説明

曲げ加工部材、レール状部材及び画像形成装置

【課題】曲げ加工部材の折り曲げ部を挟んだ両面において高精度な平坦精度を得ることができる曲げ加工部材、並びに、その曲げ加工部材を用いたレール状部材、及び、画像形成装置を提供する。
【解決手段】板材を折り曲げて成形される形状の折り曲げ部を有する曲げ加工部材において、前記折り曲げ部の凹面側の曲率半径rを前記板材の板厚t以下とするとともに、前記折り曲げ部の凸面側に前記折り曲げ部の長手方向に垂直な複数の溝を有し、前記溝は、折り曲げ部を挟んだ両面側に開口し、底部が前記両面側の開口を結んだ直線状に形成され、前記溝の直線状の底部の長さLが前記曲率半径rの2倍よりも大きく、前記溝の最深部の深さdが前記板材の板厚tよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材を曲げて加工した曲げ加工部材、並びに、その曲げ加工部材を用いたレール状部材及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、板材を折り曲げて加工した曲げ加工部材では、折り曲げ部の外側の材料は伸びて内側の材料は縮む。また、折り曲げ部の外側では、伸びた分を補おうとして折り曲げ部に沿って材料を引っ張る。このような伸び縮みが生じることで折り曲げ部に沿って曲げ加工部材が反る所謂鞍反りが発生してしまう。そのため、金型を用いた板材の曲げ加工の最終工程で、折り曲げ部の凸面側に複数の凹部を曲げ加工部材長手方向に間隔をあけて設けることで、曲げ加工部材の鞍反りを小さくすることが知られている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
曲げ加工部材の折り曲げ部の凸面側に凹部を設けると、その凹部にあった材料が折り曲げ部の長手方向に移動し凹部間に供給され、折り曲げ部の外側の引っ張り力が低減することにより、鞍反りを小さくすることができる。
【0004】
しかしながら、このような凹部では折り曲げ部の長手方向については前述のような効果を奏するものの、折り曲げ部を挟んだ両面の方向にも材料が押し出され、折り曲げ部を挟んだ両面の平坦性を損なうという問題がある。特に曲げ加工部材の板厚以下の小さな曲率半径での折り曲げの場合、折り曲げ部自体の面積が小さく、すぐそばに平坦性を要求される両面が配置されるため、折り曲げ部に凹部を形成すると折り曲げ部を挟んだ2つの面の平面性の維持が困難であった。
【0005】
ここで、レール状部材であるガイドレール上を移動するキャリッジに搭載されたインク吐出手段たる記録ヘッドにより、インクの液滴を記録紙に向けて吐出して画像を記録するインクジェット方式の画像形成装置が知られている(特許文献2など)。インクジェット方式の画像形成装置は、記録ヘッドから吐出されたインク滴が直接記録紙に着弾して画像を形成するため、画像の高画質化を実現するためには、インク滴の記録紙に対する着弾位置精度を高める必要がある。
【0006】
しかしながら、ガイドレールとして上述したような曲げ加工部材を用いた場合に曲げ加工部材のガイド面の平坦精度が悪いと、ガイドレール上でキャリッジを移動させて画像形成を行った際に、記録ヘッドから用紙の所望の位置にインク滴を吐出することができずに、画像品質が低下してしまう。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、曲げ加工部材の折り曲げ部を挟んだ両面において高精度な平坦精度を得ることができる曲げ加工部材、並びに、その曲げ加工部材を用いたレール状部材及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、板材を折り曲げて成形される形状の折り曲げ部を有する曲げ加工部材において、前記折り曲げ部の凹面側の曲率半径rを前記板材の板厚t以下とするとともに、前記折り曲げ部の凸面側に前記折り曲げ部の長手方向に垂直な複数の溝を有し、前記溝は、折り曲げ部を挟んだ両面側に開口し、底部が前記両面側の開口を結んだ直線状に形成され、前記溝の直線状の底部の長さLが前記曲率半径rの2倍よりも大きく、前記溝の最深部の深さdが前記板材の板厚tよりも小さいことを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、折り曲げ部への鞍反りを抑える加工を行う際に、折り曲げ部を挟んだ両面の方向への材料の押し出しを抑制し、折り曲げ部を挟んだ両面を高い平坦性で形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、曲げ加工部材の折り曲げ部を挟んだ両面において高精度な平坦精度を得ることができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】溝の開口幅について説明する図。
【図2】本発明に係る画像形成装置の一例を前方側から見た斜視説明図。
【図3】画像形成装置の機構部の要部を示す平面説明図。
【図4】折り曲げ部の材料の不均一な変形について説明する図。
【図5】(a)本発明に係わる構成例1の折り曲げ部の正面図、(b)構成例1の折り曲げ部の断面図。
【図6】構成例1の折り曲げ部の断面詳細図。
【図7】(a)本発明に係わる構成例2の折り曲げ部の正面図、(b)構成例2の折り曲げ部の断面図。
【図8】構成例2の折り曲げ部の断面詳細図。
【図9】板材の曲げ加工に用いる金型の模式図。
【図10】機能システム図。
【図11】出力の平坦精度を測定した折り曲げ部材の測定位置を示す図。
【図12】実験中に実施したある条件での溝の深さと反り量の関係を示す図。
【図13】(a)溝の深さと品質工学を用いた実験より得られたSN比との関係を示した要因効果図、(b)溝の深さと品質工学を用いた実験より得られた感度との関係を示した要因効果図。
【図14】溝の開口幅と反り量との関係を示す図。
