説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】有機EL素子の層形成において、先に形成された層に対しダメージを与えにくい、有機EL素子の製造方法を提供することを課題とするものである。また、層形成過程においてダメージを受けにくい構造を備える有機EL素子を提供することを課題とする。
【解決手段】支持基板上に第一電極層を形成する工程と、前記第一電極層より上層に発光層を形成する工程と、前記発光層より上層に電荷注入層を形成する工程と、前記電荷注入層より上層に、アルミニウム、銀、錫、銅およびこれらの2種以上を含む複合金属材料からなる群より選ばれる材料を含有する金属層を形成する工程と、前記金属層より上層に、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料を、低ダメージスパッタリング法、イオンプレーティング法、またはCVD法により積層させて前記第二電極層を形成する工程とを経て、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、本明細書において「有機EL素子」という場合がある)の製造方法および有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、本明細書において「有機EL素子」ということがある)を搭載した有機EL装置は、より高い性能の装置を開発するべく、様々な検討がなされている。有機EL素子の構造は様々であるが、基本的には、発光層とこれを挟むように陽極、陰極が備えられる。発光効率、耐久性、製品寿命などの様々な観点から改良が加えられ、さらに多層化した構造を有するものも開発されている。このように多層構造を有する有機EL素子は、通常、基板上に各機能層を順次積層していく方法により製造される。
【0003】
各層は薄い膜状に形成されることから、各層の形成方法として、各種の薄膜形成法を採用し得る。有機EL素子の各層を形成する方法として、例えば、スパッタリング法などが採用されている。スパッタリング法は、基板への付着力の強い膜を作製可能であることや、融点の高い物質や、酸化物、窒化物の薄膜を形成できる等の利点がある。しかしながら、スパッタリング法を採用する場合、発光層など先に設けられた層に対するダメージが懸念されている。一つの要因としては、スパッタリングの工程において、高エネルギー粒子(荷電粒子、中性加速粒子、プラズマ)、光および活性酸素などのダメージ因子が基板に影響を及ぼすことが考えられる。
【0004】
そのため、層形成時における他の層へのダメージをさらに緩和する技術が求められている。スパッタリング装置やそのプロセスを工夫する技術として、例えば、基板ホルダーにバイアスを印加し、ダメージの因子となる高エネルギー粒子の基板への照射を防ぐ方法(例えば、特許文献1)が提案されている。また、他の方法として、スパッタリングのターゲットを基板に対して垂直にし、プラズマを閉じ込めた対向ターゲット法(例えば、特許文献2及び3)などがある。さらに、有機発光層へ影響を及ぼさないようにダメージ因子を発光層の手前でブロックしてしまう複数の緩衝層を採用すること(特許文献4および5)などが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−142079号公報
【特許文献2】特開平10−46330号公報
【特許文献3】特開平10−330936号公報
【特許文献4】特開2002−260862号公報
【特許文献5】特開2006−66553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既存の方法では、ダメージ因子となる高エネルギー粒子の基板への入射を完全に防ぐことができず、既に形成されている層、特に、発光層へのダメージを十分に取り去ることができない。また、多数の層から形成する必要がある緩衝層を設けるのは工程のみならず、製品である有機EL素子の構造を複雑化してしまう。
【0007】
有機EL素子を構成する各層の種類にもよるが、各層の厚みは数nmから1mm程度と極めて薄いこともあって、層形成時のダメージをさらに抑制する技術が望まれている。特に、発光層がダメージを受けてしまうと、有機EL素子の輝度の低下、発光効率低下、駆動電圧の上昇などの問題を生じ得る。以上のような状況の下、本発明は、有機EL素子の層形成において、先に形成された層に対しダメージを与えにくい、有機EL素子の製造方法を提供することを課題とするものである。また、本発明は、層形成過程においてダメージを受けにくい構造を備える有機EL素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは有機EL素子を構成する層を形成する手段について鋭意研究を重ねたところ、電極材料等をスパッタリング法等によって積層する前に、所定の金属層を設けておくという簡便な手段によって上記課題を解決し得ることを見いだした。すなわち、本発明本発明は、下記有機EL素子の製造方法およびその製造方法により得られる有機EL素子を提供する。
【0009】
〔1〕支持基板上に、少なくとも、第一電極層、高分子有機化合物を含む発光層、および第二電極層を積層する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記支持基板より上層に第一電極層を形成する工程と、前記第一電極層より上層に前記発光層を形成する工程と、前記発光層より上層に電荷注入層を形成する工程と、前記電荷注入層より上層に、アルミニウム、銀、錫、銅およびこれらの2種以上を含む複合金属材料からなる群より選ばれる材料を含有する金属層を形成する工程と、前記金属層より上層に、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料を、低ダメージスパッタリング法、イオンプレーティング法、またはCVD法により積層させて前記第二電極層を形成する工程とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔2〕前記発光層より上層に設けられた前記電荷注入層の直上に前記金属層を形成し、前記金属層の直上に前記第二電極層を形成する、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔3〕前記金属層を、0.5nm以上、30nm以下の厚さに形成する、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔4〕前記金属層を、真空蒸着法より形成する、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔5〕前記低ダメージスパッタリング法が、対向ターゲットスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔6〕前記発光層を印刷法により形成する、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
