説明

新規香料物質及びその利用

【課題】 従来の香料組成物にはとらわれず、ムスク調の香りを有した新しい化合物を提供する。又、香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさが強化された芳香製品の芳香を改良又は増強する方法を提供する。
【解決手段】 新規化合物2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンを賦香成分として含有せしめた香料組成物は、各種芳香製品に香りの深み、力強さ、拡散性及び又は天然らしさを顕著に強化し、全く新しいタイプのムスク調芳香を有する。又、2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンを添加することにより、香りに深み、動物的な力強さ、拡散性、持続性、甘さ及び又は天然らしさが強化された芳香製品の芳香を改良又は増強する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、芳香製品の芳香を改良又は増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤、消毒剤、殺虫剤等の保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤等の分野においてはこれら商品の賦香剤として絶えず新しい基調となる香気が求められている。同時に、ニトロムスクの例のように、一部の物質において近年その使用が限定される化合物が見られことなどに起因する、より安全で有用性の高い物質の探索が行われてきている。ムスク系化合物に関していえば、ニトロムスクを欠いた調合品では出来上がる香りに限界があり、市場から要請される嗜好性の有る香り製品として消費者に訴えるには十分ではない。そこで、新しい香気を有した香りや、従来の組成物に少量添加するだけで、一段と香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化することができる新しいムスク系化合物の開発が要望されてきている。
【特許文献1】特開昭51−48653
【特許文献2】特開2004−210958
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明においては、ニトロムスクに代わり得る、従来の香料組成物に少量添加するだけで、香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び又は天然らしさを強化し、フレーグランス製品の芳香を改良又は増強することのできる芳香成分、及び芳香製品の芳香を改良又は増強する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記のような課題に応えるべく鋭意研究を行った結果、化2
【0005】
【化2】

