試料のものと等しい集団密度を回復する。
【0066】
実施例2:コッコミクサ・アクチナビオチスによる放射活性金属の濃縮
金属の結合および濃縮
貯蔵プールから新しく試料採取した微細藻類(およそ10ミリグラムの湿潤物質)を、照明(200 lux)の下で1年間、例えば400 Bq/lの60Co、1100 Bq/lの110mAg、1700 Bq/lの124Sb、5000 Bq/lの51Cr、400 Bq/lの65Zn、300 Bq/lの54Mnを含有する、定期的に新しく交換するpH 5.5、導電率1.2μS/cmの脱塩水の存在下に置いた。水は、トリチウム(およそ300000 Bq/l)および14C (およそ20000 Bq/l)の存在を実質的な原因として放射活性である。この組成は、使用済燃料貯蔵プールからの水のものと同様である。藻類は、この接触時間の間に緩慢に増殖した。
【0067】
放射性核種の濃度を、水および藻類での平衡にてγ線スペクトロメトリーにより測定した。
よって、水中の金属の濃度(atoms/ml)に対する微細藻類に吸着または吸収された金属の濃度(atoms/g湿潤物質での)の比として定義される各金属(110mAg、60Co、51Cr、65Zn、54Mnおよび124Sb)についての濃縮係数を得た。
【0068】
結果を図5に示す。
これらの結果は、微細藻類が、銀およびコバルトを非常に強く(濃縮係数=それぞれ450000および40000)、そしてクロムもより少ない程度(濃縮係数=6000)で濃縮することを示す。最も低く濃縮された元素も、著しい濃縮係数を有する(クロム、亜鉛、マンガンおよびアンチモンについてそれぞれ濃縮係数=6000、3000、1200および200)。
【0069】
別の実験を、BBM培地での培養物を起源とする微細藻類の湿潤物質250 mgを、使用済燃料貯蔵プールからの水のものと同様の組成、すなわちpH 5.5、導電率1.2μS/cmで、280 Bq/lの60Co、530 Bq/lの58Co、66 Bq/lの110mAg、1460 Bq/lの124Sb、1180 Bq/lの51Cr、120 Bq/lの65Zn、Bq/lの54Mnならびにトリチウム(260000 Bq/l)および14C (10000 Bq/l)も含有する脱塩水100 mlの存在下におくことにより行った。1日間の培養の後に、固定された各同位体のパーセンテージは、110mAg、65Zn、60Co、58Co、54Mn、51Crおよび124Sbについてそれぞれ100%、100%、94%、94%、90%、48%および30%である。
【0070】
微細藻類からの金属の抽出
藻類と結合した金属を可溶化させる実験を、これらの藻類(70 mgの湿潤物質)を5mlの脱塩水、またはHClを様々な濃度で補充した脱塩水中でインキュベートすることにより行った。中性媒体では、金属は抽出されない。
【0071】
最も保持されたカチオンは、60Co、108mAgおよび110mAgである。これらは、低濃度のHCl (pH 4.5〜2.5)について細胞と結合したままである。これらは、2.5のpH閾値未満で指数関数的に放出され始め、Coは、最も堅く結合している。なぜなら、これは、pH 0.5での曝露の6日後に最大で35%抽出されるが、Agは同じ条件下で90%抽出されるからである。pH 1.5にて、10%のAgおよび2%のCoが、曝露の6日後に抽出される。51Crについて、閾値pHはなく、これは、pH=4.5から直線的に、pH=0.5での最大25%、まで、曝露の6日後に抽出される。
【0072】
pHが4.5の0.1 MのEDTA溶液の存在下で他の実験を行った。これらの条件下で、藻類に含有される35%の51Cr、しかし1%だけの60Coと0.5%未満の108mAgおよび110mAgが、曝露の2日後に抽出される。
これらの実験は、Crが表面にて大部分が残るが、Coは、おそらく、細胞内部に大部分が隔離され、Agは、表面と細胞内部との間に分布することを示す。
【0073】
実施例3:金属の結合についての動態、それらの毒性に対する抵抗性および結合量
AgおよびCoの結合および組み込みの動態
コッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類による金属の結合の動態、および吸着-吸収された量を、1価カチオンであるAg+および2価カチオンであるCo2+の場合において決定した。
