説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその用途

【課題】発光効率が高く寿命が長い有機EL素子を提供。
【解決手段】基板と、上記基板上に形成された一対の電極と、上記一対の電極間に、発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、上記発光層が下記式(1)で表される化合物と電荷輸送性の非共役高分子化合物とを含有する有機EL素子。


(式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基で、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、R1〜R8のうちの少なくとも2つは前記アルキル基で、前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子を含むアルキル基。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子、より詳細には燐光発光性化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(本明細書において、有機EL素子ともいう)の用途を拡大するために、高い発光効率を有する燐光発光性化合物を用いた材料開発が活発に行われている。
【0003】
有機EL素子を特にディスプレイ用途へ展開させるためには、高い発光効率とともに素子の安定した駆動を持続する材料の開発が必須である。
特表2003−526876号公報(特許文献1)には、燐光発光性化合物として有機イリジウム錯体を用いることで、有機EL素子の発光効率を大きく向上させ得ることが開示されている。イリジウム錯体としてはトリス(2−(2−ピリジル)フェニル)イリジウムおよびその誘導体が例示されており、芳香族構造の配位子の置換基をアルキル基またはアリール基に変更することによって、イリジウム錯体の発光色が変わることが記載されている。また、特開2001−247859号公報(特許文献2)にはトリス(2−(2−ピリジル)フェニル)イリジウムの置換基として様々な基が例示されている。
【0004】
一方、有機EL素子の発光層を形成する方法としては、低分子量有機化合物の真空蒸着法、および高分子量化合物溶液の塗布法が一般的であるが、塗布法は素子の製造コストが低いことや素子の大面積が容易であることなどの点で有利であり、今後、塗布法による素子作製技術が改良されることが望まれている。
【0005】
特開2003−342325号公報(特許文献3)には、高分子化合物として電荷輸送性化合物とイリジウム錯体の共重合体を用いることで、塗布法によって作製した有機EL素子を長寿命化できることが開示されている。
【特許文献1】特表2003−526876号公報
【特許文献2】特開2001−247859号公報
【特許文献3】特開2003−342325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載のイリジウム錯体を用いた有機EL素子において、高分子化合物およびイリジウム錯体を含む溶液の塗布によって作製した素子の寿命(素子に一定の電流を通電した場合の輝度低下)は、同じイリジウム錯体を用いて真空蒸着法によって作製した素子の寿命と比較して極端に短い。
【0007】
これは、真空蒸着法によって発光層と電極との間に複数の有機質電荷注入層が積層された素子と比べて、有機質電荷注入層の積層が困難である塗布によって作製した素子では、電極からイリジウム錯体へ電荷注入する過程でのエネルギー障壁が高く、発光層により多くの電気的負荷がかかることが原因であると考えられる。
【0008】
電極からイリジウム錯体へのこの高い電荷注入障壁は、特許文献3に記載されるような共重合体を用いても本質的に改善されない。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、発光効率が高く、しかも寿命の長い有機EL素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の構造を有する燐光発光性化合物を発光層に含む有機EL素子は、電極からの電荷注入障壁が低く、寿命が長いことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりに要約される。
【0010】
[1]
基板と、前記基板上に形成された一対の電極と、前記一対の電極間に発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が下記式(1)で表される燐光発光性化合物と電荷輸送性の非共役高分子化合物とを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0011】
【化1】

【0012】
(式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
1〜R8のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基である。)
[2]
前記アルキル基の全てが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基であることを特徴とする前記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0013】
[3]
前記α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基の全てがターシャリーブチル基であることを特徴とする前記[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
[4]
基板と、前記基板上に形成された一対の電極と、前記一対の電極間に発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
上記発光層が下記式(2)で表される燐光発光性化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
【化2】

【0016】
(式(2)において、R11〜R18はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
11〜R18のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基である。
【0017】
21〜R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基および炭素数2〜20のアルケニル基からなる群から選択され、該アルキル基中の水素原子は重合性官能基で置換されていてもよく、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
21〜R28のうちの少なくとも2つは水素原子ではなく、
21〜R28のうちの少なくとも1つは、前記アルケニル基または少なくとも1つの水素原子が重合性官能基で置換された前記アルキル基である。)
[5]
前記式(2)において、R11〜R18のうちの少なくとも2つがターシャリーブチル基であることを特徴とする前記[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
[6]
上記非共役高分子化合物が、さらに、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物から導かれる構造単位を含むことを特徴とする前記[4]または[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[7]
前記[1]〜[6]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたディスプレイ装置。
【0020】
なお上記特許文献には、置換基の種類や数、置換位置を適切に選択することによって有機EL素子の寿命低下を改善できることは何ら示されていない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電極からの電荷注入障壁が低く、発光効率が高くしかも寿命の長い有機EL素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。
1.発光層に発光性低分子化合物を含有する態様;
本発明の一の態様においては、本発明に係る有機EL素子は、基板と、上記基板上に形成された一対の電極と、上記一対の電極間に、発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機EL素子であって、該発光層に、下記式(1)で表される燐光発光性化合物と電荷輸送性の非共役高分子化合物とを含有している。
【0023】
<燐光発光性化合物>
本発明においては、下記式(1)で表される燐光発光性化合物(イリジウム錯体)が用いられる。
【0024】
【化3】

