説明

有機エレクトロルミネッセント素子

【課題】 第1の電極1と第2の電極2の間に白色の発光層3が設けられ、発光層3から発光された光を反射して第2の電極2から出射させるための反射層4が第1の電極1側に設けられた有機エレクトロルミネッセント素子において、良好な白色色度を得る。
【解決手段】 発光位置3aから反射層1までの光学距離をL1とし、第2の電極2側の素子端部の反射界面から反射層4までの光学距離をL2とし、取り出したい白色発光の波長域の中心波長をλとしたとき、L1を波長λの光が干渉により強めあう光学距離とし、L2を波長λの光が干渉により弱めあう光学距離とすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子に関するものであり、詳細には、第1の電極と第2の電極の間に白色の発光層が設けられ、発光層から発光された光を反射して第2の電極から出射するための反射層が第1の電極側に設けられた有機エレクトロルミネッセント素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)は、一般に数十〜数百nm程度の厚みの発光層を含む有機層を、反射性電極と透光性電極で挟んだ構造を有している。このような有機EL素子において、発光層で発光された光は、素子構造中で干渉し外部に取り出される。従来より、このような干渉を利用し発光効率を上げようという試みがなされている。
【0003】
特許文献1においては、発光層から透光性電極の方向に発せられた光と、反射性電極の方向に発せられた光との干渉を利用し、発光位置から反射層までの距離を発光波長が共振するように設定することにより発光効率を高めることが提案されている。
【0004】
特許文献2においては、透光性電極と基板の界面での反射も考慮し、発光位置から反射性電極までの距離と、発光位置から透光性電極と基板の界面までの距離の両方を規定している。
【0005】
特許文献3においては、光が透光性電極と反射性電極の間で多重反射することにより起こる干渉を利用し、透光性電極と反射性電極の間の膜厚を望みの波長が共振するよう設定することにより発光効率を高めている。
【0006】
上記の従来の技術においては、いずれも発光効率を高めるため発光された光の干渉を利用するものである。
【0007】
ところで、白色発光層を有する有機EL素子においても、素子内部で上記のような干渉が存在するため、効率良く幅広い波長成分を有する白色発光を取り出すためには、発光位置を反射層に接近させ、好ましくは80nm以下の距離にすることが好ましい。しかしながら、発光位置が反射層から離れ、その距離が大きくなると、干渉により、幅広いスペクトルを有する白色発光を得ることが困難となる。
【0008】
特許文献4においては、発光位置から反射層までの距離と、発光位置から透光性電極と外部層との界面までの距離を規定することにより、効率の良い白色の色度に優れた素子が得られることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−289358号公報
【特許文献2】特開2000−243573号公報
【特許文献3】国際公開WO01/039554号パンフレット
【特許文献4】特開2004−79421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、良好な白色色度が得られる有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の電極と第2の電極の間に白色の発光層が設けられ、発光層から発光された光を反射して第2の電極から出射させるための反射層が第1の電極側に設けられた有機EL素子であり、発光層による発光位置から反射層までの光学距離をL1とし、第2の電極側の素子端部の反射界面から反射層までの光学距離をL2とし、取り出したい白色発光の波長域の中心波長をλとしたとき、L1を波長λの光が干渉により強めあう光学距離とし、L2を波長λの光が干渉により弱めあう光学距離とすることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、発光層による発光位置から反射層までの光学距離L1を、取り出したい出射光の波長域の中心波長λの光が干渉により強めあう光学距離とし、第2の電極側の素子端部の反射界面から反射層までの光学距離L2を、波長λの光が干渉により弱めあう光学距離としている。以下、光学距離L1により生じる光の干渉を「第1の干渉」といい、光学距離L2により生じる光の干渉を「第2の干渉」という。
【0012】
図2を参照して、本発明における第1の干渉及び第2の干渉を説明する。
【0013】
