説明

昇降機の保全作業管理システム

【課題】保守員が点検する現場の前回作業項目および点検測定値を情報処理端末に予め格納すること、保守員による作業項目および測定値をサーバへ送信することを不要とする。
【解決手段】昇降機を点検するための作業スケジュールおよび作業項目および点検測定値を格納するメモリと、昇降機の状態を測定するセンサ11と、センサ11から得られるデータやメモリに格納されたデータを演算処理し測定項目の良否判定を行う演算処理部を備える情報処理端末1と、エレベーターを常時監視し、かつ、保守員が点検する現場の前回および今回の作業項目および点検測定値を格納するためのメモリ31を備える監視装置3と、情報処理端末1と前記監視装置3とを接続し、相互の情報を授受する通信手段と、監視装置3に格納した点検時の作業項目および点検測定値を含む、エレベーターの監視情報を蓄積するサーバ51と、監視装置3とサーバ51間を結ぶ通信回線4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機の点検データなどを管理する昇降機の保全作業管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターやエスカレーターのような昇降機の状態を維持、管理するために、保守員が定期的に点検、整備作業を実施する。現地での点検では、保守員は測定機器を用いて各部の計測を行い、測定値の大小による状態判定を実施する。
【0003】
このような点検、整備作業を管理するために、次のような技術が知られている。
【0004】
特許文献1に開示された保全作業の管理装置は、保守員が携帯する情報処理端末に前回作業項目および点検測定値が格納され、今回作業項目および点検測定値とが比較演算され、得られた演算判定結果が出力される。
【0005】
また、特許文献2に開示された昇降橡の異常診断方法は、保守員が携帯する異常診断器に各部ごとの計測値の良否判定を行う判定値を持ち、異常診断器を昇降機の各部に移動しながら計測を行い、各部の良否を判定する。また、得られた演算判定結果は保守サービスセンタに送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−162379号公報
【特許文献2】特開2006−117435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、特許文献2に開示される技術のいずれにおいても、保守員が点検する現場の前回作業項目および点検測定値を情報処理端末に予め格納しておく必要があり、急な予定変更により当該保守員とは別の保守員が現場作業を行う場合は、その保守員の情報処理端末に前回作業項目および点検測定値を格納する必要があり、予定変更に対応しにくいという問題がある。
【0008】
また、点検時に実施した作業項目および点検測定値は、一般には通信回線を通じてサーバに格納して一括管理するが、特許文献1、特許文献2のいずれの場合においてもこれらの情報を情報処理端末に一旦格納するため、情報処理端末をサーバと接続してこれらのデータを送信する必要がある。このため、点検終了後におけるサーバへの送信処理を必要とするという問題がある。
【0009】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その第−の目的は、保守員が点検する現場の前回作業項目および点検測定値を情報処理端末に予め格納しておく必要がなく、予定変更に対応しやすい昇降機の保全作業管理システムを提供することにある。
【0010】
第二の目的は、点検時に実施した作業項目および点検測定値のサーバへの送信処理を必要としない昇降機の保全作業管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明に係る昇降機の保全作業管理システムは、昇降機を点検するための作業スケジュールおよび作業項目および点検測定値を格納するメモリと、昇降機の状態を測定するセンサと、センサから得られるデータやメモリに格納されたデータを演算処理し、測定項目の良否判定を行う演算処理部とを有する情報処理端末と、エレベーターを常時監視し、かつ、保守員が点検する現場の前回および今回の作業項目および点検測定値を格納するためのメモリを有する監視装置と、情報処理端末と監視装置とを接続し、相互の情報を授受する通信手段と、監視装置に格納した点検時の作業項目および点検測定値を含む、エレベーターの監視情報を蓄積するサーバと、監視装置とサーバ間を結ぶ通信回線とを備える。
【0012】
また、上記昇降機の保全作業管理システムは、情報処理端末が監視装置のメモリから、保守員が点検する現場の前回の作業項目および点検測定値を読出す処理プログラムを備えていても良い。
【0013】
