方法及び使用
本発明は、T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、(i)T細胞を刺激するステップと、(ii)前記T細胞中で、PBKアルファ、PBKデルタ又はm−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップとを含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法に関する。本発明はまた、PBK阻害剤の一定の使用、特定の使用のためのPBK阻害剤、及びキットにも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K,phosphatidyl inositol-3-kinase)阻害剤の新たな使用に関する。特に、本発明は、T細胞中でのFoxp3発現の誘発のための新たな方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調節性T細胞(Treg細胞,regulatory T cell)は、Treg細胞の非存在下でエフェクターT細胞によって引き起こされる自己免疫病及び免疫病態を予防するのに不可欠である。エフェクターT細胞を抑止すること(自己免疫病及び免疫病態を抑えること)又は免疫応答(たとえば腫瘍に対する)を高めることを目的とした免疫介入は、Treg細胞及びエフェクターT細胞の間のバランスを変化させるアプローチを必要とする。現在のアプローチは、時間がかかり、非効率的であり、生物学的な供給源から精製された生理活性ペプチドの使用に依存する又は先在するTreg細胞の増大に依存する。
【0003】
転写調節因子Foxp3、細胞内タンパク質、及び転写調節因子のフォークヘッド/ウィングドヘリックスファミリーのメンバーの発現は、Treg細胞の特徴である。
【0004】
生理活性ペプチドTGFベータを用いるT細胞の処理は、Foxp3のデノボ発現を誘発することで知られている(Chen et al., 2003 J. Exp. Med. vol 198, pp1875-1886)。
【0005】
ある種のインビボ免疫化プロトコールは、T細胞受容体トランスジェニックT細胞中でFoxp3発現を誘発することが報告された(Kretschmer et al., 2005 Nature Immunol. vol 6 p1219)。このアプローチは、抗原に対する特異性及び標的T細胞のMHC拘束性の両方についての知識を必要とし、したがって、その結果、免疫化に使用される抗原は選択することができる。この条件は、T細胞がトランスジェニックT細胞受容体を保有する、人工的な実験系によって満たされる。この条件は自然発生の自己免疫性疾患を満たさないといったことがこのアプローチに関する課題となる。
【0006】
mTOR阻害剤ラパマイシン(シロリムス)は、Foxp3を発現する、先在するTreg細胞の増大を操作するために使用されてきた(Zheng et al., 2003 Immunity vol 19 p503; Battaglia et al., 2005 Blood vol 105 p4743)。しかしながら、そのような処理は、Foxp3のデノボ発現を誘発しないことが示され、これは課題となる。たとえば、Battagliaら(同書)は、「ラパマイシンを曝露したT細胞培養物中の・・・CD4 CD25 Tr細胞の存在は、CD25 T細胞からのCD25 Tr細胞のデノボ誘発又は培養の初めに、限られた量で既に存在する(つまり、10%のCD4 CD25bright T細胞がナイーブ脾臓中に普通見出される)、自然発生のCD4 CD25 FoxP3 Tr細胞サブセットの選択的な増大のいずれかによるものであるかもしれない。この疑問を検討するために、CD25 Tr細胞を除去したCD4 T細胞を、ラパマイシンの存在下又は非存在下で3週間培養した。CD4 T細胞とは対照的に(図3A)、ラパマイシンの存在下で活性化されたCD4 CD25 T細胞は、インビトロでの細胞増殖を抑制しなかったT細胞の集団を生じさせた(図4A)。したがって、FoxP3発現は、CD4 CD25ラパマイシン処理T細胞中でではなくラパマイシンに曝露されたCD4 T細胞中で増強された(図4B)」と述べている。そのうえ、用いられるプロトコールは、数週間にわたる、複数回のインビトロ刺激に依存し、これは、非常に大きな労働力を要する欠点を有する。Treg細胞数に対するラパマイシンの負の効果もまた当技術分野で報告された。ラパマイシンは、合成化合物ではなく、したがって、不純物の課題及び/若しくは変化又は製剤の課題から影響を受け得る。
【0007】
したがって、先行技術による技術は、典型的に、既にFoxp3を発現している細胞中でのFoxp3発現を増強することができる既存のTregの刺激若しくは活性化を介して作用している又は非Tregのブロッキングに基づき、集団中でのTregの増大/選択若しくは過剰発現をもたらす。これらの結果は、上記に言及されるようなラパマイシン処理と同じである。他の例は、Foxp3発現の既に存在するレベルを典型的に増強するTGFベータの使用である。そのようなアプローチは、デノボFoxp3発現/デノボTregをもたらさない。
【0008】
PI3Kアイソザイムp110デルタの遺伝子ターゲティングは、胸腺中でのTreg細胞数の増加をもたらすが、末梢リンパ系器官中でのTreg細胞数の減少をもたらす。これには炎症性腸疾患が伴い、これは、Treg細胞の欠損に関連づけられることが多い。PI3Kシグナル伝達及びFoxp3発現の間の関係に関する明確な結論はこれらの研究から引き出すことはできない。
【0009】
PI3Kアイソザイムp110ガンマの阻害剤は、Treg細胞とは別個のメカニズムに基づいた自己免疫性疾患の治療についての評価中である。
【0010】
国際公開第2004/032867A3号パンフレットは、エフェクターT細胞又は調節性T細胞と優先的に関連する分子及びそれらの使用の方法を開示する。この文献は、集団レベルについての研究を示す。PI3K阻害剤は、この文献の76ページ及び図23Aに記載されている。Foxp3発現に対する効果(たとえあったとしても、高用量の、この文献による阻害剤は、おそらく細胞毒性であり、低用量ではほぼ間違いなく有意な効果を示さない)は、Foxp3発現細胞の増大又はFoxp3発現細胞中でのFoxp3の発現の増強によるものであるように思われる。国際公開第2004/032867A3号パンフレットの教示にデノボFoxp3発現の証拠はない。この文献の根本的な方針は、免疫系のバランスを傾けるような、たとえば全般的に自己免疫病を低下させようとする又は全般的に応答を増強しようとする試みにある。新たなTregを作製するための教示も示唆もない。それらの方法は、せいぜい、休止細胞(PBL)が、同時に、活性化され(CD3/CD28)、阻害される(LY294002)こと、つまり、同時の活性化及び刺激を教示するものである。他の先行技術による研究(たとえばBattaglia(同書))と共通して及び発明者ら自身の研究と共通して、そのような処理は、デノボFoxp3発現/デノボTregを生じない。
【0011】
米国特許出願公開第2004/0072766号は、細胞内シグナル伝達を操作することによってT細胞応答を調整するための方法を開示する。この文献に開示される方法は、刺激物質及び阻害剤を一緒に、つまり一度に又は同時に添加することを含む。デノボFoxp3発現はこのアプローチでは生じない。
【0012】
Foeyら(Arthritis Res 2002 vol 4 pp64-70)は、サイトカインに刺激されたT細胞が、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びp70S6Kに依存する、マクロファージによるIL−10の産生を誘発するといったこと並びに関節リウマチのその密接な関係を開示する。これは、T細胞の存在下でのマクロファージに関する研究に関する。T細胞は、接触の前及び後の効果を分けるために固定された。したがって、細胞は固定されており、PI3K阻害剤がこれらの方法で添加される場合、細胞はもはや生きていない。したがって、デノボFoxp3発現は、これらの方法によってもたらされない。
【0013】
Breslinらは、ラパマイシン及びLY294002が協力して、T細胞増殖を阻害することを開示する。この例は、他の研究と共通して、増殖などのようなそれらの生態の側面を研究するために、T細胞を阻害剤に曝露することを含む。阻害剤は、刺激の前に、典型的に、刺激の少なくとも30分前に添加される。次いで、細胞数又は他のパラメーターが検査される。デノボFoxp3発現はそのような技術によって生じない。
【0014】
米国特許出願公開第2005/0261317号は、ヒトPI3Kデルタの阻害剤を開示する。この文献は、単に、ある種の好中球、B細胞、及びある種のエキソサイトーシス細胞について検査するものであり、T細胞又はTregと関係がない。示されるデータは、単に、開示されるPI3K阻害剤が関係のある機能を実際にブロックするといったことを検証することを目的とする。
【0015】
米国特許出願公開第2004/0126781号は、CD28媒介性の同時刺激シグナルの阻害によって免疫媒介性の流産を予防する方法を開示する。これらの方法は、可溶性のリガンドを用いるCD28のブロッキングを含む。可溶性のリガンドを用いるCD28のブロッキングはT細胞の刺激/活性化と明らかに相互に排他的である。
【0016】
本発明は、先行技術と関連する(1又は複数の)課題を克服しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2004/032867A3号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0072766号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0261317号
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0126781号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Chen et al., 2003 J. Exp. Med. vol 198, pp1875-1886
【非特許文献2】Kretschmer et al., 2005 Nature Immunol. vol 6 p1219
【非特許文献3】Zheng et al., 2003 Immunity vol 19 p503
【非特許文献4】Battaglia et al., 2005 Blood vol 105 p4743
【非特許文献5】Arthritis Res 2002 vol 4 pp64-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
Foxp3発現は、調節性T細胞の機能と関連している。一定の状況では、Foxp3発現は、調節性T細胞の機能を誘発するのに必要であり、且つ十分であることが示された。実際に、Foxp3発現は、ある環境では、T細胞の他の亜集団と比較した、調節性T細胞の指標又はそれを確認するものとして見なされてきた。先行技術では、Foxp3発現を薬理学的に誘発する唯一知られている方法は、生理活性ペプチドTGFβを用いてT細胞の集団を処理することによるものであった。
【0020】
本発明者らは、驚いたことに、Foxp3発現の誘発のための新たな技術を発見した。この新たな方法は、Foxp3発現を誘発することが以前に示されていないPI3−K阻害剤の使用を含む。
【0021】
本発明者らの重大な発見は、標的細胞に対する処理のタイミングに関連するものである。具体的には、発明者らは、阻害剤(PI3K阻害剤など)が、細胞を刺激した後にのみ細胞に添加されなければならないといったことを見出した。したがって、阻害剤を細胞と接触させる前に、刺激/活性化ステップの後にインキュベーションしなければならない又は時間的な猶予を設けなければならない。活性化と同時の又は活性化の前の、阻害剤の添加はデノボFoxp3発現をもたらさない。したがって、阻害剤は、刺激/活性化の後に添加されるべきであるといったことは本発明の重大な教示となる。これらの重要なタイミングは、下記に、より詳細に説明される。
【0022】
一定のPI3−K阻害剤は、mTORを阻害することが示されたが、Foxp3発現を誘発するようにそれらが作用する証拠はない。そのうえ、ラパマイシン(mTORに作用する)は、CD4+ CD25+ Foxp3+調節性T細胞を選択的に増大させることができることが示されたが、そのような技術を使用するデノボFoxp3発現のいかなる誘発の実証もなかった。したがって、ある種のPI3−K阻害剤が、T細胞中でのデノボFoxp3発現の誘発及びTregの機能を直接もたらし得るといった、本発明者らによってなされた発見は、驚くべき、意義深い進歩である。
【0023】
本発明は、これらの驚くべき発見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、第1の態様では、本発明は、T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法を提供する。
【0025】
他の態様では、本発明は、あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含み、前記阻害が、刺激の10〜22時間後に開始される方法に関する。
【0026】
他の態様では、本発明は、1又は複数の調節性T細胞を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップであって、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始されるステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法に関する。
【0027】
適切には、前記阻害が、刺激の約17〜19時間後に開始される。
【0028】
適切には、前記阻害が、刺激の約18時間後に開始される。
【0029】
適切には、シグナル伝達ステップを阻害するステップは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む。
【0030】
適切には、PI3Kアルファ、PI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップは、前記細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する。
【0031】
適切には、前記方法は、シグナル伝達を阻害する時間までに前記刺激を中止するステップをさらに含む。
【0032】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法に関する。
【0033】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたCD8−T細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法に関する。
【0034】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法に関する。
【0035】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、m−TOR阻害剤を用いて処理するステップを含む方法を提供する。m−TOR阻害剤は、ラパマイシン(シロリムス)若しくはRAD001(エベロリムス)等のその類似体、CCI−779(テムシロリムス)、AP23573、又はPI103等の混合m−TOR/p110アルファ阻害剤等の、あらゆる知られているm−TOR阻害剤であってもよい。好ましくは、前記m−TOR阻害剤はラパマイシンである。
【0036】
刺激は、本明細書に記載されるように、Treg産生に向けて、T細胞を、PI3K阻害剤及び/又はm−TOR阻害剤の作用に感受性にする、あらゆる適した方法によるものであってもよい。好ましくは、T細胞の刺激は、TCR受容体の刺激によるものである。いくつかの実施形態では、この刺激は、持続的な又は永続的な刺激であってもよく、これは、PI3K阻害剤及び/又はm−TOR阻害剤の作用時に刺激が必ずしも中止されないことを意味する。好ましくは、刺激されたT細胞は、T細胞受容体を介して刺激されたT細胞である。より好ましくは、T細胞の刺激は、TCR受容体刺激の中止が後続する前記TCR受容体の刺激によるものである。他の実施形態では、刺激は、CD3を介するものであってもよい。いずれの場合も、好ましくは、CD28などのような同時刺激受容体もまた刺激される。好ましくは、CD28は、TCR受容体(1又は複数)又はCD3受容体(1又は複数)の刺激と同時に刺激される。好ましい実施形態では、刺激は、好ましくはTCR及びCD3を介する刺激の中止が後続する、TCR及び/又はCD3並びにCD28の同時の刺激を介するものである。刺激の中止は、シグナルの単純な除去を指してもよい又は阻害剤(1又は複数)の添加時の、CD3/CD28の同時刺激のブロッキングなどのような、より積極的な方法を指してもよい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態は、たとえば実施例の部に説明されるように、シグナル遮断ステップをさらに含んでいてもよい。
【0038】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、(i)T細胞を刺激するステップと、(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、(iii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介する及び/又はm−TORを介する及び/又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、ステップ(ii)は、前記刺激を中止するステップを含む。
【0039】
前記T細胞の刺激は、TCR受容体の刺激を介する又はCD3及びCD28などのような同時刺激受容体を介するものであってもよい。好ましくは、刺激は、T細胞受容体を介する前記刺激の中止が後続する、T細胞受容体を介するものである。
【0040】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法を提供する。好ましくは、ステップ(iii)は、前記刺激を中止するステップを含む。
【0041】
好ましくは、前記T細胞を刺激するステップは、前記T細胞を、抗TCR抗体又は抗CD3抗体と接触させるステップを含む。好ましくは、前記T細胞を刺激するステップは、前記T細胞を抗CD28抗体と接触させるステップ、好ましくは、前記T細胞を、抗TCR抗体又は抗CD3抗体と、さらに抗CD28抗体と同時に接触させるステップをさらに含む。そのような抗体の提示の形態は操作者が選択することができ、たとえば、これは、プレートに結合した抗体を使用して又は抗CD3/抗CD28抗体などのような抗体でコーティングしたビーズを使用することによって、又は操作者に知られている提示の他の方法によって達成することができる。
【0042】
他の実施形態では、刺激は、特異的なペプチド抗原と接触させた抗原提示細胞などのような抗原提示細胞との、末梢T細胞などのような標的細胞の接触によるものであってもよい。これらの実施形態では、他の刺激形態を含む実施形態と同様、前記刺激は、永続的又は持続的であってもよく、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に刺激が中止されないことを意味し得る。他の実施形態では、刺激は、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に中止してもよく、m−TOR/PI3K/Akt阻害時の前に中止してもよく、適切には、刺激は、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に中止してもよい。
【0043】
他の態様では、本発明は、あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含む方法を提供する。
【0044】
他の態様では、本発明は、T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、T細胞を刺激するステップと、前記刺激を中止するステップと、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、前記方法は、T細胞受容体を介してT細胞を刺激することによって、T細胞中でFoxp3発現を誘発するステップと、T細胞受容体を介して前記刺激を中止するステップと、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。
【0045】
他の態様では、本発明は、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む、上記に記載されるような方法を提供する。好ましくは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップは前記細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含む。好ましくは、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する。
【0046】
PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップが、m−TORを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む場合、好ましくは、m−TORを介するシグナル伝達を阻害するステップは、前記細胞をラパマイシンと接触させるステップを含む。
【0047】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用を提供する。
【0048】
他の態様では、本発明は、Foxp3発現の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用を提供する。
【0049】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用を提供する。
【0050】
好ましくは、調節性T細胞の欠損症は自己免疫障害又は免疫病態である。好ましくは、前記欠損症は、関節リウマチ若しくは糖尿病、好ましくはI型糖尿病、大腸炎、又はTreg細胞の存在が好ましい予後を示すリンパ増殖性障害、好ましくはB細胞リンパ腫である。
【0051】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤を提供する。
【0052】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤を提供する。
【0053】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのm−TOR阻害剤を提供する。
【0054】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのAkt阻害剤を提供する。
【0055】
他の態様では、本発明は、TCR刺激剤並びにPI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤及び/又はm−TORの阻害剤及び/又はAktの阻害剤を含むキットを提供する。
【0056】
他の態様では、本発明は、前記TCR刺激剤が抗TCR又は抗CD3、及び抗CD28を含む、上記に記載されるようなキットを提供する。好ましくは、抗TCR作用物質/抗CD3作用物質/抗CD28作用物質は、それぞれ、TCR/CD3/CD28の抗体である。
【0057】
他の態様では、本発明は、ラパマイシン等のm−TOR阻害剤をさらに含む、上記に記載されるようなキットを提供する。m−TOR阻害剤は、本発明のキットのTCR刺激剤/PI3K阻害剤の使用によって産生されたFoxp3を発現するT細胞の増大に有利に使用することができる。そのうえ、m−TOR阻害剤は、有利には、Foxp3誘発の効率を増加させてもよい。
【0058】
他の態様では、本発明は、Akt阻害剤をさらに含む、上記に記載されるようなキットを提供する。
【0059】
最も好ましい実施形態では、阻害剤は、PI3K阻害剤である。好ましくは、前記PI3K阻害剤はLY294002を含み、好ましくは、前記PI3K阻害剤は、PIK−90(アルファ/m−TOR)、PI−103(アルファ/ガンマ)、又はYM−024(アルファ/デルタ)などのようなクラスIA PI3K阻害剤を含む。
【0060】
好ましい態様
適切には、Foxp3が誘発されることになる細胞(標的細胞)の出発集団は、先在するTregが除去される。適切には、細胞の出発集団は、CD25+細胞が除去される。細胞の集団が1%未満のTregを含む場合、本発明者らは、それを、Tregが除去されたもの又は事実上Tregがないものと見なす。適切には、細胞の出発集団はTregを含まない。適切には、本発明の方法は、そのような除去のさらなるステップを含み、適切には、そのようなステップは刺激の前に実行される。
【0061】
適切には、Foxp3が誘発されることになる細胞(標的細胞)の出発集団はナイーブT細胞で豊富である。適切には、出発集団は、CD62L細胞で豊富であり且つ/又はCD45Rb細胞で豊富である。適切には、出発集団は、CD62L細胞で豊富であり且つCD45Rb細胞で豊富である。適切には、本発明の方法は、そのような豊富化のさらなるステップを含み、適切には、そのようなステップは刺激の前に実行される。
【0062】
細胞の活性化及び阻害が経時的に分離されるのは本発明の重要な特徴である。同時の活性化及び阻害は、デノボFoxp3発現をもたらさない。適切には、活性化及び阻害は、本発明に従って同時に行われない。これは先行技術にあり、デノボFoxp3発現をもたらさない。たとえば、本明細書の図1Cに関して、「0」時点は、先行技術の処理を示す−これは、刺激/活性化及び阻害剤の添加の間の0時間を表わす、つまり阻害剤は、活性化/刺激と同時に添加される。この処理は、デノボFoxp3発現の誘発で無効であることが非常に明らかである。対照的に、刺激及び阻害の間に猶予又はインキュベーションを含む本発明による処理は、デノボFoxp3発現の誘発にとって有効である。これは、なお存在する活性化剤と共に阻害剤を添加することができないことを意味しないが、活性化が阻害に先行しなければならないこと又は阻害が活性化の後に起こらなければならないことを意味する。分離の時間は非常に重要になり得、当技術分野に対する重大な寄与となる。活性化及び阻害の間の時間は、本明細書に教示されるように、特定の用途(複数可)のために具体的に選んでよい。例示的なタイミングは、阻害剤処理が、活性化の約12〜18時間後に、適切には、活性化の約18時間の後に、適用される場合である。これは、下記により詳細に説明される。
【0063】
適切には、本発明の方法は、細胞の増大を必要とすることなく、Foxp3を誘発するために適用される。
【0064】
望まれる特異性の細胞がTregに変換されるかもしれないといったことは本発明の利点となる。本明細書に説明される多くの利点を提供するのはこの能力である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】TCRシグナル遮断が、PI3−K/mTOR経路の阻害剤との相乗作用で、新たに活性化されたT細胞によるFoxp3発現を誘発することを示す図である。a)ナイーブCD62LhiCD4+CD25−LN T細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、TCR抗体の存在下(TCRシグナル伝達の継続)又はTCR抗体の非存在下(TCRシグナル遮断)でさらに2日間培養した。Foxp3 RNAの発現は、リアルタイムRT−PCRによって評価した(平均値±SD、n=3)。b)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、a)と同様、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、18時間後に、示す条件に移した。Foxp3タンパク質の発現は2日後に、細胞内染色によって評価した。CFSEプロファイルをFoxp3−細胞及びFoxp3+細胞について示す。c)Foxp3誘発は、ナイーブCD4 T細胞の活性化の18時間後に最も有効となる。
【図2】TCRシグナル伝達が、新たに活性化されたCD4 T細胞中でmTOR活性をコントロールすることを示す図である。a)1時間若しくは18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて又は抗CD28のみを用いて1時間(TCRシグナル伝達なし)ナイーブLN T細胞を刺激した。S6リボソームタンパク質のリン酸化は、細胞内染色及びフローサイトメトリーを使用して単一細胞レベルで決定した。b)ナイーブLN細胞をa)と同様活性化した。18時間後、ラパマイシン(25nM)若しくはLy294002(10μM)をさらなる1時間の間、添加し、又は細胞を、抗TCRの非存在下で示す時間の間、培養した。pS6レベルをa)と同様決定した。
【図3】TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発は安定しており、調節性機能の獲得をもたらすことを示す図である。a)Foxp3発現は、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLy294002によってナイーブCD4 T細胞中で誘発され、ある期間にわたってモニターした。細胞は、IL−2の存在下で7日ごとに再刺激した。b)ナイーブCD4 T細胞を18時間活性化し、さらに2日間、抗TCRを用いて(コントロール、<1% Foxp3+)又は抗TCRを用いずにラパマイシン及びLy294002の存在下で(Foxp3誘発、28% Foxp3+)培養した。段階的な数のFoxp3誘発細胞又はコントロール細胞を、APC及び可溶性抗CD3の存在下で、新鮮で、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加し、細胞分裂に対する効果(CFSEプロファイル)を48時間後に記録した。
【図4】インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現を示す図である。a)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、示されるように、ラパマイシン及びLy294002のi.p.と共に又はそれらを伴わずに、18時間後に、同一遺伝子の免疫適格性宿主にi.v.で移入した。内在性(CFSE−)CD4+脾臓細胞及び移入した(CFSE+、挿入図は、はるかに多くのイベントを示す)CD4+脾臓細胞によるFoxp3タンパク質の発現を2日後に細胞内染色によって評価した。b)18時間又は48時間での11回の移入実験の概要
【図5】Foxp3誘発でのp110アイソザイムの特異な関与を示す図である。ナイーブLN細胞を図1と同様活性化し、PI3−K阻害剤を18時間後に添加した。使用した濃度での各阻害剤のp110アイソフォーム特異性を示す(左パネル)。TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞のパーセンテージ(本実験で14%)を、PI3−K阻害剤の正味の効果(各散布図中の赤色のΔ値)を示すために減算した。細胞は、細胞分裂をモニターするために、活性化に先立ってCFSEを用いて標識化した(左パネル)。各阻害剤について、S6リボソームタンパク質リン酸化を、90分後に細胞内染色によって決定した。pS6+細胞のパーセンテージを示す(黒色、平均値±SD、TGX−115のn=1以外はn=3〜5、右パネル)。Foxp3+細胞のパーセンテージは、TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞のパーセンテージを減算した後のものを示す(赤色、平均値±SD、n=4〜12)。インビトロで決定したIC50値(Camps et al., 2005;Knight et al., 2006)を関係のある酵素について示す(右パネル)。
