説明

有機エレクトロルミネッセンス表示装置用電極基板の製造方法

【課題】色相毎に最適な膜厚の透明導電層を形成しうる有機EL表示装置用電極基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ITOからなる第1透明導電層14を形成し、ベーク処理して結晶化させた後、所望の領域に開口部22を有する保護層21を形成し、アモルファスITOを成膜し、エッチングによってアモルファスITOである第2透明導電層15’を除去し、所望の領域にのみ、下層の第1透明導電層14に倣って結晶化ITOからなる第2透明導電層15を残す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス表示装置用の電極基板の製造方法に関し、特に、反射電極の製造に特徴を有する電極基板の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリクス型有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置は、一般に、基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を有するTFT回路と反射電極を形成した電極基板と、その電極基板上に有機化合物層及び取り出し電極が順次積層されて構成される。有機化合物層は、例えば発光層のみの単一層構成や、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層を積層した3層構成、これらの層間に電子或いは正孔注入層が介在した積層構造からなる。
【0003】
前記反射電極及び取り出し電極のうち少なくとも一方は、前記基板上に2次元に並列に配設されたTFTなどのスイッチング素子を含む回路に、電気的に接続されている。そして、前記反射電極は、一般的に、例えば金属からなる反射層と導電性酸化物からなる透明導電層が積層されて形成される。
【0004】
カラー画像を表示する有機EL表示装置の場合、少なくとも赤、緑、青を出射する画素を有している。そして、光取り出し効率や色純度を向上させるため、前記透明導電層の膜厚を調整し、各々の発光波長に対応する共振長を有するマイクロキャビティ構造を形成する提案がなされている。透明導電層の膜厚を変更する方法としては、結晶ITOとアモルファスITOを用いて、透明導電層の成膜とフォトリソグラフィによるパターニングを繰り返す方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−129604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来例では、結晶ITO上に成膜された2層目のアモルファスITOが、下地の結晶ITOに倣って結晶成長してしまうため、2層目のITOのエッチングができないという課題があることが判明した。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、有機EL表示装置において、色相毎に最適な膜厚の透明導電層を形成しうる有機EL表示装置用電極基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板上に、反射層を形成する工程と、
前記反射層を形成した基板上に全面に第1透明導電層を形成する工程と、
前記第1透明導電層をパターニングする工程と、
前記第1透明導電層をベーク処理して第1透明導電層を結晶化させる工程と、
前記基板上の全面に保護層を形成する工程と、
前記保護層を、前記第1透明導電層上の、第2透明導電層を形成する領域に開口部を有するようにパターニングする工程と、
前記基板の全面に第2透明導電層を形成する工程と、
前記保護層上の第2透明導電層をパターニングする工程と、
前記保護層を除去する工程と、
を前記順序で含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用電極基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色相毎に最適の膜厚の透明導電層を形成することができ、所望のマイクロキャビティ構造を有する有機EL表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による有機EL表示装置用電極基板を用いた有機EL表示装置の一例の画素部の断面構造を示す模式図である。
【図2】図1の有機EL表示装置用電極基板を構成する透明導電層の製造工程を示す断面模式図である。
【図3】図1の有機EL表示装置用電極基板を構成する透明導電層の製造工程を示す断面模式図である。
【図4】本発明による有機EL表示装置用電極基板を用いた有機EL表示装置の他の例の画素部の断面構造を示す模式図である。