【0025】
(式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
1〜R8のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子であるアルキル基である(なお、「α位の炭素原子」とは、該アルキル基に含まれる、イリジウム原子に結合した芳香環の炭素原子に隣接する炭素原子である。))。
【0026】
上記式(1)で表される化合物の酸化電位は、燐光発光性化合物として従来使用されていたトリス(2−(2−ピリジル)フェニル)イリジウムの酸化電位と比較して低いため、この化合物を発光体として含有する有機EL素子は、電極からイリジウム錯体へ電荷注入する過程でのエネルギー障壁が低下して発光層への電気的負荷が低減されることにより、寿命が長くなると考えられる。
【0027】
また、酸化電位がより低いことに加え、反応活性なイリジウム錯体の励起状態を、発光層に含まれる他の分子から立体的に隔離し、有機EL素子の長寿命化にさらに有利である点で、上記式(1)においては、前記アルキル基の全てが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基であることが好ましい。
【0028】
イリジウム錯体の酸化電位を下げる効果と、反応活性なイリジウム錯体の励起状態を発光層に含まれる他の分子から立体的に隔離する効果がともに大きく、有機EL素子の長寿命化にさらに有利である点で、上記式(1)においては、前記α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基の全てがターシャリーブチル基であることが好ましい。なおターシャリーブチル基も、複数個ある場合には、下記式(C5)で表される錯体のように、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0029】
式(1)においてR1〜R8のいずれか一つが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基で置換された燐光発光性化合物は従来知られていたが、R1〜R8のうちの少なくとも2つが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基で置換された燐光発光性化合物(特に、R1〜R8のうちの少なくとも2つがターシャリーブチル基で置換された燐光発光性化合物)は具体的には従来知られておらず、このような燐光発光性化合物を用いた有機EL素子の寿命が特に長いことも従来知られていなかった。
【0030】
なお本発明において、上記燐光発光性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記式(1)で表される化合物としては、特に寿命が長く、発光効率が高い有機EL素子が得られることから、下記式(C1)〜(C6)で表される錯体が好ましく、下記式(C1)で表される錯体がより好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
(燐光発光性化合物の製造方法(1))
前記式(1)で表されるイリジウム錯体は、たとえば以下の工程(i)、(ii)を含む製造方法によって製造することができる。
【0033】
工程(i):下記式(1−1)で表される化合物と、塩化イリジウム(III)三水和物とを、溶媒(例:2−エトキシエタノール)中で50〜150℃程度の温度で反応させて、下記式(1−2)で表される化合物を製造する工程、および
工程(ii):下記式(1−2)で表される化合物と、下記式(1−1)で表される化合物とを、塩基(例:炭酸カリウム)の存在下、グリセリン中で150〜220℃程度の温度で反応させて、前記式(1)で表されるイリジウム錯体を製造する工程。
【0034】
【化5】

【0035】
なお、式(1−1)および(1−2)におけるR1〜R8は、それぞれ式(1)中のR1〜R8と同義である。
<電荷輸送性の非共役高分子化合物>
上記電荷輸送性の非共役高分子化合物は、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物からなる群より選択される少なくとも1種の重合性化合物を含む単量体を共重合して得られる重合体であることが好ましい。なお、本明細書において、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物を併せて、電荷輸送性の重合性化合物ともいう。
【0036】
すなわち、上記電荷輸送性の非共役高分子化合物は、1種または2種以上のホール輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位、または1種または2種以上の電子輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位を含む重合体であることが好ましい。このような重合体を用いると、発光層内における電荷の移動度が高く、また均質な薄膜を塗布によって形成することができるため、高い発光効率が得られる。
【0037】
また、上記電荷輸送性の非共役高分子化合物は、1種または2種以上のホール輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位と、1種または2種以上の電子輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位とを含む重合体からなることがより好ましい。このような重合体を用いると、該重合体はホール輸送性および電子輸送性の機能を備えているため、上記燐光発光性化合物付近において、ホールと電子とがさらに効率よく再結合するため、より高い発光効率が得られる。
【0038】
上記ホール輸送性の重合性化合物および上記電子輸送性の重合性化合物としては、重合性官能基または重合性官能基を有する置換基を有することのほか、特に制限されず、公知の電荷輸送性の化合物が用いられる。
【0039】
上記重合性官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、付加重合性、および縮合重合性の官能基のいずれであってもよい。これらのうちで、ラジカル重合性の官能基は、重合体の製造が容易であるため好ましい。
【0040】
上記重合性官能基としては、例えば、アリル基、アルケニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、ビニルアミド基およびこれらの誘導体などを挙げることができる。これらのうちで、アルケニル基が好ましい。
【0041】
より具体的には、上記重合性官能基がアルケニル基である場合、上記電荷輸送性の重合性化合物は、上記重合性官能基または重合性官能基を含む置換基として、下記一般式(A1)〜(A12)で表される置換基を有することがより好ましい。これらのうちで、下記式(A1)、(A5)、(A8)、(A12)で表される置換基は、電荷輸送性の化合物に官能基を容易に導入できるためさらに好ましい。
【0042】
【化6】

