説明

暗視野落射顕微鏡

【課題】 励起波長と蛍光波長を素早く切り換え、1つの細胞やオルガネラを時間分解して計測し、容易に暗視野に切り換えられバックグランドの低い鮮明な画像が得られる暗視野落射顕微鏡を提供する。
【解決手段】 光源1と、試料20への照射光を選択的に透過させる切り換え可能な第1フィルタ3と、前記照射光をリング状の光束にする光学部材と、部材を透過した光を対物レンズ6の外側鏡筒と内側鏡筒との間に入射させる反射ミラー5と、試料から放出される光のみを透過させる切り換え可能な第2のフィルタ8、第2フィルタを透過した光を検出する検出手段を有する暗視野落射顕微鏡。対物レンズが、外側の鏡筒先端部17に前記照射光を試料に集光する為の鏡面を有すると共に、試料からの光が内側の鏡筒内を通過する如く配されている。また、対物レンズと第2フィルタの間に、迷光の混入を防ぐ筒が配されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は暗視野落射顕微鏡に関し、特に、バックグランドが低く鮮明な画像を得ることができると共に照射側に配された第1フィルタと測定側に配された第2フィルタの切り換えが容易であり、照射光と測定光の波長の切り換えを迅速に行うことができる上、前記第2フィルタを実質的に機能させないで、通常の暗視野顕微鏡として切り換え使用することもできる、暗視野落射顕微鏡に関する。
【0002】
【従来技術】生体試料の測定に多用される落射型の蛍光顕微鏡においては、励起光と蛍光をそれぞれ効率よく標本及び観察光学系に導くために、ダイクロイックミラーを用いるのが一般的である。このダイクロイックミラーの光学的な特徴は、励起光の波長に対して高い反射率を有し、蛍光の波長に対して高い透過率を有することである。よって、励起光はダイクロイックミラーでほとんど反射され、対物レンズを通過して標本に達する。一方、励起光によって生じた蛍光も、対物レンズに入射した後ダイクロイックミラーに達し、ほとんど通過していくことになる。また、落射型の蛍光顕微鏡では、対物レンズ側から励起光が標本に照射されるため、対物レンズを通過する蛍光は励起光と同じ光路を逆に戻っていくことになる。しかしながら、この場合には、1)対物レンズとその鏡筒から放出される蛍光が、試料から放出される蛍光に混入するため、測定結果にノイズが入ることになり鮮明な画像を得ることができない場合があったり、2)ダイクロイックミラーの切り換えが煩雑なので、励起光と蛍光の波長の切り換えが煩雑となるという欠点があった。
【0003】1)であげた問題点は、特に紫外光を励起光として用いる時に顕著である。また、試料のダメージを少なくするために蛍光色素の量を下げていくと、紫外光以外の励起光を用いても対物レンズとその鏡筒からの蛍光が測定に支障をきたすようになる。2)であげた問題点は、励起光や蛍光の光の波長をすばやく切り替えながら1つの試料を測定したいとき、例えば、多重染色した試料で時間経過を計測する場合などに顕著となる。また、多重染色用のダイクロイックミラーを用いることが可能な場合でも、染色のパターンの数だけダイクロイックミラーを用意しなければならず不便である。
【0004】斯かる欠点を改善する方法の一つとして、金属顕微鏡の暗視野照明用として用いられる、2重の鏡筒を持つ対物レンズ(特開平3−266809号公報)を転用することが考えられる。しかしながら、この顕微鏡ではダイクロイックミラーを使用しているために、前記した2)の問題が依然として残るという欠点があった。
【0005】また、試料を紫外光で励起しても背景の明るさを抑えられる顕微鏡として、対物レンズに励起光を通さない照明方法を用いた蛍光顕微鏡がある。これは、例えば光源からの照明光(励起光)を光ファイバーで対物レンズの側方まで導き、試料を斜めから照明するような構成である。しかしながらこの照明方法では、試料近くに励起光導入用の部品(光ファイバの先端部)が存在するため、試料の操作、例えば、マイクロインジェクション等の操作が行いにくいという欠点があった。また、紫外光励起の代わりに2光子励起をを用いることもできるが、装置自体が非常に高価になる上、励起光源としてレーザを用いるために励起波長を素早く切り替えることができない上、励起波長がレーザの発振波長に限られるという欠点があった。
