説明

暖房装置とそれを備えた便座およびトイレ装置

【課題】保温のための非使用時の待機電力を削減し極めて省エネルギーであるとともに長期間にわたり安全かつ快適に使用できる暖房装置およびそれを便座に備えたトイレ装置を提供する。
【解決手段】輻射エネルギー透過性の材料からなる透過体38の外表面に設けられたフィルム材39と透過体38とフィルム材39の間に設けられた輻射エネルギー吸収層40とからなる採暖部25と、透過体38の内表面から所定の空間を介して輻射エネルギーを発する輻射型発熱体29とを有する構成とすることにより、採暖部25表面を瞬時に加熱するので、非常に省エネルギーであるとともに、表面層をフィルムで成型することにより耐磨耗性に優れ長期間快適に使用できる暖房装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体が接触する部位を暖房する暖房装置及びそれを便座に備えたトイレ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の暖房装置として、暖房便座がある。暖房便座は便座の着座部の裏面にコード状ヒーターを敷設したものが一般に用いられている。しかしながらこの種の暖房便座では、人が暖房便座を使用しないときでも常時コード状ヒーターに通電するため、省電力化への要望が強まっている。このような課題を解決する目的で図8に示すような暖房便座が考案されている。これは、透明ポリプロピレン樹脂よりなる便座1内部の空洞部2に設けたランプヒーター3からの輻射エネルギーを便座1外面に形成した輻射熱吸収層4にすばやく伝えて使用者が着座する面である採暖面を短時間で昇温させるという構成であった(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、図8の構成ではランプヒーター3からの輻射熱によって着座部6をすばやく昇温させることができるが、輻射熱吸収層4を外面に設けた場合、長年の使用によって輻射熱吸収層4が傷ついたり、磨耗によって輻射熱の吸収状態が変化する場合があった。また、輻射熱吸収層の形成方法についての詳細な記述がなく、たとえば塗装によって輻射熱吸収層4を形成した場合、塗膜の厚みに差があると、輻射熱の吸収状態にも差が生じて便座温度にムラが生じたり、塗膜の薄い部分からランプヒーター3の光が透過する場合があった。これを防止するために、塗装で形成する輻射熱吸収層4の厚みを厚くすると、輻射熱吸収層4の厚み部分は伝導で熱が伝わるため、熱の伝達に時間がかかる場合があった。また、反射板7によってランプヒーター3からの輻射熱を均一化する構成が示されているものの、ランプヒーター3から放射状に放出される輻射エネルギーを反射板7のみで図8のような馬蹄形状の着座部6に均一に分布させるのは困難で、着座部6全体の温度を均一化するには不十分であった。
【特許文献1】特開2000−210230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、長期間にわたって安定的に採暖部を素早く暖め、かつ、採暖部を最適な熱分布になるように加熱して快適な暖房が得られるとともに、消費電力を大幅に削減できる暖房装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記本発明の課題を解決するために本発明は、輻射エネルギー透過性の材料からなる透過体と、前記透過体の一部に設けた印刷膜からなる輻射エネルギー吸収層を有する採暖部を、前記透過体と所定の空間を介して設け、輻射エネルギーを発する輻射型発熱体により暖房する構成としたものである。
【0006】
この構成によって、輻射型発熱体から放出される輻射エネルギーを輻射エネルギー吸収層で吸収し、熱に変換して採暖部を加熱する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の暖房装置は、輻射発熱体から放出される輻射エネルギーを輻射エネルギー吸収層で吸収して熱に変換するので、採暖部を素早く、最適な熱分布で暖めることができて、消費電力を大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、暖房装置を輻射エネルギー透過性の材料からなる透過体と、前記透過体の一部に設けた印刷膜からなる輻射エネルギー吸収層を有する採暖部を、前記透過体と所定の空間を介して設け、輻射エネルギーを発する輻射型発熱体により暖房する構成としたものである。
【0009】
この構成によって、輻射発熱体から放出される輻射エネルギーを輻射エネルギー吸収層で吸収し熱に変換するので、採暖部表面を素早く暖めることができる。また、輻射エネルギー吸収層を印刷膜で形成するので、印刷形状を変えて輻射エネルギーの吸収量を容易に操作することが可能で、採暖部の最適な熱分布を実現することが可能となる。