【0043】
上記ホール輸送性の重合性化合物としては、具体的には、下記一般式(E1)〜(E6)で表される化合物が好ましく、非共役高分子化合物中での電荷移動度の観点から、下記式(E1)〜(E3)で表される化合物がより好ましい。
【0044】
【化7】

【0045】
上記電子輸送性の重合性化合物としては、具体的には、下記一般式(E7)〜(E15)で表される化合物が好ましく、非共役高分子化合物中での電荷移動度の観点から、下記式(E7)および(E12)〜(E14)で表される化合物がより好ましい。
【0046】
【化8】

【0047】
なお、上記式(E1)〜(E15)において、上記式(A1)で表される置換基を、上記一般式(A2)〜(A12)で表される置換基に代えた化合物も好適に用いられるが、重合性化合物に官能基を容易に導入できるため、上記式(A1)、(A5)で表される置換基を有する化合物が特に好ましい。
【0048】
上記電荷輸送性の非共役高分子化合物としては、これらのうちで、上記ホール輸送性の重合性化合物として、上記式(E1)〜(E3)のいずれかで表される化合物と、上記電子輸送性の重合性化合物として、上記(E7)、(E12)〜(E14)のいずれかで表される化合物とを共重合させた化合物がより好ましい。これらの非共役高分子化合物を用いると、燐光発光性化合物上で、ホールと電子とがより効率よく再結合し、より高い発光効率が得られる。また、燐光発光性化合物とともに、均一な分布の有機層を形成でき、耐久性に優れた有機EL素子が得られる。
【0049】
本発明に係る有機EL素子に用いる、上記燐光発光性化合物と上記非共役高分子化合物とを含む有機層(発光層)においては、上記燐光発光性化合物が、上記非共役高分子化合物で形成されるマトリックス中に分散した状態で含まれている。このため、通常は利用が困難な発光、すなわち燐光発光性化合物の三重項励起状態を経由する発光が得られる。したがって、上記有機層を用いることにより、高い発光効率が得られる。
【0050】
なお、上記電荷輸送性の非共役高分子化合物は、本願の目的に反しない範囲で、さらに、他の重合性化合物から導かれる構造単位を含んでいてもよい。このような重合性化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレンおよびその誘導体などの電荷輸送性を有しない化合物が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0051】
また、上記電荷輸送性の非共役高分子化合物の重量平均分子量は、1,000〜2,000,000であることが好ましく、5,000〜1,000,000であることがより好ましい。本明細書における分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量をいう。上記分子量がこの範囲にあると、重合体が有機溶媒に可溶であり、均一な薄膜を得られるため好ましい。
【0052】
上記電荷輸送性の非共役高分子化合物は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、および交互共重合体のいずれでもよい。
上記電荷輸送性の非共役高分子化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、および付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。
【0053】
2.発光層に発光性高分子化合物を含有する態様;
本発明の他の態様においては、本発明に係る有機EL素子は、基板と、上記基板上に形成された一対の電極と、上記一対の電極間に、発光層を含む一層または複数層の有機層が形成された有機EL素子であって、上記発光層が下記式(2)で表される燐光発光性化合物(イリジウム錯体)から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物(以下「非共役高分子化合物(2)」ともいう。)を含有している。
【0054】
<燐光発光性化合物から導かれる構造単位>
【0055】
【化9】

