説明

既設コンクリートの表面保護工法

【課題】表層のポーラス化が進行した種々のコンクリートに対して、塗布量による施工管理によって、コンクリート表層に適切な厚さの撥水層を安定して形成することができ、かつ、その最表面を外観の良好な撥水塗膜で覆うことのできるコンクリート撥水処理技術を提供する。
【解決手段】コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することにより、200±50g/m2の塗布量でコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆され、かつシラン含浸撥水層の厚さが1〜30mmとなる水性撥水材を用意し、その撥水材を上記塗布量で当該コンクリート表面に塗布する、既設コンクリートの表面保護工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性撥水材を塗布するコンクリートの表面保護工法であって、特に、経時劣化等により表層部のポーラス化が進んだ既設コンクリートの高耐久化補修に適した工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、雨水や潮風に曝されると中性化などによる経時劣化によって表層部が次第にポーラス化(多孔質化)してくることがある。そうなるとコンクリート内部に水分や塩化物イオンなどが侵入しやすくなり、コンクリート構造物の内部劣化を早める要因となる。
【0003】
このような内部劣化が生じると、劣化部分を取り除いた後に新たなセメント系材料で修復するという、大規模な補修工事が必要となり、多大なコストがかかる。そこで、近年、コンクリートの表層部を予めシラン系撥水材で撥水加工しておく補修工法(例えば特許文献1〜4)が注目されている。特に最近では、コンクリート内部に浸透しやすいが、揮発もしやすいシランと、コンクリート表面に留まってシランの揮発を抑える役割を担うシロキサンとを配合した水性撥水材が開発され、シランが高密度に浸透した撥水能力の高い表層部を比較的容易に形成する技術(特許文献3、4)が実用化されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3160231号公報
【特許文献2】特許第3027363号公報
【特許文献3】特開2002−60283号公報
【特許文献4】特開2004−338980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3、4に開示のシランとシロキサンを複合添加した水性撥水材をコンクリート表面に塗布する手法によれば、撥水能力の高い表層部をコンクリート表面に比較的容易に形成することができ、予めコンクリート構造物の耐久性を大幅に高めておくことが可能となる。ところが、種々の既設コンクリート構造物にこの手法を適用すると、良好な塗布面が形成されるのに要する撥水材の量が、通常より大幅に増大する場合があるという問題が生じた。発明者らはその原因を種々調査したところ、被処理コンクリートによって表面のポーラス化の程度が大きく異なることが要因として挙げられた。
【0006】
撥水材の塗布作業においては、実際にどの程度の深さまで撥水材が浸透しているかを確認することが困難であるために、単位面積当たりの塗布量(撥水材の使用重量)で施工管理を行うのが一般的である。例えば、特許文献3、4に開示の水性撥水材の場合、打設後、表面劣化が比較的少ない状態であれば、200g/m2の塗布量を標準としたときにコンクリート表面がきれいに撥水材成分で覆われ、かつシラン成分の浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の厚さ)も十分に確保されることが判っている。しかしながら、よりポーラス化が進んだコンクリートの場合には、撥水材の浸透速度が大きいため、標準塗布量では表面をきれいに撥水材成分で覆うことができないという不都合が生じることがわかった。この場合、現場での塗布量による施工管理が困難になる。
【0007】
特許文献1〜4に記載の技術では、被処理コンクリート表層のポーラス化の程度については考慮されておらず、これらの技術をポーラス化が進行したコンクリートに適用しても、塗布量による施工管理によって安定して良好な結果を得ることはできない。このうち、特許文献1、2に開示のシランとシロキサンを複合添加した撥水材は、シラン/シロキサン配合比がかなり小さいクリーム状のものである。これは、塗布時に液ダレは生じにくいものの、土木用の緻密なコンクリートの補修に使用すると、ポーラス化が進んでいたとしても浸透性が十分ではないため、多量のシロキサン成分がコンクリート表面に残存して、これが後に変色し、コンクリート構造物の良好な外観を損ねてしまうという問題もある。一方、前述のように特許文献3、4の技術をそのままポーラス化が進んだコンクリートに適用すると、撥水材の使用量が標準よりも大幅に増大してしまい、塗布量による施工管理ができない。
【0008】
既設のコンクリートの中には表層のポーラス化が進んだ材齢の古いものも多々あり、そのようなコンクリートに対して合理的に撥水加工を施すことは、既存コンクリート構造物の長寿命化を図る上で極めて有効な手段であると考えられる。しかし、その技術は確立されていないのが現状である。
