説明

有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】直接塗布しても有機エレクトロルミネッセンス素子を劣化させることなく封止を行うことができる有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤、及び、該有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるカチオン重合性単量体とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接塗布しても有機エレクトロルミネッセンス素子を劣化させることなく封止を行うことができる有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤、及び、該有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス材料(以下、有機EL材料という)を発光層に用いた電界発光素子(以下、有機EL表示装置という)は、通常、基板上に設けられた一の電極上に、正孔注入層、発光層及び電子注入層が、順次積層され、更にその上に他の電極が設けられた薄膜構造体からなる。図1に、このような薄膜構造体の一例を模式的に示す断面図を示した。図1に示した薄膜構造体20は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層4からなる正孔注入電極と、有機薄膜5(発光層)と、電子注入層6及び陰極7からなる電子注入電極とが、順次、積層された構造となっている。なお、薄膜構造体の構造は、図1に示す構造に限定されず、例えば、少なくとも陽極2及び陰極7の間に有機薄膜5が形成されていればよいが、素子の性能を向上させるという点から、図1に示す薄膜構造体20のように、正孔注入層3、正孔輸送層4及び電子注入層6が形成された構造が好ましい。
このような薄膜構造体からなる有機EL素子は、自己発光を行うため視認性がよく、固体素子であるため耐衝撃性に優れ、直流低電圧駆動素子を実現するものとして注目を集めている。
【0003】
有機EL素子を構成する有機薄膜(発光層)、正孔注入層及び電子注入層の材料である発光材料、正孔注入材料及び電子注入材料等の有機固体は、水分や酸素等に侵されやすいという問題を有している。また、有機固体の上下に設けられている対向電極は、酸化により特性が劣化するため、有機EL素子を大気中で駆動させると発光特性が急激に劣化する。従って、実用的な有機EL素子を得るためには、有機固体に水分や酸素が侵入しないように、また、対向電極が酸化されないように、有機固体及び対向電極を大気と遮断して長寿命化を図る必要がある。
【0004】
有機固体及び対向電極を大気と遮断する方法としては、封止剤を用いて有機EL素子を封止することが行われている(例えば、特許文献1)。
有機EL素子を封止剤で封止する場合、水分や酸素等の透過を充分に抑えるため、機EL素子上にパッシベーション膜と呼ばれる無機膜を設け、更にその上を封止剤で封止することが行われている。しかしながら、現在用いられている一般的なパッシベーション膜は、チッ化シリコーンをCDV法により製膜していることから、極めて煩雑であり、かつ、高コストであるという問題があった。そこで、パッシベーション膜を省略して、直接有機発光素子を封止剤で封止することが検討されている。
【0005】
しかしながら、従来の封止剤では、パッシベーション膜を設けずに有機EL素子に塗布した場合、図1の正孔注入層3、正孔輸送層4、有機薄膜5(発光層)、電子注入層6等の有機膜層が封止剤により溶解して有機EL素子が劣化してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2007−115692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、直接塗布しても有機エレクトロルミネッセンス素子を劣化させることなく封止を行うことができる有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤、及び、該有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表されるカチオン重合性単量体とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤である。
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)中、Rは、H、CH又はCを表し、R、R、R、Rのいずれか少なくとも1は、下記一般式(2−1)、(2−2)又は(2−3)を、その余はH、CH又はCを表し、mは、0〜100の整数を表し、n=1〜100の整数を表す。
【0010】
【化2】

【0011】
式(2−1)、(2−2)、(2−3)中、Rは、H、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基、炭素数1〜20の分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子を表し、Rは、H又はCHを表し、Aは、ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、q、rは、1〜3の整数を表す。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の構造を有するカチオン重合性単量体とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤(以下、「本発明の封止用接着剤」ともいう)を用いれば、パッシベーション膜を設けずに、直接塗布しても有機EL素子を劣化させることなく封止を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の封止用接着剤は、上記式(1)で表されるカチオン重合性単量体を含有する。このようなカチオン重合性単量体は、有機EL素子の有機膜層を溶解しにくく、直接塗布しても有機EL素子を劣化させることがない。また、このようなカチオン重合性単量体をカチオン重合開始剤を用いて硬化させた硬化物は、水分や酸素等の透過性が低く、充分に有機EL素子を封止することができる。