【図6】PI3K/mTORシグナル伝達の阻害剤によるFoxp3誘発はTGFβとは無関係であることを示す図である。a)ナイーブLN T細胞は、18時間、無血清AIM−V培地(Invitrogen)中で活性化し、TGFβ(1ng/ml)(90分間、レーン1)、TCRシグナル遮断(90分間、レーン2)、又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002(90分間、レーン3若しくは8時間、レーン4)に細胞を曝露した後に、全細胞抽出物を、SDSゲル電気泳動及びウエスタンブロッティングにかけた。引き続いて、ブロットを、抗pSmad2(S465/467)及び抗Smad2/3を用いてプローブした。b)a)と同様活性化したナイーブLN T細胞からTCRシグナルを取り除き、TGFβ及びPI3−K/mTOR阻害剤をグラフの下に示されるように添加した。Foxp3発現細胞のパーセンテージを24〜48時間後に決定した。培養物に、中和抗TGFβ(R&D Systems、3μg/ml)又はSmadキナーゼ阻害剤SB431542(Sigma、20μM)を追加した。TCRシグナルを取り除いた培養物中のFoxp3発現(9.2±5.6%、n=6)を減算した。コントロール培養物に正規化した、抗TGFβ(濃い灰色のバー)又はSB431542(薄い灰色のバー)の存在下でのFoxp3発現を示す(100%、黒色のバー;TGFβ 22.3±7.0%、n=9;PIK90 36.0±12.9%、n=7;PI−103 35.1±3.8%、n=8;Ly294002 21.5±4.0%、n=4、及びラパマイシン 28.6±9.0%、n=4)。ND:実施せず。
【図7】TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR経路の阻害剤が、新たに活性化されたT細胞によるFoxp3発現を誘発することを示す図である。a)ナイーブCD62LhiCD4+CD25−LN T細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び可溶性抗CD28を用いて刺激し、TCR抗体を用いて(TCRシグナル伝達の継続)又はTCR抗体を用いずに(TCRシグナル遮断)さらに2日間培養した。Foxp3 RNAの発現は、リアルタイムRT−PCRによって評価した(平均値±SD、n=3)。b)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、a)と同様、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、18時間後に、示す条件に移した。Foxp3タンパク質の発現は2日後に、細胞内染色によって評価した。細胞の回収率は、投入した細胞の67〜108%であった。CFSEプロファイルをFoxp3−細胞及びFoxp3+細胞について示す。c)ナイーブLN CD4 T細胞は、示す時間の間、a)と同様活性化し、その後、細胞からTCRシグナルを取り除き、ラパマイシン及びLY294002に曝露した。Foxp3発現細胞のパーセンテージは2日後に決定した(2回の実験の平均値)。d)Foxp3発現は、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLY294002によってナイーブCD4 T細胞中で誘発された。細胞は、IL−2の存在下で毎週再刺激し、Foxp3発現をモニターした。自然Treg細胞を比較のために示す。e)ナイーブCD4 T細胞を18時間活性化し、さらに2日間、抗TCRを用いて(コントロール、<1% Foxp3+)又は抗TCRを用いずにラパマイシン及びLy294002の存在下で(Foxp3誘発、28% Foxp3+)培養した。段階的な数のFoxp3誘発細胞又はコントロール細胞を、APC及び可溶性抗CD3の存在下で、新鮮で、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加し、細胞分裂に対する効果を48時間後に記録した(CFSEプロファイル)。f)ナイーブCD45RBhiCD4+CD25−LN細胞を、同一遺伝子の、Rag欠損レシピエントに静脈内に移入し、新たにエクスビボに単離した、TCR活性化の継続と共にコントロール条件下で活性化した、又はTCRシグナルを取り除き、18時間後にラパマイシン及びLY294002を用いて処理した。大腸炎スコアを8週後に決定した。g)CD4単一陽性、CD25陰性胸腺細胞を活性化し、TCRシグナルを中止し、ラパマイシン/LY294002を18時間後に添加し、Foxp3発現をb)と同様2日後に分析した。
【図8】Foxp3誘発でのp110アイソザイムの特異な関与を示す図である。a)ナイーブLN細胞を図1と同様活性化し、PI3K阻害剤を18時間後に添加した。使用した濃度での各阻害剤のp110アイソフォーム特異性を、Foxp3+細胞のパーセンテージと一緒に示す。b)pS6+細胞のパーセンテージは90分間の時点で細胞内染色によって決定した(黒色、平均値±SD、TGX−115のn=1以外はn=3〜5、右パネル)。TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞を超えるFoxp3+細胞の増加が示される(赤色、平均値±SD、n=4〜12)。インビトロで決定したIC50値を関係のある酵素について示す。
【図9】PI3K/mTORシグナル伝達によるFoxp3誘発はTGFβとは無関係であることを示す図である。a)ナイーブLN T細胞は、18時間、無血清AIM−V培地中で活性化し、TGFβ(1ng/ml)(90分間、レーン1)、TCRシグナル遮断(90分間、レーン2)、又はTCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLy294002(90分間、レーン3若しくは8時間、レーン4)に細胞を曝露した後に、全細胞抽出物を、SDSゲル電気泳動及びイムノブロッティングにかけた。ブロットを、切り離し、抗pSmad2(S465/467)及び抗Smad2/3を用いてプローブした。b)a)と同様活性化したナイーブLN T細胞からTCRシグナルを取り除き、TGFβ及びPI3K/mTOR阻害剤を示されるように添加した。培養物に、中和抗TGFβ(3μg/ml)又はSmadキナーゼ阻害剤SB431542(20μM)を追加した。2日後に決定し、且つ抗TGFβ及びSB431542を用いないコントロール培養物に正規化した、抗TGFβ(濃い灰色のバー)又はSB431542(薄い灰色のバー)の存在下でのFoxp3発現を示す(黒色のバー;TGFβ 22.3±7.0%、n=9;PIK90 36.0±12.9%、n=7;PI−103 35.1±3.8%、n=8;LY294002 21.5±4.0%、n=4、及びラパマイシン 28.6±9.0%、n=4)。ND:実施せず。TCRシグナルを取り除いた培養物中のFoxp3発現(9.2±5.6%、n=6)を減算した。
【図10】新たに活性化されたCD4 T細胞中のPI3K/mTOR/Aktネットワークに対するTCRシグナル伝達の影響を示す図である。a)1時間若しくは18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて又は抗CD28のみを用いて1時間(TCRシグナル伝達なし))ナイーブLN CD4 T細胞を刺激した。S6リン酸化は、細胞内染色及びフローサイトメトリーによって決定した。b)ナイーブLN細胞をa)と同様活性化した。18時間後、ラパマイシン(25nM)若しくはLy294002(10μM)をさらなる1時間の間、添加し、又は細胞を、抗TCRの非存在下で示す時間の間、培養した。pS6レベルをa)と同様決定した。c)イムノブロッティングにより、b)の単一細胞レベルで検出した、TCRシグナル遮断及びラパマイシンに応じて減退するpS6を確認した。TGFβもまたpS6を低下させた。pAkt(S473)は、T細胞活性化の18時間後にではなく1時間後に目に見えたが、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びTGFβに応じて再び現われた。d)PI3K/mTOR軸の経路モデル。PI3KはPDK1を介してAktを活性化し、AktはTSC1/2を阻害し、Aktは、mTORを活性化し、4EBP/eIF4Eを介して翻訳の阻害を軽減し、S6K1/eIF4Eを介してリボソームの活性を刺激する。e)PI3K/mTOR軸のネットワークモデルは、mTORC1及びmTORC2を区別する。mTORC1依存性のS6K1活性は、IRS1を介してPI3KによるmTORC2の活性化をブロックする。Akt活性は、PDK1(T308)及びmTORC2(S473)の両方に依存する(Jacinto et al., 2006;Sabatini, 2006)。f)Akti1/2によるAktの阻害はFoxp3発現を誘発する。ナイーブCD4 T細胞を活性化し、Foxp3発現を図1と同様評価した。
【図11】インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現を示す図である。a)TCRシグナル遮断を模倣するために、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を活性化し、次いで、腹腔内のラパマイシン(0.5mg/kg)及びLY294002(15mg/kg)と共に又はそれらを伴わずに、同一遺伝子の、完全免疫適格性宿主に静脈内に移入した(レシピエント当たり2〜4×106細胞)。内在性CD4脾臓細胞(CFSE−)及び移入した(CFSE+)CD4脾臓細胞によるFoxp3発現を2日後にアッセイした。5.3±4.6%(n=11)で、回収したFoxp3+細胞の度数は、もとの接種物(1.5±1.1%)のFoxp3+細胞の度数よりも3倍高かった。細胞移入に、ラパマイシン及びLY294002のi.p.を伴った場合、Foxp3+細胞の度数はさらに増加したが、内在性(CFSE−)T細胞中のFoxp3発現は変化せず、Foxp3+CD4 T細胞ではなく通常の細胞に対する選択的な毒性を実証した。b)11回の移入実験の概要。Foxp3発現細胞の増加が、Foxp3+CD4 T細胞の選択的な回収又はFoxp3誘発によるものであるかどうかを検討するために、発明者らは、TCR遮断がもはや効率的ではなくなる時間である、活性化の48時間後に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を移入し、インビトロでFoxp3発現を誘発した(図1cを参照されたい)。これらの条件下で、1.3±0.5%のCFSE+細胞が移入後にFoxp3を発現し(n=4)、1.6±0.3%のCFSE+細胞が、ラパマイシン及びLY294002の存在下で移入後にFoxp3を発現した(n=3)。
【図12】TCRリガンドの有用性が継続した状態でのPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発を示す図である。ナイーブCD4 T細胞を、CD3/CD28ビーズ(Dynal、4μl/106細胞)を用いて活性化した。示すPI3K/mTOR阻害剤を、ビーズを除去することなく、18時間の時点で添加し(1μM)、Foxp3発現を2日後に評価した。
【図13】生理学的TCRリガンド及びPI3K/mTOR阻害に応じるFoxp3誘発を示す図である。Rag1欠損H2bTCRトランスジェニックマウス由来のCD4 LN細胞を、CFSEを用いて標識化し、示す濃度のハトシトクロムCペプチド81〜104を用いてあらかじめ負荷した、BMに由来するB10.BR(H2k)抗原提示細胞と共に培養した。PIK90(1μM)を、抗原提示細胞又は抗原ペプチドを除去することなく、18時間後に添加した。Foxp3発現を2日後に分析した。
【発明を実施するための形態】
【0066】
多細胞生物の特殊化した細胞型は、遺伝子発現の特異的なパターンによって定義される。造血幹細胞からそれらの分化の間に、ナイーブCD4 T細胞は、それらの発生的な潜在力のかなりの制限を受けるが、多くの選択肢、すなわち、Th1、Th2、Th17、またTregの余地がそれらに残されている。Th系統の選出は、特異的な病原体に対する有効な免疫応答にとって重要であるが、エフェクター機能及び調節性機能の間のバランスは、過度の免疫病態及び自己免疫病を回避しながら免疫適格を保証するのに重大である。自然調節性T細胞は、特徴となる転写因子Foxp3の発現によって特徴づけられ、Foxp3の持続的な発現は、調節性T細胞の機能にとって必要であり、且つ十分である。Tregは、胸腺中で「自然に」発生し、ナイーブ末梢CD4 T細胞から発生し得る。発明者らは、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3発現及び調節性T細胞の機能を誘発するシグナルを同定する。発明者らは、新たに活性化されたT細胞からTCRシグナルが取り除かれた場合にFoxp3発現が誘発されることを開示する。この状況では、Foxp3誘発は、PI3K/mTOR軸の阻害剤によって選択的に強化され、Treg分化の古典的な誘発物質であるTGFベータとは無関係であるように思われる。
【0067】
特に、本発明は、PI3−K/mTOR阻害剤、好ましくはPI3K阻害剤の使用を提供し、これは、TCRシグナル遮断と相乗作用を示して、新たに活性化されたCD4 T細胞中でFoxp3を誘発する。
【0068】
ナイーブCD4 T細胞の活性化は、エフェクター細胞又は調節性T細胞(Treg)になるためのそれらの潜在力を明らかにする。エフェクターは免疫応答を媒介し、Tregは、エフェクターT細胞のバランスを取り、ホメオスタシスを維持し、免疫病態を予防する。発明者らは、Tregの特徴となる転写因子であるFoxp3の安定した誘発のための新規な方法を記載するが、これは、新たに活性化されたT細胞からTCRシグナルが取り除かれ、PI3K/mTORの阻害剤、好ましくはPI3Kの小分子阻害剤によって強化された場合に引き起こされる。クラスI PI3K触媒サブユニットの選択的阻害は、Foxp3の調節因子として、p110ガンマ又はp110ベータではなく、p110アルファ及びp110デルタを同定する。Foxp3誘発は、外因性のTGFベータとは無関係であり、中和TGFベータ抗体及びSmadシグナル伝達の薬理学的アンタゴニストに抵抗性である。これらの開示は、新たなアプローチが調節性T細胞分化を操作することを可能にする。
【0069】
デノボFoxp3発現が誘発されるといったことが本発明の利点であることに注目されたい。これは、現在までに示された最高の効果が、既にFoxp3を発現しているT細胞の増大であった先行技術での状態と対比される。目下Foxp3を発現していない細胞中でFoxp3発現を活発に誘発する可能性は、本発明の意義深い利点である。
【0070】
本発明者らは、PI3K/mTOR経路の小分子阻害剤が、Treg細胞系統の特徴となる転写因子であるFoxp3のデノボ発現を速やかに且つ効率的に誘発することを示す。これは、新たな治療上のアプローチが、自己免疫性疾患の予防及び治療などのような、Treg細胞のデノボ産生が望ましい臨床状況に適用されることを可能にする。関節リウマチ及びI型糖尿病などのようなこれらの疾患の多くは、非常に臨床的に重要である。したがって、本発明の産業上の用途及び有用性はこれらの意義深い医療への用途から生じる。
【0071】
ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3−K)
PI3−Kのファミリーは、多数の異なる個々のアイソザイムを有する酵素のファミリーである。広範囲の態様では、本発明は、Foxp3発現の誘発での、PI3−K阻害剤、好ましくはクラスI PI3K阻害剤の使用に関する。しかしながら、クラスIB PI3Kガンマの阻害はFoxp3発現を誘発しないということ及びPI3−Kγは調節性T細胞を介して作用しないということが発明者自身らのデータから明らかである。この観察は、PI3−Kγが調整性の効果を有し得るといったことを述べる、先行技術の教示と対照的である。しかしながら、本明細書に開示されるように、事実上、PI3−Kγは、調節性T細胞中での作用によるその効果を発揮しておらず、したがって、PI3−Kγの阻害又は阻害剤は本発明から明確に放棄される。好ましくは、PI3−K阻害剤への言及は、PI3−Kベータに対して特異的ではないクラスIA PI3−K阻害剤への言及として解釈されるべきである。好ましくは、PI3−K阻害剤への言及は、PI3−Kγ活性を阻害するように作用するあらゆる化合物を指さないように解釈されるべきである。
【0072】
化合物がPI3−Kγ活性などのような特定のPI3K活性を阻害するように作用するかどうかは容易に決定されるかもしれない。たとえば、PI3−Kγの阻害を決定してもよい1つの方法は実施例で説明される。さらに、本明細書又は先行技術に記載される方法によって試験することによって、化合物が、PI3−Kγ特異的阻害剤又はPI3−Kγ選択的阻害剤などのようなPI3Kアイソフォーム特異的阻害剤又はPI3Kアイソフォーム選択的阻害剤かどうかを決定してもよい。標準的な試験では、キナーゼを生成し、異なる濃度の阻害剤及び試験しているキナーゼによってリン酸化することができる適した試験基質を用いる滴定実験で、阻害剤を用いてインビトロでキナーゼを試験する。そのうえ、PI3K阻害剤は、典型的に、メーカー/サプライヤーによって又は所望の化合物と関係がある文献中でそれらの特異性に関して特徴づけられる。
【0073】
PI3−Kへの言及は、PI3−Kのファミリー、好ましくは、クラスI PI3Kのファミリー、好ましくは、クラスIA PI3Kのファミリー、好ましくは、ガンマを除く、クラスIA PI3Kのファミリー、最も好ましくは、PI3−Kα、PI3−Kβ、PI3−Kδからなる群から選択されるクラスIA PI3−Kに関するものとして解釈されるべきである。
【0074】
PI3−Kβが、Foxp3誘発で、限られた役割を有する又は役割を有していないことが本明細書でさらに開示される。したがって、好ましくは、PI3−KはPI3−Kβではなく、好ましくは、PI3−K阻害剤は、PI3−Kβに対して特異的ではない又は選択的ではない。
【0075】
具体的には、発明者らは、PI3−Kα又はPI3−Kδの阻害が特に有利であることを示す。したがって、好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤は、PI3−Kαに対して特異的な又は選択的な阻害剤である。他の好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤は、PI3−Kδに対して選択的な又は特異的な阻害剤である。
【0076】
標的細胞
Foxp3発現を生成することが望まれる標的細胞は任意の細胞であってもよい。好ましくは、細胞は、造血性の細胞であり、好ましくは、細胞は、T細胞系統の細胞であり、好ましくは、細胞は、胸腺細胞又はリンパ球であり、好ましくは、細胞は、成熟T細胞の亜集団を含む、末梢リンパ球(たとえば末梢血リンパ球)などのような、リンパ球の集団である。好ましくは、標的細胞は、T細胞、好ましくは成熟ナイーブT細胞である。細胞が胸腺細胞である場合、好ましくは、使用される技術は、末梢T細胞と同じ技術である。
【0077】
好ましくは、標的細胞はCD8+T細胞ではない。CD8+T細胞は、活性化及びPI3K阻害の後にFoxp3を発現しない。適切には、標的細胞(複数可)はCD8+T細胞を含まない。適切には、標的細胞(複数可)は、CD8+T細胞が除去されている又は本質的にCD8+T細胞がない。適切には、標的細胞はナイーブT細胞である。
【0078】
好ましくは、標的細胞は、トランスジェニック細胞ではない。トランスジェニック細胞は遺伝的に不安定となり得る。トランスジェニック細胞は、対象へのそれらの再導入を企図する場合、調節性の課題となりやすい。好ましくは、標的細胞は、所望の対象からあらかじめ収集された自然発生の細胞である。
【0079】
処理される細胞が標的細胞の亜集団(T細胞)を含むのみである場合、たとえば、処理が末梢リンパ球に対して行われる場合、明らかに、用語「標的細胞」は、処理されている細胞の全集団の中のT細胞を指すと適宜解釈されなければならない。言いかえれば、本発明を実施する際に、事実上、それらの細胞の亜集団のみが標的細胞である場合、Foxp3発現を誘発するように細胞の集団を処理することが望ましいかもしれない。たとえば、末梢リンパ球の集団はB細胞、T細胞、及び他の細胞を含んでいてもよい。便宜上、末梢リンパ球の全集団を処理してもよいが、もちろん、それらの一部分のみ(つまりT細胞)が事実上、標的細胞となることが熟練の読者によって十分に理解されるであろう。目的は典型的にTregを産生することであるので、標的細胞は非Treg細胞となるであろう。好ましくは、標的細胞は、本発明の処理(1又は複数)の前にFoxp3を発現しないT細胞である。
【0080】
調節性T細胞を産生する方法
広範囲の態様では、本発明は、1又は複数のT細胞の集団を採取し、PI3−K阻害剤を用いてそれらを処理し、調節性T細胞を得ることに関する。
【0081】
もう少し詳細には、好ましくは、T細胞の集団は、T細胞受容体(TCR,T cell receptor)又はシグナル伝達タンパク質のTCR関連CD3複合体を介して刺激される。実際に、TCRシグナルは、その関連タンパク質を介して事実上伝達される。したがって、TCRを介して刺激するために、実在するTCR自体を標的とすること(たとえば抗原特異的TCRターゲティング)又はCD3(たとえばTCR関連タンパク質(1又は複数))が可能である。次いで、この刺激は好ましくは中止される。この刺激の中止に続いて、細胞は、PI3−K阻害剤を用いて処理される。PI3−K阻害剤とのインキュベーションに続いて、調節性T細胞が得られる。具体的には、PI3−K阻害剤の処理はFoxp3発現を誘発し、これは、調節性T細胞になる運命又は調節性T細胞への分化をもたらす。
【0082】
この効果をもたらすための例証となる方法は実施例で提供される。
【0083】
TCR刺激に関するタイミングは、効果を改善するために有利に操作することができる。好ましくは、T細胞は、それらがPI3−K阻害剤を用いて処理される場合、少し前に活性化されている。活性化は、T細胞受容体を介する刺激を指す。「少し前の」によって、直前の2日以内の刺激又は活性化が意味される。
【0084】
PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理が活性化の48時間以内に適用される場合、最高の結果が得られる。好ましくは、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の3〜47時間以内に、好ましくは、刺激の47時間以内に、好ましくは、刺激の30時間以内に、好ましくは、刺激から約18時間で、好ましくは、刺激から18時間で提供される。好ましくは、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の少なくとも3時間後に、好ましくは、刺激の少なくとも4時間後に、好ましくは、刺激の9時間を超える時間の後に、好ましくは、刺激の少なくとも10時間後に、好ましくは、刺激の約18時間後に、好ましくは 刺激の18時間後に提供される。これらのタイミングの技術的な利益はFoxp3誘発の最適化及び/又は最大化である。
【0085】
好ましくは、刺激からの時間は、T細胞受容体を介するシグナル伝達の中止からの時間である。
【0086】
好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激から3〜47時間の範囲で、好ましくは、刺激から4〜47時間の範囲で、好ましくは、刺激から4〜30時間の範囲で、好ましくは、刺激から10〜30時間の範囲で、好ましくは、刺激から12〜25時間の範囲で、好ましくは、刺激から15〜25時間の範囲で、好ましくは、刺激から17〜19時間の範囲で、好ましくは、刺激から約18時間で、好ましくは、刺激から18時間で提供される。これらのタイミングの技術的な利益はFoxp3誘発の最適化及び/又は最大化である。
【0087】
最も好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の10〜22時間後の時間に、好ましくは、刺激の12〜20時間後の時間に、好ましくは、刺激の12〜18時間後の時間に、好ましくは、刺激の17〜19時間後の時間に、好ましくは、刺激の約18時間後に、好ましくは、刺激の18時間後に提供される。これは、優れたFoxp3誘発という利点を有する。実際に、これらのタイミングの技術的な利益は、実施例の部で、たとえば図1Cに関して示される。
【0088】
調節性T細胞
調節性T細胞(時にTregと呼ばれる)は健常な免疫系の重要な構成要素である。調節性T細胞は、エフェクターT細胞を抑えること及び自己免疫性疾患の主要な要因となり得る「自己認識」の予防に関与する。
【0089】
調節性T細胞は、当技術分野で知られている、多数の承認されているバイオマーカーを有する。これらは、CD4+、CD25+、及びFoxp3+を含む。特に、本発明によれば、調節性T細胞は、Foxp3発現(Foxp3+)を示さなければならない。
【0090】
調節性T細胞は、好ましくは、調節性機能を示さなければならない。調節性機能の表示は、当技術分野で知られている任意の適した方法によって決定してもよい。特に、そのような試験の例は、実施例の部で説明される。具体的には、図3に例示される試験は、調節性T細胞の機能についての標準的なインビトロ試験として見なされる。
【0091】
インビボで、調節性T細胞は、それらの生存及び/又はそれらの調節性機能の維持のために、IL−2、TGFベータ、又はIL−9(肥満細胞に由来するIL−9など)などのような付加的な因子を必要とすると広く考えられている。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、前記リンホカインとそれらのT細胞を接触させることに加えた、T細胞中でのFoxp3の誘発に関し、前記リンホカインと接触させることは、肥満細胞などのような、前記リンホカインを生成する細胞と接触させることによって達成し得る。本実施形態では、前記リンホカインを生成する細胞(たとえば肥満細胞)は、処理されている対象中にインビボで提供することができる。PI3KP110δノックアウト動物は、肥満細胞依存性の応答を有しておらず、Treg機能の低下を示すことに注目されたい。
【0092】
PI3K/m−TOR/Akt阻害剤
本発明のPI3K阻害剤は、PI3K、好ましくはクラスI PI3K、好ましくはクラスIA PI3Kを阻害することができる任意の1つ又は複数の化合物であってもよい。特に、PI3K阻害剤は、生体高分子であってもよく又は小有機化合物若しくは小無機化合物であってもよい。好ましくは、PI3K阻害剤は、小有機化合物、好ましくは合成化合物である。
【0093】
いくつかの小分子PI3K阻害剤は臨床上の使用のための評価の下にあり、これらは本発明の好ましい阻害剤である。PI3Kのいくつかの小分子阻害剤は臨床上の使用のために承認されており、これらは本発明のより好ましい阻害剤である。
【0094】
もちろん、いくつかのPI3−K阻害剤は1つを超えるアイソザイムに作用してもよい。PI3−K阻害剤が、Foxp3発現の誘発を直接引き起こさないと発明者らが開示する、PI3−Kサブタイプの1つに作用する場合、これは、そのPI3−K阻害剤を本発明から除外するものではない。本明細書で使用されるようなPI3−K阻害剤の重要な特徴は、そのPI3−K阻害剤が、Foxp3発現の誘発にとって重要であるとして開示されるPI3−Kアイソザイムの1つを阻害するように作用することである。したがって、本発明によるPI3−K阻害剤は、好ましくは、PI3−Kα及び/又はPI3−Kδの作用を阻害する活性を示さなければならない。そのような阻害剤がまた、PI3−Kβ又はPI3−Kγなどのような異なるPI3−Kアイソザイムに対する副次的な効果をも有する場合、そのような阻害剤は、本発明から除外されるものと見なされるべきでない。しかしながら、明らかに、投与を単純化し、且つ不要な多面効果又は副作用を回避するために、可能な限り特異的な効果を有するPI3−K阻害剤を選ぶことが好ましい。したがって、好ましくは、本発明のPI3−K阻害剤は、所与のPI3−Kアイソザイムに対して特異的である。好ましくは、本発明のPI3−K阻害剤は、PI3−Kα及び/又はPI3−Kδに対して特異的である。好ましくは、阻害剤は、PI3−Kαに対して特異的である。好ましくは、阻害剤は、PI3−Kδに対して特異的である。PI3−Kα及びPI3−Kδの両方の活性を低下させる阻害剤は特に好ましく、最も好ましいのは、PI3−Kα及びPI3−Kδの活性を低下させるが、PI3−Kγ及び/又はPI3−Kβなどのような他のアイソザイムの活性を低下させない阻害剤である。
【0095】
これらの阻害剤は、Foxp3の調節で有力に活性であるので、最も好ましくは、阻害剤は、PI3−Kアルファ又はPI3−Kデルタに対して特異的であり、好ましくは、阻害剤は、PI3−Kアルファ及びPI3−Kデルタに対して特異的である。
【0096】
最も好ましいのは、臨床上の使用のために承認され、且つPI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害するPI3K阻害剤である。さらに好ましいのは、PI3−Kγ及び/又はPI3−Kβなどのような他のアイソザイムの活性をも低下をさせないような阻害剤である。
【0097】
先行技術で使用されてきたような、生物学的な供給源から精製された生理活性ペプチド(たとえばTGFベータ)とは対照的に、PI3Kの小分子阻害剤は、合成的に生成することができ、且つ優れた薬理学的特性を有する(インスリン及び経口糖尿病薬の間の違いと似ている)。個々のPI3Kアイソザイムに対する選択性を有する化合物などのような合成PI3K阻害剤化合物の使用は、生理活性ペプチドの副作用を最小限にする又は排除することができるといった技術的な利点を提供する。
【0098】
新世代のPI3−K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられており、幅広い範囲の他のキナーゼよりも優先的に、PI3−Kアイソザイムに対する選択性を有することが示された(Knight et al., 2006 Cell vol 125 pp733-747)。選択的なクラスIA PI3K阻害剤は本発明の好ましい阻害剤である。好ましい阻害剤は、実施例の部で示され、最も好ましいのは、実施例の部のアルファPI3K阻害剤及びデルタPI3K阻害剤である。
【0099】
m−TOR阻害剤は、ラパマイシン、wortmannin、及びPIK−90などのような合成化合物を含む。好ましいm−TOR阻害剤は、上記及び実施例の部に開示される。最も好ましいのはラパマイシンである。
【0100】
プロテインキナーゼB又はAkt(PKB/Akt−便宜上、これを単に「Akt」と本明細書で呼ぶ)は、セリン/トレオニンキナーゼであり、これは、哺乳動物では、PKBアルファ(Akt1)、PKBベータ(Akt2)、及びPKBガンマ(Akt3)として知られている3つの高度に相同的なメンバーを含む。Akt阻害剤は、アロステリック阻害剤Akti−1/2を含む。
【0101】
ラパマイシン
m−TORシグナル伝達の阻害(つまりラパマイシン処理)は、先行技術で、Foxp3+Tregの増大に寄与することが示されたが、ラパマイシンによるFoxp3の誘発の教示はない。その発明者らは、当技術分野の、m−TOR阻害及びFoxp3誘発の間のあらゆる関連に気づいていない。実際に、本発明者らは、生物学的に関係のある飢餓/栄養源の除去を使用して、この分野を調査し、m−TOR活性の低下を誘発した。これらのシグナルは、m−TOR活性の低下の実証としてpS6を消失させることが示されたが、Foxp3の誘発をもたらさない。その系の、この簡潔にして要を得た精査は、本発明の方法が、Foxp3の誘発への新たなアプローチを提供することを示し、m−TORシグナル伝達を介して作用して、Foxp3+細胞の増大をもたらす先行技術のアプローチは、事実上、Foxp3のデノボ発現及びTregの分化を誘発しないことをさらに示す。