【0056】
(式(2)において、R11〜R18はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
11〜R18のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子であるアルキル基である(なお、「α位の炭素原子」とは、該アルキル基に含まれる、イリジウム原子に結合した芳香環の炭素原子に隣接する炭素原子である。)。
【0057】
21〜R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基および炭素数2〜20のアルケニル基からなる群から選択され、該アルキル基中の水素原子は重合性官能基で置換されていてもよく、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
21〜R28のうちの少なくとも2つは水素原子ではなく、
21〜R28のうちの少なくとも1つは、前記アルケニル基または少なくとも1つの水素原子が重合性官能基で置換された前記アルキル基である。)
上記式(2)で表されるイリジウム錯体の酸化電位は、例えば、燐光発光性化合物として従来使用されていた、重合性官能基を有する置換基以外の芳香環上の置換基が水素原子であるビス(2−(2−ピリジル)フェニル)(5−ビニル−2−(2−ピリジル)フェニル)イリジウムの酸化電位と比較して低いため、非共役高分子化合物(2)を発光体として含有する有機EL素子においては、電極からイリジウム錯体へ電荷注入する過程でのエネルギー障壁が低下して発光層への電気的負荷が低減されることにより、寿命が長くなると考えられる。
【0058】
また、酸化電位がより低いことに加え、反応活性なイリジウム錯体の励起状態を、発光層に含まれる他の分子から立体的に隔離し、有機EL素子の長寿命化にさらに有利である点で、上記式(2)においては、R11〜R18のうちの少なくとも2つはターシャリーブチル基であることが好ましい。なおターシャリーブチル基も、複数個ある場合には、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0059】
式(2)においてR11〜R18のいずれか一つが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基で置換された燐光発光性化合物は従来知られていたが、R11〜R18のうちの少なくとも2つが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基で置換された燐光発光性化合物(特に、R11〜R18のうちの少なくとも2つがターシャリーブチル基で置換された燐光発光性化合物)は具体的には従来知られておらず、このような燐光発光性化合物を用いた有機EL素子の寿命が特に長いことも従来知られていなかった。
【0060】
上記重合性官能基を有する置換基は、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、付加重合性、および縮合重合性の官能基のいずれであってもよい。これらのうちで、ラジカル重合性の官能基は、重合体の製造が容易であるため好ましい。
【0061】
上記重合性官能基としては、例えば、アリル基、アルケニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、ビニルアミド基およびこれらの誘導体などを挙げることができる。これらのうちで、アルケニル基が好ましい。
【0062】
より具体的には、上記非共役高分子化合物(2)は、上記重合性官能基または上記重合性官能基を有する置換基として、下記一般式(A1)〜(A12)で表される置換基を有することがより好ましい。これらのうちで、下記式(A1)、(A5)、(A8)、(A12)で表される置換基は、イリジウム錯体に官能基が容易に導入できるためさらに好ましい。
【0063】
【化10】

【0064】
上記式(2)で表される化合物としては、特に寿命が長く、発光効率が高い有機EL素子が得られることから、下記式(C13)〜(C16)で表される錯体が好ましく、下記式(C13)で表される錯体がより好ましい。
【0065】
【化11】

【0066】
なお、本発明において、上記式(2)で表される化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
(燐光発光性化合物の製造方法(2))
前記式(2)で表されるイリジウム錯体は、たとえば以下の工程(i)、(ii)を含む製造方法によって製造することができる。
【0067】
工程(i):下記式(2−1)で表される化合物と、塩化イリジウム(III)三水和物とを、溶媒(例:2−エトキシエタノール)中で50〜150℃程度の温度で反応させて、下記式(2−2)で表される化合物を製造する工程、および
工程(ii):下記式(2−2)で表される化合物と、下記式(2−3)で表される化合物とを、塩基(例:炭酸カリウム)の存在下、グリセリン中で150〜220℃程度の温度で反応させて、前記式(2)で表されるイリジウム錯体を製造する工程。
【0068】
【化12】

【0069】
なお、式(2−1)および(2−2)におけるR11〜R18、ならびに(2−3)におけるR21〜R28は、それぞれ式(2)中のR11〜R18ならびにR21〜R28と同義である。
<電荷輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位>
上記式(2)で表される化合物から導かれる構造単位を有する重合体は、1種または2種以上の上記イリジウム錯体の単量体と共に、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物からなる群より選択される少なくとも1種の重合性化合物を含む単量体を共重合して得られる重合体であることが好ましい。なお、本明細書において、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物を併せて、電荷輸送性の重合性化合物ともいう。
【0070】
すなわち、上記非共役高分子化合物(2)は、1種または2種以上の上記イリジウム錯体から導かれる構造単位と共に、1種または2種以上のホール輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位、または1種または2種以上の電子輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位を含む重合体であることが好ましい。このような非共役高分子化合物(2)では、上記燐光発光性化合物から導かれる構造単位上で、ホールと電子とが効率よく再結合するため、高い発光効率が得られる。
【0071】
また、上記非共役高分子化合物(2)は、1種または2種以上の上記イリジウム錯体から導かれる構造単位と共に、1種または2種以上のホール輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位と、1種または2種以上の電子輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位とを含む重合体であることがより好ましい。このような高分子発光材料は、発光性、ホール輸送性および電子輸送性のすべての機能を備えているため、イリジウム錯体上で、ホールと電子とがさらに効率よく再結合することにより、より高い発光効率が得られる。
【0072】
上記ホール輸送性の重合性化合物および上記電子輸送性の重合性化合物は、重合性官能基を有することのほか、特に制限されず、公知の電荷輸送性の化合物が用いられる。
上記重合性官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、付加重合性、および縮合重合性の官能基のいずれであってもよい。これらのうちで、ラジカル重合性の官能基は、重合体の製造が容易であるため好ましい。
【0073】
上記重合性官能基は、上記式(2)で表される化合物が有する、重合性官能基を有する置換基と同義であり、好ましい基も同じである。
上記ホール輸送性の重合性化合物としては、具体的には、下記一般式(E1)〜(E6)で表される化合物が好ましく、共重合体における電荷移動度が高いため、下記式(E1)〜(E3)で表される化合物がより好ましい。
【0074】
【化13】

