説明

新規エポキシ樹脂、その製造方法、エポキシ樹脂組成物及び硬化物

【課題】半導体封止材、成形材料、積層体、接着剤、塗料などの用途に供されるエポキシ樹脂組成物に使用される新規なエポキシ樹脂を提供する。
【解決手段】下記一般式で表される新規エポキシ樹脂である。


(Rは炭素数4〜6の炭化水素基であり、nは0〜5の繰り返し単位を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂の製造方法、該エポキシ樹脂含有組成物、及びその硬化物に関し、さらに詳しくは低粘度、低弾性等の特性に優れた硬化物を与える新規なエポキシ樹脂及びその製造方法及びエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材、成型材料、積層板、接着剤、塗料などの広範囲の用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されており、その要求性能も近年ますます高度化している。例えばエポキシ樹脂を主剤とする硬化性樹脂組成物の代表的分野に半導体封止材料があるが、近年、半導体素子の集積度の向上に伴い、パッケージサイズが大面積化、薄型化に向かうとともに、実装方式も表面実装化への移行が進展している。
【0003】
そこで、近年、薄膜パッケージや大面積を封止するウェハーレベルパッケージの封止に、液状エポキシ樹脂組成物を用いた成型工法が用いられるようになってきた。封止成型に液状エポキシ樹脂組成物を使用すると、固形エポキシ樹脂組成物と比較して、成型時の樹脂組成物の粘度が非常に低くなる為、回路の損傷を起こし難く、また大面積を一括封止することが可能となることが期待される。
【0004】
従来の液状封止材樹脂組成物として最も汎用されているものに、液状もしくは低融点の結晶性のビスフェノールA及びビスフェノールF型エポキシ樹脂にエポキシ樹脂硬化剤、シリカ、アルミナ等のフィラー及び反応性希釈剤としてエポキシ基を有する低粘度樹脂を配合したものがある。
【0005】
しかし、近年の電子素子の高密度化及び小型化に伴い、液状封止材樹脂組成物にはこれまで以上に優れた耐クラック性や、耐湿性が求められており。またパッケージの大型化に伴い、反りも大きな問題となっている。これらの特性を改善する方法として、トランスファー成型用エポキシ樹脂組成物の場合と同様にシリカ、アルミナ等のフィラーを大量に充填することで低線膨張化させる方法があるが、充填材を大量に充填した液状封止材組成物は、高粘度化して、成型不良や微細な回路の損傷が発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−359009号公報
【特許文献2】特開平11−140069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この問題点を解決する手段としてこれまで低粘度な脂肪族のエポキシ樹脂、例えば1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等を反応性希釈材として用い、液状封止材樹脂組成物の低粘度化によるフィラーの高充填化及び樹脂硬化物の低弾性率化をはかる、いわゆる硬化樹脂の低応力化により反りやパッケージクラックを防止する方法があるが、ビスフェノール型エポキシ樹脂に脂肪族系エポキシ樹脂を配合した液状樹脂組成物は長期に貯蔵すると反応性希釈材として用いた脂肪族系エポキシ樹脂がブリードアウトし不均一な組成物となり易く、またその硬化物物性は、耐熱性が低下するといった根本的な欠陥を有しており実用上問題である。また、レゾルシノールジグリシジルエーテルを反応性希釈材として用いた液状樹脂組成物は、耐熱性が低下する問題点の解決には有効であるが硬化樹脂の低弾性化には十分ではなく、また特許文献1にはオキシメチレン鎖を有するエポキシ樹脂が、特許文献2ではオキシエチレン鎖を有するエポキシ樹脂が提案されているが、粘度にはまだ改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の様な実情に鑑みて、長期保存性を持ち、低粘度でありかつ樹脂硬化物特性を損なうことなく低弾性率を有するエポキシ樹脂を求めて鋭意検討した結果、下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂及びその製造方法を提供するものであり、また、エポキシ樹脂及び硬化剤、さらに必要により硬化促進剤から構成されるエポキシ樹脂組成物において、該エポキシ樹脂成分として一般式(I)で表されるエポキシ樹脂を含有することを特徴とする新規なエポキシ樹脂組成物並びに該エポキシ樹脂からなる半導体封止材組成物を提供するものである。
【0009】
【化1】

(Rは炭素数4〜6の炭化水素基であり、nは0〜5の繰り返し単位を表す)
【0010】
上記化合物は下記一般式(2)で表される2価フェノールにエピクロルヒドリンを反応させることにより製造することが出来る。
【0011】
【化2】

