説明

既設遮水シートの改修方法と仲介接合用遮水シート

【課題】ポリエチレン製遮水シートを既設の塩化ビニール製遮水シートに接合する既設遮水シートの改修方法と、これに用いる仲介接合用遮水シートを提供する。
【解決手段】既設遮水シートSSを原地盤Gの一部に残存させて除去する工程、塩化ビニール製の第1の遮水シート20とポリエチレン製の第2の遮水シート30の端縁部どうしが重複接合部に形成され、重複接合部において露出しているいずれか一方の遮水シートの端縁部分を含む所要範囲を被覆するシリコーン製のシート50が接着された仲介接合用遮水シート10の第1の遮水シートの端縁部22を、既存遮水シートSSの端縁部に圧着接合する工程、仲介接合用遮水シート10の第2の遮水シートの端縁部32に改修用ポリエチレン製遮水シートSSの端縁部を圧着接合して改修用ポリエチレン製遮水シートPSを原地盤G上に敷設する工程と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設遮水シートの改修方法と仲介接合用遮水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムや貯水池、産業廃棄物処分場等のいわゆる貯留部においては、原地盤への透水を防ぐために遮水シートと呼ばれる合成樹脂製の非透水性シートが敷設されている。このような遮水シートは長期間にわたって原地盤への透水を防ぐことが可能ではあるものの、所定期間ごとに改修をする必要がある。
現在改修時期を迎えている合成樹脂製の遮水シートは、塩化ビニール製の遮水シートであることが多いが、近年ではより高性能な遮水シートとしてポリエチレン製遮水シートが広く用いられているため、改修用の遮水シートとしても、ポリエチレン製遮水シートが採用されている。しかしながら、ポリエチレンは塩化ビニールとの接着が困難であり、極めて作業能率が低く、接合部分における遮水信頼性や施工コストの面で不都合が多かった。
【0003】
ところで、既設の遮水シートの敷設方法としてはいくつかの先行技術(例えば、特許文献1,2)が提案されている。しかしながらいずれにおいても、接合すべき遮水シートは同素材により製造されたものであり、異なる素材により製造された遮水シートどうしを接合する技術については何も開示されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】公開特許公報 特開平08−229530号
【特許文献2】公開特許公報 特開平09−210836号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、現在広く用いられているポリエチレン製遮水シートを、既設の塩化ビニール製遮水シートに接合する際に、接合現場で迅速かつ確実に接合処理を行うことが可能な既設遮水シートの改修方法とこの改修方法に用いて好適な仲介接合用遮水シートの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意研究を行った結果、以下の構成に想到した。
すなわち、貯留部から原地盤への水の浸透を防止するために敷設された塩化ビニール製の既設遮水シートの改修方法であって、前記既設遮水シートを前記原地盤の一部範囲に残存させた状態で除去する工程と、塩化ビニール製の第1の遮水シートとポリエチレン製の第2の遮水シートとを有し、前記第1の遮水シートおよび前記第2の遮水シートの端縁部どうしが所要幅範囲にわたって重複した状態で接合された重複接合部に形成され、前記重複接合部において露出している前記第1の遮水シートまたは前記第2の遮水シートの端縁部分を含む所要範囲を被覆するシリコーン製のシートが接着された仲介接合用遮水シートの前記第1の遮水シートの端縁部を、前記原地盤の一部範囲に残存させた遮水シートの端縁部に圧着接合する工程と、前記仲介接合用遮水シートの前記第2の遮水シートの端縁部に改修用ポリエチレン製遮水シートの端縁部を圧着接合して改修用ポリエチレン製遮水シートを原地盤上に敷設する工程と、を有していることを特徴とする既設遮水シートの改修方法である。
【0007】
また、前記仲介接合用遮水シートの重複接合部が機械的接合手段により接合されたものであることが好ましく、この機械的接合手段は、前記第1の遮水シートと前記第2の遮水シートとの端縁部どうしに取り付けられたファスナーであることが好ましい。また、ファスナーとして面ファスナーを用いることがさらに好ましい。
これらにより工場等において仲介接合用遮水シートを製造する際において、塩化ビニール製の第1の遮水シートとポリエチレン製の第2の遮水シートとの仮接合がしやすくなり、シリコーン製のシートを接着する際における作業性が向上する。すなわち、高い接合信頼性が確保された仲介接合用遮水シートを安価で得ることができるため、低コストで既設遮水シートの改修を行うことができる。
【0008】
