説明

新規アポトーシス誘導タンパク質及びそれをコードする遺伝子

【課題】アポトーシス誘導活性を有する新規タンパク質、これをコードするDNAからなる遺伝子、前記タンパク質に対する抗体、前記遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターが導入された形質転換体、アポトーシス誘導剤等を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するタンパク質や、該タンパク質をコードするDNAからなる遺伝子や、前記タンパク質に対する抗体や、前記遺伝子を含む組換えベクターや、該組換えベクターが導入された形質転換体を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシス誘導活性を有する新規タンパク質及びこれをコードするDNAからなる遺伝子に関する。また本発明は、上記タンパク質に対する抗体、上記遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターが導入された形質転換体に関する。さらに本発明は、上記タンパク質、上記遺伝子又は上記組換えベクターを含有するアポトーシス誘導剤や、上記タンパク質、上記遺伝子又は上記組換えベクターを有効成分とする医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、エネルギー生産、増殖、アポトーシスなどの様々な細胞過程に関与する極めて重要な細胞器官である(非特許文献1)。ミトコンドリアは、分裂及び融合により形態を頻繁に変化させる(非特許文献2)。ミトコンドリアの分裂及び融合に関与するタンパク質は、下等真核生物及び高等真核生物で保存されており、またこのタンパク質は、ミトコンドリア依存性のアポトーシスを制御している(非特許文献3)。これらのタンパク質に加えて、ミトコンドリア特異的なリン脂質であるカルジオリピン(CL:cardiolipin)が、ミトコンドリアの膜の内側から外側に移動した後、ミトコンドリアの分裂及び融合の調節因子として機能することが明らかにされた(非特許文献4〜8)。ミトコンドリアの分裂及び融合のメカニズムは徐々に明らかとされつつあるが、生細胞中のミトコンドリアのネットワーク形成についてはほとんど研究が進んでいない。
【0003】
一方、細胞のアポトーシス(細胞死)は、生体組織を正常な状態に保つうえで重要な現象として知られる。例えばがん細胞は、アポトーシスの機構が正常に機能せずに無限に分裂増殖を行う細胞と規定することができる。
アポトーシス(細胞死)は、種々の物質によって誘導されることが知られている。従って、そのような物質を標的細胞(例えばがん細胞、ウイルス感染細胞)に付与することによって人為的にアポトーシスを誘導し、当該標的細胞を死滅させることが可能である。アポトーシスを誘導し得る物質として例えば、特許文献1には、アポトーシスを誘導し得る物質としてデング熱ウイルス由来のタンパク質が記載されており、特許文献2には、クサリヘビ科のヘビの毒腺由来のアポトーシス誘導性タンパク質が記載されており、特許文献3には、細胞表面レセプターであるFasを介した細胞のアポトーシス誘導を増強し得るポリペプチドが記載されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2001/096376号パンフレット
【特許文献2】特開平11−1496号公報
【特許文献3】特開2001−193号公報
【非特許文献1】D. D. Newmeyer et al., Cell 112, 481 (2003)
【非特許文献2】M. P. Yaffe et al., Science 283, 1493 (1999)
【非特許文献3】R. J. Youle et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 6, 657 (2005)
【非特許文献4】B. Jeanie et al., Biochim. Biophys. Acta. 1585, 97 (2002)
【非特許文献5】M. Garcia-Fernandez et al., Cell Growth Differ. 13, 449 (2002)
【非特許文献6】M. Sorice et al., Cell Death Differ. 11, 1133 (2004)
【非特許文献7】M. D. Esposti et al., Cell Death Differ. 10, 1300 (2003)
【非特許文献8】S. Y. Chioi et al., Nat. Cell Biol. 8, 1255 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アポトーシス誘導活性を有する新規タンパク質、これをコードするDNAからなる遺伝子、前記タンパク質に対する抗体、前記遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターが導入された形質転換体、アポトーシス誘導剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上皮細胞増殖因子(EGF)で刺激したA431細胞の溶解物を用いたタンパク質リン酸化シグナル解析を行うことによって、CL及びホスファチジン酸に対する結合活性を有するタンパク質(cardiolipin and phosphatidic acid binding protein;以下、「CLPABP」という。)を同定し、該CLPABPのcDNAが、ヒトゲノム解析計画によりクローン化されたgi No. 14149786(Genbank Accession No. NM_032129_1)であることを見い出し、さらには、該CLPABPを細胞内で過剰発現させるとアポトーシスが誘導されることを見い出し、本発明を完成するに至った。該CLPABPの推定アミノ酸配列を図1(配列番号2)に記載する。また、該CLPABPの推定機能領域と考えられる、2つのプレックストリン相同(PH)領域の位置を図2に示す。
【0007】
すなわち本発明は、(1)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子や、(2)配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAからなる遺伝子や、(3)前記(2)に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子や、(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遺伝子を含み、かつアポトーシス誘導タンパク質を発現することができる組換えベクターや、(5)前記(4)に記載の組換えベクターが導入され、かつアポトーシス誘導タンパク質を発現する形質転換体や、(6)形質転換体が動物であることを特徴とする前記(5)に記載の形質転換体に関する。
【0008】
また本発明は、(7)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、(8)配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質や、(9)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質や、(10)配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質や、(11)配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号61−318のアミノ酸配列又はアミノ酸番号85−318のアミノ酸配列である前記(8)又は(10)に記載のタンパク質や、(12)前記(7)〜(11)のいずれかに記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質や、(13)前記(7)〜(11)のいずれかに記載のタンパク質、又は前記(12)に記載の融合タンパク質に対する抗体や、(14)前記(7)〜(11)のいずれかに記載のタンパク質、又は前記(12)に記載の融合タンパク質を含有するアポトーシス誘導剤や、(15)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遺伝子、又は前記(4)に記載の組換えベクターを含有するアポトーシス誘導剤に関する。
【0009】