【0009】
本発明は、表層のポーラス化が進行した種々のコンクリートに対して、塗布量による施工管理によって、コンクリート表層に適切な厚さの撥水層を安定して形成することができ、かつ、その最表面を外観の良好な撥水塗膜で覆うことのできるコンクリート撥水処理技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは詳細な検討の結果、被処理コンクリート表層のポーラス化の程度が大きい場合には、シラン系の撥水材において、本来、シランの揮発を抑制する目的で添加されているシロキサンの配合割合を増大させることが、シラン成分の過度の浸透を抑制する上で極めて有効であることを見出した。そして、ポーラス化の程度に応じてシラン/シロキサン配合比を調整することにより、従来と同様の標準塗布量において、表面外観の良好な撥水塗膜が形成されるともに、シランの浸透深さ(すなわち撥水層の形成厚さ)を適正範囲に制御できることが明らかになった。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明では、既設コンクリートの表面にアルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が60〜90質量%である水性撥水材を塗布してコンクリート表層部にシラン含浸撥水層を形成するに際し、
コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することにより、200±50g/m2の塗布量でコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆され、好ましくはさらにシラン含浸撥水層の厚さが1〜30mmとなるように組成調整された水性撥水材を用意し、
その撥水材を200±50g/m2の範囲内のむら無く被覆される塗布量で当該コンクリート表面に塗布する、既設コンクリートの表面保護工法が提供される。
【0012】
ここで、「むら無く被覆される」とは、塗布時に撥水材成分がコンクリート中に浸透することによって表面から消失していく現象が治まり、コンクリートの最表面が撥水材成分からなる塗膜で覆われることをいう。「200±50g/m2の塗布量で」とは、200±50g/m2の範囲内の、ある塗布量においてコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆されることが必要であることを意味する。「シラン含浸撥水層の厚さ」は、シラン成分の浸透深さに相当するものであり、これは、撥水処理を施した後、概ね1日以上経過して状態が安定したコンクリートからコアサンプルを採取し、コアの割裂面に水を噴霧して濡色にならない部分の平均厚さを測定することにより求めることができる。
【0013】
「ポーラス化の程度に応じて」というのは、そのポーラス化の程度が大きいほどアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を小さくし、逆にポーラス化の程度が小さいほどアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を大きくするような方向で、当該被処理コンクリートの表面性状に適した水性撥水材の調合組成を選択することを意味する。
【0014】
上記において、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を質量割合で7/1超え〜10/1未満の範囲で調整することが望ましい。また、アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が77〜90質量%である水性撥水材を使用することができる。
【0015】
被処理コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を設定する手法として、現場での部分的な試し塗りを利用する手法を採用することができる。すなわち、この手法は、現場においてアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比をある値に設定した撥水材サンプルを調合し、これを被処理コンクリートの一部に200±50g/m2の塗布量で塗布することにより、コンクリート表面が「むら無く被覆される」かどうかを判定するものである。その判定結果を反映して、施工用の撥水材を用意すればよい。あるいは再度、撥水サンプルを調合し、試し塗りを行ってもよい。従来、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することによって、シラン成分の浸透深さが制御できることは知られていなかったところ、この試し塗りの手法は単純ではあるが、種々のコンクリートに対して現場での塗布量による施工管理を可能にする手法として効果が大きい。
【0016】
