説明

新規アントラピリドン化合物、水性マゼンタインク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】マゼンタ色のインクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐光及び耐水堅牢度が強い化合物の開発。
【解決手段】式A−B
(式中、Aは下記式(1)
【化1】


(式中、R は水素原子、アルコキシカルボニル基又はベンゾイル基を、R は水素原子又はメチル基を示す。)
で表される色素残基を、Bは水素原子又は置換基を示す。)
で表されるアントラピリドン化合物又はその塩及びこれを含有する水性インク組成物並びにこれを用いるインクジェットプリント方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、新規なアントラピリドン化合物、水性マゼンタインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【0002】
インクジェットプリンタによる記録方法としてはインクの各種吐出方式が開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。インクジェットプリンタによる記録方法は、記録ヘッドと被記録材料とが接触しない為音の発生がなく静かであり、またプリンタの小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及し、今後も大きな伸長が期待されている。コンピュータのカラーディスプレイ上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタにより、カラ−で記録するには、一般にはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色で表現される。CRTディスプレイ等のR、G、Bによる加法混色画像を減法混色画像で忠実に再現するには、使用する色素、中でもYMCのインクに使用される色素にはできるだけYMCそれぞれの標準に近い色相を有し、且つ鮮明であることが望まれる。又、インク組成物は長期の保存に対し安定であり、又プリントした画像の濃度が高く、しかも耐水性、耐光性等の堅牢度に優れている事が求められる。本発明はこのうちマゼンタのインクに関するものである。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0003】
本発明のアントラピリドン化合物は水溶解性に優れ、インク組成物を製造する過程で必要により実施されるメンブランフイルターによる濾過において濾過性が良好という特長を有する。又、この色素は生体に対する安全性も高い。この新規アントラピリドン化合物を使用した本発明のインク組成物は冬期は勿論、夏期においても、長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等がなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のインク組成物をインクジェット記録用のマゼンタインクとして使用した印刷物は耐光性及び耐水性に優れ、イェロー、シアン及びブラック染料と共に用いることで耐光性及び耐水性に優れたインクジェット記録が可能である。また、シアンとして含金属フタロシアニン系色素と併用しても優れた耐光性を維持できる。更に印刷面は鮮明で色特性として理想に近いマゼンタ色であり、他のイェロー、シァンのインクと共に用いる事で、広い可視領域の色調を色出しする事ができる。従って、本発明のインク組成物はインクジェット記録用のマゼンタインクとして極めて有用である。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタまで拡大されており、耐水性及び耐光性等の堅牢性がこれまで以上に求められている。耐水性については多孔質シリカなどインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をPVA樹脂などとともに紙の表面にコーティングすることにより大幅に改良され、既にインクジェットプリント用の各種コート紙が市販されている。しかし、耐光性については大幅に改良させる技術は確立されておらず、特にY、M、C、Kの4原色のうちマゼンタの色素はもともと耐光性が弱いものが多く、その改良が重要な課題となっている。

インクジェット記録用水溶性インクに用いられるマゼンタの色素骨格としては、特許文献1−3等にみられるキサンテン系と、特許文献4−8等にみられるH酸アゾ系が代表的なものである。これらのうちキサンテン系については色相及び鮮明性は非常に優れるが耐光性は非常に劣る。またH酸アゾ系については色相及び耐水性は良いものがあるが、耐光性及び鮮明性が劣る。特許文献6にみられるように、鮮明性及び耐光性の優れたマゼンタ染料も開発されているが、銅フタロシアニン系に代表されるシアン染料やイエロー染料など他の色相の染料に比べ耐光性は依然劣る水準である。
【0005】
さらに鮮明性及び耐光性の優れるマゼンタの色素骨格としては特許文献9及び10等にみられるアントラピリドン系があるが、色相、鮮明性、耐光性、耐水性及び溶解安定性のすべてを満足するものは得られていない。
本発明は、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐光及び耐水堅牢度が強いマゼンタの水性インク組成物を提供する事を目的とする。
【特許文献1】特開昭54ー89811号
【特許文献2】特開平8−60053号
【特許文献3】特開平8−143798号
【特許文献4】特開昭61−62562号
【特許文献5】特開昭62−156168号
【特許文献6】特開平3−203970号
【特許文献7】特開平7−157698号
【特許文献8】特公平7−78190号
【特許文献9】特開昭59−74173号
【特許文献10】特開平2−16171号
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)式A−B
(式中、Aは下記式(1)
【0007】
【化3】

【0008】
(式中、R は水素原子、アルコキシカルボニル基又はベンゾイル基を、R は水素原子又はメチル基を示す。)
で表される色素残基を、Bは水素原子又は色素残基A上の置換基を示す。)
で表されるアントラピリドン化合物又はその塩、
(2)Bが、アシル基又は下記式(2)
【0009】
【化4】

【0010】
