説明

有機エレクトロルミネッセント素子およびその製造方法

【課題】本発明は、低輝度から光源用途等の高輝度まで幅広い範囲で駆動され、幅広い輝度の範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子を提供する。
【解決手段】本発明は、反射性材料で構成された陽極と、透光性材料で構成された陰極とで、少なくとも一層の機能層を挟んだ有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極は、基板側に配置された、発光層よりも仕事関数の小さい反射性の金属または金属合金で構成され、前記機能層は、前記陽極上に形成された遷移金属の酸化物層と、前記遷移金属の酸化物層上に形成された発光機能を有した層とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子およびその製造方法にかかり、特に携帯電話用のディスプレイや表示素子、各種光源などに用いられ、低輝度から光源用途等の高輝度まで幅広い輝度範囲で駆動される電界発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子は固体蛍光性物質の電界発光現象を利用した発光デバイスであり、小型のディスプレイとして一部で実用化されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセント素子は発光層に用いられる材料によって、いくつかのグループに分類することが出来る。代表的なもののひとつは発光層に低分子量の有機化合物を用いる低分子有機エレクトロルミネッセント素子で、主に真空蒸着法を用いて作成される。そして今一つは発光層に高分子化合物を用いる高分子有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0004】
高分子有機エレクトロルミネッセント素子は各機能層を構成する材料を溶解した溶液を用いることでスピンコート法やインクジェット法、印刷法等による成膜が可能であり、その簡便なプロセスから低コスト化や大面積化が期待できる技術として注目されている。
【0005】
典型的な高分子有機エレクトロルミネッセント素子は陽極および陰極の間に電荷注入層、発光層等の複数の機能層を積層することで作製される。この高分子有機エレクトロルミネッセント素子を用いてアクティブマトリックス型のディスプレイを製造しようとすると、TFT(薄膜トランジスタ)などの駆動回路を同一基板上に形成する必要がある。従って、透光性のガラス基板上にTFTなどの駆動回路を含む駆動源30を形成し、この上層に有機エレクトロルミネッセント素子41を形成することになる。
この場合、基板側から光を取り出すボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子では、TFTなどの存在により、図11に模式図を示すように、光が遮断されることになり、その分発光面積が減るという問題がある。
【0006】
そこで、ボトムエミッション型ではなく、基板に相対向する側すなわちトップ方向に光を取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子が発光効率を向上する点では望ましい。
【0007】
例えば、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子としてはクロムなどの金属膜と酸化シリコンが形成されたガラス基板を真空蒸着装置に入れ有機層および陰極層を形成したものが提案されている(特許文献1)。特許文献1の有機エレクトロルミネッセント素子においては、正孔注入層として、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、正孔輸送層としてビス(N−ナフチル)−N−フェニルベンジジン(α−NPD)、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq)が用いられ、陰極の金属層には、マグネシウムと銀の合金(Mg:Ag)が用いられ、この上層にIn−Zn−O系の透明導電膜が形成されている、そして有機層に属する各材料は、それぞれ0.2gを抵抗加熱用のボートに充填して真空蒸着装置の所定の電極に取り付けることによって成膜される。
この構造の場合、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を提供すること自体は可能であるとしているが、発光特性については十分なものを得ることができていない。
【0008】
また、発光層として高分子膜を塗布法によって形成した有機エレクトロルミネッセント素子も提案されている。以下に代表的な構成およびその作製手順を説明する。図12に示すように、まず、不透明の反射層11とその上層に陽極12としてのITO(インジウム錫酸化物)を成膜したガラス基板10上に電荷注入層13としてのPEDOT:PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物:以下PEDOTと記載する)薄膜をスピンコートなどによって成膜する。PEDOTは電荷注入層として事実上の標準となっている材料であり、陽極側に配置されることでホール注入層として機能する。
【0009】
PEDOT層の上に発光層14としてポリフェニレンビニレン(以下PPVと表す)およびその誘導体、またはポリフルオレンおよびそれらの誘導体がスピンコート法などによって成膜される。そしてこれら発光層上に有機膜からなる電荷注入層15を介して、真空蒸着法等によって陰極16としての透光性電極が成膜され素子が完成する。
【0010】
このように高分子有機エレクトロルミネッセント素子は簡易なプロセスで作製することが出来るという優れた特徴を持っており、様々な用途への応用が期待されているが、十分に大きな発光強度を得ることが出来ない点、および長時間駆動を行う際、寿命が十分でない点、この2つが改善すべき課題となっている。
【0011】
高分子有機エレクトロルミネッセント素子の発光強度の低下、すなわち劣化は通電時間と素子を流れた電流の積に比例して進行するが、その詳細については未だ明らかになっておらず鋭意研究が進められているところである。
【0012】
発光強度の低下の原因については様々な推測がなされているが、PEDOTの劣化はその主なものの一つとして考えられている。PEDOTは前述したようにポリスチレンスルホン酸とポリチオフェンという二つの高分子物質の混合物であって、前者はイオン性、後者は高分子鎖に局所的な極性がある。このような電荷の異方性に起因するクーロン相互作用により両者は緩やかな結合をし、それにより優れた電荷注入特性を発揮している。
【0013】
PEDOTが優れた特性を発揮する為には両者の密な相互作用が不可欠であるが、一般に高分子物質の混合物は溶媒に対する微妙な溶解性の違いにより相分離を起こしやすいものである。これはPEDOTについても例外ではない。相分離を生じるということは2つの高分子の緩やかな結合は比較的容易に外れてしまうということを意味しており、PEDOTが有機エレクトロルミネッセント素子中にあって駆動される際に不安定である可能性や、相分離の結果結合に寄与しなかった成分、特にイオン性の成分が通電に伴う電場によって拡散し、他の機能層に望ましくない作用を及ぼす可能性があることを示している。このようにPEDOTは優れた電荷注入特性を持っているが、決して安定な物質であるとは言えない。
【0014】
このようなPEDOTに関連する懸念に対し、本出願人は、PEDOTそのものを廃してしまうという提案をした(特許文献2)。しかしながら、発光層へのホールの注入をおこなうために、陽極材料としては仕事関数の大きい材料を用いる必要があると考えられてきた。このため、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成しようとすると、実際には、陽極材料としてはITOを用いて下層に反射層を設けるか、あるいはITOと同等の仕事関数をもつ金などを用いるしかないと考えられていた。
【0015】
【特許文献1】特開2001−43980号公報
【特許文献2】特開2005−203339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
下層に反射層を設けた場合、製造工数の増大のみならず、厚さの増大を免れえず、他の素子と共に同一基板上に集積化する場合には、反射層の膜厚に起因して表面の凹凸が生じるという問題もあった。
特に、この有機エレクトロルミネッセント素子を表示装置などの表示用途に用いる場合には、発光特性の均一化が極めて重要であり、下地のばらつきに起因する段差についても発光特性の均一化のみならず、発光寿命についても制約が大きく、種々の問題の原因となっていた。
【0017】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、表示用途等に用いられる低輝度から光源用途等の高輝度まで幅広い範囲で駆動可能であって、幅広い輝度の範囲にわたって安定に動作し、発光効率が高くかつ寿命特性に優れたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、安定に動作し寿命特性に優れたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は、陽極と、陰極とで、少なくとも一層の機能層を挟んだ有機エレクトロルミネッセント素子において、前記機能層は、少なくとも発光機能を有した発光層と、この発光層と前記陽極との間に配置された遷移金属の酸化物層とを含み、前記陽極を、前記発光層よりも仕事関数の小さい金属または金属合金で構成したことを特徴とする。
