説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】光ムラを低減し、かつ長寿命とする。
【解決手段】本発明の有機EL素子100は、基板100A上に設けられ発光領域A1が開口されてなる貫通孔121を有する第1隔壁120と、第1隔壁120と基板100Aとの間に設けられた第1電極110と、第1隔壁120と第1電極110との間に設けられた第2隔壁130と、貫通孔121の内側の基板100A上に設けられた有機機能層140と、有機機能層140上に設けられた第2電極150と、を備えている。有機機能層140は、液状の形成材料を固化して形成されている。第1隔壁120が液状の形成材料に対して撥液性を有し、第2隔壁130が親液性を有している。第1電極110の全体、及び第2隔壁130の全体が第1隔壁120と重ね合わされて配置されている。有機機能層140が第1電極110及び第2隔壁130に当接して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称す)を用いた発光素子として、有機EL素子が知られている。有機EL素子は、正孔を供給する陽極と電子を供給する陰極との間に、有機EL材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層を有するものである。供給された正孔と電子とが有機発光層内で結合して、光を生じるようになっている。このように有機EL素子は自発光素子であるので、これを用いて表示装置等を構成するとバックライト等が不要となり薄型化が図られる。また、画像信号に対する応答性が液晶装置よりも優れており、動画の画質向上が図られる。
【0003】
有機EL素子には長寿命化が期待されており、その手法として高開口率化が挙げられる。一般に、有機EL装置には、有機EL素子に供給される画像信号をスイッチングするTFT(薄膜トランジスタ)や、このTFTに画像信号を伝達する各種配線等が設けられている。通常、TFTや各種配線は透光性が低い材料で形成されるため、これらの形成領域を画像表示等に寄与させることは困難であり、TFTや各種配線は遮光領域と重ね合わせて配置されている。
【0004】
特許文献1には、遮光領域を極力小さくする技術が開示されており、これにより開口率を高くすることができる。しかしながら、TFTや配線等の小型化には限界があり、また小型化により製造コストが高くなるおそれもある。そのため、トップエミッション型とすることにより、開口率を高くする手法も提案されている。トップエミッション型は、有機EL素子の電極の一方に反射層を設け、他方から光を取り出すものである。有機EL素子に対して反射層の裏側にTFTや配線等を配置することにより、容易に開口率を高くすることができると考えられる。
【0005】
ところで、有機EL素子の有機機能層の形成には、液滴吐出法等の液相法や蒸着法等の気相法が用いられており、液滴吐出法を用いれば製造コストの低減が可能であることが知られている(例えば、特許文献2)。液滴吐出法を用いる場合には、例えば以下のようにして有機EL素子が製造されている。まず、基板上に画素電極を形成し、その周縁を覆って無機隔壁を形成する。そして無機隔壁上に有機隔壁を形成するとともに、有機隔壁に画素電極を露出させる開口部を形成する。そして、有機機能層の液状の形成材料であるインクに対して有機隔壁を撥液性とし無機隔壁を親液性とした状態で、開口部の内側にインクを充填する。有機隔壁が撥液性であるので、有機隔壁の開口部の内側にインクが選択的に配置される。また、無機隔壁が親液性であるので、画素電極の周縁における濡れ性を確保することができる。
【特許文献1】特開平10−171375号公報
【特許文献2】特開2003−187970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液滴吐出法で有機EL素子を製造すれば、パターニングが容易化になるとともに材料のムダがなくなり、前記のように製造コストの低減が可能であるが、有機EL素子の開口率を高める観点から改善すべき点がある。
【0007】
前記のように有機隔壁の開口部内に選択的にインクを配置するためには、有機隔壁を撥液性とすることが有効である。有機隔壁を撥液性とした場合に、無機隔壁を親液性にすることは濡れ性を確保する観点から不可欠である。無機隔壁は有機隔壁の下地となるため、有機隔壁よりも開口部の内側に張り出して形成されている。そのため、開口部の内側に張り出した部分により、実質的な開口率が低下してしまう。
【0008】
実質的な開口率の低下を防止するために、画素電極や無機隔壁に当接する部分の有機機能層、例えば正孔注入層として膜抵抗が小さいものを採用することも考えられる。これにより、画素電極に対して無機隔壁の裏側の部分の正孔注入層にも正孔が伝わるようになり、ここを発光に寄与させることが可能になる。しかしながら、無機隔壁と画素電極との段差に起因して有機機能層から発せられた光が干渉してしまい、画素内において発光ムラを生じてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、高開口率化が可能であり、しかも段差による発光ムラが防止された有機EL素子を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、所定の発光領域を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、基板上に設けられ前記発光領域が開口されてなる貫通孔を有する第1隔壁と、前記第1隔壁と基板との間に設けられた第1電極と、前記第1隔壁と前記第1電極との間に設けられた第2隔壁と、前記第1隔壁の貫通孔の内側における前記基板上に設けられ、有機エレクトロルミネッセンス材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層と、前記有機機能層上に設けられた第2電極と、を備え、前記有機機能層は、該有機機能層の液状の形成材料を固化して形成されており、前記第1隔壁が前記液状の形成材料に対して撥液性を有しているとともに、前記第2隔壁が前記液状の形成材料に対して親液性を有し、前記第1電極の全体が、平面視した状態で前記第1隔壁と重ね合わされて配置されているとともに、前記第2隔壁の全体が、平面視した状態で前記第1隔壁と重ね合わされて配置されており、前記有機機能層が前記第1電極及び前記第2隔壁に当接して設けられていることを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、第1電極全体が平面視した状態で第1隔壁と重ね合わされて配置されており、かつ第2隔壁全体が平面視した状態で第1隔壁と重ね合わされて配置されているので、発光領域に第1電極や第2隔壁に起因する段差がなくなる。したがって、有機機能層で発せられた光が段差に起因して発光領域で干渉することがなくなり、干渉による発光ムラがなくなる。よって、発光領域において均一な発光が得られる良好な有機エレクトロルミネッセンス素子となる。また、発光領域に第1電極や第2隔壁に起因する段差がなくなるので、段差により実質的な開口率が低下することが防止される。したがって、高開口率の有機エレクトロルミネッセンス素子となり、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化が図られる。
