説明

時計部品の製造方法および時計部品

【課題】硬度のばらつきが少なく、金属光沢を備えた時計部品40の製造方法を提供する。
【解決手段】時計部品40を熱処理して、チタン等の複数の結晶41,42,43を粗大化する熱処理工程と、時計部品40の形状を加工する形状加工工程と、チタン等をエッチングして各結晶41,42,43の表面41s,42s,43sを鏡面化し、各結晶41,42,43の表面41s,42s,43sの法線方向41v,42v,43vを相互に異ならせるエッチング工程と、時計部品40の表面40sを陽極酸化処理する陽極酸化工程と、を有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品の製造方法および時計部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計部品の材料として、軽量のチタンまたはチタン合金(以下「チタン等」という。)が広く利用されている。チタン等で形成された時計部品は、形状加工後に陽極酸化処理することで、耐食性を付与することができる。また陽極酸化処理の条件を調整することで、様々な色彩を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−100627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、チタン等に対する陽極酸化処理では、金属光沢が出しにくい。そのため、時計部品としては高級感に欠けるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、チタン又はチタン合金製品の製造方法として、チタンまたはチタン合金の素材を真空あるいは不活性ガス中で900〜1500℃の温度で加熱して表面および端部の一部若しくは全部に100μm以上の双晶を含む結晶粒を析出させる技術が開示されている。この方法で製造されたチタン又はチタン合金製品は、結晶面が金属表面の法線方向に対して微妙な方向に配向しており、見る角度によってキラキラと輝いて見えるとされている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1発明において十分な金属光沢を得るには、現実には結晶粒を数mm以上に粗大化して、結晶表面の光反射面積を確保する必要がある。特許文献1発明を微小部品である時計部品に適用し、時計部品より結晶粒を粗大化させると、時計部品が結晶ごとに形成される(単結晶で構成される)可能性がある。一般に、チタン等の多結晶材料は結晶ごとに硬度が異なるため、時計部品が結晶ごとに形成されると、時計部品の硬度がばらつくことになる。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、硬度のばらつきが少なく、金属光沢を備えた時計部品の製造方法および時計部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、本発明の時計部品の製造方法は、多結晶材料で形成された時計部品の製造方法であって、前記多結晶材料を熱処理して、前記多結晶材料に含まれる複数の結晶を粗大化する熱処理工程と、前記多結晶材料をエッチングして、前記各結晶の表面を鏡面化し、前記各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせるエッチング工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、熱処理工程で結晶を粗大化することで、時計部品の表面に金属光沢が付与される。また、時計部品の硬度ばらつきを抑制すべく結晶の粗大化を制限したため金属光沢が足りない場合でも、エッチング工程で各結晶の表面を鏡面化し、各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせることで、時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【0009】
また前記熱処理工程では、前記結晶の粒径を7μm以上3mm以下に粗大化することが好ましい。
時計部品のサイズは概ね70μm以上30mm以下であるため、時計部品が複数の結晶に跨って形成される(多結晶で構成される)ことになり、時計部品の硬度ばらつきを抑制することができる。
【0010】
また前記熱処理工程の後で、前記エッチング工程の前に、前記時計部品の形状を加工する形状加工工程を有することが好ましい。
形状加工工程の後に熱処理工程を行うと、熱処理によって反りなどが発生し、時計部品の寸法精度が低下する。またエッチング工程の後に形状加工工程を行うと、エッチングにより付与された金属光沢が損なわれる。そこで、熱処理工程の後で、エッチング工程の前に、形状加工工程を行うことにより、時計部品の寸法精度を確保するとともに、外観性を確保することができる。
【0011】
また前記エッチング工程の後に、前記時計部品の表面を陽極酸化処理する陽極酸化工程を有することが好ましい。
この場合には、時計部品の表面に、特定色でキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【0012】
また前記エッチング工程は、フッ酸、硝酸および過酸化水素水を含む液体に前記多結晶材料を浸漬して行うことが好ましい。
この場合には、多結晶材料の各結晶の表面を鏡面化し、各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせることができる。
【0013】
また前記時計部品は、回転錘、地板、歯車、てん輪、文字板または針であることが好ましい。
この場合には、各時計部品の硬度ばらつきを抑制しつつ、各時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【0014】
一方、本発明の時計部品は、多結晶材料で形成された時計部品であって、前記多結晶材料に含まれる複数の結晶は、表面が鏡面化され、表面の法線方向が相互に異なっていることを特徴とする。
