説明

新規リン−カルシウム−ストロンチウム化合物及び歯内セメントにおけるそれらの使用

式(I)を有するリン−カルシウム−ストロンチウム化合物、その調製方法、固相(SP)及び液相(LP)を含むセメントの即時調製用の組成物(ここで、上記固相は、式(II)を有する無機化合物の混合物を含む)、歯内セメントとしての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リン−カルシウム−ストロンチウム化合物、それらの調製方法及び歯内セメントとしてのそれらの使用に関する。
【0002】
本発明はまた、この新規化合物を含む歯内セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
歯内治療学は、歯髄の疾患(歯髄炎、歯性膿瘍等)の治療に関する歯科学の学問分野である。
【0004】
歯髄炎は、通常の激しい歯痛、即ち熱さ及び冷たさにより増大される永続的な強い痛み(外傷又は虫歯後の歯髄充血及び炎症)である。歯髄壊疽は、歯髄炎症が治療されない場合に起こり、細菌が歯に侵入して、歯髄を壊死させる。(熱、冷たさ、圧力により)引き起こされる痛み及び発作はより強力になる。歯髄壊死が治療されない場合、細菌は周囲の歯槽骨に達して、それを破壊し(歯根尖周囲の病変)、嚢腫又は肉芽腫を引き起こす。それゆえ、歯から歯髄を除去する(depulp)必要がある。この病変は概して消毒及び根管充填後に、或る特定の場合では歯内外科処置により回復する。
【0005】
歯根管治療又は歯内治療は、歯の管又は根の内部の歯髄組織を摘除すること、並びに管(複数可)及び概して歯根管樹(tree)を形作ること、消毒すること及び密封すること、即ち三次元充填材を得ることを目的とする技法である。
【0006】
歯髄の切除後、歯根管は機械的に形作られて、最大量の歯髄残骸、細菌及びスメア層を除去するために、NaClO(活性塩素2.5%で)及びH、続いてEDTA(5%で)による管の繰り返しの灌注により化学的に消毒される。
【0007】
歯髄があまり炎症を起こしていない場合、及びX線が歯根尖周囲の病変の痕跡を全く示さない場合、機械的調製及び化学的消毒は、一般的に良好な無菌状態にとって十分であり、管は、以下で充填される:
最も一般的には、レンツロスパイラル(lentulo spiral)又はペーストフィラー(ウォームスクリュー)を用いて、任意に管及び隣接する二次管での硬化前にセメントペーストを圧縮することを可能にさせるが、特に再治療の必要性又は固定されたプロテーゼを支持しなくてはならないポスト及びコアを差し込む必要性のある場合に充填材の考え得る続く除去を容易とするグッタペルカマスターコーンを用いて、酸化亜鉛及びオイゲノールに基づくセメント(ZOE)を導入することにより;
より稀に、充填剤のより良好な密封を得るために、開業医は、グッタペルカによる圧縮技法(側方向の冷却凝縮、垂直方向の加温(warm)凝縮又は熱機械的凝縮)に頼り得る。それらは、基準歯内技法であるとみなされ、それ自体はフランスにおいて歯科学UFR[訓練研究施設]で教示されている。これらの技法は、長期にわたり、且つ開業医による良好な技術的熟練を要するという欠点を有する。
【0008】
深い歯髄壊死及び/又は歯根尖周囲の病変が存在する場合、歯髄切除及び調製後に、管はまず、或る一定の時間、適所に置かれた水酸化カルシウムで治療され、任意に補給された後、上述するように充填を実施する。
【0009】
或る特定のより複雑な場合では、開業医は、充填前に歯根尖プラグを差し込むか、或いは尖の逆根管充填を実施するか、そうでなければ管壁の病理学的穿孔又は偶発的穿孔を充填するように導かれ得る。最適な現行の材料は、MTA(無機三酸化物凝集体)、カルシウムアルミニウムケイ酸塩ベースのセメントである。
【0010】
管が充填された後、歯冠は、再介入が近未来に予想される場合には一時的な材料(Cavit(登録商標)等、IRM(登録商標)等)で、或いは最終的な材料(アマルガム、グラスアイオノマーセメント、コンポマー、複合材等)で或いは固定プロテアーゼを差し込むことにより充填される。
【0011】
歯内治療学で使用される主な材料は、水酸化カルシウム、酸化亜鉛−オイゲノールセメント、重質酸化カルシウム、MTA及びグッタペルカである:
−水酸化カルシウムCa(OH)
歯内治療学における水酸化カルシウムの使用は、Hermannにより1920年に導入された(非特許文献1)。
【0012】
今日、水酸化カルシウムは、4つの特質:抗菌作用、炎症を維持する浸出液の消散による抗炎症作用、歯の組織吸収の阻害及び硬組織形成の誘導を有することが事実上異議なく承認されている(非特許文献2)。
【0013】
水酸化カルシウムはまた、一般的に酸性である修復セメントに関する化学的緩衝剤として、及び金属修復に関する熱的緩衝剤として作用する。水酸化カルシウムは、樹脂及び複合材の重合を阻害しない。
【0014】
しかしながら、水酸化カルシウムは、或る特定数の欠点を示す:
単独で或いはペーストとして使用される場合、水酸化カルシウムは、硬化せず、乾燥時に縮小し、低いがゼロではない溶解度を有するため、かなり迅速に消失する。したがって、水酸化カルシウムは、密封された充填を得ることを可能にさせず、管を消毒し、また歯根尖周囲の病変を治療するための一時的な材料としてのみ使用される;
水酸化カルシウムの放射線不透過性は、象牙質の放射線不透過性に等しい;したがって、水酸化カルシウムへコントラスト製品を添加する必要がある;
水酸化カルシウムが、樹脂の硬化を得るための樹脂基剤と組み合わせて使用される場合、樹脂基剤は一般的に疎水性であり、ヒドロキシルイオン及びカルシウムイオンの拡散を制限し、したがって実質的にごくわずかな抗菌効果となる。
酸化亜鉛−オイゲノール(ZOE)セメント:
オイゲノール、即ち4−アリル−2−メトキシフェノールは、チョウジエッセンスの96重量%を構成する。オイゲノールは、そのフェノール官能性を介して、酸化亜鉛ZnOと反応して、亜鉛華オイゲノールを生じる。
【0015】