【0074】

2つの一連の実験を行った。一方は、光学顕微鏡観察により評価して約1μm以上(「粘液ありの藻類」)の厚さの粘液の被覆を有する藻類を用い、他方は、BBM培地で培養され、ほとんどまたは全く粘液を有さない藻類を用いた(「粘液なしの藻類」)。
20 mgの藻類(密集湿潤物質)および90 mlの様々な濃度のAg+溶液を、エルレンマイヤーフラスコに導入する。20 mgの藻類を、以下のようにして調製する:丸底培養フラスコから採取した試料、3000 rpmにて20分間の遠心分離、脱塩水中で2回の洗浄(懸濁、遠心分離)。そして培養培地を除去し、それが銀と錯体形成する危険性がない。
【0075】
粘液なしの藻類を、0.11 mg/Lおよび5.5 mg/LのAg+を含有する溶液と接触させる。
粘液ありの藻類を、22μg/L、1.1 mg/Lおよび55 mg/LのAg+を含有する溶液と接触させる。
エルレンマイヤーフラスコを、照明をあてた振とう器に入れ、5mlの試料を、様々な曝露時間で採取して、銀のそれぞれの最初の濃度についての結合動態をモニターする。試料を10分間、4500 rpmにて遠心分離して、金属を濃縮した藻類を分離する。金属含量を、次いで、ペレット(藻類)および上清中で分析する。
【0076】
結果を、粘液なしの藻類について図6に、および粘液ありの藻類について図7に示す。
粘液ありまたはなしの藻類について、非常に迅速な吸収動態が最初の時間で観察され、その後にプラトーに達する。
プラトーでは、粘液なしの藻類は、その初期濃度が0.11 mg/lであれば全ての銀と結合し、その初期濃度が5.5 mg/lであればその75%と結合する。
粘液ありの藻類は、その初期濃度が1.1 mg/lであれば全ての銀と結合し、その初期濃度が55 mg/lであればその20%と結合する。
【0077】
藻類による銀の迅速な蓄積は、2つの現象により説明できる。まず、カチオンをキレート化する特性を有する、糖のポリマーおよび誘導体からなる豊富な粘液による微細藻類の外側でのキレート化による。次に、チャネルまたは輸送体による藻類内部への銀の能動的および/または受動的組み込みによる。多数の膜貫通型イオンチャネルは、例えば、Na+イオン、K+イオンまたはおそらくAg+といった1価金属の細胞質への非選択的受動輸送を、濃度勾配が高いならなお一層容易に行う。
よって、コッコミクサによる銀の濃縮は、粘液および頭頂化合物への吸着に相当し、それに加えて膜貫通型イオンチャネルおよび能動的輸送体による細胞内吸収がある。
【0078】
コバルト
銀について上で記載したものと同じプロトコールに従って、粘液をほとんどまたは全く有さない藻類を用いて実験を行った。藻類は、19μg/L、0.94 mg/Lおよび4.8 mg/Lの初期コバルト濃度に曝露した。
結果を図8(A〜C)に示す。
おそらく吸収と結びついている初期の迅速な吸着が観察される。しかし、これは、銀よりもコバルトについてあまり著しくない。吸収は、次いで、数日間にわたって徐々に継続する。細胞内コバルトの濃度は最大値に到達しないが、曝露の開始後1週間を超えて増加し続ける。
【0079】
コバルト吸収機構は、よって、銀のものとは異なるようである。2価Co2+イオンは、実際に、それらのより大きいイオン半径により、Ag+イオンと同じイオンチャネルを用いることができない。細胞増殖に必須の2価金属(Fe2+、Mg2+など)の吸収を担う共輸送体またはカドミウムCd2+の膜貫通型輸送体として知られるATP依存性ABCポンプもしくはZn2+ ATPアーゼといった能動輸送体がコバルトの吸収を行うようである。この能動輸送体が、中程度であるが長期間にわたる吸収を説明できる。
【0080】
耐性がある最大金属濃度
コッコミクサ・アクチナビオチスにより支持される限界線量を、藻類を銀またはコバルトに1週間曝露することにより調べた(AgまたはCoイオンを様々な濃度で含有する脱イオン水100 ml 中に20 mgの微細藻類(湿潤物質))。
