説明

有機タングステン酸塩、ジアリールアミンおよび有機モリブデン化合物を含む潤滑剤組成物用の酸化防止添加剤

潤滑オイル組成物は、大部分量の潤滑性ベースオイルおよび約0.1〜5.0質量%の酸化防止添加剤を含み、その添加剤は、第二ジアリールアミン、有機モリブデン化合物および有機タングステン酸アンモニウム化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された酸化防止特性を付与するための潤滑剤組成物に関する。具体的には、本発明は、潤滑剤に用いた場合、単一の成分または任意の2つの成分の組合せより著しく高い酸化防止活性を提供する、ジアリールアミン酸化防止剤、有機タングステン酸アンモニウム化合物および有機モリブデン化合物を含む新規な酸化防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルは過酷な酸化条件下で機能する。エンジンオイルの酸化的分解は汚泥や付着物を発生し、オイルの粘度特性を劣化させ、エンジン部品を腐食する酸性体を生成させる。酸化の影響を克服するために、エンジンオイルを、ヒンダードフェノール、芳香族アミン、ジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、硫化炭化水素、金属および無灰ジチオカルバミン酸塩ならびに有機モリブデン化合物を含む一連の酸化防止剤と配合する。特に有効な酸化防止剤はアルキル化ジフェニルアミン(ADPA)およびZDDPである。現状では、組み合わせた場合、これらの2つの化合物はエンジンオイルの酸化防止能力の大部分を提供している。しかし、処理触媒後の排気に対するリンの毒性の影響のため、エンジンオイル中でのZDDPの使用は減少している。さらに、処理後の硫酸化灰分排出の影響のため、エンジンオイル中のイオウおよび金属のレベルも低下している。したがって、リンやイオウを含有する酸化防止剤の必要性を低下させるかまたは排除し、同時に非常に低い金属含有量を可能にすることができる有効な酸化防止剤ケミストリーが必要である。
【0003】
有機モリブデン化合物は有効な耐摩耗性の減摩剤であり、かつ第二ジアリールアミン酸化防止剤との共力剤であり、有機タングステン酸アンモニウムは有効な耐摩耗性添加剤であることが開示されている。さらに、2007年、5月2日出願の同時係属中の米国特許出願番号11,743409に示したように、本発明の出願者等は、有機タングステン酸アンモニウム化合物が第二ジアリールアミン酸化防止剤に対する有効な共力剤であることを発見した。
【0004】
Tynikの米国特許出願番号2004/0214731A1は、有機タングステン酸アンモニウム化合物が、潤滑性組成物にリンまたはイオウをもたらさない有効な耐摩耗性添加剤であることを開示している。
【0005】
上記の同時係属出願では、本明細書の発明者等は、ZDDPとは異なり、これらの有機タングステン酸アンモニウム化合物は単独では、潤滑性組成物の酸化を効果的に阻止しないことを教示している。しかし、第二ジアリールアミンの存在下では、有機タングステン酸アンモニウム化合物は、共力剤として作用して、その個々の成分のいずれの場合より優れた酸化制御をもたらす。
【0006】
米国再発行特許番号RE38,929は、活性イオウが実質的に存在しないモリブデン化合物からの約100〜450ppmのモリブデンと、約750〜5,000ppmの第二ジアリールアミンを含む潤滑オイル組成物を開示している。この特許は、成分のこの組合せが、改善された酸化制御と摩擦調整性能を潤滑オイルに提供すると主張している。
【0007】
【特許文献1】米国特許出願11,743409
【0008】
【特許文献2】米国特許出願2004/0214731A1
【0009】
【特許文献3】米国再発行特許番号RE38,929
【0010】
【特許文献4】米国特許第4,889,647号
【0011】
【特許文献5】米国特許第6,806,241B2号
【0012】
【特許文献6】米国特許第3,356,702号
【0013】
【特許文献7】米国特許第4,098,705号
【0014】
【特許文献8】米国特許第5,888,945号
【0015】
【特許文献9】米国特許第6,010,987号
【0016】
【特許文献10】米国特許第6,174,842号
【0017】
【特許文献11】米国特許第4,259,194号
【0018】
【特許文献12】米国特許第4,259,195号
【0019】
【特許文献13】米国特許第4,265,773号
【0020】
【特許文献14】米国特許第4,265,843号
【0021】
【特許文献15】米国特許第4,727,387号
【0022】
【特許文献16】米国特許第4,283,295号
【0023】
【特許文献17】米国特許第4,285,822号
【0024】
【非特許文献1】ASTM D 2896、Standard Test Method for base Number of Petroleum Products by Potentiometric Perchloric Acid Titration