ZOEセメントの生物学的特性は、本質的にオイゲノールの存在に起因する。ZOEセメントは、歯髄炎中の疼痛に対して鎮静効果を有する。ZOEセメントは、平均的な抗菌活性を示す。最後に、ZOEセメントは、レンツロスパイラルを使用して歯根管へ容易に導入することができる。
【0016】
ZOEセメントは、歯髄覆罩及び歯根管充填のために窩洞の底で主に使用される。
【0017】
ZOEセメントもまた、或る特定数の欠点:チョウジの特有の臭い、硬化時のわずかな収縮、したがって密封を改善するためにグッタペルカコーンに頼ることが必要であること、ゼロではない溶解度及び束の間の抗菌効果を有する。ZOEセメントは、長期にわたっていかなる保護も提供しない。
【0018】
商標Biocalex(登録商標)で知られる「重質」酸化カルシウムは、高い膨張率を有する水和による水酸化カルシウムに関する前駆体である「重質」酸化カルシウムCaOに基づく製品であり、これは、抗菌効果を与え、充填剤の良好な密封を提供する。しかしながら、その使用は欠点:歯の分解のかなりの危険性、弱い機械的特性を伴う。
MTA(無機三酸化物凝集体):
MTAは、カルシウムアルミニウムケイ酸塩に基づくポルトランド型セメントである。酸化カルシウムの存在は、硬化が行われる際の或る特定のアルカリ度に反映され、これは、抗菌活性及び歯質形成プロセスの誘導に好適である。MTAは、良好な密封を提供する。その適応は、歯髄覆罩、アペキシフィケーション、歯根尖プラグの創出、穿孔の修復及び逆根管充填である。しかしながら、MTAは、その流動性の欠如、及びいったん硬化されると、その強度があまりに大きすぎて充填剤からの除去が可能ではないという事実に起因して、管の完全な充填に使用されない。
グッタペルカ:
グッタペルカ、即ちトランス−1,4−ポリイソプレンは、パラクイウム属(Palaquium)グッタベイル(gutta-bail)の樹木から抽出される天然ポリマーである。グッタペルカは、非圧縮性であるが、60℃を超えると熱可塑性であり、それにより、グッタペルカは、歯髄の形状を取ることが可能となる。グッタペルカは、冷却すると硬質になる。
【0019】
グッタペルカは、常にセメント(概して、緩結性ZOEセメント)の薄いコートと組み合わせて使用される。圧縮技法は基準技法であるとみなされるが、それらは、専門家の活動の現在のレパートリーと不適合性であるあまりにも長すぎる手順時間を要するため、日常的には滅多に実施されない。さらに、それらは、特殊訓練を必要とする良好な技術的熟練を有する開業医を要する。
【0020】
リン酸カルシウムセメントは、文献で数回言及されており、歯内治療学における使用の可能性が言及されている(特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、この生体材料に関する刊行物及び出願の大部分が整形外科に関している。
【0021】
酸化カルシウム及びオルトリン酸に基づく歯科用途のための最初のリン酸カルシウムセメントの製法は、1832年に公表された。しかしながら、この生成物は、遥かに大きな機械的強度を有し且つ化学的浸食に対して遥かに耐性であるリン酸亜鉛セメントに非常に迅速に取って代わられた。
【0022】
整形外科用途用のリン酸カルシウム水硬性セメントは、事実上酸性であるリン酸カルシウム及び事実上塩基性であるリン酸カルシウムを含有する粉末を、水又は緩衝水溶液と混合することにより得られる。固体化合物は、水相中に溶解して、このようにして放出されるカルシウムイオン及びリン酸イオンは、出発生成物よりも溶解性の低い中間的な塩基性を有するリン酸カルシウムの形態で再沈殿する:リン酸水素カルシウム二水和物(ブルッシャイト又はDCPD)又は化学量論的ヒドロキシアパタイト(HA)又はカルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイト(CDHA)。それは、セメントの機械的特性を保証する沈殿結晶の絡み合いである。例えば、:
Ca(HPO・HO(MCPM) + Ca(PO(β−TCP)+7HO→4CaHPO・2HO(DCPD) (ブルッシャイトセメント)
2CaHPO(DCPA)+2Ca(POO(TTCP)→Ca10(PO(OH)(HA) (アパタイトセメント)
酸化カルシウムに基づくセメント及びリン酸水素カルシウムに基づくセメント又はリン酸二水素カルシウムに基づくセメントが、それらの使用の目的で水と混合される場合、それらは、ヒドロキシアパタイト及び場合によっては水酸化カルシウムを付与する(使用されるCaOの量に応じて)。
【0023】
過剰の酸化カルシウムを用いる場合、これらのセメントは、骨置換材料としての整形外科における使用には塩基性が強すぎるが、それらは、歯内治療学における充填治療にとっては申し分なく適している。
【0024】
このタイプのセメントは、Ca/P=2の比が達成される限りは満足な抗菌活性を有し、Ca/P=2.5の比が達成される限りは純粋な水酸化カルシウムの抗菌活性に匹敵する抗菌活性を有する。しかしながら、これらのセメントは、歯内療法におけるそれらの使用を想定するのを困難にさせる幾つかの欠陥を有する:それらは、ZOEセメントと比較して取り扱うのが困難であり、それらは放射線不透過性でない。
【0025】
2つの理由から歯根管充填セメントが放射性不透過性である必要がある。放射線不透過性は、管が正確に充填されることを確証すること、及び患者が常連の患者でない場合に歯がすでに治療されているのか、又は治療されていないかを迅速に確定することを可能にする。さらに、歯根管充填セメントの放射線不透過性は、治療が健康保険により支払われるために義務的である。ここで、象牙質及びエナメルの組成と同一である組成を有するこのタイプのセメントは、同等であり且つより大きくない放射線不透過性を有する。
【0026】
セメントの処方への放射線不透過性化合物(例えば、バリウム塩)の添加を想定することができるが、それは、セメントの機械的特性及び抗菌特性の悪化をもたらす。
【0027】