また、前記仲介用遮水シートに、前記第1の遮水シートの一方の面側に前記第2の遮水シートが重複されると共に、前記第1の遮水シートの他方の面側にポリエチレン製の第3の遮水シートが重複されていて、前記第1、第2、第3の遮水シートの重複部分を、前記第2および第3の遮水シートのポリエチレンが溶融する温度で熱圧着されて成る仲介接合用遮水シートを用いることが好ましい。これにより、重複接合部における第1の遮水シートと第2および第3の遮水シートとの接合処理を容易に行うことができる。
【0009】
また、前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置に単数または複数の貫通孔が形成されていて、前記第2および第3の遮水シートの溶融したポリエチレンが前記貫通孔に充てんされて成る仲介接合用遮水シートを用いることが好ましい。これにより、重複接合部における第1の遮水シートと第2および第3の遮水シートとの接合強度が大幅に高められ、仲介接合用遮水シートのハンドリング性および接合作業性が大幅に向上する。
【0010】
また、前記貯留部の一部に残存させた遮水シートの端縁に沿って複数の前記仲介接合用遮水シートの第1の遮水シートを接合した後、隣接する前記仲介接合用遮水シートにおいて、同じ材料どうしをそれぞれ接合する工程をさらに有していることが好ましい。これにより広範囲の改修現場であってもハンドリング性の良好な寸法に形成された仲介接合用遮水シートを用いて施工することができるため施工能率が向上し、施工コストの低減も可能である。
【0011】
また、他の発明としては、塩化ビニール製遮水シートにポリエチレン製遮水シートを接合するための仲介接合用遮水シートであって、塩化ビニール製遮水シートに接合可能な塩化ビニール製の第1の遮水シートと、前記ポリエチレン製遮水シートに接合可能なポリエチレン製の第2の遮水シートとを有し、前記第1の遮水シートおよび前記第2の遮水シートの端縁部どうしは、所要幅範囲にわたって重複した状態で接合された重複接合部に形成されていて、前記重複接合部において露出している前記第1の遮水シートまたは前記第2の遮水シートの端縁部分を含む所要範囲を被覆するシリコーン製のシートが接着されていることを特徴とする仲介接合用遮水シートの発明もある。
【0012】
また、前記仲介接合用遮水シートの重複接合部が機械的接合手段により接合されたものであることが好ましく、この機械的接合手段は、前記第1の遮水シートと前記第2の遮水シートとの端縁部どうしに取り付けられたファスナーであることが好ましい。また、ファスナーとして面ファスナーを用いることがさらに好ましい。
これらにより工場等において仲介接合用遮水シートを製造する際において、塩化ビニール製の第1の遮水シートとポリエチレン製の第2の遮水シートとの仮接合がしやすくなり、シリコーン製のシートを接着する際における作業性が向上する。すなわち、高い接合信頼性が確保された仲介接合用遮水シートを安価で得ることができる。
【0013】
また、前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置には、前記第1の遮水シートの一方の面側に前記第2の遮水シートが重複されていると共に、前記第1の遮水シートの他方の面側にポリエチレン製の第3の遮水シートが重複されていて、前記第1、第2、第3の遮水シートの重複部分において、前記第2および第3の遮水シートのポリエチレンが溶融する温度で熱圧着されることにより前記重複接合部が形成されていることが好ましい。これにより、第1の遮水シート、第2の遮水シート、第3の遮水シートとの重複接合部を一括で接合することができるため、安価で信頼性の高い仲介接合用遮水シートを得ることができる。
【0014】
また、前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置に単数または複数の貫通孔が形成されていて、前記第2および第3の遮水シートの溶融したポリエチレンが前記貫通孔に充てんされていることが好ましい。これにより、第1の遮水シートに形成された貫通孔部分で抜け止めされた状態で接合部を形成することができるため、安価で信頼性の高い仲介接合用遮水シートを得ることができる。
【0015】
また、前記第3の遮水シートの厚さ寸法は、前記第2の遮水シートの厚さ寸法以上であることが好ましい。これにより、熱圧着処理により重複接合部を形成する際において第2の遮水シートの肉厚が薄くなることが防止され、重複接合部における強度低下や接合部の接合信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる既設遮水シートの改修方法と仲介接合用遮水シートの構成によれば、塩化ビニール製の既設の遮水シートにポリエチレン製の遮水シートを接合する際において、異なる部材どうしの接合処理を現場作業で行う必要がなく、迅速かつ確実接合処理を行うことができ、低コストでありながらも信頼性の高い施工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの平面図である。