【0012】
また、前記第1電極が、前記発光領域を環状に囲んで設けられていることが好ましい。
このようにすれば、基板側の有機機能層の外周が第1電極によって環状に囲まれるようになり、有機機能層の外周の一部と当接して第1電極が設けられている場合に比べて、外周に沿う方向において有機機能層に供給されるキャリア数が均一になる。したがって、第1電極からの距離の違いによる有機機能層の発光ムラが防止され、良好な有機エレクトロルミネッセンス素子となる。
【0013】
また、前記第1電極が、前記第2隔壁よりも前記発光領域側に張り出して設けられている構成としてもよい。
このようにすれば、第1電極と第2隔壁との段差部分において、第1電極と有機機能層が当接するようになる。したがって、第1電極と有機機能層との接触面積を大きくなり、有機機能層へ良好に電圧を印加することが可能になる。
【0014】
また、前記有機機能層は、前記第1電極に当接して設けられた有機中間層を有し、該前記有機中間層は面方向の抵抗率が1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。
第1電極により有機中間層に電圧を印加すると、有機中間層にキャリアが注入される。有機中間層の面方向の抵抗率が1.0×10Ω・cm以下になっていると、注入されたキャリアが面方向に移動するようになり、面方向におけるキャリア数の均一になる。したがって、面方向における発光ムラが低減され、良好な有機エレクトロルミネッセンス素子となる。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、所定の発光領域を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記発光領域の周辺における基板上に第1電極を形成する工程と、前記発光領域の周辺から前記発光領域の外周にわたって前記第1電極を覆う第2隔壁材料膜を形成する工程と、前記第2隔壁材料膜の全体を覆って第1隔壁を形成するとともに、前記発光領域における前記第1隔壁を開口して貫通孔を形成し、該貫通孔の内側に前記第2隔壁材料膜を露出させる第1隔壁形成工程と、前記貫通孔の内側に露出した前記第2隔壁材料膜をサイドエッチして第2隔壁を形成するとともに、前記第1電極を露出させるサイドエッチ工程と、前記サイドエッチ工程の後に、前記第1電極及び前記第2隔壁に当接するとともに前記貫通孔の内側における前記基板上に配置され、有機エレクトロルミネッセンス材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層を形成する有機機能層形成工程と、前記有機機能層上に第2電極を形成する工程と、を有し、前記有機機能層形成工程では、前記有機機能層の液状の形成材料を配置しこれを固化して前記有機機能層形成し、前記有機機能層形成工程より前に、前記第2隔壁を前記液状の形成材料に対して親液性にするとともに、前記第1隔壁を前記液状の形成材料に対して撥液性にすることを特徴とする。
【0016】
発光領域の周辺から発光領域の外周にわたって第1電極を覆う第2隔壁材料膜を形成し、第2隔壁材料膜の全体を覆って第1隔壁を形成すると、第1電極の全体が平面視した状態で第1隔壁と重ねあわされる。また、サイドエッチ工程で第1電極を露出させるまでサイドエッチするので、発光領域の周辺まで第2隔壁材料膜がサイドエッチされる。これにより、第2隔壁の全体が第1隔壁に重ね合わされる。これにより、発光領域に第1電極及び第2隔壁がともに配置されていない有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。このような有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記のように発光ムラが防止され、しかも高開口率とすることが可能である。このように本発明によれば、良好な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0017】
また、前記第1電極を形成する工程よりも前に、前記基板上に前記液状の形成材料に対して親液性を有する材料で平坦化層を形成する工程を有しており、前記第1隔壁形成工程では、前記液状の形成材料に対して撥液性を有する材料で前記第1隔壁を形成し、前記有機機能層形成工程では、前記平坦化層上に前記液状の形成材料を配置することが好ましい。
親液性を有する平坦化層を形成すると、有機機能層形成工程で平坦化層上に配置された液状の形成材料がここに良好に濡れ広がるので、平坦化層上に設けられた第1電極に良好に当接する有機機能層を形成することができる。また、液状の形成材料に対して撥液性を有する材料で第1隔壁を形成すれば、第1隔壁に撥液性を付与する表面処理が不要となり、この表面処理によって平坦化層が撥液化されることが防止される。
【0018】
また、前記有機機能層形成工程は、前記第1電極に当接して前記有機機能層の一部を構成する有機中間層を形成するプロセスを含み、該プロセスでは、ポリチオフェン誘導体に、グリコール系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、N−methylpyrrolidone(NMP)、dimethyl sulfoxide(DMSO)、N,N−dimethylformamide(DMF)、N,N−dimethylacetamide、のうち少なくとも1つを添加してなる材料で前記有機中間層を形成することが好ましい。