セメントは、製品の品質にも関わらず開業医を失望させないように、開業医が取り扱いやすくなければならない。酸化カルシウムに基づくセメント及びリン酸水素カルシウムに基づくセメントの調製(粉末と液体との混合)は簡素であり、リン酸亜鉛及びZOEセメントの調製と同一である。他方で、それらはレンツロスパイラル上で完全には固定されず、一方でセメントを、抜いた歯へ導入することが可能であり(ex vivoでの研究室試験)、これは、外科処置における患者に対して遥かに困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第4,518,430号
【特許文献2】米国特許第5,977,624号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Hermann BW. Calciumhydroxyd als mittle zum behandel und fullen von zahnwurzelkanalen. Wurzburg. Med Diss V29, 1920
【非特許文献2】Tronstad L. Endodontie clinique [clinical endodontics]. French translation by Laudenbach P, Medecine-Sciences, Flammarion, Paris 1993, Chap. 5
【非特許文献3】Chabchoub S. et al., Journal of Thermal Analysis, 1995, 45(3), 519-534
【非特許文献4】Kikuchi M. et al., Journal of Solid StateChemistry, 1994, 113(2), 373-378
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0030】
したがって、本発明の基礎は、歯内治療用途用の、特に歯髄を除去した歯の歯根管を充填するためのセメントの開発であり、このセメントは、良好な機械的特性、長期にわたる抗菌特性及び良好な条件下で埋め込まれるのを可能にするレオロジーを有する。さらに、セメントのプラスの特性のパネルを完璧にする、硬化する場合に放射線不透過性であり且つ膨張性であり、したがって充填されるべき管の気密性充填の役割を担うセメントが開発された。
【0031】
このセメントの開発は、下記式(I):
Ca(1−x)Sr(x)HPO
(I)
(式中、xは、0.2〜0.8、好ましくは0.3〜0.7、より一層好ましくは0.4〜0.6、有利には0.45〜0.55の数を表す)
に相当する新規リン−カルシウム−ストロンチウム化合物を生産する方法に基づいた。
【0032】
非特許文献3は、リン酸水素カルシウムにおけるカルシウムのストロンチウムによる置換により、また逆に言うとCaHPO−SrHPO−HO系における三元混合物(1−x)CaCO+xSrCO+HPOの水−溶解度図の確立によって、Ca(1−x)SrHPO固溶体を形成する可能性を研究している。CaはSrに取って代わって、0.6<x<1に関して格子定数の減少を伴うα−SrHPOの構造を維持する固溶体を与えること、及びSrはCaに取って代わって、0.05<x<0.25に関して格子定数の増加を伴ってCaHPOの構造を維持する固溶体を与えることを特筆している。最終的に、0.25<x<0.6に関して、混合物は2相混合物であり、Ca0.75Sr0.25HPO〜Ca0.4Sr0.6HPOの様々な比率を含有する。しかしながら、それらは、平衡に到達する溶液中での沈殿の方法により調製され、ここで上記平衡の位置は、様々な実験パラメータに依存し、したがって工業規模で使用することはできず、或いは選択される化合物を再現性よく得るように実に簡素に使用することはできない。この文献は、歯科用セメントを調製するためのこのような化合物の使用について一切言及してない。
【0033】
同様に、非特許文献4は、ストロンチウム置換されたヒドロキシアパタイト結晶の分析に関するが、再現性のよい生産方法又は工業化可能な生産方法は、選択される化合物に関してその中では記載されてはいない。この化合物は、(Ca+Sr)/P比=1.67を特徴とし、これは、本発明の(Ca+Sr)/P=1.0を有する化合物と異なり、いかなる場合でもそれらを代用することはできない。
【0034】
xが0.45〜0.55である式(I)を有する化合物は新規であり、本発明の第1の主題を構成する。CaHPOの構造を維持するこの化合物は、Chabchoub S.らによれば、2相混合物が得られる範囲内にある(上記を参照)。この化合物は、それらの合成に関する特定の方法によって得ることができ、それにより水溶液中の溶解−沈殿の速度論的平衡及び従来の熱力学的平衡外を研究することが可能となる。
【0035】
式(I)を有する化合物は、混合無水リン酸水素ストロンチウム−カルシウムである。本発明によれば、この化合物は、カルシウムビス(二水素リン酸塩)一水和物(又はMCPM、即ちリン酸一カルシウム一水和物)から、及び水酸化ストロンチウム八水和物から、及び任意にオルトリン酸から、又は水酸化カルシウムからメカノシンセシスによって調製される。即ち、それは、下記反応に従って、固体形態での出発生成物を混合する工程を含む:
0.5≦x≦0.8に関しては、
(1−x)Ca(HPO・HO+(2x−1)HPO+xSr(OH)・8HO → Ca(1−x)SrHPO+(9x+1)HO。
【0036】
0.2≦x≦0.5に関しては、
Ca(HPO・HO+2xSr(OH)・8HO+(1−2x)Ca(OH) → 2Ca(1−x)SrHPO+(16x+3)HO。
【0037】
特に、x=0.5の場合では、
Ca(HPO・HO+Sr(OH)・8HO → 2Ca0.5Sr0.5HPO+11HO。
【0038】
反応の出発生成物の混合は、ボールミル中で或いは乳鉢中での単純混合により実施され得る。実際には、粉末の機械的攪拌のどの手段も、式(I)を有する化合物の調製に適している。粉末の混合を容易とするために、少量の水(任意に、オルトリン酸HPO又は水酸化カルシウムを含有する)を混合器へ導入してもよい。
【0039】
