説明

有効成分の長期保存に優れた化粧料

【課題】内容量に対して接触する表面積の大きい容器に収納された化粧料において、経時による樹脂容器内面への有効成分の吸着を起こさず、長期保存性に優れた化粧料を得ることを目的とした。
【解決手段】化粧料中の有効成分の溶解度が0.1g/100ml以上であるものを選択するという指標に基づき、化粧料の目的に適合する有効成分を選択し配合することで、容器材質を変更することなく長期保存性に優れた化粧料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内容量に対して接触する表面積の大きい容器に収納された化粧料において、経時による樹脂容器内面への有効成分の吸着を起こさず、長期保存性に優れた化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧料の容器としてはポリエチレン樹脂(PE),ポリプロピレン樹脂(PP),ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)などの樹脂製のボトル容器が多用されているが、化粧料に配合されている成分がボトル容器との親和性が良い場合、微量なりとも容器への吸着が起こっている。
しかし、単位面積あたりの吸着量は非常に少ないため、ボトル型容器などのように内容量に対して接触する表面積が比較的小さい場合であれば、成分含有量の減少は実際上問題ないレベルであり、特に大きな問題を引き起こすとこはない。
【0003】
ところが、ボトル型容器と同じ素材を内容物の接触面に使用しているにもかかわらず、樹脂シートによる4方包材に充填した場合にのみ、化粧品に配合されている成分が経時的に減少するという問題を生じる場合がある。
特に何らかの特徴的な効果を目的として配合している成分、いわゆる有効成分に減少が認められた場合、化粧品の商品価値が著しく損なわれる事は避けられない。
【0004】
発明者が、研究を行った結果、樹脂シートによる4方包材のように、内容量に対して接触する表面積が大きくなった場合、比較的微量しか配合されていない有効成分が、接触面と親和性が高い場合、その含有量の減少が顕著に見られることになり、製造直後では問題なくとも経時的な品質不良の原因となっていることがわかった。
【0005】
つまり、内容物の接触面が有効成分を吸着する量は、単位面積当たりの吸着可能量即ち、飽和吸着量と総接触面積との積の関係式(飽和吸着料×総接触面積)であらわされる。
このことから、同じ有効成分量でも容器の接触面積が大きくなった場合では、吸着量自体が大きくなってしまうので、問題となる成分含有量の低下が見られるということである。
【0006】
例として、内容量に対して総接触面が大きい場合について述べると、縦×横が10 cm×15
cm、つまり表面積が300 cm2の4方包剤に50
mlの化粧水を収納して、有効成分を0.05 %配合した場合、容器内に存在する有効成分の総量は0.025 gとなる。品質設計上、一般的な目安として有効成分の残存量を配合量の90 %以上が必要であると規定すると、0.025 g の10 %、つまり0.0025 gが樹脂表面に吸着すると、品質不良となる。この場合、1 cm2あたり約8.3×10-6
gというきわめて微量の吸着により、有効成分の顕著な低下が起こることがわかる。
【0007】
一方、内容量に対して総接触面積が小さい場合について述べると、ボトル型容器の場合、たとえば底面の半径2cmで高さ10cmの円柱型、つまり表面積約150cm2の容器に100 ml配合したと仮定する。先ほどと同じように有効成分を0.05 %配合すると、容器内に存在する有効成分の総量は0.05 gとなる。同様にこの10 %、つまり0.005
gが樹脂表面に吸着し、減少すると仮定すると、1 cm2あたり約3.3×10-5 gの吸着量が必要となる。
従ってこの4方包剤ではボトル型と比べ、表面積1 cm2あたり約1/4以下の吸着量でも品質不良を起こすことがわかる。
つまりこの場合、内容量1 gあたりの容器表面積が6 cm2となる容器に化粧料を収納すると、経時による有効成分の吸着が起こり、長期による品質保証が困難になる。
【0008】
有効成分が容器樹脂面に吸着されるという問題に対し、吸着を起こさない容器材質に変えるという技術が提示されている。
たとえば特許文献1では、チューブの最内層がPP及びPEである場合、有効成分であるビタミンEやトリクロサンが吸着されてしまったため、最内層をポリアクリロニトリル等のビタミンE・トリクロサン非吸着層にしたところ経時による吸着が抑えられ、長期保存性を向上させることができた。
【0009】
しかしながら、前述した通り、化粧料の容器としてはPP,PE及びPETが多用されている。また樹脂シートによる4方包材では最内層はほぼPEが用いられている。その理由としては、4方包材は樹脂を熱または超音波で溶融接着させるため、溶融温度が低くかつ接着強度が高いという性質が必要となる。またコストを下げるためには、汎用性が高い材質が好ましい。そういった性質をもつのがPEである。そのため最内層の材質を変える場合、接着強度及びコストが問題となってくる。