また、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を設定する別の方法として、被処理コンクリート表層部の密実性を測定する手法を採用することができる。この場合、現場にて測定された密実性(ポーラス化の程度)の測定結果を、予め得られている「密実性」と「適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比」との相関関係に照らし合わせ、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を決定することができる。密実性の測定を非破壊検査にて実施できる手法が好ましく、例えば、透気試験装置(Torrent Permeability Tester)を使用して、被処理コンクリートの密実性を判定する手法が応用できる。具体的には例えば、コンクリート表面に設置したチャンバー内に負圧を与えたときにチャンバー内の圧力が回復するまでの回復時間を計測することにより密実性(例えば透気係数;単位cm/s)を測定することができる。その際、コンクリートの電気抵抗を測定することによりコンクリート中の含水率を評価し、測定された密実性を、コンクリートの含水率に応じて整理されている「密実性」と「適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比」の相関関係に照らし合わせることが望ましい。コンクリート中の含水率は水分計で測定した表面水分率によって評価しても構わない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表層がポーラス化した種々の既設コンクリートについても、従来一般的な塗布量による施工管理によって、撥水能力の高いシラン含浸撥水層を適正厚さで安定して形成することができ、その最表面には外観の良好な撥水塗膜が形成される。また、種々の既設コンクリートにおいて撥水層厚さ(シラン成分の浸透深さ)を制御することができ、過剰な塗布量になることが防止されるので、撥水化処理の材料コスト低減や作業時間削減が期待される。したがって本発明は、既設コンクリート構造物の耐久性向上手段として幅広く利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンを含有する水性撥水材を使用する。アルキルアルコキシシランはコンクリート内部に浸透しやすい一方で、揮発もしやすい。他方、ポリオルガノシロキサンはコンクリート中に浸透しにくく、かつ揮発もしにくいので、塗布後にはコンクリート表面に留まって存在する。この両者を複合添加した水性撥水材では、表面に留まって存在するポリオルガノシロキサンが、アルキルアルコキシシランの揮発を抑制するバリアとして働き、塗布されたシラン成分は無駄なくコンクリートの表層部に浸透することから、コンクリートの表面近傍にはシラン成分が高密度で存在する撥水表層が形成される。このようなアルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの作用については、特許文献3に開示されているとおりであり、本発明でもその作用を利用して撥水能力の高いシラン含浸撥水層を構築する。
【0019】
ところが、発明者らの研究によれば、このポリオルガノシロキサンの配合量を増大させると、ポーラス化の程度が大きいコンクリート表層において、シラン成分がコンクリート内部へ過剰に浸透するのを防止する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては現時点では不明確な点も多いが、このポリオルガノシロキサンの配合比率が高いときには、ポーラス化の程度が大きいコンクリート表面においても比較的早期に最表面がポリオルガノシロキサン成分によって被覆されることが考えられる。これにより、その時点でむらの無い撥水塗膜が形成されるので、それ以上の過剰な撥水材の塗布(シラン成分の更なる供給)が必要なくなる。その結果、シラン成分が過剰に深く浸透するようなことにはならないとともに、オルガノシロキサン成分の表面被覆層がシラン成分の揮発を抑えることにより、シラン成分の密度が高い撥水表層が構築されるものと考えられる。
【0020】
図1に、コンクリート表層部のポーラス化の程度とアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の適正値との関係を模式的に示す。グラフ縦軸のパラメータは例えば空隙率である。コンクリートは、打設後、経時劣化によって表層部がポーラス化していく。そのポーラス化の進行速度は、コンクリートの種類や設置環境によって様々である。発明者らは詳細な検討の結果、ポーラス化の程度が大きくなるほど、撥水材のアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を小さくすることによって、良好なシラン含浸撥水層を形成させるための塗布量による施工管理が可能になることを見出した。この関係を模式的に例示したのが図1の「適正ライン」である。発明者らの調査によると、従来のシラン系撥水材(例えば特許文献3、4に開示のもの)は、新設時のコンクリート、あるいは、経時劣化したコンクリートのなかでも表層のポーラス化に関してはあまり進行していないものに対しては、ほぼ適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を有している。しかし、ポーラス化が進行したコンクリートに対しては、そのポーラス化の程度に応じてアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を適正化した撥水材を使用しなければ現場での塗布量による施工管理ができない。そこで本発明では、被処理コンクリートのポーラス化の程度に応じて、例えば図1のX、Y、Zといった適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を有する水性撥水材を用意し、それを使用する。
