説明

既製杭

【課題】杭穴底部内の杭周固定液を効率的かつ確実に、杭穴内壁と既製杭の外壁との間に充填して、高品質の根固め部を構築でする。
【解決手段】外径D、内径Dのコンクリート製の既製杭基体1の下面2に、内径C1のドーナツ状で鋼板製の端板7を固定する(C<D)。端板7の下面に既製杭基体1の軸Oに対して略放射状で、回転対称に3つのシュー15を突設して、既製杭20を構成する。シュー7の基端16は、端板7の内周縁6aよりも、軸O側に位置させてある。シュー7が既製杭20の内周3と交わる点をXとし、軸Oと点Xとを結ぶ線をOXとする。線OXと「シュー15の長さ方向の線の外方への延長線」との成す角をθとする。「軸Oと点Xとを結ぶ線OXの外方への延長線」と「シュー15の長さ方向の線の外方への延長線」とに向けた角θの角度方向が、既製杭20の回転方向30とを反対の方向とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主にコンクリート製の既製杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、礫が多く存在することが予想される地盤で、縦先端シューと横先端シューとを組み合わせて、杭穴底にある礫を既製杭の中空部に導き入れ、礫が杭穴底部に残置されることを防止する提案がなされていた(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−314896
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既製杭を挿入した際に、杭穴の底部、即ち既製杭の下方に発生しているスライム類(一般的には、ベントナイトの泥水と掘削土とが混ざった軟泥状のもの)をその位置から既製杭の中空部に取り込んで除去することができたが、同時に、杭周固定液(充填したセメントミルクやソイルセメント)も取り込み、既製杭の外周と杭穴壁との間に杭周固定液が充分に充填されない場合も考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、この発明は、シューを傾斜して取付け傾斜方向を既製杭の正回転時の回転方向を基準にして設定し、あるいは端板の内径を既製杭基体の内径よりも狭く設定したので、セメントミルクの既製杭中空部への流入を抑えて前記問題点を解決した。
【0005】
即ちこの発明は、外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭である。
(1) 前記シューが前記既製杭の内周と交わる点をXとし、
(2) 「前記軸と前記点Xとを結ぶ線の外方への延長線」から「前記シューの長さ方向の線の外方への延長線」に向けた角度方向が、前記既製杭の回転方向と反対の方向とした。
【0006】
また、他の発明は、外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭である。
(1) 前記シューは半径方向に対して所定角度だけ傾斜して配置され、
(2) 前記既製杭の回転方向に対して、内周側が先に進行して、外周側が後から進行するように、前記所定角度を設定した。
【0007】
また、他の発明は、外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭である。
(1) 前記既製杭をコンクリート製の既製杭とし、
(2) 前記端板の内径Cを、 C<D
とする。
【0008】
更に、前記において、シューの基端を、端板の内周縁よりも、既製杭の軸側に位置させた既製杭である。
【0009】
前記における既製杭は、主にコンクリート杭の場合が最適であるが、コンクリート杭の外周を鋼管で覆ったSC杭や、鋼管杭などに適用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
シューを半径に対して傾斜させ、「シュー中間部の点Xに対して、軸Oと点Xとを結ぶ線OXとシューのなす角θを、既製杭の回転方向と反対の方向」とし、あるいは、「既製杭の回転方向に対して、内周側が先に進行して、外周側が後から進行する」ように、角度θを設定し、あるいは、「端板の内径C<端板の内径D」としたので、杭穴底部内の杭周固定液(根固め液)を効率的かつ確実に、杭穴内壁と既製杭の外壁との間に充填して、かつスライム類を拡底部から除去できる。よって、既製杭を埋設した工法で、高品質の根固め部を構築でき、確実に設計通りの性能を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1) 外径D、内径Dのコンクリート製の既製杭基体1の下面2に、内径C1のドーナツ状で鋼板製の端板7を固定する。端板7の下面に既製杭基体1の軸Oに対して略放射状で、かつ回転対称に3つのシュー15、15を突設して、既製杭20を構成する。