【図2】図1中のA−A線における断面図である。
【図3】ダムの遮水シートの改修前の状態を示す平面図である。
【図4】ダムの既存の遮水シートの一部を残存させた状態を示す平面図である。
【図5】残存させた既存の遮水シートに仲介接合用遮水シートを接合した状態を示す平面図である。
【図6】ダムの遮水シートの改修工事後における状態を示す平面図である。
【図7】第2の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの断面図である。
【図8】第3の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの断面図である。
【図9】第4の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの平面図である。
【図10】図9中のB−B線における断面図である。
【図11】第5の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートを示す平面図である。
【図12】重複接合部の変形実施形態の一例を示す断面図である。
【図13】重複接合部の変形実施形態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、塩化ビニール製遮水シートの改修工事に用いられる仲介接合用遮水シート10および既設遮水シートの改修方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1および図2に示すように本実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10は、塩化ビニール製の第1の遮水シート20とポリエチレン製の第2の遮水シート30を所要幅範囲にわたって重複させた状態で接着剤40を介して接合されている。この第1の遮水シート20と第2の遮水シート30との重複接合部において、貯留部の水と接触する側の面において露出している第2の遮水シート30の重複接合部側端縁32をまたぐ所要範囲にシリコーン製のシート50が接着剤40により接着されている。以上に説明した接着剤40としては、例えば、東レ製のダウコーニングSE930シーラント等を好適に用いることができる。
このように、仲介接合用遮水シート10において貯留水と接触する側に露出する接合部分(ここでは、第2の遮水シート30の重複接合部側の端縁32)をシリコーン製のシート50で被覆することで水密性を高める処理が施されることになり、仲介接合用遮水シート10にきわめて高い水密性が付与される。
【0020】
これら第1の遮水シート20、第2の遮水シート30、接着剤40、シリコーン製のシート50は、それぞれ公知の製品を用いることができるので、ここでの詳細な説明は省略している。
本実施形態の仲介接合用遮水シート10によれば、図3〜図6に示すような貯留部であるダムにおける既設遮水シートの改修工事における作業効率を大幅に向上させることができ、遮水シートの改修部分と既設部分との接合部における接合強度および水密度の信頼性を向上させることができる点において好都合である。以下に本実施形態にかかる仲介接合用遮水シートを用いたダムにおける既設遮水シートの改修方法について説明する。
【0021】
ダムDの堤体DB上流側における貯水部の底面には、貯留水Wが原地盤Gに浸透することを防止するために、図3に示すように原地盤Gの表面に遮水シートSSが敷設されていることがある。従来、このような遮水シートSSは塩化ビニール製であることがほとんどであったが、近年においては、より高性能なポリエチレン製遮水シート(改修用ポリエチレン製遮水シート)PSが提供されるようになった。そこで、ダムDにおける既存の遮水シートSSを順次ポリエチレン製遮水シートPSに交換する改修工事が行われるようになっている。
通常のダムDは、堤体DB等に設けられた排水口の位置が貯水部の底面位置より高いことがあるため、貯留水Wのすべてを貯水領域から排出したうえでの工事は不可能な場合がある。このような場合においては、図4に示すように、貯留水Wの一部が貯水領域に残るため、既存の遮水シートSSの一部を貯水領域に残存させた状態で遮水シートSSの改修工事を行う必要がある。なお、図5および図6では、説明の便宜上貯留水Wの図示を省略している。
【0022】
ところで、塩化ビニールとポリエチレンとの接着は、高精度な接着作業が必要とされており、改修工事現場で塩化ビニール製の既設の遮水シートSSと改修用のポリエチレン製遮水シートPSとの直接接合は極めて困難である。また、ダムDの貯水量を図4に示すような状態にすることができる期間は極めて短期間であり、迅速な改修工事が要求されている。このため、改修用のポリエチレン製遮水シートPSを塩化ビニール製の既存の遮水シートSSに接合しやすい状態となるように予め工場等において製造した本実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10を用いることが好都合である。
