説明

新規アスコクロリン誘導体化合物及びそれを含有する医薬組成物

【課題】有効血中濃度が一定時間以上持続し、毒性発現量まで上昇しないアスコクロリン系化合物及び該製造方法の提供。
【解決手段】 一般式(I):


〔Rは、H又は−C2n+1(nは1〜5の整数)を表し;Rは、H、−C2n+1(nは1〜5の整数)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’はH又は炭素数1〜3のアルキル基)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基)〕で示されるアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アスコクロリン誘導体化合物、及びそれを含有する生活習慣病の予防及び治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性心疾患(高コレステロール血症)、II型糖尿病、高血圧症(脳血管障害)、肥満など、生活習慣病は、特に日本を含む先進諸国及び開発途上国において深刻な問題である。
【0003】
これらの生活習慣病のリスク因子又は予備的症状は相互に共通しており、これらの生活習慣病の予防及び治療に関しては、食事療法、運動療法、薬物療法などが提唱されている。
【0004】
ピオグリタゾン(特許文献1)は、II型糖尿病のインスリン抵抗性を改善する薬剤として使用されてきたが、近年、急激な水分貯留による心不全を誘発する可能性が示されている。
【0005】
アスコクロリン誘導体のひとつであり、アスコクロリン4位水酸基の水素を−CHCOOHで置換した4−O−カルボキシメチルアスコクロリン(AS−6)は、II型糖尿病のモデル動物である遺伝性肥満糖尿病マウス、C57BL ksj(db/db)の糖代謝を改善すること、そして、この糖代謝の改善は白色脂肪組織のインスリン抵抗性の軽減に起因することが知られている(非特許文献1)。
【0006】
しかし、AS−6は、小腸のpH(7.2〜7.4)では6%以上が水に溶けるので、経口投与すると急速に吸収される。その結果、その血中濃度が有効濃度を超えて毒性発現濃度まで上昇し、ヒト及び動物で肝臓への毒性が発現しやすいという問題があった。さらに、AS−6などのアスコクロリン系の化合物は、時間依存性の薬効を示すことが分かっており、薬効を示すための有効血中濃度が一定の時間を超えて持続することが薬効を発揮するための絶対条件であるが、AS−6には、排泄が速やかで有効濃度の持続が短いこと、アルデヒド基が急速にカルボン酸に酸化されることにより薬効が大幅に低下すること等の欠点があった。
【0007】
また、AS−6より先に開発された4位の水酸基をアルキル化したアスコクロリン誘導体(4−O−アルキルアスコクロリン)、たとえば4−O−メチルアスコクロリン(MAC)は、水に対する溶解度が0.7μg/mlで著しく水に難溶性であり、加えて、結晶から単分子が水に溶け込む溶解速度が遅く、消化管からの吸収が遅いため、薬効を発現させることが困難であった。また、バイオアベイラビリティが低いことに加え、食事摂取の有無によっても消化管吸収が変動するため、動物実験における再現性が乏しく、実用化の障害となっていた。さらに、有効血中濃度の持続が短く、かつ、血中濃度のピークが低いので、薬効の有効性、例えば、血清総コレステロール、血糖、血圧などの低下率が低いことも欠点であった。
【0008】
ペルオキシソーム・プロリファレーター・アクチベーター・レセプター・ガンマ(PPARγ)は、脂肪細胞の分化に関わる核内受容体ファミリーに属する転写因子であり、インスリン抵抗性を解除するTZD系の化合物が強力なアゴニスト活性を持つことやノックアウトマウスの成績から糖尿病の発症に深く関わることが示唆されており、PPARγの活性化作用の有無が糖尿病抑制作用の有無と相関していることが知られている。しかし、MACにはほとんどPPARγの活性化効果は認められず、AS−6もピオグリタゾンに比べると遙かに低い活性化効果しか示さないものであった(非特許文献2)。
【0009】
したがって、MAC、AS−6などの従来のアスコクロリン系化合物は、実用性、有効性などの点でピオグリタゾンより劣っていた。
【0010】
【特許文献1】特開平5−86057
【特許文献2】特公平1−41624
【特許文献3】特公平8−16057
【特許文献4】特開2005−53780
【特許文献5】特開平6−305959
【特許文献6】WO2003/63849
【特許文献7】WO00/53563
【非特許文献1】Hosokawa, Ando and Tamura; Diabetes, vol. 34, pp. 267-274 (1985)
【非特許文献2】M. Togashi, S. Ozawa, S. Abe, T. Nishimura, M. Tsuruga, K. Ando, G. Tamura, S. Kuwahara, M. Ubukata, and J. Magae; Ascochlorin derivatives as ligands for nuclear hormone receptors. J. Med. Chem. 46, 4113-4123 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アスコクロリン系化合物であって、有効血中濃度が一定時間以上持続し、しかも、血中濃度が毒性発現量まで上昇しない誘導体及びその製造方法を提供することを1つの目的とする。また、本発明は、PPARγ活性化剤、医薬組成物、特に生活習慣病及びその予備的症状に対する予防又は治療用医薬組成物、さらには、単一の薬剤で高コレステロール血症、高血圧、II型糖尿病及び肥満における複数の症状を改善しうる医薬組成物を提供することをも目的とする。また、本発明は、ピオグリタゾンに匹敵する有効性を示す、II型糖尿病予防又は治療に有用な医薬組成物を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的のもとに、本発明者等は、アスコクロリン系化合物及びその誘導体の芳香環アルデヒド基のアセトキシメチレン誘導体に着目して研究した結果、特定の新規アスコクロリン誘導体が所望の優れた特性を兼ね備えていることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、
〔1〕 一般式(I):
【0014】
【化4】

