説明

既設管路の耐震止水構造

【課題】内周面にライニング層を形成して再生した既設管路に誘導目地を形成して耐震化させると共に、側面にライニング層の隙間が開放している場合でも水が隙間に浸透することを防ぐ。
【解決手段】既設管路Bの耐震止水構造Aであって、既設管路Bの内周面に形成され該既設管路Bを再生するライニング層2と、既設管路Bの内周面に全周にわたって形成されライニング層2を厚さ方向に横断すると共に管1の厚さ方向に形成した溝からなる誘導目地10と、誘導目地10の幅よりも大きい幅と可撓性を有し、誘導目地10を閉鎖する閉鎖部材12と、閉鎖部材12をライニング層2に押圧して支持する支持部材13と、を有し、誘導目地10の側面10a、10bに開放されたライニング層2の隙間を閉塞部材11、15によって閉塞する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周面に敷設方向に連続したライニング層を設けることで再生した既設管路の耐震止水構造に関し、特に、マンホールを含む地下構築物と既設管路との接続部に誘導目地を形成することで耐震化をはかり、且つ誘導目地に開放されたライニング層の隙間を閉塞することで止水性を確保した耐震止水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には、内部に高い圧力が作用することのない下水道用の管路や配線用の管路等、内部に高い圧力が作用する工業用水用の管路や農業用水用の管路等、の種々の管路が敷設されている。このような管路では、地震時や敷設部位に地盤沈下が生じたような場合、管路が屈折して連続して埋設された管どうしの間に水平方向への或いは屈曲による抜けだしを含むずれが生じたり、管にひび割れや剥離が生じることがある。そして、管のずれやひび割れが生じたとき、これらの部分を介して管路内へ地下水や土砂が浸透したり、樹木の根が入り込むなどの虞が生じる。また、管路が工業用水路や農業用水路のように高い圧力が作用している場合、流通している水がずれた部分やひび割れを介して地中に漏洩する。
【0003】
例えば、下水道を構成する管路は、地中にヒューム管を連続させて埋設することで構成されている。この管路には、地下構築物となる多数のマンホールが設置されされており、このマンホールの側壁にヒューム管の端部が接続されている。下水道管路は自然流下が基本であり水勾配を持って敷設され、マンホールは略垂直に設置される。このため、管路の軸方向とマンホールの軸方向は略直交することとなる。
【0004】
耐震性を考慮することなく敷設された管路の場合、該管路の端部はマンホールに対し強固に接続されている。このため、例えば、地盤沈下或いは地震時には、マンホールに接続されたヒューム管にマンホールから敷設方向(軸方向)に抜け出そうとする力や、マンホールとの接続部を起点として回転しようとする力が作用する。そして、前記各力はマンホールとヒューム管との接続部に集中して作用し、マンホール或いはヒューム管の接続部にひび割れや分断等の破壊が生じることがある。
【0005】
しかし、ひび割れが生じる位置は管理されることがなく、ひび割れが生じているか否かは、マンホールとヒューム管の接続部の周囲を探査しない限り、認識することができないという問題が生じている。この問題はヒューム管がマンホールに接続される接続部に限らず、ヒューム管がマンホール以外の地下構築物、例えば地下水槽等に接続される接続部でも生じている。即ち、このような問題は、管路を構成するヒューム管が、剛性の大きい地下構築物に対して接続されるような接続部や、管路の軸方向と交差して敷設された地下構築物に対して接続される接続部で生じている。
【0006】
このため、本件出願人は特許文献1に記載された技術を開発して提案している。この技術は、管路のマンホールへの接続部の内周面に誘導目地を形成し、該誘導目地を環状シート部材によって被覆すると共にスリーブによって押圧し、更に、被覆体によって固定したものである。この技術では管路に力が作用したときに生じるひび割れや損傷を誘導目地に誘導することができるため、管路内を探査することなく、ひび割れが生じる部位を特定することができる。また、誘導目地を環状シート部材によってシールすることができるため、ひび割れを介して誘導目地に浸入した地下水が管路内に浸透したり、管路内の流水が土壌に漏洩することがない。
【0007】
また、特許文献1の技術では、誘導目地に合成樹脂製の充填材やゴムリングからなる密閉部材を装填しておくことによって、該誘導目地にクラックが生じたとき、このクラックが生じた部位を密閉して水密性を確保すると共に、該部位を補修するように構成されている。
【0008】
一方、敷設後の管路には、経時的に内周面の劣化が生じる。このため、劣化した管路の内部に連続したライニング層を形成することで、劣化した内周面を被覆して再生することが行われている。劣化した管路の内周にライニング層を形成して再生する工法として、幅方向の両側に沿って嵌合部を設けた長尺状のライニング材を用いる工法、幅方向の両側に沿って嵌合部を設けた長尺状のライニング材と長尺状の嵌合部材とを用いる工法、管路の内径よりも小さい径を持った複数の円弧状のライニング材を用いる工法、可撓性を有するスリーブを用いる工法、等の工法を選択的に採用するのが一般的である。
【0009】
例えば、長尺状のライニング材を用いる工法の場合、このライニング材を螺旋状に巻いて幅方向の両側に設けた一方の嵌合部を他方の嵌合部に嵌合させつつ、一方のマンホールから他方のマンホールに向けて挿入する。そして、螺旋状に巻かれたライニング材を管路の内周面の下側に接触させ、この状態で管路の内周面とライニング材との間に裏込材を充填してライニング層を形成する。このライニング層は隣接するマンホールの間に連続して形成され、あたかも1本の管のように構成される。
【0010】
また、長尺状のライニング材と長尺状の嵌合部材を用いる工法の場合、ライニング材を螺旋状に隙間を設けて巻きつつ、この隙間に嵌合部材を配置して、ライニング材の幅方向の両側に設けた嵌合部と嵌合部材に設けた嵌合部とを嵌合させて連結しつつ、一方のマンホールから他方のマンホールに向けて挿入する。そして、螺旋状に巻かれたライニング材と嵌合部材を管路の内周面の下側に接触させ、この状態で管路の内周面とライニング材及び嵌合部材との間に裏込材を充填してライニング層を形成する。このライニング層は隣接するマンホールの間に連続して形成され、あたかも1本の管のように構成される。
【0011】
また、複数の円弧状のライニング材を用いる工法の場合、この円弧状のライニング材を円周方向に接続してボルト、ナットにより固定することで短い円筒を形成すると共に、この円筒を管路の延長方向に接続して複数の円弧状のライニング材からなる連続した管を形成する。前記官を管路の内周面の下側に接触させ、この状態で管路の内周面との間に裏込剤を充填してライニング層を形成する。
【0012】