【0012】
(2) 端板7の内径Cとし、
端板7の内径C<既製杭基体1の内径D
とする。また、シュー7の基端16は、端板7の内周縁6aよりも、既製杭20(既製杭本体1)の軸O側に位置させてある(図1、図2、図3)。
【0013】
(3) 前記において、シュー7が既製杭20(既製杭基体1)の内周3と交わる点をXとし、軸Oと点Xとを結ぶ線をOXとする。線OXと「シュー15の長さ方向の線の外方への延長線」との成す角をθとする。「軸Oと点Xとを結ぶ線OXの外方への延長線」と、「シュー15の長さ方向の線の外方への延長線」とに向けた角θの角度方向が、既製杭20の回転方向30とを反対の方向とした(図1(b))。
【0014】
(4) 換言すれば、シュー15、15は半径方向に対して所定角度だけ傾斜して配置され、 既製杭20の回転方向30に対して、シュー15の基端16(内周側)が先に進行して、先端17(外周側)が後から進行するように、前記所定角度を設定してある(図1(b)。
【実施例1】
【0015】
図面に基づきこの発明の実施例を説明する。
【0016】
(1)既製杭20の構成
【0017】
中空部5を有し、外径D、内径Dの既製杭基体1の下面2に、外径D、内径Cのドーナツ状の端板7の上面9を当設して取り付ける。ここで、C<D、としてあり、既製杭基体1の中空部5の外周側6を、端板7の内周10側が覆っている構造となっている。また、端板7の内径C1は、端板7の中空部11(既製杭基体1の中空部5)への杭穴収容物が入らないことを防止するために、好ましくは、
(2分の1)×D<C
としてある。
【0018】
端板7の下面8に、短冊状(長方形)の3つのシュー15、15を略放射状に固定する。シュー15は、既製杭基体1の軸O(中空部の中心)に対して円周方向に等間隔に配置する。シュー15の先端17は端板7の外周縁10から外方に突出し、シュー15の基端16は内方(既製杭基体1の軸O側、端板7の中心側)に突出している。内方へのシューの基端16の突出長さは、各シュー15、15の基端16、16が互いに触れない程度とし、実施例では、端板7の内径Cの4分の1程度としてある。
【0019】
また、各シュー15の高さH、H、Hは、2〜15cm 程度としてある。
【0020】
また、各シュー15、15の長さ方向が既製杭基体1の内周3と交わる点をX、X、Xとした場合、軸OとX、X、Xと交わる仮想線OX、OX、OXとする。仮想線OX、OX、OXと各シュー15、15とが成す角θ、θ、θが形成されるように、軸Oに対して放射状よりも傾斜して配置される。この場合、θ、θ、θは、5〜30度程度に形成する。また、θ、θ、θの方向は、既製杭の正転方向30に対して、仮想線OX、OX、OXの外方への延長線から逆方向となるように設定する。即ち、「OX(OX、OX)の外方への延長線」から「シュー15の長さ方向で外方への延長線」に向かう角θ(θ、θ)が、既製杭の正転方向30に対して、逆方向となるように設定されている(図1(b))。
【0021】
従って、既製杭基体1を正回転すると、半径方向に対して、シュー15の先行する面18が、半径方向に対して、基端17側が先行し、先端16側が遅れて回転するように配置される。
【0022】
以上のようにして、この発明の既製杭20を構成する(図1)。図中13は補強バンドで端板7に固定してある。
【0023】
(2)既製杭20の使用
【0024】
この既製杭20は、通常の既製杭と同様に使用する。
【0025】
即ち、予め掘削した杭穴22内に、セメントミルクを充填し、あるいは更に撹拌してソイルセメントを形成する。その後、杭穴22内に既製杭20を埋設する。
【0026】
この場合、既製杭20を矢示30方向に正回転させると、既製杭20の回転方向に対して、半径を基準にして、シュー15の基端16(内周側)が先に進行して、先端17(外周側)が後から進行するようにシュー15が移動するので、シュー15の面18により、基端16側(内周側)に位置するセメントミルクを徐々に先端16側(外周側)に送ることができる。従って、既製杭20(既製杭基体1)の外周3aと杭穴22の内壁23との間にセメントミルクを効率良く、充填させることができる。
【0027】