【0015】
〔式中、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)を表す〕
で示されるアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ;
〔2〕 一般式(I)において、Rがメチル基である、前記〔1〕記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ;
〔3〕 一般式(I)において、Rが−CHCOOHである、前記〔1〕記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ;
〔4〕 一般式(II):
【0016】
【化5】

【0017】
で示される1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−カルボキシメチル−1−デホルミルアスコクロリン、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ;
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグからなるPPARγ活性化剤;
〔6〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグを有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物;
〔7〕 生活習慣病予防又は治療用である、前記〔6〕記載の医薬組成物;
〔8〕 生活習慣病が、糖尿病である、前記〔7〕記載の医薬組成物;
〔9〕 一般式(III):
【0018】
【化6】

【0019】
〔式中、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)を表す〕
で示されるアスコクロリン又はその誘導体化合物を、アセチルメチレン基を有する試薬と反応させることを含む、前記〔1〕記載のアスコクロリン誘導体化合物の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来のアスコクロリン系化合物では達成できなかった、ピオグリタゾンに匹敵し、あるいはそれを上回る薬効(たとえばインビボでの糖尿病抑制作用、インビトロでのPPARγ活性化作用及び効果係数など)を示す、新規な有用化合物が提供される。本発明の化合物は、糖尿病モデル動物であるdb/dbマウスを用いた実験で、明らかな糖尿病の症状の改善、すなわち血糖値の低下、尿糖値の低下、飲水量の低下等々の優れた効果を示す。また、本発明の化合物は、AS−6、MACについて充分に調べられている結果から、高血圧、高コレステロール血症にも有効であり、肥満を含む生活習慣病一般について有効であると考えられる。したがって、本発明の化合物を用いて、新規なPPARγ活性化剤、医薬組成物、特に生活習慣病又はその予備的症状の予防又は治療用の医薬組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、そのような新規有用化合物の製造方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一般式(I):
【0022】
【化7】