また、可撓性を有するスリーブを用いる工法の場合、隣接する2つのマンホールの一方側から他方側に向けて熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含浸させた可撓性を有するスリーブを挿入する。その後、スリーブを膨張させて管路の内周面に接触又は接近させ、この状態を維持して加熱又は光を照射することでスリーブを硬化させてライニング層を形成する。このライニング層は隣接するマンホールの間に連続して形成され、隣接するマンホールがライニング層を構成する1本の管によって接続されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−144229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の技術では管路に於けるマンホールとの接続部の耐震化をはかることができる。しかし、この技術を内周にライニング層を形成した管路に適用しようとした場合、止水性の問題が生じることが判明した。即ち、予め誘導目地に装填された密閉部材は、誘導目地にクラックが生じたときに、このクラックが生じた部位を密閉して水密性を確保すると共に、該クラックが生じた部位を補修するものである。しかし、誘導目地にクラックが生じるのに伴って密閉部材にもクラックが形成され、或いは誘導目地の側壁から離脱し、該誘導目地に対する浸水を密閉部材で防ぐことは困難であるという問題が生じた。
【0015】
特に、特許文献1の技術では、管路を構成する管に厚さ方向に溝からなる誘導目地を形成することが必須であり、ライニング層を形成した管路に適用した場合、誘導目地はライニング層を切断することとなる。このため、誘導目地の側面には、ライニング層及び該ライニング層と管の内周面との継ぎ目が露出することとなり、ライニング層又は継ぎ目に隙間が生じているような場合、この隙間が水道となってライニング層に浸水する虞があるという問題が生じる。
【0016】
従来の、長尺状のライニング材を用いる工法、長尺状のライニング材と長尺状の嵌合部材を用いる工法、複数の円弧状のライニング材を用いる工法の場合、ライニング材の幅方向の端部どうし又はライニング材の幅方向の端部と嵌合部材の幅方向の端部が接続される。前記各工法では、ライニング材の幅方向の端部に嵌合部や接続部が形成されており、これらの嵌合部、接続部はライニング材の不連続部分となって管路の延長方向及び円周方向に構成される。更に、前記嵌合部、接続部はライニング材の接続方式(嵌合方式、突き当てボルト接合方式等)に応じた隙間が形成され、この隙間がライニング材の不連続部分に沿って構成されることになる。
【0017】
例えば、長尺状のライニング材を螺旋状に巻き付けて構成したライニング層の場合、ライニング材の幅方向両側に形成された嵌合部どうしを嵌合させたとき、両者の間に隙間が形成される。この隙間がリード角に対応した長さで斜めに誘導目地の側面に開放され、該誘導目地が浸水したとき、この水が開放された隙間から嵌合部に形成された隙間を通してライニング層の全長にわたって浸透する虞がある。
【0018】
また、上記ライニング材では、幅方向の一方の端部に全長にわたってフィン状の片を設けると共に他方の端部側にも全長にわたってフックを設け、螺旋状に巻き付ける際にフィン状の片をフックに係止させることで強固な嵌合を実現している。この構造では、ライニング層に、全長にわたって且つ上記嵌合部の隙間と隣接して、フィン状の片とフックとによって周囲が閉じられた筒状の空間が構成されることとなる。この空間には裏込材が充填されることがなく、ライニング層の隙間となって水道を構成する。従って、前記空間からなる隙間が誘導目地の側面に開放されることとなり、誘導目地が浸水したとき、この水が開放された隙間からライニング層の全長にわたって浸透する虞がある。
【0019】
また、長尺状のライニング材と長尺状の嵌合部材を用いたライニング層の場合、ライニング材と嵌合部材の嵌合部に隙間が構成され、この隙間が水道となる。また、嵌合部材の幅方向の略中央には、該嵌合部材の幅方向への伸縮を許容するために蛇腹状に形成された伸縮部が形成される。この伸縮部には裏込材が充填されることはなく、ライニング層の全長にわたって構成された空間として存在し、ライニング層の隙間となって水道を構成する。従って、前記空間からなる隙間が誘導目地の側面に開放されることとなり、該誘導目地が浸水したとき、この水が開放された隙間からライニング層の全長にわたって新郎する虞がある。
【0020】
更に、複数の円弧状のライニング材を円周方向及び軸方向に連続させて構成したライニング層の場合、円弧状のライニング材の円周方向、軸方向への接続部は不連続部分となり、この不連続部分に僅かな隙間が構成される。従って、円弧状のライニング材の不連続部分に構成された隙間が誘導目地の側面に開放されることとなり、誘導目地が浸水したとき、この水が開放された隙間からライニング層の全長にわたって浸透する虞がある。
【0021】
上記の如く、ライニング層がライニング材を接続して構成される場合、接続部には隙間を有する不連続部分が構成される。このため、前記不連続部分の隙間は必然的に誘導目所の側面に開放されることとなり、誘導目地が浸水したとき、開放された隙間を通って水がライニング層に浸透する虞が生じる。
【0022】
また、可撓性を有するスリーブを用いた工法を採用した場合、ライニング材の外周面と管路の内周面との間に裏込材を充填することはない。このため、両者の間に隙間が形成されていることがあり、この隙間が誘導目地の側面に露出した場合、誘導目地が浸水したとき、水が隙間を通してライニング層に浸透する虞がある。
【0023】
本発明の目的は、ライニング層或いはライニング層と管の内周面との間に形成された隙間が誘導目地の側面に開放しているような場合でも、誘導目地への浸水が隙間に浸透することがない既設管路の耐震止水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために本発明に係る既設管路の耐震止水構造は、地中に敷設された既設管路の耐震止水構造であって、既設管路の内周面に形成され該既設管路を再生するライニング層と、前記既設管路の所定位置に該既設管路の内周面に全周にわたって形成され前記ライニング層を厚さ方向に横断すると共に管の厚さ方向に形成した溝からなる誘導目地と、前記誘導目地の幅よりも大きい幅と可撓性を有し、前記誘導目地に対向して配置されて該誘導目地を閉鎖する閉鎖部材と、前記閉鎖部材を前記ライニング層に押圧して支持する支持部材と、を有し、前記誘導目地の側面に開放された前記ライニング層の隙間を閉塞部材によって閉塞することを特徴とするものである。
【0025】
上記既設管路の耐震止水構造に於いて、前記ライニング層が、既設管路の延長方向に沿ってライニング層の隙間を構成する不連続部分を有しており、前記誘導目地が前記ライニング層を横断して形成されることによって、前記不連続部分が該誘導目地の側面に開放されてライニング層の隙間を形成し、前記隙間に閉塞部材を充填することによって閉塞することが好ましい。
【0026】
また、上記既設管路の耐震止水構造に於いて、前記閉塞部材が、流動性を有し且つ経時的に硬化して止水性を発揮する流動性止水材であり、前記既設管路の延長方向に於ける前記誘導目地の近傍であって前記ライニング層のの隙間を構成する不連続部分に対応する位置にライニング層の内周面側から前記隙間に達する穴を形成し、該穴を通して流動性止水材を注入して、前記不連続部分が誘導目地の側面に開放されて形成されたライニング層の隙間を閉塞することが好ましい。
