説明

曇抑制機構制御方法及び曇抑制機構制御装置

【課題】曇抑制機構制御において任意の入力値に対し意図通りの出力結果を得る。
【解決手段】外気温度ξ、内気温度η及び車内湿度βを入力変数とし車両窓ガラスへの曇発生可能度を出力変数αとし、ξ,ηが張る部分入力平面上のQ個(Q≧4)のモデル座標点毎にβとαの値との関係を定めるモデル制御パターンを用意する。ξ,η,βの各入力値が与えられた時、該入力値に含まれるξ,ηの部分入力平面上の座標点を実制御座標点pxとし、該部分入力空間にて実制御座標点pxを内部に含むモーフィング対象領域DTにあるJ個(Q>J≧3)以上のモデル座標点を被モーフィング座標点pa,pb,pcとして特定する。各被モーフィング座標点pa,pb,pcに対応するJ個のモデル制御パターンの形状を、部分入力平面における各被モーフィング座標点pa,pb,pcの実制御座標点pxまでの距離に応じた重みにてモーフィングし、合成制御パターンPxを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曇抑制機構制御方法及び曇抑制機構制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平8−238927号公報
【非特許文献1】IEEE Computer Graphics andApplications, January/February 1998, 60-73
【0003】
特許文献1には、自動車用窓ガラスの曇防止制御方法が開示されている。この制御システムでは、湿度センサを含む種々の気候制御センサによって発生する信号に応答し、所望の車両空気温度および空気流を発生して前面ガラスの初期曇り発生条件を検出し、それを回避するようファジー制御により曇抑制機構を動作させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ファジー制御においては、曇抑制機構のアクチュエータ制御位置と室内の相対湿度との関係を規定するメンバーシップ関数を定めなければならず、その設計に相当の労力を要し、該メンバーシップ関数を用いた制御ロジックの開発にも時間を要することとなる。
【0005】
本発明の課題は、複数入力一出力形態の曇抑制機構制御において、取得の容易なモデル制御パターンを用意するだけで、簡単で開発工数の少ないアルゴリズムにより、任意の入力値に対し意図通りの出力結果が得られる曇抑制機構制御方法と、これを実現するための曇抑制機構制御装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の曇抑制機構制御方法は、
車両窓ガラスの曇発生側(車室内側)の表面温度を反映した窓ガラス温度ξ、車内温度η及び車内湿度βを含む必須入力変数群を参照して、車両窓ガラスへの曇発生可能度を示す出力変数αの値を演算し、その得られた出力変数値αに基づき窓ガラスの曇抑制機構の動作制御を行なう方法であって、
必須入力変数群は、窓ガラス温度ξ及び車内温度ηを第一種入力変数とし、車内湿度βを第二種入力変数として、第一種入力変数ξ,ηが張る部分入力平面上の予め定められたQ個(Q≧4)のモデル座標点毎に、二種入力変数βの値と出力変数αの値との関係を定めるモデル制御パターンを複数離散的に用意し、
必須入力変数群ξ,η,βの各入力値が与えられたとき、該入力値に含まれる第一種入力変数ξ,ηの部分入力平面上の座標点を実制御座標点として、該部分入力平面にて実制御座標点を内部に含む予め定められたモーフィング対象領域に存在するJ個(Q>J≧3)以上のモデル座標点を被モーフィング座標点として特定し、
第二種入力変数βと出力変数αとが張る制御パターン平面において、各被モーフィング座標点に対応するJ個のモデル制御パターンの形状を、部分入力平面における各被モーフィング座標点の実制御座標点までの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、実制御座標点に対応する合成制御パターンを作成し、
該合成制御パターンに基づいて、必須入力変数群ξ,η,βの入力値に対応する、曇発生可能度を示す出力変数値αを計算することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の曇抑制機構制御装置は、
車両窓ガラスの曇発生側の表面温度を反映した窓ガラス温度ξ、車内温度η及び車内湿度βを含む必須入力変数群を参照して、車両窓ガラスへの曇発生可能度を示す出力変数αの値を演算し、その得られた出力変数値αに基づき窓ガラスの曇抑制機構の動作制御を行なう装置であって、
必須入力変数群は、窓ガラス温度ξ及び車内温度ηを第一種入力変数とし、車内湿度βを第二種入力変数として、第一種入力変数ξ,ηが張る部分入力平面上の予め定められたQ個(Q≧4)のモデル座標点毎に離散的に用意された、二種入力変数βの値と出力変数αの値との関係を定める複数モデル制御パターンを記憶する制御特性情報記憶手段と、
必須入力変数群ξ,η,βの各入力値が与えられたとき、該入力値に含まれる第一種入力変数ξ,ηの部分入力平面上の座標点を実制御座標点として、該部分入力平面にて実制御座標点を内部に含む予め定められたモーフィング対象領域に存在するJ個(Q>J≧3)以上のモデル座標点を被モーフィング座標点として特定する被モーフィング座標点特定手段と、
第二種入力変数βと出力変数αとが張る制御パターン平面において、各被モーフィング座標点に対応するJ個のモデル制御パターンの形状を、部分入力平面における各被モーフィング座標点の実制御座標点までの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、実制御座標点に対応する合成制御パターンをする制御パターンモーフィング手段と、
該合成制御パターンに基づいて、必須入力変数群ξ,η,βの入力値に対応する、曇発生可能度を示す出力変数値αを計算する出力変数計算手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記本発明においては、車両窓ガラスの曇抑制機構の動作制御に使用する必須入力変数群が、窓ガラス温度ξ、車内温度η及び車内湿度βを少なくとも含み、その変数を、出力変数α(曇発生可能度を示す)との関係をモデル制御パターンとして直接記述する第二種入力変数(車内湿度β)と、そのモデル制御パターンをマッピングするための第一種入力変数(窓ガラス温度ξ及び車内温度η)とに分離する。第一種入力変数ξ,ηが張る平面を部分入力平面(つまり、ξ−η平面)とする。また、第二種入力変数βと出力変数αとが張る空間を制御パターン平面とする。
