説明

有機−無機ハイブリッド体の製造方法及び有機−無機ハイブリッド体

【課題】200μm以下の無機多孔質体に対して、この無機多孔質体同士が固着せず、また無機多孔質体の細孔内を充満することなく、その細孔内に高分子ゲルを効率的に固定化する有機−無機ハイブリッド体の製造方法、及びその有機−無機ハイブリッド体を提供する。
【解決手段】無機多孔質体に、単量体と分子認識化合物と架橋剤と重合開始剤とを含有する溶液を含浸させる含浸工程と、無機多孔質体の細孔内及び細孔外に、単量体の結晶を生成させる結晶生成工程と、単量体と分子認識化合物と架橋剤とを共重合させて高分子ゲルを生成させる共重合反応工程と、共重合反応工程にて細孔内に上記高分子ゲルが固定された無機多孔質体を洗浄する洗浄工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルを保持した有機−無機ハイブリッド体の製造方法及び有機−無機ハイブリッド体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クラウンエーテル類やカリックスアレーン類に代表されるような分子認識化合物を用いて、水相中から特定の金属イオンを選択的に分離・濃縮する技術が進展している。これらの分子認識化合物を適当な有機溶媒に溶かし、ミキサーセトラーのような従来型の溶媒抽出装置の抽出溶媒として用いることによって、溶媒抽出法の利点である高い分離性能を実現することができる。
【0003】
しかしながら、従来型の溶媒抽出装置は、原理的に大量の抽出溶媒を必要とし、例えば核燃料再処理プロセスに応用した場合には、放射性廃棄物として処理しなければならない大量の劣化溶媒が発生してしまうという問題点がある。
【0004】
そこで、抽出溶媒を多孔質体に含浸した抽出クロマトグラフィー法や多孔質膜に含浸した液膜分離法を応用して、使用する抽出溶媒量の削減が試みられている。このような分離法では、溶媒抽出法の高い分離能力を備えており、目的物質の高度分離が可能となっている。しかしながら、これらの分離法では、含浸した抽出溶媒が分離操作中に漏出してしまい、目的物質の分離回収を繰り返すと分離性能が低下してしまうという問題があり、例えば核燃料再処理の分野等においては実用化に至っていない。
【0005】
一方で、分子認識化合物を、有機溶媒に溶かす代わりに高分子ゲルと結合させることによって固体の抽出剤を実現し、水相への漏出の問題を解決する技術が提案されている。しかしながら、その高分子ゲルは柔軟性を持つソフトマテリアルであるため、粒子化した高分子ゲルをカラム内に充填して水溶液を通過させようとしても直ぐに閉塞してしまい実用には供さない。
【0006】
また、カラムに充填して工業的な連続分離操作を実現するためには、高分子ゲルを多孔質体に固定化した分離剤が必要となる。そのような分離剤を開発できれば、溶媒抽出法に近い分離性能を維持しながら、漏出の問題を解決した抽出クロマトグラフィー法を実現できると考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−202297号公報
【非特許文献1】K. Suzuki, T. Yumura, Y. Tanaka, T. Serizawa and M. Akashi, Chemistry Letters 2000, 1380
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高分子ゲルをシリカ粒子に固定化する技術の一例として、特許文献1には、球形多孔質シリカ粒子に親水性単量体と架橋剤を含む溶液を含浸し、その後に重合、架橋することで細孔内部にゲルを合成して、アフィニティクロマトグラフィー用担体を製造する方法が示されている。
【0009】
この特許文献1に記載の技術では、用いられたシリカ粒子は粒径1.7〜4mmで、シリカ粒子内に溶液が浸透した後、シリカ粒子の周りの溶液を取り除いてから架橋重合反応を行わせている。これは、シリカ粒子の周りの溶液が架橋重合によりゲル体となって、シリカ粒子同士が固着してしまうことを防ぐための操作であると考えられる。このような操作は、大粒径の粒子に対して、実験規模で実施することは可能であるものの、工業的規模で、さらにはより小さい粒子径、例えば抽出クロマトグラフィー法に適用可能な200μm以下の粒子に対しては実施することが困難である。
【0010】
また、この特許文献1には、作成された試料で実際に分離試験を行った結果については何も示されておらず、このアフィニティクロマトグラフィー用担体でどのような物質の分離が可能であるのか示されておらず、実用性にも乏しい。
【0011】
さらに、多孔質体の細孔内に単量体と架橋剤を含む溶液を含浸させて、これをゲル化する場合、細孔内にはゲルが充満してしまい、ゲル表面と被処理水溶液の直接的な接触は多孔質体の表面付近のみでしか行われず、多孔質体の特徴である細孔内の大きな比表面積をゲルの表面積に反映させることができない。このことは、例えば非特許文献1において、シリカ粒子とPMMAのハイブリッドゲルに関し、ハイブリッドゲル作成後にシリカ粒子の細孔容積と比表面積が劇的に減少し、シリカ粒子の細孔は完全にPMMAゲルマトリックスで充満されたことを示した、との旨が記載されていることからも明らかである。
【0012】
またさらに、細孔内に充満したゲルが吸水して膨潤した際には、多孔質体自体が破壊される可能性が高いという問題もある。