【0023】
で表されるアスコクロリンのアセトキシメチレン誘導体は、すべてが新規化合物である。
【0024】
本発明の一般式(I)で表されるアスコクロリン誘導体において、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)である。好ましくは、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、最も好ましくはメチル基である。
【0025】
は、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)である。好ましくは、Rは、−C2nCOOH(nは1〜3の整数)、最も好ましくは−CHCOOHである。
【0026】
したがって、本発明の化合物の好ましい具体例としては、1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−メトキシカルボニルメチル−1−デホルミルアスコクロリン(ASK−9−me−ACT)、1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−カルボキシメチル−1−デホルミルアスコクロリン(ASK−9−ACT)、1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−エトキシカルボニルメチル−1−デホルミルアスコクロリン(ASK−9−et−ACT)、1−(2−アセチルエチニル)−4−O−カルボキシメチル−1−デホルミルアスコクロリン(AS−6−ACT)、1−(2−アセチルエチニル)−4−O−メチル−1−デホルミルアスコクロリン(MAC−ACT)などが挙げられる。インビボでの糖尿病抑制作用、インビトロでのPPARγ活性化作用の点から、最も好ましくはASK−9−ACT、すなわち:
【0027】
【化8】

【0028】
である。
【0029】
なお、本発明の化合物は、AS−6、MACと共通の基本骨格を有しており、AS−6、MACについて知られている高血圧、高コレステロール血症、肥満等に対する有効性を含め、生活習慣病全般に対して有効であると考えられる。
【0030】
本発明の化合物は、アスコクロリン又はその誘導体から、公知の一般的な合成技術によって容易に高収率で合成することができる。具体的には、たとえば、一般式(III):
【0031】
【化9】

