説明

方法および組成物

本発明は、顆粒球活性化および遊走を調節する方法、かかる方法の疾患治療への使用、およびかかる方法および使用に用い得る組成物に関する。特に、顆粒球の活性化/遊走の調節は、前記顆粒球の近傍でラクトフェリンの量を増減させることによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒球、例えば好中球の活性化および遊走を調節する方法、炎症性疾患の治療およびガンの治療における前記方法の使用、および当該方法および使用に用い得る組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
顆粒球は、顕著な細胞質顆粒を特徴とする白血球のクラスである。三つの主な顆粒球の細胞タイプ:好中球、好酸球および好塩基球がある。
【0003】
好中球、すなわち血液循環中に最も多い白血球は、抗菌性化合物の活性化および放出と共に食作用によって侵入する病原体に対する防御の最前線を提供する。好中球に対する正の誘引分子(例えば、ロイコトリエン、IL−8などのサイトカインおよびfMLPなどの細菌性物質)がよく特性評価されているにも拘らず、好中球遊走の負のモジュレータに関しては今日までほとんどわかっていない。今日までに同定された負のモジュレータは、リポキシン、ネトリン(ネトリン−1)、アネキシン−1、レソルビンおよびプロテクチンである。これらの中で、多くは好中球に特異的ではなく;ネトリン−1は単球、リンパ球および神経細胞遊走の抑制にも関与し;アネキシン−1は、上皮細胞遊走にも関与する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
好中球は、ホストのケモカインおよび微生物の化学誘引物質などの正の走化性シグナルに応答して炎症部位に迅速にリクルートされる。しかしながら、好中球浸潤が厳しい規制を受けると認められている一方で、正の化学誘引プロセスを均衡させて負のフィードバックによる過剰な好中球浸潤を防ぐ、可能性のある機構は、ほとんど関心を持たれていない。更に、『専門の』食細胞の中で、好中球は、マクロファージとは全く対照的に、死にかけているホストの細胞が食作用により消滅するアポトーシス部位に、通常リクルートされない。
【0005】
(本発明の概略)
本発明者らは、顆粒球活性化の調節を調べ、驚くべきことにラクトフェリンが顆粒球遊走の強力阻害剤として作用することを実証した。
【0006】
ラクトフェリンが顆粒球活性化を阻害することを実証したことにより、ラクトフェリンモジュレータ、すなわちラクトフェリン発現または活性のエンハンサまたは阻害剤のいずれかを顆粒球活性化の調節に使用することが可能になる。従って、本発明の第一の態様では、顆粒球活性化および/または遊走を細胞または細胞集団に向けて調節する方法であって、前記細胞および/または前記顆粒球の近傍でラクトフェリンの量または活性を調節することを備える前記方法が提供される。
【0007】
実施例に記載するように、本発明者らは、細胞がアポトーシスの誘導により生体外および生体内の両方で好中球遊走の強力阻害剤として作用するラクトフェリンを合成し、放出することを実証した。加えて、本発明者らは、かかるラクトフェリンが好酸球などの他の顆粒球遊走の強力阻害剤として作用することを示した。
【0008】
従って、本発明の一つの実施形態では、顆粒球遊走の調節が前記細胞または細胞集団に向けた顆粒球遊走の阻害である。一つの実施形態では、かかる阻害が前記細胞および/または顆粒球の近傍でラクトフェリンの量を増加させることによって達成される。
【0009】
本発明の一つの実施形態では、顆粒球が好中球である。別の実施形態では、顆粒球が好酸球である。
【0010】
実施例に示すように、分化系列の細胞型のパネルにおけるアポトーシスの誘導は、転写およびタンパク質レベルの両方でラクトフェリン発現の実質的な上方制御をもたらす。本発明では、ラクトフェリンの量の増加を当業者に既知の任意適当な手段によって達成することができる。例えば、ラクトフェリンの量または濃度を、ラクトフェリンまたはラクトフェリンをコードする核酸を投与することによって増加させてもよい。
【0011】
活性化の際、CD62Lが好中球表面から開裂され、細胞質顆粒から細胞膜への移行に続いてCD11bの発現が上方制御される。実施例に示すように、これら効果の各々がラクトフェリンによって阻害される。
【0012】
本発明の一つの実施形態では、ラクトフェリン量の増加のない顆粒球と比較すると、顆粒球遊走の阻害が低減された顆粒球の分極化および/またはCD62Lの開裂の減少ならびにCD11bの発現の減少を伴う。
【0013】
実際、本発明の第二の独立した態様では、顆粒球の分極化を阻害する方法を提供され、前記方法はラクトフェリンまたはラクトフェリンをコードする核酸を前記顆粒球に投与することを備える。
【0014】
更に、発明者らはまた、化学誘引物質の範囲に向けた化学遊走に対するラクトフェリンの効果が、単球およびマクロファージ遊走に対して示した有意な効果を伴わず顆粒球に特異的であることを示した。従って、本発明の一つの実施形態では、ラクトフェリンの調節がマクロファージまたは単球の遊走を調節しない。
【0015】
従って、本発明者らの結果がラクトフェリンの新規な免疫調節性機能を初めて明らかにし、それを白血球遊走を負に制御する数少ない分子の一つとして同定するものである。更に、ラクトフェリンの効果は顆粒球に特異的であるようである。
【0016】
いかなる一つの理論にも限定されることなく、本発明者らは、アポトーシス部位でのラクトフェリンの産生と放出が顆粒球の排除を仲介することによってアポトーシスプログラムの非催炎的な性質の一因となることを前記結果が示唆すると信じている。
【0017】
ラクトフェリンが、顆粒球、例えば好中球の遊走に対して調節的効果を有すること、および、特にアポトーシス細胞によるその産生が顆粒球、例えば好中球などのアポトーシス部位への浸潤を規制することを実証したことにより、ラクトフェリンを、炎症の消散のメディエーターとして、また炎症性および悪性疾患における顆粒球の浸潤を制御する可能性を有する治療標的として同定する。ラクトフェリンの顆粒球特異性の実証は、ラクトフェリンが全ての免疫細胞応答に影響することなく異常な顆粒球の浸潤を特徴とする炎症性状態にある顆粒球に対して特異的な治療標的として取り扱われることができるか、または免疫抑制的状況の引き金を引くことを示唆するので、特に有利である。この細胞特異性はまた、天然のモジュレータがホストに無毒性であることを示す。
【0018】
従って、本発明の第三の態様では、炎症性疾患の治療方法が提供され、前記方法は、ラクトフェリン濃縮のモジュレータを必要とする被験体に投与することを備える。本発明のこの態様では、ラクトフェリン濃縮のモジュレータが好適には標的部位、例えば炎症部位でラクトフェリン濃度を増加する。
【0019】
本発明は、特に過剰な顆粒球浸潤および顆粒球に仲介される組織損傷およびリモデリングに伴った慢性炎症性疾患などの炎症性疾患の治療における使用である。従って、本発明の第三の態様の一つの実施形態では、炎症性疾患が慢性炎症性疾患である。かかる慢性炎症性疾患の例は、これらに限定されないが、血管炎、肺線維症および虚血再潅流障害を含む。
【0020】
本発明はまた、様々な腫瘍の治療に用いてもよい。従って、本発明の第四の態様では、被験者のガンの治療方法が提供され、該方法はラクトフェリンモジュレータを前記被験者の標的部位に投与することを備える。
【0021】
特定の腫瘍では、好中球が支援的な役割を演じてよい。その腫瘍を増強する役割の証拠は、腫瘍悪性度と好中球浸潤の程度との強い相関により支持される。例えば、神経膠腫、膠細胞から生ずる一次性中枢神経系腫瘍、疣状癌および胃癌および並びに多くの原発性転移性黒色腫は、全て重度の好中球浸潤によると既に記載されている。これら全てのケースでは、好中球をリクルートする腫瘍微小環境が形成される一方、それと同時に血管形成が促進され、腫瘍成長および浸入が、例えばVEGFおよびIL−8などの血管形成促進因子、エラスターゼおよび例えばマトリックスメタロプロテイナーゼなどのプロテアーゼの産生を介して促進される。従って、好中球または他の顆粒球が支援的な役割を演ずる腫瘍においては、ラクトフェリンを腫瘍の近傍で増加させ、その結果、前記腫瘍細胞に対する好中球(または他の顆粒球)遊走を阻害する薬剤の投与が治療上相当に有益である可能性がある。従って、本発明の第四の態様の一つの実施形態では、ラクトフェリンモジュレータが標的部位でラクトフェリンの濃縮、発現または活性を増強する。かかる実施形態では、ガンが神経膠腫、疣状癌、胃癌および黒色腫を含む群から選択される。しかしながら、大多数の腫瘍では好中球が存在せず、このような支援的役割を付与するとは考えられない。従って、好中球の周知の腫瘍退縮性効果を考慮すると、ラクトフェリンの阻害による好中球浸潤の促進を用いて腫瘍の崩壊を行うことができる。従って、本発明の第四の態様の一つの実施形態では、ラクトフェリン濃縮のモジュレータが標的部位でのラクトフェリンの濃度、発現または活性を低減する。従って、このような実施形態では、ラクトフェリンモジュレータがラクトフェリン阻害剤である。
【0022】
本発明の第5の態様は、医薬用のラクトフェリン阻害剤を提供する。
【0023】
本発明の第6の態様は、炎症性疾患、例えば慢性炎症性疾患の治療方法への使用向けのラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータを提供する。また、炎症性疾患の治療用の薬剤の調製におけるラクトフェリンモジュレータの使用も、本発明の第6の態様に含まれる。
【0024】
本発明の第7の態様は、ガンの治療用のラクトフェリン濃縮またはラクトフェリンの発現のモジュレータを提供する。また、ガンの治療用の医薬の調製におけるラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータの使用も、本発明の第7の態様に含まれる。本発明のこの態様の実施形態では、モジュレータがラクトフェリン活性または濃縮のエンハンサであり、ガンは好中球が支援的な役割を演ずるガンであり、例えばガンは、これらに限定されないが、神経膠腫、疣状癌、胃癌および黒色腫を含む群から選択される。
【0025】
本発明の第8の態様によれば、ラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータを含む製薬学的組成物が提供される。
【0026】
本発明の第8の態様の製薬学的組成物を、顆粒球遊走の調節が有益であり得るあらゆる状態の治療に用いられてよい。一つの実施形態では、製薬学的組成物が炎症性疾患の治療用である。別の実施形態では、製薬学的組成物がガンの治療用である。
【0027】
本願明細書において用いられるように、ラクトフェリン濃縮および/または発現のモジュレータについての言及は、有機小分子、タンパク質、ペプチド類(ラクトフェリンの断片、部分、類縁体または誘導体を含む)、アミノ酸、核酸(RNAまたはDNA:センスまたはアンチセンス配列)および/または抗体(またはその抗原結合断片)の形態をとってもよいと理解されたい。ラクトフェリン濃縮および/または発現の阻害剤の場合、ラクトフェリンまたは一つもしくは複数のエピトープに対する特異性/親和性または選択性を示す抗体またはその抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab)、またはナノボディー等)が特に有用である可能性がある。当業者は、抗体が特定の抗原を用いた免疫によって生ずるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体とすることができると容易に理解する。抗体を作製するのに用いる技術および/または手段は「Antibodies:A Laboratory Manual:1988 Cold Spring Harbor Lab.」に更に開示されている。