【0014】
上記式(1)で表される化合物において、シリコーン骨格部分の繰り返し単位数「n」の下限は1、上限は100である。上記シリコーン骨格部分の繰り返し単位数を上記範囲とすることで、本発明の封止用接着剤の硬化体が有機EL表示装置の素子基板と保護用基板とを接合した有機EL表示装置は、使用環境温度の変化による上記硬化体と有機ELパネル及び保護用基板との界面での剥離が生ずることをより好適に防止でき、より表示品質に優れたものとなる。好ましい下限は3、好ましい上限は50である。
【0015】
上記式(1)で表されるカチオン重合性単量体のうち市販されているものとしては、例えば、OX−SC(東亞合成社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明の封止用接着剤は、有機EL素子を劣化させないという本発明の目的効果を損なわない範囲において、上記式(1)で表されるカチオン重合性単量体以外のカチオン重合性単量体としてエポキシ変性シリコーン樹脂を含有してもよい。ただし、このようなエポキシ変性シリコーン樹脂を含有する場合でも、全カチオン重合性単量体に占める上記式(1)で表されるカチオン重合性単量体の割合は30重量%以上であることが好ましい。30重量%未満であると、アウトガスが発生し有機EL素子を劣化させる恐れがある。より好ましくは50重量%以上である。
【0017】
上記エポキシ変性シリコーン樹脂としては、上記式(1)において、R、R、R、Rのいずれか少なくとも1が、下記一般式(3−1)、(3−2)或いは(3−3)を、その余はH、CH又はCを表すもの、又は、上記式(1)において、R、R、R、Rのいずれか少なくとも1が、下記一般式(4−1)、(4−2)或いは(4−3)を、その余はH、CH又はCを表すものが好適に用いられる。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
上記エポキシ変性シリコーン樹脂としては、具体的には、例えば、信越シリコーン社製の変性シリコーンオイルが挙げられ、エポキシタイプのものとしては、「X−22−163」、「KF−105」、「X−22−163A」、「X−22−163B」、「X−22−163C」等が挙げられ、脂環式タイプのものとしては、「X−22−169AS」、「X−22−169B」等が挙げられる。
【0021】
本発明の封止用接着剤は、有機EL素子を劣化させないという本発明の目的効果を損なわない範囲において、接着性を向上させ、硬化物の透湿性を低くする目的で、更に他のカチオン重合性単量体を配合してもよい。このような他のカチオン重合性単量体としては特に限定されず、例えば、エポキシ化合物等が挙げられる。
【0022】
上記エポキシ系化合物としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、異節環状型エポキシ化合物、多官能性エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物等のアルコール型エポキシ化合物、臭素化エポキシ化合物等のハロゲン化エポキシ化合物、ゴム変成エポキシ化合物、ウレタン変成エポキシ化合物、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル化合物、エポキシ基含有ポリウレタン化合物、エポキシ基含有アクリル化合物等が挙げられる。なかでも、光カチオン重合性がより高く、少ない光量でもより効率的に光硬化が進行することから、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物等が好適に用いられる。これらのエポキシ系化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記脂環式エポキシ化合物としては特に限定されず、例えば、1,2:8,9−ジエポキシリモネン、4−ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート、ビス−(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、(2,3−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の分子内に少なくとも1個の4〜7員環の環状脂肪族基と分子内に少なくとも1個のエポキシ基とを有する化合物等が挙げられる。これらの脂環式エポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記エポキシ系化合物の市販品としては特に限定されず、例えば、ジャパンエポキシレジン社製の商品名「エピコート807」、「エピコート828」、「エピコート1001」等の「エピコート」シリーズ、大日本インキ化学工業社製の商品名「エピクロンHP−4032」等の「エピクロン」シリーズ、ダイセル化学工業社製の商品名「セロキサイド2021」等の「セロキサイド」シリーズ等が挙げられる。
【0025】
このような他のカチオン重合性単量体を含有する場合でも、全カチオン重合性単量体に占める上記式(1)で表されるカチオン重合性単量体の割合は50重量%以上であることが好ましい。50重量%未満であると、有機EL素子を劣化させる恐れがある。
【0026】
本発明の封止用接着剤は、カチオン重合開始剤を含有する。