【0027】
更に、上記既設管路の耐震止水構造に於いて、前記ライニング層が、幅方向の両側に長手方向に沿って嵌合部を設けた長尺状のライニング材を、前記幅方向の一方側に設けた嵌合部を他方側に設けた嵌合部に嵌合させて又は長尺状の嵌合部材を介して嵌合させて螺旋状に既設管の内周面を被覆して構成されたものであることが好ましい。
【0028】
また上記何れかの既設管路の耐震止水構造に於いて、前記閉塞部材が、水の作用によって膨潤して止水性を発揮する止水材であり、該止水材を誘導目地に配置しておき、該誘導目地に水が浸透したときに膨潤して誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間を閉塞し得るように構成されていることが好ましい。
【0029】
尚、本発明に於いて、誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間とは、ライニング層自体に形成されている隙間のみに限定するものではなく、ライニング層と既設管路の内周面との間に形成されて誘導目地の側面に開放された隙間、ライニング層が複数のライニング材を積層して形成されているような場合にはライニング層間に形成されて誘導目地の側面に開放された隙間をも含むものである。更に、既設管路を構成する管の内周面に剥離が生じているような場合には、この剥離部分も含むものである。
【0030】
また、誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間を閉塞部材によって閉塞するとは、必ずしも誘導目地の側面に開放されているライニング層の隙間を直接閉塞部材によって閉塞することにのみ限定するものではない。即ち、前記隙間がライニング層に連続して形成されているものである場合、誘導目地の近傍で閉塞することによって該誘導目地からの浸水を防止し得るような構造をも含むものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る耐震止水構造では、内周にライニング層が形成されて再生された既設管路の耐震化をはかると共に止水性を確保することができる。誘導目地がライニング層を横断して管の厚さ方向に形成されることから、地盤沈下又は地震時に過大な力が作用したとき、この力が誘導目地に集中して管にひび割れを生じさせることで、既設管路の耐震化をはかることができる。また、誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間を閉塞部材によって閉塞することで、誘導目地が浸水した場合でも、この水が隙間を通って浸透することがない。
【0032】
本発明に於いて、ライニング層は、ライニング層の隙間を構成する不連続部分を有している。このため、不連続部分が誘導目地の側面に開放されて隙間を形成しても、隙間に閉塞部材を充填することによって閉塞することができる。従って、誘導目地が浸水しても水がライニング層に浸透することがない。
【0033】
特に、誘導目地の近傍に、水道となる虞のある隙間に到達する穴を形成し、この穴を介して嵌合部に流動性止水材を充填した場合には、誘導目地の幅寸法が小さくとも、確実に作業することができ、隙間に対する水の浸透を防ぐことができる。
【0034】
また、ライニング材の幅方向の両側に嵌合部が形成されており、このライニング材を螺旋状に巻きながら一方側に形成された嵌合部を他方側に形成された嵌合部に嵌合させて既設管路の内周面を被覆し、或いは幅方向の両側に嵌合部が形成されたライニング材を螺旋状に且つ幅方向に隙間を空けて巻きながら、この隙間に嵌合部材を配置すると共に該嵌合部材をライニング材の嵌合部に嵌合させて既設管路の内周面を被覆している。このため、誘導目地の側面には嵌合部の切断面、嵌合部に隣接した空間、嵌合部材に形成された空間等の隙間が露出して開放するが、この開放した隙間を閉塞部材によって閉塞することで、誘導目地が浸水した場合でも、この水が嵌合部を通って浸透することがない。
【0035】
閉塞部材が水の作用によって膨張して止水性を発揮する止水材である場合、誘導目地の内部に配置しておく作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施例に係る耐震止水構造の全体構成を説明する図である。
【図2】第1実施例に係る耐震止水構造の要部を説明する図である。
【図3】ライニング材に形成された嵌合凹部に係止突起が嵌合した状態を説明する図である。
【図4】誘導目地の側面に開放された隙間を模式的に説明する図であり、図2のIV矢視図である。
【図5】第2実施例に係る耐震止水構造の要部を模式的に説明する図である。
【図6】第3実施例に係る耐震止水構造の要部を模式的に説明する図である。
【図7】第4実施例に係る耐震止水構造の要部を模式的に説明する図である。
【図8】第5実施例に係る耐震止水構造を模式的に説明する図である。
【図9】第6実施例に係る耐震止水構造の要部を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の耐震止水構造の実施の形態について説明する。本発明に係る耐震止水構造は、地中に敷設された管路であって経時的な劣化を補修するために内周にライニング層が形成された既設管路を対象とし、この既設管路を耐震化すると共に止水性を付与するものである。
【0038】
即ち、既設管路の所定位置に誘導目地を形成して強度の低い部位を形成しておき、該既設管路に作用する力を誘導目地に集中させることで、他の部位に先駆けてひび割れ等を生じさせることによって、既設管路の非管理状態での破損を防ぐことが可能である。そして、既設管路に於ける特定の部位に破損を誘導することによって、他の部位の破損を防ぐことにより管路全体の耐震化をはかるものである。
【0039】
また、誘導目地に対向させて閉鎖部材を配置すると共にこの閉鎖部材を支持部材によってライニング層に押圧支持することで、該誘導目地を閉鎖することが可能である。そしてこのように誘導目地を閉鎖することによって、誘導目地に生じたひび割れを介して浸入した地下水の既設管路内への漏水を防ぎ、或いは既設管路内に流通する水の誘導目地への浸入を防ぐことが可能である。
【0040】
本発明に係る耐震止水構造では、誘導目地がライニング層を円周に沿って厚さ方向に分断して形成される。このため、誘導目地の側面に露出したライニング層自体が有する隙間、或いは管路を構成する管の内周面とライニング層との間に形成された隙間が水道となって、誘導目地が浸水したとき水が浸透する虞が生じる。従って、閉塞部材によって誘導目地に開放した隙間を直接又は間接的に閉塞することで、誘導目地が浸水しても、この水が水道を通って浸透することを防ぎ、これにより止水性を付与するものである。
【0041】
本発明に於いて、既設管路の用途は特に限定するものではなく、多数の管を連続させて地中に敷設した下水道用の管路や配線用の管路、或いは農業用水用の管路や工業用水用の管路等に適用することが可能である。特に、管路の端部がマンホールや処理施設等の地下構築物の直壁に接続されるような管路に好ましく適用することが可能である。