【0013】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、無機多孔質体に対して、この無機多孔質体同士が固着せず、また無機多孔質体の細孔内を充満することなく、その細孔内に高分子ゲルを固定化する有機−無機ハイブリッド体の製造方法、及びその有機−無機ハイブリッド体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、所定の組成に調整した単量体、架橋剤、分子認識化合物、重合開始剤を含む溶液を自発的に無機多孔質体の細孔内に含浸させ、細孔内空間に沿って単量体の結晶が成長するまでに十分な時間をおいた後に、重合反応を開始させることで、細孔を充満しない形態のゲルを生成させるとともに、無機多孔質体同士を固着させる原因となる無機多孔質体の外表面でのゲル生成を防ぐことも可能であることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明における有機−無機ハイブリッド体の製造方法は、無機多孔質体に、単量体と分子認識化合物と架橋剤と重合開始剤とを含有する溶液を含浸させる含浸工程と、上記無機多孔質体の細孔内及び細孔外に、上記単量体の結晶を生成させる結晶生成工程と、上記単量体と上記分子認識化合物と上記架橋剤とを共重合させて高分子ゲルを生成させる共重合反応工程と、上記共重合反応工程にて細孔内に上記高分子ゲルが固定された無機多孔質体を洗浄する洗浄工程とを有する。
【0016】
溶液中に含有される単量体の濃度は、準安定領域にある濃度であることが好ましく、さらにその単量体は、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体であることが好ましい。
【0017】
また、本発明における有機−無機ハイブリッド体は、粒径が200μm以下の無機多孔質体の細孔内に、単量体と分子認識化合物と架橋剤との共重合体である高分子ゲルが保持され、上記高分子ゲルが保持された細孔を貫通する流路を有する。
【0018】
本発明で示される技術は、従来技術からは全く予想し得なかったもので、従来技術には全くなかった新規な抽出クロマトグラフィーシステムへの発展が期待される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無機多孔質体の外表面及び細孔内空間に沿って単量体の結晶が成長した後に、重合反応を開始させて高分子ゲルを生成させるようにしているので、多孔質体同士を固着させる原因となる多孔質体の外側でのゲル生成を防ぐことができるとともに、その細孔内にゲルが充満することを防止し、細孔を貫通する流路を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法及びその製造方法によって生成される有機−無機ハイブリッド体について詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法は、無機多孔質体に、単量体と分子認識化合物と架橋剤と重合開始剤とを含有する溶液を含浸させる含浸工程と、無機多孔質体の細孔内及び細孔外に、単量体の結晶を生成させる結晶生成工程と、その単量体と分子認識化合物と架橋剤とを共重合させて高分子ゲルを生成させる共重合反応工程と、上記重合反応工程にて細孔内に上記高分子ゲルが固定された無機多孔質体を洗浄する洗浄工程とを有する。
【0022】
この有機−無機ハイブリッド体の製造方法によれば、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルを生成させる際に、単量体の結晶を無機多孔質体の細孔内及び細孔外に成長させてから重合を開始させるようにしているので、生成するゲルの量を制御して細孔内にゲルが充満することを防ぐことができる。また、多孔質体同士が固着することを防止することができる。
【0023】
従来の方法では、細孔内にはゲルが充満してしまい、多孔質体に通過させる被処理水溶液とゲル表面との直接的な接触は多孔質体の表面付近のみでしか行われず、多孔質体の特徴である細孔内の大きな比表面積をゲルの表面積に反映させることができなかった。
【0024】
これに対し、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法では、細孔内にゲルが充満することを防ぐことができることから、細孔内部まで被処理水溶液を接触させることが可能となり、大きな比表面積を有する多孔質体を有効に活用することができる。その結果、被処理水溶液中の特定の化合物を、高分子ゲルを構成する分子認識化合物に特異的に結合させて、その特定の化合物を選択的かつ高度に抽出分離することができる。
【0025】
また、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルが充満することを防止しているため、細孔内に固定された高分子ゲルが吸水して膨潤しても、多孔質体自体が破壊してしまうことを防止することができ、200μm以下の粒子径からなる多孔質体であっても効果的に高分子ゲルをその細孔内に固定化することができる。
【0026】
さらに、多孔質体同士が固着する原因となる高分子ゲルの多孔質体表面での生成を極少化することができることから、大きな比表面積を有する多孔質体への被処理水溶液の通過を、より向上させることができる。
【0027】
以下では、より具体的に本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法について説明する。まず、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法では、無機多孔質体の細孔内に、単量体と分子認識化合物と架橋剤と重合開始剤を含有する溶液を含浸させ、単量体の結晶が多孔質体の細孔内及び細孔外に成長するまで十分な時間をおいた後に、共重合反応を開始させる。
【0028】
この有機−無機ハイブリッド体の製造方法を適用することができる無機多孔質体としては、アルカリ土類金属の炭酸塩、珪酸塩、燐酸塩、硫酸塩や金属酸化物、金属水酸化物、その他の金属珪酸塩、あるいはその他の金属炭酸塩等が挙げられる。