【0006】
で表わされる新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンがアンバー的で僅かにベチバー様香気を伴った動物的なムスク香を有していることを見出すとともに、それらの香気的特徴だけでなく香気成分として含有せしめた香料組成物として用いる時、芳香組成物の香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性及び甘さを顕著に強化することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。即ち、本発明は、新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンに関し、又新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを賦香成分として含有する香料組成物であり、更には又、新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを添加することにより、フレーグランス製品の基礎香気に動物的な深み、力強さ、拡散性、持続性、甘さ及び又は天然らしさを強化することを特徴とする芳香製品の香気を改良又は増強する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明において提供される2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンは、文献未知の新規化合物である。本発明の方法により、新規化合物2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンを賦香成分として含有せしめた香料組成物は、従来常用されてきた基礎香料の香りに深み、動物的な力強さ、拡散性、甘さ、持続性及び又は天然らしさが顕著に強化され、全く新しいタイプのムスク調芳香も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において提供される2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンは、その調製方法を示す文献が存在しないだけでなく、その香気についても全く知られていない。したがって、比較的容易に合成可能ではあるが、これまでに香料組成物の有効成分として利用された実績は全くない。
本発明においては、上記化1で表される新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを、石鹸、シャンプー、リンス等の化粧品類、洗毛料、養毛料等の頭髪用化粧品類、クリーム、化粧水、オーデコロン、パック等の基礎化粧品類、おしろい、ファンデーション、頬紅等のメークアップ化粧品類、香水等の芳香化粧品類、日焼け、日焼け止め化粧品、口紅、リップクリーム等の口唇化粧品類、歯磨き、マウスウォッシュ等の口腔化粧品類、浴用化粧品等各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤等の芳香剤類、消毒剤、殺虫剤等の保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤又は洗濯用洗剤等に使用される通常の賦香剤組成物に適当量含有せしめても良く、或いはこれらの各種賦香剤が添加された各種化粧品類、防臭剤、室内芳香剤、保健衛生材料類、漂白剤、ソフトナー、食器洗い用洗剤、洗濯用洗剤等に賦香成分として直接添加混合してもよい。
【0009】
上記通常の賦香剤組成物が用いられる香りのタイプとしては、ミュゲタイプ、ムスクローズタイプ、グリーンフローラルタイプ、ベルガッモットタイプ等に、その用途はソープ用、芳香剤等何れに使用してもよく、これらに本発明の新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを適量添加、含有せしめることにより、既存香料の香りに、深み、力強さ、天然らしさ、拡散性及び又は甘みを与える新しい香りを発揮する。又、ジャスミンタイプ様芳香剤、フローラルブーケ等に添加したときには、香りに深みと拡散性を与え、且つそれぞれの持つ香りに一層天然らしさを強くする。
その添加料は、通常の賦香剤組成物中に0.1〜100重量%含有せしめる。
【0010】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンの製造
原料として用いる2−シクロペンタデセン−1−オンの合成法については特に制限はないが、たとえばジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー1971年、36巻、4124−4125頁(ビー・ディー・ムカジーら)に記載の方法などが利用できる。
還流冷却器、温度計、攪拌機を備えた1Lの四頚フラスコに112.8gの2−シクロペンタデセン−1−オン、30mLの6N苛性ソーダ水溶液、及び500mLのメタノールを入れる。攪拌しつつ室温で35%過酸化水素水148gを滴下して加える。滴下中僅かに発熱するので、水浴により40度以下に保つ。滴下終了後さらに7時間攪拌し、反応液を650mLの水に投入する。これを600mLのn−ヘキサンで2回抽出する。n−ヘキサン層を800mLの飽和食塩水で2回洗浄し中性とする。n−ヘキサン層を乾燥剤で乾燥した後、減圧下濃縮すると、80gの淡黄色油状物が得られる。
これを減圧下(5mmHg)に蒸留して、127℃から134℃の溜分として71.7gの結晶性物質を得る。これをさらにシリカゲル−カラムクロマト(n−ヘキサン:酢酸エチル=95:5)で精製し、ガスクロマトグラムによる純度測定で99%の白色結晶29.9g(融点58℃)を得た。
この結晶のNMR測定、IR測定、GC−MS測定を行った結果から、得られた結晶が2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンであることを確認した。
【0011】
H NMR(CDCl);δ 0.66−0.92(3,m)、1.07−1.62(20,m)、1.68−1.77(1,m)、1.79−2.01(2,m)、2.36−2.71(2,m)。
IR(CHCl);cm−12932、2860、1716、1464、1368。
GC−MS;m/z(相対値)238(3)、193(2),179(2),151(2)、98(21)、81(20)、67(33)、55(65)、41(100)。
【0012】
表1に示した基本組成を有するミュゲタイプ香料を処方し(対照区)、これに上に得られた2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オンを0.1部(試料A)、1部(試料B)、10部(試料C)夫々添加混合して、常法通り室内芳香剤用組成物を調製した。これらを専門パネラー10名に官能評価をさせ、得られた総合評価結果を表2に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
実施例2
表3に示した基本組成を有するムスクローズ香料を処方し(対照区)、これに2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オン(1)を0.1部(試料A)、10部(試料B)、100部(試料C)夫々添加混合して、ムスク調香料用ベースを調製した。これらを専門パネラー10名に官能評価をさせ、得られた総合評価結果を表4に示した。
【0016】
【表3】

【0017】
【表4】

【0018】
実施例3
表5に示した基本組成を有するグリーンフローラル香料を処方し(対照区)、これに2、3−エポキシシクロペンタデセン−1−オン(1)を50部添加混合して、シャンプー用香料組成物を調製した。
このものの香りは、対照のものに比べて自然でしっとりしたグリーンな感じが強調された。
【0019】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1
【化1】

で表わされる新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オン。
【請求項2】
請求項1に記載の新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを賦香成分として含有する香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを賦香成分として0.1〜100重量%含有する請求項2に記載の香料組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の新規化合物2、3−エポキシシクロペンダデセン−1−オンを添加することにより、フレーグランス製品の基礎香料の香りに動物的な力強さ、拡散性、持続性、甘さ及び又は天然らしさを付与することを特徴とする芳香製品の芳香を改良又は増強する方法。

【公開番号】特開2006−117585(P2006−117585A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307351(P2004−307351)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000241278)豊玉香料株式会社 (6)
【Fターム(参考)】