説明

新規スピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物及びこれを有する有機発光素子

【課題】有機発光素子に利用できる安定で新規なスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の提供。
【解決手段】式[1]で示されるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物。


〔式において、Ar1〜Ar4は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、などの基から独立して選ばれ、Ar1およびAr2のいずれか1つは水素原子で、Ar3およびAr4のいずれか1つは水素原子である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規スピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物及びこれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は陽極と陰極と、それら両電極間に配置される有機化合物層とを有する素子である。有機発光素子は、前記各電極から注入させる正孔(ホール)及び電子が有機化合物層である発光層内で再結合することで励起子が生成し、励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。有機発光素子の最近の進歩は著しく、駆動電圧が低く、多様な発光波長、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0003】
燐光発光する有機発光素子は発光層中に燐光発光材料を有し、その三重項励起子由来の発光が得られる有機発光素子である。燐光発光する有機発光素子の発光効率には更なる改善の余地がある。
【0004】
特許文献1は有機発光素子の発明であり、アントラセン合成時の中間体として下記の化合物、アントロン(化合物a)が示されている。
【0005】
また特許文献2には蛍光発光する有機発光素子のホール輸送層に使用される材料として、下記の化合物、10,10−ジフェニルアントロン誘導体(化合物b)が示されている。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−338957号公報
【特許文献2】特開平08−259937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に開示されている化合物は、アントロン骨格の10位が水素またはアリール基で置換されている。前者の場合、反応性の水素が脱離してアントラセンを生成するために不安定である。また後者の場合、アントロン骨格の10位に置換した2つのアリール基同士が結合していないために、個々に回転することが可能であり、基本骨格として安定性が低下する原因となる。また、上記特許文献は、アントロン骨格の電子輸送性になんら着目しておらずそれを利用していない。
【0009】
一方で発光層を有する有機発光素子に関して、電子輸送層を構成する有機化合物の開発が求められている。具体的にはLUMO準位が2.7eV以上と深く且つ化学的に安定な有機化合物が求められている。
【0010】
更に、発光層に燐光発光材料を有する有機発光素子の場合、該素子に使用できる高T1エネルギーを兼備した有機化合物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は下記一般式[1]で示されるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を提供する。
【0012】
【化2】

【0013】
〔式[1]において、Ar1またはAr2は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
【0014】
前記Ar1または前記Ar2のいずれか1つは前記水素原子である。
【0015】
Ar3またはAr4は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
【0016】
前記Ar3または前記Ar4のいずれか1つは前記水素原子である。〕
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、T1エネルギーが2.3eV以上と高く且つLUMO準位が2.7eV以上と深い新規なスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を提供することができる。更に、該化合物を使用することにより、発光効率が高く、駆動電圧の低い有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は下記一般式[1]で示される。
【0020】
【化3】

【0021】
式[1]において、Ar1またはAr2は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
【0022】
前記Ar1または前記Ar2のいずれか1つは前記水素原子である。
【0023】
Ar3またはAr4は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
【0024】
前記Ar3または前記Ar4のいずれか1つは前記水素原子である。
【0025】
より具体的に説明すれば、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、置換基を有するアントロン環とフルオレン環がスピロ結合で繋がった構造であり、アントロン環上の取り得る置換位置の組合わせとしては、
(1) Ar1とAr3の組合わせ(Ar2とAr4の組合わせと同じ構造である)
(2) Ar1とAr4の組合わせ
(3) Ar2とAr3の組合わせ
である。全ての組み合わせで、T1エネルギーが2.3eV以上、且つ、LUMO準位が2.7eVより深い化合物となる。
【0026】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物において、Ar1乃至Ar4で置換される以外の部位、即ち下記一般式[2]のR1乃至R12としては、水素原子または炭素数1乃至4程度のアルキル基が挙げられる。ここで炭素数1乃至4程度のアルキル基とは例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などである。また水素原子または炭素数1乃至4程度のアルキル基のうち合成の簡便さの点で水素原子が好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
本発明は、下記構造式のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン自身が有する高T1エネルギーと深いLUMO準位を反映した、安定で新規なスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を提供することにある。ここでいう高T1エネルギーとは2.86eV(433nm)である。また深いLUMO準位とは2.7eV以上のことである。
【0029】
更に、該化合物を有機発光素子に使用することにより、発光効率が高く、駆動電圧が低く、且つ安定な有機発光素子を提供することができる。
【0030】
【化5】

