説明

既設管路の拡径用切削工具

【課題】既設管路の奥側の作業スペースと作業者を必要とせず、如何なる場合も切削刃を回収でき、かつ、長い既設管路で延長ロッドの長さを短くでき、トラブル発生時にも支持軸を反対側へ戻すことができる既設管路の拡径用切削工具を提供することである。
【解決手段】支持軸1に回り止めしてスライド可能に外嵌した台座部材2の収納部4に複数の切削刃5を半径方向へスライド可能に収納し、切削刃5を引張コイルばね8で半径方向内方へ付勢して、切削刃5の基底側に設けた当接部材6を支持軸1の拡径部材1bの外径面に設けたテーパ部9aに当接させ、切削時に支持軸1を一方向へ移動させるときに、台座部材2をテーパ部9aの大径側へスライドさせ、当接部材6をテーパ部9aの大径側に係合させて、切削刃5を半径方向外方へ押し出し、支持軸1を逆方向へ移動させるときに、台座部材2をテーパ部9aの小径側へスライドさせて切削刃5を収納するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管路を拡径するように内壁を切削する既設管路の拡径用切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電気配線用等の比較的小径の既設管路は、両端がマンホール等の竪穴に開口するように横向きに配設されたものが多く、一端が竪穴に開口し、他端が人の入れない閉空間に開口するものもある。一部には、煙突の煙道のように縦向きに配設された既設管路もある。このような比較的小径で人が入り込めない既設管路を、ライニングの更新等の補修や、断面容量増大等のために拡径するときは、既設管路に挿入される支持軸の回りに複数の切削刃を放射状に配設した拡径用切削工具を用い、支持軸を回転駆動しながら牽引または押し込みによって一方向へ移動させ、既設管路の内径よりも大きい切削径の切削刃によって、一端側から他端側へ既設管路の内壁を切削する拡径方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の既設管路は、コンクリート、ヒューム管、合成樹脂管等で形成されている。また、拡径用切削工具の支持軸は、延長ロッドで既設管路の外に配置される回転牽引装置や回転押し込み装置に連結される。長い既設管路を拡径するときは、延長ロッドに撓みや座屈が生じないように、切削時の支持軸を牽引によって既設管路の奥側から手前側へ移動させることが多い。
【0004】
なお、既設管路の拡径用切削工具には、支持軸に装着される円筒状のビット本体の外周面に、頂部に切削用チップを設けた複数の台座を半径方向へ移動可能に設置し、これらの台座をばね材で半径方向外方へ付勢して、既設管路の継手部分の段差部等を、部分的に切削するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−262971号公報
【特許文献2】特開2004−316304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された既設管路の拡径用切削工具は、切削刃の切削径が既設管路の内径よりも大きくなっているので、以下の問題がある。
(1) 切削時の支持軸を牽引によって移動させる場合は、既設管路の奥側まで挿入した支持軸に切削刃を装着するための作業スペースと作業者を必要とする。
(2) 切削時の支持軸を押し込みによって移動させ、既設管路の奥側が人の入れない閉空間とされている場合は、切削刃を回収することができない。
(3) 長い既設管路では、長い延長ロッドの捩れ変形によって、支持軸への回転トルクの伝達効率が低下する。
(4) 既設管路を途中から拡径することができない。
(5) トラブル発生時に、支持軸を反対側へ戻すことができない。
【0007】
そこで、本発明の課題は、既設管路の奥側の作業スペースと作業者を必要とせず、如何なる場合も切削刃を回収でき、かつ、長い既設管路で延長ロッドの長さを短くでき、トラブル発生時にも支持軸を反対側へ戻すことができる既設管路の拡径用切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、既設管路に挿入される支持軸の回りに複数の切削刃を放射状に配設し、この切削刃を配設した支持軸を回転駆動しながら既設管路の中を一方向へ移動させて、既設管路を拡径するように内壁を切削する既設管路の拡径用切削工具において、前記支持軸に筒状の台座部材を回り止めして軸方向へスライド可能