【0006】本発明者は、上記の欠点を解決すべく鋭意研究した結果、鏡筒や対物レンズからの蛍光が試料から放出される蛍光と混ざらないように、励起光の光路となる鏡筒壁面に無蛍光塗料を塗布した2重鏡筒を有する対物レンズを使用すると共にダイクロイックミラーを使用しない構造とすることにより、バックグランドが極めて低い鮮明な画像を得ることができるのみならず、励起光の波長と試料から放出される蛍光の波長を素速く切り換えることも可能となり、これによって1つの細胞やオルガネラの複数の現象を同時に時間分解して計測することもできることを見い出し本発明に到達した。
【0007】従って、本発明の第1の目的は、容易に暗視野顕微鏡に切り換えたり、暗視野顕微鏡から落射蛍光顕微鏡に切り換えることのできる、暗視野落射顕微鏡を提供することにある。本発明の第2の目的は、励起波長と蛍光波長をすばやく切り替えながら1つの細胞やオルガネラを時間分解して計測することができると共に、バックグランドの低い、鮮明な画像を得ることのできる落射蛍光顕微鏡を提供することにある。
【0008】本発明の上記の諸目的は、試料に光を照射するための光源と、該光源から、試料への照射光を選択的に透過させる切り換え可能に設けられた第1フィルタと、前記照射光をリング状に透過させるスリットと、該スリットを透過した光を二重鏡筒を有する対物レンズの外側鏡筒と内側鏡筒の間に入射させるための反射ミラーと、試料から反射、散乱若しくは放出される光のみを透過させる切り換え可能に設けられた第2フィルタ、及び、該第2フィルタを透過した光を検出するための検出手段とを有する暗視野落射顕微鏡であって、前記二重鏡筒を有する対物レンズが外側の鏡筒先端部に前記照射光を試料に集光するための鏡面を有すると共に、試料から反射、散乱若しくは放出される光が内側の鏡筒内を通過する如く配されており、該試料から反射、散乱若しくは放出された光以外の光の混入を防ぐ如く、対物レンズと第2フィルタの間に、迷光の混入を防ぐための筒が配されていることを特徴とする、暗視野落射顕微鏡によって達成された。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の暗視野落射顕微鏡の主要途は落射蛍光顕微鏡であるので、使用する光源としては、水銀ランプ等の、通常蛍光顕微鏡に使用する光源を使用する。第1フィルタは、特に落射蛍光顕微鏡として用いる場合に重要であり、試料に照射する励起光の波長を選択するものであるので、単に暗視野落射顕微鏡として使用する場合にはなくても良い。この第1フィルタはホイールによって順次切り替えられるようなものであっても、回折格子であっても良い。
【0010】照射光をリング状の光束にする光学部材は、後述する2重鏡筒を構成する2つの鏡筒の間にのみ照射光を導入するためのものであり、反射ミラーも対応してリング状となっている。上記光学部材としてはスリットが最も一般的であるが、アキシコンプリズムや回折光学素子を使用することもできる。この光学部材と反射ミラーを一体型のボックスとして構成しても良い。また、この光学部材と光源の間又は第1フィルタと光源の間には、シャッターを配しておくことが好ましい。リング状の反射ミラーの中央部には、後述する、迷光の混入を防ぐ筒が配される。この反射ミラーと筒は一体化されていても良い。
【0011】本発明における対物レンズは、断面同心円状の2重鏡筒、内側鏡筒に組み込まれた1組の撮像のための対物レンズ、及び外側鏡筒先端部に設けられた、照射光(励起光)を試料に集中させるための鏡面から成る。該鏡面は放物面であることが好ましい。また、落射蛍光顕微鏡としての性能を十分なものとするために、照射光の光路を形成する内側鏡筒の外壁と外側鏡筒の内壁には、これらの箇所から蛍光が放射されないように、無蛍光塗料を塗布することが好ましい。尚、ここで無蛍光とは、測定に支障を来さない程度に実質的に蛍光を出さなければ良く、完全に蛍光を発生しないということのみを意味するものではない。
【0012】本発明においては、鏡筒の壁面だけでなく、リング状のミラーに対向する部分(図1における鏡筒先端部17)にも無蛍光塗料を塗布するようにしておくことが好ましい。この部分では励起光が筒7(図1参照)に向かって反射しやすいため、反射防止のための塗料が塗布される。ところが、この反射防止のための塗料から自家蛍光が発生する場合がある。従って、ここに無蛍光塗料を塗布しておけば、筒7に入射する自家蛍光の発生を抑えることができる。
【0013】上記光路を形成する壁面から放射される蛍光が少なければ少ない程、落射蛍光顕微鏡として使用する場合に得られる像が、バックグランドの低い鮮明な像となる。これにより、従来、背景の明るさに埋もれて見落としていたような蛍光をはっきりと捉えることができるので、蛍光画像の質が大幅に向上する。また、今までより低い濃度の蛍光色素で生体試料を観察することができるようになるため、蛍光色素の影響がより少ない、天然に近い状態で蛍光測定ができるようになるという大きな利点が生ずる。