【0031】
以下、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物と、本発明の有機発光素子について詳細に述べる。
【0032】
(本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の性質について)
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の性質を以下の(1)、(2)で説明する。
【0033】
(1)下記のアントロン骨格は10位の反応性が高い。
【0034】
【化6】

【0035】
アントロン骨格はアントラセンの合成時の中間体としてよく用いられる。アントロン骨格からアントラセンを得る際の反応経路を以下式で示す。
【0036】
【化7】

【0037】
この反応はアントロン骨格の10位が水素原子であることによって起こる反応である。これに対し、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は上記式で示す反応が起きず、安定である。
【0038】
(2)上記アントロン骨格の10位が2つのアリール基で置換された化合物の場合、2つのアリール基同士が結合していないために、個々に回転することが可能であり、基本骨格として安定性が低下する原因となる。一方、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、アントロン骨格の10位でフルオレン骨格とスピロ構造を形成しているため、上記のような回転部位がない。従って、基本骨格としての安定性が高い。有機発光素子において、そのような回転部位を有する化合物を使った素子は経時的な劣化が(輝度や効率の低下が)加速され、好ましくない。
【0039】
これら(1)、(2)で説明したように、アントロン骨格を有機発光素子に使用する場合、特にそれを有する安定な有機発光素子を提供するために、スピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物が好適に使用できる。
【0040】
(本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の機能について)
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物のアントロン環はカルボニル基を有している。このためカルボニル基に由来する電子輸送能から、素子の中でも主に電子を流したり閉じ込めたりする層、即ち、電子輸送層、ホールブロッキング層または発光層に使用する材料として適した化合物であると本発明者は気付いた。ホールブロッキング層とは陰極側で発光層または電子輸送層と隣接した層である。電子輸送層は陰極と接する層で電子注入層と呼ぶ場合がある。ホールブロッキング層は陰極側で発光層または電子輸送層と隣接した層と呼ぶ場合がある。特に、本発明の化合物は高T1エネルギー(2.86eV、433nm)と深いLUMO準位(2.7eV以上)を兼備するため、発光層およびその近傍層であるホールブロッキング層に使用することがより適していることに本発明者は気付いた。
【0041】
有機発光素子のホールブロッキング層に使用する場合、即ち、電子輸送層に隣接した層に使用する場合、以下のことを考慮することが大切である。それは、電子輸送材料のLUMO準位を考慮して、適切なLUMO準位を本発明の化合物が有することである。
【0042】
電子輸送材料の代表例として、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(III)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンまたは2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンが挙げられる。これらのLUMO準位はそれぞれ2.8eV、3.2eVまたは3.3eVであり、深いLUMO準位を有する化合物である。
【0043】
従って、隣接するホールブロッキング層に使用する材料は、上記電子輸送材料のLUMO準位置を考慮した適切なLUMO準位が必要であり、2.7eV以上のLUMO準位が好ましい。2.7eVより小さいと、電子輸送材料のLUMO準位との差(エネルギー障壁)が大きくなり、発光素子を高電圧化させるので好ましくない。
【0044】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物はLUMO準位が2.7eV以上であるため、ホールブロッキング層に使用した場合に、発光素子の高電圧化は起り難いという特徴を有する。
【0045】
また、有機発光素子のホールブロッキング層に使用する場合、以下のことを考慮することが大切である。それは、ホール移動度に対して高い電子移動度を化合物が有することである。
【0046】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、アリールアミノ基やアリールカルバゾリル基のようなホール輸送性を有する置換基を含まない化合物である。そのため、カルボニル基由来の電子輸送性が阻害されず、電子移動度がホール移動度に対して高いという特徴を有する。
【0047】
一方、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を有機発光素子の発光層に使用する場合(ホスト材料の副成分として使用する場合)には、以下のことを考慮することが大切である。それは、有機発光素子に使用する発光材料の発光色を考慮して、適切なバンドキャップを本発明の化合物が有することである。
【0048】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、バンドギャップを狭くするためにアントロン骨格と共役がつながる部位に、ビフェニル基などのアリール基を導入している。具体的な置換位置の選択肢は、下記式の1位から8位である。
【0049】
その中でも2位、3位、6位および7位にアリール基を設けることが考えられ、本発明では2位と3位いずれか一方、且つ、6位と7位のいずれか一方である。というのもこれら置換位置の場合、共役を広げてバンドギャップを狭くすることができ、アントロン骨格と立体障害の小さい置換位置に置換基を設けることができるためである。
【0050】
【化8】

