説明

方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉

【課題】竪型の誘導加熱炉による方向性電磁鋼板のスラブ加熱では、スラブ端部と誘導加熱炉壁との隙間が生じるとスラブの均熱加熱が困難となる。この加熱炉壁(加熱補助材)とスラブとの距離を適正に制御し、かつ、様々な長さのスラブサイズに柔軟に対応することことができる竪型誘導加熱炉を提供する。
【解決手段】スラブの一端面側または両端面側それぞれに端部の加熱補助材を備え、該加熱補助材は、対向面が傾斜面でかつ非対向面が平行になる一対の断熱材からなり、該断熱材の片方を炉壁内面に固定する一方、他方の断熱材の傾斜面を上記片方の断熱材の傾斜面に接したまま、上下に摺動運動可能として配置し、スラブ長さの変動に応じて、他方の断熱材を上下移動させることにより、該スラブ端面と該加熱補助材の間隔を調整する竪型誘導加熱炉とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉に関し、特にスラブ長さが変動した場合における加熱のばらつきを減らし、もってスラブの歩留り向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
一般に知られているように、方向性電磁鋼板の優れた磁気特性は、板面に(110)面、圧延方向に<001>軸の2次再結晶粒を、それぞれ最終焼鈍で優先して発達させることによって得られる。そのため、鋼中にインヒビターとよばれる微細な析出物、たとえば、MnS 、MnSe、 AlN などを均一に分散析出させることが重要であり、このインヒビターの分散形態のコントロールは、熱間圧延に先立つスラブ加熱中に、これらの析出物を一旦固溶させた後、熱間圧延時の冷却過程で行われる。
【0003】
このような目的で行われるスラブ加熱は、インヒビターを十分に固溶させるため、通常、竪型の誘導加熱炉にスラブを直立させた状態で 1300 ℃以上の高温に加熱して行なわれるが、その際、スラブの長さにばらつきがあると、誘導加熱炉内でのスラブ加熱にもばらつきが生じ、特にスラブ端部での温度が低下して、均一な加熱が阻害されるという問題があった。
【0004】
このため、誘導加熱によるスラブ全長にわたる均一加熱に関して、これまで多くの手段が提案されている。
例えば、特許文献1には、被加熱材(スラブ)端部を耐火断熱材で覆うようにした誘導加熱装置が提案されている。この誘導加熱装置は、被加熱材端部からの熱放散の防止を意図したものであるが、炉内空間が大きい場合、耐火断熱材背面からの炉内空間への放散熱が大きくなり、やはり加熱不足となる。加えて、被加熱材は誘導加熱効率を上げるため、予め1000℃〜1200℃に予備加熱されているので、被加熱部材を低温の耐火断熱材で覆うことになり、かえって温度むらを助長する結果となっていた。
【0005】
また、特許文献2には、加熱コイルの外側から、コ字形の鉄心をコ字先端が被加熱材端部の上部にくるように配設し、コ字先端に誘起磁束を集束させて被加熱材端部を加熱する誘導加熱装置が、また、特許文献3には、被加熱材の端部に近接して抵抗発熱体やラジアントチューブなどの発熱体を配設した誘導加熱装置が、それぞれ提案されているが、これらは、端部加熱補助装置である鉄心のコ字先端や発熱体の配設位置が固定されているため、スラブ長さがそれぞれの加熱炉の最適長さ(以下単に所定長さという)に対して、短く変動した場合には、スラブ端部の温度を安定して確保することができないという問題があった。
【0006】
上記した問題に対し、特許文献4には、耐火断熱材付の側壁を、上部に設置したレールを用いて移動可能とし、スラブ長さとの距離を調整する装置が提案され、また、特許文献5には、炉壁とスラブ端部との空間に断熱材を充填することで、加熱不足を防止する技術が提案されている。
【0007】
ここで、図1に、特許文献4に従う竪型誘導加熱炉の側断面図の一例を示す。図中、1は加熱コイル、2はスラブ材、2aはスラブ端部、3は耐火断熱材、4は天井断熱材、5は炉蓋、6スラブ支持台、7は可動耐火断熱材、8は支持棒、9は台車、10は車輪、11はレールである。
図1の可動耐火断熱材7は、支持棒8、台車9、車輪10、レール11によって、左右に移動することができ、この断熱材7を移動することで、スラブ端面2aと断熱材7との距離を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭52-47179号公報
【特許文献2】実公昭52−50447号公報
【特許文献3】実開昭61−39149号公報
【特許文献4】特開昭64−77894号公報