【0014】本発明における第2フィルタは、本発明の顕微鏡を落射蛍光顕微鏡として使用するためのものである。このフィルタは、前記第1フィルタと同様にホイールによって切り替えられるにすることも、回折格子とすることもできる。このフィルタを選択して測定する蛍光波長を決定するが、単に暗視野落射顕微鏡として使用する場合には、第2フィルタがない状態であっても良いし、第1フィルタと同じフィルタを選択して、実質的に第2フィルタを機能させなければ良い。
【0015】本発明の顕微鏡においては、照射光(励起光)は内側の鏡筒内部を通らず、測定する蛍光、又は反射光若しくは散乱光のみが内側の鏡筒内部を通り、更に迷光の混入を防止する筒を介して冷却CCDカメラやSIT管等の高感度撮像素子によって測光されたり写真撮影されるので、バックグランドが極めて低い、鮮明な画像を得ることができる。特に、第1、第2フィルタ及び撮像装置、更に必要に応じてシャッタをコンピュータ制御することにより、多重染色した試料について、秒以下の時間分解能を持った測定を複数の波長について行うことが可能となり、また、この場合の色素選択の自由度も大きくなる。
【0016】例えば、NADH(蛍光波長460nm)とフラビン(励起波長460nm)のように、2つの物質の蛍光波長と励起波長が重なる場合でも、100ミリ秒以下の時間分解能で両方を測定することが可能となる。即ち、従来はダイクロイックミラーの特性に合わせた範囲内でしか励起光や蛍光の波長を切り替えることができなかったが、ダイクロイックミラーを使用しない本発明においてはこのダイクロイックミラーによる制限がない。これによって励起光や蛍光の選択の自由度が増大するので、特に、生体に関する新たな知見を得るための装置として有意義である。
【0017】次に本発明を実施例によって更に説明する。図1は、本発明の顕微鏡の原理図である。図中の符号1は光源、2はシャッタ、3は第1フィルタ、4はスリット、5は反射ミラー、6は二重鏡筒を有する対物レンズ、7は迷光の混入を防止する筒、8は第2フィルタ、9は撮像カメラ、10はコンピュータで、16はカバーガラスを載せるステージ、17は反射ミラーと対向する鏡筒の先端部、20は試料である。図2は、対物レンズ6の詳細図である。図中、符号11は外側の鏡筒、12は該鏡筒先端に取り付けられた放物面鏡、13は内側の鏡筒、14は撮像のための(1組の)対物レンズである。図3は、2重鏡筒対物レンズの平面図である。
【0018】光源1から、平行光にした励起光を第1フィルタ3を介してリング状のスリット4に通し、リング状になった励起光を、中央を円形にくり抜いたリング状反射ミラー5で反射させ、二重鏡筒を有する対物レンズ6の内側の鏡筒13と外側の鏡筒11の間に導入する。導入された励起光は、外側の鏡筒11の先端部に取り付けられた放物面鏡12によって反射され、試料20に集光される。励起光はカバーガラス15に対して全反射にならないように斜めに照射されるので、カバーガラス15で反射された励起光が、内側の鏡筒内に入らないようにする。
【0019】試料から放射される蛍光(暗視野顕微鏡として使用される場合は、試料からの反射光及び散乱光)は、内側の鏡筒13内の対物レンズ14によって集光され、平行光となる。平行光となった蛍光は、反射ミラー5のくり抜かれた中央部に配された筒7を通過し、第2フィルタ8を透過して撮像カメラ9に入る。尚、第1及び第2フィルタは、フィルタホイールを用いることによって、15ミリ秒程度の高速で切り替えることができる。蛍光検出用カメラとしては、12ビットの階調を持ち最大量子効率を50%とすることのできる冷却CCDカメラを使用することが好ましい。このようなカメラを用いることにより、微弱な蛍光強度変化も検出することが可能となる。蛍光検出用カメラの前には、必要に応じて光増幅装置を配することもできる。
【0020】シャッタ2、第1フィルタ3、第2フィルタ8及び撮像カメラ9をコンピュータ制御することにより、100ミリ秒以下の時間分解能で、複数の波長について蛍光測定することが可能となる。また、第2フィルタを空にし、又は第1フィルタと同一にすることにより、本発明の顕微鏡を暗視野落射顕微鏡とし、例えば、金属表面の傷の有無等を調べることができる。
【0021】