【0051】
発光材料に燐光発光材料を用い、且つ本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物をホールブロッキング層あるいは発光層のホスト材料の副成分として用いる場合に、本発明に係る化合物のT1エネルギーが所望の値を満たしていることが重要である。
【0052】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、その基本骨格(母骨格)となるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オンのT1エネルギーが433nmである。このように、母骨格自体が高いT1を有するために、種々の置換基を導入して、T1エネルギーを発光材料の発光スペクトルに合わせて下げて用いることができる。
【0053】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物のT1エネルギーは、母骨格の2位と3位いずれか一方、且つ、6位と7位のいずれか一方に置換されるアリールのT1エネルギーにも影響される。
【0054】
下記の表1に各種アリールのT1エネルギー(波長換算値)を示す。
【0055】
燐光発光材料の発光色が青から緑である(スペクトルの最大ピークが440nm以上530nm以下である)場合、より高いT1エネルギーを有するアリールが選ばれる。表中のアリールのうち、T1エネルギーが500nm以下のベンゼン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、フルオレン、トリフェニレン、ビフェニレン、ターフェニレン、フェナンスレン、ナフタレンがより好ましく、T1エネルギーが450nm以下のベンゼン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、フルオレン、トリフェニレン、ビフェニレン、ターフェニレンが特に好ましい。なおフルオレンの場合、例示化合物として後に構造式を示すようにジメチルフルオレンが好ましい。
【0056】
【表1】

【0057】
以上のように、本発明の化合物の特徴がLUMO準位が深く(2.7eV以上である)、電子移動度が高く、T1エネルギーが高いために、これをホールブロッキング層の材料として使用すると、高効率で素子の駆動電圧を低くすることが可能である。
【0058】
また、本発明の化合物の化合物の特徴が、バンドギャップが狭く、T1エネルギーが高いために、これを発光層のホスト材料として使用すると、高効率で素子の駆動電圧を低くすることが可能である。
【0059】
いずれの場合でも、素子の駆動電圧低減に寄与することになり、素子の電気化学的な負担を軽減することができ、このことから素子を長寿命化することが可能になる。
【0060】
(本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の例示)
以下に本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の具体的な構造式を例示する。
【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
例示化合物に関して、A群に示す化合物は、一般式[1]のAr1とAr3(Ar2とAr4)に置換基を有する化合物である。2つの置換基のうち、片側の置換基は、アントロン骨格のカルボニルに対してp(パラ)位、即ち、共役が広がる位置に置換するため、電子輸送性の向上が期待できる。
【0065】
またA群の化合物は、Ar1(Ar2)に対してAr3(Ar4)が非対称な位置であり、非対称化合物になることから、薄膜時の結晶化が抑制され、安定性に優れたアモルファス膜が得られる。
【0066】
B群に示す化合物は、一般式[1]のAr1とAr4に置換基を有する化合物である。2つの置換基は、アントロン骨格のカルボニルに対してm(メタ)位、即ち、上記p(パラ)位より共役が狭くなる位置に置換するため、より高いT1エネルギーの化合物を得ることができる。
【0067】
また、C群に示す化合物は、一般式[1]のAr2とAr3に置換基を有する化合物である。2つの置換基がアントロン骨格のカルボニルに対してp(パラ)位、即ち、共役が広がる位置に置換するため、高い電子輸送性を有する化合物を得ることができる。
【0068】
本発明では、目的に応じてA群乃至C群の化合物を適宜選択すれば良いが、電子輸送材料として単層膜で使用する場合には、膜安定性も必要になるため、A群の化合物を使用することがより好ましい。また、発光層アシスト材料として使用する際、特に青色発光に近づくほど高T1エネルギーのアシスト材料である必要があるため、B群の化合物を選択することがより好ましい。
【0069】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物における2つの置換基は、同じアリール基でも異なるアリール基でも構わない。2つの置換基が異なる場合においても、T1エネルギーが2.3eV以上、且つ、LUMO準位が2.7eV以上を兼備した化合物が得られる。
【0070】
(本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の合成方法)
次に、本実施のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物の合成方法について説明する。
【0071】
まず、原料となるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オンのジハロゲン体は、下記式に示すように合成することができる。ジハロゲン体は[3]、[7a]、[7b]で下記に示す。化合物[1]は東京化成工業株式会社から購入して使用できる(試薬コードNo.D3182、商品名;ジブロモアントラキノン)。また、化合物[4]はJournal of Organometallic Chemistry(1977),128(1),P95−98.にその合成方法が記載されている。
【0072】
【化12】

