説明

新規含ハロゲン化合物及びそれらの製造方法

【課題】 含フッ素ポリマーや医農薬の製造原料、及び半導体製造工程で使用されるプラズマ反応用ガスなどとして有用なパーフルオロアルキン化合物の前駆体である新規な含ハロゲンケトン化合物及び含ハロゲンアルケン化合物及び含ハロゲンアルカン化合物を高収率、高選択率で製造できる方法を提供することにある。
【解決手段】 ケトン化合物を出発原料として、塩素又は臭素又はヨウ素とを反応させることで新規含ハロゲンケトン化合物を得て、次いで、五塩化リンとの反応を行うことで新規含ハロゲンアルケン化合物及び新規含ハロゲンアルカン化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体製造分野で用いるドライエッチングガスやCVDガスとして有用であり、また、含フッ素ポリマーの原料としても有用なパーフルオロアルキン化合物の前駆体である新規含ハロゲンケトン化合物、新規含ハロゲンアルケン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキン化合物は、水素原子が完全にフッ素原子に置換され、かつ、炭素−炭素三重結合を有する炭化水素化合物であり、含フッ素ポリマーや医農薬の製造原料、及び半導体製造工程で使用されるプラズマ反応用ガスなどとして有用である。特にパーフルオロ−2−ペンチンなどの比較的低分子量のパーフルオロアルキン化合物は適度な沸点を有し、取り扱い易いので利用価値が高く、その工業的な製造方法の確立が求められている。
【0003】
特許文献1においては、2,3−ジヒドロデカフルオロペンタンを出発原料に、アルカリ存在下、200℃で脱フッ化水素反応を行うことにより、目的物であるパーフルオロ−2−ペンチンを得ている。しかしながら、出発原料に用いた2,3−ジヒドロデカフルオロペンタンは大気中の寿命が17年、地球温暖化係数GWPが1300(100年積算)と高く、地球環境に及ぼす影響を指摘する声が大きくなってきており、将来に渡って使用できるものか不安を抱えている物質である。また、高温を要する反応であるため副生成物が多く、結果としてパーフルオロ−2−ペンチンの収率は30%程度であるのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−146917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のパーフルオロアルキン化合物を効率的に合成するために有用な前駆体である新規含ハロゲンケトン化合物、新規含ハロゲンアルケン化合物とこれら新規化合物を高収率、高選択率で製造できる方法を提供することにある。
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種のケトン化合物を出発原料として、塩素、臭素又はヨウ素とを反応させることで前記新規含ハロゲンケトン化合物を得て、次いで、これに五塩化リンとの反応を行うことで新規含ハロゲンアルケン化合物及び新規含ハロゲンアルカン化合物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の新規含ハロゲンアルケン化合物及び新規含ハロゲンアルカン化合物はフッ素化触媒存在下、フッ化水素と反応させ、さらに、得られた生成物をアルカリ水溶液と反応させることにより生産性良く、高収率でパーフルオロアルキン化合物を得ることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、次の3つの新規化合物が提供される。
(1)下記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物。
一般式A:CFCOCH(CXCX
(一般式A中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
(2)下記一般式Bで表される含ハロゲンアルケン化合物。
一般式B:CFCCl=CH(CXCX
(一般式B中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
(3)下記一般式Cで表される含ハロゲンアルカン化合物。
一般式C:CFCClCH(CXCX
(一般式C中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
また、本発明によれば、前記(1)の新規な含ハロゲンケトン化合物を製造する方法として、下記一般式Dで表されるケトン化合物と塩素、臭素又はヨウ素とを反応させる方法が提供される。
一般式D:CFCOCH(CHCH
(一般式D中、nは0〜5である。)
更に、本発明によれば、前記(2)の新規な含ハロゲンアルケン化合物及び前記(3)の含ハロゲンアルカン化合物の製造方法として、前記新規な含ハロゲンケトン化合物と五塩化リンとを反応させる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明の一般式Aで表される化合物とその製造方法について説明する。
前記一般式Aで表される化合物は、含ハロゲンケトン化合物であり、一般式A中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子である。また、nは0〜5であり、好ましくは0〜2、より好ましくは1である。
具体的な含ハロゲンケトン化合物としては、例えば、4,4,4−トリクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキサノン、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ウンデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノナノンなどの含塩素ケトン化合物類;
【0009】
4,4,4−トリブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、4,4,5,5,5−ペンタブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキサノン、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ウンデカブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノナノンなどの含臭素ケトン化合物類;
【0010】