上記カチオン重合開始剤としては、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生型であっても、非イオン性光酸発生型であってもよい。
【0027】
上記イオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。これらのイオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記イオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤の市販品としては特に限定されず、例えば、旭電化工業社製の商品名「アデカオプトマーSP150」、「アデカオプトマーSP170」等の「アデカオプトマー」シリーズ、ゼネラルエレクトロニクス社製の商品名「UVE−1014」、サートマー社製の商品名「CD−1012」等が挙げられる。
【0029】
ただし、上記イオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤を用いた場合には、有機EL素子の電極と本発明の封止用接着剤との界面で電極の酸化が発生して、有機EL素子の耐久性に問題が生じることがある。そのため、上記カチオン重合開始剤としては、下記化学式(5)で表される嵩高いボロン酸を対アニオンとする塩からなるカチオン重合開始剤を用いることが好ましい。下記化学式(5)で表される対アニオンを有するカチオン重合開始剤は、有機EL素子の電極と本発明の封止用接着剤との界面で電極の酸化が発生しにくく、耐久性に優れることから好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
このような対アニオンを有するカチオン重合開始剤の市販品としては特に限定されず、例えば、「Photoinitiator 2074」(ローディア社製)、下記化学式(6)で表される商品名「PI−2074」(ローヌプラン社製)、下記化学式(7)で表される商品名「TAG−371R」(東洋インキ社製)、下記化学式(8)で表される商品名「TAG−372R」(東洋インキ社製)等が挙げられる。
【0032】
【化6】

【0033】
また、上記カチオン重合開始剤は、長波長の光を吸収しないことから、着色が少ないという長所を有するが、一方で、照射光を効率よく使えないという短所がある。この場合、下記式(9)〜(11)で表されるカチオン重合開始剤を用いることが、着色することなく重合開始波長を長波長側にできることから好ましい。
【0034】
【化7】

【0035】
上記非イオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドホスホナート等が挙げられる。これらの非イオン性光酸発生型のカチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記カチオン重合開始剤としては、高分子量化又は多量化したものを用いることが好ましい。上記カチオン重合開始剤が酸を発生してカチオン重合を開始させた後には、その残存物がアウトガスとなって素子を劣化させたりすることがある。本発明者らは、鋭意検討の結果、高分子量化又は多量化したカチオン重合開始剤を用いれば、アウトガスの発生を抑制できることを見出した。
【0037】
上記カチオン重合開始剤を高分子量化又は多量化する方法としては特に限定されず、例えば、分子内に少なくとも1つの水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、分子内に水酸基と反応する官能基を2つ以上有する化合物との反応生成物、より好ましくは分子内に2つ以上の水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物と、無水カルボン酸又はジカルボン酸との反応生成物をカチオン重合開始剤として用いる方法が好適である。
【0038】
上記分子内に少なくとも1つの水酸基を有しかつ光照射により酸を発生する化合物のうち市販されているものとしては、例えば、スルホニウム塩骨格を有する三新化学社製「SI−80L」、旭電化社製「SP−170」、ヨードニウム塩骨格を有するサートマー社製「CD−1012」等が挙げられる。
また、上記分子内に水酸基と反応する官能基としては、カルボキシル基、イソシアネート基等が挙げられ、上記分子内に水酸基と反応する官能基を2つ以上有する化合物としては特に限定されないが、無水カルボン酸又はジカルボン酸が好適である。上記無水カルボン酸としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸等を挙げることができ、また、上記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族酸等が挙げられる。
【0039】
上記カチオン重合開始剤の含有量としては特に限定されないが、上記カチオン重合性単量体の合計100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。0.1重量部未満であると、カチオン重合性単量体のカチオン重合が充分に進行しなかったり、これらの硬化反応が遅くなりすぎたりすることがある。10重量部を超えると、カチオン重合性単量体の硬化反応が速くなりすぎて、作業性が低下したり不均一な硬化物となったりすることがある。より好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0040】
本発明の封止用接着剤は、更に硬化遅延剤を含有することが好ましい。硬化遅延剤を含有することにより、ポッドライフが長くなり、取扱い性が向上する。また、いったん光を照射してから封止を行うことができることから、有機EL素子に光を照射することなく封止を行うことも可能になる。