さらに本発明は、(16)前記(7)〜(11)のいずれかに記載のタンパク質、又は前記(12)に記載の融合タンパク質を、対象とする細胞に発現させることにより、該細胞のアポトーシスを誘導する方法や、(17)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遺伝子を、対象とする細胞に導入することにより上記タンパク質を発現させる、前記(16)に記載の方法や、(18)前記(7)〜(11)のいずれかに記載のタンパク質、又は前記(12)に記載の融合タンパク質を有効成分とする医薬や、(19)アポトーシスを誘発することが予防・治療上有効な疾患の予防・治療剤である前記(18)記載の医薬や、(20)疾患が、がん、自己免疫疾患、ウイルス感染症、内分泌疾患、血液疾患、臓器過形成、血管形成術後再狭窄及びがん切除術後の再発からなる群より選択される前記(19)記載の医薬に関する。
【発明の効果】
【0010】
アポトーシス誘導活性を有する本発明のタンパク質や、該タンパク質をコードする本発明の遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、本発明のタンパク質に対する抗体等は、ミトコンドリアネットワーク形成やアポトーシスの分子レベルでの機構の解明に利用することができる。また、本発明のタンパク質や、該タンパク質をコードする本発明の遺伝子や、該遺伝子を含む組換えベクター等を用いると、アポトーシスを誘導させることができるので、本発明のタンパク質や遺伝子等を用いて疾患細胞においてアポトーシスを誘導することにより、疾患の予防・治療に応用できる可能性がある。また、本発明のタンパク質はそれ自身が、細胞内においてミトコンドリアやアポトゾーム(アポトーシスの実行場所)に局在する性質を有しているため、他のアポトーシス誘導剤に比べてより効果的な細胞内ターゲティングが可能であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の遺伝子としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子や、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子や、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAからなる遺伝子や、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子を例示することができる。なお、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868は、配列番号2に示されるアミノ酸配列のコード領域である。
【0012】
本発明の遺伝子の由来は特に制限されないが、例えばヒト(gi No. 14149786;Genbank Accession No. NM_032129_1)、アカゲザル(gi No. 108995452;Genbank Accession No. XR_010934)、イヌ(gi No. 73956457;Genbank Accession No. XM_546726)、ウシ(gi No. 76637790;Genbank Accession No. XM_598312)、ラット(gi No. 109477818;Genbank Accession No. XM_001078287)、マウス(gi No. 22749601;Genbank Accession No. BC031374)等の哺乳類や、フグ(gi No. 47228599;Genbank Accession No. CAAE01014991)、ゼブラフィッシュ(gi No. 125852117;Genbank Accession No. XM_001345356)等の魚類や、アフリカツメガエル(gi No. 50415259, 49118112;Genbank Accession No. BC077452, BC073066)等の両生類などを例示することができる。本発明の遺伝子は、これらのDNA配列情報等に基づき、例えばヒト等の遺伝子ライブラリーやcDNAライブラリーなどから公知の方法、例えば全RNAを用いるRACE法により調製することができる。
【0013】
また、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0014】
また、上記「配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」は、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部をプローブとして、各種DNAライブラリーに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行ない、該プローブにハイブリダイズするDNAを単離することにより得ることもできる。かかるDNAを取得するためのハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC,0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を適宜組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0015】
例えば、上記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0016】
また、上記「配列の一部」とは、該一部の配列又はその配列に相補的な配列が、アポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードする限り特に制限されず、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号216−989の塩基配列(配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号61−318のアミノ酸配列に対応)や、配列番号1に示される塩基配列の塩基番号288−989の塩基配列(配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号85−318のアミノ酸配列に対応)を例示することができる。ヒト由来のCLPABPの場合、配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号85−192及び211−318がプレックストリン相同領域(それぞれPH1領域及びPH2領域)として知られている。他の生物由来のCLPABPにおけるPH領域の有無は未だ確認されていないが、ヒトCLPABPのPH領域に対して相同性の高い領域が存在していることが予想される。
【0017】
本発明のタンパク質としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質や、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質や、配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質を例示することができる。ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号61−318のアミノ酸配列やアミノ酸番号85−318のアミノ酸配列を好ましく例示することができる。なお、本発明のタンパク質はそのDNA配列情報等に基づき公知の方法で調製することができる。本発明のタンパク質の由来は特に制限されるものではないが、例えばヒト、アカゲザル、イヌ、ウシ、ラット、マウス等の哺乳類や、フグ、ゼブラフィッシュ等の魚類や、アフリカツメガエル等の両生類などを例示することができる。
【0018】
あるタンパク質がアポトーシス誘導活性を有しているか否かは、そのタンパク質で処理したり、そのタンパク質を細胞内で発現させたりした場合に、そのような処理を行わなかった場合又は細胞内で発現させなかった場合に比べて、アポトーシスが生じる細胞の割合が向上するかどうかにより確認することができる。アポトーシスが生じる細胞の割合については、アポトーシスに伴うDNA断片化や細胞膜構造変化やミトコンドリア膜電位消失やアポトーシス関連の酵素活性を指標とする公知の検出法により容易に行うことができる。
【0019】
本発明の融合タンパク質としては、本件タンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、Mycタグ、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質等の精製や、本発明のタンパク質と相互作用するタンパク質の検出や、本発明のタンパク質等に対する抗体の定量用などとしても有用である。
【0020】