【0042】
また、既設管路を構成する管の構造や材質、及び管径も限定するものではなく、ヒューム管、陶管、コンクリート管等の管によって構成された既設管路であって、管径が約200mm〜3000mm程度の範囲の既設管路に適用することが可能である。
【0043】
既設管路の内周面に形成されて該既設管路を再生するライニング層の構造も特に限定するものではなく、既設管路の劣化した内周面を再生し得るものであれば良い。このようなライニング層としては、ライニング材を螺旋状に巻き付けて管状に構成すると共に既設管路の内部に設置し、管状のライニング材と既設管路の内周面との間に裏込材を充填して一体化させたものがある。また、複数の円弧状のライニング材を円周方向に接続して円筒状の管を形成し、この管を既設管路の延長方向に接続して該既設管路の内部に設置し、ライニング材と既設管路の内周面との間に裏込材を充填して一体化させたものもある。更に、可撓性を有するスリーブ状のライニング材を既設管路の内周面に接触させて硬化させたものもある。本発明は、前記何れのライニング層であっても適用することが可能である。
【0044】
特に、本発明の耐震止水構造は、ライニング層及び既設管路を構成する管を厚さ方向に切断したとき、切断面に隙間が開放される虞のある構造を持ったライニング層に好ましく適用することが可能である。このように、切断面に隙間が開放される虞のあるライニング層としては、自体に密閉することが困難な隙間を構成する不連続部分を有するライニング材を用いて構成したものがある。また、自体には隙間を有しないものの既設管路を構成する管の内周面との間に隙間が形成される虞のあるライニング材を用いて構成したものもある。
【0045】
誘導目地は、ライニング層を厚さ方向に横断して既設管路を構成する管の厚さ方向に形成された溝によって構成される。誘導目地を構成する溝の深さ(管の残存厚さ)は特に限定するものではなく、管の材質や直径等の条件に応じて適宜設定することが好ましい。
【0046】
例えば、既設管路を構成する管が鉄筋籠を有するヒューム管である場合、誘導目地の深さは縦筋の配筋部位よりも外周面側に設定されることが好ましい。このように、管の残存部分に鉄筋が存在しないことにより、誘導目地部に於ける管の強度を小さくして他の部位よりも確実にひび割れを生じさせることが可能となる。
【0047】
また、誘導目地の幅寸法及び形状も特に限定するものではなく、加工性を考慮して適宜設定することが好ましい。誘導目地の形状としては、断面が三角形や四角形を含む多角形状であって良い。
【0048】
既設管路に於ける誘導目地の形成位置は特に限定するものではないが、マンホールを含む地下構築物(以下代表して「マンホール」という)との接続部の近傍であることが好ましい。例えば、マンホールに接続された管であって、該管の端部から約500mm程度の位置に誘導目地を形成することが特に好ましい。
【0049】
即ち、既設管路は両端部に配置された管が隣接する2つのマンホールに夫々接続されることで構成される。マンホールの敷設方向と既設管路の敷設方向とは略直交するため、例えば地震時にマンホール及び既設管路に力が作用したとき、マンホールと既設管路との接続部には他の部位に比較して複雑な方向の力が作用することとなる。このため、マンホールとの接続部の近傍に誘導目地を形成しておくことによって、作用する力を確実に誘導目地に集中して該誘導目地にひび割れを生じさせることが可能となる。
【0050】
閉鎖部材は、誘導目地を閉鎖すると共に該誘導目地が浸水したとき、水の既設管路内への漏水を防ぐ機能を有する。このため、前記機能を発揮し得るものであれば採用することが可能であり、構造を特に限定するものではない。このような閉鎖部材としては、ゴム或いは可撓性を持った合成樹脂からなるライニング層の内径と略同じ径を有する円筒状の部材を用いることが可能である。
【0051】
例えば、誘導目地に生じたひび割れを起点として管が軸方向にずれることがある。閉鎖部材は、このように管に軸方向のずれが生じた場合でも、このずれを許容し得る程度の幅寸法を有することが好ましい。
【0052】
支持部材は、閉鎖部材をライニング層に押圧して支持する機能を有する。このため、前記機能を発揮し得るものであれば採用することが可能であり、構造を特に限定するものではない。このような支持部材としては、閉鎖部材の幅寸法と略等しいか或いは大きい幅を持ち且つ径が変化し得るように構成されたスリーブ状の部材を用いることが可能である。そして、閉鎖部材の内周面に前記スリーブ状の部材を配置し、該スリーブ状の部材の径を拡大させて閉鎖部材をライニング層に押圧することで支持することが可能である。
【0053】
特に、上記した閉鎖部材及び支持部材として、本件出願人が特許出願した特開2003−130282号公報に記載された補修用被覆体を好ましく用いることが可能である。
【0054】
閉塞部材は、誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間を閉塞する機能を有するものであり、この機能を発揮し得るものであれば用いることが可能である。このように、隙間を閉塞する機能を発揮し得るものとしては、初期状態では流動性を有し経時的に硬化する流動性止水材(以下「シール材」という)や、水の作用により膨潤して隙間を閉塞する止水材(以下「止水材」という)がある。そして、誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間の形状や性質に対応させて、前記シール材や止水材を夫々単独で、或いは併用して用いることが可能である。
【0055】
本発明に於いて、シール材としては、初期状態で流動性を有し経時的に硬化して隙間を閉塞し、これにより水の浸透を防ぐことが可能であれば良く、流動性を有する初期状態から硬化するまでの時間の長短を問うものではない。このようなシール材としては、一液型のシール材や二液型のシール材、初期状態で流動性を有し経時的に硬化する過程で発泡・体積膨張する発泡モルタルや発泡ウレタン等のシール材があり、これらのシール材を選択的に用いることが可能である。
【0056】
また止水材としては、水の作用により膨潤して止水性を発揮し得るものであれば良い。このような止水材としては、膨潤ゴム等の止水材があり、これらを選択的に採用することが可能である。
【0057】
誘導目地の側面に開放されるライニング層の隙間の形状や性質は、該ライニング層を構成するライニング材の形状や工法に応じて異なる。例えば、幅方向の両側に嵌合部を形成した長尺状のライニング材を用いたライニング層では、嵌合部が不連続部分となり、該嵌合部には、嵌合を容易とし且つ嵌合させた状態で螺旋状に巻き付けるために必然的に隙間が形成される。そして、ライニング材と既設管路の内周面との間に裏込材を充填したとき、充填された裏込材が前記隙間に入り込むことはなく、隙間の状態が保持される。
【0058】