(式中、X、Yは各々独立して、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、又はアニリノ基(スルホン酸基、カルボキシル基、メチル基、塩素原子から選択される1種又は二種以上の置換基で置換されていても良い。)を示す。)、
で表される基である(1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
(3)(2)の式(2)においてXがアニリノ基(スルホン酸基、カルボキシル基から選択される1種又は2種の置換基で置換されていてもよい)、Yが塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノ−ル基、ジエタノ−ル基又はモルホリノ基である(2)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
(4)アシル基がベンゼンスルホニル基、トシル基、2−カルボキシ−ベンゾイル基、又は3,4−ジカルボキシベンゾイル基である(2)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
(5)R が水素原子、R がメチル基である請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
(6)色素成分として、(1)乃至(5)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩を含むことを特徴とする水性マゼンタインク組成物、
(7)水及び有機溶剤を含有する(6)に記載の水性マゼンタインク組成物
(8)アントラピリドン化合物又はその塩中の含有量が1重量%以下である(6)又は(7)に記載の水性マゼンタインク組成物、
(9)インクジェット記録用である(6)乃至(8)のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物、
(10)インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして(6)乃至(8)のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
(11)インク滴を記録信号に応じて吐出させて記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、マゼンタインクとして(6)乃至(8)のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を、シアンインクとして水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性インクをそれぞれ使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
(12)被記録材が情報伝達用シ−トである(11)に記載のインクジェット記録方法、
(13)情報伝達用シ−トが表面処理されたシ−トである(12)に記載のインクジェット記録方法、
(14)(6)乃至8のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を含有する容器及び水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性シアンインク組成物を含有する容器を有するインクジェットプリンタ−、
(15)R1が水素原子又は低級アルコキシカルボニル基、R2がメチル基、Bが水素原子又はC1乃至C4のアルコキシカルボニル基である(1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の新規なアントラピリドン化合物は、前記式A−Bで表される。色素残基Aは前記式(1)で表される色素残基であり、Bは水素原子又は色素残基A上の置換基である。即ち、本発明は、色素残基として前記式(1)で表される基を有することを特徴とするアントラピリドン化合物である。このアントラピリドン化合物は、好ましくは、色素残基として前記式(1)で表される基を有し、マゼンタ色(青味の赤色)の色素成分として使用される水溶性の化合物である。
【0012】
前記式(1)において、R のアルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等のC1〜C4のアルコキシカルボニル基があげられる。又、Bで示される色素残基A上の置換基としては、窒素原子に置換しうる基であれば特に制限はなく、例えばアシル基又は前記式(2)で表される基、置換基を有していてもよいC1乃至C4のアルキル基等があげられる。一般式(1)においてRが水素原子で、Rがメチル基であるものが色素残基Aの好ましい例として挙げられる。
アシル基としては、置換又は非置換のベンゼンスルホニル基、置換又は非置換のアルキルスルホニル基、置換又は非置換のベンゾイル基、置換又は非置換のアルコキシカルボニル基等を挙げることが出来る。これらの基におけるベンゼン核上の置換基としてはC1〜C4のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等を挙げることが出来、これらの置換基のうち更に置換基を有しうるものについては、上記の置換基で置換されていてもよい。又、アルキル基の置換基としてはベンゼン核に置換しうる置換基として挙げたもの(アルキル基を除く)が挙げられる。これらのアシル基の具体例としては、例えばベンゼンスルホニル基、トシル基等の低級アルキル置換ベンゼンスルホニル基、4−クロルベンゼンスルホニル基、4−ブロモベンゼンスルホニル基等のハロゲノベンゼンスルホニル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等のC1〜C4のアルキルスルホニル基、ベンゾイル基、3,4−ジカルボキシベンゾイル基等の置換されていても良いベンゾイル基、フェニルアセチル基、アセチル基等の置換されていてもよい低級アルキルカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等の置換されていてもよいアルコキシカルボニル基等があげられる。
【0013】
前記式(2)において、スルホン酸基、カルボキシル基、メチル基、塩素原子から選択される1種又は二種以上の置換基で置換されていても良いアニリノ基としては、例えば2,5−ジスルホアニリノ基、3−スルホアニリノ基、2−スルホアニリノ基、4−スルホアニリノ基、2−カルボキシ−4−スルホアニリノ基、2−カルボキシ−5−スルホアニリノ基等があげられる。
