新規ペプチド、並びにトリプシン阻害剤、抗インフルエンザウイルス剤、及び抗体
【課題】優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する新規ペプチド、並びに前記新規ペプチドを含有する優れたトリプシン阻害剤、トリプシン阻害剤を含有し、実用化の可能性が高く、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体の提供。
【解決手段】抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであるペプチドである。
【解決手段】抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであるペプチドである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチド、並びにトリプシン阻害剤、抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、インフルエンザの予防又は治療方法としては、ワクチンの予防接種や、インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレル、ノバルティスファーマ株式会社製)、オセルタミビル(商品名:タミフル、中外製薬株式会社製)、及びザナミビル(商品名:リレンザ、グラクソ・スミスクライン株式会社製)の投与が主である。しかしながら、これらの予防又は治療方法には、それぞれ一長一短があることが知られている。例えば、ワクチンは、ワクチンの接種により産生されたIgAが、呼吸器系の粘液中に分泌されることにより、ウイルスの細胞への付着を防ぐことができるが、タイプの異なる新型ウイルスに対しては無力であることが知られている。更に、強毒株と呼ばれるインフルエンザウイルスは、培養中に鶏卵内の細胞を死滅させるため、ワクチンの作製も困難である。また、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)は、前記インフルエンザウイルスのM2タンパク質のイオンチャンネル作用を阻害し、インフルエンザウイルスの脱核を抑制することができるが、M2タンパク質の無いB型、C型ウイルスに対する効果はなく、強い副作用や耐性菌の発現が問題とされている。また、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)は、前記ノイラミニダーゼ(NA)の作用を阻害し、標的細胞から遊離して他の細胞に感染を広げることを抑制することができるが、その効果の発現のためには、感染初期の服用が必須とされ、また、近年、若年者に対する副作用が問題となっている。
【0003】
前述したような従来のワクチンやインフルエンザ薬の問題点を克服するため、新たなインフルエンザの予防又は治療方法の研究開発が広く行われており、例えば、インフルエンザウイルス受容体の被認識部位を含む糖鎖を持つスフィンゴ糖脂質(例えば、ガングリオシド類)を有効成分とした、抗インフルエンザウイルス剤などが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、前記特許文献1に開示された抗インフルエンザウイルス剤は未だ実用化には至っておらず、また、前記特許文献1で抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として開示されているガングリオシド類は、ミンククジラの脳やヒト赤血球といった原料から抽出されたものであり、インフルエンザ薬としての実用化には有効成分の大量調製が望まれる点を鑑みると、やや困難があるものと考えられる。
【0004】
インフルエンザの流行は大きな問題であり、現在使用されているアマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)などの既存薬も、前記したようにそれぞれ副作用などの欠点を有していることから、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有し、かつ、実用化の可能性の高い新たなインフルエンザ薬について、早急な研究開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−233773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する新規ペプチド、並びに前記新規ペプチドを含有する優れたトリプシン阻害剤、トリプシン阻害剤を含有し、実用化の可能性が高く、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、トリプシン阻害剤が抗インフルエンザウイルス活性を有すること、哺乳動物(例えば、ウシ)の初乳由来の新規ペプチドが、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有し、抗インフルエンザウイルス剤及びトリプシン阻害剤として利用可能であること、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存薬のオセルタミビル(タミフル)、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い活性を有すること、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存薬のオセルタミビル(タミフル)と併用することで、更に強い抗インフルエンザウイルス活性を示すこと、前記新規ペプチドを抗原として製造したモノクローナル抗体が、前記新規ペプチドを好適に認識できることを知見し、本発明の完成に至った。
前記哺乳動物の初乳由来のトリプシン阻害剤が、このような優れた作用を有し、抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として有用であることは、従来には全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1>抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであることを特徴とするペプチドである。
<2>活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN及びDのいずれかである前記<1>に記載のペプチドである。
<3>活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN及びSのいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載のペプチドである。
<4>活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT及びKのいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載のペプチドである。
<5>活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がLである前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
<6>下記配列番号:2で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
<7>下記配列番号:3で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
<8>下記配列番号:4で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
<9>下記配列番号:5で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
<10>下記配列番号:6で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
<11>下記配列番号:7で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
<12>下記配列番号:8で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
<13>下記配列番号:9で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
<14>下記配列番号:10で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
<15>下記配列番号:11で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
<16>下記配列番号:12で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
<17>下記配列番号:13で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
<18>下記配列番号:14で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
<19>下記配列番号:15で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
<20>下記配列番号:16で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
<21>下記配列番号:17で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
<22>活性中心を有するアミノ酸配列GPCKA(配列番号:1)を有し、ペプチドのアミノ酸配列の全長が少なくとも50残基である前記<1>から<21>のいずれかに記載のペプチドである。
<23>哺乳動物の初乳由来である前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<24>哺乳動物がウシである前記<23>に記載のペプチドである。
<25>合成ペプチドである前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<26>組換えペプチドである前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<27>前記<1>から<26>のいずれかに記載のペプチドを認識することを特徴とする抗体である。
<28>前記<1>から<26>のいずれかに記載のペプチドを含有することを特徴とするトリプシン阻害剤である。
<29>トリプシン阻害剤を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤である。
<30>トリプシン阻害剤が、前記<28>に記載のトリプシン阻害剤である前記<29>に記載の抗インフルエンザウイルス剤である。
<31>オセルタミビルを組み合わせてなる前記<29>から<30>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤である。
<32>インフルエンザウイルスに感染した個体の治療に用いられる前記<29>から<31>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
<33>哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料をクロロホルム/メタノール混合溶液で抽出することにより得られたオリゴ糖画分を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分画してタンパク質画分を得る工程を含むことを特徴とする抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<34>得られたタンパク質画分を、更に限外ろ過により分画して分子量5kDa〜100kDaのタンパク質画分を得る工程を含む前記<33>に記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<35>得られた分子量5kDa〜100kDaのタンパク質画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーのいずれかにより精製して精製タンパク質画分を得る工程を含む前記<33>から<34>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<36>得られた精製タンパク質画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画してタンパク質画分を得る工程を含む前記<33>から<35>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する新規ペプチド、並びに前記新規ペプチドを含有する優れたトリプシン阻害剤、トリプシン阻害剤を含有し、実用化の可能性が高く、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ウシ初乳由来のペプチドを含むタンパク質画分の調製方法の概要を示した図である。
【図2A】図2Aは、ウシ初乳由来のオリゴ糖画分をBio Gel P−2カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により、分画した画分に含まれる成分を確認した図である。
【図2B】図2Bは、ウシ初乳由来のオリゴ糖画分をBio Gel P−2カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により分離した画分に含まれる成分のうち、高画分1、高画分2、及び低画分を示した図である。
【図3】図3は、ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分をSDS−PAGEで確認した図である。
【図4】図4は、ウシ初乳由来の高分子画分を使用した2次元電気泳動により、前記高分子画分に含まれる成分について確認した図である。
【図5】図5は、ウシ初乳由来の高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物を、銀染色で確認した図(上図)及び本発明のモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング(下図)で確認した図である。
【図6】図6は、ウシ初乳由来の高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物、低分子画分及びそのシアリダーゼ処理物を、SDS−PAGEで確認した図(上図)及び本発明のモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング(下図)で確認した図である。
【図7A】図7Aは、ウシ初乳由来の高分子画分を、Q−Sepharose FFを充填したカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分について、210nm及び280nmの紫外吸収、及びレゾルシノール発色後の580nmにおける吸光度変化を示した図である。
【図7B】図7Bは、図7Aのフラクション番号23〜60の画分(Q1画分)を拡大して示した図である。
【図7C】図7Cは、図7Aのフラクション番号198〜330の画分(Q2画分)を拡大して示した図である。
【図8】図8は、ウシ初乳由来の高分子画分を、Q−Sepharose FFを充填したカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分(フラクション番号231〜247の画分、274〜286の画分、及び308〜330の画分)のGPF処理を、SDS−PAGEにより確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ペプチド)
本発明の新規ペプチドは、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がD(アスパラギン酸)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)である。
前記ペプチドの、前記活性中心よりC末端側のアミノ酸配列としては、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がD(アスパラギン酸)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)及びD(アスパラギン酸)のいずれかであることが好ましく、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)及びS(セリン)のいずれかであることがより好ましい。
【0012】
また、前記ペプチドは、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有することが好ましい。
前記活性中心よりN末端側のアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のG(グリシン)から起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT(トレオニン)及びK(リシン)のいずれかであることが好ましく、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のG(グリシン)から起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がL(ロイシン)であることがより好ましい。
【0013】
前記ペプチドにおけるアミノ酸配列の全長としては、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも50残基が好ましく、50残基〜190残基が好ましく、58残基〜68残基がより好ましい。
【0014】
これらの中でも、前記ペプチドは、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列を有することが好ましい。前記ペプチドとしては、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列全体からなるペプチドであってもよいし、一部からなるペプチドであってもよい。これらの中でも、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列そのものが好ましい。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