【0075】
上記電子輸送性の重合性化合物としては、具体的には、下記一般式(E7)〜(E15)で表される化合物が好ましく、共重合体における電荷移動度が高いため、下記式(E7)、(E12)〜(E14)で表される化合物がより好ましい。
【0076】
【化14】

【0077】
なお、上記式(E1)〜(E15)において、上記式(A1)で表される置換基を、上記一般式(A2)〜(A12)で表される置換基に代えた化合物も好適に用いられるが、重合性化合物に官能基を容易に導入できるため、上記式(A1)、(A5)で表される置換基を有する化合物が特に好ましい。
【0078】
上記非共役高分子化合物(2)としては、これらのうちで、上記ホール輸送性の重合性化合物として、上記式(E1)〜(E3)のいずれかで表される化合物と、上記電子輸送性の重合性化合物として、上記式(E7)、(E12)〜(E14)のいずれかで表される化合物とを、上記イリジウム錯体と組み合わせて共重合させた化合物がより好ましい。このような非共役高分子化合物は、高い発光効率および高い最高到達輝度を有し、耐久性にも優れる。
【0079】
上記式(E1)〜(E15)で表される重合性化合物は、公知の方法によって製造することができる。
なお、上記重合体は、さらに、他の重合性化合物から導かれる構造単位を有していてもよい。上記他の重合性化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレンおよびその誘導体などの電荷輸送性を有さない化合物が挙げられるが、何らこれらに制限されるものではない。
【0080】
また、上記重合体の重量平均分子量は、1,000〜2,000,000であることが好ましく、5,000〜1,000,000であることがより好ましい。上記分子量がこの範囲にあると、重合体が有機溶媒に可溶であり、均一な薄膜を得られるため好ましい。
【0081】
イリジウム錯体と、電荷輸送性の重合性化合物(ホール輸送性および/または電子輸送性の重合性化合物)との比率を適宜設定すれば、所望の上記重合体が得られ、該重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、および交互共重合体のいずれでもよい。
【0082】
上記重合体における、上記イリジウム錯体から導かれる構造単位数をmとし、電荷輸送性化合物から導かれる構造単位数(ホール輸送性の重合性化合物および/または電子輸送性の重合性化合物から導かれる構造単位の総数)をnとしたとき(m、nは1以上の整数を示す)、全構造単位数に対する上記イリジウム錯体から導かれる構造単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は、0.001〜0.5の範囲にあることが好ましく、0.001〜0.2の範囲にあることがより好ましい。m/(m+n)の値がこの範囲にあると、電荷移動度が高く、濃度消光の影響が小さい、高い発光効率の有機EL素子が得られる。
【0083】
また、上記重合体が、ホール輸送性化合物から導かれる構造単位と電子輸送性化合物から導かれる構造単位とを含む場合、ホール輸送性化合物から導かれる構造単位数をx、電子輸送性化合物から導かれる構造単位数をyとすると(x、yは1以上の整数を示す)、上記nとの間に、n=x+yの関係が成り立つ。電荷輸送性化合物から導かれる構造単位数に対する、ホール輸送性化合物から導かれる構造単位数の割合x/n、および電子輸送性化合物から導かれる構造単位数の割合y/nの最適値は、各構造単位の電荷輸送能、イリジウム錯体から導かれる構造単位の電荷輸送性、濃度などによって決まる。この重合体を有機EL素子の発光層を形成する唯一の化合物として用いる場合、x/nおよびy/nの値は、それぞれ0.05〜0.95の範囲にあることが好ましく、0.20〜0.80の範囲にあることがより好ましい。なお、ここで、x/n+y/n=1が成り立つ。
【0084】
上記重合体の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、および付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。
3.有機EL素子;
<発光層を含む有機層>
本発明に係る有機EL素子は、陽極と陰極とに挟まれた1層または2層以上の有機層を含み、該有機層の少なくとも1層に、(A)上記式(1)で表される燐光発光性化合物および電荷輸送性の非共役高分子化合物、あるいは(B)上記式(2)で表される化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物を含んでいる。有機EL素子をより長寿命化できる点では、上記式(2)で表される化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物が含まれていることが好ましい。
【0085】
本発明に係る有機EL素子の構成の一例を図1に示すが、本発明に係る有機EL素子の構成は、これに限定されない。図1では、透明基板(1)上に設けた陽極(2)および陰極(4)の間に、発光層(3)を設けている。上記有機EL素子では、例えば、陽極(2)と発光層(3)の間にホール注入層を設けてもよく、また、発光層(3)と陰極(4)の間に電子注入層を設けてもよい。
【0086】
上記において、(A)上記式(1)で表される燐光発光性化合物および電荷輸送性の非共役高分子化合物を含む有機層、あるいは(B)上記式(2)で表される化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物を含む有機層は、ホール輸送性および電子輸送性を併せ持つ発光層として利用できる。このため、他の有機材料からなる層を設けなくても、高い発光効率を有する有機EL素子を作成できる利点がある。
【0087】
上記有機層の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下のように製造することができる。まず、(A)上記式(1)で表される燐光発光性化合物および電荷輸送性の非共役高分子化合物を溶解した溶液、あるいは(B)上記式(2)で表される化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物を溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒などが用いられる。次いで、このように調製した溶液を、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート法または印刷法などを用いて基板上に成膜する。上記溶液の濃度としては、用いる化合物および成膜条件などに依存するが、例えば、スピンコート法やディップコート法の場合には、0.1〜10wt%であることが好ましい。このように、上記有機層は簡便に成膜されるため、製造工程の簡略化が実現できるとともに、素子の大面積化が図れる。
【0088】
<その他の材料>
上記の各層は、バインダとして高分子材料を混合して、形成されていてもよい。上記高分子材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。
【0089】
また、上記の各層に用いられる材料は、機能の異なる材料、例えば、発光材料、ホール輸送材料、電子輸送材料などを混合して、各層を形成していてもよい。上記燐光発光性化合物と上記非共役高分子化合物とを含む有機層においても、電荷輸送性を補う目的で、さらに他のホール輸送材料および/または電子輸送材料が含まれていてもよい。このような輸送材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。