前記式(2)のXは置換基で置換されていても良いアニリノ基が好ましく、より好ましくは少なくとも1個のスルホン酸基を有するアニリノ基である。
【0014】
本発明の前記式A−Bで示されるアントラピリドン化合物において好ましい物としては式(1)におけるR1が水素原子又は低級アルコキシカルボニル基、より好ましくは水素原子であり、R2がメチル基であり、Bが式(2)を表し、かつ式(2)におけるXが少なくとも1個のスルホニル基を有するアニリノ基であり、Yがヒドロキシ基又はアミノ基である化合物である。
又アントラピリドン化合物において、R1が水素原子又はアルコキシカルボニル基、R2はメチル基、Bが水素原子又はC1乃至C4のアルコキシカルボニル基であるアントラピリドン化合物又はその塩は本発明のアントラピリドン化合物を合成するための中間体としても重要である。
本発明の前記式A−Bで示されるアントラピリドン化合物の具体例を表1に示す。尚、表1中(S)はスルホン酸基を、2(S)はジスルホン酸基を、(K)はカルボキシ基を、2(K)はジカルボキシ基を、Eはエトキシカルボニル基を、Mはメトキシカルボニル基を、Phはフェニル基を、Bzはベンゾイル基をそれぞれ意味する。
【0015】
表1
No. A B
式(1) 式(2)
12 X Y
1 H CH3 COCH3
2 H CH3 H
3 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ Cl
4 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ OH
5 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ NH2
6 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ モルホリノ
7 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ ジ(ヒドロキシエチル)
アミノ
8 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ ヒドロキシエチルアミノ
9 H CH3 3-(S)-アニリノ Cl
10 H CH3 3-(S)-アニリノ OH
11 H CH3 2-(S)-アニリノ Cl
12 H CH3 2-(S)-アニリノ OH
【0016】
13 H CH3 4-(S)-アニリノ Cl
14 H CH3 4-(S)-アニリノ OH
15 H CH3 2-(K)-4-(S)-アニリノ Cl
16 H CH3 2-(K)-4-(S)-アニリノ OH
17 H CH3 2-(K)-4-(S)-アニリノ NH2
18 H CH3 2-(K)-5-(S)-アニリノ Cl
19 H CH3 2-(K)-5-(S)-アニリノ OH
20 H CH3 2-(K)-5-(S)-アニリノ NH2
21 E CH3 2,5-2(S)-アニリノ Cl
22 E CH3 2,5-2(S)-アニリノ OH
23 M H 2,5-2(S)-アニリノ Cl
24 M H 2,5-2(S)-アニリノ OH
25 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ 2,5-2(S)-アニリノ
【0017】
26 H CH3 2,5-2(S)-アニリノ 2-(S)-アニリノ
27 H CH3 トシル
28 H CH3 ベンゼンスルホニル
29 H CH3 ベンゾイル
30 H CH3 3,4-2(K)-ベンゾイル
31 H CH3 メチルゼンスルホニル
32 H CH3 4-Cl-ベンゼンスルホニル
33 H CH3 Ph-アセチル
34 H CH3 エトキシカルボニル
35 H CH3 ベンジルオキシカルボニル
36 E CH3 トシル
37 E CH3 ベンゼンスルホニル
【0018】
38 E CH3 ベンゾイル
39 E CH3 3,4-2(K)-ベンゾイル
40 E CH3 メチルゼンスルホニル
41 E CH3 4-Cl-ベンゼンスルホニル
42 E CH3 Ph-アセチル
43 E CH3 エトキシカルボニル
44 E CH3 ベンジルオキシカルボニル
45 E CH3 COCH3
46 E CH3 H
47 Bz CH3 2,5-2(S)-アニリノ OH
48 E CH3 2(K)-ベンゾイル
【0019】
本発明のアントラピリドン化合物は、例えば次の方法により製造される。即ち、下記式(3)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R 、R は前記と同じ。)
で示されるアントラピリドンのブロム体に5−アセチルアミノ−2−スルホアニリンをウルマン反応により縮合し、前記No.1の化合物を得る。次いでアセチル基を加水分解により除去することにより、Bが水素原子であるNo.2の化合物が得られる。
Bが式(2)で示される基であり、かつ式(2)におけるXが塩素原子又は水酸基以外の基の場合は常法により目的化合物に対応するアニリン類等のアミン類と2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン(シアヌルクロライド)とを縮合させ、対応する1次縮合物とし、次いで該1次縮合物に、No.2の化合物を2次縮合させることにより、Xが該アミン類に対応するアミノ基で、Yが塩素原子である化合物が得られる。次いで、加水分解することによりYが水酸基の化合物を得ることが出来る。Yが塩素原子又は水酸基以外の基の場合にはYが塩素原子である前記化合物に目的化合物に対応するアミン類を3次縮合させることにより目的化合物をえることが出来る。又、Bが式(2)で示される置換基以外の基である場合は、No.2の化合物にアシル化剤を反応させればよい。
アシル化剤としては前記アシル基に対応するアシルクロライド等が挙げられる。例えば、置換又は非置換のベンゼンスルホニルクロライド、置換又は非置換のアルキルスルホニルクロライド、置換又は非置換のベンゾイルクロライド、置換又は非置換のアルコキシカルボニルクロライド等を挙げることが出来、具体的にはベンゼンスルホニルクロライド、トルエンスルホニルクロライド、4−クロルベンゼンスルホニルクロライド、4−ブロモベンゼンスルホニルクロライド、メチルスルホニルクロライド、エチルスルホニルクロライド、ベンゾイルジュロライド、3,4−ジカルボキシベンゾイルクロライド、フェニル酢酸クロライド、酢酸クロライド、メトキシカルボニルクロライド、エトキシカルボニルクロライド、プロポキシカルボニルクロライド、ブトキシカルボニルクロライド、ベンジルオキシカルボニルクロライド等が挙げられる。