【0041】
上記硬化遅延剤としては特に限定されず、例えば、ポリエーテル化合物等が挙げられる。上記ポリエーテル化合物としては、特に限定されないが、分子中にエーテル結合を2以上有する化合物であることが好ましく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、クラウンエーテル化合物等を用いることができる。なかでも、クラウンエーテル化合物が好適に用いられる。
【0042】
上記クラウンエーテル化合物としては特に限定されず、例えば、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、24-クラウン−8及び、下記一般式(12)(13)で表される構造を有する化合物等が挙げられる。
【0043】
【化8】

【0044】
一般式(12)中、R〜R12は、少なくとも1つが炭素水1〜20のアルキル基を表す。また、前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
【0045】
【化9】

【0046】
上記ポリエーテル化合物の含有量としては特に限定されないが、上記カチオン重合性単量体100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は50重量部である。0.1重量部未満であると、本発明の封止用接着剤に光を照射した後に充分な可使時間が得られないことがあり、50重量部を超えると、上記カチオン重合性単量体の光カチオン重合が充分に進行しなかったり、反応が遅くなりすぎたりすることがある。より好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は20重量部であり、更に好ましい上限は10重量部である。
【0047】
上記硬化遅延剤を含有する本発明の封止用接着剤は、光を照射した後、硬化反応がゆっくりと進行し、充分な可使時間を確保することができる。具体的には、本発明の封止用接着剤に2000mJ/mmの紫外線を照射した後、E型粘度計(東機産業社製、TV−22型)を用いて測定した粘度が初期粘度の2倍に到達するまでの時間の好ましい下限が3分である。3分未満であると、基板等を貼り合わせる前に硬化進行してしまい、充分な接着強度を得られなくなることがある。このような本発明の封止用接着剤の可使時間は、上述した硬化遅延剤を添加することで好適に調整することができる。
【0048】
本発明の封止用接着剤は、更に熱硬化剤を含有することが好ましい。熱硬化剤を含有することで、熱硬化性を付与することができる。
上記熱硬化剤としては特に限定されず、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等のヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−
1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、変性脂肪族ポリアミン、テトラヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールービス(アンヒドロトリメリテート)等の酸無水物、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0049】
本発明の封止用接着剤が上記熱硬化剤を含有する場合、その含有量としては特に限定されないが、上記カチオン重合性単量体の合計100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は30重量部である。0.5重量部未満であると、封止用接着剤に充分な熱硬化性を付与できないことがあり、30重量部を超えると、封止用接着剤の保存安定性が低下したり、硬化物の耐湿性が不充分となったりすることがある。より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0050】
本発明の封止用接着剤は、更にシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤は、主に本発明の封止用接着剤と有機ELパネル及び保護用基板とを良好に接着するための接着助剤としての役割を有する。
【0051】
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記シランカップリング剤の配合量としては特に限定されないが、上記カチオン重合性単量体の合計100重量部に対して好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。0.1重量部未満であると、シランカップリング剤を添加した効果がほとんど得られないことがあり、10重量部を超えると、余剰のシランカップリング剤のアルコキシ基が分解してアルコールが発生するため、有機EL素子を劣化させる恐れがある。より好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0053】
本発明の封止用接着剤は、透明性を阻害しない範囲で充填剤を含有していてもよい。
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、タルク、石綿、シリカ、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、モンモリロナイト、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、石膏、珪酸カルシウム、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト等の無機フィラーやポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子等の有機フィラー等が挙げられる。