【0090】
上記ホール輸送層を形成するホール輸送材料、または発光層中に混合させるホール輸送材料としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン);α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル);m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等の低分子トリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;上記トリフェニルアミン誘導体に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物;ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレン等の蛍光発光性高分子化合物などが挙げられる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物などが挙げられる。上記ホール輸送材料は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよく、異なるホール輸送材料を積層して用いてもよい。ホール輸送層の厚さは、ホール輸送層の導電率などに依存するため、一概に限定できないが、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmであることが望ましい。
【0091】
上記電子輸送層を形成する電子輸送材料、または発光層中に混合させる電子輸送材料としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)等のキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体等の低分子化合物;上記の低分子化合物に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物などが挙げられる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどが挙げられる。上記電子輸送材料は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよく、異なる電子輸送材料を積層して用いてもよい。電子輸送層の厚さは、電子輸送層の導電率などに依存するため、一概に限定できないが、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmであることが望ましい。
【0092】
また、発光層の陰極側に隣接して、ホールが発光層を通過することを抑え、発光層内でホールと電子とを効率よく再結合させる目的で、ホール・ブロック層が設けられていてもよい。上記ホール・ブロック層を形成するために、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体などの公知の材料が用いられる。
【0093】
陽極と発光層との間に、ホール注入において注入障壁を緩和するために、ホール注入層が設けられていてもよい。上記ホール注入層を形成するためには、銅フタロシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合体、フルオロカーボンなどの公知の材料が用いられる。
【0094】
陰極と電子輸送層との間、または陰極と陰極に隣接して積層される有機層との間に、電子注入効率を向上するために、厚さ0.1〜10nmの絶縁層が設けられていてもよい。上記絶縁層を形成するために、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミナなどの公知の材料が用いられる。
【0095】
上記陽極材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化錫、酸化亜鉛、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、公知の透明導電材料が用いられる。この透明導電材料によって形成された電極の表面抵抗は、1〜50Ω/□(オーム/スクエアー)であることが好ましい。陽極の厚さは50〜300nmであることが好ましい。
【0096】
上記陰極材料としては、例えば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Al;MgAg合金;AlLi、AlCa等のAlとアルカリ金属またはアルカリ土類金属との合金など、公知の陰極材料が用いられる。陰極の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属などの活性の高い金属を陰極として使用する場合には、陰極の厚さは、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.5〜50nmであることが望ましい。また、この場合には、上記陰極金属を保護する目的で、この陰極上に、大気に対して安定な金属層が積層される。上記金属層を形成する金属として、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Cu、Ni、Crなどが挙げられる。上記金属層の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。
【0097】
本発明に係る有機EL素子の基板としては、上記発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板が使用され、ガラスのほか、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等の透明プラスチックなどが用いられる。
【0098】
上記のホール輸送層、発光層および電子輸送層の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などが用いられる。低分子化合物の場合は、抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好適に用いられ、高分子材料の場合は、インクジェット法、スピンコート法、または印刷法が好適に用いられる。
【0099】
また、上記陽極材料の成膜方法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法などが用いられ、上記陰極材料の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられる。
【0100】
4.用途;
本発明に係る有機EL素子は、公知の方法で、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機EL素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0101】
本発明に係る有機EL素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダー等の表示装置、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信などに好適に用いられる。
【0102】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0103】
[合成例1]
<イリジウム錯体(C1)の合成>
【0104】
【化15】