図2に示す有機EL素子は、基板37の上に反射層34が形成されており、反射層34の上に第1の電極31が設けられている。第1の電極31の上には、発光層を含む有機層38が設けられている。本実施例において、有機層38中の発光層はホスト材料にドーパント材料を含有させることにより形成されている。有機層38における発光位置33cは、一般に発光層におけるホスト材料のキャリア輸送性により異なる。本発明においては、発光層のホスト材料が電子輸送性の場合、発光層と正孔輸送層の界面を発光位置33cとする。また、発光層のホスト材料が正孔輸送性の場合、電子輸送層と発光層の界面を発光位置33cとする。発光層が電子輸送性と正孔輸送性の両方の性質を有する、いわゆるバイポーラのときには、発光層の厚み方向の中心位置を発光位置33cとする。
【0014】
有機層38の上には第2の電極32が設けられている。本実施例において、第2の電極32は素子の最上層であり、第2の電極32の上は空気層となっている。
【0015】
1は、発光位置33cから反射層34までの光学距離であり、L2は、第2の電極32の上方端部32aから反射層34までの光学距離である。第2の電極32の外側は空気層となっており、第2の電極32と空気層の間に屈折率差があるため、第2の電極32と空気層との界面で反射が起こる。従って、第2の電極32の上方端部32aが素子端部の反射界面となる。
【0016】
第1の干渉40は、発光位置33cから第2の電極32側に出射する光41と、発光位置33cから第1の電極31側に出射し、反射層34で反射し第2の電極32側に出射される光42との干渉で生じる。
【0017】
第2の干渉50は、発光位置33cから出射した光51が、第2の電極32と空気層の間の界面32aでの光の反射と反射層34での光の反射により、多重反射することによって生じる干渉である。
【0018】
第1の干渉40は、発光位置33cから反射層34までの光学距離L1に依存する。また、第2の干渉50は、素子端部の反射界面32aから反射層34までの光学距離L2に依存する。素子からの光の取り出し効率は、上記第1の干渉40及び第2の干渉50の両方の影響を受ける。
【0019】
本発明においては、L1を波長λの光が干渉により強めあう光学距離としている。従って、第1の干渉は波長λを共振する干渉となっている。一方、L2については、波長λの光が干渉により弱めあう光学距離としている。このため、第2の干渉は、波長λに対して非共振となっており、λの短波長側と長波長側にそれぞれ共振波長を持つ干渉となっている。実際の取り出し効率は、第1の干渉と第2の干渉の両方の効果を受けるため、これらを合わせると、取り出し効率は、白色の広い波長域全体に渡ってほぼ等しいスペクトルとなる。従って、本発明によれば、バラスンの良い良好な白色色度を得ることができる。
【0020】
本発明において、光学距離L1及びL2は、以下の式(1)〜(5)を満足することが好ましい。
【0021】
2L1−λ1φ1/2π=mλ1 …(1)
2L2−λ2(φ1+φ2)/2π=(n+1/2)λ2 …(2)
515nm<λ<575nm …(3)
λ−15<λ1<λ+15 …(4)
λ−15<λ2<λ+15 …(5)
(λの単位nm)
m及びn:自然数
1:発光位置から反射層までの光学距離
2:素子端部の反射界面から反射層までの光学距離
λ:取り出したい白色発光の波長域の中心波長
φ1:光が反射層で反射する際の位相変化
φ2:光が素子端部の反射界面で反射する際の位相変化
φ1は、第1の電極の屈折率をne、反射層の屈折率をnm、反射層の消衰係数をkmとしたとき以下の式で示される。
【0022】
φ1=tan-1{2nem/(ne2−nm2−km2)}
ただし2nem/(ne2−nm2−km2)>0のとき、0<φ1<π/2
2nem/(ne2−nm2−km2)<0のとき、π/2<φ1<π
また、φ2は、第2の電極の屈折率が素子外部の層より大きいときは0であり、第2の電極の屈折率が素子外部の層よりも小さいときはπである。
【0023】
一般に、第2の電極は透明性電極であるため、導電性金属酸化物や金属薄膜の薄い層から形成される。従って、第2の電極の外側が、空気層、樹脂層、ガラス層である場合、第2の電極とこの外部層との界面が反射界面となる。一方、第2の電極の外側に無機保護層などを設ける場合、第2の電極と無機保護層との屈折率の差が小さいため、第2の電極の外側が反射界面とならない場合がある。このような場合、無機保護層の外側が反射界面となる。
【0024】
発光層による発光位置は、上述のように、発光層の構成により定めることができる。
【0025】
本発明において、発光層を含む有機層と、第2の電極の間に金属層が設けられる場合、金属層の厚みは5nm以下であることが好ましい。金属層の厚みを5nm以下にすることにより、この金属層による光の反射が、第1の干渉及び第2の干渉に与える影響を少なくすることができる。
【0026】
本発明における発光層は、上述のように、例えば青色発光層とオレンジ色発光を積層させた2層から構成されていてもよいし、1層のみから構成されていてもよい。本発明における発光層は、ホスト材料とドーパント材料から形成されていることが好ましい。発光層のホスト材料としては、アントラセン誘導体、アルミニウム錯体、ルブレン誘導体、アリールアミン誘導体などが挙げられる。
【0027】