【0102】
ラパマイシンはPI3K阻害剤ではない。たとえば、「試験したどのプロテインキナーゼも、細胞ベースのアッセイで、mTorを阻害するのに必要とされる濃度よりも10〜20倍高い濃度である1マイクロMのラパマイシンによって有意に阻害されなかった(Bioch. J. 351:95−105, 2000)」ことが当技術分野で実証されており、これは、阻害剤の特異性についての標準的な作業である。
【0103】
組合せ
Foxp3発現が本発明によって誘発されると、本明細書で教示される方法を、それらの細胞の増大を促進する方法と組み合わせることは有利であるかもしれない。したがって、好ましい実施形態では、好ましくは、Foxp3発現が誘発された調節性T細胞は続いて増大させられる。好ましくは、これは、ラパマイシン処理によって達成される。特に、これは、Battaglia et al 2005 Blood Volume 105 page 4743と同様達成することができる。
【0104】
さらなる用途
本発明は、自己免疫性疾患の予防及び/又は治療などのような、Treg細胞のデノボ産生が望ましい臨床状況での広範囲の用途を見出す。
【0105】
m−TOR阻害は、インビトロの調節性機能の維持にとって重要であるかもしれない。
【0106】
本発明は、特異的な抗原に対する調節性T細胞の誘発での用途を見出す。本実施形態では、抗原は最初に選択され、次いで、Foxp3誘発は、その特異的な抗原に応答することができるT細胞中で起こる。
【0107】
調節性T細胞は免疫系をコントロールする。特に、それらは、Tエフェクター細胞を抑える。調節性T細胞の欠損症は、関節リウマチなどのような自己免疫疾患と関連する。したがって、調節性T細胞を作製することによって、典型的に、本明細書に開示されるようにFoxp3発現を誘発することによって、そのような免疫損傷を妨げる、予防する、又は低下させることができる。
【0108】
本発明は、有利には、インビトロでの調節性T細胞の産生に適用することができる。先行技術では、これは、TGFβを用いる処理によって達成された。本発明は、この方法に対する好都合な代替物を提供する。そのうえ、本発明は、生理活性TGFβペプチドへの曝露を回避する利点を提供する。
【0109】
特に、本発明は、調節性T細胞のエクスビボ産生での用途を見出す。本実施形態では、T細胞の集団は患者から採取される。次いで、これらは、調節性T細胞を誘発するために、本発明の方法に従って処理される。次いで、これらの調節性T細胞は、治療効果を提供するためにその患者に再導入することができる。
【0110】
本発明は、免疫抑制での用途を見出す。特に、免疫抑制は、臓器移植又は移植片対宿主病に続いて適用することができる。
【0111】
本発明はまた、一般に自己免疫性疾患での用途をも見出す。特に、本発明は、胃炎、甲状腺炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、自己免疫性糖尿病、多発性硬化症、又は他の自己免疫性疾患などのような自己免疫性疾患での用途を見出す。
【0112】
そのうえ、本発明は、同種移植片拒絶反応及び関節リウマチ又はコラーゲン誘発性の関節炎などのような関節炎の例の抑制での用途を見出す。さらに、本発明は、本明細書に説明されるように、ある種の癌、具体的には、それら自体、B細胞悪性腫瘍(たとえば白血病、リンパ腫など)などのようなリンパ球からなるそれらの癌を撲滅する際の用途を見出す。
【0113】
他の実施形態では、好ましくは、本発明の方法はインビトロでのものである。好ましくは、本発明の方法は、ヒト又は動物の体を含まない。
【0114】
適切には、Foxp3発現の誘発への言及は、デノボFoxp3発現の誘発を意味することが理解されるべきである。適切には、既存のFoxp3発現の増強又は既にFoxp3を発現する細胞の増大は、本発明の一部ではない。適切には、本発明は、本発明の処理/方法の前にFoxp3を発現していなかった細胞(複数可)中でのFoxp3発現の生成に関する。理論によって拘束されることなく、Foxp3の発現は、適切な標的細胞からのTreg産生にとって必要であり且つ十分である。したがって、細胞のインキュベーションは、本発明に従ってデノボでのFoxp3発現を引き起こし、Treg産生をもたらす。
【0115】
本発明のある態様は、以下の番号が付けられた項に関して理解され得る。
【0116】
1.調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法。
【0117】
2.調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含む方法。
【0118】
3.調節性T細胞(複数可)を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと、
(v)上述の対象に上述のT細胞を再導入するステップと
を含む方法。
【0119】
4.あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含む方法。
【0120】
5.T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iii)PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと
を含む方法。
【0121】
6.上述のT細胞を刺激するステップが、T細胞受容体(TCR)を介して上述のT細胞を刺激するステップを含む、前記1〜5のいずれかに記載の方法。
【0122】
7.PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップが、上述の細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する項1〜6のいずれかに記載の方法。
【0123】
8.調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発でのPI3K阻害剤の使用であって、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【0124】
9.Foxp3発現の誘発でのPI3K阻害剤の使用であって、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【0125】
10.調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用。
【0126】
11.調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤。
【0127】
12.調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤。
【0128】
13.(i)TCR刺激剤と、
(ii)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤と
を含むキット。
【0129】
14.上述のTCR刺激剤が抗TCR抗体及び抗CD28抗体を含む、前記13に記載のキット。
【0130】
15.m−TOR阻害剤をさらに含む、前記13又は14に記載のキット。
【0131】
16.上述のm−TOR阻害剤がラパマイシンである、前記15に記載のキット。
【0132】
17.Akt阻害剤をさらに含む、前記13〜16のいずれかに記載のキット。
【0133】
18.上述のPI3K阻害剤がLY294002を含む、前記1〜7のいずれかに記載の方法、前記8〜10のいずれかに記載の使用、及び前記11若しくは項12に記載の阻害剤又は前記13〜17のいずれかに記載のキット。
【0134】
本発明を実施例によってこれから記載する。これらの実施例は、例証となるように意図され、添付された請求項を限定するようには意図されない。
[実施例]
【0135】
材料及び方法
マウス系統、細胞選別、及び培養。動物についての作業はAnimals (Scientific Procedures) Act、UKに従って実行した。リンパ節(LN)細胞は、染色し、分析し、記載されるようにフローサイトメトリーによって選別した(Cobb et al 2005 J. Exp. Med. 201: 1367-1373)。Foxp3タンパク質についての細胞内染色は、メーカーによって助言されるように行った(eBiosciences.Com)。S6リボソームタンパク質のリン酸化ステータスは、eBioscience社製Foxp3染色キット及び抗ウサギIgG−FITC又はIgG−Cy5(Jackson ImmunoResearch)を使用して、抗pS6 Ser235/236(Cellsignaling cat.no.2211、http://www.cellsignal.com)を使用して決定した。Foxp3発現の誘発について、選別したLN CD4+CD25−CD62Lhi T細胞を、プレートに結合した抗TCRβ(H57、Pharmingen、200ng/ml)及び抗CD28(2μg/ml、Pharmingen)と共に1〜3×106/mlで培養した。18時間後、細胞は、TCR刺激の継続のために所定の位置に放置したか示す添加剤と共に、コーティングされていないウェルに移動させた。
【0136】
調節性機能を評価するために、示すように培養したCD4 T細胞を、1×105CFSE標識化全LN細胞又は5×104CFSE標識化CD4+CD25−T細胞のいずれか及び1×105マイトマイシンC処理(25μg/ml、20分間、37℃)T細胞除去脾細胞を含む丸底ウェル中に、示す濃度の抗CD3(2C11、Pharmingen)と共に滴定した。CD4 T細胞CFSEプロファイルは48〜72時間後に記録した。
【0137】
養子移入実験。インビボで、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害の影響を評価するために、BALB/c CD4+CD25−CD62Lhi LN T細胞をCFSEを用いて標識化し、上記のように18時間活性化し、未治療の同一遺伝子のレシピエント(レシピエント当たり2〜4×106細胞)の中にi.v.で移入した。ラパマイシン及びLy294002は示すようにi.p.で与えた。脾細胞は、48時間後に、CD4及びFoxp3について染色した。Foxp3発現は、内在性(CFSE−)CD4+細胞及び移入した(CFSE+)CD4+細胞について決定した。
【0138】
RT−PCR及びノーザンブロット。全RNAは、RNAbee(Tel−Test、Friendswood、TX)を使用して単離し、逆転写した。リアルタイムPCR分析は、(Cobb et al 2005 同書)に記載されるように、Opticon(商標)DNAエンジンで実行し(MJ Research Inc.;72℃でのプレートリードと共に、15分間95℃、その後、15秒間94℃、30秒間60℃、及び30秒間72℃の40サイクル)、Ywhaz(チロシン3−モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5−モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータポリペプチド)及びユビキチン抱合酵素E2L3(Ube2L3,ubiquitin conjugating enzyme E2L3)の相乗平均に正規化した。プライマー配列 (5’〜3’)
Ywhazフォワード:CGTTGTAGGAGCCCGTAGGTCAT
Ywhazリバース:TCTGGTTGCGAAGCATTGGG
Ubcフォワード:AGGAGGCTGATGAAGGAGCTTGA
Ubcリバース:TGGTTTGAATGGATACTCTGCTGGA
Foxp3フォワード:ACTCGCATGTTCGCCTACTTCAG
Foxp3リバース:GGCGGATGGCATTCTTCCAGGT
【実施例1】
【0139】
TCRシグナルの中止は、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3発現を誘発する。
ナイーブCD4+CD25−細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR(H57)及び抗CD28を用いて刺激し、次いで、TCR抗体でコーティングされていないプレートに(それらのもとの培地中に)移した。48時間後に、リアルタイムRT−PCRは、継続的なTCRシグナル伝達に曝露されたコントロールと比較して、TCRシグナルを取り除いた細胞中でFoxp3 RNAのレベルが上昇したことを示した(図1a)。細胞内染色は、TCRシグナルを取り除いた、新たに活性化されたCD4 T細胞のかなりの画分でのFoxp3タンパク質の発現を示した(10.8±7.6% n=30)(図1b)が、TCR抗体と接触させたままの細胞中では発現を示さなかった(1.0±0.8% n=21)。
【実施例2】
【0140】
PI3K/mTOR経路の阻害は、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3発現を促進する。
Foxp3の誘発に関係のあるシグナル伝達経路を同定するために、発明者らは、シグナル伝達経路の活性化剤及び阻害剤をスクリーニングした。これらは、NFATの核移行をブロックする、カルシニューリンの阻害剤(cyclosporin A及びFK−506)、関係のあるマイトジェン活性化キナーゼ(MAPK,mitogen activated kinase、JNK/SAPK/p38及び上流キナーゼを含む)の活性化剤及び阻害剤、PKCアイソザイム、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3,glycogen synthase kinase-3)、低酸素誘発因子(HIF−1,hypoxia inducible factor)、Notch(γ−セクレターゼ阻害剤 L−685458を使用)、及び骨形成タンパク質(BMP,bone morphogenetic protein、TGFβの類縁体である)の広範囲の阻害剤並びに偽基質を含んだ。これらのうちのどれも、TCRシグナル遮断によって引き起こされるFoxp3の発現を検出可能に増強しなかった。対照的に、PI3K及びmTORの阻害剤はFoxp3誘発を著しく強化した。免疫抑制性マクロライド抗生物質であるラパマイシンは24〜48時間内に細胞の26.8±14.4%でFoxp3の発現を誘発した(n=30、図1b)。同様に、PI3K阻害剤であるLy294002(2−(4−モルホリニル)−8−フェニル−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)及びwortmanninはFoxp3を誘発した(Ly294002については26.9±11.4%、n=25、図1b及びwortmanninについては17.3±5.3%、n=3)。コントロール化合物Ly303511(2−ピペラジニル−8−フェニル−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)はLy294002に構造上、非常に類似しているが、モルホリン環中の単一の原子の置換のためにPI3−Kを阻害しない。Ly303511は、発明者らの系でのFoxp3発現に影響を与えなかった(6.6±3.0%、n=7)。細胞分裂が起こる前の、ナイーブCD4 T細胞の活性化の18時間後にTCRシグナル遮断と組み合わせて使用した場合に、ラパマイシン及びLy294002は最大に有効となった(下記参照)。TCRシグナル伝達は、PI3K/mTOR阻害剤がFoxp3を誘発するために必要とされ、同時刺激は、Foxp3誘発の効率を著しく増強した(TCRシグナル中止については3%から9%、TGFβについては7%から46%、ラパマイシンについては10%から25%、及びLy294002については4%から44%、2回の実験の平均。ポジティブコントロールとして、TGFβは、継続的なTCRシグナル伝達を取り除いた細胞の46.0±15.1%でFoxp3を誘発した(n=30、図1b)。Foxp3発現細胞の度数の増加が先在するFoxp3+細胞の選択的な増大によるものかどうかを検討するために、発明者らは、ナイーブCD4 T細胞の活性化に先立って、CFSEを用いてそれらを標識化した。細胞分裂は、活性化後の18時間までに起こらなかった、その時点で、細胞を示す培養条件に置いた(図1b)。24時間後に、投入細胞の67〜108%が回収された。Foxp3発現細胞の度数を実質的に増強するにもかかわらず、ラパマイシン及びLy294002は、細胞分裂の数のわずかな低下をもたらした。これは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤に応じたFoxp3発現細胞の度数の増加の説明としての選択的な増大を除外するものである。
【0141】
PI3−K/mTORの阻害は、後の時点で及び細胞分裂が起こると、Foxp3を誘発するのにそれほど有効ではなかった(図1c)。
【実施例3】
【0142】
TCRシグナル伝達は、新たに活性化されたCD4 T細胞中でmTOR活性をコントロールする。
TCRシグナル伝達、TCRシグナル中止、並びにラパマイシン及びLy294002を用いる処理に応じるPI3K/mTOR軸の活性をモニターするために、発明者らは、mTORによって直接調節されるp70 S6キナーゼの標的である、リン酸化S6リボソームタンパク質(pS6)のレベルを分析した。pS6の細胞内染色は、単一細胞レベルで、抗CD28と組み合わせたTCRシグナル伝達(プレートに結合したH57、300ng/ml)が、大多数のナイーブCD4 T細胞中で高レベルのS6リン酸化を誘発したことを示した(図2a)。抗CD28単独では、効果はなかった(図2a、上部のパネル)。S6リン酸化は、継続的なTCRシグナル伝達の存在下では持続したが、ラパマイシン(25nM)又はLy294002(10μg/ml)によって1時間以内に完全に除去された(図2b)。プレートに結合したH57及び抗CD28を用いて18時間、活性化したナイーブCD4 T細胞からTCRシグナルを取り除くと、pS6は、より徐々にではあるが減退した(図2b)。よって、Foxp3誘発は、S6リン酸化を低下させる操作に応じて起こる。しかしながら、重要なことには、S6リン酸化の低下はFoxp3誘発にとって十分ではない。特に、新たに活性化されたCD4 T細胞の栄養源の遮断によるmTOR阻害はFoxp3発現を誘発しない。
【実施例4】
【0143】
TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発は安定しており、調節性機能の獲得をもたらす。
上記に記載されるように、Foxp3発現は、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤に応じて24〜48時間以内に誘発された。調節性機能を有していないFoxp3の一時的なアップレギュレーションがヒトCD4 T細胞で記載されているので、発明者らは、次に、Foxp3発現の安定性及びFoxp3誘発細胞の機能的適格性を検査した。Foxp3は、誘発の7日後までに強く発現し、Foxp3は、IL−2中での数回の再刺激を通して安定して維持されたので、発現は、有糸分裂的に遺伝性であった(図3a)。PI3K/mTOR阻害によるFoxp3の誘発が調節性T細胞の機能をもたらすかどうかを評価するために、CD62LhiCD4+CD25−LN細胞を活性化し、TCRシグナルを取り除き、ラパマイシン及びLy294002の存在下で培養した。段階的な数の、結果として生じる集団(細胞内染色により28% Foxp3+)を、新鮮な、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加した、またその集団は、細胞分裂プロファイルによって評価されるように、可溶性抗CD3(2C11、1μg/ml)に対するそれらの反応を効率的にブロックした(図3b、上部のパネル)。対照的に、コントロール細胞(<1% Foxp3+)は、CFSE標識化レスポンダー細胞の抗CD3誘発性の分裂をブロックしなかった(図3b、下部のパネル)。
【0144】
発明者らは、ナイーブCD4 T細胞がT細胞欠損レシピエントに移入された場合に誘導される、大腸炎を防御する能力を、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害によるFoxp3誘発が付与するかどうかを試験するために、大腸炎のT細胞移入モデル(Powrie et al., 1993)を使用した。(Powrie et al., 1993)
【実施例5】
【0145】
インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現
発明者らは、次に、Foxp3が、インビボで、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害によって誘発されるかどうかを検討した。TCRシグナル遮断を模倣するために、発明者らは、同一遺伝子の完全免疫適格性宿主の尾の静脈に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を注射し、活性化した。2日後に、発明者らは、内在性CD4脾臓細胞(CFSE−)及び移入された(CFSE+)CD4脾臓細胞によるFoxp3発現を評価した(図4a)。5.3±4.6%(n=11)で、回収したFoxp3+細胞の度数は、もとの接種物に含有されるFoxp3+細胞の度数(1.5±1.1%、図4bに要約)よりも3倍高かった。CFSE標識化活性化T細胞のi.v.移入に、ラパマイシン及びLy294002のi.p.注射が伴った場合、2日後に回収されたFoxp3発現細胞の度数は約10%までさらに増加した(図4)。対照的に、内在性(CFSE−)Foxp3+T細胞の度数は変わらないままであり、阻害剤が、Foxp3+CD4 T細胞ではなく、通常の細胞に対して選択的に毒性であった可能性を除外した(図4)。我々は、次に、Foxp3発現細胞の度数の上昇が、Foxp3+CD4 T細胞の選択的な回収率又はFoxp3の誘発によるものであるかどうかを検討した。発明者らは、TCR遮断がインビトロでFoxp3発現をもはや効率的に誘発しなくなる時間である、活性化の48時間後に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を移入した(図1cを参照されたい)。これらの条件下で、わずか1.3±0.5%のCFSE+細胞が移入後にFoxp3を発現し(n=4)、1.6±0.3%のCFSE+細胞が、ラパマイシン及びLy294002の存在下で移入後にFoxp3を発現した(n=3、図4b)。
【0146】
よって、TCRシグナル遮断は、PI3−K/mTOR軸の阻害との相乗作用で、新たに活性化されたT細胞にFoxp3発現を起こしやすくし、PI3−K/mTORシグナル伝達が、インビトロ及びインビボで、新たに活性化されたT細胞中のFoxp3誘発にアンタゴナイズすることを示す。
【実施例6】
【0147】
選択的なPI3−K阻害剤は、Foxp3の調節での、p110アイソザイムの間の階層性を明らかにする。
新世代のPI3−K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられており、幅広い範囲の他のキナーゼよりも優先的に、PI3−Kアイソザイムに対する選択性を有することが示された(Camps et al., Nat Med. 2005, 11:936-943;Knight et al., 2006 同書)。発明者らは、Foxp3の調節でのp110アイソザイムの役割を、発明者らのT細胞分化アッセイにそれらを滴定することによって精査するためにこれらの化合物を利用した。これらの実験で、CFSE標識化は活性化及び生存率の基準として細胞周期進行を評価するために使用し、Foxp3の誘発は、S6リン酸化(図5b)と共に、単一細胞レベル(図5a、b)でアッセイした。
【0148】
p110β及びp110γはFoxp3発現に検出可能に影響を与えない。TGX115は10μMでFoxp3発現にわずかな影響を及ぼした。TGX115はp110β及びp110δの両方を阻害する。TGX115がp110βを選択的に阻害する0.1μMでは、TGX115はFoxp3発現に影響を与えず、p110βは、この状況で、Foxp3の調節に有意な役割を果たさないことを示した。同様に、p110γ特異的阻害剤AS−605240は、p110γについてのそのIC50のはるかに過剰な濃度でのみFoxp3に影響を与え(0.008μM)、Foxp3の調節でのp110γについての役割が除外された(図5a、b)。
【0149】
p110α及びp110δは、新たに活性化されたT細胞中のFoxp3発現を調節する。阻害剤IC−87114は、0.01μMまで、TCR遮断のみに加えて、細胞の10〜15%のFoxp3を誘発した。これらの濃度では、IC−87114はp110δを選択的に阻害し、Foxp3の調節に対するp110δアイソザイムの有意な寄与を実証する。PI−103化合物は、Foxp3を強く誘発して、TCRシグナル遮断のみよりも>20%、Foxp3発現細胞の度数を上昇させた。PI−103は、mTORC1についてのそのインビトロIC50をわずかに下回る濃度(0.02μM)及びp110αについてのIC50あたりの濃度(0.008μM)でFoxp3を誘発し、p110αについての役割と一致した。p110α特異的阻害剤PIK75は、発明者らのアッセイの期間にわたる毒性によりこの示唆を試験するのに使用することができなかった(データ示さず)。決定的証拠は、PIK90の分析からもたらされ、PIK90は0.1μMでFoxp3を強く誘発した。PIK90は、p110α及びp110γを選択的に阻害する(図5a、b)。AS−605240を用いて発明者らの実験によりp110γについての役割が除外されるので、この結果は、p110αを、Foxp3の調節での有力なp110アイソザイムとして同定する。これらの研究に基づき、Foxp3の調節でのp110アイソザイムの役割は選択的であるように思われる。p110β及びp110γは検出可能な役割を果たさず、p110δは中程度に重要であり、p110αは有力である。
【実施例7】
【0150】
TCRシグナル遮断及びPI3K/mTORの阻害によるFoxp3誘発でのTGFβの関与
TGFβは、インビトロでの、通常のCD4 T細胞中でのFoxp3発現の強力な誘発物質として知られており、したがって、発明者らは、TGFβが、新たに活性化されたT細胞のTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によってFoxp3の誘発を媒介するかどうかを調べた。FCSを追加した細胞培養培地はTGFβを含有するので、発明者らは、無血清リンパ球培地(AIM−V、Invitrogen)中でこの部に記載される実験を実行した。リアルタイムRT−PCRにより、免疫系で有力なTGFβアイソフォームであるTGF−β1の増加は検出されなかったが、TGF−β調節は複雑であることが知られており、RNAレベルは、必ずしも、分泌されたタンパク質の量と相互に関連しない。ALK5及びTGFβ受容体II(TGFβRII)に結合するTGFβの結合は、受容体関連Smad2及びSmad3のリン酸化をもたらし、これは、続いて、co−Smadと関連し、核に移動させ、転写調節因子として作用する。したがって、Smadタンパク質のリン酸化は、TGFβシグナル伝達の感受性の指標となる。ナイーブLN T細胞を、無血清培地中で18時間活性化し、次いで、TCRシグナル遮断又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002について、TGFβ(1ng/ml)に曝露した。全細胞抽出物を、抗pSmad2(S465/467)を用いるSDSゲル電気泳動及びウエスタンブロッティングにかけたところ、TGFβに応じた、Smad2の強いリン酸化を示した(図6a レーン1)。対照的に、TCRシグナル遮断(図6a、レーン2)又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002(図6a、レーン3及び4)に応じたSmad2の検出可能なリン酸化はなかった。ブロットは、続いて、装填コントロールとして抗Smad2/3を用いてプローブした。
【0151】
次に、発明者らは、2つの独立したアプローチ、TGFβに対する中和抗体及びTGFβアクチビン受容体様キナーゼ(ALK,activin receptor-like kinase)の阻害剤であるSB 431542を使用してTGFβシグナル伝達を阻害しようと試みた。SB−431542は、形質転換成長因子−ベータスーパーファミリーI型アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)受容体ALK4、ALK5、及びALK7の強力で特異的な阻害剤である(Inman et al 2002 Mol Pharmacol. vol 62:65-74)。FCSを追加した細胞培養培地はTGFβを含有するので、発明者らは、無血清リンパ球培地(AIM−V、Invitrogen)中でこれらの実験を実行した。中和TGFβ抗体及びSB431542は、それぞれ85%及び96%、TGFβによるFoxp3誘発をブロックしたが、PI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発に対する効果は有していなかった(図6b)。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例1〜7の要約
発明者らは、TCRシグナル伝達及びPI3−K/mTOR活性が、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発にアンタゴナイズすることを示す。理論によって拘束されることなく、この発見は、エフェクターT細胞及び調節性T細胞のどちらかになる運命の選出をTCRシグナル伝達の終止に関連づけるので、免疫の調節を理解するための重要な密接な関係を有する。有効の免疫応答は抗原負荷を低下させて、抗原の有用性が制限的になる条件を作り出す。発明者らの結果は、免疫の調節が免疫応答の関与の段階にどのように関連づけられる可能性があるかを示し、これは、T細胞のホメオスタシスにとって及び免疫病態を抑えるために重要である。
【0154】
PI3K/mTOR軸の薬理学的阻害は、TCRシグナルの遮断によって引き起こされたFoxp3誘発を強化する。PKC、N−FAT、GSK−3、MAPK、Notch、及びその他の妨害が、実施例の系でFoxp3誘発をもたらさないので、PI3K/mTORの関与は選択的である。PI3−K活性は、T細胞活性化に続いて長時間持続し、発明者らの発見は、PI3K/mTOR軸が、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発を予防するのに重大であることを実証する。クラスI PI3キナーゼは、PI3−Kの触媒サブユニットであるp110イソ酵素の選択的な関与に基づいて、2つのグループ、A及びBにさらに分けられる。p110δサブユニット及びp110γサブユニットの発現は主として白血球に制限されるが、p110α及びp110βは広範に発現し、胚発生にとって不可欠である。クラスIBの単一のメンバーであるp110γはT細胞の発達及び活性化にとって重要であり、炎症応答及び自己免疫性疾患の治療のための主要な標的となる。PI3Kシグナル伝達及び疾患の間の関連は、PI3−Kサブユニットの選択的阻害剤の発達及び診療所への導入のための主要な推進力を提供した。発明者らは、p110アイソザイムの間の選択性を示すために広範囲に特徴づけられた選択的阻害剤を用いたが、p110α及びp110δはFoxp3を調節するが、p110β又はp110γは調節しない。p110γは、Gタンパク質共役受容体によって活性化されるが、クラスIA PI3K p110α、p110δ、及びp110βは、受容体チロシンキナーゼの下流で典型的に活性化され、したがって、リンパ球受容体シグナル伝達に関与している。興味深いことには、Foxp3調節でのIA PI3Kの間の階層性は、TCR刺激性のPI3−K活性に対するそれらの相対的な寄与とは別個であるように思われる。遺伝学的及び薬理学的分析は、両方とも、Bリンパ球及びTリンパ球中での抗原受容体シグナル伝達でのp110δについての突出した役割を示すが、発明者らのデータは、p110δが、Foxp3調節において、有意ではあるが、それほど有力ではない役割を有することを示し、p110αが最重要であるように思われる。TCRシグナル伝達及びFoxp3調節でのp110アイソフォームの間の機能的な相違は免疫応答の操作において当業者を助ける。
