説明

有価金属回収処理液の処理方法

【課題】 有価金属の回収工程において用いられ排出された処理液に含まれる有機溶媒を水相から効率的に除去し、排液のCODやTOCを低減させることができる有価金属回収処理液の処理方法を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤と接触混合させ、その処理液中に含まれる有機溶媒を抽出する。さらに、その洗浄溶剤には、リチウムイオン電池を放電させた放電液を添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属回収処理液の処理方法に関し、特に、リチウムイオン電池から有価金属を回収する回収工程において排出される処理液から有機溶媒を効率的に除去し、排液の有機成分や排水処理コストを低減させることができる有価金属回収処理液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の地球温暖化傾向に対し、電力の有効利用が求められている。その一つの手段として電力貯蔵用2次電池が期待され、また大気汚染防止の立場から自動車用電源として、大型2次電池の早期実用化が期待されている。また、小型2次電池も、コンピュータ等のバックアップ用電源や小型家電機器の電源として、特にデジタルカメラや携帯電話等の電気機器の普及と性能アップに伴って、需要は年々増大の一途を辿る状況にある。
【0003】
これら2次電池としては、使用する機器に対応した性能の2次電池が要求されるが、一般にリチウムイオン電池が主に使用されている。
【0004】
このリチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極基板に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極基板にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着させた正極材、アルミニウムや銅からなる集電体、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルム製セパレータ、及び電解液や電解質等が封入されている。
【0005】
ところで、リチウムイオン電池の拡大する需要に対して、使用済みのリチウムイオン電池による環境汚染対策の確立が強く要望され、有価金属を回収して有効利用することが検討されている。
【0006】
上述した構造を備えたリチウムイオン電池から有価金属を回収する方法としては、例えば特許文献1及び2に記載されるような乾式処理又は焼却処理が利用されている。しかしながら、これらの方法は、熱エネルギーの消費が大きいうえ、リチウム(Li)やアルミニウム(Al)を回収できない等の欠点があった。また、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)が含有されている場合には、炉材の消耗が著しい等の問題もあった。
【0007】
このような乾式処理又は焼却処理の問題に対して、特許文献3及び4に記載されているように、湿式処理によって有価金属を回収する方法が提案されている。
【0008】
ここで、この湿式処理による方法においては、電池内部に含まれる電解液も処理の必要な物質となる。現状生産されているリチウムイオン電池の多くは、電解質として炭酸エチレンや炭酸ジエチル等の溶媒とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)といったリチウム塩等が使用されており、このような有機溶媒は乾式処理においては焼却対象のものとして扱われていた。
【0009】
しかしながら、湿式処理においては、有価金属の回収工程において使用する洗浄液等の処理液に、上述した電解液等の有機溶媒が混入し、ハンドリングが困難となっていた。また、このような有機溶媒を含有する処理液が水溶液系の排液にそのまま混入すると、排液のCOD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)やTOC(total organic carbon:全有機体炭素)を上昇させ、単純に系外に排出することができなくなる。
【0010】
したがって、有価金属を回収する工程にて排出される処理液について、電解質や電解液を構成する有機溶媒を効率的に除去し、排液のCODやTOCを低減させるとともに排水処理コストを低減させる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平07−207349号公報
【特許文献2】特開平10−330855号公報
【特許文献3】特開平08−22846号公報
【特許文献4】特開2003−157913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、有価金属の回収工程において用いられ排出された処理液に含まれる有機溶媒を水相から効率的に除去し、排液のCODやTOCを低減させることができる有価金属回収処理液の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられた処理液を、炭化水素系の洗浄溶剤を用いて処理することにより、排液のCODやTOCを低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤と接触混合させ、該処理液中に含まれる有機溶媒を抽出する。
【0015】