ドーパント材料としては、一重項発光材料を用いてもよいし、三重項発光材料を用いてもよい。高い発光効率を得るためには、燐光発光材料である三重項発光材料を用いることが好ましい。一重項発光材料としては、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、スチルベン誘導体などが挙げられる。また、三重項発光材料(燐光発光材料)としては、イリジウム錯体、白金錯体などが挙げられる。
【0028】
本発明においては、発光層以外の有機層が設けられていてもよい。有機層としては正孔輸送層及び電子輸送層などのキャリア輸送層が挙げられる。正孔輸送層に用いる正孔輸送性材料としては、アリールアミン誘導体などが挙げられる。また、電子輸送層に用いる電子輸送性材料としては、ペリレン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン誘導体などが挙げられる。
【0029】
本発明において、第2の電極は、一般に透明性電極から形成される。このような透明性電極としては、ITO(インジウム錫酸化物)や、IZO(インジウム亜鉛酸化物)や、錫酸化物などの透明導電性金属酸化物が挙げられる。
【0030】
本発明において、第1の電極は、第2の電極と同様に、導電性金属酸化物などの透明性電極から形成されていてもよいし、金属薄膜などから形成されていてもよい。第1の電極が金属薄膜から形成される場合、本発明における反射層を兼ねていてもよい。
【0031】
本発明において反射層は、光を反射することができるものであれば特に限定されるものではなく、一般には金属薄膜から形成される。金属薄膜としては、Ag、Al、Mo、Crなどが挙げられる。反射層の膜厚は特に限定されるものではないが、一般に100〜300nmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板と封止基板の間に配置し、陰極及び陽極のうち封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、上記本発明に従う有機エレクトロルミネッセント素子であることを特徴としている。
【0033】
封止基板と有機エレクトロルミネッセント素子の間には、カラーフィルターを配置することが好ましい。
【0034】
本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、トップエミッション型の表示装置であるので、有機エレクトロルミネッセント素子で発光した光は、アクティブマトリックスが設けられている側と反対側の封止基板から出射される。一般にアクティブマトリックス回路は多数の層を積層して形成するものであり、ボトムエミッション型の場合はこのようなアクティブマトリックス回路の存在により出射光が減衰するが、本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置はトップエミッション型であるため、このようなアクティブマトリックス回路による影響を受けることなく光を出射することができる。特に、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は複数の発光ユニットを有するものであるため、トップエミッション型の場合ボトムエミッション型に比べ発光した光が通過する膜数が少なくて済むので、光の干渉による出射光の減衰あるいは出射光の視野角の減衰を制御するための設計の自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に従えば、白色の広い波長域全体からほぼ等しく光を取り出すことができるようになる。従って、良好な色度の白色発光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
図1に示す素子構造を有する有機EL素子を作製した。図1に示すように、ガラス基板37の上にAgからなる反射層34(膜厚100nm)を形成し、その上にITO(インジウム錫酸化物)からなる第1の電極31(膜厚65nm)を形成し、その上に正孔輸送層35(膜厚100nm)を形成した。
【0038】
正孔輸送層35の上に、オレンジ色発光層33b(膜厚15nm)及び青色発光層33a(膜厚25nm)をこの順序で形成した。青色発光層33a及びオレンジ色発光33bから白色発光層33が構成されており、この白色発光層33の上に電子輸送層36(膜厚10nm)を形成した。電子輸送層36の上に、第2の電極32を形成した。第2の電極32は、IZO(インジウム亜鉛酸化物)(膜厚30nm)から形成した。第2の電極32と電子輸送層36の間には、金属層として、Li層(膜厚0.3nm)とAu層(膜厚1.5nm)を形成した。従って、電子輸送層36の上には、Li層/Au層/IZO層が形成されている。
【0039】
本実施例において、白色発光層33は、青色発光層33aとオレンジ色発光層33bから構成されているので、青色発光層33aとオレンジ色発光層33bの界面が発光位置33cとなる。
【0040】