【0025】
【特許文献18】米国特許第3,405,064号
【0026】
【特許文献19】米国特許第3,574,576号
【0027】
【特許文献20】米国特許第4,089,794号
【0028】
【特許文献21】米国特許第4,171,273号
【0029】
【特許文献22】米国特許第4,670,173号
【0030】
【特許文献23】米国特許第4,517,104号
【0031】
【特許文献24】米国特許第4,632,769号
【0032】
【特許文献25】米国特許第5,512,192号
【0033】
【特許文献26】米国特許第3,368,972号
【0034】
【特許文献27】米国特許第3,539,663号
【0035】
【特許文献28】米国特許第3,649,229号
【0036】
【特許文献29】米国特許第4,157,309号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
しかし、モリブデンやタングステンなどの金属に伴う高いコストと、そのコストが、添加剤パッケージの処理レベルと全コストに及ぼす影響のため、潤滑性組成物中のそうした金属のレベルを最小化し、同時にその酸化防止性および耐摩耗性の効果を最適化することに関心がもたれている。コストの他に、モリブデンは、銅/鉛ベアリング腐食、さび止めに関する、特にエンジンオイルについてのGF−4規格の一部であるボールさび試験(ball rust test)に関する問題または懸念を提起している。さらに、それは、GF−5のために提案されているTEOST33の手順に関する懸念でもある。その試験は、高温下での付着物制御とNOx環境への曝露を見るものである。350ppmを超えるMoレベルで、高レベルの付着物が形成されていることが分かっており、これは、提案されているGF−5規格に合格するオイルを配合するのを困難にしている。しかし、モリブデンの利益を獲得し、同時に、本明細書で記載する有害な特性を制限するかまたは回避することができる適切な配合物は現在まで発見されていない。
【課題を解決するための手段】
【0038】
(A)第二ジアリールアミン酸化防止剤、(B)有機モリブデン化合物および(C)有機タングステン酸アンモニウム化合物の組合せが、酸化防止特性を著しく改善することをここに発見した。これら3つの成分は、(A)第二ジアリールアミン酸化防止剤および(B)有機モリブデン化合物、または(A)第二ジアリールアミン酸化防止剤および(C)有機タングステン酸アンモニウム化合物の組合せより改善された酸化防止特性を提供する。本発明は、エンジンオイルにリンまたはイオウをもたらさず、同時に第二ジアリールアミン、モリブデンおよびタングステン含量を最少化する。具体的には、オイル組成物は、0.01〜0.5質量%(好ましくは0.1〜0.5質量%)の第二ジアリールアミン、50〜350ppmモリブデンおよび100〜3,000ppmタングステンを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
成分(A)−第二ジアリールアミン
本発明で用いる第二ジアリールアミンは、配合オイルパッケージまたはパッケージ濃縮物中で可溶性でなければならない:
【0040】
【化1】

【0041】
式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、各基当たり1〜約20個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル、アリールおよびアルカリール基を表す。好ましい基は水素、2−メチルプロペニル、2,4,4−トリメチルペンテニル、スチレニルおよびノニルである。Xが(CH、SまたはOのいずれかであり、nが0〜2である場合、環構造を表すことができる。これらの環状化合物の例は、カルバゾール、アクリジン、アゼピン、フェノキサジンおよびフェノチアジンである。
【0042】
(B)有機モリブデン化合物、
本発明で用いる有機モリブデン化合物は、これらに限定されないが、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、カルボン酸塩、モリブデン酸アンモニウムおよびモリブデン酸エステルならびにその混合物を含む任意の油溶性モリブデン化合物であってよい。好ましいのは、モリブデン酸エステル、特に、米国特許第4,889,647号および同第6,806,241B2号に開示の方法で調製されたモリブデン酸エステルである。これらの特許を参照により本明細書に組み込む。市販品の例はR.T.Vanderbilt Company,Inc.製のMOLYVAN(登録商標)855添加剤である。
【0043】
本発明の有機モリブデン化合物はまた、以下の式の二核中心錯体(dinuclear centered complex)であるモリブデンジアルキルジチオカルバミン酸塩であってもよい。
【0044】
【化2】

【0045】
(式中、Rは同じであっても異なっていてもよい有機基から独立に選択され、Xは酸素またはイオウのいずれかである)