【0155】
p110δ欠損マウスはリンパ球活性化の欠陥を示すだけではなく、Treg欠損の特徴である炎症性腸疾患をも発症する。これについての可能性のある説明は、肥満細胞に由来するIL−9に対するTreg耐性の依存性及び肥満細胞機能のためのp110δの不可欠な役割によって示唆される。これらのデータと一致して、Treg機能はp110δ欠損マウスの末梢で損なわれる。これにもかかわらず、Tregの分化は、発明者らの発見に一致して、p110δ欠損胸腺中で増加する。
【0156】
PI3−K阻害剤及びラパマイシンの両方は不要な免疫応答を抑圧するために使用されてきたが、PI3−K/mTOR阻害剤が免疫を調節するメカニズムはほとんど知られていない。PI3−K阻害剤及び自己免疫病の間の関連は、PI3−Kシグナル伝達のアンタゴニストであるPtenについてヘテロ接合性のマウスは自己免疫病及び他の所見を発症したといった発見によって示唆された。PI3−Kは、複数の細胞型の多数のプロセスを調節し、自己免疫病でのPI3−Kの関与についての可能性のあるメカニズムは、T細胞の生存の増加並びに抗原提示細胞、肥満細胞、及び他の炎症性の細胞型の動員及び活性化を含む。ラパマイシンは、長期的なアッセイで、調節性T細胞の数に正に又は負に影響を与えることが以前に報告された。発明者らの発見は、PI3−K/mTOR阻害剤が免疫を調整するメカニズムとしてのFoxp3の調節を確立する。
【0157】
クラスIAアイソザイムp110α及びp110δとは対照的に、クラスIB PI3−Kアイソザイムp110γは、Gタンパク質共役受容体(srcチロシンキナーゼではなく)の下流で圧倒的に機能し、PI3−Kγは有意にFoxp3を調節しない。それにもかかわらず、PI3−KγはT細胞の発達及び活性化に重要な役割を果たし、最近では、自己免疫性疾患の治療ための標的として認識されてきた。PI3−Kγの阻害剤は、自己免疫病の予防及び治療で有効な薬剤となるが、発明者らが実証するように、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発を介するものではない。
【0158】
以前の研究は、特に成長因子の中止と組み合わせて、ラパマイシンを、先在するTregの欠失又は増大の延長に関連づけたが、ラパマイシンは、Foxp3のデノボ誘発に効果を有していないように思われた。ここで、発明者らは、TCRシグナル遮断と組み合わせた、ラパマイシンによるFoxp3の迅速なデノボ誘発を示す。
【0159】
TGFβは、ナイーブCD4 T細胞中でのFoxp3の強力な誘発物質であり、したがって、発明者らは、TGFβが、新たに活性化されたT細胞のTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発に関与するどうかを調べた。発明者らは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTORの阻害に応じて、新たに活性化されたT細胞がTGFβ産生を増加させるといった証拠を見出さなかった。Foxp3誘発は無血清培地中で効率的であり、これは、血清に由来するTGFβの必要を除外する。発明者らの発見は、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤は、Smad2の検出可能なリン酸化をもたらさないこと並びにTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発は、外因性のTGFβとは無関係であり、中和抗TGFβに対して抵抗性であり、SB431542に対して抵抗性であることを示す。したがって、それらは、PI3−K/mTOR阻害剤が、TGFβとは無関係な経路によってFoxp3を誘発するモデルと一致している。
【0160】
要約すると、発明者らは、新たに活性化されたナイーブT細胞中でのFoxp3誘発の、新規な、TGFβとは無関係な経路を同定した。発明者らの発見は、エフェクターになる運命及びTreg機能のどちらかの選出のためのTCRシグナル伝達の重要性を強調し、発明者らは、免疫応答の操作が望ましい状態で、PI3K/mTORシグナル伝達の小分子阻害剤によって調節性T細胞分化を駆動するための新たなアプローチを記載する。
【実施例8】
【0161】
デノボFoxp3発現の誘発
発明者らは、ナイーブCD4 T細胞の活性化が、PI3K/mTORシグナル伝達によってコントロールされる、Foxp3発現の誘発のための絶好の機会を作り出すことを教示する。
【0162】
概要:活性化は、一連のTヘルパー(Th,T helper)細胞型に分化する又はその代わりに調節性T細胞(Treg細胞)になる運命を取るナイーブCD4 T細胞の潜在力を明らかにする。エフェクター細胞対調節性細胞の運命の選出がどのようにコントロールされるかは先行技術でほとんど知られていない。発明者らは、Treg細胞の特徴となる転写因子Foxp3の発現が、ナイーブCD4 T細胞からTCRシグナルが活性化の直後に取り除かれる場合に誘発されることを示す。Foxp3誘発は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)触媒サブユニットp110α及びp110δ、Akt、並びにmTORによってコントロールされる。これらの発見は、TCRシグナル伝達経路をTreg細胞の運命の選出に関連づける。本発明は、調節性T細胞分化の実験用の及び治療上の操作のための新たなアプローチを提供する。
【0163】
序論:多細胞生物の特殊化した細胞型は、遺伝子発現の特異的なパターンによって定義される。多能性の造血幹細胞からそれらの分化の間に、発達中のT細胞は、それらの系統についての潜在力についてかなりの制限を受ける。ナイーブCD4 T細胞に余地が残されている選択肢は、いくつかの別個のThサブセット(Th1、Th2、及びTh17など)並びにTreg細胞になる運命を含む。Th系統の選出は、特異的な病原体に対する有効な免疫応答にとって重要であるが、エフェクター機能及び調節性機能の間のバランスは、過度の免疫病態及び自己免疫病を回避しながら免疫適格を保証するのに重大である。自然調節性T細胞は、特徴となる転写因子Foxp3の発現によって特徴づけられ、Foxp3の安定した高レベルの発現は、調節性T細胞の機能にとって必要であり、且つ十分である。Treg細胞は、胸腺中で発生し、ナイーブ末梢CD4 T細胞から発生する。TGFβは、インビトロでFoxp3発現を指示するが、IL−2と同様に、Treg細胞分化ではなく、インビボでのTreg細胞の維持にとって重要である。エフェクターT細胞になる運命及び調節性T細胞になる運命のどちらかの選出についての分子的なベースは先行技術で知られていないので、発明者らは、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3発現及び調節性T細胞の機能を誘発するシグナルを同定することを目指す。
【0164】
実験:ナイーブCD4+CD25−細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び可溶性抗CD28を用いて活性化し、次いで、可溶性抗CD28のみを有する新鮮なウェルに移動させる。2日後に、リアルタイムRT−PCRは、継続的なTCRシグナルに曝露されたコントロールと比較して、TCRシグナルを取り除いた細胞中でFoxp3 RNAの発現が上昇したことを示した(図7a)。Foxp3タンパク質は、TCRシグナルを取り除いた細胞で10.8±7.6%(n=30)と検出されたが、TCR抗体と接触させたままの細胞ではわずか1.0±0.8%(n=21)であった(図7b)。TCRシグナル伝達の下流でFoxp3をコントロールする経路を同定するために、発明者らは、シグナル伝達に関与する酵素の小分子阻害剤をスクリーニングした。PI3K及びmTORの阻害剤はFoxp3誘発を著しく強化した(図7b)が、カルシニューリン/NFAT(cyclosporin A及びFK−506)、マイトジェン活性化キナーゼ(MAPK JNK、SAPK、p38、及び上流キナーゼ)、プロテインキナーゼCアイソザイム、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3、低酸素誘発因子、並びにγ−セクレターゼ/Notchの阻害剤は強化しなかった。mTOR阻害剤ラパマイシンは、26.8±14.4%の細胞でFoxp3を誘発した(n=30、図7b)。同様に、PI3K阻害剤LY294002及びwortmanninは、26.9±11.4%(n=25、図7b)及び17.3±5.3%(n=3)の細胞でFoxp3をそれぞれ誘発した。LY294002誘導体のLY303511はモルホリン環中の単一の原子の置換のためにPI3Kを阻害せず、Foxp3発現を誘発しなかった。TGFβはポジティブコントロールとして使用した(図7b)。Foxp3発現の増加が、先在するFoxp3+細胞の選択的な増大に起因したかどうかを検討するために、発明者らは、活性化に先立って、CFSEを用いてナイーブCD4 T細胞を標識化した。細胞を阻害剤に曝露した場合、細胞分裂は18時間後に起こらなかった。ラパマイシン及びLY294002は、次の24〜48時間の間に起こった細胞分裂の数をわずかに低下させたが、Foxp3発現の度数を実質的に増強し(図7b)、Foxp3は、細胞分裂を受けなかった多くの細胞中で発現した(図7b)。よって、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤は、ナイーブCD4 T細胞中でのFoxp3発現を誘発する。
【0165】
T細胞活性化はFoxp3誘発に必要とされ(図7c)、同時刺激は著しくその効率を増強した。
【0166】
同時刺激は、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害に応じてFoxp3誘発の効率を著しく増強した。
【0167】
【表2】
【0168】
T細胞活性化及びFoxp3誘発の間の一時的な関係を調査するために、発明者らは、異なる時間にTCR刺激を中止し、PI3K/mTORを阻害した(図7c)。T細胞をPI3K/mTor阻害に先立って18時間活性化した場合、Foxp3誘発は最大となった。阻害剤をより早く添加すると細胞分裂をブロックし、Foxp3の誘発はそれほど効率的ではなくなった。同様に、細胞分裂が起こると、より後の時点では、Foxp3誘発は非効率的であった(図7c)。発明者らは、T細胞活性化がFoxp3誘発のための絶好の機会を作り出すといった結論を下す。
【0169】
誘発されると、Foxp3発現は有糸分裂的に遺伝性であり、数回の再刺激を通して維持された(図7d)。Foxp3誘発細胞(36% Foxp3+)が、可溶性抗CD3に応じて、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞の細胞分裂を効率的にブロックした(図7e、上部のパネル)が、コントロールの活性化細胞(1%のFoxp3+)はブロックしなかった(図7e、下部のパネル)ので、Foxp3発現には調節性T細胞の機能が伴った。休止CD45RBhi CD4 T細胞又はコントロールの活性化CD45RBhi CD4 T細胞は、リンパ球欠損(Rag−/−)マウスに移入した場合、大腸炎を引き起こすが、Foxp3が、移入に先立って、CD45RBhi CD4 T細胞の一部分で誘発された場合(28% Foxp3+)、大腸炎は、それほど著しく重症ではなかった(図7f)。
【0170】
末梢CD4 T細胞は「適応可能な」Treg細胞を生じさせることができるが、胸腺中で「自然に」発生するTreg細胞と比較したそれらの生理学的関連性は関心分野である。TCRシグナル伝達の操作が胸腺細胞中でのFoxp3発現を駆動するかどうかを検討するために、発明者らは、CD4単一陽性、CD25陰性胸腺細胞を18時間活性化し、PI3K/mTOR阻害剤を添加した(図7f)。Foxp3発現の分析は、2日後に、胸腺細胞のかなりの画分のFoxp3の誘発を実証した。
【0171】
新世代のPI3K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられている。PI3Kアイソザイムについてのこれらの化合物の選択性は、インビトロキナーゼアッセイ及び細胞ベースの実験(表1を参照されたい)によって並びにインスリンシグナル伝達及びリンパ球活性化に対する、薬理学的及び遺伝学的消失の効果を直接比較することによって広範囲に検証された。発明者らは、Foxp3のコントロールでの、PI3K触媒サブユニットの関与を定義するためにこれらの化合物を利用した。TGX115化合物は10μMではFoxp3発現にわずかな影響を及ぼし、TGX115化合物はp110β及びp110δの両方を阻害するが、0.1μMではFoxp3発現に影響を与えず、TGX115化合物はp110βを選択的に阻害する。同様に、p110γ特異的阻害剤AS−605240は、p110γについてのそのIC50のはるかに過剰な濃度でのみFoxp3に影響を与えた(0.008μM、p110β及びp110γは、この状況で、Foxp3の調節に有意な役割を果たさないことを示す(図8a、b)。IC−87114化合物は、p110δを選択的に阻害する濃度(0.01μM)で、TCR遮断のみに加えて、細胞の10〜15%でFoxp3を一貫して誘発し、Foxp3の調節に対するp110δの有意な寄与を実証した。PI−103化合物は、Foxp3を強く誘発して、>20%までFoxp3発現細胞の度数を上昇させた。PI−103は、mTORについてのそのインビトロIC50をわずかに下回る濃度(0.02μM)及びp110αについてのインビトロIC50あたりの濃度(0.008μM)でFoxp3を誘発し、p110αについての役割と一致した。p110α特異的阻害剤PIK75は、アッセイの期間にわたる毒性によりこの示唆を試験するのに使用することができなかった。p110αの役割についての決定的証拠は、PIK90の分析からもたらされ、PIK90は0.1μMでFoxp3を強く誘発し、PIK90は、p110α及びp110γを選択的に阻害する(図8a、b)。p110γ阻害がFoxp3誘発に影響を与えなかったので(上記参照)、この結果は、p110αを、この状況で、有力なp110アイソザイムとして同定する。p110アイソザイムのこの階層性(α>δ>>>β及びγ)はリンパ球活性化とは別にFoxp3調節を設定するように思われ、p110δは有力なものとして見なされる。
【0172】
もちろん、インビトロIC50値は、細胞のIC50についての指標として扱われなければならない;細胞の値は、ATPからの競合のために典型的にやや高い。IC87114は、とりわけ1μMで非常にp110δに選択的であり、したがって、その濃度での15%の誘発は明らかにδによるものである。TGX−115は10μMでさえ非常に小さな効果しか有しておらず(小さなδ阻害が得られる)、したがって、ベータは重要性が限られていそうである又はそれほど重要性がなさそうである。α阻害剤103及び90は、低用量で、IC87114を上回る劇的な誘発を示し、αが有意な役割を果たすことを示す。しかし、それらの化合物にとっての、α及びδの間の差はそれほど大きくはなく、したがって、重大な所見は、それらが、完全にδを不活性化する用量(10μM)で、IC87114よりも多くの活性を有するということである。AS−605240データの解釈は、その化合物についての細胞のIC50がγについてのどのようなものなのかに依存し、10μMで、いくらかのα阻害がこの化合物で得られる。したがって、ガンマが、この状況で、TCRシグナル伝達と共役するといったことはあまりありそうもない。
【0173】
TGFβは、インビトロでの、通常のCD4 T細胞中でのFoxp3発現の強力な誘発物質であり、発明者らは、発明者らの系でのその役割を検討した。ALK5及びTGFβ受容体II(TGFβRII)に結合するTGFβの結合は、受容体関連Smad2及びSmad3のリン酸化をもたらし、これは、TGFβシグナル伝達の感受性の指標を提供する。pSmad2(S465/467)は、TGFβに応じて容易に検出可能となったが(図9a レーン1)、TCRシグナル遮断(図9a、レーン2)又はPI3K/mTOR阻害(図9a、レーン3及び4)に応じて検出可能とならなかった。中和TGFβ抗体及びTGFβアクチビン受容体様キナーゼをブロックするSB 431542は、TGFβによるFoxp3誘発を低下させたが(それぞれ85%及び96%)、PI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発に対する効果はなく(図9b)、TGFβは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害によるFoxp3の誘発にとって重要でないことを実証した。
【0174】
新たに活性化されたCD4 T細胞中でのPI3K/mTOR軸の活性をモニターするために、発明者らは、mTOR調節性のp70 S6キナーゼS6K1の標的であるS6リボソームタンパク質(pS6)のリン酸化を分析した。TCR/CD28シグナル伝達(しかし抗CD28単独ではない)は、高レベルのpS6を誘発した(図10a)。TCRシグナルを中止した場合に、S6リン酸化は減退したので、18時間活性化されたT細胞中でのmTOR活性の維持は、継続的なTCRシグナル伝達を必要とした(図10b)。S6リン酸化は、ラパマイシン又はLY294002によって完全に除去された(図10b)。セリン/トレオニンプロテインキナーゼAkt/PKBは、TCR/CD28を通してのシグナル伝達に応じて速やかにリン酸化されるが、pS6とは対照的に、pAkt(S473)は、TCR/CD28シグナル伝達の開始の18時間後にもはや検出されなかった(図10c)。しかしながら、18時間活性化されたT細胞からTCRシグナルを取り除いた場合に、Akt(S473)リン酸化は回復し、これは、1、3、及び8時間でのpAktのレベルの増加並びにpS6レベルの相反する減退をもたらした(図10c)。1時間のラパマイシンへの曝露は類似の効果を有した。TCRシグナル遮断及びラパマイシン処理に応じたAktリン酸化の増加は、従来の線状のシグナル伝達経路と適合しないが(図10d)、Akt活性がPDK1及びmTORC2の両方によってコントロールされるネットワークモデルと一致している。このモデルで、mTORC2(mTOR/rictor/Sin1)は、S6K1を介するmTORC1(mTOR/raptor)の負のフィードバックコントロール下にあり、S6K1は、インスリン受容体基質1(IRS1,insulin receptor substrate 1)をリン酸化し、阻害し、また、PI3K、PDK1、及びmTORC2を介してAkt活性化を低下させる(図10e)。発明者らのデータに適用させると、TCRシグナル伝達の中止は、mTORC1及びS6K1の活性を低下させ(図10b)、これは、mTORC2のフィードバック阻害を低下させ、pAkt(S473)の観測された増加について説明する(図10c)。同様に、ラパマイシンを用いる短期の処理は、mTORC2の、mTORC1依存性のフィードバック阻害をブロックし、Akt(S473)リン酸化をもたらす(図10c、e)。興味深いことには、TGFβもまたpS6の低下及びpAkt S473の増加をもたらし、この点に関して、TCRシグナル遮断及びmTOR阻害に似ている(図10c)。
【0175】
18時間活性化されたCD4 T細胞の栄養源の遮断はpS6を阻害するが、Foxp3を誘発しなかったので、S6リン酸化の低下のみではFoxp3発現を誘発するのに十分ではなかった(TCRシグナル伝達の継続:2% Foxp3+;TCRシグナル遮断 11% Foxp3+;ラパマイシン:25% Foxp3+;0.1% FCSを有するIMDM培地:4% Foxp3+;10% FCSを有するPBS:5% Foxp3+;0.1% FCSを有するPBS:2% Foxp3+)。TCRシグナル遮断によるFoxp3の誘発は、mTORC1媒介性のフィードバック阻害の損失に続く、Akt活性の増加又はその代わりに、ラパマイシンへの長期的な曝露が、mTORC2の構築及び結果的にAkt(S473)のリン酸化に干渉する場合に起こるAkt活性の最終的な損失によるものかどうかといった余地が残されている。この疑問を検討するために、発明者らはアロステリック阻害剤、Akti−1/2を使用した。Akti−1/2は、Akt1及びAkt2(それぞれ58nM及び210nM)についてのそのIC50のあたりの濃度で少し前に活性化されたT細胞中でFoxp3発現を増強し、Akt活性化ではなく、Akt阻害がFoxp3誘発を駆動することを実証する(図10f)。
【0176】
要約
要約すると、発明者らは、活性化が、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3の誘発のための絶好の機会を作り出すことを示した。Foxp3誘発は、TGFβとは無関係であるように思われ、PI3K/mTOR/Aktシグナル伝達によってアンタゴナイズされる。この発見は、エフェクターT細胞及び調節性T細胞のどちらかになる運命の選出をTCRシグナル伝達経路に関連づけるので、免疫の調節を理解するための重要な密接な関係を有する。p110δがFoxp3発現を調節するといった発明者らの発見と一致して、通常よりも高い数のTreg細胞がp110δ欠損マウスの胸腺中で産生される。より長い期間では、おそらくp110δが、順番にTreg細胞に影響を与える肥満細胞のような他の細胞型にとって重要であるので、p110δの欠損は、Treg細胞の維持及び機能を損なう。発明者らが実証した、Foxp3調節でのp110アイソザイムの特異な役割に加えたこれらの考察は、免疫応答の操作についての新たな戦略を可能にする。PI3K/mTOR阻害による抗原特異的Treg細胞の産生に対する可能性のある障害は、アプローチが、Foxp3誘発を可能にするのにTCRリガンドの除去を必要とするかどうかである。しかしながら、発明者らは、抗CD3/CD28ビーズの存在が継続した状態で、かなりの割合のナイーブCD4 T細胞中でPI3K/mTOR阻害剤がFoxp3を誘発することを示す(図12)。Foxp3はまた、抗原提示細胞及び特異的なペプチドによって刺激されたRag1欠損TCRトランスジェニックCD4 LN細胞中でPI3K/mTOR阻害によって誘発可能であり、PI3K/mTOR阻害剤を使用して、抗原特異的Treg細胞を産生することが、有利なことには、現在可能であることを実証する。
【0177】
興味深いことには、損なわれたPI3K/mTOR/Aktシグナル伝達は、Treg細胞分化を促進するだけではなく、報告によれば、Aktシグナル伝達はTreg細胞及びそれらの標的で損なわれ、調節性T細胞の機能がPI3K/mTOR/Aktシグナル伝達の変化を含む可能性を高める。
【0178】
TCR関与の持続の欠如又は損なわれたTCRシグナル伝達が、ノンプロフェッショナルAPCによる抗原提示、免疫応答の関与の段階の間の低抗原用量、又はモザイク抗原発現などのような免疫の調節に関連する状態で起こるかもしれない。これは、胸腺及びリンパ節中で組織特異抗原を異所的に発現する上皮細胞によるTreg細胞の選択と一致している。
【0179】
実施例8の材料及び方法
マウス、細胞選別、及び培養。動物についての作業はAnimals (Scientific Procedures) Act、UKに従って実行した。野生型からのリンパ節(LN)細胞又は胸腺細胞は、記載されるように、染色し、分析し、フローサイトメトリーによって、野生型(C57BL/6、BALB/c、若しくはC57BL/6x129)マウス又はRag1欠損H2bTCRトランスジェニックマウスと選別した(Thompson et al., 2007 Immunity Vol 26 pp 335-344)。抗原提示細胞は、GM−CSFの存在下での骨髄に由来し、抗原ペプチドと共にインキュベートした。Foxp3タンパク質についての細胞内染色は、メーカーによって助言されるように行った(eBiosciences.com)。S6リボソームタンパク質のリン酸化ステータスは、eBioscience社製Foxp3染色キット及び抗ウサギIgG−FITC又はIgG−Cy5(Jackson ImmunoResearch)を使用して、抗pS6 Ser235/236(Cell signaling cat.no.2211、http://www.cellsignal.com)を使用して決定した。Foxp3発現の誘発について、選別したLN CD4+CD25−CD62Lhi T細胞を、プレートに結合した抗TCRβ(H57、Pharmingen、200ng/ml)及び可溶性又はプレートに結合した抗CD28(2μg/ml、Pharmingen)と共に1〜3×106/mlで培養した。18時間後、細胞は、TCR刺激の継続のために所定の位置に放置した又は示す添加剤と共に、コーティングされていないウェルに移動させた。
【0180】
調節性機能を評価するために、示すように培養したCD4 T細胞を、1×105CFSE標識化全LN細胞又は5×104CFSE標識化CD4+CD25−T細胞のいずれか及び1×105マイトマイシンC処理(25μg/ml、20分間、37℃)T細胞除去脾細胞を含む丸底ウェル中に、示す濃度の抗CD3(2C11、Pharmingen)と共に滴定した。CD4 T細胞CFSEプロファイルは48〜72時間後に記録した。
【0181】
養子移入実験。CD4+CD25−CD45RBhiナイーブCD4細胞をリンパ球欠損(Rag−/−)宿主に移入し、大腸炎を、記載されるようにスコア化した(Powrie et al., 1993 Int. Immunol. Vol 5 pp 1461-1471)。
【0182】
RT−PCR並びにノーザンブロット及びイムノブロット。全RNAは、RNAbee(Tel−Test、Friendswood、TX)を使用して単離し、逆転写した。リアルタイムPCR分析は、(Thompson et al., 2007 上記)に記載されるように、Opticon(商標)DNAエンジンで実行し(MJ Research Inc.;72℃でのプレートリードと共に、15分間95℃、その後、15秒間94℃、30秒間60℃、及び30秒間72℃の40サイクル)、Ywhaz(チロシン3−モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5−モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータポリペプチド)及びUbe2L3(ユビキチン抱合酵素E2L3)の相乗平均に正規化した。プライマー配列 (5’〜3’)Ywhazフォワード:
CGTTGTAGGAGCCCGTAGGTCAT;Ywhazリバース:
TCTGGTTGCGAAGCATTGGG;Ubcフォワード:
AGGAGGCTGATGAAGGAGCTTGA;Ubcリバース:
TGGTTTGAATGGATACTCTGCTGGA;Foxp3フォワード:
ACTCGCATGTTCGCCTACTTCAG;Foxp3リバース:
GGCGGATGGCATTCTTCCAGGT
【0183】
イムノブロットは記載されるように行った(Thompson et al., 2007 上記)。
【0184】
上記の明細書で言及された刊行物はすべて、参照によって本明細書に組込まれる。記載される態様の様々な修正及び変形並びに本発明の実施形態は本発明の範囲から逸脱することなく当業者に明白となるであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関して記載されたが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきでないことを理解されたい。実際に、当業者に明白な、本発明を実行するための記載された形態の様々な修正は以下の請求項の範囲内であることが意図される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K,phosphatidyl inositol-3-kinase)阻害剤の新たな使用に関する。特に、本発明は、T細胞中でのFoxp3発現の誘発のための新たな方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調節性T細胞(Treg細胞,regulatory T cell)は、Treg細胞の非存在下でエフェクターT細胞によって引き起こされる自己免疫病及び免疫病態を予防するのに不可欠である。エフェクターT細胞を抑止すること(自己免疫病及び免疫病態を抑えること)又は免疫応答(たとえば腫瘍に対する)を高めることを目的とした免疫介入は、Treg細胞及びエフェクターT細胞の間のバランスを変化させるアプローチを必要とする。現在のアプローチは、時間がかかり、非効率的であり、生物学的な供給源から精製された生理活性ペプチドの使用に依存する又は先在するTreg細胞の増大に依存する。
【0003】
転写調節因子Foxp3、細胞内タンパク質、及び転写調節因子のフォークヘッド/ウィングドヘリックスファミリーのメンバーの発現は、Treg細胞の特徴である。
【0004】
生理活性ペプチドTGFベータを用いるT細胞の処理は、Foxp3のデノボ発現を誘発することで知られている(Chen et al., 2003 J. Exp. Med. vol 198, pp1875-1886)。
【0005】
ある種のインビボ免疫化プロトコールは、T細胞受容体トランスジェニックT細胞中でFoxp3発現を誘発することが報告された(Kretschmer et al., 2005 Nature Immunol. vol 6 p1219)。このアプローチは、抗原に対する特異性及び標的T細胞のMHC拘束性の両方についての知識を必要とし、したがって、その結果、免疫化に使用される抗原は選択することができる。この条件は、T細胞がトランスジェニックT細胞受容体を保有する、人工的な実験系によって満たされる。この条件は自然発生の自己免疫性疾患を満たさないといったことがこのアプローチに関する課題となる。
【0006】
mTOR阻害剤ラパマイシン(シロリムス)は、Foxp3を発現する、先在するTreg細胞の増大を操作するために使用されてきた(Zheng et al., 2003 Immunity vol 19 p503; Battaglia et al., 2005 Blood vol 105 p4743)。しかしながら、そのような処理は、Foxp3のデノボ発現を誘発しないことが示され、これは課題となる。たとえば、Battagliaら(同書)は、「ラパマイシンを曝露したT細胞培養物中の・・・CD4 CD25 Tr細胞の存在は、CD25 T細胞からのCD25 Tr細胞のデノボ誘発又は培養の初めに、限られた量で既に存在する(つまり、10%のCD4 CD25bright T細胞がナイーブ脾臓中に普通見出される)、自然発生のCD4 CD25 FoxP3 Tr細胞サブセットの選択的な増大のいずれかによるものであるかもしれない。この疑問を検討するために、CD25 Tr細胞を除去したCD4 T細胞を、ラパマイシンの存在下又は非存在下で3週間培養した。CD4 T細胞とは対照的に(図3A)、ラパマイシンの存在下で活性化されたCD4 CD25 T細胞は、インビトロでの細胞増殖を抑制しなかったT細胞の集団を生じさせた(図4A)。したがって、FoxP3発現は、CD4 CD25ラパマイシン処理T細胞中でではなくラパマイシンに曝露されたCD4 T細胞中で増強された(図4B)」と述べている。そのうえ、用いられるプロトコールは、数週間にわたる、複数回のインビトロ刺激に依存し、これは、非常に大きな労働力を要する欠点を有する。Treg細胞数に対するラパマイシンの負の効果もまた当技術分野で報告された。ラパマイシンは、合成化合物ではなく、したがって、不純物の課題及び/若しくは変化又は製剤の課題から影響を受け得る。
【0007】
したがって、先行技術による技術は、典型的に、既にFoxp3を発現している細胞中でのFoxp3発現を増強することができる既存のTregの刺激若しくは活性化を介して作用している又は非Tregのブロッキングに基づき、集団中でのTregの増大/選択若しくは過剰発現をもたらす。これらの結果は、上記に言及されるようなラパマイシン処理と同じである。他の例は、Foxp3発現の既に存在するレベルを典型的に増強するTGFベータの使用である。そのようなアプローチは、デノボFoxp3発現/デノボTregをもたらさない。