に外嵌し、この台座部材に前記複数の各切削刃を半径方向へスライド可能に収納する外径側へ開口した複数の収納部を設けて、収納部に収納される各切削刃を半径方向内方へ付勢する手段と、各切削刃の基底側から前記台座部材の内径面に突出して前記支持軸の外径面に当接される当接部を設け、この当接部が当接される支持軸の部位に、外径が一方向へ単調増加する拡径部を設けて、切削時に前記支持軸を一方向へ移動させるときに、前記台座部材を前記拡径部の大径側へスライドさせ、前記各切削刃の当接部を前記拡径部の大径側に係合させて、前記収納部に収納された各切削刃の先端を半径方向外方へ押し出し、前記支持軸を切削時と逆方向へ移動させるときに、前記台座部材を前記拡径部の小径側へスライドさせ、前記各切削刃の当接部を前記拡径部の小径側に係合させて、前記各切削刃を前記収納部に収納する構成を採用した。
【0009】
すなわち、支持軸に筒状の台座部材を回り止めして軸方向へスライド可能に外嵌し、この台座部材に複数の各切削刃を半径方向へスライド可能に収納する外径側へ開口した複数の収納部を設けて、収納部に収納される各切削刃を半径方向内方へ付勢する手段と、各切削刃の基底側から台座部材の内径面に突出して支持軸の外径面に当接される当接部を設け、この当接部が当接される支持軸の部位に、外径が一方向へ単調増加する拡径部を設けて、切削時に支持軸を一方向へ移動させるときに、台座部材を拡径部の大径側へスライドさせ、各切削刃の当接部を拡径部の大径側に係合させて、収納部に収納された各切削刃の先端を半径方向外方へ押し出し、支持軸を切削時と逆方向へ移動させるときに、台座部材を拡径部の小径側へスライドさせ、各切削刃の当接部を拡径部の小径側に係合させて、各切削刃を収納部に収納することにより、既設管路の奥側の作業スペースと作業者を必要とせず、如何なる場合も切削刃を回収でき、かつ、長い既設管路を分割して拡径可能として延長ロッドの長さを短くでき、トラブル発生時にも支持軸を反対側へ戻すことができるようにした。
【0010】
また、この既設管路の拡径用切削工具は、切削方向への移動によって切削刃が自然に押し出され、別途の駆動源を必要としないので、電気配線や油圧配管等を既設管路内に導く必要もなく、従来の拡径用切削工具と同様に、延長ロッドを接続するのみで既設管路に挿入することができる。
【0011】
前記支持軸の拡径部は、外径が直線的に増加するテーパ部とすることができる。
【0012】
前記拡径部の大径側に外径が一定の等径部を設け、切削時に前記支持軸を一方向へ移動させるときに、前記各切削刃の当接部をこの等径部に係合させることにより、切削時の切削刃の先端径を、安定して所定の切削径に設定することができる。
【0013】
前記支持軸の前記拡径部を設けた部位を別体の拡径部材で形成し、この別体の拡径部材を交換可能とすることにより、拡径部材の拡径量を異なるものとして、各切削刃の押し出し量を変え、異なる拡径寸法の既設配管を切削することができる。
【0014】
前記切削刃を半径方向内方へ付勢する手段は、前記当接部の周りに装着され、前記切削刃を半径方向内方へ引張付勢する引張コイルばねとすることができる。
【0015】
前記当接部を、前記収納部の底に設けた貫通孔に嵌挿され、前記切削刃の基底側に連結、または当接される別体の当接部材とすることにより、切削刃を安価に加工することができる。
【0016】
前記台座部材の中の前記拡径部の大径側の空間に圧力水を供給する手段を設け、この拡径部の大径側の空間に供給される圧力水の圧力によって、前記台座部材を前記拡径部の大径側へスライドさせることにより、切削開始時に圧力水の圧力によって台座部材を拡径部の大径側へスライドさせて、切削刃を徐々に外方へ押し出し、回転する切削刃を切削される既設管路の内壁にスムーズに食い込ませることができる。
【0017】
前記拡径部の大径側の空間に供給した圧力水を、前記切削時に支持軸を一方向へ移動させるときの前記各切削刃の移動方向前方側で、前記台座部材の外径側へ排出する手段を設けることにより、切削刃の移動方向前方側に排出される圧力水を切削用水として用い、切削効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の既設管路の拡径用切削工具は、支持軸に筒状の台座部材を回り止めして軸方向へスライド可能に外嵌し、この台座部材に複数の各切削刃を半径方向へスライド可能に収納する外径側へ開口した複数の収納部を設けて、収納部に収納される各切削刃を半径方向内方