上記ライニング材は既設管路の内周面に対し螺旋状に巻き付けられるため、巻き付けられたライニング材は既設管路に対しリード角を有することとなる。一方、誘導目地は既設管路の軸芯に対し直交方向に形成されるため、ライニング材は誘導目地に対しリード角を持って交差することとなり、該誘導目地の側面に嵌合部が円弧状に露出することとなる。このため、嵌合部に形成されている隙間が誘導目地の側面に開放されることとなり、この隙間はライニング層の全長にわたって連続した水道となる。
【0059】
また長尺状のライニング材を用いて形成したライニング層は、ライニング材と既設管路の内周面との間に全長にわたってモルタル等の裏込材が充填される。このとき、螺旋状に巻かれて嵌合したライニング材の断面形状によっては裏込材が充填されることなく、連続した隙間となる筒状の空間が形成されることがある。
【0060】
例えば、上記ライニング材では、嵌合部の嵌合を強固にするために、幅方向の一方の端部に設けたフィンと他方の端部側に設けたフックとを係合させている。この場合、フィンとフックとの係合により隙間となる筒状の空間が形成され、この隙間が誘導目地の側面に開放され、ライニング層の水道となる。このように、ライニング材の形状に応じて、嵌合部に於ける隙間よりも大きい面積を持った隙間が形成され、この隙間がライニング層の全長にわたる水道を構成することがある。
【0061】
また、ライニング材が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含浸した可撓性を有するスリーブである場合、このライニング材は既設管路の内周面に接触した状態で硬化する。しかし、ライニング材が既設管路の内周面に密着していることを保証し得るものではなく、両者の間に連続した、又は不連続な隙間が生じることがある。この場合、誘導目地の側面には、既設管路の内周面とライニング材との間に断続的な隙間が開放されることとなり、この隙間がライニング層の水道を構成する虞が生じる。
【0062】
従って、閉塞部材としては上記の如き誘導目地の側面に開放した隙間を確実に閉塞し得ることが必要であり、該閉塞部材によって隙間を閉塞することで、誘導目地に浸水したとしても、この水がライニング層の内部に浸透することを防ぐことが可能である。
【0063】
例えば、閉塞部材としてシール材を用いる場合、誘導目地の側面に開放された隙間に直接充填することが可能である。また、ライニング層に於ける誘導目地から既設管路の敷設方向に離隔した位置であって前記側面に開放された隙間に連続した隙間が形成されている位置に、該隙間に通じる穴を形成し、この穴を介してシール材を充填することで、誘導目地の側面に開放された隙間を間接的に閉塞することも可能である。
【0064】
特に、裏込材が充填されることなく連続した隙間となる筒状の空間が形成されているような場合には、上記隙間に通じる穴に加えて、前記空間に通じる穴も形成し、この穴を介してシール材を隙間及び空間に充填することで、誘導目地の側面に開放された隙間を間接的に閉塞することも可能である。
【0065】
また、閉塞部材として止水材を用いる場合、この止水材を誘導目地の内外径に対応した寸法を有するリング状に形成しておき、この止水材を誘導目地に配置しておくことで、該誘導目地が浸水したとき、この水の作用によって止水材が膨潤して側面に開放された隙間を閉塞することが可能である。
【実施例1】
【0066】
本発明に係る耐震止水構造の第1実施例について図1〜図4により説明する。図1に示すように、耐震止水構造Aは、既設管路BのマンホールCとの接続部位の近傍に構成されている。特に、耐震止水構造Aは隣接するマンホールCを接続して敷設された既設管路Bの両端部に設けられており、地盤沈下の際に作用する力や地震時に作用する力に応じてひび割れを生じさせると共に該ひび割れを通して浸入した地下水が浸透することがないように構成されている。
【0067】
本実施例に於いて、既設管路Bは、既設管路Bを構成する管1と、既設管路Bの内周面にライニング材3を螺旋状に巻き付けて形成されたライニング層2と、を有して構成されている。前記管1はヒューム管によって構成されており、複数の管1を長手方向に連続させて接続することで、既設管路Bが構成されている。
【0068】
ライニング層2を構成するライニング材3は、予め設定された幅寸法を有する長尺状の部材として構成されている。ライニング材3の幅方向の一方側に嵌合部を構成する係止突起3aが、他方側に嵌合部を構成し前記係止突起3aを嵌合する嵌合凹部3bが、夫々長手方向に沿って形成されている。また、嵌合凹部3b及び該嵌合凹部3bと係止突起3aとの間には、先端に管1の内周面と当接する当接片3dを設けた複数のリブ3cが形成されている。更に、嵌合凹部3bの自由端側には当接片3d方向に屈折し、係止突起3aに隣接したリブ3cと当接片3dとによって構成されたフックに係合するフィン3fが形成されている。
【0069】
嵌合凹部3bは、係止突起3aを容易に嵌合し得るように且つ嵌合した状態で容易に螺旋状に巻き付け得るように、係止突起3aの寸法よりも大きい寸法を持って形成されている。このため、嵌合凹部3bに係止突起3aを嵌合したとき、両者の間に隙間4が形成される。従って、前記隙間4はライニング層2の全長にわたって形成されることになる。
【0070】
そして、係止突起3aを嵌合凹部3bに嵌合させると共に、フィン3fを係止突起3aに隣接したリブ3cと当接片3dとによって構成されたフックに係合させることで係止突起3aと嵌合凹部3bの嵌合状態を保持しつつ、ライニング材3を螺旋状に巻き付けることで既設管路Bの内周面を被覆している。このため、リブ3cとフィン3fとによって略三角形状の空間がライニング層2の全長にわたって形成され、この空間が隙間4を構成することとなる。
【0071】
上記の如くして既設管路Bの内周面を被覆したライニング材3の巻き付け角度(螺旋のリード角)は、ライニング材3の幅寸法や管1の内径に応じて変化するが、約5°〜約15°程度の範囲内である。しかし、前記角度の範囲を超えても良いことは当然である。
【0072】
ライニング材3を螺旋状に巻き付けて管状に構成したとき、施工上、この外径(当接片3dを含む径)は管1の内径よりも小さいのが一般的である。このため、前記螺旋状に巻き付けたライニング材3を既設管路B内に設置すると、該ライニング材3の下側にあるリブ3cの当接片3dが管1の下側の内周面と接触し、両側及び上部の当接片3dは管1の内周面から離隔する。このため、ライニング材3と管1の内周面との間に間隙が形成される。そして、前記間隙にモルタル等の裏込材5を充填することで、ライニング層2が構成されている。
【0073】
上記の如く構成されたライニング層2では、内周面にライニング材3に形成された係止突起3a側の端縁3eが螺旋状に露出している。前記端縁3eは、ライニング3の係止突起3aが設けられている端部側の縁である。このため、嵌合凹部3bに係止突起3aを嵌合したときに両者の間に形成された隙間4、及びリブ3cとフィン3fとによって形成された筒状の空間からなる隙間4が端縁3eにつながる虞がある。そして、前記各隙間4に水が浸透した場合、この水が端縁3eを伝って既設管路B内に漏水する虞が生じる。
【0074】