【発明の効果】以上詳述した如く、本発明の顕微鏡は従来の落射蛍光顕微鏡で可能なことは全てできる上、対物レンズや鏡筒から蛍光が放射されることがないので、バックグランドの低い鮮やかな画像を得ることができ、また、従来バックグランドに埋もれていた画像を得ることもできる。更に、励起光と蛍光の波長の選択が容易であるので、例えば1個のミトコンドリアでNADHの生成・フラビンの還元・pHの変化・膜電位の変化・ATPの合成というような、複数の反応の時間変化を一度に測定することができる。また、実質的に蛍光フィルタを取り除くことにより、暗視野落射顕微鏡としても使用することができるので、本発明は極めて有意義である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の暗視野落射顕微鏡の原理図である。
【図2】本発明における対物レンズの詳細原理図である。
【図3】本発明の2重鏡筒対物レンズの平面図である。
【符号の説明】
1 光源
2 シャッタ
3 第1フィルタ
4 スリット
5 反射ミラー
6 対物レンズ
7 迷光の混入を防止する筒
8 第2フィルタ
9 撮像カメラ
10 コンピュータ
11 外側の鏡筒
12 放物面鏡
13 内側の鏡筒
14 撮像のための(1組の)対物レンズ
15 カバーガラス
16 ステージ
17 鏡筒先端部
20 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 試料に光を照射するための光源と、該光源から、試料への照射光を選択的に透過させる切り換え可能に設けられた第1フィルタと、前記照射光をリング状の光束にする光学部材と、該スリットを透過した光を二重鏡筒を有する対物レンズの外側鏡筒と内側鏡筒の間に入射させるための反射ミラーと、試料から反射、散乱若しくは放出される光のみを透過させる切り換え可能に設けられた第2フィルタ、及び、該第2フィルタを透過した光を検出するための検出手段とを有する暗視野落射顕微鏡であって、前記二重鏡筒を有する対物レンズが外側の鏡筒先端部に前記照射光を試料に集光するための鏡面を有すると共に、試料から反射、散乱若しくは放出される光が内側の鏡筒内を通過する如く配されており、該試料から反射、散乱若しくは放出された光以外の光の混入を防ぐ如く、対物レンズと第2フィルタの間に、迷光の混入を防ぐための筒が配されていることを特徴とする、暗視野落射顕微鏡。
【請求項2】 二重鏡筒を有する対物レンズの照射光の光路を形成する鏡筒壁面に無蛍光塗料が塗布されている、請求項1に記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項3】 スリットと反射ミラーが一体型のボックスとして構成されている、請求項1又は2に記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項4】 第1フィルタ及び第2フィルタの切換がホイールによってなされる、請求項1〜3の何れかに記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項5】 光の検出手段が高感度撮像素子である、請求項1〜4の何れか記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項6】 光源と第1フィルタの間にシャッタが配されている、請求項1〜5の何れかに記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項7】 シャッタ、第1フィルタ、第2フィルタ、及び冷却CCDカメラが何れもコンピュータ制御される、請求項1〜6の何れかに記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項8】 対物レンズの焦点制御をコンピュータによって行う、請求項7に記載された暗視野落射顕微鏡。
【請求項9】 第2フィルタの切換えの選択枝の一つとして、第1フィルタと同等のフィルタを選択することのできる、請求項1〜7の何れかに記載された暗視野落射顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−202459(P2002−202459A)
【公開日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−401061(P2000−401061)
【出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(501004718)
【Fターム(参考)】