説明

新規酵母およびそれを用いたエタノールの製造法

【課題】
リグノセルロース系バイオマスの加水分解された糖化液に含まれる6炭糖、5炭糖を効率よくエタノールに変換する新規酵母およびそれを用いたエタノール製造方法の提供
【解決手段】
ピキア スティピティス(Pichia stipitis)NBRC1687に由来し、8%エタノール存在下で生育可能であり、かつ親株よりエタノール生産能が高いピキア スティピティスを用いることを特徴とするエタノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを高生産する新規酵母およびそれを用いたエタノール製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エタノールは、自動車用のガソリン燃料に添加できる理想的な燃料である。バイオマスから製造されるエタノールは、二酸化炭素の排出削減に直結するガソリン添加剤であるため、間伐材などの木質系バイオマスや稲わらなどの草本系バイオマスなどからのエタノール製造方法が求められている。現状では、エタノール製造のために使用されている原料は、サトウキビまたはビートなどの糖類やトウモロコシまたは他の食用作物の澱粉が主流である。これらの農業資源作物は非常に高価であるため、エタノールの大規模製造用の原料として使用することは難しい。
【0003】
間伐材などの木質系バイオマスや稲わらなどの草本系バイオマスは、低価格で大量に入手できる再生可能な原料であるため低コストでのバイオエタノール生産の原料として期待される。これらバイオマスの成分であるセルロースとヘミセルロースを構成する主要な発酵糖類はグルコースなどの6炭糖とキシロースなどの5炭糖である。しかし、現在までグルコースとキシロースの両方を効率的にエタノールへ変換できる単一の微生物は知られていない。グルコースを効率よくエタノール変換できる酵母としてサッカロマイセス(Saccharomyces)が良く知られているが、キシロースなどの5炭糖をエタノールに変換することは出来ない。一方、自然界より見出された酵母であるピキア・スティピティス(Pichia stipitis)およびキャンディダ・シハタエ(Candida shihatae)は、好気的に生育のためにキシロースを利用することが出来、さらにキシロースをエタノールへ変換することができる。しかし、これら酵母のエタノール変換効率は低く、エタノール耐性も低い。また、グルコースの発酵効率も低い。近年、遺伝子組換え技術によって、サッカロマイセス・セルビシエ(S. cereviseae)を遺伝的に改良してキシロースをエタノールへ変換できる酵母の作成が試みられている。
【0004】
Koetterらは、キシロースレダクターゼとキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の両方をサッカロマイセス・セルビシエS. cereviseaeにクローニングした。しかし、この酵母は2%以上のキシロースを発酵することが出来なかった。さらに大量のキシリトールを蓄積する。また、キシロースを発酵できる遺伝子組換えされた大腸菌(ATCC55124)やザイモモナス(Zymomonus)などが作出されている(特許文献1、2)。しかし、大腸菌のアルコール耐性の低さから5%以上のエタノールを生産することができない。さらに遺伝子組換え菌は、自然界に存在しない菌の為、外界に菌が漏出しないようにするための装置を装備する必要があるためコストが高くなってしまう。今だ、グルコースとキシロースの両方をエタノールへ効率的に変換できる酵母の作出に成功していない。従って、グルコースとキシロースから効率よくエタノールを変換する自然界に存在する酵母、並びにその製造および使用方法の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平5-502366号公報
【特許文献2】特開平6-504436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、自然界より見出されたグルコースとキシロースをエタノールへ変換できる酵母を変異処理を行なうことで、高生産できる酵母を作出し、それを用いたエタノール生産方法を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、酵母について変異処理を行なうことで、従来の酵母に比べてキシロースからエタノールを高生産する酵母を取得するに至った。また、この方法で取得した酵母を使用することにより木質系バイオマスと草本系バイオマスからエタノールを生産できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)「NBRC1687」を親株とし、親株よりもエタノール生産能が優れているピキア・スティピティス(Pichia stipitis)(NITE P−598)である。
請求項2記載の本発明は、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)を用いることを特徴とする、木質系バイオマスと草本系バイオマスからエタノールを製造する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、エタノール生産量が約1.5倍高く、発酵能が維持された酵母を提供することが出来る。本酵母を使用することにより木質系バイオマスと草本系バイオマスからのエタノール製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明を詳細に説明する。
本発明に係る酵母は、グルコースなどの6炭糖とキシロースなどの5炭糖を含む液からエタノールを製造する方法に用いられる。本発明に係る酵母は、以下に示す方法によって取得することが出来る。
【0011】