【特許文献5】特開平6−10052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した特許文献4に開示の技術は、可動耐火断熱材7の横方向の移動がレールを介したものであるため、可動耐火断熱材7の可動代に不可避的に存在する‘遊び’により、正確な距離の制御が難しくなり、結果的に、スラブ端部の温度にバラつきが生じると言う問題があった。さらに、誘導発熱板の熱変形や、炉壁断熱材の脱落による厚みむら、さらには長期間の使用による誘導発熱体の酸化に起因した発熱不足などにより、不均一加熱が生じるという問題も残っている。
また、特許文献5に開示された断熱材を充填する方法では、断熱材の大きさを、毎回選定する必要があり、様々な大きさのスラブサイズに柔軟に対応する点で難が残っている。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑み、スラブ長さの変動に起因したスラブ端部での温度低下を有利に解決するもので、加熱炉壁(加熱補助材)とスラブとの距離を適正に制御し、かつ、様々な長さのスラブサイズに柔軟に対応することことができる竪型誘導加熱炉を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、誘導加熱炉内に生じる隙間を、簡単にかつ正確に制御する方法につき検討した。
その結果、加熱補助材として、対向面が傾斜面からなる一対の断熱材を用い、この傾斜面を利用して、当該断熱材を上下移動させることで、従来のレールを利用した横方向の移動の際に懸念された‘遊び’を解消しつつ、スラブ端面と加熱補助材との隙間を調整することが可能となり、その結果、竪型誘導加熱炉におけるスラブの温度むらの発生を防止できることを見出した。
【0012】
つまり、所定長さに満たないスラブを加熱するに際し、スラブ端面に近接して傾斜面で接する一対の断熱材からなる加熱補助材を配置し、一方の断熱材を上下移動させることによって、加熱補助材のスラブ端面への近接、離隔移動を可能ならしめ、もって炉内空間の解消を図り、放熱量を減少させることで、スラブ端部での均一な加熱が達成できることが分かった。また、この装置によれば、上記した断熱材の脱落等による断熱性能の劣化にも、傾斜面を有する断熱材の挿入量を最適に調整することで十分対応可能であり、その結果、長期間の操業にも対応できることを併せて見出した。
本発明は上記知見に立脚するものである。
【0013】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
(1)方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉であって、該スラブの一端面側または両端面側それぞれに端部の加熱補助材を備え、該加熱補助材は、対向面が傾斜面でかつ非対向面が平行になる一対の断熱材からなり、該断熱材の片方を炉壁内面に固定する一方、他方の断熱材の傾斜面を上記片方の断熱材の傾斜面に接したまま、上下に摺動運動可能として配置し、スラブ長さの変動に応じて、他方の断熱材を上下移動させることにより、該スラブ端面と該加熱補助材の間隔を調整することを特徴とする方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉。
【0014】
(2)前記断熱材の傾斜角が10〜30度であることを特徴とする前記(1)に記載の方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘導加熱炉内に生じる隙間を簡単かつより正確に埋めることができるため、スラブ加熱時に懸念されたスラブ端部の温度低下を減じて均一な加熱を達成することができる。その結果、製品磁気特性の良好な部分を大幅に増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来法に従う竪型誘導加熱炉の側断面図である。
【図2】本発明に従う竪型誘導加熱炉の加熱補助材の近接離隔移動を示す断面図である。
【図3】本発明に従う竪型誘導加熱炉の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
図2に、加熱補助材の離隔時(同図a)、および近接時(同図b)の断面図を例示する。図中、21がスラブ、22が加熱補助材である。この加熱補助材22は、対向面が傾斜面でかつ非対向面が平行になる一対の断熱材22a、22bからなり、この例では、スラブ21の両端面側それぞれに配置している。なお、22cは上下駆動させる機能を有する支持棒、23は誘導加熱炉の側壁である。この加熱補助材22は、上記した断熱材22bの非対向面を炉壁23に固定する一方、対になっている断熱材22aの傾斜面を断熱材22bに接したまま、上下に摺動運動可能として配置されている。
【0018】
本発明では、スラブ端面に近接する加熱補助材が傾斜面を利用して、離隔(同図a)、近接(同図b)できることが最大の特徴である。傾斜面を利用することで、実質的に長手方向に遊びのない移動が可能となるため、スラブ端面の加熱にバラツキがなくなる。
この傾斜面については、特に制限はないが、傾斜角が10〜30度の範囲であれば、本発明の加熱補助材として好適に使用できる。