【0015】
また、前記ペプチドは、抗インフルエンザウイルス活性及びリプシン阻害活性を有する限りは、特に制限は、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列の全体又は一部において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものであってもよい。
前記ペプチドの分子量としては、特に制限はなく、ペプチドの長さなどに応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドの等電点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3.0〜5.0が好ましい。
【0016】
<入手方法>
前記ペプチドの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成により入手する方法、遺伝子組換え技術により入手する方法、哺乳動物の初乳から入手する方法などが挙げられる。これらの中でも、哺乳動物の初乳から入手する方法が、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドを得ることができる点で好ましい。
【0017】
<<哺乳動物>>
前記哺乳動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどが挙げられるが、これらの中でも、特にウシが、大量調製ができ、抗インフルエンザウイルス活性の高いペプチドを得ることができる点で好ましい。
【0018】
−初乳−
前記初乳とは、哺乳動物から出産後数日間に分泌される乳汁をいい、前記初乳には、その後に分泌される乳汁に比べ、乳仔の成長に必要な栄養素成分が多く含まれていることが知られている。前記哺乳動物がウシである場合、前記初乳としては、出産後1日間〜4日間に分泌される乳汁を用いることが好ましい。
なお、前記哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドを得るための原料としては、前記哺乳動物の初乳そのもの(原液)を使用してもよいし、前記哺乳動物の初乳を適宜加工(例えば、濃縮、希釈等)したものを使用してもよい。
【0019】
<調製方法>
前記ペプチドの調製方法としては、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料から抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドを得ることができる方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の工程(I)〜(IV)を経て調製することができる。
【0020】
<<工程(I)>>
工程(I)では、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料からクロロホルム/メタノール抽出によりオリゴ糖画分を得た後、得られたオリゴ糖画分をゲルろ過クロマトグラフィーにより分画することにより、哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドを含むタンパク質画分を得ることができる。また、硫安分画により、前記ペプチドを含むタンパク質画分を得ることもできる。工程(I)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0021】
−クロロホルム/メタノール抽出−
前記クロロホルム/メタノール抽出に用いるクロロホルム/メタノール混合溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、体積比で、クロロホルム:メタノール=2:1〜1:3の混合溶液を用いることが好ましい。
前記クロロホルム/メタノール抽出における前記クロロホルム/メタノール混合溶液の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料に対する量として、体積比で、2倍〜5倍量の混合溶液を用いることが好ましい。
前記クロロホルム/メタノール抽出時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、25℃〜35℃が好ましい。
なお、前記クロロホルム/メタノール抽出により得られた抽出液は、ロータリーエバポレーターなどを用い、メタノールを除去した後に、凍結乾燥により水分を除去することが好ましい。
【0022】
−ゲルろ過クロマトグラフィー−
前記ゲルろ過クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)、Bio Gel P−4カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)、Sephadex G−10カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製(旧ファルマシア))、Sephadex G−25カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)が好ましい。
前記ゲルろ過クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、ギ酸などが挙げられ、これらの中でも、水が好ましい。
【0023】
−硫安分画−
前記硫安分画は、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料を直接分画することもできるし、トリクロロ酢酸を用いて前処理をした後に混合液を分画することもできるが、前記トリクロロ酢酸溶液を用いた前処理を行う方が、余分なタンパク質を除去できる点で好ましい。
前記トリクロロ酢酸溶液の濃度としては、余分なタンパク質を沈殿させることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、10質量%トリクロロ酢酸溶液を用いることができる。
前記10質量%トリクロロ酢酸溶液の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料に対する量として、体積比で、1/3倍〜1倍量の溶液を用いることができる。
前記トリクロロ酢酸溶液を混合させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20℃〜60℃などが挙げられる。
前記トリクロロ酢酸溶液を混合させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間〜12時間などが挙げられる。
前記トリクロロ酢酸溶液との混合により得られた混合液をろ過する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイソウ土でろ過する方法などが挙げられる。なお、前記ろ過前に、前記混合液の温度は、室温に戻しておくことが好ましい。
前記硫安分画の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ろ液を硫酸アンモニウムで80%飽和させ、一晩放置し、沈殿をろ別し、水道水に溶解後、再度80%飽和の硫酸アンモニウムで沈殿を生成させ、ろ過により沈殿を得る方法などが挙げられる。
前記沈殿を懸濁する溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、蒸留水が好ましい。
【0024】
<<工程(II)>>
工程(II)では、前記工程(I)で得られた前記ペプチドを含むタンパク質画分を、限外ろ過により分画することにより、分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分得ることができる。工程(II)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0025】
前記限外ろ過に用いる限外ろ過膜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミコン ウルトラ(ミリポア社製)、ウルトラフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、アミコン ウルトラ(ミリポア社製)が好ましい。
限外ろ過は、例えば遠心法により行うことができ、分画分子量100kDaで分画した後に、5kDaで分画することにより、分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分(限外ろ過画分)を得ることができる。なお、前記限外ろ過後の画分であっても、分子量5kDa未満(例えば、4kDa程度)の成分や、分子量100kDaを超える(例えば、110kDa程度)成分を多少含み得るものであり、そのため、前記限外ろ過画分は、厳密に分子量5kDa〜100kDaの範囲内の成分のみを含むものでなくともよい。
【0026】
<<工程(III)>>
工程(III)では、前記工程(II)で得られた分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分を、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及びゲルろ過クロマトグラフィーの少なくともいずれかにより精製して前記ペプチドを含む精製タンパク質画分を得ることができる。工程(III)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0027】
−陰イオン交換クロマトグラフィー−
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Q−Sepharose FFカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)、DEAE−Sephadex A−50カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、Q−Sepharose FFカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)が好ましい。
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、これらの中でも、水、酢酸ナトリウム水溶液が好ましい。例えば、水で素通りする成分が溶出した後に酢酸ナトリウム水溶液0M〜0.7Mの濃度勾配で溶出し、最後の1Mで押し出しを行うことにより、溶出を行うことができる。
【0028】
−陽イオン交換クロマトグラフィー−
前記陽イオン交換クロマトグラフィーに用いる陽イオン交換カラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CM−Sephadexなどが挙げられる。
前記陽イオン交換クロマトグラフィーの溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ギ酸カリウム緩衝液などが挙げられる。
【0029】
−工程(IV)−
工程(IV)では、前記工程(III)による陰イオン交換クロマトグラフィーの画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより精製して、精製タンパク質を得ることができる。工程(IV)は、具体的には、例えば、後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0030】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム、DEAE−Sephadex A−25(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが好ましい。
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、これらの中でも、水、酢酸ナトリウム水溶液が好ましい。
【0031】
前記哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドは、前記工程(I)〜(IV)により得られるペプチドに限定されず、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するものである限り、どのような調製方法により得られたものであってもよい。
また、前記ペプチドには、前記各工程で得た前記ペプチドを含むタンパク質画分を適宜加工したもの、例えば、前記各工程で得た前記ペプチドを含むタンパク質画分の希釈液若しくは濃縮液、前記各ペプチドを含むタンパク質画分の乾燥物なども含まれる。
【0032】
<タンパク質の1次配列の解析>
前記工程(IV)で得られたタンパク質の1次配列を解析する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、種々のエキソ型プロテアーゼで前記得られたタンパク質を消化した後、MALDI−TOF−MS、MALDI−TOF−MS/MS、LC−MS、LC−MS/MS等により分析する方法などが挙げられる。
前記プロテアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼなどが挙げられる。
【0033】
<抗インフルエンザウイルス活性>
前記抗インフルエンザウイルス活性としては、インフルエンザウイルス感染の予防又は治療をすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドの抗インフルエンザウイルス活性を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラック測定法(PFU Assay)、50%感染終末点(TCID50:50% Tissue culture infectious dose)法、赤血球凝集阻害試験による方法などが挙げられる。
【0034】
<トリプシン阻害活性>
前記トリプシン阻害活性としては、トリプシンの酵素活性を阻害できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドのトリプシン阻害活性を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリプシンインヒビター比活性試験法などが挙げられる。
【0035】
<用途>
本発明の新規ペプチドは、優れたトリプシン阻害活性及び抗インフルエンザウイルス活性を有するため、後述するトリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤として好適に利用可能である。
なお、前記工程(I)〜(IV)の各工程の後に得られる前記ペプチドについても、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する画分である限り、いずれも後述するトリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤における有効成分として利用できる。
【0036】
(トリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤)
<トリプシン阻害剤>
本発明のトリプシン阻害剤は、前記した本発明のペプチドを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0037】
<<ペプチド>>
前記トリプシン阻害剤中の、前記ペプチドの含有量としては、特に制限はなく、剤型の種類や、個体への投与量、所望の効果の程度などに応じて、適宜選択することができる。また、前記トリプシン阻害剤は、前記ペプチドそのものであってもよい。
【0038】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬理学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記薬理学的に許容され得る担体としても、特に制限はなく、前記トリプシン阻害剤の剤型などに応じて、適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
また、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、例えば、前記トリプシン阻害剤における前記ペプチドの含有量が所望の範囲内となるように、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
<<使用>>
前記トリプシン阻害剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする薬剤と併せて使用されてもよい。また、前記トリプシン阻害剤は、他の成分を有効成分とする薬剤又は医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0040】
<抗インフルエンザウイルス剤>
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、トリプシン阻害剤を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有してなる。
【0041】
<<トリプシン阻害剤>>
前記トリプシン阻害剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販のトリプシン阻害剤、本発明の前記トリプシン阻害剤などが挙げられる。
一般に、トリプシン阻害活性を有するアミノ酸配列の活性中心のアミノ酸残基としては、R(アルギニン)、K(リシン)などが知られている。これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤に用いるトリプシン阻害剤としては、K(リシン)を活性中心として有するものが好ましく、本発明の前記トリプシン阻害剤が、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する点で特に好ましい。