まず、独立行政法人 製品評価技術基盤機構に保存されている酵母を親株として、変異誘発により変異株を取得する。変異誘発剤は特に限定するものではなく、紫外線やエチルメタンスルホン酸による処理など公知の方法を利用できる。
上記変異株をエタノールを含むYPX寒天培地(キシロース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール10%、寒天2%)の培地に塗布し、28℃で3日間培養した後、コロニーを形成した株を取得する。
【0012】
次に得られた株をエタノールを含むYPX液体培地(キシロース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール2%)に1白金耳を植菌し28℃で2日間の振盪培養を行い、生育した酵母1mlをエタノール濃度を3%に調整したYPX培地に植菌し、28℃で2日間の振盪培養を行う。以下、エタノール濃度を順次8%まで上げながら同様の操作を行い、エタノール耐性株を取得する。
【0013】
上記で選抜した株についてYPX液体培地(キシロース20%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)でエタノール生産試験を行い、親株よりもエタノール生産能が高い酵母を選抜する。
【0014】
このようにして、目的とする酵母を選抜し、これをピキア・スティピティス(Pichia stipitis) SS0702−16株と命名した。本菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物帰宅センターに寄託されており、その受託番号はNITE P−598である。
【0015】
本発明のエタノール高生産酵母を用いるエタノール製造は、基本的には通常のエタノール生産方法に従えばよい。特に本酵母の特性を発揮するには、グルコースなどの6炭糖とキシロースなどの5炭糖が混合している糖化液からエタノールを製造する場合に適している。製造条件は、温度が20℃から30℃、このましくは28℃が適当である。
【0016】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
(エタノール高生産酵母の作出)
独立行政法人 製品評価技術基盤機構に保存されているピキア・スティピティス(Pichia stipitis)5株からYPX液体培地より最もエタノール生産能の高い酵母NBRC1687を選抜し親株とした。この酵母を液体培地(キシロース2%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)で28℃、2日間、80rpmで振盪培養後、集菌し、蒸留水で2回洗浄をした。これを蒸留水に懸濁し、スターラーで攪拌しながら30cmの距離から紫外線照射を行なった。紫外線照射した菌体をYPX寒天培地(キシロース2%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、寒天2%)で28℃、7日間培養し、生育したコロニーをUV変異株として採取した。
生存率0.1%前後の時点のコロニーをUV変異株として採取して、得られた株をエタノールを含むYPX液体培地(キシロース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール4%)
次に得られた株をエタノールを含むYPX液体培地(キシロース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%、エタノール2%)に1白金耳を植菌し28℃で2日間の振盪培養を行い、生育した酵母1mlをエタノール濃度3%に調整したYPX培地に植菌し、28℃で2日間の振盪培養を行った。以下、エタノール濃度を順次8%まで上げながら同様の操作を行い、8%エタノール濃度で生育可能なエタノール耐性株を取得した。
【実施例2】
【0018】
親株とSS0702−16株をそれぞれ発酵用液体培地(グルコース10%、キシロース5%、ポリペプトン2%、酵母エキス1%)に植菌し、28℃、80rpmで振盪培養を行なった。図1にエタノール生産の経時変化を示した。明らかにSS0702−16株が親株よりグルコースとキシロースの取り込み速度が速くエタノールの生産量および発酵速度が速かった。
【実施例3】
【0019】
サトウキビの搾りかすをセルラーゼで糖化させ、得られた糖化液にSS0702−16株を植菌し28℃、80rpmで振盪培養を行なった。図2にエタノール生産の経時変化を示した。明らかにSS0702−16株が親株よりグルコースとキシロースの取り込み速度が速くエタノールの生産量および発酵速度が速かった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】YPX液体培地からのバイオエタノール生産の経時変化を示した図。
【図2】サトウキビ絞りかす糖化液からのバイオエタノール生産の経時変化を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピキア スティピティス(Pichia stipitis)NBRC1687に由来し、8%エタノール存在下で生育可能であり、かつ親株よりエタノール生産能が高いピキア スティピティス(Pichia stipitis)(NITE P−598)である。
【請求項2】
請求項1記載のピキア スティピティスを用いることを特徴とするエタノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−29099(P2010−29099A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194235(P2008−194235)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】