オレンジ色発光層33bは、ホスト材料としてNPBを用い、ドーパント材料としてDBzRを3重量%含有させて形成した。NPBは、N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0041】
【化1】

【0042】
DBzRは、5,12−ビス{4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル}−6,11−ジフェニルナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0043】
【化2】

【0044】
青色発光層33aは、ホスト材料としてTBADNを用い、ドーパント材料としてTBPを2重量%含有させて形成した。
【0045】
TBADNは、2−ターシャリー−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセンであり、以下の構造を有している。
【0046】
【化3】

【0047】
TBPは、2,5,8,11−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレンであり、以下の構造を有している。
【0048】
【化4】

【0049】
正孔輸送層35は、NPBから形成されている。
【0050】
電子輸送層36は、BCPから形成している。BCPは、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンであり、以下の構造を有している。
【0051】
【化5】

【0052】
(比較例1)
上記実施例1において、正孔輸送層35の膜厚を45nmとし、オレンジ色発光層33bの膜厚を30nmとし、青色発光層の膜厚を40nmとする以外は、上記実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を作製した。
【0053】
〔共振波長λ1及びλ2の算出〕
実施例1及び比較例1の第1の干渉による共振波長λ1及び第2の干渉による共振波長λ2を式(1)及び(2)を用いて計算した。計算結果を表1に示す。なお、屈折率n及び消衰係数kなどの光学定数は、波長依存性があるので、実施例1のλ1及びλ2については、表2に示す525nmにおける光学定数を用い、比較例1のλ1については440nmの光学定数を用い、比較例1のλ2については480nmにおける光学定数をそれぞれ用いて計算した。なお、525nm、440nm、及び480nmは、それぞれ別途計算したおよそのλ1及びλ2の値から想定したものである。より正確な計算は、コンピューターによるシミュレーションで行うことができる。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例1は、取り出したい白色発光の波長域の中心波長λ520nmに対し、λ1が522nm、λ2が516nmであり、本発明の範囲内のものである。
【0057】
図3に、実施例1の可視光域における取り出し効率のシミュレーション結果を示す。図3に示すように、第1の干渉では、520nm付近の緑色領域の取り出し効率が大きくなっており、第2の干渉では、青色と赤色の取り出し効率が大きくなっている。この素子のトータルの取り出し効率は、これら2つの干渉の両方の影響を受け、この結果可視光域の広い範囲においてほぼ等しい取り出し効率となっている。従って、図5に示すように、実施例1の素子からは白色発光が得られており、色度は、(0.32,0.42)であった。図5に示すスペクトルを素子内部の発光スペクトルで割ったものが実際の取り出し効率となる。図6に実施例1の実際の取り出し効率を示す。なお、内部発光のスペクトルとしては、反射層のAgがなく、その他の構造が同じである素子から得られたスペクトルを用いた。反射層がない場合は、干渉の効果が小さくほぼ内部発光と等しいと考えることができる。図6に示すように、図3のシミュレーションと同様に、実際の実験においても幅広い取り出し効率が得られている。
【0058】
比較例1は、取り出したい白色発光の波長域の中心波長λ520nmに対し、λ1が440nmであり、λ2が478nmである。式(4)及び式(5)から明らかなように、λ1及びλ2が本発明の範囲から外れており、比較例1の有機EL素子が、本発明の範囲外のものであることが明らかである。
【0059】
図4は、比較例1の取り出し効率のシミュレーション結果を示す図である。図4から明らかなように、トータルの取り出し効率は短波長領域において大きくなっている。従って、この比較例1の素子からは図5に示すように、青色成分の強い発光が得られ、良好な色度の白色発光は得られなかった。なお、色度は、(0.18,0.28)であった。
【0060】
図6に比較例1の素子の実験から得られた取り出し効率を示している。図6から明らかなように、比較例1においても、図4に示すシミュレーション結果と同様に、短波長領域の取り出し効率が高いスペクトルとなっている。
【0061】
以上のことから、本発明に従えば、良好な色度の白色発光が得られることがわかる。