【0023】
具体的には、図5に示すように、既存の遮水シートSSの端縁部に対して仲介接合用遮水シート10の一端縁である第1の遮水シート20の端縁部を互いに所要幅で重複させた後、溶着装置を用いて接合させる。この接合処理は、塩化ビニールどうしを接合する処理であるため、現場作業であっても信頼性の高い重複接合部の加工処理を行うことができる。
塩化ビニール製の既存の遮水シートSSの端縁部と、塩化ビニール製の第1の遮水シート20の端縁部を接合した後は、必要に応じて重複接合部の水密を保つためのシール加工を行うことがある。このようなシール加工は、仲介接合用遮水シート10に接着されているようなシリコーン製のシート50を好適に用いることができる。
【0024】
仲介接合用遮水シート10の他端縁は、ポリエチレン製の第2の遮水シート30に形成されているから、改修用のポリエチレン製遮水シートPSの端縁部とは公知の溶着装置を用いて接合することができる。こちらもポリエチレンどうしの溶着処理であるから現場作業であっても重複接合部における接合状態の信頼性が担保されている。ポリエチレンどうしの溶着接合部分についても必要に応じて水密を保つためのシール加工を施すことがある。
このようにして、塩化ビニール製の既存の遮水シートSSの端縁部の延長方向に沿って複数の仲介接合用遮水シート10における第1の遮水シート20の端縁部の接合処理を繰り返し行う。また、隣接する仲介接合用遮水シート10,10,・・・どうしの接合に関しては、同じ材料の端縁部どうしの接合処理となるため、何ら困難を伴わずに施工することができる。
【0025】
既存の遮水シートSSの端縁部のすべてに対して仲介接合用遮水シート10における第1の遮水シートの端縁部を接合処理した後は、仲介接合用遮水シート10におけるポリエチレン製の第2の遮水シート30の端縁部に改修用のポリエチレン製遮水シートPSの端縁部を接合すればよいだけとなる。また、隣接するポリエチレン製遮水シートPSどうしの接合処理は簡易にかつ確実に行うことができ、図6に示すように遮水シートの改修工事が完了する。なお、既存の遮水シートSSが改修されない状態で引き続き使用されることにはなるが、ダムDの湛水開始後は常時水中にあることから既存の遮水シートSSの劣化は極めて少ないため、当初の遮水性能が維持されているため何らの問題もなく継続使用が可能である。
【0026】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの断面図である。断面位置は第1の実施形態と同じ位置である。本実施形態以降においては、第1の実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10と同じ構成については、第1の実施形態の説明で用いた同じ符号を付すことによりここでの詳細な説明は省略する。
本実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10における第1の遮水シート20と第2の遮水シート30との重複接合部には、それぞれの重複面に機械的接合手段として一対のファスナー60,60が取り付けられている点が特徴である。これらのファスナー60,60は、ファスナー取付片61,61部分を第1の遮水シート20および第2の遮水シート30の重複面に縫製することにより取り付けすることができる。ファスナー60としては、公知のものを用いることができるが、防水性ファスナーが特に好適に用いられる。
【0027】
本実施形態においては、第1の遮水シート20と第2の遮水シート30との重複部分は、ファスナー60により機械的に接合されている。シリコーン製のシート50を仲介接合用遮水シート10内における重複接合部の表面に貼着する際には、図7に示すように、ファスナー60部分を含めた範囲に接着剤40を塗布しておくことが好ましい。
【0028】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの断面図である。断面位置は第1の実施形態と同じ位置である。
本実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10における第1の遮水シート20と第2の遮水シート30との重複接合部には、それぞれの重複面に一対の面ファスナー62,62が取り付けられている点が特徴である。これらの面ファスナー62,62は第1の遮水シート20と第2の遮水シート30との重複面に縫製や接着により取り付けることができる。シリコーン製のシート50を仲介接合用遮水シート10内における接合部分の表面に貼着する際には接着剤40を用いればよく、面ファスナー62,62どうしの係合を妨害しない場合には、面ファスナー62の係合部分にも接着剤40を塗布しておいてもよい。
【0029】
(第4の実施形態)