1,1,1−トリフルオロ−4,4,4−トリヨード−2−ブタノン、1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,5−ペンタヨード−2−ペンタノン、1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,6,6,6−ヘプタヨード−2−ヘキサノン、1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナヨード−2−ヘプタノン、1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ウンデカヨード−2−オクタノン、1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカヨード−2−ノナノンなどの含ヨウ素ケトン化合物類が挙げられる。
【0011】
これらの中でも、4,4,4−トリクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキサノン、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ウンデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノン、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノナノンのようなXが塩素原子のものが好ましく、nが1である4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノンが更に好ましい。
【0012】
本発明の一般式Aは、前記一般式Dで表されるケトン化合物に塩素、臭素又はヨウ素を反応させることにより得られる。
一般式Dで表されるケトン化合物の具体例は、1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキサノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノン、1,1,1−トリフルオロ−2−ノナノンである。入手方法は特に限定されず、市販のものを用いても良いし、公知の方法、例えば、J.Org.Chem.,52(22),5026−5030(1987)に記載されている、1,1,1−トリフルオロ−2−オクタノンはトリフルオロ酢酸エチルをマグネシウムと1−ブロモヘキサン存在下、Grignard反応を行うことにより容易に製造することもできる。
【0013】
塩素、臭素又はヨウ素の入手方法は特に限定されず、市販されているものを用いることができる。塩素、臭素又はヨウ素の使用量は一般式Dで表されるケトン化合物のモル数に対し、通常5〜40当量、好ましくは5〜20当量、さらに好ましくは5〜10当量である。
【0014】
一般式Dで表されるケトン化合物に塩素、臭素又はヨウ素を反応させる時の反応温度は、通常0〜150℃であり、好ましくは20〜120℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅すぎて実用的ではない。また、反応温度が高すぎると、望ましくない副生成物が生成する傾向がある。
一般式Dで表されるケトン化合物と、塩素、臭素又はヨウ素との反応は、溶媒の存在下で行っても、無溶媒で行ってもよいが、反応収率向上の観点から無溶媒で行うことが好ましい。
反応溶媒を用いる場合は、ハロゲン化反応に悪影響を及ぼすものでなければ特に限定されない。塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素及び1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン系溶媒が好ましく、四塩化炭素が特に好ましい。
また、その使用量は、反応速度及び反応収率の観点から、前記一般式Dで表されるケトン化合物に対して通常0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍、より好ましくは1.5〜5倍が好ましい。
【0015】
ハロゲン化反応を促進させるために、水銀ランプにより紫外光を照射させてもよい。水銀ランプは高圧水銀ランプでもよいし、低圧水銀ランプでもよい。
また、ハロゲン化反応を促進させるために、ルイス酸等の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化アンチモン、塩化亜鉛、塩化スズ、臭化アルミニウム、臭化鉄、臭化アンチモン、臭化亜鉛、臭化スズを使用することができる。それらの添加量は通常前記一般式Dのケトン化合物に対して通常0.001〜0.3当量、好ましくは0.01〜0.2当量である。
【0016】
反応終了後、通常の有機合成で使用されている手法によって反応液から目的物を分離、精製することができる。例えば、溶解しているハロゲンガスもしくはハロゲン化水素を取り除くために、反応液に水もしくは炭酸ナトリウム水溶液もしくはチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えてよく撹拌し、分取した有機層を水で洗浄し、次に、無水硫酸ナトリウム等の乾燥剤で乾燥した後、減圧下により蒸留することにより、目的物を得ることができる。また、抽出操作をせずに直接蒸留により目的物を得ることもできる。
【0017】
次に、本発明の前記一般式Bの化合物及び前記一般式Cの化合物とそれらの製造方法について説明する。
前記一般式Bで表される化合物は、含ハロゲンアルケン化合物であり、一般式B中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子である。また、nは0〜5であり、好ましくは0〜2、より好ましくは1である。
具体的な含ハロゲンアルケン化合物としては、例えば、2,4,4,4−テトラクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブテン、2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテン、2,4,4,5,5,6,6,6−オクタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキセン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−デカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ドデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノネンなどの含塩素アルケン化合物類;
【0018】