【0054】
本発明の封止用接着剤の粘度としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1Pa・s、好ましい上限は300Pa・sである。0.1Pa・s未満であると、粘度が低すぎて、例えば、封止用接着剤を用いて有機EL素子を封止する際に、有機ELパネル又は保護用基板表面に形成した封止用接着剤層が形状を維持できず流れてしまうことがある。300Pa・sを超えると、粘度が高すぎて、例えば、封止用接着剤を用いて有機EL素子を封止する際に、有機ELパネルや保護用基板表面に形成した封止用接着剤層の厚さにムラが生じることがある。より好ましい下限は0.3Pa・sであり、より好ましい上限は50Pa・sである。
なお、上記粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業社製、TV−22型)を用いて25℃、5rpmの条件で測定した値である。
【0055】
本発明の封止用接着剤は、硬化収縮率の上限が5%であることが好ましい。5%を超えると、封止用接着剤の重合硬化時における収縮量が大きくなり、有機EL素子に応力を与え、素子の剥離の原因となる。より好ましい上限は4%である。
【0056】
本発明の封止用接着剤は、その硬化物を厚さを0.1mmとしたときの可視光領域における光線透過率が90%以上であることが好ましい。90%未満であると、封止用接着剤を用いて有機EL素子を封止しかときに、得られる有機EL素子の表示品質が低下することがある。
なお、本明細書において、可視光領域とは、波長400〜800nmの光線を意味する。
【0057】
本発明の封止用接着剤の製造方法としては特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、上述したカチオン重合性単量体、カチオン重合開始剤、及び、必要に応じて添加する添加剤等を混合する方法等が挙げられる。
【0058】
本発明の封止用接着剤は、上記一般式(1)で表されるカチオン重合性単量体を用いることにより、パッシベーション膜を設けずに直接有機EL素子を封止することができる。
また、パッシベーション膜を設けた場合であっても、従来のチッ化シリコーンをCDV法により製膜するパッシベーション膜には細孔が形成されることがあり、この細孔から侵入した封止剤によって有機EL素子が損傷することもあった。本発明の封止用接着剤を用いれば、このような細孔のあるパッシベーション膜上に塗布した場合でも、有機EL素子を損傷させることがない。
本発明の封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子もまた、本発明の1つである。
【0059】
本発明の封止用接着剤を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を封止する方法としては特に限定されず、例えば、本発明の封止用接着剤を有機EL素子を封止するための封止板に塗布し、光を照射して封止用接着剤を活性化した後に光を遮断し、封止板と有機EL素子形成された構造体とを貼合わせる方法等が挙げられる。
【0060】
また、特に高い水分や酸素等の遮断性が要求される場合には、特開2007−115692に記載されたようなレーザーアニール法により周辺封止を行う方法を併用することが好ましい。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、直接塗布しても有機エレクトロルミネッセンス素子を劣化させることなく封止を行うことができる有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤、及び、該有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0063】
(実施例1〜10、及び、比較例1〜3)
(1)封止用接着剤の調製
表1に示した組成に従って、各材料をホモディスパー型撹拌混合機(ホモディスパーL型、特殊機化社製)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して光カチオン重合性接着剤を調製し、これを有機EL素子封止用接着剤とした。
【0064】
(2)有機EL素子基板の作製
ガラス基板(25mm×25mm×0.7mm)にITO電極を1000Åの厚さで成膜したものを透明支持基板とした。上記透明支持基板をアセトン、アルカリ水溶液、イオン交換水、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄した後、煮沸させたイソプロピルアルコールにて10分間洗浄し、更にUV−オゾンクリーナ(NL−UV253、日本レーザー電子社製)にて直前処理を行った。次に、この透明支持基板を真空蒸着装置の基板フォルダに固定し、素焼きの坩堝にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を200mg、他の異なる素焼き坩堝にトリス(8−ヒドロキシキノリラ)アルミニウム(Alq3)を200mg入れ、真空チャンバー内を、1×10−4Paまで減圧した。その後、α−NPD入りの坩堝を加熱し、α−NPDを蒸着速度15Å/sで基板に堆積させ、膜厚600Åの正孔輸送層を成膜した。次いでAlq3の坩堝を加熱し、15Å/sの蒸着速度で膜厚600Åの発光層を形成した。その後、透明支持基板を別の真空蒸着装置に移し、この真空蒸着装置内のタングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mg、別のタングステン製ボートにアルミニウム線1.0gを入れた。その後真空槽を2×10−4Paまで減圧してフッ化リチウムを0.2Å/sの蒸着速度で5Å成膜した後、アルミニウムを20Å/sの速度で1000Å成膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し透明支持基盤を取り出して透明支持基盤上に作製した有機EL素子基板を得た。