このようにすれば、前記の溶媒を添加する量を調整することにより有機中間層の面方向の抵抗率を調整することができ、所望の抵抗率の有機中間層とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以降の説明では図面を用いて各種の構造を例示するが、構造の特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造はその寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせて示す場合がある。
【0020】
以下の[第1実施形態]では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称す)を多数備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と称す)の構成を説明する。[第2実施形態]では、本発明の有機EL素子の製造方法の実施形態を第1実施形態の有機EL装置に基づいて説明する。[第3実施形態]では、第2実施形態と異なる様態の有機EL素子の製造方法の実施形態を説明する。[電子機器]では、本発明の有機EL素子を備えた電子機器について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
第1実施形態の有機EL装置は、複数の画素を備えたフルカラーの画像表示装置であり、画素の発光素子として機能する有機EL素子を有している。この有機EL素子は、本発明を適用したものである。なお、第1実施形態の有機EL装置は、ボトムエミッション型となっている。
【0022】
図1(a)は、本実施形態の有機EL装置1における画素の構成を概略して示す平面図であり、図1(b)は図1(a)のB−B線に沿う断面図である。図1(a)に示すように、有機EL装置1は、行列状に整列配置された複数の発光領域A1を有しており、1つの発光領域A1がサブ画素Pr、Pg、Pbの1つと対応している。複数の発光領域A1は第1隔壁120によって区画されている。
【0023】
サブ画素Pr、Pg、Pbはいずれも同様の構成となっているが、有機発光層(後述する)の形成材料の違いにより、それぞれ赤色光、緑色光、青色光を射出するようになっている。3つのサブ画素Pr、Pg、Pbから射出された3色の色光により、フルカラー表示の最小単位である1画素が構成される。本実施形態のサブ画素Pr、Pg、Pbは、いずれも平面視略長円形状になっている。長円形状とは、一方向に延びる帯形状を有しその両端が円弧状になっている形状のことである。ここでは、前記一方向を長軸とし、長軸の直交方向を短軸とする長円形状になっている。
【0024】
以下、図1に示したXYZ直交座標系を設定し、これに基づいて部材の位置関係を説明する。このXYZ直交座標系において、X方向はサブ画素Pr、Pg、Pbの短軸方向、Y方向は長軸方向、Z方向は有機EL装置1の厚さ方向となっている。
【0025】
本実施形態では、X方向に色光が異なる3種類のサブ画素Pr、Pg、Pbが周期的に並んで配置されており、Y方向に3種類のサブ画素Pr、Pg、Pbが色ごとに並んで配置されている。ここではサブ画素Pr、Pg、Pbの各々に、有機EL素子が配置されている。各有機EL素子は、発光領域A1の外周を環状に囲んで設けられた画素電極(第1電極)110と、画素電極110に対向して設けられたベタ状の共通電極(第2電極)150を有している。ここでは図示しないものの、発光領域A1において隔壁120を貫通する貫通孔が設けられており、貫通孔の内側における画素電極110と共通電極150との間に有機機能層が設けられている。
【0026】
図2(b)に示すように、有機EL素子100は、素子基板(基板)100A上に設けられた画素電極110、有機機能層140、共通電極150を備えている。画素電極110上に第2隔壁130が設けられており、第2隔壁130上に第1隔壁120が設けられている。発光領域A1における第1隔壁120が開口されてなる貫通孔121が設けられている。画素電極110及び第2隔壁130は、発光領域A1の周辺すなわち貫通孔121の外側に配置されており、各々の全体が第1隔壁120と重ね合わされて設けられている。貫通孔121の内側における素子基板100A上には有機機能層140が設けられており、有機機能層140上と第1隔壁120上とにわたって、ベタ状の共通電極150が設けられている。
【0027】
素子基板100Aは、その詳細な構成を図示しないが、X方向に延設された複数の走査線、Y方向に延設された複数の信号線、各信号線と並んで延設された電源線等の各種配線を備えている。各走査線は、走査信号を供給する走査線駆動回路に接続されており、各信号線は、画像信号を供給する信号線駆動回路に接続されている。走査線及び信号線により区画される領域に、サブ画素Pr、Pg、Pbのうちの1つが配置されている。サブ画素Pr、Pg、Pbの各々にはスイッチング素子(TFT)105が設けられている。TFT105は、走査信号に基づいて画像信号をスイッチングするとともに、スイッチングされた画像信号に基づいて、電源線を介して画素電極110に所定の電圧を印加するようになっている。また、TFT105及び素子基板100Aを覆って、平坦化層106が設けられている。平坦化層106は、絶縁性のアクリル系樹脂やポリイミド系樹脂等からなっており、有機機能層140の液状の形成材料に対して親液性となっている。
【0028】
本実施形態では、画素電極110が陽極として機能するようになっており、共通電極150が陰極として機能するようになっている。
画素電極110は、平坦化層106を貫通してTFT105と電気的に接続されている。また、仕事関数が高い(例えば5eV以上)導電材料からなっており、画素電極110から有機機能層140に正孔が効率的に供給されるようになっている。前記の導電材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、金(Au)等が挙げられる。本発明においては、トップエミッション型・ボトムエミッション型に関らず画素電極を通さずに光を取り出すことができるので、透光性の画素電極とする必要がない。したがって、画素電極の形成材料の選択自由度が高くなっている。例えば、コバルトやニッケルを選択すれば低コストとすることができ、金を選択すれば低抵抗の画素電極とすることができる。
ここでは、ITOからなる画素電極110を採用しており、第2隔壁130よりも発光領域A1側に張出して設けられている。すなわち、画素電極110は、厚さ方向の側面、及び第2隔壁130との段差部分に露出した上面が正孔注入層141と当接している。
