説明

方向推定装置及び方向推定方法

【課題】1次元配置であるリニアアレイアンテナを用いて360°方向の方向推定を行うことができるようにする。
【解決手段】少なくとも1本の指向性アンテナ素子を導入した構成のリニアアレイアンテナにおいて到来方向を推定する際に、第1の方向推定手段で指向性アンテナ素子の受信信号を使用して第1の方向推定を行い、第2の方向推定手段ではリニアアレイアンテナの全体の受信信号を使用して第2の方向推定を行い、さらに、第1の方向推定結果に基づいて、第2の方向推定で得られる2つの推定方向結果から最終的な方向推定を選択するようにして、サブアレイを配置して2次元的な広がりを持たせることなく360°方向の方向推定を行うことができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は方向推定装置及び方向推定方法に関し、特に、リニアアレイアンテナで電波の到来方向を推定するために用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リニアアレイアンテナで電波の到来方向を推定する場合には、アレイアンテナのブロードサイド方向について虚像が発生する問題がある。この様子を図8に示す。図8は無指向性アンテナ素子601が直線状に並んでいる様子をアンテナ素子の上側から見た模式図であり、602は無指向性アンテナ素子の利得方向を示す。
【0003】
図8で、第1の方向aから電波が到来した場合、各アンテナ素子の受信信号を元に到来方向を推定すると、推定結果は第1の方向aとアレイ配列について線対称である第2の方向bの2つが得られる。
【0004】
これは、第1の方向aの方向から電波が到来した場合でも第2の方向bの方向から電波が到来した場合でも、各アンテナ素子の強度・位相といった受信信号が同じになるため、第1の方向aと第2の方向bの方向を判別できないことにより生じる。
【0005】
このように、リニアアレイアンテナで電波の到来方向を推定する場合には、アレイの直線を軸にした線対称の方位に虚像が発生してしまうため、180°の範囲でしか到来方向を推定できない問題点があった。
【0006】
したがって、アレイアンテナで360°方向の方向推定を行う場合には、アレイを円形配置やサブアレイを有する構造などにして、2次元的な広がりを持って配置することが行われてきた。例えば、特許文献1にて提案されている「アレイアンテナ」は、円形にアンテナ素子を配置して360°方向からの到来方向を推定する装置の例である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−101339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アレイを2次元配置すると、1次元配置であるリニアアレイアンテナよりもアンテナの形状が大きくなってしまう。アンテナの形状が大きくなることは、設置上の制約が多くなり不便である。
【0009】
最近は、無線LANなどの近距離無線の普及に伴い、室内などの限られた空間で到来方向を推定することや、携帯端末などに電波の到来方向の推定機能を搭載する要望は今後さらに増加していくものと考えられる。そのような場合に、容積が大きくなる2次元配列のアレイアンテナを使用することは困難である。その一方で、ビームフォーミングが行えるアレイアンテナの使用用途は広く、小型でありながら360°方向からの到来方向を推定する方向推定装置の実現が望まれる。
【0010】
本発明は前述の問題点に鑑み、1次元配置であるリニアアレイアンテナを用いて360°方向の方向推定を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の方向推定装置は、少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定装置であって、前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定手段と、前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定手段と、前記第1の方向推定手段による推定結果と、前記第2の方向推定手段による推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の方向推定方法は、少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定方法であって、前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定工程と、前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定工程と、前記第1の方向推定工程における推定結果と、前記第2の方向推定工程における推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明のコンピュータプログラムは、少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定工程と、前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定工程と、前記第1の方向推定工程における推定結果と、前記第2の方向推定工程における推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定工程とを有する方向推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