【0022】
こうして得られる化合物は遊離酸の形で、あるいはその塩の形で存在する。本発明で採用しうる塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩等のアルカノールアミン塩又はアンモニウム塩である。
【0023】
本発明の水性マゼンタインク組成物は、前記式A−Bで表される化合物又はその塩を水又は水性溶媒(後記する有機溶剤を含有する水)に溶解したものである。インクのpHは6〜11程度が好ましい。この水性インク組成物をインクジェット記録用プリンタで使用する場合、色素成分としては金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機塩の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば、塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量として1重量%以下である。
無機物の少ない本発明の色素成分(前記式A−Bで表される化合物又はその塩)を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明のアントラピリドン化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥する方法で脱塩処理すればよい。後者の場合、アルコ−ル濃度は混合溶媒全体に対して30重量%乃至95重量%、好ましくは40重量%乃至85重量%である。又、ウエットケ−キに対する混合溶媒の使用量は特に制限はなく、通常1乃至200容量倍、好ましくは2乃至100容量倍程度である。
尚、無機塩のうちNaCl、Na2SO4の含有量はClイオン又はSO4イオンの量をイオンクロマトグラフで測定した後それぞれ換算される。又重金属類は原子吸光法又はICP(Industrial Coupled Plasma )発光分析法で、カルシウムイオン及びマグネシウムについてはイオンクロマトグラフ法、原子吸光法、ICP発光分析法にて測定される。
【0024】
本発明の水性インク組成物は水を媒体として調製されるが、本発明のアントラピリドン化合物又はその塩は該水性インク組成物中に、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは2〜8重量%程度含有される。本発明の水性インク組成物には更に水溶性有機溶剤を約60重量%以下、好ましくは約50重量%以下、より好ましくは約40重量%以下、更に好ましくは約30重量%以下含有していてもよく下限は0重量%でもよいが、一般的には約5重量%以上であり、より好ましくは10%以上であり、10〜30重量%程度がもっとも好ましい。又、本発明の水性インク組成物はインク調製剤を0〜10重量%程度、好ましくは5重量%以下含有していても良い。以上の成分以外の残部は水である。
【0025】
使用し得る水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1 〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、ε−カプロラクタム、N−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム類、尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル、エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のC2 〜C6 アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルーエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1〜C4アルキルエーテル、γーブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶剤は2種以上併用しても良い。
【0026】
水との混和性が良好で有利な有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン、C2〜C6アルキレン単位を有するモノ、ジ又はトリアルキレングリコール等が挙げられ、より好ましいものとしてモノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンの使用が好ましい。
【0027】
インク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤などがあげられる。防腐防黴剤としては、例えばデヒドロ酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等があげられる。pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを6〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0028】
本発明のインク組成物は、蒸留水等不純物を含有しない水に、前記色素及び必要により、上記水溶性有機溶剤、インク調製剤等を添加混合することにより調製される。又水と上記水溶性有機溶剤、インク調製剤等との混合物に前記色素を添加、溶解してもよい。又インク組成物を得た後で濾過を行い、狭雑物を除去してもよい。
【0029】
本発明のインクジェット記録方法において、使用されうる好ましい被記録材としては例えば紙、フィルム等の情報伝達用シートが挙げられる。情報伝達用シートとは印刷に先立ち特別な前処理を必要とせず、又インクジェットプリンタ−で印刷したあとにも後処理を必要としない印刷用シ−トである。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的にはこれらの基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等のインク中の色素を吸収し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェツト専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えばピクトリコ(旭硝子(株)製)、カラーBJペ一パー、カラーBJフォトフィルムシート(いずれもキャノン(株)製)、カラーイメージジェット用紙(シャ−プ(株)製)、スーパーファイン専用光沢フイルム(エプソン(株)製)、ピクタファイン(日立マクセル(株)製)等として市販されている。なお、普通紙にも利用できることはもちろんである。
