説明

既設PC桁端部の電気防食方法

【課題】PC桁端部前面側に、電気防食工を施工するに必要なスペースがない既設のPC桁に対して施工することができ、かつ、極めてデリケートな性状のPC桁端部に断面損傷等の損傷を与えることなく、効果的な電気防食を施す方法を提供する。
【解決手段】互いに平行配置に並べて架設されたPC桁12の端部間にコンクリート製の横桁15を一体に備えた橋体におけるPC桁12の端部に電気防食工を施すに際し、各PC桁12の側部の横桁15内にその高さ方向に間隔を隔てて電極挿入孔20を形成し、その電極挿入孔内に電気防食用陽極を挿入して埋設し、陽極とPC桁内の鋼材との間に直流電圧を印加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として橋梁や桟橋等の構築物に使用されている既設のプレストレストコンクリート桁(以下PC桁と記す)の端部であって、その端面外側に電気防食工を施すための作業空間が存在しない箇所に適した外部電源方式による電気防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート構造物の電気防食方法の一方式として外部電源方式があり、これは、コンクリート表面に陽極を設置し、直流電源の+側を前記陽極に電気接続させるとともに−側をコンクリート内の鋼材に電気接続させ、コンクリート表面から鋼材へ防食電流を流すことによって鋼材に腐食電流が流れるのを防止するものである。
【0003】
この外部電源方式の電気防食工に使用する陽極には、コンクリート構造体の表面を覆うように陽極を設置した面状陽極方式(例えば特許文献1)、コンクリート構造体の表面に形成した溝内に帯状の陽極埋設した線状陽極方式(例えば特許文献2)、及びコンクリート表面に形成した孔内に棒状の陽極を埋設した点状陽極方式(例えば特許文献3)がある。
【特許文献1】特開2003−27607号公報
【特許文献2】特開2002‐371391号公報
【特許文献3】特開2005−232679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、橋梁や桟橋その他の構築物に使用している既設のPC桁は、突合せ配置の桁端面間或いは端面と橋台間との間に数cm程度の僅かな隙間しかなく、この隙間から前述した電気防食工を施すことはできない。また、PC桁の場合には、その端部にプレストレス構造を維持させるためのPC鋼材端部定着体が埋設されており、コンクリートには、このPC緊張材端部定着体を介して強大な応力が伝達されており、極めてデリケートな性状である場合が多い。このためPC桁の端部を、陽極埋設のために損傷させることができない等の問題があった。
【0005】
しかし、既設のPC桁端部に防水処理が施されてなく、極めてデリケートなPC桁端部が防錆に対して無防備となっている箇所が多く存在し、これらにも電気防食工を施す必要性がある。
【0006】
本発明は、上述の如き従来の問題に鑑み、PC桁端部端面側に電気防食工を施工するに必要なスペースがない既設のPC桁に対して施工することができ、かつ、極めてデリケートな性状のPC桁端部に断面損傷等の損傷を与えることなく、効果的な電気防食を施すことができる既設PC桁端部の電気防食方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、互いに平行配置に並べて架設されたPC桁端部間にコンクリート製の横桁を一体に備えた構築物における既設のPC桁の端部に電気防食工を施すに際し、前記横桁にその高さ方向に間隔を隔てて複数の電極挿入孔を形成し、その電極挿入孔内に電気防食用陽極を挿入して埋設し、該陽極とPC桁内の鋼材との間に直流電圧を印加させることにある。
【0008】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記横桁に対する陽極の埋設は、該横桁の前面からその厚さ方向に向けた電極挿入孔を該横桁の高さ方向に所定の間隔を隔てて複数形成し、その各電極挿入孔内に電気防食用陽極を埋設することにある。
【0009】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2いずれか1の請求項の構成に加え、各電極挿入孔には陽極として不溶性電極を挿入し、その各電極をチタン材からなる分配材で接続して一体化させた後に共通の配電線に電気接続させ、該配電線に直流電源の陽極側を電気接続させるとともに、前記PC桁内又は前記横桁内の鋼材に前記直流電源の陰極側を電気接続することにある。