【0062】
図7は、本発明に従う実施例の有機EL素子を備えた有機EL表示装置を示す断面図である。この有機EL表示装置においては、能動素子としてTFTを用いて各画素における発光を駆動している。なお、能動素子としてダイオードなども用いることができる。また、この有機EL素子においては、カラーフィルターが設けられている。この有機EL表示装置は、矢印で示しているように基板1の下方に光を出射して表示するボトムエミッション型の表示装置である。
【0063】
図7を参照して、ガラスなどの透明基板からなる基板1の上には、第1の絶縁層2が設けられている。第1の絶縁層2は、例えばSiO2及びSiNXなどから形成されている。第1の絶縁層2の上には、ポリシリコン層からなるチャネル領域20が形成されている。チャネル領域20の上には、ドレイン電極21及びソース電極23が形成されており、またドレイン電極21とソース電極23の間には、第2の絶縁層3を介してゲート電極22が設けられている。ゲート電極22の上には、第4の絶縁層4が設けられている。第2の絶縁層3は、例えばSiNX及びSiO2から形成されており、第3の絶縁層4は、SiO2及びSiNXから形成されている。
【0064】
第3の絶縁層4の上には、第4の絶縁層5が形成されている。第4の絶縁層5は、例えば、SiNXから形成されている。第4の絶縁層5の上の画素領域の部分には、カラーフ
ィルター層7が設けられている。カラーフィルター層7としては、R(赤)、G(緑)、またB(青)などのカラーフィルターが設けられる。カラーフィルター層7の上には、第1の平坦化膜6が設けられている。ドレイン電極21の上方の第1の平坦化膜6にはスルーホール部が形成され、第1の平坦化膜6の上に形成されているITO(インジウムースズ酸化物)からなるホール注入電極8がスルーホール部内に導入されている。画素領域におけるホール注入電極(陽極)8の上には、ホール注入層10が形成されている。画素領域以外の部分においては、第2の平坦化膜9が形成されている。
【0065】
ホール注入層10の上には、本発明に従う白色発光の発光素子層11が設けられている。発光素子層11の上には、電子輸送層12が設けられ、電子輸送層12の上には、電子注入電極(陰極)13が設けられている。
【0066】
以上のように、本実施例の有機EL素子においては、画素領域の上に、ホール注入電極(陽極)8と、ホール注入層10と、本発明に従う構造を有する発光素子層11と、電子輸送層12と、電子注入電極(陰極)13とが積層されて有機EL素子が構成されている。
【0067】
発光素子層11からは白色の発光がなされる。この白色の発光は、基板1を通り外部に出射するが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じて、R、GまたはBの色が出射される。
【0068】
図8は本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図である。本実施例の有機EL表示装置は、矢印で図示してるように基板1の上方に光を出射して表示するトップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0069】
基板1から陽極8までの部分は、図7に示す実施例とほぼ同様にして作製されている。但し、カラーフィルター層7は、第4の絶縁層5の上に設けられておらず、有機EL素子の上方に配置されている。具体的には、ガラスなどからなる透明な封止基板10の上にカラーフィルター層7を取り付け、この上にオーバーコート層15をコーティングし、これを透明接着剤層14を介して陽極8の上に貼り付けることにより取り付けられている。また、本実施例では、陽極と陰極の位置を図7に示す実施例とは逆にしている。
【0070】
陽極8として、透明な電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のITOと膜厚20nm程度の銀とを積層することにより形成されている。陰極13としては、反射電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のアルミニウム、クロム、または銀の薄膜が形成されている。オーバーコート層15は、アクリル樹脂などにより厚み1μm程度に形成されている。カラーフィルター層7は、顔料タイプのものであってもよいし染料タイプのものであってもよい。その厚みは1μm程度である。
【0071】
発光素子層11から発光された白色光は、封止基板16を通り外部に出射されるが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じてR、GまたはBの色が出射される。本実施例の有機EL表示装置はトップエミッション型であるので、薄膜トランジスタが設けられている領域も画素領域として用いることができ、図7に示す実施例よりも広い範囲にカラーフィルター層7が設けられている。発光素子層11は本発明に従う有機EL素子から形成されており、発光効率の高い発光素子層であるが、本実施例によればより広い領域を画素領域として用いることができるので、発光効率の高い発光素子層の利点を十分に活用することができる。また、複数の発光ユニットを有する発光素子層の形成も、アクティブマトリックスによる影響を考慮せずに行うことができるので、設計の自由度を高めることができる。