【0030】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記の水性マゼンタインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンターにセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。インクジェットプリンターとしては、例えば機械的振動を利用したピェゾ方式のプリンターや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式のプリンター等があげられる。本発明のインクジェット記録方法では、通常、上記の水性マゼンタインク組成物はイエローインク組成物、シアンインク組成物、及び必要に応じ、ブラックインク組成物等と併用される。シアンインク組成物として、水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性シアンインキ組成物を使用する場合、上記の水性マゼンタインク組成物と併用することにより、両者の混色後の耐光性試験に於ける色調の変化を少なく出来るので好ましい。水溶性金属フタロシアニン色素に用いられる金属としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等があげられるが、銅が好ましい。水溶性銅フタロシアニン色素としては、例えばC.1.ダイレクト・ブルー86、C.I.ダイレクト・ブルー87、C.I.ダイレクト・ブル−199、C.I.アッシド・ブルー249、C.I.リアクティブ・ブルー7、C.I.リアクテイブ・ブルー15、C.I.リアクティブ・ブルー21、C.I.リアクテイブ・ブル−71等があげられる。
水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性シアンインク組成物は、例えば上記の水性マゼンタインク組成物の製法に準じて製造され、容器に注入され、この容器を、上記の水性マゼンタインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンターの所定位置にセットされて、使用される。
本発明の水性インク組成物は、鮮明で、社団法人日本印刷産業機械工業会発行のJapan Co1orに指定された色調に近似しており、彩度が高く、適度に青みを有する理想に近いマゼンタ色であり、他のイエロ−、シアンのインクと共に用いる事により、広い可視領域の色調を色出しする事ができ、又耐光性及び耐水性の優れた既存のイエロー、シアン、ブラックを選択することにより、耐光性及び耐水性に優れた記録物を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を更に実施例により具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別記載のない限り重量基準である。
【0032】
実施例1
(1)N,N−ジメチルホルムアミド450部中に、撹拌しながら式(3)の化合物(R =H,R =CH )51.0部、炭酸ソーダ23.9部、酢酸第二銅・一水和物18.0部及び5−アセチルアミノ−2−スルホアニリン114.0部を順次仕込み、昇温する。130〜135℃の温度にて3時間反応を行う。次いで、冷却し、20℃にて30分撹拌後濾過し、メタノール300部で洗浄後、乾燥して、No.1の化合物62.9部を赤色結晶として得る。
【0033】
次に、水471部中に、冷却下96%硫酸513部を滴下し、50%硫酸を調製し、No.1の化合物61.3部を添加する。熱上げし、還流下(123℃)で3時間反応を行う。水冷下(約25℃)、1時間撹拌後ろ過、水120部で洗浄し、赤色のウェットケーキを得る。このウェットケーキを、水2000部、24%苛性ソーダ80部の混合液中に、撹拌下徐々に添加する。室温にて1時間撹拌後ろ過して少量の不溶解分をろ別する。撹拌下、母液に食塩100部を添加する。1時間室温にて撹拌後、ろ過、乾燥して、No.2の化合物50.2部を赤色結晶として得る。
【0034】
(2)氷水100部にリパールOH(ノニオン性界面活性剤、ライオン社製) 0.25部を加え、溶解後シアヌルクロライド10.1部を添加し、15分撹拌する。次に、2,5−ジスルホアニリンのモノナトリウム塩(純度85.5%)18.0部を8〜10℃にて添加し、その温度で10%炭酸ソーダ水溶液を滴下しながら、pHを2.7〜3.0に保ち、4時間1次縮合反応を行い、シア ヌルクロライドと2,5−ジスルホアニリンの1次縮合物を含有する反応液を得る。
【0035】
(3)(2)の反応液中に(1)で得られたNo.2の化合物23.5部を加え、昇温する。60〜65℃の温度で、10%炭酸ソーダ水溶液を滴下しながら、pHを4.3〜4.7に保ち、1時間反応を行う。次に、pHを7〜7.2に30分保った後、ろ過して少量の不溶解分をろ別する。母液に水を加えて液量を600部とし、加熱して55〜60℃に保ちながら食塩72部を添加し、撹拌する。1時間後結晶をろ別し、10%食塩水溶液75部で洗浄後乾燥して、No.3の化合物43.2部を赤色結晶として得る(食塩含有率33.7%、ぼう硝含有率0.1%)。
【0036】
(4)水400部、メタノール400部の混合液中に(3)で得られたNo.3の化合物10.0部を添加して、還流下1時間撹拌して溶解後、氷冷して明赤色の結晶を析出させる。1時間撹拌後ろ過し、メタノール100部で洗浄後乾燥して、No.3の化合物の脱塩品6.4部を得る(食塩含有率0.3%、ぼう硝含有率0.1%以下)。λmax:526nm(水溶液中)
【0037】
(5) No.3の化合物の脱塩品を用いて、通常の方法により、インクを調製し、インクジェットプリンターにて、専用紙(キャノン社製)にプリントし、記録画像の耐水性、耐光性を測定したところいずれも良好であった。
【0038】
実施例2