〔7〕支持基板上に、少なくとも第一電極層、高分子化合物を含む発光層、および第二電極層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記支持基板の上層に前記第一電極層が設けられ、前記第一電極層より上層に前記発光層が設けられ、前記発光層より上層に前記電荷注入層が設けられ、前記電荷注入層より上層に、単一層で形成される金属層が設けられ、前記金属層より上層に、第二電極層が設けられ、前記金属層は、アルミニウム、銀、錫、銅及びこれらの複合金属材料から選ばれる金属材料を含有する層であり、前記第二電極層は、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料を含有する層である、有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔8〕前記発光層より上層に設けられた電荷注入層の直上に前記金属層を形成し、前記金属層の直上に前記第二電極層を形成する、上記〔7〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔9〕前記金属層の厚さが、0.5nm以上、30nm以下である、上記〔7〕または〔8〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔10〕前記金属層の可視光透過率が30%以上である、上記〔7〕から〔9〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔11〕前記第二電極層が、インジウム、錫、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上を含有する陰極である、上記〔7〕から〔10〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔12〕前記電荷注入層が、仕事関数あるいはイオン化ポテンシャルが3.0eV以下である金属層、無機層および有機層のうちの少なくとも1層以上を含むこと特徴とする、上記〔7〕から〔11〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔13〕前記電荷注入層が、アルカリ金属、アルカリ金属土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物およびアルカリ金属フッ化物からなる群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする、上記〔7〕から〔12〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な手法により、先に形成された層に対する実質的なダメージを与えずに新たな層を形成していくことができ、製品の歩留まりを向上させることができる。特に、高分子を含む発光層の上層に、透明導電性酸化物または透明導電性窒化物等で形成される層を設ける場合でも、発光層など先に設けられている層に実質的にダメージを与えずに有機EL素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0012】
1.本発明の有機EL素子の製造方法
本発明の有機EL素子の製造方法は、支持基板上に、少なくとも第一電極層、高分子化合物を含む発光層、第二電極層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を作製するものである。本発明で製造される有機EL素子を構成する層としては、さらに発光層よりも上層に電荷注入層が設けられており、さらに、その電荷注入層より上層に金属層が設けられる。本明細書において、素子を構成する層についての上下位置関係は、原則として基板を最下層とした場合を想定して説明される。また、第二の層が第一の層より上層にあるという場合、第二の層が第一の層より上部にある層であることを意味し、必ずしも第一の層に直接接している場合に限られない。すなわち、第二の層が第一の層より上部に設けられる限り、第二の層と第一の層との間にさらに他の層が介在している場合を含む。これに対し、第二の層が第一の層の直上に設けられるということは、第二の層が第一の層の上に直接接して設けられることを意味する。
【0013】
本件明細書において、第一電極層は陽極または陰極であり得る。また、第二電極層は陽極または陰極であり得る。第一電極層が陽極である場合には、第二電極層が陰極となる。逆に、第一電極層が陰極である場合には、第二電極が陽極である。また、電荷注入層とは、正孔注入層または電子注入層である。発光層と陽極の間に設けられる電荷注入層は、通常正孔注入層である。発光層と陰極の間に設けられる電荷注入層は、通常、電子注入層である。本発明の製造方法により製造される有機EL素子においては、発光層より上層に少なくとも1つの電荷注入層が設けられる。本発明の製造方法により製造される有機EL素子には、上記第一電極層、発光層、第二電極層、電荷注入層、半透明金属層の他、電荷輸送層(正孔輸送層又は電子輸送層)、電荷ブロック層(正孔ブロック層又は電子ブロック層)、外気遮断のためのバリア層など他の機能層を設けても良い。なお、有機EL素子のより具体的な実施形態については、下記「2.本発明の有機EL素子」にて、さらに詳述する。
【0014】
本発明の製造方法においては、発光層より上層に設けられる電荷注入層のさらに上層に、所定の材料で形成される金属層が設けられる。金属層は、その上層に電極層などの他の層を設けている工程において、発光層などの先に設けられる層、すなわち金属層より下方にある層を保護する役割を有する。また、光が透過する膜厚の金属層を形成することにより、基板とは反対側から光を放射するトップエミッションタイプの有機EL素子を製造し得る。
【0015】
金属層は、アルミニウム、銀、錫、銅、及びこれらのうちの2種以上を含む複合金属材料から選ばれる材料を用いて形成され、より好ましくはアルミニウムまたはその合金により形成される。
【0016】
金属層の厚さは、好ましくは、0.5nm以上、30nm以下、より好ましくは、0.5nm以上、20nm以下、より好ましくは0.5nm以上、10nm以下である。このような厚さにすることにより、所定の可視光透過性を有する層としやすい。また発光層や電荷注入層などの上層に第二電極層などの層を設ける際、その形成工程の影響で、発光層等に対しダメージを与えてしまうことを十分に抑制することができる。また、上記のような材料で、上記のような厚さの単一層を設ければよく、多数の層を設けずにすむため、作業工程も簡素なものとすることができる。
【0017】
金属層の形成方法として好ましくは、例えば、真空蒸着法などが挙げられ、より好ましくは蒸着源を充填するボートやるつぼなどを用いる抵抗加熱法、誘導加熱法、クヌーセンセル法、電子ビーム蒸着法が挙げられる。真空蒸着法は、アルミニウム、銀、錫、銅、及びこれらの複合金属材料を用いて、上記のような好ましい厚さの層とし、かつ、先に形成されている層に対しダメージを与えないように層を形成させ得る点で好適である。真空蒸着法とは、積層(または成膜)しようとする材料を真空中で加熱、蒸発させ、蒸気化した材料を基板上で再度固体化し、堆積させる方法である。真空蒸着法は、材料を蒸気化させるための加熱源として、各種の熱源が用いられ、その一つに電子ビームを用いる方法があり、これを電子ビーム真空蒸着法という。電子ビーム真空蒸着法は、高融点金属や酸化物、窒化物などの蒸着を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の製造方法においては、金属層より上層に、低ダメージスパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはイオンプレーティング法によって、所定の材料を用いて第二電極層が形成される。
【0019】