【0105】
上記スキームを参照しながら説明する。リチウム1.6g(0.24mol)とジエチルエーテル200mlとの混合物に、4−t−ブチルブロモベンゼン25g(0.12mol)を滴下した。室温で2時間撹拌した後、さらに4−t−ブチルピリジン16g(0.12mol)のジエチルエーテル50ml溶液を滴下し、室温で2時間撹拌した。次に反応液に30分間酸素を吹き込み、室温で12時間撹拌した。得られた溶液に水を加え、有機層を抽出して減圧で溶媒を留去した後、減圧蒸留によって化合物(a)を得た。
【0106】
次に化合物(a)1.0g(3.7mmol)、塩化イリジウム三水和物0.65g(1.8mmol)、2−エトキシエタノール60mlおよび水20mlの混合物を12時間加熱還流した。生成した沈殿を冷メタノールで洗浄し、減圧乾燥することによって化合物(b)を得た。
【0107】
次に、化合物(b)1.0g(0.66mmol)、化合物(a)0.40g(1.3mmol)および炭酸カリウム0.25g(1.80mmol)の混合物に20mlのグリセリンを加え、200℃で24時間加熱撹拌した。得られた反応液に水を加えて生じた沈殿をろ取し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーで精製することにより、イリジウム錯体(C1)0.58g(0.59mmol)を得た。
【0108】
化合物(C1)の同定データは以下の通りである。
元素分析: 計算値(C5772IrN3) C,69.05;H,7.32;N,4.
24. 測定値 C,68.71;H,7.45;N,4.46.
質量分析(FAB+): 991(M+).
[合成例2]
<イリジウム錯体(C13)の合成>
【0109】
【化16】

【0110】
上記スキームを参照しながら説明する。2−ブロモ−4−t−ブチルピリジン10g(47mmol)、4−ビニルフェニルボロン酸6.9g(47mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1.0g(0.87mmol)および炭酸カリウム17g(0.12mol)の混合物に、1,2−ジメトキシエタン50mlおよび水25mlを加えて5時間加熱還流した。得られた反応液から有機層を抽出し、減圧で溶媒を留去した後、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーで精製することによって化合物(e)を得た。
【0111】
次に、化合物(e)0.31g(1.3mmol)、上述の方法で製造した化合物(b)1.0g(0.66mmol)、炭酸カリウム0.22g(1.6mmol)および2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.020g(0.090mmol)の混合物に20mlのグリセリンを加え、200℃で24時間加熱撹拌した。得られた反応液に水を加えて生じた沈殿をろ取し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーで精製することにより、イリジウム錯体(C13)0.10g(0.10mmol)を得た。
【0112】
化合物(C13)の同定データは以下の通りである。
元素分析: 計算値(C5566IrN3) C,68.71;H,6.92;N,4.
37. 測定値 C,68.38;H,7.05;N,4.63.
質量分析(FAB+): 961(M+).
[合成例3]
<共重合体(1)の合成>
密閉容器に、上記式(E2)で表される化合物500mg、および上記式(E14)で表される化合物500mgを入れ、さらに脱水トルエン(9.9mL)を加えた。次いで、ジメチル-2-2'-アゾビス(2-メチルプロピオナート)(商品名:V−601、和光純薬工業(株)製)のトルエン溶液(0.1M、198μL)を加え、凍結脱気操作を5回繰り返した。真空のまま密閉し、60℃で60時間撹拌した。反応後、反応液をアセトン500mL中に滴下し、沈殿を得た。さらにトルエン−アセトンでの再沈殿精製を2回繰り返した後、50℃で一晩真空乾燥して、共重合体(1)を得た。共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は118500、分子量分布指数(Mw/Mn)2.60であった。元素分析および13C−NMR測定の結果から見積もった共重合体におけるx/nの値は、0.47であり、y/nの値は、0.53であった。
【0113】
[合成例4]
<共重合体(2)の合成>
上記式(E2)で表される化合物500mgおよび上記式(E14)で表される化合物500mgを、イリジウム錯体(C13)80mg、上記式(E2)で表される化合物460mgおよび上記式(E14)で表される化合物460mgに変更した以外は合成例3と同様な方法で共重合体(2)を合成した。共重合体(2)の重量平均分子量(Mw)は75400、分子量分布指数(Mw/Mn)は2.36であった。ICP元素分析および13C−NMR測定の結果から見積もった共重合体におけるm/(m+n)の値は0.040であった。また、共重合体(2)において、x/nの値は、0.50であり、y/nの値は、0.50であった。
【0114】
[比較合成例1]
<共重合体(3)の合成>
イリジウム錯体(C13)80mgの代わりに下記イリジウム錯体(f)80mgを用いた他は共重合体(2)の合成と同様な方法で共重合体(3)を合成した。共重合体(3)の重量平均分子量(Mw)は59900、分子量分布指数(Mw/Mn)は2.10であった。ICP元素分析および13C−NMR測定の結果から見積もった共重合体におけるm/(m+n)の値は0.043であった。また、共重合体(3)において、x/nの値は、0.48であり、y/nの値は、0.52であった。
【0115】
【化17】