本発明の抗体としては、上記本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体(本発明のタンパク質に対する抗体)であれば特に制限はされず、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらはCLPABP等の本発明のタンパク質又はその一部を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の抗体は、例えば、本発明のタンパク質の細胞内での発現を定量や、該タンパク質の細胞内での発現の有無を検出に用いることができるほか、ミトコンドリアネットワーク形成の分子レベルでの機構を解明する上でも有用である。
【0021】
上記の本発明の抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に本発明のタンパク質若しくはエピトープを含むその断片、又は該タンパク質を膜表面に発現した細胞を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。
【0022】
本発明のタンパク質に対する一本鎖抗体をつくるためには、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778号)を適用することができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウス又は他の哺乳動物等を利用したり、上記抗体を用いて、本発明のタンパク質を発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。
【0023】
また前記モノクローナル抗体等の抗体に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又は3H等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることによって、本発明のタンパク質の機能解析を行うことができる。また本発明の抗体を用いる免疫学的測定方法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、血球凝集反応法、オクタロニー法等の方法を挙げることができる。
【0024】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明の遺伝子を含み、かつアポトーシス誘導活性を有する本発明のタンパク質を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子を発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。例えば、本発明の遺伝子の5'と3'側双方の非翻訳領域を除いたORF部分のcDNA(配列番号1の塩基番号36〜1868)を適切なプロモーターの下流につないだコンストラクトを好適に例示することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明の遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。発現ベクターとしては、動物細胞用発現ベクター、酵母用発現ベクター、細菌用発現ベクター等を用いることができるが、動物細胞用発現ベクターを用いた組換えベクターが好ましい。
【0025】
動物細胞用の発現ベクターとして、例えば、pcDNA3(Stratagene社製)、pCMV-FLAG6a(Sigma社製)、pEGFP-C3(Clontech社製)、pcDM8(フナコシ社より市販)、pAGE107〔特開平3-22979; Cytotechnology, 3, 133,(1990)〕、pAS3-3(特開平2-227075)、pCDM8〔Nature, 329, 840,(1987)〕、pcDNAI/Amp(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103〔J.Blochem., 101, 1307(1987)〕、pAGE210等を例示することができる。動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。
【0026】
酵母用の発現ベクターとして、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、Ycp5O(ATCC37419)、pHS19、pHS15等を例示することができる。酵母用のプロモーターとしては、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等のプロモーターを挙げることができる。
【0027】
細菌用の発現ベクターとしては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもべーリンガーマンハイム社より市販)、pGEX4T(Amersham Bioscience社製)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agrc.Biol.Chem., 48, 669(1984)〕、PLSA1〔Agrc. Blo1. Chem., 53, 277(1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescriptII SK(+)、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET-3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene, 33, 103(1985)〕、pUC19〔Gene, 33, 103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pQE-30(QIAGEN社製)等が挙げられる。細菌用のプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター(P trp)、lacプロモーター(P lac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。
【0028】
本発明の形質転換体としては、本発明の組換えベクターが導入され、かつアポトーシス誘導活性を有する本発明のタンパク質を発現する形質転換体である限り特に制限されず、形質転換動物(細胞、組織、個体)、形質転換酵母、形質転換細菌、を挙げることができるが、形質転換動物(細胞、組織、個体)が好ましい。本発明の形質転換体における宿主細胞として、より具体的には、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowes悪性黒色腫細胞等の動物細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞や、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、シロイヌナズナ等の植物細胞等を挙げることができる。
【0029】
また、本発明の組換えベクターの宿主細胞への導入方法は、宿主細胞の種類に応じて適切な方法を用いることができる。該導入方法として、具体的には、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染等を例示することができる。
【0030】
本発明のタンパク質(及び融合タンパク質)は少なくとも一種の細胞に対して高いアポトーシス誘導活性を有し得る。従って、本発明のタンパク質(及び融合タンパク質)を始めとして、これら本発明のタンパク質等をコードする本発明の遺伝子や、これら本発明のタンパク質等を発現し得る本発明の組換えベクターは、アポトーシス誘導剤の主成分として好適に用いることができる。よって、本発明のアポトーシス誘導剤は、本発明のタンパク質、本発明の融合タンパク質、本発明の遺伝子、及び本発明の組換えベクターからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上を含有する。
【0031】
本発明によって提供されるアポトーシス誘導剤は、生体内又は生体外において、標的細胞(例えばヒトその他の哺乳動物細胞)にアポトーシスを起こすために用いられ得る組成物(医薬)であり得る。本発明のアポトーシス誘導剤は、アポトーシスを誘発することが予防・治療上有効な疾患の予防・治療剤として用いることができる。該疾患としては、がん、自己免疫疾患、ウイルス感染症、内分泌疾患、血液疾患、臓器過形成、血管形成術後再狭窄及びがん切除術後の再発等を例示することができる。
【0032】