【0032】
〔式中、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)を表す〕
で示されるアスコクロリン又はその誘導体化合物を、アセチルメチレン基を有する試薬と反応させることにより、1位の炭素原子に結合している−CHO(アルデヒド)基を−CH=CH−COCH(2−アセチルエチニル)基にすることによって本発明の化合物を得ることができる。アセチルメチレン基を有する試薬としては、一般的にアセチルメチレン基を有するWittig試薬であれば特に制限はないが、たとえば市販の(アセチルメチレン)トリフェニルフォスフォランが挙げられる。本発明の化合物の製造の具体的な一例を後述する実施例1及び図1に示す。
【0033】
本発明の化合物は、薬理学的に許容されうる塩、エステル、プロドラッグの形態であってもよい。薬理学的に許容されうる塩としては、特に制限はないが、たとえば塩酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩などが挙げられる。また、本発明の化合物又はその塩は、水和物のような溶媒和物の形態であってもよい。同様に、エステルについても特に制限はない。プロドラッグとしては、たとえば、ASK−9−me−ACTのように、生体内で加水分解されてASK−9−ACTになりうるものが挙げられる。したがって、ASK−9−me−ACTはそれ自身本発明の化合物でもあるが、ASK−9−ACTのプロドラッグでもある。
【0034】
本発明の化合物は、PPARγ活性化作用を有するので、PPARγ活性化剤としてインビボ又はインビトロで医療目的、研究目的などの種々の目的のために使用することができる。
【0035】
また、本発明の化合物は、任意の投与経路でヒト又は動物に投与することができる。たとえば、経口、鼻腔内、非経口又は局所的に、好ましくは正確な容量を1回に投与しうる適当な単位用量形態で投与することができる。本発明の化合物は、純品の形で投与してもよいが、適当な医薬組成物の形として使用してもよく、疾患の程度に応じて調節可能に設定した投薬量を選定できるように製剤化することが好ましい。
【0036】
医薬組成物の剤型としては、たとえば錠剤、顆粒剤、座剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放製剤、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤、軟膏剤、ゲル化剤などのような、固体、半固体、凍結乾燥粉末又は液体投与形態が挙げられる。この組成物は、このような所望の各種剤型に適した一般的な通常の製薬用担体又は賦形剤及び本発明の化合物を含み、さらにその他の医薬、結合剤、崩壊剤、増量剤、被覆剤及び吸収補助剤などの添加物を含有していてもよい。
【0037】
具体的には、たとえばマンニット、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ゼラチン、シュクロース、炭酸マグネシウム、リン酸−2−カルシウム、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、界面活性剤、脂溶性の添加物、胆汁酸、リン脂質などが添加物として挙げられる。脂肪族系の合成界面活性剤又は有機溶媒可溶の高分子助剤を含有することは特に好ましい。これらの例としては、たとえば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ベントナイト、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等がある。
【0038】
一般に製剤上許容しうる医薬組成物は、投与しようとする剤型に応じて、本発明の化合物を約1〜99%(重量)含有し、適当な医薬及び/又は添加物を約99〜1%含有している。好ましくは、本発明の医薬組成物は、有効成分として本発明の化合物を約5〜75%含有し、残りは適当な医薬品用賦形剤を含有している。
【0039】
本発明の化合物を医薬組成物として用いる場合の投与量は、疾患の種類や症状、投与対象の体重、年齢、性別、投与経路などの種々の要因によって適宜選択されるが、一般的には、生活習慣病又はその予備的症状を改善するために有効な一日あたりの投与量は、成人の体重kgあたりで0.01〜100mg/kgであり、望ましくは0.1〜10mg/kgである。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0040】
実施例1:本発明の化合物の製造
A.AS−6のメチル化、メチルエステル化(ASK−9−meの合成)
4−カルボキシメチルアスコクロリン(AS−6)(1.50g、3.24mmol)をTHF(〜70ml)に溶かし、これに粉末無水炭酸カリ(6g)、沃化メチル(6ml)を加えて3時間加熱還流(reflux)し、冷却した。ろ過後、ガラスフィルターをTHFで洗浄し、THF溶液から溶媒をエバポレーターで減圧留去した。
残留物をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(担体=シリカゲル(中性、〜80g)、溶出剤=酢酸エチル:へキサン(1:2))により精製し、乾燥して、1.59gの2−O−メチル−4−O−メトキシカルボニルメチルアスコクロリン(ASK−9−me)を無色粘ちょう油状物として得た(収率:99.6%)。
NMR(CDCl、300Mhz):0.69(3H,s)、0.78〜0.82(6H,dd)、1.53〜1.68(1H,m)1.89〜1.95(5H,m)、2.32〜2.47(3H,m)、2.61(3H,s)、3.81(3H,s)、3.82(3H,s)、4.61(2H,s)、5.36〜5.46(2H,dd)、5.88(1H,d,16.2Hz)、10.40(1H,s)
【0041】
B.ASK−9−meのアセチルメチレン化(ASK−9−me−ACTの合成)
ASK−9−me(1.59g、3.23mmol)、(アセチルメチレン)トリフェニルフォスフォラン(1.08g、3.40mmol)をトルエン(〜30ml)に加え、120℃で一昼夜加熱攪拌した。溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(担体=シリカゲル(中性、〜80g)、溶出剤=酢酸エチル:へキサン(1:2))により精製し、乾燥して、1.59gの1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−メトキシカルボニルメチル−1−デホルミルアスコクロリン(ASK−9−me−ACT)を無色粘ちょう油状物として得た(収率:92.7%)。
NMR(CDCl、300Mhz):0.69(3H,s)、0.78〜0.83(6H,dd)、1.57〜1.70(1H,m)1.81〜1.96(5H,m)、2.36〜2.48(8H,m)、3.59〜3.66(5H,bs)、3.81(3H,s)、4.61(2H,s)、5.35〜5.47(2H,dd)、5.88(1H,d,16.5Hz)、6.67(1H,d,16.5Hz)7.61(1H,d,16.5Hz)
【0042】
C.ASK−9−me−ACTの加水分解(ASK−9−ACTの合成)