【0028】
更なる実施形態では、ラクトフェリン濃縮および/または発現を阻害し得る化合物は、例えばDNAまたはRNAオリゴヌクレオチド、好適にはアンチセンスオリゴヌクレオチドを含んでよい。一つの実施形態では、オリゴヌクレオチドは小分子/短鎖干渉および/またはサイレンシングRNAとして当業者に既知のRNA分子であってもよく、以下にsiRNAと称する。かかるsiRNAオリゴヌクレオチドは、天然のRNAデュプレックスまたは何らかの方法(例えば化学的変性によって)でヌクレアーゼ耐性に変性したデュプレックスの形態をとってもよい。加えてまたはあるいは、siRNAオリゴヌクレオチドがショ−トヘアピンRNA(shRNA)発現またはプラスミド構築物という形態をとってもよい。
【0029】
当業者は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてあらゆる所定の遺伝子の発現を調節(例えば、阻害、下方制御または実質的に除去)することができることを容易に理解する。従って、本発明によって提供される(アンチセンス)オリゴヌクレオチドは、ラクトフェリン遺伝子および/またはそのタンパク質産物の発現および/または機能を調節、すなわち阻害または中和するように設計されてよい。
【0030】
天然または野生型のラクトフェリン配列を分析することにより、またBIOPREDsiのようなアルゴリズムを用いて、当業者は、これら遺伝子に対する最適なノックダウン効果を有する核酸配列を容易に決定するか、または計算的に予測(例えば、http://www.biopredsi.org/start.html参照)することができた。従って、当業者は、異なるオリゴヌクレオチドの配列またはライブラリーを作製、試験してこれらからラクトフェリン遺伝子および/またはタンパク質の発現または機能を調節することができるかどうかを決定することができる。
【0031】
文脈上必要としない限り、本発明の態様の各々の好適なおよび別の特徴は、必要な変更を加えて他の態様の各々に対するものとする。
【0032】
上述される、また実施例に記載されるように、本発明はアポトーシス細胞がラクトフェリンを発現し、かつ該ラクトフェリンがかかる細胞に向けた顆粒球遊走を阻害するという実証に基づくものである。顆粒球に対するラクトフェリンの調節効果の実証により、顆粒球挙動の操作にラクトフェリンモジュレータを使用することができ、また多くの治療状況にラクトフェリンおよびラクトフェリンモジュレータの使用が可能になる。
【0033】
本発明に照らして、ラクトフェリンモジュレータはラクトフェリンエンハンサまたはラクトフェリン阻害剤とすることができる。本発明に照らして、ラクトフェリンエンハンサはラクトフェリンの濃縮、発現または活性を増大させるモジュレータである。好適には、かかるラクトフェリンエンハンサはラクトフェリン濃縮、発現または活性を特に増大させる。適当なモジュレータの例としては、これらに限定されないが、ラクトフェリン、ラクトフェリンアナログ、ラクトフェリンもしくはラクトフェリンアナログをコードする核酸、またはラクトフェリン発現もしくは活性のエンハンサが挙げられる。特定の実施形態では、ラクトフェリンエンハンサがラクトフェリンまたはラクトフェリンをコードする核酸である。
【0034】
本発明で用いるためのラクトフェリンアナログは、野生型のラクトフェリン分子のアミノ酸配列を変える、例えば、タンパク質をコードする核酸を操作することによるか、またはタンパク質そのものを変化させることによって変性されたポリペプチドを意味し、ここで前記アナログは増殖を促進するためのラクトフェリン生物学的活性、すなわち顆粒球、例えば好中球の遊走阻害活性および/または能力を有する。
【0035】
かかるアナログは、例えば50以下のアミノ酸、好適には40以下、より好適には25以下、最も好適には1〜5のアミノ酸の置換または欠損および/または50以下のアミノ酸、好適には40以下、より好適には25以下、最も好適には1〜5のアミノ酸残基の挿入または追加を含んでもよい。他の実施形態では、ラクトフェリンアナログは、少なくとも70%、例えば少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列相同性を、全長の野生型ラクトフェリンと共有してもよい。ラクトフェリンに関するアミノ酸配列は、図10(b)に示される。一つの実施形態では、ラクトフェリンアナログが選択的スプライシングで生じた切断型のδラクトフェリンとしてもよい(Siebert and Huang, PNAS, 94, 2198−2203.)。
【0036】
本発明のアナログはまた、かかるペプチドを含む多量体ペプチド、およびかかる配列を含むプロドラッグ、カップリングパートナー、例えばエフェクター分子、ラベル、薬、毒素および/またはキャリアもしくは輸送分子に結合されたペプチドを含めた本発明のペプチドの誘導体を含む。ラクトフェリンペプチドをペプジルおよび非ペプチジル両方のカップリングパートナーに結合するための技術は、当業界で周知である。
【0037】
本発明のアナログは、融合ペプチドを含む。例えば、アナログは、ペプチドを、例えば心臓組織または腫瘍組織などの患部組織に標的化する、例えば抗体に結合された本発明のペプチドを含んでもよい。
【0038】
本願明細書中に記載されるペプチドは、免疫グロブリン(IgA、IgE、IgG、IgM)の定常領域またはその一部分(CH1、CH2、CH3またはそのあらゆる組合せ)と融合され、キメラ型のポリペプチドとしてもよい。これら融合タンパク質は、精製を容易にし、インビボでの増加した半減期を示すことができる。かかる融合タンパク質は、単量体ポリペプチドまたはその断片のみ以外の分子を結合、中和する際に、より効率的とすることができる。例えば、Fountoulkis et al., J. Biochem., 270:3958−3964(1995).参照。
【0039】
本発明で用いるための融合タンパク質は、アルブミン、例えば組み換え型ヒト血清アルブミンまたはその断片またはその変異体と融合したラクトフェリンペプチド(またはアナログ)を含む(例えば、米国特許第5,876,969号明細書、欧州特許第0413622号明細書および米国特許第5,766,883号明細書参照)。
【0040】
本願明細書中に記載される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用も本発明に含まれる。
【0041】
本発明で用いるためのアナログは、天然ラクトフェリンペプチドのリバースもしくはレトロアナログ若しくはその合成誘導体を更に含む。リバースペプチドに関する詳細については、欧州特許第0497366号明細書、米国特許第5,519,115号明細書を参照のこと、またリバースペプチドに関する詳細については、本明細書中に参考として援用される、Merrifield et al., 1995, PNAS, 92:3449−53.を参照のこと。欧州特許第0497366号明細書に記載のように、リバースペプチドは、天然に存在するまたは合成のアミノ酸配列を逆転させることによって作る。かかるリバースペプチドは、内部のプロテアーゼに敏感な部位の周りのコンフォメーションおよびN−およびC−末端の特徴を除いて、親ペプチドと同じ一般の三次元構造(例えば、α−ヘリックス)を保持する。リバースペプチドは、非リバースの「通常の」ペプチドの生物学的活性を保持することを意味するだけでなく、増加した生物学的活性を含めた、向上した特性を有することができる(Iwahori et al., 1997, Biol. Pharm. Bull. 20:267−70.参照)。従って、本発明のおよび本発明で用いるためのアナログは、天然および合成のQUB919ペプチドのリバースペプチドを含んでもよい。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、ラクトフェリンモジュレータがラクトフェリン阻害剤である。あらゆる適当な阻害剤を用いることができる。本発明では、ラクトフェリン遺伝子の発現を低減するか、またはラクトフェリンペプチドと拮抗するあらゆる分子をラクトフェリン阻害剤として用いてもよい。かかる阻害剤としては、抗体、抗体断片、免疫複合体、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、特異的な結合部材、非ペプチド有機小分子、アンチセンス分子siRNA分子またはオリゴヌクレオチドデコイなどの核酸モジュレータを挙げることができるが、これらに制限されない。
【0043】
(抗体)
本発明で用いるための抗体および抗体断片は、天然または合成のいずれかのあらゆる適当な方法で作製することができる。かかる方法は、例えば、従来のハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein (1975) Nature, 256:495−499)、組み換えDNA技術(例えば、米国特許第4,816,567号明細書参照)、または抗体ライブラリーを用いたファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al. (1991) Nature, 352:624−628およびMarks et al. (1992) Bio/Technology, 10:779−783.)を含んでもよい。他の抗体産生技術は、「Using Antibodies: A Laboratory Manual, eds. Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1999.」に記載されている。
【0044】
従来のハイブリドーマ技術は、抗原に結合し得るリンパ球の産生を引き出すために、マウスまたは他の動物の抗原での免疫を通常含む。リンパ球を単離し、その後ミエローマ細胞株と融合して、ハイブリドーマ細胞を形成し、次いで親のミエローマ細胞の成長を阻害し、抗体産生細胞の成長を許容する条件で培養する。ハイブリドーマは遺伝子変異を施すことができ、生成した抗体の結合特異性を変化させるかまたは変化させなくてもよい。合成抗体は、当業界で既知の技術を用いて作製してもよい(例えば、Knappik et al, J. Mol. Biol. (2000) 296, 57−86.およびKrebs et al, J. Immunol. Meth. (2001)2154, 67−84.参照)。
【0045】
変性は、当業界で既知のあらゆる適当な技術を用いて、結合部材のV、VまたはCDRにおいて、または実際にはFRにおいて行うことができる。例えば、可変Vおよび/またはV領域は、CDR、例えばCDR3をかかるCDRを欠くVまたはV領域へ導入することによって作製することができる。Marks et al. (1992) Bio/Technology, 10:779−783は、CDR3を欠くV可変領域のレパートリを発生し、次いで特定の抗体のCDR3と組み合わせて新規なV領域を作るシャッフル技術を開示する。同様の技術を用いて、本発明のCDR由来配列を含む新規なVおよびV領域を作製することができる。