この発明によれば、時計部品の硬度ばらつきを抑制すべく結晶の粗大化を制限したため金属光沢が足りない場合でも、各結晶の表面が鏡面化され、各結晶の表面の法線方向が相互に異なっているので、時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【0015】
また前記結晶の粒径は、7μm以上3mm以下であることが好ましい。
時計部品のサイズは概ね70μm以上30mm以下であるため、時計部品が複数の結晶に跨って形成される(多結晶で構成される)ことになり、時計部品の硬度のばらつきを抑制することができる。
【0016】
また前記多結晶材料は、チタン、チタン合金またはタングステンであることが好ましい。
また、表面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする。
この場合には、時計部品の表面に、特定色でキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の時計部品の製造方法によれば、熱処理工程で結晶を粗大化することで、時計部品の表面に金属光沢が付与される。また、時計部品の硬度ばらつきを抑制すべく結晶の粗大化を制限したため金属光沢が足りない場合でも、エッチング工程で各結晶の表面を鏡面化し、各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせることで、時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
本発明の時計部品によれば、時計部品の硬度ばらつきを抑制すべく結晶の粗大化を制限したため金属光沢が足りない場合でも、各結晶の表面が鏡面化され、各結晶の表面の法線方向が相互に異なっているので、時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コンプリート裏側の平面図である。
【図2】ムーブメント表側の平面図である。
【図3】ムーブメント表側の分解斜視図である。
【図4】熱処理後の母材の外観である。
【図5】図4のA−A線における断面図であり、(a)はエッチング前の状態であり、(b)はエッチング後の状態である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(時計)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。ムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち、文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」又は「ガラス側」又は「文字板側」と称する。地板の両側のうち、時計ケースの裏蓋のある方の側、すなわち、文字板と反対の側をムーブメントの「表側」又は「裏蓋側」と称する。
【0020】
図1は、コンプリート裏側の平面図である。コンプリート1は、時に関する情報を示す目盛り3などをもつ文字板2を備えている。また、時を示す時針4a、分を示す分針4bおよび秒を示す秒針4cを含む針4を備えている。
【0021】
図2は、ムーブメント表側の平面図である。なお図2では、図面を見やすくするため、ムーブメント100を構成する時計部品のうち一部の図示を省略している。機械式時計のムーブメント100は、基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。この巻真110は、おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194および裏押さえ196を含む切換装置によって、軸線方向の位置が決められている。
そして巻真110を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車112が回転する。きち車112の回転により丸穴車114および角穴車116が順に回転し、香箱車120に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
【0022】
香箱車120は、地板102と香箱受160との間で回転可能に支持されている。二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130は、地板102と輪列受162との間で回転可能に支持されている。アンクル142は、地板102とアンクル受164との間で回転可能に支持されている。
【0023】
ぜんまいの復元力により香箱車120が回転し、香箱車120の回転により二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130が順に回転する。これら香箱車120、二番車124、三番車126および四番車128は、表輪列を構成する。この表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、がんぎ車130、アンクル142およびてんぷ140で構成されている。がんぎ車130の外周には歯130aが形成されている。アンクル142は一対のつめ石142aを備えている。てんぷ140は、てん真140a、てん輪140bおよびひげぜんまい140cを備えている。
【0024】
アンクル142の一方のつめ石142aが、がんぎ車130の歯130aに係合した状態で、がんぎ車130は一時的に停止している。この状態から、ひげぜんまい140cの伸縮によりてんぷ140が回転すると、てん真140aに固定された振り石がアンクル142を振り上げる。これにより、アンクル142一方のつめ石142aが、がんぎ車130から外れ、がんぎ車130はアンクル142の他方のつめ石142aに係合する位置まで進行する。てんぷ140は一定周期で往復回転するので、がんぎ車130を一定速度で脱進させることができる。
【0025】
二番車124が回転すると、その回転に基づいて筒かな(不図示)が同時に回転し、この筒かなに取り付けられた分針4b(図1参照)が「分」を表示するようになっている。また、筒かなの回転に基づいて日の裏車の回転を介して筒車(不図示)が回転し、この筒車に取り付けられた時針4a(図1参照)が「時」を表示するようになっている。
【0026】