【0029】
共通電極150は、仕事関数が低い(例えば5eV以下)材料からなっている。仕事関数が低い材料としては、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物であるフッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体等が挙げられる。ここでは、有機機能層140上に図示略のカルシウム層、及びアルミニウム層が順次形成された多層構造となっている。カルシウム層は、有機機能層140に電子を注入する電子注入層、あるいは有機機能層140に電子を輸送する電子輸送層等として機能するようになっており、アルミニウム層は共通電極150を低抵抗化するとともに有機機能層140から発せられた光を画素電極110側に反射する反射層としても機能するようになっている。
【0030】
有機機能層は、有機EL材料からなる有機発光層を含んで構成されている。有機機能層の構造としては、陽極側から正孔注入層、有機発光層が順に積層された構造や、正孔注入層と有機発光層との間に正孔輸送層を設けた構造、正孔注入層に替えて正孔注入輸送層を設けた構造、さらに有機発光層の陰極側に電子注入(輸送)層を設けた構造等が挙げられる。
【0031】
本実施形態では、画素電極110側から順に配置された正孔注入層(有機中間層)141、正孔輸送層142、及び有機発光層143の3層の有機層で構成された有機機能層140を採用している。正孔注入層141は、素子基板100Aと第1隔壁120との間にも形成されており、画素電極110及び第2隔壁130と当接している。3層の有機層の各々は、各有機層の液状の形成材料を液相法で配置し、これを乾燥・焼成等により固化して形成されている。詳しくは[第2実施形態]で説明するが、本実施形態の正孔注入層141は、ポリチオフェン誘導体にジエチレングリコール等のグリコール系溶媒を添加してなる液状の形成材料を用いている。グリコール系溶媒の添加量を調整することにより、正孔注入層141は、その面方向の抵抗率が1.0×10−2〜1.0×10Ω・cmの範囲内なるように調整されている。
【0032】
有機機能層の形成材料としては、公知のものを用いることができ、具体的には以下のようなものがある。
正孔注入層の形成材料として、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体等が挙げられる。
正孔輸送層の形成材料としては、TAPC、TPD、α‐NPD、m‐MTDATA、2‐TNATA、TCTA、スピロ‐TAD、(DTP)DPPD、HTM1、TPTE1、NTPA、TFLTF、ポリフルオレン誘導体(PF)やポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系有機高分子材料等が挙げられる。
【0033】
有機発光層の形成材料としては、前記した正孔輸送層の形成材料の他、ペニレン系色素や、クマリン系色素、ローダミン系色素などの有機高分子材料、あるいはこれら有機高分子材料に例えばルブレン、ペリレン、9,10‐ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドンなどの低分子有機材料をドープしたもの、CBP(4.4.‐ジカルバゾール‐4,4‐ビフェニル)誘導体、PtOEP(白金ポルフィリン錯体)誘導体、Ir(ppy)3(イリジウム錯体)誘導体、FIrpic(イリジウム錯体)誘導体等の燐光材料等が挙げられる。
有機発光層の形成材料の具体例としては、(ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジビニレンフルオレニレン‐alt‐co‐(9, 10‐アントラセン))]や、(ポリ[{9,9ジヘキシル‐2,7‐ビス(1‐シアノビニレン)フルオレニル-エン}‐alt‐co‐{2,5‐ビス(N,N’ ‐ジフェニルアミノ)‐1,4‐フェニレン}]、(ポリ[{2‐メトキシ‐5‐(2‐エチルヘキシロキシ)‐1,4‐(1‐シアノビニレンフェニレン)}‐co‐{2,5‐ビス(N,N’‐ジフェニルアミノ)‐1,4‐フェニレン}])等の赤色発光材料や、F8BT(ジオクチルフルオレン/ベンゾチアジアゾール共重合体)等の緑色発光材料、PF8(ポリジオクチルフルオレン)等の青色発光材料等が挙げられる。
【0034】
なお、電子輸送層を設ける場合にその形成材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ヒドロキシキノリン誘導体等を用いるとよい。
【0035】
第1隔壁120は、絶縁性のアクリル系樹脂やポリイミド系樹脂等にフッ素等を添加した含フッ素樹脂等の樹脂材料(有機材料)からなっており、第2隔壁130は、シリコン酸化物(SiO)やシリコン窒化物(SiN)等からなっている。第1隔壁120は、有機機能層140の形成に用いる液状の形成材料に対して撥液性になっており、第2隔壁130はこの液状の形成材料に対して親液性になっている。
【0036】
以上のような有機EL素子100の画素電極110には、走査信号や画像信号により所定のタイミングで所定の電圧が印加されるようになっている。これにより、画素電極110から正孔注入層141に正孔が供給され、共通電極150から有機発光層143に電子が供給される。画素電極110側から供給された正孔は、正孔注入層141及び正孔輸送層142を通って有機発光層143に運ばれ、共通電極150側から供給された電子と結合することにより光を発する。平坦化層106側に発せられた光は、素子基板100A側から射出され、共通電極150側に発せられた光は共通電極150で反射し素子基板100A側から射出される。3つのサブ画素Pr、Pg、Pbから射出された3色の色光によりフルカラーの1画素が構成される。このような画素が多数設けられていることにより、画像を表示することが可能になっている。
【0037】
なお、第1実施形態では、サブ画素の形状が長円状である場合について説明したが、矩形状、矩形の角を丸めた形状、楕円状であってもよい。また、発光領域A1の外周を環状に囲むのではなく、外周の一部に沿う湾曲した帯状であってもよい。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の実施形態を第1実施形態の有機EL装置1に基づいて説明する。図2(a)〜(c)、図3(a)〜(c)、図4(a)〜(c)は、本実施形態の有機EL素子の製造方法を示す断面工程図である。