【図15】品質工学で得られた最適条件での溝がある場合(a)、ない場合(b)の平坦精度(平面度)を比較した結果を示す図。
【図16】本実施形態による反りの矯正について説明する図。
【図17】(a)本実施形態による溝間の間隔について説明する正面図、(b)本実施形態による溝間の間隔について説明する側面図。
【図18】実験の中で実施したある条件での溝間の間隔と反り量の関係を示す図。
【図19】(a)溝間の間隔と品質工学を用いた実験より得られたSN比との関係を示した要因効果図、(b)溝間の間隔と品質工学を用いた実験より得られた感度との関係を示した要因効果図。
【図20】(a)溝間の間隔が等間隔で成形された折り曲げ部材の正面図、(b)溝間の間隔が等間隔で成形された折り曲げ部材の側面図。
【図21】(a)折り曲げ部長手方向中央部での溝間の間隔が等間隔になっており、折り曲げ部長手方向端部での溝間の間隔が中央部とは異なっている折り曲げ部材の正面図、(b)折り曲げ部長手方向中央部での溝間の間隔が等間隔になっており、折り曲げ部長手方向端部での溝間の間隔が中央部とは異なっている折り曲げ部材の断面図。
【図22】溝による材料の供給について説明する図。
【図23】(a)ガイドレールの正面図、(b)ガイドレールの断面図、(c)ガイドレールにキャリッジが支持された状態を示す斜視図。
【図24】溝があるガイドレール(a)、溝がないガイドレール(b)の平坦精度(平面度)を比較した結果を示す図。
【図25】溝があるガイドレール、溝がないガイドレールを用いた場合のキャリッジの主走査方向直進性の差異を示す図。
【図26】従来技術を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した画像形成装置の実施形態について添付図面を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を前方側から見た斜視説明図である。
【0013】
この画像形成装置は、装置本体1と、装置本体1に装着された用紙を装填するための給紙トレイ2と、装置本体1に着脱自在に装着されて画像が記録(形成)された記録材としての用紙をストックするための排紙トレイ3とを備えている。さらに、装置本体1の前面の一端部側(給排紙トレイ部の側方)には、前面から装置本体1の前方側に突き出し、上面よりも低くなったインクカートリッジを装填するためのカートリッジ装填部4を有し、このカートリッジ装填部4の上面は操作ボタンや表示器などを設ける操作/表示部5としている。
【0014】
カートリッジ装填部4には、色の異なる記録液(インク)、例えば黒(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクをそれぞれ収容した複数の記録液カートリッジであるインクカートリッジ10k,10c,10m,10y(色を区別しないときは「インクカートリッジ10」という。)を、装置本体1の前面側から後方に向って挿入して装填可能とし、このカートリッジ装填部4の前面側には、インクカートリッジ10を着脱するときに開く前カバー(カートリッジカバー)6を開閉可能に設けている。また、インクカートリッジ10k,10c,10m,10yは縦置き状態で横方向に並べて装填する構成としている。
【0015】
前カバー6は、全体が、この前カバー6を閉じた状態で、カートリッジ装填部4内に装填されている複数のインクカートリッジ10k,10c,10m,10yを外部から視認することができる透明又は半透明の部材で形成されている。なお、インクカートリッジ10k,10c,10m,10yを外部から視認することができれば、一部が透明又は半透明の部材で形成されている構成とすることもできる。
【0016】
また、操作/表示部5には、各色のインクカートリッジ10k,10c,10m,10yの装着位置(配置位置)に対応する配置位置で、各色のインクカートリッジ10k,10c,10m,10yの残量がニアーエンド及びエンドになったことを表示するための各色の残量表示部11k,11c,11m,11y(色を区別しないときは「残量表示部11」という。)を配置している。さらに、この操作/表示部5には、電源ボタン12、用紙送り/印刷再開ボタン13、キャンセルボタン14を配置している。
【0017】
次に、この画像形成装置の機構部について説明する。
図3は、この画像形成装置の機構部の要部を示す平面説明図である。
フレーム21を構成する左右の側板21A,21Bに横架したガイド部材であるガイドレール31に沿ってキャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによって図3で矢示方向(キャリッジ走査方向:主走査方向)に移動走査する。このキャリッジ33には、記録液の液滴(インク滴)を吐出するための液体吐出ヘッドである複数の記録ヘッド34を複数のノズルを主走査方向と交叉する方向に配列し、装着している。
【0018】
ここで、記録ヘッド34は、例えば、イエロー(Y)の液滴を吐出する記録ヘッド34y、マゼンタ(M)の液滴を吐出する記録ヘッド34m、シアン(C)の液滴を吐出する記録ヘッド34c、黒(K)の液滴を吐出する記録ヘッド34kとで構成している。なお、「記録ヘッド34」というときは色を区別しないものとする。また、黒以外の記録ヘッド34y,34m,34cについては、カラー記録ヘッドとも称する。なお、ヘッド構成は、これらの例に限るものではなく、1又は複数の色の液滴を吐出する1又は複数のノズル列を有する記録ヘッドを1又は複数用いて構成することもできる。
【0019】
記録ヘッド34としては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための吐出駆動手段として備えたものなどを使用できる。
【0020】