【0009】
そして、第一種入力変数ξ,ηの種々の値の組み合わせについて部分入力平面(ξ−η平面)上に、2以上のモデル座標点を定め、それらモデル座標点毎に固有の(つまり、第一種入力変数ξ,ηの個々の値の組み合わせ毎に、第二種入力変数βと出力変数αとの間の好ましい制御特性を反映した)モデル制御パターンをマッピングする形で用意する。そして、必須入力変数群ξ,η,βの現在値を取得したとき、これに含まれる第一種入力変数ξ,ηの値を抽出すれば、部分入力平面上にその座標点を実制御座標点としてプロットできる。そして、その実制御座標点を含む予め定められたモーフィング対象領域に存在する3個以上のモデル座標点を被モーフィング座標点として特定する。
【0010】
第一種入力変数ξ,ηの現在値を表わす実制御座標点は刻々変化するものであり、一般には、これがどれかのモデル座標点と一致することは稀である。そこで、実制御座標点に近接した複数個のモデル座標点を被モーフィング座標点として選ぶ(その具体的な選び方は、モーフィング対象領域をどう設定するかに応じて異なる)。各モデル座標点には固有のモデル制御パターンが用意されている。個々のモデル制御パターンは、必須入力変数群のうち第一種入力変数の値をモデル座標点の座標値に固定したとき、残余の第二種入力変数の値に応じて出力変数をどのように変化させるかを記述する制御関数であるが、これを制御パターン平面上で眺めてみた場合、モデル座標点毎に固有の形状を有した図形として捉えることができる。
【0011】
本発明者は、制御パターン(制御関数)を図形に概念変換して捉え、従来は画像処理分野に特化された技術であるモーフィング(例えば、非特許文献1)を敢えてエアコン制御の分野に導入することにより、実制御座標点について本来的には用意されていない制御パターンを簡単に取得できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。すなわち、部分入力平面にて複数の被モーフィング座標点に対応して用意されたモデル制御パターンを、それぞれ制御パターン平面上での図形とみなすことにより、部分入力平面における各被モーフィング座標点の実制御座標点までの距離に応じた重みにて、画像合成処理の場合と全く同様にしてモーフィングできる。従来は、モーフィングにより合成された画像を視覚的に出力することだけが目的であったが、本発明においては、モーフィングにより合成されるのが制御パターンであり、モーフィングの結果物である合成制御パターンを、第二種入力変数βが与えられたときに出力変数αの値を決定するための制御関数として、窓ガラスの曇抑制機構の動作制御に2次使用する点に最大の特徴がある。
【0012】
そして、モーフィングにより得られた実制御座標点に対応する合成制御パターンは、純画像合成処理的な手法により得られたものであるにも拘わらず、制御技術的にも全く矛盾しないばかりか、第一種入力変数ξ,ηの値(モデル座標点の座標値)毎の、第二種入力変数βと出力変数αとの間の適正な制御特性を反映したものとして個々のモデル制御パターンが用意されている限り、合成制御パターンも実制御座標点における所望の制御特性を的確に反映したものとして取得できる。そして、複数入力一出力形態の制御であるにも拘わらず、開発工数の主体を占めるのは第一種入力変数ξ,ηの値(モデル座標点の座標値)の種々の組につき、第二種入力変数βと出力変数αとの関係を示すモデル制御パターンを、例えば実験的な手法により取得する処理を機械的に繰り返すことだけである。その取得したモデル制御パターンは機器にインストールするだけで直ちに実使用に供することができ、しかもモーフィングによる簡単で開発工数の少ない画像合成的なアルゴリズムにより、任意の入力値に対し意図通りの出力結果が得られる曇抑制機構制御方法ならびに装置が実現する。
【0013】
車両(自動車)の運転中に問題となるのは、例えば、走行方向前方側を視認するためのフロントグラスや、同じく後方側を視認するためのリアウィンドウに生ずる曇である。また、車両側方やサイドミラーの視認性を確保する意味で、サイドウィンドウの曇抑制も考慮の対象となりうる。夜間結露等によりガラス車外側にも曇は生じうるが、本発明で抑制対象とするのは窓ガラスの内面(車内側)に発生する曇である。車室内は乗員の発汗や呼気により湿度が高くなりやすく、他方、冬期は暖房が作動することも相俟って室温が上昇しがちである(特に乗員数が多い場合には、この傾向が助長される)。エアコン使用時は冷凍機(エバポレータ)の作動により除湿が進行するが、車外温度が低い場合、不快を感じない相対湿度(例えば50%RH程度)まで車内が除湿されても、車内水蒸気量は車外温度での飽和水蒸気量を大きく上回ってしまうことがある。すると、車外気温付近まで冷却された窓ガラスの近傍では、水蒸気量の高い車内空気が局所冷却されて露点を下回り、窓ガラス内面に結露して曇を生ずる。
【0014】
この曇を抑制するための曇抑制機構としては、車両に搭載されるエアコン装置の次のような機構を利用可能である。
(1)吹出口切り替え機構
窓ガラス内面近傍の層流領域の空気は車内対流の影響を受けにくく、窓ガラスによる冷却が進んで相対湿度が上昇し、結露を起こす。従って、エアコン装置の気流吹出口を窓ガラス内面に沿う向きに切り替えれば、その対流効果により層流領域の厚みが減じられ、結露を取り除くことができる。具体的には、エアコン装置の吹出口切替ダンパー位置を、フロングラス内面下端から上向きに吹き出すデフ吹出口側に切り替える機構を採用でき、これによりフロングラス内面の曇を抑制できる。また、インパネ左右のサイドウィンドウ近傍にサイドデフ吹出口を有する車両や、リアウィンドウ専用のリアデフ吹出口を有する車両の場合は、このサイドデフ吹出口に切り替える機構を用いることもできるし、該吹出口にオートルーバが設けられている場合は、ルーバをサイドウィンドウ側に向ける動作を行なわせることも有効である。
【0015】
(2)内外気切り替え機構
車内空気を循環させるための内気吸い込み口と、車外の空気を取込む外気吸い込み口とを、内外気切替ダンパーにより切り替える機構である。車外温度が低い場合、車外空気は、相対湿度が比較的高くても飽和水蒸気量が低いため、暖気された車室内と比べれば曇抑制に役立つ乾燥空気として活用することができる。車内空気循モード時に曇が発生した場合、これを車外空気取込みモードに切り替えることにより、曇抑制を図ることができる。
【0016】