また、上記昇降機の保全作業管理システムは、情報処理端末が監視装置のメモリに、保守員が点検する現場の今回の作業項目および点検測定値を書き込む処理手段を備えていても良い。
【0014】
また、上記昇降機の保全作業管理システムは、監視装置に格納した点検時の作業項目および点検測定値を含むエレベーターの監視情報を定期的にサーバへ送信する通信処理手段を備えていても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保守員は情報処理端末を用いて、監視装置のメモリに格納された前回の作業項目および点検測定値を読出すことができる。これにより、保守員が点検する現場の前回作業項目および点検測定値を情報処理端末に予め格納しておく必要がなく、予定変更に対応しやすい昇降機の保全作業管理システムを提供することができる。
【0016】
また、情報処理端末が前記監視装置のメモリに、保守員が点検した今回の作業項目および点検測定値を書き込むことができるため、作業終了後も情報処理端末に保守員が点検した今回の作業項目および点検測定値を残す必要がない。これにより、顧客情報の漏洩の危険性が少ない昇降機の保全作業管理システムを提供することができる。
【0017】
さらに、監視装置は、格納した点検時の作業項目および点検測定値を含む、エレベーターの監視情報を定期的に前記サーバへ送信し、作業項目および点検測定値を含む前記エレベーターの監視情報をサーバに蓄積することができる。これにより、点検時に実施した作業項目および点検測定値のサーバへの送信処理を必要としない昇降機の保全作業管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る昇降機の保全作業管理システムのシステム構成を示す図である。
【図2】図1のシステムによって管理される保守員の点検作業のフローを示す図である。
【図3】ブレーキ制動距離測定の測定フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る昇降機の保全作業管理システムについて説明する。
【0020】
図1は、保全作業管理システムの全体構成図を示す。
【0021】
本システムは、情報処理端末1の一部であるか、もしくは情報処理端末1に着脱可能に接続されるものであって、エレベーターの状態を計測するセンサ11と、保守員の作業スケジュールや作業内容および点検における測定結果を記憶するメモリ12と、センサから入力される信号処理を行い、その測定結果から良否判定を行う演算部13と、測定結果を外部に送信したり、前回測定結果を外部から受信したりする通信部14a、14bを備えており、携帯可能で保守員の作業管理および点検測定を行う情報処理端末1と、制御盤21を備えるエレベーター2と、エレベーター2からの運転情報や監視状態を記憶するメモリ31と、制御盤21から得られる運転情報をメモリ31から取り出して演算を行い、監視情報としてメモリ31に記録処理する演算部32と、測定結果を外部に送信したり、前回測定結果を外部から受信したりする通信部33a、33bを備える監視装置3と、監視装置3に蓄積された監視情報を定期的に管制センター5に送信すると共に、エレベーター2の故障や乗客の閉じ込めが発生した時は、直ちに外部に通報するための回線である電話回線4と、監視装置3から定期的に送られてくるそのデータを一括して保管するサーバ51を備える管制センター5と、サーバ5にて蓄積されたデータや点検者の点検スケジュール、点検実施後の作業報告などを各拠点61に送受信する社内ネットワーク回線6とからなっている。
【0022】
図2は、図1のシステムによって管理される保守員の点検作業のフローを示す。保守員は、点検現場へ赴く前に、自己の拠点61において情報処理端末1を社内ネットワーク回線6に接続して(ステップSll)、管制センター5から当日の作業スケジュールを受信してメモリ12に取込む(ステップS12)。点検項目は予め計画的に決められ、保守作業内容は保守員に受信したスケジュールによって指示される。保守員は、スケジュールを取込んだ情報処理端末1を携帯して現場に行き(ステップS13)、情報処理端末1に取込んだスケジュールに従って点検・整備作業を実施する(ステップ14)。スケジュールにおける点検項目中に各種の測定項目が指定されていれば、情報処理端末1を使用して各種点検や測定を実施する。本実施形態において、測定とは、ブレーキの動作特性や制動距離の測定など、エレベーターにセンサを一時的に取り付け、かつエレベーターを通常とは異なる測定用の特殊なモードで運転させて行うものであり、監視装置3では実施できない、もしくは実施していない測定を指す。保守員は、点検・整備作業が終了すると、情報処理端末1に当日の作業実績を入力してメモリ12に記憶させ、自己の拠点61に帰る(ステップS15)。自己の拠点61に帰着後、保守員は、情報処理端末1を社内ネットワーク6に接続し(ステップS16)、当日の作業実績を管制センター5のサーバ51へ送信する(ステップS17)。