【0029】
具体的には、アルカリ土類金属の炭酸塩としては炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等、アルカリ土類金属の珪酸塩としては珪酸カルシウム、珪酸バリウム、珪酸マグネシウム等、アルカリ土類金属の燐酸塩としては燐酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸マグネシウム等、そしてアルカリ土類金属の硫酸塩としては硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等がそれぞれ挙げられる。
【0030】
また金属酸化物としては、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化アルミニウム等が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム等が挙げられる。
【0031】
またその他の金属珪酸塩としては、珪酸亜鉛、珪酸アルミニウム等が挙げられ、その他の金属炭酸塩としては、炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅等が挙げられる。
【0032】
なお、これらの無機多孔質体の形状は、特に限定されず、どのような形であってもよく用いることができるが、好ましくは球形多孔質構造を有するものが好適に利用することができる。
【0033】
これらの無機多孔質体の多孔度は、細孔容積0.02〜3.0ml/gであればよい。細孔容積が小さすぎると高分子ゲルが形成しにくくなり、また細孔容積が大きくなりすぎると破壊強度が小さくなってしまうので、好ましくは0.5〜2.0ml/g程度のものを用いることが好ましい。また、細孔直径は1nm〜100μmであればよく、好ましくは10nm〜1μm程度のものである。
【0034】
さらに、無機多孔質体の粒径は、1μm〜5mm、好ましくは10μm〜100μm程度のものを用いることができる。上述のように、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体製造方法によれば、生成するゲルの量を制御して細孔内にゲルが充満することを防ぐことができるので、高分子ゲルが吸水等によって膨潤し、多孔質体を破壊してしまう現象を防止することができる。
【0035】
また、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法に用いられる単量体としては、水溶性で通常のラジカル重合を行うものであればよく、特に限定されない。
【0036】
その単量体の一例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、P−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−メタアクリロイルオキシエチルスルホン酸、3−メタアクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、並びにこれらの酸のアンモニウム塩、及びアルカリ金属塩、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2ビニルピリジン及び4ビニルピリジンの塩酸、硝酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸又は塩化エチルの4級化物、2ヒドロキシエチルメタクリレート、2ヒドロキシエチルアクリレート、2アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド等が挙げられる。
【0037】
特に、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法においては、単量体として、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体を好適に利用することができる。このN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体は、重合しポリマー状態になると、低温において親水性を増し水分を吸収して膨潤し、高温において疎水性を増して収縮するという体積相転移の性質を有する。本実施の形態においては、この感温性を利用することによって、後述する工程において、効率的に高分子ゲルを保持した多孔質体の細孔内を洗浄することができる。この細孔内の効率的な洗浄により、生成された有機−無機ハイブリッド体において、細孔の大きな比表面積を有効に活用することが可能な細孔を貫通する流路を効率的に形成させることができる。
【0038】
このN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−1−メトキシメチルプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−(1,3−ジオキソラン−2−イル)−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−8−(メタ)アクリロイル1,4−ジオキサ−8−アザースピロ(4,5)デカン、N,N−ジメトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルフォリン等を用いることができる。これらの中でも、N−アルキル(アルキル基の炭素数1〜10)(メタ)アクリルアミドが好ましく、特に、室温付近で体積相転移が起こるという点において、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド(NIPA)が更に好ましい。