また、空調風の吹出温度を上昇させ、ガラス温度を上げることも曇抑制に貢献できる場合がある。しかし、吹出温度を過度に上昇させると暑さによる不快感を生ずるほか、車内温度の上昇に伴い飽和水蒸気量が引き上がり、員数が多い場合等では冷凍機の能力が追いつかずに乗に室内水蒸気量が上昇する結果、曇が却って助長される惧れもあるので注意を要する。例えば、曇除去をすばやく進行させる観点から、デフ吹出口使用時に空調風の吹出温度を一時的に上昇させることは有効である。
【0017】
また、エアコン装置以外の曇抑制機構として、次のようなものが考えられる。
(3)通電加熱式曇抑制機構
窓ガラスに埋設された(あるいは表面実装された)発熱体(例えば発熱線ないし発熱パターン)を通電発熱させてガラス温度を上昇させ、曇除去ないし抑制を行なう。リアウィンドウに設けられたリアデフロスタ機構として周知である。
(4)パワーウィンドウ
パワーウィンドウ機構によりサイドウィンドウを一定量自動で開き、車室内の湿度を一挙に車外に放出することにより、エアコン装置の内外気切り替え機構を用いる場合よりも速やか曇除去効果を期待できる。
なお、以上の曇抑制機構は、曇発生の程度に応じ、複数のものを適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0018】
また、窓ガラス温度の検出手段としては、ガラスに埋設ないし表面実装された抵抗型温度センサなどの窓ガラス温度センサを用いてもよいし、ガラス温度がおおむね外気温度に等しくなることを考慮して、外気温度センサが検出する外気温度を窓ガラス温度に代用することもできる。
【0019】
車室内の水蒸気量が相当高くなっても、窓ガラスの温度が露点を下回わらなければガラス内面に曇は生じない。他方、窓ガラス温度が相当低くても、車室内空気の水蒸気量が、その窓ガラス温度での飽和水蒸気量に到達していなければガラス内面に曇はやはり生じない。従って、窓ガラス温度と車内温度とが決定されたとき、車内湿度には、上記窓ガラス温度での飽和水蒸気量を与える曇発生の臨界湿度値が存在する。窓ガラス内面に曇を生ずるかどうか(つまり、曇発生可能度α)は、車内温度がこの臨界湿度値を超えているか否かによって急激に変化する傾向にある。従って、モデル制御パターン及び合成制御パターンは、第二種入力変数をなす車内湿度βと出力変数をなす曇発生可能度αとが張る制御パターン平面上にて、車内湿度βが予め定められた臨界湿度値未満となる低湿度値区間から、臨界湿度値を超える高湿度値区間へ移行するに伴い、曇発生可能度αがステップ状に増加するパターンプロファイルを有した二次元線図パターンとして規定することができる。
【0020】
このようにすると、モデル制御パターンのデータ取得工程は、第一種入力変数の組ξ,ηを任意の値に固定し、1個の第二種入力変数βの値を単純に変化させながら出力変数値αの適性値を見出す形に簡略化され、開発工数のさらなる削減に寄与するとともに、線図パターンの合成で済むのでモーフィング計算のアルゴリズムも軽量化できる。各モデル制御パターンは、ガラス表面温度ξが低くなるほど、また、車内温度ηが高くなるほど、臨界湿度値が低くなるように規定することができる。
【0021】
上記の二次元線図パターンは、パターン起点からパターン終点に向けて配列する一定個数のハンドリング点により形状規定されるものとでき、全てのモデル座標点に対応する二次元線図パターンの各ハンドリング点同士が配列順位に従い一義的に対応付けることができる。そして、各被モーフィング座標点にかかる二次元線図パターンの各ハンドリング点の対応するもの同士をモーフィングすることにより合成ハンドリング点を生成し、それら合成ハンドリング点により合成制御パターンをなす二次元線図パターンを規定することができる。二次元線図パターンをハンドリング点の集合に還元することで、モーフィングの演算対象も限られた個数のハンドリング点とすることができ、モーフィング演算負荷を大幅に減ずることができる。そして、合成制御パターンも、モーフィングの結果として得られる合成ハンドリング点により簡単に得ることができる。
【0022】
ハンドリング点により規定される二次元線図パターンの種別は、例えばペジェ曲線やBスプライン曲線などの曲線パターンとすることもできるが、ハンドリング点を順次直線連結して得られる折線状パターンとすることが、演算の簡略化により寄与できる。また、制御パターンを表わす二次元線図パターンにおいて、第二種入力変数に対する出力変数の変化勾配を、その屈曲点にて不連続に遷移させる制御を行ないたい場合、屈曲点を表わすハンドリング点が、モーフィング合成後においても、合成制御パターン中の対応する屈曲点を表わすハンドリング点として保存されるので、屈曲点位置の異なる複数の二次元線図パターンを幾何学的にブレンドしているにも拘わらず、屈曲点位置が不鮮明となることを防止することができる。
【0023】
次に、被モーフィング座標点を簡単かつ的確に決定するには、モーフィング対象領域を以下のようにして定めておくと、モーフィングのアルゴリズムを簡略化することができる。すなわち、部分入力平面内にて隣接するモデル座標点を相互にフレーム連結することにより、各頂点をモデル座標点とする形で部分入力平面を隙間なく区画するよう複数の単位セルを配列形成する。そして、それら複数の単位セルのうち、実制御座標点を内包するものをモーフィング対象領域とし、該単位セルの頂点をなすモデル座標点を被モーフィング座標点として使用する。部分入力平面を予め上記のような単位セル(モーフィング対象領域)にて区切っておくことにより、実制御座標点がどの単位セルに属するかを判定することにより、その単位セルの頂点をなすモデル座標点を被モーフィング座標点として簡単に決定できる。
【0024】
部分入力平面内に分散するモデル座標点を相互にフレーム連結することにより得られる単位セルの頂点数の最小値は3であり、該単位セル(シンプレックスという)は三角形となる。このような三角形はドローネ三角形と称される。このようなドローネ三角形を単位セルとして使用することで、実制御座標点に対する最近接のモデル座標点を用いて、最小限の数のモデル制御パターンをモーフィングすることにより合成制御パターンを得ることができ、処理の簡略化を測ることができる。
【0025】
一方、上記の単位セルは、単位セルは、部分入力平面を張る各座標軸と各辺が平行に定められた長方形セルとして選ぶこともできる。該長方形セルは、シンプレックスであるドローネ三角形よりも多い頂点数の冗長頂点単位セルであり、これを採用することで、合成制御パターンの作成に関与するモデル制御パターンの数を増やす(冗長化する)ことができ、当該合成制御パターンに従う実制御座標点での制御内容の妥当性をより高めることができる。