【0019】
本発明者らは、種々の実験の結果、酸化モリブデンなどの遷移金属の酸化物は、非晶質膜では、酸素が定量比より少なく、複数のエネルギー準位を持ち複数の導電パスを持ち得ると共に、十分に大きな仕事関数を持つ一方で、金属との間でオーミック接触を形成し、良好なホール注入特性を有することを発見した。この点に着目し、これまで陽極側にはITOあるいはITOよりも仕事関数の大きい電極材料しか用いることができないとされていたのに対し、電荷注入層として酸化モリブデンなどの遷移金属の酸化物を介在させることにより、陽極側の電極材料として、仕事関数の大小を考慮することなく、所望の材料望ましくは反射性金属材料を用いることができ、良好なホール注入特性を得ることが可能となる。この構成によれば、電荷注入層として遷移金属の酸化物を用いることにより、発光強度が極めて大きく特性の安定な有機エレクトロルミネッセント素子を得ることができる。これは、2種類の高分子材料のクーロン相互作用による緩やかな結合が外れ易いPEDOTのように電流密度の増大に際しても、不安定となったりすることなく、安定な特性を維持することができ、発光強度を増大することができる。このように遷移金属酸化物からなる電荷注入層を基板側に備えることで、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子において広範囲の電流密度に亘って素子の発光強度および、発光効率を高レベルに維持することができ、また、寿命も向上する。従って、高輝度に至るまで、幅広い輝度範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子を実現することができる。
【0020】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極を反射性を有する金属または金属合金で構成し、前記陰極を透光性材料で構成したものを含む。
【0021】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極が、透光性の基板上に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金層であるものを含む。
アルミニウムは、低抵抗でかつ加工性が良好でかつ反射性を有することから、集積化に際しては特に配線パターンと同一工程で形成でき、極めて有効な材料でありながら、仕事関数が4.20eV程度と小さいため、従来の有機エレクトロルミネッセント素子では陽極としては使用できないとされていた。しかしながら種々の実験の結果、酸化モリブデンなどの遷移金属酸化物層を電荷注入層として用いた場合には、良好な発光特性を得ることができ、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができることがわかった。上記構成によれば、陽極として低抵抗でかつ反射性を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金層を用いることができるため、発光特性の良好な有機エレクトロルミネッセント素子を形成することが可能となる。
【0022】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極が、透光性の基板上に形成された銀または銀合金層であるものを含む。
銀は、低抵抗でかつ塗布膜として形成することができ、かつ反射性を有することから、集積化に際しては特に配線パターンなどと同一工程で形成でき、極めて有効な材料でありながら、仕事関数が4.73eV程度と小さく、従来の有機エレクトロルミネッセント素子では陽極としては使用されていない。しかしながら種々の実験の結果、酸化モリブデンなどの遷移金属酸化物層を電荷注入層として用いた場合には、良好な発光特性を得ることができ、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができることがわかった。上記構成によれば、陽極として低抵抗でかつ反射性を有する銀または銀合金層を用いることができるため、発光特性の良好な有機エレクトロルミネッセント素子を形成することが可能となる。
【0023】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極が、透光性の基板上に形成された銅または銅合金層であるものを含む。
銅は、極めて低抵抗でかつ塗布膜として形成することができ、かつ反射性を有することから、集積化に際しては特に配線パターンなどと同一工程で形成でき、極めて有効な材料でありながら、仕事関数が4.1乃至4.5eV程度と小さく、従来の有機エレクトロルミネッセント素子では陽極としては使用されていない。しかしながら種々の実験の結果、酸化モリブデンなどの遷移金属酸化物層を電荷注入層として用いた場合には、良好な発光特性を得ることができ、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができることがわかった。上記構成によれば、成膜が容易で、陽極として低抵抗でかつ反射性を有する銅または銅合金層を用いることができるため、発光特性の良好な有機エレクトロルミネッセント素子を形成することが可能となる。
【0024】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記発光機能を有した層が下記一般式(I)で表されるポリフルオレンおよびその誘導体(R1、R2はそれぞれ置換基を表す)を含む。
【化1】

【0025】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記発光機能を有した層がフェニレンビニレン基を含む。
【0026】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記発光機能を有した層が下記一般式(II)で表されるポリフェニレンビニレンおよびその誘導体(R3、R4はそれぞれ置換基を表す)を含む。
【化2】

【0027】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記発光機能を有した層がデンドリマー構造をもつ少なくとも1種類の高分子物質からなる発光機能を有した層を含む。
【0028】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記発光機能を有した層が、発光性の構造単位を中心に有するデンドリマー高分子あるいはデンドリマー低分子構造からなるものを含む。
【0029】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記機能層が少なくとも1種類のバッファ層を含むものを含む。
【0030】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記バッファ層が高分子層で構成されるものを含む。
【0031】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記遷移金属の酸化物層が、モリブデン酸化物を含む電荷注入層であるものを含む。
【0032】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記遷移金属の酸化物層が、バナジウム酸化物を含む電荷注入層であるものを含む。
【0033】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記遷移金属の酸化物層が、タングステン酸化物を含む電荷注入層であるものを含む。
【0034】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記電荷注入層は、前記陽極上に形成されたホール注入層と、前記発光機能を有した層を介して前記ホール注入層に対向するように、前記発光機能を有した層の上に形成された電子注入層とで構成され、前記ホール注入層および電子注入層は、共に遷移金属酸化物層で構成されたものを含む。
【0035】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記陽極は、基板上に複数に分割形成されており、前記遷移金属の酸化物層が、前記複数の陽極を一体的に覆うように形成されホール注入層を構成したものを含む。
酸化モリブデンなどの遷移金属の酸化物は金属とオーミック接触をするが、高抵抗であるため、一体的に形成してもクロストーク等はない。理由としては、ピクセル間における酸化モリブデンの抵抗が極めて高いことによる可能性があるが、詳細はわかっていない。
【0036】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、前記ホール注入層上発光機能を有した層が積層されたものを含む。
単色の有機エレクトロルミネッセント素子の場合は、ホール注入層表面全体を覆うように発光機能を有した層を形成すればよい。また、カラーの有機エレクトロルミネッセント素子など、発光層を分離形成する必要がある場合には、発光層あるいは発光層を分離するフレーム層などのパターニング工程が必要となるが、酸化モリブデンなどの遷移金属の酸化物からなるホール注入層が下地に存在するため、陽極表面のダメージを回避することができ、発光特性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子を提供することが可能となる。