低ダメージスパッタリング法としては、例えば、イオン化した高エネルギー粒子の基板への照射を防ぐために基板ホルダーにバイアスを印加したマグネトロンスパッタリング法、対向ターゲット型スパッタリング法、イオン銃から放出されたイオンをターゲットに照射しスパッタを行うイオンビーム法などを用いることが出来る。これらのうちでも、好ましい形態としては、対向ターゲット型スパッタリング法、および、イオンビーム法が挙げられ、より好ましくは、対向ターゲット型スパッタリング法が挙げられる。
【0020】
CVD法とは、反応ガスをチャンバー内に導入し、反応に熱やプラズマあるいは光を用いて、反応ガスを化学反応させ基板に成膜する方法である。特に、基板温度が低温においても成膜可能な光CVD、プラズマCVD法が好ましく、さらに成膜の均一性からプラズマCVDが特に好ましい。
【0021】
またイオンプレーティング法とは、プラズマ発生装置から発生させたガスプラズマを利用して、ターゲットに照射し、蒸発粒子の一部をイオンもしくは励起粒子とし、活性化して蒸着する技術である。したがって反応ガスのプラズマを利用して蒸発粒子と結合させ、化合物膜を合成させることも可能である。発生する粒子の運動エネルギーが比較的小さく有機層に与える影響は少ない。
【0022】
スパッタリン法に用いられる一般的な装置および方法の例を図1に沿って説明する。図1に示すスパッタリング装置1は、外装である容器4の内部に、ターゲット支持台5、ターゲット材料6、基板支持台7および素子形成基板8が備えられている。ターゲット材料6は、基板に成膜しようする材料であり、ターゲット支持台5上に設けられている。素子形成基板8は、基板支持台7上に載置され、有機EL素子を構成する各層を形成していくための基板である。スパッタリング装置1には、容器内に充填されるガスを注入するためのガス注入口2が設けられている。通常、アルゴンガスなどが用いられる。容器4内のガスはガス排出口3から排出される。
【0023】
図1に示す例では、ターゲット支持台5および基板支持台7に電圧を印加し、これらの間に磁界を発生させ、プラスに帯電したアルゴンイオンをターゲット材料6に衝突させてターゲット材料をスパッタリングする。なお、ターゲット材料をスパッタリングさせる方法は、電子ビームなどの他の粒子発生源を用いてもよい。スパッタリングによりターゲット6から生じたターゲット材料の原子又は分子は電気的に基板に堆積させられる。
【0024】
本発明の製造方法においては、低ダメージスパッタリング法として、好ましくは、対向ターゲット型スパッタリング法が採用される。図2に対向ターゲット型スパッタリングの実施形態の一例を示す。図2においては、対向ターゲット型スパッタリング法の特徴である、基板支持台およびターゲット支持台の配置関係のみを示している。第一ターゲット支持台5a上の第一ターゲット6aと、第二ターゲット支持台5b上の第二ターゲット6bが、向かい合わせ、かつ、平行又は略平行に配置されている。第一ターゲット6aおよび第二ターゲット6b間に磁界を生じさせ、装置内に充填されたアルゴンガスからアルゴンイオンなどを生じさせ、これをターゲット6aおよび6bに衝突させてスパッタリングし、ターゲットを構成する材料(以下、「ターゲット材料」という場合がある。)の原子または分子を飛散させる。図2において、第一および第二のターゲット支持台の左方に基板支持台7が設けられている。基板支持台7は、第一および第二のターゲット支持台5a、5bの平面に対し直交する縦方向に配置され、基板支持台7の一方の平面が、第一および第二のターゲット支持台5a、5b側に面している。ターゲット支持台側に面している基板支持台7の平面上に、素子形成基板8が配置されている。スパッタリングにより飛散したターゲット材料の原子又は分子は、素子形成基板8上に堆積される。
【0025】
対向ターゲット型スパッタリング法は、スパッタリングにより生じ得る高エネルギー粒子(荷電粒子、中性加速粒子など)のダメージ因子の基板方向への飛散が起こりにくく、基板への衝突が比較的少ないため、先に形成された層に対してダメージを与えにくい。
本発明の製造方法においては、低ダメージスパッタリング法、CVD法、またはイオンプレーティング法と上記金属層とを組み合わせることにより、単一層の金属層を形成するという簡便な手段で、先に形成された層、特に発光層へのダメージを大幅に抑制することができる。特に、陰極が発光層より上層に設けられるトップエミッション型または両面採光型の有機EL素子を作製する場合には、陰極となる第二電極層は透明電極層とする。透明電極層を形成する材料として好ましくは、例えば透明導電性酸化物または窒化物などが好適に用いられ、好ましくは、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)などが用いられる。このような材料には高融点材料のものも多く、薄膜形成のために高エネルギーを与える必要があることなどから、第二電極層を形成させる際に、先に形成されている電荷注入層や発光層にダメージを与えてしまいやすい。しかし、本発明の製造方法によれば、金属層を先に設けておき、後から対向ターゲット型スパッタリング法などにより第二電極層などの上層部を積層させることにより、先に設けられた層へのダメージを大幅に抑制し得る。本発明の製造方法は、陰極層が発光層より上層に設けられるトップエミッション型または両面採光型の有機EL素子を作製する方法として極めて有用である。
【0026】
上記のように、第二電極層が陰極である場合には、発光層より上層の電荷注入層を形成する材料として、バリウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化セシウム、酸化モリブテン、酸化バナジウム、酸化タングステン、および酸化タンタルから選ばれる1種または2種以上を好適に用い得る。本発明の製造方法では、これらの材料を用いて発光層と第二電極層との間に電荷注入層を設けても、その後その上層に透明電極等を積層してもダメージを与えにくい。
また、第二電極層が陽極である場合、発光層より上層の電荷注入層を形成する材料として酸化モリブデンなどを好適に用い得る。本発明の製造方法では、これらの材料を用いて発光層と第二電極層との間に電荷注入層を設けても、その後その上層に透明電極等を積層してもダメージを与えにくい。
【0027】
次に、上記以外の層形成方法について説明する。下記各層の形成方法は、下記に詳述する層形成材料や要求される厚さなどを考慮し、適宜選択可能である。
【0028】
第一電極層としての陽極の形成(成膜)方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、第一電極層としての陰極の形成(成膜)方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、メッキ法または金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0029】
電荷注入層は、仕事関数あるいはイオン化ポテンシャルが所定の数値以下である金属層、無機層および有機層のうちの少なくとも1層以上を含むことが好ましい。仕事関数あるいはイオン化ポテンシャルの上限値として好ましくは、3.0eV以下であり、より好ましくは2.8eV以下である。
【0030】
電荷注入層の1種である電子注入層は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成し得る。また、電荷注入層の1種である正孔注入層の形成(成膜)方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法、スピンコート、印刷法等などが挙げられる。発光層より上層に設ける電荷注入層は、好ましくは真空蒸着法により設けられる。真空蒸着法は、電荷注入層を形成し得る材料で薄膜を形成し、かつ、先に形成されている発光層等へのダメージがないように積層させることが容易な点で好適である。