へ付勢する手段と、各切削刃の基底側から台座部材の内径面に突出して支持軸の外径面に当接される当接部を設け、この当接部が当接される支持軸の部位に、外径が一方向へ単調増加する拡径部を設けて、切削時に支持軸を一方向へ移動させるときに、台座部材を拡径部の大径側へスライドさせ、各切削刃の当接部を拡径部の大径側に係合させて、収納部に収納された各切削刃の先端を半径方向外方へ押し出し、支持軸を切削時と逆方向へ移動させるときに、台座部材を拡径部の小径側へスライドさせ、各切削刃の当接部を拡径部の小径側に係合させて、各切削刃を収納部に収納するようにしたので、既設管路の奥側の作業スペースと作業者を必要とせず、如何なる場合も切削刃を回収でき、かつ、長い既設管路を分割して拡径可能として延長ロッドの長さを短くでき、トラブル発生時にも支持軸を反対側へ戻すことができる。また、この既設管路の拡径用切削工具は、切削方向への移動によって切削刃が自然に押し出され、別途の駆動源を必要としないので、電気配線や油圧配管等を既設管路内に導く必要もなく、延長ロッドを接続するのみで既設管路に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態の既設管路の拡径用切削工具を示す縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】図1の拡径用切削工具を切削時と逆方向に移動させるときの状態を示す縦断面図
【図5】図1の拡径用切削工具を用いて既設管路を拡径する実施例1を示す断面図
【図6】a、bは図1の拡径用切削工具を用いて既設管路を拡径する実施例2を示す断面図
【図7】第2の実施形態の既設管路の拡径用切削工具を示す縦断面図
【図8】図7の拡径用切削工具を切削時と逆方向に移動させるときの状態を示す縦断面図
【図9】図7の拡径用切削工具を用いて既設管路を拡径する実施例3を示す断面図
【図10】第3の実施形態の既設管路の拡径用切削工具を示す縦断面図
【図11】図10の拡径用切削工具を切削時と逆方向に移動させるときの状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図4は、第1の実施形態を示す。この既設管路の拡径用切削工具は支持軸を牽引して内壁を切削するものであり、図1乃至図3に示すように、既設管路に挿入される支持軸1に、筒状の台座部材2が、すべりキー3aとキー溝3bの係合で回り止めされて軸方向へスライド可能に外嵌され、台座部材2に設けられた外径側へ開口した6箇所の収納部4に、6個の切削刃5が半径方向へスライド可能に放射状に収納され、その基底側に螺着された別体のピン状の当接部材6が、収納部4の底の貫通孔7に嵌挿されて台座部材2の内径面に突出し、当接部材6の周りに装着された引張コイルばね8によって各切削刃5が半径方向内方へ付勢され、各当接部材6が支持軸1の外径面に当接されるようになっている。各切削刃5の先端には、超硬合金のチップ5aがコンポジット肉盛されており、切削時の進行方向がテーパ状に切り欠かれている。
【0021】
前記支持軸1は、延長ロッド24を介して既設管路の外に配置される回転牽引装置(図示省略)に連結される基部材1aと、基部材1aの先端に螺着で取り付けられ、各切削刃5の当接部材6が外径面に当接される拡径部としての、牽引側と逆方向へ拡径するテーパ部9aおよびその大径側の等径部9bを有する別体の拡径部材1bとからなる。
【0022】
前記台座部材2の両端部には、支持軸1との間の空間をシールするための内向きの鍔10a、10bが設けられている。図1の右側の鍔10aは、基部材1aに設けられた大径段部11aに係止され、左側の鍔10bは、拡径部材1bに設けられた大径段部11bに係止されるようになっており、台座部材2のスライドストロークを規制する。また、基部材1aと拡径部材1bの大径段部11a、11bの外径面には、それぞれ台座部材2のキー溝3bと係合するすべりキー3aが設けられている。
【0023】
図1に示すように、前記支持軸1を切削時に既設管路の奥側から手前側へ右方に牽引するときは、まず、台座部材2が管路内壁との摩擦抵抗によって支持軸1の左方へスライドし、当接部材6がテーパ部9aの大径側へ移動して、各切削刃5の先端が収納部4から半径方向外方へ押し出される。押し出された各切削刃5が管路内壁に押圧されると、その押圧抵抗によって台座部材2がさらに左方へスライドし、鍔10aが基部材1aの大径段部11aに係止されて、当接部材6が等径部9bと係合する。支持軸1の回転駆動に伴って切削が開始されると、鍔10aは切削抵抗によって大径段部11aに押し付けられ、等径部9bと係合する当接部材6によって、各切削刃5の切削径が一定に保持される。