有機基はアルキル、アルケニル、アリールおよび置換アリールなどのヒドロカルビル基であり、炭素原子は好ましくは1〜30個、最も好ましくは4〜20個であることが好ましい。これらの化合物の調製法は、文献や米国特許第3,356,702号および同第4,098,705号で周知である。これらの特許を参照により本明細書に組み込む。市販品の例には、R.T.Vanderbilt Company Inc.製のMOLYVAN(登録商標)807、MOLYVAN(登録商標)822およびMOLYVAN(登録商標)2000、ADEKA CORPORATION製のSAKURA−LUBE(登録商標)165およびSAKURA−LUBE(登録商標)515ならびにChemtura Corporation製のNaugalube(登録商標)MolyFMが含まれる。
【0046】
米国特許第5,888,945号および同第6,010,987号に教示されているように、三核モリブデンジアルキルジチオカルバミン酸塩も当業界で知られている。これらの特許を参照により本明細書に組み込む。好ましくは式Mo(dtc)およびMo(dtc)(式中、dtcは独立に選択された有機基を含む独立に選択されるジオルガノジチオカルバミン酸塩配位子を表し、その配位子は、化合物の配位子のすべての有機基の中で十分な数の炭素原子を有する)を有する化合物ならびにその混合物である三核モリブデン化合物は、潤滑オイル中で化合物が可溶性であるかまたは分散性であるようにするために存在する。
【0047】
モリブデンカルボン酸塩は米国再発行特許番号RE38,929および米国特許第6,174,842号に記載されている。これらの特許を参照により本明細書に組み込む。モリブデンカルボン酸塩は任意の油溶性カルボン酸から誘導することができる。典型的なカルボン酸には、ナフテン酸、2−エチルヘキサン酸およびリノレン酸が含まれる。これらの特定の酸からのカルボン酸塩の市販製品は、それぞれ、モリブデンNAP−ALL、モリブデンHEX−CEMおよびモリブデンLIN−ALLである。これらの製品のメーカーはOMG OM Groupである。
【0048】
モリブデン酸アンモニウムは、若干挙げればイオウ、無機硫化物および多硫化物ならびに炭素二硫化物などのイオウ源の任意選択での存在下において、三酸化モリブデン、モリブデン酸およびモリブデン酸アンモニウムならびにチオモリブデン酸アンモニウムなどの酸性モリブデン源と、油溶性アミンの酸/塩基反応によって調製する。好ましいアミン性化合物は、一般に用いられるエンジンオイル組成物であるポリアミン分散剤である。そうした分散剤の例はスクシンイミドやマンニッヒ型のものである。これらの調製については、米国特許第4,259,194号、同第4,259,195号、同第4,265,773号、同第4,265,843号、同第4,727,387号、同第4,283,295号および同第4,285,822号を参照されたい。
【0049】
(C)有機タングステン酸アンモニウム化合物
本発明のためには、有機タングステン酸アンモニウムは、酸の形態のオキソタングステンと塩基性窒素またはアミンを含む有機化合物の反応によって調製する。可能なタングステン源は、これらに限定されないが、表1に挙げたものである。これらの供給源のうち、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムおよびメタタングステン酸アンモニウムは、アミンと直接反応する。三酸化タングステンは、大部分が加水分解されてタングステン酸を生成する塩基性無水物である。三酸化タングステンの好ましい加水分解法はTynikの米国特許出願2004/0214731A1に記載されている。この方法では、三酸化タングステンを、2当量の苛性で加水分解して金属タングステン酸塩水和物を生成させ、次いでこれを2当量の酸で酸性化してタングステン酸を生成させる。あるいは、タングステン酸は、タングステン酸ナトリウム二水和物およびタングステン酸カルシウムなどの市販の金属タングステン酸塩を酸性化して直接生成させることができる。
【0050】
ポリオキソタングステン酸塩[W(OH)n−は、2当量未満の酸を用いて金属タングステン酸塩を中和すると形成され、これらは、有機タングステン酸アンモニウムの場合にも用いられる。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明のためには、タングステン酸有機アンモニウムの生成に用いられる反応物アミンは、ASTM D 2896、過塩素酸電位差滴定による石油製品の塩基価の標準測定法(Standard Test Method for base Number of Petroleum Products by Potentiometric Perchloric Acid Titration)で測定できる塩基性窒素を含有する化合物と定義されよう。大部分のアミン化合物は、上記タングステン源により酸/塩基反応を受けることが推定される。アミンに対する主な要件は、油溶性タングステン酸塩生成物を作製することである。好ましいものは、アルキルモノアミン、例えば米国特許出願2004/0214731A1に教示されているようなもの、およびエンジンオイルで用いられる必須成分であるポリアミン分散剤である。