また、キャリッジ33には、各記録ヘッド34にそれぞれ各色の記録液を供給するための各色のヘッドタンク35y,35m,35c,35k(色を区別しない場合は「ヘッドタンク35」という。)を搭載している。このヘッドタンク35には各色の記録液供給チューブ37を介して前述した各色のインクカートリッジ10(各色を区別する場合には、「インクカートリッジ10y,10m,10c,10k」という。)から記録液を供給するようにしている。
【0021】
なお、本願において、「用紙」とは材質を紙に限定するものではなく、OHP、布、ガラス、基板などを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味であり、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含む。また、画像形成、記録、印字、印写、印刷はいずれも同義語とする。
【0022】
また、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。
【0023】
また、「インク」とは、特に限定しない限り、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用い、例えば、DNA試料、レジスト、パターン材料、樹脂なども含まれる。
【0024】
また、「画像」とは平面的なものに限らず、立体的に形成されたものに付与された画像、また立体自体を三次元的に造形して形成された像も含まれる。
【0025】
次に、本実施形態における画像形成装置の動作について説明する。
本実施形態の画像形成装置においては、給紙トレイ2から用紙が1枚ずつ分離給紙され、その用紙は記録ヘッド34y,34m,34c,34kと対向する印字領域を通過するように搬送される。用紙が印字領域を通過する際、記録ヘッド34y,34m,34c,34kから各色のインク滴が吐出され、これにより用紙上に画像が形成される。記録ヘッド34y,34m,34c,34kによって画像を記録する際、用紙の搬送は一時停止され、キャリッジ33を主走査方向へ移動させながら、印字命令に対応する画像信号に応じて記録ヘッド34y,34m,34c,34kを駆動し、停止している用紙に対してインク滴を吐出し、1行分(1走査分)の画像を記録する。その後、用紙を所定量だけ副走査方向へ搬送して再び一時停止した後、次の行の記録を行う。記録終了信号あるいは用紙の後端が所定の副走査方向位置に到達した旨の信号を受けることにより、画像形成動作は終了し、用紙は排紙トレイ3に排紙される。
【0026】
また、キャリッジ33の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド34のノズルの状態を維持し、回復するためのメンテナンスユニット91が設けられている。このメンテナンスユニット91には、記録ヘッド34の各ノズル面をキャッピングする密閉空間形成部材としてのキャップ部材92と、ノズル面をワイピングするためのワイパーブレード93と、空吐出(画像記録に寄与しない液滴の吐出)を行うときに吐出された液滴を受けるための空吐出受け94などを備えている。また、キャリッジ33の走査方向の他方側の非印字領域には、同様に、空吐出時の液滴を受けるための空吐出受け99を備えたサブメンテナンスユニット98を備えている。
【0027】
所定のインク吸引タイミングが到来してインク吸引処理を行う場合、まず、キャリッジ33をメンテナンスユニット91まで移動させ、鉛直方向真下を向いている記録ヘッド34のノズル面をその下方からキャップ部材92でキャッピングする。これにより、ノズル面を被覆したキャップ部材92の内部は密閉状態となる。そして、キャップ部材92に設けられた吸引口に接続された図示しない吸引ポンプによりキャップ部材92の内部を吸引すると、キャップ部材92が記録ヘッド34のノズル面に吸着してキャップ部材内部の密閉性が高まるとともにキャップ部材の内部が負圧となり、記録ヘッド34内のインクがノズル面上のノズル34aから吸い出される。
【0028】
また、所定の空吐出タイミングが到来して空吐出処理を行う場合、キャリッジ33をメンテナンスユニット91またはサブメンテナンスユニット98まで移動させ、鉛直方向真下を向いている記録ヘッド34のノズル面を空吐出受け94,99に対向させる。そして、所定の空吐出駆動を行って記録ヘッド34のノズル34aからインク滴を吐出させる。
【0029】
ここで、ガイドレール31の平坦精度が悪いとキャリッジ33を移動させて画像形成を行った際に記録ヘッド34から用紙の所望の位置にインク滴を吐出することができずに、画像品質が低下するといった問題が生じる。
【0030】
図4は折り曲げ部の材料の不均一な変形について説明する図である。
板材を折り曲げて成形された折り曲げ部材40では、折り曲げ部40aの外側の材料が伸びて矢印M3方向に引っ張られ、折り曲げ部40aの内側の材料が余り矢印M4方向や矢印M5方向に縮む。また、折り曲げ部40aの外側の材料は伸びた分を補おうとして折り曲げ部長手方向端部から中央部に向けて材料を矢印M1方向や矢印M2方向に引っ張る。このような不均一な伸びや縮みによって、折り曲げ部40aに沿って反りが生じてしまう。
【0031】
この反りの低減方法として、従来、図26に示すように折り曲げ部に凹部を形成する構成が採用されている。しかし、このような凹部では折り曲げ部の長手方向の反りは低減できるが、長手方向と垂直な方向には凹部によって押し出された材料が図26の丸囲み部(2箇所)に盛り上がってしまい、折り曲げ部を挟んだ両側の面の平坦性が損なわれてしまう。図26のように緩やかな曲率の折り曲げであれば、曲率のある折り曲げ部の範囲内に凹部の影響を治め、折り曲げ部を挟んだ両側の平坦面に影響を与えないことも可能であるが、このような構成では曲げ加工部材自体をコンパクトに形成することができない。
【0032】
一方、曲率半径を小さくすると曲げ加工部材をコンパクトにできるものの、反りを低減できるほどの凹部を形成すると凹部のすぐそばにまで折り曲げ部を挟んだ両側の平坦面が迫り、前述の通りこの面の平坦性を高精度に維持することが困難となる。