【0031】
電荷輸送層の1種である、正孔輸送層の形成(成膜)の方法としては、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0032】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0033】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0034】
電荷輸送層の1種である電子輸送層の形成(成膜)方法としては、例えば、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法があげられる。
【0035】
高分子化合物を含む発光層の形成(成膜)方法としては、例えば、発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。本実施の形態における発光材料は、少なくとも高分子化合物を含む。なお発光材料は、低分子化合物を含んでいてもよい。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒があげられる。
【0036】
発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーまたは摩擦による転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0037】
上記のうちでも、高分子化合物を含む発光層の形成方法として好ましくは、例えば、印刷法、スピンコート法などが挙げられ、より好ましくは印刷法が挙げられる。
【0038】
2.本発明の有機EL素子
次に本発明の有機EL素子の実施形態について説明する。本発明の有機EL素子は、支持基板の上層に第一電極層が設けられ、前記第一電極層より上層に発光層が設けられ、前記発光層より上層に電荷注入層が設けられ、前記電荷注入層より上層に、単一層で形成される金属層が設けられ、前記金属層より上層に、第二電極層が設けられる。金属層は、アルミニウム、銀、錫、銅、及びこれらの複合金属材料から選ばれる金属材料で形成される。また、前記第二電極層は、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料で形成される。本発明の有機EL素子は、上記本発明の製造方法によって、発光層やその上層に設けれたら電荷注入層に対するダメージを与えないにように製造することができる。すなわち、本発明の有機EL素子は、上記のような構造を有するように設計されているため、製造過程での欠損品が生じにくい。
【0039】
金属層の好ましい材料、層の厚さ、およびその形成方法等については、上記「本発明の有機EL素子の製造方法」の欄で説明したとおりである。また、透明電極層などとして形成される第二電極層も上記「本発明の有機EL素子の製造方法」の欄で説明したとおりである。上記のように所定の位置に、所定の材料により金属層および第二電極層を設けること以外は、本発明の有機EL素子を構成する層は様々なタイプを採用し得る。
【0040】
本発明の有機EL素子は、陽極、発光層、陰極、金属層、および発光層より上層に設けられる電荷注入層を必須に有するのに加えて、前記陽極と前記発光層との間、及び/又は前記発光層と前記陰極との間にさらに他の層を備えてもよい。
【0041】
陰極と発光層の間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。電子注入層及び電子輸送層の両方が設けられる場合、陰極に近い層が電子注入層となり、発光層に近い層が電子輸送層となる。
【0042】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、電子輸送層は、陰極、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。また、電子注入層、若しくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0043】
陽極と発光層の間に設けるものとしては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等があげられる。正孔注入層及び正孔輸送層の両方が設けられる場合、陽極に近い層が正孔注入層となり、発光層に近い層が正孔輸送層となる。
【0044】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層又は陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層、又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0045】
有機EL素子20において、発光層は通常1層設けられるが、これに限らず2層以上の発光層を設けることもできる。その場合、2層以上の発光層は、直接接して積層することもでき、かかる層の間に電荷注入層、電荷輸送層、電荷ブロック層、電極などを適宜選択し挿入することが出来る。
【0046】
さらに具体的には、有機EL素子は、例えば、下記の層構成のいずれかを有することができる。
a)基板/陽極/発光層/電荷注入層/金属層/陰極
b)基板/陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/金属層/陰極
c)基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/金属層/陰極
d)基板/陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/金属層/陰極
e)基板/陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/金属層/陰極
f)基板/陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/金属層/陰極
g)基板/陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/金属層/陰極
h)基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/金属層/陰極
i)基板/陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/電荷注入層/金属層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。また、基板を最下層とした場合、右側にいくほどより上層として設けられることを示す。以下、同じ。)
【0047】
a’)基板/陰極/発光層/電荷注入層/金属層/陽極
b’)基板/陰極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/金属層/陽極
c’)基板/陰極/電子輸送層/発光層/電荷注入層/金属層/陽極
d’)基板/陰極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/金属層/陽極