【0026】
また、冗長頂点単位セルの頂点、すなわちモデル座標点の全てをランダムに設定した場合は、モデル座標点1つに付き2個の座標成分が存在することから、モーフィング演算には2×(全頂点数)の座標値を独立変数として考慮しなければならない。しかし、上記のような長方形セルを採用すれば、長方形セルの各辺の長さ(2通り)が与えられれば、長方形セルの頂点をなす1つのモデル座標点の座標から、他のモデル座標点の座標を自動的に決定できる。従って、演算に考慮すべき独立変数の数は、2(座標成分数)+2(長方形セルの各辺の長さ)=4となり、モデル座標点の全てをランダムに設定する場合と比較して演算を大幅に簡略化できる。特に、冗長頂点単位セルをなす複数の長方形セルを互いに合同となるように定めておくと、長方形セルの各辺の長さを定数化できるので、演算においては、1個のモデル座標点の座標成分のみを変数として扱えばよく、演算に考慮すべき独立変数は4個で済むようになり、さらなる演算の簡略化を図ることができる。
【0027】
上記長方形セルの各頂点をなすモデル座標点と実制御座標点との幾何学的な関係に基づき、各モデル座標点に対応するモデル制御パターンを線形補間合成して合成制御パターンを得る場合は、次の手法を採用することにより、モーフィングアルゴリズムの大幅な簡略化を図ることができる。すなわち、長方形セルの実制御座標点を通って各辺と平行な2個の平面で切断する。これにより、長方形セルは、それぞれ実制御座標点を共有し、かつ長方形セルの頂点をなすモデル座標点を排他的に1個ずつ取り合う4個の部分長方形に区切られる。
【0028】
そして、各部分長方形の長方形セルに対する相対体積を、当該部分長方形に含まれるモデル座標点の長方形セルの対角線方向反対側に位置するモデル座標点への重みとする形でモーフィングを行なう。この方法によれば、モーフィングの重み演算を各部分長方形の体積演算に転換することができ、例えば2点間線形補間によるモデル制御パターン合成を比較的少数回繰り返すだけで最終的な合成制御パターンを簡単に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の窓ガラスの曇抑制機構制御装置として動作可能な、エアコン制御装置CAの全体構成を模式的に示すブロック図である。エアコン制御装置CAはダクト1を備え、該ダクト1には、車内空気を循環させるための内気吸い込み口13と、車外の空気を取込む外気吸い込み口14とが形成され、内外気切り替えダンパー15によりいずれかが切り替え使用される。これら内気吸い込み口13ないし外気吸い込み口14からの空気は、ブロワモータ23により駆動されるブロワ16によってダクト1内に吸い込まれる。
【0030】
ダクト1内は、吸い込まれた空気を冷却して冷気を発生させるためのエバポレータ17と、逆にこれを加熱して暖気を発生させるヒータコア2(エンジン冷却水の廃熱により発熱動作する)とが設けられている。そして、これら冷気と暖気とが、エアミックスダンパー3の角度位置に対応した比率にて混合され、吹出口4,5,6より吹き出される。このうち、フロントグラス曇り止め用のデフ吹出口4は、フロントグラスの内面下縁に対応するインパネ上方奥に、フェイス吹出口5はインパネの正面中央に、フット吹出口6はインパネ下面奥の搭乗者足元に対向する位置にそれぞれ開口し、吹出口切り替え用ダンパー7,8,9により個別に開閉される。具体的には、モータ20からのダンパー制御用の回転入力位相に応じて、ダンパー駆動ギア機構10により、フェイス吹出口5のみを開いた状態、フェイス吹出口5とフット吹出口6とを開いた状態、フット吹出口6のみを開いた状態、フット吹出口6とデフ吹出口4とを開いた状態、デフ吹出口4のみを開いた状態の間で切り替えられる。
【0031】
また、内外気切り替えダンパー15はモータ21により、エアミックスダンパー3はモータ19により、吹出口切り替え用ダンパー7,8,9はモータ20により、それぞれ電動駆動される。これらモータ19,20,21は例えばステッピングモータにて構成され、個々の動作はエアコン駆動制御手段の主体をなすエアコンECU170により集中制御される。さらにブロワモータ23はブラシレスモータ等で構成され、エアコンECU170により、PWM制御にて回転速度制御することにより吹き出し風量が調整される。エアコンECU170の実体はコンピュータハードウェアであり、エバポレータセンサ51、内気センサ55、外気センサ56、水温センサ57、日射センサ58及び車内湿度センサ61が接続されている。内気センサは車内気温を測定するためのものであり、外気センサ56は車外気温を測定するためのものである。該外気センサ56が検出する外気温度はガラス表面温度ξとして使用される(以下、「外気温度ξ」と称することもある)。また、日射センサ58は車外の車内温度を測定するためのものであり、湿度センサ61は、車室内湿度を測定するためのものである。
【0032】
また、車載エアコン用操作ユニット100も独立した操作ユニットECU160を有し、風量設定スイッチ52、吹出口切替スイッチ53、温度設定スイッチ54、A/Cスイッチ59、オート切り替えスイッチ103、内外気切り替えスイッチ60が接続されている。操作ユニットECU160はエアコンECU170と通信バス30(例えば、LIN通信バス等のシリアル通信バス)により接続されている。また、通信バス30には通電発熱パターン24pと、そのドライバ24とからなるリアデフロスタ機構25も接続されている。
【0033】
操作ユニットECU160もコンピュータハードウェアであり、前述の風量設定スイッチ52、吹出口切替スイッチ53、温度設定スイッチ54D,54P、A/Cスイッチ59、オート切り替えスイッチ103、内外気切り替えスイッチ60が接続されている。風量設定スイッチ52、吹出口切替スイッチ53、温度設定スイッチ54D,54P、A/Cスイッチ59、オート切り替えスイッチ103あるいは内外気切り替えスイッチ60の各操作入力状態は、操作ユニットECU160から通信バス30を介してエアコンECU170に送られる。
【0034】
具体的には、エアコンECU170は、操作ユニットECU160と連携して、内蔵のROM等に搭載されたエアコン制御ファームウェアの実行により、以下のような制御を行なう。
・内外気切り替えスイッチ60の操作入力状態に対応して、内気側及び外気側のいずれかに内外気切り替え用ダンパー15が倒れるよう、対応するモータ21の駆動ICに制御指令を行なう。