【0053】
アルキルモノアミンは、式RGNH(式中、RおよびRは同一であるかまたは異なっており、水素、直鎖もしくは分枝鎖、飽和もしくは不飽和の8〜40個の炭素原子を含むアルキル基または1〜12個の炭素原子を含むアルコキシ基からなる群から選択される)からなる。最も好ましいものは、BASF Corporationから市販されている「ジトリデシルアミン」としても知られている、ジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミンおよびジ−n−オノクチルアミンである。
【0054】
ポリアミン分散剤は、ポリアルケニルアミン化合物をベースとしている。
【0055】
【化3】

【0056】
式中、RおよびRは独立に、水素、1〜25個の炭素原子を含むノルマルもしくは分枝鎖のアルキル基、1〜12個の炭素原子を含むアルコキシ基、2〜6個の炭素原子を含むアルキレン基および2〜12個の炭素原子を含むヒドロキシルまたはアミノアルキレン基であり、xは2〜6、好ましくは2〜4であり、nは0〜10、好ましくは2〜6である。特に最も好ましいものは、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物である。但し、RおよびRはどちらも水素であり、xは2〜3であり、nは2である。
【0057】
ポリアミン分散剤は、ポリアルケニルアミン化合物を、カルボン酸(ROOH)またはその反応性誘導体、アルキルもしくはアルケニルハライド(R−X)およびアルキルもしくはアルケニル置換コハク酸と反応し、カルボン酸アミド、ヒドロカルビル置換ポリアルケニルアミンおよびスクシンイミドをそれぞれ生成させることによって調製する。
【0058】
カルボン酸アミドの典型的なものは、米国特許第3,405,064号に開示されているものである。その開示を参照により本明細書に組み込む。その生成物は、上記のようなモノカルボン酸アミドか、または第一および第二アミン(−NHおよびNH)のうちの1つを超えるアミンがカルボン酸アミドに転換されているポリカルボン酸アミドである。カルボン酸中のR基は12〜250個の脂肪族炭素原子である。好ましいR基は、12〜20個の炭素原子、および72〜128個の炭素原子を含むポリイソブテニル鎖を含む。
【0059】
典型的なヒドロカルビル置換ポリアルケニルアミン化合物は米国特許第3,574,576号に開示されている。その開示を参照により本明細書に組み込む。その生成物はモノまたはポリ置換体である。ヒドロカルビル基、R10は好ましくは20〜200個の炭素原子のものである。ヒドロカルビルポリアルケニルアミン化合物の生成に用いられる特に好ましいハライドは、70〜200個の炭素原子を含むポリイソブテニルクロリドである。
【0060】
本発明の好ましいポリアミン分散剤は、モノまたはビス置換のスクシンイミドである。最も好ましくはモノ置換スクシンイミドである。
【0061】
【化4】

【0062】
(式中、Rは8〜400個の炭素原子、好ましくは50〜200個の炭素原子である)
特に好ましいものは、800〜2,500g/モルの範囲の分子量を有するポリイソブテニルや、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物などのポリエチレンアミンから誘導されるスクシンイミド分散剤である。モノ置換スクシンイミド分散剤の具体的な市販品の例は、Chevron ORONITE(登録商標)OLOA371およびOLOA11,000、OLOA371の濃縮体である。ビス置換スクシンイミド分散剤の具体的な例は、Afton Chemical Companyから供給されているHiTEC(登録商標)644である。
【0063】
別のタイプの分散剤はポリアミングラフト化された粘度指数(VI)改良物質である。これらの化合物の調製法を教示しているPlethoraの特許が参照可能である。この特許の例を挙げると、米国特許第4,089,794号、同第4,171,273号、同第4,670,173号、同第4,517,104号、同第4,632,769号および同第5,512,192号がある。これらを参照により本明細書に組み込む。一般的な調製は、オレフィンコポリマーをエチレン不飽和カルボン酸物質で事前グラフト化してアシル化したVI改良物質を生成させることを含む。次いで、アシル基をポリアミンと反応させてカルボン酸アミドおよびスクシンイミドを生成させる。
【0064】
別の部類のポリアミン分散剤はマンニッヒ塩基組成物である。本発明で用いることができる典型的なマンニッヒ塩基は米国特許第3,368,972号、同第3,539,663号、同第3,649,229号および同第4,157,309号に開示されている。マンニッヒ塩基は通常、9〜200個の炭素原子のアルキル基を有するアルキルフェノール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド、ならびにトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物などのポリアルケニルアミン化合物から調製される。