前記抗インフルエンザウイルス剤中の、前記トリプシン阻害剤の含有量としては、特に制限はなく、剤型の種類や、個体への投与量、所望の効果の程度などに応じて、適宜選択することができる。また、前記抗インフルエンザウイルス剤は、前記トリプシン阻害剤そのものであってもよい。
【0042】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬理学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記薬理学的に許容され得る担体としても、特に制限はなく、前記抗インフルエンザウイルス剤の剤型などに応じて、適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
また、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、例えば、前記抗インフルエンザウイルス剤の含有量が所望の範囲内となるように、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
<<使用>>
前記抗インフルエンザウイルス剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする薬剤と併せて使用されてもよい。また、前記抗インフルエンザウイルス剤は、他の成分を有効成分とする薬剤又は医薬中に配合された状態で使用されてもよい。これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存のインフルエンザ薬を併用してなるものであることが好ましい。前記抗インフルエンザウイルス剤が、既存のインフルエンザ薬を併用してなるものであると、優れた抗インフルエンザウイルス活性を発揮できる点で好ましい。
前記既存のインフルエンザ薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)などが挙げられる。これらの中でも、オセルタミビルが優れた抗インフルエンザウイルス活性を発揮できる点で好ましい。
【0044】
前記抗インフルエンザウイルス剤が、前記オセルタミビルを併用してなるものである場合、前記抗インフルエンザウイルス剤中の、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとの含有量の比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、質量比で、前記トリプシン阻害剤:前記オセルタミビル=10:1〜1:10が好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0045】
なお、前記抗インフルエンザウイルス剤が、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとを併用してなるものである場合、前記抗インフルエンザウイルス剤としては、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとが混合された配合剤の状態であってもよいし、また、前記トリプシン阻害剤を含有する薬剤と、前記オセルタミビルを含有する薬剤とを含む(前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとが混合されていない)キットの状態であってもよい。
【0046】
<<用途>>
前記抗インフルエンザウイルス剤は、現在インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い抗インフルエンザウイルス活性を有することから、新たなインフルエンザウイルス薬として、臨床応用の可能性が期待されるものである。また、インフルエンザ薬としての実用化には有効成分の大量調製が望まれるが、前記抗インフルエンザウイルス剤に本発明のトリプシン阻害剤を用いる場合、前記トリプシン阻害剤中の前記ペプチドは、例えば、ウシの初乳から比較的大量に調製が可能であると考えられ、実用化に向けて有利である。また、前記ペプチドは、天然由来の成分であり、安全性に優れる点でも有利である。
【0047】
<剤型>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、点鼻剤、吸入散剤などが挙げられる。また、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤は、医薬品、医薬部外品、食品などの区分に制限されるものではなく、これらのいずれにも適用が可能である。
【0048】
<<経口固形剤>>
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに、賦形剤、及び必要に応じて各種添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0049】
<<経口液剤>>
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0050】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0051】
<<注射剤>>
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加することにより、製造することができる。ここで、前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0052】
<<点鼻剤>>
前記点鼻剤としては、例えば、液剤、スプレー剤、軟膏剤などが挙げられる。
前記点鼻剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、クエン酸、D−ソルビトール、グリセリン、エデト酸ナトリウム、結晶セルロース、ポリソルベート80、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、pH調節剤などが挙げられる。
【0053】
<投与>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与量としても、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の個体への投与時期についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インフルエンザウイルスの感染前に予防的に投与してもよく、インフルエンザウイルスの感染後に治療的に投与してもよいが、これらの中でも、インフルエンザウイルスの感染後に投与することが、より強い抗インフルエンザウイルス活性を得ることができる点で有利である。前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤は、インフルエンザウイルスが細胞に感染増殖の過程で作用するものと考えられる。
【0054】
<対象>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与対象となる動物種としては、インフルエンザウイルスに感染する可能性のある動物種であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、トリ、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどが挙げられる。
また、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の適用対象となるインフルエンザウイルスの種類としても、特に制限されるものではなく、これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤は、A型、B型のインフルエンザウイルスについて、高い増殖抑制効果が期待できる。
【0055】
<製造方法>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所望の剤型などに応じて適宜選択することができる。
【0056】
(抗体)
本発明の抗体は、前記した本発明のペプチドを認識する抗体である。
前記抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が、前記ペプチドを特異的に認識できる点で好ましい。
前記モノクローナル抗体の認識部位は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ペプチド中の、トリプシン阻害剤としての活性中心であるGPCKA(配列番号:1)を認識することが好ましく、これらの中でもKAを認識することがより好ましい。
【0057】
<製造方法>
前記抗体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マウスに、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかを含有するペプチドを抗原として免疫し、免疫したマウスの脾細胞及びミエローマ細胞を採取し、前記脾細胞及びミエローマ細胞を細胞融合させ、ハイブリドーマーを作製後、ハイブリドーマーをマウスに移植し、マウスの腹水を採取し、前記腹水中の抗体を精製して得る方法などが挙げられる。
前記免疫する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ペプチドを腹腔内投与する方法などが挙げられる。また、その際、アジュバントと共に投与することが、効率よく前記モノクローナル抗体を得ることができる点で好ましい。前記アジュバントとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム、Water in oil in waterなどが挙げられる。これらの中でも、フロイントの完全アジュバントが好ましい。前記フロイントの完全アジュバントを用いると、IgG抗体産生増強が有利である。
前記細胞融合を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、センダイウイルス等を使用する方法などが挙げられる。
前記血清から抗体を精製する方法としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロテインGカラムを用いたアフィニティー法、塩析法、低温アルコール沈殿法、ゲルろ過法、イオン交換法などを用いることができる。
【0058】
<用途>
前記抗体は、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する、前記ペプチドを好適に認識することができるため、例えば、哺乳類の初乳のうち、どの時期の初乳に、前記ペプチドが多く含まれるかについて簡便に検出することができる。また、哺乳類の初乳に限らず、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するサンプルのスクリーニングなどに好適に利用可能である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:ウシ初乳由来のペプチドを含むタンパク質画分及び該タンパク質画分の抗インフルエンザウイルス活性の確認)
<ウシ初乳由来のペプチド含むタンパク質画分の調製>
ウシ初乳由来のペプチド含むタンパク質画分の調製方法の概要を、図1に示した。下記工程(I)に示す方法により、ウシ初乳からクロロホルム/メタノール混合溶液で抽出(CM抽出)することにより得られたオリゴ糖画分を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、ペプチド含むタンパク質画分(以下、「高画分1」と称することがある。)を得た。得られた高画分1を、下記工程(II)に示す方法により、更に限外ろ過により分画し、分子量5kDa〜100kDaのペプチド含むタンパク質画分(以下、「高画分2」と称することがある。)を得た。得られた高画分2を、下記工程(III)に示す方法により、更に陰イオン交換クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーの少なくともいずれかにより精製した。
【0061】
<<工程(I):ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画>>
ウシ(ジャージー種)の初乳から、クロロホルム/メタノール(2:1、体積比)抽出により、オリゴ糖画分を得た。なお、前記抽出は25℃で行い、前記クロロホルム/メタノール混合溶液は、ウシの初乳に対し、体積比で4倍量使用した。抽出液は、ロータリーエバポレーターを用い、メタノールを除去した後に、凍結乾燥により水分を除去した。得られたウシ初乳由来のオリゴ糖画分を、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、溶離液として水を使用して分画した。
【0062】
−TLCによる高画分1の確認−
前記工程(I)により得られた画分のフラクション番号24〜80について、薄層クロマトグラフィー(TLC)により確認を行った。その結果、図2A及び図2Bに示すように、ペプチド含むタンパク質画分、核酸様成分、ガングリオシドなどの各成分が分離されていた。図2A及び図2B中、「SOSs fr.」は、シアル酸含有オリゴサッカライドを含む画分を表し、「NOS fr.」は、ニュートラルオリゴサッカライドを含む画分を表す。図2Bに示すように、TLC上、原点から移動しない成分を含む画分を、高画分1とした。これらの中でも、ガングリオシドと一緒に溶出する成分を含む画分を高画分2とし、前記高画分2より遅れて溶出する成分を含む画分を低画分とした。
【0063】
<<工程(II):限外ろ過による分画>>
前記工程(I)により得られた高画分1を、限外ろ過膜(アミコン ウルトラ、ミリポア社製)を用い、遠心法により限外ろ過を行い、分画分子量100kDaで分画した後に、5kDaで分画し、高画分2を得た。
【0064】
<<工程(III):陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製>>
前記工程(II)で得られた高画分2を更に精製するため、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム(25mm×700mm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより、溶離液として水:酢酸ナトリウム水溶液を使用し、分画を行った。水で素通りする成分が溶出した後に0.2M酢酸ナトリウム水溶液で溶出し、最後の0.5Mで押し出しを行なった。前記水で素通りする成分は、以下「高分子画分」と称することがある。前記0.2M酢酸ナトリウム水溶液で溶出した成分は、以下「低分子画分」と称することがある。
【0065】
<高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性の評価>
前記工程(III)により得られた高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性は、プラック測定(PFU Assay)により評価した。即ち、マイクロプレート上で37℃、5%CO2の条件下で培養したMDCK細胞(イヌ腎上皮細胞、大日本住友製薬株式会社製)モノレーヤーに、インフルエンザウイルス株(A/PR/8/34:ATCC VR−95)を1x102pfu/mLとなるように加え、1時間インキュベートして感染させた。感染後、感染に使用したインフルエンザウイルスを含む溶液を除去し、前記高分子画分及び前記低分子画分をそれぞれ0.1μg/mL〜100μg/mLの範囲で加えたアガロース液を前記マイクロプレートに重層し、完全に凝固した後、37℃、5%CO2の条件下で3日間培養した。
前記高分子画分及び前記低分子画分を添加していない試料を対照試料とし、下記計算式により、前記高分子画分及び前記低分子画分のいずれか(以下、「被験試料」と称することがある。)を添加した際のインフルエンザウイルス抑制率を算出した。結果を下記表1に示す。
ウイルス抑制率(%)=100−(被検試料添加時のプラック数/対照試料のプラック数)×100
【0066】
【表1】
【0067】
<高分子画分及び低分子画分のSDS−PAGEによる確認>
前記ウシ初乳由来の高分子画分及び前記低分子画分の比較対照として、市販牛乳(常乳)、β−ラクトグロブリンA、及びβ−ラクトグロブリンBを用いた。前記市販牛乳(常乳)は、前記工程(I)〜(III)と同様の方法で精製し、前記市販牛乳(常乳)の高分子画分及び低分子画分を得た。
前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分、β−ラクトグロブリンA、及びβ−ラクトグロブリンBをそれぞれ10μg用い、常法により、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行い確認した結果を図3に示す。レーン1は前記ウシ初乳由来の高分子画分、レーン2は前記ウシ初乳由来の低分子画分、レーン3は前記市販牛乳の高分子画分、レーン4は前記市販牛乳の低分子画分、レーン5はβ−ラクトグロブリンA、及びレーン6はβ−ラクトグロブリンBをアプライした。
図3の結果より、前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分の主要成分のバンド(レーン1及び2)は、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分における主要成分のバンド(レーン3及び4)とは明らかに異なっていた。
【0068】
また、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性を、前記した方法と同様の方法で評価した結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】
表2の結果より、前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と同様の操作により、市販乳から得た高分子画分及び低分子画分は、抗インフルエンザウイルス活性を有していなかった。また、乳清タンパク質の主要成分であるβ−ラクトグロブリンA及びβ−ラクトグロブリンBも、抗インフルエンザウイルス活性を有していなかった。
【0070】
<高分子画分の2次元電気泳動による確認>
前記ウシ初乳由来の高分子画分を用い、常法により、2次元電気泳動を行った。即ち、前記高分子画分を12.5μg使用し、1次元目は、pH3〜pH6の等電点電気泳動を行い、2次元目でSDS−PAGEによる展開を行った。結果を図4に示す。