【0010】
接着強度に関しては特許文献1では、最内層をポリアクリロニトリル等のビタミンE・トリクロサン非吸着層に、最外層をPEにすることで問題を解決している。
【0011】
しかしこのように容器材質を変更して吸着を防ぐという方法は、容器の汎用性が低く、そのためコスト高になることが懸念される。文献1でも、有効成分の吸着を防ぐことで吸着量を見越した配合をする必要は無く、中身のコストには有効であるとの記述があるが、容器についての汎用性やコストについての記述は見受けられない。
【0012】
また4方包材を製造するには、樹脂を数十μmの厚さのシート状に成形する必要があり、有効成分非吸着性の樹脂を加工する技術も必要である。
更に、有効成分に対して非吸着の素材を使用する方法では、有効成分が異なるごとに、その都度非吸着の材質を選定、使用することが必要であり、多くの検討期間や様々な材質の包装剤を準備するという必要が生じるため、効率やコストの面からは十分ではなかった。
【特許文献1】特開平8-301312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明においては、内容量に対して接触する表面積の大きい容器に収納された化粧料において、経時による樹脂容器内面への有効成分の吸着を起こさず、長期保存性に優れた化粧料を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は上記課題を解決するため鋭意研究の結果、化粧料と直接接触する部分の容器材質がポリエチレン樹脂(PE),ポリプロピレン樹脂(PP),ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等の樹脂であり、内容量1gあたりの容器表面積が5cm2以上である容器に収納される場合、特に有効成分を、水への溶解度を指標として選択するという新たな選択方法によって処方組みすることにより、長期保存性に優れる化粧料が提供可能となった。具体的な溶解度の指標としては、
化粧料中の有効成分が溶解度0.1g/100ml以上であるものを用いる。
【発明の効果】
【0015】
化粧料中の有効成分の溶解度が0.1g/100ml以上であるものを選択するという指標に基づき、化粧料の目的に適合する有効成分を選択し配合することで、容器材質を変更することなく長期保存性に優れた化粧料を得ることができることを見出した。
【0016】
これにより、有効成分吸着の発生を防ぐことが可能となり、どうしても目的とする効果を得るために、予め吸着量を見越して配合量を増やすといった対応を行う必要もなく、コスト的にも有効である。
また、有効成分の吸着を起こさせないことで品質保障期間の増大を図り、安定性、安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の構成について詳述する。
本発明の有効成分とは、水への溶解度が0.1g/100ml以上である殺菌剤、抗炎症剤、美白剤等を目的により単独で或いは複数選択して使用することができる。以下に具体的な成分を例示するが、下記の成分に限定されるものではない。
殺菌剤としてはサリチル酸及びその塩類、安息香酸及びその塩類、抗炎症剤としてはグリチルリチン酸ジカリウム、ε−アミノカプロン酸、美白剤としては
トラネキサム酸、アスコルビン酸2グルコシド等を例示することができる。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明の実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。配合量は重量%である。
【0019】
<実験1>
有効成分がそれぞれ水への溶解度が0.1 g/100 ml以上である成分としてサリチル酸(水への溶解度0.2 g/100 ml)、0.1 g/100 ml未満であるイソプロピルメチルフェノール(水への溶解度0.03g/100 ml)、を配合した化粧料を製造した。
化粧料は、成分1〜5を溶解し、成分6に加え溶解し製造した。
【0020】
容器は、最外層がPETかつ最内層が熱可塑性樹脂で構成された包剤を用いた。最内層の樹脂はそれぞれPPの一種である無延伸ポリプロピレン(CPP)、PEの一種である直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)及びPETである。
包剤をそれぞれヒートシール機で袋状に成形し、内容量1 gあたりの容器表面積が6 cm2になるように化粧料を収納した。
それぞれを温度40 ℃, 湿度75
%に保たれたインキュベーターに5日間静置した後、有効成分の残存量を定量した。その結果を当初の配合量に対するパーセンテージで、表1に示す。
【0021】
【表1】