【0039】
また、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法に用いられる架橋剤としては、特に限定されるものではないが、2個以上のポリマーを官能基を介して架橋するため、重合性官能基を2個以上有する架橋剤を用いることが好ましい。
【0040】
重合性官能基を2個以上有する架橋剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレン−ビス−Nビニルアセトアミド、N,N’−ブチレン−ビス−Nビニルアセトアミド、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレジイソシアネート、アリル化デンプン、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリストールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメリテート等が挙げられる。
【0041】
また、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法に用いられる重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、ゲル化にあった周知の重合開始剤を選択すればよい。この重合開始剤は、熱、光、放射線等によって重合を開始させる。
【0042】
重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’ジメチレンイソブチルアミジン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1,−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤などが挙げられる。なお、過酸化水素あるいは過硫酸塩は、例えば亜硫酸塩、L−アスコルビン酸等の還元性物質やアミン塩等を組み合わせてレドックス系の重合開始剤として使用することもできる。
【0043】
また、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法においては、上述した単量体、架橋剤、重合開始剤と共に、さらに分子認識化合物を含有させた溶液を用いて、この溶液を多孔質体に含浸させることができる。この分子認識化合物は、特定の物質に対して非常に優れた選択性を示すものである。例えば、この分子認識化合物は、特定の化合物を抽出する抽出機能剤として機能させることができ、この分子認識化合物を単量体と共に溶液に含有させ、後の工程にて共重合させることにより、特定の化合物を選択的に認識して抽出する高分子ゲルを生成させることができる。
【0044】
この分子認識化合物としては、例えば、目的物質の抽出分離の為に溶媒抽出法で用いられるものをそのまま用いることができる。ただし、高分子ゲルに組み込むため、単量体との共重合が可能なように目的物質の選択性を損なわない範囲で分子構造を改変することが可能な抽出機能剤を用いることが好ましい。また、抽出機能剤が架橋剤としての役割を兼ね、別途、架橋剤を加える必要がない場合もある。
【0045】
例えば、この分子認識化合物としては、N,N,N',N'−テトラキス(4−プロペニル−2−メチルピリジル)エチレンジアミン(TPPEN:N,N,N’,N’-tetrakis-(4-propenyloxy-2-pyidylmethyl)ethylenediamine)を用いることができる。このTPPENは、4つのピリジル基を持つ包接型6座配位子であり、その4つのピリジル基末端に官能基を有し、この官能基はその末端に二重結合を有している。このTPPENは、アメリシウム(Am)等の3価マイナーアクチノイド(MA)やCdやHg等の遷移金属と選択的に錯体を形成する性質を有することから、この分子認識化合物であるTPPENを抽出機能剤として用いることによって、例えば、化学的挙動が非常に似ているために相互分離が困難であった3価MA元素とユウロピウム(Eu)等の希土類元素とを含有した混合溶液から、3価MAを選択的に分離回収することや、有害廃棄物に含まれる重金属を選択的に分離回収することができる。なお、本発明に用いられる分子認識化合物としては、上述のTPPENに限られるものではない。
【0046】
上述したこれらの化合物の反応溶媒としては、単量体、架橋剤、重合開始剤、及び抽出機能剤の組合せに対して、通常の高分子ゲル体を生成させる際に用いられるものを選択する。
【0047】
その反応溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、DMF(ジメチルホルムアミド)等の極性溶媒、n−ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロエタン等の非極性溶媒のいずれか1つ、もしくは2つ以上を任意の割合で混合させた混合溶媒を用いてもよい。
【0048】
本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法においては、上述した無機多孔質単体に、上述の単量体、架橋剤、重合開始剤、及び分子認識化合物を溶媒に溶かして生成した溶液を含浸させ、次に、単量体の結晶を無機多孔質体の細孔内及び細孔外において成長させる。
【0049】
ここで、この有機−無機ハイブリッド体の製造方法では、無機多孔質体に含浸させる、上述した単量体、架橋剤、重合開始剤、分子認識化合物、及び反応溶媒からなる溶液の組成は、溶液中で単量体の結晶成長が起こるような組成に調整する。通常は、架橋剤、重合開始剤、及び分子認識化合物は、単量体に比較して少量であるため、単量体の結晶成長は主として単量体の濃度に依存する。