【0010】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1〜3の何れか1の請求項の構成に加え、前記各電極挿入孔内には、その内部に挿入された前記陽極の、前記PC桁側とは反対側の位置に絶縁材を設置することにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、互いに平行配置に並べて架設されたPC桁端部間にコンクリート製の横桁を一体に備えた構築物における既設のPC桁の端部に電気防食工を施すに際し、前記横桁にその高さ方向に間隔を隔てて複数の電極挿入孔を形成し、その電極挿入孔内に電気防食用陽極を挿入して埋設し、該陽極とPC桁内の鋼材との間に直流電圧を印加させるようにしたことによって、PC桁端部内のPC鋼材や定着体に対する効果的な電気防食を、PC桁のデリケートな状態にあるPC桁端部を傷つけることなく施すことができる。
【0012】
また、前記横桁に対する陽極の埋設は、該横桁の前面からその厚さ方向、即ち、PC桁の長さ方向中央部側の面から端面方向側の面に向けて電極挿入孔を形成し、その内部に電気防食用陽極を埋設することにより、PC桁端部端面側に電気防食工を施工するに必要なスペースがない既設のPC桁に対して施工する場合においても、広い作業スペースを確保することができ、容易に効果的な電気防食を施すことができる。
【0013】
更に、本発明においては、各電極挿入孔内には、その内部に挿入された前記陽極の、前記PC桁側とは反対側の位置に絶縁材を設置することにより、横桁内の鋼材側への電流の流れが抑制され、PC桁端部内の鋼材への防錆電流が流れ易くなり、より効果的なPC桁端部の電気防食がなされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の実施の形態を、図面に示した実施例に基づいて説明する。図において符号10A,10Bは、本発明方法を実施する既設橋体の一例であり、これらは互いに延長方向配置に橋脚11上で端面同士を対向させた状態で架設されている。これらは橋脚間又は橋台と橋脚との間に跨らせて架設され、両者の端面間には、温度変化による熱膨張を吸収できるだけの隙間が設けられている。
【0015】
各橋体10A,10Bは、複数の主桁であるPC桁12を互いに平行配置に並べ、互いに隣り合うPC桁12,12の上フランジ部12a,12a間に場所打ちコンクリートによるRC床版部13を形成することにより、該RC床版部13とPC桁12の上フランジ部12aとによって床版が構成されている。
【0016】
各橋体10A,10Bの端部は橋脚11上に支承部材14を介して支持されており、それぞれの橋体端部のPC桁12,11間には、それらの間を
連結する場所打ちコンクリートによる横桁15が介在され、該横桁15及びPC桁12の端部に跨らせてPC緊張材16が挿通され、橋体幅方向にプレストレスを付与している。
【0017】
尚、図には詳示してないが主桁である各PC桁12の端部には、その長さ方向にプレストレスを付与するPC緊張材の端部を、緊張状態を維持させた状態で支持させた定着体17が埋設されている。これらの定着体は、PC緊張材及び桁内部の鉄筋或いはPC緊張材を挿通させたシースと電気的に導通した状態となっている。
【0018】
次に、このように構成されている橋体のPC桁12端部に対し、本発明による電気防食を施す方法について説明する。
【0019】
上述した橋体の端部において、PC桁端部間を幅方向に連結している横桁15に、各PC桁12の側部に沿って該横桁の高さ方向に、所望の間隔毎に電極挿入孔20を形成する。この電極挿入孔20は、横桁15の前面、即ちPC桁長さ方向中央部側から、背面側、即ち橋体端面側に向けて形成するものであり、横桁15を貫通させない程度に横桁背面近くに達する深さに形成する。
【0020】
また、これらの電極挿入孔20は、奥側を開口部側より低くなるように傾斜させて形成する。これによって後述する陽極埋設のための充填材の充填作業が容易となる。
【0021】
更に、PC桁15を挟む配置にその両側部に横桁15がある位置では、PC桁15を中央にしてその両側にそれぞれ電極挿入孔20を形成する。
【0022】
このように横桁15にPC桁に沿って横桁の高さ方向に多数の電極挿入孔20を形成した後、それぞれの内部に棒状をした陽極21を埋設する。この陽極21には、不溶性電極を用いる。その一例としてチタングリッド電極を使用することができる。また、埋設のための充填材22としては、導電性がある材料であれば良く、例えばモルタルやカーボングラファイトを使用することができ、埋設作業としては、電極挿入孔20内に充填材22を注入した後、陽極21をその充填材22内に挿入しても良く、先に陽極21を挿入した後充填材22を注入してもよい。