本発明の記録媒体は、前記に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少なくとも1本の指向性アンテナ素子を導入した構成のリニアアレイアンテナにおいて到来方向を推定する際に、第1の方向推定手段で指向性アンテナ素子の受信信号を使用して第1の方向推定を行い、第2の方向推定手段ではリニアアレイアンテナの全体の受信信号を使用して第2の方向推定を行う。さらに、第1の方向推定結果と、第2の方向推定結果に基づいて、電波の到来方向を判定する。このような構成により、1次元配置であるリニアアレイアンテナを用いて360°方向の方向推定を行うことができる。これにより、小型でありながら360°方向の到来方向を推定することができる到来方向推定装置を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、図面を使用して本発明の実施形態を説明する。
図1に、第1の実施形態を説明するために、8素子リニアアレイアンテナの一部に指向性アンテナ素子を導入した例を示す。
【0017】
図1は、アンテナ素子が直線状に並んでいる様子を上側から見た状態を示している。また、説明を容易にするためにリニアアレイアンテナの向きを示すための角度座標も示している。図1では、中央の2本の指向性アンテナ素子101、102が指向性を有しており、それ以外は無指向性アンテナ素子20である。
【0018】
図1で11、12はそれぞれ第1の指向性アンテナ素子101、第2の指向性アンテナ素子102及び無指向性アンテナ素子20の利得方向を示している。図1に示すように、第1の指向性アンテナ素子101は図1中の座標で0°〜180°方向の面に対して指向性を持っている。一方、第2の指向性アンテナ素子102は反対の180°〜360°方向に指向性を持っている。
【0019】
本実施形態では、後述するように指向性アンテナ素子の受信信号も使用して、ビームフォーマ法などの第2の方向推定を行うため、指向性アンテナ素子は完全な指向性を持つよりも、指向性方向以外の方向の電波も受信する方が望ましい。
【0020】
より具体的には、第1の指向性アンテナ素子101では0°〜180°方向に利得を持つが、180°〜360°方向にも弱い利得を持つ。したがって、0°〜180°と180°〜360°方向の受信強度に明らかな違いが表れるように設計された指向性アンテナ素子が望ましい。
【0021】
さらに、第1の実施形態のように、1本の指向性アンテナ素子で180°範囲の到来方向推定を行う場合には、指向性アンテナ素子の指向性は鋭いピークのものでは無く、アレイのブロードサイド方向を広くカバーできるように、広いものであることが望ましい。
【0022】
次に、図1の指向性アンテナ素子を含むリニアアレイアンテナを用いて到来方向を推定する方法について説明する。
図2には,リニアアレイアンテナの各アンテナ素子で電波を受信して(ステップS11)から到来方向を推定するまでの手順を示す。まず、指向性アンテナ素子の受信状態を比較して第1の方向推定を行い、電波到来方向が0°〜180°であるか180°〜360°であるかを判断する(ステップS12)。
【0023】
次に、他のアンテナ素子での受信信号も含めて、第2の方向推定を行う(ステップS13)。第2の方向推定は、受信信号の強度や素子間での位相差を利用して到来方向を求める方法で、例えば、ビームフォーマ法、MUSIC法(multiple Signal Classification)などである。
【0024】
最後に、第2の方向推定結果はアレイの直線を軸にした線対称の方位に虚像関係にある2つの推定結果が得られるので、この内から第1の方向推定結果と一致する到来方向を選択し最終的な推定結果とする(ステップS14)。以上の処理を行って到来角度の推定処理を終了する(ステップS15)。
【0025】
以下、図1と図2について、より詳細な説明を行う。
第1の方向推定では、それぞれリニアアレイアンテナのブロードサイド方向について、反対の方向に指向性を持つ2本の指向性アンテナ素子の受信状態を比較して、粗い方向推定を行う。例えば、図1で、第1の指向性アンテナ素子101と第2の指向性アンテナ素子102の受信強度を比較して、指向性アンテナ素子101の受信強度の方が強かった場合には、電波は0°〜180°の範囲の方向から到来していると推定できる。
【0026】
受信電波が1波のみである場合や全ての受信信号がリニアアレイの同じブロードサイド方向から到来する場合には、前記のように受信強度を用いて行うことができる。しかしながら、複数波が同時に別のブロードサイド方向から到来する場合には、受信強度を用いた推定は困難な場合がある。複数波に対応するためには、到来してくる電波が時分割や周波数分割されていれば、前記と同様に指向性アンテナ素子の受信強度を使用して方向推定を行うことができる。