【0039】
まず、図2(a)に示すように、例えばガラスや石英、プラスチック等の透光性を有する基体に、走査線、信号線、電源線等の各種配線や各種スイッチング素子等を形成してTFT105を有する素子基板100Aを形成する。
【0040】
次いで、図2(b)に示すように、TFT105及び素子基板100Aを覆って、平坦化層106を形成するともに、平坦化層106の所定領域を開口してここにTFT105を露出させる。例えば、平坦化層106の形成材料に感光性のアクリル樹脂を用いて、これをTFT105及び素子基板100Aを覆って成膜する。そして、この膜を露光・現像することにより、所定領域を開口する。ここでは、形成材料を選択することにより、平坦化層106を有機機能層140の液状の形成材料に対して親液性にする。
【0041】
次いで、図2(c)に示すように、発光領域A1を環状に囲む領域の平坦化層106上に画素電極110を形成するとともに、平坦化層106の開口内にTFT105と導通接触させて画素電極110を形成する。例えば、開口内を含んだ平坦化層を覆って50〜300nm程度の厚みにITO等の導電材料を成膜した後、この膜をフォトリソグラフィ法及びエッチング技術を用いてパターニングすることにより画素電極110を形成する。ここでは、通常と同様に王水等をエッチャントに用いて、ITOからなる膜をウエットエッチングする。
【0042】
次いで、図3(a)に示すように、発光領域A1の周辺において画素電極110を覆うとともに、発光領域A1の周辺から外周にわたって第2隔壁材料膜130aを形成する。本実施形態では、第2隔壁材料膜130aの形成材料としてシリコン酸化物(SiO)を用いて、これを画素電極110及び平坦化層106を覆って成膜する。そして、フォトリソグラフィ法及びエッチング技術を用いてパターニングすることにより第2隔壁材料膜130aを形成する。ここでは、フッ化水素酸(HF)とフッ化アンモニウム(NHF)との混合溶液であるバッファードフッ酸(BHF)をエッチャントに用いて、シリコン酸化物からなる膜をウエットエッチングし、発光領域A1の周辺から内側に張出した第2隔壁材料膜130aを形成する。
一般に、ITOやSiO等の無機材料からなる膜は、有機機能層140の液状の形成材料に対して親液性を有しており、画素電極110や第2隔壁材料膜130aも通常と同様に親液性になる。
【0043】
次いで、図3(a)に示すように、第2隔壁材料膜130a上に第1隔壁120を形成するとともに、第1隔壁120の発光領域A1を開口して貫通孔121を形成する。具体的には、第1隔壁120の形成材料として感光性のアクリル樹脂にフッ素を添加した含フッ素樹脂材料を用いて、これを第2隔壁材料膜130a及び平坦化層106を覆って成膜する。そして、この膜を露光・現像することにより、その発光領域A1と重なる部分を除去して貫通孔121を形成する。含フッ素樹脂材料を用いることにより、第1隔壁120は、有機機能層140の液状の形成材料に対して撥液性になる。
【0044】
次いで、図3(c)に示すように、貫通孔121の内側に露出した部分の第2隔壁材料膜130aをエッチングするとともに、これを発光領域A1の外側にサイドエッチ(オーバーエッチ)して画素電極110を露出させる。本実施形態では、第2隔壁材料膜130aの形成時と同様にバッファードフッ酸(BHF)をエッチャントに用いてウエットエッチングする。SiOのエッチングレートは、例えば25℃で120nm/min程度である。ここでは、エッチング時間の制御によりサイドエッチ量を制御し、画素電極110の内周よりも外側まで第2隔壁材料膜130aをサイドエッチして、これを第2隔壁130とする。これにより、画素電極110の内周側の側面と内周側周縁の上面が露出する。内周側周縁の上面の露出面積は、エッチング時間の制御により容易に調整可能である。
【0045】
次いで、図4(a)に示すように、液滴吐出ヘッド200によって正孔注入層141の液状の形成材料を吐出して、これを貫通孔121の内側に配置する。
例えば、正孔注入層141の液状の形成材料として、ポリチオフェン誘導体である3,4‐ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)をポリスチレンスルフォン酸(PSS)に分散させ、さらにこれを水に分散させたPEDOT/PSS溶液に溶媒を添加して粘度を調整した溶液を調製する。溶媒としては、グリコール系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルブタノール、γ‐ブチロラクトン、N‐メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスソルアミド(HMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3‐ジメチル‐2‐イミダゾリジノン(DMI)及びその誘導体、カルビト‐ルアセテート、ブチルカルビト‐ルアセテート等のグリコールエーテル類の高沸点溶媒等を用いることができる。これら溶媒の添加量を調整することにより、正孔注入層141の面方向の抵抗率を1.0×10−2〜1.0×10Ω・cmの範囲内に調整することができる。また、溶液の粘度を、1〜3wt%の溶液において2〜20cps程度とすること好ましく、7〜10cps程度とすることがより好ましい。このようにすれば、液滴吐出ヘッドの吐出ノズルに詰まりを生じることなく溶液を安定に吐出することができる。
【0046】
本実施形態では、前記のPEDOT/PSS溶液にジエチレングリコールを溶媒として添加した溶液を正孔注入層141の液状の形成材料として用いる。前記のように平坦化層106、画素電極110、及び第2隔壁130が親液性となっているので、ここに液状の形成材料が良好に濡れ広がる。このようにして、貫通孔121の内側、及び第1隔壁120と素子基板100Aとの間に液状体141aを配置する。第1隔壁120が撥液性となっているので第1隔壁120の上面に液状の形成材料が濡れ広がることがないので、液状体141aは貫通孔121の内側に高い位置精度で配置される。
【0047】
前記のように撥液性を付与する添加剤(ここではフッ素)を含有する形成材料(含フッ素樹脂材料)で第1隔壁120を形成しているので、液状体141aを配置する前にCFプラズマ処理等の撥液処理を行う必要がない。撥液処理を行わないことにより、平坦化層106に撥液性が付与されることがなく、良好に液状体141aを配置することができる。