【0072】
上記実施例では、封止基板としてガラス板を用いているが、本発明において封止基板はガラス板に限定されるものではなく、例えば、SiO2などの酸化膜やSiNxなどの窒化膜などの膜状のものも封止基板として用いることができる。この場合、素子上に膜状の封止基板を直接形成できるので、透明接着剤層を設ける必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に従う一実施例の有機EL素子を示す模式的断面図。
【図2】本発明における第1の干渉及び第2の干渉を説明するための模式的断面図。
【図3】実施例1の有機EL素子の取り出し効率のシミュレーション結果を示す図。
【図4】比較例1の有機EL素子の取り出し効率のシミュレーション結果を示す図。
【図5】実施例1及び比較例1の有機EL素子の発光スペクトルの変化を示す図。
【図6】実施例1及び比較例1の実際の取り出し効率を示す図。
【図7】本発明に従う実施例の有機EL素子を用いたボトムエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【図8】本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0074】
1…基板
2…第1の絶縁層
3…第2の絶縁層
4…第3の絶縁層
5…第4の絶縁層
6…第1の平坦化膜
7…カラーフィルター層
8…ホール注入電極
9…第2の平坦化膜
10…ホール注入層
11…発光素子層
12…電子輸送層
13…電子注入電極
14…透明接着剤層
15…オーバーコート層
16…封止基板
20…チャネル領域
21…ドレイン電極
22…ゲート電極
23…ソース電極
31…第1の電極
32…第2の電極
33…発光層
33a…青色発光層
33b…オレンジ色発光層
33c…発光位置
34…反射層
35…正孔輸送層
36…電子輸送層
40…第1の干渉
50…第2の干渉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極の間に白色の発光層が設けられ、前記発光層から発光された光を反射して前記第2の電極から出射させるための反射層が前記第1の電極側に設けられた有機エレクトロルミネッセント素子において、
前記発光層による発光位置から前記反射層までの光学距離をL1とし、前記第2の電極側の素子端部の反射界面から前記反射層までの光学距離をL2とし、取り出したい白色発光の波長域の中心波長をλとしたとき、L1を波長λの光が干渉により強めあう光学距離とし、L2を波長λの光が干渉により弱めあう光学距離とすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
1及びL2が以下の式(1)〜(5)を満足することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
2L1−λ1φ1/2π=mλ1 …(1)
2L2−λ2(φ1+φ2)/2π=(n+1/2)λ2 …(2)
515nm<λ<575nm …(3)
λ−15<λ1<λ+15 …(4)
λ−15<λ2<λ+15 …(5)
(λの単位nm)
m及びn:自然数
1:発光位置から反射層までの光学距離
2:素子端部の反射界面から反射層までの光学距離
λ:取り出したい白色発光の波長域の中心波長
φ1:光が反射層で反射する際の位相変化
φ2:光が素子端部の反射界面で反射する際の位相変化
【請求項3】
前記発光層と前記第2の電極の間に厚さ5nm以下の金属層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記素子端部の反射界面の外側が、空気層、樹脂層、またはガラス層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板と前記封止基板の間に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項6】
前記有機エレクトロルミネッセント素子と前記封止基板との間に、カラーフィルターが配置されていることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセント表示装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−244712(P2006−244712A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54147(P2005−54147)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】