図9は、第4の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの平面図である。図10は、図9内のB−B線における断面図である。
本実施形態にかかる仲介接合用遮水シート10の重複接合部は、第1の遮水シート20の一方の面(上面)に第2の遮水シート30が重複され、第1の遮水シート20の他方の面(下面)に第3の遮水シート34を重複させた構成になっている。また、第1の遮水シート20の重複接合側端縁22から所要距離をあけた位置には貫通孔24が形成されている点が特徴的である。
【0030】
ポリエチレン製の第3の遮水シート34の一端縁は、第2の遮水シート30の下面側に重複接合部側端縁32から所要距離あけた位置に溶着や接着などの公知の方法により取り付けられている。また、第3の遮水シート34の他端(重複接合部側端)は自由端になっている。第3の遮水シート34の厚さ寸法は、第2の遮水シート30の厚さ寸法以上であることが好ましい。
このように第2の遮水シート30に第3の遮水シート34を取り付けることで、第1の遮水シート20との重複接合部となる部位に挿入部36を形成することができる。第2の遮水シート30と第3の遮水シート32(挿入部36)の内表面間の離間距離は少なくとも第1の遮水シート20の厚さ寸法以上となるように形成されている。
【0031】
このようにして形成された仲介接合用遮水シート10において、第1の遮水シート20の端縁部と第2の遮水シート30の端縁部との接合は、まず、挿入部36の内部空間に接着剤40を充てんし、次いで、接着剤40が充てんされた挿入部36の中に第1の遮水シート20の重複接合部側端縁22を挿入する。そして、図示しない圧着装置を用いて、第2の遮水シート30と第3の遮水シート34とにより第1の遮水シート20を挟持させた状態で圧着処理を行えばよい。
【0032】
この圧着処理を行う際には、ポリエチレンが溶融するように加熱処理がなされているので、第2の遮水シート30と第3の遮水シート34が溶融し、非溶融状態の第1の遮水シート20に形成された貫通孔24に溶融したポリエチレンが充てんされることになる。塩化ビニールの溶融温度はポリエチレンの溶融温度よりも高温であるから、ポリエチレンのみを溶融させる温度で熱圧着処理をすることができる。
【0033】
このとき第3の遮水シート34の板厚寸法が十分に厚ければ、貫通孔24に溶融したポリエチレンが充てんされたとしても、重複接合部の厚さ寸法が薄くなってしまう(第2の遮水シート30の厚さが薄くなってしまう)ことがないため好都合である。第3の遮水シート34は、熱溶着処理を施す部分のみ板厚寸法を増やしておくだけであってもよい。
この後、圧着接合処理を施した部分を冷却すれば、第1の遮水シート20と第2の遮水シート30および第3の遮水シート34との重複接合部が貫通孔24部分で抜け止めされた状態となり、それぞれの遮水シート20,30,32を強固に一体化させることができる。最後に接着剤40を用いてシリコーン製のシート50により第2の遮水シート30の重複接合部側端縁32を含む所要範囲にわたって被覆すればよい。
【0034】
(第5の実施形態)
図11は、第5の実施形態にかかる仲介接合用遮水シートの平面図である。本実施形態は第4の実施形態の変形例である。第4の実施形態においては、第1の遮水シート20に形成された貫通孔24は、第1の遮水シート20の重複接合側端縁22から所要間隔をあけた位置に穿設されているが、本実施形態においては第1の遮水シート20の重複接合部側端縁22に連通する配列で貫通孔24が形成されている。この貫通孔24は、図11に示すように、連通部26を介して第1の遮水シート20の重複接合側端縁22に連通した状態で形成されている。重複接合端縁22の延長方向における貫通孔24および連通部26の幅寸法は貫通孔24の幅寸法よりも連通部26の幅寸法の方が幅狭寸法となるように形成されている。
【0035】
このような貫通孔24の形状を採用することで、第1、第2、第3の遮水シート20,30,34どうしを熱圧着する際に生じた溶融ポリエチレン樹脂が貫通孔24および連通部26に充てんされることになるが、溶融したポリエチレンは、貫通孔24と連通部26の両方から充てんされるため、第4の実施形態よりも充てん効率が良好であり、より確実な接合処理が可能になる点において好都合である。
【0036】
第2〜第5の実施形態で説明した仲介接合用遮水シート10を用いた具体的な遮水シートの改修方法については、第1の実施形態で説明した方法と同様にして行うことができるためここでの詳細な説明は省略する。
【0037】
以上に、実施形態に基づいて本発明にかかる仲介接合用遮水シート10について詳細に説明したが、本発明における技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではないのはもちろんである。例えば、以上に説明した実施形態における仲介接合用遮水シート10は、図1や図9に示すようなトラック等による運搬において好都合な所定寸法のパネル形状に形成されているが、長尺状に形成してもよい。