【図5】本発明の比較例1における有機EL表示装置用電極基板を構成する透明導電層の製造工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置用電極基板の製造方法の実施の形態について説明する。尚、本明細書で特に図示または記載されない部分については、当該技術分野の周知もしくは公知技術を適用する。また、以下の実施形態は本発明の例示形態であって、これらに限定されるものではない。
【0012】
図1乃至図3を参照して、本発明の一実施形態における、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置用電極基板の構造及び形成方法について説明する。図1は、本例における有機EL表示装置用電極基板を用いた有機EL表示装置の画素部の断面構造を示す模式図である。
【0013】
本例の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。図1において、10は基板、11は配線、12は絶縁層、13は反射層、14は第1透明導電層、15は第2透明導電層、16は隔壁(素子分離膜)、17は有機化合物層、18は取り出し電極である。本例の装置では取り出し電極18を介して光が発せられる。図1に示すように、本発明の製造方法で得られる反射電極は、第1画素領域19では反射層13と第1透明導電層14の積層体からなり、第2画素領域20では反射層13と第1透明導電層14及び第2透明導電層15の積層体からなる。
【0014】
本発明において用いられる基板10は特に限定されないが、略透明な矩形平面状の絶縁性基板であればよく、特にガラス基板が好ましい。
【0015】
本発明による有機EL表示装置用電極基板は、前記基板10の一主面である表面上に、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT,不図示)及び、発光層を発光させるために必要な素子(不図示)が1画素構成要素として二次元的に配設されている。TFTや発光に必要な素子は、公知の方法で作製される。そして、これらTFTと素子からなるTFT回路に配線11が接続されている。
【0016】
前記配線11は、具体的には以下の方法で形成される。前述のTFT回路を公知の方法を用いて形成した後、導電性材料を堆積してパターニングを行ない、配線11を形成する。導電性材料は特に限定されないが、AlやAl合金、Cu合金やAg合金などを用いるのが好ましい。
【0017】
配線11形成後、絶縁層12を成膜し、パターニングを行なう。絶縁層12は、絶縁性材料であれば特に限定されない。例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素などの無機材料や、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、またはこれらの積層体などが挙げられる。
【0018】
次に、反射層13を形成する。反射層13を形成する材料は特に限定されないが、高い光反射性を有する部材であることが好ましい。例えば、Cr、Al、Ag、Au、Pt等や、これらを含む金属を50乃至300nm程度形成した膜からなることが好ましく、特にAg合金が反射率の点から好適である。反射層13に用いられる材料の反射率が高い部材であるほど、有機EL表示装置の光取り出し効率を向上させることができる。
【0019】
本例では第1透明導電層14はITOであり、スパッタリング法などの手法により成膜後、フォトリソグラフィ、エッチングの工程を経て形成される。ITOのパターニング後、ITOの導電性向上のために160℃以上のベーク処理により結晶化を行なう。尚、反射層13と第1透明導電層14は、それぞれの材料を積層後に、一括パターニングしても良い。
【0020】
次に、図2、図3を用いて本発明の第2透明導電層15の製造工程を説明する。図2、図3は、本例の工程を断面構造にて示す模式図である。
【0021】
先ず、反射層13と第1透明導電層14を順次形成する(図2(a))。尚前述したように、第1透明導電層14であるITOはベーク処理により結晶化している。
【0022】
次に、基板上に全面に保護層21を形成し、次いで該保護層21をパターニングする。保護層21のパターニングは、第2透明導電層形成領域以外の領域を被覆し、所望の第1透明導電層上に開口部22を設けるようにする(図2(b))。保護層21は特に限定されないが、パターニング後に除去できる材料であればよく、フォトレジストが好ましい。
【0023】
次に、第2透明導電層であるITOをアモルファス状態でスパッタリング法など公知の方法を用いて成膜する(図2(c))。スパッタリング法の場合、ITOは150℃以下の温度で成膜することができる。ここで、保護層21の開口部22に成膜された第2透明導電層15’のITOは、下地の第1透明導電層14である結晶化ITOの結晶状態にならって結晶成長している。一方、開口部22以外の領域の第2透明導電層15であるITOはアモルファス状態である。