【0021】
図1に示されるように、被処理コンクリートのポーラス化の程度が大きくなるほど、ポリオルガノシロキサンの配合量を増加させる必要がある。具体的には、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比が質量割合で10/1未満となるようにポリオルガノシロキサンの配合割合を高めることが望ましい。こうすることにより、同配合比が10/1以上である従来のシラン系撥水材(特許文献3、4)では実現できなかった、ポーラス化が進んだコンクリートにおける撥水処理が、標準的な塗布量による施工管理によって可能になる。乾燥後の塗膜はほぼ無色透明である。一方、ポリオルガノシロキサンの配合量があまり多くなると、その成分がコンクリート表面に多量に残存して変色することにより、コンクリート構造物の外観を損ねることになる。また、過剰なポリオルガノシロキサンの添加は不経済でもある。種々検討の結果、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比が質量割合で7/1を超える構成比率になるようにすることが好ましい。
【0022】
本発明で使用する水性撥水材は、アルキルアルコキシシラン、ポリオルガノシロキサンの他に、乳化剤成分を含み、残部は基本的に水からなる。アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量は60〜90質量%の範囲とすることができるが、塗布性等を考慮すると77〜90質量%の範囲に調整したものがより好適である。
【0023】
アルキルアルコキシシランは、一般式が下記(1)式で表されるものである。
1XSi(OR24-X ……(1)
ここで、R1は炭素数1〜20好ましくは4〜10のアルキル基、R2は炭素数1〜6好ましくは1または2のアルキル基または水素原子、Xは1または2の整数である。
【0024】
ポリオルガノシロキサンは、平均組成式が下記(2)式で表されるものである。
3a(OR4bSi(OH)c(4-a-b-c)/2 ……(2)
ここで、R3は炭素数1〜20のアルキル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、a、b、cは各々0.5<a≦2.0、0≦b<2.0、0≦c<2.0を満たす値であり、a+b+cは3以下である。
【0025】
乳化剤成分としては、各種公知の乳化剤(例えば特許文献4に開示されているもの)が使用できる。乳化剤の量は、0.1〜10質量%の範囲とすることができ、通常、0.1〜5質量%の範囲で良好な結果が得られる。
【0026】
この水性撥水材を用いて既設コンクリートの表面保護工法を実施するためには、まず、現場の被処理コンクリートについて、表層のポーラス化の程度を把握する必要がある。例えば、比較的単純な手法として、目視観察によりポーラス化の程度を判断するという手法が採用できる。次いで、そのポーラス化の程度に応じて、適正と思われるアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の見当をつける。その際、それまでに行われてきた実験例や施工例を参考にすることが効果的である。そして、見当をつけた配合の撥水材サンプルを調合し、現場での部分的な試し塗りを実施することによって、その配合が適正かどうかを確認することができる。その試し塗りでは、撥水材サンプルを被処理コンクリートの一部に200±50g/m2の塗布量で塗布することにより、コンクリート表面が「むら無く被覆される」ことを確認する。塗布の方法としてはエアレススプレー方式、刷毛塗り方式、ローラー塗り方式など、種々の方法が採用できるが、多くの現場においてエアレススプレー方式が効率的である。上記所定の塗布量でむら無く被覆されない場合は、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比をより小さくし、逆に上記所定の塗布量に到達する前に表面が撥水材成分で覆われ、コンクリート内部への撥水材の新たな浸透が観測されない状態となった場合は、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比をより大きくすることにより、それぞれ適正な配合比を見つけることができる。アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が60〜90質量%である水性撥水材であれば、この手法により適正と判断された配合において、平均厚さ1〜30mmの撥水層を形成することができる。また、目視によってポーラス化が進行していることが判断できるコンクリートであれば、通常、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を質量割合で7/1超え〜10/1未満の範囲に調整することによって良好な結果を得ることができる。したがって、試し塗り用の撥水材サンプルを調合する際には、まず、この範囲の配合比のものを作ることが好ましい。