【0073】
【化13】

【0074】
更に、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、下記式の様に、上記の原料であるジハロゲン体とアリールのボロン酸もしくはボロン酸エステル化合物とPd触媒によるカップリング反応で合成することができる。
【0075】
【化14】

【0076】
但し、[9]、[10]または[11]において、アリール基(Ar)はフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0077】
また本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、有機発光素子に用いられる場合には直前の精製として昇華精製されることが好ましい。なぜなら有機化合物の高純度化において昇華精製は精製効果が大きいからである。このような昇華精製においては、一般に有機化合物の分子量が大きいほど高温が必要とされ、この際高温による熱分解などを起こしやすい。従って有機発光素子に用いられる有機化合物は、過大な加熱なく昇華精製を行うことができるように、分子量が1000以下であることが好ましい。
【0078】
(本発明の有機発光素子について)
次に本発明に係る有機発光素子を説明する。
【0079】
本発明に係る有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する有機発光素子である。そして本発明に係る有機発光素子は、前記有機化合物層が一般式[1]で示されるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を含有する。
【0080】
本発明に係る有機発光素子としては、基板上に、順次陽極/発光層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。他にも順次陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。また順次陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものや順次陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。あるいは順次陽極/ホール輸送層/発光層/ホールブロッキング層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。ただしこれら五種の多層型有機発光素子の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0081】
その場合の素子形態としては、基板側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0082】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、該有機発光素子の有機化合物層として何れの層構成でも使用することができる。例えば電子輸送層、ホールブロッキング層もしくは発光層として使用することが好ましく、より好ましくは、ホールブロッキング層または発光層として使用することができる。また、発光層においては、特にホスト材料の副成分(第2のホスト材料、あるいはホスト材料2ともいう)として使用することが好ましい。この場合、ホスト材料の主成分を第1のホスト材料、あるいはホスト材料1という。
【0083】
発光層はホスト材料とゲスト材料(発光材料とも言う)を有してもよく、ホスト材料とはゲスト材料以外の材料である。
【0084】
発光層はホスト材料として複数種有しても良い。燐光発光材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上20wt%以下である。さらに好ましくは、濃度消光を防ぐために発光材料の濃度は10wt%以下であることが望ましい。また発光材料はホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませて発光材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0085】
ゲスト材料として燐光発光材料を使用する場合、好ましい燐光発光材料はイリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体等の金属錯体である。なかでも燐光発光性の強いイリジウム錯体であることがより好ましい。また、励起子やキャリアの伝達を補助することを目的として、発光層が複数の燐光発光材料を有していてもよい。
【0086】
燐光発光材料の場合、発光色は特に限定されないが、その最大発光ピーク波長が440nm以上530nm以下の範囲にある青色から緑色発光材料であることが好ましい。
【0087】
一般に燐光発光素子では、ホスト材料のT1から非放射失活による発光効率の低下を防ぐために、ホスト材料のT1エネルギーは燐光発光材料のT1エネルギーよりも高いことが必要とされている。
【0088】
本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、その基本骨格(母骨格)となるスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オンのT1エネルギーが433nmである。そのため青色燐光発光材料のT1エネルギーよりも高い。したがってこれを青色から緑色発光する有機発光素子の発光層に用いると発光効率の高い有機発光素子を得る事ができる。
【0089】
以下に本発明の燐光発光材料として用いられるイリジウム錯体の具体例と、ホスト材料の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
イリジウム錯体の具体例は以下である。
【0091】
【化15】