【0037】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子において、少なくとも表面が発光層よりも仕事関数の小さい金属材料で構成された陽極上に、遷移金属の酸化物層を形成する工程と、前記遷移金属の酸化物層上に、発光機能を有した層を形成する工程と、陰極を形成する工程とを備えたことを特徴とする。
望ましくは前記陽極としては反射性の金属材料を用いる。
【0038】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法において、前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化モリブデン層を形成する工程であるものを含む。
【0039】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法において、前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化タングステン層を形成する工程であるものを含む。
【0040】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法において、前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化バナジウム層を形成する工程であるものを含む。
【0041】
ここで反射性とは、実質的に光が反射されるものをさすが、一部の光を透過するものも含む。例えば、アルミニウム層の膜厚を調整して、一部の光は透過するようにし、この透過光で背面に配置した光センサで光量を測定するようにすることも可能である。また、陽極の表面の凹凸により一部の光が散乱される場合も実質的に反射光を利用していれば本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の有機エレクトロルミネッセント素子によれば、陽極と発光層との間に遷移金属酸化物層を配するとともに、低抵抗でかつ、加工性の良好な反射性の金属または金属合金を陽極として用いているため、従来達成し得なかった高輝度に至るまで幅広い輝度範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れているため、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子において、表示用途の温和な駆動条件域から、強電界、大電流、高輝度という厳しい駆動条件下に至るまで安定した電荷注入と発光効率の維持を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0044】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態における高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構成図を示す。
【0045】
本実施の形態では、透光性の基板1上に形成された反射性の金属としてアルミニウム層からなる陽極2上に、電荷注入層3として酸化モリブデン薄膜を形成するとともに、この上に電子ブロック機能を持つバッファ層Bとしての高分子材料層と、発光層4としての高分子材料を順次積層し、この上に陰極5を形成したことを特徴とするものである。
【0046】
すなわち、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセント素子は、図1に示すように、透光性のガラス材料からなる基板1と、この基板1上に形成された陽極2としてのアルミニウム(Al)薄膜と、更にこの上層に形成された電荷注入層3としての金属酸化物薄膜と、バッファ層Bとしての高分子材料からなる電子ブロック層と、高分子材料からなる発光層4と、透光性材料である酸化インジウム錫で形成された陰極5とで構成される。
【0047】
上記有機エレクトロルミネッセント素子の陽極2をプラス極として、また陰極5をマイナス極として直流電圧または直流電流を印加すると、発光層4には、陽極2から電荷注入層3、バッファ層Bを介してホールが注入されるとともに陰極5から電子が注入される。発光層4では、このようにして注入されたホールと電子とが再結合し、これに伴って生成される励起子が励起状態から基底状態へ移行する際に発光現象が起る。
【0048】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセント素子によれば、基板上に反射性の金属材料であるアルミニウム層を形成しこれを陽極2とし、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を構成するもので、電荷注入層3が酸化モリブデン薄膜で構成されておりホールを容易に注入することができる上、バッファ層Bによって電子の抜けをブロックすることができ、電子が発光機能を有した層内で有効に発光に寄与するようにすることができる。従って、良好な発光特性を得ることができ、高温下でも信頼性の高い素子を得ることができる。
また、下地に駆動用の薄膜トランジスタを形成したり、光量検出用の薄膜トランジスタを形成したりした場合にも、有機エレクトロルミネッセント素子の発光を妨げることなく、良好に外部取り出しを行うことが可能となる。
【0049】
次に本発明の有機エレクトロルミネッセント素子の製造工程について説明する。
まずガラス基板1上にスパッタリング法によりAl薄膜、続いて真空蒸着法により、酸化モリブデン薄膜を形成し、これらをフォトリソグラフィによりパターニングすることにより、陽極2および電荷注入層3を形成する。
この後塗布法により高分子材料からなるバッファ層Bおよび発光層4を塗布形成する。
そして最後に陰極5を形成する。
このようにして図1に示した有機エレクトロルミネッセント素子が形成される。この方法によれば、バッファ層Bおよび発光層4が高分子材料を塗布することにより形成されるため、製造が容易でかつ大面積化が可能である。
【実施例1】
【0050】
次に本発明の実施例について説明する。
構造としては図1に示したものと同様であり、図1を参照しつつ説明する。
本実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子は、厚さ1mmのコーニング7029#と指称されているガラス製の基板1と、この上層に形成された厚さ100nmのAl薄膜からなる陽極2と、この陽極2の上層に形成された厚さ50nmの酸化モリブデン薄膜からなる電荷注入層3と、電荷注入層3上に形成された、厚さ20nmのポリフルオレン系化合物であるバッファ層Bとしてのポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-アルト-コ-(N,N'-ジフェニル)-N,N’ジ(p-ブチル-オキシフェニル)-1,4-ジアミノベンゼン)]と、PPV系の材料である厚さ80nmのポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシロキシ)-1,4-フェニレンビニレン]Poly[2-methoxy-5-(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylenevinylene]からなる発光層4と、発光層4上に形成された厚さ2nmのバリウム(Ba)層と厚さ2nmのアルミニウム(Al)層と厚さ100nmの酸化インジウム錫(ITO)層とからなる陰極5とで構成されている。このようにして作製した試料を試料101とした。
【0051】
このようにして形成された電荷注入層として酸化モリブデンを用いた有機エレクトロルミネッセント素子(図1)を以降「モリブデン酸化物素子」と呼称する。
また表1に示すように、陽極材料をアルミニウム薄膜に代えて銀薄膜としたもの(試料102)、クロムとしたもの(試料103)を同様にして作成した。
【0052】
【表1】

また図1の素子の酸化モリブデン薄膜をなしにした素子(試料201から205)を比較例1から5、PEDOT:PSS 70nmに置き換えた素子(試料206)を比較例6として作製した。以降「PEDOT素子」と呼称する。
【0053】
これらの素子を直流電源に接続し、電圧をあげながら6Vになったときの発光輝度を測定した。その結果、本発明実施例1乃至3のモリブデン酸化物素子は3400cd/mから3500cd/m程度であった。これに対し比較例の素子は450cd/mから1200cd/m程度と大幅に輝度が低いことがわかった。また10素子中ショートした素子の数についても本発明実施例ではすべて0であった。
【0054】
(実施の形態2)
図2は本発明の実施の形態2における有機エレクトロルミネッセント素子の要部を示す断面図である。
【0055】
図示する有機エレクトロルミネッセント素子は、前記実施の形態1と異なるのは、発光層4の陰極5側に酸化モリブデン薄膜6を形成した点である。なお、他の構成について、実施の形態1において用いた図1と同様になっている。
この構成により、輝度がさらに増大するとともに、輝度半減寿命も向上した。
【実施例2】
【0056】
次に本発明の実施例2について説明する。
構造としては図2に示したものと同様であり、図2を参照しつつ説明する。