ライニング層2を厚さ方向に横断すると共に管1の厚さ方向に、対向する両側面10a、10bと底面10cとからなる断面が長方形の誘導目地10が形成されている。本実施例に於いて、誘導目地10の幅寸法は5mm〜10mm程度であり、管1に於ける底面10cの直径は該管1に配筋されている縦筋を切断し得る寸法に設定されている。従って、誘導目地10の形成に伴う管1の残存厚さは、該管1に於ける縦筋の埋設位置に対応することになる。
【0075】
誘導目地10がライニング層2を横断して形成されるため、該誘導目地10の側面10a、10bにはライニング層2を構成するライニング材3、裏込材5、管1が連続して露出する。特に、ライニング材3が管1の内周面に螺旋状に巻き付けられていることから、該ライニング材3は誘導目地10に対し斜めに交叉することとなる。
【0076】
このため、誘導目地10の側面10a、10bには、嵌合凹部3bと係止突起3aとの間に形成された隙間4、及びリブ3cとフィン3fとによって形成された隙間4が夫々開放される。誘導目地10の側面10a、10bに開放された各隙間4は、閉塞部材となるシール材11によって閉塞されており、これにより、誘導目地10が浸水した場合であっても、この水が各隙間4を通してライニング層2に浸透することを防いでいる。
【0077】
本実施例に於いて、シール材11によって誘導目地10の側面10a、10bに開放された各隙間4を閉塞する際の施工方法については特に限定するものではなく、例えば、へらを用いてシール材11を各隙間4に塗り付けることで浸透させて閉塞することが可能である。また、誘導目地10の内部に流動性を有するシール材11を充填する充填器を挿入し、この充填器によって誘導目地10の内部を充填することで、側面10a、10bに開放された各隙間4に対してシール材11を充填することも可能である。このようなシール材11による側面10a、10bに開放された各隙間4を閉塞する作業は、誘導目地10の幅寸法や各隙間4の大きさ等の条件に応じて適宜選択して行うことが好ましい。
【0078】
特に、誘導目地10の幅寸法が小さい場合、シール材11を誘導目地10の内部に加圧充填することで各隙間4を閉塞するのが有利である。この場合、誘導目地10の既設管路B内への開放部分を治具によって塞いでおき、この状態で、例えば圧力ガン等の加圧充填具によってシール材11を充填することで、該シール材11を各隙間4に充填して閉塞することが可能である。また、シール材11として多少膨張性を有するものを用いた場合、該シール材11を誘導目地10に充填させると同時に膨張が開始され、この膨張の際の圧力によってシール材11が各隙間4に浸透することとなり、確実な閉塞を実現することが可能となる。
【0079】
誘導目地10には閉鎖部材12が対向して配置されており、該閉鎖部材12は支持部材13によってライニング層2に押圧されて支持されている。そして、この構成により、誘導目地10は閉鎖され、誘導目地10に地下水が浸入し、該誘導目地10の内部が地下水圧と等しい圧になった場合でも、既設管路Bの内部に漏水することがない。
【0080】
閉鎖部材12は誘導目地10の幅寸法よりも充分に大きい幅寸法(例えば300mm)を有しており、誘導目地10に対向させて配置する際に多少の位置ずれを許容し得るように構成されている。このため、誘導目地10にひび割れが生じ、この誘導目地10を起点として管1が軸方向にずれた場合でも、この管1のずれを許容することが可能である。
【0081】
また閉鎖部材12は可撓性を有するゴム或いは合成樹脂からなるスリーブ状に形成されており、外周面に於ける幅方向の両端部分に夫々複数の突条12aが形成されている。そして、突条12aをライニング層2の内周面に当接させて押圧したとき、該突条12aが変形して誘導目地10を確実に閉鎖することが可能である。
【0082】
支持部材13は複数の円弧状の部品を円周方向に移動可能に接続して構成されており、閉鎖部材12の内周面側に配置して各円弧状の部品を移動させて拡径することで、閉鎖部材12をライニング層2に押圧し得るように構成されている。そして、閉鎖部材12をライニング層2に押圧した後、各円弧状の部品を夫々の位置で互いに固定することで、ライニング層2に押圧させた閉鎖部材12を支持し得るように構成されている。
【0083】
本実施例に於いて、閉鎖部材12、支持部材13として、特開2003−130282号公報に記載された補修用被覆体を用いている。
【0084】
上記の如く構成された耐震止水構造Aでは、既設管路B、マンホールCに力が作用し、この力によって誘導目地10にひび割れが生じたとき、このひび割れによって既設管路BとマンホールCとが分離する。このようなひび割れが生じた後、既設管路B、マンホールCに力が作用したとき、既設管路B、マンホールCは互い独立して挙動し、互いの影響を大きく受けることがない。このため、耐震化性能が向上することになる。
【0085】
また、誘導目地10に形成されたひび割れを通して該誘導目地10に地下水が浸透したとき、誘導目地10の側面に開放した各隙間4がシール材11によって閉塞されているため、地下水がライニング層2に浸透することがない。また、誘導目地10には閉鎖部材12が対向すると共に支持部材13によって支持されているため、該誘導目地10から既設管路Bの内部に漏水することもない。従って、確実に漏水を防ぐことが可能となり、止水性が向上することになる。
【実施例2】
【0086】
次に、第2実施例に係る耐震止水構造Aについて、図5及び図3、4により説明する。本実施例は、前述の第1実施例ではシール材11を誘導目地10の側面10a、10bから、該側面10a、10bに開放された各隙間4に充填したのに対し、ライニング層2の内周面側から充填したものである。
【0087】
ライニング層2の、誘導目地10の側面10a、10bから離隔した位置であってライニング材3の係止突起3aに対応する位置に、夫々嵌合凹部3bに形成された隙間4、及び係止突起3aに隣接したリブ3cとフィン3fによって形成された隙間4を貫通する穴17が形成されている。この穴17の径は特に限定するものではないが、一度の加工で前記各隙間に到達し得る径であることが好ましい。ライニング層2に前記穴17を形成することによって、係止突起3aを嵌合凹部3bに嵌合したときに両者の間に形成された隙間4、及びブ3cとフィン3fによって形成された隙間4は穴17を介して既設管路Bの内部と連通することになる。
【0088】
穴17は、嵌合凹部3bに形成された隙間4、及び係止突起3aに隣接したリブ3cとフィン3fによって形成された隙間4を貫通して形成されている。このため、穴17から充填されたシール材11は前記各隙間4に確実に充填され、他の部位に漏洩することがない。また、ライニング層2に穴17を形成する場合、ライニング材3の端縁3eと係止突起3aとの位置関係が一定であるため、露出している端縁3eを基準として寸法を測り出すことで、確実に各隙間4の位置を把握することが可能である。
【0089】
そして、ライニング層2に形成された穴17に充填器のノズルを挿入して操作して、該穴17に連通した各隙間4にシール材11を充填することで、充填されたシール材11は各隙間4を通ってライニング層2の延長方向に流動し、夫々の隙間4を閉塞する。このとき、誘導目地10の側面10a、10bに開放した各隙間4が直接閉塞される保証はないが、既設管路Bに沿って連続する各隙間4が穴17の形成位置で閉塞されるため、実質的に閉塞されたこととなる。
【0090】
尚、穴17の数は限定するものではなく、誘導目地10を形成したとき、該ライニング材10と交差するライニング材3の端縁3e毎に形成される。また穴17の位置も限定するものではなく、図5に示すように、一方の穴17(点線で示す)と他方の穴17(二点鎖線で示す)のように、ライニング材3の直径方向の略対象位置に形成されることもある。また、誘導目地10と穴17との離隔寸法は特に限定するものではない。例えば、図5に示すように、穴17を閉鎖部材12の幅方向両端部に形成した突条12aの間に配置し得るように、これらの穴17を誘導目地10に接近させて形成することが可能である。この場合、誘導目地10に閉鎖部材12を対向させる工程よりも前に、穴17の形成及びシール材11を充填を行う必要がある。
【0091】
また、穴17を閉鎖部材12よりも外側に配置し得るように、誘導目地10から閉鎖部材12の幅寸法の1/2の寸法よりも離隔した位置に形成することも可能である。この場合、穴17の形成、シール材11の充填を、誘導目地10に閉鎖部材12を対向させて支持部材13によって支持する工程と独立して行うことが可能となり、工程順位の自由度を高くすることが可能である。
【0092】
上記の如く構成された本実施例の耐震止水構造では、ライニング層2に穴17を形成してシール材11を充填することから、第1実施例と比較して作業工程が増えるものの、誘導目地10の幅寸法の影響を受けることがない。このため、該誘導目地10の幅寸法が小さいような場合でも作業することが可能であり、誘導目地10の側面10a、10bに開放した各隙間4を確実に閉塞することが可能である。
【実施例3】
【0093】
次に第3実施例に係る耐震止水構造について図6により説明する。本実施例は、前述の第1、第2実施例がシール材11によって隙間4を閉塞するのに対し、止水材15を用いる点で異なるものである。従って、図6に於いて、前述の各実施例と同一の部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0094】
図6に示すように、誘導目地10にリング状に形成された1枚或いは複数枚の止水材15が配置されている。止水材15は、水が作用したときに膨潤して誘導目地10の側面10a、10bに開放した隙間4を閉塞するものである。このため、止水材15は膨潤したときに前記機能を有効に発揮し得るような寸法を有している。
【0095】
止水材15は、誘導目地10に配置された後、自由状態であっても良いが、接着剤を用いて側面10a、10bに固定しておくことが好ましい。このように止水材15を側面10a、10bに固定しておくことによって、誘導目地10が浸水したとき、止水材15の膨潤起点を設定することが可能となる。
【0096】
上記の如く構成された耐震止水構造であっても、誘導目地10が浸水したとき、この水の作用により膨潤して側面10a、10bに開放された隙間4に入り込み、これにより、前記隙間4を閉塞することが可能である。
【実施例4】
【0097】
図7は、螺旋状に巻き付けて構成したライニング層2の他の例を説明する図である。図に於いて、ライニング層2は、ライニング材7と嵌合部材8とを有し、これらを螺旋状に巻き付けて管状に形成することで、既設管路Bの内周面を被覆している。
【0098】
ライニング材7は、幅方向の両側に嵌合部を構成する嵌合凹部7bが形成されている。またライニング材7の所定位置には、ライニング材3と同様に、リブ7cと、このリブ7cの先端に当接片7dが形成されている。
【0099】
嵌合部材8は、幅方向の両側にライニング材7に設けた嵌合凹部7bと嵌合する係止突起8aが長手方向に沿って形成されている。また幅方向の略中央はΩ状の連結片8cによって連結され、該連結片8cのΩ形状からなる溝8bが形成されている。また連結片8cの外側には、保護片8dが設けられている。この嵌合部材8では、連結片8cによって溝8bが形成されることで、嵌合部材8の折り曲げや幅方向への伸縮が可能なように構成されている。
【0100】
上記の如く構成されたライニング材7の幅方向の一方側に設けた嵌合凹部7bに嵌合部材8の一方側に設けた係止突起8aを嵌合させ、これらを螺旋状に巻きつつライニング材7の幅方向他方側に設けた嵌合凹部7bに嵌合部材8の係止突起8aを嵌合させることで既設管路Bの内周面を被覆している。そして、ライニング材7、嵌合部材8と管1の内周面との間に形成された空間にモルタル等の裏込材5を充填することで、ライニング層2が構成されている。
【0101】
上記の如く構成されたライニング層2では、嵌合凹部7b及び溝8b、更に、嵌合部材8の連結片8cと保護片8dとの間に夫々隙間4が形成されることとなり、これらの隙間4が誘導目地の側面に開放される。そして、前記各隙間4は、シール材11が充填されることで閉塞され、或いは止水材15によって閉塞されており、誘導目地10が浸水したときでも、この水が各隙間4に浸透することがない。
【実施例5】
【0102】
次に、第5実施例に係る耐震止水構造について図8により説明する。本実施例はライニング層2が複数の円弧状のライニング材20を円周方向に接続して円筒構成し、この円筒を既設管路Bの延長方向に接続して設置することで、該既設管路Bの内周面を被覆するものである。そして、ライニング材20からなる管と既設管路Bの内周面との間に裏込材5を充填することでライニング層2が構成されている。
【0103】
このように構成されたライニング層2では、各円弧状のライニング材20どうしの接続部分が隙間4を有する不連続部分となり、この隙間4が誘導目地10の側面10a、10bに開放され、ライニング層2の水道になる。
【0104】
本実施例では、円弧状のライニング材20の接続部分を横断する誘導目地10の近傍であって、該誘導目地10の両側に夫々ライニング材20を貫通して裏込材5に到達する穴17を形成し、これらの穴17からシール材11を充填することで、ライニング材20の接続部分に形成された隙間4を閉塞している。従って、誘導目地10が浸水しても、この水がライニング材20どうしの接続部分を通ってライニング層2の内部に浸透したり、既設管路Bの内部に漏水することがない。
【実施例6】
【0105】
次に第6実施例に係る耐震止水構造について図9により説明する。本実施例はライニング層2が、自体に隙間を有することのないスリーブ状のライニング材9によって構成されている。
【0106】
図9に示すライニング層2は、熱硬化性樹脂或いは光硬化性樹脂を含浸させた可撓性を有するスリーブを管1の内周面に接触させた状態で硬化させたライニング材9によって構成されている。即ち、前記スリーブを隣接する2つのマンホールの一方側から既設管路Bの内部に挿入して、端部を他方側のマンホールに到達させることで配置する。その後、スリーブの内部に空気を吹き込んで膨張させることで既設管路Bの内周面に接触させ、この状態を保持してスリーブを加熱し、或いは光を照射して硬化させることでライニング層2を形成している。
【0107】