【0050】
図1に、溶解度曲線と溶液の状態の図を示す。本発明の実施形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法においては、単量体の濃度が、この図1に示す準安定領域にあるように調整することが好ましい。この準安定領域は、種結晶が存在する場合にのみ、自発的な結晶成長が起こる領域であり、この準安定領域中では、種結晶がない場合には新しい結晶は生成しないことが判っている。単量体の濃度が、図1に示す未飽和領域にある場合には、結晶は生成せず、また図1に示す過飽和領域にある場合には、核発生を起こして固相が瞬時に析出してしまう現象が起こり易く、多孔質体の細孔内に溶液を含浸させることは困難である。一方で、単量体の濃度が準安定領域にあれば、溶液が多孔質体に含浸していく過程で局所的に過飽和な部分が出現して種結晶を生成し、この種結晶から自発的な結晶成長を起こさせることが可能となる。
【0051】
この単量体の結晶を、無機多孔質体の細孔内外において成長させる結晶成長方法は、周知の方法を利用することができる。例えば、溶液の温度を変化させることによる結晶成長、または溶媒を気化させて単量体の濃度を変化させることによる結晶成長等の種々の方法を利用することができる。本実施の形態では、特に、溶液の温度を一定に保ちながら、多孔質体に自発的に含浸した溶液中から溶媒が外部空間へ気化する現象を利用することが好ましい。さらに、多孔質体の細孔内への溶液の自発的な含浸が終了した後、結晶が成長するまでに十分な時間、放置しておくことが好ましい。
【0052】
このようにして、無機多孔質体の細孔内及び細孔外に単量体の結晶を成長させると、次に、外部からの熱、光、放射線等によって重合開始剤を活性化させて、無機多孔質体に含浸させた、単量体のラジカル重合反応を開始させ、高分子ゲルを合成する。
【0053】
このように、本実施の形態に係る有機−無ハイブリッド体の製造方法においては、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルを生成させる際に、単量体の結晶を成長させてから重合を開始させ、生成するゲルの量を制御するようにしている。これにより、無機多孔質体の細孔内にゲルが充満することを防ぐことができる。
【0054】
この重合反応によって、無機多孔質体の細孔内の三次元空間に物理的に保持される高分子ゲルと、細孔内から容易に排出させることが可能な低分子量の重合体が同時に生成されことになる。
【0055】
すなわち、単量体の一部を結晶成長させた後の細孔内には、単量体のみからなる「結晶」と、溶媒、単量体、架橋剤、分子認識化合物、重合開始剤からなる「溶液」の2相が存在する。この2相が存在している状態で、ラジカル重合反応を開始させるために温度を上昇させると、温度上昇に伴って単量体の結晶が溶液中に溶解し始める。しかしながら、数百ナノメートル径以下の狭い細孔内では、溶液の対流や溶質の拡散が進展して結晶が全て溶解した均一な組成の溶液となる前に重合反応が完了し、結晶として存在していた単量体の大部分は重合化しても、架橋剤や抽出機能剤との反応には関与できず高分子ゲル中には組み込まれない。このようにして、無機多孔質体には、細孔内の三次元空間に物理的に保持される高分子ゲルと、ゲル化しなかった低分子量の重合体とが、同時に生成されることとなる。
【0056】
架橋重合反応で生成した高分子ゲルは、屈曲した細孔内の形状をトレースしているため、物理的に細孔内に固定化され、被処理水溶液と直接接触する表面積を著しく増大させることが可能となる。
【0057】
一方、多孔質体に生成された、ゲル化しなかった低分子量の重合体は、微粒子状の形態を持つため、細孔内から容易に排出させることが可能であることから、このゲル化しなかった低分子量の重合体を洗浄により細孔内から除去することによって、その部分が細孔内に空洞として残り、細孔の大きな比表面積を有効に活用することが可能な、例えば被処理水溶液の流路となる。
【0058】
すなわち、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法では、重合反応して細孔内に高分子ゲルを合成させると、次に、この高分子ゲルを細孔内に保持した無機多孔質体の細孔内から、低分子量の重合体を排出させるための洗浄処理を行う。
【0059】
この洗浄処理においては、特に、無機多孔質体の細孔内に保持されている高分子ゲルが、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体からなる単量体を用いて合成された場合には、温度スイング操作によって、効率的に細孔内の、ゲル化しなかった低分子量の重合体を排出させることができる。
【0060】
すなわち、このN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体は、重合しポリマー状態になると、低温において親水性を増し水分を吸収して膨潤し、高温において疎水性を増して収縮するという体積相転移の性質を有する。したがって、本実施の形態においては、特に、この感温性を利用し、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体の相転移温度以下で、細孔内に保持された高分子ゲルに水を吸水させ、相転移温度以上で高分子ゲルを疎水化させると共に収縮させて高分子ゲル内部の水を吐き出させる。このとき、細孔内に残存した低分子量の重合体を、この水と共に多孔質体から吐き出させることによって、効率的に細孔内に流路を形成させることができる。なお、温度スイング操作の条件は、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体の種類によっても異なり、特に限定されるものではないが、例えば、5℃と40℃でそれぞれ1時間をサイクルとする温度スイング法による洗浄を行う。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体の製造方法によれば、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルを生成させる際に、単量体の結晶を無機多孔質体の細孔内及び細孔外に成長させてから重合を開始させるようにしているので、生成するゲルの量を制御して細孔内にゲルが充満することを防ぐことができる。また、多孔質体同士が固着することを防止することができる。