本実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子の構造に加え、表2に示すように陰極側にバッファ層6とし膜厚2nmの酸化モリブデン層を形成したものである。他は実施例1と同様に構成した。
【0057】
この構成によれば、表2に試料301として示すように、輝度が4900Cd/cmと実施例1の場合に比べさらに向上した。
【0058】
【表2】

【0059】
このように、実施例1による効果に加え、陰極側にも酸化モリブデン層を介在させることにより、酸化モリブデンは発光層とオーミック接触を形成するため、陰極を構成する電極材料の仕事関数に依存することなく、電子の注入特性を向上するとともにホールのブロック性能を向上することが可能となる。
【0060】
また、陰極を構成するITOをスパッタリングにより形成する場合、スパッタダメージにより、発光層の劣化を免れ得なかったが、本実施の形態では、酸化モリブデンによりスパッタダメージを防ぐことが出来、信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0061】
また、比較のために、陽極上に形成する電荷注入層(ホール注入層)をPEDOTで形成し、発光層と陰極との間にバッファ層として銅ヅタロシアニンを形成した場合、試料401(比較例7)、輝度が3200Cd/cmに低下しただけでなく、輝度半減寿命が200時間から80時間へと半分以下に低下した。
【0062】
なお、以上の説明において、有機エレクトロルミネッセント素子は直流駆動となっているが、交流電圧または交流電流、あるいはパルス波で駆動してもよい。
【0063】
なお、遷移金属酸化物の厚み、特にMoOの膜厚は素子特性に対して非常に鈍感であり、厚さに大きく依存することなく均一な発光特性で安定に動作する有機エレクトロルミネッセント素子を提供することが可能となる。また、安定であるため、この上層に蒸着法などにより発光機能を有する層を成膜することができ、発光層を低分子層で構成することも可能である。さらにまた少なくとも膜厚30nm以上望ましくは40nmの遷移金属酸化物層を含むことにより、ITOなどの透光性電極のパターニング時にレジストが残留していたり、ITO上にパーティクルが付着したりした場合にも、膜厚30nm以上望ましくは40nmの遷移金属酸化物層を形成した上に、この上層に形成される発光機能を有した層は膜厚分布を生じることなく、均一に形成される。したがって、非発光領域を形成したりすることもなく、また画素ショートを生じたりすることもなく、均一な発光機能を有した層を形成することができ、良好な発光スペクトルを得ることができる。また、MoOのような遷移金属酸化物を成膜する際、条件を選ぶことにより、積層方向の比抵抗の小さい遷移金属酸化物を得ることができ、厚膜化しても、大きな電圧降下を生じることなく発光機能を有する層に電界を与えることができる。ここで遷移金属酸化物としては、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステンなどが適用可能であるが、酸化モリブデン(MO)はMOに限定されることなく、価数の異なるものも有効である。酸化バナジウム、酸化タングステンについても価数の異なるものも有効である。また、共蒸着により形成した複数の元素を含む酸化物も適用可能である。
【0064】
また、ここで用いられる遷移金属の酸化物としては、酸化モリブデンのほか、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、トリウム(Tr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)あるいは、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までのいわゆる希土類元素などの酸化物を挙げることができる。なかでも酸化アルミニウム(AlO)、酸化銅(CuO)、酸化シリコン(SiO)は、特に長寿命化に有効である。
【0065】
また、陽極を構成する電極材料としては、前記実施例1および2に示した、アルミニウム、銀、クロムの他、銅、銅合金など、仕事関数が発光層よりも小さい電極材料を用いて、十分な反射性を維持しつつ、発光特性に優れ、信頼性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することが可能となる。
【0066】
銀は、低抵抗でかつ塗布膜として形成することができ、かつ反射性を有することから、配線パターンなどと同一工程で形成でき、集積化に際しては特に、極めて有効な材料でありながら、仕事関数が4.73eV程度と小さく、従来の有機エレクトロルミネッセント素子では陽極としては使用されていない。しかしながら本実施の形態のように、酸化モリブデンなどの遷移金属酸化物層を電荷注入層として用いた場合には、良好な発光特性を得ることができ、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができることがわかった。上記構成によれば、陽極として低抵抗でかつ反射性を有する銀または銀合金層を用いることができるため、発光特性の良好な有機エレクトロルミネッセント素子を形成することが可能となる。
【0067】
また銅は、極めて低抵抗でかつ塗布膜として形成することができ、かつ反射性を有することから、集積化に際しては特に配線パターンなどと同一工程で形成でき、極めて有効な材料でありながら、仕事関数が4.1乃至4.5eV程度と小さく、従来の有機エレクトロルミネッセント素子では陽極としては使用されていない。しかしながら、酸化モリブデンなどの遷移金属酸化物層を電荷注入層として用いた場合には、良好な発光特性を得ることができ、トップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができる。
【0068】
発光層のイオン化ポテンシャルによって、使用する陽極材料は異なってくるが、発光層のイオン化ポテンシャルよりも仕事関数の小さい材料を使用でき、このほか、金(4.3eV)、モリブデン(4.6eV)、ニッケル(5.2eV)、タングステン(4.6eV)、インジウム(4.1eV)、イリジウムなど、比抵抗、隣接層との密着性、成膜の容易性などのみを考慮して選択することができる。
【0069】
また、本発明において、発光層としては実施例1および2で説明したPPV(ポリフェニレンビニレン)のみならず、デンドリマー構造を有する高分子材料、すなわちデンドリマ単体のみならずデンドリマと、また他にもポリフルオレン系化合物群およびそれらの誘導体、また低分子系の発光材料を高分子骨格に化学的に結合したいわゆるペンダントタイプの高分子化合物、高分子有機EL材料と低分子有機EL材料との混合物、さらにはそれらをブレンドして用いる等適宜変更可能である。
【0070】
すなわち、発光層4を構成する高分子系の有機発光材料としては、可視領域で蛍光または燐光特性を有しかつ成膜性の良いものが望ましく、例えば、ポリスピロ環を骨格とする高分子発光材料も好ましく用いることが出来、またポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレン等のポリマー発光材料等も用いることができる。また、発光層4を構成する低分子系の有機発光材料としては、Alq3やBe−ベンゾキノリノール(BeBq)の他に、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)−1,3,4−チアジアゾール、4,4'−ビス(5,7−ベンチル−2−ベンゾオキサゾリル)スチルベン、4,4'−ビス〔5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾリル〕スチルベン、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ベンチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフィン、2,5−ビス(〔5−α,α−ジメチルベンジル〕−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、2,5−ビス〔5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾリル〕−3,4−ジフェニルチオフェン、2,5−ビス(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、4,4'−ビス(2−ベンゾオキサイゾリル)ビフェニル、5−メチル−2−〔2−〔4−(5−メチル−2−ベンゾオキサイゾリル)フェニル〕ビニル〕ベンゾオキサイゾリル、2−〔2−(4−クロロフェニル)ビニル〕ナフト〔1,2−d〕オキサゾール等のベンゾオキサゾール系、2,2'−(p−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系、2−〔2−〔4−(2−ベンゾイミダゾリル)フェニル〕ビニル〕ベンゾイミダゾール、2−〔2−(4−カルボキシフェニル)ビニル〕ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系等の蛍光増白剤や、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)マグネシウム、ビス(ベンゾ〔f〕−8−キノリノール)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノール)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、8−キノリノールリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノール)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノール)カルシウム、ポリ〔亜鉛−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリノニル)メタン〕等の8−ヒドロキシキノリン系金属錯体やジリチウムエピンドリジオン等の金属キレート化オキシノイド化合物や、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−(3−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ジスチリルベンゼン、1,4−ビス(2−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)2−メチルベンゼン等のスチリルベンゼン系化合物や、2,5−ビス(4−メチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス(4−エチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(1−ナフチル)ビニル〕ピラジン、2,5−ビス(4−メトキシスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(4−ビフェニル)ビニル〕ピラジン、2,5−ビス〔2−(1−ピレニル)ビニル〕ピラジン等のジスチルピラジン誘導体や、ナフタルイミド誘導体や、ペリレン誘導体や、オキサジアゾール誘導体や、アルダジン誘導体や、シクロペンタジエン誘導体や、スチリルアミン誘導体や、クマリン系誘導体や、芳香族ジメチリディン誘導体等が用いられる。さらに、アントラセン、サリチル酸塩、ピレン、コロネン等も用いられる。あるいは、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム等の燐光発光材料を用いることもできる。ここで、高分子系材料、低分子系材料から成る発光層4は、材料をトルエン、キシレン等の溶媒に溶解したものをスピンコート法で層状に成形し、溶解液中の溶媒を揮発させることで得られる。
【0071】
また、発光層として、デンドリマを用いるようにしてもよい。特に中心部にIr等の重金属元素を有するデンドリマは燐光発光し、高い発光効率を与える。配位子のデンドロン部の構造で赤、緑、青など所望の色を得ることが出来る。同様に電子輸送部、ホール輸送部を有する構造設計で電荷輸送能の調整をすることができる。
【0072】
例えば緑色のりん光を発するデンドリマとしては次式に示すようにイリジウムデンドリマ錯体がある。
【化3】

例えば赤色のりん光を発するデンドリマとしては次式に示すようにイリジウムデンドリマ錯体がある。
【化4】

例えば青色のりん光を発するデンドリマとしては次式に示すようにイリジウムデンドリマ錯体がある。このデンドリマは深青色の光を発するデンドリマAと青緑色の光を発するデンドリマBとの混合物で構成された錯体である。
【化5】

【0073】
なお、発光層を高分子材料(ポリマー材料)で構成することにより、大面積でも均一な膜厚で成膜できることから大面積の有機エレクトロルミネッセント素子の作成が可能となる。また、発光層の熱に対する安定性が高くなるとともに、層間の界面における欠陥やピンホールの発生を抑制することができるため、安定性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができる。
【0074】
また、上述した機能層における正孔輸送層としては、正孔移動度が高く、成膜性の良いものが望ましくTPDの他に、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物や、1,1−ビス{4−(ジ−P−トリルアミノ)フェニル}シクロヘキサン、4,4',4''−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N',N'−テトラキス(P−トリル)−P−フェニレンジアミン、1−(N,N−ジ−P−トリルアミノ)ナフタレン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)−2−2'−ジメチルトリフェニルメタン、N,N,N',N'−テトラフェニル−4,4'−ジアミノビフェニル、N、N'−ジフェニル−N、N'−ジ−m−トリル−4、4'−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾ−ル等の芳香族第三級アミンや、4−ジ−P−トリルアミノスチルベン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4'−〔4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体や、オキサジザゾール誘導体や、イミダゾール誘導体や、ポリアリールアルカン誘導体や、ピラゾリン誘導体や、ピラゾロン誘導体や、フェニレンジアミン誘導体や、アニールアミン誘導体や、アミノ置換カルコン誘導体や、オキサゾール誘導体や、スチリルアントラセン誘導体や、フルオレノン誘導体や、ヒドラゾン誘導体や、シラザン誘導体や、ポリシラン系アニリン系共重合体や、高分子オリゴマーや、スチリルアミン化合物や、芳香族ジメチリディン系化合物や、ポリ−3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、テトラジヘクシルフルオレニルビフェニル(TFB)あるいはポリ3−メチルチオフェン(PMeT)といったポリチオフェン誘導体等の有機材料が用いられる。また、ポリカーボネート等の高分子中に低分子の正孔輸送層用の有機材料を分散させた、高分子分散系の正孔輸送層も用いられる。またこれらの正孔輸送材料は電子ブロック材料として用いることもできる。
【0075】
上述した機能層における電子輸送層としては、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、シロール誘導体からなるポリマー材料等、あるいは、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−(パラ−フェニルフェノレート)アルミニウム(BAlq)、バソフプロイン(BCP)等が用いられる。またこれらの電子輸送層を構成可能な材料は正孔ブロック材料として用いることもできる。
【0076】
なお、これらの機能層(発光層、或いは、必要に応じて形成される正孔注入層、電子注入層)を高分子材料で形成する場合、スピンコーティング法や、キャスティング法や、ディッピング法や、バーコート法や、ロールを用いた印刷法、インクジェット法等の湿式成膜法であってもよい。これにより、大規模な真空装置が不要であるため、安価な設備で成膜が可能となるとともに、容易に大面積の有機エレクトロルミネッセント素子の作成が可能となるとともに、有機エレクトロルミネッセント素子の各層間の密着性が向上するため、素子における短絡を抑制することができ、安定性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を形成することができる。
【0077】
また、カラーの表示装置などに用いる場合にはRGBの各色の発光を実現する発光層の塗り分けが必要となるが、公知の印刷法、インクジェット法などを用いることにより、容易に塗り分けを実現することができる。
【0078】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の陰極5としては、仕事関数の小さい金属もしくは合金が用いられるが、トップエミッション構造の有機エレクトロルミネッセント素子を構成するために、本実施例では、仕事関数の小さい金属を用いた光透過性の高い超薄膜を形成し、その上部にITO,IZOなどの透光性材料からなる導電膜を積層することで、透明陰極を形成している。この仕事関数の低い材料からなる超薄膜としては、Ba-Alの2層構造に限定されることなく、Ca-Alの2層構造、あるいはCa、Ba、In、Mg、Ti等の金属や、Mg−Ag合金、Mg−In合金等のMg合金や、Al−Li合金、Al−Sr合金、Al−Ba合金等のAl合金等が用いられる。あるいはLiO2/AlやLiF/Al等の積層構造の超薄膜と、透光性導電膜との積層構造も陰極材料として好適である。
【0079】
また実施の形態1および2では、発光層4を便宜上単一の層として記述しているが、発光層4を陽極2の側から順に正孔輸送層/電子ブロック層/上述した有機発光材料層(ともに図示せず)の三層構造としてもよいし、発光層4を陰極5の側から順に電子輸送層/有機発光材料層(ともに図示せず)の二層構造、あるいは陽極2の側から順に正孔輸送層/有機発光材料層の2層構造(ともに図示せず)、あるいは陽極2の側から順に正孔注入層/正孔輸送層/電子ブロック層/有機発光材料層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層のごとく7層構造(ともに図示せず)としてもよい。またはより単純に発光層4が上述した有機発光材料のみからなる単層構造であってもよい。このように実施の形態において発光層4と呼称する場合は、発光層4が正孔輸送層、電子ブロック層、電子輸送層などの機能層を有する多層構造である場合も含むものとする。後に説明する他の実施の形態についても同様である。