【0046】
従って、本発明で用いるための抗体および抗体断片は、(a)可変領域が置換すべきCDR1、CDR2またはCDR3を含むか、または核酸がかかるCDR用のコード領域を欠く、可変領域をコードする核酸の開始レパートリを提供するステップと;(b)前記レパートリをアミノ酸配列をコードするドナー核酸と組み合わせて、前記ドナー核酸を前記レパートリのCDR領域に挿入して可変領域をコードする核酸の産物レパートリを提供するようにするステップと;(c)前記産物レパートリの核酸を発現するステップと;(d)前記標的に対して特異的な特定抗原結合断片を選択するステップと;(e)前記特定の抗原結合断片またはそれをコードする核酸を回収するステップとを備える方法により製造することができる。この方法は、前記標的の活性を阻害する能力を求めて前記特定結合部材を試験する任意選択的なステップを含むことができる。
【0047】
本発明で用いるための抗体産生の代替技術は、例えばエラープローンPCRを用いたVまたはV領域をコードする遺伝子のランダムな変異導入を含むことができる(Gram et al, 1992, P.N.A.S. 89 3576−3580.参照)。加えてまたはあるいは、CDRを、例えばBarbas et al 1991 PNAS 3809−3813.およびScier 1996 J Mol Biol 263 551−567.に記載された分子進化法を用いる、変異導入のための標的とすることができる。
【0048】
従って、これは、抗体および抗体断片の、活性のある治療薬としての使用を可能にする。本発明で用いるための抗体は、「裸の」抗体(またはその断片)、すなわち「活性のある治療薬」に抱合されない抗体(またはその断片))とすることができる。「活性のある治療薬」とは、抗体部分(抗体断片、CDR等を含む)に接合して複合体を産出する分子または原子である。かかる「活性のある治療薬」の例としては、薬、毒素、放射性同位元素、免疫調節材、キレート剤、ホウ素化合物、染料等を含む。
【0049】
本発明で用いるための抗体は、抗体断片および「キメラ」抗体を含み、この場合重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるかまたは相同である一方、前記鎖の残りが、別の種に由来するか、または別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体並びにかかる抗体の断片の対応する配列と同一であるかまたは相同であり、これらは所望の生物学的活性を示す(米国特許第4,816,567号明細書;およびMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855(1984).参照)。本願明細書における興味のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)由来の可変領域抗原結合性配列およびヒト定常領域配列を含む「ヒト化」抗体を含む。
【0050】
本発明に用いるためのラクトフェリン阻害剤は、「活性のある治療薬」に抱合した抗体断片を含む免疫複合体の形状であってもよい。該治療薬は、化学療法薬または他の分子であってもよい。
【0051】
免疫複合体の作製方法は当業界で周知である。例えば、米国特許第5,057,313号明細書、Shih et al., Int. J. Cancer 41:832−839 (1988).; Shih et al., Int. J. Cancer 46:1101−1106 (1990)., Wong, Chemistry Of Protein Conjugation And Cross−Linking (CRC Press 1991); Upeslacis et al., “Modification of Antibodis by Chemical Methods,” in Monoclonal Antibodies: Principles And Applications, Birch et al. (eds.), pages 187−230 (Wiley−Liss, Inc. 1995); Price, “Production and Characterization of Synthetic Peptide Derived Antibodies,” in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering And Clinical Application, Ritter et al. (eds.), pages 60−84 (Cambridge University Press 1995)参照。
【0052】
本発明に用いるための抗体またはその断片は、更なる変更を含んでもよい。例えば、抗体をグリコシル化、ペジル化、またはアルブミンもしくは非タンパク質性ポリマーに結合させてもよい。
【0053】
(核酸モジュレータ)
本発明に用いるためのラクトフェリンモジュレータは、遺伝子表現を調節することができる、例えばラクトフェリンタンパク質をコードする配列の発現を下方制御することができる核酸分子を含むことができる。かかる核酸分子は、これらに限定されないが、アンチセンス分子、低分子干渉核酸(siNA)、例えば低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA、ショートヘアピンRNA(shRNA)、核酸センサ分子、アロザイム、酵素的な核酸分子および三重鎖オリゴヌクレオチド、また配列特異的方法でRNA干渉「RNAi」または遺伝子抑制を仲介するのに用い得るあらゆる他の核酸分子を含んでもよい(例えば、Bass, 2001, Nature, 411,428−429; Elbashir et al., 2001, Nature, 411, 494−498; 国際公開第00/44895号パンフレット;国際公開第01/36646号パンフレット;国際公開第99/32619号パンフレット;国際公開第00/01846号パンフレット;国際公開第01/29058号パンフレット;国際公開第99/07409号パンフレット;および国際公開第00/44914号パンフレット;Allshire, 2002, Science, 297, 1818−1819; Volpe et al., Science, 297, 1833−1837; Jenuwein, 2002., Science, 297, 2215−2218; Hall et al., 2002, Science, 292, 2232−2237.; Hutvagner and Zamore, 2002, Science, 297, 2056−60; McManus et al., 2002, RNA, 8, 842−850; Reinhart et al., 2002, Gene & Dev., 16, 1616−1626; Rejnhart & Bartel, 2002, Science, 297, 1831.参照)。
【0054】
「アンチセンス核酸」は、標的RNAにRNA−RNA、RNA−DNAまたはRNA−PNA(ペプチド核酸;Egholm et al., 1993 Nature 365, 566.)相互作用により結合し、標的RNAの活性を変える非酵素的な核酸分子である(確認のため、Stein and Cheng, 1993 Science 261, 1004.および米国特許第5,849,902号明細書参照)。アンチセンス分子は、該アンチセンス分子の単一の連続した配列に沿う標的配列と相補的であるか、または特定の実施形態では、アンチセンス分子が二つ以上の非連続基質配列と相補的であるか、またはアンチセンス分子の二つ以上の非連続配列部分が標的配列と相補的であるか、若しくはその両方であるようなループをアンチセンス分子が形成するように、基質、アンチセンス分子またはそれらの双方が結合することができるように基質と結合することができる。アンチセンスの手法の詳細は、当業界で既知であり、例えば、Schmajuk et al., 1999, J. Biol. Chem., 274, 21783−21789., Delihas et al., 1997., Nature, 15, 751−753, Stein et al., 1997., Antisense N. A. Drug Dev., 7, 151, Crooke, 2000., Methods Enzymol., 313, 3−45; Crooke, 1998., Biotech. Genet. Eng. Rev., 15, 121−157, Crooke, 1997., Ad. Pharmacol., 40, 1−49.を参照。
【0055】
「三重鎖核酸」または「三重鎖オリゴヌクレオチド」は、配列特異的に二本鎖DNAに結合して三重鎖ヘリックスを形成し得るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである。このような三重鎖ヘリックス構造の形成は、標的遺伝子の転写を調節することが示されている(Duval−Valentin et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 504.)。
【0056】
例えば、核酸構築物の調製、変異導入、シーケンシング、細胞へのDNAの導入および遺伝子発現、タンパク質解析などおける核酸操作のための既知技術およびプロトコルに関する更なる詳細については、Current Protocols in Molecular Biology, 5th ed., Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons, 2005, Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 3rd edition Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001を参照。
【0057】
(顆粒球)
三つの主な顆粒球の細胞タイプ:好中球、好酸球および好塩基球がある。
【0058】
(好中球)
最も多数の顆粒球は、血液白血球の約60%を占める好中球である。炎症の間、血液中に存在する好中球の数が劇的に増加する。これらの細胞は、非常に食作用的で、侵入する病原体、特に細菌に対する防御の第一線を形成する。それらはまた、急性炎症中に、損傷後に死んだ組織の食作用に関与する。顆粒成分の放出および活性酸素種の発生などの好中球に用いられる病原体に対する防御メカニズムの多数は、炎症促進性であり、ホスト組織に悪影響を及ぼす。好中球の過剰な活性化および/または好中球アポトーシス障害を特徴とする条件では、慢性的または遷延性の炎症が生ずる。
【0059】
(好酸球)