【0048】
次いで、図4(b)に示すように、液状体141aに例えば150℃の加熱処理を行って、液状体141aを乾燥させて固形状の膜とし、正孔注入層141を形成する。
次いで、図4(c)に示すように、正孔注入層141上に、正孔輸送層142、有機発光層140を順に形成して、これら3層の有機層からなる有機機能層140を形成する。
具体的には、正孔輸送層142の液状の形成材料として例えばTFBを0.5wt%トリメチルベンゼン溶液とし、これを液滴吐出法で貫通孔121の内側及に配置する。そして、配置した溶液を窒素雰囲気において180℃程度の温度で1時間程度加熱して乾燥させる。そして、その表面をトリメチルベンゼン溶媒で洗浄し、トリメチルベンゼン溶媒に対して可溶な表層を除去するとともに不溶な層を残して、膜厚が50nm程度の正孔輸送層142を形成する。
そして、有機発光層143の液状の形成材料として例えば前記赤色発光材料を0.8wt%のトリメチルベンゼン溶液とし、これを液滴吐出法で貫通孔121の内側に配置する。そして、配置した溶液を窒素雰囲気において130℃程度の温度で30分程度加熱して焼成し、膜厚が60〜80nm程度の有機発光層143を形成する。
【0049】
次いで、有機機能層140上に共通電極150を形成する。例えば、真空度が10−6Torr(1.33×10−4Pa)の雰囲気でカルシウムを真空蒸着法により10nm程度の膜厚に成膜した後、同様の条件下でアルミニウム(Al)を200nm程度の膜厚に成膜して、カルシウム膜とアルミニウム膜とからなる共通電極150を形成する。
以上のようにして、図1(b)に示した有機EL素子100が得られる。また、素子基板100A上に設けられた複数の有機EL素子100を適宜封止し、信号線駆動回路や走査線駆動回路、周辺回路等を設けることにより有機EL装置1が得られる。
【0050】
以上のような製造方法によって得られた有機EL装置1の有機EL素子100にあっては、画素電極110及び第2隔壁130の各々全体が第1隔壁120と重ね合わされて配置されており、これらが発光領域A1に設けられていない。したがって、画素電極110や第2隔壁130に起因する段差が発光領域A1にないので、有機機能層140で発せられた光が段差により干渉して発光ムラを生じることがなくなり、しかも段差により実質的な開口率が低下することがない。
【0051】
また、正孔注入層141は、その面方向の抵抗率が1.0×10−2〜1.0×10Ω・cmの範囲内なるように調整されているので、ここに供給された正孔が面方向に移動しつつ正孔輸送層142に供給される。したがって、正孔輸送層142に供給される正孔数が発光領域A1で均一になり、発光領域A1において均一な発光が得られるようになっている。
【0052】
また、画素電極110が正孔注入層141の外周を環状に囲んで設けられているので、有機機能層に供給される正孔数(キャリア数)が部分的にばらつくことが防止される。詳しくは、正孔注入層141の一部に注入される正孔数は、画素電極110から遠ざかるにつれて少なくなる。B−B線に沿う断面において正孔注入層141には、X正方向に位置する部分の画素電極110から正孔が供給されるとともに、X負方向に位置する部分の画素電極110からも正孔が供給される。すなわち、X正方向の画素電極110から離れるほどこれにより供給される正孔数が少なくなるが、X負方向の画素電極110と近づくのでこれにより供給される正孔数が多くなる。そのため、正孔注入層141の一部において、X正方向から供給される正孔数とX負方向から供給される正孔数との総数は、X方向で均一になる。同様の理由により、XY面に沿う任意の方向において供給される正孔数が均一になる。したがって、発光領域A1において正孔注入層141に供給される正孔数が均一になり、発光領域A1で均一な発光が得られるようになっている。
【0053】
また、画素電極110が第2隔壁130よりも発光領域A1側に張出して設けられているので、第2隔壁が画素電極よりも発光領域側に張出して設けられている場合に比べて、正孔注入層141に供給される正孔数の調整が容易になる。詳しくは、画素電極110は、厚さ方向の側面、及び第2隔壁130との段差部分に露出した上面が正孔注入層141と当接しているので、段差部分に露出した上面の面積だけ接触面積が大きくなっている。一般に、画素電極の面方向の寸法は厚さ方向に比べて格段に大きい(例えば数十倍から数百倍程度)ため、面方向では厚さ方向よりもマージンが大きくなっている。したがって、画素電極の厚みを調整するよりも画素電極の面方向の寸法、あるいは第2隔壁の面方向の寸法を調整する方が容易である。よって、正孔注入層と画素電極との接触面積を容易に調整することができ、接触部分を介して供給される正孔数の調整が容易になる。
【0054】
以上のように本発明の有機EL素子にあっては、発光領域A1において発光ムラを生じることが防止されているとともに高開口率となっている。したがって、所定の発光量を得るために有機機能層140に流す電流値が低開口率のものよりも少なくなり、有機機能層140の劣化が格段に低減される。よって、有機機能層140の劣化による短寿命化が防止され、長寿命の良好な有機EL素子となる。
本発明の有機EL素子の製造方法にあっては、前記のような良好な有機EL素子を製造することが可能になっている。
【0055】
[第3実施形態]
次に、第2実施形態と異なる様態の有機EL素子の製造方法の実施形態を説明する。本実施形態が第2実施形態と異なる点は、トップエミッション型の有機EL装置を製造する点である。
【0056】
図5(a)〜(d)は、本実施形態の有機EL素子の製造方法を概略して示す断面工程図である。
まず、第1実施形態と同様にして、素子基板100A上に平坦化層106を形成する(図2(a)、(b)参照)。
次いで、図5(a)に示すように、平坦化層106上の発光領域Aを含んだ所定領域に反射層107を形成する。例えば、開口内を含んだ平坦化層106上に反射層107の形成材料を成膜し、この膜をフォトリソグラフィ法及びエッチング技術によりパターニングして反射層107を形成する。前記形成材料としては、アルミニウム(Al)、あるいはNd、Ta、Nb、Mo、W、Ti、Si、B、Niから選択される1以上とアルミニウムとからなる合金等が挙げられる。
【0057】