反応は、周囲温度で実施される。反応は、数分〜1時間の範囲の混合時間を要し得る。続いて、生成物は、当業者に既知の任意の手段により、例えば生成物を炉又はインキュベーターに通すことにより、或いはアトマイゼーションにより乾燥される。本発明の生成物の加熱はまた、水の蒸発を容易とするために減圧下で実施されてもよい。
【0040】
Yokogawa Y. et al., Chemistry Letters, 1996, 45(4), 161-166は、CaHPO・2HO、CaCO、SrHPO及びSr(OH)・8HOから出発してカルシウム及びストロンチウム欠乏性アパタイトを調製する湿式メカノケミカル法について記載している。しかしながら、この方法の条件は、本発明者等により示されるように(Boudeville et al., Key Engineering. Materials 2004; 254-256: 103-106)最も好適であるわけではなく、式(I)の化合物を生産することはできない。
【0041】
式(I)を有する化合物は、ストロンチウムを含む。ストロンチウムは、骨石灰化プロセスにおいて重要な役割を果たす。ストロンチウムは、骨のミネラル相中で天然に存在し、骨中でカルシウムを迅速に取って代わる。ストロンチウムは骨芽細胞の活性を刺激すると同時に、破骨細胞の活性を部分的に阻害し、骨の堅さを強化する。これらの理由で、ストロンチウムは、閉経後骨粗しょう症の経口治療で使用される。さらに、ストロンチウムは、カルシウムよりも放射線不透過性である。
【0042】
根管の充填による歯の治療の場合、ストロンチウムは、象牙芽細胞(髄質細胞)の活性に対して、及びセメント芽細胞(セメント細胞、これらは、象牙質を取り囲んで保護する)に対して刺激活性を有すると予想され得る。
【0043】
歯内セメントの調製のための使用という視点での式(I)を有する化合物へのストロンチウムの導入は、3つの事柄をもたらす:
(i)ストロンチウムは、カルシウムよりも高い原子質量を有し、セメントをより放射線不透過性にさせる;
(ii)使用される形態では、ストロンチウムは硬化反応に寄与し、カルシウム及びストロンチウムアパタイトは、放射線不透過性を増大させるのに従来使用されるバリウム塩とは異なって、連続した固溶体を形成する;
(iii)ストロンチウムはまた、骨芽細胞の活性を刺激するため、歯根尖周囲病変の発達の防止又はその回復のための最良の保証である歯根尖プラグ(又はバリア)の形成のためのセメント芽細胞の活性を刺激すると予想され得る。
【0044】
リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)に基づく、酸化カルシウム(CaO)に基づく及び炭酸ストロンチウムに基づく代用骨として使用されるセメントは、従来技術分野で、特に国際公開第2005/115488号を通じて既知である。しかしながら、このようなセメント組成物では、ストロンチウムは、硬化反応に部分的にしか寄与せず、ストロンチウム塩は、カルシウムヒドロキシアパタイト相中に分散され、その機械的特性を増大させる。
【0045】
この文献に記載されるセメントは、整形外科用途:迅速に生分解可能なポリマーのミクロスフェアを含有する(その中に考え得るマクロ孔性を創出するために)注入可能な代用骨又は複合代用骨を対象とする一方で、本発明のセメントは、レンツロスパイラルを使用した導入による歯根管の治療及び充填のための歯内用途用であり、ミクロ細孔性であるべきである。
【0046】
それらの組成は異なる:
整形外科用セメント:
固相:6CaHPO・2HO+2.5CaO+1.5SrCO(60%(m/m))+PLAGA(40%(m/m))(PLAGA=ポリ(DL−乳酸・グリコール酸共重合体)のミクロスフェア);
液相:0.75Mリン酸アンモニウム緩衝液(pH7及び液体/粉末比=0.5ml・g−1)。
【0047】
従来技術のセメントでは、CaOは、中性セメントを得るために欠乏しており、本発明のセメントでは、CaOの水和のおかげで、充填材の密封に必要な膨張、並びに迅速且つ長期にわたる抗菌活性を得るために大過剰のCaOが存在し、本発明のセメント中のストロンチウムもまた、十分な放射線不透過性を有するようにより大量に存在する。
【0048】
混合無水リン酸水素カルシウム−ストロンチウムは、国際公開第2005/115488号で言及されているが、このような化合物を調製する工業的方法については記載されていない。骨セメントにおけるこのような化合物の使用についてもまた記載されていない。
【0049】
文献CN−1559888は、リン酸水素カルシウム、リン酸水素ストロンチウム及びオキソ二リン酸四カルシウム(又は、リン酸四カルシウム、即ちTTCP)に基づく骨セメントについて記載している。式(I)を有する化合物は、上記混合物に由来するこのセメントでは使用されない:
固相:Ca(POO+CaHPO+SrHPO
液相:0.5mol/l〜1mol/lのHPOの水溶液。
【0050】
このセメントは、本質的にTTCPに起因して、非常に良好な機械的特性を有し、これは、骨における使用に適しているが、セメントが歯に塗布される場合には再介入を可能にしない。そのレオロジーは、歯根管充填に適切ではない。
【0051】
このセメントは、ヒドロキシルイオンを放出せず、したがってこのセメントは、いかなる抗菌効果も欠如している。それは、その硬化反応中にいかなる膨張も生じず、したがって歯内用途で望まれる気密性を有さない。
【0052】
さらに、出発生成物であるCa(POOは市販されておらず、調製するのが困難である。
【0053】
本発明の別の主題は、別個である固相(SP)及び液相(LP)を含むセメントの即時調製用の組成物である。固相は、式(II):
6Ca(1−x)Sr(x)HPO+yCaO+zA
(II)
(式中、
xは、上記式(I)で見られるように、且つ同じ好ましい変形を伴って、0.2〜0.8の数を表し、
yは、5〜12の数を表し、
Aは、放射線不透過性化合物を表し、
zは、1〜3の数を表す)
の無機混合物を含む。
【0054】
Aは、炭酸塩形態、硫酸塩形態、フッ化物形態又はリン酸塩形態のビスマス塩、バリウム塩又はストロンチウム塩であり得る。