【0033】
[構成例1]
図5(a)は本発明に係わる構成例1の折り曲げ部材40の折り曲げ部40aの正面図であり、図5(b)は構成例1の折り曲げ部材40の折り曲げ部40aの断面図である。また、図6は図5(b)の折り曲げ部をより詳細に示した図である。
【0034】
図5(a)や図5(b)に示すように、折り曲げ部材40の折り曲げられた面40cの折り曲げ部40aに沿った凸面側に折り曲げ部の長手方向に垂直な溝40bを設けている。このように、溝40bを折り曲げ部40aに設けて折り曲げ部材40の材料を溝40bの両側にはみ出させることによって折り曲げ部40aの反りを低減できるとともに、溝形状であるために溝の長手方向両端部への折り曲げ部材40の材料のはみ出しは小さく抑制でき、折り曲げ部を挟んだ両面(図5(b)におけるL字構造の垂直面と水平面)の平坦性を高精度に維持できる。
【0035】
以下、図6を用いてより具体的に説明する。本実施形態では折り曲げ部40aの凹面側の曲率半径rを前記板材の板厚t以下とするコンパクトな折り曲げ構造をとっている。このような構成では曲面部が小さくなるため、曲面部に凹部を形成した場合にその凹部によりはみ出した材料で折り曲げ部を挟んだ両面(図5(b)におけるL字構造の垂直面と水平面)の平坦性を高精度に維持することができない。
【0036】
そこで、本構成例では折り曲げ部40bの凸面側に折り曲げ部40aの長手方向に垂直な複数の溝を形成している。この溝は両端が折り曲げ部を挟んだ両面(図5(b)におけるL字構造の垂直面と水平面)側に開口し、底部が前記両面側の開口を結んだ直線状に形成されている。これにより、開口部近傍に近づくほど溝の深さは浅くなるため、開口部近傍に押し出される材料の量は小さく、両面(図5(b)におけるL字構造の垂直面と水平面)の平坦性が高精度に維持される。
【0037】
ここで、溝の直線状の底部の長さLは前記曲率半径rの2倍よりも大きく、前記溝部の最深部の深さdが前記板材の板厚tよりも小さい。折り曲げによる材料の移動が発生する領域は、折り曲げの曲率半径が大きくなれば広く、曲率半径が小さければ狭くなり、板厚によらず少なくとも凹面側の曲率半径rの2倍(曲率直径)の領域に材料の大きな移動が発生する。したがって、溝の直線状の底部の長さLは曲率半径rの2倍以上の長さが必要となる。
【0038】
一方、深さdが板厚tよりも大きくなると、溝が板を貫通してしまい凸面側だけでなく凹面側の材料も溝の左右に押し広げてしまい、反り矯正の効果が得られない。すなわち、折り曲げ部40aの凸面側の材料だけを曲げ加工部材の長手方向に押し出して反り矯正を行うために、深さdを板厚tよりも小さくする必要がある。
【0039】
なお、ここで溝の直線状の底部の長さLの上限については特に限定されず、溝の底部が直線状であり、かつ、深さdが板厚tよりも小さく形成される範囲であれば効果を奏するが、溝形成部の強度保持の観点から曲率半径の2倍に両側の面の板厚を加えた2×(r+t)以下とすることが好ましい。
【0040】
また、溝の長手方向からみた断面形状は、図5(a)ではV字状に記載されているが、これに限るものではなく、溝の左右に材料を押し出す機能があればよく、例えば矩形、台形、W字状等でも本発明の効果を奏する。
【0041】
[構成例2]
図7(a)は本発明に係わる構成例2の折り曲げ部材50の正面図であり、図7(b)は構成例2の折り曲げ部材50の断面図である。また、図8は図7(b)の折り曲げ部をより詳細に表した図である。
【0042】
本構成例においては、折り曲げられた面50cの折り曲げ部50aに沿って設けた溝50bの形状が、図6に示した第1の実施形態の折り曲げ部材の折り曲げ部に設けた溝の形状と異なっている。構成例1の折り曲げ部に設けた溝の形状では、折り曲げ部を挟んだ両面への材料の押し出しを抑えることにより、両面の平坦性は高精度に形成し折り曲げ部長手方向反り量も減少させることができるが、より反り量を抑えるためには溝の形態、配置を工夫する必要がある。本実施形態では、品質工学による検討を行い、折り曲げ部長手方向の反りをより低減する溝の構成とした。
【0043】
図9は、板を折り曲げるとともに折り曲げ部に溝50bを成形する金型の構造について説明する図である。
【0044】
図9(a)に示すように被加工材である板材60をダイ60cの上面に設置した後、図9(b)に示すようにパンチ60bで板材60を押圧することで曲げ加工が施される。この際、板材60がダイ60cの底面に突き当たると、板材60の折り曲げ部がダイ60cの底面から突出したコマ60dの突起部60eに当たり、板材60の折り曲げ部に溝50bが成形される。
【0045】
<品質工学を用いた実験について>
反り量の低減のため、加工力、溝の深さ、溝の成形間隔などの加工条件が曲げ後の反り量にどの程度影響を及ぼすのか検討した。曲げ加工後の部品の反り量は加工条件、金型仕様、材料、設備仕様など多くの要因により決定される。これらの要因がある中で最適な条件を見つけるためには時間がかかり効率が悪い。
【0046】
そこで、品質工学を用い反り量が低減できる因子の検討を行った。品質工学を用いた実験を行った結果、溝の深さを浅くすることや、溝の成形間隔を広げることで高精度な平坦精度を得られることがわかった。
【0047】
実験計画の概要を以下に示す。理想的は反りがない状態であると考え、ゼロ望目特性を用いた。
【0048】
図10は機能システム図を示しており、この機能システム図に示した因子を用いて実験を実施した。図11に出力の平坦精度を測定した試験片である折り曲げ部材50の測定位置を示す。折り曲げ部材50の面50cの反り量を、測定点A、測定点B、測定点C、測定点D及び測定Eの5箇所で測定し、折り曲げ部材50の面50cの反り量を測定した。また、測定結果から数1を用いてSN比を算出し、数2を用いて感度を算出した。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