図4より、前記ウシ初乳由来の高分子画分には等電点の異なる少なくとも6種の成分が含有されていることが確認された。
【0071】
(実施例2:抗体の製造)
<モノクローナル抗体の製造方法>
前記ウシ初乳由来の高分子画分と、フロイントの完全アジュバント(和光純薬工業株式会社製)にて作製したエマルジョンを、BALB/cマウス(日本SCL株式会社)の腹腔内に接種し、免疫した。免疫したBALB/cマウスの抗体産生をELISA法により確認した。即ち、前記ウシ初乳由来の高分子画分を固定化した96穴マイクロタイタープレートに、免疫したBALB/cマウスより採取した血清を反応させた後、TMBパーオキシダーゼ基質キット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用いて抗体産生を確認した。抗体産生が確認されたBALB/cマウスの脾細胞と、ミエローマ細胞とを、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合させ、ハイブリドーマーを作製した。常法により、HAT培地で前記ハイブリドーマーを選別し、増殖させた。
得られたハイブリドーマーの各クローンの培養上清について、前記96穴マイクロタイタープレートを用いたELISA法により、抗体を産生しているハイブリドーマーのクローンをスクリーニングした。前記スクリーニングで得られたハイブリドーマーのクローニングを行い、クローン化されたハイブリドーマーの抗体産生を、前記96穴マイクロタイタープレートを用いたELISA法により確認した。この抗体産生が確認されたハイブリドーマーを、BALB/cマウスの腹腔内に移植し、このマウスの腹水から得られたモノクローナル抗体を、プロテインGカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて精製した。
【0072】
<モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング>
前記ウシ初乳由来の高分子画分について、30℃の条件下でシアリダーゼ(シグマ社製)による処理を行った。
前記ウシ初乳由来の高分子画分、そのシアリダーゼ処理物、比較対象として、ウシ初乳に含まれる成分である、α−ラクトアルブミンカルシウム タイプI及びβ−ラクトアルブミンBをそれぞれ10μg用い、常法により、SDS−PAGEを行った。SDS−PAGEは、同じサンプルを2枚のゲルに流し、1枚は銀染色、他の1枚は後述するウエスタンブロッティングに用いた。銀染色は、銀染色キット(和光純薬工業株式会社製)を用いて行った。ウエスタンブロッティングは次のようにして行った。即ち、SDS−PAGEにて分離されたタンパク質をPVDF膜(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)に転写した。1次抗体として、前記製造したモノクローナル抗体を反応させた。次いで、2次抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体(シグマ社製)を反応させ、ペルオキシダーゼ−ルミノール系(イミュンスターHRP:バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)による発光をX線フィルムに感光させ、前記モノクローナル抗体と反応した成分を調べた。結果を図5に示す。
【0073】
図5において、レーン1はα−ラクトアルブミンカルシウム タイプI、レーン2はβ−ラクトアルブミンB、レーン3は前記ウシ初乳由来の高分子画分、レーン4は前記高分子画分のシアリダーゼ処理物を示す。Mは分子量マーカーである。また、図5の上図は銀染色の結果であり、下図はウエスタンブロッティングの結果である。
図5より、前記ウシ初乳由来の高分子画分(レーン3)及びそのシアリダーゼ処理物(レーン4)は前記モノクローナル抗体により認識されたが、α−ラクトアルブミンカルシウム タイプI(レーン1)及びβ−ラクトアルブミンB(レーン2)は認識されなかった。
【0074】
実施例1のウシ初乳由来の低分子画分も、同様の方法でシアリダーゼ処理を行った後、SDS−PAGEを行い、CBB染色又は前記モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。結果を図6に示す。
図6において、レーン1は前記高分子画分、レーン2は前記高分子画分のシアリダーゼ処理物、レーン3は前記低分子画分、レーン4は前記低分子画分のシアリダーゼ処理物を示す。Mは分子量マーカーである。また、図6の上図はCBB染色の結果であり、下図はウエスタンブロッティングの結果である。
図6より、前記高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物だけでなく、前記低分子画分及びそのシアリダーゼ処理物も、前記モノクローナル抗体により認識されることがわかった。
【0075】
図5〜6の結果より、前記モノクローナル抗体は、ウシの初乳に特異的なペプチド又はタンパク質を認識し、更に前記高分子画分と、前記低分子画分との共通する部位を認識する抗体であることが認められた。
【0076】
(実施例3:高分子画分の陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製(工程(IV)))
<分画画分の吸光度測定>
実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分を更に分離するため、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム(25mm×1,200mm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより、溶離液として水及び酢酸ナトリウム水溶液を使用し、酢酸ナトリウムの濃度勾配法にて分画を行った。
U−2000型分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により、各画分について、210nm及び280nmの紫外吸収、及びレゾルシノール発色後の580nmにおける吸光度変化を図7Aに示す。なお、210nmのサンプルは、40倍希釈して測定した。
図7Aの結果より、ピークは大きく2つに分かれた。ここで、素通りの画分をQ1画分、高濃度の酢酸ナトリウムで溶出された画分をQ2画分とした。
【0077】
<Q1画分及びQ2画分の抗インフルエンザウイルス活性の評価>
Q1画分(フラクション番号15〜65の画分)、及びQ2画分(フラクション番号190〜350の画分)について、フラクション番号23〜39の画分、40〜60の画分、198〜230の画分、231〜247の画分、248〜254の画分、255〜273の画分、274〜286の画分、287〜295の画分、296〜307の画分、及び308〜330の画分に分け、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0078】
【表3】
これらの結果より、抗インフルエンザウイルス活性は、フラクション番号198〜330の画分において認められた。
【0079】
<タンパク質の1次配列の解析>
フラクション番号231〜247の画分、274〜286の画分、及び308〜330の画分をグリコペプチダーゼF(GPF、タカラバイオ株式会社製)で、30℃、1時間の条件下で処理した。GPF処理コントロールとしては、フェツインを用いた。前記GPF処理サンプルついて、MALDI−TOF MSにて分析を行ったところ、各画分の分子量は約7.5kDaであった。
【0080】
前記GPF処理後のサンプルを10μg使用し、常法により、SDS−PAGE及びCBB染色を行った。SDS−PAGEの結果を図8に示す。レーン1はGPF処理したフラクション番号231〜247の画分、レーン2はGPF処理したフラクション番号274〜286の画分、レーン3はGPF処理したフラクション番号308〜330の画分、レーン4はGPF処理のコントロール、レーン5は未処理のフラクション番号231〜247の画分、レーン6は未処理のフラクション番号274〜286の画分、レーン7は未処理のフラクション番号308〜330の画分を示す。
【0081】
図8より、未処理のサンプルと比較して、GPF処理サンプルでは分子量が低下しており、脱糖鎖が認められた。
これらの中から、GPF処理したフラクション番号308〜330の画分(レーン3)のバンドを切り出し、DTT(ジチオトレイトール)による還元処理を行い、S−S結合を切断した。次いで、トリプシンを用いたゲル内消化法(in gel digestion)を行い、得られたペプチド断片のアミノ酸配列を、LC−MS/MSで分析した。更に、前記トリプシン消化により得られたペプチド断片をキモトリプシンで処理し、LC−MS/MSで分析した。
その結果、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが同定された。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
【0082】
前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドについて、データベース(Protein data bank(PDB))を参照したところ、これらのアミノ酸配列は、トリプシン阻害剤であることがわかった。前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドの活性中心を有する配列は、GPCKA(配列番号:1)であり、これらの中でもK(リシン)が活性中心と考えられる。以下、配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを、「ウシ初乳トリプシン阻害剤」と称することがある。
【0083】
(実施例4:トリプシン阻害剤活性の確認)
前記ウシ初乳トリプシン阻害剤のトリプシン阻害剤活性について、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(カタログ番号:T0256、シグマ社製)、ニワトリ卵白トリプシン阻害剤(カタログ番号:T9253、シグマ社製)、及び大豆トリプシン阻害剤(カタログ番号:T9003、シグマ社製)と比較した。
トリプシンの基質として、Nα‐ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル(BAEE)を用い、酵素反応により増加する253nmにおける吸光度変化(ΔA253/分)を測定し、反応系に添加したトリプシン阻害剤がどの程度トリプシンの酵素活性を抑制するかにより、トリプシン阻害の程度を調べた。結果を下記表4に示す。
【0084】
【表4】
表4の結果より、ウシ初乳トリプシン阻害剤は、市販のトリプシン阻害剤と同等又はそれ以上の活性を有していることが認められた。
【0085】
(実施例5:市販トリプシン阻害剤の抗インフルエンザウイルス活性の検討)
実施例4で使用した、大豆トリプシン阻害剤及びウシ膵臓トリプシン阻害剤について、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。結果を下記表5に示す。
【0086】
【表5】
表5の結果より、市販のトリプシン阻害剤においても、抗インフルエンザウイルス活性が認められた。大豆トリプシン阻害剤の活性中心はR(アルギニン)(以下、「アルギニン型トリプシン阻害剤」と称することがある。)であり、ウシ膵臓トリプシン阻害剤の活性中心はK(リシン)(以下、「リシン型トリプシン阻害剤」と称することがある。)であるが、いずれにおいても抗インフルエンザウイルス活性が認められた。
【0087】
なお、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、前記したように活性中心がK(リシン)を含むアミノ酸配列であると考えられ、表3に示す前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドにおける抗インフルエンザウイルス活性と、表5に示す市販のトリプシン阻害剤における抗インフルエンザウイルス活性とを比較すると、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドの方が、より強い活性を有していた。
【0088】
(実施例6:ウシ初乳由来のタンパク質画分とオセルタミビルとの相乗効果)
実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、既存薬であるオセルタミビル(商品名:タミフル、中外製薬株式会社製)とを組み合わせて用いた場合の抗インフルエンザウイルス活性の相乗効果について検討した。
下記表6に示す濃度で、実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、オセルタミビルとをそれぞれ組み合わせ、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。
【0089】
【表6】
表6より、ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、既存薬であるオセルタミビルとを組み合わせて用いることで、抗インフルエンザウイルス活性を顕著に高めることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、現在インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(シントメル)、オセルタミビル(タミフル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い抗インフルエンザウイルス活性を有するものであり、新たなインフルエンザ薬として、臨床応用の可能性が期待されるものである。また、優れたトリプシン阻害活性を有するため、トリプシン阻害剤としても好適に利用可能である。更に、本発明の抗体は、抗インフルエンザウイルス活性を有するサンプルのスクリーニングに好適に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペプチド、並びにトリプシン阻害剤、抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、インフルエンザの予防又は治療方法としては、ワクチンの予防接種や、インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレル、ノバルティスファーマ株式会社製)、オセルタミビル(商品名:タミフル、中外製薬株式会社製)、及びザナミビル(商品名:リレンザ、グラクソ・スミスクライン株式会社製)の投与が主である。しかしながら、これらの予防又は治療方法には、それぞれ一長一短があることが知られている。例えば、ワクチンは、ワクチンの接種により産生されたIgAが、呼吸器系の粘液中に分泌されることにより、ウイルスの細胞への付着を防ぐことができるが、タイプの異なる新型ウイルスに対しては無力であることが知られている。更に、強毒株と呼ばれるインフルエンザウイルスは、培養中に鶏卵内の細胞を死滅させるため、ワクチンの作製も困難である。また、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)は、前記インフルエンザウイルスのM2タンパク質のイオンチャンネル作用を阻害し、インフルエンザウイルスの脱核を抑制することができるが、M2タンパク質の無いB型、C型ウイルスに対する効果はなく、強い副作用や耐性菌の発現が問題とされている。また、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)は、前記ノイラミニダーゼ(NA)の作用を阻害し、標的細胞から遊離して他の細胞に感染を広げることを抑制することができるが、その効果の発現のためには、感染初期の服用が必須とされ、また、近年、若年者に対する副作用が問題となっている。
【0003】
前述したような従来のワクチンやインフルエンザ薬の問題点を克服するため、新たなインフルエンザの予防又は治療方法の研究開発が広く行われており、例えば、インフルエンザウイルス受容体の被認識部位を含む糖鎖を持つスフィンゴ糖脂質(例えば、ガングリオシド類)を有効成分とした、抗インフルエンザウイルス剤などが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、前記特許文献1に開示された抗インフルエンザウイルス剤は未だ実用化には至っておらず、また、前記特許文献1で抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として開示されているガングリオシド類は、ミンククジラの脳やヒト赤血球といった原料から抽出されたものであり、インフルエンザ薬としての実用化には有効成分の大量調製が望まれる点を鑑みると、やや困難があるものと考えられる。
【0004】
インフルエンザの流行は大きな問題であり、現在使用されているアマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)などの既存薬も、前記したようにそれぞれ副作用などの欠点を有していることから、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有し、かつ、実用化の可能性の高い新たなインフルエンザ薬について、早急な研究開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−233773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する新規ペプチド、並びに前記新規ペプチドを含有する優れたトリプシン阻害剤、トリプシン阻害剤を含有し、実用化の可能性が高く、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、トリプシン阻害剤が抗インフルエンザウイルス活性を有すること、哺乳動物(例えば、ウシ)の初乳由来の新規ペプチドが、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有し、抗インフルエンザウイルス剤及びトリプシン阻害剤として利用可能であること、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存薬のオセルタミビル(タミフル)、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い活性を有すること、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存薬のオセルタミビル(タミフル)と併用することで、更に強い抗インフルエンザウイルス活性を示すこと、前記新規ペプチドを抗原として製造したモノクローナル抗体が、前記新規ペプチドを好適に認識できることを知見し、本発明の完成に至った。