本発明のタンパク質や融合タンパク質の他、アポトーシス誘導剤に含まれる担体すなわち副次的成分(典型的には用途に応じて薬学的に許容され得るもの)としては、アポトーシス誘導剤の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、水(例えば生理食塩水、種々の緩衝液であり得る。)、有機溶媒、種々の充填剤、増量剤、結合剤、滑剤、付湿剤、表面活性剤、賦形剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、香料等が挙げられる。
【0033】
アポトーシス誘導剤の形態に関しては特に限定はない。内用剤若しくは外用剤の典型的な形態として、軟膏、液剤(例えば点眼薬、注射液)、懸濁剤、乳剤、エアロゾル(スプレー剤)、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、ゲル、等が挙げられる。かかる誘導剤(組成物)の形態に応じて、主成分たる本発明のタンパク質と組み合わせるべき担体その他の副次的成分の内容(種類)は異なり得る。例えば、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液(注射液等)を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、本発明のアポトーシス誘導剤の有効成分(本発明のタンパク質、本発明の融合タンパク質、本発明の遺伝子又は本発明の組換えベクター)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の薬剤(組成物)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。
【0034】
本発明のアポトーシス誘導剤は、その形態及び目的に応じた方法や用量で使用することができる。例えば、液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射或いは灌腸によって患者に投与することができる。或いは、錠剤等の固体形態のものは経口投与することができる。また、体外において使用する場合は、適量の本発明の有効成分(本発明のタンパク質、本発明の融合タンパク質、本発明の遺伝子又は本発明の組換えベクター)を含有する液剤を対象物(皮膚表面の患部等)の表面に直接スプレーするか、或いは、当該液剤で濡れた布や紙で対象物の表面を拭くとよい。これらは例示にすぎず、従来のアポトーシス誘導剤と同じ形態及び/又は使用方法を適用することができる。また、DDS(ドラッグデリバリーシステム)の適用により、標的とする患部(器官、組織、細胞等)に、本発明のアポトーシス誘導剤を局所的に高濃度に供給することが可能となる。また、アポトーシス誘導剤(医薬)の用量は、投与方法、投与の目的、疾患の種類、症状、患者の性別、体重、年齢等に応じて個々に設定されればよく、特に限定されない。
【0035】
なお、本発明のアポトーシス誘導剤のうち、その有効成分が本発明の遺伝子や本発明の組換えベクターである場合、そのアポトーシス誘導剤は、いわゆる遺伝子治療に使用する素材として用い得る。例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子(典型的にはDNAセグメント、或いはRNAセグメント)を適当なベクターに組み込み、標的とする患部(器官、組織、細胞等)に導入することにより、生体(細胞)内で本発明のタンパク質や融合タンパク質を発現させることが可能となる。したがって、本発明のタンパク質や融合タンパク質を有効成分とするアポトーシス誘導剤と同様に、アポトーシスを誘発することが予防・治療上有効な疾患の予防・治療剤として用い得る。
本発明の遺伝子や組換えベクターを有効成分とするアポトーシス誘導剤(医薬)は、標的とする患部の細胞に選択的に導入することにより、他の正常細胞を損傷させることなく、患部の細胞を選択的に死滅させることが可能となる点で、本発明のタンパク質や融合タンパク質を有効成分とするアポトーシス誘導剤に比べて好ましい。
【0036】
本発明の方法は、本発明のタンパク質又は本発明の融合タンパク質を、対象とする細胞に発現させることにより、該細胞のアポトーシスを誘導する方法であれば特に制限されないが、本発明の遺伝子を、対象とする細胞に導入することにより本発明のタンパク質を発現させることにより、該細胞のアポトーシスを誘導する方法を好ましく例示することができる。本発明のタンパク質等を対象とする細胞に発現させる方法は特に制限されず、例えば本発明の組換えベクターを公知の方法で対象細胞に形質転換するなどの方法を用いることができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
[各種ヒト臓器及び培養細胞におけるCLPABP遺伝子の発現]
CLPABP遺伝子(配列番号1)の配列に基づいて、PCR用のプライマーを設計した。フォワードプライマー(gtttggatcctctgtgcctgcctctgaccct:配列番号3)は、CLPABPの塩基配列(配列番号1)の塩基番号1536−1556に対応する配列を含んでおり、リバースプライマー(gaaagaattctctcagatccactgcacaagccc:配列番号4)はCLPABPの塩基配列(配列番号1)の塩基番号1851−1871に対応する配列を含んでいる。市販のヒト由来の各種のcDNAライブラリー(クロンテック社製のMTCパネル)を鋳型とし、前述の両プライマーを用いてPCR反応を行った。このPCR反応の条件は、94℃で1分間保持した後、94℃30秒間、55℃30秒間、72℃1分間を1サイクルとしてこれを30サイクル行い、次いで、72℃で5分間保持するという条件であった。
【0039】
得られたそれぞれのPCR産物を、2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。前述の両プライマーにより特異的に増幅されたと考えられる転写産物(355bp)のバンドを図3に示す。図3に示されているように、CLPABP遺伝子は各種のヒト臓器由来の細胞においてほぼ同程度に発現しており(図3左)、また、各種の培養細胞においても同様に発現している(図3右)ことが分かった。
【実施例2】
【0040】
[内因性CLPABP及び組換えCLPABPの培養細胞における発現]
RZPD German Resource Center for Genome Researchより購入したCLPABP遺伝子を鋳型としたPCRや、PCR産物の制限酵素による切断によって、CLPABP遺伝子断片を得た。該断片を、該遺伝子が発現し得るように、pcDNA3 vector(Stratagene社製)やpCMV−FLAG6a(Sigma社製)(アミノ末端側にFLAGタグを付加しうるベクター)に組み込んだ。得られた両プラスミドを、それぞれpcDNA3−CLPABP、pCMV−FLAG−CLPABPと命名した。これらの両プラスミドを、エレクトロポーレーション法によりそれぞれCOS−7細胞へ導入し、COS−7/pcDNA3−CLPABP細胞と、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP細胞を得た。
【0041】
次に、これら3種の細胞について、以下のようなウエスタンブロット解析を行った。ダルベッコ改変イーグル培地に10%の牛胎児血清、100μg/mlストレプトマイシン及び100U/mlアンピシリンを加えた培地に、HEK293細胞、COS−7/pcDNA3−CLPABP細胞、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP細胞をそれぞれ添加し、5%CO2存在下、37℃にて培養した。これらの培養液を遠心分離して、各細胞の菌体をそれぞれ回収し、該菌体に抽出液(20mM Tris−HCl(pH 7.5); 1mM EDTA; 10mM DTT; 1%TritonX−100; 150mM NaCl; 10mM NaF; 1mM Na3VO4; protease inhibitor cocktail(Roche社製))を添加して混合し、菌体を破砕して細胞抽出液をそれぞれ得た。得られた細胞抽出液にSDSサンプル溶液を添加した後95℃で3分間変性し、これをSDS−PAGEした後、PVDF膜(Immobilon-P:ミリポア社製)に電気的に転写した。
【0042】
CLPABPの発現を検出する際に用いる抗体は以下のような方法で作製した。CLPABPのアミノ酸配列(配列番号2)のアミノ酸番号500−611のアミノ酸配列(以下、「500−611タンパク質」という)に対応する塩基配列からなるDNA断片を、GST融合タンパク質発現用プラスミドベクターに組み込み、得られたプラスミドを大腸菌に導入した。該大腸菌を培養し、得られた菌体からGST融合500−611タンパク質を精製した。得られたGST融合500−611タンパク質を抗原としてウサギに免疫し、このウサギから抗血清を採取した。採取した抗血清について、GST融合500−611タンパク質抗原を用いたアフィニティー精製を行い、精製抗体(抗CLPABP一次抗体)を得た。