【0024】
図4に示すように、前記支持軸1を切削前に既設管路の奥側へ左方に挿入するときは、台座部材2が管路内壁との摩擦抵抗によって支持軸1の右方へスライドし、鍔10bが拡径部材1bの大径段部11bに係止される。このとき、拡径部材1bのテーパ部9aに当接する当接部材6がテーパ部9aの小径側と係合し、引張コイルばね8によって半径方向内方へ付勢された各切削刃5が収納部4に収納される。
【実施例1】
【0025】
図5は、上述した拡径用切削工具を用いて、両端がマンホール21a、21bに開口するように横向きに配設された既設管路22を拡径する実施例1を示す。この実施例1では、右側のマンホール21aに回転牽引装置23aが配置されており、各切削刃5を収納部4に収納した台座部材2を装着した支持軸1が、延長ロッド24を介して回転牽引装置23aに連結されて、マンホール21aから既設管路22の奥側に挿入され、回転牽引装置23aで右方の手前側へ牽引されながら、収納部4から半径方向外方に押し出される各切削刃5によって、既設管路22の内壁を切削する。したがって、実施例1では、左側のマンホール21bでの作業者を不要とすることができる。
【実施例2】
【0026】
図6(a)、(b)は、上述した拡径用切削工具を用いて、実施例1と同様に、2つのマンホール21a、21bに開口するように横向きに配設され、長い既設管路22を拡径する実施例2を示す。この実施例2では、まず、図6(a)に示すように、右側のマンホール21aに回転牽引装置23aが配置され、各切削刃5を収納部4に収納した台座部材2を装着した支持軸1が、延長ロッド24を介して回転牽引装置23aに連結されて、マンホール21aから既設管路22の中間部まで挿入され、右方へ牽引されながら、収納部4から半径方向外方に押し出される各切削刃5によって、既設管路22の右側半分の内壁を切削する。こののち、図6(b)に示すように、左側のマンホール21bに回転牽引装置23aが配置され、同様に、延長ロッド24を介して回転牽引装置23aに連結された支持軸1が、マンホール21bから既設管路22の中間部まで挿入されて、左方へ牽引されながら残りの左側半分の内壁を切削する。したがって、実施例2では、延長ロッド24の長さを既設管路22の長さの約半分に短くすることができる。
【0027】
図7および図8は、第2の実施形態を示す。この既設管路の拡径用切削工具は支持軸を押し込んで内壁を切削するものであり、図7に示すように、前記支持軸1の拡径部材1bの拡径部が、基部材1a側の押し込み側へ拡径するテーパ部9aおよびその大径側の等径部9bで形成されている。その他の部分は第1の実施形態のものと同じであり、台座部材2の両端部には、支持軸1との間の空間をシールするための内向きの鍔10a、10bが設けられ、図7の右側の鍔10aが、基部材1aに設けられた2箇所の大径段部11a、11bに両方向で係止されて、台座部材2のスライドストロークを規制するようになっている。
【0028】
この実施形態では、図7に示すように、支持軸1を切削時に既設管路の手前側から左方に押し込むときは、台座部材2が管路内壁との摩擦抵抗によって支持軸1の右方へスライドし、当接部材6がテーパ部9aの大径側へ移動して、各切削刃5の先端が収納部4から半径方向外方へ押し出される。各切削刃5が管路内壁に押圧されると、その押圧抵抗によって台座部材2がさらに右方へスライドし、鍔10bが拡径部材1bの大径段部11bに係止されて、当接部材6が等径部9bと係合する。支持軸1の回転駆動に伴って切削が開始されると、鍔10bは切削抵抗によって大径段部11bに押し付けられ、等径部9bと係合する当接部材6によって、各切削刃5の切削径が一定に保持される。また、図8に示すように、支持軸1を切削後に既設管路の手前側へ右方に引き戻すときは、台座部材2が管路内壁との摩擦抵抗によって支持軸1の左方へスライドし、鍔10aが基部材1aの大径段部11aに係止されて、当接部材6がテーパ部9aの小径側と係合し、引張コイルばね8によって半径方向内方へ付勢された各切削刃5が収納部4に収納される。
【実施例3】
【0029】