【0027】
また、さらに到来してくる電波が符号分割されていれば、第1の方向推定においても、同時に複数の到来方向を推定することもできる。この場合、第1の方向推定に用いる判断基準を、受信強度でなく符号の相関値にすればよい。
【0028】
例えば、電波のそれぞれに固有の拡散符号を乗じて送信を行い、方向推定装置の側では各指向性アンテナ素子で受信した信号に、予め用意した送信側と同じ各固有符号を掛け合わせ、その相関値を計測する。相関値は到来電波ごとに出力され、指向性アンテナ素子の指向性方向により強度は変化する。
【0029】
すなわち、図1で0°〜180°の方向から到来した電波の符号相関値は指向性アンテナ素子102と比べ、指向性アンテナ素子101の方が大きな値が得られる。また、180°〜360°の方向から到来した電波の符号相関値は指向性アンテナ素子102と比べ、指向性アンテナ素子101の方が大きな値が得られる。これにより、各アンテナ素子の符号相関値を比較することで、ある符号を乗じて送信された信号がどの方向から到来しているかを推定することができる。
【0030】
第2の方向推定は、指向性アンテナ素子以外の無指向性アンテナ素子の受信信号も使用した通常のアレイアンテナでの方向推定であり、ビームフォーマ法、MUSIC法などである。これらの方向推定では、各アンテナ素子の受信強度と位相(位相差)の情報を元にアナログ処理またはディジタル処理により方向推定を行う。
【0031】
第2の方向推定では、望ましくは全てのアンテナの受信信号を使用すればよいが、ノイズ等の影響で必ずしも全てのアンテナの受信信号を使用することが、正確な到来方向推定につながるとは限らない。したがって、ノイズの影響の強いアンテナの受信信号を第2の方向推定から除外するなど、必要に応じて第2の方向推定に使用するアンテナの受信信号を取捨選択してよい。
【0032】
また、指向性アンテナ素子は小型で0°〜180°と、180°〜360°の到来方向を粗く推定できる程度に指向性を持つように設計されていれば、どのような形状のアンテナを用いてもよい。導波器や反射器を持つ指向性アンテナ素子を使用すれば、希望する指向性を作りやすく、本発明に必要な指向性アンテナ素子に好適である。
【0033】
ただし、導波器や反射器を導入した場合には、アンテナ素子(給電素子)の前方あるいは後方に少なくとも1本の無給電素子を導入することになる。このため、使用周波数や設計方法によっては基本的なリニアアレイアンテナに比べ、2次元の広がりが出てくる問題がある。
【0034】
また、通常、2次元アレイアンテナの素子間隔に比べて、導波器や反射器の素子間隔は短いので、導波器や反射器を使用した指向性アンテナ素子を導入することでも、従来の2次元アレイアンテナに比べ十分小型化に寄与することができる。
【0035】
以上のように、導波器や反射器を持つ指向性アンテナ素子を使用することも本実施形態の範囲である。また、さらなるアレイアンテナの小型化のためには、地板の形状を制御したモノポールアンテナやスリーブアンテナを指向性アンテナ素子として使用するなどの方法も考慮することができる。
【0036】
図3に、以上に説明した第1の実施形態の方向推定装置の構成を説明するブロック図を示す。本実施形態のアレイアンテナのアンテナ素子は、2本の無指向性アンテナ素子300a、300bと、2本の指向性アンテナ素子310a、310bの合計4本で配設した場合を示している。なお、アンテナ素子の本数が4本以外の場合でも、方向推定装置のブロック構成に特に変化はない。
【0037】
アンテナ素子300a、300b、310a、310bの後段にそれぞれ設置されている第1の受信機330a〜第4の受信機330dではダウンコンバート等の操作が行われる。さらに、各アンテナ素子300a、300b、310a、310bの受信強度や位相の情報が出力される。また、前述したように、符号分割を行った電波を受信する場合には、第1の受信機330a〜第4の受信機330dで相関値を導くようにしてもよい。
【0038】
第2の受信機330b及び第3の受信機330cから出力された情報は、第1の方向推定部340に送られる。また、第1の受信機330a及び第4の受信機330dから出力された情報は第2の方向推定部360に送られる。第1の方向推定部340や第2の方向推定部360はアナログ回路で構成されてもよいし、ディジタル処理によって行われてもよい。方向推定をディジタル処理により行う場合には、第1の受信機330a〜第4の受信機330dの出力前にAD変換部を設ければよい。
【0039】
(第2の実施形態)
また、以上の第1の実施形態では、リニアアレイアンテナ中に2本の指向性アンテナ素子310a、310bの指向性を反対側に向けて設置した例を示したが、最小の構成として導入する指向性アンテナ素子は1本でもよい。
【0040】
例えば、図4に示すように、1本の指向性アンテナ素子101の指向性を0°〜180°との方向に向けた場合、近隣の無指向性アンテナ21と受信信号を比較することにより、粗い方向推定(第1の方向推定)を行うことができる。