前記哺乳動物の初乳由来のトリプシン阻害剤が、このような優れた作用を有し、抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として有用であることは、従来には全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1>抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであることを特徴とするペプチドである。
<2>活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN及びDのいずれかである前記<1>に記載のペプチドである。
<3>活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN及びSのいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載のペプチドである。
<4>活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT及びKのいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載のペプチドである。
<5>活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がLである前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
<6>下記配列番号:2で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
<7>下記配列番号:3で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
<8>下記配列番号:4で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
<9>下記配列番号:5で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
<10>下記配列番号:6で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
<11>下記配列番号:7で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
<12>下記配列番号:8で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
<13>下記配列番号:9で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチドである。
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
<14>下記配列番号:10で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
<15>下記配列番号:11で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
<16>下記配列番号:12で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
<17>下記配列番号:13で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
<18>下記配列番号:14で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
<19>下記配列番号:15で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
<20>下記配列番号:16で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
<21>下記配列番号:17で表されるアミノ酸配列を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載のペプチドである。
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
<22>活性中心を有するアミノ酸配列GPCKA(配列番号:1)を有し、ペプチドのアミノ酸配列の全長が少なくとも50残基である前記<1>から<21>のいずれかに記載のペプチドである。
<23>哺乳動物の初乳由来である前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<24>哺乳動物がウシである前記<23>に記載のペプチドである。
<25>合成ペプチドである前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<26>組換えペプチドである前記<1>から<22>のいずれかに記載のペプチドである。
<27>前記<1>から<26>のいずれかに記載のペプチドを認識することを特徴とする抗体である。
<28>前記<1>から<26>のいずれかに記載のペプチドを含有することを特徴とするトリプシン阻害剤である。
<29>トリプシン阻害剤を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤である。
<30>トリプシン阻害剤が、前記<28>に記載のトリプシン阻害剤である前記<29>に記載の抗インフルエンザウイルス剤である。
<31>オセルタミビルを組み合わせてなる前記<29>から<30>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤である。
<32>インフルエンザウイルスに感染した個体の治療に用いられる前記<29>から<31>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
<33>哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料をクロロホルム/メタノール混合溶液で抽出することにより得られたオリゴ糖画分を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分画してタンパク質画分を得る工程を含むことを特徴とする抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<34>得られたタンパク質画分を、更に限外ろ過により分画して分子量5kDa〜100kDaのタンパク質画分を得る工程を含む前記<33>に記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<35>得られた分子量5kDa〜100kDaのタンパク質画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーのいずれかにより精製して精製タンパク質画分を得る工程を含む前記<33>から<34>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
<36>得られた精製タンパク質画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画してタンパク質画分を得る工程を含む前記<33>から<35>のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス活性を有する哺乳動物の初乳由来のタンパク質画分の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する新規ペプチド、並びに前記新規ペプチドを含有する優れたトリプシン阻害剤、トリプシン阻害剤を含有し、実用化の可能性が高く、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する抗インフルエンザウイルス剤、及び前記新規ペプチドを認識する抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ウシ初乳由来のペプチドを含むタンパク質画分の調製方法の概要を示した図である。
【図2A】図2Aは、ウシ初乳由来のオリゴ糖画分をBio Gel P−2カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により、分画した画分に含まれる成分を確認した図である。
【図2B】図2Bは、ウシ初乳由来のオリゴ糖画分をBio Gel P−2カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により分離した画分に含まれる成分のうち、高画分1、高画分2、及び低画分を示した図である。
【図3】図3は、ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分をSDS−PAGEで確認した図である。
【図4】図4は、ウシ初乳由来の高分子画分を使用した2次元電気泳動により、前記高分子画分に含まれる成分について確認した図である。
【図5】図5は、ウシ初乳由来の高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物を、銀染色で確認した図(上図)及び本発明のモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング(下図)で確認した図である。
【図6】図6は、ウシ初乳由来の高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物、低分子画分及びそのシアリダーゼ処理物を、SDS−PAGEで確認した図(上図)及び本発明のモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング(下図)で確認した図である。
【図7A】図7Aは、ウシ初乳由来の高分子画分を、Q−Sepharose FFを充填したカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分について、210nm及び280nmの紫外吸収、及びレゾルシノール発色後の580nmにおける吸光度変化を示した図である。
【図7B】図7Bは、図7Aのフラクション番号23〜60の画分(Q1画分)を拡大して示した図である。
【図7C】図7Cは、図7Aのフラクション番号198〜330の画分(Q2画分)を拡大して示した図である。
【図8】図8は、ウシ初乳由来の高分子画分を、Q−Sepharose FFを充填したカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分(フラクション番号231〜247の画分、274〜286の画分、及び308〜330の画分)のGPF処理を、SDS−PAGEにより確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ペプチド)
本発明の新規ペプチドは、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がD(アスパラギン酸)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)である。
前記ペプチドの、前記活性中心よりC末端側のアミノ酸配列としては、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がD(アスパラギン酸)であり、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)及びD(アスパラギン酸)のいずれかであることが好ましく、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のA(アラニン)から起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN(アスパラギン)及びS(セリン)のいずれかであることがより好ましい。
【0012】
また、前記ペプチドは、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有することが好ましい。
前記活性中心よりN末端側のアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のG(グリシン)から起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT(トレオニン)及びK(リシン)のいずれかであることが好ましく、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のG(グリシン)から起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がL(ロイシン)であることがより好ましい。
【0013】
前記ペプチドにおけるアミノ酸配列の全長としては、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも50残基が好ましく、50残基〜190残基が好ましく、58残基〜68残基がより好ましい。
【0014】
これらの中でも、前記ペプチドは、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列を有することが好ましい。前記ペプチドとしては、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列全体からなるペプチドであってもよいし、一部からなるペプチドであってもよい。これらの中でも、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列そのものが好ましい。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
【0015】
また、前記ペプチドは、抗インフルエンザウイルス活性及びリプシン阻害活性を有する限りは、特に制限は、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかのアミノ酸配列の全体又は一部において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものであってもよい。
前記ペプチドの分子量としては、特に制限はなく、ペプチドの長さなどに応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドの等電点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3.0〜5.0が好ましい。
【0016】
<入手方法>
前記ペプチドの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成により入手する方法、遺伝子組換え技術により入手する方法、哺乳動物の初乳から入手する方法などが挙げられる。これらの中でも、哺乳動物の初乳から入手する方法が、優れた抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドを得ることができる点で好ましい。
【0017】
<<哺乳動物>>
前記哺乳動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどが挙げられるが、これらの中でも、特にウシが、大量調製ができ、抗インフルエンザウイルス活性の高いペプチドを得ることができる点で好ましい。
【0018】
−初乳−
前記初乳とは、哺乳動物から出産後数日間に分泌される乳汁をいい、前記初乳には、その後に分泌される乳汁に比べ、乳仔の成長に必要な栄養素成分が多く含まれていることが知られている。前記哺乳動物がウシである場合、前記初乳としては、出産後1日間〜4日間に分泌される乳汁を用いることが好ましい。
なお、前記哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドを得るための原料としては、前記哺乳動物の初乳そのもの(原液)を使用してもよいし、前記哺乳動物の初乳を適宜加工(例えば、濃縮、希釈等)したものを使用してもよい。
【0019】
<調製方法>
前記ペプチドの調製方法としては、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料から抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドを得ることができる方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の工程(I)〜(IV)を経て調製することができる。
【0020】
<<工程(I)>>
工程(I)では、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料からクロロホルム/メタノール抽出によりオリゴ糖画分を得た後、得られたオリゴ糖画分をゲルろ過クロマトグラフィーにより分画することにより、哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドを含むタンパク質画分を得ることができる。また、硫安分画により、前記ペプチドを含むタンパク質画分を得ることもできる。工程(I)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0021】
−クロロホルム/メタノール抽出−
前記クロロホルム/メタノール抽出に用いるクロロホルム/メタノール混合溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、体積比で、クロロホルム:メタノール=2:1〜1:3の混合溶液を用いることが好ましい。
前記クロロホルム/メタノール抽出における前記クロロホルム/メタノール混合溶液の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料に対する量として、体積比で、2倍〜5倍量の混合溶液を用いることが好ましい。