ここで、前記炭化水素を主成分とする洗浄溶剤は、ナフテン系洗浄溶剤であることが好ましい。また、その洗浄溶剤には、前記リチウムイオン電池を放電させた放電液を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有価金属の回収工程において用いられ排出された処理液に含まれる有機溶媒を水相から効率的に除去することができ、排液のCODやTOCを低減させることができるので、その水相を系外に放出することが可能となり、排水処理コストを大幅に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を溶媒抽出処理する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る有価金属回収処理液の処理方法について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.本発明の概要
2.有価金属の回収工程において排出される有機溶媒
3.有価金属回収処理液の処理方法
4.実施例
【0019】
<1.本発明の概要>
本発明は、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された有価金属回収処理液の処理方法であって、その処理液中に含まれた有機溶媒を効率的に取り除き、排液の有機成分や処理コストを低減させる方法である。
【0020】
リチウムイオン電池の湿式処理において、電池内部に含まれる電解液も処理の必要な物質となる。現在生産されているリチウムイオン電池の多くは、電解質として、炭酸エチレンや炭酸ジエチル等の溶媒とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)といったリチウム塩等が使用されており、これら電解質からなる有機溶媒は、乾式処理においては焼却対象のものとして扱われていた。湿式処理においては、これら有機溶媒は、電池解体物の洗浄処理や正極活物質剥離処理で用いる洗浄液等の処理液に溶解して排出されるが、このような有機溶媒を含有した処理液を効率的に処理する方法が求められている。
【0021】
そこで、本発明は、洗浄処理や正極活物質剥離作業等の有価金属回収工程において用いられ排出された処理液から、その処理液に溶解した電解質等からなる有機溶媒を効果的に処理する方法であり、具体的に、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤と接触混合させ、その処理液中に含まれる有機溶媒を抽出することを特徴とするものである。
【0022】
このような本発明によれば、排出された処理液に含まれる有機溶媒を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤を用いて抽出処理を行うことにより、水相から有機溶媒を効率的に除去して、排液のCODやTOCを低減させ、排水処理の低コスト化を図ることができる。
【0023】
以下、本発明の有価金属回収処理液の処理方法に関する具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)についてさらに詳細に説明する。
【0024】
<2.有価金属の回収工程において排出される有機溶媒>
まず、本発明に係る有価金属回収処理液の処理方法の説明に先立ち、その有価金属を回収する工程において排出される処理液及びその処理液に含有した有機溶媒について、図1に示すリチウムイオン電池からの有価金属の回収工程図を参照しながら以下に説明する。図1に示すように、リチウムイオン電池からの有価金属の回収する方法は、放電工程と、破砕・解砕工程と、洗浄工程と、正極活物質剥離工程と、浸出工程と、硫化工程とを有する。なお、本発明は、以下のリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法にのみ適用されるものではない。
【0025】
(放電工程)
放電工程では、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたって使用済み電池を解体するに先立ち、電池を放電させる。後述する破砕・解砕工程で電池を破砕・解砕することによって解体するに際して、電池が充電された状態では危険であることから、放電させて無害化する。
【0026】
この放電工程では、硫酸ナトリウム水溶液や塩化ナトリウム水溶液等の放電液10を用い、使用済みの電池をその水溶液中に浸漬させることによって放電させる。この放電液10は、この放電処理の後、排出される。
【0027】
(破砕・解砕工程)
破砕・解砕工程では、放電して無害化させた使用済みのリチウムイオン電池を破砕・解砕することによって解体する。
【0028】
この破砕・解砕工程では、無害化させた電池を、通常の破砕機や解砕機を用いて適度な大きさに解体する。また、外装缶を切断し、内部の正極材や負極材等を分離解体することもできるが、この場合は分離した各部分をさらに適度な大きさに切断することが好ましい。
【0029】
(洗浄工程)
洗浄工程では、破砕・解砕工程を経て得られた電池解体物を、水又はアルコールで洗浄することにより、電解液及び電解質を除去する。リチウムイオン電池には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の有機溶剤や、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のような電解質が含まれている。そのため、これらを予め除去することで、後述する正極活物質剥離工程での浸出液中に有機成分やリン(P)やフッ素(F)等が不純物として混入することを防ぐ。
【0030】