【0043】
得られたこの抗CLPABP一次抗体を前述のPDVF膜と反応させ、該PDVF膜を洗浄した後、HRP(HorseRadish Peroxydase)標識二次抗体(アマシャムバイオサイエンス社製)を反応させ、該標識二次抗体に対するECL反応により検出した。検出機器としては、イメージアナライザー「LAS3000」(富士フィルム社製)を用いた。その結果を図4に示す。図4から分かるように、HEK293細胞、COS−7/pcDNA3−CLPABP細胞、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP細胞いずれの細胞でもCLPABPが発現しており、また、COS−7/pcDNA3−CLPABP細胞やCOS−7/pCMV−FLAG−CLPABP細胞では、CLPABPが実際に過剰発現していることが示された。
【実施例3】
【0044】
[内在性CLPABPの培養細胞内における局在]
HEK293細胞内のCLPABPの局在を調べるために、前述の抗CLPABP一次抗体やCMX-Rosamine(「Mito-Tracker Red」(登録商標))を用いて、HEK細胞について蛍光染色を行った。
具体的には、CLPABPの局在については、HEK293細胞を、5%ホルムアルデヒド存在下で10分間固定し、次いで、0.1%TritonX−100を含むPBSにて洗浄ならびに膜透過処理を行い、前述の抗CLPABP一次抗体を加え1時間静置した。その後洗浄し、2次抗体を加え45分間静置した。2次抗体はMolecular Probes社のAlexaシリーズを用いた。次いで、洗浄処理を行い、その後の該HEK293細胞を、LSM510Meta共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社製)にて観察した。また、ミトコンドリアの局在については、HEK293細胞を、5%ホルムアルデヒド存在下で10分間固定し、0.1%TritonX−100を含むPBSにて洗浄ならびに膜透過処理を行い、次いで、CMX-Rosamine(「Mito-Tracker Red」(登録商標))で処理した後、前述の顕微鏡で観察した。
前述の精製抗体(抗CLPABP抗体)を用いた結果を図5の左(a及びd)に、CMX-Rosamineを用いた結果を図5の中央(b及びe)に示した。また、図5のaとbを重ね合わせたものをcに、dとeを重ね合わせたものをfに示した。図5から分かるように、CLPABPはミトコンドリアの周囲に主に観察された。
【実施例4】
【0045】
[GFP融合CLPABPの細胞内局在]
上記実施例2におけるCLPABP遺伝子断片を、該遺伝子が発現し得るように、pEGFP−C3(アミノ末端側にGFPを付加しうるベクター;Clontech社製)に組み込んだ。得られたプラスミド(pGFP−CLPABP)を、エレクトロポーレーション法によりそれぞれCOS−7細胞へ導入し、COS−7/pGFP−CLPABP細胞を得た。該細胞を、5%ホルムアルデヒド存在下で10分間固定し、次いで、0.1%TritonX−100を含むPBSにて洗浄ならびに膜透過処理を行い、CMX-Rosamine(「Mito-Tracker Red」(登録商標))で処理した後、前述のLSM510Meta共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。GFP融合CLPABPの細胞内の局在を観察した結果を図6のa及びdに示す。また、CMX-Rosamineで染色により、ミトコンドリアの局在を観察した結果を図6のb及びeに示す。さらに、図6のaとbを重ね合わせたものをcに、dとeを重ね合わせたものをfに示した。図6の結果から、CLPABPはミトコンドリア上に存在することが示唆された。また、CLPABPは、小胞構造を形成し、それらは図6のd−fに示されているように、自己集合することにより、ミトコンドリアネットワークに貫入するように存在した。
【実施例5】
【0046】
[CLPABPのミトコンドリアネットワーク形成における影響]
ミトコンドリアは一般的に融合と分裂を繰り返し、そのネットワーク構造を形成することが知られる。前記図5及び図6の結果から、CLPABPはチューブ状のミトコンドリア近傍に存在し、そのネットワーク形成においてCLPABPが何らかの位置情報を提示していることが予想された。そこで、CLPABPとミトコンドリアの局在を経時的に観察し、その関係について解析した。
ミトコンドリア局在配列を融合したDsRedタンパク質を発現し得るpDsRed2−Mito(Clontech社製)プラスミドと、前述のpGFP−CLPABPとを、エレクトロポーレーション法によりCOS−7細胞へ同時導入し、COS−7/pGFP−CLPABP:pDsRed2−Mito細胞を得た。該細胞を5%ホルムアルデヒド存在下で10分間固定し、該固定細胞中に発現しているGFP融合CLPABPの蛍光、及び、ミトコンドリア局在配列を融合したDsRedタンパク質の蛍光を、Biozero蛍光顕微鏡システム(Keyence社製)で30秒ごとに150秒間観察した。その結果を図7に示す。図7において、線状(赤色)のものがミトコンドリアを表し、ドット状(緑色)のものがCLPABPを表す。小さな矢印で示された部分は、CLPABPの小胞に向かって、チューブ状のミトコンドリアが新たに伸長した部分である。また、「0」と「150s」の上方の四角で囲まれた部分は、撮影開始時(「0」)にはミトコンドリアが分断されていたが、150秒後には、伸長してチューブ状ミトコンドリアとして融合したことを示している。
【0047】
また、図7で観察したのと同じ細胞の別の部位を観察した結果を図8に示す。図8の矢印で示された部分は、CLPABPの小胞をかいくぐるように細胞内を移動するミトコンドリアである。また、四角で囲まれた部分は、撮影開始時(「0」)には3つの独立したCLPABP小胞であったが、120秒後には、互いがまとまりアッセンブルしたことを示している。
【0048】
図7及び図8の結果から、CLPABP小胞は、ミトコンドリアがネットワークを形成時に融合や移動する際に、細胞内において道標のような機能を果たしていることが示唆された。
【実施例6】
【0049】
[RNAiによるCLPABPのノックダウン実験]
図5〜図8の結果から、CLPABPは、ミトコンドリアネットワーク形成に関与していることが示唆された。このことを裏付けるために、RNAiによるCLPABPのノックダウンを試みた。
まず、CLPABPに対するRNAi(CLPABP−siRNA)として、二本鎖RNA(センス配列:aaggagaagcagauccgcuccuu:配列番号5)を作製した。この配列は、CLPABPの塩基配列(配列番号1)の塩基番号867−889に対応している。また、コントロール用のRNAiとして、GFPに対するRNAi(Cat#S5C-0201; B-Bridge International, Inc. 製)を用意した。Invitrogen社のOligofectamineを用いて、CLPABPに対するRNAiを一過性にHeLa細胞に導入し、HeLa/CLPABP−siRNA細胞を得た。また、GFPに対するRNAiを同様に一過性にHeLa細胞に導入し、HeLa/control細胞を得た。
【0050】
HeLa/CLPABP−siRNA細胞及びHeLa/control細胞について以下のようなウエスタンブロット解析を行った。
ダルベッコ改変イーグル培地に10%の牛胎児血清、100μg/mlストレプトマイシン及び100U/mlアンピシリンを加えた培地に、HeLa/CLPABP−siRNA細胞、HeLa/control細胞をそれぞれ添加し、5%CO存在下、37℃にて培養した。これらの培養液を遠心分離して、各細胞の菌体をそれぞれ回収し、該菌体に抽出液(20mM Tris−HCl(pH 7.5); 1mM EDTA; 10mM DTT; 1%TritonX−100; 150mM NaCl; 10mM NaF; 1mM Na3VO4; protease inhibitor cocktail(Roche社製))を添加して混合し、菌体を破砕して細胞抽出液をそれぞれ得た。得られた細胞抽出液にSDSサンプル溶液を添加した後95℃で3分間で変性し、これをSDS−PAGEした後、PVDF膜(Immobilon-P:ミリポア社製)に電気的に転写した。
【0051】