粘液なしの藻類は、粘液ありの藻類よりも銀金属毒性に対する抵抗性が低かった。粘液は、曝露の開始時に、細胞質内への金属の迅速で強い流入を妨げ得る。イオン結合バリアを形成することにより、これは、膜貫通型チャネルへの拡散および毒性金属の迅速で大規模な搬入を制限する。これらの金属は、次いで、中程度にそして徐々に吸収され、細胞にとって攻撃的でない形態で貯蔵され得る。粘液なしのコッコミクサ・アクチナビオチスは、250μg/Lより大きい銀濃度で生存しないが、粘液ありのコッコミクサ・アクチナビオチスは、少なくとも50 mg/Lの細胞外銀濃度に耐える。
コバルト不耐性閾値は、粘液なしおよび粘液ありのコッコミクサ・アクチナビオチスについて、それぞれ50 mg/lおよび800 mg/lのCo2+濃度より大きい。これらの条件下で1週間培養した微細藻類について、顕著な影響は観察されなかった。
【0081】
結合最大金属濃度
藻類は、特に、豊富な粘液の合成と組み込みおよび解毒化の能動的機構により、受動結合により期待されるよりもかなり高い量のAgおよびCoと結合できる。
一般的に、金属は、生物にとって毒性である。
銀は、生物にとって10-7〜10-5 mol/lで一般的に毒性である(Ratte HT、Environ. Toxicol. Chem. 18: 89〜108、1999)。
デイノコッカス・ラディオデュランスなどの放射線抵抗性生物は、10-4 mol/lのコバルトの存在下で増殖しない(Johnら、2000、上記)。しかし、コッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類は、10-4 mol/lのコバルトの存在下で増殖する。
【0082】
10倍に希釈したBBM培養培地中で、藻類1グラムあたり6.7×10-4 molに等しい銀と接触させたコッコミクサ・アクチナビオチス藻類は、湿潤物質1グラムあたり43.7 mgまで、すなわち450 mg/g乾燥物質までの銀と結合する。
結合した銀のこの量は、文献で報告されているものよりもかなり高い。文献は、0.01〜150μgの間の銀/g乾燥物質、すなわちおよそ0.001〜15μgの銀/g湿潤物質の陸生植物における銀濃度、および3μg/g〜7mg/g乾燥物質の間、すなわちおよそ0.3μg〜0.7 mgの銀/g湿潤物質の藻類における銀濃度を報告している。コッコミクサ・アクチナビオチスと結合した銀の量は、銀に対する非常に高い耐性を示す細菌が蓄積できる銀の量よりも大きい:銀過剰蓄積細菌は、300 mgの銀/g乾燥物質までを蓄積する(Ratte、1999、上記; Charleyら、Arch. Microbiol. 123: 239〜244、1979)。さらに、ほとんどの銀を高く蓄積する生物は、放射線抵抗性でない。
【0083】
10倍に希釈したBBM栄養培地中で藻類1グラムあたり3.8×10-4 molに等しいコバルトと45日間接触させたコッコミクサ・アクチナビオチス藻類は、湿潤バイオマス1グラムあたり12.1 mgの金属と結合する。6日間で、10倍に希釈したBBM栄養培地中で藻類1グラムあたり1.0×10-3 molに等しいコバルトと接触させた藻類は、湿潤バイオマス1グラムあたり1.53 mgの金属と結合する。これらの値は、文献で報告されているものよりかなり高い。植物におけるコバルトの平均濃度は、0.1〜115μg/g乾燥物質の間、すなわちおよそ0.01〜11μg/g湿潤物質で変動し、コバルト過剰蓄積植物は、4.3 mg/g乾燥物質まで(Bressonら、Toxicologie nucleaire, environnementale et humaine [Nuclear, environmental and human toxicology]、出版社Lavoisier 2009、TEC and DOC.版、第29章コバルト、p. 553〜573)、すなわちおよそ0.4 mg/g湿潤物質と結合する。文献で引用されている最も高くコバルトを蓄積する生物は、放射線抵抗性でない。
【0084】
実施例4:カーボン14の固定