【0010】
第2の発明は、特に第1の発明において、輻射エネルギー吸収層は透過体の暖房表面側に設けられ、輻射型発熱体は透過体の暖房表面側の反対側に設けられた構成としたものである。
【0011】
この構成によって、輻射発熱体から放出される輻射エネルギーを採暖部の暖房表面寄りに位置する輻射エネルギー吸収層で吸収して熱に変換するので、特に採暖部表面を素早く暖めて、消費電力を大幅に削減することができる。
【0012】
第3の発明は、特に第1または第2の発明の暖房装置において、透過体の暖房表面には、輻射エネルギー吸収層の暖房表面を覆うようにフィルム材を設けた構成としたものであり、印刷膜で形成した輻射エネルギー吸収層をフィルム材に印刷することにより、膜厚が薄くかつ隠蔽性に優れた輻射エネルギー吸収層を形成することが可能となり、採暖部表面を素早く暖めることができる。
【0013】
第4の発明は、特に第1から第3の発明の暖房装置において、略透明のフィルム材と輻射エネルギー吸収層との間に印刷膜よりなる着色層を有する構成としたものであり、着色層を印刷膜により形成することにより、膜厚が薄くかつ隠蔽性に優れた着色層を形成することができるので、採暖部を素早く暖めることができるとともに、略透明のフィルム材を通して外観として現れる着色層の色相を任意選択して、使用者の好みの色で暖房装置を得ることができる。
【0014】
第5の発明は、、特に第1から第4の発明の暖房装置において、輻射エネルギー吸収層は採暖部の表面に対して輻射エネルギー吸収量に分布を持たせた構成としており、輻射エネルギー吸収量に分布を持たせることにより、裁断部表面の温度むらを軽減して快適な暖房感を得ることができる。
【0015】
第6の発明は特に第1から第5の発明の暖房装置において、輻射エネルギー吸収層は輻射型発熱体から放出され採暖部の表面に到達した輻射エネルギー強度分布を略反転させた輻射エネルギーの吸収量分布となる構成としており、採暖部の表面において温度分布を均一にして、快適な暖房感を得ることができる。
【0016】
第7の発明は、特に第1から第6発明の暖房装置を利用する便座であり、便座の着座部表面をすばやく暖めるので、消費電力を大幅に削減するとともに、着座部の採暖部の温度分布を最適な分布にして、快適なトイレ装置を得ることができる。
【0017】
第8の発明は、特に第1から第7発明の暖房装置を利用するトイレ装置であり、採暖部をすばやく暖めるので、消費電力を大幅に削減するとともに、採暖部の温度分布を最適な分布にして、快適なトイレ装置を得ることができる。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における暖房装置を便座に備えたトイレ装置を示したものである。図1は暖房装置を備えた便座の要部を断面した概略構成図で、図2は同便座を備えたトイレ装置の斜視図、図3は同便座の一部を切り欠いて示した平面図で、図4は同便座の着座部の要部断面図である。
【0019】
図1から図3において、トイレ装置20の便器21の後端部に横長の本体22が取り付けられており、この本体22内には温水洗浄機能の一部が内装され、かつ便器21上に載せられた輪状の便座23および便蓋24が回動自在に設けられ、便座23を使用していない時は、便蓋24は横倒されて便座23上面の採暖部である着座部25を覆うようになっている。着座部25は人がトイレ装置20を利用するときに人体が直接触れる部分である。また、本体22の袖部にはトイレ室の人体の有無を検知する赤外線センサー26が内装されている。便座23は、図1に示すように合成樹脂製の便座上23a、便座下23bの2つの部材をそれぞれの内周縁および外周縁で接合することにより形成し、その内部には水等の浸入を阻止できる密閉された空洞部27を有する構造となっている。
【0020】
空洞部27の内部には、トイレ装置を使用する使用者が腰掛ける着座部25に対向して、アルミ板を鏡面仕上げした輻射反射板28と、着座部25の両側において輻射型発熱体である2本のランプヒーター29a、29bとが着座部25の内表面から所定の空間を介して便座23の形状にあわせて設けられている。すなわち、図3に示すように、ランプヒーター29a、29bは、便座23の平面視で輪状である便座23の着座部25の横部25a、25bに便座23の形状に沿うように設けられている。この着座部25の横部25a、25bは人が着座した時に、大腿部が接触する部位である。輻射熱反射板28は、図1に示すように、その内外端部の全周に上方への折り曲げ部28aを有しており、その折り曲げ部28aによりランプヒーター29a、29bからの熱輻射が偏向されるので、ランプヒーター29a、29bから離れている外周縁部および内周縁部の輻射密度を上げるように作用し、ケース27上部への輻射分布の均一化を図る工夫がなされている。このランプヒーター29a、29bの近傍には、ランプヒーター29a、29bと電気的に直列接続された(図示せず)サーモスタット30a、30bおよび温度ヒューズ31a、31bが設けられ、万一の不安全事態に対して温度過昇を防止するよう作用する。サーモスタット30a、30bおよび温度ヒューズ31a、31bは2本のランプヒーター29a、29bのそれぞれに対応するように設けており、安全性は向上する。