(1)実施例1の(3)で得られるNo.3の化合物9部を約80℃の湯180部に添加し、10%苛性ソーダ水溶液を滴下し、pHを11に保ちながら、85℃にて2時間反応を行う。次いで、液量を250部に調整後55〜60℃にて食塩50部を添加し、55〜60℃にて2時間保持する。析出する結晶をろ過し、乾燥して、No.4の化合物7.6部を赤色結晶として得る。
【0039】
(2)水100部に(1)で得られたNo.4の化合物5.0部を添加して溶解させる。次に、メタノール200部を加えた後、50〜55℃にて1時間撹拌する。ろ過、乾燥して、No.4の化合物の脱塩品3.3部を赤色結晶として得る。λmax:526nm(水溶液中)
【0040】
(3) No.4の化合物の脱塩品を用いて、通常の方法により、インクを調製し、インクジェットプリンターにて、専用紙(キャノン社製)にプリントし、記録画像の耐水性、耐光性を測定したところいずれも良好であった。
【0041】
実施例3
(1)実施例1の(1)で得られるNo.2の化合物11.7部をピリジン125部に添加し、80℃に加熱する。次いで、p−トルエンスルホニルクロライド9.6部を約10分を要して加える。100℃にて2時間反応後、水冷、ろ過、水洗、乾燥して、No.27の化合物12.2部を赤色結晶として得る。
【0042】
(2)水200部に(1)で得られたNo.27の化合物6.0部を添加、次いで24%苛性ソーダ2.4部を添加してpH11.5とし、1時間撹拌する。液量を300部に調整後、食塩22.5部を添加し1時間撹拌、次いでろ過し、ウェットケーキ16部を得る。このウェットケーキ16部をメタノール150部、水75部と共に加熱還流を行い、1時間後ろ過して少量の不溶解分をろ別する。母液を氷冷下1時間撹拌し、析出した結晶をろ別し、少量のメタノールで洗浄後乾燥して、No.27の化合物の脱塩品4.0部を赤色結晶として得る。
【0043】
実施例4
(1)N,N−ジメチルホルムアミド250部中に、撹拌しながら式(3)の化合物(R=エトキシカルボニル基,R =CH )30.9部、炭酸カリ15.5部、酢酸第二銅・一水和物9.0部及び5−アセチルアミノ−2−スルホアニリン53.0部を順次仕込み、1時間かけて110℃に昇温する。110〜120℃の温度にて3時間反応を行う。次いで、冷却し、反応液を2200部の水中に注加する。20℃にて1時間撹拌し、次いでろ過し、少量の不溶解分を除去する。母液に水を加えて液量を約3000部にし、撹拌下、食塩450部を添加する。1時間室温で撹拌後析出した結晶をろ過、乾燥して、No.45の化合物32.9部を赤色結晶として得る。
【0044】
(2)水145部中に、冷却下96%硫酸156部を滴下し、50%硫酸を調製し、No.45の化合物32.7部を添加する。1時間かけて75℃に昇温し、75〜80℃の温度にて10時間反応を行う。冷却後、反応液を氷水400部中に注加する。20℃で1時間撹拌し、次いでろ過、乾燥して、No.46の化合物25.4部を赤色結晶として得る。
【0045】
(3)ピリジン100部にNo.46の化合物10.4部を撹拌しながら加える。90℃に昇温し、p−トルエンスルホニルクロライド6.9部を30分かけて添加する。90〜100℃の温度で、3時間反応する。次いで、冷却し、ろ過して少量の不溶解分を除去する。母液を10%硫酸350部中に注加して、20℃で1時間撹拌後析出した結晶をろ過、乾燥して、No.36の化合物13.5部を赤色結晶として得る。
【0046】
実施例5
(1)氷水100部にリパールOH 0.25部を加え、溶解後シアヌルクロライド10.1部を添加し、15分撹拌する。次に、5ースルホアントラニル酸(純度88.4%)14.0部を8〜10℃にて添加し、その温度で10%苛性ソーダ水溶液を滴下しながら、pHを2.7〜3.0に保ち3時間1次縮合反応を行い、シアヌルクロライドと5−スルホアントラニル酸の1次縮合物を含有する反応液を得る。
【0047】
(2)上記(1)の反応液中に実施例1の(1)で得られたNo.2の化合物23.5部を加え、昇温する。60〜65℃の温度で、10%苛性ソーダ水溶液を滴下しながらpHを4.3〜4.7に保ち、2時間反応を行う。次に、ろ過して少量の不溶解分をろ別してNo.15の化合物を含有する反応液を得る。
【0048】
(3)上記(2)で得られたNo.15の化合物を含有する反応液に水を加えて液量を600部とし、10%苛性ソーダ水溶液を滴下し、pHを10.5に保ちながら、90℃にて2時間反応を行う。次いで、液量を800部に調整後55〜60℃にて濃塩酸を滴下してpHを2.7とし、55〜60℃にて1時間保持する。析出する結晶を濾過する。次いで、得られるウェットケーキをメタノール500部と共に撹拌下加熱し、60℃にて1時間保持する。次いで濾過、100部のメタノールで洗浄後、乾燥してNo.16の化合物の脱塩品36.0部を赤色結晶として得る。λmax:520nm(水溶液中、アンモニウム塩として)
【0049】
(4)No.16の化合物の脱塩品を用いて、通常の方法により、インクを調製し、インクジェットプリンターにて、専用紙(セイコーエプソン社製)にプリントし、記録画像の耐水性、耐光性を測定したところいずれも良好であった。又、アルカリによる変色性もなく、良好であった。
【0050】
実施例6
(1)実施例1の(3)で得られるNo.3の化合物10.0部を約85℃の湯100部に添加し、次いで28%アンモニア水10.0部を添加して、加熱下80〜90℃にて4時間反応を行う。(その間pHは11.0から8.5に下がる。)
次いで28%アンモニア水10.0部を添加して85℃にて3時間反応を行う。(その間pHは10.5から9.0に下がる。)HPLC(高速液体クロマトグラフイ−)にて反応が完結したことを確認する。次にパ−ライト(ケイ藻土、三井金属社製)1.5部を添加して60〜65℃にて15分間攪拌後濾過する。母液に湯を添加して液量を200部に調整後加熱して60〜65℃に保つ。その温度にて食塩30部を添加し、次いで濃塩酸を添加してpHを0.5に調整し結晶を析出させる。30分間攪拌後濾過してNo.5の化合物のウエットケ−キを得る。次いでメタノ−ル150部で洗浄後乾燥してNo.5の化合物6.0部を赤色結晶として得る。λmax:523nm(水溶液中、アンモニウム塩として)
(2)No.5の化合物を用いて通常の方法によりインクを調製し、インクジェットプリンタ−にて、専用紙(セイコ−エプソン社製)にプリントし、記録画像の耐水性、耐光性を測定したところいずれも良好であった。
【0051】
実施例7