・A/Cスイッチ59の操作状態に応じて、エバポレータ17の作動をオン・オフさせる。
【0035】
・オート切替スイッチ103の入力状態に基づいて、エアコンの動作モードをマニュアルモードとオートモードとの間で切り替える。
・オートモードでは、温度設定スイッチ54D,54Pによる設定温度の入力情報と、内気センサ55、外気センサ56、水温センサ57、日射センサ58及び車内湿度センサ61の出力情報とを参照し、車内温度が設定温度に近づくよう、エアミックスダンパー3の開度調整による吹き出し温度調整と、ブロワモータ23による風量調整と、吹出口切替ダンパー7,8,9の位置変更とがなされるよう、対応するモータ19,23,20の動作制御指令を行なう。
・マニュアルモードでは、風量設定スイッチ52と吹出口切替スイッチ53との操作入力状態に対応して、ブロワモータ23による風量調整を行なうとともに、吹出口切替ダンパー7,8,9が対応する開閉状態となるようにモータ20への駆動制御指令を行なう。
【0036】
上記のエアコン制御装置CAは、抑制機構制御装置として機能する際には、窓ガラスへの曇発生可能度を示す出力変数αの値を演算し、その得られた出力変数値αに基づき窓ガラスの曇抑制機構の動作制御を行なう。曇抑制機構は、本実施形態では、吹出口切替ダンパー7,8,9によるエアコンの吹出口切り替え機構(デフ吹出口4からの吹出を含まないモードから、含むモードへの切り替えであればよい)と、リアデフロスタ機構25が使用される。
【0037】
前述のファームウェアは、次の機能実現手段をコンピュータ処理により実現するものである。
・制御特性情報記憶手段:必須入力変数群(車外温度ξ、車内温度η及び車内湿度β)の値に応じて出力変数(窓ガラス(具体的には、フロントグラス及びリアウィンドウ)への曇発生可能度α)の値を決定する制御特性情報として、第一種入力変数((車外温度ξ、車内温度η)が張る部分入力平面MPS(ここでは、ξ−η平面)上の予め定められたQ個(Q≧4:図3Aに示すごとく、この実施形態ではQ=30の場合を例示している)のモデル座標点p毎に複数離散的に用意された、第二種入力変数(車内湿度β)の値と出力変数(曇発生可能度α=の値との関係を定めるモデル制御パターンP(図3A)を記憶する。図1の制御データメモリ171がこれに相当する。
【0038】
・被モーフィング座標点特定手段:必須入力変数群(車外温度ξ、車内温度η及び車内湿度β)の3次元入力値pxが与えられたとき、図5に示すごとく、該入力値pxに含まれる第一種入力変数(車外温度ξ、車内温度η)の部分入力平面MPS(ξ−η平面)上の座標点を実制御座標点pxとして、該部分入力平面MPS(ξ−η平面)にて実制御座標点pxを含む予め定められたモーフィング対象領域DTに存在するJ個(Q>J≧3:ここでは、J=3であり、モーフィング対象領域DTはドローネ三角形である)のモデル座標点pを被モーフィング座標点pa,pb,pcとして特定する。
・制御パターンモーフィング手段:第二種入力変数(車内湿度β)と出力変数(曇発生可能度α)とが張る制御パターン平面CPS(ここでは、β−α平面)において、各被モーフィング座標点pa,pb,pcに対応するJ個のモデル制御パターンPa,Pb,Pcの形状を、部分入力平面MPS(ξ−η平面)における各被モーフィング座標点pa,pb,pcの実制御座標点pxまでの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、実制御座標点pxに対応する合成制御パターンPxを作成する。
・出力変数計算手段:合成制御パターンPxに基づいて第二種入力変数(車内湿度β)に対応する出力変数(曇発生可能度α)の値を計算する。
【0039】
以下、曇抑制機構制御装置として機能するときのエアコン制御装置CAの動作について、より詳細に説明する。図2に示すように、エアコンECU170は、出力変数たる曇発生可能度αの設定値を計算するために、図1の3つのセンサ、すなわち外気センサ56、内気センサ55及び車内湿度センサ61の検出値を読み込む。外気センサ56の検出値が車外温度ξとして取得され、内気センサ55の検出値が車内温度ηとして取得される。また、車内湿度センサ61の検出値が車内湿度βとして取得される。
【0040】
取得された車外温度ξと車内温度ηとの組が部分入力平面MPS(ξ−η平面)上での実制御座標点pxを示す。他方、車外温度ξと車内温度η(第一種入力変数)の種々の値の組が、モデル座標点pとして定められており、図3Aに示すように、制御データメモリ170には、各モデル座標点pi(ξi,ηi)毎にモデル制御パターンPi(≡P1〜P30)が格納されている。
【0041】
図4に示すように、各モデル制御パターンPi(≡P1〜P30:図5)は、車内湿度β(第二種入力変数)と曇発生可能度α(出力変数)とが張る制御パターン平面CPS(β−α平面)上にて描画可能な二次元線図パターンとされている。該制御パターンPiは、車内湿度βが予め定められた臨界湿度値βc未満となる低湿度値区間SLから、臨界湿度値βcを超える高湿度値区間SHへ移行するに伴い、曇発生可能度αがステップ状に増加するパターンプロファイルを有するものである。低湿度値区間SLでは曇発生可能度αは例えば0%(つまり、曇発生の可能性なし)に定められ、高湿度値区間SLでは曇発生可能度αは例えば100%(つまり、必ず曇発生)に定められている。また、臨界湿度値βcを含む中間湿度値区間は、曇発生可能度αが低湿度値区間SL側から高湿度値区間SL側に向けて漸増する形になっている。この区間では、ガラス温度ムラや車内湿度分布により、曇発生する可能性と曇発生しない可能性との双方がありえることを意味している。臨界湿度値βcは、ここでは中間湿度値区間の中央をなす湿度値として定義している。
【0042】
図1のエアコンECU170は、曇発生可能度αが臨界湿度値βcに対応する閾値αc未満か超えているかに応じて、以下のごとく、曇抑制機構を作動状態と非作動状態との間で一義的に切り替える。すなわち、暖房動作時において曇発生可能度αが閾値αc未満のとき、エアコンECU170は、吹出口切り替え用ダンパー7,8,9を、フェイス吹出口5のみを開いた状態又はフェイス吹出口5とフット吹出口6とを開いた状態とする。また、リアデフロスタ25は非通電状態とする(以上、曇抑制機構の非作動状態)。他方、曇発生可能度αが閾値αcを超えた場合、エアコンECU170は吹出口切替用ダンパー7,8,9を、フット吹出口6とデフ吹出口4とを開いた状態又はデフ吹出口4のみを開いた状態のいずれかに切り替えるとともに、リアデフロスタ25を通電状態とする(以上、曇抑制機構の作動状態)。