e’)基板/陰極/発光層/正孔輸送層/電荷注入層/金属層/陽極
f’)基板/陰極/電荷注入層/発光層/正孔輸送層/電荷注入層/金属層/陽極
g’)基板/陰極/電荷注入層/電子輸送層/発光層/電荷輸送層/金属層/陽極
h’)基板/陰極/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/電荷注入層/金属層/陽極
i’)基板/陰極/電荷注入層/電子輸送層/発光層/電荷輸送層/電荷注入層/金属層/陽極
【0048】
有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよい。
2層の発光層を有する有機EL素子としては、例えば、
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/電荷注入層/電極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/金属層/陰極
の層構成を有するものが挙げられる。
また3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、具体的には、電極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層を一つの繰返し単位(以下において「繰返し単位A」という)として、
q)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/電荷注入層/繰返し単位A/繰返し単位A・・・/陰極
と、2層以上の繰返し単位Aを含む層構成を有するものが挙げられる。
上記層構成p及びqにおいて、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて省略することができる。金属層は、各繰り返し単位中において電荷注入層よりも上層に設けてもよいし、あるいは、最終的に電極を設ける前の段階で一層だけ設けてもよい。
電極とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。当該電極を構成する材料としては、金属酸化物が挙げられ、例えば、酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどが挙げられる。
【0049】
有機EL素子は、発光層からの光を放出するために、通常、発光層のいずれか一方側の層を全て透明なものとする。具体的には例えば、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極という構成を有する有機EL素子の場合、陽極、正孔注入層及び正孔輸送層の全てを透明なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、又は電子輸送層、電子注入層、および陰極の全てを透明なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。また、陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極という構成を有する有機EL素子の場合、陰極、電子注入層及び電子輸送層の全てを透明なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、又は正孔輸送層、正孔注入層、陽極及び封止部材の全てを透明なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。ここで透明とは、発光層から光を放出する層までの可視光透過率が30%以上のものが好ましい。紫外領域又は赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において30%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0050】
有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して前記の電荷注入層又は膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層や発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができる。
【0051】
次に、有機EL素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。
【0052】
<基板>
本発明の有機EL素子を構成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることも出来る。前記基板としては、市販のものが入手可能であり、又は公知の方法により製造することができる。
<陽極>
有機EL素子の陽極としては、光を透過可能な電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成し得るため好ましい。かかる透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)や、金、白金、銀、銅、およびアルミニウムなどの金属、またはこれらの金属を2種類以上含む合金等が用いられ、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。また、陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
陽極には、光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0053】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、さらに好ましくは20nm〜500nmである。
【0054】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する正孔注入層材料としては、特に制限はないが、公知の材料を適宜用いることができ、例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。また、このような正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。このような厚みが前記下限値未満では、製造が困難になる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向にある。
【0055】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送層材料としては特に制限はないが、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4’−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0056】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0057】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとして、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0058】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0059】
<発光層>