ASK−9−me−ACT(1.59g、3.00mmol)、20%炭酸カリ水溶液(6ml)、メタノール(〜60ml)の溶液を1時間加熱還流した。3N塩酸水溶液で酸性化し、酢酸エチルで抽出し、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ過し、ろ過物を酢酸エチルでよく洗い、エバポレーターで溶媒を留去した。残留物をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(担体=シリカゲル(中性、〜80g)、溶出剤=酢酸エチル:メタノール(6:1))により精製し、乾燥して1.42gの1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−カルボキシメチル−1−デホルミルアスコクロリン(ASK−9−ACT)を黄色結晶として得た(収率:91.2%)。
NMR(CDCl、300Mhz):0.70(3H,s)、0.80〜0.85(6H,dd)、1.57〜1.70(1H,m)1.93〜1.96(5H,m)、2.40〜2.52(8H,m)、3.58(2H,d)、3.63(3H,s)、4.61(2H,s)、5.35〜5.47(2H,dd)、5.87(1H,d,16.5Hz)、6.69(1H,d,16.2Hz)7.63(1H,d,16.2Hz)
これらの合成の概略を、図1に示す。
【0043】
試験例1:ASK−9−ACT及びピオグリタゾンのPPARγ活性化作用及び増殖抑制作用
A.PPARγ活性化作用
U2OS細胞(1×10/ml)を培地(DMEMに5%FBS、50μg/mlカナマイシン、8μg/mlタイロシンを添加したもの;以下も同じ)中で一晩培養してプラスチック培養皿に進展させ、Gal4レポータープラスミドpSV−GAL4−luc、Gal4−PPARγ融合蛋白発現プラスミドpCMV−Gal4−PPARγ、β−ガラクトシダーゼ発現プラスミドpCMV−β−Galを10:2:1で含む合計1μgのDNAを、リポソーム法(Fugene, Roche Diagnosis)によって細胞に導入した。一晩培養した後、細胞をトリプシン液(0.25%トリプシン、5mM EDTA、PBS中)ではがして2mlの培地に懸濁し、その0.1mlを0.1mlの薬剤を含む培地と混合し、平底マイクロプレートで20時間培養した。薬剤としては、ピオグリタゾン又はASK−9−ACT(それぞれ0.001、0.01、0.1、1.0、10又は100μM)を用いた。
培養後、培地を除き、細胞をpassive lysis buffer(Promega社より入手)20μlで溶解し、ルシフェラーゼ活性及びβ−ガラクトシダーゼ活性を、化学発光法を用いた市販の測定キット(「Bright-Glo Luciferase Assay System」、Promega社製;及び「Luminescent β-Galactosidase Reporter System」、Clontech社製)で測定した。ルシフェラーゼによる発光頻度をβ−ガラクトシダーゼによる発光頻度で割り、標準化したものをrelative luciferase unit(RLU)とし、薬剤添加群のRLUを対照(薬剤無添加)群のRLUで割った値(stimulation index)によりPPARγ活性化作用を評価した。
【0044】
結果を図2に示す。データは3個の独立した培養から得た値の平均値で示した。図中、●=ピオグリタゾン、○=ASK−9−ACTである。この結果から、ASK−9−ACTは、ピオグリタゾンと比較してより低濃度で有効であり、ピオグリタゾンの約1/10程度の濃度でピオグリタゾンと匹敵する作用を示すことが明らかになった。
【0045】
B.増殖阻害作用
U2OS細胞(1×10/ml)0.1mlと薬剤(上記と同じ)を含む培地0.1mlとを混合して平底マイクロプレートで20時間培養した。[H]チミジンを0.5μCi/wellで加えて、さらに4時間培養した後、培地を除き、細胞をトリプシン液50μlではがし、ハーベスターによりグラスフィルター上にトラップし、取り込まれた放射活性を測定した。対照(薬剤無添加)群の取り込み放射活性を100%としたときの薬剤添加群の取り込み放射活性の百分率によって細胞増殖を評価した。
結果を図3に示す。データは3個の独立した培養から得た値の平均値である。図中、●=ピオグリタゾン、○=ASK−9−ACTである。この結果から、ASK−9−ACTの細胞増殖阻害作用は、ピオグリタゾンと同程度又はやや低い程度であることがわかった。
【0046】
試験例2:ASK−9−ACT及びピオグリタゾンの薬効の比較
PPARγ活性化作用と増殖抑制作用を試験例1に示した方法で評価し、ASK−9−ACTとピオグリタゾンとの薬効を比較した。対照(薬剤無添加)群と比較して、PPARγを150倍に活性化する(即ち、stimulation indexが150になる)のに要する薬剤の濃度をED150値、[H]チミジンの取り込みを50%阻害するのに要する薬剤の濃度をIC50、IC50/ED150を効果係数とした。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
この結果から、ASK−9−ACTはピオグリタゾンと比較して効果係数がはるかに高く、約3倍近い値を示すことがわかった。
【0049】
試験例3:ASK−9−ACT及びピオグリタゾンの糖尿病抑制効果の比較
一群3匹の7週齢の雌db/dbマウスに表2に示す各薬剤を3回、即ち0日目、2日目、4日目にip投与した。7日目に眼窩静脈叢より採血し、血漿中の血糖値と尿糖値を市販の測定キット(カイノス)を用いて測定した。薬剤は、DMSOに溶解し、0.5% Tween 80/PBSで10倍に希釈して、0.3mlずつ(表2に示す投与量となる)投与した。飲水量は、8日目〜10日目の3日間について、1日・1匹あたりの平均値を算出して示した。尿糖値が1000mg/dlを超えたものを糖尿病の発症と見なし、発症頻度を決めた。比較のため、薬剤を投与しない動物(無処置群)についても同様の測定を行った。
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
この結果からわかるように、インビボにおいても、ASK−9−ACTはピオグリタゾン(PG)と同等又はそれを上回る血糖値低下作用を示した。
比較例1
試験例3と同様にして、薬剤としてピオグリタゾンとAS−6とを用いて糖尿病抑制効果を比較した。
結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
ピオグリタゾンでは有意な効果が見られたのに対し、AS−6は、毒性を示さない最大濃度(25mg/kg)で用いても無処置群と比較して有意な効果を示さなかった。
【0054】
比較例2
試験例3と同様にして、薬剤としてピオグリタゾンとMACとを用いて糖尿病抑制効果を比較した。
結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
ピオグリタゾンでは有意な効果が見られたのに対し、MACは、毒性を示さない最大濃度(25mg/kg)で用いても無処置群と比較して有意な効果を示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、ASK−9−ACT及びその中間体(又はプロドラッグ)の構造及び製造工程を示す図である。
【図2】図2は、ASK−9−ACT及びピオグリタゾンのPPARγ活性化作用の比較を示す図である。
【図3】図3は、ASK−9−ACT及びピオグリタゾンの細胞増殖抑制作用の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