好酸球は、血液白血球の約1−3%を占める。その主要な役割は、寄生虫、特に蠕虫および原虫感染に対する防御にある。この点に関して、細胞は、好酸球陽イオンタンパク質などの細胞毒性化合物、主要な塩基性タンパク質、およびペルオキシダーゼおよび他のリソソーム系酵素を含有するリソソーム粒子からなる。好酸球は、活性化されたリンパ球およびマスト細胞により放出される物質によって誘引される。好酸球が、例えばマスト細胞のヒスタミン放出脱顆粒を阻害することにより過敏性反応を制御する役割を果たすことができるにもかかわらず、これら細胞はまたアレルギー反応中の組織を損傷させる可能性がある。かかる細胞は、例えば、花粉症、喘息、湿疹等の多くの状況における組織および血液に蓄積する。その結果、脱顆粒により、それはアレルギー反応、例えば喘息またはアレルギー性接触皮膚炎に伴う組織損傷の一因または原因となる。
【0060】
(好塩基球)
循環白血球の1%未満を占める、好塩基球は、血管作用性物質およびヘパリンを含む藍色の顆粒を有する。アレルギー反応では、それらは脱顆粒するために活性化され、それは急性過敏性反応に伴う局所的な組織反応および症状を生ずることができる。
【0061】
(処置)
「処置」または「治療」は、ヒトまたは非ヒトの動物の利益となり得るあらゆる療法も含む。処置は、現状に関するか、または予防的であってもよい(予防治療)。処置は、治癒的、緩和的または予防的効果を含んでよい。
【0062】
本発明は、顆粒球が疾患病状の一因となるあらゆる疾患を治療するのに用いることができる。一つの実施形態において、疾患は顆粒球が主に疾患病状の原因となる疾患である。かかる疾患は、白血球増加症、好中球増多症、顆粒球増加症または好酸球増加症を特徴とするものを含むが、これに限定されない。このような状態は、炎症、アレルギー反応、薬反応、心奇形などの症状を生ずる。そして、本発明の利用法を見つけることができる疾患は、好中球、好酸球、好塩基球またはその2つ以上によって仲介されるものを含む。
【0063】
本発明は、顆粒球、例えば好中球の活性化および/または浸潤の調節が治療的に有用であり得る疾患を治療するのに用いてもよい。本発明の特定の実施形態では、好中球活性の調節を、過剰な好中球の浸潤および好中球に仲介される組織損傷およびリモデリングに伴う慢性炎症性疾患などの炎症性疾患の治療のために用いることができる。従って、本発明の第三の態様の一つの実施形態では、炎症性疾患が慢性炎症性疾患である。かかる慢性炎症性疾患の例としては、血管炎、肺線維症および虚血再灌流傷害があるが、これらに限定されない。本発明の利用法を見つけることができる他の炎症性疾患は、炎症性筋肉疾患、慢性関節リウマチ、同種移植片拒絶、糖尿病、多発性硬化症(MS)/実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、全身エリテマトーデス(SLE)、皮膚炎、喘息、アレルギー、アレルギー性炎症性疾患(急性および慢性)、寄生虫病および肥満に伴う炎症を含む。本発明の利用法を見つけることができる他の好中球に仲介される状態としては、胸膜炎、肺線維症、全身性硬化症および慢性閉塞性肺疾患(COPD)があるが、これに限定されない。
【0064】
本発明はまた、様々なガンの治療に用いてもよい。「ガンの治療」は、癌性増殖および/または血管形成によって生じる状態の治療を含み、また腫瘍性成長または腫瘍の治療を含む。本発明を用いて治療し得る腫瘍の例としては、例えば骨肉腫および軟部肉腫を含む肉腫、癌腫、例えば乳−、肺−、膀胱−、甲状腺−、前立腺−、結腸−、直腸−、膵臓−、胃−、肝臓−、子宮−、前立腺−、卵巣および子宮頸癌、非小細胞肺癌、肝細胞癌、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫、神経芽細胞腫、黒色腫、骨髄腫、ウィルムス腫瘍、急性リンパ芽球白血病および急性骨髄芽球白血病を含む白血病、星状細胞腫、神経膠腫および網膜芽細胞腫がある。
【0065】
本発明は、既存のガンの治療、および初期治療または初期手術後のガンの再発の防止に特に有用である。
【0066】
本発明の別の実施形態では、顆粒球に仲介される状態は、好酸球に仲介される状態である。本発明の利用法を見つけることができる好酸球に仲介される状態としては、これらに限定されないが、例えば喘息などの炎症性肺疾患、アトピー性皮膚炎、NERDS(小結節好酸球増加症、リウマチ、皮膚炎および膨化)、好酸球増加症候群または肺線維症、接触性皮膚炎、湿疹、花粉症または他のアレルギー反応が挙げられる。好酸球が関与しかつ本発明の利用法を見つけることができる他の状態としては、炎症性腸疾患(IBD)、多発動脈炎およびウェゲナー肉芽腫症を含む血管炎性肉芽腫性疾患、自己免疫性疾患、好酸性肺炎、サルコイドーシスおよび特発性肺線維症がある。
【0067】
本発明の更に別の実施形態において、顆粒球に仲介される状態は、好塩基球に仲介される状態、例えば急性過敏性反応などのアレルギー反応である。本発明の利用法を見つけることができる他の好塩基球に仲介される状態としては、これらに限定されないが、喘息、花粉症などのアレルギー、慢性蕁麻疹、乾癬、湿疹、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)および関節炎がある。
【0068】
(製薬学的組成物)
本発明に係るおよび本発明に従って用いられる製薬学的組成物は、活性成分、例えばラクトフェリンモジュレータに加えて、製薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または当業者に周知の他の素材を含むことができる(例えば、Remington: the Science and Practice of Pharmacy, 21st edition, Gennaro AR, et al, eds., Lippincott Williams & Wilkins, 2005を参照)。かかる素材としては、例えば酢酸塩、トリス、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤;抗酸化剤;防腐剤;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;炭水化物;キレート剤;等張化剤;および界面活性剤を挙げることができる。
【0069】
製薬学的組成物はまた、治療される特定の徴候に対して必要に応じて選択され、好適には本発明の組成物の活性に悪影響を与えない補完的な活性を伴う、一つまたは複数の更なる活性化合物を含んでもよい。例えば、ガンの治療において、抗ラクトフェリン抗体などのラクトフェリンモジュレータに加えて、製剤またはキットは追加の成分、例えば第2のまたは更なるラクトフェリンモジュレータ、化学療法薬、またはラクトフェリン以外の標的、例えば特定のガンの成長に影響を及ぼす成長因子に対する抗体を含んでもよい。
【0070】
活性成分(例えば、ラクトフェリンモジュレータ)を、微小球体、マイクロカプセル、リポソームおよび他のマイクロ微粒子の送達システムにより投与することができる。例えば、活性成分を、コアセルベーション技術または界面重合によって調製し得るマイクロカプセル、例えばヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルの中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミン微小球体、ミクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに取り込むことができる。より詳細には、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st edition, Gennaro AR, et al, eds., Lippincott Williams & Wilkins, 2005を参照。
【0071】
徐放性製剤を活性薬剤の送達用に用いることができる。徐放性製剤の適当な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスがあり、このマトリックスは例えばフイルム、坐薬またはマイクロカプセルなどの造形品の形状である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはボリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L−グルタミン酸およびエチルL−グルタメートのコポリマー、非分解性のエチレン酢酸ビニル、分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸がある。
【0072】
上記のように、核酸を治療方法に用いることができる。本発明に用いるための核酸を、当業界で既知のあらゆる適当な技術を用いて興味の細胞に送達してもよい。核酸(任意選択的にベクターに含まれる)を、インビボまたはエクスビボの技術を用いて患者の細胞に送達することができる。インビトロの技術については、ウィルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、またはアデノ随伴ウイルス)でのトランスフェクションおよび脂質ベースのシステム(遺伝子の脂質を介した移送に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPEおよびDC−Choiである)を用いることができる(例えば、Anderson et al., Science 256:808−813 (1992)および国際公開第93/25673号パンフレット参照)。
【0073】
エクスビボの技術では、患者に直接投与するか、または例えば患者の体内に移植する多孔質膜中にカプセル化した変性細胞を用いて核酸を患者の単離細胞に導入する(例えば、米国特許第4,892,538号明細書および第5,283,187号明細書参照)。核酸を生細胞へ導入するために利用可能な技術としては、レトロウイルスベクタ、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などの使用を挙げることができる。
【0074】
ラクトフェリンモジュレータを、標的部位、例えば腫瘍部位に局所的に投与するか、または腫瘍もしくは他の細胞を標的とするように送達してもよい。標的療法を用いて、抗体または細胞特異的リガンドなどの標的化システムの使用により活性薬剤を特定のタイプの細胞により特異的に送達することができる。標的化は、様々な理由のため、例えば、薬剤が許容できないほど毒性である場合、またはそうでなければあまりにも高い用量を必要とする場合、またはそうでなければ標的細胞に導入することができない場合に望ましい可能性がある。
【0075】
(用量)
本発明で用いるためのラクトフェリンモジュレータは、個体に対する効果を示すのに十分な「薬学的有効量」で個体に適当に投与される。実際の投与計画は、治療される状態、その重症度、治療される患者、使用される薬剤を含む多くの要因に依存し、医師の判断によるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0076】
本発明は以下の非制限例で更に説明され、添付図面を参照する:
【図1a】バーキットリンパ腫(i)および脾臓(ポジティブコントロール)(ii)画分中の好中球の免疫組織化学的検出を示す図である。挿入図はアイソタイプのコントロールを示す。
【図1b】fMLP(100nM)存在下n=3、*p<0.05でのBL細胞の濃縮増大に向かう好中球走化性をまとめたグラフを示す図である。
【図1c】細胞馴化培地を用いて分析し、n=3、p<0.05での表示された時点で分析された、fMLP誘導好中球走化性BLをまとめたグラフを示す図である。