【0043】
曇発生可能度αを決定するための各モデル制御パターンは、図5に示すように、その起点から終点に向けて配列する一定個数(図では9個)のハンドリング点hiを有し、それらハンドリング点hiを順次直線連結して得られる折線状パターンとして定義されている。従って、制御パターンPは、それらハンドリング点hiのβ−α平面上での座標値の集合として一義的に規定することができ、各モデル制御パターンPiの各ハンドリング点h同士は、配列順位に従い一義的な対応関係を形成する。
【0044】
図6に示すように、第一種入力変数である車外温度ξと車内温度ηとが張る部分入力平面MPS(ξ−η平面)は、各モデル座標点を頂点とする形でドローネ三角形(シンプレックス)をなす単位セルDTにより隙間なく区画されている。このドローネ三角形を用いた具体的な制御の流れを図9のフローチャートに示す。まず、取得された車外温度ξと車内温度ηとの組を座標成分とする実制御座標点pxが属している単位セルDTを特定する(S1)。そして、特定された単位セルDTの各頂点をなす3つのモデル座標点を被モーフィング座標点pa,pb,pcとして選択する(S2)。
【0045】
そして、図6に示すように、被モーフィング座標点pa,pb,pcに対応する3個のモデル制御パターンPa,Pb,Pcを制御データメモリ170から読み出し(S3)、部分入力平面MPS(ξ−η平面)における各被モーフィング座標点pa,pb,pcの実制御座標点pxまでの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、実制御座標点pxに対応する合成制御パターンPxを作成する(S4)。この計算は、図1のモーフィング計算部172が行なう。
【0046】
図7は、制御パターンの、ドローネ三角形を用いたポリモーフィングのアルゴリズムを概念的に示すものである。ここでは、ドローネ三角形の頂点に対応する3つの制御パターン図形P0,P1,P2を合成する場合を例にとっており、WijはPiからPjへのワープ関数で、Pi上の各点に対応するPj上の点を特定する。合成制御パターンPを生成するには、まずWijをPjの重心座標gjに適用してPi毎にWijを線形内挿し、中間ワープ関数Wiバーを導く。各Piは、隣接する2つのものが、Wiバーにより実制御座標点のpx重心座標G*に応じた重みで中間合成され、中間制御パターンPiバーを生成する。合成制御パターンPxは、Piバーの各点(具体的には、各ハンドリング点)を重心座標gjが示す重みにて線形結合して得られる。
【0047】
図8は、これをさらに具体的に展開して示すものであり、ξ−η平面上にて、被モーフィング座標点pa,pb,pcをそれぞれ点A,B,Cとし、また、実制御座標点pxを点Xとする。三角形ABCの各頂点A,B,Cから、点Xを通って各辺と交差する直線を考え、各辺との交点をD,E,Fとすると、pxの重心座標G*の各成分は、図中のga,gb,gcとして式(1)により表わされる。図中の各点の座標値及び各線分の長さは周知の解析幾何学の手法により計算できるが、いずれも初等的であるため詳細な説明は略する。すると、3つの中間制御パターンPiバーは、図中のPd,Pe,Pfとして式(2)により計算できる。その結果、Pxはga,gb,gcを重みとするPd,Pe,Pfの線形結合として計算できる。
【0048】
ここで、被モーフィング座標点pa,pb,pcに対応する各モデル制御パターンPa,Pb,Pcの実体は、前述のごとく、各々同じ数のハンドリング点を繋いで得られる折線状パターンであり、β−α平面上でのハンドリング点hiの座標値の集合と等価であるから、図8の式(2)のPa,Pb,Pcに、それぞれ対応するハンドリング点の座標値を代入すれば、中間制御パターンPd,Pe,Pfのハンドリング点の集合を得ることができ、さらに、これを(3)式に代入することにより、合成制御パターンPxのハンドリング点の集合を得ることができる。これを相互に繋ぐと最終的な合成制御パターンPxが得られる。そして、この合成制御パターンPx上にて、現在検出されている車内湿度β(第二種入力変数)の値に対応する曇発生可能度αの値を読み取り、制御値として出力する(S5)。
【0049】
次に、部分入力平面MPS(ξ−η平面)は、図10に示すように、ドローネ三角形(シンプレックス)よりも頂点数の多い冗長頂点単位セルDTにより区画することもできる。シンプレックスよりも多い頂点数の冗長頂点単位セルHCBを採用することで、合成制御パターンPxの作成に関与するモデル制御パターンPa,Pb,Pc,Pdの数を増やす(冗長化する:ここでは3→4)ことができ、当該合成制御パターンPxに従う実制御座標点pxでの制御内容の妥当性をより高めることができる。
【0050】
本実施形態では、冗長頂点単位セルHCBは、頂点数4個の長方形セルHCBとして選んである。冗長頂点単位セルHCBの頂点、すなわちモデル座標点の全てをランダムに設定した場合は、モデル座標点1つに付き2個の座標成分が存在することから、モーフィング演算には2×(全頂点数)の座標値を独立変数として考慮しなければならない。しかし、上記のような長方形セルHCBを採用すれば、長方形セルHCBの各辺の長さ(M通り)が与えられれば、長方形セルHCBの頂点をなす1つのモデル座標点の座標から、他のモデル座標点の座標を自動的に決定できる。
【0051】
図13に示すように、ξ−η平面(部分入力平面)の原点に最も近い長方形(長方形セル)HCBの頂点をなすモデル座標点paの座標を(ξa,ηa)とすれば、長方形セルHCBのξ軸方向の辺長をΔξ、η座標軸方向の辺長をΔηとして、残り3つの頂点をなすモデル座標点pb,pc,pdは、それぞれpb:(ξa+Δξ,ηa)、pc:(ξa,ηa+Δη)、pc:(ξa+Δξ,ηa+Δη)として表わすことができる。図10に示すように、冗長頂点単位セルをなす複数の長方形セルHCBが全て合同となるように定めた場合(つまり、各モデル座標点がξ軸方向とη軸方向にそれぞれ等間隔でマトリックス状に配列した場合)は、Δξ及びΔηは一定、すなわち定数となる。従って、モーフィング演算においては、1個のモデル座標点の座標成分ξa,ηaのみを独立変数として扱えばよく、演算に考慮すべき独立変数ξ,ηの2個で済むようになり、モーフィング演算の大幅な簡略化を図ることができるのである。
【0052】