【0019】
本発明で使用する断熱材としては、放熱量の観点から、加熱炉側壁と同等の材質とすることが好ましく、その長さは、スラブ長さと同等かまたはそれ以上とすることが好ましい。
【0020】
つぎに、図3に、本発明に従う竪型誘導加熱炉を側断面図で示す。なお、同図において、24は誘導加熱炉の天井、25は炉床である。
【0021】
本発明に従う電磁鋼板用スラブの誘導加熱炉において、その基本構造、加熱設備、断熱材の材質、その他補助設備は、特に制限はなく、従来公知のものいずれもが適合する。
【0022】
以上、スラブ21を中央部に配置して、その両端部に加熱補助材22をそれぞれ配置した場合について例示したが、本発明はこれだけに限るものではなく加熱補助材22をスラブ21の端面側に配置する場合も、本発明に含まれることは言うまでもない。
【実施例】
【0023】
質量%で、C:0.060%、Si:3.24%、Mn:0.07%、S:0.003%、Se:0.015%、Al:0.023%、N:0.085%、Sb:0.012%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成になる電磁鋼板用連鋳スラブ (スラブ厚:200mm )で、スラブ長さが9mのスラブを2本用意した。
【0024】
これらのうちの1本を従来の堅型誘導加熱炉(加熱補助材22がないもの)に装入して、1430℃、20分間の加熱を行った。なお、この堅型誘導加熱炉における所定長さは10mである。また、もう一方のスラブについては、本発明に従う堅型誘導加熱炉に装入して、1430℃、20分間の加熱を行った。この際、加熱補助材22を調整して、スラブの両端面とも加熱補助材22とスラブの端面21aとのギャップが5cmとなるように調整した。
その結果、従来炉ではスラブ端部に30℃の温度低下が見られたが、本発明に従う炉では10℃程度の低下しか見られなかった。
【0025】
以上のように、堅型誘導加熱炉による加熱を行った後、熱延により板厚:2.5 mmの熱延板とした。その後1次冷延で板厚:0.7 mmとして、中間焼鈍を行ってから2次冷延により0.23mmの製品板厚とした。ついで、脱炭焼鈍を行ったのち、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行った。かくして得られた製品鋼板について、鋼板の鉄損が、中央部に対して0.05W/kg以上低下したところを不良として、歩留りを調査した。
【0026】
調査の結果、従来炉で製造した方向性電磁鋼板の歩留りは、97%であったのに対し、本発明に従う堅型誘導加熱炉を用いて製造した方向性電磁鋼板の歩留まりは99.5%であり、従来に比べて歩留りが格段に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の堅型誘導加熱炉では、スラブ端部での温度降下を防止して、スラブ全長にわたった均一加熱を達成することができ、もってスラブ歩留りの大幅な向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 加熱コイル
2 スラブ材
2a スラブ材端部
3 耐火断熱材
4 天井断熱材
5 炉蓋
6 スラブ支持台
7 可動耐火断熱材
8 支持棒
9 台車
10 車輪
11 レール
21 スラブ
21a スラブ端部
22 加熱補助材
22a 断熱材(スラブ側)
22b 断熱材(炉壁側)
22c 支持棒
23 側壁
24 天井
25 炉床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉であって、該スラブの一端面側または両端面側それぞれに端部の加熱補助材を備え、該加熱補助材は、対向面が傾斜面でかつ非対向面が平行になる一対の断熱材からなり、該断熱材の片方を炉壁内面に固定する一方、他方の断熱材の傾斜面を上記片方の断熱材の傾斜面に接したまま、上下に摺動運動可能として配置し、スラブ長さの変動に応じて、他方の断熱材を上下移動させることにより、該スラブ端面と該加熱補助材の間隔を調整することを特徴とする方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉。
【請求項2】
前記断熱材の傾斜角が10〜30度であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板用スラブの竪型誘導加熱炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−275604(P2010−275604A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130468(P2009−130468)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】