図12に、実験で実施した所定条件での溝50bの深さdと反り量との関係を示す。なおここで、板厚tは0.8[mm]、曲率半径rの値は0.1[mm]とし、溝数は15本、溝間の間隔は10[mm]とし、部材長L1が150[mm]の曲げ加工部材に左右対称となるように配置した。また、溝50bの深さdは板厚に対する割合で表しており、値が小さいほど溝50bの深さdが浅くなる。ここでは、溝50bの深さdが板厚の29[%]、33[%]、37[%]の場合を示している。図12からわかるように、溝50bの深さdが浅くなると各測定位置の反り量が小さくなるという効果が得られる。
【0052】
図13(a)は溝50bの深さdと品質工学を用いた実験より得られたSN比との関係を示した要因効果図であり、図13(b)は溝50bの深さdと品質工学を用いた実験より得られた感度との関係を示した要因効果図である。
【0053】
図13(a)からわかるように、溝50bの深さdが浅くなるとSN比が大きくなる。すなわち、バラツキが少なくなり安定する。また、図13(b)からわかるように、溝50bの深さdが浅いと感度が小さくなる。このことから、溝50bの深さdが浅いことで、平坦精度の良い曲げ加工部材を製作できることがわかった。この実験での再現率(実験から推定したSN比と確認実験で得られたSN比との比率)は82[%]となった。このことから、品質工学を用いた実験の結果に基づいた、図13(a)及び図13(b)に示した要因効果図は信頼できると言える。
【0054】
ここで、溝50bの深さdを浅くすると反り量が低減するのには、次の要因がある。すなわち、引っ張られている材料に足りない材料を供給する効果が溝50bにあるが、溝50bの深さdが深いと材料の供給が多くなり、材料余りによる反りが発生する。そのため、溝50bの深さdを浅くし材料の供給を少なくすることで、材料余りによる反りが発生するのを抑えつつ、曲げ加工部材の鞍反りを小さくすることが可能となる。
【0055】
一方で、溝50bの深さdを浅くするとよりバラツキが小さく、平坦精度の良い曲げ加工部材が得られる可能性があるが、溝50bの深さdが浅すぎると、量産でのバラツキ、材料の板厚、金型の摩耗、金型の出し入れなどで、安定して溝50bを形成することができなくなる。そのため、溝50bの深さdは板厚の5[%]以上必要となる。
【0056】
これまで、溝50bの深さに着目した品質工学による曲げ加工部材の反り量について検討を行ってきたが、次に、溝50bの開口部面積と反り量との関係について検討を行った。図1は溝50bの開口部の幅について説明する図である。折り曲げ部材50の折り曲げ部50aのR部凸面側(図中斜線部)に、複数の溝50bが成形されている。図1中にW1、W2で表わすものが開口幅であり、溝の開口が最も開いている部位の幅を指す。
【0057】
図14に、溝50bの開口部面積と反り量との関係を示す。
グラフ(1)は、折り曲げ部50aの凸面側の全長(図1におけるL1)に対する溝50bの開口部の幅の合計(図1におけるW1+W2)の割合が0.88[%]であり、溝50bの深さdが板厚の28[%]の場合である。グラフ(2)は、同割合が1.26[%]であり、同深さdが板厚の33[%]の場合である。グラフ(3)は、同割合が2.52[%]であり、同深さdが板厚の33[%]の場合である。グラフ(4)は、同割合が2.79[%]であり、同深さdが板厚の37[%]の場合である。グラフ(5)は、同割合が3.29[%]であり、同深さdが板厚の28[%]の場合である。グラフ(6)は、同割合が5.22[%]であり、同深さdが板厚の37[%]の場合である。
【0058】
図14からわかるように、凸面側の全長に対する溝50bの開口部の幅の合計の割合が3[%]より大きい場合には、溝50bの深さdが板厚の28[%]、37[%]のどちらも、反り量が大きい。一方、凸面側の全長に対する溝50bの開口部の幅の合計の割合が3[%]以下であれば、溝50bの深さdが板厚の28[%]、33[%]、37[%]のいずれでも、反り量を低減することができる。これは溝50bを成形することで、伸びた材料に折り曲げ部に沿って材料を過剰に供給せず適切な量だけ供給し、材料の伸びを緩和させることで折り曲げ後の反りを矯正しているためである。
【0059】
なお、溝50bの開口部の幅の合計の値の設定は、個々の溝50bの幅を変更して調整してもよいし、溝50bの数を増減させて調整してもよい。しかし、後述するように溝間の間隔も反りへ影響を与えるため、個々の溝の幅を変更して調整することが好ましい。
【0060】
図14から、凸面側の全長に対する溝50bの開口部の幅の合計の割合が3[%]以下で、溝50bの深さdは板厚の40[%]以下の深さであれば反り量を小さく抑えることができることがわかる。また、量産性を考慮すると材料ロットのバラツキなどを考慮して、溝50bの深さdが板厚の5[%]以上必要となる。
【0061】
以上のことから、板を折り曲げて成形される形状の折り曲げ部に沿って深さdが板厚の5[%]以上40[%]以下で、凸面側の全長に対する開口部の幅の合計の割合が3[%]以下である溝50bを成形することで、反り量を小さく抑える効果を得ることができる。
【0062】
図15は、品質工学で得られた中での最適条件で成形した溝50bが折り曲げ部50aにある場合(a)と、溝50bがない場合(b)とでの折り曲げ部を挟んだ両面の平坦精度(平面度)を比較した結果を示したグラフである。
【0063】
グラフ中の凡例A、Bは図7に記載の測定位置A、Bに対応し、測定位置Aについては図7の上方向を正、測定位置Bについては図7の左方向を正としてプロットしている。なお、ここでは後述するガイドレールに用いる部材で評価を行ったため、部材長L1は380[mm]、板厚tが1[mm]の部材を曲率半径rが0.1[mm]となるように折り曲げたものを用い、最適条件として選定した溝50bは深さdを板厚tの15[%]、開口部の幅の合計の割合を0.7[%]とし、40[mm]間隔で10箇所設けた。