【0055】
目的とされる使用が歯根管(endodontic canal)の充填である場合、yは好ましくは、式(II)のセメントに関して、7〜12、好ましくは8〜10で選択される。
【0056】
目的とされる使用が、歯髄覆罩である場合、yが5〜7であるセメント組成物が好ましい。好ましくは、zは、1.5〜2.5である。
【0057】
本発明のセメントは、生体適合性であり、且つ注入可能である。本発明のセメントは、潜在的に生分解性である。
【0058】
式(II)を有する混合物は、粉末の形態で、式(I)を有する混合リン酸水素カルシウム−ストロンチウム、酸化カルシウム(CaO)及び放射線不透過性化合物(A)を式(II)の比率で混合することにより調製される。
【0059】
セメント組成物の液相は、水又はpH5〜9の食塩水溶液で構成される。好ましくは、pH6〜8、好ましくは6.5〜7.5の食塩水溶液が使用される。有利には、0.2mol/l〜1.5mol/lのNaHPO及びNaHPOの混合物を含む水溶液(NaP緩衝液)、又は0.2mol/l〜1.5mol/lのNaHPO及びグリセロリン酸ナトリウム六水和物の混合物を含む水溶液(NaGP緩衝液)、又は0.2mol/l〜1.5mol/lのNHPO及び(NHHPOの混合物を含む水溶液(NHP緩衝液)、或いは0.2mol/l〜1.5mol/lのクエン酸三ナトリウムを含む水溶液(Cit緩衝液)が使用される。
【0060】
有利には、本発明のセメント組成物はまた、少なくとも1つのポリマーを含む。本発明のセメント組成物の固相(SP)又は液相(LP)のどちらか一方が、このポリマー又はこれらのポリマー(複数)を含んでもよい。
【0061】
ポリマーは、アルギン酸塩、キトサン、デキストラン、硫酸デキストラン又はポリアクリレートであり得る。有利には、ポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウムのようなポリアクリレート、及びアルギン酸ナトリウムのようなアルギン酸塩から選択される。好ましくは、分子量2000〜50000、有利には3000〜30000、さらに一層有利には5000〜20000を有するポリアクリレートが選択される。このようなポリマーは市販されている。
【0062】
本発明によれば、ポリマーが固相に添加される場合、ポリマーは、セメント組成物の固相の総重量に対して、1重量%〜5重量%、有利には2重量%〜4重量%に相当する。ポリマーが液相に添加される場合、ポリマーは、液相の総容量に対して0.2重量%〜10重量%に相当する。組成物中で使用されるポリマーの量は、ポリマーの性質に応じて、これらの範囲内で変化する。
【0063】
好ましくは、液相はまた、少量の従来の抗菌剤(例えば、NaClO)を含む。
【0064】
セメント組成物が調製される場合の液相の容量(L)と固相の重量(P)との間の比は、0.2ml/g<L/P<0.7ml/g、有利には0.3ml/g<L/P<0.6ml/gである。目的とされる使用が、歯根管充填である場合、0.4ml/g<L/P<0.5ml/gが好ましく、使用が歯髄覆罩である場合、0.35ml/g<L/P<0.4ml/gが好ましい。
【0065】
固相が液相と混合される場合、混合ホスホン酸水素カルシウム−ストロンチウムは、以下のスキーム:
6Ca(1−x)SrHPO+yCaO → Ca(10−6x)Sr6x(PO(OH)+(y−4)Ca(OH)
に従って酸化カルシウムと反応し、固相を液相と接触させた後の短期間(数分)で、ヒドロキシアパタイトが沈殿する。
【0066】
本発明の一変形によれば、化合物6Ca(1−x)SrHPOは、この工程において、CaHPO・2HO又はCaHPO、及びSrHPOの混合物であるその前駆体で置き換えることができる。
【0067】
実際に、6Ca(1−x)SrHPO = 6(1−x)CaHPO(2HO)+6xSrHPO
【0068】
上記方程式に従って、セメント(II)の式において、化合物(I)をCaHPO・2HO又はCaHPO、及びSrHPOの混合物で置き換えることにより、歯内治療学で使用することができるセメントもまた得られる。この混合物が、式(II)における化合物(I)の代わりとして使用される場合、液相との混合及び硬化反応後に、同じ最終生成物が得られる。
【0069】
したがって、本発明の別の主題は、別個である固相(SP)及び液相(LP)を含むセメントの即時調製用の組成物であり、固相は、式(IIa):
6(1−x)CaHPO(2HO)+6xSrHPO+yCaO+zA
(IIa)
(式中、x、y、z及びAは、式(II)において上述するのと同じ意味を有し、他の構成成分、液相及びポリマーは、上述するものと同一である)
の無機混合物を含む。
【0070】
本発明の別の主題は、上述する固相及び液相を含む組成物から出発し、且つ上記固相が上記液体相と混合される少なくとも1つの工程を含む、セメントを調製する方法であり、この工程では、混合カルシウム−ストロンチウムヒドロキシアパタイトの形成に関する反応が上記スキームに従って行われる。
【0071】
貯蔵の持続期間全体にわたって、セメントは、2相(一方が固体、他方が液体)の形態で個々に貯蔵される。本発明のセメント組成物は、固相が気密性且つ湿密性の包装中で保持される限り、良好な貯蔵特性を有する。
【0072】
本発明の別の主題は、別個の区画中に貯蔵される液相及び固相の形態での上述するようなセメントの即時調製のための組成物を含む歯科用キットである。
【0073】
歯根管充填又は別の歯科用途を対象とするこのようなキットは、歯科的外科処置による消費に適した容量の2つの異なった瓶で構成され得る。
【0074】
それぞれが一本の歯を充填するのに適した量の固相及び液相を含む瓶の形態のキットもまた想定され得る。このような包装は、セメントが調製される時点での用量の誤り、及び瓶の繰り返しの開口に起因するセメントの品質の考え得る悪化を防止するという利点を有する。
【0075】