【0041】
すなわち、指向性アンテナ素子101の受信強度の方が強い場合には、電波の到来方向は0°〜180°の範囲と推定され、無指向性アンテナ素子21の受信強度の方が強い場合には、電波の到来方向は180°〜360°の範囲と推定される。これにより、第1の方向推定を達成することができる。本実施形態のように、指向性アンテナ素子を1本にすることにより、360°方向の到来方向推定を行いつつ、構成が複雑になることを防ぐことが可能である。
【0042】
(第3の実施形態)
また、第1の方向推定の後に、指向性アンテナ素子の受信信号を補正して第2の方向推定を行う構成にしてもよい。
【0043】
アレイアンテナは一般的に素子数が多いほど指向性が向上する。本実施形態でも、指向性アンテナ素子も含む全てのアンテナ素子を使用して第2の方向推定を行う方が高精度に到来方向を検出することができる。
【0044】
ところが、指向性アンテナ素子の受信信号は、第1の方向推定のために到来方向によって受信強度が異なるので、第2の方向推定の種類によっては指向性アンテナ素子の受信信号をそのまま使用して到来方向を導出することができない。
【0045】
例えば、ビームフォーマ法では各アンテナ素子の受信信号の位相に重みを付加させた上で受信強度を足し合わせて、最大電力(最大受信強度)が得られる方向を到来方向として導出する。また、ビームフォーマ法で使用するアンテナ素子は、全て無指向性アンテナ素子、あるいは全てのアンテナ素子は同じ特性のものが使用されるため、フェージングの影響のない理想的な環境では受信強度は全てのアンテナ素子で一定となる。
【0046】
一方、本実施形態で使用する指向性アンテナ素子では、第1の方向推定を行うために、到来方向によって受信強度が異なるので、受信信号を足し合わせるビームフォーマ法など使用して方向推定を行うと大きな誤差を生じることになる。そこで、この第3の実施形態では、第1の方向推定の後に、指向性アンテナ素子の受信信号に補正を行って第2の方向推定を行うようにして例を示す。
【0047】
図5には、第3の実施形態で行われる処理のフローを示す。まず、リニアアレイアンテナの各アンテナ素子で電波を受信して(ステップS21)、指向性アンテナ素子の受信状態を比較する第1の方向推定にて、電波到来方向が0°〜180°であるか、或いは180°〜360°であるかを判断する(ステップS22)。
【0048】
次に、指向性アンテナ素子の受信信号の補正を行う(ステップS23)。そして、補正を行った指向性アンテナ素子の受信信号と他のアンテナ素子により、第2の方向推定を行う(ステップS24)。第3の実施形態では、先に述べたように、受信信号を使用して到来方向を推定する第2の方向推定に好適な方法であり、その方法は例えばビームフォーマ法である。
【0049】
最後に、第2の方向推定結果はアレイの直線を軸にした線対称の方位に虚像関係にある2つの推定結果が得られる。この内から、第1の方向推定結果と一致する到来方向を選択して最終的な推定結果とし(ステップS25)、到来角度の推定終了とする(ステップS26)。
【0050】
さらに、指向性アンテナ素子の受信信号の補正について説明する。
第3の実施形態でも、アンテナ素子部分に関しては他の実施形態と変化が無いため、第1の実施形態を示した図1を用いて説明する。
【0051】
例えば、図1で到来した電波が90°の方向からであった場合、指向性アンテナ素子101と102の受信信号がそれぞれ異なる。具体的には、周囲の無指向性アンテナ素子20と比較した場合、指向性アンテナ素子101の受信強度は強く、指向性アンテナ素子102の受信強度は弱い。この受信信号の強弱により、第1の方向推定を行い、0°〜180°方向と180°〜360°方向を判別する。
【0052】
ここで、第2の方向推定の前に補正を行う方法として、例えば、指向性アンテナ素子の受信強度を仮想的に無指向性アンテナ素子で受信した場合の受信強度にする。仮想的に無指向性アンテナ素子の受信信号とする方法も様々な方法があるが、ひとつの例としては、周囲の無指向性アンテナ素子20の信号の値に合わせることである。
【0053】
すなわち、指向性アンテナ素子101の受信強度を、近傍の無指向性アンテナ素子20の受信強度の値に合わせて小さくしてやればよく、指向性アンテナ素子102の受信強度は近傍の無指向性アンテナ素子20の受信強度の値に合わせて大きくしてやればよい。また、近傍の無指向性アンテナ素子20の受信強度を使用して補正する方法としては、無指向性アンテナ素子20の受信強度を基に算出した値をそれぞれの指向性アンテナ素子の補正した受信強度としてもよい。
【0054】
図6には、以上の第3の実施形態の方向推定装置のブロック図を示す。アレイアンテナのアンテナ素子は2本の無指向性アンテナ素子300a及び300bと、2本の指向性アンテナ素子310a及び310bの合計4本の場合で示している。アンテナの本数が4本以外の場合でも、方向推定装置のブロック構成に特に変化はない。
【0055】
これらの各アンテナ素子の後段に設置されている第1の受信機330a〜第4の受信機330dではダウンコンバート等の操作が行われ、さらに各アンテナ素子の受信強度や位相の情報が出力される。