上記実施例2に記載したのと同様の抗CLPABP一次抗体を前述のPDVF膜と反応させ、該PDVF膜を洗浄した後、HRP(HorseRadish Peroxydase)標識二次抗体(アマシャムバイオサイエンス社製)を反応させ、該標識二次抗体に対するECL反応により検出した。検出機器としては、イメージアナライザー「LAS3000」(富士フィルム社製)を用いた。その結果を図9の左パネルに示す。図9の左パネルから分かるように、HeLa/CLPABP−siRNA細胞においては、HeLa/control細胞に比べて、CLPABPの発現量の減少していることが示された。
【0052】
また、HeLa/CLPABP−siRNA細胞やHeLa/control細胞における、CLPABPやミトコンドリアの局在を調べるために、前述の抗CLPABP一次抗体やCMX-Rosamine(「Mito-Tracker Red」(登録商標))を用いて、実施例3と同様の方法で、両細胞について蛍光染色を行った。蛍光染色した両細胞の観察結果を図9の中央パネル及び右パネルに示す。図9のこれら2パネルから分かるように、CLPABPの発現が減少している(図9の中央パネル)HeLa/CLPABP−siRNA細胞(矢印で示された細胞)においては、周囲のHeLa/control細胞とは異なり、ミトコンドリアの断片化が生じている(図9の右パネル)。
【実施例7】
【0053】
[CLPABP結合タンパク質の解析(SDS−PAGE)]
図5〜図8の結果から、CLPABPは細胞内において小胞構造を形成することが明らかとなった。その小胞構造の形成には、CLPABPのほかに、CLAPABPに対する何らかの特異的結合タンパク質が関与していることが予想された。そこで、CLPABPに対する結合タンパク質の同定を試みた。
上記実施例2におけるCLPABP遺伝子断片を、該遺伝子が発現し得るように、pcDNA3−FLAG(アミノ末端側にFLAGタグを付加しうるベクター)に組み込んだ。得られたプラスミド(pFLAG−CLPABP)を、エレクトロポーレーション法によりそれぞれHEK293T細胞へ導入し、HEK293T/pFLAG−CLPABP細胞を得た。該細胞は、FLAGタグCLPABPを一過性に発現する細胞である。このHEK293T/pFLAG−CLPABP細胞を培養し、1×10個の該細胞の菌体を得た。その菌体に、実施例2記載の抽出液を添加して混合し、菌体を破砕して細胞抽出液を得た。該細胞抽出液中のFLAG−CLPABP複合体を、Sigma社製の抗FLAGアフィニティーゲルを用いて免疫沈降した。免疫沈降の際の遠心は、14000rpmで10分間、低温で行った。免疫沈降して得られた沈殿を数回洗浄した後、0.1M Glycine−HCl(pH3)緩衝液で前記複合体を溶出し、すぐにpHを中性に戻した。この溶液をタンパク質サンプル溶液として、SDS−PAGEで電気泳動を行った後、該SDS−PAGEをCBB染色した。検出した主なバンド部分のゲルを切り出し、脱色後、還元アルキル化反応を行った。次いで、トリプシンを用いてゲル内消化を行い、溶出されたペプチドについて質量分析を行った。質量分析装置としては、Q-Tof-type hybrid mass spectrometer(Micromass社製)を用い、サンプルアプライの前にWaters-Micromass modular CapLC HPLCシステム(Micromass社製)によりペプチドの分離を行った。得られた測定データをMatrix science(Matrix science社製)にて解析し、解析の結果算出された分子量から、バンド部分に含まれるタンパク質を同定した。SDS−PAGEの泳動結果と、質量分析によるタンパク質の同定結果を図10に示す。図10の結果から、CLPABPには、一般的に発現量の多いタンパク質(Hsp70、14−3−3ε、actin、及びtubulin)と共に、ミトコンドリアマトリックスタンパク質p32(p32Mp)が結合することが示唆された。
【実施例8】
【0054】
[CLPABPにおけるp32Mp結合部位の同定]
図10の結果から、CLPABPには、一般的に発現量の多いタンパク質と共に、ミトコンドリアマトリックスタンパク質p32(p32Mp)が結合することが示唆された。そこで、CLPABPのどの部分にp32Mpが結合するかについて以下のような解析を行った。
【0055】
RZPD German Resource Center for Genome Researchより購入したCLPABP遺伝子を鋳型としたPCRや、PCR産物の制限酵素による切断によって、CLPABPの全長のアミノ酸配列又はそのアミノ末端欠失変異体をコードするDNA断片を得た。
具体的には、CLPABPのアミノ酸配列(配列番号2)のアミノ酸番号1−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片、前記アミノ酸番号61−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片、前記アミノ酸番号101−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片、前記アミノ酸番号181−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片を作製した。これらの4種類のDNA断片を、該遺伝子が発現し得るように、pCMV−FLAG6a(Sigma社製)(アミノ末端側にFLAGタグを付加しうるベクター)にそれぞれ組み込んだ。得られた4種類のプラスミドを、それぞれpCMV−FLAG−CLPABP 1−611、pCMV−FLAG−CLPABP 61−611、pCMV−FLAG−CLPABP 101−611、pCMV−FLAG−CLPABP 181−611と命名した。これらの4種類のプラスミドを、エレクトロポーレーション法によりそれぞれCOS−7細胞へ導入し、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 1−611細胞(「1−611」)、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 61−611細胞(「61−611」)、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 101−611細胞(「101−611」)、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 181−611(「181−611」)細胞を得た。また、ネガティブコントロールとして、pCMV−FLAG6a(Sigma社製)そのものをCOS−7細胞に導入した、COS−7/pCMV−FLAG6a(「vector」)を作製した。
【0056】
上記の計5種類の細胞について、以下のようなSDS−PAGE解析を行った。
上記の計5種類の細胞を培養し、それぞれ1×10個の該細胞の菌体を得た。それぞれの菌体に、実施例2記載の抽出液を添加して混合し、菌体を破砕して細胞抽出液を得た。該細胞抽出液中のFLAG−CLPABP(又はCLPABPアミノ末端変異体)複合体を、抗FLAG抗体ビーズ(Sigma社製)を用いて免疫沈降した。免疫沈降の際の遠心は、14000rpmで10分間、低温で行った。免疫沈降して得られた該ビーズを洗浄した後、これを緩衝液に懸濁し、タンパク質サンプル溶液を得た。該タンパク質サンプル溶液をSDS−PAGEで電気泳動した後、該SDS−PAGEをCBB染色した。その結果を図11の上のパネルに示す。
【0057】
また、前記の計5種類の細胞について、実施例2と同様の方法で、抗p32Mp抗体(SC-23885:Santa-Cruz社製)を用いたウエスタンブロット解析を行った。その結果を図11の下のパネルに示す。この結果から、CLPABPにおけるp32Mp結合部位は、CLPABPのアミノ酸番号61から100の間にあることが示唆された。
【実施例9】
【0058】
[CLPABPの細胞内局在に対する、CLPABPのドメインの影響]
CLPABPとp32Mpの結合と、CLPABPの細胞内局在との関係を調べるため、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 1−611、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 61−611、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 101−611の3種類の細胞について、上記実施例3と同様の方法で、抗FLAG抗体や抗ミトコンドリア抗体(抗cytochrome c抗体:SC-7159:Santa-Cruz社製)を用いた蛍光染色を行った。
【0059】