この長方形セルHCB(長方形)を用いた具体的な制御の流れを図12のフローチャートに示す。まず、図10に示すように、取得された車外温度ξと車内温度ηとの組を座標成分とする実制御座標点pxが属している長方形セルHCBを特定する。そして、図11に示すように、特定された長方形セルHCBの各頂点をなす4つのモデル座標点を被モーフィング座標点pa,pb,pc,pdとして選択し、これらに対応する4個のモデル制御パターンPa,Pb,Pc,Pdを制御データメモリ170から読み出し(S201)、部分入力平面MPS(ξ−η平面)における各被モーフィング座標点pa,pb,pc,pdの実制御座標点pxまでの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、実制御座標点pxに対応する合成制御パターンPxを作成する(S202)。この計算は、図1のモーフィング計算部172が行なう。
【0053】
図13に、長方形セルHCBを用いた制御パターンのポリモーフィングのアルゴリズムを概念的に示している。被モーフィング座標点pa,pb,pc,pdをそれぞれA,B,C,Dとして、長方形セルHCBの実制御座標点pxを通って各辺(CA,DB及びCD,AB)と平行な2本の直線で切断する。これにより、長方形セルHCBは、それぞれ実制御座標点X(px)を共有し、かつ長方形セルHCBの頂点をなすモデル座標点を排他的に1個ずつ取り合う4個の部分長方形SCB、具体的には長方形CKXN(面積:Sb),NXLD(面積:Sa),KAMX(面積:Sd),KMBL(面積:Sd)に区切られる。
【0054】
そして、各部分長方形(部分長方形)SCBの長方形セルHCBに対する相対面積(相対体積)を、当該部分長方形SCBに含まれるモデル座標点の長方形セルHCBの対角線方向反対側に位置するモデル座標点(すなわち、paに対してはpd、pbに対してはpc、pdに対してはpa、pcに対してはpb)への重みとする形でモーフィングを行なう。すなわち、長方形セルHCBの面積をS0とすれば、合成制御パターンPxは、
Px=(1/S0)×(Sa・Pa+Sb・Pb+Sc・Pc+Sd・Pd)
‥(13)
にて合成することができる。
【0055】
上記モーフィング演算のアルゴリズムは、実は、次のような補間合成演算を逐次的に実行して合成制御パターンPxを得るのと数学的に全く等価である。すなわち、長方形セルHCBの各座標軸方向に隣接する2つのモデル座標点間にて、それらモデル座標点が張る線分への実制御座標点pxの正射影点を分点とする形で、梃子の原理により一次中間制御パターンを合成する。次いで、長方形セルHCBの各面の対向する2辺について得られた一次中間制御パターンに対し、対応する正射影点が張る線分について実制御座標点pxの正射影点を新たに分点として設け、その分点に関してそれら一次中間制御パターン同士を梃子の原理により合成し、二次中間制御パターンとする。この一連の処理を、分点が実制御座標点Xにたどり着くまで繰り返す。長方形セルHCBのどの辺から補間演算を開始しても、最終的に得られる結果は全て同じである。
【0056】
図11内に、その計算例を示している。すなわち、線分DBへの実制御座標点pxの正射影点をLとし、線分CAへの実制御座標点pxの正射影点をKLとすれば、線分DB側の一次中間制御パターンPLが図中の式(11)により、線分CA側の一次中間制御パターンPKが図中の式(12)により計算される。線分KL上には実制御座標点Xが存在するので、これを分点として一次中間制御パターンPL及びPKを用いて二次中間制御パターンを求めると、(13)式通りの合成制御パターンPxが得られることは幾何学的に容易に理解できる。なお、Pxをξa及びηaを用いて表した結果を(17)式に示している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の適用対象となるエアコン制御装置の電気的構成の一例を示すブロック図。
【図2】その制御系統の要部を抽出して示すブロック図。
【図3A】制御データメモリの内容を示す概念図。
【図3B】制御データメモリ内容の別例を示す概念図。
【図4】モデル制御パターンの一例を示す図。
【図5】種々のモデル座標点に対するモデル制御パターンの設定例を示す図。
【図6】部分入力平面の単位セルへの分割方法の第一例を示す図。
【図7】図9の単位セルを用いたポリモーフィングの概念図。
【図8】線図パターンとして与えられた制御パターンの、図6の単位セルを用いたポリモーフィング計算アルゴリズムを幾何学的に説明する図。
【図9】図8のポリモーフィング計算アルゴリズムを利用した制御処理の流れを示すフローチャート。
【図10】部分入力平面の単位セルへの分割方法の第二例を示す図。
【図11】線図パターンとして与えられた制御パターンの、図10の単位セルを用いたポリモーフィング計算アルゴリズムを幾何学的に説明する図。
【図12】図10の場合の制御処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0058】
CA 空調制御装置(エアコン制御装置)
β,ξ,η 必須入力変数群
ξ,η 第一種入力変数
β 第二種入力変数
α 出力変数
MPS 部分入力平面
CPS 制御パターン平面
p モデル座標点
px 実制御座標点
pa,pb,pc 被モーフィング座標点
P モデル制御パターン
Px 合成制御パターン
hi ハンドリング点
DT 単位セル(モーフィング対象領域、ドローネ三角形)
HCB 長方形セル(冗長頂点単位セル)
170 エアコンECU
171 モーフィング計算部(制御パターンモーフィング手段)
172 制御データメモリ(制御特性情報記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両窓ガラスの曇発生側の表面温度を反映した窓ガラス温度ξ、車内温度η及び車内湿度βを含む必須入力変数群を参照して、車両窓ガラスへの曇発生可能度を示す出力変数αの値を演算し、その得られた出力変数値αに基づき前記窓ガラスの曇抑制機構の動作制御を行なう方法であって、
前記必須入力変数群は、前記窓ガラス温度ξ及び車内温度ηを第一種入力変数とし、前記車内湿度βを第二種入力変数として、前記第一種入力変数ξ,ηが張る部分入力平面上の予め定められたQ個(Q≧4)のモデル座標点毎に、前記二種入力変数βの値と前記出力変数αの値との関係を定めるモデル制御パターンを複数離散的に用意し、