〔式中、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)を表す〕
で示されるアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項2】
一般式(I)において、Rがメチル基である、請求項1記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項3】
一般式(I)において、Rが−CHCOOHである、請求項1記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項4】
一般式(II):
【化2】

で示される1−(2−アセチルエチニル)−2−O−メチル−4−O−カルボキシメチル−1−デホルミルアスコクロリン、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグからなるPPARγ活性化剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のアスコクロリン誘導体化合物、その薬理学的に許容されうる塩、又はそのプロドラッグを有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
生活習慣病予防又は治療用である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
生活習慣病が、糖尿病である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
一般式(III):
【化3】

〔式中、Rは、水素原子又は−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、−C2n+1(nは1〜5の整数を表す)、−C2nCOOR’(nは1〜5の整数、R’は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、又は−COR''(R''はピリジル基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたアミノ基、核にハロゲン原子を有するフェノキシアルキル基、核に炭素数1〜3のアルコキシ基を有するフェニル基、又は核に炭素数1〜3のアルコキシカルボニル基を有するフェニル基を表す)を表す〕
で示されるアスコクロリン又はその誘導体化合物を、アセチルメチレン基を有する試薬と反応させることを含む、請求項1記載のアスコクロリン誘導体化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−51731(P2009−51731A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339624(P2005−339624)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(801000038)よこはまティーエルオー株式会社 (31)
【Fターム(参考)】