【0021】
ランプヒーター29a、29bは、ガラス管32の内部にタングステンからなるフィラメント33を貫通しハロゲンガスを封入して構成されており、フィラメント33の発熱に伴ってハロゲン化タングステンを形成するハロゲンサイクル反応を繰り返すことにより、フィラメント33の消耗を防止するよう作用している。この作用により熱容量の非常に小さいフィラメント33を熱源とすることができ、輻射エネルギーの極めて急峻な立ち上がりを行わせることができる。従って、ランプヒーター29a、29bは、使用者がトイレ室に入室し、衣服を下ろし、便座23の着座部25に着座するまでの数秒間で便座23の着座部25を適温まで高速に昇温させることができるので、常時通電させておいて便座を加温しておく必要がなく省電力型発熱体となる。
【0022】
このランプヒーター29a、29bは、ランプヒーター固定具34により輻射熱反射板28に固定され、輻射熱反射板28はゴム足35により便座下23bに固定されている。36は便器21上に乗っている便座23の脚ゴム37内に設けられたマイクロスイッチで構成された着座検知手段で、便座23の着座部25に着座した使用者の荷重でマイクロスイッチがオンすることにより使用者の着座を検知するようになっている。
【0023】
図4において、着座部25は透明ポリプロピレン樹脂材料を用いて射出成形で構成された透過体38の暖房表面である外表面にフィルム材である表面層39を設け、この透過体38と表面層39の間にカーボンブラックなどの黒色顔料を主体とする輻射エネルギー吸収剤を多量に含有する輻射エネルギー吸収層40を形成している。表面層39はランプヒーター29a、29bから放射される可視光を遮蔽するとともに、表面硬度,耐薬品性能,光沢等を考慮し、便座全体の色調と調和した色相を有するものであり、単色に限らず、複数色の組み合わせやデザイン化された模様等を使用しても良い。また、ランプヒーター29a、29bから放射される可視光の一部を意図的に透過させるものでも良い。着座部25は、あらかじめ輻射エネルギー吸収層40を印刷した表面層39を、便座上23aを成型する金型に装着し、透過体38である透明ポリプロピレン樹脂材料を射出して成型する。または、あらかじめ輻射エネルギー吸収層40を印刷した表面層39を真空成型等で便座上23aの形状に予備成型した後、便座上23aを成型する金型に装着して射出成型する。以上の成型方法では、便座上23a全体が着座部25を形成する透明体38で形成されるが、これに限ったものではない。たとえば、着座部25のみを透明ポリプロピレン樹脂で、その他の便座上23aを便座下23bと同一の色合いの着色ポリプロピレン樹脂で二色成型することもできる。この場合は、輻射エネルギー吸収層40の面積を表面層39の面積より小さくして着座部25に対応する部分の表面層39に輻射エネルギー吸収層40を印刷して成型すればよい。表面層39は輻射エネルギー吸収層40の面積より大きければよいが、便座上23a全体を覆うように成型するほうが表面層39の境界が便座上23aの表面に現れることがなく仕上がりも美しく成型することができる。また、以上の説明では透明体38として透明ポリプロピレン樹脂を用いたが、透明のポリエステル樹脂やアクリル樹脂なども利用可能である。
【0024】
着座部25は透過体38である透明ポリプロピレン樹脂材料を平均厚み2.5mmにて成形することにより、輻射エネルギー熱透過率を70%以上に設定すると同時に、その剛性から便座の構造矩体として機能している。また、形成されている輻射エネルギー吸収層40と表面層39の合計厚みは合計0.2mm程度であり、透過体38の厚みに対して薄いので輻射エネルギー吸収層40を着座部25外表面寄りに形成することができる。これら両層は透過体38を透過した輻射エネルギーを吸収し、熱容量が非常に小さいので瞬時に昇温すると同時に、可視光を遮蔽し着座部25表面を加熱する。
【0025】