前記必須入力変数群ξ,η,βの各入力値が与えられたとき、該入力値に含まれる前記第一種入力変数ξ,ηの前記部分入力平面上の座標点を実制御座標点として、該部分入力平面にて前記実制御座標点を内部に含む予め定められたモーフィング対象領域に存在するJ個(Q>J≧3)以上のモデル座標点を被モーフィング座標点として特定し、
前記第二種入力変数βと前記出力変数αとが張る制御パターン平面において、各被モーフィング座標点に対応するJ個の前記モデル制御パターンの形状を、前記部分入力平面における各前記被モーフィング座標点の前記実制御座標点までの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、前記実制御座標点に対応する合成制御パターンを作成し、
該合成制御パターンに基づいて、前記必須入力変数群ξ,η,βの入力値に対応する、曇発生可能度を示す前記出力変数値αを計算することを特徴とする曇抑制機構制御方法。
【請求項2】
前記モデル制御パターン及び前記合成制御パターンは、前記第二種入力変数をなす前記車内湿度βと前記出力変数をなす前記曇発生可能度αとが張る前記制御パターン平面上にて、前記車内湿度βが予め定められた臨界湿度値未満となる低湿度値区間から、前記臨界湿度値を超える高湿度値区間へ移行するに伴い、前記曇発生可能度αがステップ状に増加するパターンプロファイルを有した二次元線図パターンとして規定されている請求項1記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項3】
各前記モデル制御パターンは、前記窓ガラス温度ξが低くなるほど、また、前記車内温度ηが高くなるほど、前記臨界湿度値が低くなるように規定されてなる請求項2記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項4】
前記二次元線図パターンは、パターン起点からパターン終点に向けて配列する一定個数のハンドリング点により形状規定されるものであり、全ての前記モデル座標点に対応する二次元線図パターンの各ハンドリング点同士が配列順位に従い一義的に対応付けられてなり、
各前記被モーフィング座標点にかかる前記二次元線図パターンの各ハンドリング点の対応するもの同士をモーフィングすることにより合成ハンドリング点を生成し、それら合成ハンドリング点により前記合成制御パターンをなす二次元線図パターンを規定するようにした請求項2又は請求項3に記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項5】
前記二次元線図パターンは、前記ハンドリング点を順次直線連結して得られる折線状パターンである請求項4記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項6】
前記部分入力平面内にて隣接する前記モデル座標点を相互にフレーム連結することにより、各頂点を前記モデル座標点とする形で前記部分入力平面を隙間なく区画するよう複数の単位セルが配列形成されてなり、
それら複数の単位セルのうち、前記実制御座標点を内包するものを前記モーフィング対象領域とし、該単位セルの頂点をなすモデル座標点を前記被モーフィング座標点として使用する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項7】
前記単位セルは、各前記モデル座標点を頂点とするドローネ三角形である請求項6記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項8】
前記単位セルは、前記部分入力平面を張る各座標軸と各辺が平行に定められた長方形セルとされてなる請求項7記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項9】
複数の前記長方形セルが互いに合同となるように定められてなる請求項8記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項10】
前記長方形セルを、前記実制御座標点を通って各辺と平行な平面で切断することにより、それぞれ前記実制御座標点を共有し、かつ前記長方形セルの頂点をなす前記モデル座標点を排他的に1個ずつ取り合う部分長方形に区切り、各部分長方形の前記長方形セルに対する相対面積を、当該部分長方形に含まれるモデル座標点の前記長方形セルの対角線方向反対側に位置するモデル座標点への重みとする形で前記モーフィングを行なう請求項8又は請求項9に記載の曇抑制機構制御方法。
【請求項11】
車両窓ガラスの曇発生側の表面温度を反映した窓ガラス温度ξ、車内温度η及び車内湿度βを含む必須入力変数群を参照して、車両窓ガラスへの曇発生可能度を示す出力変数αの値を演算し、その得られた出力変数値αに基づき前記窓ガラスの曇抑制機構の動作制御を行なう装置であって、
前記必須入力変数群は、前記窓ガラス温度ξ及び車内温度ηを第一種入力変数とし、前記車内湿度βを第二種入力変数として、前記第一種入力変数ξ,ηが張る部分入力平面上の予め定められたQ個(Q≧4)のモデル座標点毎に離散的に用意された、前記二種入力変数βの値と前記出力変数αの値との関係を定める複数モデル制御パターンを記憶する制御特性情報記憶手段と、
前記必須入力変数群ξ,η,βの各入力値が与えられたとき、該入力値に含まれる前記第一種入力変数ξ,ηの前記部分入力平面上の座標点を実制御座標点として、該部分入力平面にて前記実制御座標点を内部に含む予め定められたモーフィング対象領域に存在するJ個(Q>J≧3)以上のモデル座標点を被モーフィング座標点として特定する被モーフィング座標点特定手段と、
前記第二種入力変数βと前記出力変数αとが張る制御パターン平面において、各被モーフィング座標点に対応するJ個の前記モデル制御パターンの形状を、前記部分入力平面における各前記被モーフィング座標点の前記実制御座標点までの距離に応じた重みにてモーフィングすることにより、前記実制御座標点に対応する合成制御パターンをする制御パターンモーフィング手段と、
該合成制御パターンに基づいて、前記必須入力変数群ξ,η,βの入力値に対応する、曇発生可能度を示す前記出力変数値αを計算する出力変数計算手段と、
を有することを特徴とする曇抑制機構制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−234342(P2009−234342A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80928(P2008−80928)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】