【0062】
そして、この製造方法によって生成された有機―無機ハイブリッド体は、無機多孔質体の細孔内に、単量体と分子認識化合物との共重合体である高分子ゲルが保持され、その高分子ゲルが保持された細孔を貫通する流路を有する。
【0063】
従来の方法によって形成された有機−無機ハイブリッド体では、細孔内にゲルが充満してしまい、多孔質体に通過させる被処理水溶液とゲル表面との直接的な接触は多孔質体の表面付近のみでしか行われず、多孔質体の特徴である細孔内の大きな比表面積をゲルの表面積に反映させることができなかった。
【0064】
これに対し、本実施の形態に係る有機−無機ハイブリッド体では、細孔内にゲルが充満することなく、細孔内を貫通する流路が形成されているので、細孔内部まで被処理水溶液を接触させることが可能となり、大きな比表面積を有する多孔質体を有効に活用することができる。その結果、被処理水溶液中の特定の化合物を、高分子ゲルを構成する分子認識化合物に特異的に結合させて、その特定の化合物を選択的かつ高度に抽出分離することができる。
【0065】
また、無機多孔質体の細孔内に高分子ゲルが充満することを防止しているため、細孔内に固定された高分子ゲル吸水して膨潤しても、多孔質体自体が破壊してしまうことを防止することができ、200μm以下の粒子径からなる多孔質体であっても効果的に高分子ゲルをその細孔内に固定化することができる。
【0066】
さらに、多孔質体同士が固着する原因となる高分子ゲルの多孔質体外表面での生成を極少化することができることから、大きな比表面積を有する多孔質体への被処理水溶液の通過を、より向上させることができる。
【0067】
以上に詳細に説明してきた有機−無機ハイブリッド体の製造方法は、例えば、新規な抽出クロマトグラフィー担体、及びそれを利用した分離システムに好適に適用することが可能となり、従来は分析手段としてしか実用化していなかったとも言える抽出クロマトグラフィー法を、工業的な分離プロセスへ発展させることも可能となる。
【0068】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更や修正を加えることが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、さらに具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により、何ら限定されるものではない。
【0070】
この実施例においては、下記一般式(1)で表されるN,N,N',N'−テトラキス(4−プロペニル−2−メチルピリジル)エチレンジアミン(TPPEN:N,N,N’,N’-tetrakis-(4-propenyloxy-2-pyidylmethyl)ethylenediamine)を、抽出機能剤として機能する分子認識化合物として用い、またN−イソプロピルアクリルアミド(N-isopropylacryl-amide:NIPA)を単量体として用いる。
【0071】
【化1】

【0072】
そして、これらをシリカ粒子の細孔内で共重合させて作成したクロマト分離剤により、水溶液中からカドミウムイオンを分離する場合について説明する。なお、この分子認識化合物の一つであるTPPENは、上記式(1)で表わされるように、4つのピリジル基を持つ包接型6座配位子である。機能性部位にソフトドナーである窒素元素を含み、溶液中からソフトドナーと配位しやすい金属イオンだけを選択的に分離する。
【0073】
(実施例1)
<TPPEN−NIPAゲル合成原液の調整>
まず、容量12.5mlのガラス製バイアルに、TPPEN0.093g,N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA)0.98gを入れ、750μlのDMF(ジメチルホルムアミド)を加えてバイアルを密栓して超音波洗浄器にかけて溶解させた。約3分間、Heガスをバブリングすることによって、DMF溶液中の溶存酸素を除去した。
【0074】
次に、重合開始剤であるAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)50mgを加え、密栓して温度を室温に保ちながら超音波洗浄器で溶解させた。そして、再びHeガスによるバブリングを約3分間実施した後、バイアル内部をHeガス雰囲気に保って密栓した。
【0075】
(実施例2)
<ゲル合成原液のシリカ粒子への含浸>
平均細孔径464nm、平均粒子径102μmのシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製)2.5gを、真空デシケーターを用いて細孔内外の空気を窒素に置換した。そして、内部を窒素雰囲気に保った簡易グローブボックス内において、このシリカ粒子を実施例1で準備したバイアル内の溶液中に、気泡が巻き込まないようにして先端を液面付近に位置させたロートを介して少しずつ落下させた。
【0076】
シリカ粒子の全量を溶液中に投入後、バイアルに密栓をして粒子層がほぼ最密充填されるように約10秒間超音波洗浄器にかけた。シリカ粒子層への溶液の含浸状態に関しては、バイアルの壁面で、溶液の色に着色した粒子と未着色の粒子との割合で観察し、この段階においては粒子層の約半分の高さまで着色していたことを確認した。
【0077】
次に、バイアルを窒素雰囲気のデシケーター内で開栓した後、デシケーター内の窒素雰囲気の圧力を−0.02Mpaに調整し、デシケーター本体を25℃に保ったインキュベータ内に保管した。着色粒子層の増加は徐々に進み、4日後には粒子層上面近くの位置まで着色した。その後もインキュベータ内での保管を継続し、実験開始7日後に粒子層上端付近のガラス壁面に、針状結晶が成長していることを確認して含浸操作を終了させた。
【0078】
着色粒子層上端付近の粒子を少量サンプリングして、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-9700)で観察したところ、図2のレーザー顕微鏡写真で示すように表面から針状結晶が突き出している粒子をいくつか確認することができた。
【0079】
これらの針状結晶は、細孔径に比較すればはるかに大きい粒子表面の亀裂から成長したものであるが、全ての針状結晶で一致している成長方向は溶液の含浸方向を示すものと考えられる。
【0080】
(実施例3)
<重合反応によるゲルの合成>
実施例2で得られた原料溶液を含浸させたシリカ粒子を、密栓したバイアルに入れた状態で70℃の恒温槽中に15時間放置し、ラジカル重合反応を行わせた。
【0081】
上部の未着色粒子層を未含浸粒子とみなし、スパチュラで除去して秤量したところ、0.34gであった。残りの着色粒子の入ったバイアルを、シャーレを受け皿として倒立させると、ガラス壁面に凝縮した溶媒に濡れて付着していた粒子を除く全ての粒子が流れるように落下し、粒子同士の固着は見られなかった。ガラス壁面に付着した粒子もバイアルに蒸留水を入れることで容易に回収することができた。
【0082】
そして、容量50mlのバイアルに、回収した粒子全量を移し、蒸留水を満たして5℃と40℃でそれぞれ1時間をサイクルとする温度スイング洗浄を行った。このような温度スイング洗浄を行うことによって、N−イソプロピルアクリルアミドの相転移温度以下でゲルに水を取り込ませ、相転移温度以上でゲルの疎水化と収縮を利用してゲル内部の水を吐き出させ、洗浄効果の促進を図った。
【0083】
(実施例4)
<カドミウム吸・脱着バッチ試験>
実施例3で得られたTPPEN−NIPAゲル担持シリカ粒子を、容量12.5mlのバイアルに、湿潤状態で1g(乾燥粒子で約0.3g相当)採取して、カドミウム吸・脱着試験に供した。
【0084】
まず、用意した容量12.5mlのバイアルに、硝酸カドミウム水溶液(カドミウム濃度:16ppm、硝酸によりpH4に、硝酸ナトリウムによりイオン強度0.01Mに調整)10mlを入れ、5℃の恒温槽中で1時間振とうさせた。その後、水溶液中のカドミウム濃度をICP発光分析装置(株式会社島津製作所製 ICPE-9000)で測定し、カドミウム吸着量を求めた。脱着液は、蒸留水10mlを用い、バイアル瓶を40℃の恒温槽内で1時間振とうさせた後、水溶液中のカドミウム濃度をICP発光分析装置で測定した。吸着液から脱着液へ、またはその逆の交換の際には、バイアルを傾けてマイクロピペットで粒子周囲の水溶液を可能な限り吸引してから次の試験用水溶液を供給した。なお、この場合、粒子周囲及び粒子内に残る水溶液は、0.7ml前後と推定され、引続く吸・脱着試験のカドミウム濃度測定値へ与える誤差は小さいと考えられる。
【0085】
図3に繰返して吸・脱着試験を行った結果示す。この図3の結果においては、カドミウムの供給量(溶液中のカドミウム量)、吸着量(ゲルに吸着されたカドミウム量)、脱着量(脱着液中のカドミウム量)及び蓄積量(ゲル中に蓄積されたカドミウム量)の変化をそれぞれ棒グラフとして示した。
【0086】
この図3に示すように、試行回数の増加に伴い、吸着量は減少するが脱着量は増加し、5回目以降では吸着量と脱着量がほぼ等しく0.05mg−Cdとなり、分離剤として実用化が可能なことが判明した。なお、繰返しの吸・脱着量と比較して蓄積量が多いが、これは高分子ゲルの吸着剤には一般的に現れる傾向であり、実用上の問題とはならない。
【0087】
(実施例5)
<カドミウム吸着状態の確認>
カドミウムの吸着が粒子の外側表面よりも面積の広い粒子内部で行われていることを確認するため、実施例4で用いたTPPEN−NIPAゲル担持シリカ粒子の断面について、電子線マイクロアナライザ(EPMA(Electron Probe Micro-Analysis) 株式会社島津製作所製 EPMA8705)を用いてカドミウムの分布状態を観察した。
【0088】
図4(A)は、粒子の断面の2次電子線像であり、図4(B)は、図4(A)に示される粒子の特性X線像によるカドミウム分布像である。この図4から、粒子断面全域にカドミウムが分布していることが明確に判る。このことから、TPPEN−NIPAゲルは粒子内部に担持されていることと判断できる。
【0089】
(実施例6)
<カドミウム吸着カラム試験>
クロマト分離剤としての適性を評価するため、実施例1〜3とほぼ同じ操作で作成したTPPEN−NIPAゲル担持粒子を用いたカラム試験を実施した。
【0090】
カラム本体は、内径5mm、高さ100mmの中・低圧液クロ用ガラスカラム管(東京理化器械株式会社製)で、容量300mlの分液ロートをヘッドタンクとして用い、シリコンチューブでカラム上端と接続した。カラム内には層高33mmまで粒子を充填し、約1時間蒸留水を透過させて安定した流量が継続することを確認後、カラム内の水位を粒子層上端に一致させてカラム下部の排出口を閉じた。