カーボン14は、トリチウムとともに、原子力発電所から環境中に排出される主な放射活性汚染物を構成する(EDFプラントからの液体廃棄物中に8〜25 GBqの14C/年)。14C廃棄物は、2008年からしか規制されていない。現在のところ、具体的な14C処理はない。液体放射活性廃棄物中の14Cについての規制は、プラントごとに変動する。閾値は、EDF発電所について150〜400 GBqに設定されている(2008年指令)。14Cは、実質的に14CO2、カーボネート(14CO32-またはH14CO3-)、14CO、およびわずかなパーセンテージの未同定の有機形態で液体排出物中に排出される。全ての植物と同様に、コッコミクサ微細緑藻類は、12CO2の形態の炭素を光合成により組み込むことができる。12Cに関する14Cの同位体識別は、生物学的プロセスにおいて無視できる。しかし、それから導き出されることとは逆に、コッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類による14Cの固定はまったく明白でない。例えば、この藻類はpH8で14Cを固定しないが、pH7で固定する。
さらに、光合成などの生物学的プロセスによる14Cの固定は、生存光合成バイオマスを用いてのみ行うことができる。
【0085】
微細藻類の生理機能およびこれらの微生物によるその蓄積を行って最適化することを可能にするパラメータに対する14Cの影響を決定した。
14Cを、藻類および水において、液体シンチレーションによりアッセイする。微細藻類を、HCO3-とCO2との酸-塩基平衡(pKa 6.4および10.3)におけるカーボネートCO32-の形態、およびアセテートの形態での14Cと接触させる。
【0086】
微細藻類の生理機能に対する14Cの影響
藻類の生理機能に対する14Cの存在の影響を、細胞の増殖をモニターすることにより評価した。20000 Bq/lまでの14C単独の存在は、14Cに曝露しない培養物のものと比較して、増殖に影響しない。
ガンマ放出体を含有し、300000 Bq/lの14Cが富化された使用済核燃料貯蔵プールからの水中での培養に付した細胞も、8日間、それらの集団の増殖を経験した。
【0087】
藻類による14Cの組み込みに影響するパラメータ
14Cの化学的形態
藻類は、それらがアセテート有機形態を組み込むのと同様に、炭酸水素塩との平衡において二酸化炭素無機形態を取り込む。CO2は、細胞に、光合成により組み込まれる(6 CO2 + 12 H2O + hν→C6H12O6 + 6 O2 + H2O)。アセテートは、特に細胞の主要なエネルギー回路(Krebs回路)においてアセチルコエンザイムAの形態で代謝により用いられる。
【0088】
pH
炭酸水素塩の形態での14Cの組み込みに対するpHの影響を、6.9〜8.5の範囲で研究した。最適pHは6.9であり、接触を行う容器が気密封止されている場合に、媒体中に存在する14Cの80から90%までの組み込みを可能にする。このpHにて、25%の14Cが溶存CO2の形態である。H14CO3-との平衡における14CO2の迅速な脱気を回避するために、容器を閉鎖することが必要である。
藻類により組み込まれる14Cの量は、pH 7.5にて低く(数%)、pH 8.5にてゼロである。
【0089】
微細藻類の培養についての初期条件
14Cと接触させた瞬間の細胞の生理状態は、14Cの組み込みの速度に影響する。微細藻類は、栄養分がより豊富な培地中で予め培養されている場合に、かなりより迅速に14Cを組み込む(2倍に希釈したBBM培地が、10倍に希釈したBBM培地よりも好ましい)。よって、20000 Bq/lの14Cを含有する培地と藻類とを接触させる最適時間は、培養物が10倍に希釈したBBM培地に由来するならば50時間であり、培養物が2倍に希釈したBBM培地に由来するならば、これは3時間に低減される。
【0090】
藻類の密度
所定の時間で組み込まれた14Cの量は、5×106〜15×106細胞/mlの範囲で藻類の密度とともに増加する。例えば、5×106細胞/mlの初期細胞密度での藻類集団が媒体中に存在する14Cの量(20000 Bq/l)の70%を組み込むために50時間が必要であるが、15×106細胞/mlの初期細胞密度の藻類集団がその90%を組み込むために、7.5時間で十分である。
【0091】
照明強度
14C組み込み実験を、弱い照明ものとで行った(50〜70μmolの光子/m2/s)。しかし、光合成活性は、照明とともに増加し、500μmolの光子/m2/sから開始して最大に到達する。500μmolの光子/m2/sより大きい照明を用いて行った藻類の最大光合成活性の測定は、藻類が、より強い照明(14C組み込み実験を行った光強度よりも少なくとも30倍大きい)の下でより多くの12CO2を消費できることを示す。