【0092】
ホスト材料の具体例は以下である。
【0093】
【化16】

【0094】
ここで、本発明の化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の化合物を使用することができる。より具体的にはホール注入性化合物あるいは輸送性化合物あるいはホスト材料あるいは発光性化合物あるいは電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0095】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0096】
主に発光機能に関わる発光材料としては、前述の燐光発光ゲスト材料、もしくはその誘導体以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0097】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0098】
陽極材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0099】
一方、陰極材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0100】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0101】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0102】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0103】
表示装置は本発明に係る有機発光素子を表示部に有する。表示部とは画素を有しており、該画素は本発明に係る有機発光素子を有する。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0104】
表示装置はデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いられてもよい。撮像装置は該表示部と撮像するための撮像光学系を有する撮像部とを有する。
【0105】
図1は有機発光素子を画素部に有する画像表示装置の断面模式図である。本図では二つの有機発光素子と二つのTFTとが図示されている。一つの有機発光素子は一つのTFTと接続している。
【0106】
図中符号3は画像表示装置、38はスイッチング素子であるTFT素子、31は基板、32は防湿膜、33はゲート電極、34はゲート絶縁膜、35は半導体層、36はドレイン電極、37はソース電極、39は絶縁膜である。また310はコンタクトホール、311は陽極、312は有機層、313は陰極、314は第一の保護層、そして315は第二の保護層である。
【0107】
画像表示装置3は、ガラス等の基板31上に、その上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32が設けられている。防湿膜32を構成する材料は酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。防湿膜32の上にゲート電極33が設けられている。ゲート電極33はスパッタリングによりCr等の金属を製膜することで得られる。
【0108】
ゲート絶縁膜34がゲート電極33を覆うように配置される。ゲート絶縁膜34は酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜し、パターニングして形成される膜である。パターニングされてTFTとなる領域ごとに設けられているゲート絶縁膜34を覆うように半導体層35が設けられている。この半導体層35はプラズマCVD法等により(場合によっては例えば290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を製膜し、回路形状に従ってパターニングすることで得られる。
【0109】
さらに、それぞれの半導体層35にドレイン電極36とソース電極37が設けられている。このようにTFT素子38はゲート電極33とゲート絶縁層34と半導体層35とドレイン電極36とソース電極37とを有する。TFT素子38の上部には絶縁膜39が設けられている。次に、コンタクトホール(スルーホール)310は絶縁膜39に設けられ、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続されている。
【0110】
この陽極311の上には、発光層を含む多層あるいは発光層単層の有機層312と、陰極313とが順次積層されており、画素としての有機発光素子を構成している。
有機発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層314や第二の保護層315を設けてもよい。
【0111】
尚、スイッチング素子に特に限定はなく、上述のTFT素子の他にMIM素子も用いることができる。
【実施例】
【0112】
<実施例1>(例示化合物A−1の合成)
【0113】
【化17】

【0114】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[3]:1g(2mmol)
[12](フェニルボロン酸):0.8g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、300℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物A−1を0.46g得た(収率46%)。
【0115】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=496.6 計算値:C2822O=496.2
また例示化合物A−1について、以下の方法でT1エネルギーの測定を行った。
【0116】
例示化合物A−1のトルエン希薄溶液(約10−4mol/L)について、Ar雰囲気下、77K、励起波長310nmにおいて燐光スペクトルの測定を行った。得られた燐光スペクトルの第一発光ピークのピーク波長からT1エネルギーを求めると波長換算値で460nmであった。
【0117】
次に例示化合物A−1について、以下の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
【0118】
例示化合物A−1をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端から、例示化合物A−1のエネルギーギャップは3.5eVであった。
<実施例2>(例示化合物A−3の合成)
【0119】
【化18】

【0120】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[3]:1g(2mmol)
[13](ターフェニルボロン酸):1.4g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、320℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物A−3を0.33g得た(収率21%)。
【0121】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=801.0 計算値:C2822O=800.3
また例示化合物A−3について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で471nmであった。
【0122】
さらに例示化合物A−3について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物A−3のエネルギーギャップは3.4eVであった。
【0123】
<実施例3>(例示化合物A−7の合成)
【0124】
【化19】

【0125】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[3]:1g(2mmol)
[14](フルオレニルボロン酸:1.3g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、315℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物A−7を0.39g得た(収率27%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=728.9 計算値:728.3
また例示化合物A−7について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で480nmであった。
【0126】
さらに例示化合物A−7について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物A−7のエネルギーギャップは3.2eVであった。
【0127】
<実施例4>(例示化合物B−1の合成)
【0128】
【化20】

【0129】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[7a]:1g(2mmol)
[12](フェニルボロン酸):0.8g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、300℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物B−1を0.55g得た(収率56%)。
【0130】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=496.7 計算値:C2822O=496.2
また例示化合物B−1について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で454nmであった。
【0131】
さらに例示化合物B−1について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物B−1のエネルギーギャップは3.7eVであった。
【0132】
<実施例5>(例示化合物B−3の合成)
【0133】
【化21】