【0065】
分散剤タングステン酸塩のためには、調製の1つの方法は、タングステン酸水溶液と分散剤、好ましくはオイル中に希釈されたポリアミン分散剤の2相反応を含む。適切な時間反応させた後、真空蒸留により水を除去する。タングステン酸とアミン性窒素の好ましい化学量論比は0.1〜1.0、好ましくは0.5〜1.0、最も好ましくは0.8〜1.0である。第2の調製方法は新規なものであり、ポリアミン分散剤、水および固体タングステン酸、WO・HOの3つの相を含む。適切な時間反応させた後、真空蒸留により水を除去する。タングステン酸とアミン性窒素の好ましい化学量論比は0.1〜1.5、好ましくは0.5〜1.0、最も好ましくは0.8〜1.0である。
【0066】
0.1〜5.0質量%、最も好ましくは1.0〜2.0質量%の量で潤滑性組成物に加えた場合、第二ジアリールアミン、有機モリブデン化合物およびタングステン酸塩の組合せは、酸化防止特性を向上させるのに特に有用である。具体的には、オイル組成物は約0.01〜0.5質量(好ましくは約0.1〜0.5質量)パーセントの第二ジアリールアミン、50〜350ppmのモリブデンおよび500〜3000ppmのタングステン(好ましくは約500〜1500ppmのタングステン)を含む。
【0067】
本発明のオイル成分は多量に、すなわち全潤滑性組成物の少なくとも50質量%で存在し、潤滑剤ベースストックとして用いられる潤滑粘度の鉱物性または合成のオイルの1つまたは組合せであってよい。鉱物性オイルはパラフィン系かまたはナフテン系のものであってよい。パラフィン系オイルはグループIの溶媒精製ベースオイル、グループIIの水添ベースオイルおよびグループIIIの高粘度指数の水添ベースオイルであってよい。合成オイルは、グループIVのポリアルファオレフィン(PAO)型、ならびにグループVのジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステルおよびポリシロキサンを含む合成オイルからなっていてもよい。
【0068】
第二ジアリールアミンおよび有機タングステン酸アンモニウムに加えて、潤滑性組成物は、他の酸化防止剤のヒンダードフェノール、芳香族アミン、ジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、硫化炭化水素、金属および無灰ジチオカルバミン酸塩、他の分散剤、洗剤、ZDDPを含む他の耐摩耗性添加剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、流動点降下剤、消泡添加剤、ならびに乳化破壊剤も含むことができる。
【0069】
本発明の様々な有機タングステン酸アンモニウム組成物を説明するために、以下の調製方法を例示的な実施例として提供する。以下の実施例は、説明のためだけに提供するものであって、特許請求の範囲においてのみ示される本発明の範囲を限定するためのものではない。
【実施例1】
【0070】
PIB(ポリイソブチレン)モノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
タングステン酸ナトリウム二水和物(33.0g)を75.0gの水の中に溶解し、次いで、35.3gの28%硫酸溶液で徐々に酸性化する。105.8gのモノ−スクシンイミド分散剤(OLOA(登録商標)371;プロセスオイル中に46.7%有効分;TBN=53.0)と65.0gのプロセスオイルの溶液を50℃に加温し、濁った淡黄色のタングステン溶液に、激しく攪拌しながら4滴のAntiformB(登録商標)と一緒に一括してチャージする。次いで、水の約75%が留去するまで反応混合物を還流加熱する。次いで徐々に真空をかけ、温度を125〜130℃に上げ、30分間保持する。次いで反応混合物を、珪藻土を通して熱時ろ過して透明な粘性の暗琥珀色のオイルを得る。タングステン含量は9.67質量%と測定された。
【実施例2】
【0071】
ジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)タングステン酸アンモニウムの調製
タングステン酸ナトリウム二水和物(132.0g)を250.0gの水の中に溶解し、次いで138.7gの26.8%硫酸溶液で徐々に酸性化する。次いで、150gヘプタン中のジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミン(97.7%;157.9g)の溶液を、濁った淡黄色タングステン溶液に激しく攪拌しながら一括してチャージする。次いで反応混合物を30分間還流加熱し、続いて水相を分離し、有機相をロータリーエバポレーターに移し、そこで溶媒を除去する。残留固形物をろ取する。次いで生成物を透明な黄色の粘性オイルとして得る。タングステン含量は29.5質量%と測定された。