【0008】
PI3Kアイソザイムp110デルタの遺伝子ターゲティングは、胸腺中でのTreg細胞数の増加をもたらすが、末梢リンパ系器官中でのTreg細胞数の減少をもたらす。これには炎症性腸疾患が伴い、これは、Treg細胞の欠損に関連づけられることが多い。PI3Kシグナル伝達及びFoxp3発現の間の関係に関する明確な結論はこれらの研究から引き出すことはできない。
【0009】
PI3Kアイソザイムp110ガンマの阻害剤は、Treg細胞とは別個のメカニズムに基づいた自己免疫性疾患の治療についての評価中である。
【0010】
国際公開第2004/032867A3号パンフレットは、エフェクターT細胞又は調節性T細胞と優先的に関連する分子及びそれらの使用の方法を開示する。この文献は、集団レベルについての研究を示す。PI3K阻害剤は、この文献の76ページ及び図23Aに記載されている。Foxp3発現に対する効果(たとえあったとしても、高用量の、この文献による阻害剤は、おそらく細胞毒性であり、低用量ではほぼ間違いなく有意な効果を示さない)は、Foxp3発現細胞の増大又はFoxp3発現細胞中でのFoxp3の発現の増強によるものであるように思われる。国際公開第2004/032867A3号パンフレットの教示にデノボFoxp3発現の証拠はない。この文献の根本的な方針は、免疫系のバランスを傾けるような、たとえば全般的に自己免疫病を低下させようとする又は全般的に応答を増強しようとする試みにある。新たなTregを作製するための教示も示唆もない。それらの方法は、せいぜい、休止細胞(PBL)が、同時に、活性化され(CD3/CD28)、阻害される(LY294002)こと、つまり、同時の活性化及び刺激を教示するものである。他の先行技術による研究(たとえばBattaglia(同書))と共通して及び発明者ら自身の研究と共通して、そのような処理は、デノボFoxp3発現/デノボTregを生じない。
【0011】
米国特許出願公開第2004/0072766号は、細胞内シグナル伝達を操作することによってT細胞応答を調整するための方法を開示する。この文献に開示される方法は、刺激物質及び阻害剤を一緒に、つまり一度に又は同時に添加することを含む。デノボFoxp3発現はこのアプローチでは生じない。
【0012】
Foeyら(Arthritis Res 2002 vol 4 pp64-70)は、サイトカインに刺激されたT細胞が、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びp70S6Kに依存する、マクロファージによるIL−10の産生を誘発するといったこと並びに関節リウマチのその密接な関係を開示する。これは、T細胞の存在下でのマクロファージに関する研究に関する。T細胞は、接触の前及び後の効果を分けるために固定された。したがって、細胞は固定されており、PI3K阻害剤がこれらの方法で添加される場合、細胞はもはや生きていない。したがって、デノボFoxp3発現は、これらの方法によってもたらされない。
【0013】
Breslinらは、ラパマイシン及びLY294002が協力して、T細胞増殖を阻害することを開示する。この例は、他の研究と共通して、増殖などのようなそれらの生態の側面を研究するために、T細胞を阻害剤に曝露することを含む。阻害剤は、刺激の前に、典型的に、刺激の少なくとも30分前に添加される。次いで、細胞数又は他のパラメーターが検査される。デノボFoxp3発現はそのような技術によって生じない。
【0014】
米国特許出願公開第2005/0261317号は、ヒトPI3Kデルタの阻害剤を開示する。この文献は、単に、ある種の好中球、B細胞、及びある種のエキソサイトーシス細胞について検査するものであり、T細胞又はTregと関係がない。示されるデータは、単に、開示されるPI3K阻害剤が関係のある機能を実際にブロックするといったことを検証することを目的とする。
【0015】
米国特許出願公開第2004/0126781号は、CD28媒介性の同時刺激シグナルの阻害によって免疫媒介性の流産を予防する方法を開示する。これらの方法は、可溶性のリガンドを用いるCD28のブロッキングを含む。可溶性のリガンドを用いるCD28のブロッキングはT細胞の刺激/活性化と明らかに相互に排他的である。
【0016】
本発明は、先行技術と関連する(1又は複数の)課題を克服しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2004/032867A3号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0072766号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0261317号
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0126781号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Chen et al., 2003 J. Exp. Med. vol 198, pp1875-1886
【非特許文献2】Kretschmer et al., 2005 Nature Immunol. vol 6 p1219
【非特許文献3】Zheng et al., 2003 Immunity vol 19 p503
【非特許文献4】Battaglia et al., 2005 Blood vol 105 p4743
【非特許文献5】Arthritis Res 2002 vol 4 pp64-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
Foxp3発現は、調節性T細胞の機能と関連している。一定の状況では、Foxp3発現は、調節性T細胞の機能を誘発するのに必要であり、且つ十分であることが示された。実際に、Foxp3発現は、ある環境では、T細胞の他の亜集団と比較した、調節性T細胞の指標又はそれを確認するものとして見なされてきた。先行技術では、Foxp3発現を薬理学的に誘発する唯一知られている方法は、生理活性ペプチドTGFβを用いてT細胞の集団を処理することによるものであった。
【0020】
本発明者らは、驚いたことに、Foxp3発現の誘発のための新たな技術を発見した。この新たな方法は、Foxp3発現を誘発することが以前に示されていないPI3−K阻害剤の使用を含む。
【0021】
本発明者らの重大な発見は、標的細胞に対する処理のタイミングに関連するものである。具体的には、発明者らは、阻害剤(PI3K阻害剤など)が、細胞を刺激した後にのみ細胞に添加されなければならないといったことを見出した。したがって、阻害剤を細胞と接触させる前に、刺激/活性化ステップの後にインキュベーションしなければならない又は時間的な猶予を設けなければならない。活性化と同時の又は活性化の前の、阻害剤の添加はデノボFoxp3発現をもたらさない。したがって、阻害剤は、刺激/活性化の後に添加されるべきであるといったことは本発明の重大な教示となる。これらの重要なタイミングは、下記に、より詳細に説明される。
【0022】
一定のPI3−K阻害剤は、mTORを阻害することが示されたが、Foxp3発現を誘発するようにそれらが作用する証拠はない。そのうえ、ラパマイシン(mTORに作用する)は、CD4+ CD25+ Foxp3+調節性T細胞を選択的に増大させることができることが示されたが、そのような技術を使用するデノボFoxp3発現のいかなる誘発の実証もなかった。したがって、ある種のPI3−K阻害剤が、T細胞中でのデノボFoxp3発現の誘発及びTregの機能を直接もたらし得るといった、本発明者らによってなされた発見は、驚くべき、意義深い進歩である。
【0023】
本発明は、これらの驚くべき発見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、第1の態様では、本発明は、T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法を提供する。
【0025】
他の態様では、本発明は、あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含み、前記阻害が、刺激の10〜22時間後に開始される方法に関する。
【0026】
他の態様では、本発明は、1又は複数の調節性T細胞を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップであって、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始されるステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法に関する。
【0027】
適切には、前記阻害が、刺激の約17〜19時間後に開始される。
【0028】
適切には、前記阻害が、刺激の約18時間後に開始される。
【0029】
適切には、シグナル伝達ステップを阻害するステップは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む。
【0030】
適切には、PI3Kアルファ、PI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップは、前記細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する。
【0031】
適切には、前記方法は、シグナル伝達を阻害する時間までに前記刺激を中止するステップをさらに含む。
【0032】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法に関する。
【0033】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたCD8−T細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法に関する。
【0034】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法に関する。
【0035】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、m−TOR阻害剤を用いて処理するステップを含む方法を提供する。m−TOR阻害剤は、ラパマイシン(シロリムス)若しくはRAD001(エベロリムス)等のその類似体、CCI−779(テムシロリムス)、AP23573、又はPI103等の混合m−TOR/p110アルファ阻害剤等の、あらゆる知られているm−TOR阻害剤であってもよい。好ましくは、前記m−TOR阻害剤はラパマイシンである。
【0036】
刺激は、本明細書に記載されるように、Treg産生に向けて、T細胞を、PI3K阻害剤及び/又はm−TOR阻害剤の作用に感受性にする、あらゆる適した方法によるものであってもよい。好ましくは、T細胞の刺激は、TCR受容体の刺激によるものである。いくつかの実施形態では、この刺激は、持続的な又は永続的な刺激であってもよく、これは、PI3K阻害剤及び/又はm−TOR阻害剤の作用時に刺激が必ずしも中止されないことを意味する。好ましくは、刺激されたT細胞は、T細胞受容体を介して刺激されたT細胞である。より好ましくは、T細胞の刺激は、TCR受容体刺激の中止が後続する前記TCR受容体の刺激によるものである。他の実施形態では、刺激は、CD3を介するものであってもよい。いずれの場合も、好ましくは、CD28などのような同時刺激受容体もまた刺激される。好ましくは、CD28は、TCR受容体(1又は複数)又はCD3受容体(1又は複数)の刺激と同時に刺激される。好ましい実施形態では、刺激は、好ましくはTCR及びCD3を介する刺激の中止が後続する、TCR及び/又はCD3並びにCD28の同時の刺激を介するものである。刺激の中止は、シグナルの単純な除去を指してもよい又は阻害剤(1又は複数)の添加時の、CD3/CD28の同時刺激のブロッキングなどのような、より積極的な方法を指してもよい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態は、たとえば実施例の部に説明されるように、シグナル遮断ステップをさらに含んでいてもよい。
【0038】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を産生するための方法であって、(i)T細胞を刺激するステップと、(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、(iii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介する及び/又はm−TORを介する及び/又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、ステップ(ii)は、前記刺激を中止するステップを含む。
【0039】
前記T細胞の刺激は、TCR受容体の刺激を介する又はCD3及びCD28などのような同時刺激受容体を介するものであってもよい。好ましくは、刺激は、T細胞受容体を介する前記刺激の中止が後続する、T細胞受容体を介するものである。
【0040】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法を提供する。好ましくは、ステップ(iii)は、前記刺激を中止するステップを含む。
【0041】
好ましくは、前記T細胞を刺激するステップは、前記T細胞を、抗TCR抗体又は抗CD3抗体と接触させるステップを含む。好ましくは、前記T細胞を刺激するステップは、前記T細胞を抗CD28抗体と接触させるステップ、好ましくは、前記T細胞を、抗TCR抗体又は抗CD3抗体と、さらに抗CD28抗体と同時に接触させるステップをさらに含む。そのような抗体の提示の形態は操作者が選択することができ、たとえば、これは、プレートに結合した抗体を使用して又は抗CD3/抗CD28抗体などのような抗体でコーティングしたビーズを使用することによって、又は操作者に知られている提示の他の方法によって達成することができる。
【0042】
他の実施形態では、刺激は、特異的なペプチド抗原と接触させた抗原提示細胞などのような抗原提示細胞との、末梢T細胞などのような標的細胞の接触によるものであってもよい。これらの実施形態では、他の刺激形態を含む実施形態と同様、前記刺激は、永続的又は持続的であってもよく、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に刺激が中止されないことを意味し得る。他の実施形態では、刺激は、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に中止してもよく、m−TOR/PI3K/Akt阻害時の前に中止してもよく、適切には、刺激は、m−TOR/PI3K/Akt阻害時に中止してもよい。
【0043】
他の態様では、本発明は、あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含む方法を提供する。
【0044】
他の態様では、本発明は、T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、T細胞を刺激するステップと、前記刺激を中止するステップと、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、前記方法は、T細胞受容体を介してT細胞を刺激することによって、T細胞中でFoxp3発現を誘発するステップと、T細胞受容体を介して前記刺激を中止するステップと、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップとを含む方法を提供する。
【0045】
他の態様では、本発明は、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ及び/又はm−TOR及び/又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む、上記に記載されるような方法を提供する。好ましくは、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップは前記細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含む。好ましくは、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する。
【0046】
PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップが、m−TORを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む場合、好ましくは、m−TORを介するシグナル伝達を阻害するステップは、前記細胞をラパマイシンと接触させるステップを含む。
【0047】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用を提供する。
【0048】
他の態様では、本発明は、Foxp3発現の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用を提供する。
【0049】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用を提供する。
【0050】
好ましくは、調節性T細胞の欠損症は自己免疫障害又は免疫病態である。好ましくは、前記欠損症は、関節リウマチ若しくは糖尿病、好ましくはI型糖尿病、大腸炎、又はTreg細胞の存在が好ましい予後を示すリンパ増殖性障害、好ましくはB細胞リンパ腫である。
【0051】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤を提供する。
【0052】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤を提供する。
【0053】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのm−TOR阻害剤を提供する。
【0054】
他の態様では、本発明は、調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのAkt阻害剤を提供する。
【0055】
他の態様では、本発明は、TCR刺激剤並びにPI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤及び/又はm−TORの阻害剤及び/又はAktの阻害剤を含むキットを提供する。
【0056】
他の態様では、本発明は、前記TCR刺激剤が抗TCR又は抗CD3、及び抗CD28を含む、上記に記載されるようなキットを提供する。好ましくは、抗TCR作用物質/抗CD3作用物質/抗CD28作用物質は、それぞれ、TCR/CD3/CD28の抗体である。
【0057】
他の態様では、本発明は、ラパマイシン等のm−TOR阻害剤をさらに含む、上記に記載されるようなキットを提供する。m−TOR阻害剤は、本発明のキットのTCR刺激剤/PI3K阻害剤の使用によって産生されたFoxp3を発現するT細胞の増大に有利に使用することができる。そのうえ、m−TOR阻害剤は、有利には、Foxp3誘発の効率を増加させてもよい。
【0058】
他の態様では、本発明は、Akt阻害剤をさらに含む、上記に記載されるようなキットを提供する。
【0059】
最も好ましい実施形態では、阻害剤は、PI3K阻害剤である。好ましくは、前記PI3K阻害剤はLY294002を含み、好ましくは、前記PI3K阻害剤は、PIK−90(アルファ/m−TOR)、PI−103(アルファ/ガンマ)、又はYM−024(アルファ/デルタ)などのようなクラスIA PI3K阻害剤を含む。
【0060】
好ましい態様
適切には、Foxp3が誘発されることになる細胞(標的細胞)の出発集団は、先在するTregが除去される。適切には、細胞の出発集団は、CD25+細胞が除去される。細胞の集団が1%未満のTregを含む場合、本発明者らは、それを、Tregが除去されたもの又は事実上Tregがないものと見なす。適切には、細胞の出発集団はTregを含まない。適切には、本発明の方法は、そのような除去のさらなるステップを含み、適切には、そのようなステップは刺激の前に実行される。
【0061】
適切には、Foxp3が誘発されることになる細胞(標的細胞)の出発集団はナイーブT細胞で豊富である。適切には、出発集団は、CD62L細胞で豊富であり且つ/又はCD45Rb細胞で豊富である。適切には、出発集団は、CD62L細胞で豊富であり且つCD45Rb細胞で豊富である。適切には、本発明の方法は、そのような豊富化のさらなるステップを含み、適切には、そのようなステップは刺激の前に実行される。
【0062】
細胞の活性化及び阻害が経時的に分離されるのは本発明の重要な特徴である。同時の活性化及び阻害は、デノボFoxp3発現をもたらさない。適切には、活性化及び阻害は、本発明に従って同時に行われない。これは先行技術にあり、デノボFoxp3発現をもたらさない。たとえば、本明細書の図1Cに関して、「0」時点は、先行技術の処理を示す−これは、刺激/活性化及び阻害剤の添加の間の0時間を表わす、つまり阻害剤は、活性化/刺激と同時に添加される。この処理は、デノボFoxp3発現の誘発で無効であることが非常に明らかである。対照的に、刺激及び阻害の間に猶予又はインキュベーションを含む本発明による処理は、デノボFoxp3発現の誘発にとって有効である。これは、なお存在する活性化剤と共に阻害剤を添加することができないことを意味しないが、活性化が阻害に先行しなければならないこと又は阻害が活性化の後に起こらなければならないことを意味する。分離の時間は非常に重要になり得、当技術分野に対する重大な寄与となる。活性化及び阻害の間の時間は、本明細書に教示されるように、特定の用途(複数可)のために具体的に選んでよい。例示的なタイミングは、阻害剤処理が、活性化の約12〜18時間後に、適切には、活性化の約18時間の後に、適用される場合である。これは、下記により詳細に説明される。
【0063】
適切には、本発明の方法は、細胞の増大を必要とすることなく、Foxp3を誘発するために適用される。
【0064】
望まれる特異性の細胞がTregに変換されるかもしれないといったことは本発明の利点となる。本明細書に説明される多くの利点を提供するのはこの能力である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】TCRシグナル遮断が、PI3−K/mTOR経路の阻害剤との相乗作用で、新たに活性化されたT細胞によるFoxp3発現を誘発することを示す図である。a)ナイーブCD62LhiCD4+CD25−LN T細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、TCR抗体の存在下(TCRシグナル伝達の継続)又はTCR抗体の非存在下(TCRシグナル遮断)でさらに2日間培養した。Foxp3 RNAの発現は、リアルタイムRT−PCRによって評価した(平均値±SD、n=3)。b)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、a)と同様、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、18時間後に、示す条件に移した。Foxp3タンパク質の発現は2日後に、細胞内染色によって評価した。CFSEプロファイルをFoxp3−細胞及びFoxp3+細胞について示す。c)Foxp3誘発は、ナイーブCD4 T細胞の活性化の18時間後に最も有効となる。
【図2】TCRシグナル伝達が、新たに活性化されたCD4 T細胞中でmTOR活性をコントロールすることを示す図である。a)1時間若しくは18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて又は抗CD28のみを用いて1時間(TCRシグナル伝達なし)ナイーブLN T細胞を刺激した。S6リボソームタンパク質のリン酸化は、細胞内染色及びフローサイトメトリーを使用して単一細胞レベルで決定した。b)ナイーブLN細胞をa)と同様活性化した。18時間後、ラパマイシン(25nM)若しくはLy294002(10μM)をさらなる1時間の間、添加し、又は細胞を、抗TCRの非存在下で示す時間の間、培養した。pS6レベルをa)と同様決定した。
【図3】TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発は安定しており、調節性機能の獲得をもたらすことを示す図である。a)Foxp3発現は、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLy294002によってナイーブCD4 T細胞中で誘発され、ある期間にわたってモニターした。細胞は、IL−2の存在下で7日ごとに再刺激した。b)ナイーブCD4 T細胞を18時間活性化し、さらに2日間、抗TCRを用いて(コントロール、<1% Foxp3+)又は抗TCRを用いずにラパマイシン及びLy294002の存在下で(Foxp3誘発、28% Foxp3+)培養した。段階的な数のFoxp3誘発細胞又はコントロール細胞を、APC及び可溶性抗CD3の存在下で、新鮮で、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加し、細胞分裂に対する効果(CFSEプロファイル)を48時間後に記録した。
【図4】インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現を示す図である。a)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、示されるように、ラパマイシン及びLy294002のi.p.と共に又はそれらを伴わずに、18時間後に、同一遺伝子の免疫適格性宿主にi.v.で移入した。内在性(CFSE−)CD4+脾臓細胞及び移入した(CFSE+、挿入図は、はるかに多くのイベントを示す)CD4+脾臓細胞によるFoxp3タンパク質の発現を2日後に細胞内染色によって評価した。b)18時間又は48時間での11回の移入実験の概要
【図5】Foxp3誘発でのp110アイソザイムの特異な関与を示す図である。ナイーブLN細胞を図1と同様活性化し、PI3−K阻害剤を18時間後に添加した。使用した濃度での各阻害剤のp110アイソフォーム特異性を示す(左パネル)。TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞のパーセンテージ(本実験で14%)を、PI3−K阻害剤の正味の効果(各散布図中の赤色のΔ値)を示すために減算した。細胞は、細胞分裂をモニターするために、活性化に先立ってCFSEを用いて標識化した(左パネル)。各阻害剤について、S6リボソームタンパク質リン酸化を、90分後に細胞内染色によって決定した。pS6+細胞のパーセンテージを示す(黒色、平均値±SD、TGX−115のn=1以外はn=3〜5、右パネル)。Foxp3+細胞のパーセンテージは、TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞のパーセンテージを減算した後のものを示す(赤色、平均値±SD、n=4〜12)。インビトロで決定したIC50値(Camps et al., 2005;Knight et al., 2006)を関係のある酵素について示す(右パネル)。
【図6】PI3K/mTORシグナル伝達の阻害剤によるFoxp3誘発はTGFβとは無関係であることを示す図である。a)ナイーブLN T細胞は、18時間、無血清AIM−V培地(Invitrogen)中で活性化し、TGFβ(1ng/ml)(90分間、レーン1)、TCRシグナル遮断(90分間、レーン2)、又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002(90分間、レーン3若しくは8時間、レーン4)に細胞を曝露した後に、全細胞抽出物を、SDSゲル電気泳動及びウエスタンブロッティングにかけた。引き続いて、ブロットを、抗pSmad2(S465/467)及び抗Smad2/3を用いてプローブした。b)a)と同様活性化したナイーブLN T細胞からTCRシグナルを取り除き、TGFβ及びPI3−K/mTOR阻害剤をグラフの下に示されるように添加した。Foxp3発現細胞のパーセンテージを24〜48時間後に決定した。培養物に、中和抗TGFβ(R&D Systems、3μg/ml)又はSmadキナーゼ阻害剤SB431542(Sigma、20μM)を追加した。TCRシグナルを取り除いた培養物中のFoxp3発現(9.2±5.6%、n=6)を減算した。コントロール培養物に正規化した、抗TGFβ(濃い灰色のバー)又はSB431542(薄い灰色のバー)の存在下でのFoxp3発現を示す(100%、黒色のバー;TGFβ 22.3±7.0%、n=9;PIK90 36.0±12.9%、n=7;PI−103 35.1±3.8%、n=8;Ly294002 21.5±4.0%、n=4、及びラパマイシン 28.6±9.0%、n=4)。ND:実施せず。
【図7】TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR経路の阻害剤が、新たに活性化されたT細胞によるFoxp3発現を誘発することを示す図である。a)ナイーブCD62LhiCD4+CD25−LN T細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び可溶性抗CD28を用いて刺激し、TCR抗体を用いて(TCRシグナル伝達の継続)又はTCR抗体を用いずに(TCRシグナル遮断)さらに2日間培養した。Foxp3 RNAの発現は、リアルタイムRT−PCRによって評価した(平均値±SD、n=3)。b)ナイーブCD4 T細胞は、CFSEを用いて標識化し、a)と同様、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて刺激し、18時間後に、示す条件に移した。Foxp3タンパク質の発現は2日後に、細胞内染色によって評価した。細胞の回収率は、投入した細胞の67〜108%であった。CFSEプロファイルをFoxp3−細胞及びFoxp3+細胞について示す。c)ナイーブLN CD4 T細胞は、示す時間の間、a)と同様活性化し、その後、細胞からTCRシグナルを取り除き、ラパマイシン及びLY294002に曝露した。Foxp3発現細胞のパーセンテージは2日後に決定した(2回の実験の平均値)。d)Foxp3発現は、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLY294002によってナイーブCD4 T細胞中で誘発された。細胞は、IL−2の存在下で毎週再刺激し、Foxp3発現をモニターした。自然Treg細胞を比較のために示す。e)ナイーブCD4 T細胞を18時間活性化し、さらに2日間、抗TCRを用いて(コントロール、<1% Foxp3+)又は抗TCRを用いずにラパマイシン及びLy294002の存在下で(Foxp3誘発、28% Foxp3+)培養した。段階的な数のFoxp3誘発細胞又はコントロール細胞を、APC及び可溶性抗CD3の存在下で、新鮮で、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加し、細胞分裂に対する効果を48時間後に記録した(CFSEプロファイル)。f)ナイーブCD45RBhiCD4+CD25−LN細胞を、同一遺伝子の、Rag欠損レシピエントに静脈内に移入し、新たにエクスビボに単離した、TCR活性化の継続と共にコントロール条件下で活性化した、又はTCRシグナルを取り除き、18時間後にラパマイシン及びLY294002を用いて処理した。大腸炎スコアを8週後に決定した。g)CD4単一陽性、CD25陰性胸腺細胞を活性化し、TCRシグナルを中止し、ラパマイシン/LY294002を18時間後に添加し、Foxp3発現をb)と同様2日後に分析した。