【0116】
[実施例1]
ITO付き基板(ニッポ電機(株)製)を用いた。これは、25mm角のガラス基板の一方の面に、幅4mmのITO(酸化インジウム錫)電極(陽極)が、ストライプ状に2本形成された基板であった。
【0117】
まず、上記ITO付き基板をUVオゾンで処理した後、酸素プラズマによる処理を30秒間行った。次に酸素の代わりにフルオロホルムを用いて同様なプラズマ処理を60秒間行った。次に、イリジウム錯体(C1)8.0mgおよび共重合体(1)82mgをトルエン(和光純薬工業(株)製、特級)2910mgに溶解し、この溶液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、塗布溶液を調製した。次いで、上記ITO電極付き基板上に、上記塗布溶液を、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で、スピンコート法により塗布した。塗布後、室温(25℃)で30分間乾燥し、発光層を形成した。得られた発光層の膜厚は、約100nmであった。
【0118】
次に、発光層を形成した基板を蒸着装置内に載置した。次いで、カルシウムおよびアルミニウムを重量比1:10で共蒸着し、陽極の延在方向に対して直交するように、幅3mmの陰極をストライプ状に2本形成した。得られた陰極の膜厚は、約50nmであった。
【0119】
最後に、アルゴン雰囲気中で、陽極および陰極にリード線(配線)を取り付けて、縦4mm×横3mmの有機EL素子を4個作製した。上記有機EL素子に、プログラマブル直流電圧/電流源(TR6143、(株)アドバンテスト社製)を用いて電圧を印加して発光させた。その発光輝度を、輝度計(BM−8、(株)トプコン社製)を用いて測定した。
【0120】
作製した有機EL素子の発光色、最大発光外部量子効率(発光効率)および初期輝度100cd/m2で電流値を一定にして通電して連続発光し、強制劣化させた際、輝度が半減するまでの時間(寿命)を表1に示した。
【0121】
[実施例2]
イリジウム錯体(C1)8.0mgおよび共重合体(1)82mgを、共重合体(2)90mgに変更した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製し評価した。評価結果を表1に示す。
【0122】
[比較例1]
イリジウム錯体(C1)8.0mgを下記イリジウム錯体(g)8.0mgに変更した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製し評価した。評価結果を表1に示す。
【0123】
【化18】

【0124】
[比較例2]
共重合体(2)90mgを共重合体(3)90mgに変更した以外は実施例2と同様にして有機EL素子を作製し評価した。評価結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本発明に係る有機EL素子の例の断面図である。
【符号の説明】
【0127】
1: ガラス基板
2: 陽極
3: 発光層
4: 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された一対の電極と、前記一対の電極間に発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が下記式(1)で表される燐光発光性化合物と電荷輸送性の非共役高分子化合物とを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式(1)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
1〜R8のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基である。)
【請求項2】
前記アルキル基の全てが、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基の全てがターシャリーブチル基であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
基板と、前記基板上に形成された一対の電極と、前記一対の電極間に発光層を含む一層または複数層の有機層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
上記発光層が下記式(2)で表される燐光発光性化合物から導かれる構造単位を有する非共役高分子化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(式(2)において、R11〜R18はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
11〜R18のうちの少なくとも2つは前記アルキル基であり、
前記アルキル基のうちの少なくとも1つのアルキル基は、α位の炭素原子が3級または4級の炭素原子のアルキル基である。
21〜R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基および炭素数2〜20のアルケニル基からなる群から選択され、該アルキル基中の水素原子は重合性官能基で置換されていてもよく、複数個の該アルキル基は互いに結合して環を形成していてもよく、
21〜R28のうちの少なくとも2つは水素原子ではなく、
21〜R28のうちの少なくとも1つは、前記アルケニル基または少なくとも1つの水素原子が重合性官能基で置換された前記アルキル基である。)
【請求項5】
前記式(2)において、R11〜R18のうちの少なくとも2つがターシャリーブチル基であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
上記非共役高分子化合物が、さらに、ホール輸送性の重合性化合物および電子輸送性の重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物から導かれる構造単位を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたディスプレイ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−91894(P2008−91894A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230427(P2007−230427)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】