【実施例3】
【0072】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
46.9gの分散剤(OLOA(登録商標)11000;プロセスオイル中に71.2%有効分;TBN=76.3)と64.5gのプロセスオイルの溶液に、16.0gのタングステン酸と16.0gの水をチャージする。次いで攪拌溶液を100℃で10分間加熱し、留出液を集めながら、1時間で徐々に160℃に加熱する。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は5.31%と測定された。
【実施例4】
【0073】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
50.2gの分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=87.8)と50.1gのプロセスオイルの溶液に、7.6gのタングステン酸と7.6gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを120℃に加熱し、水の蒸留を開始させる。次いで温度を160℃へ徐々に上げ、蒸留の進行にしたがって、反応液は緑色に変化し始める。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は2.6質量%と測定された。
【実施例5】
【0074】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
46.5gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=44.30)と46.5gのプロセスオイルの溶液に、9.0gのタングステン酸と10.6gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを還流下で160℃に徐々に加熱する。160℃で留出液を集めると、黄色がかった緑色に色が変化する。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は4.4質量%と測定された。
【実施例6】
【0075】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
49.8gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=1000;TBN=33.52)と49.9gのプロセスオイルの溶液に、19.6gのタングステン酸と15.1gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを160℃に徐々に加熱し、混合物として集めた留出液は暗緑色になる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は8.72質量%と測定された。
【実施例7】
【0076】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
67.42gのビス−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に約75%有効分;TBN=47.20)と16.8gのプロセスオイルの溶液に、14.24gのタングステン酸と9.35gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを99〜101℃で1.5時間加熱する。次いで2.5時間で徐々に160℃に加熱し、160℃で1.5時間保持する。その間、留出液を収集し、その混合物は緑色に変わる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は4.52質量%と測定された。
【実施例8】
【0077】
PIBビス−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
50.5gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=44.30)と50.5gのプロセスオイルの溶液に、5.01gのタングステン酸と4.22gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを160℃に徐々に加熱し、その時点で留出液を収集する。その間混合物は暗緑色に変わる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は1.9質量%と測定された。
【0078】
様々な機能性流体組成物、具体的には本発明の組成物を含む潤滑剤組成物を説明するために、以下の例示的な実施例を提供する。以下の実施例は、説明のためだけに提供するものであって、特許請求の範囲においてのみ示される本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0079】