【0023】
このようにして埋設した陽極21は、列毎にチタン材からなるディストリビュータ(分配材)23で接続して一体化させた後に共通の配電線に接続し、該配電線を直流電源24の+電極に接続させる。ディストリビュータ23の設置は、横桁15の前面に、各電極挿入孔20の開口部に連通する連続溝を形成し、各陽極21に導通させたディストリビュータ23をこの溝内に入れ、この溝内にモルタル等の充填材を充填することによって横桁15内に埋め込むことが好ましい。また、ディストリビュータ23の電源に対する接続は、従来行われているように、保護配管25を使用して配線することにより行うことができる。
【0024】
尚、直流電源24の−電極には、図には示してないが従来の電気防食法と同様に、PC桁12の端部を除くPC桁12又は横桁15の適宜位置において穿孔した導線接続孔を通してPC緊張材挿通用シース26や、鉄筋等、PC桁の端部定着体や端部の鉄筋に導通している部分を、導電線を通じて導通させる。このようにして、各陽極21とPC桁端部内の鋼材とに直流電源を接続することにより鋼材に防食電流が流れることとなり、電気防食がなされる。
【0025】
また、電極挿入孔20内に陽極21を埋設するに際し、図5に示すように、電極挿入孔20内のPC桁12とは反対側の内面に沿わせて例えば反円筒状の絶縁材30を挿入し、その絶縁材30のPC桁側に陽極21を埋設しても良い。このように電極挿入孔20内に、その内部に挿入された陽極21の、PC桁側とは反対側の位置に絶縁材30設置することにより、陽極21からPC桁とは反対側への防錆電流の流れが抑制され、PC桁端部の電気防食がより効果的なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の電気防食方法を実施した一例の橋体端部を示す断面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1に示す実施例における陽極埋設位置を示す部分縦断正面図である。
【図4】図1に示す実施例における陽極埋設状態を示す部分縦断側面図である。
【図5】本発明における陽極埋設状態の他の例を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10A,10B 橋体
11 橋脚
12 PC桁
12a 上フランジ部
13 RC床版部
14 支承部材
15 横桁
16 PC緊張材
17 定着体
20 電極挿入孔
21 陽極
22 充填材
23 ディストリビュータ
24 直流電源
25 保護配管
26 シース
30 絶縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行配置に並べて架設されたプレストレストコンクリート桁(以下PC桁と記す)端部間にコンクリート製の横桁を一体に備えた構築物における既設のプレストレストコンクリート桁の端部に電気防食工を施すに際し、
前記横桁にその高さ方向に間隔を隔てて複数の電極挿入孔を形成し、その電極挿入孔内に電気防食用陽極を挿入して埋設し、該陽極とPC桁内の鋼材との間に直流電圧を印加させることを特徴としてなる既設PC桁端部の電気防食方法。
【請求項2】
前記横桁に対する陽極の埋設は、該横桁の前面からその厚さ方向に向けた電極挿入孔を該横桁の高さ方向に所定の間隔を隔てて複数形成し、その各電極挿入孔内に電気防食用陽極を埋設する請求項1に記載の既設PC桁端部の電気防食方法。
【請求項3】
各電極挿入孔には陽極として不溶性電極を挿入し、その各電極をチタン材からなる分配材で接続して一体化させた後に共通の配電線に電気接続させ、該配電線に直流電源の陽極側を電気接続させるとともに、前記PC桁内又は前記横桁内の鋼材に前記直流電源の陰極側を電気接続する請求項1又は2のいずれか1に記載の既設PC桁端部の電気防食方法。
【請求項4】
前記各電極挿入孔内には、その内部に挿入された前記陽極の、前記PC桁側とは反対側の位置に絶縁材を設置する請求項1〜3のいずれか1に記載の既設PC桁端部の電気防食方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−179876(P2009−179876A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22774(P2008−22774)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】