図3は、ムーブメント表側の分解斜視図である。なお図3では、図面を見やすくするため、ムーブメント100を構成する時計部品のうち一部の図示を省略している。本実施形態では、いわゆるマジックレバー方式の自動巻き時計のムーブメント100を例にして説明する。香箱受160の表側には、回転錘20、一番巻上車14、二番巻上車16および角穴車18が回動可能に支持されている。
【0027】
回転錘20は、チタン等により形成されている。回転錘20は、略半円形の板状に形成された回転錘体22と、回転錘体22の外周に沿って配置された重錘24とを備えている。回転錘体22および重錘24は一体形成されているが、別々に形成した後に締結部材を用いて締結してもよい。回転錘20は、時計ケースの透明な裏蓋を通して外部から視認される。そのため、回転錘20の表面には金属光沢が付与されている。また、回転錘20の表面には陽極酸化処理が施されて色彩が付与され、外観性が確保されている。
【0028】
回転錘20の回動により、一番巻上車14が回動する。一番巻上車14の裏側には、回動中心から外れた位置に偏心ピン14aが設けられている。偏心ピン14aには、つめレバー30が回転可能に装着されている。つめレバー30は、偏心ピン14aに外挿されたリング状部31と、リング状部31から伸びる一対のつめ部(送りつめおよび引きつめ)32とを備えている。一対のつめ部32の間には二番巻上車16が配置され、一対のつめ部32の先端が二番巻上車16の外周の歯に係合している。二番巻上車16の回転により、角穴車18が回転する。角穴車18は、香箱受160の裏側の香箱車(不図示)に連結されている。
【0029】
時計の移動に伴って回転錘20が回動すると、一番巻上車14が回動する。これに伴って、一番巻上車14の偏心ピン14aに装着されたつめレバー30が、二番巻上車16に対して接近および離反する。つめレバー30の接近時には、送りつめが二番巻上車16の歯を押し、引きつめは歯の上を滑る。つめレバー30の離反時には、引きつめが二番巻上車16の歯を引き、送りつめは歯の上を滑る。これにより、二番巻上車16は一方向のみに回転する。二番巻上車16が回転すると、角穴車18および香箱車120が回転する。これにより、香箱車120に収容されたぜんまいが自動的に巻き上げられる。
【0030】
(時計部品の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係る時計部品の製造方法について説明する。本実施形態に係る時計部品の製造方法は、多結晶材料で形成される時計部品に適用可能である。特に、外観性が要求される小さな時計部品の製造に有効である。例えば、上述した回転錘20や地板102、輪列受162、各歯車、てん輪140b、文字板2、針4などを製造することができる。以下には、多結晶材料であるチタンまたはチタン合金(以下「チタン等」という。)により、時計部品を製造する場合を例にして説明する。
【0031】
(熱処理工程)
まず、チタン等の母材(板材や棒材等)を準備する。次に、この母材に対して熱処理を施し、チタン等の結晶を粗大化させる。結晶が粗大化すると、結晶表面の光反射面積が大きくなり、金属光沢が得られる。純チタンの結晶は880℃で再結晶し、核を中心に原子配列が整って成長する。そのため、熱処理の温度条件を900℃以上1500℃以下とする。また、保持時間を5時間以上とする。
図4は、熱処理後の母材の外観である。図4の例では、950℃×5時間の熱処理により、結晶を1mm程度まで粗大化させている。
【0032】
時計部品のサイズは、小さいもので70μm程度(例えば、てん真140aの直径など)であり、大きいもので30mm程度(例えば、回転錘20や地板102、文字板2など)である。そのため、時計部品のサイズよりチタン等の結晶を粗大化させると、時計部品が結晶ごとに形成される(単結晶で構成される)可能性がある。一般に多結晶材料は結晶ごとに硬度が異なるため、時計部品が結晶ごとに形成されると、時計部品の硬度がばらつくことになる。
【0033】
そこで本実施形態では、結晶サイズを部品サイズより小さくすることで、時計部品が複数の結晶に跨って形成される(多結晶で構成される)ようにして、時計部品の硬度のばらつきを抑制する。時計部品に含まれる結晶のサイズは、時計部品のサイズの10分の1程度が望ましいと考えられる。時計部品のサイズが概ね70μm以上30mm以下であるから、チタン等の結晶のサイズは7μm以上3mm以下が望ましい。上述した熱処理工程では、結晶のサイズが7μm以上3mm以下となるように、チタン等の結晶を粗大化させる。熱処理の温度を高くするほど、また保持時間を長くするほど、結晶を粗大化させることができる。特に温度を高くすることで、結晶を効果的に粗大化させることができる。
【0034】
(形状加工工程)
次に、熱処理後の母材を時計部品の形状に加工する。加工方法は、プレスや鍛造、機械加工など何でもよい。なお、形状加工工程の後に熱処理工程を行うと、熱処理によって反りなどが発生し、時計部品の寸法精度が低下する。また、次述するエッチング工程の後に形状加工工程を行うと、エッチングにより付与された金属光沢が損なわれる。そこで、熱処理工程の後で、エッチング工程の前に、形状加工工程を行うことにより、時計部品の寸法精度を確保するとともに、外観性を確保することができる。
【0035】
(エッチング工程)
上述した熱処理工程では、金属光沢を付与するため結晶を粗大化させたが、硬度ばらつきを抑制すべく結晶サイズを制限したので、金属光沢が十分に得られない。そこで次に、形状加工後の時計部品の表面をエッチングし、時計部品の表面に十分な金属光沢を付与する。
【0036】
図5は図4のA−A線における断面図であり、図5(a)はエッチング前の状態であり、図5(b)はエッチング後の状態である。図5(a)に示すように、時計部品40は熱処理工程で粗大化された複数の結晶41〜43を含み、時計部品40の表面40sは形状加工工程で平坦に加工されている。エッチング工程では、この時計部品40をエッチング液に浸漬し、時計部品40の表面40sをウエットエッチングする。
エッチングは前処理および後処理を行う。前処理では、フッ酸(HF)0.3〜7wt%の水溶液に時計部品を浸漬する。後処理では、フッ酸(HF)0.3〜3wt%、硝酸(HNO3)0.1〜10wt%、過酸化水素水(H22)5〜35wt%の水溶液に時計部品を浸漬する。