【図1d】コントロールまたは37℃で0時間および5時間培養後に得たトランスフェクトBL2細胞の存在下で分析されたfMLPに向かう好中球走化性を示す図である。アポトーシスレベルが、アネキシンV/ヨウ化プロピジウムで染色後にフローサイトメトリーにより評価された(アポトーシス% 0時間:BL2で7.53%, BL2/bcl2 3.27%;5時間:BL2で10.93%, BL2/bcl2 7.41 %)。すべてのエラーバーはs.e.m.を示す。
【図2a】BL培地の>50kDaおよび<50kDaの画分、fMLPのみ(+veコントロール)、アッセイ培地(−veコントロール)およびBL培地(未濾過、+fMLP)に向けたfMLP誘導(100nM)好中球走化性のグラフを示す図である。エラーバーはSEMを示す。*p<0.001;対応するポジティブコントロールと比較。結果は、10のランダムな高倍率視野中で計数された遊走好中球の平均数を示し、3回の独立した実験の代表値を表す。
【図2b】BL培地の>50kDaの分画の+vely荷電画分(Q1)、BL培地の<50kDaの分画の−vely荷電画分(Q2)、fMLPのみ(+veコントロール)、アッセイ培地(−veコントロール)および無血清培地(BLを含まず)のQ1およびQ2画分(非結合の溶離液画分)に対するfMLP誘導(100nM)好中球走化性の結果を示す図である。
【図3a】ポリクローナルヒト抗ラクトフェリン抗体(灰色)またはイソタイプコントロール(黒)の存在下での好中球走化性を示す図である。n=3;*p<0.05対イソタイプコントロール、NS=非有意対fMLP抗ラクトフェリンコントロール。エラーバーはSEMを示す。
【図3b】精製したヒトラクトフェリンのn=3、*p<0.05での用量反応分析を示す図である。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3c】n=3、*p<0.05での異なる化学誘引物質に対する好中球走化性を示す図である。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3d】C5aで誘発された単球(i)またはマクロファージ(ii)の走化性を示す図である。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3e】トランスウェルインサートの上部または下部コンパートメントにおけるラクトフェリンの存在下での好中球遊走を示す図である(n=3;NS=非有意)。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3f】ラクトフェリンまたはトランスフェリンに対する好中球走化性を示す図である(n=3;*p<0.05)。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3g】腹腔洗浄から得られた全細胞を示す図である(*p<0.05;対トランスフェリン)。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図3h】腹腔洗浄から得られた好中球数(GR1コントロール)を示す図である(*p<0.05対チオグリコール酸塩コントロール、**p<0.01対トランスフェリンコントロール)。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図4】fMLPで誘導したインビトロ走化性アッセイ(fMLP:100nM)で5時間培養後のMCF7細胞から得た上清およびイソタイプコントロールに対する好中球走化性を示す図である。結果は、3回の独立した実験の代表値である。エラーバーはSEMを示す。*p<0.001および#p>0.05:fMLPコントロールと比較。
【図5】乳(乳房細胞によって合成された)または好中球(二次顆粒に蓄えられた)からのラクトフェリンのfMLPで誘発された好中球走化性に対する阻害効果を比較するインビトロ好中球走化性アッセイの結果を示す図である。両方のタイプのラクトフェリンを10μg/mlの濃度で加えた。結果は、3回の独立した実験からの10のランダムな高倍率視野中で計数された遊走好中球の平均数を示す。エラーバーはSEMを示す。
【図6a】fMLP(100nM)、TNFα(1ng/ml)またはラクトフェリン(10μg/ml)の存在下または非存在下でプレインキュベート(37℃、40分)したPMA(100nM)で刺激を受けた好中球(37℃、30分)において評価したCD62Lの発現を示す代表的なフローサイトメトリーオーバーレイを示す図である。コントロール(真ん中のピーク)および刺激を受けた好中球(ラクトフェリン処理されたものは右または左のピーク)
【図6b】fMLP(100nM)、TNFα(1ng/ml)またはラクトフェリン(10μg/ml)の存在下または非存在下でプレインキュベート(37℃、40分)したPMA(100nM)で刺激を受けた好中球(37℃、30分)において評価したCD62Lの発現の効果を示す棒グラフを表す図である(代表的なオーバーレイを図6(a)に示す)。n=3;*p<0.05、**p<0.01。全てのエラーバーはs.e.m.を示す。
【図6c】fMLP(100nM)、TNFα(1ng/ml)またはラクトフェリン(10μg/ml)の存在下または非存在下でプレインキュベート(37℃、40分)したPMA(100nM)で刺激を受けた好中球(37℃、30分)において評価したCD11bの発現を示す代表的なフローサイトメトリーオーバーレイを示す図である。コントロール(真ん中のピーク)および刺激を受けた好中球(ラクトフェリン処理されたものは右または左のピーク)
【図6d】fMLP(100nM)、TNFα(1ng/ml)またはラクトフェリン(10μg/ml)の存在下または非存在下でプレインキュベート(37℃、40分)したPMA(100nM)で刺激を受けた好中球(37℃、30分)において評価したCD11bの発現の効果を示す棒グラフを表す図である(代表的なオーバーレイを図6(a)に示す)。n=3;*p<0.05、**p<0.01。全てのエラーバーはs.e.m.を示す。
【図6e】1uMのfMLPで刺激したコントロールまたはラクトフェリン前処理好中球(37℃、40分;10μg/ml)のコマ撮りのビデオ顕微鏡写真を示す。5つの異なる視野からのビデオ顕微鏡の30分の時点での代表的な画像(i)および定量化(ii)を示す図である;*p<0.05。エラーバーはs.e.m.を示す。
【図7a】コントロール(V)またはアポトーシスを受けるために刺激されたもの(A)としてのいくつかの細胞株、MCF7−カスパーゼ3(25.4%アポトーシス;100uMエトポシド,20時間),Jurkat(18.4%アポトーシス;1 uMスタウロスポリン、3時間),BL2(12.46%アポトーシス)およびBL2/bcl2(7.42%アポトーシス;1uMスタウロスポリン,1時間)におけるRT−PCR分析を示す図である。
【図7b】(i)は、100uMエトポシドまたは1uMスタウロスポリンで刺激後所定の時点(h)でのA549細胞におけるラクトフェリンの発現を示す図である。(ii)は、A549細胞におけるエトポシド誘導アポトーシスを防ぐために汎カスパーゼ阻害剤、zVAD−fmk(100μg/ml)の12時間の添加効果を示す図である。
【図7c】スタウロスポリン(1uM)の存在下(+)または非存在下(−)1時間無血清状態のBL2およびBL2/bcl2由来のTCA沈殿上清のイムノブロット分析を示す図である。A549細胞を100uMエトポシドを用いて(+)または用いずに(−)5時間刺激した。
【図7d】A549細胞をブレフェルジンA(1μg/ml)、タンパク質放出阻害剤の存在または非存在下でアポトーシス性になるまで誘導(100uMエトポシド;20時間)した際のイムノブロット分析を示す図である。
【図8a】エオタキシン(EO、100nM)の存在/非存在下でヒト乳または好中球(10μg/ml)から精製されたラクトフェリン(L)に対する好酸球遊走を決定するための化学遊走アッセイの結果を示す図である。
【図8b】エオタキシン(EO、100nM)の存在下でヒト乳(10μg/ml)から精製されたラクトフェリンの濃度変化に対する好酸球遊走を決定するための化学遊走アッセイの結果を示す図である。
【図8c】エオタキシン(EO、10OnM)の存在/非存在下でヒトラクトフェリン(LF)またはトランスフェリン(TRF,10μg/ml)に対する好酸球遊走を決定するための化学遊走アッセイの結果を示す図である。
【図9a】モノクローナル抗ヒトラクトフェリン抗体(mAb)またはイソタイプコントロール(iso)の存在下で48時間のタイムコースに渡って培養されたバーキットリンパ腫BL2細胞(全細胞集団)の増殖を示す図である。
【図9b】モノクローナル抗ヒトラクトフェリン抗体(mAb)またはイソタイプコントロール(iso)の存在下で48時間のタイムコースに渡って培養されたバーキットリンパ腫BL2細胞(生存細胞集団のみ)の増殖を示す図である。
【図10a】ラクトフェリンをコードする遺伝子の核酸配列を示す図である。
【図10b】ラクトフェリンタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図11】ラクトフェリンが好酸球遊走を特異的に阻害することを示す図である。(A)化学誘引物質としてのエオタキシン(100nM)の存在下で乳または好中球由来ラクトフェリン(LTF、10μg/ml)に対する好酸球遊走を決定する化学遊走アッセイ。(B)精製されたヒトラクトフェリンの濃度変化に対するおよび(C)異なる化学誘引物質(fMLP 100nM,C5a 6.25ng/ml,LTB 50nM)に対する好酸球の化学遊走アッセイ。(D)トランスウェルインサートの上部または下部のコンパートメント中のラクトフェリン(10のμg/ml)の存在下での化学遊走アッセイ。全ての結果は3回の独立した実験の平均値の代表であり、エラーバーはSEMを示し、また一元ANOVAをボンフェローニポストホックテストに続いて行った。*P<0.05、NS=非有意
【図12】ラクトフェリンによる好酸球遊走の阻害が、ラクトフェリンの鉄飽和状態および鉄結合特性に関わりなく起こることを示す図である。(A)組み換え鉄枯渇(Apo)、部分鉄飽和および完全鉄飽和(Holo)の組み換えラクトフェリン(10のμg/ml)の存在下でエオタキシンに対する好酸球遊走を決定するための化学遊走アッセイ。(B)組み換え精製ヒトラクトフェリン(LTF、10μg/ml)および精製ヒトトランスフェリン(TF、10μg/ml)の存在下におけるエオタキシンに対する好酸球遊走。全ての結果は3回の独立した実験の平均値の代表であり、エラーバーはSEMを示し、また一元ANOVAをボンフェローニポストホックテストに続いて行った*P<0.05、NS=非有意。
【実施例】
【0077】
(方法)
(細胞隔離)
単核白血球および多核(PMN)白血球を、Dransfield et al 1995, Blood 85, 3264.に既に記載されたような末梢静脈血から単離した。単離したPMN細胞の95%超が好中球であった。好酸球の単離は、Rossi et al (1998) J. Clin. Invest. 101, 2869−2874.に記載された方法に従った。単核球(90%超がCD14+細胞)を、CD14磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて単離された単核白血球から正選択した。ヒトの単球由来のマクロファージは、IMDM+10%の自己血清中に6日間単球を培養した後に得られた。