抗FLAG抗体を用いた蛍光染色の結果を図12の左の3つのパネルに示し、抗ミトコンドリア抗体を用いた蛍光染色の結果を図12の中央の3つのパネルに示す。また、図12の左のパネルの図と中央のパネルの図を重ね合わせたものをそれぞれ右のパネル示す。なお、図12の上段の3つのパネルは、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 1−611(CLPABP full 1−611)の結果を示し、中段の3つのパネルは、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 61−611(61−611))の結果を示し、下段の3つのパネルは、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 101−611(101−611)の結果を示す。
図12から分かるように、p32Mp結合部位を持つCLPABPやCLPABPアミノ末端欠失変異体(CLPABP full 1−611及び61−611)は、ミトコンドリア近傍に小胞構造形成能を有するが、p32Mp結合部位を欠くCLPABPアミノ末端欠失変異体(101−611)はわずかに小胞形成が認められるものの、細胞内全体に拡散する傾向が見られ、全長CLPABPとは極めて異なる局在を示した。このことから、CLPABPの特徴的な細胞内局在様式には、p32Mpとの結合が必要であることが示唆された。
【実施例10】
【0060】
[CLPABPのPH領域に結合する脂質の同定]
図2に示したように、CLPABPは分子内に2箇所PH領域を持つ。一般的にPH領域は脂質結合能を有し、細胞膜や小胞体などのオルガネラへのタンパク質移行に寄与することが知られている。しかし、本願実施例における、CLPABPの細胞内の局在実験の結果から、CLPABPのPH領域はこれまで知られたものとは異なる性質を示すことが考えられた。そこで、CLPABPのPH領域に結合する脂質の同定を以下のように行った。
【0061】
実施例2で用いたのと同様のCLPABP遺伝子を鋳型としたPCRにより、CLPABPのPH1領域のタンパク質(配列番号2のアミノ酸番号85−192のアミノ酸配列)をコードするDNA断片、及び、PH2領域のタンパク質(配列番号2のアミノ酸番号211−320のアミノ酸配列)をコードするDNA断片を増幅した。上記PH1領域のタンパク質をコードするDNA断片に増幅には、フォワードプライマー(gtttggatcccggcggagggtgcctgtgagg:配列番号6)とリバースプライマー(gaaagaattcgagggccgtctgcttctccag:配列番号7)を用い、上記PH2領域のタンパク質をコードするDNA断片に増幅には、フォワードプライマー(gtttggatcccggacggcgtcagggcacgaa:配列番号8)とリバースプライマー(gaaagaattcctacccctccctgtgggtgacagc:配列番号9)を用いた。
増幅したこれらのDNA断片をそれぞれpGEX4Tベクター(Amersham Bioscience社製)(GST融合タンパク質発現用ベクター)に挿入し、得られた両組換えベクターをそれぞれ大腸菌に導入した。これらの大腸菌を培養し、得られた菌体からGlutathion-Sepharoseビーズを用いて、GST融合PH1領域タンパク質やGST融合PH2領域タンパク質を精製した。図13の上段のパネルは、精製したGST融合PH1領域タンパク質やGST融合PH2領域タンパク質をSDS−PAGEで電気泳動し、CBB染色した結果を示す。
【0062】
また、生体内に存在する15種類の脂質が一定量スポットされたメンブレン(図13の下段左)として、Membrane lipid strips(Echelon社製)を用意した。このメンブレンを脂肪酸無含有の3%BSAでブロッキングした後、TBS−T(pH 8.0の20mM Tris; 150 mM NaCl; 0.1% Tween20)中にて、0.5mg/mlのGST融合タンパク質(GST融合PH1領域タンパク質又はGST融合PH2領域タンパク質)と3時間インキュベートした。次いでこのメンブレンを洗浄した後、抗GST抗体(MBL社製)と2時間インキュベートした。このメンブレンを洗浄した後、HRP標識2次抗体をさらに加えてインキュベートし、ECL反応によって脂質とGST融合タンパク質(GST融合PH1領域タンパク質又はGST融合PH2領域タンパク質)の結合を検出した。その結果、図13の下段右に示されているように、PH1領域タンパク質には、cardiolipinとphosphatidic acidが、PH2領域タンパク質にはそれらに加えてさらに、phosphatidylserineとphosphatidylinositol-4 phsphateが結合することが判明した。
【実施例11】
【0063】
[CLPABPとcardiolipinの細胞内における共局在]
CLPABPとcardiolipinの細胞内における共局在を調べるために、抗cardiolipin抗体(MBL社製)を用いて、上記実施例3記載の方法と同様の方法で、上記実施例4記載のCOS−7/pGFP−CLPABP細胞について蛍光染色を行った。
GFP融合CLPABPの観察結果を図14の左パネルに示し、抗cardiolipin抗体による蛍光染色の結果を図14の中央パネルに示し、図14の左パネルと中央パネルを重ね合わせたものを右パネルに示す。図14の結果から、cardiolipinは、CLPABPが形成する小胞に共局在することが示された。
【実施例12】
【0064】
[CLPABPの細胞内局在におけるPH領域の影響]
図12の結果から、CLPABPの細胞内局在、すなわちミトコンドリア近傍に小胞を形成するユニークな局在には、p32Mp結合部位が重要であることが示されたが、さらに、CLPABPの別の特定の領域(PH1領域やPH2領域)が、CLPABPの細胞内局在にどのような影響を与えるかを調べるために、以下のようなアッセイを行った。
【0065】
実施例2で用いたのと同様のCLPABP遺伝子を鋳型としたPCRにより、CLPABPのアミノ酸配列(配列番号2)のアミノ酸番号1−450のアミノ酸配列をコードするDNA断片と、該アミノ酸番号251−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片を増幅した。配列番号2のアミノ酸番号1−450のアミノ酸配列をコードするDNA断片に増幅には、フォワードプライマー(gtttaagcttatggggaacagccactgtgtc:配列番号10)とリバースプライマー(gaaagaattcctatgtttccgaagtgtggtc:配列番号11)を用い、配列番号2のアミノ酸番号251−611のアミノ酸配列をコードするDNA断片に増幅には、フォワードプライマー(gtttaagcttgccattttctccgaggag:配列番号12)とリバースプライマー(gaaagaattctcagatccactgcacaagccc:配列番号13)を用いた。
増幅したこれらの2種類のDNA断片を、該遺伝子が発現し得るように、pCMV−FLAG6a(Sigma社製)(アミノ末端側にFLAGタグを付加しうるベクター)にそれぞれ組み込んだ。得られた2種類のプラスミドを、それぞれpCMV−FLAG−CLPABP 1−450、pCMV−FLAG−CLPABP 251−611と命名した。これらの2種類のプラスミドを、エレクトロポーレーション法によりそれぞれCOS−7細胞へ導入し、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 1−450細胞(「1−450」)、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 251−611細胞(「251−611」)を得た。
【0066】
これら2種類の細胞について、上記実施例3と同様の方法で、抗FLAG抗体や抗ミトコンドリア抗体(抗cytochrome c抗体:SC-7159:Santa-Cruz社製)を用いた蛍光染色を行った。
抗FLAG抗体を用いた蛍光染色の結果を図15の左の2つのパネルに示し、抗ミトコンドリア抗体を用いた蛍光染色の結果を図15の中央の2つのパネルに示す。また、図15の左のパネルの図と中央のパネルの図を重ね合わせたものをそれぞれ右のパネル示す。なお、図15の上段の3つのパネルは、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 251−611(25−611)の結果を示し、下段の3つのパネルは、COS−7/pCMV−FLAG−CLPABP 1−450(1−450))の結果を示す。
【0067】