【0092】
14C濃度
pH 6.9での2000〜20000 Bq/lの範囲(これは、いくつかの原子力プラントのプールからの水中に存在する濃度に相当する)の14Cの初期濃度にかかわらず、藻類は、14Cを迅速かつ強力に組み込む。2倍に希釈したBBM培地での培養物に由来する藻類の集団による14C組み込みの最大速度は、6000 Bq/lの14C濃度について20 Bq/h/106細胞であり、20000 Bq/lの14C濃度について60 Bq/h/106細胞である。組み込まれた量は、約80〜90%である。
5×106細胞/mlの初期濃度にて70μmolの光子/m2/sで照明をあてた2倍に希釈したBBM培地に由来するコッコミクサ・アクチナビオチスの培養物によるpH 6.9での炭酸水素塩の形態での14Cの組み込みを測定した。14Cの濃度は、6000 Bq/lである。様々な時間で試料を遠心分離した後に、14C含量を、ペレット(藻類)および上清中で分析する。結果を図9に示す。
【0093】
14C精製のための最適操作条件
・ pH 6.9
・ 栄養分が豊富な培地で初期に培養された細胞(2倍に希釈したBBM)
・ 15×106細胞/mlの細胞密度
・ 強い照明(500μmolの光子/m2/s)
・ 接触時間:数時間
【0094】
性能レベル
・ 90%除染
【0095】
コッコミクサ・アクチナビオチスは、よって、原子力発電所から得られた水に含まれるカーボン14を除染するために用いることができる:最適条件下で3〜7時間で90%除染。
【0096】
実施例5:ウランの結合
本発明の藻類は、ウランおよび超ウラン元素を取り込むためにも用いることができる。
丸底培養フラスコから採集し、培養培地を除去するためにMilli-Q水で3回洗浄したコッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類を、振とうしながらそして100 mlの溶液あたり湿潤物質で60 mgの藻類に等しい濃度で、10-8 mol/lの濃度を有する硝酸ウラニルの溶液と接触させた。26時間で、藻類は、溶液中に最初に存在していたウランの量の45%と結合する。これらの条件下で、コッコミクサ・アクチナビオチス藻類によるウラン生物濃縮の係数は、1300 l/kg湿潤物質、すなわちおよそ13000 l/kg乾燥物質である。文献で報告されている生物濃縮係数は、淡水または海水藻類について約120〜140 l/kgである(Paquetら、Toxicologie nucleaire, environnementale et humaine [Nuclear, environmental and human toxicology]、出版社Lavoisier 2009、TEC and DOC.編第23章ウラン、p. 411〜443)。
【0097】
実施例6:インサイチュ作用によるコッコミクサ・アクチナビオチスによる貯蔵プール水の除染
コッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類を、原子力発電所の燃料要素冷却プール中の水平支持体上に置いた。このプールに、平均pH 5.5、平均導電率1.2μS/cmおよび平均温度25℃で、そこに貯蔵されている部分を原因とする放射活性金属元素を含有する水を満たす。プールを周囲空気と接触させ、ネオン光で照らす。水の表面での光強度は、200 luxである。プールに貯蔵された部分に依存して、藻類のレベルでの線量率は、約100μGy/hから数十Gy/hまでの範囲である。これらの条件下で、コッコミクサ・アクチナビオチスは、それが置かれた支持体にコロニーを形成でき、その上で生存して、その上で何年も生殖できる。線量率は、数百Gy/hに散発的に到達できる。
【0098】
全活性ならびに存在する各γ放出体の性質および活性を、支持体から試料採取した50 mlの水および100 mgの藻類の試料に対してγスペクトロメトリーによりカウントを行うことにより決定した。5年の滞留時間の後に得られた結果を、以下の表IVに示す。
【0099】
【表4】

【0100】