【図8】Foxp3誘発でのp110アイソザイムの特異な関与を示す図である。a)ナイーブLN細胞を図1と同様活性化し、PI3K阻害剤を18時間後に添加した。使用した濃度での各阻害剤のp110アイソフォーム特異性を、Foxp3+細胞のパーセンテージと一緒に示す。b)pS6+細胞のパーセンテージは90分間の時点で細胞内染色によって決定した(黒色、平均値±SD、TGX−115のn=1以外はn=3〜5、右パネル)。TCRシグナル伝達を取り除いた培養物中のFoxp3+細胞を超えるFoxp3+細胞の増加が示される(赤色、平均値±SD、n=4〜12)。インビトロで決定したIC50値を関係のある酵素について示す。
【図9】PI3K/mTORシグナル伝達によるFoxp3誘発はTGFβとは無関係であることを示す図である。a)ナイーブLN T細胞は、18時間、無血清AIM−V培地中で活性化し、TGFβ(1ng/ml)(90分間、レーン1)、TCRシグナル遮断(90分間、レーン2)、又はTCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びLy294002(90分間、レーン3若しくは8時間、レーン4)に細胞を曝露した後に、全細胞抽出物を、SDSゲル電気泳動及びイムノブロッティングにかけた。ブロットを、切り離し、抗pSmad2(S465/467)及び抗Smad2/3を用いてプローブした。b)a)と同様活性化したナイーブLN T細胞からTCRシグナルを取り除き、TGFβ及びPI3K/mTOR阻害剤を示されるように添加した。培養物に、中和抗TGFβ(3μg/ml)又はSmadキナーゼ阻害剤SB431542(20μM)を追加した。2日後に決定し、且つ抗TGFβ及びSB431542を用いないコントロール培養物に正規化した、抗TGFβ(濃い灰色のバー)又はSB431542(薄い灰色のバー)の存在下でのFoxp3発現を示す(黒色のバー;TGFβ 22.3±7.0%、n=9;PIK90 36.0±12.9%、n=7;PI−103 35.1±3.8%、n=8;LY294002 21.5±4.0%、n=4、及びラパマイシン 28.6±9.0%、n=4)。ND:実施せず。TCRシグナルを取り除いた培養物中のFoxp3発現(9.2±5.6%、n=6)を減算した。
【図10】新たに活性化されたCD4 T細胞中のPI3K/mTOR/Aktネットワークに対するTCRシグナル伝達の影響を示す図である。a)1時間若しくは18時間、プレートに結合した抗TCR及び抗CD28を用いて又は抗CD28のみを用いて1時間(TCRシグナル伝達なし))ナイーブLN CD4 T細胞を刺激した。S6リン酸化は、細胞内染色及びフローサイトメトリーによって決定した。b)ナイーブLN細胞をa)と同様活性化した。18時間後、ラパマイシン(25nM)若しくはLy294002(10μM)をさらなる1時間の間、添加し、又は細胞を、抗TCRの非存在下で示す時間の間、培養した。pS6レベルをa)と同様決定した。c)イムノブロッティングにより、b)の単一細胞レベルで検出した、TCRシグナル遮断及びラパマイシンに応じて減退するpS6を確認した。TGFβもまたpS6を低下させた。pAkt(S473)は、T細胞活性化の18時間後にではなく1時間後に目に見えたが、TCRシグナル遮断、ラパマイシン、及びTGFβに応じて再び現われた。d)PI3K/mTOR軸の経路モデル。PI3KはPDK1を介してAktを活性化し、AktはTSC1/2を阻害し、Aktは、mTORを活性化し、4EBP/eIF4Eを介して翻訳の阻害を軽減し、S6K1/eIF4Eを介してリボソームの活性を刺激する。e)PI3K/mTOR軸のネットワークモデルは、mTORC1及びmTORC2を区別する。mTORC1依存性のS6K1活性は、IRS1を介してPI3KによるmTORC2の活性化をブロックする。Akt活性は、PDK1(T308)及びmTORC2(S473)の両方に依存する(Jacinto et al., 2006;Sabatini, 2006)。f)Akti1/2によるAktの阻害はFoxp3発現を誘発する。ナイーブCD4 T細胞を活性化し、Foxp3発現を図1と同様評価した。
【図11】インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現を示す図である。a)TCRシグナル遮断を模倣するために、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を活性化し、次いで、腹腔内のラパマイシン(0.5mg/kg)及びLY294002(15mg/kg)と共に又はそれらを伴わずに、同一遺伝子の、完全免疫適格性宿主に静脈内に移入した(レシピエント当たり2〜4×106細胞)。内在性CD4脾臓細胞(CFSE−)及び移入した(CFSE+)CD4脾臓細胞によるFoxp3発現を2日後にアッセイした。5.3±4.6%(n=11)で、回収したFoxp3+細胞の度数は、もとの接種物(1.5±1.1%)のFoxp3+細胞の度数よりも3倍高かった。細胞移入に、ラパマイシン及びLY294002のi.p.を伴った場合、Foxp3+細胞の度数はさらに増加したが、内在性(CFSE−)T細胞中のFoxp3発現は変化せず、Foxp3+CD4 T細胞ではなく通常の細胞に対する選択的な毒性を実証した。b)11回の移入実験の概要。Foxp3発現細胞の増加が、Foxp3+CD4 T細胞の選択的な回収又はFoxp3誘発によるものであるかどうかを検討するために、発明者らは、TCR遮断がもはや効率的ではなくなる時間である、活性化の48時間後に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を移入し、インビトロでFoxp3発現を誘発した(図1cを参照されたい)。これらの条件下で、1.3±0.5%のCFSE+細胞が移入後にFoxp3を発現し(n=4)、1.6±0.3%のCFSE+細胞が、ラパマイシン及びLY294002の存在下で移入後にFoxp3を発現した(n=3)。
【図12】TCRリガンドの有用性が継続した状態でのPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発を示す図である。ナイーブCD4 T細胞を、CD3/CD28ビーズ(Dynal、4μl/106細胞)を用いて活性化した。示すPI3K/mTOR阻害剤を、ビーズを除去することなく、18時間の時点で添加し(1μM)、Foxp3発現を2日後に評価した。
【図13】生理学的TCRリガンド及びPI3K/mTOR阻害に応じるFoxp3誘発を示す図である。Rag1欠損H2bTCRトランスジェニックマウス由来のCD4 LN細胞を、CFSEを用いて標識化し、示す濃度のハトシトクロムCペプチド81〜104を用いてあらかじめ負荷した、BMに由来するB10.BR(H2k)抗原提示細胞と共に培養した。PIK90(1μM)を、抗原提示細胞又は抗原ペプチドを除去することなく、18時間後に添加した。Foxp3発現を2日後に分析した。
【発明を実施するための形態】
【0066】
多細胞生物の特殊化した細胞型は、遺伝子発現の特異的なパターンによって定義される。造血幹細胞からそれらの分化の間に、ナイーブCD4 T細胞は、それらの発生的な潜在力のかなりの制限を受けるが、多くの選択肢、すなわち、Th1、Th2、Th17、またTregの余地がそれらに残されている。Th系統の選出は、特異的な病原体に対する有効な免疫応答にとって重要であるが、エフェクター機能及び調節性機能の間のバランスは、過度の免疫病態及び自己免疫病を回避しながら免疫適格を保証するのに重大である。自然調節性T細胞は、特徴となる転写因子Foxp3の発現によって特徴づけられ、Foxp3の持続的な発現は、調節性T細胞の機能にとって必要であり、且つ十分である。Tregは、胸腺中で「自然に」発生し、ナイーブ末梢CD4 T細胞から発生し得る。発明者らは、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3発現及び調節性T細胞の機能を誘発するシグナルを同定する。発明者らは、新たに活性化されたT細胞からTCRシグナルが取り除かれた場合にFoxp3発現が誘発されることを開示する。この状況では、Foxp3誘発は、PI3K/mTOR軸の阻害剤によって選択的に強化され、Treg分化の古典的な誘発物質であるTGFベータとは無関係であるように思われる。
【0067】
特に、本発明は、PI3−K/mTOR阻害剤、好ましくはPI3K阻害剤の使用を提供し、これは、TCRシグナル遮断と相乗作用を示して、新たに活性化されたCD4 T細胞中でFoxp3を誘発する。
【0068】
ナイーブCD4 T細胞の活性化は、エフェクター細胞又は調節性T細胞(Treg)になるためのそれらの潜在力を明らかにする。エフェクターは免疫応答を媒介し、Tregは、エフェクターT細胞のバランスを取り、ホメオスタシスを維持し、免疫病態を予防する。発明者らは、Tregの特徴となる転写因子であるFoxp3の安定した誘発のための新規な方法を記載するが、これは、新たに活性化されたT細胞からTCRシグナルが取り除かれ、PI3K/mTORの阻害剤、好ましくはPI3Kの小分子阻害剤によって強化された場合に引き起こされる。クラスI PI3K触媒サブユニットの選択的阻害は、Foxp3の調節因子として、p110ガンマ又はp110ベータではなく、p110アルファ及びp110デルタを同定する。Foxp3誘発は、外因性のTGFベータとは無関係であり、中和TGFベータ抗体及びSmadシグナル伝達の薬理学的アンタゴニストに抵抗性である。これらの開示は、新たなアプローチが調節性T細胞分化を操作することを可能にする。
【0069】
デノボFoxp3発現が誘発されるといったことが本発明の利点であることに注目されたい。これは、現在までに示された最高の効果が、既にFoxp3を発現しているT細胞の増大であった先行技術での状態と対比される。目下Foxp3を発現していない細胞中でFoxp3発現を活発に誘発する可能性は、本発明の意義深い利点である。
【0070】
本発明者らは、PI3K/mTOR経路の小分子阻害剤が、Treg細胞系統の特徴となる転写因子であるFoxp3のデノボ発現を速やかに且つ効率的に誘発することを示す。これは、新たな治療上のアプローチが、自己免疫性疾患の予防及び治療などのような、Treg細胞のデノボ産生が望ましい臨床状況に適用されることを可能にする。関節リウマチ及びI型糖尿病などのようなこれらの疾患の多くは、非常に臨床的に重要である。したがって、本発明の産業上の用途及び有用性はこれらの意義深い医療への用途から生じる。
【0071】
ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3−K)
PI3−Kのファミリーは、多数の異なる個々のアイソザイムを有する酵素のファミリーである。広範囲の態様では、本発明は、Foxp3発現の誘発での、PI3−K阻害剤、好ましくはクラスI PI3K阻害剤の使用に関する。しかしながら、クラスIB PI3Kガンマの阻害はFoxp3発現を誘発しないということ及びPI3−Kγは調節性T細胞を介して作用しないということが発明者自身らのデータから明らかである。この観察は、PI3−Kγが調整性の効果を有し得るといったことを述べる、先行技術の教示と対照的である。しかしながら、本明細書に開示されるように、事実上、PI3−Kγは、調節性T細胞中での作用によるその効果を発揮しておらず、したがって、PI3−Kγの阻害又は阻害剤は本発明から明確に放棄される。好ましくは、PI3−K阻害剤への言及は、PI3−Kベータに対して特異的ではないクラスIA PI3−K阻害剤への言及として解釈されるべきである。好ましくは、PI3−K阻害剤への言及は、PI3−Kγ活性を阻害するように作用するあらゆる化合物を指さないように解釈されるべきである。
【0072】
化合物がPI3−Kγ活性などのような特定のPI3K活性を阻害するように作用するかどうかは容易に決定されるかもしれない。たとえば、PI3−Kγの阻害を決定してもよい1つの方法は実施例で説明される。さらに、本明細書又は先行技術に記載される方法によって試験することによって、化合物が、PI3−Kγ特異的阻害剤又はPI3−Kγ選択的阻害剤などのようなPI3Kアイソフォーム特異的阻害剤又はPI3Kアイソフォーム選択的阻害剤かどうかを決定してもよい。標準的な試験では、キナーゼを生成し、異なる濃度の阻害剤及び試験しているキナーゼによってリン酸化することができる適した試験基質を用いる滴定実験で、阻害剤を用いてインビトロでキナーゼを試験する。そのうえ、PI3K阻害剤は、典型的に、メーカー/サプライヤーによって又は所望の化合物と関係がある文献中でそれらの特異性に関して特徴づけられる。
【0073】
PI3−Kへの言及は、PI3−Kのファミリー、好ましくは、クラスI PI3Kのファミリー、好ましくは、クラスIA PI3Kのファミリー、好ましくは、ガンマを除く、クラスIA PI3Kのファミリー、最も好ましくは、PI3−Kα、PI3−Kβ、PI3−Kδからなる群から選択されるクラスIA PI3−Kに関するものとして解釈されるべきである。
【0074】
PI3−Kβが、Foxp3誘発で、限られた役割を有する又は役割を有していないことが本明細書でさらに開示される。したがって、好ましくは、PI3−KはPI3−Kβではなく、好ましくは、PI3−K阻害剤は、PI3−Kβに対して特異的ではない又は選択的ではない。
【0075】
具体的には、発明者らは、PI3−Kα又はPI3−Kδの阻害が特に有利であることを示す。したがって、好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤は、PI3−Kαに対して特異的な又は選択的な阻害剤である。他の好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤は、PI3−Kδに対して選択的な又は特異的な阻害剤である。
【0076】
標的細胞
Foxp3発現を生成することが望まれる標的細胞は任意の細胞であってもよい。好ましくは、細胞は、造血性の細胞であり、好ましくは、細胞は、T細胞系統の細胞であり、好ましくは、細胞は、胸腺細胞又はリンパ球であり、好ましくは、細胞は、成熟T細胞の亜集団を含む、末梢リンパ球(たとえば末梢血リンパ球)などのような、リンパ球の集団である。好ましくは、標的細胞は、T細胞、好ましくは成熟ナイーブT細胞である。細胞が胸腺細胞である場合、好ましくは、使用される技術は、末梢T細胞と同じ技術である。
【0077】
好ましくは、標的細胞はCD8+T細胞ではない。CD8+T細胞は、活性化及びPI3K阻害の後にFoxp3を発現しない。適切には、標的細胞(複数可)はCD8+T細胞を含まない。適切には、標的細胞(複数可)は、CD8+T細胞が除去されている又は本質的にCD8+T細胞がない。適切には、標的細胞はナイーブT細胞である。
【0078】
好ましくは、標的細胞は、トランスジェニック細胞ではない。トランスジェニック細胞は遺伝的に不安定となり得る。トランスジェニック細胞は、対象へのそれらの再導入を企図する場合、調節性の課題となりやすい。好ましくは、標的細胞は、所望の対象からあらかじめ収集された自然発生の細胞である。
【0079】
処理される細胞が標的細胞の亜集団(T細胞)を含むのみである場合、たとえば、処理が末梢リンパ球に対して行われる場合、明らかに、用語「標的細胞」は、処理されている細胞の全集団の中のT細胞を指すと適宜解釈されなければならない。言いかえれば、本発明を実施する際に、事実上、それらの細胞の亜集団のみが標的細胞である場合、Foxp3発現を誘発するように細胞の集団を処理することが望ましいかもしれない。たとえば、末梢リンパ球の集団はB細胞、T細胞、及び他の細胞を含んでいてもよい。便宜上、末梢リンパ球の全集団を処理してもよいが、もちろん、それらの一部分のみ(つまりT細胞)が事実上、標的細胞となることが熟練の読者によって十分に理解されるであろう。目的は典型的にTregを産生することであるので、標的細胞は非Treg細胞となるであろう。好ましくは、標的細胞は、本発明の処理(1又は複数)の前にFoxp3を発現しないT細胞である。
【0080】
調節性T細胞を産生する方法
広範囲の態様では、本発明は、1又は複数のT細胞の集団を採取し、PI3−K阻害剤を用いてそれらを処理し、調節性T細胞を得ることに関する。
【0081】
もう少し詳細には、好ましくは、T細胞の集団は、T細胞受容体(TCR,T cell receptor)又はシグナル伝達タンパク質のTCR関連CD3複合体を介して刺激される。実際に、TCRシグナルは、その関連タンパク質を介して事実上伝達される。したがって、TCRを介して刺激するために、実在するTCR自体を標的とすること(たとえば抗原特異的TCRターゲティング)又はCD3(たとえばTCR関連タンパク質(1又は複数))が可能である。次いで、この刺激は好ましくは中止される。この刺激の中止に続いて、細胞は、PI3−K阻害剤を用いて処理される。PI3−K阻害剤とのインキュベーションに続いて、調節性T細胞が得られる。具体的には、PI3−K阻害剤の処理はFoxp3発現を誘発し、これは、調節性T細胞になる運命又は調節性T細胞への分化をもたらす。
【0082】
この効果をもたらすための例証となる方法は実施例で提供される。
【0083】
TCR刺激に関するタイミングは、効果を改善するために有利に操作することができる。好ましくは、T細胞は、それらがPI3−K阻害剤を用いて処理される場合、少し前に活性化されている。活性化は、T細胞受容体を介する刺激を指す。「少し前の」によって、直前の2日以内の刺激又は活性化が意味される。
【0084】
PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理が活性化の48時間以内に適用される場合、最高の結果が得られる。好ましくは、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の3〜47時間以内に、好ましくは、刺激の47時間以内に、好ましくは、刺激の30時間以内に、好ましくは、刺激から約18時間で、好ましくは、刺激から18時間で提供される。好ましくは、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の少なくとも3時間後に、好ましくは、刺激の少なくとも4時間後に、好ましくは、刺激の9時間を超える時間の後に、好ましくは、刺激の少なくとも10時間後に、好ましくは、刺激の約18時間後に、好ましくは 刺激の18時間後に提供される。これらのタイミングの技術的な利益はFoxp3誘発の最適化及び/又は最大化である。
【0085】
好ましくは、刺激からの時間は、T細胞受容体を介するシグナル伝達の中止からの時間である。
【0086】
好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激から3〜47時間の範囲で、好ましくは、刺激から4〜47時間の範囲で、好ましくは、刺激から4〜30時間の範囲で、好ましくは、刺激から10〜30時間の範囲で、好ましくは、刺激から12〜25時間の範囲で、好ましくは、刺激から15〜25時間の範囲で、好ましくは、刺激から17〜19時間の範囲で、好ましくは、刺激から約18時間で、好ましくは、刺激から18時間で提供される。これらのタイミングの技術的な利益はFoxp3誘発の最適化及び/又は最大化である。
【0087】
最も好ましい実施形態では、PI3−K阻害剤処理などのような阻害剤処理は、刺激の10〜22時間後の時間に、好ましくは、刺激の12〜20時間後の時間に、好ましくは、刺激の12〜18時間後の時間に、好ましくは、刺激の17〜19時間後の時間に、好ましくは、刺激の約18時間後に、好ましくは、刺激の18時間後に提供される。これは、優れたFoxp3誘発という利点を有する。実際に、これらのタイミングの技術的な利益は、実施例の部で、たとえば図1Cに関して示される。
【0088】
調節性T細胞
調節性T細胞(時にTregと呼ばれる)は健常な免疫系の重要な構成要素である。調節性T細胞は、エフェクターT細胞を抑えること及び自己免疫性疾患の主要な要因となり得る「自己認識」の予防に関与する。
【0089】
調節性T細胞は、当技術分野で知られている、多数の承認されているバイオマーカーを有する。これらは、CD4+、CD25+、及びFoxp3+を含む。特に、本発明によれば、調節性T細胞は、Foxp3発現(Foxp3+)を示さなければならない。
【0090】
調節性T細胞は、好ましくは、調節性機能を示さなければならない。調節性機能の表示は、当技術分野で知られている任意の適した方法によって決定してもよい。特に、そのような試験の例は、実施例の部で説明される。具体的には、図3に例示される試験は、調節性T細胞の機能についての標準的なインビトロ試験として見なされる。
【0091】
インビボで、調節性T細胞は、それらの生存及び/又はそれらの調節性機能の維持のために、IL−2、TGFベータ、又はIL−9(肥満細胞に由来するIL−9など)などのような付加的な因子を必要とすると広く考えられている。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、前記リンホカインとそれらのT細胞を接触させることに加えた、T細胞中でのFoxp3の誘発に関し、前記リンホカインと接触させることは、肥満細胞などのような、前記リンホカインを生成する細胞と接触させることによって達成し得る。本実施形態では、前記リンホカインを生成する細胞(たとえば肥満細胞)は、処理されている対象中にインビボで提供することができる。PI3KP110δノックアウト動物は、肥満細胞依存性の応答を有しておらず、Treg機能の低下を示すことに注目されたい。
【0092】
PI3K/m−TOR/Akt阻害剤
本発明のPI3K阻害剤は、PI3K、好ましくはクラスI PI3K、好ましくはクラスIA PI3Kを阻害することができる任意の1つ又は複数の化合物であってもよい。特に、PI3K阻害剤は、生体高分子であってもよく又は小有機化合物若しくは小無機化合物であってもよい。好ましくは、PI3K阻害剤は、小有機化合物、好ましくは合成化合物である。
【0093】
いくつかの小分子PI3K阻害剤は臨床上の使用のための評価の下にあり、これらは本発明の好ましい阻害剤である。PI3Kのいくつかの小分子阻害剤は臨床上の使用のために承認されており、これらは本発明のより好ましい阻害剤である。
【0094】
もちろん、いくつかのPI3−K阻害剤は1つを超えるアイソザイムに作用してもよい。PI3−K阻害剤が、Foxp3発現の誘発を直接引き起こさないと発明者らが開示する、PI3−Kサブタイプの1つに作用する場合、これは、そのPI3−K阻害剤を本発明から除外するものではない。本明細書で使用されるようなPI3−K阻害剤の重要な特徴は、そのPI3−K阻害剤が、Foxp3発現の誘発にとって重要であるとして開示されるPI3−Kアイソザイムの1つを阻害するように作用することである。したがって、本発明によるPI3−K阻害剤は、好ましくは、PI3−Kα及び/又はPI3−Kδの作用を阻害する活性を示さなければならない。そのような阻害剤がまた、PI3−Kβ又はPI3−Kγなどのような異なるPI3−Kアイソザイムに対する副次的な効果をも有する場合、そのような阻害剤は、本発明から除外されるものと見なされるべきでない。しかしながら、明らかに、投与を単純化し、且つ不要な多面効果又は副作用を回避するために、可能な限り特異的な効果を有するPI3−K阻害剤を選ぶことが好ましい。したがって、好ましくは、本発明のPI3−K阻害剤は、所与のPI3−Kアイソザイムに対して特異的である。好ましくは、本発明のPI3−K阻害剤は、PI3−Kα及び/又はPI3−Kδに対して特異的である。好ましくは、阻害剤は、PI3−Kαに対して特異的である。好ましくは、阻害剤は、PI3−Kδに対して特異的である。PI3−Kα及びPI3−Kδの両方の活性を低下させる阻害剤は特に好ましく、最も好ましいのは、PI3−Kα及びPI3−Kδの活性を低下させるが、PI3−Kγ及び/又はPI3−Kβなどのような他のアイソザイムの活性を低下させない阻害剤である。
【0095】
これらの阻害剤は、Foxp3の調節で有力に活性であるので、最も好ましくは、阻害剤は、PI3−Kアルファ又はPI3−Kデルタに対して特異的であり、好ましくは、阻害剤は、PI3−Kアルファ及びPI3−Kデルタに対して特異的である。
【0096】
最も好ましいのは、臨床上の使用のために承認され、且つPI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害するPI3K阻害剤である。さらに好ましいのは、PI3−Kγ及び/又はPI3−Kβなどのような他のアイソザイムの活性をも低下をさせないような阻害剤である。
【0097】
先行技術で使用されてきたような、生物学的な供給源から精製された生理活性ペプチド(たとえばTGFベータ)とは対照的に、PI3Kの小分子阻害剤は、合成的に生成することができ、且つ優れた薬理学的特性を有する(インスリン及び経口糖尿病薬の間の違いと似ている)。個々のPI3Kアイソザイムに対する選択性を有する化合物などのような合成PI3K阻害剤化合物の使用は、生理活性ペプチドの副作用を最小限にする又は排除することができるといった技術的な利点を提供する。
【0098】
新世代のPI3−K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられており、幅広い範囲の他のキナーゼよりも優先的に、PI3−Kアイソザイムに対する選択性を有することが示された(Knight et al., 2006 Cell vol 125 pp733-747)。選択的なクラスIA PI3K阻害剤は本発明の好ましい阻害剤である。好ましい阻害剤は、実施例の部で示され、最も好ましいのは、実施例の部のアルファPI3K阻害剤及びデルタPI3K阻害剤である。
【0099】
m−TOR阻害剤は、ラパマイシン、wortmannin、及びPIK−90などのような合成化合物を含む。好ましいm−TOR阻害剤は、上記及び実施例の部に開示される。最も好ましいのはラパマイシンである。
【0100】
プロテインキナーゼB又はAkt(PKB/Akt−便宜上、これを単に「Akt」と本明細書で呼ぶ)は、セリン/トレオニンキナーゼであり、これは、哺乳動物では、PKBアルファ(Akt1)、PKBベータ(Akt2)、及びPKBガンマ(Akt3)として知られている3つの高度に相同的なメンバーを含む。Akt阻害剤は、アロステリック阻害剤Akti−1/2を含む。
【0101】
ラパマイシン
m−TORシグナル伝達の阻害(つまりラパマイシン処理)は、先行技術で、Foxp3+Tregの増大に寄与することが示されたが、ラパマイシンによるFoxp3の誘発の教示はない。その発明者らは、当技術分野の、m−TOR阻害及びFoxp3誘発の間のあらゆる関連に気づいていない。実際に、本発明者らは、生物学的に関係のある飢餓/栄養源の除去を使用して、この分野を調査し、m−TOR活性の低下を誘発した。これらのシグナルは、m−TOR活性の低下の実証としてpS6を消失させることが示されたが、Foxp3の誘発をもたらさない。その系の、この簡潔にして要を得た精査は、本発明の方法が、Foxp3の誘発への新たなアプローチを提供することを示し、m−TORシグナル伝達を介して作用して、Foxp3+細胞の増大をもたらす先行技術のアプローチは、事実上、Foxp3のデノボ発現及びTregの分化を誘発しないことをさらに示す。
【0102】
ラパマイシンはPI3K阻害剤ではない。たとえば、「試験したどのプロテインキナーゼも、細胞ベースのアッセイで、mTorを阻害するのに必要とされる濃度よりも10〜20倍高い濃度である1マイクロMのラパマイシンによって有意に阻害されなかった(Bioch. J. 351:95−105, 2000)」ことが当技術分野で実証されており、これは、阻害剤の特異性についての標準的な作業である。
【0103】
組合せ
Foxp3発現が本発明によって誘発されると、本明細書で教示される方法を、それらの細胞の増大を促進する方法と組み合わせることは有利であるかもしれない。したがって、好ましい実施形態では、好ましくは、Foxp3発現が誘発された調節性T細胞は続いて増大させられる。好ましくは、これは、ラパマイシン処理によって達成される。特に、これは、Battaglia et al 2005 Blood Volume 105 page 4743と同様達成することができる。
【0104】
さらなる用途
本発明は、自己免疫性疾患の予防及び/又は治療などのような、Treg細胞のデノボ産生が望ましい臨床状況での広範囲の用途を見出す。
【0105】
m−TOR阻害は、インビトロの調節性機能の維持にとって重要であるかもしれない。
【0106】
本発明は、特異的な抗原に対する調節性T細胞の誘発での用途を見出す。本実施形態では、抗原は最初に選択され、次いで、Foxp3誘発は、その特異的な抗原に応答することができるT細胞中で起こる。
【0107】
調節性T細胞は免疫系をコントロールする。特に、それらは、Tエフェクター細胞を抑える。調節性T細胞の欠損症は、関節リウマチなどのような自己免疫疾患と関連する。したがって、調節性T細胞を作製することによって、典型的に、本明細書に開示されるようにFoxp3発現を誘発することによって、そのような免疫損傷を妨げる、予防する、又は低下させることができる。
【0108】
本発明は、有利には、インビトロでの調節性T細胞の産生に適用することができる。先行技術では、これは、TGFβを用いる処理によって達成された。本発明は、この方法に対する好都合な代替物を提供する。そのうえ、本発明は、生理活性TGFβペプチドへの曝露を回避する利点を提供する。
【0109】
特に、本発明は、調節性T細胞のエクスビボ産生での用途を見出す。本実施形態では、T細胞の集団は患者から採取される。次いで、これらは、調節性T細胞を誘発するために、本発明の方法に従って処理される。次いで、これらの調節性T細胞は、治療効果を提供するためにその患者に再導入することができる。
【0110】
本発明は、免疫抑制での用途を見出す。特に、免疫抑制は、臓器移植又は移植片対宿主病に続いて適用することができる。
【0111】
本発明はまた、一般に自己免疫性疾患での用途をも見出す。特に、本発明は、胃炎、甲状腺炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、自己免疫性糖尿病、多発性硬化症、又は他の自己免疫性疾患などのような自己免疫性疾患での用途を見出す。
【0112】
そのうえ、本発明は、同種移植片拒絶反応及び関節リウマチ又はコラーゲン誘発性の関節炎などのような関節炎の例の抑制での用途を見出す。さらに、本発明は、本明細書に説明されるように、ある種の癌、具体的には、それら自体、B細胞悪性腫瘍(たとえば白血病、リンパ腫など)などのようなリンパ球からなるそれらの癌を撲滅する際の用途を見出す。
【0113】
他の実施形態では、好ましくは、本発明の方法はインビトロでのものである。好ましくは、本発明の方法は、ヒト又は動物の体を含まない。
【0114】
適切には、Foxp3発現の誘発への言及は、デノボFoxp3発現の誘発を意味することが理解されるべきである。適切には、既存のFoxp3発現の増強又は既にFoxp3を発現する細胞の増大は、本発明の一部ではない。適切には、本発明は、本発明の処理/方法の前にFoxp3を発現していなかった細胞(複数可)中でのFoxp3発現の生成に関する。理論によって拘束されることなく、Foxp3の発現は、適切な標的細胞からのTreg産生にとって必要であり且つ十分である。したがって、細胞のインキュベーションは、本発明に従ってデノボでのFoxp3発現を引き起こし、Treg産生をもたらす。
【0115】
本発明のある態様は、以下の番号が付けられた項に関して理解され得る。
【0116】
1.調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたT細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法。
【0117】
2.調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含む方法。
【0118】
3.調節性T細胞(複数可)を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと、
(v)上述の対象に上述のT細胞を再導入するステップと
を含む方法。
【0119】