【0064】
図15(b)からわかるように、溝50bを設けない構成では、折り曲げ部を挟んだ両面の平坦精度は折り曲げに伴う反り(一方向に凸になる変形)と折り曲げに伴う面内へ材料の不規則な引き込みによる変形で面内にうねりが生じるために平坦精度が著しく悪い。従来技術のように凹部を形成する構成では、反りはある程度低減できるもののうねりを低減する効果が小さく、特に曲率半径rの小さな折り曲げでは前述のように凹部からの材料のはみ出しによりより複雑なうねりを生じさせることとなる。
【0065】
これに対し、前記条件で溝50bを形成した曲げ加工部材においては、図15(a)に示す通り、折り曲げに伴う反り、うねりの両方を大きく低減し、折り曲げ部を挟んだ両面の平坦精度を大きく向上させることができ、平面度の数値で約1/4まで低減することができる。
【0066】
なお、反りをより大きく低減し、平坦精度を高めるには深さdは10[%]以上37[%]以下の範囲とすることが好ましく、15[%]以上28[%]以下とすることがより好ましい。一方、開口部の幅の割合については、極わずかな幅であっても平坦精度の向上に寄与するが、より効果の大きな範囲として0.5[%]以上1.0[%]以下とすることが好ましい。
【0067】
図16は本実施形態による反りの矯正について説明する図である。
図16(a)、図16(b)は折り曲げ部50aに溝50bがない折り曲げ部材50を示しており、図16(c)、図16(d)は品質工学で得られた最適条件で成形した溝50bが折り曲げ部50aに複数設けられた折り曲げ部材50を示している。
【0068】
折り曲げ部材50の折り曲げ部50aに溝50bを複数設けることで、折り曲げ部50aの材料の不均一な伸びを均一にし、図16(a)や図16(b)に示すような折り曲げ部50aに沿って生じた反り量lの大きな反りを、図16(c)、図16(d)に示すように反り量lよりも小さい反り量lにして反りを矯正することができる。
【0069】
[構成例3]
<本実施形態による溝間の間隔について>
図17(a)は溝間の間隔Lについて説明する折り曲げ部材50の正面図であり、図17(b)は溝間の間隔Lについて説明する折り曲げ部材50の側面図である。
【0070】
折り曲げ部材50の折り曲げ部50aに沿って複数の溝50bが間隔Lで等間隔に成形されている。
【0071】
図18に、実験で実施した所定条件での溝間の間隔と反り量との関係を示す。ここでは、溝50bの深さdが板厚の37[%]であり、溝間の間隔Lが10[mm](溝本数15本)、20[mm](溝本数8本)、40[mm](溝本数4本)の場合について示している。また、平坦精度を測定した試験片の測定位置は図11に示した位置と同じである。図18より、溝間の間隔Lが大きくなると反り量が小さくなり平坦精度が高くなる効果が得られるのがわかる。
【0072】
図19(a)は溝間の間隔Lと品質工学を用いた実験より得られたSN比との関係を示した要因効果図であり、図19(b)は溝間の間隔Lと品質工学を用いた実験より得られた感度との関係を示した要因効果図である。
【0073】
図19(a)からわかるように、溝間の間隔Lが大きいとSN比が大きくなり、バラツキが少なくなり安定する。また、図19(b)からわかるように、溝間の間隔Lが大きいと感度が小さくなる。このことから、溝間の間隔Lを大きくすることで、反り量を低減した折り曲げ部材50を製作できることがわかった。
【0074】
この実験での再現率(実験から推定したSN比と確認実験で得られたSN比との比率)は82[%]以上となった。このことから、品質工学を用いた実験の結果に基づいた、図19(a)及び図19(b)に示した要因効果図は信頼できると言える。
【0075】
溝間の間隔Lを大きくすることで反り量が低減するのには、次の要因がある。すなわち、引っ張られている材料に足りない材料を供給する効果が溝50bにあるが、溝間の間隔Lが小さいと材料の供給が多くなり、材料余りによる反りが発生する。そのため、溝間の間隔Lを大きくし材料の供給を少なくすることで、材料余りによる反りが発生するのを抑えることができ、反り量を低減させることが可能となる。
【0076】
品質工学を用いた実験の結果より、溝間の間隔Lが大きいと、SN比が大きくなりバラツキが少なく安定するとともに、感度が小さくなり平坦精度が良くなることがわかる。
【0077】
[構成例4]
図20(a)は折り曲げ部材50の長手方向を均等に分割して溝50bを配置した折り曲げ部材50の正面図であり、図20(b)は同折り曲げ部材50の側面図である。
【0078】
折り曲げ部材50の折り曲げ部50aの曲げ線上に沿って溝50bが間隔L1で等間隔に成形されている。溝間の間隔及び折り曲げ部長手方向端部から溝50bまでの間隔を等間隔とすることで、溝50bから材料を供給する効果を曲げ長手方向にほぼ均一に分散することができ、平坦精度がより向上する効果を得ることができる。
【0079】
[構成例5]
図21(a)は、折り曲げ部長手方向中央部での溝間の間隔が等間隔になっており、折り曲げ部長手方向端部から溝50bまでの間隔が中央部の溝間の間隔と異なっている折り曲げ部材50の正面図である。図21(b)は、同折り曲げ部材50の側面図である。
【0080】
折り曲げ部材50の折り曲げ部50aの中央部では、曲げ線上に複数の溝50bが間隔L2で等間隔に成形されており、折り曲げ部50aの端部では曲げ線上に端部から溝50bまでの間隔L3で中央部の溝間の間隔とは異なって形成されている。
【0081】
図21(a)では端部から溝50bまでの間隔のみが中央部の溝間の間隔と異なっているが、端部近傍の溝間の値も異ならせてもよいし、中央部から段階的に溝間の間隔及び折り曲げ部長手方向端部から溝50bまでの間隔を変化させてもよい。また、図21(a)では端部側の間隔を小さくしているが、反りの発生状態に合わせて間隔を大きくする方向に変化させてもよい。