発光層は、本発明においては有機発光層であることが好ましく、通常、主として蛍光またはりん光を発光する有機物を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0060】
[色素系材料]
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0061】
[金属錯体系材料]
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0062】
[高分子系材料]
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0063】
上記の中でも、青色材料は、他の層の形成過程においてダメージを受けやすい傾向がある。したがって、本発明の製造方法は、高分子系の発光材料に関しては、青色材料を用いる場合に特に好適に採用し得る。
【0064】
[ドーパント材料]
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0065】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0066】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0067】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0068】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物を電子注入層に用いることもできる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
電子注入層は、好ましい一形態として、イオン化ポテンシャルあるいは仕事関数が電子輸送層あるいは発光層の最低空軌道(LUMO)準位に近い材料によって構成され得る。したがって、好ましい一形態として電子注入層は、仕事関数あるいはイオン化ポテンシャルが、好ましくは3.0eV以下、より好ましくは2.8eV以下、である金属層、無機層および有機層のうちの少なくとも1層以上を含む。このような材料として、例えば、BaやBaOなどの仕事関数がLUMO準位に近い材料によって構成される形態が挙げられる。
【0069】
<陰極>
有機EL素子で用いる陰極の材料としては、例えば、仕事関数の小さく発光層への電子注入が容易な材料、電気伝導度が高い材料、可視光反射率の高い材料、およびこれらのうち2種以上の特性を兼ね備える材料等を挙げることができる。金属では、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−b族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、および錫などの金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)やインジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、および金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0070】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0071】
次に、本発明の有機EL素子のより具体的な実施形態について図3から図5を参照しつつ説明する。まず図3に、本発明の有機EL素子の第1の実施形態を示す(以下、「第一実施形態の素子」という場合がある)。第一実施形態の素子では、基板10上に、順次、反射電極層20(第一電極層)、正孔注入層30、発光層40、電荷注入層50、金属層60、透明電極層70(透明電極層)が積層されて構成されている。第一実施形態の素子においては、反射電極20が陽極であり、透明電極層70が陰極である。また、第一実施形態の素子において、金属層はアルミニウムで形成された単一層により形成されている。反射電極20はITO/Ag/ITOの積層構造で形成されている。第二電極層は、ITOにより形成された透明電極層70が採用されている。すなわち、第一実施形態の素子は、トップエミッション型の素子である。電子注入層50の直上には金属層が一層設けられており、さらにその上にITOによる透明電極層が形成されていても、発光層40および電子注入層50は実質的なダメージを受けておらず、輝度などに優れた有機EL素子となっている。
【0072】
図4に、第2の実施形態の素子を示す。第2実施形態の素子は、ガラス基板11側から光Lを照射する、ボトムエミッション型の素子である。第2の実施形態の素子では、ガラス基板11上に、順に、ITO層21(第一電極層)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を主成分とする高分子材料で形成された正孔注入層31、インターレイヤー32、発光層41、電子注入層51、金属層61、ITO層71(第2電極層)、反射電極72が積層されて形成されている。第2実施形態の素子では、ITO層21が陽極、ITO層71が陰極である。ITO層71の直上には、発光層41から照射される光Lをガラス基板11側から取り出すために、アルミニウムで形成された反射電極72が設けられている。インターレイヤーは、電子ブロック層として設けられている。本実施形態においても、発光層41の上層にITOが設けられているが、このITO成膜によるダメージを実質的に受けておらず、輝度などに優れた有機EL素子となっている。
【0073】
図5に、第3実施形態の素子を示す。第3実施形態の素子は、第2実施形態の素子から反射電極72を取り除いた構成を有する。したがって、陰極としてのITO層71側からも光Lを採光できるため、両面採光型の素子となっている。その他の点は、第2実施形態の素子と同じである。
【0074】
第1から第3の実施形態において、図3から図5では不図示であるが、有機EL素子には、他の電子機器部材と電気的に接続するための端子などを設けられる。また、基板上に形成された発光層を含む多層体全体を覆うように封止基板を設けることにより、有機EL素子を封止することができる。本発明の有機EL素子は、例えば、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライトなどとして用い得る。さらに、本発明の有機EL素子の製造方法は、有機層に対してダメージを抑制し、かつ短時間で電極や電荷注入層を形成しうるものである。したがって、本発明の有機EL素子の製造方法は、有機半導体を用いたトランジスタを製造する場合の電極及び/又は電荷注入層形成にも用いることができる。
【0075】
本発明の有機EL素子を用いて面状の発光を得るためには、例えば、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、例えば、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法などがある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示装置が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置するパッシブマトリックス用基板、あるいは薄膜トランジスタを配置した画素単位で制御を行うアクティブマトリックス用基板を用いればよい。さらに、発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。これらの表示素子は、例えば、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0076】