【0038】
また、第1〜第5の実施形態においては、いずれも重複接合部において第2の遮水シート30の重複接合部側端縁32を含む所要範囲を被覆するようにシリコーン製のシート50を接着剤40で接着した形態について説明しているが、この実施形態に限定されるものではない。いずれの実施形態においても、図12に示すように、重複接合部において第1の遮水シート20の重複接合部側端縁22を含む所要範囲を被覆するようにシリコーン製のシート50を接着剤40で接着した形態を採用してもよい。
また、第2〜第5の実施形態においては、第1の遮水シート20と第2の遮水シート30の重複接合部に接着剤40が塗布されているが、ファスナー60による接合、面ファスナー62による接合、第1の遮水シート20と第2の遮水シート30および第3の遮水シート34どうしの圧着接合が十分な強度を有している場合には、重複接合部に接着剤40を塗布しなくてもよい。
【0039】
さらに第4の実施形態においては、第1の遮水シート20に貫通孔24が所要間隔をあけて複数配設されている構成について説明しているが、一枚の仲介接合用遮水シート10における第1の遮水シート20に対して細長形状の貫通孔24を一箇所に形成する形態を採用することもできる。
そして、第4,第5の実施形態では、重複接合部において第2の遮水シート30に第3の遮水シート34を予め接合して挿入部36を形成し、挿入部36に接着剤40を充てんした後に、第1の遮水シート20の重複接合部側端縁22を挿入部36に挿入してから熱圧着処理を施しているが、挿入部36への接着剤40の充てんを省略することも可能である。
【0040】
さらには、第4,第5の実施形態では、重複接合部において第2の遮水シート30に第3の遮水シート34を予め接合しているが、第1の遮水シート20と、第2の遮水シート30と、第3の遮水シート34と、のそれぞれを重複させた状態とし、これらをまとめて熱圧着処理を施すようにしてもよい。このとき、接着剤40は必ずしも使用しなくてもよい。この接合処理方法によれば、第1,第2,第3の遮水シート20,30,34の接合処理をまとめて行うことができるため、さらに低コストで仲介接合用遮水シート10を得ることができる。
【0041】
さらにまた、第4、第5の実施形態においては、重複接合部において、第1の遮水シート20に貫通孔24を配設しているが、図13に示すように貫通孔24の配設を省略することもできる。図13の断面位置は、図9内のB−B線上における断面位置である。第3の遮水シート34の接合や、重複接合部における熱圧着処理については第4,第5の実施形態と同様にして行うことができる。この形態を採用することにより、重複接合部の形成が簡素化されさらに低コストで仲介接合用遮水シート10を提供することができる。
【0042】
また、本願発明にかかる仲介接合用遮水シート10の適用例としては、ダムDの既設の遮水シートSSの改修工事について説明したが、本願発明にかかる仲介接合用遮水シート10の適用先はダムDの既設の遮水シートSSの改修に限定されるものではなく、貯水池や産業廃棄物処分場等の貯留部に敷設されている遮水シートの改修工事にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 改修用遮水シート
20 第1の遮水シート
22,32 重複接合部側端縁
24 貫通孔
26 連通部
30 第2の遮水シート
34 第3の遮水シート
36 挿入部
40 接着剤
50 シリコーン製のシート
60 ファスナー
61 ファスナー取付片
62 面ファスナー
D ダム
DB 堤体
G 原地盤
SS 既存の遮水シート
PS ポリエチレン製遮水シート
W 貯留水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留部から原地盤への水の浸透を防止するために敷設された塩化ビニール製の既設遮水シートの改修方法であって、
前記既設遮水シートを前記原地盤の一部範囲に残存させた状態で除去する工程と、
塩化ビニール製の第1の遮水シートとポリエチレン製の第2の遮水シートとを有し、前記第1の遮水シートおよび前記第2の遮水シートの端縁部どうしが所要幅範囲にわたって重複した状態で接合された重複接合部に形成され、前記重複接合部において露出している前記第1の遮水シートまたは前記第2の遮水シートの端縁部分を含む所要範囲を被覆するシリコーン製のシートが接着された仲介接合用遮水シートの前記第1の遮水シートの端縁部を、前記原地盤の一部範囲に残存させた遮水シートの端縁部に圧着接合する工程と、
前記仲介接合用遮水シートの前記第2の遮水シートの端縁部に改修用ポリエチレン製遮水シートの端縁部を圧着接合して改修用ポリエチレン製遮水シートを原地盤上に敷設する工程と、
を有していることを特徴とする既設遮水シートの改修方法。
【請求項2】