【0078】
(腹膜炎モデル)
マウス(8〜12週間目の雌のC57BL/6マウス、1グループにつきn=7)に対し、精製したヒトラクトフェリンまたはトランスフェリン(Sigma Aldrich社;生理食塩水中500ng/0.1%BSA)もしくは生理食塩水/0.1%BSAを腹腔内注射し、20分後に二度目の腹腔内注射を1%のチオグリコール酸塩(500のμl)または生理食塩水/0.1%BSAを用いて行った。リクルートされた白血球を、氷冷した2mMのEDTAを含む生理食塩水用いた腹腔洗浄の4時間後に採取した。採取した細胞は、ヌクレオカウンタ(Nucleocounter Chemometec社)を用いて計数され、この方法中、あらゆる無核細胞(赤血球)を除外した。好中球(GRI+)の数を決定するために、細胞を細胞計数ビーズ(Beckman Coulter社)により計数し、PE接合抗マウスLy6−GR1で免疫標識した。サイトスピン用の資料も調製した。
【0079】
(組織学および免疫組織化学的検査)
6〜10週間目のBalb/cSCIDマウスに対して、10のBL2細胞を腹腔内注射した。腫瘍が、注射後2ヵ月以内に腹腔内に発生した。マウスを屠殺し、腫瘍を切除した。ポジティブコントロールに関しては、Balb/cマウスをヒツジの赤血球細胞で免疫し、腹腔内注射の7日後に脾臓を採取し、凍結させた。免疫組織化学的検査を、ビオチン化抗マウスGR1抗体(10μg/ml;Biolegend社)またはアイソタイプコントロール(Serotec社)を用いて、BLまたは脾臓組織の凍結したアセトン固定分画(5μm)に対して行った。抗体の非特異的な吸着を、無血清タンパク質ブロック(Dako Cytomation社)を用いてブロックした。検出反応は、Vectastain Elite ABCアビジンービオチニル化ペルオキシダーセー複合体を用いて増幅された。ヘマトキシリンを対比染色剤として用いた。
【0080】
(走化性アッセイ)
インビトロ白血球走化性を、ポリビニル未被覆トランスウェルインサート(Costar社,細孔経5μm)を使用して、Truman et al.に従って測定した。走化性薬剤は、fMLP(100nM;Sigma Aldrich社)、C5a(6.25ngml−1;Sigma Aldrich社),IL−8(50nM;R&D Systems社)、LTB4(100nM;Sigma Aldrich社)およびヒトエオタキシン(100nM;Pepro Tech社)を含む。培養時間(37℃;5%のCO)は、細胞種(好中球および好酸球:60分;単球:90分;マクロファージ:4時間)に応じて変えた。特に明記しない限り、ラクトフェリンを10μg/mlの濃度で用いた。中和実験については、ポリクローナルウサギ抗ヒトラクトフェリン抗体(Sigma社)およびネガティブコントロールのウサギ免疫グロブリン(Dako Cytomation社)を用いた。フィルタを倒立顕微鏡(Axiovert 25 Zeiss)を用いて観察し、相対的な細胞遊走を、10のランダムな高倍率視野(400倍)中の移動した細胞の数を計測することにより決定した。
【0081】
(サイズ分画およびイオン交換クロマトグラフィー)
BL2細胞の馴化培地のサイズ分画を、製造業者の指示に従って、特定の分子量カットオフサイズを伴ったフィルタ(アミコン遠心分離フィルタYM−50およびYM−100,Millipore社)を用いて行った。イオン交換クロマトグラフィーを、正(Qビーズ)または負(Sビーズ)のいずれかの電荷を有するSepharose Fast Flowビーズ(Sigma Aldrich社)を用いて行った。使用前に、ビーズをPBSおよび中和バッファー(10mM Tris;pH7.0)を用いて洗浄した。BL2細胞馴化培地またはコントロール培地(RPMI 1640)をビーズと混合し、室温で5分間培養した。サンプルを遠心分離(300g,5分)し、上清液を保存した。ビーズを中和バッファーで洗浄し、次いで結合タンパク質を対応した溶出バッファー(Sビーズには 10mM Tris,0.5M NaCl;pH10;Qビーズには10mM NaAc,0.5M NaCI;pH4)を加えることにより溶出した。室温で5分間の培養後、ビーズを遠心分離(300g、5分)し、上清液を回収して分析した。走化性分析の前に、上清液を希釈し(1:100)、pHを7.0に調整した。タンパク質を、MALDI質量分析法を用いるペプチドマスフィンガープリントにより同定した。このプロセスは、エジンバラ大学のSchool of ChemistryのSIRCAMSにより実施された。
【0082】
(フローサイトメトリー)
特に明記しない限り、細胞を5%の通常のマウス血清または0.1%BSAを含むPBS中に懸濁し、あらゆる抗体のインキュベートを氷上で20分間行った。マウス好中球は、PE接合抗マウスLy6−GR1(GR1,eBioscience社)を用いるGR1エピトープの発現に基づいて画成した。好中球活性化の評価のために、以下の抗体を用いた:FITC接合抗CD62L(FMC46,mlgG2b,AbD Serotec)およびAPC接合抗CD11b(ICRF44,mlgG1, BD Pharmingen社)。アイソタイプのコントロールは、マウスIgG1:FITC (AbD Serotec社),マウスIgGI:APC(BD Pharmigen社)およびラットlgG2b:PE(eBioscience社)を含む。細胞アポトーシスを、アネキシンV/ヨウ化プロピジウムによる標識化の後に決定した。試料を、BD FACS CaliburまたはFACScan サイトメータ(BD Biosciences)を用いて分析し、データをBD CellQuestソフトウェアを用いて分析した。
【0083】
(逆転写(RT−PCR)分析)
全RNAを、製造業者の指示によりQiagen RNeasyキットを用いて細胞から抽出した。全RNA(2μg)を、プロトコルに従ってSuperscript III RTキット(Invitrogen社)を用いて逆転写した。得られたcDNAを、PCR混合物で1ng/50μlの濃度で、PCR実験のテンプレートとして用いた。使用したプライマーは:フォワードのLTF(5´−TGTCTTCCTCGTCCTGCTGTTCCTCG−3´)、リバースのLTF(5´−CTGCCTCGTATATGAAACCACCATCAA−3´)、フォワードのGAPDHプライマー(5´−CGACAGTCAGCCGCATCTTCTTTTGCGTCG−3´)およびリバースのGAPDHプライマー(5´−GGACTGTGGTCATGAGTCCTTCCACGATAC−3´)である。精製したPCR生成物(QIAquick ゲル抽出キット(Qiagen))の配列を決定して、Applied Biosystems モデル3730 自動キャピラリーDNAシークエンシングに、Applied Biosystems Big−Dye 3.1 chemistryを用いるシークエンシングサービス(英国、ダンディー大学、School of Life Sciences)により有効性を確認した。
【0084】
(免疫ブロット)
生存かつアポトーシスのBL2およびA549細胞からの馴化培地を回収し、その含有タンパク質をTCAで沈殿させた。簡潔に言えば、100μlのTCAを4℃で1mlの馴化培地中に加えた。サンプルを18000gで遠心分離し、ペレットをサンプルバッファー(NuPAGE, Invitrogen社)中に再懸濁する前に氷冷アセトンで洗浄した。サンプルを、4−12%のBis−Trisゲル (NuPAGE,Invitrogen社)を用いたSDS−PAGEにより溶解させた。次いで、タンパク質をニトロセルロース膜(NuPAGE,Invitrogen)に電気的にブロットし、0.5%のBSAでブロッキングし、HRP接合ヤギの抗マウスIgG(1:2000;Amersham社)に続くモノクローナルマウス抗ヒトラクトフェリン(1:100;LF.2B8,AbD Serotec)で標識化し、GE Healthcare(GE Healthcare社)を用いて視覚化した。
【0085】
(統計分析)
複数の実験からの結果を、中項±中項の標準誤差(s.e.m.)として表す。一元配置分散分析(ANOVA)に続いて、ボンフェローニポストホックテストを行った。全ての場合において、0.05以下のp値は統計学的に有意であると考慮した。
【0086】
(実施例1)アポトーシスのリンパ腫細胞は、好中球遊走を防止する因子を放出する
発明者らは、アポトーシス細胞によって放出される因子が好中球化学誘引の負の調節を含み、またかかる要因が炎症部位への好中球遊走を制限するように作用し得ると主張した。本発明者らは、まずモデル組織としてバーキットリンパ腫(BL)を分析した。その理由は、この腫瘍が高レベルのアポトーシスを示すからであり、高い割合のアポトーシスを示す全ての部位の特徴であるのと同様に、アポトーシス細胞を貪食するマクロファージによる著しい浸潤がこの腫瘍の一般的な『星空』組織学的所見を生み出した。しかし、マクロファージが豊富にある一方で、好中球は存在しない(図1a)。次に、本発明者らは、インビトロで好中球の遊走活性に対するBL細胞の効果を評価した。好中球をトランスウェルフィルタの先に加え、fMLPの影響下で誘導してBL細胞を含む下部チャンバに向かって遊走させるBoyden型走化性アッセイを用いて、本発明者らはBL細胞濃度に依存的な好中球遊走の有意な阻害を観測した(図1b)。この効果は、fMLPで誘導された好中球遊走に限定されず、使用した化学誘引物質(C5a、IL−8およびLTB4で誘導された化学遊走における好中球遊走の阻害)に関わりなく観察された。その後の化学遊走アッセイは、BL馴化培地が7時間を超えるタイムコースに渡って好中球遊走阻害効果(図1c)を保持したため、BL細胞が能動的に阻害因子を放出を放出したことを示した(図1c)。その理由は、阻害活性が親の細胞と比較して、アポトーシスの抑制因子、bcl2でトランスフェクションされた細胞に由来するBL馴化培地中でより低かったため、阻害因子の放出がBL細胞集団のアポトーシスのレベルに関連すること明らかである。(図1d)。
【0087】
(実施例2)ラクトフェリンの阻害要因としての同定
阻害因子の分子量を決定した。簡潔には、BL2馴化培地(37℃、24時間)を、特定の分子量カットオフサイズを有するフィルタを用いて分画した。50kDaのフィルタを使用して、>50kDaおよび<50kDaのBL培地の分画を回収し、fMLPに誘導(100nM)された好中球走化性を評価した。コントロールとして、fMLPのみ(+veコントロール)、アッセイ培地(−veコントロール)およびBL培地(未濾過の+fMLP)を含めた。結果は、図2aに示され、阻害因子が50kDaを超える分子量を有することを示す。
【0088】
イオン交換分析を用いて阻害因子のplを決定し、結果を図2bに示す。BL媒体の>50kDaの分画の正および負に荷電する分子を分けるためにQ(+ve荷電)セファロースビーズを用いた。BL媒体を正に荷電したビーズ(Qビーズ)で混合して、負に荷電した分子がビーズ表面に結合できるようにした。非結合分子(Q1分画;+に荷電)を回収する一方、結合分子をビーズ(Q2分画;−に荷電)から溶出した。fMLP(100nM)存在下でのこれら分画に向かう好中球走化性を評価した。コントロールとして、fMLPのみ(+veコントロール)、アッセイ培地(−veコントロール)および100nMのfMLPを含む無血清培地(BLを含まず)のQ1およびQ2分画(非結合の溶出分画)を用いた。