また、カートリッジのような直接的な即時混合用の容器中に本発明のセメント組成物をパッケージングすることを想定することも可能である。例えば、米国特許第5,549,380号に記載される混合デバイスについて言及されてもよく、これは、混合が実施されるべき時点で吸引により液相を固相へ導入することを可能にさせる。それぞれが組成物の相の一方を含有する2つの区画を有する軟質ポーチ(区画は、混合が実施されるべき時点で破壊されるシールにより分離されており、固相を含有する区画へ液体が入ることが可能である)もまた使用され得る。
【0076】
ヒドロキシアパタイト中のストロンチウムの存在により、セメントの機械的特性及びレオロジー特性:硬化時間、圧縮強度及び注入可能性の悪化を伴わずに放射線不透過性セメントを有することが可能となる。
【0077】
硬化されたセメントからのSr2+イオンの定常放出もまた観察され、Sr2+イオンは、象牙芽細胞の活性化により象牙質再構築を活性化することが可能である。
【0078】
硬化反応中、本発明のセメントは、充填が密封されることを保証するのに十分であり、且つ疼痛を引き起こすか、又は歯を弱めるには不十分なわずかな膨張をもたらす。
【0079】
本発明のセメント組成物はまた、規則的な且つ持続的な様式でOHイオンを放出するという特性も有し、それによりそれらの抗菌活性を説明する。これらの組成物は、それらが歯根管の充填で使用されるのに十分である硬度を有する。しかしながら、それらは、象牙質の硬度よりもわずかに劣る硬度を有し、それにより新たな歯根尖周囲の病変の形成の場合においてそれらを除去することを想定することが可能となる。
【0080】
このセメント組成物の好ましい使用は下記の通りである:
抜髄法に続く歯根管の充填。この充填は、歯根尖周囲の病変の吸収を引き起こすために水酸化カルシウムCa(OH)を繰り返して塗布した後に好適に実施される。
【0081】
歯髄覆罩(直接的及び間接的):組成物の適応及び液相/固相比の適応により、より短い硬化時間及びより低いアルカリ度を有するような方法で、配合物をこの使用に適応させることが可能となる。この使用では、本発明の組成物は、瘢痕性歯科用ブリッジの形成を促進するはずである。
【0082】
穿孔の修復。
【0083】
歯根尖プラグの形成。
【0084】
本発明のセメント組成物はまた、歯管における漂白剤の残渣の存在と適合性であるという利点を有する。実際、抜髄法後に、歯科医は、次亜塩素酸ナトリウムの溶液、続いて任意にEDTAの溶液又はHの溶液で歯管を洗浄する。多くの場合水相と不混和性である従来のセメントを差し込む前に、裂孔の形成の危険性を伴って、根壁の完全な乾燥が必要とされる。これは、本発明のセメントには当てはまらない。歯管の不十分なすすぎが、このセメントの硬化を減じることはない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】ZOEセメントで充填された歯の放射線学の図である。
【図1B】実施例4のセメント(OP3)で充填された歯のX線写真の図である。
【図2】OP3セメント及び従来のZOEセメント((a)調製したて、及び(b)13日前に調製された)による多菌性接種材料の成長の阻害(固体寒天培地中での拡散による試験)の図である。RIZ:相対阻害帯域、即ち純粋な水酸化カルシウムの調製したてのサンプルによる阻害と比較される(Ca(OH)に関してZIR=1)。
【図3】OP3セメントから時間とともに放出されるヒドロキシルイオンの累積量の図である。水平の直線は、最大放出可能量を表す。[実施例]
【実施例1】
【0086】
混合リン酸水素カルシウム−ストロンチウムCa0.5Sr0.5HPOの調製
この化合物は、下記条件下でMCPM及び水酸化ストロンチウム八水和物からメカノシンセシスにより調製された:
Ca(HPO・HO(146.06g)+Sr(OH)・8HO(153.86g) → 2Ca0.5Sr0.5HPO(185.17)+11HO(114.7)
20分間の混練、Fritsch Pulverisette 6遊星ミル、偏心率6cm、500mlの磁器ボウル、直径30mmの4個の磁器ボール、総質量248g、総表面積113cm、回転速度200rpm。
【0087】
20分間の混練後、反応に由来する水の存在に起因して、ペースト状の塊が得られる(38.3%)。次に、ペーストを120℃で3時間乾燥させる。ケークを手で砕いて、粉末をふるいにかける(100μmのふるい)。ふるいにかけた粉末およそ150〜160gはこのようにして得られる(即ち、収率80〜83%)。
【実施例2】
【0088】
混合リン酸水素カルシウム−ストロンチウムCa0.5Sr0.5HPOの噴霧乾燥
蒸留水1300mlを、実施例1で見られるように4工程で調製され、且つCa0.5Sr0.5HPO 740g及び水460gを含有するペースト1200gへ添加する(粉末の質量対懸濁液の質量の比 30%)。懸濁液を噴霧乾燥させた(Niro Atomizer Minor、炉の温度105℃、空気圧7バール)。乾燥粉末630gが回収され(収率85%)、その質量の80%が、50μm未満の粒径を有する。
【実施例3】
【0089】
放射性不透過性剤(radiopacifier)としてフッ化ストロンチウムを用いた歯内セメントの組成物(OP3Fと称される)の調製
*固相
混合物6Ca0.5Sr0.5HPO+9CaO+2SrF
*液相
NaHPO+リン酸塩に関して1リットル当たり0.25molでのNaHPO+クエン酸塩に関して1リットル当たり0.25molでのクエン酸ナトリウム+質量/容量%に基づいて5%を与えるポリアクリル酸ナトリウム(M=5100)の緩衝溶液
*液体対粉末(L/P)比
粉末は、粉末1グラム当たり液体0.5mlの比、即ちL/P=0.5ml・g−1で液相と混合される。各種試験中、2つの成分は、スパチュラを使用して27℃の外気温でガラス板上で混合された。軸圧縮強度は4MPaであり、硬化時間は16分であり、ペーストフィラー(レンツロスパイラル)上での補正保持時間は10分である。
【実施例4】
【0090】
放射線不透過性剤として炭酸ストロンチウムを用いた歯内セメントの組成物(OP3と称される)の調製
*固相