【0056】
第2の受信機330b及び第3の受信機330cから出力された情報は第1の方向推定部340に送られ、第1の方向推定が行われる。これにより、指向性アンテナ素子310a及び310bの情報は第1の方向推定部340の後に配設された第1の補正部350a及び第2の補正部350bを経由して受信強度の補正が行われた後に第2の方向推定部360へと送られる。一方、2本の無指向性アンテナ素子300a及び300bの情報は第1の方向推定部340を経由することなく、第1及び第2の補正部350a及び350b、第2の方向推定部360へと送られる。
【0057】
図6では、前述したような、近傍の無指向性アンテナ素子300a及び300bの受信強度と比較して、指向性アンテナ素子310a及び310bの受信強度を補正する例について示している。図6においては、近傍の無指向性アンテナ素子300a及び300b情報が第1の補正部350a及び第2の補正部350bに導入される構成となっている。補正された指向性アンテナ素子310aの情報と、無指向性アンテナ素子300aの情報は第2の方向推定部360へと送られる。理想的には、全てのアンテナの情報を使用して第2の方向推定を行う。第2の方向推定は、第1実施形態で記述したように必要に応じて使用するアンテナ素子を変化させてよい。
【0058】
なお、前記のように受信強度について補正が必要な場合があるが、位相については指向性アンテナ素子を使用した場合でも無指向性アンテナ素子を使用した場合でも、特に変化しない(アンテナ素子の場所のみに依存する)。したがって、補正を行わなくても第2の方向推定に使用することができる。
【0059】
(第4の実施形態)
また、方向推定の精度を向上させるため、導入する指向性アンテナ素子の数を増やし、それぞれ異なる方向に指向性を向ける構成としてもよい。図7には、複数の指向性アンテナ素子111〜116を、それぞれ別の方向に指向性を向けて設置したリニアアレイアンテナを上から見た図を示している。
【0060】
なお、図7では無指向性アンテナ素子20を2本含んだ例を示しているが、任意の順序や数で指向性アンテナ素子と無指向性アンテナ素子を配列してよい。指向性アンテナ素子111〜116の数を増やすことにより、第1の方向推定で推定される到来方向が前記実施形態に比べ正確になる。さらに、指向性アンテナ素子の指向性範囲とその配置方法によっては、第1の方向推定で推定される到来方向の分解能が向上する。これにより、アレイの直線に線対称に現れる方向推定結果を排除する効果に加え、第2の方向推定で誤った推定結果が得られた場合にも、その結果を分離して排除することができる。
【0061】
(本発明に係る他の実施形態)
前述した本発明の実施形態における方向推定装置を構成する各手段、並びに方向推定方法の各ステップは、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明に含まれる。
【0062】
また、本発明は、例えば、システム、装置、方法、プログラムもしくは記憶媒体等としての実施形態も可能であり、具体的には、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよいし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0063】
なお、本発明は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラム(実施形態では図2及び図5に示すフローチャートに対応したプログラム)を、システムあるいは装置に直接、あるいは遠隔から供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータが前記供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。
【0064】
したがって、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、前記コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0065】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等の形態であってもよい。
【0066】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RWなどがある。また、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などもある。
【0067】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続する。そして、前記ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。
【0068】
また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明に含まれるものである。