前記仲介接合用遮水シートの重複接合部が機械的接合手段により接合されたものであることを特徴とする請求項1記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項3】
前記機械的接合手段はファスナーであることを特徴とする請求項2記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項4】
前記ファスナーは面ファスナーであることを特徴とする請求項3記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項5】
前記仲介用遮水シートに、
前記第1の遮水シートの一方の面側に前記第2の遮水シートが重複されると共に、前記第1の遮水シートの他方の面側にポリエチレン製の第3の遮水シートが重複されていて、
前記第1、第2、第3の遮水シートの重複部分を、前記第2および第3の遮水シートのポリエチレンが溶融する温度で熱圧着されて成る仲介接合用遮水シートを用いることを特徴とする請求項1記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項6】
前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置に単数または複数の貫通孔が形成されていて、
前記第2および第3の遮水シートの溶融したポリエチレンが前記貫通孔に充てんされて成る仲介接合用遮水シートを用いることを特徴とする請求項5記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項7】
前記貯留部の一部に残存させた遮水シートの端縁に沿って複数の前記仲介接合用遮水シートの第1の遮水シートを接合した後、
隣接する前記仲介接合用遮水シートにおいて、同じ材料どうしをそれぞれ接合する工程をさらに有していることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の既設遮水シートの改修方法。
【請求項8】
塩化ビニール製遮水シートにポリエチレン製遮水シートを接合するための仲介接合用遮水シートであって、
塩化ビニール製遮水シートに接合可能な塩化ビニール製の第1の遮水シートと、前記ポリエチレン製遮水シートに接合可能なポリエチレン製の第2の遮水シートとを有し、
前記第1の遮水シートおよび前記第2の遮水シートの端縁部どうしは、所要幅範囲にわたって重複した状態で接合された重複接合部に形成されていて、
前記重複接合部において露出している前記第1の遮水シートまたは前記第2の遮水シートの端縁部分を含む所要範囲を被覆するシリコーン製のシートが接着されていることを特徴とする仲介接合用遮水シート。
【請求項9】
前記重複接合部における前記第1の遮水シートと前記第2の遮水シートは機械的接合手段により接合されていることを特徴とする請求項8記載の仲介接合用遮水シート。
【請求項10】
前記機械的接合手段は、前記第1の遮水シートと前記第2の遮水シートとの端縁部どうしに取り付けられたファスナーであることを特徴とする請求項9記載の仲介接合用遮水シート。
【請求項11】
前記ファスナーは面ファスナーであることを特徴とする請求項10記載の仲介接合用遮水シート。
【請求項12】
前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置には、前記第1の遮水シートの一方の面側に前記第2の遮水シートが重複されていると共に、前記第1の遮水シートの他方の面側にポリエチレン製の第3の遮水シートが重複されていて、
前記第1、第2、第3の遮水シートの重複部分において、前記第2および第3の遮水シートのポリエチレンが溶融する温度で熱圧着されることにより前記重複接合部が形成されていることを特徴とする請求項8記載の仲介接合用遮水シート。
【請求項13】
前記第1の遮水シートにおける前記重複接合部の位置に単数または複数の貫通孔が形成されていて、
前記第2および第3の遮水シートの溶融したポリエチレンが前記貫通孔に充てんされていることを特徴とする請求項12記載の仲介接合用遮水シート。
【請求項14】
前記第3の遮水シートの厚さ寸法は、前記第2の遮水シートの厚さ寸法以上であることを特徴とする請求項12または13記載の仲介接合用遮水シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−44138(P2013−44138A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181976(P2011−181976)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(309016555)ハタ防水建設株式会社 (4)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】