【0027】
また、被処理コンクリート表層のポーラス化の程度を判断する別の方法として、実際に当該コンクリート表層部の密実性を測定する方法が採用できる。例えば前述の透気試験装置を使用する方法が挙げられる。この場合も測定結果から上記のように当該コンクリートに適したアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の見当をつけ、その配合比の撥水材サンプルを調合し、試し塗りを行う手法を利用することができる。しかし、密実性(ポーラス化の程度)について定量的な値が把握される場合は、その測定結果を、予め得られている「密実性」と「アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の適正範囲」との相関関係に照らし合わせ、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を決定することが合理的である。この場合、試し塗りを行わなくても精度良く撥水材の組成を決定することができる。
【0028】
アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比が決まったら、現場にてその配合の水性撥水材を調合し、これを標準的な塗布量、例えば200±50g/m2の範囲で被処理コンクリート表面に塗布する。これにより、コンクリート表面はむら無く撥水材に覆われ、その下には平均厚さが1〜30mm好ましくは3〜20mmのシラン含浸撥水層が形成される。シラン含浸撥水層の厚さは、撥水材の組成をより厳密に調整することによって、より精度良く制御することができる。シラン成分が高密度で存在するシラン含浸撥水層が1mmの厚さで存在していれば、外界からの水分や塩化物イオンの侵入を十分に抑止するに足る撥水効果が得られるが、平均厚さとして3mm以上の撥水層を有していることがより好ましい。ただし、撥水層の厚さがあまり厚すぎても、撥水効果は飽和するので、平均厚さ30mmを超える撥水層の形成は無駄が多く、20mm以下とすることがより好ましい。
【実施例1】
【0029】
表層がポーラス化した既設コンクリート構造物の垂直壁面に対し、従来の撥水材X1、および本発明にしたがって調合した撥水材X2を用いて表面保護工法の実施を試みた。このコンクリート構造物は普通ポルトランドセメントを用いた鉄筋コンクリートであり、打設後、約30年経過したものである。この被処理コンクリート表面の外観写真を図2に示す。図2の写真の上端から下端までの距離は約100mmである。
【0030】
従来の撥水材X1は、コンクリートの撥水処理用に実用化されているシラン・シロキサン系水性撥水材であり、原料物質として以下のものが使用されており、配合組成は表1に示すとおりである。
・アルキルアルコキシシラン成分; イソオクチルトリエトキシシラン
・ポリオルガノシロキサン成分; 25℃における粘度約30mPa・s、組成式CH3Si(OC250.81.1
・乳化剤成分; エチレンオキシド単位を10個持つイソトリデシルアルコールグリコールエーテル
【0031】
一方、被処理コンクリート表層のポーラス化の程度を目視により観測し、これまでに行ってきた種々の実験例を参考にして、適正と考えられるアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を予測し、表1に示す配合組成の水性撥水材X2を調合した。原料物質は上記X1と同じである。調合は、まず、所定量のポリオルガノシロキサン成分、乳化剤成分、および水を高速で撹拌混合し、次に、ポリオルガノシロキサン成分を4回に分けて添加し、それぞれ高速で撹拌混合する方法で行った。
【0032】
【表1】

【0033】
用意した水性撥水材X1およびX2を、それぞれエアレススプレーにより塗布量200g/m2を目標に、むら無くにコンクリート表面に浸透するように塗布した。ただし、目標の塗布量をオーバーしてもコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆される状態に至らない場合、つまり、撥水材がコンクリート中に浸透することによって表面から消失していく現象が続く場合は、その浸透現象が治まり、コンクリートの最表面が撥水材成分からなる塗膜で覆われるまで、塗布を継続することとした。塗布作業の結果、従来の撥水材X1を使用した場合には、塗布量200g/m2をオーバーしてもコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆される状態に至らなかった。なお、実際の塗布量は、塗布前後においてエアレススプレー内の材料の質量を測定しておき、塗布に要した撥水材の質量を塗布面積で除することにより算出した。