電池解体物の洗浄には水又はアルコールを使用し、振盪又は撹拌して有機成分及び電解質を除去する。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合液等を用いる。一般的にカーボネート類は一般的には水に不溶であるが、炭酸エチレンは水に任意に溶け、その他の有機成分も水に多少の溶解度を有しているため、水でも洗浄可能である。
【0031】
電池解体物の洗浄は、複数回繰り返して行うことが好ましい。また、例えば最初にアルコールのみを用いて洗浄した後に水を用いて再度洗浄する等、洗浄液の成分を変えて繰り返し行ってもよい。この洗浄工程により、有機成分及び電解質に由来するリンやフッ素等を後工程に影響を及ぼさない程度にまで除去する。
【0032】
この洗浄工程では、上述した水やアルコールを用いた洗浄により、電池に含まれていた電解液や電解質が除去されることから、例えばLiPF等の電解質や、炭酸エチレンや炭酸ジエチル等の電解液が含まれた洗浄液が、排液として排出されることとなる。すなわち、電解質や電解液等の有機溶媒を含有した洗浄液が排出されることとなる。
【0033】
(正極活物質剥離工程)
正極活物質剥離工程では、洗浄工程を経て得られた電池解体物を、硫酸水溶液等の酸性溶液や界面活性剤を含有した水溶液に浸漬させることにより、その正極基板から正極活物質を剥離して分離する。この工程により、正極活物質と正極基板であるアルミニウム箔を固体のままで分離する。なお、この工程では、電池解体物全てを硫酸水溶液や界面活性剤溶液に浸漬してもよいが、電池解体物から正極材部分だけを選び出して浸漬してもよい。
【0034】
酸性溶液として、例えば硫酸水溶液を使用する場合、その溶液のpHは0〜3の範囲に制御する。硫酸水溶液に対する電池解体物の投入量としては、10〜100g/lとする。また、界面活性剤含有溶液を用いる場合、その使用する界面活性剤の種類としては、特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等を用いることができる。界面活性剤の添加量としては1.5重量%〜10重量%とし、また界面活性剤の溶液のpHとしては中性とする。
【0035】
正極活物質剥離工程を終了した電池解体物は、篩い分けして、正極基板から分離したニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質、及びこれに付随するものを回収する。電池解体物全てを処理した場合には、負極活物質である黒鉛等の負極粉、及びこれに付随するものも回収する。一方、正極基板や負極基板の部分、アルミニウムや鉄等からなる外装缶部分、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルムからなるセパレータ部分、及びアルミニウムや銅(Cu)からなる集電体部分等は、分離して各処理工程に供給する。
【0036】
この正極活物質剥離工程では、上述した酸性溶液や界面活性剤含有溶液等を用いて電池解体物から正極活物質を剥離することにより、正極活物質やアルミニウム箔等の固形分が分離され、一方で固形分以外の、剥離処理に用いた酸性溶液や界面活性剤溶液等の処理液がろ液として排出される。このろ液には、洗浄工程で除去されなかった電解質や電解液等が溶解して含有されることとなる。すなわち、この正極活物質剥離工程では、有機溶媒を含有した処理液がろ液として排出されることとなる。
【0037】
(浸出工程)
浸出工程では、正極活物質剥離工程にて剥離回収された正極活物質を、固定炭素含有物や還元効果の高い金属等の存在下で、酸性溶液で浸出してスラリーとする。この浸出工程によって、正極活物質を酸性溶液に溶解して、正極活物質を構成する有価金属であるニッケルやコバルト等を金属イオンとする。
【0038】
正極活物質の溶解に用いる酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の鉱酸のほか、有機酸等を使用することができる。また、使用する酸性溶液のpHは、少なくとも2以下とし、反応性を考慮すると0.5〜1.5程度に制御することが好ましい。
【0039】
(硫化工程)
硫化工程では、浸出工程を経て得られた溶液を反応容器に導入し、硫化剤を添加することによって硫化反応を生じさせ、ニッケル・コバルト混合硫化物を生成することによって、リチウムイオン電池から有価金属であるニッケル、コバルトを回収する。硫化剤としては、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウム等の硫化アルカリを用いることができる。
【0040】
具体的に、この硫化工程では、浸出工程を経て得られた溶液中に含まれるニッケルイオン(又はコバルトイオン)が、下記(1)式又は(2)式に従って、硫化アルカリによる硫化反応により、硫化物となる。
Ni2+ + NaHS ⇒ NiS + H + Na ・・・(1)
Ni2+ + NaS ⇒ NiS + 2Na ・・・(2)
【0041】
硫化工程における硫化剤の添加量としては、溶液中ニッケル及びコバルトの含有量に対して1.0当量以上とする。ただし、操業においては、浸出液中のニッケル及びコバルトの濃度を精確かつ迅速に分析することが困難な場合があることから、それ以上に硫化剤を添加しても反応溶液中のORPの変動がなくなる時点まで行うことが好ましい。また、硫化反応に用いる溶液のpHとしては、pH2〜4程度とする。また、硫化反応の温度としては、特に限定されるものではないが、70〜95℃とし、好ましく80℃程度とする。
【0042】
このように、硫化工程における硫化反応を生じさせることにより、リチウムイオン電池の正極活物質に含まれていたニッケル、コバルトを、ニッケル・コバルト硫化物(硫化澱物)として回収することができる。