【0069】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件をクリアしたユーザに対し、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせる。そして、ダウンロードした鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0070】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される。その他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0071】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれる。その後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、指向性アンテナ素子を含むリニアアレイアンテナを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、各アンテナ素子で電波を受信してから到来方向を推定するまでの手順を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、方向推定装置の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示し、指向性アンテナ素子を1本のみとした最小の構成のリニアアレイアンテナを示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を示し、各アンテナ素子で電波を受信してから到来方向を推定するまでの手順を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施形態を示し、方向推定装置の一例を示すブロック図である。
【図7】本発明の第4の実施形態を示し、2本以上の指向性アンテナ素子を含み、異なる方向に指向性アンテナ素子の指向性を向けたリニアアレイアンテナを示す図である。
【図8】従来のリニアアレイアンテナの問題点について説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
11、12 指向性アンテナ素子の利得方向
20 無指向性アンテナ素子
21 無指向性アンテナ素子の利得方向
101、102、111〜116 指向性アンテナ素子
300a 第1の無指向性アンテナ素子
300b 第2の無指向性アンテナ素子
301 無指向性アンテナ素子の利得方向
310a 第1の指向性アンテナ素子
310b 第2の指向性アンテナ素子
311 指向性アンテナ素子の利得方向
330a 第1の受信機
330b 第2の受信機
330c 第3の受信機
330d 第4の受信機
340 第1の方向推定部
350a 第1の補正部
350b 第2の補正部
360 第2の方向推定部
370 判断部
601 無指向性アンテナ素子
602 無指向性アンテナ素子の利得方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定装置であって、
前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定手段と、
前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定手段と、
前記第1の方向推定手段による推定結果と、前記第2の方向推定手段による推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする方向推定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記第2の方向推定手段が一つの到来電波に対して複数の到来方向を示した場合に、前記第1の方向推定手段の方向推定結果と一致する到来方向を最終的な方向推定結果として選択することを特徴とする請求項1に記載の方向推定装置。
【請求項3】
前記第1の方向推定手段は、前記指向性アンテナ素子の受信状態と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信状態とを比較して到来方向を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の方向推定装置。
【請求項4】
前記第1の方向推定手段は、前記指向性アンテナ素子の受信強度と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信強度とを比較して到来方向を推定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の方向推定装置。
【請求項5】
前記第1の方向推定手段は、前記指向性アンテナ素子の受信状態と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信状態とを比較して到来方向を推定する際に、拡散符号により拡散されて送信された電波信号を逆拡散する時の相関値を比較して推定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の方向推定装置。