【0034】
塗布終了から7日間経過後に、塗布箇所からコアサンプルを採取し、コアの割裂面に水を噴霧して濡色にならない部分の深さを測定することにより、平均浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の平均厚さ)を求めた。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2からわかるように、このポーラス化したコンクリートを撥水処理する場合、従来の水性撥水材X1を使用した比較例では、表面がむら無く撥水材成分で被覆されるのに要した撥水材の塗布量は450g/m2と、標準的な塗布量200g/m2と比べ大幅に多くなった。これは、コンクリート内部への撥水材の浸透速度が速いために、一度塗布した箇所がすぐに乾燥してしまい、再度同じ箇所に入念に重ね塗りを行う必要が生じたことによる。
【0037】
一方、ポーラス化の程度を考慮してアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を変更した水性撥水材X2を使用した本発明例の場合は、標準的な塗布量200g/m2においてコンクリート表面を撥水材成分でむら無く覆うことができ、シラン含浸撥水層の平均厚さも良好であった。この塗布実験は、実際の施工においては試し塗りに相当するものであるが、当該既設コンクリートの場合、この配合組成の撥水材X2によって塗布量による施工管理を行いながら良好な表面保護工法を実施することが可能であることが確認された。
【実施例2】
【0038】
新設時のコンクリート(A)およびポーラス化の程度が異なる3種類の既設コンクリート(B〜D)について、それぞれ標準的な塗布量による施工管理を実施して撥水処理を行うことを目標に、従来の水性撥水材(前記X1)およびアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を変更した各種水性撥水材(X11〜X14)を用意し、試し塗りを実施した。
【0039】
新設時のコンクリートAは、水セメント比(W/C);0.4、サイズ;100mm×100mm×400mmのコンクリートブロックである。これは、脱型後に28日間以上気乾養生(雰囲気;気温20℃、湿度60%)したものであり、高周波容量式のコンクリート・モルタル水分計による表面水分率が4.5%である。表面のポーラス化はまだ進行していない。
既設コンクリートB〜Dは、実際の土木建築物であり、それぞれ打設時期および設置環境が異なるが、いずれも経時劣化による表層のポーラス化が進んでいる。コアサンプルの採取が可能な部位を試し塗りに供することとした。
これら4種のコンクリートのポーラス化の程度は、目視観察により明らかに序列を付けることができ、Aが最もポーラス化の程度が小さく、A<B<C<Dの順にポーラス化の程度大きくなっている。
【0040】
従来の水性撥水材X1は、新設時のコンクリートAに200g/m2の塗布量で適合するものとして選択された。
水性撥水材X11、X12およびX13は、それぞれ既設コンクリートB、CおよびDに200g/m2の塗布量で適合させることを目標として、新たに調合した。目視により観測されたポーラス化の程度に応じて、これまでに行ってきた種々の実験例を参考にして、適正と考えられるアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比に設定した。また、水性撥水材X14は、ポーラス化の程度が大きいコンクリートDにおいてもアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比が過小であると考えられる配合組成を設定したものである。各水性撥水材の配合組成を表3に示す。X11〜X14の原料物質は前掲のX1と同じであり、調合方法は、実施例1のX2の調合方法に準じた。
【0041】
【表3】

【0042】
各コンクリートの垂直壁面に対し、塗布量を200g/m2と一定にして、撥水材X1、X11〜13をエアレススプレーにより塗布した。また、撥水材X14についてはクリーム状であるため、へら塗りで塗布した。ただし、コンクリート中への撥水材成分の浸透が非常に遅いために、塗布量200g/m2では激しい液ダレが起こるか、撥水材成分の被覆量が明らかに過剰(すなわち塗膜厚さが過大)となる場合は、塗布量が200g/m2になる前に塗布を中止した。
【0043】
塗布時において、200g/m2の塗布量にてコンクリート表面が撥水塗膜でむら無く覆われるかどうか、すなわち撥水材成分がコンクリート中へ浸透して表面から消失していく現象が治まるかどうかを判定した。また、規定の塗布量に到達する前に塗布を中止したもの(後述の※評価)、および200g/m2の塗布量にてコンクリート表面が撥水塗膜でむら無く覆われなかったもの(後述の×評価)を除き、塗布終了から7日間経過後に、塗布箇所からコアサンプルを採取し、実施例1と同様の手法で平均浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の平均厚さ)を求めた。これらの結果に基づいて、各コンクリートに対する各撥水材の適合性を以下のように評価した。