【0134】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[7a]:1g(2mmol)
[13](ターフェニルボロン酸):1.4g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をクロロベンゼンに加熱溶解後、熱時ろ過し、クロロベンゼン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、340℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物B−3を0.51g得た(収率32%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=800.9 計算値:800.3
また例示化合物B−3について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で461nmであった。
【0135】
さらに例示化合物B−3について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物B−3のエネルギーギャップは3.6eVであった。
【0136】
<実施例6>(例示化合物B−7の合成)
【0137】
【化22】

【0138】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[7a]:1g(2mmol)
[14](フルオレニルボロン酸):1.3g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、340℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物B−7を0.62g得た(収率43%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=728.7 計算値:728.3
また例示化合物B−7について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で470nmであった。
【0139】
さらに例示化合物B−7について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物B−7のエネルギーギャップは3.5eVであった。
【0140】
<実施例7>(例示化合物B−9の合成)
【0141】
【化23】

【0142】
非対称化合物である例示化合物B−9の合成が以下のように2段階の反応で行った。
【0143】
<1段階目>
以下に示す試薬、溶媒を500mLナスフラスコに投入した。
[7a]:5g(10mmol)
[13](ターフェニルボロン酸):3.5g(10mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.57g(0.5mmol)
トルエン:150mL
エタノール:40mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:60mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノールで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をカラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル、展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=5/1)で精製した後、トルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥して中間体[15]を2.9g得た(収率45%)。中間体[15]は2段階目の反応の原料として使用した。
【0144】
<2段階目>
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
中間体[15]:2g(3mmol)
[16](ビフェニルボロン酸):0.86g(3mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.35g(0.3mmol)
トルエン:80mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、330℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物B−9を1.1g得た(収率50%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=724.9 計算値:724.3
また例示化合物B−9について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で460nmであった。
【0145】
さらに例示化合物B−9について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物B−9のエネルギーギャップは3.6eVであった。
【0146】
<実施例8>(例示化合物C−3の合成)
【0147】
【化24】

【0148】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
[7b]:1g(2mmol)
[13](ターフェニルボロン酸):1.4g(4mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.23g(0.2mmol)
トルエン:50mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をクロロベンゼンに加熱溶解後、熱時ろ過し、クロロベンゼン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、325℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物C−3を0.51g得た(収率32%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=800.9 計算値:800.3
また例示化合物C−3について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で472nmであった。
【0149】
さらに例示化合物C−3について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物C−3のエネルギーギャップは3.2eVであった。
【0150】
<実施例9>(例示化合物C−9の合成)
【0151】
【化25】

【0152】
非対称化合物である例示化合物C−9の合成が以下のように2段階の反応で行った。
【0153】
<1段階目>
以下に示す試薬、溶媒を500mLナスフラスコに投入した。
[7b]:5g(10mmol)
[13](ターフェニルボロン酸):3.5g(10mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.57g(0.5mmol)
トルエン:150mL
エタノール:40mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:60mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノールで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をカラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル、展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=5/1)で精製した後、トルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥して中間体[17]を2.1g得た(収率32%)。中間体[17]は2段階目の反応の原料として使用した。
【0154】
<2段階目>
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
中間体[17]:2g(3mmol)
[16](ビフェニルボロン酸):0.86g(3mmol)
Pd(PPh)4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)):0.35g(0.3mmol)
トルエン:80mL
エタノール:20mL
30wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌し、析出した結晶をろ別し、水、エタノール、アセトンで洗浄し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をトルエンに加熱溶解後、熱時ろ過し、トルエン溶媒で再結晶を2回行った。得られた結晶を100℃で真空乾燥後、10−4Pa、340℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物C−9を0.84g得た(収率38%)。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=724.9 計算値:724.3
また例示化合物C−9について、実施例1と同様の方法でT1エネルギーの測定を行ったところ、波長換算値で472nmであった。
【0155】
さらに例示化合物C−9について実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、例示化合物C−9のエネルギーギャップは3.2eVであった。
【0156】
<実施例10>
実施例1乃至実施例9によって得られた化合物のLUMO準位を表2に示す。表2のように全ての化合物のLUMO準位は2.7eVより深い値であることがわかった。
【0157】
【表2】

【0158】
<実施例11>
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/ホールブロッキング層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0159】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、下記に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) ホスト材料1:EML−1、ホスト材料2:なし、ゲスト材料:Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング(HB)層(10nm) A−3
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0160】
【化26】