(Rは炭素数4〜6の炭化水素基)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について更に詳細に述べる。
本発明に係る上記一般式(I)におけるnは5以下が好ましい。nが5より大きいと粘度が上昇し好ましくない。一般式(I)におけるnは、平均値0〜5を示し好ましくは平均値0〜1が良好な物性を示す。本発明における一般式(2)で表される2価フェノールにエピクロルヒドリンを反応させる方法は、従来公知の方法が利用でき、特に制限されるものではない。即ち、2価フェノールの水酸基1モルに対してエピクロルヒドリンを1〜20モル添加し、アルカリ金属水酸化物の存在下10〜120℃、好ましくは40〜100℃で反応を行うことができる。
【0013】
一般式(I)におけるRは炭素数4〜6の炭化水素基が好ましい。ただしRがt-ブチル基の場合、骨格に柔軟性がないため、低弾性の発現が他の炭化水素基に比べて劣る。このため好ましくはRは炭素数4〜6の直鎖の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数6で直鎖であるn-ヘキシル基である。
【0014】
反応の際に存在させるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムまたはこれらの混合物等が挙げられ、水溶液の形で用いるのが好ましく、通常市販されている水酸化ナトリウム水溶液がより好ましい。
【0015】
エピクロルヒドリンと2官能フェノール類との反応は、エポキシ基とは反応しない溶媒中で行う事ができ、具体的にはトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン類、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル等の脂肪族エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂環式エーテル類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、それら2種以上混合して使用することもできる。
【0016】
反応形態は、2官能フェノール類、エピクロルヒドリン及び溶媒を反応容器に仕込み、溶解した後、アルカリ金属水酸化物の水溶液を滴下しながら、常圧で70〜100℃、30分〜4時間で行うことができる。その際、アルカリ金属水酸化物の水溶液は連続的に滴下しても良く、又分割して滴下しても良い。また2官能フェノール類をアルカリ金属水酸化物の水溶液及び溶媒に溶解した後、エピクロルヒドリンを滴下する方法でも良く、同様に常圧で70〜100℃、30分〜4時間で行うことができる。反応温度が70℃未満では反応が進みにくくなり、100℃以上ではエピクロルヒドリンが反応系外に留出する危険があり好ましくない。このようにして反応を終了するが、加水分解性塩素量が多すぎる場合は、アルカリ金属水酸化物を前記全量範囲内で加えて、60〜90℃の温度で10分〜2時間再閉環反応を行なった後、中和、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副生塩を除去し、さらに溶媒を減圧留去すると、精製された本発明のエポキシ樹脂が得られる。
また、反応で生成した生成水を減圧下又は常圧下反応系外に除去しながら反応を行うこともできる。
【0017】
上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物は低粘度、弾性率等の優れた特性を有する樹脂組成物を提供する。本発明に係るエポキシ樹脂組成物に用いられる硬化剤としては、通常エポキシ樹脂を硬化させるのに使用するものであれば使用することが出来る。具体的にはジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ダイマー酸等の酸類とポリアミン類との縮合物であるポリアミドアミン等のアミン系化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等酸無40水物系化合物、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、ナフトール、ナフタレンジオール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類やケトン類との縮合反応により得られるノボラック型フェノール樹脂、また、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、ナフトール、ナフタレンジオール等のフェノール類とキシリレングリコールとの縮合反応等により得られるアラルキル型フェノール樹脂等のフェノール系化合物類、ジシアンジアミド及びその誘導体、2−メチルイミダゾ−ル、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類及びその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド類、BF3 錯体等が挙げられるが特にこれらに限定されるわけではない。これら硬化剤は、単独でも良いし、2種類以上を併用しても良い。本発明の樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。例えば、ホスフィン類、イミダゾール類、第3級アミン、BF3錯体等公知の種々の硬化促進剤が使用でき特に限定されるわけではない。硬化促進剤を用いる場合、エポキシ樹脂に対して0.01〜10重量%の範囲が好ましい
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また以下の例に記載に「部」とは、特に記載しない限り「重量部」を意味する。また、分析方法は次の通りである。
エポキシ当量の測定法はJIS K−7236に従い測定した。
粘度の測定法はJIS K−7233に従い測定した。即ち500mLの円筒缶に樹脂400gをはかりとって、25±0.2℃の恒温水槽で5時間放置して恒温にし、回転粘度計のローターを樹脂に浸漬して測定した。
加水分解性塩素量の測定方法はJIS−7243−2に従い測定した。即ちサンプル約2gを三角フラスコに秤取り、ジオキサンで溶解後、0.1N−KOHメタノール溶液25mlを加え、70℃の温水中で30分反応させた。次いで200mlビーカー移し取り、アセトン、イオン交換水、及び酢酸3mlを加えた後に0.01N−AgNO3水溶液による電位差滴定で求めた。表1には上記の測定結果を併記した。
合成例1
【0019】
攪拌装置、温度計、連続滴下装置、減圧下にエピクロルヒドリンと水の共沸蒸気を冷却凝縮し、エピクロルヒドリンだけを反応系に戻す装置の付いたセパラブルフラスコに4−ヘキシルレゾルシノール50部、エピクロルヒドリン191部、ジエチレングリコールジメチルエーテル29部を加えて65℃に昇温した後49%濃度の水酸化ナトリウム20部を3時間かけて滴下反応させた。その間、生成した水はエピクロルヒドリンとの共沸により順次除去した。反応終了後系内を10mmHgの減圧にし、150℃まで昇温して過剰のエピクロルヒドリンを回収した。生成物をトルエン200部に溶解、水洗によって複製した食塩を除去、ロータリーエバポレーターでトルエンを留去することにより、薄褐色液状のエポキシ化合物72部(以下「エポキシ樹脂A」、収率91%)を得た。得られたエポキシ化合物のエポキシ当量は164.8g/eq、25℃における粘度は200mPa・s、加水分解性塩素は70ppmであった。
合成例2
【0020】
4−ヘキシルレゾルシノールの代わりにレゾルシノール50部を用いた以外は実施例1と同様に反応を行い、常温で液状のエポキシ樹脂(以下「エポキシ樹脂B」)を得た。得られたエポキシ化合物のエポキシ当量は127.6g/eq、25℃における粘度は800mPa/s、加水分解性塩素は90ppmであった。
これらの測定値を市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−8125)と共に表1に示した。
【0021】
【表1】