【0082】
折り曲げ部材50の端部は拘束されていないため、端部も中央部と等間隔で溝50bを成形すると中央部と端部の反りの状態は異なる。そこで、折り曲げ部50aの端部では溝間の間隔及び折り曲げ部材長手方向端部から溝50bまでの間隔を中央部とは反りの状態に合わせて異ならせることで、折り曲げ部材50の端部の平坦精度を向上させる効果を得ることができる。
【0083】
[構成例6]
図22は溝50bによる材料の供給について説明する図である。
折り曲げ部材50の折り曲げ部50aに沿って溝50bが成形されている。この溝50bにより材料が矢印X方向や矢印X方向に供給される。この際、溝の長手方向から見た溝50bの断面形状がV字状であることで、最も材料の足りない折り曲げ部50aの曲げ線50a1上で最も多くの材料を供給することができる。また、折り曲げ部50aの曲げ線50a1から直交する方向に離れるにしたがって材料の不足量が減ってくるが、溝の長手方向から見た溝50bの断面形状をV字状とすることで、折り曲げ部50aの曲げ線50a1から直交する方向に離れた位置での材料の供給量を減らすことができ、過剰に材料が供給されるのを抑制することができる。そのため、溝の長手方向から見た溝50bの断面形状をV字状とすることで、材料の伸びに合わせて効率良く材料を供給することができる。
【0084】
また、溝の長手方向から見た溝50bの断面形状がV字状であると、図9に示したような金型のダイ60cに設けるコマ60dの突起部60eの加工が簡単であり、大きさも金型に対して十分に小さくすることができ金型への負担が少なくなるため、安定して高精度な平坦精度の折り曲げ部材50を量産することができる。
【0085】
[構成例7]
図23(a)はキャリッジ33を移動可能に支持するレール状部材であるガイドレール31の正面図であり、図23(b)はガイドレール31の側面図であり、図23(c)はガイドレール31にキャリッジ33が支持された状態を示す斜視図である。
【0086】
キャリッジ33はガイドレール31の面によって支持されており、ガイドレール31の面を摺動することで印字を行っている。ガイドレール31とキャリッジ33とは、曲げ加工した面31a、面31c、面31dとで接触している。ガイドレール31の折り曲げ部31e、折り曲げ部31f、折り曲げ部31gの曲げに沿って、微細な溝31bが複数成形されている。なお、図示していないが、キャリッジ33には記録ヘッド34(図3参照)が装着されている。
【0087】
図24は、上述のようにガイドレール31の折り曲げ部31e、折り曲げ部31f、折り曲げ部31gの曲げに沿って、微細な溝31bを複数成形した場合(a)と、溝31bがない場合(b)とでの折り曲げ部を挟んだ両面の平坦精度(平面度)を比較した結果を示したグラフである。グラフ中の凡例A、B、Cは図23(b)に記載の測定位置A、B、Cに対応し、測定位置Aについては図の上方向を正、測定位置Bについては図の右方向を正、測定位置Cについては図の左方向を正としてプロットしている。なお、部材長L1は380[mm]、板厚tが1[mm]の部材を曲率半径rが0.1[mm]となるように折り曲げたものを用い、溝31bは深さdを板厚tの15[%]、開口部の幅の合計の割合を0.7[%]とし、40[mm]間隔で10箇所設けた。
【0088】
図24(a)に示す通り、ガイドレールの各折り曲げ部(31e、31f、31g)に溝31bを形成することによりガイドレールの各面の平坦精度を大きく向上させることができ、平面度の数値で約1/6まで低減することができる。
【0089】
このように形成されたガイドレールを用いてキャリッジを主走査方向に移動させた場合のキャリッジの直進性(位置変動)を図25に示す。ここでは、図23(b)の右方向を正としてプロットしており、ガイドレールの特にB面の平坦精度がキャリッジの直進性に大きく影響を与えていることが分かる。
【0090】
以上のように、ガイドレール31の平坦精度が向上することで、ガイドレール31でキャリッジ33をガイドしながら移動させて画像形成を行った際に、記録ヘッド34から用紙の所望の位置に液滴を吐出することが可能となり、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0091】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
板材を折り曲げて成形される形状の折り曲げ部50aを有する折り曲げ部材50などの曲げ加工部材において、前記折り曲げ部の凹面側の曲率半径rを前記板材の板厚t以下とするとともに、前記折り曲げ部の凸面側に前記折り曲げ部の長手方向に垂直な複数の溝を有し、前記溝は、折り曲げ部を挟んだ両面側に開口し、底部が前記両面側の開口を結んだ直線状に形成され、前記溝の直線状の底部の長さLが前記曲率半径rの2倍よりも大きく、前記溝の最深部の深さdが前記板材の板厚tよりも小さい。これによれば、上記実施形態について説明したように、曲げ加工部材の折り曲げ部を挟んだ両面において高精度な平坦精度を得ることができる。
(態様B)
(態様A)において、上記溝は、該溝の長手方向から見た断面形状がV字状である。これによれば、上記実施形態について説明したように、材料の伸びに合わせて効率良く材料を供給することができる。
(態様C)
(態様A)または(態様B)において、上記溝の最深部の深さdが板厚の5[%]以上40[%]以下であり、上記折り曲げ部の長手方向に沿う方向において各溝の開口部の幅の合計が該折り曲げ部の凸面側の3[%]以下である。これによれば、上記実施形態について説明したように、高精度な平坦精度を得ることができる。
(態様D)