酸化安定性試験
酸化安定性は、ASTM D6186に記載されている加圧型示差走査熱量測定(PDSC)によって測定した。PDSCは、潤滑性組成物の酸化防止能力が消耗され、ベースオイルが自動酸化として知られている酸化的連鎖反応へと進む際の発熱的な熱の放出を検出することによって酸化安定性を測定する。実験の開始から自動酸化までの時間は酸化誘導時間(OIT)として知られている。したがって、より長いOITは、より高い酸化安定性および酸化防止能力を示している。
【実施例9】
【0080】
表2に示すように、VANLUBE SL(R.T.Vanderbilt Company Inc.から供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)、R.T.Vanderbilt Company Inc.製のモリブデン酸エステル、MOLYVAN855および実施例1のタングステン酸アンモニウムをUnocal 90グループIベースオイルにブレンドした。オイルのOITをPDSCによって180℃で測定した。実施例1〜5は、第二ジアリールアミンおよび有機モリブデン化合物について知られている、予測された2つの成分の相乗効果を実証しており、実施例9〜12は、第二ジアリールアミンおよびタングステン酸アンモニウムの予測された2つの成分の相乗効果を実証している。しかし、図1はまた、より高いモリブデンおよびタングステン含量での水平点も示している。そこでは酸化安定性の増大はもはやほとんど見られない。予想外に、第二ジアリールアミンを、中間の金属含量で、モリブデン酸エステルおよびタングステン酸アンモニウムの両方と混合すると、より強力な相乗効果が見られ、それによって、モリブデンおよびタングステン含量は比較的低いレベルに維持されているが、著しく高い酸化安定性を有する潤滑性組成物が得られる。
【0081】
【表2】

【実施例10】
【0082】
表3に示すように、VANLUBE SL(R.T.Vanderbilt Company Inc.から供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)、実施例1のタングステン酸アンモニウムおよび種々のタイプの有機モリブデン化合物を、Unocal 90グループIベースオイルにブレンドした。オイルのOITをPDSCによって180℃で測定した。実験17〜18は、第二ジアリールアミン、タングステン酸アンモニウムおよびモリブデン酸エステルを用いる実験15と類似しており、これは、この他の有機モリブデン化合物が第二ジアリールアミンおよびタングステン酸アンモニウムを含む潤滑性組成物のOITを増大させる点で、モリブデン酸エステルと同等に効果的であることを示している。
【0083】
【表3】

【実施例11】
【0084】
表4に示すように、VANLUBE SL(R.T.Vanderbilt Company Inc.から供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)、実施例2のアンモニウムアルキルタングステン酸塩、およびR.T.Vanderbilt Company Inc.製のモリブデン酸エステル、MOLYVAN855を、Unocal 90グループIベースオイルにブレンドした。オイルのOITをPDSCによって180℃で測定した。図2に示すように、データは、2つの成分の組合せより3つの成分の組成物の方がより高いOITが得られることを示している。しかし、実施例1の分散剤タングステン酸塩とは異なり、より低いモリブデン含量で最適の応答が得られる。
【0085】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】0.5質量%の第二ジアリールアミン(VANLUBE(登録商標)SL)を、(◆)異なるレベルのタングステン酸アンモニウム(実施例1)、(■)異なるレベルのモリブデン酸エステル(MOLYVAN(登録商標)855)ならびに(▲)異なるレベルの実施例1およびMOLYVAN(登録商標)855の組合せと合わせて含むグループIベースオイルについての金属含量対OITを示すグラフである。
【図2】0.5質量%の第二ジアリールアミン(VANLUBE(登録商標)SL)を、(◆)異なるレベルのタングステン酸アンモニウム(実施例2)、(■)異なるレベルのモリブデン酸エステル(MOLYVAN(登録商標)855)ならびに(▲)異なるレベルの実施例2およびMOLYVAN(登録商標)855の組合せと合わせて含むグループIベースオイルについての金属含量対OITを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大部分量の潤滑性ベースオイルおよび約0.1〜5.0質量%の酸化防止添加剤を含む潤滑オイル組成物であって、前記添加剤が、
第二ジアリールアミン、
有機モリブデン化合物、および
有機タングステン酸アンモニウム化合物
を含む潤滑オイル組成物。
【請求項2】