着座部25には、その内面に開口した凹部に、温度検知手段であるサーミスタ41が設定されており、輻射エネルギー吸収層40近傍の温度を検知できるようになっている。すなわち2本のランプヒーター29a、29bが加熱する着座部25の表面近傍にサーミスタ41を設けることにより着座部25のきめ細かい温度制御が可能であるし、また、異常温度上昇や断線による発熱停止なども検知できて、適切に対応できる。
【0026】
また、便座23はその回動軸42に電極43が形成され、本体22の軸受け部(図示せず)とともに便座位置検知手段44を構成し、便座が起立状態にあるか、着座して使用される略水平の使用位置にあるかを検出するようになっている。
【0027】
本体22には、室温検知手段としての室温サーミスタ45の検知信号を取り込んでランプヒーター29a、29bの温度制御を行うとともに、ランプヒーター29a、29bに通電することにより昇温を開始した時点からの経過時間をカウントするタイマー部46を有するマイクロコンピュータを主体とする制御部47が設けられている。そして、制御部47は赤外線センサー26や着座検知手段36と便座位置検知手段44の信号を取り込んでランプヒーター29a、29bへの通電の開始と停止の制御と、サーミスタ41、室温サーミスタ45からの信号を取り込んで採暖面である着座部25の温度が適温である所定の温度になるようランプヒーター29a、29bの温度制御を行う。
【0028】
上記実施の形態において、電源を投入すると、トイレ装置が使用可能な状態となり、使用者がトイレに入室した場合、赤外線センサー26がそれを検知し、その信号が制御部47に送られる。このとき、便座位置検知手段44の信号により便座23が略水平の使用位置にあるのを確認すると、制御部47はランプヒーター29a、29bに通電を開始する。この初期通電により投入エネルギーは瞬時に輻射エネルギーに変換され、フィラメント33からガラス管32および輻射反射板28を経て着座部25の方向に放射される。さらに、輻射エネルギーは着座部25の透過体38内部で一部吸収あるいは反射されるが、その大半は透過し輻射エネルギー吸収層40および表面層39の昇温に寄与する。着座部25を構成する透過体38はほとんど加熱されず、表面層39が加熱される。従って、ランプヒーター29a、29bは使用者がトイレに入室した時に通電し、便座23の着座部25をほぼ瞬時に加温することができるので、常時通電しておくことのない非常に省エネ型の輻射型発熱体になる。着座部25は例えば電力密度1W/mmのランプヒーターを用い、ランプヒーター29a、29bから着座部25下面までの距離を20mmとした場合、室温15℃の時は4秒程度で冷たさを感じない程度の温度(27〜28℃)に昇温することが可能であり、赤外線センサー26で人がトイレに入室したことを検知して着座部25に着座するまでの間に着座部を暖房することが可能である。輻射エネルギー吸収層40で熱に変換された輻射エネルギーは着座部25表面へは表面層39を伝導で伝えられるため、短時間で着座部25を加熱するためには表面層39と輻射エネルギー吸収層40の厚みはできる限り薄いほうが良い。本実施例のように、輻射エネルギー吸収層40を印刷で形成すれば、数μmレベルの厚みでも形成可能であり、表面層39の耐磨耗性などを考慮してできる限り薄く形成すれば、着座部25表面の速やかな温度上昇が可能である。
【0029】
以上の説明では、輻射エネルギー吸収層40を印刷膜で形成した場合について説明したが、輻射エネルギー吸収剤を含有したフィルム材を表面層39と一体的に形成することも可能である。この場合、フィルム材はある程度厚みが必要になるので、伝導による着座部25表面の昇温が遅くならない様に輻射エネルギー吸収層40と表面層39の厚みを設定することが必要である。ランプヒーター29a、29bからの輻射エネルギーや可視光を完全に遮断する目的で表面層39にアルミニウムなどの金属の蒸着膜を形成したフィルム材を用いても良く、逆に、輻射エネルギー吸収層40、表面層39で可視光の一部を透過させる構成としても良い。
【0030】
便座23自体は輪状の特殊な形状にあるが、ランプヒーター29は便座23形状にあわせて2本に分割しているので、通常使用において便座23に衝撃や局部的な力がかかってもランプヒーター29a、29b自身が割れにくく、暖房便座としての耐久性が向上する。なお、分割数を増やして、より、便座形状に合わせた配置としたり、分割した部位ごとに、通電の制御を行うことで、きめ細かな暖房を行うことも可能である。
【0031】
制御部47は、通電開始時のサーミスタ41および室温サーミスタ45の信号をもとに、両者の温度差やそれぞれの温度から演算を行い、あらかじめ設定・記憶されている初期通電の通電制限時間の最適値を選択し、タイマー部46でカウントしている経過時間が通電制限時間に到達すると通電量を低減またはゼロにし、その後サーミスタ41a、44bの信号をもとに便座23の着座部25が適温になるよう通電量を制御する。