さらに、前記面状の発光装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用い得る。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用し得る。
【実施例】
【0077】
<高分子化合物1の合成例>
上記電子ブロック層となる高分子化合物1を合成した。まず攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、および温度計を備えるセパラブルフラスコに2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部と、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.11重量部と、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336)27重量部と、トルエン1800重量部とを仕込み、窒素導入管から窒素を導入しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II)0.066重量部と、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部とを加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルとの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×10であり、数平均分子量は8.9×10であった。
【0078】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPCに10μL注入した。
【0079】
GPC装置には島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製PLgel 10μm MIXED−Bカラム(300×7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器にはUV検出器を用い228nmの吸光度を測定した。
【0080】
<実施例1>
[素子作製]
スパッタ法にて膜厚約150nmであるITO層(陽極)が形成されパターニングされたガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(HCスタルクビーテック社製、商品名:Bytron P/TP AI 4083)の懸濁液を0.5μm径のフィルターでろ過した液を、スピンコート法により60nmの厚みで成膜した。次に取り出し電極部分や封止エリアの成膜された部分を拭き取り除去し、大気下にてホットプレートを用い、約200℃で10分間乾燥させた。
【0081】
次いで、その基板にスピンコート法により、高分子化合物1を成膜(膜厚20nm)し、電子ブロック層を形成した。取り出し電極部分や封止エリアにおける電子ブロック層を除去し、窒素中にてホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。その後、高分子発光有機材料(BP361 サメイション社製)を、スピンコート法により成膜(膜厚70nm)し、発光層を形成した。取り出し電極部分や封止エリアにおける発光層を除去し、真空チャンバーに導入し加熱室に移した。以後の工程では、真空中或いは窒素中でプロセスを行いプロセス中の素子が大気に曝されることはない。次に、真空中で基板を基板温度約100℃で60分加熱した。その後、蒸着チャンバーに基板を移し、陰極メタルマスクとアライメントし発光部及び取り出し電極部に陰極が成膜されるように、マスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。蒸着前のチャンバー内の真空度は3×10−5Pa以下であった。
【0082】
次に、Ba金属を抵抗加熱法にて加熱し、蒸着速度約2Å/sec、膜厚5nmにて蒸着して電子注入層を形成した。
【0083】
その後、金属層を、電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約2Å/secにて蒸着させた。金属層の膜厚が10nmのものと、15nmものをそれぞれ作製した。
【0084】
次に、透明電極層(陰極)として、ITOを対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング装置(エフ・テイ・エスコーポレーション社製)を用いて約160nm成膜した。成膜圧力は0.5Pa、パワー1000W、Ar流量40sccm、O流量2sccm、搬送速度160mm/min、成膜搬送回数は6回であった。次いで、評価のため光を一方から取り出すように、前記ITO層上にさらに反射電極としてAlを電子ビーム蒸着法にて蒸着した。Alの蒸着は、蒸着速度約2Å/sec、膜厚1000Åにて行った。その後、減圧下、不活性ガス中で、あらかじめ用意しておいたUV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラスと貼り合わせた。次に、大気圧に戻し、UVを照射することで光硬化させ固定化し高分子有機EL素子が作製された。作製された有機EL素子は、層構造としては、図4に示されるボトムエミッション型の素子と同じである。なお上記ITO直上の上記Alを成膜しない場合は、光は基板側、陰極側の両方向から出射し両面発光素子となる。さらに、上記ITO陽極の下層あるいは上層に反射金属を形成しかつ、上記ITO直上の上記Alを成膜しない場合は、光は陰極側から出射しトップエミッション型素子となる。1画素の発光領域は2×2mmである。
(素子構造:ガラス基板/ITO(150nm)/PEDOT(AI−4083)/IL7/SCB670/Ba(5nm)/金属層(Al:10nm、15nm)/ITO(160nm)/Al(100nm)/ガラス封止)
【0085】
[素子評価]
作製した素子に電圧を印加し、電流電圧特性、発光輝度を測定した。測定する光は、発光層から発生した光でガラス基板側に直接放出される光と、ガラス基板とは反対側に放出される光(ITO層を透過し反射電極であるAl層で反射される光)の合計である。したがって、ITOを成膜した事で発光層がダメージを受けているならば輝度(EL強度)は減少する。結果を表1に示す。表1に示されるように、実施例1の素子は輝度が減少しておらず、発光層にダメージを受けていないことが確認された。
【0086】
<比較例1>
[素子作製]
金属層を挿入しない以外は実施例1と同様に素子を作製した。
(素子構造:ガラス基板/ITO(150nm)/PEDOT(AI−4083)/IL7/SCB670/Ba(5nm)/ITO(160nm)/Al(100nm)/ガラス封止)
【0087】
[素子評価]
作製した素子を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。表1に示されるように比較例1の素子は、実質的に発光すらせず、発光層にダメージを受けているものと推定された。
【0088】
【表1】

【0089】
<実施例2>
[素子作製]