【0043】
以上詳細に説明したように、リチウムイオン電池から有価金属を回収する回収方法の各工程においては、洗浄工程に排出される洗浄液11や、正極活物質剥離工程で排出されるろ液12等の有価金属回収処理液が用いられる。そして、それら処理液は、処理工程を経て、電解質や電解液等の有機成分が溶解された形で排出される。すなわち、排出される処理液は、有機溶媒が含有されたものとなる。しかしながら、このような有機溶媒を含む処理液は、排液のCODの上昇を招くとともに排液処理コストの上昇をもたらすことから、効率的かつ効果的にその有機溶媒を除去することが望ましい。
【0044】
<3.有価金属回収処理液の処理方法>
そこで、本実施の形態に係る有価金属回収処理液の処理方法では、上述したリチウムイオン電池からの有価金属回収工程において用いられ排出された、洗浄液11や正極活物質剥離後のろ液12等の有価金属回収処理液(以下、洗浄液11やろ液12を、「処理液11,12」ともいう。)から、有機溶媒を効率的に除去し、排液のCODを低減させる。
【0045】
具体的に、本実施の形態に係る有価金属回収処理液の処理方法は、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤と接触混合させ、その処理液中に含まれる有機溶媒を抽出する。このような処理方法によれば、排出された処理液11,12に含まれる有機溶媒を水相から効果的に除去することができ、処理液11,12を含む排液のCODを低減させることができるので、その水相を系外に放出することが可能となり、排水の処理コストを大幅に低減させることができる。
【0046】
ここで、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤としては、特に限定されないが、例えばシクロヘキサン、デカリン等のナフテン系炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、イコサン等のパラフィン系炭化水素、1−デセン、1−ドデセン等のオレフィン系炭化水素、リモネン、ピネン等のテルペン系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素を主成分とする洗浄溶剤が挙げられる。
【0047】
これらの中で、特に、水への溶解度が低く、揮発性、引火性が低いという観点から、ナフテン系炭化水素洗浄剤を用いることが好ましい。市販製品としては、例えばテクリーンシリーズ(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を用いることができる。このようなナフテン系炭化水素洗浄剤の場合、繰り返して利用することも可能であり、最終的な有機溶媒の処理頻度や容量の低減を図ることができる点においても好ましい。
【0048】
溶媒抽出操作は、有機溶媒を含む処理液11,12と炭化水素を主成分とする洗浄溶剤とを接触混合させることによって行う。この抽出操作における洗浄溶剤のpHとしては、特に限定されないが、例えば3〜9とする。また、洗浄溶剤の温度としては、特に限定されないが、例えば20〜50℃程度とする。
【0049】
また、この溶媒抽出操作においては、上述した有価金属回収工程における放電工程から回収された放電液10を添加することが好ましい。放電液10は、硫酸ナトリウムや塩化ナトリウム等の塩からなり、この放電液10を洗浄溶剤と共に添加して処理液11,12と接触混合させることにより、洗浄溶剤の塩濃度を高めることができる。溶媒抽出処理においては、溶液中の塩濃度が高いほど抽出効率が高まることから、塩濃度が高い放電液10を添加することにより抽出効率を高めることができ、より効率的に処理液11,12中の有機溶媒を抽出することができる。
【0050】
放電液10の添加量としては、NaCl換算で100〜300g/lなるように添加することが好ましい。
【0051】
このように、有価金属の回収工程において用いられ排出された、電池を構成する電解液や電解質等の有機成分を含有する処理液11,12を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤に接触させて溶媒抽出操作を行うことにより、処理液11,12に含まれる有機溶媒を効果的に除去することができる。また、有価金属の回収工程における放電工程から排出された放電液10をさらに添加することにより、洗浄溶剤の塩濃度を高めて、有機溶媒の抽出効率を向上させることができ、より効率的に処理液11,12から有機溶媒を抽出することができる。
【0052】
また、このようにして有機溶媒を効率的に除去することにより、有機溶媒が除去された排出された処理液を、再度リチウムイオン電池から有価金属を回収する際に用いる処理液として利用することができ、有価金属の回収処理コストをも低減させることが可能となる。特に、溶媒抽出処理後の溶液には、放電液の塩成分やリチウム塩等が含まれていることから、その水溶液を再び放電液として使用することができ、効率的な有価金属の回収処理を実現させることができる。
【0053】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限れられるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更することができる。
【0054】
具体的には、リチウムイオン電池からの有価金属回収工程としては上述したものに限られるものではなく、他の工程を含んでいてもよく、またその他の工程において用いられ排出された処理液から有機溶媒を抽出除去する場合においても、本発明を好適に適用することができる。