前記第二ジアリールアミンが約0.1〜0.5質量%存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機モリブデン化合物が、約50〜350ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機タングステン酸アンモニウム化合物が、約100〜3000ppmのタングステンを提供するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記添加剤が、約0.1〜0.5質量%の第二ジアリールアミン、約50〜350ppmのモリブデンを提供するのに十分な有機モリブデン化合物、約100〜3000ppmのタングステンを提供するのに十分な有機タングステン酸アンモニウムとして存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記第二ジアリールアミンが次式
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、各基当たり1〜約20個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル、アリールおよびアルカリール基を表し、Xは(CH(nは0〜2である)、SまたはOのいずれかであるか、あるいはXは第二ジフェニルアミン構造中のそれぞれの炭素と結合した2個の水素である)
を含む、請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項7】
、R、RおよびRの少なくとも1つが、それぞれ独立に、水素、2−メチルプロペニル、2,4,4−トリメチルペンテニル、スチレニルおよびノニルから選択される、請求項6に記載の潤滑性組成物。
【請求項8】
前記第二ジアリールアミンが、オクチル化/ブチル化第二ジアリールアミン、p,p’−ジオクチル化第二ジアリールアミンおよびオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミンから選択される、請求項6に記載の潤滑性組成物。
【請求項9】
前記有機タングステン酸アンモニウムが、(a)タングステン源と、(b)塩基性窒素を含有する有機化合物またはアミン化合物の反応生成物である、請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項10】
前記タングステン源が、タングステン酸、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム二水和物、タングステン酸カルシウムおよびメタタングステン酸アンモニウムから選択される、請求項9に記載の潤滑性組成物。
【請求項11】
化合物(b)がアルキルモノアミンである、請求項9に記載の潤滑性組成物。
【請求項12】
前記アルキルモノアミンが、ジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミンまたはジ−n−オクチルアミンである、請求項11に記載の潤滑性組成物。
【請求項13】
前記アルキルモノアミンがジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミンである、請求項9に記載の潤滑性組成物。
【請求項14】
化合物(b)がポリアミン分散剤である、請求項9に記載の潤滑性組成物。
【請求項15】
前記ポリアミン分散剤がモノまたはビス置換スクシンイミドである、請求項14に記載の潤滑性組成物。
【請求項16】
前記ポリアミン分散剤が次式のモノまたはビス置換スクシンイミド
【化2】

(式中、R11は8〜400個の炭素原子である)
である、請求項15に記載の潤滑性組成物。
【請求項17】
11が50〜200個の炭素原子である、請求項16に記載の潤滑性組成物。
【請求項18】
前記ポリアミン分散剤が、800〜2,500g/モルの範囲の分子量を有するポリイソブテニルとポリエチレンアミンから誘導される、請求項17に記載の潤滑性組成物。
【請求項19】
前記有機モリブデン化合物が、モリブデンジアルキルジチオカルバミン酸塩、カルボン酸モリブデン、モリブデン酸アンモニウムおよびモリブデン酸エステルの1つまたは複数の組合せである、請求項1に記載の潤滑性組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−521593(P2009−521593A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548891(P2008−548891)
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/068135
【国際公開番号】WO2007/131104
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(507293620)アール.ティー. ヴァンダービルト カンパニー インコーポレーティッド (11)
【Fターム(参考)】