前記クロロホルム/メタノール抽出時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、25℃〜35℃が好ましい。
なお、前記クロロホルム/メタノール抽出により得られた抽出液は、ロータリーエバポレーターなどを用い、メタノールを除去した後に、凍結乾燥により水分を除去することが好ましい。
【0022】
−ゲルろ過クロマトグラフィー−
前記ゲルろ過クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)、Bio Gel P−4カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)、Sephadex G−10カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製(旧ファルマシア))、Sephadex G−25カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)が好ましい。
前記ゲルろ過クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、ギ酸などが挙げられ、これらの中でも、水が好ましい。
【0023】
−硫安分画−
前記硫安分画は、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料を直接分画することもできるし、トリクロロ酢酸を用いて前処理をした後に混合液を分画することもできるが、前記トリクロロ酢酸溶液を用いた前処理を行う方が、余分なタンパク質を除去できる点で好ましい。
前記トリクロロ酢酸溶液の濃度としては、余分なタンパク質を沈殿させることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、10質量%トリクロロ酢酸溶液を用いることができる。
前記10質量%トリクロロ酢酸溶液の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記哺乳動物の初乳又は哺乳動物の初乳由来の原料に対する量として、体積比で、1/3倍〜1倍量の溶液を用いることができる。
前記トリクロロ酢酸溶液を混合させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20℃〜60℃などが挙げられる。
前記トリクロロ酢酸溶液を混合させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間〜12時間などが挙げられる。
前記トリクロロ酢酸溶液との混合により得られた混合液をろ過する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイソウ土でろ過する方法などが挙げられる。なお、前記ろ過前に、前記混合液の温度は、室温に戻しておくことが好ましい。
前記硫安分画の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ろ液を硫酸アンモニウムで80%飽和させ、一晩放置し、沈殿をろ別し、水道水に溶解後、再度80%飽和の硫酸アンモニウムで沈殿を生成させ、ろ過により沈殿を得る方法などが挙げられる。
前記沈殿を懸濁する溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、蒸留水が好ましい。
【0024】
<<工程(II)>>
工程(II)では、前記工程(I)で得られた前記ペプチドを含むタンパク質画分を、限外ろ過により分画することにより、分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分得ることができる。工程(II)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0025】
前記限外ろ過に用いる限外ろ過膜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミコン ウルトラ(ミリポア社製)、ウルトラフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、アミコン ウルトラ(ミリポア社製)が好ましい。
限外ろ過は、例えば遠心法により行うことができ、分画分子量100kDaで分画した後に、5kDaで分画することにより、分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分(限外ろ過画分)を得ることができる。なお、前記限外ろ過後の画分であっても、分子量5kDa未満(例えば、4kDa程度)の成分や、分子量100kDaを超える(例えば、110kDa程度)成分を多少含み得るものであり、そのため、前記限外ろ過画分は、厳密に分子量5kDa〜100kDaの範囲内の成分のみを含むものでなくともよい。
【0026】
<<工程(III)>>
工程(III)では、前記工程(II)で得られた分子量5kDa〜100kDaの前記ペプチドを含むタンパク質画分を、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及びゲルろ過クロマトグラフィーの少なくともいずれかにより精製して前記ペプチドを含む精製タンパク質画分を得ることができる。工程(III)は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0027】
−陰イオン交換クロマトグラフィー−
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Q−Sepharose FFカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)、DEAE−Sephadex A−50カラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、Q−Sepharose FFカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)が好ましい。
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、これらの中でも、水、酢酸ナトリウム水溶液が好ましい。例えば、水で素通りする成分が溶出した後に酢酸ナトリウム水溶液0M〜0.7Mの濃度勾配で溶出し、最後の1Mで押し出しを行うことにより、溶出を行うことができる。
【0028】
−陽イオン交換クロマトグラフィー−
前記陽イオン交換クロマトグラフィーに用いる陽イオン交換カラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CM−Sephadexなどが挙げられる。
前記陽イオン交換クロマトグラフィーの溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ギ酸カリウム緩衝液などが挙げられる。
【0029】
−工程(IV)−
工程(IV)では、前記工程(III)による陰イオン交換クロマトグラフィーの画分を、更に陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより精製して、精製タンパク質を得ることができる。工程(IV)は、具体的には、例えば、後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0030】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム、DEAE−Sephadex A−25(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などが好ましい。
前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、これらの中でも、水、酢酸ナトリウム水溶液が好ましい。
【0031】
前記哺乳動物の初乳由来の前記ペプチドは、前記工程(I)〜(IV)により得られるペプチドに限定されず、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するものである限り、どのような調製方法により得られたものであってもよい。
また、前記ペプチドには、前記各工程で得た前記ペプチドを含むタンパク質画分を適宜加工したもの、例えば、前記各工程で得た前記ペプチドを含むタンパク質画分の希釈液若しくは濃縮液、前記各ペプチドを含むタンパク質画分の乾燥物なども含まれる。
【0032】
<タンパク質の1次配列の解析>
前記工程(IV)で得られたタンパク質の1次配列を解析する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、種々のエキソ型プロテアーゼで前記得られたタンパク質を消化した後、MALDI−TOF−MS、MALDI−TOF−MS/MS、LC−MS、LC−MS/MS等により分析する方法などが挙げられる。
前記プロテアーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼなどが挙げられる。
【0033】
<抗インフルエンザウイルス活性>
前記抗インフルエンザウイルス活性としては、インフルエンザウイルス感染の予防又は治療をすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドの抗インフルエンザウイルス活性を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラック測定法(PFU Assay)、50%感染終末点(TCID50:50% Tissue culture infectious dose)法、赤血球凝集阻害試験による方法などが挙げられる。
【0034】
<トリプシン阻害活性>
前記トリプシン阻害活性としては、トリプシンの酵素活性を阻害できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドのトリプシン阻害活性を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリプシンインヒビター比活性試験法などが挙げられる。
【0035】
<用途>
本発明の新規ペプチドは、優れたトリプシン阻害活性及び抗インフルエンザウイルス活性を有するため、後述するトリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤として好適に利用可能である。
なお、前記工程(I)〜(IV)の各工程の後に得られる前記ペプチドについても、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する画分である限り、いずれも後述するトリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤における有効成分として利用できる。
【0036】
(トリプシン阻害剤及び抗インフルエンザウイルス剤)
<トリプシン阻害剤>
本発明のトリプシン阻害剤は、前記した本発明のペプチドを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0037】
<<ペプチド>>
前記トリプシン阻害剤中の、前記ペプチドの含有量としては、特に制限はなく、剤型の種類や、個体への投与量、所望の効果の程度などに応じて、適宜選択することができる。また、前記トリプシン阻害剤は、前記ペプチドそのものであってもよい。
【0038】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬理学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記薬理学的に許容され得る担体としても、特に制限はなく、前記トリプシン阻害剤の剤型などに応じて、適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
また、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、例えば、前記トリプシン阻害剤における前記ペプチドの含有量が所望の範囲内となるように、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
<<使用>>
前記トリプシン阻害剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする薬剤と併せて使用されてもよい。また、前記トリプシン阻害剤は、他の成分を有効成分とする薬剤又は医薬中に配合された状態で使用されてもよい。
【0040】
<抗インフルエンザウイルス剤>
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、トリプシン阻害剤を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有してなる。
【0041】
<<トリプシン阻害剤>>
前記トリプシン阻害剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販のトリプシン阻害剤、本発明の前記トリプシン阻害剤などが挙げられる。
一般に、トリプシン阻害活性を有するアミノ酸配列の活性中心のアミノ酸残基としては、R(アルギニン)、K(リシン)などが知られている。これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤に用いるトリプシン阻害剤としては、K(リシン)を活性中心として有するものが好ましく、本発明の前記トリプシン阻害剤が、優れた抗インフルエンザウイルス活性を有する点で特に好ましい。
前記抗インフルエンザウイルス剤中の、前記トリプシン阻害剤の含有量としては、特に制限はなく、剤型の種類や、個体への投与量、所望の効果の程度などに応じて、適宜選択することができる。また、前記抗インフルエンザウイルス剤は、前記トリプシン阻害剤そのものであってもよい。
【0042】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬理学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記薬理学的に許容され得る担体としても、特に制限はなく、前記抗インフルエンザウイルス剤の剤型などに応じて、適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。
また、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、例えば、前記抗インフルエンザウイルス剤の含有量が所望の範囲内となるように、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
<<使用>>
前記抗インフルエンザウイルス剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする薬剤と併せて使用されてもよい。また、前記抗インフルエンザウイルス剤は、他の成分を有効成分とする薬剤又は医薬中に配合された状態で使用されてもよい。これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤は、既存のインフルエンザ薬を併用してなるものであることが好ましい。前記抗インフルエンザウイルス剤が、既存のインフルエンザ薬を併用してなるものであると、優れた抗インフルエンザウイルス活性を発揮できる点で好ましい。
前記既存のインフルエンザ薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)などが挙げられる。これらの中でも、オセルタミビルが優れた抗インフルエンザウイルス活性を発揮できる点で好ましい。
【0044】
前記抗インフルエンザウイルス剤が、前記オセルタミビルを併用してなるものである場合、前記抗インフルエンザウイルス剤中の、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとの含有量の比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、質量比で、前記トリプシン阻害剤:前記オセルタミビル=10:1〜1:10が好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0045】
なお、前記抗インフルエンザウイルス剤が、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとを併用してなるものである場合、前記抗インフルエンザウイルス剤としては、前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとが混合された配合剤の状態であってもよいし、また、前記トリプシン阻害剤を含有する薬剤と、前記オセルタミビルを含有する薬剤とを含む(前記トリプシン阻害剤と、前記オセルタミビルとが混合されていない)キットの状態であってもよい。
【0046】
<<用途>>
前記抗インフルエンザウイルス剤は、現在インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(シンメトレル)、オセルタミビル(タミフル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い抗インフルエンザウイルス活性を有することから、新たなインフルエンザウイルス薬として、臨床応用の可能性が期待されるものである。また、インフルエンザ薬としての実用化には有効成分の大量調製が望まれるが、前記抗インフルエンザウイルス剤に本発明のトリプシン阻害剤を用いる場合、前記トリプシン阻害剤中の前記ペプチドは、例えば、ウシの初乳から比較的大量に調製が可能であると考えられ、実用化に向けて有利である。また、前記ペプチドは、天然由来の成分であり、安全性に優れる点でも有利である。
【0047】
<剤型>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、点鼻剤、吸入散剤などが挙げられる。また、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤は、医薬品、医薬部外品、食品などの区分に制限されるものではなく、これらのいずれにも適用が可能である。
【0048】
<<経口固形剤>>