2,4,4,4−テトラブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブテン、2,4,4,5,5,5−ヘキサブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテン、2,4,4,5,5,6,6,6−オクタブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキセン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−デカブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ドデカブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカブロモ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノネンなどの含臭素アルケン化合物類;
【0019】
1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,4−テトラヨード−2−ブテン、1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,5,5,5−ヘキサヨード−2−ペンテン、1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,5,5,6,6,6−オクタヨード−2−ヘキセン、1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−デカヨード−2−ヘプテン、1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ドデカヨード−2−オクテン、1,1,1−トリフルオロ−2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカヨード−2−ノネンなどの含ヨウ素アルケン化合物類である。
【0020】
これらの中でも、2,4,4,4−テトラクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブテン、2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテン、2,4,4,5,5,6,6,6−オクタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘキセン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−デカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ヘプテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ドデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−オクテン、2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ノネンのようなXが塩素原子のものが好ましく、nが1である2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテンが更に好ましい。
【0021】
前記一般式Cで表される化合物は、含ハロゲンアルカン化合物であり、一般式C中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子である。また、nは0〜5であり、好ましくは0〜2、より好ましくは1である。
具体的な含ハロゲンアルカン化合物としては、例えば、2,2,4,4,4−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロブタン、2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタン、2,2,4,4,5,5,6,6,6−ノナクロロ−1,1,1−トリフルオロヘキサン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ウンデカクロロ−1,1,1−トリフルオロヘプタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカクロロ−1,1,1−トリフルオロオクタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカクロロ−1,1,1−トリフルオロノナンなどの含塩素アルカン化合物類;
【0022】
2,2,4,4,4−ペンタブロモ−1,1,1−トリフルオロブタン、2,2,4,4,5,5,5−ヘプタブロモ−1,1,1−トリフルオロペンタン、2,2,4,4,5,5,6,6,6−ノナブロモ−1,1,1−トリフルオロヘキサン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ウンデカブロモ−1,1,1−トリフルオロヘプタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカブロモ−1,1,1−トリフルオロオクタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカブロモ−1,1,1−トリフルオロノナンなどの含臭素アルカン化合物類;
【0023】
1,1,1−トリフルオロ2,2,4,4,4−ペンタヨードブタン、1,1,1−トリフルオロ−2,2,4,4,5,5,5−ヘプタヨードペンタン、1,1,1−トリフルオロ−2,2,4,4,5,5,6,6,6−ノナヨードヘキサン、1,1,1−トリフルオロ−2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ウンデカヨードヘプタン、1,1,1−トリフルオロ−2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカヨードオクタン、1,1,1−トリフルオロ−2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカヨードノナンなどの含ヨウ素アルカン化合物類である。
【0024】