【0080】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子を構成する機能層のうち、遷移金属酸化物層の成膜については上記方法に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱CVD法、プラズマCVD法、MOCVD法などのドライプロセスが望ましい。また、このほか有機エレクトロルミネッセント素子を構成する各機能層の成膜については、ゾルゲル法、ラングミュア・ブロジェット法(LB法)、レイヤーバイレイヤー法、スピンコート法、インクジェット法、ディップコーティング法、スプレー法などの湿式法などからも適宜選択可能であり、結果的に本発明の効果を奏効し得るように形成可能な方法であれば、いかなるものでもよいことはいうまでもない。
【0081】
なお、ガラス基板1は無色透明なガラスの一枚板である。ガラス基板1としては、例えば透明または半透明のソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラス等の遷移金属酸化物ガラス、無機フッ化物ガラス等の無機ガラスを用いることができる。
【0082】
その他の材料をガラス基板1に代えて採用することも可能であり、例えば透明または半透明のポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート、非晶質ポリオレフィン、フッ素系樹脂ポリシロキサン、ポリシラン等のポリマー材料を用いた高分子フィルム等、あるいは透明または半透明のAs23、As4010、S40Ge10等のカルコゲノイドガラス、ZnO、Nb2O、Ta25、SiO、Si34、HfO2、TiO2等の金属酸化物および窒化物等の材料、或いは発光領域から出射される光を、基板を介さずに取り出す場合には、不透明のシリコン、ゲルマニウム、炭化シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体材料、或いは顔料等を含んだ前述の透明基板材料、表面に絶縁処理を施した金属材料等から適宜選択して用いることができ、複数の基板材料を積層した積層基板を用いることもできる。
【0083】
またガラス基板1などの基板の表面あるいは基板内部には、後述するようにエレクトロルミネッセント素子を駆動するための抵抗・コンデンサ・インダクタ・ダイオード・トランジスタ等からなる回路を集積化して形成しても良い。
【0084】
さらに用途によっては特定波長のみを透過する材料、光−光変換機能をもった特定の波長の光へ変換する材料などであってもよい。また基板は絶縁性であることが望ましいが、特に限定されるものではなく、エレクトロルミネッセント素子の駆動を妨げない範囲或いは用途によって導電性を有していても良い。
【0085】
すなわち、本発明では、少なくとも表面が反射性の金属で構成されていればよく、金属基板を用い、例えばこれを接地端子として用いるようにしてもよい。この場合は、所定の領域にスルーホールをもつ絶縁膜を介して、陽極としてアルミニウムなどの所望の導体パターンを形成する。この上層は、遷移金属酸化物層、発光層、陽極の順で、前記実施の形態と同様に形成する。
【0086】
このように、基板上に形成した陽極上に電荷注入層として遷移金属酸化物層を有する高分子有機エレクトロルミネッセント素子は、電流密度の広い範囲に亘って素子の発光強度、発光効率が高いレベルで維持され、また、良好な寿命特性を示す。従って、幅広い輝度の範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子を実現することができる。
【0087】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態1で説明した有機エレクトロルミネッセント素子を用いた表示装置について説明する。本実施の形態の表示装置は、機能層として、陽極側に酸化モリブデン層を介在させた図1に示した実施の形態1の有機エレクトロルミネッセント素子を用いてアクティブマトリックス型の表示装置を構成したものである。この表示装置は、図3にこのアクティブマトリックス型の表示装置の等価回路図、図4にレイアウト説明図、図5に断面図、図6に上面説明図を示すように、各画素に駆動回路を形成したアクティブマトリックス型の表示装置を構成するものである。
【0088】
この表示装置140は、図3に等価回路図、図4に画素のレイアウト説明図を示すように、画素を形成する有機エレクトロルミネッセント素子(エレクトロルミネッセント)110およびスイッチングトランジスタ130、光検出素子としてのカレントトランジスタ120とからなる2つのTFT(T1,T2)とコンデンサCとからなる駆動回路を上下左右に複数個配列し、左右方向に並んだ各駆動回路の第1のTFT(T1)のゲート電極を走査線143に接続して走査信号を与え、また上下方向に並んだ各駆動回路の第1のTFTのドレイン電極をデータ線に接続し、発光信号を供給するように構成されている。エレクトロルミネッセント素子(エレクトロルミネッセント)の一端には駆動用電源(図示せず)が接続され、コンデンサCの一端は接地されている。143は走査線、144は信号線、145は共通給電線、147は走査線ドライバ、148は信号線ドライバ、149は共通給電線ドライバである。
【0089】
図5は有機エレクトロルミネッセント素子の断面説明図(図5は図4のA−A断面図である)、図6はこの表示装置の上面説明図であり、駆動用の薄膜トランジスタ(図示せず)を形成したガラス基板100上に、陽極(Al)111、酸化モリブデン層(遷移金属酸化物層)115、電荷ブロック層116、発光層112、陰極113を形成してトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント素子を形成している。構造としては、陽極および電荷注入層は個別に形成されており、発光層は画素規制層114で開口面積を規定されており、陰極はストライプ状に形成されている。なおこの駆動用の薄膜トランジスタは、例えばガラス基板100上に有機半導体層(高分子層)を形成しこれを、ゲート絶縁膜で被覆しこの上にゲート電極を形成すると共にゲート絶縁膜に形成したスルーホールを介してソース・ドレイン電極を形成してなるものである。そして、この上にポリイミド膜などを塗布して絶縁層(平坦層)を形成し、その上部に陽極(ITO)111、酸化モリブデン層115,電子ブロック層116、発光層などの有機半導体層、2層構造の陰極113(Ba-Al超薄膜:113a、ITO:113b)を形成して有機エレクトロルミネッセント素子を形成した構造を有している。なお、図6では、コンデンサや配線については省略したが、これらも同じガラス基板上に形成されている。このようなTFTと有機エレクトロルミネッセント素子からなる画素が同一基板上に複数個マトリクス状に形成されてアクティブマトリクス型の表示装置を構成している。
【0090】
製造に際しては図4に示すように、絶縁層で構成した画素規制層114によって形成された開口部153にインクジェット法により、発光層が形成される。
【0091】
すなわち、製造に際しては、ガラス基板100上に形成された走査線143、信号線144、スイッチングTFT130、画素電極を構成するアルミニウムのパターンからなる電極111などの上に画素規制層114を形成し、その後開口部を設ける。
そしてこの上層に、全面に遷移金属酸化物層を蒸着によって形成する。
この後、インクジェット法によって必要に応じてバッファ層としてTFBを塗布する。このTFB層は遷移金属酸化物層と同様に全面に塗布してもよいし、開口部に対応する部分だけに塗布してもよい。
そして、乾燥工程を経て、開口部に対応する位置にインクジェット法によって所望の色(RGBのいずれか)に対応する高分子有機EL材料を塗布する。
最後に、表示画素141が配置されている領域に対して図示しない陰極を形成する
【0092】
この構成によれば、高速駆動が可能で信頼性の高い表示装置を提供することができる。
【0093】
次にエレクトロルミネッセント素子1を2次元的に複数配置した照明装置の例を、図6を援用して説明する。2次元的に配置されたエレクトロルミネッセント素子110について、例えば全てのエレクトロルミネッセント素子1を一斉に点灯/消灯するような構成は極めて容易に実現できる。ただしこのように一斉に点灯/消灯するような構成であっても、少なくとも一方の電極(例えばAlで構成される画素電極(図6の陽極111参照))は個々のエレクトロルミネッセント素子1単位に分離した構成とすることが望ましい。これは何らかの要因によって表示画素141に欠陥があったとしても、欠陥が当該表示画素141に留まるため、照明装置全体の製造歩留まりを向上させることができるからである。このような構成を有する照明装置は、例えば家庭における一般的な照明器具に応用することができる。この場合に照明装置を極めて薄く構成することができるから、天井のみならず壁面にも容易に設置することができるようになる。
【0094】
また、2次元的に配置されたエレクトロルミネッセント素子1は任意のデータを供給することで、その発光パターンを簡単に制御することができ、かつ本発明に係るエレクトロルミネッセント素子は、その発光領域を例えば40μm角程度のサイズで構成できるから、照明装置にデータを供給してパネル型の表示装置と兼用するようなアプリケーションを構成できる。もちろんこの場合には表示画素141は位置に応じて赤色、緑色、青色に塗り分けられている必要があるが、インクジェット法を用いることにより、極めて容易に多色化が可能となる。