【0089】
阻害因子の分子量の決定を含むBL馴化培地の生化学的分析、イオン交換クロマトグラフィー、BL細胞によって放出されたタンパク質のフィンガープリンティングおよび候補分析を用いて、本発明者らは、好中球走化性を防止するBL細胞によって放出された因子をラクトフェリンと同定した。ラクトフェリンは、その鉄結合特性によりタンパク質のトランスフェリンファミリーに属する80kDaのグリコプロテインである。これは、好中球第2顆粒、涙、初乳、唾液および粘液分泌物のよく特性分析された構成要素であり、抗菌性活性を与える。本発明者らは、抗ラクトフェリン抗体のBL馴化培地への添加が、その好中球遊走阻害活性を中立化することを観察した(図3a)。類似する結果が、MCF7細胞から得た上清を用いて得られた(図4)。簡潔には、抗ラクトフェリン抗体は、fMLPにより誘導されたインビトロ走化性アッセイ(fMLP:100nM)での5時間のインキュベーションの後、MCF7細胞から得られた上清に向かう好中球走化性に対する阻害効果を無効にすることを示した。抗ラクトフェリン抗体を用いた場合に見られるように、アイソタイプのコントロールは、阻害効果の類似した無効を提示しないものとして含まれた。結果は、好中球の阻害活性が、BL細胞由来のラクトフェリンに制限されないことを示した。
【0090】
更にまた、ヒトの乳から精製されたラクトフェリンは、fMLPに応答した好中球遊走に対する用量依存の阻害能力を示し(図3b)、C5a、IL−8およびLTB4に対する遊走を類似するレベルにまで阻害した(図3c)。好中球遊走阻害効果は、ヒト好中球から精製されたラクトフェリンによっても示され(図5)、ラクトフェリンが精製の給源と関係なく阻害効果を好中球遊走に及ぼすことを示した。特に、コントロール好中球およびラクトフェリン(>98%の生細胞)で前処理した好中球のアネキシンV/プロピジウムヨウ化物染色によって評価されたように、ラクトフェリンは好中球の生存に対する毒性効果を及ぼさなかった。
【0091】
(実施例3)ラクトフェリンの遊走阻害効果の特異性
専門の食細胞の中で、ラクトフェリンの遊走阻害効果が好中球に特異的であるかどうかを決定するために、本発明者らは、インビトロの単球およびマクロファージ遊走に対する効果を分析した。図3cに示すように、単核食細胞の走化性はラクトフェリンによって損なわれなかった。本発明者らは、ラクトフェリンが好中球遊走を阻害するかまたは好中球反発を促進することに作用するのか更に評価した。本発明者らが好中球と共にラクトフェリンを上部チャンバに加えた走化性アッセイにおいて、本発明者らはfMLPおよびコントロール培地(図3e)に向かう好中球遊走の阻害を観察し、ラクトフェリンがそれらの遊走能力を阻害することによって、それとは別にあらゆる方向に遊走することを強いることによらず、好中球に対する直接的な効果を及ぼすことを示唆した。ラクトフェリンが鉄結合タンパク質のトランスフェリンファミリーに属するため、本発明者らはその同族のカチオン性グリコプロテイン、トランスフェリン(44%の配列相同性)が同じ好中球遊走阻害特性を有するかどうかを更に検査した:トランスフェリンはそのような効果を示さなかった(図3f)。
【0092】
(実施例4)ラクトフェリンのインビボの効果
インビトロでの好中球走化性のラクトフェリンの阻害効果を確立したため、本発明者らはその後ネズミ腹膜炎モデルを用いて生体内の白血球リクルートに対するラクトフェリンの効果を評価した。ラクトフェリンおよびトランスフェリンを、チオグリコール酸塩で誘導した白血球リクルートの腹膜腔へ影響する能力について試験した。図3g−hに示すように、チオグリコール酸塩が溶媒のみと比較して迅速な白血球リクルートを生じ、リクルートされた白血球が主に好中球(88%)であった。ラクトフェリンの存在下では、腹膜腔にリクルートされた好中球の総数は、コントロールと比較して52.19%減少したが、トランスフェリンは効果を有しなかった。ラクトフェリンは、チオグリコール酸塩によってリクルートされる白血球のタイプを変えず、むしろ腹膜腔に遊走する好中球の割合および数を特異的に低減した。このように、インビトロでの好中球誘引性に対する効果と同様に、ラクトフェリンはインビボでの好中球遊走の有力な阻害剤である。
【0093】
(実施例5)好中球活性化に対するラクトフェリンの効果
好中球遊走は、細胞活性化および分極化を含む多段階プロセスであるため、本発明者らはラクトフェリンの観察された好中球遊走阻害効果が好中球活性化状態で明らかであると推論した。本発明者らは、二色のフローサイトメトリーを用いてCD62L(L−セレクチン)およびCD11bの二つの既知活性化関連マーカーの発現を測定することを選択した。活性化の際、CD62Lは好中球表面から開裂されるが、それが細胞内プールから細胞膜へと移行されるに従って、CD11bの発現は上方制御される。図6a−bに示すように、fMLP、TNF−αおよびPMAを含む様々な活性化刺激に応答して、ラクトフェリンで前処理された好中球は、コントロールよりもより低いレベルのCD11bと、より高いレベルのCD62Lを示した。ラクトフェリンで処理した好中球のその後のコマ撮りビデオ顕微鏡分析を行って、好中球形態に対するラクトフェリンのあらゆる効果を調べた。1時間のタイムコースの間に、fMLPで刺激したラクトフェリン前処理好中球集団は、大きな割合の非付着性細胞と、丸く、活性化されていない形態を表わす細胞を示した(図6c)。まとめると、これらの所見は、好中球遊走に対するラクトフェリンの観察された阻害効果を広げ、この結果が好中球活性化の障害に帰される可能性があることを示した。
【0094】
(実施例6)アポトーシス誘導がラクトフェリン発現および放出を上方制御する
BL細胞による好中球遊走の阻害がBL細胞アポトーシス(図1d)と相関するのが明白であるという早期観察によって強化された本発明者らの最初の仮説を追求して、本発明者らは細胞タイプのパネル中のアポトーシス誘導に続くラクトフェリンの発現を評価した。半定量的なRT−PCRを用いる転写分析によって、本発明者らは、ラクトフェリンが以前報告されたように、Jurkat、BL2またはA549細胞によらず、生存状態のMCF7哺乳上皮細胞によって発現されたことを見つけた。アポトーシス誘導の際、ラクトフェリンの発現はMCF7細胞では上方制御され、Jurkat、BL2およびA549では新たに発現される(図7)。より具体的には、ラクトフェリンがエトポシドまたはスタウロスポリンによるA549細胞のアポトーシス刺激後、早期に新たに転写された(図7b)。A549細胞を、アポトーシス誘導を防止した広範に渡るカスパーゼ阻害剤zVAD−fmkで処理すると、アポトーシスに誘発されたラクトフェリンの低減されたレベルは明らかだった。アポトーシスの誘導に対するラクトフェリン産生の連動は、アポトーシス阻害剤、bcl2の効果によって更に裏付けられた;アトーシスからの保護を付与した外来性のbcl2を発現するBL細胞は、アポトーシス誘導剤、スタウロスポリンへの露出の際に、元の対応物より低いレベルのラクトフェリンを発現した(図7a,c)。アポトーシス関連のラクトフェリン産生が転写レベルで示されるだけではなく、ラクトフェリンタンパク質もアポトーシスしている細胞の上清から回収された(図7c)。新しく合成されたタンパク質の細胞内輸送に干渉するブレフェルジンでのA549細胞の処理は、アポトーシスに誘導されたラクトフェリン放出の阻害をもたらし、アポトーシスを受ける細胞によるラクトフェリンの新たな合成および分泌を更に証明する(図7c)。これらの結果は、ラクトフェリンをそのアポトーシスプログラムの関与の結果として細胞から産生、放出することを示す。
【0095】
(実施例7)ラクトフェリンは好酸球遊走を阻害する
図8aは、エオタキシン(EO、100nM)存在/非存在下での、ヒトの乳から精製したラクトフェリン(L)または好中球(10μg/ml)に向かう好酸球遊走を決定するための走化性アッセイの結果を示す。図8bは、エオタキシン(EO、100nM)の存在下でヒトの乳から精製したラクトフェリン(10μg/ml)の濃度変化に向かう好酸球遊走を決定するための走化性アッセイの結果を示す。これらの結果は、ラクトフェリンが好中球遊走を阻害するのと同様に、他の顆粒球の遊走を阻害することも示す。図8cは、エオタキシン(EO、100nM)の存在/非存在下でのヒトラクトフェリン(LF)またはトランスフェリン(TRF,10μg/ml)に向かう好酸球遊走を決定するための走化性アッセイの結果を示し、トランスフェリンがラクトフェリンと同じ効果を有しないことを示す。
【0096】
(実施例8)外来性のラクトフェリンは腫瘍細胞の成長を支援する
ガン細胞の増殖に対するラクトフェリンの効果を調べるために、バーキットリンパ腫BL2細胞をモノクローナル抗ヒトラクトフェリン抗体(mAb)またはアイソタイプコントロール(iso)の存在下48時間のタイムコースに渡って培養した。結果を図9に示す。図9aは、ラクトフェリン非存在下で培養したBL2細胞(全細胞集団)が低減した増殖率を示すことを表す。図9bは、モノクローナル抗ヒトラクトフェリン抗体(mAb)またはアイソタイプコントロール(iso)の存在下で48時間のタイムコースに渡って培養したバーキットリンパ腫BL2細胞(生存細胞集団のみ)の増殖を示す。ラクトフェリン非存在下で培養したBL2細胞は、低減した増殖率を示す。これらの結果は、ラクトフェリン阻害剤の抗ガン治療における使用を支持する。
【0097】
まとめると、本発明者らの所見は、静菌、免疫調節、細胞成長調節およびタンパク質分解を含む多面的な活性に周知のタンパク質である、ラクトフェリンに関する新規な免疫調節性および恒常性機能を実証する。乳汁分泌の間タンパク質を分泌する乳腺上皮細胞によるラクトフェリンの産生、および好中球の二次顆粒中の構成的存在は、よく確立されている。
【0098】
ここで、本発明者らは、ラクトフェリンが、以前に認識されたものよりもより一般的に発現され、重要な細胞プログラムであるアポトーシスと関連し、ここでアポトーシス部位に対する好中球化学誘引性の抑制によりプログラム化された細胞死を生じている細胞に対する急性炎症性応答を阻害するように機能し、故にアポトーシスプログラムの非催炎的な性質の一因となることを実証する。
【0099】
ラクトフェリンは、リポキシンと共に、好中球遊走を負に制御する数少ない分子の1つとして数えることができる。更に重要なことに、好中球に対する遊走阻害特性の高い特異性に基づいて、ここではラクトフェリンが、血管炎、肺線維症および虚血再潅流障害を含めた、好中球を介したホスト組織の損傷およびリモデリングを導く過剰な好中球浸潤を特徴とする広範な慢性炎症性疾患を対象とした有望な治療標的として同定される。更に、好中球が支援的な役割を演じ得る特定の腫瘍では、ラクトフェリン投与による好中球浸潤の制限が治療上有益であり得る。実際、ラクトフェリンは特定の場合において抗腫瘍活性を有すると記述されている。しかし、好中球が存在しない大多数の腫瘍において、本発明者らは、好中球の周知の腫瘍退縮性効果があるので、ラクトフェリンの阻害による好中球浸潤の促進が腫瘍の崩壊を行うことを示唆する。