4.あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含む方法。
【0120】
5.T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iii)PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する上述のT細胞中のシグナル伝達を阻害するステップと
を含む方法。
【0121】
6.上述のT細胞を刺激するステップが、T細胞受容体(TCR)を介して上述のT細胞を刺激するステップを含む、前記1〜5のいずれかに記載の方法。
【0122】
7.PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップが、上述の細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する項1〜6のいずれかに記載の方法。
【0123】
8.調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発でのPI3K阻害剤の使用であって、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【0124】
9.Foxp3発現の誘発でのPI3K阻害剤の使用であって、上述の阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【0125】
10.調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用。
【0126】
11.調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤。
【0127】
12.調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤。
【0128】
13.(i)TCR刺激剤と、
(ii)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤と
を含むキット。
【0129】
14.上述のTCR刺激剤が抗TCR抗体及び抗CD28抗体を含む、前記13に記載のキット。
【0130】
15.m−TOR阻害剤をさらに含む、前記13又は14に記載のキット。
【0131】
16.上述のm−TOR阻害剤がラパマイシンである、前記15に記載のキット。
【0132】
17.Akt阻害剤をさらに含む、前記13〜16のいずれかに記載のキット。
【0133】
18.上述のPI3K阻害剤がLY294002を含む、前記1〜7のいずれかに記載の方法、前記8〜10のいずれかに記載の使用、及び前記11若しくは項12に記載の阻害剤又は前記13〜17のいずれかに記載のキット。
【0134】
本発明を実施例によってこれから記載する。これらの実施例は、例証となるように意図され、添付された請求項を限定するようには意図されない。
[実施例]
【0135】
材料及び方法
マウス系統、細胞選別、及び培養。動物についての作業はAnimals (Scientific Procedures) Act、UKに従って実行した。リンパ節(LN)細胞は、染色し、分析し、記載されるようにフローサイトメトリーによって選別した(Cobb et al 2005 J. Exp. Med. 201: 1367-1373)。Foxp3タンパク質についての細胞内染色は、メーカーによって助言されるように行った(eBiosciences.Com)。S6リボソームタンパク質のリン酸化ステータスは、eBioscience社製Foxp3染色キット及び抗ウサギIgG−FITC又はIgG−Cy5(Jackson ImmunoResearch)を使用して、抗pS6 Ser235/236(Cellsignaling cat.no.2211、http://www.cellsignal.com)を使用して決定した。Foxp3発現の誘発について、選別したLN CD4+CD25−CD62Lhi T細胞を、プレートに結合した抗TCRβ(H57、Pharmingen、200ng/ml)及び抗CD28(2μg/ml、Pharmingen)と共に1〜3×106/mlで培養した。18時間後、細胞は、TCR刺激の継続のために所定の位置に放置したか示す添加剤と共に、コーティングされていないウェルに移動させた。
【0136】
調節性機能を評価するために、示すように培養したCD4 T細胞を、1×105CFSE標識化全LN細胞又は5×104CFSE標識化CD4+CD25−T細胞のいずれか及び1×105マイトマイシンC処理(25μg/ml、20分間、37℃)T細胞除去脾細胞を含む丸底ウェル中に、示す濃度の抗CD3(2C11、Pharmingen)と共に滴定した。CD4 T細胞CFSEプロファイルは48〜72時間後に記録した。
【0137】
養子移入実験。インビボで、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害の影響を評価するために、BALB/c CD4+CD25−CD62Lhi LN T細胞をCFSEを用いて標識化し、上記のように18時間活性化し、未治療の同一遺伝子のレシピエント(レシピエント当たり2〜4×106細胞)の中にi.v.で移入した。ラパマイシン及びLy294002は示すようにi.p.で与えた。脾細胞は、48時間後に、CD4及びFoxp3について染色した。Foxp3発現は、内在性(CFSE−)CD4+細胞及び移入した(CFSE+)CD4+細胞について決定した。
【0138】
RT−PCR及びノーザンブロット。全RNAは、RNAbee(Tel−Test、Friendswood、TX)を使用して単離し、逆転写した。リアルタイムPCR分析は、(Cobb et al 2005 同書)に記載されるように、Opticon(商標)DNAエンジンで実行し(MJ Research Inc.;72℃でのプレートリードと共に、15分間95℃、その後、15秒間94℃、30秒間60℃、及び30秒間72℃の40サイクル)、Ywhaz(チロシン3−モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5−モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータポリペプチド)及びユビキチン抱合酵素E2L3(Ube2L3,ubiquitin conjugating enzyme E2L3)の相乗平均に正規化した。プライマー配列 (5’〜3’)
Ywhazフォワード:CGTTGTAGGAGCCCGTAGGTCAT
Ywhazリバース:TCTGGTTGCGAAGCATTGGG
Ubcフォワード:AGGAGGCTGATGAAGGAGCTTGA
Ubcリバース:TGGTTTGAATGGATACTCTGCTGGA
Foxp3フォワード:ACTCGCATGTTCGCCTACTTCAG
Foxp3リバース:GGCGGATGGCATTCTTCCAGGT
【実施例1】
【0139】
TCRシグナルの中止は、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3発現を誘発する。
ナイーブCD4+CD25−細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR(H57)及び抗CD28を用いて刺激し、次いで、TCR抗体でコーティングされていないプレートに(それらのもとの培地中に)移した。48時間後に、リアルタイムRT−PCRは、継続的なTCRシグナル伝達に曝露されたコントロールと比較して、TCRシグナルを取り除いた細胞中でFoxp3 RNAのレベルが上昇したことを示した(図1a)。細胞内染色は、TCRシグナルを取り除いた、新たに活性化されたCD4 T細胞のかなりの画分でのFoxp3タンパク質の発現を示した(10.8±7.6% n=30)(図1b)が、TCR抗体と接触させたままの細胞中では発現を示さなかった(1.0±0.8% n=21)。
【実施例2】
【0140】
PI3K/mTOR経路の阻害は、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3発現を促進する。
Foxp3の誘発に関係のあるシグナル伝達経路を同定するために、発明者らは、シグナル伝達経路の活性化剤及び阻害剤をスクリーニングした。これらは、NFATの核移行をブロックする、カルシニューリンの阻害剤(cyclosporin A及びFK−506)、関係のあるマイトジェン活性化キナーゼ(MAPK,mitogen activated kinase、JNK/SAPK/p38及び上流キナーゼを含む)の活性化剤及び阻害剤、PKCアイソザイム、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3,glycogen synthase kinase-3)、低酸素誘発因子(HIF−1,hypoxia inducible factor)、Notch(γ−セクレターゼ阻害剤 L−685458を使用)、及び骨形成タンパク質(BMP,bone morphogenetic protein、TGFβの類縁体である)の広範囲の阻害剤並びに偽基質を含んだ。これらのうちのどれも、TCRシグナル遮断によって引き起こされるFoxp3の発現を検出可能に増強しなかった。対照的に、PI3K及びmTORの阻害剤はFoxp3誘発を著しく強化した。免疫抑制性マクロライド抗生物質であるラパマイシンは24〜48時間内に細胞の26.8±14.4%でFoxp3の発現を誘発した(n=30、図1b)。同様に、PI3K阻害剤であるLy294002(2−(4−モルホリニル)−8−フェニル−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)及びwortmanninはFoxp3を誘発した(Ly294002については26.9±11.4%、n=25、図1b及びwortmanninについては17.3±5.3%、n=3)。コントロール化合物Ly303511(2−ピペラジニル−8−フェニル−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)はLy294002に構造上、非常に類似しているが、モルホリン環中の単一の原子の置換のためにPI3−Kを阻害しない。Ly303511は、発明者らの系でのFoxp3発現に影響を与えなかった(6.6±3.0%、n=7)。細胞分裂が起こる前の、ナイーブCD4 T細胞の活性化の18時間後にTCRシグナル遮断と組み合わせて使用した場合に、ラパマイシン及びLy294002は最大に有効となった(下記参照)。TCRシグナル伝達は、PI3K/mTOR阻害剤がFoxp3を誘発するために必要とされ、同時刺激は、Foxp3誘発の効率を著しく増強した(TCRシグナル中止については3%から9%、TGFβについては7%から46%、ラパマイシンについては10%から25%、及びLy294002については4%から44%、2回の実験の平均。ポジティブコントロールとして、TGFβは、継続的なTCRシグナル伝達を取り除いた細胞の46.0±15.1%でFoxp3を誘発した(n=30、図1b)。Foxp3発現細胞の度数の増加が先在するFoxp3+細胞の選択的な増大によるものかどうかを検討するために、発明者らは、ナイーブCD4 T細胞の活性化に先立って、CFSEを用いてそれらを標識化した。細胞分裂は、活性化後の18時間までに起こらなかった、その時点で、細胞を示す培養条件に置いた(図1b)。24時間後に、投入細胞の67〜108%が回収された。Foxp3発現細胞の度数を実質的に増強するにもかかわらず、ラパマイシン及びLy294002は、細胞分裂の数のわずかな低下をもたらした。これは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤に応じたFoxp3発現細胞の度数の増加の説明としての選択的な増大を除外するものである。
【0141】
PI3−K/mTORの阻害は、後の時点で及び細胞分裂が起こると、Foxp3を誘発するのにそれほど有効ではなかった(図1c)。
【実施例3】
【0142】
TCRシグナル伝達は、新たに活性化されたCD4 T細胞中でmTOR活性をコントロールする。
TCRシグナル伝達、TCRシグナル中止、並びにラパマイシン及びLy294002を用いる処理に応じるPI3K/mTOR軸の活性をモニターするために、発明者らは、mTORによって直接調節されるp70 S6キナーゼの標的である、リン酸化S6リボソームタンパク質(pS6)のレベルを分析した。pS6の細胞内染色は、単一細胞レベルで、抗CD28と組み合わせたTCRシグナル伝達(プレートに結合したH57、300ng/ml)が、大多数のナイーブCD4 T細胞中で高レベルのS6リン酸化を誘発したことを示した(図2a)。抗CD28単独では、効果はなかった(図2a、上部のパネル)。S6リン酸化は、継続的なTCRシグナル伝達の存在下では持続したが、ラパマイシン(25nM)又はLy294002(10μg/ml)によって1時間以内に完全に除去された(図2b)。プレートに結合したH57及び抗CD28を用いて18時間、活性化したナイーブCD4 T細胞からTCRシグナルを取り除くと、pS6は、より徐々にではあるが減退した(図2b)。よって、Foxp3誘発は、S6リン酸化を低下させる操作に応じて起こる。しかしながら、重要なことには、S6リン酸化の低下はFoxp3誘発にとって十分ではない。特に、新たに活性化されたCD4 T細胞の栄養源の遮断によるmTOR阻害はFoxp3発現を誘発しない。
【実施例4】
【0143】
TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発は安定しており、調節性機能の獲得をもたらす。
上記に記載されるように、Foxp3発現は、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤に応じて24〜48時間以内に誘発された。調節性機能を有していないFoxp3の一時的なアップレギュレーションがヒトCD4 T細胞で記載されているので、発明者らは、次に、Foxp3発現の安定性及びFoxp3誘発細胞の機能的適格性を検査した。Foxp3は、誘発の7日後までに強く発現し、Foxp3は、IL−2中での数回の再刺激を通して安定して維持されたので、発現は、有糸分裂的に遺伝性であった(図3a)。PI3K/mTOR阻害によるFoxp3の誘発が調節性T細胞の機能をもたらすかどうかを評価するために、CD62LhiCD4+CD25−LN細胞を活性化し、TCRシグナルを取り除き、ラパマイシン及びLy294002の存在下で培養した。段階的な数の、結果として生じる集団(細胞内染色により28% Foxp3+)を、新鮮な、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞に添加した、またその集団は、細胞分裂プロファイルによって評価されるように、可溶性抗CD3(2C11、1μg/ml)に対するそれらの反応を効率的にブロックした(図3b、上部のパネル)。対照的に、コントロール細胞(<1% Foxp3+)は、CFSE標識化レスポンダー細胞の抗CD3誘発性の分裂をブロックしなかった(図3b、下部のパネル)。
【0144】
発明者らは、ナイーブCD4 T細胞がT細胞欠損レシピエントに移入された場合に誘導される、大腸炎を防御する能力を、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害によるFoxp3誘発が付与するかどうかを試験するために、大腸炎のT細胞移入モデル(Powrie et al., 1993)を使用した。(Powrie et al., 1993)
【実施例5】
【0145】
インビボでのTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害に応じるFoxp3発現
発明者らは、次に、Foxp3が、インビボで、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害によって誘発されるかどうかを検討した。TCRシグナル遮断を模倣するために、発明者らは、同一遺伝子の完全免疫適格性宿主の尾の静脈に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を注射し、活性化した。2日後に、発明者らは、内在性CD4脾臓細胞(CFSE−)及び移入された(CFSE+)CD4脾臓細胞によるFoxp3発現を評価した(図4a)。5.3±4.6%(n=11)で、回収したFoxp3+細胞の度数は、もとの接種物に含有されるFoxp3+細胞の度数(1.5±1.1%、図4bに要約)よりも3倍高かった。CFSE標識化活性化T細胞のi.v.移入に、ラパマイシン及びLy294002のi.p.注射が伴った場合、2日後に回収されたFoxp3発現細胞の度数は約10%までさらに増加した(図4)。対照的に、内在性(CFSE−)Foxp3+T細胞の度数は変わらないままであり、阻害剤が、Foxp3+CD4 T細胞ではなく、通常の細胞に対して選択的に毒性であった可能性を除外した(図4)。我々は、次に、Foxp3発現細胞の度数の上昇が、Foxp3+CD4 T細胞の選択的な回収率又はFoxp3の誘発によるものであるかどうかを検討した。発明者らは、TCR遮断がインビトロでFoxp3発現をもはや効率的に誘発しなくなる時間である、活性化の48時間後に、CFSEによって標識化したCD62LhiCD4+CD25−LN細胞を移入した(図1cを参照されたい)。これらの条件下で、わずか1.3±0.5%のCFSE+細胞が移入後にFoxp3を発現し(n=4)、1.6±0.3%のCFSE+細胞が、ラパマイシン及びLy294002の存在下で移入後にFoxp3を発現した(n=3、図4b)。
【0146】
よって、TCRシグナル遮断は、PI3−K/mTOR軸の阻害との相乗作用で、新たに活性化されたT細胞にFoxp3発現を起こしやすくし、PI3−K/mTORシグナル伝達が、インビトロ及びインビボで、新たに活性化されたT細胞中のFoxp3誘発にアンタゴナイズすることを示す。
【実施例6】
【0147】
選択的なPI3−K阻害剤は、Foxp3の調節での、p110アイソザイムの間の階層性を明らかにする。
新世代のPI3−K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられており、幅広い範囲の他のキナーゼよりも優先的に、PI3−Kアイソザイムに対する選択性を有することが示された(Camps et al., Nat Med. 2005, 11:936-943;Knight et al., 2006 同書)。発明者らは、Foxp3の調節でのp110アイソザイムの役割を、発明者らのT細胞分化アッセイにそれらを滴定することによって精査するためにこれらの化合物を利用した。これらの実験で、CFSE標識化は活性化及び生存率の基準として細胞周期進行を評価するために使用し、Foxp3の誘発は、S6リン酸化(図5b)と共に、単一細胞レベル(図5a、b)でアッセイした。
【0148】
p110β及びp110γはFoxp3発現に検出可能に影響を与えない。TGX115は10μMでFoxp3発現にわずかな影響を及ぼした。TGX115はp110β及びp110δの両方を阻害する。TGX115がp110βを選択的に阻害する0.1μMでは、TGX115はFoxp3発現に影響を与えず、p110βは、この状況で、Foxp3の調節に有意な役割を果たさないことを示した。同様に、p110γ特異的阻害剤AS−605240は、p110γについてのそのIC50のはるかに過剰な濃度でのみFoxp3に影響を与え(0.008μM)、Foxp3の調節でのp110γについての役割が除外された(図5a、b)。
【0149】
p110α及びp110δは、新たに活性化されたT細胞中のFoxp3発現を調節する。阻害剤IC−87114は、0.01μMまで、TCR遮断のみに加えて、細胞の10〜15%のFoxp3を誘発した。これらの濃度では、IC−87114はp110δを選択的に阻害し、Foxp3の調節に対するp110δアイソザイムの有意な寄与を実証する。PI−103化合物は、Foxp3を強く誘発して、TCRシグナル遮断のみよりも>20%、Foxp3発現細胞の度数を上昇させた。PI−103は、mTORC1についてのそのインビトロIC50をわずかに下回る濃度(0.02μM)及びp110αについてのIC50あたりの濃度(0.008μM)でFoxp3を誘発し、p110αについての役割と一致した。p110α特異的阻害剤PIK75は、発明者らのアッセイの期間にわたる毒性によりこの示唆を試験するのに使用することができなかった(データ示さず)。決定的証拠は、PIK90の分析からもたらされ、PIK90は0.1μMでFoxp3を強く誘発した。PIK90は、p110α及びp110γを選択的に阻害する(図5a、b)。AS−605240を用いて発明者らの実験によりp110γについての役割が除外されるので、この結果は、p110αを、Foxp3の調節での有力なp110アイソザイムとして同定する。これらの研究に基づき、Foxp3の調節でのp110アイソザイムの役割は選択的であるように思われる。p110β及びp110γは検出可能な役割を果たさず、p110δは中程度に重要であり、p110αは有力である。
【実施例7】
【0150】
TCRシグナル遮断及びPI3K/mTORの阻害によるFoxp3誘発でのTGFβの関与
TGFβは、インビトロでの、通常のCD4 T細胞中でのFoxp3発現の強力な誘発物質として知られており、したがって、発明者らは、TGFβが、新たに活性化されたT細胞のTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によってFoxp3の誘発を媒介するかどうかを調べた。FCSを追加した細胞培養培地はTGFβを含有するので、発明者らは、無血清リンパ球培地(AIM−V、Invitrogen)中でこの部に記載される実験を実行した。リアルタイムRT−PCRにより、免疫系で有力なTGFβアイソフォームであるTGF−β1の増加は検出されなかったが、TGF−β調節は複雑であることが知られており、RNAレベルは、必ずしも、分泌されたタンパク質の量と相互に関連しない。ALK5及びTGFβ受容体II(TGFβRII)に結合するTGFβの結合は、受容体関連Smad2及びSmad3のリン酸化をもたらし、これは、続いて、co−Smadと関連し、核に移動させ、転写調節因子として作用する。したがって、Smadタンパク質のリン酸化は、TGFβシグナル伝達の感受性の指標となる。ナイーブLN T細胞を、無血清培地中で18時間活性化し、次いで、TCRシグナル遮断又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002について、TGFβ(1ng/ml)に曝露した。全細胞抽出物を、抗pSmad2(S465/467)を用いるSDSゲル電気泳動及びウエスタンブロッティングにかけたところ、TGFβに応じた、Smad2の強いリン酸化を示した(図6a レーン1)。対照的に、TCRシグナル遮断(図6a、レーン2)又はTCRシグナル遮断プラスラパマイシン及びLy294002(図6a、レーン3及び4)に応じたSmad2の検出可能なリン酸化はなかった。ブロットは、続いて、装填コントロールとして抗Smad2/3を用いてプローブした。
【0151】
次に、発明者らは、2つの独立したアプローチ、TGFβに対する中和抗体及びTGFβアクチビン受容体様キナーゼ(ALK,activin receptor-like kinase)の阻害剤であるSB 431542を使用してTGFβシグナル伝達を阻害しようと試みた。SB−431542は、形質転換成長因子−ベータスーパーファミリーI型アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)受容体ALK4、ALK5、及びALK7の強力で特異的な阻害剤である(Inman et al 2002 Mol Pharmacol. vol 62:65-74)。FCSを追加した細胞培養培地はTGFβを含有するので、発明者らは、無血清リンパ球培地(AIM−V、Invitrogen)中でこれらの実験を実行した。中和TGFβ抗体及びSB431542は、それぞれ85%及び96%、TGFβによるFoxp3誘発をブロックしたが、PI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発に対する効果は有していなかった(図6b)。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例1〜7の要約
発明者らは、TCRシグナル伝達及びPI3−K/mTOR活性が、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発にアンタゴナイズすることを示す。理論によって拘束されることなく、この発見は、エフェクターT細胞及び調節性T細胞のどちらかになる運命の選出をTCRシグナル伝達の終止に関連づけるので、免疫の調節を理解するための重要な密接な関係を有する。有効の免疫応答は抗原負荷を低下させて、抗原の有用性が制限的になる条件を作り出す。発明者らの結果は、免疫の調節が免疫応答の関与の段階にどのように関連づけられる可能性があるかを示し、これは、T細胞のホメオスタシスにとって及び免疫病態を抑えるために重要である。
【0154】
PI3K/mTOR軸の薬理学的阻害は、TCRシグナルの遮断によって引き起こされたFoxp3誘発を強化する。PKC、N−FAT、GSK−3、MAPK、Notch、及びその他の妨害が、実施例の系でFoxp3誘発をもたらさないので、PI3K/mTORの関与は選択的である。PI3−K活性は、T細胞活性化に続いて長時間持続し、発明者らの発見は、PI3K/mTOR軸が、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発を予防するのに重大であることを実証する。クラスI PI3キナーゼは、PI3−Kの触媒サブユニットであるp110イソ酵素の選択的な関与に基づいて、2つのグループ、A及びBにさらに分けられる。p110δサブユニット及びp110γサブユニットの発現は主として白血球に制限されるが、p110α及びp110βは広範に発現し、胚発生にとって不可欠である。クラスIBの単一のメンバーであるp110γはT細胞の発達及び活性化にとって重要であり、炎症応答及び自己免疫性疾患の治療のための主要な標的となる。PI3Kシグナル伝達及び疾患の間の関連は、PI3−Kサブユニットの選択的阻害剤の発達及び診療所への導入のための主要な推進力を提供した。発明者らは、p110アイソザイムの間の選択性を示すために広範囲に特徴づけられた選択的阻害剤を用いたが、p110α及びp110δはFoxp3を調節するが、p110β又はp110γは調節しない。p110γは、Gタンパク質共役受容体によって活性化されるが、クラスIA PI3K p110α、p110δ、及びp110βは、受容体チロシンキナーゼの下流で典型的に活性化され、したがって、リンパ球受容体シグナル伝達に関与している。興味深いことには、Foxp3調節でのIA PI3Kの間の階層性は、TCR刺激性のPI3−K活性に対するそれらの相対的な寄与とは別個であるように思われる。遺伝学的及び薬理学的分析は、両方とも、Bリンパ球及びTリンパ球中での抗原受容体シグナル伝達でのp110δについての突出した役割を示すが、発明者らのデータは、p110δが、Foxp3調節において、有意ではあるが、それほど有力ではない役割を有することを示し、p110αが最重要であるように思われる。TCRシグナル伝達及びFoxp3調節でのp110アイソフォームの間の機能的な相違は免疫応答の操作において当業者を助ける。
【0155】
p110δ欠損マウスはリンパ球活性化の欠陥を示すだけではなく、Treg欠損の特徴である炎症性腸疾患をも発症する。これについての可能性のある説明は、肥満細胞に由来するIL−9に対するTreg耐性の依存性及び肥満細胞機能のためのp110δの不可欠な役割によって示唆される。これらのデータと一致して、Treg機能はp110δ欠損マウスの末梢で損なわれる。これにもかかわらず、Tregの分化は、発明者らの発見に一致して、p110δ欠損胸腺中で増加する。
【0156】
PI3−K阻害剤及びラパマイシンの両方は不要な免疫応答を抑圧するために使用されてきたが、PI3−K/mTOR阻害剤が免疫を調節するメカニズムはほとんど知られていない。PI3−K阻害剤及び自己免疫病の間の関連は、PI3−Kシグナル伝達のアンタゴニストであるPtenについてヘテロ接合性のマウスは自己免疫病及び他の所見を発症したといった発見によって示唆された。PI3−Kは、複数の細胞型の多数のプロセスを調節し、自己免疫病でのPI3−Kの関与についての可能性のあるメカニズムは、T細胞の生存の増加並びに抗原提示細胞、肥満細胞、及び他の炎症性の細胞型の動員及び活性化を含む。ラパマイシンは、長期的なアッセイで、調節性T細胞の数に正に又は負に影響を与えることが以前に報告された。発明者らの発見は、PI3−K/mTOR阻害剤が免疫を調整するメカニズムとしてのFoxp3の調節を確立する。
【0157】
クラスIAアイソザイムp110α及びp110δとは対照的に、クラスIB PI3−Kアイソザイムp110γは、Gタンパク質共役受容体(srcチロシンキナーゼではなく)の下流で圧倒的に機能し、PI3−Kγは有意にFoxp3を調節しない。それにもかかわらず、PI3−KγはT細胞の発達及び活性化に重要な役割を果たし、最近では、自己免疫性疾患の治療ための標的として認識されてきた。PI3−Kγの阻害剤は、自己免疫病の予防及び治療で有効な薬剤となるが、発明者らが実証するように、新たに活性化されたT細胞中でのFoxp3の誘発を介するものではない。
【0158】
以前の研究は、特に成長因子の中止と組み合わせて、ラパマイシンを、先在するTregの欠失又は増大の延長に関連づけたが、ラパマイシンは、Foxp3のデノボ誘発に効果を有していないように思われた。ここで、発明者らは、TCRシグナル遮断と組み合わせた、ラパマイシンによるFoxp3の迅速なデノボ誘発を示す。
【0159】
TGFβは、ナイーブCD4 T細胞中でのFoxp3の強力な誘発物質であり、したがって、発明者らは、TGFβが、新たに活性化されたT細胞のTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3の誘発に関与するどうかを調べた。発明者らは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTORの阻害に応じて、新たに活性化されたT細胞がTGFβ産生を増加させるといった証拠を見出さなかった。Foxp3誘発は無血清培地中で効率的であり、これは、血清に由来するTGFβの必要を除外する。発明者らの発見は、TCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤は、Smad2の検出可能なリン酸化をもたらさないこと並びにTCRシグナル遮断及びPI3−K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発は、外因性のTGFβとは無関係であり、中和抗TGFβに対して抵抗性であり、SB431542に対して抵抗性であることを示す。したがって、それらは、PI3−K/mTOR阻害剤が、TGFβとは無関係な経路によってFoxp3を誘発するモデルと一致している。
【0160】
要約すると、発明者らは、新たに活性化されたナイーブT細胞中でのFoxp3誘発の、新規な、TGFβとは無関係な経路を同定した。発明者らの発見は、エフェクターになる運命及びTreg機能のどちらかの選出のためのTCRシグナル伝達の重要性を強調し、発明者らは、免疫応答の操作が望ましい状態で、PI3K/mTORシグナル伝達の小分子阻害剤によって調節性T細胞分化を駆動するための新たなアプローチを記載する。
【実施例8】
【0161】
デノボFoxp3発現の誘発
発明者らは、ナイーブCD4 T細胞の活性化が、PI3K/mTORシグナル伝達によってコントロールされる、Foxp3発現の誘発のための絶好の機会を作り出すことを教示する。
【0162】