(態様A)、(態様B)または(態様C)において上記複数の溝の溝間の間隔が等間隔である。これによれば、上記実施形態について説明したように、材料を供給する効果を曲げ長手方向にほぼ均一に分散することができ、平坦精度がより向上する効果を得ることができる。
(態様E)
(態様A)、(態様B)または(態様C)において、上記複数の溝の溝間の間隔が40[mm]以上である。これによれば、上記実施形態について説明したように、反り量が小さくなり平坦精度が高くなる効果を得ることができる。
(態様F)
(態様A)、(態様B)または(態様C)において、上記複数の溝の溝間の間隔が等間隔であり、折り曲げ部の長手方向端部では前記複数の溝の溝間の間隔を長手方向中央部の溝間の間隔とは異ならせる。これによれば、上記実施形態について説明したように、折り曲げ部端部の平坦精度を向上させる効果を得ることができる。
(態様G)
移動体をガイドしながら移動可能に支持するガイドレール31などのレール状部材において、レール状部材として、(態様A)、(態様B)、(態様C)、(態様D)、(態様E)または(態様F)の曲げ加工部材を用いる。これによれば、上記実施形態について説明したように、レール状部材の平坦精度を向上させることができる。
(態様H)
液滴を吐出する記録ヘッド34などの液滴吐出ヘッドが設けられたキャリッジ33などのキャリッジと、キャリッジをガイドしながら移動可能に支持するガイドレール31などのレール状部材とを備えた画像形成装置において、レール状部材として、(態様G)のレール状部材を用いる。これによれば、上記実施形態について説明したように、レール状部材の平坦精度が向上することで、画像品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 装置本体
2 給紙トレイ
3 排紙トレイ
4 カートリッジ装填部
5 表示部
6 前カバー
10 インクカートリッジ
11 残量表示部
12 電源ボタン
13 印刷再開ボタン
14 キャンセルボタン
21 フレーム
21A 側板
21B 側板
31 ガイドレール
31a 面
31b 溝
31c 面
31d 面
31e 折り曲げ部
31f 折り曲げ部
31g 折り曲げ部
33 キャリッジ
34 記録ヘッド
34a ノズル
35 ヘッドタンク
37 記録液供給チューブ
40 折り曲げ部材
40a 折り曲げ部
40b 溝
40c 面
50 折り曲げ部材
50a 折り曲げ部
50b 溝
50c 面
60 板材
60b パンチ
60c ダイ
60d コマ
60e 突起部
91 メンテナンスユニット
92 キャップ部材
93 ワイパーブレード
98 サブメンテナンスユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特許第3633012号公報
【特許文献2】特開平9−99603号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材を折り曲げて成形される形状の折り曲げ部を有する曲げ加工部材において、
前記折り曲げ部の凹面側の曲率半径rを前記板材の板厚t以下とするとともに、
前記折り曲げ部の凸面側に前記折り曲げ部の長手方向に垂直な複数の溝を有し、
前記溝は、折り曲げ部を挟んだ両面側に開口し、底部が前記両面側の開口を結んだ直線状に形成され、
前記溝の直線状の底部の長さLが前記曲率半径rの2倍よりも大きく、前記溝の最深部の深さdが前記板材の板厚tよりも小さいことを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項2】
請求項1の曲げ加工部材において、
上記溝は、該溝の長手方向から見た断面形状がV字状であることを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項3】
請求項1または2の曲げ加工部材において、
上記溝の最深部の深さdが板厚の5[%]以上40[%]以下であり、
上記折り曲げ部の長手方向に沿う方向において各溝の開口部の幅の合計が該折り曲げ部の凸面側の全長の3[%]以下であることを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項4】
請求項1、2または3の曲げ加工部材において、
上記複数の溝の溝間の間隔が等間隔であることを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項5】
請求項1、2または3の曲げ加工部材において、
上記複数の溝の溝間の間隔が40[mm]以上であることを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項6】
請求項1、2または3の曲げ加工部材において、
上記折り曲げ部の長手方向中央部では上記複数の溝の溝間の間隔が等間隔であり、該折り曲げ部の長手方向端部では前記複数の溝の溝間の間隔を長手方向中央部の溝間の間隔とは異ならせることを特徴とする曲げ加工部材。
【請求項7】
移動体をガイドしながら移動可能に支持するレール状部材において、
前記レール状部材として、請求項1、2、3、4、5または6の曲げ加工部材を用いたことを特徴とするレール状部材。
【請求項8】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドが設けられたキャリッジと、
前記キャリッジをガイドしながら移動可能に支持するレール状部材とを備えた画像形成装置において、
前記レール状部材として、請求項7のレール状部材を用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−31992(P2013−31992A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8339(P2012−8339)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】