実施例1
【0022】
合成例1で得たエポキシ樹脂A第2表で表される配合に従って配合しエポキシ樹脂組成物を得た。硬化剤としてKAYAHARD A−A(活性水素当量63.5、日本化薬社製)、硬化促進材として2E4MZ(四国化成社製)を使用した。
このエポキシ樹脂組成物を幅10mm、厚さ4mm、長さ160mmの金属型に注型し、目的の試験片を得た。
比較例1及び比較例2
【0023】
合成例2として得たエポキシ樹脂B及び比較例2としてビスフェノールA型エポキシ樹脂YD−8125(エポキシ当量171.8g/eq、粘度4,400mPa/s、東都化成社製)をそれぞれ実施例1と同様に表2に従って配合しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を実施例1と同様に幅10mm、厚さ4mm、長さ160mmの金属型に注型し、目的の試験片を得た。
これらの試験片について下記の試験法によってそれぞれの物性知を測定した。その結果を表2に示した。
硬化物特性の測定方法
1.吸水度 温度40℃、湿度85%RHなる条件下で200時間処理した時の重量変化を求めた。
2.ガラス転移点 ガラス転移温度及び動的粘弾性率はセイコーインスツルメンス社製DMA120によって測定し、ガラス転移温度はTanδピーク値で示した。
3.貯蔵弾性率
4.曲げ強度 曲げ強度率はJIS K6911で測定
5.曲げ弾性率 曲げ弾性率はJIS K6911における熱硬化性プラスチック一般試験方法に基づき、精密万能試験機によるクロスヘッドスピード毎分2mm/分の速度で測定を実施した。装置は島津製作所(株)製のオートグラフAGS−Hを使用した。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のエポキシ樹脂は、表1に示すとおり、低粘度であり、かつ、本発明の新規なエポキシ樹脂を使用した硬化物は、表2からも明らかなように、遜色無い吸水率を示し、かつ低弾性であることから低応力化に優れる。従って、本発明のエポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材、成型材料、積層板、接着剤、塗料などの広範囲の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される新規エポキシ樹脂。
【化1】


(Rは炭素数4〜6の炭化水素基であり、nは0〜5の繰り返し単位を表す)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される2価フェノールにエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化2】

(Rは炭素数4〜6の炭化水素基)
【請求項3】
下記一般式(3)で表される新規エポキシ樹脂
【化3】

(R1,R2はそれぞれ独立してn-ヘキシル基を表す、ただし同一芳香環中の一方がn-ヘキシル基であった場合、もう一方は水素であり、nは0〜5の繰り返し単位を示す)
【請求項4】
一般式(2)が4−ヘキシルレゾルシノールである請求項2記載のエポキシ樹脂の製造法。
【請求項5】
請求項1または3に記載のエポキシ樹脂および硬化剤を必須の成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物
【請求項6】
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【公開番号】特開2011−213869(P2011−213869A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83523(P2010−83523)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】