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに、賦形剤、及び必要に応じて各種添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0049】
<<経口液剤>>
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
【0050】
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0051】
<<注射剤>>
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加することにより、製造することができる。ここで、前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0052】
<<点鼻剤>>
前記点鼻剤としては、例えば、液剤、スプレー剤、軟膏剤などが挙げられる。
前記点鼻剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記ペプチドに添加剤を加えることにより、製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、クエン酸、D−ソルビトール、グリセリン、エデト酸ナトリウム、結晶セルロース、ポリソルベート80、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、pH調節剤などが挙げられる。
【0053】
<投与>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与量としても、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の個体への投与時期についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インフルエンザウイルスの感染前に予防的に投与してもよく、インフルエンザウイルスの感染後に治療的に投与してもよいが、これらの中でも、インフルエンザウイルスの感染後に投与することが、より強い抗インフルエンザウイルス活性を得ることができる点で有利である。前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤は、インフルエンザウイルスが細胞に感染増殖の過程で作用するものと考えられる。
【0054】
<対象>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の投与対象となる動物種としては、インフルエンザウイルスに感染する可能性のある動物種であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、トリ、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどが挙げられる。
また、前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の適用対象となるインフルエンザウイルスの種類としても、特に制限されるものではなく、これらの中でも、前記抗インフルエンザウイルス剤は、A型、B型のインフルエンザウイルスについて、高い増殖抑制効果が期待できる。
【0055】
<製造方法>
前記抗インフルエンザウイルス剤及び前記トリプシン阻害剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所望の剤型などに応じて適宜選択することができる。
【0056】
(抗体)
本発明の抗体は、前記した本発明のペプチドを認識する抗体である。
前記抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が、前記ペプチドを特異的に認識できる点で好ましい。
前記モノクローナル抗体の認識部位は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ペプチド中の、トリプシン阻害剤としての活性中心であるGPCKA(配列番号:1)を認識することが好ましく、これらの中でもKAを認識することがより好ましい。
【0057】
<製造方法>
前記抗体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マウスに、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列の少なくともいずれかを含有するペプチドを抗原として免疫し、免疫したマウスの脾細胞及びミエローマ細胞を採取し、前記脾細胞及びミエローマ細胞を細胞融合させ、ハイブリドーマーを作製後、ハイブリドーマーをマウスに移植し、マウスの腹水を採取し、前記腹水中の抗体を精製して得る方法などが挙げられる。
前記免疫する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ペプチドを腹腔内投与する方法などが挙げられる。また、その際、アジュバントと共に投与することが、効率よく前記モノクローナル抗体を得ることができる点で好ましい。前記アジュバントとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム、Water in oil in waterなどが挙げられる。これらの中でも、フロイントの完全アジュバントが好ましい。前記フロイントの完全アジュバントを用いると、IgG抗体産生増強が有利である。
前記細胞融合を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、センダイウイルス等を使用する方法などが挙げられる。
前記血清から抗体を精製する方法としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロテインGカラムを用いたアフィニティー法、塩析法、低温アルコール沈殿法、ゲルろ過法、イオン交換法などを用いることができる。
【0058】
<用途>
前記抗体は、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有する、前記ペプチドを好適に認識することができるため、例えば、哺乳類の初乳のうち、どの時期の初乳に、前記ペプチドが多く含まれるかについて簡便に検出することができる。また、哺乳類の初乳に限らず、抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するサンプルのスクリーニングなどに好適に利用可能である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:ウシ初乳由来のペプチドを含むタンパク質画分及び該タンパク質画分の抗インフルエンザウイルス活性の確認)
<ウシ初乳由来のペプチド含むタンパク質画分の調製>
ウシ初乳由来のペプチド含むタンパク質画分の調製方法の概要を、図1に示した。下記工程(I)に示す方法により、ウシ初乳からクロロホルム/メタノール混合溶液で抽出(CM抽出)することにより得られたオリゴ糖画分を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、ペプチド含むタンパク質画分(以下、「高画分1」と称することがある。)を得た。得られた高画分1を、下記工程(II)に示す方法により、更に限外ろ過により分画し、分子量5kDa〜100kDaのペプチド含むタンパク質画分(以下、「高画分2」と称することがある。)を得た。得られた高画分2を、下記工程(III)に示す方法により、更に陰イオン交換クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーの少なくともいずれかにより精製した。
【0061】
<<工程(I):ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画>>
ウシ(ジャージー種)の初乳から、クロロホルム/メタノール(2:1、体積比)抽出により、オリゴ糖画分を得た。なお、前記抽出は25℃で行い、前記クロロホルム/メタノール混合溶液は、ウシの初乳に対し、体積比で4倍量使用した。抽出液は、ロータリーエバポレーターを用い、メタノールを除去した後に、凍結乾燥により水分を除去した。得られたウシ初乳由来のオリゴ糖画分を、Bio Gel P−2カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、溶離液として水を使用して分画した。
【0062】
−TLCによる高画分1の確認−
前記工程(I)により得られた画分のフラクション番号24〜80について、薄層クロマトグラフィー(TLC)により確認を行った。その結果、図2A及び図2Bに示すように、ペプチド含むタンパク質画分、核酸様成分、ガングリオシドなどの各成分が分離されていた。図2A及び図2B中、「SOSs fr.」は、シアル酸含有オリゴサッカライドを含む画分を表し、「NOS fr.」は、ニュートラルオリゴサッカライドを含む画分を表す。図2Bに示すように、TLC上、原点から移動しない成分を含む画分を、高画分1とした。これらの中でも、ガングリオシドと一緒に溶出する成分を含む画分を高画分2とし、前記高画分2より遅れて溶出する成分を含む画分を低画分とした。
【0063】
<<工程(II):限外ろ過による分画>>
前記工程(I)により得られた高画分1を、限外ろ過膜(アミコン ウルトラ、ミリポア社製)を用い、遠心法により限外ろ過を行い、分画分子量100kDaで分画した後に、5kDaで分画し、高画分2を得た。
【0064】
<<工程(III):陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製>>
前記工程(II)で得られた高画分2を更に精製するため、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム(25mm×700mm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより、溶離液として水:酢酸ナトリウム水溶液を使用し、分画を行った。水で素通りする成分が溶出した後に0.2M酢酸ナトリウム水溶液で溶出し、最後の0.5Mで押し出しを行なった。前記水で素通りする成分は、以下「高分子画分」と称することがある。前記0.2M酢酸ナトリウム水溶液で溶出した成分は、以下「低分子画分」と称することがある。
【0065】
<高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性の評価>
前記工程(III)により得られた高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性は、プラック測定(PFU Assay)により評価した。即ち、マイクロプレート上で37℃、5%CO2の条件下で培養したMDCK細胞(イヌ腎上皮細胞、大日本住友製薬株式会社製)モノレーヤーに、インフルエンザウイルス株(A/PR/8/34:ATCC VR−95)を1x102pfu/mLとなるように加え、1時間インキュベートして感染させた。感染後、感染に使用したインフルエンザウイルスを含む溶液を除去し、前記高分子画分及び前記低分子画分をそれぞれ0.1μg/mL〜100μg/mLの範囲で加えたアガロース液を前記マイクロプレートに重層し、完全に凝固した後、37℃、5%CO2の条件下で3日間培養した。
前記高分子画分及び前記低分子画分を添加していない試料を対照試料とし、下記計算式により、前記高分子画分及び前記低分子画分のいずれか(以下、「被験試料」と称することがある。)を添加した際のインフルエンザウイルス抑制率を算出した。結果を下記表1に示す。
ウイルス抑制率(%)=100−(被検試料添加時のプラック数/対照試料のプラック数)×100
【0066】
【表1】
【0067】
<高分子画分及び低分子画分のSDS−PAGEによる確認>
前記ウシ初乳由来の高分子画分及び前記低分子画分の比較対照として、市販牛乳(常乳)、β−ラクトグロブリンA、及びβ−ラクトグロブリンBを用いた。前記市販牛乳(常乳)は、前記工程(I)〜(III)と同様の方法で精製し、前記市販牛乳(常乳)の高分子画分及び低分子画分を得た。
前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分、β−ラクトグロブリンA、及びβ−ラクトグロブリンBをそれぞれ10μg用い、常法により、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行い確認した結果を図3に示す。レーン1は前記ウシ初乳由来の高分子画分、レーン2は前記ウシ初乳由来の低分子画分、レーン3は前記市販牛乳の高分子画分、レーン4は前記市販牛乳の低分子画分、レーン5はβ−ラクトグロブリンA、及びレーン6はβ−ラクトグロブリンBをアプライした。
図3の結果より、前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分の主要成分のバンド(レーン1及び2)は、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分における主要成分のバンド(レーン3及び4)とは明らかに異なっていた。
【0068】
また、前記市販牛乳の高分子画分及び低分子画分の抗インフルエンザウイルス活性を、前記した方法と同様の方法で評価した結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】
表2の結果より、前記ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と同様の操作により、市販乳から得た高分子画分及び低分子画分は、抗インフルエンザウイルス活性を有していなかった。また、乳清タンパク質の主要成分であるβ−ラクトグロブリンA及びβ−ラクトグロブリンBも、抗インフルエンザウイルス活性を有していなかった。
【0070】
<高分子画分の2次元電気泳動による確認>
前記ウシ初乳由来の高分子画分を用い、常法により、2次元電気泳動を行った。即ち、前記高分子画分を12.5μg使用し、1次元目は、pH3〜pH6の等電点電気泳動を行い、2次元目でSDS−PAGEによる展開を行った。結果を図4に示す。
図4より、前記ウシ初乳由来の高分子画分には等電点の異なる少なくとも6種の成分が含有されていることが確認された。
【0071】
(実施例2:抗体の製造)
<モノクローナル抗体の製造方法>
前記ウシ初乳由来の高分子画分と、フロイントの完全アジュバント(和光純薬工業株式会社製)にて作製したエマルジョンを、BALB/cマウス(日本SCL株式会社)の腹腔内に接種し、免疫した。免疫したBALB/cマウスの抗体産生をELISA法により確認した。即ち、前記ウシ初乳由来の高分子画分を固定化した96穴マイクロタイタープレートに、免疫したBALB/cマウスより採取した血清を反応させた後、TMBパーオキシダーゼ基質キット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用いて抗体産生を確認した。抗体産生が確認されたBALB/cマウスの脾細胞と、ミエローマ細胞とを、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合させ、ハイブリドーマーを作製した。常法により、HAT培地で前記ハイブリドーマーを選別し、増殖させた。
得られたハイブリドーマーの各クローンの培養上清について、前記96穴マイクロタイタープレートを用いたELISA法により、抗体を産生しているハイブリドーマーのクローンをスクリーニングした。前記スクリーニングで得られたハイブリドーマーのクローニングを行い、クローン化されたハイブリドーマーの抗体産生を、前記96穴マイクロタイタープレートを用いたELISA法により確認した。この抗体産生が確認されたハイブリドーマーを、BALB/cマウスの腹腔内に移植し、このマウスの腹水から得られたモノクローナル抗体を、プロテインGカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて精製した。
【0072】
<モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング>
前記ウシ初乳由来の高分子画分について、30℃の条件下でシアリダーゼ(シグマ社製)による処理を行った。
前記ウシ初乳由来の高分子画分、そのシアリダーゼ処理物、比較対象として、ウシ初乳に含まれる成分である、α−ラクトアルブミンカルシウム タイプI及びβ−ラクトアルブミンBをそれぞれ10μg用い、常法により、SDS−PAGEを行った。SDS−PAGEは、同じサンプルを2枚のゲルに流し、1枚は銀染色、他の1枚は後述するウエスタンブロッティングに用いた。銀染色は、銀染色キット(和光純薬工業株式会社製)を用いて行った。ウエスタンブロッティングは次のようにして行った。即ち、SDS−PAGEにて分離されたタンパク質をPVDF膜(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)に転写した。1次抗体として、前記製造したモノクローナル抗体を反応させた。次いで、2次抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体(シグマ社製)を反応させ、ペルオキシダーゼ−ルミノール系(イミュンスターHRP:バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)による発光をX線フィルムに感光させ、前記モノクローナル抗体と反応した成分を調べた。結果を図5に示す。
【0073】
図5において、レーン1はα−ラクトアルブミンカルシウム タイプI、レーン2はβ−ラクトアルブミンB、レーン3は前記ウシ初乳由来の高分子画分、レーン4は前記高分子画分のシアリダーゼ処理物を示す。Mは分子量マーカーである。また、図5の上図は銀染色の結果であり、下図はウエスタンブロッティングの結果である。
図5より、前記ウシ初乳由来の高分子画分(レーン3)及びそのシアリダーゼ処理物(レーン4)は前記モノクローナル抗体により認識されたが、α−ラクトアルブミンカルシウム タイプI(レーン1)及びβ−ラクトアルブミンB(レーン2)は認識されなかった。
【0074】
実施例1のウシ初乳由来の低分子画分も、同様の方法でシアリダーゼ処理を行った後、SDS−PAGEを行い、CBB染色又は前記モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。結果を図6に示す。