これらの中でも、2,2,4,4,4−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロブタン、2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタン、2,2,4,4,5,5,6,6,6−ノナクロロ−1,1,1−トリフルオロヘキサン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ウンデカクロロ−1,1,1−トリフルオロヘプタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカクロロ−1,1,1−トリフルオロオクタン、2,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカクロロ−1,1,1−トリフルオロノナンのようなXが塩素原子のものが好ましく、nが1である2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタンが更に好ましい。
【0025】
前記一般式Bで表される含ハロゲンアルケン化合物と、前記一般式Cで表される含ハロゲンアルカン化合物とは、前記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物と五酸化リンとを反応させることにより得られる。
五塩化リンの入手方法は特に限定されず、市販されているものを用いることができる。五塩化リンの使用量は、一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物のモル数に対し、通常1〜3当量、好ましくは1.5〜2当量である。
前記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物と、五酸化リンとを反応させる時の反応温度は、通常0〜200℃であり、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは120〜180℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅すぎて実用的ではない。また、反応温度が高すぎると、望ましくない副生成物が生成する傾向がある。
【0026】
前記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物と、五酸化リンとの反応は、溶媒の存在下で行っても、無溶媒で行ってもよいが、反応収率向上の観点から溶媒の存在下で行うことが好ましい。反応溶媒を用いる場合は、塩素化反応に悪影響を及ぼすものでなければ特に限定されない。ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンが好ましく、クロロベンゼンが特に好ましい。反応溶媒の使用量は、反応速度及び反応収率の観点から、前記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物に対して通常0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍、より好ましくは1.5〜5倍が好ましい。
【0027】
反応終了後、通常の有機合成で使用されている手法によって反応液から目的物を分離、精製することができる。例えば、過剰の五塩化リンや副生するオキシ塩化リンを取り除くために、反応液に水もしくは飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてよく撹拌し、分取した有機層を水で洗浄する。次に、無水硫酸ナトリウム等の乾燥剤で乾燥した後、減圧下により蒸留することにより、目的物を得ることができる。
【0028】
このようにして得られる含ハロゲンアルケン化合物と含ハロゲンアルカン化合物に、フッ化水素を、フッ素化触媒存在下で反応させることにより、一般式E:CFCCl=CH(CFCF(一般式E中、nは0〜5である。)で表される含フッ素アルケン化合物が得られる。この化合物を水中で水酸化カリウムなどのアルカリ化合物と接触させるなどの方法で脱塩酸反応させることで、半導体製造分野で用いるドライエッチングガスやCVDガスとして有用であり、また、含フッ素ポリマーの原料としても有用なパーフルオロアルキン化合物が得られる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りが無い限り、実施例中の「部」は「重量部」を意味する。
【0030】
反応生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)法及びガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)法及び核磁気共鳴分光(NMR)法で行った。
<GC測定条件>
装置:ヒューレットパッカード社製ガスクロマトグラフ質量分析計「HP6890」
カラム:ジーエルサイエンス社製Inert Cap1(登録商標)、長さ60m、内径250μm、膜厚1.50μm
インジェクション温度:150℃
ディテクター温度:250℃
キャリアーガス:窒素(53.0mL/分)
メイクアップガス:窒素(30mL/分)、水素(50mL/分)、空気(400mL/分)
スプリット比:100/1
昇温プログラム:(1)100℃で10分保持、(2)40℃/分で昇温、(3)250℃で26.25分保持。
【0031】
<GC−MS測定条件>
装置:ヒューレットパッカード社製ガスクロマトグラフ質量分析計「HP6890」
カラム:フロンティア・ラボ社製Ultra ALLOY(登録商標)−1(s)、長さ30m、内径250μm、膜厚1.50μm
インジェクション温度:150℃
キャリアーガス:ヘリウム(282mL/分)
スプリット比:170/1
昇温プログラム:(1)40℃で20分保持、(2)40℃/分で昇温、(3)250℃で15.00分保持。
【0032】
<NMR測定条件>
装置:日本電子社製核磁気共鳴装置「JNM−ECA400型」
【0033】
(実施例1)4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノンの製造
攪拌子、温度計、デュワー瓶型トラップ(ドライアイス−エタノール:−78℃)、水トラップ×3つ、10%水酸化ナトリウム水溶液トラップを備えた反応器に1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン(151.8部)を入れ、窒素パージを0.01L/分で30分間行った。反応溶液を20〜70℃に保ちながら、500Wの水銀ランプで紫外光を照射下、流速0.01〜0.05L/分で塩素を30時間かけて導入した。反応終了後、窒素パージを0.1L/分で1時間行い、過剰の塩素ガスを除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1000部)を加えた。反応溶液を中和後、硫酸マグネシウムを50部加え、反応溶液を乾燥した。