【0037】
図5(b)に示すように、エッチングにより、チタン等の結晶41〜43の表面41s〜43sは鏡面化される。また、各結晶41〜43は結晶方位を有するため、エッチング前の表面40sに対して、エッチング後の表面41s〜43sは傾斜面となる。また各結晶41〜43は、それぞれ異なる核を中心に成長したものであるから、結晶方位が異なる。そのため、各結晶41〜43のエッチングレートは異なり、エッチング後の表面41s〜43sの傾斜方向および傾斜角度が異なる。すなわち、エッチング後の表面41s〜43sの法線方向41v〜43vは相互に異なることになる。これにより、時計部品40の表面に入射した光は、各結晶41〜43の表面41s〜43sで異なる方向に反射される。その結果、時計部品40の表面にはキラキラとした金属光沢が付与される。
【0038】
なお、時計部品40に許容される寸法誤差は50μm程度である。そのため、エッチング量が最大となる結晶と最小となる結晶とのエッチング量の格差が50μm以下となるように、エッチング時間を設定する。なお、エッチング工程前(形状加工工程後)の状態で既に寸法誤差が存在するので、エッチング量の格差は10〜30μm以下に抑えることが望ましい。
【0039】
(陽極酸化工程)
次に、時計部品の表面を陽極酸化処理して耐食性を付与する。具体的には、電解液中に時計部品40を浸漬して陽極に接続し、陰極との間に電流を流す。これにより水が電気分解され、時計部品40の表面にチタン等の酸化膜が形成される。ここで印加電圧を調整することにより、時計部品40の表面を様々に発色させることができる。これにより、時計部品40の表面に、特定色でキラキラと輝く金属光沢が付与される。
【0040】
以上に詳述したように、本実施形態に係る時計部品の製造方法は、チタン等を熱処理して、チタン等の複数の結晶41〜43を粗大化する熱処理工程と、チタン等をエッチングして各結晶41〜43の表面41s〜43sを鏡面化し、各結晶41〜43の表面41s〜43sの法線方向41v〜43vを相互に異ならせるエッチング工程と、を有する構成とした。
熱処理工程で結晶を粗大化することで、時計部品の表面に金属光沢が付与される。また、時計部品の硬度ばらつきを抑制すべく結晶の粗大化を制限したため金属光沢が足りない場合でも、エッチング工程で各結晶の表面を鏡面化し、各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせることで、時計部品の表面にキラキラと輝く金属光沢を付与することができる。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態ではチタン等により時計部品を製造する場合について説明したが、タングステンにより時計部品を製造する場合に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
2…文字板 4…針 20…回転錘 40…時計部品 40s…表面 41,42,43…結晶 41s,42s,43s…表面 41v,42v,43v…法線方向 102…地板 140b…てん輪 162…輪列受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶材料で形成された時計部品の製造方法であって、
前記多結晶材料を熱処理して、前記多結晶材料に含まれる複数の結晶を粗大化する熱処理工程と、
前記多結晶材料をエッチングして、前記各結晶の表面を鏡面化し、前記各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせるエッチング工程と、
を有することを特徴とする時計部品の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、前記結晶の粒径を7μm以上3mm以下に粗大化することを特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程の後で、前記エッチング工程の前に、前記時計部品の形状を加工する形状加工工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時計部品の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程の後に、前記時計部品の表面を陽極酸化処理する陽極酸化工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の時計部品の製造方法。
【請求項5】
前記エッチング工程は、フッ酸、硝酸および過酸化水素水を含む液体に前記多結晶材料を浸漬して行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の時計部品の製造方法。
【請求項6】
前記時計部品は、回転錘、地板、歯車、てん輪、文字板または針であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の時計部品の製造方法。
【請求項7】
多結晶材料で形成された時計部品であって、
前記多結晶材料に含まれる複数の結晶は、表面が鏡面化され、表面の法線方向が相互に異なっていることを特徴とする時計部品。
【請求項8】
前記結晶の粒径は、7μm以上3mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の時計部品。
【請求項9】
前記多結晶材料は、チタン、チタン合金またはタングステンであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の時計部品。
【請求項10】
表面に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の時計部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127877(P2012−127877A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281040(P2010−281040)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】