【0161】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0162】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、5.5Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が55cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。またこの素子においてCIE色度座標は、(x,y)=(0.30,0.63)であった。
【0163】
<実施例12乃至24>
実施例12において、発光層のホールブロッキング材料(HB材料)、ホスト材料1、ホスト材料2、ゲスト材料を代えた他は、実施例11と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例10と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0164】
【表3】

【0165】
この様に、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は燐光発光する有機発光素子において、電子輸送材料、もしくは発光層材料として用いることで良好な発光効率を得られることが分かった。
【0166】
<実施例25、26および比較例1、2、3>
実施例25および実施例26の化合物、比較例1および比較例2の化合物の構造式を下記に示す。
【0167】
【化27】

【0168】
【化28】

【0169】
[構造と安定性について]
比較例1の化合物であるH−1はアントロン骨格の10位が水素の化合物である。上述したように、アントロン骨格の10位が水素原子であることによって安定性が低下する(アントラセン化が起る)。
【0170】
比較例2または比較例3の化合物であるH−2またはH−3はアントロン骨格の10位が2個のアリール基(フェニル基)で置換されており、2つのアリール基同士が個々に回転することが可能であり、基本骨格として安定性が低下する原因となる。
【0171】
このような基本骨格の構造の違いが、有機発光素子の安定性(寿命)の差を生じさせることが以下の評価で確認された。
【0172】
[LUMO準位、電子移動度の比較]
実施例25、実施例26および比較例3の化合物であるA−3、B−3およびH−3の電子移動度を表4に示す。A−3およびB−3は、電子移動度がホール移動度よりも二桁高い値である。一方、H−3はアントロン骨格の10位がホール輸送性のアリールアミン基で置換されているため、電子移動度がホール移動度に比べて高くならない。また、電子移動能自体が阻害される(電子移動度が低くなる)傾向がある。このような違いに起因し、H−3を使用した発光素子の安定性(寿命)は著しく低下することが、以下の素子評価で確認できた。
【0173】
尚、移動度は、ITO基盤上に昇華法により上記化合物の薄膜(厚さ1〜3μm)を形成し、それを評価サンプルとしてTOF法(Time−Of−Flight法、住友重機メカトロニクス社製)で行った。
【0174】
【表4】

【0175】
[有機発光素子の輝度半減寿命の比較]
実施例25、26または比較例1乃至比較例3において、発光層のホールブロック材料、ホスト材料1、ホスト材料2、ゲスト材料を代えた他は、実施例10と同様の方法で素子を作製した。そして該素子の安定性を評価するために電流値40mA/cm2における有機発光素子の輝度半減寿命を測定した。結果を表5に示す。表中、ホールブロック材料をHB材料と記す。
【0176】
【表5】

【0177】
この様に、本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、比較例の化合物よりも、燐光発光する有機発光素子において輝度半減寿命が長寿命化した。これは、スピロ構造を有する本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物が、励起状態においてより安定に機能した結果である。
【0178】
以上のように本発明のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物は、T1エネルギーが高く、LUMO準位が深く、電子移動度が高い化合物である。そして有機発光素子に用いる場合、発光効率が高く、劣化しにくい安定な有機発光素子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物。
【化1】


〔式[1]において、Ar1またはAr2は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
前記Ar1または前記Ar2のいずれか1つは前記水素原子である。
Ar3またはAr4は水素原子、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジメチルフルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾフラン基、ジベンゾチオフェン基から独立して選ばれる。
前記Ar3または前記Ar4のいずれか1つは前記水素原子である。〕
【請求項2】
陽極と陰極とからなる一対の電極と前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有する有機発光素子において、前記有機化合物層は請求項1に記載のスピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
前記有機発光素子は前記有機化合物層とは別の有機化合物層を有し、前記別の有機化合物層は発光層であり、前記有機化合物層は前記発光層の前記陰極側で前記発光層と接していることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層はホスト材料とゲスト材料を有し、前記ホスト材料が第1のホスト材料と第2のホスト材料とから少なくとも構成され、前記第2のホスト材料が前記スピロ(アントラセン−9,9’−フルオレン)−10−オン化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記ゲスト材料が燐光発光材料であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
緑色を発光することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
請求項2乃至6の何れか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子と接続するスイッチング素子とを有する画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−20947(P2012−20947A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158569(P2010−158569)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】