【0095】
従来は照明装置と表示装置を比較したときに、その発光輝度は照明装置の方が大きいものであった。しかしながら本発明に係るエレクトロルミネッセント素子110は十分に大きく面積をとることができ、極めて高い発光輝度を有しているため、照明装置と表示装置を兼用できるのである。この場合、照明装置と表示装置ではその機能の違い(すなわち使用モード)に起因して発光輝度を調整する機構が必要となるが、この機構は例えば前記実施の形態3に示した構成を採用し駆動電流を制御して各エレクトロルミネッセント素子1の発光輝度を調整することで実現できる。即ち照明装置として使用する場合は全てのエレクトロルミネッセント素子1をより大きな電流で駆動し、表示装置として使用する場合は小電流でかつ階調に応じて制御された電流値で(すなわち画像データに応じて)各エレクトロルミネッセント素子1を駆動すればよい。このようなアプリケーションにおいて、照明装置として機能する場合の電源と、表示装置として機能する場合の電源は単一のものとしてもよいが、駆動電流を制御する、例えばディジタル−アナログ変換器のダイナミックレンジが大きく、表示装置として使用する際の階調数が不足するような場合には、図3および図4に示す共通給電線145に接続された電源(図示せず)を使用モードに応じて切り替えるような構成とすることが望ましい。もちろん照明装置としての使用モードにおいても、明るさの制御が必要な態様(すなわち調光機能を有する照明装置)にあっては、先に説明した階調に応じた電流値制御によって容易に対応することができる。また本発明のエレクトロルミネッセント素子は、ガラス基板1の上のみならず例えばPETなどの樹脂基板上にも形成できることから、様々なイルミネーション用の照明装置としても応用することができる。
【0096】
なお、薄膜トランジスタを有機トランジスタで構成してもよい。また薄膜トランジスタ上に有機エレクトロルミネッセント素子を積層した構造、あるいは有機エレクトロルミネッセント素子上に薄膜トランジスタを積層した構造なども有効である。
【0097】
加えて、高画質のエレクトロルミネッセント表示装置を得るために、有機エレクトロルミネッセント素子を形成したエレクトロルミネッセント基板と、TFT、コンデンサ、配線などを形成したTFT基板とを、エレクトロルミネッセント基板の電極とTFT基板の電極とが接続バンクを用いて接続されるように貼り合わせるようにしてもよい。
【0098】
(実施の形態4)
次に本発明の実施の形態4について説明する。
本実施の形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子を用いた画像形成装置の露光部を構成する光ヘッドについて説明する。
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセント素子を用いた光ヘッドは、図7に断面概要図、図8に上面図を示すように、表面に平坦化のためのベースコート層(図示せず)を形成したガラス基板100上に、駆動トランジスタ120としての薄膜トランジスタと、エレクトロルミネッセント素子110とを順次積層したものである。この駆動トランジスタは、光検出素子(図示せず)の出力に応じて、駆動電流または駆動時間を補正しつつ前記エレクトロルミネッセント素子を駆動するためのスイッチングトランジスタであり、さらにこのガラス基板100上に、有機エレクトロルミネッセント素子の下層に位置するように、この薄膜トランジスタに接続されたチップICとしての駆動回路(140)を搭載したものである。101は絶縁膜である。そして、駆動トランジスタ120はベースコート層表面に形成された多結晶シリコン層からなる島領域ARを帯状のi層からなるチャネル領域を隔てて所望の濃度にドープすることによりソース領域121S、ドレイン領域121Dを形成し、この上層に形成される酸化シリコン膜からなる第1の絶縁膜122、第2の絶縁膜123を貫通するようにスルーホールを介して形成された多結晶シリコン層からなるソースおよびドレイン電極125S,125Dで構成される。また、この上層に保護層124としての窒化シリコン膜を介して、エレクトロルミネッセント素子110が形成されており、保護膜124、陽極111となるAl層、発光層112、陰極113の順に各層が積層形成されている。
【0099】
一方、光検出素子を構成する各層は、駆動トランジスタとしての選択トランジスタ130と同一の製造工程で形成される。
これら各層は、CVD法による半導体薄膜の形成、フォトリソグラフィによるパターニング、不純物イオンの注入、絶縁膜の形成、など通例の半導体プロセスを経て形成される。ここでMoO3薄膜のシート抵抗を通常の4端子法で測定したところ、12MΩcmであった。
【0100】
有機エレクトロルミネッセント素子は、図7に断面概要図を示すように、素子構造としては前記実施の形態2で説明した、陰極側にも遷移金属酸化物層116としての膜厚40nmのMoO層を形成したものを用いた。このエレクトロルミネッセント素子は、透光性のガラス基板100上に第1の電極111としてCr層からなる陽極と、ITOからなる第2の電極113としての陰極と、これら電極間に形成された機能層とを備え、この機能層は、有機半導体高分子層からなる発光機能を有した層すなわち発光層112と、前記第1の電極111と前記発光層112との間に遷移金属酸化物層115としての膜厚40nmのMoO層を形成するとともに、この上層に膜厚50nmの窒化シリコン膜からなる画素規制層114とを備えたもので、遷移金属酸化物層115,116としてのMoO層を第1の電極と発光層との間および発光層と第2の電極との間に配したことを特徴とする。またこの遷移金属酸化物層115,116はCVD法によって成膜されるが、成膜に際し、原料ガスの組成比、圧力および温度を制御し積層される。ここでは上層側の第2の電極の形成に先立ち、発光層の表面は遷移金属酸化物層116としてのMoO層を有しているため、第2の電極としてのITOをスパッタリングによって形成するに際しても、発光層がスパッタダメージを受けることはない。また、この遷移金属酸化物層116は、電子注入層としても作用するため、電子の注入効率も向上する。
【0101】
またこの遷移金属酸化物層は、積層方向の比抵抗が、面方向の比抵抗の3分の1程度となるように成膜される。また、膜厚を従来では考えられなかった厚さである膜厚40nmとすることにより、厚膜のMoO層によって表面の平坦化および平滑化をはかった上で、良好に発光領域の面積を規制するように構成している。
【0102】
ここでは遷移金属酸化物層115としての厚いMoO層と、陽極であるAl層からなる第1の電極111との間にTFBからなるバッファ層(電子ブロック層)を介在させるようにしたが、このバッファ層はなくてもよい。
【0103】
この構成によれば、注入効率が良好で、信頼性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を形成することが可能となる。これに対し、遷移金属酸化物層に代えて、図12に示した比較例のようにPEDT層を用いた場合、注入効率が十分ではなかった。また、遷移金属酸化物層を、膜厚40nmとすることにより、厚膜のMoO層によって表面の平坦化および平滑化をはかった上で、良好に発光領域の面積を規制することができる。また、画素規制層の下地を平滑化することができ、その分画素規制層の膜厚を薄くしても、十分な絶縁性を維持することができることになり、画素規制層に起因する段差の低減を図ることが可能となる結果、発光機能を有した層の膜厚分布をより均一化することが可能となる。また画素の短絡を生じることもなかった。
【0104】
なお、前記実施の形態では、反射性の陽極を用いたが、完全反射であるものに限定されることなく、一部透過の陽極を用いてもよい。例えばトップエミッション型のTFT駆動ディスプレイでは、反射性陽極に実質的に光透過性を持たせ、TFT回路部に設けた光センサを働かせて光量モニタとして使いそこで補正回路を組み込み、輝度一定で駆動することも可能である。
【0105】
(実施の形態5)
次に本発明の実施の形態5について説明する。
本実施の形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子を用いた表示装置の変形例について説明する。
本実施の形態では、図9に断面概要図を示すように、ガラス基板100に形成される陽極151を覆うように、酸化モリブデン層153および発光層154を一体的に形成したことを特徴とするものである。なお、発光層154の上層にバッファ層156としての酸化モリブデン層を介して陰極155としてのITO層が形成されているが、陰極155は、陽極と直交する方向にストライプ状をなすように形成されており、マトリックスパターンを構成している。150は駆動用トランジスタの形成されたアモルファスシリコンなどの半導体層である。
【0106】
製造に際しては、まず表面平坦化処理がなされたガラス基板100上にアモルファスシリコン層を形成し、薄膜トランジスタなどの駆動回路層150を形成した後、スパッタリングにより陽極151として遮光性のアルミニウム層を形成し、パターニングする。ここで必要に応じて、陽極酸化法などにより選択酸化をおこない、アルミニウム層のエッチングを行うことなく、選択的に酸化し、表面が平坦化状態を維持するようにすることも可能である。つまり、パターニングに際しエッチング除去すべき領域を酸化アルミニウム層として残すようにし、平坦な表面状態を維持したまま陽極パターンを形成する。また、駆動回路層150の配線パターンをアルミニウムで構成し、陽極151を構成する導体層と同一層で構成するようにしてもよい(図10(a))。