図9は、上述した拡径用切削工具を用いて、一端がマンホール21に開口し、他端が人の入れない閉空間25に開口する横向きの既設管路22を拡径する実施例3を示す。この実施例3では、マンホール21に回転押し込み装置23bが配置されており、各切削刃5を収納部4に収納した台座部材2を装着した支持軸1が、回転押し込み装置23bで左方の既設管路22の奥側へ押し込まれながら、収納部4から半径方向外方に押し出される各切削刃5によって、既設管路22の内壁を切削し、支持軸1が奥側へ進むにつれて延長ロッド24が逐次連結される。既設管路22の奥の閉空間25まで拡径が終了すると、支持軸1は手前側の右方に引き戻され、このときは、各切削刃5が収納部4に収納される。したがって、実施例3では、各切削刃5を既設管路22の奥側から回収することができる。
【0030】
また、上述した実施例1乃至3では、切削時に何らかのトラブルが発生しても、各切削刃5を収納部4に収納して台座部材2が装着された支持軸1を反対側へ引き戻すことができるので、容易にトラブルに対処することができる。
【0031】
図10および図11は、第3の実施形態を示す。この既設管路の拡径用切削工具は、基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり、図10に示すように、前記台座部材2の中の拡径部材1bの大径側の空間に、ホース12にスイベル13を介して接続された給水管14から圧力水が供給されるようになっている点が異なる。
【0032】
前記給水管14は、鍔10bにスライド可能に通されて台座部材2の中に挿入され、先端が拡径部材1bの大径側の大径段部11bに連結されており、給水管14の先端部に設けられた給水孔14aから、圧力水が拡径部材1bの大径側の空間に供給される。拡径部材1bの大径側の空間は、大径段部11bの外径面に装着されたシールリング15aと、鍔10bの内径面に装着されたシールリング15bによって水封されている。したがって、切削開始時に給水管14から圧力水を供給することにより、この圧力水の圧力によって台座部材2を拡径部1bの大径側へ移動させ、各切削刃5を徐々に外方へ押し出すことができ、回転する切削刃5を切削される管路内壁にスムーズに食い込ませることができる。
【0033】
また、前記拡径部材1bの大径側の空間は、各切削刃5の収納部4の底に設けられた通孔16と、当接部材6が嵌挿された貫通孔7を介して、拡径部材1bの小径側の空間と連通するとともに、台座部材2には、各切削刃5の切削時の移動方向前方側で、拡径部材1bの小径側の空間から外径面に開口する排水孔17が設けられている。拡径部材1bの小径側の空間は、大径段部11bの外径面に装着されたシールリング15aと、基部材1aの大径段部11aの外径面に装着されたシールリング15cによって水封されている。したがって、切削時に給水管14から台座部材2の中に圧力水を供給することにより、供給された圧力水を拡径部材1bの大径側の空間から通孔16と貫通孔7を通して拡径部材1bの小径側の空間に送り込み、送り込んだ圧力水を排水孔17から各切削刃5の移動方向前方側に噴出させて、切削用水として使用することができる。
【0034】
図11に示すように、前記支持軸1を切削前に既設管路の奥側へ左方に挿入するときは、給水管14からの圧力水の供給が止められ、第1の実施形態のものと同様に、台座部材2が管路内壁との摩擦抵抗によって支持軸1の右方へスライドし、鍔10bが拡径部材1bの大径段部11bに係止されて、拡径部材1bのテーパ部9aに当接する当接部材6がテーパ部9aの小径側と係合し、引張コイルばね8によって半径方向内方へ付勢された各切削刃5が収納部4に収納される。
【0035】
上述した第3の実施形態では、第1の実施形態のものと同様に、支持軸1を牽引して内壁を切削するものとしたが、図7に示した第2の実施形態のように、支持軸1を押し込んで内壁を切削するものとする場合は、圧力水を支持軸1の基部材1aが嵌挿された側から台座部材2の中の拡径部材1bの大径側の空間に供給することにより、切削開始時に圧力水の圧力によって台座部材2を拡径部1bの大径側へ移動させ、各切削刃5を徐々に外方へ押し出すことができる。
【0036】
上述した各実施形態では、別体の拡径部材を支持軸の基部材の先端に取り付けたが、別体の拡径部材を筒状のものとし、基部材の外径面に取り付けることもできる。また、拡径部材の拡径部をテーパ部と等径部で形成したが、この拡径部は外径が一方向へ単調増加するものであればよく、各実施形態のものに限定されることはない。
【0037】