【0024】
次に第2透明導電層まで形成した基板10をエッチング液に曝すことで第2透明導電層のパターニングを行なう(図2(d))。エッチング液はアモルファスITOのみをエッチングできる薬液を用い、シュウ酸もしくはシュウ酸を主とする混酸を用いるのが好ましい。このエッチング工程により、結晶成長しているITOは残るが、アモルファス状態のITOはエッチングされる。即ち、保護層上に形成された第2透明導電層15’のみがエッチングされる。その結果、保護層21の開口部22の領域に形成された透明導電層15のみが残る。
【0025】
第2透明導電層をパターニング後、保護層21の除去を行なう(図3(e))。以上の工程を含む本発明の有機EL表示装置用電極基板の製造方法により、所望の第1透明導電層14上のみに第2透明導電層15を形成することができ、所望の膜厚の透明導電層を有する反射電極を形成することができる。
【0026】
さらに前記保護層21を除去する工程以降の工程を説明する。先ず、所望の反射電極上にパターニング形成された第2透明導電層15であるITOを160℃以上のベーク処理によりさらに結晶化させる。その後、隔壁16を形成する(図3(f))。隔壁16は絶縁性材料であれば特に限定されない。例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素などの無機材料や、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、またはこれらの積層体などが挙げられる。隔壁16の開口部によって画素の開口部が規定される。
【0027】
このようにして、本発明の有機EL表示装置用電極基板を得ることができる。尚、本発明おいては、第1透明導電層14上或いは第2透明導電層15上に第3の透明導電層を形成する場合も、第2透明導電層15と同様の方法でパターニング形成することができる。
【0028】
また、本発明においては、図4に示すように1画素内の1部分のみ第2透明導電層15を形成する構成としてもよい。この場合は、第2透明導電層15の端部を隔壁16で被覆する構成とすることが好ましい。
【0029】
図2、図3の工程で作製した本発明の有機EL表示装置用電極基板に対して、真空蒸着や塗布などの公知の成膜方法により、有機化合物層17を成膜する(図1)。有機化合物層17は、例えば正孔輸送層、発光層及び電子輸送層からなる3層構造や、正孔輸送層及び発光層からなる2層構造、または発光層のみからなる1層であってもよい。また、これらの層構造において、適切な層間に電子注入層或いは正孔注入層が介在した積層構成であってもよく、特に限定されない。
【0030】
有機化合物層17に含まれる各色の発光層には、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体或いは複合オリゴ体が使用できる。しかし、これらの例示材料に限定されるものではない。
【0031】
正孔注入層及び正孔輸送層には、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物及びEu錯体等が使用できるが、本発明の構成として限定されるものではない。
【0032】
電子注入層及び電子輸送層の例としては、アルミニウムに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等が使用できる。
【0033】
このようにして形成した有機化合物層17上に、取り出し電極18を真空蒸着やスパッタなどの公知の方法により成膜する。取り出し電極18の電極材料としては、光透過率の高い導電性材料が好ましい。例えば、ITO、IZO、ZnOなどの透明導電膜、ポリアセチレンなどの有機導電膜や、Ag、Au、Alなどの金属を10nm乃至30nm程度形成した半透過膜でもよい。
【0034】
さらに透光性絶縁材料を用いて封止することで、有機EL表示装置が形成される。透光性絶縁材料は特に限定されないが、ガラス基板を光硬化性樹脂により接着したり、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の有機材料を堆積させたり、酸化ケイ素や窒化ケイ素を成膜したり、これらの積層構造で形成することが可能である。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
図1の如く、ガラス基板10上に、成膜、パターニング及びイオン注入を繰り返し、トップゲート型のTFT及び、発光層を発光させるために必要な素子を形成した。この後、TFT及び発光に必要な素子からなるTFT回路に電気的に接続されるように、Al合金を成膜した後、フォトリソ工程を通した後にエッチングして、配線11を形成した。続いて、プラズマCVD法にて窒化ケイ素を300nmの厚さに成膜してからパターニングした後、厚さ2μmのポリイミド樹脂を形成して、積層体の絶縁層12を形成した。