これらの結果は、藻類が、それらが生存する水よりも10000倍活性が高いことを示す。放射性元素は、微細藻類の外側および内側で実際に濃縮される。
特に銀は、水から実質的に消失する。コバルトおよびクロムは、非常に強力に濃縮された。
【0101】
実施例7:インサイチュ作用によるコッコミクサ・アクチナビオチスによる貯蔵プール水の除染および従来法との比較
合計容量361 m3の放射活性要素貯蔵プールからの水を除染した実験を、汚染を除去するプールに懸濁されたコッコミクサ・アクチナビオチス微細藻類を用いてインサイチュで行った。t=14日にて、原子炉からの2つの安全棒をプールに導入した。これらの棒は、銀110mを放出する。水は、放射性核種と結合するイオン交換樹脂により通常精製される。t=30 dにて、樹脂による精製を停止した。t=35 dからt=56 dまで、水を、プールに懸濁された藻類により放射性核種を取り込むことにより精製した。これらの藻類および回収した放射活性は、表面の可動性プールロボットに設置したミクロ細孔フィルタ(50 mm直径、60 mm高さ)と結合する。高度に活性なフィルタは、2日毎に交換する。
【0102】
図10は、日数で表す時間の関数としてのこのプールにおける銀110mの濃度を示す。35〜56 dの間に観察された110mAg濃度の減少は、プール中に存在しフィルタと結合する藻類によるその取り込みによる。
t=60 dから開始して、イオン交換樹脂を操業に戻した。図10は、放射性元素の精製が、それが微細藻類またはイオン交換樹脂のいずれを用いて行われても同様の効率であることを示す。合計で、この実験中に、740 MBqのγ放出体(そのうち470が110mAg、180が124Sbおよび90が60Coについて)が、プールから藻類により21日間で除去された。
【0103】
実施例8:輸送法による、コッコミクサ・アクチナビオチスによる原子力発電所の水の除染
使用済核要素貯蔵プールを起源とする水を、コッコミクサ・アクチナビオチスと接触させた(50 mlの水を、9×108細胞、すなわち湿潤物質で140 mgの藻類(培養を起源とし、Milli-Q水で予め3回すすいだ)と接触させた)。水は、最初に、以下の表Vに列挙する放射性核種を含有する。
【0104】
接触させた24時間後の水および藻類のアッセイは、24時間で水のγ活性の92%の消失を示す。
以下の表Vは、測定された全γ活性および放射性核種ごとに測定されたγ活性による水の初期の組成、ならびに24時間にて藻類と結合したγ放出放射性核種のパーセンテージを示す。
【0105】
【表5】

【0106】
結合は、よって、銀110m、マンガン54およびセシウム137について100%、コバルト60について72%およびウラン238について95%である。
【0107】
実施例9:微細藻類の増殖の制御
微細藻類は、光合成をする。これらは、光合成を行うために光を必要とし、それらの有機物質を生成する。原子力発電所からの様々な媒体および排出物に相当する高度に栄養分が枯渇した培地において、それらの増殖は、よって、照明により制御できる。所定の場所でそれらを増殖させるために、それらに照明を当てることが十分である。それらが覆われていないプールにおいて、これらは、光源に近いところで好ましく増殖する。2日〜1ヶ月の期間それらを暗所に置くと、それらの増殖は停止する。それらの増殖は、それらにほとんどまたは全く光合成を可能にしない光、例えば黄緑色の非化学線性の光を当てることによっても制御できる。
水のろ過は、水中に懸濁された藻類を取り出すことおよびそれらの増殖を制御することを可能にする。
【受託番号】
【0108】
CCAP216/25
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
18SリボソームRNA-ITS1-5.8S rRNA-ITS2-26S rRNA遺伝子中に配列番号1の配列と少なくとも95%の同一性を示す配列が存在することにより規定されるコッコミクサ・アクチナビオチス種に属することを特徴とするコッコミクサ属の単細胞性緑藻。
【請求項2】
2009年6月25日にCCAPに番号CCAP 216/25の下で寄託されたコッコミクサ・アクチナビオチス株の特徴を有する請求項1に記載の単細胞性緑藻。
【請求項3】