混合物6Ca0.5Sr0.5HPO+9CaO+2SrCO(97質量%を付与する)+ポリアクリル酸ナトリウム(M=20000)(3質量%を付与する)
*液相
NaHPO + NaHPO(pH=7、リン酸塩に関して1リットル当たり0.5mol)+0.02%の活性Clを含有するNaClO(次亜塩素酸ナトリウムは、緩衝液が開封された後に時間に伴う緩衝液中の微生物叢又は真菌叢の発達を防止するための抗菌剤及び抗真菌剤としてのみ存在する)の緩衝溶液
*液体対粉末(L/P)比
粉末は、粉末1グラム当たり液体0.4mlの比、即ちL/P=0.4ml・g−1で液相と混合される。各種試験中、2つの成分は、スパチュラを使用して20℃±2℃でガラス板上で混合された。混合物はまた、乳鉢中で乳棒を用いた混練により、或いは所望の量の2相を含有するカプセルの機械的攪拌により(アマルガム又はリン酸亜鉛セメントに関して)(HSM 1カプセル混合機を15秒間使用して試験される技法)調製されてもよい。
X線写真特性:
図1A及び図1Bで観察され得るように、本発明のセメントは、一般的に使用されるZOEセメントの放射線不透過性に匹敵するアルミニウム 3.2mmの放射線不透過性に等しい放射線不透過性を有する。
機械的特性:
各種セメント組成物は、P/L比を変更させることにより、実施例4の組成物に基づいてそれらの機械的特性に関して試験した。結果を以下の表1に示す:
【0091】
【表1】

【0092】
微生物学的特性:
OP3セメントの抗菌活性を、従来のZOEセメントの抗菌活性及び純粋な水酸化カルシウムペーストの抗菌活性と比較した(固体寒天培地中での拡散による、歯垢から採取される多菌性接種材料の増殖阻害に関する試験)。これらの2つのセメントの活性は、セメントの調製したてのサンプル及び13日前に調製されたサンプルに関して確認された。新鮮なOP3(RIZ=1.26)及び新鮮なZOE(RIZ=1.23)は、水酸化カルシウムの抗菌活性(Ca(OH)に関してRIZ=1)よりも高い抗菌活性を示した;p≒10−5、一元ANOVA検定)。他方で、13日前に調製される場合、OP3の活性は、新鮮な水酸化カルシウムの活性に等しいままである(P=0.07)のに対して、ZOEセメントの活性は、文献に従って予想され得るように事実上ゼロである(8個のサンプルのうち7個がいかなる阻害も示さなかった)。
【0093】
これらの結果は図2に示される。
ヒドロキシルイオンの放出:
円筒形サンプル0.5gを、蒸留水10ml中に浸漬させた。蒸留水は、定期的に補給されて、放出されるヒドロキシルイオンをpH計によりアッセイした(図3)。
【0094】
ヒドロキシルイオンの持続的な放出は、このセメントの抗菌活性を説明し、象牙質小管における上記イオンの拡散により、象牙質小管を消毒することが可能である。上記イオンは、いったんセメントが歯根管へ導入されると、in vitroでの試験においてよりもセメントの質量に対して遥かに少ない水相と接触することでのみ放出される。したがって、in vivoでのこのセメントの抗菌保護効果は、in vitroでの試験におけるこの3週におけるよりも遥かに長く持続的であるはずである。
取扱適性:
OP3セメントの調製中、優れた粘稠度、レンツロスパイラル上での良好な保持、及び臨床用途に適した粘度が得られることが観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
Ca(1−x)Sr(x)HPO
(I)
(式中、xは、0.45〜0.55の数を表す)
に相当する化合物。
【請求項2】
式(I):
Ca(1−x)Sr(x)HPO
(I)
(式中、xは、0.2〜0.8の数を表す)
の化合物を生産する方法であって、反応:
0.5≦x≦0.8に関しては、
(1−x)Ca(HPO・HO+(2x−1)HPO+xSr(OH)・8HO → Ca(1−x)SrHPO+(9x+1)H
0.2≦x≦0.5に関しては、
Ca(HPO・HO+2xSr(OH)・8HO+(1−2x)Ca(OH) → 2Ca(1−x)SrHPO+(16x+3)H
のうちの1つに従って、カルシウムビス(二水素リン酸塩)一水和物及び水酸化ストロンチウム八水和物を粉末形態で混合する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記混合は、少量の水の存在下で、周囲温度にてボールミル中で或いは乳鉢中での単純混合により混合が実施され、続いて乾燥が行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合は、オルトリン酸又は水酸化カルシウムの存在下で実施されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
セメントの即時調製用の組成物であって、固相(SP)及び液相(LP)を含み、該固相は、式(II):
6Ca(1−x)Sr(x)HPO+yCaO+zA
(II)
(式中、
xは、0.2〜0.8の数を表し、
yは、5〜12の数を表し、
Aは、放射線不透過性化合物を表し、
zは、1〜3の数を表す)
を有する無機化合物の混合物を含むことを特徴とする、セメントの即時調製用の組成物。
【請求項6】
セメントの即時調製用の組成物であって、固相(SP)及び液相(LP)を含み、該固相は、式(IIa):
6(1−x)CaHPO(2HO)+6xSrHPO+yCaO+zA
(IIa)
(式中、
xは、0.2〜0.8の数を表し、
yは、5〜12の数を表し、
Aは、放射線不透過性化合物を表し、
zは、1〜3の数を表す)
を有する無機化合物の混合物を含むことを特徴とする、セメントの即時調製用の組成物。
【請求項7】
xは、0.3〜0.7、より一層好ましくは0.4〜0.6、有利には0.45〜0.55の数を表す、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
Aは、ビスマス塩、バリウム塩又はストロンチウム塩から選択される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