次いで、図5(b)に示すように、反射層107を覆ってパッシベーション膜108を形成するとともに、平坦化層106の開口を通してTFT105を露出させる開口を形成する。パッシベーション膜108の形成材料を選択することにより、画素電極110や第2隔壁材料膜130aのパターニングにおいて反射層107を保護し、かつ有機機能層140の形成に用いる液状の形成材料に対して親液性を有するパッシベーション膜108を形成する。具体的には、平坦化層106と同じ形成材料や、シリコン窒化物(SiN)等が挙げられる。ここでは、平坦化層106と同様に、感光性のアクリル樹脂を成膜し、この膜を露光・現像することによりパッシベーション膜108を形成する。
【0058】
なお、画素電極のパターニング条件、第2隔壁のパターニング条件により、反射層107を保護する必要がない場合には、パッシベーション膜108が不要となる。この場合には、パッシベーション膜108を形成せずに、第1実施形態と同様に画素電極を形成し、後の工程を行うことにより有機EL素子を製造することができる。
【0059】
次いで、図5(c)に示すように、発光領域A1を環状に囲む領域のパッシベーション膜108上に画素電極110を形成するとともに、パッシベーション膜108の開口内にTFT105と導通接触させて画素電極110を形成する。例えば、開口内を含んだ平坦化層を覆って50〜300nm程度の厚みにITO等の導電材料を成膜した後、この膜をフォトリソグラフィ法及びエッチング技術を用いてパターニングすることにより画素電極110を形成する。ここでは、通常と同様に王水等をエッチャントに用いて、ITOからなる膜をウエットエッチングする。
【0060】
次いで、第1実施形態と同様にして、第2隔壁材料膜130aを形成し後の工程を行うことにより、図5(d)に示すような有機EL素子100が得られる。このように本発明を適用してボトムエミッション型の有機EL装置を製造することもできる。このようにして得られた有機EL装置の有機EL素子にあっても、第1実施形態と同様に発光ムラを生じることが防止されているとともに高開口率となっており、長寿命の良好なものになっている。
【0061】
[電子機器]
次に、本発明の有機EL素子を有するラインヘッド(有機EL装置)を備えた画像形成装置(電子機器)について説明する。図6は、画像形成装置400を示す概略構成図である。
【0062】
画像形成装置400は、転写媒体422の走行経路の近傍に、像担持体としての感光体ドラム416を備えている。感光体ドラム416の周囲には、感光体ドラム416の回転方向(図中に矢印で示す)に沿って、露光装置415、現像装置418及び転写ローラ421が順次配設されている。感光体ドラム416は、回転軸417の周りに回転可能に設けられており、その外周面には、回転軸方向中央部に感光面416Aが形成されている。露光装置415及び現像装置418は感光体ドラム416の回転軸417に沿って長軸状に配置されており、その長軸方向の幅は、感光面416Aの幅と概ね一致している。
【0063】
この画像形成装置400では、まず、感光体ドラム416が回転する過程において、露光装置415の上流側に設けられた図示略の帯電装置により感光体ドラム416の表面(感光面416A)が例えば正に帯電され、次いで露光装置415により感光体ドラム416の表面が露光されて表面に静電潜像LAが形成される。さらに、現像装置418の現像ローラ419により、トナー(現像剤)430が感光体ドラム416の表面に付与され、静電潜像LAの電気的吸着力によって静電潜像LAに対応したトナー像が形成される。なお、トナー粒子は正に帯電されている。
【0064】
現像装置418によるトナー像の形成後は、感光体ドラム416の更なる回転によりトナー像が転写媒体422に接触し、転写ローラ421により転写媒体422の背面からトナー像のトナー粒子とは逆極性の電荷(ここでは負電荷)が付与され、これに応じて、トナー像を形成するトナー粒子が感光体ドラム416の表面から転写媒体422に吸引され、トナー像が転写媒体122の表面に転写される。
【0065】
露光装置415は、複数の発光素子450を有するラインヘッド410と、ラインヘッド410から放射された光Lを正立等倍結像させる複数のレンズ素子413を有する結像光学素子412とを備えている。ラインヘッド410と結像光学素子412とは、互いにアライメントされた状態で図示略のヘッドケースによって保持され、感光体ドラム416上に固定されている。
【0066】
ラインヘッド410は、複数の発光素子450を感光体ドラム416の回転軸417に沿って配列してなる発光素子列420と、発光素子450を駆動させる図示略の駆動素子からなる駆動素子群と、これら駆動素子(駆動素子群)の駆動を制御する制御回路群411とを備えている。発光素子450、駆動素子群及び制御回路群411は長細い矩形の素子基板(基体)410A上に一体形成されている。
【0067】
結像光学素子412は、日本板硝子株式会社製のセルフォック(登録商標)レンズ素子と同様の構成からなるレンズ素子413を感光体ドラム416の回転軸417に沿って千鳥状に2列配列(配置)してなるレンズ素子列414を備えている。
この画像形成装置400は、ラインヘッド410が本発明の有機EL素子で構成されている。本発明の有機EL素子は、発光領域における発光ムラが低減されているので、感光体ドラムを良好に感光させることができ、高精細な画像を形成することが可能な画像形成装置となっている。また、本発明の有機EL素子は、高開口率になっており長寿命になっているので、長寿命の画像形成装置となっている。
【0068】
次に、本発明の有機EL素子を有する画像表示装置(有機EL装置)を表示部に用いた電子機器について説明する。
【0069】
図8(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。携帯電話500は表示部510を備えており、表示部510は本発明の有機EL装置により構成されている。
図8(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。情報処理装置600は、キーボードなどの入力部610、表示部620、筐体630等を備えている。また、表示部620は、本発明の有機EL装置により構成されている。
図8(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。時計700は表示部710を備えている。表示部710は、本発明の有機EL装置により構成されている。
【0070】
図8(a)〜(c)に示す電子機器はいずれも、その表示部が本発明の有機EL装置により構成されているので、良好な表示が可能となっておりしかも長寿命のものとなっている。