【0107】
そして真空蒸着法により、酸化モリブデン層153を形成する。この酸化モリブデン層153はパターニングすることなく一体的に形成する。
【0108】
この後、バッファ層Bとして高分子層を塗布法により形成し、さらに発光層154を塗布法により形成する(図10(b))。
【0109】
そしてさらにこの上層に真空蒸着法により、酸化モリブデン層からなるバッファ層(電荷注入層)156を形成する(図10(c))。
【0110】
最後に、スパッタリング法により陰極155としてのITO層を形成し、これをストライプ状にパターニングする(図10(d))。
【0111】
このようにして図9に示したような有機エレクトロルミネッセント素子が形成される。
この構成によれば、酸化モリブデン層をパターニングすることなく形成できるため、より微細化が可能となる。また、このように一体的に形成されていても、クロストーク等は観察されていない。これは、ピクセル間における酸化モリブデン層の抵抗が極めて高いことによる可能性があるが、詳細はわかっていない。
【0112】
また、陰極を構成するITOはスパッタリングによって形成されるが、このスパッタリング工程に先立ち表面全体は酸化モリブデン層からなるバッファ層156で覆われているため、スパッタダメージに起因する特性劣化はほとんど皆無となり、信頼性の高い有機エレクトロルミネッセント素子を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、幅広い輝度の範囲にわたって安定に動作し、かつ寿命特性に優れているのでフラットパネルディスプレイや表示素子、光源などを含む広範な応用において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態1の有機エレクトロルミネッセント素子の断面概要図
【図2】本発明の実施の形態2の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の断面概要図
【図3】本発明の実施の形態3のアクティブマトリックス型の表示装置の等価回路図
【図4】本発明の実施の形態3の表示装置のレイアウト説明図
【図5】本発明の実施の形態3の表示装置の断面図
【図6】本発明の実施の形態3の表示装置の上面説明図
【図7】本発明の実施の形態4の光ヘッドの断面概要図
【図8】本発明の実施の形態4の光ヘッドの断面概要図
【図9】本発明の実施の形態5の表示装置の断面概要図
【図10】本発明の実施の形態5の表示装置の製造工程図
【図11】従来例のボトムエミッション型有機エレクトロルミネッセント素子の平面構成図
【図12】従来例の有機エレクトロルミネッセント素子の断面概要図
【符号の説明】
【0115】
1 基板
2 陽極
3 電荷注入層
B バッファ層
4 発光層
5 陰極
10 ガラス基板
11 反射層
12 陽極
13 電荷注入層
14 発光層
15 電荷注入層
16 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極とで、少なくとも一層の機能層を挟んだ有機エレクトロルミネッセント素子において、
前記機能層は、少なくとも発光機能を有した発光層と、この発光層と前記陽極との間に配置された遷移金属の酸化物層とを含み、
前記陽極を、前記発光層よりも仕事関数の小さい金属または金属合金で構成した有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記陽極を反射性を有する金属または金属合金で構成し、前記陰極を透光性材料で構成した有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記陽極は、透光性の基板上に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記陽極は、透光性の基板上に形成された銀または銀合金層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記発光機能を有した層は、高分子層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記発光機能を有した層がポリフルオレンおよびその誘導体を含む有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記発光機能を有した層がフェニレンビニレン基を含む有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記発光機能を有した層がポリフェニレンビニレンおよびその誘導体を含む有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項9】
請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記発光機能を有した層はデンドリマー構造をもつ少なくとも1種類の高分子物質からなる発光機能を有した層を含む有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記機能層は少なくとも1種類のバッファ層を含む有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項11】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記バッファ層が高分子層で構成される有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記遷移金属の酸化物層が、モリブデン酸化物を含む電荷注入層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記遷移金属の酸化物層が、タングステン酸化物を含む電荷注入層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記遷移金属の酸化物層が、バナジウム酸化物を含む電荷注入層である有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記電荷注入層は、前記陽極上に形成されたホール注入層と、
前記発光機能を有した層を介して前記ホール注入層に対向するように、前記発光機能を有した層の上に形成された電子注入層とで構成され、
前記ホール注入層および電子注入層は、共に遷移金属酸化物層で構成された有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項16】
請求項1乃至14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記陽極は、複数に分割形成されており、
前記遷移金属の酸化物層が、前記複数の陽極を一体的に覆うように形成されホール注入層を構成した有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項17】
請求項16に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であって、
前記ホール注入層上に発光機能を有した層が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
少なくとも表面が発光層よりも仕事関数の小さい金属材料で構成された陽極上に、
遷移金属の酸化物層を形成する工程と、
前記遷移金属の酸化物層上に、発光機能を有した層を形成する工程と、
陰極を形成する工程とを備えた有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法であって、
前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化モリブデン層を形成する工程である有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。
【請求項20】
請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法であって、
前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化タングステン層を形成する工程である有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。
【請求項21】
請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法であって、
前記遷移金属の酸化物層を形成する工程が、ドライプロセスで酸化バナジウム層を形成する工程である有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−335737(P2007−335737A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167580(P2006−167580)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】