【0034】
得られた粗生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的物である4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン(29.42%)及び3,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノン(25.84%)とその他の不純物の混合物であった。
【0035】
粗生成物を減圧蒸留することにより、収率18%で4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノンを57.4部得た。
【0036】
4,4,5,5,5−ペンタクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンタノンのスペクトルデータ
H−NMR(TMS,CDCl)δ4.07(s,2H,COCCCl
19F−NMR(CDCl) −78.95(s,3F,CCOCH
13C−NMR(CDCl) 182.39−183.13,110.58−119.30,104.37,91.44,46.73
GC/MS:m/e 241,243,245,247,249,251(CClO);193,195,197(CClO);143,147,149(CCl);117,119,121,123(CCl);97(CO);69(CF
【0037】
(実施例2)2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテン及び2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタンの製造
攪拌子、温度計、ジムロート型コンデサー、10%水酸化ナトリウム水溶液トラップを備えた反応器に五塩化リン(30部)、クロロベンゼン(50部)及び1,1,1−トリフルオロ−4,4,5,5,5−ペンタクロロ−2−ペンタノン(30部)を仕込んだ。ジムロート型コンデンサーには−10℃の冷媒を循環させた。攪拌しながら反応溶液を130℃に加熱し、同温度を維持しながら8時間攪拌を継続した。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100部)を加えた。反応溶液を中和後、硫酸マグネシウムを50部加え、反応溶液を乾燥した。
【0038】
得られた粗生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、クロロベンゼン(87.06%)と目的物である2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテン(6.05%)及び2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタン(3.17%)とその他の不純物の混合物であった。
【0039】
粗生成物を減圧蒸留することにより2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテンと2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタンとを得た。
【0040】
2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテンのスペクトルデータ
H−NMR(TMS,CDCl)δ7.24(s,1H,CFCCl=C
19F−NMR(CDCl) −69.66(s,3F,CCCl=CH)
GC/MS:m/e 293,295,297,299,231(CHCl);211,213,215,217(CHCl);164,166,168,170(CCl);129,131(CHClF);117,119,121,123(CCl);69(CF
【0041】
2,2,4,4,5,5,5−ヘプタクロロ−1,1,1−トリフルオロペンタンのスペクトルデータ
H−NMR(TMS,CDCl)δ3.59(s,2H,CFCCl
19F−NMR(CDCl) −80.11(s,3F,CCCl
GC/MS:m/e 329,331,333,335(CCl);293,295,297,299(CHCl);247,249,251,253,255(CCl);199,201,203,205(CCl);151,153,155(CCl);117,119,121,123(CCl),69(CF
【0042】
(調製例1)
東洋カルゴン社製椰子殻破砕炭100g(製品名「PCB」;4×10メッシュ)を純水150gに浸漬し、別途40gの特級試薬CrCl・6HOを100gの純水に溶かし調製した溶液と混合攪拌し、一昼夜放置した。次に濾過して活性炭を取り出し、電気炉中で200℃に保ち、2時間焼成する。得られたクロム担持活性炭を、電気炉を備えた直径5cm長さ30cmの円筒形SUS316L製反応管に充填し、窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、水の流出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させその濃度を徐々に高める。充填されたクロム担持活性炭へのフッ化水素の吸着によるホットスポットが反応管出口端に達したところで反応器温度を400℃に上げ、その状態を2時間保ち触媒の調製を行う。
【0043】
(参考例1)
電気炉を備えた円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316L製、直径1インチ、長さ30cm)に気相フッ素化触媒として調製例1で調製した触媒を150部充填する。約100部/10分の流量で窒素ガスを流しながら反応管の温度を200℃に上げ、フッ化水素を約0.10部/分の速度で窒素ガスに同伴させる。そのまま反応管の温度を500℃まで昇温し1時間保つ。次に反応管の温度を400℃に下げ、フッ化水素を0.15部/分の供給速度とし、2,4,4,5,5,5−ヘキサクロロ−1,1,1−トリフルオロ−2−ペンテンを予め気化させて0.06部/分の速度で反応器へ供給開始する。
【0044】
反応開始1時間後には反応は安定するので、その時から2時間にわたって、反応器から流出する生成ガスを水中に吹き込み酸性ガスを除去した後、ドライアイスとアセトン浴に浸したガラス製トラップ内に、2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンとその他の不純物の混合物を捕集する。