【0091】
実施例4のバッチ試験と同様に、pHとイオン強度を調整したカドミウム濃度:11.8ppmの供給液をヘッドタンクに入れ、装置全体を5℃に設定したインキュベータ内に半日間放置してから、供給液をカラム内に導入した。そして、カラム下部の死空間及び粒子層内に含まれていた蒸留水量と推定される初期の3mlを廃棄した後、メスフラスコにより10ml毎のサンプリングを行い、経過時間とカドミウム濃度を計測した。その計測結果を、図5及び図6に示す。
【0092】
この図5から判るように、経過時間と透過水溶液量の関係は、ヘッドタンクによる水頭圧(32cmHO)のみで毎時24ml前後の安定した流量を維持した。
【0093】
また、図6に10mlサンプル毎のカドミウム濃度と経過時間の関係を示す。カドミウム水溶液60mlが透過した後のTPPEN−NIPAゲル担持シリカ粒子層によるカドミウムの吸着量は0.35mg−Cdとなった。
【0094】
本カラム試験の粒子量は、実施例4のバッチ試験と比較すると約5倍であるため、単位粒子重量当りのカドミウムの初期吸着量としてはバッチ試験と比較すると少ないが、本カラム試験では、小さい水頭圧のみで低い層高の粒子層を透過させているため、被処理水溶液が抵抗の少ない流路のみを通過してしまい、有効に利用された吸着サイトがバッチ試験に比較して少ないことを考慮すると、層高が高くポンプで加圧して被処理水溶液を透過させる実規模カラムでは、十分な吸着量を示すと判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】溶解度曲線と溶液の状態を説明するための図である。
【図2】実施例2において、ゲル合成原液にシリカ粒子を含浸させた結晶成長させたときのレーザー顕微鏡写真である。
【図3】TPPEN−NIPAゲル担持シリカ粒子に対して行ったカドミウムの吸・脱着試験の結果を示すグラフである。
【図4】EPMAによる粒子断面の観測写真であり、(A)は2次電子線像であり、(B)は(A)と同一断面におけるカドミウム分布を示すための特性X線像である。
【図5】カドミウム吸着カラム試験の透過水溶液量を示すグラフである。
【図6】カドミウム吸着カラム試験における10mlサンプル毎のカドミウム濃度と経過時間の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質体に、単量体と分子認識化合物と架橋剤と重合開始剤とを含有する溶液を含浸させる含浸工程と、
上記無機多孔質体の細孔内及び細孔外に、上記単量体の結晶を生成させる結晶生成工程と、
上記単量体と上記分子認識化合物と上記架橋剤とを共重合させて高分子ゲルを生成させる共重合反応工程と、
上記共重合反応工程にて細孔内に上記高分子ゲルが固定された無機多孔質体を洗浄する洗浄工程と
を有する有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項2】
上記溶液中に含有される単量体の濃度は、準安定領域にある濃度である請求項1項記載の有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項3】
上記単量体は、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体である請求項1又は2記載の有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項4】
上記分子認識化合物は、抽出機能剤であり、
上記有機−無機ハイブリッド体は、抽出剤として用いられる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項5】
上記無機多孔質体は、粒径が200μm以下である請求項1乃至4のうちの何れか1項記載の有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項6】
上記無機多孔質体は、細孔径が10nm〜1000nmである請求項1乃至5のうちの何れか1項記載の有機−無機ハイブリッド体の製造方法。
【請求項7】
粒径が200μm以下の無機多孔質体の細孔内に、単量体と分子認識化合物と架橋剤との共重合体である高分子ゲルが保持され、
上記高分子ゲルが保持された細孔を貫通する流路を有する有機−無機ハイブリッド体。
【請求項8】
上記無機多孔質体の細孔径は、10nm〜1000nmである請求項7記載の有機−無機ハイブリッド体。
【請求項9】
上記単量体は、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体である請求項7又は8記載の有機−無機ハイブリッド体。
【請求項10】
上記分子認識化合物は、抽出機能剤である請求項7乃至9のうちの何れか1項記載の有機−無機ハイブリッド体。
【請求項11】
上記抽出機能剤は、下記一般式(1)
【化1】

で表されるN,N,N',N'−テトラキス(4−プロペニル−2−メチルピリジル)エチレンジアミンである請求項10記載の有機−無機ハイブリッド体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43977(P2010−43977A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208685(P2008−208685)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、エネルギー対策特別会計委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】