また、この際、杭穴22内にスライム類が存在する場合には、一般に、中空部11から既製杭20(既製杭基体1)の中空部5に導き入れられる前に、スライム類はセメントミルク類よりも比重が軽いので、スライム類はシュー15に沿って既製杭10の外周側3aに移動させられ、既製杭20の外周3a側に沿って上昇する。従って、スライム類は、杭穴22の根固め部25(即ち、既製杭20の下面2及び下端部よりも下方の位置)から除去される(図1(b))。
【0028】
また、端板7の内径Cを、既製杭基体1の内径Dより小さくして、中空部11を狭く形成したので、既製杭基体1の中空部5に入るよりも、既製杭20(既製杭基体1)の外周3a側に移動できる。
【0029】
この場合、根固め部25は、求める支持力にもよるが、一般に、既製杭20の下端部が根入りされる杭穴内の部分であって、比較的富配合のセメントミルク又はソイルセメント等が充填された杭穴の下端部をいう。
【0030】
(3)他の実施例
【0031】
前記実施例において、各シュー15の長さ、角度θ、θ、θ、高さH、H、Hは総てのシュー15で同一の構成としたが、異なる構成とすることもできる(図示していない)。
【0032】
また、前記実施例において、端板7の内径C、既製杭基体1の内径D とした場合、
(2分の1)×D<C<D
とすることが好ましいが、杭周固定液の外周側への移動のみを考えれば、
<D
という条件でも可能である(図示していない)。また、更に、シュー15の長さや基端16及び先端17の位置、角度θ、θ、θを調節した場合には、D≒Cとすることもきる(図示していない)。
【0033】
更に、前記実施例において、シュー15の傾斜角度θ、θ、θは、前記のように、シュー15の基端16(内周側)が先に進行して先端17(外周側)が後から進行するようにシュー15が移動するように傾斜させたが、
<C
とした場合、シュー15の傾斜を、任意とすることもできる(図2、図3)。即ち、θ、θ、θの方向を、既製杭の正転方向30に対して、仮想線OX、OX、OXから同一方向となるように設定する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施例の既製杭の下端部で、(a)は一部縦断面図、(b)は底面図である。
【図2】この発明の他の実施例の既製杭の下端部で、(a)は一部縦断面図、(b)は底面図である。
【図3】この発明の他の実施例の既製杭の下端部で、(a)は一部縦断面図、(b)は底面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 既製杭基体
2 既製杭基体の下面
3 既製杭基体の内周
5 既製杭基体の中空部
6 既製杭基体の中空部の外周側
6a 既製杭基体の中空部の内周側
7 端板
8 端板の下面
9 端板の上面
10 端板の内周
11 端板の中空部
13 補強バンド
15 シュー
16 シューの基端
17 シューの先端
18 シューの面
20 既製杭
22 杭穴
23 杭穴の底
25 杭穴の根固め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭。
(1) 前記シューが前記既製杭の内周と交わる点をXとし、
(2) 「前記軸と前記点Xとを結ぶ線の外方への延長線」から「前記シューの長さ方向の線の外方への延長線」に向けた角度方向が、前記既製杭の回転方向と反対の方向とした。
【請求項2】
外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭。
(1) 前記シューは半径方向に対して所定角度だけ傾斜して配置され、
(2) 前記既製杭の回転方向に対して、内周側が先に進行して、外周側が後から進行するように、前記所定角度を設定した。
【請求項3】
外径D、内径Dの既製杭基体の下端面にドーナツ状で鋼板製の端板を固定して、該端板の下面に前記既製杭の軸に対して略放射状で、かつ回転対称にシューを突設してなる既製杭において、以下のように構成したことを特徴とする既製杭。
(1) 前記既製杭をコンクリート製の既製杭とし、
(2) 前記端板の内径Cを、 C<D
とする。
【請求項4】
シューの基端を、端板の内周縁よりも、既製杭の軸側に位置させた請求項1〜3のいずれか1項記載の既製杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308860(P2008−308860A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156918(P2007−156918)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】