【0032】
これにより、サーミスタ41は実際に使用者が触れる着座部25付近の温度を検知し、制御部47は精度良く適温まで昇温・維持するので便座23の使用が快適であり、さらにサーミスタ41および室温サーミスタ45の信号をもとに負荷量に合わせて輻射エネルギーの投入量を制御するのでより精度良く安全に適温まで加熱することができる。
【0033】
また、初期通電時間制御を優先的に行うことで通電制限時間後は通電量を低減し昇温速度を減ずるので、温度検知手段の応答速度が遅くても安全に便座を加温することができ、また安価な温度検知手段を使用することもできる。
【0034】
一方、便座23が起立状態であったり、男子使用者が入室後小用のために便座23を起立状態に持っていったときは、便座位置検知手段44の信号をもとに制御部47がランプヒーター29a、29bへの通電を停止する。これにより、無駄に便座23を加温することを低減でき、さらに省エネを図ることができるとともに、フィラメント33の張力方向である長さ方向に重力がかかって断線することを防止できる。
【0035】
次に、使用者が排便のために着座すると、着座検知手段36の信号によりランプヒーター29a、29bへの通電量をゼロまたは便座温度が過昇しないように制御する。これにより、使用中に便座温度が過昇することなく、火傷等が生じる心配なく安全である。特に、暖房装置を便座に備えたトイレ装置では便座に直接皮膚を接触させて着座するため、安全に対しては十分な配慮が必要である。通常の使用状態では上述のように安全に快適に使用できるが、万一何らかの原因でマイコン(図示せず)に不具合が生じ、ランプヒーター29a、29bへの通電が継続して行われた場合などにも安全に動作することが必要である。
【0036】
本実施例ではそれを実現するために、サーモスタット30a、30bを直列に接続する構成としており、どちらか一方のランプヒーターに不具合が生じても必ずサーモスタット30a、30bのいずれか一方が動作することで安全が確保される。
【0037】
なお、上記実施の形態においては、採暖部の暖房表面の最適な熱分布が均一な熱分布である場合の構成で説明したが、最適な熱分布が均一でない場合においても、輻射エネルギー吸収層の印刷形状を変える事で、容易に熱分布を操作することが可能なので、多様な分布を実現することが可能である。例えば、便座表面で人体の温感に連動して温度分布に勾配を設けるような分布に形成することも考えられるが、このような場合にも輻射エネルギー吸収層の印刷操作により、最適な熱分布として快適な暖房を実現することが可能となる。
【0038】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2における暖房装置の要部断面図である。基本構成は実施の形態1と同様であるので、説明は省略して異なる構成についてのみ説明する。
【0039】
図5において、着座部25は透明ポリプロピレン樹脂を用いて射出成形で構成された透過体38の上に印刷膜よりなる輻射エネルギー吸収層40を、さらに輻射エネルギー吸収層40の上に印刷膜よりなる着色層48を形成し、外表面に略透明のフィルム材よりなる表面層39を設ける構成としている。成型はあらかじめ着色層48を印刷し、さらにその上に輻射エネルギー吸収層40を印刷した表面層39を便座上23aの金型に装着し、実施の形態1と同様の方法で成型する。着色層48はランプヒーター29a、29bから放射される可視光を遮蔽するとともに、便座全体の色調と調和した色合を有するものであり、単色に限らず、複数色の組み合わせやデザイン化された模様等を使用しても良い。また、ランプヒーター29a、29bから放射される可視光の一部を意図的に透過させるものでも良い。表面層39は略透明としており、着色層48を保護するとともに透明感のあるクリアーな表面状態を得ることができる。このように表面層39の材料の透明度が高いと着色層48の色を表面に効果的に反映させられるが、意匠効果をもたせるため、部分的に不透明にしたものや、若干着色した透明フィルムを用いてもよい。
【0040】