図6において、レーン1は前記高分子画分、レーン2は前記高分子画分のシアリダーゼ処理物、レーン3は前記低分子画分、レーン4は前記低分子画分のシアリダーゼ処理物を示す。Mは分子量マーカーである。また、図6の上図はCBB染色の結果であり、下図はウエスタンブロッティングの結果である。
図6より、前記高分子画分及びそのシアリダーゼ処理物だけでなく、前記低分子画分及びそのシアリダーゼ処理物も、前記モノクローナル抗体により認識されることがわかった。
【0075】
図5〜6の結果より、前記モノクローナル抗体は、ウシの初乳に特異的なペプチド又はタンパク質を認識し、更に前記高分子画分と、前記低分子画分との共通する部位を認識する抗体であることが認められた。
【0076】
(実施例3:高分子画分の陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製(工程(IV)))
<分画画分の吸光度測定>
実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分を更に分離するため、Q−Sepharose FF(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を充填したカラム(25mm×1,200mm)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより、溶離液として水及び酢酸ナトリウム水溶液を使用し、酢酸ナトリウムの濃度勾配法にて分画を行った。
U−2000型分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により、各画分について、210nm及び280nmの紫外吸収、及びレゾルシノール発色後の580nmにおける吸光度変化を図7Aに示す。なお、210nmのサンプルは、40倍希釈して測定した。
図7Aの結果より、ピークは大きく2つに分かれた。ここで、素通りの画分をQ1画分、高濃度の酢酸ナトリウムで溶出された画分をQ2画分とした。
【0077】
<Q1画分及びQ2画分の抗インフルエンザウイルス活性の評価>
Q1画分(フラクション番号15〜65の画分)、及びQ2画分(フラクション番号190〜350の画分)について、フラクション番号23〜39の画分、40〜60の画分、198〜230の画分、231〜247の画分、248〜254の画分、255〜273の画分、274〜286の画分、287〜295の画分、296〜307の画分、及び308〜330の画分に分け、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0078】
【表3】
これらの結果より、抗インフルエンザウイルス活性は、フラクション番号198〜330の画分において認められた。
【0079】
<タンパク質の1次配列の解析>
フラクション番号231〜247の画分、274〜286の画分、及び308〜330の画分をグリコペプチダーゼF(GPF、タカラバイオ株式会社製)で、30℃、1時間の条件下で処理した。GPF処理コントロールとしては、フェツインを用いた。前記GPF処理サンプルついて、MALDI−TOF MSにて分析を行ったところ、各画分の分子量は約7.5kDaであった。
【0080】
前記GPF処理後のサンプルを10μg使用し、常法により、SDS−PAGE及びCBB染色を行った。SDS−PAGEの結果を図8に示す。レーン1はGPF処理したフラクション番号231〜247の画分、レーン2はGPF処理したフラクション番号274〜286の画分、レーン3はGPF処理したフラクション番号308〜330の画分、レーン4はGPF処理のコントロール、レーン5は未処理のフラクション番号231〜247の画分、レーン6は未処理のフラクション番号274〜286の画分、レーン7は未処理のフラクション番号308〜330の画分を示す。
【0081】
図8より、未処理のサンプルと比較して、GPF処理サンプルでは分子量が低下しており、脱糖鎖が認められた。
これらの中から、GPF処理したフラクション番号308〜330の画分(レーン3)のバンドを切り出し、DTT(ジチオトレイトール)による還元処理を行い、S−S結合を切断した。次いで、トリプシンを用いたゲル内消化法(in gel digestion)を行い、得られたペプチド断片のアミノ酸配列を、LC−MS/MSで分析した。更に、前記トリプシン消化により得られたペプチド断片をキモトリプシンで処理し、LC−MS/MSで分析した。
その結果、下記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが同定された。
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:2)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:3)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:4)
FQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:5)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:6)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:7)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:8)
FQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:9)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:10)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:11)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:12)
LFQTPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:13)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:14)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYDSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:15)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSNACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:16)
LFQKPPDLCQLPQARGPCKAALLRYFYNSTSSACEPFTYGGCQGNDNNFETTEMCLRICEPPQQTDKS (配列番号:17)
【0082】
前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドについて、データベース(Protein data bank(PDB))を参照したところ、これらのアミノ酸配列は、トリプシン阻害剤であることがわかった。前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドの活性中心を有する配列は、GPCKA(配列番号:1)であり、これらの中でもK(リシン)が活性中心と考えられる。以下、配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを、「ウシ初乳トリプシン阻害剤」と称することがある。
【0083】
(実施例4:トリプシン阻害剤活性の確認)
前記ウシ初乳トリプシン阻害剤のトリプシン阻害剤活性について、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(カタログ番号:T0256、シグマ社製)、ニワトリ卵白トリプシン阻害剤(カタログ番号:T9253、シグマ社製)、及び大豆トリプシン阻害剤(カタログ番号:T9003、シグマ社製)と比較した。
トリプシンの基質として、Nα‐ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル(BAEE)を用い、酵素反応により増加する253nmにおける吸光度変化(ΔA253/分)を測定し、反応系に添加したトリプシン阻害剤がどの程度トリプシンの酵素活性を抑制するかにより、トリプシン阻害の程度を調べた。結果を下記表4に示す。
【0084】
【表4】
表4の結果より、ウシ初乳トリプシン阻害剤は、市販のトリプシン阻害剤と同等又はそれ以上の活性を有していることが認められた。
【0085】
(実施例5:市販トリプシン阻害剤の抗インフルエンザウイルス活性の検討)
実施例4で使用した、大豆トリプシン阻害剤及びウシ膵臓トリプシン阻害剤について、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。結果を下記表5に示す。
【0086】
【表5】
表5の結果より、市販のトリプシン阻害剤においても、抗インフルエンザウイルス活性が認められた。大豆トリプシン阻害剤の活性中心はR(アルギニン)(以下、「アルギニン型トリプシン阻害剤」と称することがある。)であり、ウシ膵臓トリプシン阻害剤の活性中心はK(リシン)(以下、「リシン型トリプシン阻害剤」と称することがある。)であるが、いずれにおいても抗インフルエンザウイルス活性が認められた。
【0087】
なお、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、前記したように活性中心がK(リシン)を含むアミノ酸配列であると考えられ、表3に示す前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドにおける抗インフルエンザウイルス活性と、表5に示す市販のトリプシン阻害剤における抗インフルエンザウイルス活性とを比較すると、前記配列番号:2〜17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドの方が、より強い活性を有していた。
【0088】
(実施例6:ウシ初乳由来のタンパク質画分とオセルタミビルとの相乗効果)
実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、既存薬であるオセルタミビル(商品名:タミフル、中外製薬株式会社製)とを組み合わせて用いた場合の抗インフルエンザウイルス活性の相乗効果について検討した。
下記表6に示す濃度で、実施例1で得られたウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、オセルタミビルとをそれぞれ組み合わせ、実施例1のプラック測定(PFU Assay)と同様の方法で、抗インフルエンザウイルス活性の評価を行った。
【0089】
【表6】
表6より、ウシ初乳由来の高分子画分及び低分子画分と、既存薬であるオセルタミビルとを組み合わせて用いることで、抗インフルエンザウイルス活性を顕著に高めることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、現在インフルエンザ薬として使用認可されているアマンタジン塩酸塩(シントメル)、オセルタミビル(タミフル)、及びザナミビル(リレンザ)に匹敵する強い抗インフルエンザウイルス活性を有するものであり、新たなインフルエンザ薬として、臨床応用の可能性が期待されるものである。また、優れたトリプシン阻害活性を有するため、トリプシン阻害剤としても好適に利用可能である。更に、本発明の抗体は、抗インフルエンザウイルス活性を有するサンプルのスクリーニングに好適に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、
前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、
前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、
前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであることを特徴とするペプチド。
【請求項2】
活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN及びDのいずれかである請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN及びSのいずれかである請求項1から2のいずれかに記載のペプチド。
【請求項4】
活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT及びKのいずれかである請求項1から3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がLである請求項1から4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
活性中心を有するアミノ酸配列を有し、ペプチドのアミノ酸配列の全長が少なくとも50残基である請求項1から5のいずれかに記載のペプチド。
【請求項7】
哺乳動物の初乳由来である請求項1から6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
哺乳動物がウシである請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のペプチドを認識することを特徴とする抗体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のペプチドを含有することを特徴とするトリプシン阻害剤。
【請求項11】
トリプシン阻害剤を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項12】
トリプシン阻害剤が、請求項10に記載のトリプシン阻害剤である請求項11に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項13】
オセルタミビルを組み合わせてなる請求項11から12のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項14】
インフルエンザウイルスに感染した個体の治療に用いられる請求項11から13のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項1】
抗インフルエンザウイルス活性及びトリプシン阻害活性を有するペプチドであって、
前記ペプチドにおけるトリプシン阻害活性の活性中心を有するアミノ酸配列がGPCKA(配列番号:1)であり、
前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の27残基目のアミノ酸がDであり、
前記活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の28残基目のアミノ酸がNであることを特徴とするペプチド。
【請求項2】
活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の9残基目のアミノ酸がN及びDのいずれかである請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
活性中心を有するアミノ酸配列のC末端のAから起算してC末端側の13残基目のアミノ酸がN及びSのいずれかである請求項1から2のいずれかに記載のペプチド。
【請求項4】
活性中心を有するアミノ酸配列のN末端側に更にアミノ酸を有し、前記活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の13残基目のアミノ酸がT及びKのいずれかである請求項1から3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
活性中心を有するアミノ酸配列のN末端のGから起算してN末端側の16残基目のアミノ酸がLである請求項1から4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
活性中心を有するアミノ酸配列を有し、ペプチドのアミノ酸配列の全長が少なくとも50残基である請求項1から5のいずれかに記載のペプチド。
【請求項7】
哺乳動物の初乳由来である請求項1から6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
哺乳動物がウシである請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のペプチドを認識することを特徴とする抗体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のペプチドを含有することを特徴とするトリプシン阻害剤。
【請求項11】
トリプシン阻害剤を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項12】
トリプシン阻害剤が、請求項10に記載のトリプシン阻害剤である請求項11に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項13】
オセルタミビルを組み合わせてなる請求項11から12のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項14】
インフルエンザウイルスに感染した個体の治療に用いられる請求項11から13のいずれかに記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【公開番号】特開2011−37765(P2011−37765A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186487(P2009−186487)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(391031247)東光薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(391031247)東光薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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