【0044】
〔適合性評価〕
×:コンクリート中への撥水材成分の浸透速度が大きいため塗布量200g/m2ではコンクリート表面を撥水塗膜でむら無く覆うことができない(適合性;不良)。
○:塗布量200g/m2でコンクリート表面を撥水塗膜でむら無く覆うことができ、平均浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の平均厚さ)が1〜30mmであるもの(適合性;良好)。
△:塗布量200g/m2は若干過剰であり、多少の液ダレが認められたが、平均浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の平均厚さ)が1〜30mmであるもの(適合性;やや良好)。
▲:塗布量200g/m2では若干過剰な撥水塗膜厚さとなったが、平均浸透深さ(すなわちシラン含浸撥水層の平均厚さ)は1〜30mmであるもの(適合性;やや良好)。
※:塗布量200g/m2では激しい液ダレが起こるか、撥水材成分の被覆量が明らかに過剰であるため、途中で塗布を中止したもの(適合性;不良)。
結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4からわかるように、従来の水性撥水材X1は、新設時のコンクリートに対しては適合性が良好であったが、ポーラス化したコンクリートに対しては浸透性が高すぎ、塗布量による施工管理ができない。本発明に従って、ポーラス化の程度に応じてアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整した水性撥水材X11〜X13は、それぞれ、目的の既設コンクリートに対して良好な適合性を呈し、現場での塗布量による施工管理が可能である。アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比がかなり小さい水性撥水材X14は、ポーラス化の程度が大きいコンクリートDにおいて使用可能であると判断されたが、コンクリート表面にシロキサン成分が過剰に存在することにより変色が生じ、これはコンクリート構造物としての外観を損ねる要因となる。
【実施例3】
【0047】
実施例2で対象としたコンクリートA(経時劣化していない100×100×400mmのコンクリートブロック)およびコンクリートB〜D(経時劣化している実構造物)について、透気試験装置を用いて密実性(透気係数)を測定し、「密実性」と「適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比」の相関関係を求めた。
この透気試験装置は、コンクリート表面に設置したチャンバー内に負圧を与え、チャンバー内の圧力が回復するまでの時間から透気係数を推定する装置である。ここで、透気係数はコンクリート中の含水率に大きく影響されるため、同時にコンクリートの電気抵抗を測定することで含水率を測定し、当該密実性がどの程度の含水率のコンクリートにおける指標であるかを評価し、コンクリートの含水率に応じて「密実性」と「適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比」の相関関係を整理することを試みた。透気係数は、コンクリートへの気体の通し易さを表す指標であり、コンクリート中の含水率が同程度であれば、透気係数の比較によってコンクリート表面のポーラス程度を把握できるものと考えられる。
【0048】
コンクリートA〜Dの透気係数を測定した結果を表5に示す。また、同表には、標準塗布量200g/m2でむら無く塗布が可能であることが実施例2により判っている浸透性吸水防止材のアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を併せて示す。ここで、各コンクリートの電気抵抗はほぼ同程度であり、かつ、水分計で測定した表面水分率も同程度(4.5%程度)であったことから、各コンクリートの含水率はほぼ同程度であると考えられる。そこで、各コンクリートの透気係数(密実性)と適正なアルキルアルコキシシラン/シロキサン配合比との相関関係を1本の曲線で近似することを試みた。その結果を図3に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
次に、経年劣化によって表面がポーラスな状態となった実構造物のコンクリートEについて、上記と同様の透気試験装置により密実性(透気係数)を測定した。その結果、透気係数は5.0×10-10cm/sであった。また、当該コンクリートEの電気抵抗を測定したところ、前記コンクリートA〜Dの場合と同程度であったことから、図3に示した相関関係は、コンクリートEについて適用可能なものであると判断された。そこで、コンクリートEの透気係数5.0×10-10cm/sを図3の相関関係に照合すると、適正なアルコキシシラン/シロキサン配合比は12/1と求まった。
【0051】