表1に示した結果の通り、水への溶解度を指標に選択した有効成分であるサリチル酸を有効成分とした実施例1では容器への吸着が起こらず、0.1 g/100 ml未満であるイソプロピルメチルフェノールを有効成分とした比較例2では吸着が起こり、減少してしまっている。
【0022】
<実験2>
有効成分がそれぞれ水への溶解度が0.1 g/100 ml以上である成分として、グリチルリチン酸ジカリウム(水への溶解度5g/100 ml以上)及びアスコルビン酸2グルコシド(水への溶解度2g/100 ml以上)、0.1 g/100 ml未満であるグリチルレチン酸ステアリル(実質的に水には溶解せず。)を配合した化粧料を製造した。
化粧料は成分1に成分8を加えたものを成分10に加え、予め成分2〜5を加熱溶解し成分10に加える、更に成分6、7、9を加え溶解し製造した。
【0023】
容器は、最外層がPETかつ最内層が熱可塑性樹脂で構成された包剤を用いた。最内層の樹脂はそれぞれPPの一種である無延伸ポリプロピレン(CPP)、PEの一種である直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)及びPETである。
包剤をそれぞれヒートシール機で袋状に成形し、内容量1 gあたりの容器表面積が6 cm2になるように化粧料を収納した。
それぞれを温度40 ℃, 湿度75
%に保たれたインキュベーターに5日間静置した後、有効成分の残存量を定量した。その結果を当初の配合量に対するパーセンテージで、表2に示す。
【0024】
【表2】


表2に示した結果の通り、水への溶解度を指標に選択した有効成分であるグリチルリチン酸ジカリウムを使用した実施例2、アスコルビン酸2グルコシドを使用した実施例3では容器への吸着が起こらず、0.1 g/100 ml未満であるグリチルレチン酸ステアリルを使用した比較例2では吸着が起こり、減少してしまっている。
【0025】
このように、化粧料の目的によって、有効成分を選択する際、水への溶解度を指標に有効成分を選択することで、いかなる目的の有効成分を選択しても、容器への吸着は発生していないことがわかる。

【産業上の利用可能性】
【0026】
以上詳述したように内容量に対して接触する表面積の大きい容器に収納された化粧料において、経時による樹脂容器内面への有効成分の吸着を起こさず、長期保存性に優れた化粧料を得ることが可能となる。









【特許請求の範囲】
【請求項1】
水への溶解度が 0.1g/100 ml以上の有効成分のみで構成された化粧料組成物を、内容量1gあたりの容器表面積が5cm2以上である樹脂容器に収納された化粧料。
【請求項2】
化粧料組成物に接触する材質がポリエチレン樹脂(PE),ポリプロピレン樹脂(PP),ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)から選ばれた1種または2種以上で、混合または、積層された樹脂容器であることを特徴とする請求項1記載の化粧料。
【請求項3】
前記有効成分が殺菌剤、抗炎症剤、美白剤から選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧料。
【請求項4】
内容量1gあたりの容器表面積が5cm2以上である樹脂容器に収納される化粧料組成物の有効成分が、水への溶解度が0.1g/100 ml以上であることで選択される、化粧料組成物の有効成分選択方法。
























【公開番号】特開2009−242352(P2009−242352A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93914(P2008−93914)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】