また、輻射エネルギー吸収層40は着座部25の表面に対して輻射エネルギーの吸収量に分布を持たせた構成としている。着座部25表面はランプヒーター29a、29bからの距離が一定ならば着座部25表面に到達した輻射エネルギーは均一となり、着座部25の表面温度も一定になる。しかし、実際には着座部25は座り心地や設計上の制約があり、ランプヒーター29a、29bからの距離を一定に保つのは困難であり、図6に示すように輻射エネルギーの強度に分布が生じる。ランプヒーター29a、29bに近接した部分の輻射エネルギーが強くなりその部分の温度が高くなり、距離が遠い部分が輻射エネルギーが弱くなりその部分の温度が低くなる。そこで、輻射エネルギー吸収層40は、ランプヒーター29a、29bから放出され着座部25の外表面に到達した輻射エネルギー強度分布と輻射エネルギーの吸収量分布とを略反転させる構成としとしている。すなわち、図7(a)に示すようにランプヒーター29a、29bに近接した部分に輻射エネルギーを反射する白色や銀系の顔料を用い、漸次輻射エネルギーを吸収する黒色顔料に変化させる。または図7(b)に示すように白色や銀系の顔料と黒色顔料を交互に印刷し、輻射エネルギー強度に応じて間隔を変化させても良い。ここでX−Xはランプヒーター29a、29bに対応する位置を示している。このようにして着座部25表面での輻射エネルギー強度を均一化することにより、着座部25表面での温度のムラを軽減し、快適な便座を得ることができる。
【0041】
以上の実施の形態では便座に暖房装置を備えたトイレ装置を例に説明したが、それに限ったものではなく、介護用、身体障害者用、理・美容院、チャイルドシート、などの腰掛けるものや、和室用の着座マットなど、椅子などの着座部を有するものの暖房装置として利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明の暖房装置およびそれを便座に備えたトイレ装置は採暖部を瞬間的にかつ快適に加熱することができるので、着座する機器をはじめ、手や腰、腹部、足裏など人体が接触する部分の暖房技術として適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態1における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の斜視図
【図3】本発明の実施の形態1における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の一部切り欠き平面図
【図4】本発明の実施の形態1における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の着座部の要部断面図
【図5】本発明の実施の形態2における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の着座部の要部断面図
【図6】本発明の実施の形態2における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の着座部における輻射エネルギーの特性図
【図7】本発明の実施の形態2における暖房装置を便座に備えたトイレ装置の輻射エネルギー吸収層の構成図
【図8】従来の暖房便座の断面図
【符号の説明】
【0044】
20 トイレ装置
23 便座
25 着座部(採暖部)
29a、29b ランプヒーター(輻射型発熱体)
38 透過体
39 表面層(フィルム材)
40 輻射エネルギー吸収層
48 着色層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射エネルギー透過性の材料からなる透過体と、前記透過体の一部に設けた印刷膜からなる輻射エネルギー吸収層を有する採暖部を、前記透過体と所定の空間を介して設け、輻射エネルギーを発する輻射型発熱体により暖房する暖房装置。
【請求項2】
輻射エネルギー吸収層は透過体の暖房表面側に設けられ、輻射型発熱体は透過体の暖房表面側の反対側に設けられた請求項1記載の暖房装置。
【請求項3】
透過体の暖房表面には、輻射エネルギー吸収層の暖房表面を覆うようにフィルム材を設けた請求項1または2記載の暖房装置。
【請求項4】
フィルム材は略透明とし、前記フィルム材と輻射エネルギー吸収層との間に印刷膜よりなる着色層を有する請求項3記載の暖房装置。
【請求項5】
輻射エネルギー吸収層の輻射エネルギー吸収量は、採暖部の暖房表面に対して分布を持たせた請求項1〜5のいずれか1項記載の暖房装置。
【請求項6】
輻射エネルギー吸収層の輻射エネルギーの吸収量分布と、輻射型発熱体が放出して採暖部の暖房表面に到達する輻射エネルギー強度分布とを略反転させる構成とした請求項1〜5のいずれか1項記載の暖房装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の暖房装置を備えた便座。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の暖房装置を備えたトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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