この配合比の水性撥水材を実施例1と同様の要領で調合し、それをエアレススプレーにてコンクリートEに標準塗布量200g/m2で塗布した結果、液ダレなどの不具合はなく、コンクリート表面をむら無く撥水材で覆うことが可能であった。7日間経過後に塗布箇所からコアサンプルを採取し、撥水材の浸透深さを測定したところ7mmと十分な浸透深さが確認された。すなわち、試し塗りを行うことなく、水性撥水材の適正組成を精度良く設定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】コンクリート表層部のポーラス化の程度とアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の適正値との関係を模式的に示したグラフ。
【図2】実施例1の被処理コンクリート表面のポーラスな外観を撮影した図面代用写真。
【図3】実施例3で求めた「密実性」と「アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比の適正範囲」との相関関係を表すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリートの表面にアルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が60〜90質量%である水性撥水材を塗布してコンクリート表層部にシラン含浸撥水層を形成するに際し、
コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することにより、200±50g/m2の塗布量でシラン含浸撥水層の厚さが1〜30mmとなる水性撥水材を用意し、
その撥水材を上記塗布量で当該コンクリート表面に塗布する、既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項2】
既設コンクリートの表面にアルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が60〜90質量%である水性撥水材を塗布してコンクリート表層部にシラン含浸撥水層を形成するに際し、
コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することにより、200±50g/m2の塗布量でコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆される水性撥水材を用意し、
その撥水材を200±50g/m2の範囲内のむら無く被覆される塗布量で当該コンクリート表面に塗布する、既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項3】
既設コンクリートの表面にアルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が60〜90質量%である水性撥水材を塗布してコンクリート表層部にシラン含浸撥水層を形成するに際し、
コンクリート表層部のポーラス化の程度に応じて、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を調整することにより、200±50g/m2の塗布量でコンクリート表面が撥水材成分でむら無く被覆され、かつシラン含浸撥水層の厚さが1〜30mmとなる水性撥水材を用意し、
その撥水材を200±50g/m2の範囲内のむら無く被覆される塗布量で当該コンクリート表面に塗布する、既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項4】
アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を質量割合で7/1超え〜10/1未満の範囲で調整する請求項1〜3のいずれかに記載の既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項5】
アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンの合計含有量が77〜90質量%の水性撥水材を使用する請求項1〜4のいずれかに記載の既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項6】
現場での部分的な試し塗りを利用して、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を決定する請求項1〜5のいずれかに記載の既設コンクリートの表面保護工法。
【請求項7】
被処理コンクリート表層部の密実性を測定し、その測定結果を、予め得られている「密実性」と「適正なアルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比」との相関関係に照合することによって、アルキルアルコキシシラン/ポリオルガノシロキサン配合比を決定する請求項1〜5のいずれかに記載の既設コンクリートの表面保護工法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91167(P2009−91167A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260593(P2007−260593)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】