図15から分かるように、PH2領域のアミノ末端側まで欠失したCLPABP変異体(251−611)では、小胞形成能及びミトコンドリア近傍への局在能を完全に消失していた(図15の上段パネル)。一方、CLPABPのC末端を約160アミノ酸欠失しているものの、p32Mp結合領域や2つのPH領域を有する変異体(1−450)は、依然として小胞形成能を有していた(図15の下段パネル)。
【実施例13】
【0068】
[CLPABPの過剰発現による、アポトーシスへの影響]
図6〜8の結果から、CLPABPはミトコンドリアネットワークの形成に際して重要な役割を果たすことが示唆された。CLPABPの過剰発現によって、アポトーシスへどのような影響を与えるかを調べるために、以下の実験を行った。
実施例4で用いたCOS−7/pGFP−CLPABP細胞内において、GFP融合CLPABPを一過性に発現させ、約60時間培養した後、該細胞をトリプシン処理にて回収し、Annexin V-Alexa594(Molecular Probes社製)を加えアポトーシス細胞を染色した。染色した細胞をガラスプレパラートにマウントし、前述のLSM510Meta共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社製)で、GFPの緑色の蛍光とAlexa594の青色の蛍光を観察した。GFPの観察結果を図16の一番左のパネルに、Alexa594の観察結果を左から2番目のパネルに、一番左のパネルと左から2番目のパネルとを重ね合わせたものを左から3番目のパネルに示した。図16の左から2番目のパネルから分かるように、CLPABP発現細胞は、長時間の培養後にアポトーシスを引き起こした。
また、左の3つのパネルの観察結果を定量し、GFPとAlexa594の両方が観察された細胞の割合(%)を算出した結果を図16の一番右のパネルに示す。なお、コントロールとして、GFP融合CLPABPではなく、GFPを一過性に発現するCOS−7細胞において、GFPとAlexa594の両方が観察された細胞の割合(%)を示す。図16の一番右のパネルから分かるように、CLPABPの過剰発現により、アポトーシスが著しく誘導されることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ヒトCLPABPの推定アミノ酸配列を示す図である。
【図2】ヒトCLPABPの推定機能領域であるPH領域の位置を示す図である。図中の数字はアミノ酸番号を表す。
【図3】各種ヒト臓器及び培養細胞におけるCLPABP遺伝子の発現を示す図(エチジウムブロマイド染色)である。
【図4】内在性及び組換え型CLPABPの培養細胞における発現を示す図(ウエスタンブロット解析)である。
【図5】内在性CLPABP等の培養細胞内における局在を示す図(蛍光染色)である。
【図6】GFP融合CLPABP等の細胞内における局在を示す図である。
【図7】CLPABPのミトコンドリアネットワーク形成における影響を示す図である。
【図8】CLPABPのミトコンドリアネットワーク形成における影響を示す図である。
【図9】左パネルは、RNAiによるCLPABPのノックダウン細胞におけるCLPABPの発現を示す図(ウエスタンブロット解析)である。また、中央パネルや右パネルは、RNAiによるCLPABPのノックダウン細胞内におけるCLPABP等の局在を示す図である(蛍光染色)。
【図10】CLPABP及びその結合タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す図である。図の右に記載されたタンパク質名は、質量分析により同定された結果を示す。
【図11】上パネルは、免疫沈降したCLPABP及びCLPABPアミノ末端変異体の泳動結果を示す図である。下パネルは、抗p32Mp抗体によるウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図12】CLPABPやCLPABPアミノ末端変異体を発現する細胞内におけるCLPABP又はCLPABPアミノ末端変異体等の局在を示す図である(蛍光染色)。
【図13】上段のパネルは、精製したGST融合PH1領域タンパク質やGST融合PH2領域タンパク質をSDS−PAGEで電気泳動し、CBB染色した結果を示す図である。下段左のパネルは、生体内に存在する15種類の脂質が一定量スポットされたメンブレンを示す図である。また、下段右のパネルは、脂質とGST融合タンパク質(GST融合PH1領域タンパク質又はGST融合PH2領域タンパク質)との結合をECL反応によって検出した結果を示す図である。
【図14】CLPABPやcardiolipinの細胞内における局在を示す図である。
【図15】CLPABPの変異体(PH領域を含む変異体及びPH領域を含まない変異体)等の細胞内局在を示す図(蛍光染色)である。
【図16】左から1〜3番目のパネルは、GFP融合CLPABPの細胞内での局在や、アポトーシス細胞を蛍光染色した結果を示す図である。一番右のパネルは60時間培養後におけるアポトーシス細胞の割合を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質
【請求項2】
配列番号1に示される塩基配列の塩基番号36−1868の塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAからなる遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子を含み、かつアポトーシス誘導タンパク質を発現することができる組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターが導入され、かつアポトーシス誘導タンパク質を発現する形質転換体。
【請求項6】
形質転換体が動物であることを特徴とする請求項5に記載の形質転換体。
【請求項7】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項8】
配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質。
【請求項9】
配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質。
【請求項10】
配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつアポトーシス誘導活性を有するタンパク質。
【請求項11】
配列番号2に示されるアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号61−318のアミノ酸配列又はアミノ酸番号85−318のアミノ酸配列である請求項8又は10に記載のタンパク質。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項12に記載の融合タンパク質に対する抗体。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項12に記載の融合タンパク質を含有するアポトーシス誘導剤。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子、又は請求項4に記載の組換えベクターを含有するアポトーシス誘導剤。
【請求項16】
請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項12に記載の融合タンパク質を、対象とする細胞に発現させることにより、該細胞のアポトーシスを誘導する方法。
【請求項17】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子を、対象とする細胞に導入することにより、請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項12に記載の融合タンパク質を発現させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項7〜11のいずれかに記載のタンパク質、又は請求項12に記載の融合タンパク質を有効成分とする医薬。
【請求項19】
アポトーシスを誘発することが予防・治療上有効な疾患の予防・治療剤である請求項18記載の医薬。
【請求項20】
疾患が、がん、自己免疫疾患、ウイルス感染症、内分泌疾患、血液疾患、臓器過形成、血管形成術後再狭窄及びがん切除術後の再発からなる群より選択される請求項19記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−237030(P2008−237030A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77896(P2007−77896)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】