(1)実施例1の(3)で得られるNo.3の化合物を含有する反応液を85℃に加熱し、撹拌下、10%苛性ソ−ダ水溶液を滴下しpHを11に保ちながら85℃にて2時間反応を行う。次いでパ−ライト8.0部を添加して10分間撹拌後濾過する。母液に濃塩酸を加えてpHを6〜7に調整後加熱して60〜65℃に保ちながら食塩80部を添加し30分撹拌して塩析を行う。得られる結晶を濾過し20%食塩水溶液40部で洗浄する。得られるウエットケ−キを水400部と共に加熱して60〜65℃に保ちながら、濃塩酸を1時間30分かけて滴下し、pHを0.8に調整し結晶を析出させる。30分撹拌後濾過し、No.4の化合物のウエットケ−キを得る。
(2)(1)で得られるウエットケ−キをメタノ−ル300部と共に加熱し60〜65℃にて1時間撹拌を行う。次いで濾過し、メタノ−ル200部で洗浄、乾燥してNo.4の化合物の脱塩品31.3部が赤色結晶として得られる。
(3)No.4の化合物の脱塩品を用いて通常の方法にてアンモニアを加えてアンモニウム塩とした後、インクを調製し、インクジェットプリンタ−にて専用紙(キャノン社製)にプリントし、記録画像の耐水性、耐光性を測定したところいずれも良好であった。
【0052】
実施例8
(1)インクの作製
実施例2で得られたNo.4のアントラピリドン化合物を脱塩処理したものを含む下記表2の組成のインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフイルタ−で濾過する事により本発明のインクジェット用インクを得た。
【0053】
表2 インクの組成
色素(No.4) 7部
水 73部
グリセリン 5部
尿素 5部
N−メチル−2−ピロリドン 5部
エチレングリコ−ル 5部
合計 100部
【0054】
上記においてNo.4のアントラピリドン化合物(色素)の代わりにC.I.アシッド・レッド37を用いて、前記同様にして比較用のインクジェット用インク組成物を調製した。
(2)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ−(BJF−600、キャノン社製)を用いて、市販の光沢紙(カラ−BJフォトシ−トフイルムCA−101、キャノン社製)にインクジェット記録を行った。
(3)記録画像の色相、鮮明性:印刷ずみの記録紙を(GREATAG SPM50:GREATAG社製)を用いて測色を行い、L*、a*、b*値を算出した。色相についてJNC(社団法人 日本印刷産業機械工業会)のJapan Colorの標準マゼンタの標準測色値との比較をおこなった。鮮明性C*は下記計算式(1)により算出した。結果は表3に記載した。
【0055】

【0056】
(4)記録画像の耐光性試験
カ−ボンア−クフェ−ドメ−タ−(スガ試験機社製)を用い、記録画像に20時間照射した。判定級は、JIS L−0841に規定されたブル−スケ−ルの等級に準じて判定した。
(5)記録画像の耐水性試験
印刷済みの記録材を100℃の飽和蒸気の容器内に60分入れ,水(蒸気)による影響(印刷された部分から未印刷部分へのブリ−ドの状況)を評価した.評価結果は下記の記号で表示した.
○ 全くブリ−ドがみられないもの
△ 中程度のブリ−ドがみられるもの
× 極めて大きなブリ−ドがみられるもの
表3には(1)〜(5)の試験結果をまとめた.
【0057】
表3
色相 鮮明性 耐光性 耐水性
L* a* b* (C*) (級) 判定
JNC標準マゼンタ 46.3 74.4 -4.8 74.5 − −
実施例2のNo.4 48.4 81.0 -3.9 81.1 4級 ○
比較対照用のインク 48.3 78.2 24.0 81.8 4級 ×
【0058】
表3の結果から,本発明のインキ組成物はJNCの標準マゼンタに近似した値を示し,インクジェット用マゼンタ色インクとして好適であることがことがわかる。又耐水性において著しく優れているので,湿度の高い環境での耐久性が優れる。
【0059】
実施例9
下記各インク組成物を使用し下記の試験を実施した。
(1)使用したインク組成物
マゼンタインク
M1:実施例2で得られたNo.4のインク組成物
M2:比較対照用のインク組成物
シアンインク
C1:C.I.ダイレクト・ブル−199(銅フタロシアニン系 色素)を含むシアンインク組成物
(2)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ−を用いて色素受容層を有する光沢紙(キャノン社製、カラ−BJフォトシ−トフイルムCA−101)にマゼンタインク単独及びシアンインクとマゼンタインクとを重ねて印刷してインクジェット印刷物を得た。
【0060】
(3)記録(印刷)画像の耐光性試験
ワコム社製促進型キセノン耐光試験機を用い、上記(2)で印刷した記録紙について40時間の耐光試験を行った。重ねて印刷した印刷画像の耐光堅牢度が優れていた。
(4)測色
耐光試験前後の記録画像の色相を前記測色機を用いて測色し、色差(ΔE)を求めた。結果を表4に示した。
【0061】
表4
印刷方法 光沢紙(ΔE)
1 (M1単独) 16.5
2 (M1にC1を重ねて印刷) 15.4
3 (M2単独) 10.3
4 (M2にC1を重ねて印刷) 24.5
【0062】
重ねて印刷(重ね打ち)した青色(マゼンタ+シアン)の2と比較対照の4を比較すると2(本発明)はΔEが小さく明らかに優れている。水溶性銅フタロシアニン色素よりなるシアンインクとこれまでのマゼンタインクとの組み合わせでは変色が大きく使用に当たって問題が生じる。このように本発明のマゼンタインキはシアンインクとの組み合わせでもバランスがよく変色が小さく、重ねて印刷した画像の耐光性がよいので耐久性に優れた印刷画像が得られる。
【0063】
実施例10
実施例8に準じ下記のY:イエロ−、M:マゼンタ、C:シアンの各インキを調製し、配合色を印刷し、得られた記録画像の評価を行い、前記Japan Colorの各色標準測色値と比較した。得られた結果を表4に、色空間を図1に示した。
インキの調製に使用した色素
Y:C.I.ダイレクト・イエロ−86
M:実施例2で得られたNo.4の色素
C:C.I.ダイレクト・ブル−199
【0064】
表5
JNC標準色素 本発明のインキ使用時の色素
a* b* a* b*
イエロ− −6.6 91.1 12.9 107.8
レッド 68.5 48.1 68.2 59.3
マゼンタ 74.4 −4.8 81.0 −3.9
ブル− 20.0 −51.0 26.9 −53.5
シアン −37.5 −50.4 −41.3 −48.3
【0065】
表5の結果から明らかなように本発明のインクを用いた場合、マゼンタインク