さらに、上述した各実施形態では、切削刃の個数を6個とし、これらの各切削刃を引張コイルばねで半径方向内方へ付勢したが、例えば、各切削刃の基端部と収納部の開口部にばね座を設け、これらのばね座の間に圧縮コイルばね等のばね部材を装着することによって、各切削刃を半径方向内方へ付勢することもできる。また、切削刃の個数は6個に限定されることはない。
【符号の説明】
【0038】
1 支持軸
1a 基部材
1b 拡径部材
2 台座部材
3a すべりキー
3b キー溝
4 収納部
5 切削刃
5a チップ
6 当接部材
7 貫通孔
8 引張コイルばね
9a テーパ部
9b 等径部
10a、10b 鍔
11a、11b 大径段部
12 ホース
13 スイベル
14 給水管
14a 給水孔
15a、15b、15c シールリング
16 通孔
17 排水孔
21、21a、21b マンホール
22 既設管路
23a 回転牽引装置
23b 回転押し込み装置
24 延長ロッド
25 閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管路に挿入される支持軸の回りに複数の切削刃を放射状に配設し、この切削刃を配設した支持軸を回転駆動しながら既設管路の中を一方向へ移動させて、既設管路を拡径するように内壁を切削する既設管路の拡径用切削工具において、前記支持軸に筒状の台座部材を回り止めして軸方向へスライド可能に外嵌し、この台座部材に前記複数の各切削刃を半径方向へスライド可能に収納する外径側へ開口した複数の収納部を設けて、収納部に収納される各切削刃を半径方向内方へ付勢する手段と、各切削刃の基底側から前記台座部材の内径面に突出して前記支持軸の外径面に当接される当接部を設け、この当接部が当接される支持軸の部位に、外径が一方向へ単調増加する拡径部を設けて、切削時に前記支持軸を一方向へ移動させるときに、前記台座部材を前記拡径部の大径側へスライドさせ、前記各切削刃の当接部を前記拡径部の大径側に係合させて、前記収納部に収納された各切削刃の先端を半径方向外方へ押し出し、前記支持軸を切削時と逆方向へ移動させるときに、前記台座部材を前記拡径部の小径側へスライドさせ、前記各切削刃の当接部を前記拡径部の小径側に係合させて、前記各切削刃を前記収納部に収納するようにしたことを特徴とする既設管路の拡径用切削工具。
【請求項2】
前記支持軸の拡径部を、外径が直線的に増加するテーパ部とした請求項1に記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項3】
前記拡径部の大径側に外径が一定の等径部を設け、切削時に前記支持軸を一方向へ移動させるときに、前記各切削刃の当接部をこの等径部に係合させるようにした請求項1または2に記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項4】
前記支持軸の前記拡径部を設けた部位を別体の拡径部材で形成し、この別体の拡径部材を交換可能とした請求項1乃至3のいずれかに記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項5】
前記切削刃を半径方向内方へ付勢する手段を、前記当接部の周りに装着され、前記切削刃を半径方向内方へ引張付勢する引張コイルばねとした請求項1乃至4のいずれかに記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項6】
前記当接部を、前記収納部の底に設けた貫通孔に嵌挿され、前記切削刃の基底側に連結、または当接される別体の当接部材とした請求項1乃至5のいずれかに記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項7】
前記台座部材の中の前記拡径部の大径側の空間に圧力水を供給する手段を設け、この拡径部の大径側の空間に供給される圧力水の圧力によって、前記台座部材を前記拡径部の大径側へスライドさせるようにした請求項1乃至6のいずれかに記載の既設管路の拡径用切削工具。
【請求項8】
前記拡径部の大径側の空間に供給した圧力水を、前記切削時に支持軸を一方向へ移動させるときの前記各切削刃の移動方向前方側で、前記台座部材の外径側へ排出する手段を設けた請求項7に記載の既設管路の拡径用切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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