【0045】
(参考例2)水素化ホウ素ナトリウムを使った2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンの製造
攪拌子、温度計、ドライアイス−エタノールトラップ(−78℃)を備えた反応器に2,3−ジクロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(750部)とジエチレングリコールジメチルエーテル(600部)を入れた。反応溶液を0℃に保ちながら、ジエチレングリコールジメチルエーテル(1400部)に溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(95部)をゆっくりと滴下した。同温度を維持しながら4時間攪拌をした。反応終了後、同温度を維持しながら減圧蒸留(10mmHg)によりを2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン及びその他不純物を403部得た。
【0046】
得られた粗生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、目的物である2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(0.64%)と3−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(4.96%)とジエチレングリコールジメチルエーテル(89.83%)及びその他不純物の混合物であった。
【0047】
粗生成物を常圧蒸留することにより、2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンを26.3%、3−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンを73.7%含む混合物122部得た。
【0048】
(粗生成物の重量)×(ガスクロマトグラフィーによって測定される面積%)=目的物の重量とすると2,3−ジクロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンから2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンの収率は5%であった。
【0049】
2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンのスペクトルデータ:この化合物のNMRスペクトルは混合物のスペクトルから既知である3−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンの差スペクトルから得た。
H−NMR(TMS,CDCl)δ6.35(t,1H,J=7.1,CFCCl=CCF
19F−NMR(CDCl) −63.75(s,3F,CCCl=CH)、−85.46(m,3F,CF)、−110.00(m,2F,CCF
GC/MS:m/e248,250(CHClF)、229,231(CHClF)、179,181(CHClF)、129,131(CHClF
【0050】
(参考例3)パーフルオロ−2−ペンチンの製造
攪拌子、温度計、ジムロート型コンデサーを備えた反応器に85%水酸化カリウム(160部)及び水(160部)を仕込んだ。ジムロート型コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させた。攪拌しながら反応溶液を150℃に加熱し、反応溶液の温度が150℃に到達した後、参考例2で得た2−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンと3−クロロ−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンの混合物(100部)をゆっくりと滴下しながら、同温度を維持し、30時間反応を継続した。得られた生成物は−78℃に冷却したガラストラップに捕集した。ガラストラップに捕集した生成物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物であるパーフルオロ−2−ペンチンが67.4部、収率79%で得られた。得られたパーフルオロ−2−ペンチンのNMR分析とGC−MS分析を行った。以下にデータを示す。
【0051】
パーフルオロ−2−ペンチンのスペクトルデータ
19F−NMR(CDCl) −54.1(s,3F,CC≡C)、−86.0(m,3F,CF)、−106.4(m,2F,CCF
13C−NMR(CDCl) 72.18、77.31、105.4、113.9、118.4
GC/MS:m/e 193(C)、143(C)、124(C)、105(C)、93(C)、74(C)、69(CF)55(CF)、31(CF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Aで表される含ハロゲンケトン化合物。
一般式A:CFCOCH(CXCX
(一般式A中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
【請求項2】
下記一般式Bで表される含ハロゲンアルケン化合物。
一般式B:CFCCl=CH(CXCX
(一般式B中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
【請求項3】
下記一般式Cで表される含ハロゲンアルカン化合物。
一般式C:CFCClCH(CXCX
(一般式C中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、nは0〜5である。)
【請求項4】
下記一般式Dで表されるケトン化合物と塩素、臭素又はヨウ素とを反応させる前記請求項1に記載した含ハロゲンケトン化合物の製造方法。
一般式D:CFCOCH(CHCH
(一般式D中、nは0〜5である。)
【請求項5】
請求項1記載の含ハロゲンケトン化合物と五塩化リンとを反応させる請求項2記載の含ハロゲンアルケン化合物、及び/又は、請求項3記載の含ハロゲンアルカン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−269892(P2009−269892A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124376(P2008−124376)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】