【0036】
次に、絶縁層12上に、配線11と導通されるように厚さ100nmのAg合金と、厚さ40nmのアモルファスITOをスパッタにより順次形成した。次に、フォトリソ工程及びエッチング工程を行なって、画素形状にパターニングして反射層13及び第1透明導電層14を形成した。その後、250℃で1時間ベーク処理を行なって第1透明導電層14のアモルファスITOを結晶化した(図2(a))。
【0037】
この後、全面に保護層21となるフォトレジストを1.5μm塗布した後、露光・現像を行なって、第2透明導電層15を形成する領域のみ開口された保護層21を形成した。(図2(b))。
【0038】
続いて、第2透明導電層として厚さ100nmのアモルファスITOを成膜後(図2(c))、シュウ酸を含む溶液を用いたエッチング工程によって保護層21上のアモルファスITOである第2透明導電層15’をエッチングした(図3(d))。続いて保護層21を除去した(図3(e))後、所望の第1透明導電層14上に残された第2透明導電層15に、250℃で1時間のベーク処理を施し、充分に結晶化させた。
【0039】
最後に、ポリイミド樹脂をスピンコーターで基板全面に塗布した後、フォトリソグラフィによってパターニングし、厚さ2μmの隔壁16を形成して、有機EL表示装置用電極基板を得た(図3(f))。
【0040】
このようにして得られた有機EL表示装置用電極基板の第1の画素領域19及び第2の画素領域20における反射層13上に形成された透明導電層の膜厚を断面SEM(走査電子顕微鏡)観察した。その結果、第1画素領域19には40nm、第2画素領域20には140nmのITOが形成されていた。
【0041】
(比較例1)
図5に示した製造工程に従って、第2透明導電層を形成した。先ず、図5に示すように、実施例1と同様に、Agからなる反射層13とITO(厚み40nm)からなる第1透明導電層14をパターニングした後、ベーク処理によるITOの結晶化を実施した(図5(a))。次に第2透明導電層としてアモルファスITOを100nmの厚さで成膜した後(図5(b))、フォトリソグラフィにて所望の第1透明導電層14上の第2透明導電層15のみフォトレジスト23で覆った(図5(c))。次いで、シュウ酸を含む溶液からなるエッチング液に曝し、その後フォトレジスト23を剥離した(図5(d))。上記した以外の工程は、実施例1と同様にして有機EL表示装置用電極基板を作製した。
【0042】
本例で得られた有機EL表示装置用電極基板の第1画素領域19及び第2画素領域20における反射層13上に形成された透明導電層ITOの膜厚を断面SEMで観察した。観察の結果、第1画素領域19及び第2画素領域20ともに140nmのITOが形成されていた。
【0043】
このように、本例の方法では、該第1透明導電層14上に堆積させたアモルファスITOが、第1透明導電層14である結晶化ITOの結晶性に倣い、成膜中に結晶化してしまう(図5(b))。そのため、エッチング処理を行っても、フォトレジスト23で覆われていない第2透明導電層15を除去することができず、所望の膜厚の透明導電層を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0044】
10:基板、13:反射層、14:第1透明導電層、15:第2透明導電層、21:保護層、22:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、反射層を形成する工程と、
前記反射層を形成した基板上に全面に第1透明導電層を形成する工程と、
前記第1透明導電層をパターニングする工程と、
前記第1透明導電層をベーク処理して第1透明導電層を結晶化させる工程と、
前記基板上の全面に保護層を形成する工程と、
前記保護層を、前記第1透明導電層上の、第2透明導電層を形成する領域に開口部を有するようにパターニングする工程と、
前記基板の全面に第2透明導電層を形成する工程と、
前記保護層上の第2透明導電層をパターニングする工程と、
前記保護層を除去する工程と、
を前記順序で含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用電極基板の製造方法。
【請求項2】
前記透明導電層がITOからなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置用電極基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−48992(P2012−48992A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190225(P2010−190225)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】