【0065】
(3)有機EL素子の封止
得られた有機EL素子封止用接着剤をガラス製背面板にディスペンサーにて塗布し、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射量が2400mJ/cmとなるように照射した。その後、窒素ガスを流通させたグローブボックス中で、有機EL素子基板と有機EL素子封止用接着剤を塗布したガラス製背面板を貼合後、10分間放置し接着剤を硬化して有機EL素子を封止した。
【0066】
(評価)
下記の方法により封止用接着剤及び封止された有機EL素子の評価を行った。
結果を表1に示した。
【0067】
(1)光学特性
(初期の光線透過率)
厚さ1mmのアルカリガラスの間を10μmに保ち、このガラスの間に実施例及び比較例で製造した基板貼り合せ用接着剤を充填し、紫外線を1500mJ照射後、80℃10分間加熱して接着剤を硬化させ、実施例及び比較例に係るサンプルをそれぞれ作製した。
得られたサンプルを用いて、分光光度計(日立製作所社製、U−3000、条件300〜800nm)を用いて、波長400nm、550nm及び780nmの吸光度を測定し、初期の光線透過率を算出した。
【0068】
(2)溶解性評価
上記有機EL素子基板の作製と同様の方法にて、ガラス基板上の中央部にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を600Å、トリス(8−ヒドロキシキノリラ)アルミニウム(Alq3)を600Åの厚さに順次蒸着した。この基板に実施例、比較例で製造した封止用接着剤を塗布し、ガラス製背面板を貼合後1時間放置した。放置後、α−NPD・Alq3の状態を観察するために、薄層クロマトグラフ用ブラックライトを照射して、中央部に蒸着した層が溶解しているかを観察し、下記基準により評価を行った。
○:蒸着した膜が組成物に溶解せず、初期の状態を保っている。
×:蒸着した膜が組成物に溶解し、にじんだ状態になっている。
【0069】
(3)熱分解評価
実施例、比較例で製造した封止用接着剤をアルミパンに10mg採取し、紫外線を1500mJ照射後、80℃10分間加熱して接着剤を硬化させ、熱分析装置(TG/DTA6200、セイコーインスツル社製)にて加熱時の重量減少による熱分解率を評価した。
昇温速度を5℃として、100℃における重量減少率を求めた。
【0070】
(4)発光評価
封止された有機EL素子を温度85℃の条件下に100時間暴露した後、10Vの電圧を印加し素子の発光状態(発光及びダークスポット、ダークラインの有無)を目視で観察し、下記の基準で評価を行った。
○:ダークスポット無く均一に発光
△:発光するがダークスポットや周辺部の消光有り
×:全く発光せず
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、直接塗布しても有機エレクトロルミネッセンス素子を劣化させることなく封止を行うことができる有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤、及び、該有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】薄膜構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 有機薄膜(発光層)
6 電子注入層
7 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカチオン重合性単量体とカチオン重合開始剤とを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤。
【化1】

式(1)中、Rは、H、CH又はCを表し、R、R、R、Rのいずれか少なくとも1は、下記一般式(2−1)、(2−2)又は(2−3)を、その余はH、CH又はCを表し、mは、0〜100の整数を表し、n=1〜100の整数を表す。
【化2】

式(2−1)、(2−2)、(2−3)中、Rは、H、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基、炭素数1〜20の分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子を表し、Rは、H又はCHを表し、Aは、ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、q、rは、1〜3の整数を表す。
【請求項2】
カチオン重合開始剤は、下記化学式(5)で表されるボロン酸を対イオンとする塩からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤。
【化3】

【請求項3】
更に硬化遅延剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤。
【請求項4】
硬化遅延剤は、クラウンエーテル又はクラウンエーテル誘導体であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子封止用接着剤を用いて封止されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【公開番号】特開2009−221430(P2009−221430A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70106(P2008−70106)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】