【実施例】
【0055】
<4.実施例>
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(リチウムイオン電池からの有価金属の回収工程)
まず、処理中に発火等の危険を避けるため、使用済みのリチウムイオン電池を、放電液である塩化ナトリウム(NaCl)水溶液100g/Lに浸漬して放電状態とした。そして、放電済のリチウムイオン電池を、二軸破砕機により1cm角以下の大きさに解体し電池解体物を得た。
【0057】
次に、得られた電池解体物を水で洗浄して電池解体物に含まれる電解液や電解質を除去した。洗浄処理後、電解液や電解質が含まれた洗浄液(水)が排出された。
【0058】
一方、洗浄処理後の電池解体物からスクリーンで分離した固形分は、界面活性剤であるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(エマルゲンシリーズ 花王株式会社製)を1.8重量%含有する水を添加し、攪拌による剥離操作を行って正極活物質を回収した。この正極活物質の剥離操作においては、処理操作後のろ液として、電解液や電解質を含有する界面活性剤含有溶液が排出された。
【0059】
剥離した正極活物質を硫酸(HSO)水溶液で浸出して有価金属であるニッケル及びコバルトを浸出させた。得られた浸出液に、NaSを硫化剤として添加し、ニッケル及びコバルトの混合硫化物を得た。
【0060】
(処理液からの有機溶媒除去操作)
(実施例1)
上述した有価金属の回収操作においては、洗浄工程において用いた洗浄液や、正極活物質剥離工程において用いられ界面活性剤含有水溶液が、処理工程を経た後に排出された。また、放電工程において用いた放電液も排出された。なお、正極活物質剥離工程において用いられた界面活性剤含有溶液はろ液として排出された。
【0061】
これら処理後の洗浄液や界面活性剤含有溶液等の処理液には、リチウムイオン電池を構成する電解質や電解液等の有機溶媒が含有されているため、この有機溶媒が含有した処理液を回収し、テクリーンN−20(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を抽出媒体として用いて溶媒抽出処理を行った。なお、抽出処理において、温度は30℃とし、pHは8とした。
【0062】
溶媒抽出処理後、その水相のみを排出し、排液のTOC(全有機体炭素)濃度を測定した。その結果、TOC濃度は、0.2g/lであった。
【0063】
(実施例2)
溶媒抽出の際、リチウムイオン電池から有価金属を回収する処理における放電処理後に回収した放電液(NaCl水溶液)を100g/l添加して抽出操作を行ったこと以外は、実施例1と同様にして有機溶媒除去操作を行った。
【0064】
実施例1と同様にして、溶媒抽出処理後その水相のみを排出し、排液のTOC(全有機体炭素)濃度を測定した。その結果、TOC濃度は、0.1g/lであった。
【0065】
(比較例1)
リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された洗浄液や界面活性剤含有溶液を、そのまま排出する排液とした場合の、その排液のTOC濃度を測定した。
【0066】
その結果、TOC濃度が基準値を超えてしまい、別の排水処理系統に移送して排水処理を行うことが必要となった。
【0067】
以上の結果から分かるように、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤であるテクリーンを抽出媒体として用いて抽出処理を行うことにより、その処理液に含まれる電解質や電解液等からなる有機溶媒を効果的に除去することができ、排液から有機成分を低減させることができた。
【0068】
また、その抽出処理において、抽出媒体である洗浄溶剤と共にリチウムイオン電池を放電処理させた放電液を添加し、溶媒抽出処理を行うことによって、さらに効率的に有機溶媒を除去できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において用いられ排出された処理液を、炭化水素を主成分とする洗浄溶剤と接触混合させ、該処理液中に含まれる有機溶媒を抽出する有価金属回収処理液の処理方法。
【請求項2】
前記炭化水素を主成分とする洗浄溶剤は、ナフテン系洗浄溶剤であることを特徴とする請求項1記載の有価金属回収処理液の処理方法。
【請求項3】
前記炭化水素を主成分とする洗浄溶剤に、前記リチウムイオン電池を放電させた放電液を添加することを特徴とする請求項1又は2記載の有価金属回収処理液の処理方法。
【請求項4】
前記処理液は、前記リチウムイオン電池の解体物を洗浄する洗浄工程において用いられた洗浄液を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の有価金属回収処理液の処理方法。
【請求項5】
前記処理液は、前記リチウムイオン電池の正極活物質を正極基板から剥離する正極活物質剥離工程においてろ液として排出された酸性溶液又は界面活性剤含有溶液を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の有価金属回収処理液の処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−35180(P2012−35180A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176500(P2010−176500)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】