取り込みが、水性媒体中でコッコミクサ属の単細胞性緑藻をインキュベートすることにより行われることを特徴とする、Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Ni、Fe、Cs、アクチニドおよびランタニドの金属ならびに放射性同位体14Cおよび3Hから選択される少なくとも1種の元素を、前記金属または前記放射性同位体が溶解している水性媒体から取り込む方法。
【請求項4】
前記緑藻が、請求項1または2で規定されるとおりであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水性媒体が、放射活性媒体であることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Ni、Fe、Cs、アクチニドおよびランタニドから選択される金属を取り込むための、前記金属が放射活性同位体の形態または同位体の混合物の形態にあることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記緑藻が、少なくとも1種のその他の微生物および/または少なくとも1種の多細胞性植物と組み合わされていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コッコミクサ・アクチナビオチス種の緑藻の増殖が、前記水性媒体の照明を制御することにより制御されることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
取り込まれる元素が金属であり、前記金属を前記藻類から回収するステップをさらに含むことを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
Ag、Co、Cr、Zn、Mn、Sb、Ni、Fe、Cs、アクチニドおよびランタニドの金属ならびに放射性同位体14Cおよび3Hから選択される少なくとも1種の元素を含有する放射活性水性媒体を除染するためのコッコミクサ属の緑藻の使用。
【請求項11】
前記緑藻が、請求項1または2で規定されるとおりであることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記緑藻が、少なくとも1種のその他の放射線抵抗性もしくは放射線耐性微生物および/または少なくとも1種の放射線抵抗性もしくは放射線耐性多細胞性植物と組み合わされていることを特徴とする請求項10または11に記載の使用。

【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−519369(P2013−519369A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552514(P2012−552514)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050589
【国際公開番号】WO2011/098979
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック エ オー エネルジ アルターネイティブス (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Batiment (Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(512207157)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT MAX VON LAUE − PAUL LANGEVIN
【住所又は居所原語表記】6 rue Jules Horowitz, F−38042 Grenoble Cedex 9, FRANCE
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509282457)ミュージアム ナショナル ドイストワール ナチュレール (2)
【氏名又は名称原語表記】MUSEUM NATIONAL D’HISTOIRE NATURELLE
【住所又は居所原語表記】57 rue Cuvier, F−75231 Paris Cedex 05, FRANCE
【Fターム(参考)】