【請求項6】
前記第1の方向推定手段で第1の方向推定を行った後に、前記指向性アンテナ素子の受信信号の受信強度を補正する受信強度補正手段を有し、
前記指向性アンテナ素子が設置された場所での無指向性アンテナ素子の受信信号を仮想的に作成し、前記指向性アンテナ素子の受信信号を第2の方向推定用に使用することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の方向推定装置。
【請求項7】
前記受信強度補正手段は、前記リニアアレイアンテナ中の無指向性アンテナ素子の受信強度に基づいて前記指向性アンテナ素子の受信強度を補正することを特徴とする請求項6に記載の方向推定装置。
【請求項8】
前記リニアアレイアンテナは前記指向性アンテナ素子を2本以上の複数本有し、前記複数本の指向性アンテナ素子のうち、少なくとも1本の指向性アンテナ素子の指向性を前記リニアアレイアンテナのブロードサイドの片側に向け、少なくとも1本の指向性アンテナ素子の指向性を前記リニアアレイアンテナのブロードサイドの逆方向に向けることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の方向推定装置。
【請求項9】
少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定方法であって、
前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定工程と、
前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定工程と、
前記第1の方向推定工程における推定結果と、前記第2の方向推定工程における推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定工程と、を有することを特徴とする方向推定方法。
【請求項10】
前記判定工程は、前記第2の方向推定工程が一つの到来電波に対して複数の到来方向を示した場合に、前記第1の方向推定工程の方向推定結果と一致する到来方向を最終的な方向推定結果として選択することを特徴とする請求項9に記載の方向推定方法。
【請求項11】
前記第1の方向推定工程は、前記指向性アンテナ素子の受信状態と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信状態とを比較して到来方向を推定することを特徴とする請求項9または10に記載の方向推定方法。
【請求項12】
前記第1の方向推定工程は、前記指向性アンテナ素子の受信強度と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信強度とを比較して到来方向を推定することを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の方向推定方法。
【請求項13】
前記第1の方向推定工程は、前記指向性アンテナ素子の受信状態と、前記リニアアレイアンテナ中の他のアンテナ素子との受信状態とを比較して到来方向を推定する際に、拡散符号により拡散されて送信された電波信号を逆拡散する時の相関値を比較して推定することを特徴とする請求項9乃至12の何れか1項に記載の方向推定方法。
【請求項14】
前記第1の方向推定工程で第1の方向推定を行った後に、前記指向性アンテナ素子の受信信号の受信強度を補正する受信強度補正工程を有し、
前記指向性アンテナ素子が設置された場所での無指向性アンテナ素子の受信信号を仮想的に作成し、前記指向性アンテナ素子の受信信号を第2の方向推定用に使用することを特徴とする請求項9乃至13の何れか1項に記載の方向推定方法。
【請求項15】
前記受信強度補正工程は、前記リニアアレイアンテナ中の無指向性アンテナ素子の受信強度に基づいて前記指向性アンテナ素子の受信強度を補正することを特徴とする請求項14に記載の方向推定方法。
【請求項16】
少なくとも一つの指向性アンテナ素子を有するリニアアレイアンテナで受信する電波の到来方向を推定する方向推定方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記指向性アンテナ素子により到来方向を推定する第1の方向推定工程と、
前記リニアアレイアンテナにより到来方向を推定する第2の方向推定工程と、
前記第1の方向推定工程における推定結果と、前記第2の方向推定工程における推定結果とに基づいて、電波の到来方向を判定する判定工程と、を有する方向推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項17】
前記請求項16に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−104086(P2007−104086A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288419(P2005−288419)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】