上記ライニング層2は、隣接する2つのマンホールを硬化したライニング材9からなる1本の管によって接続したように構成されている。このライニング層2では、可撓性を有するスリーブを膨張させて既設管路Bを構成する管1の内周面に接触させるものの、該スリーブが硬化したライニング材9と管1とが密着することを保証し得るものではない。
【0108】
このため、ライニング材9と管1の内周面との間には、形状や寸法を管理し得ない隙間4が存在することになる。このような隙間4は、既設管路Bの全長にわたって形成される虞もあり、また気泡のように単発的に形成されるものもある。従って、ライニング層2を横断して管1に誘導目地10を形成したとき、側面10a、10bに隙間4が開放されることになる。
【0109】
上記の如く、本実施例では誘導目地10の側面10a、10bに開放される隙間4は、ライニング材9と管1との境界である円周面に形成されることが特定されるものの、該円周面に於ける位置や大きさは全く管理されていない。このため、誘導目地10にシール材11を充填することによって、充填されたシール材11で側面10a、10bに開放された隙間4を閉塞することが可能である。
【0110】
特に、シール材としては、初期状態で流動性を有し経時的に硬化する性質を有するものであって、発泡性を有するものであることが好ましい。このようなシール材を用いることで、誘導目地10に充填された後、シール材が体積膨張する過程で生じた圧力の作用によって側面10a、10bに開放された隙間4に充填され、これにより、隙間4を閉塞することが可能となる。
【0111】
しかし、発泡性を有するシール材の場合、誘導目地10にひび割れが生じて管1が軸方向にずれた場合、管1のずれに伴ってシール材が一方の面から剥離することがある。このため、誘導目地10内に同図に一点鎖線で示す仕切材26を配置しておくことで、充填されたシール材を分離し得るようにしておくことが好ましい。
【0112】
即ち、仕切材26を装着した充填治具25(二点鎖線で示す)によって誘導目地10の既設管路B内への開放部分を塞ぐと共に仕切材26を誘導目地10の略中央部分に配置する。この充填治具25によって誘導目地10を塞いだ状態で、該充填治具25に設けた図示しない穴から仕切材36の両側にシール材を充填する。充填されたシール材は、誘導部材10が塞がれた状態で発泡するため、発泡時の圧力によってシール材の一部が誘導目地10の側面10a、10bに開放された隙間4に入り込み、該隙間4を閉塞して硬化する。
【0113】
そして、地震時等に於いて、誘導目地10にひび割れが生じ、これに伴って管1が軸方向にずれたとき、硬化したシール材は仕切材26を起点として分離し、夫々側面10a、10bに付着した状態を保持する。従って、側面10a、10bに開放された隙間4はシール材による閉塞状態を保持し、水がライニング層2に浸透することがない。
【0114】
上記各実施例に於いて、誘導目地10の側面10a、10bに開放された隙間4を閉塞するために、初期状態で流動性を有し経時的に硬化するシール材11、又は水が作用したときに膨潤する止水材15を用いた場合について説明した。しかし、シール材として、初期状態で流動性を有し経時的に硬化する性質を有するものであって且つ発泡性を有し、更に水の作用によって膨潤性を有するものであると、特に好ましい。このようなシール材を用いることで、前記隙間4を確実に閉塞することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る耐震止水構造は、既に地中に敷設されて長期間が経過した下水道管路や、配線用の管路に利用して有利である。
【符号の説明】
【0116】
A 耐震止水構造
B 既設管路
C マンホール
1 管
2 ライニング層
3 ライニング材
3a 係止突起
3b 嵌合凹部
3c リブ
3d 当接片
3e 端縁
4 隙間
5 裏込材
7 ライニング材
7b 嵌合凹部
7c リブ
7d 当接片
7e 端縁
8 嵌合部材
8a 係止突起
8b 溝
8c 連結片
8d 保護片
9 ライニング材
10 誘導目地
10a、10b 側面
10c 底面
11 シール材
12 閉鎖部材
12a 突条
13 支持部材
15 止水材
17 穴
20 ライニング材
25 充填治具
26 仕切材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に敷設された既設管路の耐震止水構造であって、
既設管路の内周面に形成され該既設管路を再生するライニング層と、
前記既設管路の所定位置に該既設管路の内周面に全周にわたって形成され前記ライニング層を厚さ方向に横断すると共に管の厚さ方向に形成した溝からなる誘導目地と、
前記誘導目地の幅よりも大きい幅と可撓性を有し、前記誘導目地に対向して配置されて該誘導目地を閉鎖する閉鎖部材と、
前記閉鎖部材を前記ライニング層に押圧して支持する支持部材と、
を有し、
前記誘導目地の側面に開放された前記ライニング層の隙間を閉塞部材によって閉塞することを特徴とする既設管路の耐震止水構造。
【請求項2】
前記ライニング層が、既設管路の延長方向に沿ってライニング層の隙間を構成する不連続部分を有しており、前記誘導目地が前記ライニング層を横断して形成されることによって、前記不連続部分が該誘導目地の側面に開放されてライニング層の隙間を形成し、前記隙間に閉塞部材を充填することによって閉塞することを特徴とする請求項1に記載した既設管路の耐震止水構造。
【請求項3】
前記閉塞部材が、流動性を有し且つ経時的に硬化して止水性を発揮する流動性止水材であり、前記既設管路の延長方向に於ける前記誘導目地の近傍であって前記ライニング層のの隙間を構成する不連続部分に対応する位置にライニング層の内周面側から前記隙間に達する穴を形成し、該穴を通して流動性止水材を注入して、前記不連続部分が誘導目地の側面に開放されて形成されたライニング層の隙間を閉塞することを特徴とする請求項2に記載した既設管路の耐震止水構造。
【請求項4】
前記ライニング層が、幅方向の両側に長手方向に沿って嵌合部を設けた長尺状のライニング材を、前記幅方向の一方側に設けた嵌合部を他方側に設けた嵌合部に嵌合させて又は長尺状の嵌合部材を介して嵌合させて螺旋状に既設管の内周面を被覆して構成されたものであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載した既設管路の耐震止水構造。
【請求項5】
前記閉塞部材が、水の作用によって膨潤して止水性を発揮する止水材であり、該止水材を誘導目地に配置しておき、該誘導目地に水が浸透したときに膨潤して誘導目地の側面に開放されたライニング層の隙間を閉塞し得るように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した既設管路の耐震止水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−285760(P2010−285760A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138529(P2009−138529)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】