、イエロ−インク及びシアンインクとの組み合わせでJNC標準色相に近似した色相及び混合色相が得られる。本発明のマゼンタ色素はインクジェットプリント用として工業的に極めて有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は本発明のアントラピリドン化合物及び比較対照染料による色出しの範囲を示す一例である。
【符号の説明】
【0067】
図1において、X軸はL*a*b*表色系におけるa*値を、Y軸は同じくb*値をそれぞれ示す。Yはイエロ−、Rはレッド、Mはマゼンタ、Bはブル−、Cはシアン、Gはグリ−ンをそれぞれ示す。又、実線は実施例2の化合物による色出し範囲であり、破線はJapan Colorの標準測色値である。尚、実線によるGのプロットはC.I.ダイレクト・イエロ−86とC.I.ダイレクト・ブル−199の重ね打ちによる色出し(参考値)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A−B
(式中、Aは下記式(1)
【化1】

(式中、R は水素原子、アルコキシカルボニル基又はベンゾイル基を、R は水素原子又はメチル基を示す。)
で表される色素残基を、Bは水素原子又は色素残基A上の置換基を示す。)
で表されるアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項2】
Bが、アシル基又は下記式(2)
【化2】

(式中、X、Yは各々独立して、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、又はアニリノ基(スルホン酸基、カルボキシル基、メチル基、塩素原子から選択される1種又は二種以上の置換基で置換されていても良い。)を示す。)
で表される基である請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項3】
請求項2の式(2)においてXがアニリノ基(スルホン酸基、カルボキシル基から選択される1種又は2種の置換基で置換されていてもよい)、Yが塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノ−ル基、ジエタノ−ル基又はモルホリノ基である請求項2に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項4】
アシル基がベンゼンスルホニル基、トシル基、2−カルボキシ−ベンゾイル基、又は3,4−ジカルボキシベンゾイル基である請求項2に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項5】
が水素原子、R がメチル基である請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項6】
色素成分として、請求項1乃至5に記載のアントラピリドン化合物又はその塩を含むことを特徴とする水性マゼンタインク組成物
【請求項7】
水及び有機溶剤を含有する請求項6に記載の水性マゼンタインク組成物
【請求項8】
アントラピリドン化合物又はその塩中の無機塩の含有量が1重量%以下である請求項6又は7に記載の水性マゼンタインク組成物
【請求項9】
インクジェット記録用である請求項6乃至8のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物
【請求項10】
インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求項6乃至8のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法
【請求項11】
インク滴を記録信号に応じて吐出させて記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、マゼンタインクとして請求項6乃至8のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を、シアンインクとして水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性インクをそれぞれ使用することを特徴とするインクジェット記録方法
【請求項12】
被記録材が情報伝達用シ−トである請求項11に記載のインクジェット記録方法
【請求項13】
情報伝達用シ−トが表面処理されたシ−トである請求項12に記載のインクジェット記録方法
【請求項14】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の水性マゼンタインク組成物を含有する容器及び水溶性金属フタロシアニン色素を含有する水性シアンインク組成物を含有する容器を有するインクジェットプリンタ−
【請求項15】
1が水素原子又は低級アルコキシカルボニル基、R2がメチル基、Bが水素原子又はC1乃至C4のアルコキシカルボニル基である請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A−B
(式中、Aは下記式(1)
【化1】

(式中、R は水素原子、アルコキシカルボニル基又はベンゾイル基を、R は水素原子又はメチル基を示す。)
で表される色素残基を、Bは水素原子又は色素残基A上の置換基としてアセチル基、ベンゼンスルホニル基、トシル基又は下記式(2)
【化2】

(式中、Xがアニリノ基(スルホン酸基、カルボキシル基から選択される1種又は2種の置換基で置換されていてもよい)、Yが塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基又はモルホリノ基である)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩

【図1】
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【公開番号】特開2006−188706(P2006−188706A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207(P2006−207)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【分割の表示】特願平11−75013の分割
【原出願日】平成11年3月19日(1999.3.19)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】