【0100】
(実施例9)
本発明に関連する更なるデータは、Bournazou et al., Journal of Clinical Investigation (2009: Full reference Bournazou, I., Pound, J. D., Duffin, R., Bournazos, S., Melville, L. A., Brown, S. B., Rossi, A. G., and Gregory, C. D. (2009). 「アポトーシスヒト細胞がラクトフェリンの放出による顆粒球の遊走を阻害する」 J. Clin Invest 119, 20−32)に見出すことができる。明細書の本部分における図についてのあらゆる言及は、論文Bournazou, 2009.に明示する図についての言及である。
【0101】
特に、前記論文の図1Bは、fMLPに向ってトランスウェルフィルタを通過して遊走する好中球および腫瘍細胞の上清による阻害を示す図を提供する。加えて、図2Cは、熱により非働化(90℃で10分間)したBL馴化培地に向かう好中球の走化性アッセイの結果を示す。
【0102】
図2Dは、ラクトフェリンと同定されたペプチドバンドのトリプシン消化についてのMALDI−TOFマススペクトルを示す。加えて、MCF7細胞由来の馴化培地を用いたヒト抗ラクトフェリンポリクローナル抗体存在下での好中球走化性が、Bournazouの論文の図3Bに示される。
【0103】
ノックダウン細胞におけるアポトーシス誘導に続き、低減したラクトフェリン発現を示す安定的にラクトフェリンshRNAを発現するBL細胞によってラクトフェリン発現を評価するRT−PCR分析は、図3Cに記載される。更に、図3Dは、コントロールラクトフェリンshRNAおよびモックトランスフェクトBL細胞から得た上清の存在下におけるfMLPに向かう好中球遊走を決定するための走化性アッセイの結果を示す。
【0104】
図4Bは、中和性抗ラクトフェリンモノクローナル抗体の添加に続きラクトフェリンと共にインキュベートした化学誘引物質に向かう好中球遊走を示す。次いで、抗体は磁気抗lgGビーズを用いて抗体を除去して、ラクトフェリンの阻害効果が化学誘引物質の調節によらないことを実証した。
【0105】
ラクトフェリンの好中球に対する結合を実証するためビオチン化ラクトフェリンを用いるかまたは用いずに37℃で1時間インキュベートした好中球のライセートの免疫ブロット分析を図8に示す。更に、ラクトフェリンの好中球に対する直接的な結合の詳細な分析(スキャッチャードプロット)も実証される(Bournazou, 2009論文中の補足図2参照)。
【0106】
精製された組み換え型の鉄枯渇(apo)、一部鉄飽和および完全鉄飽和(holo)の組み換え型ラクトフェリンの存在下における好中球遊走を決定する走化性アッセイを論文中の図4Hに示す。
【0107】
図5Cは、インビボのラクトフェリンによる好中球遊走の阻害を実証する細胞のサイトスピンイメージを提供する。
【0108】
図6Cは、ラクトフェリンがfMLPに応答する好中球の細胞内のCa2+レベルの変化を調節することができないことを実証する結果を示す。
【0109】
図7Eは、ラクトフェリンがfMLPに応答する好中球のERKリン酸化を調節するようであることを示す。
【0110】
原発性ネクローシス細胞がラクトフェリンを放出することができないことを図8Fに示し、ネクローシス細胞が好中球遊走阻害のメディエーターを放出しないことを補足図3に示す。
【0111】
ラクトフェリンに対するモノクローナル抗体を使用した好中球遊走の阻害の中和を補足図1に詳細に示す。本明細書中で言及するあらゆる文書は参考として援用される。本発明の記載された実施形態に対する様々な変更および変動は、本発明の範囲および精神から離れることなく、当業者にとって明らかである。本発明は特定の好適な実施形態に関して記載されるが、請求される本発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されないと理解されたい。実際、記載された本発明を実施方法の、当業者にとって明らかである様々な変更および変動が、本発明に包含されることを目的とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または細胞集団に向けて顆粒球活性化および/または遊走を調節するに当たり、前記細胞および/または前記顆粒球の近傍でラクトフェリンの量を調整することを備える方法。
【請求項2】
前記方法は、前記細胞または細胞集団に向けて顆粒球遊走を阻害する方法である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記細胞および/または顆粒球の近傍でラクトフェリンの量を増加させることを備える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記細胞にラクトフェリンまたはラクトフェリンをコードする核酸を投与することを備える請求項3に記載の方法。
【請求項5】
顆粒球の活性化を阻害する前記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記顆粒球は、ラクトフェリンまたはラクトフェリンをコードする核酸の投与なしの顆粒球と比較して、CD62Lの切除の低減およびCD11bの発現の低減を示す請求項5に記載の方法。
【請求項7】
顆粒球の分極化を阻害す前記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記方法は炎症性疾患の治療方法である請求項2〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記炎症性疾患は、慢性炎症性疾患である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞集団は腫瘍細胞を含む請求項2〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、ガンの治療方法である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記細胞または細胞集団へ向けて顆粒球遊走を増強する方法である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記細胞および/または顆粒球にラクトフェリンの阻害剤を投与することを備える請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞集団は、アポトーシス細胞を含む請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、前記細胞集団に対する炎症性応答を誘発または増強させる請求項12〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記細胞または細胞集団の顆粒球に仲介される殺害を増強させる請求項12〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
前記細胞集団は、腫瘍細胞を含む請求項12〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、ガンの治療方法である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記顆粒球は好中球である前記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
医薬用のラクトフェリン濃縮または発現の阻害剤。
【請求項21】
炎症性疾患の治療方法用のラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータ。
【請求項22】
前記炎症性疾患が、慢性炎症性疾患である請求項21に記載のモジュレータ。
【請求項23】
前記モジュレータが、ラクトフェリン阻害剤である請求項21または請求項22に記載のモジュレータ。
【請求項24】
ガンの治療用で、顆粒球、例えば好中球が支援的な役割を演じ、ラクトフェリンの濃縮または発現、ラクトフェリンをコードする核酸のエンハンサであるラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータ。
【請求項25】
前記モジュレータが、ラクトフェリンをコードする核酸、またはラクトフェリン活性もしくは発現のエンハンサである請求項21または請求項22に記載のモジュレータ。
【請求項26】
ガンの治療用であるラクトフェリン濃縮または発現の阻害剤。
【請求項27】
ラクトフェリン濃縮または発現のモジュレータを含む製薬学的組成物。
【請求項28】
前記組成物は、ラクトフェリン、ラクトフェリンをコードする核酸、またはラクトフェリン活性もしくは発現のエンハンサを含む請求項27に記載の製薬学的組成物。
【請求項29】
前記組成物は、炎症性疾患の治療用である請求項28に記載の製薬学的組成物。
【請求項30】
前記組成物は、ラクトフェリン阻害剤を含む請求項27に記載の製薬学的組成物。
【請求項31】
前記組成物は、ガンの治療用である請求項29または請求項30に記載の製薬学的組成物。
【請求項32】
前記ラクトフェリン阻害剤を、抗体および/またはその抗原結合断片、およびセンスまたはアンチセンス核酸配列からなる群から選択する請求項13の方法、請求項20または26の阻害剤、請求項23のモジュレータまたは請求項30の製薬学的組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図3g】
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【図3h】
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【図4】
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【図5】
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【図6aand6c】
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【図6b】
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【図6d】
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【図6e】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−524748(P2011−524748A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514122(P2011−514122)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001550
【国際公開番号】WO2009/153573
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(510055323)ユニヴァーシティ コート オブ ザ ユニバーシティ オブ エディンバラ (6)
【Fターム(参考)】