【0023】
図3は測定項目の一例であるブレーキ制動距離測定の測定フローを示したものである。制動距離測定は、まず、かごを最下階に停止させ(ステップS21)、制動距離測定のための運転モードを設定する(ステップS22)。次いで、無負荷の状態で最下階から一定速度で上昇(UP)運転させる(ステップS23)。制動距離測定モード下では速度は45m/min程度となり、最上階付近の所定の位置に達するとブザーが鳴動する(ステップS25)。このブザー鳴動中に、保守員は最下階のホールドアを強制的に開くなど、人為的に非常停止をさせる(ステップS26)。エレベーター制御盤21はこのときの制動距離を計測し、メモリに格納する(ステップS27)。この制動距離が適正であるかどうかは、各エレベーターの仕様、すなわち揚程やかごの定員(最大運搬重量)、速度、および使用しているブレーキの型式で決まる係数を含む計算式によって求められる判定値Aの大きさと(ステップS28)、一年前程度の一定期間前に測定した制動距離によって求められた前回の判定値A’と今回の判定値Aの変化量によって判断される。情報処理端末1は制御盤21より制動距離を読出し、今回の判定値Aを算出すると、監視装置3と接続する。監視装置3のメモリ31には、少なくとも前回の測定日と判定値A’を含む前回の測定結果が格納されていて、情報処理端末1は監視装置3からこの値を読み出し、今回の判定値と比較し(ステップS29)、ブレーキ制動距離の良否を判定する(ステップS30)。また、情報処理端末1から監視装置3に、少なくとも今回の測定日と判定値を含む今回の測定結果を送信し監視装置3のメモリ31に格納する。
【0024】
このようにすることで、情報処理端末1に今回の測定結果を保存する必要がなくなり、情報処理端末1に前回の測定結果を格納してから現場に出発する必要がなくなる。
【0025】
また、監視装置3が故障して交換した場合も管制センター5から前回の測定値を取り込むことができるその結果、情報処理端末1に顧客データを残す必要がなく、セキュリティ上有効である。
【0026】
また、さらに、作業予定者以外の保守員が作業することになるなど、計画外に測定作業が必要になった場合も前回測定結果を取得せずに現場で作業ができる。
【符号の説明】
【0027】
1 情報処理端末
11 センサ
12 メモリ
13 演算部
14a,14b 通信部
2 エレベーター
21 制御盤
3 監視装置
31 メモリ
32 演算部
33a,33b 通信部
4 電帯回線
5 管制センター
51 サーバ
6 社内ネットワーク回線
61 拠点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機を点検するための作業スケジュールおよび作業項目および点検測定値を格納するメモリと、昇降機の状態を測定するセンサと、前記センサから得られるデータやメモリに格納されたデータを演算処理し、測定項目の良否判定を行う演算処理部とを備える情報処理端末と、
エレベーターを常時監視し、かつ、保守員が点検する現場の前回および今回の作業項目および点検測定値を格納するためのメモリを備える監視装置と、
情報処理端末と前記監視装置とを接続し、相互の情報を授受する通信手段と、
監視装置に格納した点検時の作業項目および点検測定値を含む、エレベーターの監視情報を蓄積するサーバと、
前記監視装置と前記サーバ間を結ぶ通信回線と、
を有する昇降機の保全作業管理システムにおいて、
前記情報処理端末が前記監視装置のメモリから、保守員が点検する現場の前回の作業項目および点検測定値を読出す手段を備えることを特徴とする昇降機の保全作業管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の昇降機の保全作業管理システムにおいて、前記情報処理端末が前記監視装置のメモリに、保守員が点検する現場の今回の作業項目および点検測定値を書き込む処理手段を備えることを特徴とする昇降機の保全作業管理システム。
【請求項3】
請求項1記載の昇降機の保全作業管理システムにおいて、監視装置に格納した点検時の作業項目および点検測定値を含む、前記エレベーターの監視情報を定期的に前記サーバへ送信する通信処理手段を備えることを特徴とする昇降機の保全作業管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218886(P2012−218886A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86421(P2011−86421)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】