概要:活性化は、一連のTヘルパー(Th,T helper)細胞型に分化する又はその代わりに調節性T細胞(Treg細胞)になる運命を取るナイーブCD4 T細胞の潜在力を明らかにする。エフェクター細胞対調節性細胞の運命の選出がどのようにコントロールされるかは先行技術でほとんど知られていない。発明者らは、Treg細胞の特徴となる転写因子Foxp3の発現が、ナイーブCD4 T細胞からTCRシグナルが活性化の直後に取り除かれる場合に誘発されることを示す。Foxp3誘発は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)触媒サブユニットp110α及びp110δ、Akt、並びにmTORによってコントロールされる。これらの発見は、TCRシグナル伝達経路をTreg細胞の運命の選出に関連づける。本発明は、調節性T細胞分化の実験用の及び治療上の操作のための新たなアプローチを提供する。
【0163】
序論:多細胞生物の特殊化した細胞型は、遺伝子発現の特異的なパターンによって定義される。多能性の造血幹細胞からそれらの分化の間に、発達中のT細胞は、それらの系統についての潜在力についてかなりの制限を受ける。ナイーブCD4 T細胞に余地が残されている選択肢は、いくつかの別個のThサブセット(Th1、Th2、及びTh17など)並びにTreg細胞になる運命を含む。Th系統の選出は、特異的な病原体に対する有効な免疫応答にとって重要であるが、エフェクター機能及び調節性機能の間のバランスは、過度の免疫病態及び自己免疫病を回避しながら免疫適格を保証するのに重大である。自然調節性T細胞は、特徴となる転写因子Foxp3の発現によって特徴づけられ、Foxp3の安定した高レベルの発現は、調節性T細胞の機能にとって必要であり、且つ十分である。Treg細胞は、胸腺中で発生し、ナイーブ末梢CD4 T細胞から発生する。TGFβは、インビトロでFoxp3発現を指示するが、IL−2と同様に、Treg細胞分化ではなく、インビボでのTreg細胞の維持にとって重要である。エフェクターT細胞になる運命及び調節性T細胞になる運命のどちらかの選出についての分子的なベースは先行技術で知られていないので、発明者らは、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3発現及び調節性T細胞の機能を誘発するシグナルを同定することを目指す。
【0164】
実験:ナイーブCD4+CD25−細胞を、18時間、プレートに結合した抗TCR及び可溶性抗CD28を用いて活性化し、次いで、可溶性抗CD28のみを有する新鮮なウェルに移動させる。2日後に、リアルタイムRT−PCRは、継続的なTCRシグナルに曝露されたコントロールと比較して、TCRシグナルを取り除いた細胞中でFoxp3 RNAの発現が上昇したことを示した(図7a)。Foxp3タンパク質は、TCRシグナルを取り除いた細胞で10.8±7.6%(n=30)と検出されたが、TCR抗体と接触させたままの細胞ではわずか1.0±0.8%(n=21)であった(図7b)。TCRシグナル伝達の下流でFoxp3をコントロールする経路を同定するために、発明者らは、シグナル伝達に関与する酵素の小分子阻害剤をスクリーニングした。PI3K及びmTORの阻害剤はFoxp3誘発を著しく強化した(図7b)が、カルシニューリン/NFAT(cyclosporin A及びFK−506)、マイトジェン活性化キナーゼ(MAPK JNK、SAPK、p38、及び上流キナーゼ)、プロテインキナーゼCアイソザイム、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3、低酸素誘発因子、並びにγ−セクレターゼ/Notchの阻害剤は強化しなかった。mTOR阻害剤ラパマイシンは、26.8±14.4%の細胞でFoxp3を誘発した(n=30、図7b)。同様に、PI3K阻害剤LY294002及びwortmanninは、26.9±11.4%(n=25、図7b)及び17.3±5.3%(n=3)の細胞でFoxp3をそれぞれ誘発した。LY294002誘導体のLY303511はモルホリン環中の単一の原子の置換のためにPI3Kを阻害せず、Foxp3発現を誘発しなかった。TGFβはポジティブコントロールとして使用した(図7b)。Foxp3発現の増加が、先在するFoxp3+細胞の選択的な増大に起因したかどうかを検討するために、発明者らは、活性化に先立って、CFSEを用いてナイーブCD4 T細胞を標識化した。細胞を阻害剤に曝露した場合、細胞分裂は18時間後に起こらなかった。ラパマイシン及びLY294002は、次の24〜48時間の間に起こった細胞分裂の数をわずかに低下させたが、Foxp3発現の度数を実質的に増強し(図7b)、Foxp3は、細胞分裂を受けなかった多くの細胞中で発現した(図7b)。よって、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害剤は、ナイーブCD4 T細胞中でのFoxp3発現を誘発する。
【0165】
T細胞活性化はFoxp3誘発に必要とされ(図7c)、同時刺激は著しくその効率を増強した。
【0166】
同時刺激は、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害に応じてFoxp3誘発の効率を著しく増強した。
【0167】
【表2】
【0168】
T細胞活性化及びFoxp3誘発の間の一時的な関係を調査するために、発明者らは、異なる時間にTCR刺激を中止し、PI3K/mTORを阻害した(図7c)。T細胞をPI3K/mTor阻害に先立って18時間活性化した場合、Foxp3誘発は最大となった。阻害剤をより早く添加すると細胞分裂をブロックし、Foxp3の誘発はそれほど効率的ではなくなった。同様に、細胞分裂が起こると、より後の時点では、Foxp3誘発は非効率的であった(図7c)。発明者らは、T細胞活性化がFoxp3誘発のための絶好の機会を作り出すといった結論を下す。
【0169】
誘発されると、Foxp3発現は有糸分裂的に遺伝性であり、数回の再刺激を通して維持された(図7d)。Foxp3誘発細胞(36% Foxp3+)が、可溶性抗CD3に応じて、CFSEによって標識化したCD4 LN T細胞の細胞分裂を効率的にブロックした(図7e、上部のパネル)が、コントロールの活性化細胞(1%のFoxp3+)はブロックしなかった(図7e、下部のパネル)ので、Foxp3発現には調節性T細胞の機能が伴った。休止CD45RBhi CD4 T細胞又はコントロールの活性化CD45RBhi CD4 T細胞は、リンパ球欠損(Rag−/−)マウスに移入した場合、大腸炎を引き起こすが、Foxp3が、移入に先立って、CD45RBhi CD4 T細胞の一部分で誘発された場合(28% Foxp3+)、大腸炎は、それほど著しく重症ではなかった(図7f)。
【0170】
末梢CD4 T細胞は「適応可能な」Treg細胞を生じさせることができるが、胸腺中で「自然に」発生するTreg細胞と比較したそれらの生理学的関連性は関心分野である。TCRシグナル伝達の操作が胸腺細胞中でのFoxp3発現を駆動するかどうかを検討するために、発明者らは、CD4単一陽性、CD25陰性胸腺細胞を18時間活性化し、PI3K/mTOR阻害剤を添加した(図7f)。Foxp3発現の分析は、2日後に、胸腺細胞のかなりの画分のFoxp3の誘発を実証した。
【0171】
新世代のPI3K阻害剤は最近、生化学的、構造的、及び生物学的レベルで特徴づけられている。PI3Kアイソザイムについてのこれらの化合物の選択性は、インビトロキナーゼアッセイ及び細胞ベースの実験(表1を参照されたい)によって並びにインスリンシグナル伝達及びリンパ球活性化に対する、薬理学的及び遺伝学的消失の効果を直接比較することによって広範囲に検証された。発明者らは、Foxp3のコントロールでの、PI3K触媒サブユニットの関与を定義するためにこれらの化合物を利用した。TGX115化合物は10μMではFoxp3発現にわずかな影響を及ぼし、TGX115化合物はp110β及びp110δの両方を阻害するが、0.1μMではFoxp3発現に影響を与えず、TGX115化合物はp110βを選択的に阻害する。同様に、p110γ特異的阻害剤AS−605240は、p110γについてのそのIC50のはるかに過剰な濃度でのみFoxp3に影響を与えた(0.008μM、p110β及びp110γは、この状況で、Foxp3の調節に有意な役割を果たさないことを示す(図8a、b)。IC−87114化合物は、p110δを選択的に阻害する濃度(0.01μM)で、TCR遮断のみに加えて、細胞の10〜15%でFoxp3を一貫して誘発し、Foxp3の調節に対するp110δの有意な寄与を実証した。PI−103化合物は、Foxp3を強く誘発して、>20%までFoxp3発現細胞の度数を上昇させた。PI−103は、mTORについてのそのインビトロIC50をわずかに下回る濃度(0.02μM)及びp110αについてのインビトロIC50あたりの濃度(0.008μM)でFoxp3を誘発し、p110αについての役割と一致した。p110α特異的阻害剤PIK75は、アッセイの期間にわたる毒性によりこの示唆を試験するのに使用することができなかった。p110αの役割についての決定的証拠は、PIK90の分析からもたらされ、PIK90は0.1μMでFoxp3を強く誘発し、PIK90は、p110α及びp110γを選択的に阻害する(図8a、b)。p110γ阻害がFoxp3誘発に影響を与えなかったので(上記参照)、この結果は、p110αを、この状況で、有力なp110アイソザイムとして同定する。p110アイソザイムのこの階層性(α>δ>>>β及びγ)はリンパ球活性化とは別にFoxp3調節を設定するように思われ、p110δは有力なものとして見なされる。
【0172】
もちろん、インビトロIC50値は、細胞のIC50についての指標として扱われなければならない;細胞の値は、ATPからの競合のために典型的にやや高い。IC87114は、とりわけ1μMで非常にp110δに選択的であり、したがって、その濃度での15%の誘発は明らかにδによるものである。TGX−115は10μMでさえ非常に小さな効果しか有しておらず(小さなδ阻害が得られる)、したがって、ベータは重要性が限られていそうである又はそれほど重要性がなさそうである。α阻害剤103及び90は、低用量で、IC87114を上回る劇的な誘発を示し、αが有意な役割を果たすことを示す。しかし、それらの化合物にとっての、α及びδの間の差はそれほど大きくはなく、したがって、重大な所見は、それらが、完全にδを不活性化する用量(10μM)で、IC87114よりも多くの活性を有するということである。AS−605240データの解釈は、その化合物についての細胞のIC50がγについてのどのようなものなのかに依存し、10μMで、いくらかのα阻害がこの化合物で得られる。したがって、ガンマが、この状況で、TCRシグナル伝達と共役するといったことはあまりありそうもない。
【0173】
TGFβは、インビトロでの、通常のCD4 T細胞中でのFoxp3発現の強力な誘発物質であり、発明者らは、発明者らの系でのその役割を検討した。ALK5及びTGFβ受容体II(TGFβRII)に結合するTGFβの結合は、受容体関連Smad2及びSmad3のリン酸化をもたらし、これは、TGFβシグナル伝達の感受性の指標を提供する。pSmad2(S465/467)は、TGFβに応じて容易に検出可能となったが(図9a レーン1)、TCRシグナル遮断(図9a、レーン2)又はPI3K/mTOR阻害(図9a、レーン3及び4)に応じて検出可能とならなかった。中和TGFβ抗体及びTGFβアクチビン受容体様キナーゼをブロックするSB 431542は、TGFβによるFoxp3誘発を低下させたが(それぞれ85%及び96%)、PI3K/mTOR阻害剤によるFoxp3誘発に対する効果はなく(図9b)、TGFβは、TCRシグナル遮断及びPI3K/mTOR阻害によるFoxp3の誘発にとって重要でないことを実証した。
【0174】
新たに活性化されたCD4 T細胞中でのPI3K/mTOR軸の活性をモニターするために、発明者らは、mTOR調節性のp70 S6キナーゼS6K1の標的であるS6リボソームタンパク質(pS6)のリン酸化を分析した。TCR/CD28シグナル伝達(しかし抗CD28単独ではない)は、高レベルのpS6を誘発した(図10a)。TCRシグナルを中止した場合に、S6リン酸化は減退したので、18時間活性化されたT細胞中でのmTOR活性の維持は、継続的なTCRシグナル伝達を必要とした(図10b)。S6リン酸化は、ラパマイシン又はLY294002によって完全に除去された(図10b)。セリン/トレオニンプロテインキナーゼAkt/PKBは、TCR/CD28を通してのシグナル伝達に応じて速やかにリン酸化されるが、pS6とは対照的に、pAkt(S473)は、TCR/CD28シグナル伝達の開始の18時間後にもはや検出されなかった(図10c)。しかしながら、18時間活性化されたT細胞からTCRシグナルを取り除いた場合に、Akt(S473)リン酸化は回復し、これは、1、3、及び8時間でのpAktのレベルの増加並びにpS6レベルの相反する減退をもたらした(図10c)。1時間のラパマイシンへの曝露は類似の効果を有した。TCRシグナル遮断及びラパマイシン処理に応じたAktリン酸化の増加は、従来の線状のシグナル伝達経路と適合しないが(図10d)、Akt活性がPDK1及びmTORC2の両方によってコントロールされるネットワークモデルと一致している。このモデルで、mTORC2(mTOR/rictor/Sin1)は、S6K1を介するmTORC1(mTOR/raptor)の負のフィードバックコントロール下にあり、S6K1は、インスリン受容体基質1(IRS1,insulin receptor substrate 1)をリン酸化し、阻害し、また、PI3K、PDK1、及びmTORC2を介してAkt活性化を低下させる(図10e)。発明者らのデータに適用させると、TCRシグナル伝達の中止は、mTORC1及びS6K1の活性を低下させ(図10b)、これは、mTORC2のフィードバック阻害を低下させ、pAkt(S473)の観測された増加について説明する(図10c)。同様に、ラパマイシンを用いる短期の処理は、mTORC2の、mTORC1依存性のフィードバック阻害をブロックし、Akt(S473)リン酸化をもたらす(図10c、e)。興味深いことには、TGFβもまたpS6の低下及びpAkt S473の増加をもたらし、この点に関して、TCRシグナル遮断及びmTOR阻害に似ている(図10c)。
【0175】
18時間活性化されたCD4 T細胞の栄養源の遮断はpS6を阻害するが、Foxp3を誘発しなかったので、S6リン酸化の低下のみではFoxp3発現を誘発するのに十分ではなかった(TCRシグナル伝達の継続:2% Foxp3+;TCRシグナル遮断 11% Foxp3+;ラパマイシン:25% Foxp3+;0.1% FCSを有するIMDM培地:4% Foxp3+;10% FCSを有するPBS:5% Foxp3+;0.1% FCSを有するPBS:2% Foxp3+)。TCRシグナル遮断によるFoxp3の誘発は、mTORC1媒介性のフィードバック阻害の損失に続く、Akt活性の増加又はその代わりに、ラパマイシンへの長期的な曝露が、mTORC2の構築及び結果的にAkt(S473)のリン酸化に干渉する場合に起こるAkt活性の最終的な損失によるものかどうかといった余地が残されている。この疑問を検討するために、発明者らはアロステリック阻害剤、Akti−1/2を使用した。Akti−1/2は、Akt1及びAkt2(それぞれ58nM及び210nM)についてのそのIC50のあたりの濃度で少し前に活性化されたT細胞中でFoxp3発現を増強し、Akt活性化ではなく、Akt阻害がFoxp3誘発を駆動することを実証する(図10f)。
【0176】
要約
要約すると、発明者らは、活性化が、ナイーブCD4 T細胞中で、Foxp3の誘発のための絶好の機会を作り出すことを示した。Foxp3誘発は、TGFβとは無関係であるように思われ、PI3K/mTOR/Aktシグナル伝達によってアンタゴナイズされる。この発見は、エフェクターT細胞及び調節性T細胞のどちらかになる運命の選出をTCRシグナル伝達経路に関連づけるので、免疫の調節を理解するための重要な密接な関係を有する。p110δがFoxp3発現を調節するといった発明者らの発見と一致して、通常よりも高い数のTreg細胞がp110δ欠損マウスの胸腺中で産生される。より長い期間では、おそらくp110δが、順番にTreg細胞に影響を与える肥満細胞のような他の細胞型にとって重要であるので、p110δの欠損は、Treg細胞の維持及び機能を損なう。発明者らが実証した、Foxp3調節でのp110アイソザイムの特異な役割に加えたこれらの考察は、免疫応答の操作についての新たな戦略を可能にする。PI3K/mTOR阻害による抗原特異的Treg細胞の産生に対する可能性のある障害は、アプローチが、Foxp3誘発を可能にするのにTCRリガンドの除去を必要とするかどうかである。しかしながら、発明者らは、抗CD3/CD28ビーズの存在が継続した状態で、かなりの割合のナイーブCD4 T細胞中でPI3K/mTOR阻害剤がFoxp3を誘発することを示す(図12)。Foxp3はまた、抗原提示細胞及び特異的なペプチドによって刺激されたRag1欠損TCRトランスジェニックCD4 LN細胞中でPI3K/mTOR阻害によって誘発可能であり、PI3K/mTOR阻害剤を使用して、抗原特異的Treg細胞を産生することが、有利なことには、現在可能であることを実証する。
【0177】
興味深いことには、損なわれたPI3K/mTOR/Aktシグナル伝達は、Treg細胞分化を促進するだけではなく、報告によれば、Aktシグナル伝達はTreg細胞及びそれらの標的で損なわれ、調節性T細胞の機能がPI3K/mTOR/Aktシグナル伝達の変化を含む可能性を高める。
【0178】
TCR関与の持続の欠如又は損なわれたTCRシグナル伝達が、ノンプロフェッショナルAPCによる抗原提示、免疫応答の関与の段階の間の低抗原用量、又はモザイク抗原発現などのような免疫の調節に関連する状態で起こるかもしれない。これは、胸腺及びリンパ節中で組織特異抗原を異所的に発現する上皮細胞によるTreg細胞の選択と一致している。
【0179】
実施例8の材料及び方法
マウス、細胞選別、及び培養。動物についての作業はAnimals (Scientific Procedures) Act、UKに従って実行した。野生型からのリンパ節(LN)細胞又は胸腺細胞は、記載されるように、染色し、分析し、フローサイトメトリーによって、野生型(C57BL/6、BALB/c、若しくはC57BL/6x129)マウス又はRag1欠損H2bTCRトランスジェニックマウスと選別した(Thompson et al., 2007 Immunity Vol 26 pp 335-344)。抗原提示細胞は、GM−CSFの存在下での骨髄に由来し、抗原ペプチドと共にインキュベートした。Foxp3タンパク質についての細胞内染色は、メーカーによって助言されるように行った(eBiosciences.com)。S6リボソームタンパク質のリン酸化ステータスは、eBioscience社製Foxp3染色キット及び抗ウサギIgG−FITC又はIgG−Cy5(Jackson ImmunoResearch)を使用して、抗pS6 Ser235/236(Cell signaling cat.no.2211、http://www.cellsignal.com)を使用して決定した。Foxp3発現の誘発について、選別したLN CD4+CD25−CD62Lhi T細胞を、プレートに結合した抗TCRβ(H57、Pharmingen、200ng/ml)及び可溶性又はプレートに結合した抗CD28(2μg/ml、Pharmingen)と共に1〜3×106/mlで培養した。18時間後、細胞は、TCR刺激の継続のために所定の位置に放置した又は示す添加剤と共に、コーティングされていないウェルに移動させた。
【0180】
調節性機能を評価するために、示すように培養したCD4 T細胞を、1×105CFSE標識化全LN細胞又は5×104CFSE標識化CD4+CD25−T細胞のいずれか及び1×105マイトマイシンC処理(25μg/ml、20分間、37℃)T細胞除去脾細胞を含む丸底ウェル中に、示す濃度の抗CD3(2C11、Pharmingen)と共に滴定した。CD4 T細胞CFSEプロファイルは48〜72時間後に記録した。
【0181】
養子移入実験。CD4+CD25−CD45RBhiナイーブCD4細胞をリンパ球欠損(Rag−/−)宿主に移入し、大腸炎を、記載されるようにスコア化した(Powrie et al., 1993 Int. Immunol. Vol 5 pp 1461-1471)。
【0182】
RT−PCR並びにノーザンブロット及びイムノブロット。全RNAは、RNAbee(Tel−Test、Friendswood、TX)を使用して単離し、逆転写した。リアルタイムPCR分析は、(Thompson et al., 2007 上記)に記載されるように、Opticon(商標)DNAエンジンで実行し(MJ Research Inc.;72℃でのプレートリードと共に、15分間95℃、その後、15秒間94℃、30秒間60℃、及び30秒間72℃の40サイクル)、Ywhaz(チロシン3−モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5−モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータポリペプチド)及びUbe2L3(ユビキチン抱合酵素E2L3)の相乗平均に正規化した。プライマー配列 (5’〜3’)Ywhazフォワード:
CGTTGTAGGAGCCCGTAGGTCAT;Ywhazリバース:
TCTGGTTGCGAAGCATTGGG;Ubcフォワード:
AGGAGGCTGATGAAGGAGCTTGA;Ubcリバース:
TGGTTTGAATGGATACTCTGCTGGA;Foxp3フォワード:
ACTCGCATGTTCGCCTACTTCAG;Foxp3リバース:
GGCGGATGGCATTCTTCCAGGT
【0183】
イムノブロットは記載されるように行った(Thompson et al., 2007 上記)。
【0184】
上記の明細書で言及された刊行物はすべて、参照によって本明細書に組込まれる。記載される態様の様々な修正及び変形並びに本発明の実施形態は本発明の範囲から逸脱することなく当業者に明白となるであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関して記載されたが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきでないことを理解されたい。実際に、当業者に明白な、本発明を実行するための記載された形態の様々な修正は以下の請求項の範囲内であることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項2】
あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含み、前記阻害が、刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項3】
調節性T細胞(1又は複数)を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップであって、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始されるステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法。
【請求項4】
阻害が、刺激の約17〜19時間後に開始される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
阻害が、刺激の約18時間後に開始される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
シグナル伝達ステップを阻害するステップが、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップが、細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
シグナル伝達を阻害する時間までに刺激を中止するステップをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
T細胞を刺激するステップが、T細胞受容体(TCR)を介して前記T細胞を刺激するステップを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【請求項11】
Foxp3発現の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【請求項12】
調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用。
【請求項13】
調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤。
【請求項14】
調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤。
【請求項15】
(i)TCR刺激剤と、
(ii)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤と
を含むキット。
【請求項16】
TCR刺激剤が、抗TCR抗体及び抗CD28抗体を含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
m−TOR阻害剤をさらに含む、請求項15又は16に記載のキット。
【請求項18】
m−TOR阻害剤がラパマイシンである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
Akt阻害剤をさらに含む、請求項15〜18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項21】
調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたCD8−T細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法。
【請求項22】
PI3K阻害剤がLY294002を含む、請求項1〜9、20、21のいずれかに記載の方法、請求項10〜12のいずれかに記載の使用、請求項13若しくは14に記載の阻害剤、又は請求項15〜19のいずれかに記載のキット。
【請求項1】
T細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項2】
あらかじめ刺激されたT細胞中でFoxp3発現を誘発する方法であって、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介する前記T細胞中のシグナル伝達を阻害するステップを含み、前記阻害が、刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項3】
調節性T細胞(1又は複数)を必要とする対象を治療する方法であって、
(i)対象から、T細胞を含む試料を取り出すステップと、
(ii)前記T細胞を刺激するステップと、
(iii)任意で前記刺激を中止するステップと、
(iv)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップであって、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始されるステップと、
(v)前記対象に前記T細胞を再導入するステップと
を含む方法。
【請求項4】
阻害が、刺激の約17〜19時間後に開始される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
阻害が、刺激の約18時間後に開始される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
シグナル伝達ステップを阻害するステップが、PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PI3Kアルファ又はPI3Kデルタを介するシグナル伝達を阻害するステップが、細胞をPI3K阻害剤と接触させるステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
シグナル伝達を阻害する時間までに刺激を中止するステップをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
T細胞を刺激するステップが、T細胞受容体(TCR)を介して前記T細胞を刺激するステップを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
調節性T細胞へのT細胞の分化の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【請求項11】
Foxp3発現の誘発におけるPI3K阻害剤の使用であって、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する使用。
【請求項12】
調節性T細胞の欠損症のための医薬品の製造における、PI3Kアルファ阻害剤又はPI3Kデルタ阻害剤の使用。
【請求項13】
調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kアルファ阻害剤。
【請求項14】
調節性T細胞の欠損症の治療で使用するためのPI3Kデルタ阻害剤。
【請求項15】
(i)TCR刺激剤と、
(ii)PI3Kアルファ又はPI3Kデルタの阻害剤と
を含むキット。
【請求項16】
TCR刺激剤が、抗TCR抗体及び抗CD28抗体を含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
m−TOR阻害剤をさらに含む、請求項15又は16に記載のキット。
【請求項18】
m−TOR阻害剤がラパマイシンである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
Akt阻害剤をさらに含む、請求項15〜18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
調節性T細胞を産生するための方法であって、
(i)T細胞を刺激するステップと、
(ii)前記T細胞中で、PI3Kアルファ、PI3Kデルタ、m−TOR又はAktを介するシグナル伝達を阻害するステップと
を含み、前記阻害が、(i)の刺激の10〜22時間後に開始される方法。
【請求項21】
調節性T細胞を産生するための方法であって、刺激されたCD8−T細胞を、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害剤を用いて処理するステップを含み、前記阻害剤が、PI3Kアルファ及び/又はPI3Kデルタを阻害する方法。
【請求項22】
PI3K阻害剤がLY294002を含む、請求項1〜9、20、21のいずれかに記載の方法、請求項10〜12のいずれかに記載の使用、請求項13若しくは14に記載の阻害剤、又は請求項15〜19のいずれかに記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−512738(P2010−512738A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540860(P2009−540860)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004784
【国際公開番号】WO2008/071974
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504171433)メディカル リサーチ カウンシル (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004784
【国際公開番号】WO2008/071974
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504171433)メディカル リサーチ カウンシル (16)
【Fターム(参考)】
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