【0071】
なお、電子機器としては、前記電子機器に限られることなく、種々の電子機器に適用することができる。例えば、ディスクトップ型コンピュータ、液晶プロジェクタ、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)及びエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置等の電子機器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(a)は画素構成の平面概略図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、製造方法を示す断面工程図である。
【図3】(a)〜(c)は、図2(c)から続く断面工程図である。
【図4】(a)〜(c)は、図3(c)から続く断面工程図である。
【図5】(a)〜(d)は、異なる様態の製造方法を示す断面工程図である。
【図6】電子機器の一例であるラインヘッドを概略して示す概略構成図である。
【図7】(a)〜(c)は、図7と異なる電子機器の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・有機EL装置、100・・・有機EL素子、110・・・画素電極(第1電極)
120・・・第1隔壁、121・・・貫通孔、130・・・第2隔壁、140・・・有機機能層、141・・・正孔注入層、142・・・正孔輸送層、143・・・有機発光層、150・・・共通電極(第2電極)、A1・・・発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の発光領域を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
基板上に設けられ前記発光領域が開口されてなる貫通孔を有する第1隔壁と、
前記第1隔壁と基板との間に設けられた第1電極と、
前記第1隔壁と前記第1電極との間に設けられた第2隔壁と、
前記第1隔壁の貫通孔の内側における前記基板上に設けられ、有機エレクトロルミネッセンス材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層と、
前記有機機能層上に設けられた第2電極と、を備え、
前記有機機能層は、該有機機能層の液状の形成材料を固化して形成されており、
前記第1隔壁が前記液状の形成材料に対して撥液性を有しているとともに、前記第2隔壁が前記液状の形成材料に対して親液性を有し、
前記第1電極の全体が、平面視した状態で前記第1隔壁と重ね合わされて配置されているとともに、前記第2隔壁の全体が、平面視した状態で前記第1隔壁と重ね合わされて配置されており、
前記有機機能層が前記第1電極及び前記第2隔壁に当接して設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第1電極が、前記発光領域を環状に囲んで設けられていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第1電極が、前記第2隔壁よりも前記発光領域側に張り出して設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機機能層は、前記第1電極に当接して設けられた有機中間層を有し、該前記有機中間層は面方向の抵抗率が1.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
所定の発光領域を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記発光領域の周辺における基板上に第1電極を形成する工程と、
前記発光領域の周辺から前記発光領域の外周にわたって前記第1電極を覆う第2隔壁材料膜を形成する工程と、
前記第2隔壁材料膜を覆って第1隔壁を形成するとともに、前記発光領域における前記第1隔壁を開口して貫通孔を形成し、該貫通孔の内側に前記第2隔壁材料膜を露出させる第1隔壁形成工程と、
前記貫通孔の内側に露出した前記第2隔壁材料膜をサイドエッチして第2隔壁を形成するとともに、前記第1電極を露出させるサイドエッチ工程と、
前記サイドエッチ工程の後に、前記第1電極及び前記第2隔壁に当接するとともに前記貫通孔の内側における前記基板上に配置され、有機エレクトロルミネッセンス材料からなる有機発光層を含んだ有機機能層を形成する有機機能層形成工程と、
前記有機機能層上に第2電極を形成する工程と、を有し、
前記有機機能層形成工程では、前記有機機能層の液状の形成材料を配置しこれを固化して前記有機機能層形成し、
前記有機機能層形成工程より前に、前記第2隔壁を前記液状の形成材料に対して親液性にするとともに、前記第1隔壁を前記液状の形成材料に対して撥液性にすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1電極を形成する工程よりも前に、前記基板上に前記液状の形成材料に対して親液性を有する材料で平坦化層を形成する工程を有しており、
前記第1隔壁形成工程では、前記液状の形成材料に対して撥液性を有する材料で前記第1隔壁を形成し、
前記有機機能層形成工程では、前記平坦化層上に前記液状の形成材料を配置することを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記有機機能層形成工程は、前記第1電極に当接して前記有機機能層の一部を構成する有機中間層を形成するプロセスを含み、該プロセスでは、ポリチオフェン誘導体に、グリコール系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、N−methylpyrrolidone(NMP)、dimethyl sulfoxide(DMSO)、N,N−dimethylformamide(DMF)、N,N−dimethylacetamide、のうち少なくとも1つを添加してなる材料で前記有機中間層を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−272108(P2009−272108A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120950(P2008−120950)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】