Aは、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物又はリン酸塩であることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
yは、7〜12、好ましくは8〜10から選択されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
yは、5〜7から選択されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
zは、1.5〜2.5であることを特徴とする、請求項5〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記液相は、水又はpH5〜9の食塩水溶液から成ることを特徴とする、請求項5〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記液相は、pH6〜8、好ましくは6.5〜7.5の食塩水溶液であることを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記液相は、
0.2mol/l〜1.5mol/lのNaHPO及びNaHPOの混合物を含む水溶液、
0.2mol/l〜1.5mol/lのNaHPO及びグリセロリン酸ナトリウム六水和物の混合物を含む水溶液、
0.2mol/l〜1.5mol/lのNHPO及び(NHHPOの混合物を含む水溶液、
0.2mol/l〜1.5mol/lのクエン酸三ナトリウムを含む水溶液
から選択されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
前記液相の容量(L)と前記固相の重量(P)との間の比が、0.2ml/g<L/P<0.7ml/g、有利には0.3ml/g<L/P<0.6ml/gであることを特徴とする、請求項5〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
0.4ml/g<L/P<0.5ml/gであることを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
0.35ml/g<L/P<0.4ml/gであることを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物はまた、少なくとも1つのポリマーを含むことを特徴とする、請求項5〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記ポリマーは、ポリアクリレート及びアルギン酸塩から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記ポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウム又はアルギン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記ポリマーは、分子量2000〜50000、有利には3000〜30000、より一層有利には5000〜20000を有するポリアクリレートであることを特徴とする、請求項19〜21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記ポリマーは、前記固相中に存在することを特徴とする、請求項19〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
前記ポリマーは、前記固相の総重量に対して1重量%〜5重量%、有利には2重量%〜4重量%に相当することを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリマーは、前記液相中に存在することを特徴とする、請求項19〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記ポリマーは、前記液相の総容量に対して0.2重量%〜10重量%に相当することを特徴とする、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
請求項5〜26のいずれか1項に記載の組成物から出発するセメントを調製する方法であって、該方法は、前記固相が前記液相と混合され、また下記反応:
6Ca(1−x)SrHPO+yCaO → Ca(10−6x)Sr6x(PO(OH)+(y−4)Ca(OH)
が行われる少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項28】
別個の区画中に貯蔵される液相及び固相の形態での請求項5〜26のいずれか1項に記載される組成物を含む歯科用キット。
【請求項29】
歯根管充填用のセメントの調製のための請求項5〜26のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項30】
歯髄覆罩用のセメントの調製のための請求項5〜26のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項31】
穿孔を修復するためのセメントの調製のための請求項5〜26のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項32】
歯根尖プラグを形成するためのセメントの調製のための請求項5〜26のいずれか1項に記載の組成物の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−542575(P2009−542575A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518925(P2009−518925)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001176
【国際公開番号】WO2008/006970
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509011396)
【Fターム(参考)】