反射電極Alを形成しない場合、光を透過しかつ両面が発光する素子になる。さらに、ガラス基板側の電極を反射電極にすればトップエミッション型の素子になる。金属層として、電子ビーム蒸着法を用いて、Alを蒸着速度約2Å/secにて蒸着させ、金属層の膜厚5nmの素子を作製した。本実施例2の素子は、金属層の膜厚が5nmである点と反射電極を形成しない点以外は、実施例1と同様に素子を作製した。
【0090】
[素子評価]
作製した素子を実施例1と同様に測定した。ただし、反射電極を形成していないので、ガラス基板側、その反対面の両面から光が放出される。結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例2の素子は輝度が減少しておらず、発光層にダメージを受けていないことが確認された。なお、ガラス基板側から取出される光の測定と、ガラス基板とは反対側から取出される光の測定とを、時間をあけて行ったので、同じ印加電圧でも電流密度が異なっている。
【0091】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明は有機EL装置に関連する産業分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】スパッタリング装置の実施形態の一例を示す図である。
【図2】対向ターゲット型スパッタリング装置の実施形態の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の素子の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の素子の断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態の素子の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 スパッタリング
2 ガス注入口
3 ガス排出口
4 容器
5 ターゲット支持台
5a 第一ターゲット支持台
5b 第二ターゲット支持台
6 ターゲット
6a 第一ターゲット
6b 第二ターゲット
7 基板指示台
8 素子形成基板
10 支持基板
11 ガラス基板
20 反射電極(第一電極層、陽極)
21 ITO層(第一電極層、陽極)
30 正孔注入層
31 正孔注入層(PEDOT層)
32 インターレイヤー
40、41 発光層
50 電荷注入層
51 電子注入層
60、61 金属層
70 透明電極層(第二電極層、陰極)
71 ITO層(第二電極層、陰極)
72 反射電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に、少なくとも、第一電極層、高分子有機化合物を含む発光層、および第二電極層を積層する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記支持基板より上層に第一電極層を形成する工程と、
前記第一電極層より上層に前記発光層を形成する工程と、
前記発光層より上層に電荷注入層を形成する工程と、
前記電荷注入層より上層に、アルミニウム、銀、錫、銅およびこれらの2種以上を含む複合金属材料からなる群より選ばれる材料を含有する金属層を形成する工程と、
前記金属層より上層に、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料を、低ダメージスパッタリング法、イオンプレーティング法、またはCVD法により積層させて前記第二電極層を形成する工程とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記発光層より上層に設けられた前記電荷注入層の直上に前記金属層を形成し、前記金属層の直上に前記第二電極層を形成する、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記金属層を、0.5nm以上、30nm以下の厚さに形成する、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属層を、真空蒸着法より形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記低ダメージスパッタリング法が、対向ターゲットスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法である、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記発光層を印刷法により形成する請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
支持基板上に、少なくとも第一電極層、高分子化合物を含む発光層、および第二電極層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記支持基板の上層に前記第一電極層が設けられ、
前記第一電極層より上層に前記発光層が設けられ、
前記発光層より上層に前記電荷注入層が設けられ、
前記電荷注入層より上層に、単一層で形成される金属層が設けられ、
前記金属層より上層に、第二電極層が設けられ、
前記金属層は、アルミニウム、銀、錫、銅及びこれらの複合金属材料から選ばれる金属材料を含有する層であり、
前記第二電極層は、透明導電性酸化物、透明導電性窒化物及びこれらの複合材料から選ばれる電極材料を含有する層である、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層より上層に設けられた電荷注入層の直上に前記金属層を形成し、前記金属層の直上に前記第二電極層を形成する、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記金属層の厚さが、0.5nm以上、30nm以下である、請求項7または8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記金属層の可視光透過率が30%以上である、請求項7から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第二電極層が、インジウム、錫、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上を含有する陰極である、請求項7から10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記電荷注入層が、仕事関数あるいはイオン化ポテンシャルが3.0eV以下である金属層、無機層および有機層のうちの少なくとも1層以上を含むこと特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記電荷注入層が、アルカリ金属、アルカリ金属土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物およびアルカリ金属フッ化物からなる群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項7から12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−245787(P2009−245787A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91744(P2008−91744)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】